(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112471
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】杵体
(51)【国際特許分類】
B30B 11/08 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
B30B11/08 D
B30B11/08 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014279
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】518044631
【氏名又は名称】株式会社JMC
(74)【代理人】
【識別番号】100146732
【弁理士】
【氏名又は名称】横島 重信
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅人
(57)【要約】
【課題】杵体を使用することで圧縮成形される錠剤等や、封止などが行われる半導体基板等に対して、主に杵体の周囲の摩擦等によって生じる金属性の塵が混入等することを有効に抑制することが可能な杵体を提供すること。
【解決手段】棒状の形状を有し、一方の端部に押圧する物品に接触して押圧するための押圧部、他方の端部に物品を押圧するための応力が印加される加圧部、当該押圧部と加圧部の間に摺動自在に杵体が保持される保持部をそれぞれ有し、当該保持部を摺動自在に保持した状態で長さ方向に往復運動させることで物品を押圧する杵体であって、当該杵体の押圧部及び/又は加圧部と、保持部との間に磁石が設けられていることを特徴とする杵体。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の形状を有し、一方の端部に押圧する物品に接触して押圧するための押圧部、他方の端部に物品を押圧するための応力が印加される加圧部、当該押圧部と加圧部の間に摺動自在に杵体が保持される保持部をそれぞれ有し、当該保持部を摺動自在に保持した状態で長さ方向に往復運動させることで物品を押圧する杵体であって、
当該杵体の押圧部及び/又は加圧部と、保持部との間に磁石が設けられていることを特徴とする杵体。
【請求項2】
上記磁石は、杵体の押圧部と保持部との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の杵体。
【請求項3】
上記杵体の少なくとも一部は、強磁性を示す材質によって構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の杵体。
【請求項4】
上記磁石は、弾性体を介して杵体に設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の杵体。
【請求項5】
上記弾性体は、強磁性を示す材質によって構成されていることを特徴とする請求項4に記載の杵体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載された杵体を有することを特徴とする粉体圧縮成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体を圧縮して錠剤、食品等の形態に成形したり、射出成形用等に使用される樹脂ペレットを形成する等の目的で、往復運動により対象物に加圧するために使用される杵体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種の粉状体を加圧して圧縮することにより、当該粉状体を所定の形状を有する固形物に成形する成形方法が使用されている。例えば、特許文献1には、板状体に設けられた臼孔に対して、当該臼孔の軸線上で上下に移動可能に設けられた棒状の上杵及び下杵の杵体を使用して、臼孔内に充填された粉体を上杵及び下杵の間で加圧して圧縮し、所定の形状を有する固形物に成形加工する粉体圧縮成形装置が記載されている。
【0003】
一方、特許文献2には、上下に移動可能な押し部材(杵体)を使用して、載置台に載置された半導体基板に対して封止部材を押し付ける等により半導体基板を封止する封止装置が記載されている。
【0004】
特許文献1,2に記載されるような加圧によって対象物を成形等する装置においては、主として、単純な機構によって対象物に加圧することを目的にして、当該加圧を行うための加圧手段として、主に上下に往復して移動可能に保持された棒状の杵体が使用されている。
