(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112502
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】建設機械のキャブの繋留構造
(51)【国際特許分類】
B62D 27/02 20060101AFI20230804BHJP
E02F 9/16 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
B62D27/02
E02F9/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014327
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000140719
【氏名又は名称】株式会社加藤製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪野 勝行
【テーマコード(参考)】
2D015
3D203
【Fターム(参考)】
2D015EA02
3D203AA27
3D203BA12
3D203BB72
3D203BC34
3D203CB09
3D203CB12
(57)【要約】
【課題】車体に対するキャブの繋留作業における作業性を確保し得る建設機械のキャブの繋留構造を提供する。
【解決手段】キャブ5の下部に、車体2側へキャブ5を繋留するための繋留孔32を備えると共に、繋留孔32を上下に貫通するよう車体2に取り付けられる繋留体30を備え、繋留体30は、上下方向に沿って延びる本体部30aと、車体2への繋留状態において繋留孔32よりも上方にあたる位置に、軸方向と直交する向きに沿って外側へ広がる鍔部30fを設け、繋留体30が繋留孔32から抜け出ることを防止する抜止部30bを備え、本体部30aは、繋留孔32を上方から下方へ通された後、繋留孔32よりも下側において車体2側に取り付けられるよう構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャブの下部に、車体側へ前記キャブを繋留するための繋留孔を備えると共に、
前記繋留孔を上下に貫通するよう前記車体に取り付けられる繋留体を備え、
前記繋留体は、上下方向に沿って延びる本体部と、
前記車体への繋留状態において前記繋留孔よりも上方にあたる位置に、軸方向と直交する向きに沿って外側へ広がる鍔部を設け、前記繋留体が前記繋留孔から抜け出ることを防止する抜止部を備え、
前記本体部は、前記繋留孔を上方から下方へ通された後、前記繋留孔よりも下側において車体側に取り付けられるよう構成されていること
を特徴とする建設機械のキャブの繋留構造。
【請求項2】
前記繋留体にフック部を、前記車体側に係合部をそれぞれ設け、
前記フック部と前記係合部の係合により、前記キャブから前記繋留体の先端側に作用する力に抗するよう構成されていること
を特徴とする請求項1に記載の建設機械のキャブの繋留構造。
【請求項3】
前記繋留体の前記繋留孔への差込み方向と直交する向きに沿って前記本体部および前記車体側に締結具が挿入されることにより、前記繋留体が前記車体側に取り付けられるよう構成されていること
を特徴とする請求項1または2に記載の建設機械のキャブの繋留構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショベル等の建設機械において、車体にキャブを固定するための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は建設機械の一例としてショベルを示している。ショベル1の車体2は、走行装置であるクローラ3の上に旋回台4を介して旋回可能に取り付けられており、車体2の上部にはキャブ5が設置されている。車体2の前方には、ブーム6が起伏可能に取り付けられている。
【0003】
こうした建設機械1においては、車体2に対しキャブ5を繋留するために、例えば
図11に示す如き構造が設けられる。ここに示した例では、車体2側から繋留軸10が上方へ垂直に突出する一方、キャブ5側の下部に水平方向に沿った面をなすよう設けられた繋留フランジ11には繋留軸10を通すための繋留孔12が設けられており、この繋留孔12に繋留軸10を通すことでキャブ5が車体2に繋留されるようになっている。繋留軸10は中空の円筒形状をなしており、中心軸に沿って設けられた孔(図示せず)の内周面にはネジ溝が設けられている。繋留孔12に繋留軸10を通した上で、繋留軸10の上面にワッシャ7を挟みつつ、繋留軸10の前記孔(図示せず)にボルト8を締め込むことで、ワッシャ7により繋留孔12からの繋留軸10の抜け止めが図られ、キャブ5が車体2に繋留される。
