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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112495
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】医療用エマルション粘着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20230804BHJP
   C09J 133/02 20060101ALI20230804BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20230804BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20230804BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J133/02
C09J7/38
C08F220/18
A61K9/70 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014312
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004020
【氏名又は名称】ニチバン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】千田 明美佳
【テーマコード(参考)】
4C076
4J004
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4C076AA74
4C076BB31
4C076EE09A
4C076EE10A
4C076EE47
4C076EE48
4J004AA10
4J004AB01
4J004CE01
4J004FA09
4J040DF011
4J040DF021
4J040JA03
4J040JA13
4J040JB02
4J040JB09
4J040KA16
4J040NA02
4J100AJ02Q
4J100AL04P
4J100CA04
4J100DA09
4J100EA01
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA20
4J100JA05
(57)【要約】
【課題】本発明は、反応性アニオン界面活性剤と反応性ノニオン界面活性剤を特定量比で使用し、界面活性剤の配合量が少ないにも関わらず、十分な皮膚接着性を有し、かつ剥離時の痛みが軽減される医療用エマルション型粘着剤及び該医療用エマルション型粘着剤を使用する貼付部材を提供する。
【解決手段】本発明のエマルション粘着剤は主剤及び架橋剤を含有する。該主剤は、重合助剤と、単量体として(メタ)アクリル酸アルキルエステル60~99.5質量%及びアクリル酸0.1~5質量%を含む混合物の乳化共重合体からなるアクリル酸エステル系共重合体とを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤を含有する粘着剤であって、前記主剤は、アニオン性反応性界面活性剤及びノニオン性反応性界面活性剤を含む重合助剤と、単量体として(メタ)アクリル酸アルキルエステル60~99.5質量%及びアクリル酸0.1~5%質量%を含む混合物の乳化共重合体からなるアクリル酸エステル系共重合体とを有する、医療用エマルション粘着剤。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルはアクリル酸2-エチルヘキシルである、請求項1に記載の医療用エマルション粘着剤。
【請求項3】
前記重合助剤は、前記単量体混合物全量に基いて0.5~3.0質量%のアニオン性反応性界面活性剤と、0.5~5.0質量%のノニオン性反応性界面活性剤とを含有する、請求項1または請求項2に記載の医療用エマルション粘着剤。
【請求項4】
前記アニオン性反応性界面活性剤及びノニオン系界面活性剤がともにアルキルエーテル系もしくはフェニルエーテル系である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の医療用エマルション粘着剤。
【請求項5】
前記アニオン性反応性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩もしくはポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウムであり、前記ノニオン性反応性界面活性剤が、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンもしくはポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテルである、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の医療用エマルション粘着剤。
【請求項6】
架橋剤をさらに含有する、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の医療用エマルション粘着剤。
【請求項7】
