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特開2023-112519白金族金属回収剤及び白金族金属回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112519
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】白金族金属回収剤及び白金族金属回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/44 20060101AFI20230804BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20230804BHJP
   C07C 211/18 20060101ALI20230804BHJP
   C07D 307/14 20060101ALI20230804BHJP
   C02F 1/62 20230101ALN20230804BHJP
【FI】
C22B3/44 101Z
C22B11/00 101
C07C211/18
C07D307/14
C02F1/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014362
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 和也
(72)【発明者】
【氏名】寺境 光俊
【テーマコード(参考)】
4D038
4H006
4K001
【Fターム(参考)】
4D038AA10
4D038AB76
4D038AB90
4D038BB17
4D038BB20
4H006AA03
4H006AB80
4H006AB82
4K001AA41
4K001BA19
4K001BA22
4K001DB04
4K001DB16
(57)【要約】
【課題】白金を選択的かつ高回収率で回収することができる白金族金属回収剤及び白金族金属回収方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示される白金族金属回収剤、及び該白金族金属回収剤を用いて白金を含む塩酸溶液から白金を回収する白金族金属回収方法である。

(式(1)中、Xはメチレン基、酸素原子又はエチレン基であり、Xがメチレン基のとき、nは3、Xが酸素原子又はエチレン基のとき、nは2である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される白金族金属回収剤。
【化1】

(式(1)中、Xはメチレン基、酸素原子又はエチレン基であり、Xがメチレン基のとき、nは3、Xが酸素原子又はエチレン基のとき、nは2である。)
【請求項2】
1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及び2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の白金族金属回収剤。
【請求項3】
1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンである、請求項1又は2に記載の白金族金属回収剤。
【請求項4】
トランス体が60%以上である、請求項3に記載の白金族金属回収剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載の白金族金属回収剤を用いて、白金を含む塩酸溶液から白金を回収する、白金族金属回収方法。
【請求項6】
前記白金族金属回収剤と前記塩酸溶液を混合し、白金を沈殿させる、請求項5に記載の白金族金属回収方法。
【請求項7】
前記白金を含む塩酸溶液が、パラジウム及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項5又は6に記載の白金族金属回収方法。
【請求項8】
前記白金を含む塩酸溶液が、パラジウムを含む、請求項5~7のいずれか1つに記載の白金族金属回収方法。
【請求項9】
前記白金族金属回収剤と前記白金を含む塩酸溶液に含まれる白金とのモル比[白金族金属回収剤/白金]を2以上とする、請求項5~8のいずれか1つに記載の白金族金属回収方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1つに記載の白金族金属回収剤を用いて、白金を主成分とする塩酸溶液から不純物である金属を除去して白金を精製する、白金族金属精製方法。
【請求項11】
下記一般式(1)で示される化合物の白金族金属回収剤としての使用。
【化2】

(式(1)中、Xはメチレン基、酸素原子又はエチレン基であり、Xがメチレン基のとき、nは3、Xが酸素原子又はエチレン基のとき、nは2である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
白金族金属回収剤、及び白金族金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金族金属は工業的に極めて重要な金属であり、そのなかでも白金、パラジウム、ロジウムは主に自動車排ガス浄化触媒として用いられている。そのため、使用済み触媒からの白金族金属の選択的な分離回収は重要である。
