(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112542
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】変成器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/32 20060101AFI20230804BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20230804BHJP
H01F 5/02 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
H01F27/32 150
H01F27/28 K
H01F27/28 131
H01F5/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014398
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】下村 好亮
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 由太
(72)【発明者】
【氏名】林 弘樹
【テーマコード(参考)】
5E043
5E044
【Fターム(参考)】
5E043BA03
5E044BB02
5E044CA08
(57)【要約】
【課題】複数のコイルを簡易に並設することができる変成器を提供する。
【解決手段】環状の枠体と、導線が周方向に巻き付けられることによって前記枠体に形成されている複数のコイルと、隣り合う前記コイルを隔てる絶縁壁とを備える変成器において、前記複数のコイルは1本の連続した前記導線からなり、前記絶縁壁の一面側に形成されている一のコイルの巻き終わり部分から延びる前記導線は、前記絶縁壁を乗り越えて、前記絶縁壁の他面側に形成されている他のコイルの巻き始め部分に連続しており、前記絶縁壁には該絶縁壁を乗り越える前記導線を案内する案内部が設けられており、前記複数のコイル夫々は前記枠体に複数層整列巻きされており、前記案内部から延び出た前記導線と前記他のコイルを構成している1層目の前記導線とが前記枠体の軸長方向に隣り合う。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の枠体と、
導線が周方向に巻き付けられることによって前記枠体の外周に夫々形成されており、前記枠体の軸長方向に並ぶ複数のコイルと、
前記外周に立設され、隣り合う前記コイルを全周にわたって隔てる絶縁壁と
を備える変成器において、
前記複数のコイルは1本の連続した前記導線からなり、
前記絶縁壁の一面の側の前記外周に形成されている一のコイルの巻き終わり部分から延びる前記導線は、前記絶縁壁を乗り越えて、前記絶縁壁の他面の側の前記外周に形成されている他のコイルの巻き始め部分に連続しており、
前記絶縁壁には前記絶縁壁を乗り越える前記導線を案内する案内部が設けられており、
前記絶縁壁の他面の側の前記外周は、
前記周方向に延びる第1面と、
該第1面に前記周方向に隣り合い、前記第1面よりも前記絶縁壁の先端部側に位置する第2面と
を有し、
前記第2面は、
前記案内部に前記軸長方向に隣り合い、前記導線の巻き付け方向の下流端が上流端よりも前記絶縁壁の先端部側に位置するように傾斜した一の傾斜部と、
該一の傾斜部の前記巻き付け方向の下流側に隣接し、前記巻き付け方向の下流端が上流端よりも前記絶縁壁の基端部側に位置するように傾斜した他の傾斜部と
を有し、
前記複数のコイル夫々は前記外周に複数層整列巻きされており、
前記案内部から延び出た前記導線と前記他の傾斜部に接触している1層目の前記導線とが前記軸長方向に隣り合い、
前記第1面は、前記他の傾斜部の前記巻き付け方向の下流端から前記一の傾斜部の前記巻き付け方向の上流端にわたって前記周方向に延び、該周方向に対して平行な面であることを特徴とする変成器。
【請求項2】
前記案内部は、前記絶縁壁の前記一面の先端部から前記絶縁壁の前記他面の基端部に向けて前記巻き付け方向の下流側に延びるガイドスロープを底面とする傾斜溝を有することを特徴とする請求項1に記載の変成器。
【請求項3】
前記一の傾斜部と前記他の傾斜部との境界部分は、前記傾斜溝の側壁の前記巻き付け方向の下流側の端部に前記軸長方向に隣り合う位置に対応して設けられていることを特徴とする請求項2に記載の変成器。
【請求項4】
前記ガイドスロープの傾斜角度は、前記他の傾斜部の傾斜角度に等しいことを特徴とする請求項2又は3に記載の変成器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変成器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変圧又は変流を目的として、変成器が用いられている。
変成器は、環状の枠体と枠体の外周に形成された複数のコイルとを備えることがある。複数のコイルは枠体の軸長方向に並び、互いに隣り合うコイルの間には、全周にわたって絶縁壁が介在する。この種の変成器は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各コイルは導線が枠体に周方向に巻き付けられることによって個別に形成される。互いに隣り合うコイルの形成後、一方のコイルの巻き終わり部分から延びる導線と他方のコイルの巻き終わり部分から延びる導線とが互いに接続される。故に、導線同士を確実に接続するために作業者が煩雑な接続手順を強いられる。