シートまたはテープからなる支持体と、該支持体の一方側の面に設けられた請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の医療用エマルション粘着剤からなる粘着剤層とを備えてなる、粘着部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用のエマルション型アクリル系粘着剤に関するものであり、詳細には、重合安定性が良好であり、十分な皮膚接着性を有し、且つ、剥離時の痛みが軽減される、医療用エマルション粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤を含まないエマルション粘着剤は、衛生的で安全であるため、現在よく使用されている(特許文献1)。医療分野では、汗、唾液、涙液、入浴等水分との接触を避けられないため、水分の存在下でも優れる粘着性を示すように、界面活性剤、特に反応性界面活性剤が使用されるようになった。(特許文献2)
また、水系アクリル共重合体の場合、固形分を高くすることができるため、高固形分低粘度のエマルション粘着剤が開発されてきた。(特許文献3,4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-139733号
【特許文献2】特許第4914590号
【特許文献3】特開昭63-027572号
【特許文献4】特開平07-278233号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、固形分が高ければ高いほど共重合体製造時や貼付剤製造時に使用するエネルギー量が少なくなり、環境にも優しくなる。しかし、固形分が高くなるほど溶液粘度も高くなり、貼付剤製造設備の製造可能粘度範囲から逸脱し、希釈などの操作が必要となり高固形分のメリットを損なう。また、対人用途としては付着性、粘着力の強さの他に、糊残りや剥離時の痛みも特性として考慮しなければならない。
さらに、アニオン性の反応性界面活性剤の多くは黄色がかっており、病院で使用されるサージカルテープのような製品の場合、白色のイメージが世の中に浸透しており、テープが積層された巻物の状態では黄色がより強調され、医療従事者や患者が黄ばみや劣化品と認識してしまう可能性がある。
【0005】
本発明では、アニオン反応性界面活性剤とノニオン反応性界面活性剤を併用することで、高固形分で安定性が良好でありつつ、皮膚に対する適度な粘着力を有するエマルション粘着剤を提供することを目的とする。
そして、このようなエマルション粘着剤により作られる、黄色みが少なく見た目も良好な粘着部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は第1観点として、主剤を含有する粘着剤であって、前記主剤は、アニオン性反応性界面活性剤及びノニオン性反応性界面活性剤を含む重合助剤と、単量体として(メタ)アクリル酸アルキルエステル60~99.5質量%及びアクリル酸0.1~5質量%を含む混合物の乳化共重合体からなるアクリル酸エステル系共重合体とを有する、医療用エマルション粘着剤に関する。
本発明は第2観点として、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルはアクリル酸2-エチルヘキシルである、第1観点に記載の医療用エマルション粘着剤に関する。
本発明は第3観点として、前記重合助剤は、前記単量体混合物全量に基いて0.5~3
.0質量%のアニオン性反応性界面活性剤と、0.5~5.0質量%のノニオン性反応性界面活性剤とを含有する、第1観点または第2観点に記載の医療用エマルション粘着剤に関する。
本発明は第4観点として、前記アニオン性反応性界面活性剤及びノニオン系界面活性剤がともにアルキルエーテル系もしくはフェニルエーテル系である、第1観点乃至第3観点のいずれか1つに記載の医療用エマルション粘着剤に関する。
本発明は第5観点として、前記アニオン性反応性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩もしくはポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウムであり、前記ノニオン性反応性界面活性剤が、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンもしくはポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテルである、第1観点乃至第4観点のいずれか1つに記載の医療用エマルション粘着剤に関する。
本発明は第6観点として、架橋剤をさらに含有する、第1観点乃至第5観点のいずれか1つに記載の医療用エマルション粘着剤に関する。
本発明は第7観点として、シートまたはテープからなる支持体と、該支持体の一方側の面に設けられた第1観点乃至第6観点のいずれか1項に記載の医療用エマルション粘着剤からなる粘着剤層とを備えてなる、粘着部材に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の医療用エマルション粘着剤は、反応性アニオン界面活性剤と反応性ノニオン界面活性剤を特定量比で使用し、界面活性剤の配合量が少ないにも関わらず、高固形分かつ低粘度のため塗工適性にも優れる医療用エマルション型アクリル粘着剤が得られた。