【0005】
つまり、特許文献1に記載の粉体圧縮成形装置においては、成形される粉状体を挟むように上下の杵体を配置した状態で、一定の間隔を隔てて配置される圧縮ロール等の間を通過させることによって上下の杵体間の距離を縮小させることで粉状体を圧縮して、錠剤等が成形される。また、特許文献2に記載の封止装置では、エアシリンダー等の上下動を生じさせる手段によって杵体を駆動して、杵体と載置台との距離を縮小させることで半導体基板の封止を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-148321号公報
【特許文献2】特開2012-43898号公報
【特許文献3】特開2021-80907号公報
【特許文献4】特開2008-43858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載される粉体圧縮成形装置や、特許文献2に記載される封止装置等で使用される杵体は、圧縮される粉体や封止部材等に対して当該杵体が往復運動をする方向の応力が印加されることにより対象物に押し付けられて、所望の成形等を行う目的で使用される。
一方、当該成形などを行う際に杵体に対して印加される応力は圧縮ロール間での圧縮等に起因するもの(特許文献1)であるなど、必ずしも上記粉体を圧縮する方向の応力でなく、複雑な方向性を有する応力が杵体に対して印加される。そして、上記杵体を高強度の鞘部(ガイド部)によって摺動自在に保持することによって、杵体が所定の往復運動の方向以外に運動することを規制し、杵体が往復運動をする方向の応力を圧縮される粉体や封止部材等に印加するように構成されることが一般的である。
しかしながら、杵体に印加される応力の方向とその運動方向の違い等に起因して、上記のように構成される杵体と鞘部の間には大きな摩擦力が発生し、当該摩擦によって発塵を生じることが避けられない。また、上記杵体と上記圧縮ロール間等にも同様の摩擦が存在し、当該部分からの発塵を生じることが避けられない。そして、当該摩擦によって生じた塵が圧縮成形される錠剤やペレットに混入した際には製品として大きな問題を生じることが懸念される。
本発明は、杵体を使用することで圧縮成形される錠剤等や、封止などが行われる半導体基板等に対して、主に杵体の周囲の摩擦等によって生じる金属性の塵が混入等することを有効に抑制することが可能な杵体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の手段を提供する。
(1)棒状の形状を有し、一方の端部に押圧する物品に接触して押圧するための押圧部、他方の端部に物品を押圧するための応力が印加される加圧部、当該押圧部と加圧部の間に摺動自在に杵体が保持される保持部をそれぞれ有し、当該保持部を摺動自在に保持した状態で長さ方向に往復運動させることで物品を押圧する杵体であって、当該杵体の押圧部及び/又は加圧部と、保持部との間に磁石が設けられていることを特徴とする杵体。
(2)上記磁石は、杵体の押圧部と保持部との間に設けられている杵体。
(3)上記杵体の少なくとも一部は、強磁性を示す材質によって構成されている杵体。
(4)上記磁石は、弾性体を介して杵体に設けられている杵体。
(5)上記弾性体は、強磁性を示す材質によって構成されている杵体。
(6)上記の杵体を有する粉体圧縮成形装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、杵体の動作等に伴って生じる金属製の塵を効果的に吸着することが可能となり、圧縮成形等される製品中に金属製の塵が混入することを有効に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】粉体圧縮成形装置の構成の概要を示す図である。
【
図2】粉体圧縮成形装置による粉体の圧縮成形の行程の概要を示す図である。
【
図3】本発明に係る杵体を有する粉体圧縮成形装置の概要を示す図である。
【
図4】粉体圧縮成形装置の構成の概要を示す図である。
【
図5】本発明に係る杵体の他の構成例の一例を示す図である。
【
図6】本発明に係る杵体の他の構成例の一例を示す図である。
【
図7】本発明に係る杵体の他の構成例の一例を示す図である。
【
