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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112492
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】食品の観察方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20230804BHJP
   G01N 33/10 20060101ALI20230804BHJP
   G01N 1/34 20060101ALI20230804BHJP
   G01N 1/30 20060101ALI20230804BHJP
   A21D 13/16 20170101ALN20230804BHJP
   A21D 8/00 20060101ALN20230804BHJP
【FI】
G01N1/28 F
G01N33/10
G01N1/34
G01N1/30
A21D13/16
A21D8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014309
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝部 帆洋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 亜美
【テーマコード(参考)】
2G052
4B032
【Fターム(参考)】
2G052AA25
2G052AD32
2G052AD52
2G052EB08
2G052FA09
2G052FC02
2G052FC16
2G052GA35
2G052JA11
4B032DB01
4B032DB15
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK48
4B032DK49
4B032DK54
4B032DL11
4B032DL20
4B032DP12
4B032DP16
4B032DP28
4B032DP33
4B032DP63
4B032DP80
(57)【要約】
【課題】改良された食品の観察方法を提供する。
【解決手段】食品から一部を採取して食品試料を調製する工程と、前記食品試料を電子染色する工程と、前記電子染色した前記食品試料から観察対象外成分を流出させる工程と、前記観察対象外成分を流出させた後の前記食品試料を電子顕微鏡により観察する工程と、を含むことを特徴とする食品の観察方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品から一部を採取して食品試料を調製する工程と、
前記食品試料を電子染色する工程と、
前記電子染色した前記食品試料から観察対象外成分を流出させる工程と、
前記観察対象外成分を流出させた後の前記食品試料を電子顕微鏡により観察する工程と、
を含むことを特徴とする食品の観察方法。
【請求項2】
前記食品は澱粉質原料を含有し、前記観察対象外成分は前記澱粉質原料を含む、請求項1記載の食品の観察方法。
【請求項3】
前記電子染色は白金ブルー染色によるものである、請求項1又は2に記載の食品の観察方法。
【請求項4】
前記電子顕微鏡による観察は走査型電子顕微鏡によるものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の食品の観察方法。
【請求項5】
前記食品試料の調製は、前記食品から一部を採取し、これを凍結して割断することにより行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の食品の観察方法。
【請求項6】
前記観察対象外成分を流出させる工程は、前記電子染色した前記食品試料を水性液体中に浸漬することにより行う、請求項1~5のいずれか1項に記載の食品の観察方法。
【請求項7】
前記観察対象外成分を流出させる工程は、前記電子染色した前記食品試料を水性液体中に浸漬しながら超音波処理することにより行う、請求項1~6のいずれか1項に記載の食品の観察方法。
【請求項8】
前記食品は、澱粉質原料を含有するベーカリー製品又はその生地である、請求項1~7のいずれか1項に記載の食品の観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品を電子顕微鏡により観察する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品を電子顕微鏡により観察することが行われている。電子顕微鏡によれば食品組織の微細な構造まで観察することができるので、その顕微鏡像と、原料や調製方法の違いや、得られる食品の食感や外観の違いなどとの関連付けにより、食品の性状や品質を客観的に評価することができる方法のひとつとして利用されている。