少量の界面活性剤の併用は、界面活性剤を併用しない場合より、溶液粘度が上昇するため、粘着剤の抜き取りが容易かつ便利である。また、界面活性剤の使用量が少ないことは、耐水性といった粘着特性の低下を抑制、十分な皮膚接着性を有し、かつ剥離時の痛みが軽減される。
アニオン性の界面活性剤の多くは黄色がかっており、アニオン性界面活性剤を使用した粘着剤を用いて貼付部材を作製した際に医療従事者や患者が黄ばみや劣化品と認識してしまう可能性があるが、ノニオン界面活性剤を併用することで、粘着特性や重合安定性を低下することなく黄色味の少ない粘着剤が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のエマルション粘着剤は主剤を含有する。該主剤は、重合助剤と、単量体として(メタ)アクリル酸アルキルエステル60~99.5質量%及びアクリル酸0.1~5質量%を含む混合物の乳化共重合体からなるアクリル酸エステル系共重合体とを有する。
【0009】
[(メタ)アクリル酸アルキルエステル]
(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基は、特に限定されず、直鎖、分岐、環状のアルキル基であってよい。アルキル基は、炭素原子数1~18のものが好適であり、より好ましくは炭素原子数1~10の直鎖又は分岐のアルキル基である。
なお、本明細書では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとはアクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルの両方をいう。
【0010】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、その代表的な例として、例えば、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル等が挙げられる。アルキル基が環状(例えば、炭素原子数3~10の環状アルキル基(シクロヘキシル基等))の(メタ)アクリル酸エステルも使用することができるが、本発明は、炭素原子数1~10の直鎖又は分岐の
アルキル基を有することが好ましく、例えば、アクリル酸2-エチルヘキシルが挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0011】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸を含む混合物が単量体成分として、下記反応性界面活性剤を含む重合助剤と乳化重合し、その乳化共重合体からなるアクリル酸エステル系共重合体が、本発明のエマルション粘着剤の主剤に含まれる。
【0012】
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸以外に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能なその他の単量体を配合することも可能である。その他の単量体として、例えば、MTA(アクリル酸2-メトキシエチル)等が挙げられる。
【0013】
該単量体の混合物において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、60~99.5質量%が好ましく、65~99.5質量%がより好ましい。アクリル酸の含有量は0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。その他の単量体の含有量は、0~40質量%が好ましい。
【0014】
[重合助剤]
本発明の重合助剤として、アニオン性反応性界面活性剤及びノニオン性反応性界面活性剤を含む。
【0015】
アニオン性反応性界面活性剤としては、エーテルサルフェート型反応性界面活性剤、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム、リン酸エステル系反応性界面活性剤が挙げられるが、これに限定されない。
【0016】
エーテルサルフェート型反応性界面活性剤には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩又はポリオキシアルキレンフェニルエーテル硫酸エステル塩を基本骨格とし、重合性のアルケニル基(例えば、アリル基)、(メタ)アクリロイル基等を有する化合物7474が包含される。例えばラテムルPD-104、PD-105(花王株式会社製)、アクアロンKH-5、KH-10(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩)、KH-20(第一工業製薬株式会社製)、アデカリアソープSR-10、SR-20等(株式会社ADEKA製)、アクアロンHS、アクアロンBC-10(ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、第一工業製薬株式会社製)がある。
【0017】