【0004】
図12は建設機械1におけるキャブ5の繋留構造の別の例を示している。ここに示した例では、車体2側から繋留軸20が車両前方へ水平方向に沿って突出する一方、キャブ5の下部には、車両の前後方向に直交する向きに沿った面をなすよう繋留フランジ21が設けられ、該繋留フランジ21には繋留孔22が設けられている。そして、繋留孔22を繋留軸20が前後方向に貫通する形でキャブ5が車体2に繋留されるようになっている。円筒形状をなす繋留軸20の中心軸に沿って設けられた孔(図示せず)には、内周面にネジ溝が設けられており、繋留孔22に繋留軸20を通した上で、繋留軸20の先端面にワッシャ7を挟みつつ前記孔にボルト8を締め込むことで、ワッシャ7により繋留孔22からの繋留軸20の抜け止めが図られ、キャブ5が車体2に繋留される。
【0005】
尚、建設機械におけるこの種のキャブの繋留構造に関連する技術を開示した先行技術文献としては、例えば、下記の特許文献1~3等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-196712号公報
【特許文献2】特開2005-344394号公報
【特許文献3】特開2013-241751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、
図11、
図12に示したような繋留構造では、キャブ5の繋留作業において、キャブの車体への配置、または繋留軸へのワッシャの取付けのいずれかの作業性が悪いという欠点があった。
図11に示した例の場合、車体2にキャブ5を配置する際、キャブ5側の繋留孔12を車体2側の繋留軸10の位置を合わせながら、車体2の上方に吊り下げたキャブ5を車体2に対して下ろしていく必要がある。そして、仮にキャブ5を下ろした際に繋留孔12と繋留軸10の位置が合っていなければ、キャブ5を再度吊り上げ、改めて繋留孔12と繋留軸10の位置合わせをしながら、キャブ5を車体2に下ろすという手順を踏まなくてはならない。一方、
図12に示した例の場合、車体2にキャブ5を配置するにあたっては、まず大まかな位置合わせをしながら車体2にキャブ5を下ろしてから、さらにキャブ5の位置を調整して繋留軸20を繋留孔22に通せばよいので、キャブ5の配置の作業にかかる手間は比較的少ない。ただしこちらの例の場合、車体2側からキャブ5に向かって前方に突出した繋留軸20にワッシャ7をボルト8で取り付けるにあたり、キャブ5の下側に位置する繋留軸20に対し車体2の下方からアクセスする必要があり、このときの作業が面倒である(
図11に示した例の場合、繋留軸10は車体2から上方へ突出しているので、繋留軸10にはアクセスしやすく、ワッシャ7の取付けは容易である)。このように、従来のキャブの繋留構造では、繋留作業におけるキャブの配置の作業性と、ワッシャの取付けの作業性の両立が難しく、繋留作業を通して作業性を確保することが難しいという課題があった。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、車体に対するキャブの繋留作業における作業性を確保し得る建設機械のキャブの繋留構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、キャブの下部に、車体側へ前記キャブを繋留するための繋留孔を備えると共に、前記繋留孔を上下に貫通するよう前記車体に取り付けられる繋留体を備え、前記繋留体は、上下方向に沿って延びる本体部と、前記車体への繋留状態において前記繋留孔よりも上方にあたる位置に、軸方向と直交する向きに沿って外側へ広がる鍔部を設け、前記繋留体が前記繋留孔から抜け出ることを防止する抜止部を備え、前記本体部は、前記繋留孔を上方から下方へ通された後、前記繋留孔よりも下側において車体側に取り付けられるよう構成されていることを特徴とする建設機械のキャブの繋留構造にかかるものである。
【0010】
本発明の建設機械のキャブの繋留構造は、前記繋留体にフック部を、前記車体側に係合部をそれぞれ設け、前記フック部と前記係合部の係合により、前記キャブから前記繋留体の先端側に作用する力に抗するよう構成することができる。
【0011】