【0003】
食品を電子顕微鏡により観察する方法に関し、例えば、特許文献1には、液状またはゲル状食品を、急速凍結後に凍結置換することを含む、前記食品の透過型電子顕微鏡用試料の調製方法の発明が開示されている。そして、その方法によれば、透過型電子顕微鏡を用いてヨーグルトや牛乳の本来の組織構造を観察できるものとされている。
【0004】
また、例えば、非特許文献1には、電子顕微鏡により焼成したパンの組織を観察したことが記載されている。すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)(加速電圧10KV)を用いて、脱水後の試料を臨界点乾燥した試料を割断後試料台に取り付け、金をイオンコーティングして観察したことが記載されている。また、透過型電子顕微鏡(TEM)(加速電圧75KV)を用いて、脱水処理後による低粘性エポキシ樹脂に包埋し、60nmの超薄切片にしたものを酢酸ウラニル・鉛の二重染色を施して観察したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-88328号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】庄司善哉、峯木眞知子、「油脂の性状の違いによるパンの組織構造」、秋田大学教育文化学部研究紀要 自然科学(Memoirs of Faculty of Education and Human Studies, Akita University. Natural Sciences)(2003年)第58号、第1-8頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの検討によると、ベーカリー製品等の食品の電子顕微鏡による観察においては、澱粉質原料に含まれる澱粉粒等によって食品組織の骨格構造の観察が邪魔されてしまうという課題があった。そこで、電子顕微鏡による観察に供する試料を水洗する前処理を行うことにより、ある程度の観察が可能であった。しかしながら、そのように試料を水洗する前処理の影響で、食品組織の骨格構造自体が壊れてしまい、本来の構造の観察が難しくなってしまうという側面があった。
【0008】
本発明の目的は、このような課題が解決された、改良された食品の観察方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
食品から一部を採取して食品試料を調製する工程と、
前記食品試料を電子染色する工程と、
前記電子染色した前記食品試料から観察対象外成分を流出させる工程と、
前記観察対象外成分を流出させた後の前記食品試料を電子顕微鏡により観察する工程と、
を含むことを特徴とする食品の観察方法、を提供するものである。
【0011】
本発明にかかる食品の観察方法によれば、電子顕微鏡により観察するので、食品組織の微細な構造を観察することができる。そして、観察に供する試料を電子染色した後に観察の邪魔になる観察対象外成分を流出させる工程をとることで、食品組織の本来の構造を効果的に観察することができる。
【0012】
本発明にかかる食品の観察方法においては、前記食品は澱粉質原料を含有し、前記観察対象外成分は前記澱粉質原料を含んでいてもよい。これによれば、澱粉質原料を含有するベーカリー製品等の食品の観察において、澱粉質原料に含まれる澱粉粒等によって食品組織の骨格構造の観察が邪魔されるのを防ぐことができる。
【0013】
本発明にかかる食品の観察方法においては、前記電子染色は白金ブルー染色によるものであってもよい。これによれば、白金ブルー染色が蛋白質の窒素原子部分に結合するので、その染色によりグルテン等の骨格構造を保護し、かつ、観察対象外成分が骨格構造から脱離しやすくする効果が得られる。
【0014】
本発明にかかる食品の観察方法においては、前記電子顕微鏡による観察は走査型電子顕微鏡によるものであってもよい。これによれば、食品組織の骨格構造をより効果的に観察することができる。
【0015】
本発明にかかる食品の観察方法においては、前記食品試料の調製は、前記食品から一部を採取し、これを凍結して割断することにより行うようにしてもよい。これによれば、食品の表面だけでなく内部にわたる組織の骨格構造をより効果的に観察することができる。
【0016】
本発明にかかる食品の観察方法においては、前記観察対象外成分を流出させる工程は、前記電子染色した前記食品試料を水性液体中に浸漬することにより行うようにしてもよい。その場合、浸漬しながら超音波処理するようにしてもよい。これによれば、より効率的に観察対象外成分を流出させることができる。