リン酸エステル系反応性界面活性剤には、アルキルリン酸エステル又は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸(塩)又はポリオキシアルキレンフェニルエーテルリン酸(塩)を基本骨格とし、重合性のアルケニル基(例えば、アリル基)、(メタ)アクリロイル基等を有する化合物が含まれる。例えばSIPOMER PZ-100(ローディア日華株式会社製)、H-3330PL、ニューフロンティアS-510(第一工業製薬株式会社製)、Maxemul6106、6112(ユニケマ社製)、アデカリアソープPP-70(株式会社ADEKA製)等がある。
【0018】
その他のアニオン性反応性界面活性剤としては、SIPOMER COPS1(ローディア日華株式会社製)、エレミノールJS-20、RS-30、NHS-20(三洋化成工業株式会社製)、Maxemul 5010、5011(ユニケマ社製)等がある。
【0019】
一方、ノニオン性反応性界面活性剤には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル又はポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルを基本骨格とし、重合性のアルケニル基
(例えば、アリル基)、(メタ)アクリロイル基等を有する化合物が包含される。例えば、アデカリアソープNE-10、NE-20、NE-30、ER-10、ER-20、ER-30、ER-40(アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン)(株式会社ADEKA製)、ラテムルPD-403S、PD-420、PD-430、PD-450(ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル)(株式会社花王製)、アクアロンRN-10、RN-20、RN-30、RN-50、AN-5065(ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル)(第一工業製薬株式会社製)等がある。
【0020】
アニオン性反応性界面活性剤は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。同様に、ノニオン性反応性界面活性剤も、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明は、乳化重合時にアニオン性反応性界面活性剤及びノニオン性反応性界面活性剤を併用されている。併用することで、高固形分かつ低粘度のエマルション粘着剤が得られる。
また、本発明では、併用する際に、アニオン性反応性界面活性剤及びノニオン性反応性界面活性剤の使用量を検討し、皮膚に対する適度な粘着力を得られ、得られるエマルション粘着剤の黄色味も抑えるように成功した。
【0022】
好ましいアニオン性反応性界面活性剤は、アクアロンKH-5、KH-10、アデカリアソープSR-10、SR-20、ラテムルPD-104、アクアロンBC-10等が挙げられる。アクアロンKH-10がより好ましい。好ましいノニオン性反応性界面活性剤が、アデカリアソープER-20、ER-30、ER-40、ラテムルPD-403S、ラテムルPD-420、アクアロンAN-5065等が挙げられる。アデカリアソープER-40がより好ましい。
【0023】
アニオン性反応性界面活性剤の使用量は、単量体混合物の全量に基づいて、0.5~3.0質量%が好ましく、より好ましくは、1.0~2.0質量%である。また、ノニオン性反応性界面活性剤の使用量は、単量体混合物の全量に基づいて、0.5~5.0質量%が好ましく、より好ましくは、1.0~4.0質量%である。
【0024】
[主剤のその他の成分]
本発明のエマルション粘着剤の主剤は、上記重合助剤とアクリル酸エステル系共重合体以外に、さらにその他の成分として、重合開始剤、連鎖移動剤などが使用される場合、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて通常、主剤の全質量を基準として、例えば0.01質量%以上1質量%以下の範囲で使用することができる。
重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウムといった過硫酸塩、アゾビスシアノバレリックアシッド等の水溶性アゾ化合物等が挙げられる。過硫酸アンモニウムが好ましく使用される。また、連鎖移動剤として、n-オクチルメルカプタン及びn-ドデシルメルカプタンが好ましく使用される。重合開始剤は全単量体(全モノマー)100重量部に対して0.01~5重量部が好適に用いられる。連鎖移動剤は全単量体100重量部に対して0.01~5重量部が好適に用いられる。
【0025】
[架橋剤]
本発明のエマルション粘着剤に主剤以外に架橋剤を含有してもいい。例えば、水溶性エポキシ、オキサゾリン、カルボジイミド、水溶性イソシアネート、ブロックイソシアネート、メラミン等が挙げられ、これらを単独又は2種以上の組み合わせで用いることができる。
中でも、水溶性エポキシ、オキサゾリン、カルボジイミドを用いることが好適である。
【0026】
本発明のエマルション粘着剤に架橋剤を含む場合に、架橋剤の配合量は、粘着剤の皮膚
への残留や貼着性の一因となり得る架橋度を考慮して適宜選択すればよい。粘着剤層の全質量を基準として、例えば0.01質量%以上6.0質量%以下、0.01質量%以上4.0質量%以下、あるいは、0.01質量%以上2.0質量%以下の範囲を挙げることができる。