一般に貴金属の回収には電解析出法やセメンテーション法、イオン交換法、沈殿法、溶媒抽出法等の方法が用いられる。これらの方法のなかでは、経済性や操作性に優れた沈殿法や溶媒抽出法が広く用いられている。
沈殿法による選択的な白金族金属の回収方法として、アミンを用いる方法が検討されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、ロジウムを低コストで効率的に回収することを目的として、アミド結合とフェニレンジアミン構造を有し、特定濃度の塩酸に対して不溶の固体であるロジウム回収剤が開示されている。
また、特許文献2には、特にロジウムを効率よく分離することを目的として、白金族金属を含む塩酸溶液にジアミノジフェニル構造を有する化合物を加えることで白金族金属を沈殿回収できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-179409号公報
【特許文献2】特開2019-206747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、沈殿法や溶媒抽出法による白金族金属の回収においては、パラジウムが優先的に回収され、白金やロジウムを先に選択的に回収することは困難であった。特許文献1及び2においては、ロジウムを回収する方法は開示されているものの、白金を優先的かつ選択的に回収することはできていない。そのため、パラジウム、ロジウムの存在下においても白金を優先的かつ選択的に回収できる方法が求められている。
そこで、本発明は、白金を選択的かつ高回収率で回収することができる白金族金属回収剤及び白金族金属回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の脂肪族ジアミンが白金族金属回収剤として優れることを見出し、該白金族金属回収剤を用いることで、白金を選択的かつ高回収率で回収することができ、更には、従来困難であったパラジウム、ロジウムの存在下においても白金を優先的かつ選択的に回収できる方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で示される白金族金属回収剤、及び該白金族金属回収剤を用いて白金を含む塩酸溶液から白金を回収する白金族金属回収方法である。
【化1】

(式(1)中、Xはメチレン基、酸素原子又はエチレン基であり、Xがメチレン基のとき、nは3、Xが酸素原子又はエチレン基のとき、nは2である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、白金を選択的かつ高回収率で回収することができる白金族金属回収剤及び白金族金属回収方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[白金族金属回収剤]
本発明の白金族金属回収剤は、下記一般式(1)で示される。
【化2】

(式(1)中、Xはメチレン基、酸素原子又はエチレン基であり、Xがメチレン基のとき、nは3、Xが酸素原子又はエチレン基のとき、nは2である。)
【0010】
すなわち、本発明の白金族金属回収剤は、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BAC)、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,3-BAC)及び2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフラン(H-AMF)からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
具体的にはそれぞれ下記式で示す化合物である。
【化3】
【0011】
本発明の白金族金属回収剤は、前記式(1)で示される化合物のなかでも、好ましくは1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及び2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンである。
式(1)で示される化合物、特に1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン又は2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフランを白金族金属回収剤として用いることで、白金を選択的かつ高回収率で回収することができる。更には、従来困難であったパラジウム、ロジウムの存在下においても白金を優先的かつ選択的に回収できる。
本発明の白金族金属回収剤を用いることで、白金を選択的に回収することができる理由は定かではないが、白金族金属の塩酸溶液と混合した際に、本発明の白金族金属回収剤である特定の脂肪族ジアミンが白金と結晶を生成しやすく、選択的に沈殿させることができるためと考えられる。