図8】本発明に係る杵体の他の構成例の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1には、粉体を圧縮して錠剤を形成したり、射出成形用等に使用される樹脂ペレットを形成する際などに一般的に使用される粉体圧縮成形装置における、いわゆる打錠機1の部分の構成の例を模式的に示す。一般的な打錠機1においては、テーブル7に設けられた孔部に、所定の内径の貫通穴が設けられた臼材3が挿入され、当該臼材3に設けられた貫通穴を粉体10を圧縮成形する際の臼穴として使用して錠剤等の成形が行われる。
【0012】
つまり、成形される錠剤等に合わせた径を有するように臼材3に設けられた貫通穴の内部で、上杵2と下杵2’の先端部を付き合わせて、当該先端部の間に形成される空間の形状に粉体10を圧縮して成形することが行われる。上記上杵2,下杵2’は、一般に全体として軸対称な円柱型の棒状とされて、その本体部分は成形する錠剤の大きさ等に応じてφ20~70mm程度の径を有する円柱とされ、その一方の端部に臼材3に設けられた貫通穴の内部で押圧する粉体に接触して押圧するための押圧部が形成され、当該押圧部の近傍の部分は臼材3の貫通穴の径に合わせた径を有している。また杵体の他の端部は、物品を押圧するための応力を外部から印加するための加圧部とされて、加圧に適した形状とされている。
【0013】
上記上杵2と下杵2’は、臼材3に設けられた貫通穴の中心軸と同軸上に、それぞれ往復運動が可能な状態で設けられており、その往復運動によって上杵2と下杵2’の先端部分がそれぞれ当該貫通穴に挿入可能に配置されている。そして、上杵2と下杵2’の先端部分の径を、貫通穴の内径に対して数10~100ミクロン程度小さくすることによって、貫通穴の内壁と上杵2と下杵2’の先端部分の隙間から圧縮成形される粉体が漏れることを防ぐと共に、貫通穴に上杵2、下杵2’が挿入される際に貫通穴の内面との摩擦が生じ難くされている。
【0014】
上杵2と下杵2’は、それぞれ上保持機構6,下保持機構6’によって剛直に保持された上ガイド部4,下ガイド部4’を使用して、杵体の押圧部と加圧部の間の断面形状が一定とされた保持部の部分をガイド部で摺動自在に保持されることにより、外力が印加された際に所定の軸線上で往復運動を生じることが可能とされる。杵体における当該保持部の範囲は、対応するガイド部の長さと、各杵体の往復運動のストローク長さに応じて決定され、杵体を使用する打錠機1に適した長さの杵体が使用され、使用する際にガイド部の内壁と摺動する杵体の保持部の部分が、その押圧部、加圧部と所定の間隔を成すことが好ましい。
なお、上記上杵2、下杵2’の保持部の形状は円柱状に限定されず、四角柱、六角柱等、適宜の断面形状を有するものとすることができる。
【0015】
図1に示すような打錠機1においては、粉体を圧縮成形するために、上杵2、下杵2’の先端部分に大きな応力が発生する一方で、当該上杵2、下杵2’の先端部分を臼材3の貫通穴に貫入させるために、上杵2、下杵2’の移動方向と貫通穴の中心軸を高い精度で一致させることが求められる。このため、上記の上保持機構6,下保持機構6’を、上記テーブル7に対して剛直に固定することによって、テーブル7、保持機構6,6’、ガイド部4,4’を実質的に一体として相互の変位を防止することで、例えば、下記の
図2に示すような機構によって上杵2、下杵2’がそれぞれのタイミングで上記貫通穴に挿入可能とされている。また、打錠機1の各部に高い剛性を付与する観点から、一般に杵体を含む打錠機1の各部は構造用の鋼材等によって構成されている。
【0016】
図1に示すような打錠機によって粉体を圧縮して成形する工程は、以下のように構成される。まず、下杵2’の先端が臼材3の貫通穴に挿入され、当該下杵2’の先端が臼材3の上面から所定の深さに位置することで貫通穴の底部を構成した状態で、貫通穴付近の臼材3及びテーブル7の面に図示しないフィードシュー(粉体供給装置)によって圧縮成形される粉体10が供給され、その一部が貫通穴内に充填される。
【0017】
その後、図示しないヘラ(スキージ)等を使用して、臼材3及びテーブル7の上面を掃引して、貫通穴内に充填されなかった粉体がテーブル7の上面から排除される。その際に、臼材3の上面とテーブル7の面とが同一の平面を構成していることによって、上記ヘラによる粉体の掃引を良好に行うことができる。
【0018】
圧縮成形される粉体が貫通穴内に充填された後、上杵2を降下させて先端を貫通穴に挿入して貫通穴内を閉鎖し、その状態で上杵2を降下、及び/又は下杵2’を上昇させて貫通穴内で粉体10を圧縮することで圧縮成形が行われる。その後、上杵2を上昇させて貫通穴の上部を解放した状態で、下杵2’を上昇させる、又は、エア圧等を使用することによって、圧縮成形によって得られた錠剤等が貫通穴から取り出される。