【0027】
[その他の任意成分]
本発明のエマルション粘着剤には、主剤及び架橋剤以外に、さらにその他の任意成分として、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)等の酸化防止剤、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪酸塩、酸化亜鉛、酸化チタン、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム等の無機粉体、ベンゾイルメタン誘導体等の紫外線吸収剤、着色剤、香料、防腐剤等の、従来の含水系貼付材(パップ剤)やあるいは非水系貼付材(テープ剤)におけるエマルション粘着剤に一般に配合され得る成分を配合することができる。これらの任意成分が使用される場合、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて通常、エマルション粘着剤の全質量を基準として、例えば0.01質量%以上1質量%以下の範囲で使用することができる。
【0028】
[粘着部材]
本発明の粘着部材において、テープまたはシートからなる支持体と、該支持体の一方側の面に設けられた粘着剤層とを備えてなる。
【0029】
[支持体]
上記支持体としては、例えば、含浸紙、コート紙、上質紙、クラフト紙、和紙、グラシン紙等の紙類;ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリウレタンフィルム、セロハンフィルムなどのプラスチックフィルム;発泡体;不織布、織布、編布等の布帛類;これら2種以上の積層体;などが挙げられる。前記布帛類の材質としては、天然素材、合成樹脂素材、再生樹脂材料及びこれら適宜を組み合わせた各種の材料を用いることができ、中でもポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリル樹脂等を原料とする不織布、織布、編布等を用いることとができる。
中でも、皮膚に密着することができ、かつ、皮膚の動きに追随することができる程度の柔軟な材質、そして長時間貼付後において皮膚のかぶれ等の発生を抑制できる材質が好ましく、貼付下の皮膚面の動きに対する追随性に優れる点において、さらには、水に濡れた際に強度を維持しやすく、自背面接着力がより強くなる点において、不織布が好ましく、特に、ポリエステル製不織布及びパルプ/ポリエステル製不織布が好ましい。
【0030】
支持体の厚みは、伸び、引張り強さ、作業性などの物理的性質や貼付時の感触や患部の密閉性等を考慮して適宜選択可能であるが、通常5μmから1mm程度である。なお、支持体の厚みが5μm~30μm程度とごく薄い場合は、粘着剤層が設けられた支持体の一方側の面とは反対の面(以下、他方側の面という)上に、後述するキャリアフィルムを設けてもよい。
支持体が布帛類である場合、その厚みは、好ましくは50μm~1mm、より好ましくは100μm~800μm、更に好ましくは200μm~700μmであり、目付けは皮膚への追従性の点から300g/m2以下が好ましく、より好ましくは200g/m以下が好ましく、更に好ましくは150g/m以下である。
また支持体がプラスチックフィルムである場合、その厚みは、好ましくは10μm~300μm、より好ましくは12μm~200μm、更に好ましくは15μm~150μmである。なお支持体がフィルムである場合は、粘着剤層と支持体の投錨性を向上することを目的に、支持体の一方側の面又は他方側の面、あるいはそれら両面にサンドブラスト処理、コロナ処理等の処理を行なってもよい。
上記支持体の厚みが5μmよりも小さいと、粘着テープの強度や取り扱い性が低下して、皮膚への貼付が困難になり、他の部材等との接触によって破れたり、入浴等の水との接触によって短時間で皮膚から剥離したりすることがある。また、支持体の厚みが大きすぎる(1mmより超える)と、粘着テープが皮膚の動きに追随しにくくなり、粘着テープの辺縁部に剥がれるきっかけを形成しやすくなるため、短時間で皮膚から剥離したり、貼付中の違和感が増えたりする虞がある。
【0031】
中でも支持体として不織布を用いる場合、その目付量は、通常10g/m乃至100g/mであり、粘着テープの透湿性を向上させ、且つ皮膚に貼りやすい強度を保つ観点から、好ましくは15g/m乃至80g/mであり、より好ましくは20g/m乃至60g/mである。不織布の目付量が10g/m未満である場合、不織布の伸縮性が大きくなりすぎて、却って粘着テープの取り扱い性が悪くなる虞があるほか、粘着剤が支持体(不織布)の他方側の面にまで染みだしてしまう可能性がある。また目付量が100g/mを超える場合、不織布の伸縮性が小さすぎて取り扱い性が悪くなること、粘着テープの透湿性が低下して皮膚刺激性が大きくなる虞、さらには貼付時において皮膚に違和感を生じる虞がある。
【0032】
これら支持体において、JISZ0208、40℃、90%RHにおいて測定される透湿度は、1,000g/m・24hとすることが好ましく、2,000g/m・24h以上であることがより好ましく、3,000g/m・24h以上であることが特に好ましい。透湿度を1,000g/m・24h以上に設定することにより、皮膚に貼付した際のムレが少なく、皮膚刺激や貼付中の痒みが生じにくい。透湿度は高いほど好ましく、好ましい透湿度の上限は特にないが、通常30,000g/m・24h以下である。