本発明の建設機械のキャブの繋留構造は、前記繋留体の前記繋留孔への差込み方向と直交する向きに沿って前記本体部および前記車体側に締結具が挿入されることにより、前記繋留体が前記車体側に取り付けられるよう構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の建設機械のキャブの繋留構造によれば、車体に対するキャブの繋留作業における作業性を確保するという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施による建設機械のキャブの繋留構造の第一実施例の形態を示す斜視図である。
【
図2】第一実施例における繋留体の形態を示す斜視図である。
【
図3】第一実施例におけるキャブの繋留構造周辺の分解斜視図である。
【
図4】車体に対するキャブの繋留作業において、キャブを車体に載置した状態を示す側断面図である。
【
図5】キャブを車体に載置した状態から、キャブ側の繋留孔に繋留体を通す工程を示す側断面図である。
【
図6】
図5の状態から、繋留体を車体側に取り付けた状態を示す側断面図である。
【
図7】本発明の第二実施例の形態を示す側断面図である。
【
図8】本発明の第三実施例の形態を示す側断面図である。
【
図9】本発明の第四実施例の形態を示す側断面図である。
【
図10】建設機械としてのショベルの形態の一例を簡易的に示す側面図である。
【
図11】従来の建設機械におけるキャブの繋留構造の一例を示す斜視図である。
【
図12】従来の建設機械におけるキャブの繋留構造の別の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0015】
図1~
図3は本発明の実施による建設機械のキャブの繋留構造の形態の一例(第一実施例)を示している。尚、本第一実施例では、
図10に示した建設機械(ショベル)および各部の符号をも適宜参照する。
【0016】
本第一実施例の繋留構造は、
図1に示す如く、車体2側に取り付けられ、且つキャブ5を繋留可能に構成された繋留体30を備える。この繋留体30は、機能的には
図11、
図12に示した繋留軸10,20と共通する部品であるが、車体2を構成するフレームと一体的に設けられる繋留軸10,20とは異なり、車体2に対し着脱が可能である。また、繋留体30は、機能上ワッシャ7に相当する抜止部30bを備えている。
【0017】
この繋留体30単体の形態を
図2に示す。繋留体30は、上下方向に沿って細長く伸びる板状の本体部30aの上部に抜止部30bを設けて構成されている(尚、本明細書では、特に断りのない場合、前後・左右・上下といった方向は車体2を基準とし、繋留体30の使用時における車体2に対する向きとして記述する。また本明細書では、部材等の向きに関し、例えば「水平方向に沿って」とか「鉛直方向に沿った」といった表現が登場するが、そういった場合、当該部材等が必ずしも水平方向や鉛直方向と正確に一致することを意味しない。当該部材等に要求される機能上、支障のない程度に水平方向や鉛直方向に近い角度である、とか、当該部材等の三次元空間における方向がその向きの成分を含んでいる、といった程度の意味である)。板状の本体部30aは、車体2の前後方向に直交する向きに沿った面をなして上下に伸びており、本体部30aの上下方向における中間部には、車体2側に取り付けるための取付孔30cが、本体部30aを前後に貫通する形で上下に2個設けられている。本体部30aの下端には、車体2側に係合されるフック部30dが設けられている。
【0018】
フック部30dは、本体部30aのなす面と直交するよう、本体部30aの下端部に取り付けられた板状の部材であり、本体部30aの下端部から、前方、下方および後方に突出している。このうち前方に突出した部分が、後述するように車体2側に設けられた係合部37と係合するようになっている。また、フック部30dの前方下部の角部は斜めに切り欠かれており、これにより、後述する繋留作業の際、フック部30dの前方下部の角が車体2に干渉せず、フック部30dを車体2側にスムーズに係合できるようになっている。
【0019】
抜止部30bは、上下方向に伸びる円筒形の軸部30eと、該軸部30eの上下方向における中間部から、軸方向と直交する向きに沿って外側へ広がる円盤状の鍔部30fを備えている。この鍔部30fの径は、キャブ5側の繋留フランジ31に設けられた繋留孔32の径よりも大きく設定され、繋留体30を繋留孔32に貫通させる際に、鍔部30fが繋留孔32を通過することがないようになっている。キャブ5を繋留体30によって車体2に繋留した状態においては、繋留体30は軸部30eが繋留孔32内にある位置で繋留孔32を貫通し、その状態において、鍔部30fは繋留孔32より上方に位置し、これにより、繋留体30が繋留孔32から抜け出ることが防止される。
【0020】