前記式(1)で示される白金族金属回収剤は、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
また、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンには、トランス体とシス体が存在するが、トランス体の比率が高い方が好ましい。すなわち、本発明の白金族金属回収剤は、更に好ましくはトランス体が50%を超える1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンであり、より更に好ましくはトランス体が60%以上である1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンであり、より更に好ましくはトランス体が70%以上である1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンである。トランス体の比率の上限には制限はなく、100%以下であればよい。トランス体の比率が高い1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを用いることで、より少量の白金族金属回収剤で、白金を効率的かつ選択的に沈殿させ、回収することができる。
なお、本明細書において、トランス体比率が高い(概ねトランス体60%以上)1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを1,4-BACTと示すことがある。
【0013】
本発明の白金族金属回収剤は、前記式(1)で示される化合物であり、特定の脂肪族ジアミンであるが、当該ジアミンのハロゲン化水素酸塩の形態も含まれる。ハロゲン化水素酸塩としては、塩酸塩が好ましい。本発明の白金族金属回収剤が塩酸塩であることによって、白金族金属を含む塩酸溶液と混合する際に、中和反応による発熱や塩酸濃度変化を防ぐことができる。
なお、本明細書における白金族金属回収方法に用いられる塩酸溶液の塩酸濃度は、本発明の白金族金属回収剤を混合した後の塩酸濃度である。ただし、本発明の白金族金属回収剤として前記式(1)で示される化合物の塩酸塩を用いた場合には、塩酸濃度の変化がないため、本発明の白金族金属回収剤を混合する前の塩酸濃度であってもよい。
【0014】
[白金族金属回収方法(白金の回収)]
本発明の白金族金属回収方法は、白金を選択的に回収するものであり、白金を優先的に回収することができる。
本発明の白金族金属回収方法は、前記白金族金属回収剤を用いて、白金を含む塩酸溶液から白金を回収する方法である。本発明の白金族金属回収方法は、好ましくは、前記白金族金属回収剤と前記塩酸溶液を混合し、白金を沈殿させる方法である。
【0015】
本発明の白金族金属回収方法によれば、白金族金属として白金のみを含む塩酸溶液から白金を回収することができるばかりでなく、前記塩酸溶液がパラジウム及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む場合にも白金を選択的に回収することができ、前記塩酸溶液がパラジウムを含む場合にも白金を選択的に回収することができる。更には前記塩酸溶液がパラジウム及びロジウムの両方を含む場合にも白金を選択的に回収することができる。
具体的な方法を以下に示す。
【0016】
まず、少なくとも白金を含む塩酸溶液に、前記白金族金属回収剤を添加する。
本発明の白金族金属回収剤を用いることで、あらゆる塩酸濃度の塩酸溶液からも白金を選択的に回収することができるが、白金を含む塩酸溶液の塩酸濃度は、好ましくは1~12mol/Lであり、より好ましくは4~10mol/Lであり、更に好ましくは5~9mol/Lである。
【0017】
白金族金属回収剤を添加する際には、前記白金族金属回収剤と前記塩酸溶液に含まれる白金とのモル比[白金族金属回収剤/白金(モル/モル)]を、好ましくは1以上とし、より好ましくは2以上とし、更に好ましくは5以上とする。また、好ましくは200以下とし、より好ましくは150以下とし、更に好ましくは100以下とし、より更に好ましくは20以下とする。
特に白金族金属回収剤として1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BAC)を用いた場合には、白金に対して少ない添加量でも高い回収率で白金を選択的に回収することができるため、白金族金属回収剤と前記塩酸溶液に含まれる白金とのモル比[白金族金属回収剤/白金(モル/モル)]を、好ましくは1~100とし、より好ましくは2~50とし、更に好ましくは5~20とし、より更に好ましくは5~10とする。
更にトランス体比率が60%以上の1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BACT)を用いた場合には、白金に対してより少ない添加量でも高い回収率で白金を選択的に回収することができるため、白金族金属回収剤と前記塩酸溶液に含まれる白金とのモル比[白金族金属回収剤/白金(モル/モル)]を、好ましくは1~100とし、より好ましくは1~30とし、更に好ましくは1~10とし、より更に好ましくは2~8とする。