【0019】
上記
図1に示すような打錠機1を使用した粉体圧縮成形装置では、例えば、特許文献1に記載されるように、円盤状のテーブル7に対して、その同一円周上に複数の臼材3や保持機構6,6’、ガイド部4,4’、上杵2、下杵2’が設置され、当該テーブル7を回転させることで、当該回転の力によって、上杵2、下杵2’等を上記のように動作させて連続的に粉体の圧縮成形が行われるように構成される。
【0020】
図2には、予め配置された案内レール9や回転ロール8の間を、
図1に示すような打錠機1を通過させることによって、上杵2、下杵2’を所定のパターンで往復運動させる様子を模式的に示す。なお、
図2における横方向は、回転する円盤状のテーブル7固定された臼材3が行う回転運動を直線的に展開したものに相当し、横軸はテーブル7の回転角(臼材3の存在する角度)に相当する。
【0021】
回転する円盤状のテーブル7に固定された臼材3は、テーブル7の回転軸と垂直な面12内を円運動し、当該臼材3に対応する上杵2、下杵2’は、その中心軸を臼材3に設けられた貫通穴の中心軸と一致した状態で臼材3と共に移動する。
【0022】
一方、上記臼材3を取り付けたテーブル7の上下には、環状の案内レール9,9’が設けられており、臼材3の円周上の位置に応じて、臼材3と案内レール9,9’との間隔がそれぞれ所定のパターンで変化するように設定されている。そして、臼材3の上側(下側)に配置されて臼材3と共に移動する上杵2(下杵2’)は、臼材3と案内レール9の間隔が狭くなることに伴って下方(上方)に押されて移動し、上杵2(下杵2’)の先端が臼材3の貫通穴に挿入され、貫通穴の内部に充填された粉末10の圧縮等が行われる。
【0023】
上杵2、下杵2’を、図示しないバネ等により、その先端が臼材3から離れる方向に付勢しておくことで、臼材3と案内レール9,9’との間隔が拡大することにより、その押圧部が臼材3から離れる方向に移動するように構成される。又は、上杵2、下杵2’を案内レール9,9’に対してスライド自在に固定することで、案内レール9,9’と臼材3との距離の変化に応じて上杵2、下杵2’を上下に移動させることができる。
【0024】
また、特に、貫通穴の内部に充填された粉末10の圧縮を完了する際など、上杵2、下杵2’に大きな応力が印加される位置においては、案内レール9,9’に換えて回転ロール8,8’を設けることにより、案内レール9,9’と上杵2、下杵2’間の摩擦による移動(回転)の困難を解消することが行われる。
【0025】
つまり、上記環状の案内レール9,9’や回転ロール8,8’と、臼材3の存在する面12との距離は、貫通穴の内部への粉末10を充填、当該充填された粉末の圧縮、その後の貫通穴の開放等の目的に応じて、上杵2、下杵2’の先端が所望の位置に存在するように設定されている。そして、テーブル7を高速で回転させることにより、テーブル7に複数箇所設けられた打錠機1によって連続的に粉体の圧縮成形が行われる。
【0026】
一方、上記のような打錠機1を使用して連続的に粉体の圧縮成形を行った場合に、一定の割合で圧縮成形された錠剤内に本来は含まれるべきでない性状を有する介在物が混入することが観察された。本発明者らが、当該圧縮成形された錠剤内に混入した介在物を調査したところ、大半が主に金属によって構成される粉末であり、磁石に吸着するものであること明らかになった。
【0027】
そこで、本発明者は、当該介在物が圧縮成形される錠剤等の圧粉体の内部に取り込まれる頻度を抑制することを目的として、杵体を使用して圧縮等する際に発生する金属塵を磁石によって効果的に捕集する手段を各種検討した結果、本発明に至ったものである。
なお、切粉等が含まれるオイル等に対して磁石を作用させて切粉等を吸着して除去することは、例えば、特許文献3や特許文献4に記載されるように、磁石による吸着は金属塵を捕集する手段として有効である。
【0028】
図3,4には、
図1に示す構成の打錠機において、圧縮成形される圧粉体の周囲に磁石20を配置する際の構成例を示す。
図1に示す打錠機において、圧縮成形される圧粉体の周囲に存在する表面として、(a)上杵2を保持する保持機構6の下面(
図4(a))、(b)臼材3が取り付けられるテーブル面7(
図4(b))、(c)杵体(上杵2)の表面(
図3)が考えられた。このため、