【0017】
本発明にかかる食品の観察方法においては、前記食品は、澱粉質原料を含有するベーカリー製品又はその生地であってもよい。これによれば、澱粉質原料を含有するベーカリー製品又はその生地の組織の骨格構造を効果的に観察することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる食品の観察方法によれば、電子顕微鏡により観察するので、食品組織の微細な構造を観察することができる。そして、観察に供する試料を電子染色した後に観察の邪魔になる観察対象外成分を流出させるので、食品組織の本来の構造を効果的に観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】試験例1において、焼成したパンを走査型電子顕微鏡により観察した結果を示す顕微鏡像の一例であり、図1(A)には水洗を行わない試料の顕微鏡像の一例を示し、図1(B)には試料を白金ブルー染色液で染色し、水に浸漬して超音波処理する方法により調製した試料の顕微鏡像の一例を示し、図1(C)には水で水洗する方法により調製した試料の顕微鏡像の一例を示す。
図2】試験例2において、パン生地を走査型電子顕微鏡により観察した結果を示す顕微鏡像の一例であり、図2(A)には水洗を行わない試料の顕微鏡像の一例を示し、図2(B)には試料を白金ブルー染色液で染色し、水に浸漬して超音波処理する方法により調製した試料の顕微鏡像の一例を示す。
図3】試験例3において、クラッカーを走査型電子顕微鏡により観察した結果を示す顕微鏡像の一例であり、図3(A)には水洗を行わない試料の顕微鏡像の一例を示し、図3(B)には試料を白金ブルー染色液で染色し、水に浸漬して超音波処理する方法により調製した試料の顕微鏡像の一例を示す。
図4】試験例4において、ロールケーキを走査型電子顕微鏡により観察した結果を示す顕微鏡像の一例であり、図4(A)には水洗を行わない試料の顕微鏡像の一例を示し、図4(B)には試料を白金ブルー染色液で染色し、水に浸漬して超音波処理する方法により調製した試料の顕微鏡像の一例を示す。
図5】試験例5において、デニッシュ生地を走査型電子顕微鏡により観察した結果を示す顕微鏡像の一例であり、図5(A)には水洗を行わない試料の顕微鏡像の一例を示し、図5(B)には試料を白金ブルー染色液で染色し、水に浸漬して超音波処理する方法により調製した試料の顕微鏡像の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、食品を電子顕微鏡により観察する方法を提供するものである。ここで「食品」とは、評価者が評価したい加工食品等(任意の食品原料からなる食品組成物)の任意の食品であり得る。また、「観察する」とは、当業者に一般に認識される電子顕微鏡観察の意義と同義であって、評価者によって選択や設定し得る任意の観点についての評価であってよい。
【0021】
本発明においては、観察対象とされる食品から一部を採取して食品試料を調製する工程を含む。この工程においては、食品を、電子染色やその後の電子顕微鏡による観察のため操作しやすいサイズに調製する。食品試料の形状としては、スライス状やキューブ状など任意の形状であってよいが、望ましくは、電子顕微鏡により観察する際の試料台に載せたときに、観察面として一定の面積、典型的に例えば1~40000mm、好ましくは5~150mmの面積を有するように調製することが好ましい。
【0022】
本発明においては、上記のようにして調製した食品試料を電子染色する工程を含む。この工程においては、観察の対象となる成分が後段の工程(観察対象外成分を流出させる工程)により流出してしまうことがないようにする。ここで「電子染色」とは、電子顕微鏡観察のための試料の調製において重元素の付加によりコントラストを高めるための処理である。すなわち、主にH、C、O等の軽元素からなる試料では入射電子に応じた散乱エネルギーが弱いが、試料に重元素を付加することで入射電子に応じた散乱エネルギーが高まり、これにより高いコントラストが得られる。電子染色に用いられる電子染色材の具体例としては、白金ブルー、過ヨウ素酸メテナミン銀、四酸化オスミウム、四酸化ルテニウム、リンタングステン酸、酢酸ウラン、クエン酸鉛などが挙げられる。特には、白金ブルーによるものであることが好ましい。電子染色材のなかでも白金ブルーは、比較的取り扱いの安全性が高く、また、蛋白質を含む食品組織の骨格構造に結合し、電子顕微鏡観察において電子を反射するため、骨格構造を判別しやすいという利点がある。
【0023】