前記のモル比の範囲であれば、白金の回収率が高まり、沈殿中にロジウムやパラジウムが含まれにくく、白金を高純度で回収できる。
【0018】
白金族金属回収剤と塩酸溶液を混合する方法には制限はないが、塩酸溶液中に白金族金属回収剤を添加し、所定時間撹拌又は振とうすることで、白金を沈殿させる。
本発明の白金族金属回収剤を用いると塩酸溶液との混合後、迅速に沈殿が生じるため、短時間で白金を回収することができるが、撹拌又は振とうする時間は、好ましくは1分間以上であり、より好ましくは5分間以上である。上限には制限はないが、効率性の観点から、10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましい。撹拌又は振とうする時間は、各成分の濃度や温度によって適宜調整すればよい。
【0019】
撹拌又は振とうする際の温度は、0~100℃であればよく、あらゆる温度の塩酸溶液から白金を選択的に回収することができるが、回収率の観点から、好ましくは10~70℃であり、より好ましくは10~50℃であり、更に好ましくは10~35℃である。
【0020】
前記のようにして、得られた白金を含む沈殿物は、ろ過、遠心分離等の固液分離によって回収することができる。
前記沈殿物は白金を含み、脂肪族ジアミンである白金族金属回収剤等を含むことから、空気中で焼成することにより、白金を金属又は酸化物として得ることができる。焼成温度は、好ましくは400~1000℃であり、より好ましくは500~700℃である。焼成時間は、好ましくは5~100分間であり、より好ましくは10~80分間である。これら焼成条件を調整することにより、白金を金属、好ましくは金属単体で得ることができる。
【0021】
[白金族金属精製方法(白金の精製)]
前記白金族金属回収剤は、白金の精製に用いることもできる。
本発明の白金族金属精製方法は、前記白金族金属回収剤を用いて、白金を主成分とする塩酸溶液から不純物である金属を除去して白金を精製する方法である。
【0022】
本発明の白金族金属精製方法に用いられる「白金を主成分とする塩酸溶液」とは、塩酸溶液に白金と、白金以外の金属(不純物)が含まれ、塩酸溶液に含まれる金属のうち、白金のモル含有量が最も大きい塩酸溶液のことをいう。
白金を主成分とする塩酸溶液は、白金を含む固体を塩酸に溶解させて得てもよく、白金を含む水溶液に塩酸を加えて得てもよい。好ましくは、上述の[白金族金属回収方法(白金の回収)]の項で説明した白金族金属回収方法で得られた沈殿物を塩酸に溶解させて得る。
【0023】
本発明の白金族金属精製方法は、上述の[白金族金属回収方法(白金の回収)]の項で説明した白金族金属回収方法と同様の条件で精製を行うことが好ましい。つまり、本発明の白金族金属精製方法は、好ましくは、前記白金族金属回収剤と前記塩酸溶液を混合し、白金を沈殿させる方法である。以下に詳細に説明する。
【0024】
まず、白金を主成分とする塩酸溶液に、前記白金族金属回収剤を添加する。
本発明の白金族金属回収剤を用いることで、あらゆる塩酸濃度の塩酸溶液を用いても白金を精製することができるが、白金を主成分とする塩酸溶液の塩酸濃度は、好ましくは1~12mol/Lであり、より好ましくは4~10mol/Lであり、更に好ましくは5~9mol/Lである。
【0025】
白金族金属回収剤を添加する際には、前記白金族金属回収剤と前記塩酸溶液に含まれる白金とのモル比[白金族金属回収剤/白金(モル/モル)]を、好ましくは1以上とし、より好ましくは2以上とし、更に好ましくは5以上とする。また、好ましくは200以下とし、より好ましくは150以下とし、更に好ましくは100以下とし、より更に好ましくは20以下とする。
特に白金族金属回収剤として1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BAC)を用いた場合には、白金に対して少ない添加量でも効率的に白金を精製することができるため、白金族金属回収剤と前記塩酸溶液に含まれる白金とのモル比[白金族金属回収剤/白金(モル/モル)]を、好ましくは1~100とし、より好ましくは2~50とし、更に好ましくは5~20とし、より更に好ましくは5~10とする。
更にトランス体比率が60%以上の1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BACT)を用いた場合には、白金に対してより少ない添加量でも効率的に白金を精製することができるため、白金族金属回収剤と前記塩酸溶液に含まれる白金とのモル比[白金族金属回収剤/白金(モル/モル)]を、好ましくは1~100とし、より好ましくは1~30とし、更に好ましくは1~10とし、より更に好ましくは2~8とする。
前記のモル比の範囲であれば、不純物としての金属にロジウムやパラジウムが含まれていたとしても、得られる沈殿中にロジウムやパラジウムが含まれにくく、高純度の白金を得ることができる。
【0026】
白金族金属回収剤と塩酸溶液を混合する方法には制限はないが、塩酸溶液中に白金族金属回収剤を添加し、所定時間撹拌又は振とうすることで、白金を沈殿させる。