図1に示す構成の打錠機において、上記の各位置に小型の磁石20を複数取り付けることで、圧縮成形を繰り返して行った際の金属塵の捕集を試み、有効な金属塵の捕集を可能とする磁石の取り付け位置の探索を行った。なお、
図3,4に示すように、それぞれの磁石のS/N極を結ぶ線が、各取り付け面に対して概ね垂直になるようにして磁石20を各面に吸着させることにより評価を行った。
【0029】
なお、上記の評価を行った打錠機では、杵体及び保持機構6等が鋼材で構成されている。このため、
図3,4に示すように磁石を各面に吸着させた際には、当該杵体及び保持機構6等がヨーク材として作用し、各図に示すような形態で磁力線が生成すると考えられるために、磁石の表面に露出する磁極(例えば、N極)への金属塵の吸着が望まれる他、当該磁極の周囲の鋼材部分が他方の磁極(例えば、S極)として機能し、同様に金属塵が吸着すると考えられる。
【0030】
上記評価を行った結果、上杵2の保持機構6の下面に磁石20を取り付けた場合(
図4(a))には、磁極の表面等に金属塵の吸着がみられた。また、臼材3が取り付けられるテーブル面7に磁石20を取り付けた場合(
図4(b))にも、磁極の表面等に金属塵の吸着がみられる一方で、臼材3の貫通孔に充填する粉体をヘラ(スキージ)で掃引する過程で当該吸着した金属塵が粉体内に混入することが観察された。また、
図4(b)に示すように、磁石20をテーブル面7に埋設してヘラとの接触を回避した際にも、形成される凹部に粉体が充填され、ヘラの動作によって撹拌されて金属塵が粉体内に混入することが観察された。
【0031】
上記に対して、
図3に示すように、ガイド部4から露出する杵体(上杵2)の先端近傍の側面に磁石20を取り付けて打錠の動作を行った際には、当該磁石の磁極、及び、杵体の表面に金属塵が吸着することが観察されると共に、圧粉体への介在物の混入頻度が抑制されることが観察された。また、その吸着量が
図4(a)の形態で磁石を使用した際に比べて向上することが観察された。
【0032】
打錠機によって圧縮成形された圧粉体に混入する介在物(金属塵)が発生する原因や、圧縮成形される粉体に混入する経路等は必ずしも明らかでない。一方、当該金属塵が機械部品の摺動等に起因して生じると予測されること、及び、
図3に示す実施形態により介在物の混入頻度が抑制されること等から、当該介在物の由来等については以下のように推察された。
【0033】
上記の評価を行った打錠機においては、杵体(上杵2、下杵2’)を往復運動させるための駆動力として、一般的には
図2に示すように案内レール9や回転ロール8によって上下の杵体間の距離を狭める手段が用いられる。当該手段によっての杵体間の距離を狭める方向に杵体を駆動する際には、案内レール9(回転ロール8)と杵体の接触部に対して、案内レール9(回転ロール8)の表面に垂直な方向を有する応力が発生する。そして、当該応力の方向は杵体の運動方向には一致せず、杵体の運動方向の成分(以下、当該応力の成分を便宜的に「垂直成分」という。)と共に、杵体の運動方向と垂直の成分(以下、当該応力の成分を便宜的に「水平成分」という。)が含まれると考えられる。
【0034】
一方、臼材3の貫通穴に杵体の先端が精度良く挿入されるためには、案内レール9等との間で生じる上記水平成分の応力による杵体の変位は許容されないため、当該水平成分の応力は剛直なガイド部4によって支えられることで、杵体は上記垂直成分の応力によって実質的に往復運動の方向のみに変位を生じるように構成される。
【0035】
杵体の保持部とガイド部4との間の摩擦を抑制するために、一般的に各種の軸受け機構がガイド部の内面に設けられると共に、潤滑油等による潤滑が行われており、上記水平成分の応力に起因するガイド部4と杵体の間の摩擦の発生が抑制された状態で杵体の往復運動が行われる。その一方で、依然として上記水平成分の応力によってガイド部4と杵体の保持部には摩擦が発生し、杵体が高速で往復運動を繰り返すことにより、当該ガイド部4と杵体の保持部間で微視的な摩耗を生じ、当該摩耗により生じた金属塵が杵体の表面に付着等した状態でガイド部4との接触部の外部に金属塵11として放出され、圧粉体に対する介在物の混入の主因になっていると考えられる。
【0036】
上記のような発塵に対して、