白金ブルー染色は、あらかじめシスプラチンとチミジンから合成した濃青色で液状の錯体・白金ブルー[Pt(NH(C13+5に試料を浸漬することにより、試料を染色するものである。従来は使用者自身が白金ブルーを作成する必要があったが、近年は合成、安定化された白金ブルー染色液が市販されており、こうした染色液を使用することもできる。市販されている白金ブルー染色液としては「TIブルー」(日新EM株式会社)が挙げられる。
【0024】
本発明においては、上記のようにして電子染色した食品試料から観察対象外成分を流出させる工程を含む。この工程においては、観察したい食品組織の骨格構造とそれ以外の成分とを分離してより観察しやすくする。例えば、電子染色材を入れた水性液体中に食品試料を浸漬し、一定時間経過させることで食品試料を電子染色し、更に、染色された食品試料を別の水溶液に浸漬することで観察対象外成分を流出させることができる。この場合、観察対象外成分を流出させる目的で、食品試料を水溶液中で振盪させる等の物理的な操作を行ってもよい。なお、本発明においては、電子染色の工程と電子染色した食品試料から観察対象外成分を流出させる工程とが同じかあるいは一連不可分な操作によるもであってもよい。例えば、電子染色材を入れた水性液体中に食品試料を浸漬し、一定時間経過した後に、同じ水性液体中で振盪等の操作により、観察対象外成分を流出させてもよい。電子染色材を入れた水性液体中に食品試料を浸漬してすぐに、同じ水性液体中で振盪等の操作を行い、観察対象外成分を流出させてもよい。このような操作により、電子染色と観察対象外成分の流出が一連不可分な操作でなし得る。
【0025】
いずれの場合にも、次の電子顕微鏡観察の工程の前に、試料を水に浸漬し、染色液を洗い流す工程、残った水分をある程度取り除く工程が含まれることが好ましい。水分を取り除く工程では、例えば試料を紙などの上に置き、紙にある程度の水を吸引させて取り除く方法や、試料を真空乾燥に処して水分を除去する方法などが挙げられるが、電子顕微鏡観察において試料台が設置されるチャンバー内が減圧される場合には、上記水分を取り除く工程では水分を除かなくても構わない。
【0026】
本発明においては、上記のようにして観察対象外成分を流出させる操作を施した食品試料を電子顕微鏡により観察する工程を含む。この工程においては、通常の方法に従い、電子顕微鏡による観察を行う。限定されないが、観察は、走査型電子顕微鏡によるものであることが好ましい。また、試料台が設置されるチャンバー内の真空度が10Pa~500Pa程度である低真空条件下における観察が好ましい。これによれば、食品試料の水分や油分が必要以上に蒸散してしまうことがなく、食品組織の本来の構造が崩れてしまうことを防ぐことができる。
【0027】
本発明における限定されない任意の態様においては、食品試料の調製は、食品から一部を採取し、これを凍結して割断することにより行うことが好ましい。この態様によれば、食品の表面だけでなく内部にわたる組織の骨格構造をより効果的に観察することができる。本態様において、割断は、採取した試料の内部まで十分に凍結させたうえ、凍結させたままの試料に衝撃を与えることなどにより行うことができる。例えば、ナイフの先で液体窒素に漬けたままの試料に触れ、ナイフの柄部分をペンチで叩くことで振動を伝えることなどによって、試料を割断してもよい。
【0028】
本発明における限定されない他の態様においては、観察対象外成分を流出させる工程は、電子染色した食品試料を水性液体中に浸漬しながら超音波処理することにより行うことが好ましい。この態様によれば、超音波処理を施さない場合にくらべて、より短時間でその工程の目的を達することができる。また、試料を浸漬させた溶液を容器ごと振盪させたり、試料を水中で揉み洗いする等の強い物理的処理を行う場合に比べて、観察対象とする食品組織の骨格構造の破壊の度合いが少ない。
【0029】
本態様において、超音波処理は、限定されないが室温で行うことができる。また、観察対象外成分を流出させることができる水性液体中で行えばよく、その水性液体としては、例えば、蒸留水、緩衝液などであってもよい。
【0030】
本発明が適用される食品としては、特に制限はないが、常温で流動性がなく一定の形状を保つものに適用することが好ましい。このような食品に適用することで、上述した水洗の処理により、その保形性を呈する組織の骨格構造が流出してしまうことなく、観察することができる。また、後述の実施例で示されるように、澱粉質原料を含有する食品であると、その澱粉質原料から持ち込まれる澱粉粒等を観察対象外成分として効果的に流出させることができ、食品組織の本来の構造を観察することができるので好ましい。澱粉質原料を含有する食品としては、例えば、ベーカリー製品が挙げられる。