図3に示す如く、キャブ5の後方下部には、繋留体30を通し、キャブ5を車体2に繋留するための構造として繋留フランジ31および繋留孔32が設けられている。繋留フランジ31は、キャブ5の後方下部から水平方向に沿った面をなして後方へ突出する板状の部材であり、中央部には繋留フランジ31を上下に貫通する形で円形の繋留孔32が設けられている。
図1に示す如く、キャブ5の繋留状態においては、この繋留孔32を上下に貫通するよう、繋留体30が車体2に取り付けられる。
【0021】
繋留孔32の径は、繋留体30の鍔部30fの径より小さく、且つ平面視における本体部30aおよびフック部30dの最大寸法より大きく設定されている。すなわち、後述する繋留作業時においてフック部30dと本体部30aが繋留孔32を通過することができるが、鍔部30fは繋留孔32を通過できず、これによって繋留体30が繋留孔32から抜け出ることが防止されるような寸法である。
【0022】
車体2には、
図3に示す如く、キャブ5を繋留した状態(
図1参照)における繋留フランジ31および繋留孔32の下方にあたる領域に取付部33が設けられている。本第一実施例の場合、取付部33は、車体2を構成するフレーム34の上面に設けられ、前後方向に直交する面をなして左右に伸びる板状の部材である。取付部33のうち、左右方向に関して繋留孔32の直下にあたる位置には、繋留体30を取り付けるための台座部35が設けられている。台座部35は、取付部33のなす面から後方へ向かってやや突出するように設けられた全体として八角形の領域であり、
図1に示すキャブ5の繋留状態において、繋留体30の本体部30aと対向する。台座部35の中央部には、繋留体30の本体部30aに設けられた取付孔30cの位置と対応する位置に、取付孔36が上下に2個設けられている。キャブ5の繋留状態においては、繋留体30の取付孔30cの位置を車体2側の取付孔36の位置に合わせ、両者を貫通するように締結具としてのボルト40を締結し、これによって繋留体30を車体2に固定する。ボルト40は、取付孔30c,36に対し、繋留体30の軸方向(すなわち、繋留体30の繋留孔32への差込み方向)と直交する向きに沿って挿入される。
【0023】
台座部35の下端は、取付部33のなす面から後方に突出しているが、この部分は繋留体30との係合部37を構成している。すなわち、キャブ5の繋留状態においては、繋留体30のフック部30dのうち前方にあたる部分が台座部35の下端部(係合部37)に対して下方に位置すると共に、台座部35のなす端面より前方に突出し、これにより、係合部37に対してフック部30dが係合し、繋留体30が台座部35から離れるような動きが抑えられるようになっている。このフック部30dと係合部37の配置や機能については、後に改めて詳述する。
【0024】
次に、本第一実施例の建設機械のキャブの繋留構造によってキャブ5を車体2に繋留する際の手順を説明する。
【0025】
まず、
図4に示す如く、キャブ5を車体2の上に載置する。そして、繋留フランジ31の繋留孔32が台座部35の上方に位置するよう、車体2に対するキャブ5の位置を調整する。
【0026】
この状態で繋留孔32に対し、フック部30dを下方に向けた姿勢で、繋留体30を上方から下方へ通す。このとき、
図5に示す如く、下端部をやや後方に向ける形で繋留体30を傾斜させて差し込み、台座部35をフック部30dが回り込むようにする。繋留体30を最下部まで差し込んだら、繋留体30を略垂直に立て、本体部30aを台座部35の端面に対向させ、フック部30dを台座部35の下端の係合部37に係合させる。このとき、フック部30dの前方下部が切り欠かれているため、この部分が車体2を構成するフレーム34に干渉せず、フック部30dを係合部37にスムーズに係合できる。
【0027】
図6に示す如く、繋留体30の本体部30aと車体2側の台座部35に設けられた取付孔30c,36にボルト40を締め込み、繋留体30を車体2の取付部33に固定する。こうして、
図1、
図10に示す如くキャブ5が車体2に繋留される。このような一連の繋留作業においては、キャブ5を車体2に下ろす段階では鉛直方向に突出した繋留軸をキャブ5側の繋留孔に通す必要がないため位置決めの作業を容易に行うことができ、しかも、その後に繋留体30を車体2に取り付ける段階では、車体2から上方へ突出した繋留体30に対して作業を行えばよいため、例えば水平方向に伸びる繋留軸に対し車体2の下方からアクセスするような面倒がなく、いずれの作業も楽に行える。
【0028】
図11、