図3等に示すように、粉体を押圧する杵体(上杵2)の保持部と押圧部の間の表面に磁石20を設けることにより、金属塵11が臼材3の方向に拡散する経路に当該磁石20が形成する磁場が分布することとなり、当該金属塵11を捕捉する割合を高められ、当該金属塵11が介在物として圧粉体等に混入することを有効に抑制可能であると考えられた。そして、当該構成を有する杵体を使用することで良好な粉体圧縮成形装置等が構成できるものと考えられた。特に、上杵2が上昇した際に磁石20がガイド部4に接触しない範囲で、杵体の保持部近傍に磁石20を取り付けることにより、ガイド部4と杵体の間から発生する金属塵11の捕捉頻度を高めることができる。
【0037】
また、
図3に示す形態で磁石20を強磁性体で構成される杵体に取り付けることにより、杵体がヨークとなって磁石20の周囲の杵体表面に磁力線が現れると考えられることから、杵体の表面を磁極として空中に拡散する以前の金属塵11を吸着し、金属塵11が圧粉体等に混入することを抑制可能であると考えられる。
図3では、杵体の押圧部2Aと、ガイド部4によって保持される保持部2Bの間の杵体表面に磁石20を設ける例を示すが、上記のように発生する金属塵11はガイド部4の上端からも同様に発生することが考えられるため、杵体の保持部2Bと案内レール9等と接触する加圧部2Cの間の杵体表面に磁石20を設けることによっても金属塵11を有効に吸着可能であり、打錠機の周囲に発生する金属塵11を抑制可能である。
【0038】
本発明に係る杵体を構成する杵体本体は、一般に構造用部材として使用される鋼材やステンレス材等、杵体に求められる機械的な特性を有する材質によって構成することができる。特に、鋼材や400系ステンレス(例えば、Sus403等)などの強磁性を示す材質によって構成される杵体本体に対して本発明を適用することにより、当該杵体に対する磁石20の取り付けが容易になると共に、当該杵体をヨーク材と使用することで金属塵の捕捉を効率的に行うことが可能となる。
【0039】
一方、非磁性を示すSus304等の300系のステンレス等によって構成された杵体を使用する際にも、当該非磁性のステンレスから機械的作用等で生じる金属塵は一般に強磁性を示すことから、金属塵の捕捉手段として本発明を適用することにより金属塵を捕捉して圧粉体等への混入を抑制可能である。
【0040】
図5には、強磁性を示す杵体(上杵2)に磁石20を取り付けて金属塵11を吸着する際の構成の例について示す。
図3に示す構成においては、磁石20の内部でN極/S極を結ぶ線が杵体2の往復運動の方向と略垂直になるように配置されており、杵体2が磁石20の一方の磁極に対するヨーク材を構成している。これに対して、
図5(a)に示すように、磁石20の背面側に強磁性体によって構成されるヨーク材23を付加し、当該ヨーク材23と杵体2が対抗するような配置にすることにより、当該ヨーク材23と杵体2が対抗する箇所に磁石20が発する磁力線が集中し、ガイド部4と杵体2の摺動等により発生する金属塵の捕捉が有効に行うことが可能となる。
【0041】
一方、
図5(b)に示すように、磁石20の内部でN極/S極を結ぶ線が杵体2の往復運動の方向と略平行となるように磁石20を杵体2に取り付けることによっても、磁石20の両極の表面で金属塵を捕捉することが可能となり、吸着面を拡大することによって多くの金属塵を捕捉することが可能となる。
【0042】
図6には、強磁性を示す杵体、又は非磁性を示す杵体に磁石20を取り付けて金属塵11を吸着する際の他の構成の例について示す。
図1に示すような打錠機では、その生産性を向上するために、一般に高速で粉体の圧縮成形が行われる。また、圧縮成形される粉体の種類等に応じて、杵体によって衝撃的な加圧を行うことにより、良好な圧粉体を得る等の操作が行われる。
【0043】
一方、特に強い磁場を発生することで知られるFe-Nd系磁石や、Sm-Co系磁石等の希土類磁石を始めとして、磁石は一般に脆性的であり、衝撃的な加速度が高い頻度で長期間付加されることにより、内部に亀裂を生じて崩壊を生じることが懸念される。特に、例えば
図3に示すように、杵体に対して嵌め込む等の手段によって磁石20を取り付けて使用した場合には、杵体に生じる加速度が直接的に磁石に伝わるために、長期間の使用中に磁石20が破損することが想定される。
【0044】
上記に対して、
図6に示す構成においては、杵体に対して弾性体である金属材(非磁性体)22を介して磁石20が取り付けられている。