ベーカリー製品としては、パン類(食パン、菓子パン、バラエティブレッド、フランスパン、ブリオッシュ、デニッシュ、イーストドーナツ、マフィン、ピザ、スコーン、蒸しパン、ワッフル、イングリッシュマフィン、バンズなど)、焼き菓子類(ビスケット、クラッカー、乾パン、プレッツェル、ウエハース、パイ、シューパフ、バターケーキ、スポンジケーキ、カステラ、ケーキドーナツ、パンケーキ、どら焼きなど)などが挙げられる。また、焼成前のベーカリー生地が挙げられる。ベーカリー生地としてはパン類生地(食パン生地、菓子パン生地、バラエティブレッド生地、フランスパン生地、ブリオッシュ生地、デニッシュ生地、イーストドーナツ生地、ピザ生地、スコーン生地、ワッフル生地、イングリッシュマフィン生地、バンズ生地など)、焼菓子類生地(ビスケット生地、クラッカー生地、乾パン生地、プレッツェル生地、パイ生地など)などが挙げられる。その他には、スナック菓子類(ポテトスナック、コーンパフスナックなど)、澱粉質原料を含有する調理品(クレープ、おやき、お好み焼き、たこ焼き、チヂミなど)、麺類などが挙げられる。
【0031】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本明細書に開示の範囲による各種の組合せ、変形による実施形態が可能であり、そのような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【実施例0032】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
<試験例1>
食パン(「超熟」敷島製パン株式会社)の中央部から10mm×10mm×10mmのサイズの小片を切り出して、液体窒素に漬けることにより凍結させ、試料を液体窒素に浸漬させたままその試料にナイフの先で触れ、ナイフの柄部分の上部を叩いて振動を伝えることで、試料を割断した。
【0034】
試料を液体窒素から取り出して常温に戻し、以下の処理A)又はB)を施すよう各試験群を設けた。
(試料の処理条件)
A)処理なし
B)白金ブルー染色液(「TIブルー」日新EM株式会社)に12時間漬け、試料を染色液から取り出し、10mlの水に浸漬して容器ごと超音波洗浄装置の水浴部に入れて、10秒間の超音波処理
【0035】
また、以下の処理C)を施す試験区を設けた。
(試料の処理条件)
C)食パン(「超熟」敷島製パン株式会社)の中央部から10mm×10mm×10mmのサイズの小片を切り出して、容器にいれた水に漬け、その容器ごと10秒間強く振盪させて、水洗した。試料を水から取り出し、液体窒素に漬けることにより凍結させ、試料を液体窒素に浸漬させたままその試料にナイフの先で触れ、ナイフの柄部分の上部を叩いて振動を伝えることで、試料を割断した。
【0036】
上記割断面が観察面となるよう装置の試料台にセットし、走査型電子顕微鏡装置(「TM4000Plus」、株式会社日立ハイテクノロジーズ)により観察した。観察温度は-20~-30℃、真空モードは「帯電軽減モード」、その他の測定条件は図に示した。なお、Mixは反射電子像と二次電子像の合成画像であることを示し、BSEは反射電子像であることを示す。
【0037】
その結果、図1(A)に示されるように、試料の水洗を行わないと、焼成したパンに含まれる澱粉粒等の成分によってのっぺりとした表面が形成されている様子であった。
【0038】
これに対して、図1(B)に示されるように、試料を白金ブルー染色液に漬け、超音波処理を行うと、膜状に広がる構造が顕わになった。白金ブルー染色により、窒素原子を含む成分が電子を反射し、白く観察されることから、膜状に広がる構造はグルテン膜であると推定された。
【0039】
一方、図1(C)に示されるように、試料を水洗しただけだと、焼成したパンの組織を構成する成分が洗い流されて、骨格構造が崩れてしまっている様子であった。
【0040】
<試験例2>
表1に示す配合で次のようにパン生地を調製した。
【0041】
【表1】
【0042】
具体的には、中種の原料をミキサーボウルに入れ、フックを用いて縦型ミキサーにてミキシングを行い、中種を調製した。中種を27℃で4時間発酵した後、ミキサーボウルに入れ、残りの原料とともにフックを用いてミキシングした。
【0043】
得られた生地についてフロアタイム30分とり、5mm×5mm×2mmの小片を切り出し、以下の処理A)又はB)を施すよう各試験群を設けた。
(試料の処理条件)
A)処理なし
B)白金ブルー染色液(「TIブルー」日新EM株式会社)に12時間漬け、試料を染色液から取り出し、10mlの水に浸漬して容器ごと超音波洗浄装置の水浴部に入れて、10秒間の超音波処理
【0044】
各試料を装置の試料台にセットし、試験例1と同様に走査型電子顕微鏡装置により試料表面を観察した。その結果、図2(A)に示されるように、試料の水洗を行わないと、パン生地に含まれる澱粉粒等の成分によってごつごつとした表面が形成されている様子であった。