【0033】
また、粘着テープの所定方向への伸縮を調整するべく、例えば長手方向には伸び難く、短手方向には伸び易くするために、支持体の他方側の面及び/又は一方側の面に、その長手方向(或いは短手方向)に延びる樹脂縞を複数本設け、樹脂縞を有する支持体の態様とすることも可能である。このような樹脂縞としては特に限定されないが、例えばアクリル酸アルキルエステル共重合体の樹脂縞や、エチレン・酢酸ビニル共重合体の樹脂縞等が好ましく、これら共重合体(樹脂)を公知の方法により支持体の面上に塗布することにより、樹脂縞を形成できる。
【0034】
なお貼付時に粘着テープが目立たないようにするために、支持体(並びに上述の樹脂縞を含む態様にあっては樹脂縞)を顔料、有機顔料、天然色素などの着色剤により、肌色などの色調に着色することにより、貼付時に肌の色との相違を少なくできる。また透明性に優れたプラスチックフィルムを支持体に用いると、貼付下の皮膚の色調を透けて出しやすくなるため、粘着テープの目立ちを少なくできる。
【0035】
また支持体の他方側の面に設けられ得る上記キャリアフィルムとしては、公知のものを用いることができ、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレンなどの各種熱可塑性樹脂からなる各種フィルムを用いて形成することが好ましい。また上記各種フィルムは、紙にラミネートされた状態のものを用いてもよい。
これらの各種フィルム等から形成されるキャリアフィルムは、厚みを厚いものとするか、あるいは腰の強い材質からなるものとすることが望ましい。キャリアフィルムの厚みは、適宜設定できるが、通常、10μm以上、好ましくは20μm以上であり、その上限値は500μm程度である。
【0036】
さらに支持体には、帯電防止剤、紫外線防止剤などの添加剤を本発明の効果を阻害しな
い程度に含ませることができる。帯電防止剤としては、界面活性剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤)等が挙げられる。帯電防止剤により、支持体の投錨性や工程上の不具合を解消することができる。
【0037】
[剥離ライナー]
本発明の貼付部材に剥離ライナー(剥離層・剥離紙ともいう)を用いることができる。剥離ライナーとしては、貼付部材の技術分野において慣用のものを使用することができる。
例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリプロピレン(無延伸、延伸等)、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のプラスチックフィルム;上質紙、グラシン紙、パーチメント紙、クラフト紙等の紙や合成紙;前記プラスチックフィルム、紙又は合成紙、合成繊維等にシリコーン樹脂やフッ素樹脂等の剥離性能を有する剥離剤をコーティングした剥離加工紙;アルミ箔;これらフィルム・シートを種々積層したラミネート加工紙、及び該ラミネート加工紙に剥離剤をコーティングしたラミネート剥離加工紙などの、無色又は着色したシートを挙げることができる。なお剥離ライナーは、包材から取り出しやすいように凹凸を設けることも可能である。
【0038】
これら剥離ライナーの厚さは特に限定されないが、通常10μm~1mm、例えば20μm~500μm、好ましくは40μm~200μmの範囲である。
なお、剥離シートからの粘着剤層を剥離する際の剥離力は、特定の範囲の剥離力であることが望ましい。これは、粘着剤層の剥離シートからの剥離力が弱すぎると、包材中の貼付部材を取り出す際に包材に貼付部材が引っかかった場合や、貼付部材を所望の大きさに切断する際などにおいて、粘着剤層が剥離シートからずれて剥がれてしまう虞があるためである。また、剥離シートからの粘着剤層の剥離力が強すぎると、使用時の取り扱い性が悪くなる虞があるためである。粘着剤層の剥離シートからの剥離力は、例えば0.1N/25mm~0.5N/25mmとすることができる。
【0039】
[エマルション粘着剤の製造方法]
本発明に係るエマルション粘着剤は、公知の手法により製造可能であり、例えば、単量体混合物及び重合開始剤等を、反応性界面活性剤を溶解したイオン交換水に加え、高速攪拌機で分散乳化した後、50~95℃の一定温度に保ち、不活性雰囲気下で共重合させる。尚、上記乳化液の一部を重合し、残部を連続的或いは間欠的に滴下して重合する方法でもよい。
【0040】
[貼付部材の製造方法]
本発明の貼付部材は、従来公知の方法を用いて製造され得る。例えば一例として、以下の(i)又は(ii)の工程を経て製造可能である。
(i)支持体上に、エマルション粘着剤を塗工し、粘着剤層を形成する工程、及び、支持体上に形成された粘着剤層と、剥離ライナーとを貼り合わせる工程。
(ii)剥離ライナー上に、エマルション粘着剤を塗工し、粘着剤層を形成する工程、及び、剥離ライナー上に形成された粘着剤層と、支持体とを貼り合わせる工程。
なお、上記粘着剤層の厚みは特に限定されないが、通常10μm乃至1000μm、例えば20μm乃至800μm程度とすることができる。
【実施例0041】
表1において用いられる単量体及び界面活性剤の略号は次のとおりである。