図6(a)では、中央に杵体2に対応した径の穴部を有するドーナツ形状の金属材22に対して、その表面に複数の磁石を固定すると共に、当該金属材22の穴部に杵体2を貫通した状態で杵体2の先端近傍に固定した状態を示す。当該構成により、杵体が圧粉等の際に強い加速度に晒される条件においても、当該弾性体としての金属材22が杵体と磁石20の間に介在するために、磁石20に生じる加速度が緩和されて、磁石20が崩壊に至る頻度を低下することが可能となる。
【0045】
特に
図6に示す構成においては、弾性体である金属材22をチタン材やSus304等の非磁性体から構成し、また、磁石20の内部でN極/S極を結ぶ線が杵体2の往復運動の方向と略平行になるように配置することで、当該金属材22によって磁石20を保持した状態でも、
図5(b)に示すように磁石20を杵体に直接取り付けた場合と同様の磁場の分布が得られ、磁石20の上面と、磁石20の下面近傍の金属材22の表面において金属塵の捕捉を行うことが可能である。また、磁石20を保持するために使用される弾性体として、金属材22を使用する他、所定の強度を有する樹脂等を用いることも可能である。
【0046】
図6に示すように、弾性体として作用する金属材によって磁石20を保持する際には、使用する磁石20の重量や、圧粉の際に杵体に生じる加速度等を勘案して、金属材に生じる変形量が当該金属材の弾性変形の範囲に収まるように、金属材を構成する部材の材質や厚み、構造などを設定することが好ましい。例えば、
図6(b)に示すように、磁石20を保持する金属材22に所定の断面形状を付与することにより、金属材22内部における変形量の集中等を抑制しながら、磁石20に生じる加速度の低減を図ることができる。
磁石20を保持するための弾性体として金属板等を使用して、金属板等を杵体に取り付けるための構造は特に限定されないが、例えば、
図6に示すように杵体の径が変化する部分に、適宜の嵌め合い構造、ネジ留め等によって金属材22を固定することができる。
【0047】
図7には、強磁性を示す杵体(上杵2)に磁石20を取り付けて金属塵11を吸着する際の他の構成の例について示す。
図7(a)に示す構成では、
図6(a)と比較して、磁石20を杵体に対して保持して取り付けるための弾性体として、非磁性の金属材22に換えて強磁性の金属材21を使用することを特徴とする。
図7に示すように、強磁性を示す金属材21を使用して杵体に対して磁石20を保持することにより、当該金属材21がヨーク材として機能し、磁石20の金属材21に接する側の磁極から生じる磁力線を適宜の位置に集中させることが可能となる。
【0048】
特に、杵体2が鋼材等の強磁性を示す金属により構成される場合には、金属材21を介して磁力線を杵体に導くことが可能であり、となる。
図7(a)に示す構成とすることにより、磁石20により生じる磁場は、磁石20の上面と、その近傍の杵体の表面の間に集中し、ガイド部4と杵体2の間等で生じる金属塵を効率的に捕捉することが可能になる。更に、
図7(b)に示すように、磁石20の上面にヨーク材23を設けて、杵体とのギャップを縮小することにより、磁石20の発する磁力線が狭い空間に集中し、強い磁力によって金属塵を捕捉することが可能になる。
【0049】
また、
図7に示す構成では、金属材21によって磁石20の発する磁場がシールドされるために、特に磁石20の下方へ磁力線が分布することを抑制することができる。これによって、例えば、粉体10を臼穴に充填する際に使用する粉体供給装置やスキージ等が、磁石20による磁力の影響を受けることを防止することができる。
【0050】
図7(a),(b)に示す形態に対して、磁石20のN極/S極間を磁気的にショートさせない範囲で、例えば、
図6(b)に示すように磁石20を保持するための弾性体として箱形の断面形状を有するものを使用することで、弾性体に強度を付与し、また、磁石20への直接の金属塵の付着を防止することができる。
【0051】
図8には、杵体(上杵2)に磁石20を取り付けて金属塵11を吸着する際の他の構成の例について示す。
図8は、特に非磁性を示す杵体2”に対して、
図7(a)と同様の構造を有する強磁性を示す金属材21を使用して磁石20を保持する例を示す。非磁性の材料によって構成される杵体2”を使用した際には、磁石20から発する磁力線の分布への影響が小さいため、磁石20の上面から発する磁力線は直接的に金属材21の上面等に達すると考えられる。このため、金属材21の上面が磁極として作用し、ガイド部4と杵体2の間等から生じる金属塵を磁石と杵体間の空間に効率的に捕捉することが可能となる。
【0052】
また、