前記白金族金属回収剤を用いると塩酸溶液との混合後、迅速に沈殿が生じるため、短時間で白金を精製することができるが、撹拌又は振とうする時間は、好ましくは1分間以上であり、より好ましくは5分間以上である。上限には制限はないが、効率性の観点から、10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましい。撹拌又は振とうする時間は、各成分の濃度や温度によって適宜調整すればよい。
【0027】
撹拌又は振とうする際の温度は、0~100℃であればよく、あらゆる温度の塩酸溶液を用いて白金を精製することができるが、回収率の観点から、好ましくは10~70℃であり、より好ましくは10~50℃であり、更に好ましくは10~35℃である。
【0028】
前記のようにして、得られた白金を含む沈殿物は、ろ過、遠心分離等の固液分離によって回収することができる。
前記沈殿物は白金を含み、脂肪族ジアミンである白金族金属回収剤等を含むことから、空気中で焼成することにより、白金を金属又は酸化物として得ることができる。焼成温度は、好ましくは400~1000℃であり、より好ましくは500~700℃である。焼成時間は、好ましくは5~100分間であり、より好ましくは10~80分間である。これら焼成条件を調整することにより、白金を金属、好ましくは金属単体で得ることができる。
【実施例0029】
以下に示す実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0030】
[1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンによる白金の回収]
<実施例1:塩酸濃度の影響>
パラジウムを5mmol/L、白金を5mmol/L、ロジウムを5mmol/L含み、表1に示す塩酸濃度である各塩酸溶液に、白金族金属回収剤として1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BAC、トランス体33%、シス体67%)を白金に対して15倍量(mol/mol)添加した。なお、ここで用いた1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは塩酸塩である。その後、25℃で30分間振とうして沈殿物を得た。得られた沈殿物と溶液を遠心分離により固液分離した。固液分離後に得られた溶液をICPにて分析し、沈殿物に含まれる白金族金属の量を算出した。
表1に塩酸濃度と金属回収率の関係を示す。表1から明らかなように、白金族金属回収剤として1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BAC)を用いることで、1mol/L以上の広い塩酸濃度範囲で白金が選択的に沈殿物として回収できることがわかる。なお、金属回収率は、回収された沈殿物中に含まれる各金属の量を、白金族金属回収剤を添加する前の各金属の量で除した値を百分率で示したものである。以下の実施例においても同様にして金属回収率を求めた。
【0031】
【表1】
【0032】
<実施例2:温度の影響>
塩酸溶液の塩酸濃度を8mol/Lとし、塩酸溶液の温度を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、沈殿物と溶液を得、沈殿物に含まれる白金族金属の量を算出した。
表2に温度と金属回収率の関係を示す。表2から明らかなように、白金族金属回収剤として1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BAC)を用いることで、広い温度範囲で白金が選択的に沈殿物として回収できることがわかる。
【0033】
【表2】
【0034】
<実施例3:白金族金属回収剤と白金とのモル比の影響>
塩酸溶液の塩酸濃度を8mol/Lとし、白金族金属回収剤(1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BAC))の添加量を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、沈殿物と溶液を得、沈殿物に含まれる白金族金属の量を算出した。なお、1,4-BACの添加量は、白金に対するモル倍で示す。
表3に1,4-BACの添加量と金属回収率の関係を示す。表3から明らかなように、1,4-BACの添加量によらず、白金が選択的に回収できることがわかる。更に1,4-BACの添加量が白金に対して5倍量(mol/mol)以上となる条件では、白金を85%以上、沈殿物として回収でき、非常に高い白金回収率で、かつ白金が選択的に回収できることがわかる。
【0035】
【表3】
【0036】
<実施例4:トランス体比率の影響>
1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BAC、トランス体33%、シス体67%)をトランス体比率の高い1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BACT、トランス体93%、シス体7%)に変更した以外は、実施例3と同様にして、沈殿物と溶液を得、沈殿物に含まれる白金族金属の量を算出した。