【0045】
これに対して、図2(B)に示されるように、試料を白金ブルー染色液に漬け、超音波処理を行うと、パン生地の組織の骨格構造が顕わになった。
【0046】
<試験例3>
クラッカー(「リッツ」モンデリーズ・ジャパン株式会社)の中央部から10mm×10mm×5mmのサイズの小片を切り出して、液体窒素に漬けることにより凍結させ、試料を液体窒素に浸漬させたままその試料にナイフの先で触れ、ナイフの柄部分の上部を叩いて振動を伝えることで、試料を割断した。
【0047】
試料を液体窒素から取り出して常温に戻し、以下の処理A)又はB)を施すよう各試験群を設けた。処理後の試料について、走査型電子顕微鏡により観察した。
(試料の処理条件)
A)処理なし
B)白金ブルー染色液(「TIブルー」日新EM株式会社)に12時間漬け、試料を染色液から取り出し、10mlの水に浸漬して容器ごと超音波洗浄装置の水浴部に入れて、10秒間の超音波処理
【0048】
その結果、図3(A)に示されるように、試料の水洗を行わないと、クラッカーに含まれる澱粉粒等の成分によってのっぺりとした表面が形成されている様子であった。
【0049】
これに対して、図3(B)に示されるように、試料を白金ブルー染色液に漬け、超音波処理を行うと、クラッカーの組織の骨格構造が顕わになった。
【0050】
<試験例4>
「5つに切ったロールケーキ」(山崎製パン株式会社)のスポンジから10mm×10mm×5mmのサイズの小片を切り出して、液体窒素に漬けることにより凍結させ、試料を液体窒素に浸漬させたままその試料にナイフの先で触れ、ナイフの柄部分の上部をペンチで叩くことで振動を伝えることで、試料を割断した。
【0051】
試料を液体窒素から取り出して常温に戻し、以下の処理A)又はB)を施すよう各試験群を設けた。処理後の試料について、走査型電子顕微鏡により観察した。
(試料の処理条件)
A)処理なし
B)白金ブルー染色液(「TIブルー」日新EM株式会社)に12時間漬け、試料を染色液から取り出し、10mlの水に浸漬して容器ごと超音波洗浄装置の水浴部に入れて、10秒間の超音波処理
【0052】
その結果、図4(A)に示されるように、試料の水洗を行わないと、スポンジに含まれる澱粉粒等の成分によってのっぺりとした表面が形成されている様子であった。
【0053】
これに対して、図4(B)に示されるように、試料を白金ブルー染色液に漬け、超音波処理を行うと、スポンジの組織の骨格構造が顕わになった。
【0054】
<試験例5>
表2に示す配合でデニッシュ生地を以下のように調製した。
【0055】
【表2】
【0056】
具体的には、ロールイン用マーガリン以外の原料をミキサーボウルに入れ、フックを用い、縦型ミキサーにてミキシングを行い、生地を調製した。フロアタイム30分とった後、生地を1℃で20時間リタードさせた。この生地に、15℃に調温しておいたロールイン用マーガリンをのせ、常法により、ロールイン(3つ折り2回、4つ折り1回)し、厚さ5mmに成型した。
【0057】
得られたデニッシュ生地から10mm×10mmの小片を切り出し、以下の処理A)又はB)を施すよう各試験群を設けた。
(試料の処理条件)
A)処理なし
B)白金ブルー染色液(「TIブルー」日新EM株式会社)に12時間漬け、試料を染色液から取り出し、10mlの水に浸漬して容器ごと超音波洗浄装置の水浴部に入れて、10秒間の超音波処理
【0058】
各試料を生地より切り出した際の断面を観察面として、装置の試料台にセットし、試験例1と同様に走査型電子顕微鏡装置により観察した。その結果、図5(A)に示されるように、試料の染色、水洗を行わないと、デニッシュ生地に含まれる澱粉粒等の成分が割断面を被い、組織の構造を明瞭に観察することができなかった。
【0059】
これに対して図5(B)に示されるように、試料を白金ブルー染色液に漬け、超音波処理を行うと、デニッシュ生地に折り込まれた油脂層(暗い色の層)がその他の層(明るい色の多孔質の層)と判別されて組織の全体構造が顕わになると同時に、油脂層以外の部分のグルテンと思われる骨格構造も顕わになった。
【0060】
上記試験例1~5の結果をかんがみるに、白金ブルーは蛋白質の窒素原子と結合するため、食品組織においては蛋白質を含む骨格構造、特にはグルテンや卵由来の蛋白質を含む骨格構造と結合するものと考えられた。そして、作用機序は定かではないが、これらの蛋白質を含む骨格構造に白金ブルーが結合することで、骨格構造の核となる部分は保護される一方で、骨格構造の表面に付着するその他の成分、特には澱粉が容易に脱離するようになるものと考えられた。その結果、強い物理的処理を行わなくとも観察対象外の成分を流出させることができるものと考えられた。
図1
図2
図3
図4
図5