図7に示すように、強磁性の杵体2に対して金属材21を介して磁石20を保持する場合にも、例えば、杵体2と金属材21の間に透磁率の低い部材などを設置したり、杵体を強磁性又は非磁性を示す複数の部材の組み合わせによって構成し、その組み合わせの方法によって杵体2や金属材21の周囲の磁束分布を調整することができる。
【0053】
また、上杵2が上昇した際に磁石20等がガイド部4に接触しない範囲で、磁石20をガイド部4の近傍に取り付けることにより、磁石20や金属材21等によってガイド部4と杵体2の摺動部(保持部)を実質的に囲い込むことによって、ガイド部4と杵体の間から発生する金属塵11が、周囲に拡散することを防止することができる。
【0054】
また、
図8に示すように、磁石20の上部を柔軟な樹脂製部材24によって覆うことにより、金属材21の弾性変形能や磁力線の分布に影響を与えない状態で、磁石20を機械的な衝撃から保護することができる。また、樹脂等によって構成される蛇腹状のスリーブ等でガイド部4と樹脂製部材24の間の空間を仕切ることによって、ガイド部4と杵体の間から発生する金属塵11が周囲に拡散することを更に防止することができる。
【0055】
上記杵体の周囲に磁場を形成するために使用される磁石20として、金属塵を吸着可能な程度の磁力を生じる磁石であれば特に制限無く使用することができる。一方、磁石20により生じる磁力が強いことにより効率的に金属塵を捕捉可能であり、例えば、希土類磁石等の強い磁場を形成可能な永久磁石を使用することが望ましい。
特に、当該磁石を金属板等の弾性体を介して杵体に取り付けることによって、杵体から磁石20に印加される加速度が緩和されるため、希土類磁石等の脆性な磁石を使用することが可能となる。
【0056】
本発明において使用する磁石の形態は特に限定されず、円筒状等を有し、平面状のN極/S極が略並行に形成された磁石を1個又は複数個使用してもよく、当該複数の磁石をヨーク材によって磁気的に結合して単一の磁石として使用することも可能である。また、磁石を杵体に取り付ける形態に応じて、例えば、磁石の内部に放射状の磁界を有する、又は、両平面にN極/S極を有するような、矩形断面を有する環状の磁石等を使用することも可能である。
【0057】
本発明に係る杵体は、例えば、
図1に示すように打錠機に取り付けられた杵体(上杵2)に対して、当該杵体の適宜の位置に所定の形態で磁石を取り付けることにより形成することができる。杵体に磁石を取り付ける際には、例えば、
図3に示す形態等で磁石が有する磁力によって杵体に磁石20を取り付ける他、杵体の表面に磁石20の形状に合わせた窪み等を設けておくことで、杵体の往復運動の際の衝撃で磁石を外れ難くする等ができる。
【0058】
また、
図5(a)に示すような形態で、杵体に取り付けた磁石20の周囲にヨーク材23を設ける際には、環状のヨーク材23によって複数の磁石を拘束するような形態にすることで、磁石20が外れることを防止することができる。
【0059】
一方、
図6,7に示すように、杵体に対して金属板等の弾性部材を介して磁石20を取り付ける場合には、磁力や接着剤、機械的な嵌め合い等で当該弾性部材に磁石20を取り付けると共に、杵体と弾性部材の間を嵌め合いやネジ止め等の通常使用される機械的な締結手段により締結して使用することができる。
【0060】
上記においては、主に
図1等に示す打錠機(粉体圧縮成形装置)に使用する杵体について説明したが、本発明の用途はこれに限定されず、同様に往復運動をする杵体について本発明を適用することができる。例えば、特許文献2に記載されるような半導体基板の封止等に使用される装置 に対しても、本発明に係る杵体を使用することで、動作中に生じる金属塵を捕捉することが可能となる。
また、本発明の実施形態は上記で説明した形態に限定されず、本発明の効果を阻害しない範囲で、各実施形態に含まれる技術要素を適宜置換した形態によっても本発明を実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、粉体圧縮成形装置等の往復運動をする杵体を使用した各種の加工装置に広く使用することが可能であり、被加工物に混入する金属塵を抑制することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 打錠機
2,2’ 杵体
3 臼材
4,4’ ガイド部
6,6’ 保持機構
7 テーブル
8,8’ 回転ロール
9,9’ 案内レール
10 粉体
20 磁石
21 金属材(強磁性体)
22 金属材(非磁性体)
23 ヨーク材
24 樹脂製部材