図12に示したような従来例では、キャブ5側の繋留孔12,22に対する車体2側の繋留軸10,20の差込み方向と、繋留軸10,20に対しワッシャ7をボルト8で固定する際の差込み方向が同じであり、繋留軸10,20の先端に対してボルト8を挿入し、ワッシャ7を固定する構造であった。このため、ボルト8の差し込みを容易にするために
図11の如く繋留軸10を上向きにすると、車体2に対するキャブ5の位置合わせが面倒である一方、キャブ5の位置合わせを容易にするために
図12の如く繋留軸20を前向きにすると、ワッシャ7の取付けにあたり繋留軸20の先端へのアクセスが面倒になってしまっていた。
【0029】
本第一実施例では、まず繋留軸にあたる繋留体30そのものを、車体2に対し下端部、すなわち繋留状態において繋留孔32より下側にあたる位置で着脱可能とし、繋留作業時においては上端部に設けられるワッシャにあたる抜止部を着脱不要とした。これにより、キャブ5の繋留孔32に対する繋留体30の差込み方向を垂直方向としつつ、締結具(ボルト)40による締結作業を、車体2にキャブ5を配置した後、キャブ5側の繋留フランジ31より下方(車体2側)にて行えるようにした。こうすることで、上に述べたように、車体2に対するキャブ5の位置合わせも、ボルト40の締結による車体2への繋留体30の取付けも楽に行うことができ、キャブ5の繋留作業にかかる手間を大幅に低減することができる。
【0030】
ここで、例えば
図7に第二実施例として示す如く、繋留体30を車体2に対し下端部(繋留孔32より下側)において着脱可能であるが、キャブ5側への差込み方向(軸方向)と、車体2側への差込み方向が一致するように構成することもできる。すなわち、例えば繋留体30にワッシャをボルトで取り付けるのではなく、繋留体30自体を基部端にて車体2側にねじ込み、これによってキャブ5を繋留するのである。このようにした場合も、キャブ5を繋留する工程においては、上記第一実施例(
図1~
図5参照)と同様、車体2に対するキャブ5の位置合わせも、ボルト40の締結による車体2への繋留体30の取付けも楽に行うことができる。ただし、このような構造では、繋留体30に対して生じる剪断力への耐久性を確保することがやや難しくなる。
【0031】
建設機械1の稼働時には、各種の作業に伴う振動が度々発生し、キャブ5を繋留する部分(従来例における繋留軸10,20や、第一、第二実施例における繋留体30)には、車体2に対してキャブ5が移動しようとすることで力が加わる。
図11の従来例や、
図1、
図7の第一、第二実施例のように、鉛直方向に沿って伸びる繋留軸10や繋留体30によってキャブ5を繋留する場合、この力は、繋留軸10や繋留体30の先端部付近に対し剪断方向(軸方向と直交する向き)に加わる。第一、第二実施例の繋留体30のように、基端側において車体2と接合された構造では、その接合部に大きな力が生じることになる。
【0032】
ここで、
図1~
図3に示す第一実施例の如き繋留構造では、繋留体30の下端にフック部30dを設けると共に、車体2側には係合部37を設け、両者を係合させることで、上記剪断力に抗して繋留体30を車体2から外れにくくしている。
図1、
図6に示す如く、上下方向に延びる繋留体30でキャブ5を繋留する構造では、特に、キャブ5が車体2に対し後方(
図6における左側)へ移動しようとする力が繋留体30の先端側に働き、これは繋留体30と車体2の連結を緩め、あるいは繋留体30を車体2から外そうとする力として作用する。このような力が生じた際、
図1、
図6に示す第一実施例では、フック部30dが係合部37と係合していることにより、繋留体30が車体2に対して縦方向に回転しようとする動きが抑えられ、キャブ5から加えられる力によってボルト40が緩むような事態を生じにくくすることができるのである。
【0033】
このようなフック部30dの設置は、繋留体30の車体2への取付けに係るボルト40の差込み方向を、キャブ5側の繋留孔32に対する繋留体30の差込み方向(垂直方向)と同じでなく、それと直交する向きに設定したことによって可能となっている。第二実施例の繋留体30のように、繋留体30のキャブ5の繋留に係る差込み方向と、車体2への取付けに係る向きが同じである場合、第一実施例のような形で、本体部の先端部にフック部を設けることはできない。フック部が車体2に対する繋留体30の差込みの妨げになるからである(ただし、例えば後述する第三実施例における突出部30dのような構造を、繋留体30を車体2に取り付けた後でさらに取り付ける、といったことは可能である)。
【0034】
フック部における係合方向の設定についてさらに説明する。
図1、