2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
AA:アクリル酸
MTA:アクリル酸2-メトキシエチル
ER-40:アデカリアソープER-40(ノニオン性界面活性剤)
KH-10:アクアロンKH-10(アニオン性界面活性剤)
SR-20:アデカリアソープSR-20(アニオン性界面活性剤)
ER-20:アデカリアソープER-20(ノニオン性界面活性剤)
BC-10:アクアロンBC-10(アニオン性界面活性剤)
AN-5065:アクアロンAN-5065(ノニオン性界面活性剤)
S180A:ラテムルS-180A(スルホコハク酸型共重合性アニオン系界面活性剤)
PD420:ラテムルPD-420(アルキルエーテル系ノニオン系界面活性剤)
NOMP:n-オクチルメルカプタン
DM:n-ドデシルメルカプタン
APS:過硫酸アンモニウム
V50:2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩
【0042】
[主剤の作製]
(実施例1)
温度計、コンデンサー、窒素導入管、撹拌機を備えた温度調節可能な反応容器にイオン交換水、アニオン性反応性界面活性剤アクアロンKH-101.2部と混合し、さらに、アクリル酸2-エチルヘキシル(以下、「2EHA」とする)99部、アクリル酸(以下、「AA」とする)1部を仕込み、窒素気流下で60℃まで昇温した後、連鎖移動剤DM
0.03部及びノニオン性反応性界面活性剤ER-40 2.0部をそれぞれと混合する。このように得られる単量体乳化物5wt%に、さらに、過硫酸アンモニウム(以下、「APS」とする)0.25部をイオン交換水に溶解させた液を滴下し、63℃で2時間滴下し、さらに3.5時間を熟成させる。重合を完結させた後40℃以下冷却した。その後、金網等で濾過し、アクリル酸エステル系共重合体を得た。
【0043】
(実施例2~実施例8、比較例1~比較例4)
実施例1以外の実施例および比較例のアクリル酸エステル系共重合体は、下記表1の比率で、実施例1の製造方法に従い合成した。
【0044】
(アクリル酸エステル系共重合体の液の粘度)
得られた実施例1~8及び比較例1~4の合成されるアクリル酸エステル系共重合体の溶液の粘度を、下記表1に示した。実施例1~8の液の粘度は1200~7000mPa・sに収められるが、比較例1と2の液の粘度は、14000以上あり、実施例よりはるかに粘度が高いと分かる。また比較例3と比較例4の液は反応状態が悪いため測定しない。
【0045】
【表1】
【0046】
(粘着部材の作成)
表1に記載される配合により作製される実施例1~8及び比較例1~4のアクリル酸エステル系共重合体に単量体全量に対してそれぞれに架橋剤(エポクロスK-2010E(株式会社日本触媒))0.4部を添加し、粘着剤を完成させた。さらに、アプリケーターを用いて、基材であるパルプ/ポリエステル不織布上に塗工し、乾燥箱内で乾燥させ、評価用の粘着テープ片(それぞれ実施例1~8及び比較例1~4の粘着テープ片)とした。乾燥後の粘着剤層の厚みは30μmとなるように塗工した。
【0047】
<粘着部材の評価>
(付着状態)
実施例1~8及び比較例1~4のアクリル酸エステル系共重合体から作製される粘着テープ片の付着状態を目視で確認した(n=8)。評価基準は以下に従い、結果を表2に示した。
0:良好
0.5:エッジ部の浮き
1:軽度の浮き (15%程度)
2:中程度の浮き (30%程度)
3:強度の浮き (50%程度)
4:脱落
【0048】
【表2】
【0049】
(剥離時の痛み)
皮膚粘着力測定時に剥離時の痛みを、0:なし、0.5:僅かな痛み、1:痛みあり、2:強度の痛み、として4段階にて評価し、平均値を算出し、結果を表2に示した(n=8)。なお、実使用に際し問題のない評価は0.5以下である。
【0050】
(粘着剤の残留)
前記の粘着力測定において、各被験サンプルを剥離した後の皮膚表面に、粘着剤が残ったかどうかを目視で確認した(n=8)。評価基準は以下に従った。結果を表2に示す。0:なし
0.5:エッジ部に僅かにあり
1:全面に僅かにあり
2:全面に中程度あり
3:全面に多いにあり
【0051】
(前腕部粘着力(24時間))
実施例1~8及び比較例1~4の粘着テープ片を、長さ75mm×幅15mmの短冊に裁断し、評価用サンプルとした。これらのサンプルを、ヒト被験者の前腕部に貼付した。貼付から24時間後に、インストロン型引張試験機を用いて、剥離速度100mm/分、剥離角度90°の条件で測定した(n=8)。剥離は、小指側から親指側に行った。測定結果を表2に示す。
なお、粘着力は通常、0.5N/15mm以上であれば、十分な皮膚接着性を有する。
【0052】
(黄色味)
実施例1~8及び比較例1~4の粘着テープ片の黄色味について、目視で確認した。評価基準は以下に従った。結果を表2に示す。
〇:黄色味少ない
△:黄色味やや強い
×:黄色味強い
【0053】
本発明によれば、医療用エマルション粘着剤からなる粘着剤層を備えてなる貼付部材において、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤を特定量比で配合することにより、黄色味が少なく、十分な皮膚接着性を有し、かつ剥離時の痛みが軽減され、医療現場に適合する貼付部材を提供できることが確認された。