表4に1,4-BACTの添加量と金属回収率の関係を示す。表4から明らかなように、トランス体比率の高い1,4-BACTを白金族金属回収剤として用いることで、添加量が白金に対して2倍量(mol/mol)という条件でも、白金を85%以上、沈殿物として回収でき、少量の添加でも非常に高い白金回収率で、かつ白金が選択的に回収できることがわかる。
【0037】
【表4】
【0038】
<実施例5:振とう時間の影響>
白金族金属回収剤として1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BACT、トランス体93%、シス体7%)を白金に対して15倍量(mol/mol)添加し、振とう時間を表5に示すように変更した以外は、実施例4と同様にして、沈殿物と溶液を得、沈殿物に含まれる白金族金属の量を算出した。
表5に振とう時間と金属回収率の関係を示す。表5から明らかなように、1分間以上の振とうで白金を95%以上沈殿物として回収でき、高い白金回収率で、かつ白金が選択的に回収できることがわかる。
【0039】
【表5】
【0040】
[触媒浸出液からの白金の回収及び白金の精製]
<実施例6:触媒浸出液からの白金の回収>
使用済み自動車排ガス浄化触媒からの白金族金属の回収を想定し、表6に示す種々の金属を含む触媒浸出液を用いて、白金の回収を行った。
前記触媒浸出液(塩酸を含み、塩酸濃度は8mol/Lである。)に、白金族金属回収剤として1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BACT、トランス体93%、シス体7%)を白金に対して15倍量(mol/mol)添加した。なお、ここで用いた1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは塩酸塩である。その後、25℃で10分間振とうして沈殿物を得た。得られた沈殿物をろ過にて回収後、1mol/Lの塩酸に溶解させてICPにて分析し、沈殿物に含まれる金属の量を算出した。
本回収工程後の各金属の回収率を表6に示す。表6から明らかなように、白金族金属回収剤として1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを用いることで、触媒浸出液から、白金が選択的に沈殿物として回収できることがわかる。沈殿物中に含まれる白金の純度は全金属重量を100%としたときに、87.0%であった。
【0041】
<実施例7:白金の精製>
次に前記の方法で触媒浸出液から回収された白金の精製を行った。
前記の方法で回収された沈殿物を5mol/Lの塩酸に溶解した(白金濃度500mg/L)。得られた塩酸溶液に、白金族金属回収剤として1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BACT、トランス体93%、シス体7%)を白金に対して15倍量(mol/mol)添加した。なお、ここで用いた1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは塩酸塩である。その後、25℃で10分間振とうして沈殿物を得た。得られた沈殿物をろ過にて回収後、1mol/Lの塩酸に溶解させてICPにて分析し、沈殿物に含まれる金属の量を算出した。
本精製工程後の各金属の回収率を表6に示す。表6から明らかなように、精製工程後では、沈殿物に含まれるパラジウムとロジウムの量が大きく低下している。沈殿物中に含まれる白金の純度は全金属重量を100%としたときに、回収工程後では87.0%であったのに対し、精製工程後では99.3%であった。この結果から明らかなように、白金族金属回収剤として1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを用いることで、白金を主成分とする塩酸溶液から不純物である金属を除去して白金を精製することができる。
【0042】
【表6】
【0043】
[2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフランによる白金族金属の回収]
<実施例8:白金族金属の回収>
パラジウムを5mmol/L、白金を5mmol/L含む8mol/Lの塩酸溶液に、白金族金属回収剤として2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフラン(H-AMF)を白金に対して100倍量(mol/mol)添加した。なお、ここで用いた2,5-ビス(アミノメチル)テトラヒドロフランは塩酸塩である。その後、25℃で30分間振とうして沈殿物を得た。得られた沈殿物と溶液を遠心分離により固液分離した。固液分離後に得られた溶液をICPにて分析し、沈殿物に含まれる白金族金属の量を算出した。
その結果、白金を56%沈殿物として回収することができた。これに対し、パラジウムは7.2%沈殿物として回収され、沈殿物として選択的に白金を回収できることがわかる。