図6に示す第一実施例のように、車体2から上に延びる繋留体30によってキャブ5の後方下部を繋留する場合、繋留体30と車体2との接合部にとって特に問題となるのは、キャブ5が後方へ動こうとする際に加わる力である。この力は、繋留体30の先端側に後ろ向きに作用する。繋留体30にとっては、車体2との接合部である基端側を支点とし、繋留体30を後ろへ倒すように回転させる向き(右側面視で繋留体30を反時計回りに回転させるような向き)である。この力に抗して繋留体30と車体2との接合を保つには、前記回転方向に関し、繋留体30側の部材に対し車体2側の部材が前方に位置するという位置関係で両者が係合している必要があり、
図6に示す第一実施例では、フック部30dと、台座部35の係合部37が、これに合致する部材として設けられている。その他にこの条件を満たす構造としては、例えば
図8に第三実施例として示すように、繋留体30の上部における本体部30aの前方(車両に関して前方)に下方へ突出するフック部としての突出部30dを設けると共に、車体2側には取付部33の上部に突出部30dを差込み可能な係合部としての凹部37を設け、キャブ5側の繋留孔32に繋留体30を通す際に突出部30dを凹部37に差し込む、といった構造が考えられる。あるいは
図9に第四実施例として示すように、本体部30aの上下方向における中間部に、前方へ突出するフック部30dを設け、これに対応する車体2側の位置に、フック部30dを差込み可能な係合部としての凹部37を設けてもよい(尚、このようにフック部30dを下端から離れた位置に設ける場合には、
図9に示すようにフック部30dが前方に向かってやや斜め上に突出するように設けると、回転を抑える上でより有効である)。このように、車体2に繋留体30を係合するためのフック部と係合部としては種々の構造が考えられるが、中でも
図1、
図6に示した第一実施例のようにフック部30dを繋留体30の下端に設けた形は、単純で製造しやすい部品構成により効果的に回転を抑えることができ、特に好適である。
【0035】
以上のように、上記各実施例は、キャブ5の下部に、車体2側へキャブ5を繋留するための繋留孔32を備えると共に、繋留孔32を上下に貫通するよう車体2に取り付けられる繋留体30を備え、繋留体30は、上下方向に沿って延びる本体部30aと、車体2への繋留状態において繋留孔32よりも上方にあたる位置に、軸方向と直交する向きに沿って外側へ広がる鍔部30fを設け、繋留体30が繋留孔32から抜け出ることを防止する抜止部30bを備え、本体部30aは、繋留孔32を上方から下方へ通された後、繋留孔32よりも下側において車体2側に取り付けられるよう構成されている。このようにすれば、キャブ5の繋留孔32に対する繋留体30の差込み方向を垂直方向としつつ、ボルト40による締結作業を、キャブ5側の繋留フランジ31より下方(車体2側)にて行えるようにすることで、車体2に対するキャブ5の位置合わせも、ボルト40の締結による車体2への繋留体30の取付けも楽に行うことができ、キャブ5の繋留作業にかかる手間を低減することができる。
【0036】
また、一部の実施例は、繋留体30にフック部30dを、車体2側に係合部37をそれぞれ設け、フック部30dと係合部37の係合により、キャブ5から繋留体30の先端側に作用する力に抗するよう構成されている。このようにすれば、繋留体30に対し剪断方向に加わる力に抗して繋留体30を車体2から外れにくくすることができる。
【0037】
また、一部の実施例は、繋留体30の繋留孔32への差込み方向と直交する向きに沿って本体部30aおよび車体2側に締結具(ボルト)40が挿入されることにより、繋留体30が車体2側に取り付けられるよう構成されている。このようにすれば、繋留体30を車体2側と係合させるためのフック部30dの設置を容易にすることができる。
【0038】
したがって、上記各実施例によれば、車体に対するキャブの繋留作業における作業性を確保し得る。
【0039】
尚、本発明の建設機械のキャブの繋留構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではない。例えば、適用対象の建設機械はショベルに限らず、車体にキャブを配置した建設機械であれば種々の車両に適用できる。その他、本発明の実施にあたっては、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0040】
2 車体
5 キャブ
30 繋留体
30a 本体部
30b 抜止部
30d フック部(突出部)
30f 鍔部
32 繋留孔
37 係合部(凹部)
40 締結具(ボルト)