【0005】
本開示の目的は、複数のコイルを簡易に並設することができる変成器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る変成器は、環状の枠体と、導線が周方向に巻き付けられることによって前記枠体の外周に夫々形成されており、前記枠体の軸長方向に並ぶ複数のコイルと、前記外周に立設され、隣り合う前記コイルを全周にわたって隔てる絶縁壁とを備える変成器において、前記複数のコイルは1本の連続した前記導線からなり、前記絶縁壁の一面の側の前記外周に形成されている一のコイルの巻き終わり部分から延びる前記導線は、前記絶縁壁を乗り越えて、前記絶縁壁の他面の側の前記外周に形成されている他のコイルの巻き始め部分に連続しており、前記絶縁壁には前記絶縁壁を乗り越える前記導線を案内する案内部が設けられており、前記絶縁壁の他面の側の前記外周は、前記周方向に延びる第1面と、該第1面に前記周方向に隣り合い、前記第1面よりも前記絶縁壁の先端部側に位置する第2面とを有し、前記第2面は、前記案内部に前記軸長方向に隣り合い、前記導線の巻き付け方向の下流端が上流端よりも前記絶縁壁の先端部側に位置するように傾斜した一の傾斜部と、該一の傾斜部の前記巻き付け方向の下流側に隣接し、前記巻き付け方向の下流端が上流端よりも前記絶縁壁の基端部側に位置するように傾斜した他の傾斜部とを有し、前記複数のコイル夫々は前記外周に複数層整列巻きされており、前記案内部から延び出た前記導線と前記他の傾斜部に接触している1層目の前記導線とが前記軸長方向に隣り合い、前記第1面は、前記他の傾斜部の前記巻き付け方向の下流端から前記一の傾斜部の前記巻き付け方向の上流端にわたって前記周方向に延び、該周方向に対して平行な面であることを特徴とする。
【0007】
本開示にあっては、複数のコイルが1本の連続した導線からなる。故に、導線同士を接続する作業が不要である。従って、導線同士を確実に接続するために作業者が煩雑な接続手順を強いられることがないので、複数のコイルを簡易に並設することができる。
絶縁壁を乗り越える導線は、絶縁壁に設けられている案内部によって案内されるので、導線が円滑に絶縁壁を乗り越えることができる。
【0008】
導線が枠体の軸長方向の同じ位置に複数回巻き付けられる場合、通常、枠体の外周面から径方向に離れている導線ほど電位が高い。各コイルは複数層整列巻きされているので、他のコイルを構成する導線の内、高層に位置する導線の電位は低層に位置する導線の電位よりも高い。以下では枠体の軸長方向を単に軸長方向という。
絶縁壁を乗り越えて絶縁壁の他面の側に進入した導線(以下、渡り線という)の電位は、他のコイルの巻き始め部分の導線の電位に等しい。即ち、渡り線の電位は他のコイルを構成する導線の電位以下である。故に、渡り線が他のコイルを構成する高電位の導線に接触した場合、大きな電位差により絶縁破壊が起きる虞がある。
【0009】
そこで、枠体の外周は第1面と第2面とを有する。第2面は第1面よりも絶縁壁の先端部側に位置している。換言すれば、枠体の外周面は、周方向の一部分が絶縁壁の先端部側に盛り上がった構成を有する。
第1面は、周方向に対して平行な面である。導線の巻き付け方向(以下、単に巻き付け方向という)に見て、第2面の一の傾斜部は絶縁壁の先端部側に傾斜し、第2面の他の傾斜部は絶縁壁の基端部側に傾斜する。一の傾斜部は第1面の下流側に隣り合い、且つ、案内部に軸長方向に隣り合う。第2面の他の傾斜部は一の傾斜部の下流側に隣接し、第1面の上流側に隣り合う。
【0010】
案内部から延び出た渡り線と、他の傾斜部に接触している1層目の導線とが軸長方向に隣り合う。故に、渡り線が他のコイルを構成する導線に接触したとしても、渡り線が接触する導線は、1層目に位置する低電位の導線である。従って、電位差が小さいので、大きな電位差による絶縁破壊の発生を防止することができる。
一の傾斜部と他の傾斜部とが互いに隣接しているので、枠体の外周の最も盛り上がっている部分が周方向に長く延びることはない。故に、枠体の外周が全周にわたって平坦ではないことによる他のコイルの歪みは最小限である。従って、他のコイルの歪みのせいで変成器の性能が低下する虞はない。
【0011】
本開示に係る変成器は、前記案内部は、前記絶縁壁の前記一面の先端部から前記絶縁壁の前記他面の基端部に向けて前記巻き付け方向の下流側に延びるガイドスロープを底面とする傾斜溝を有することを特徴とする。
【0012】
本開示にあっては、案内部が傾斜溝を有する。
絶縁壁を乗り越える際、導線は傾斜溝に案内されて絶縁壁の一面の先端部から絶縁壁の他面の基端部に向かう。傾斜溝のガイドスロープは巻き付け方向に延びるので、例えば枠体の回転による導線の巻き付け中に、枠体の回転を継続させつつ導線に絶縁壁を乗り越えさせる場合に特に有用である。
傾斜溝の内側にある導線が傾斜溝から他のコイルに向けて脱落することは、傾斜溝の内側面により阻止される。即ち、傾斜溝の内側にある導線は、他のコイルを構成する導線と軸長方向に隣り合っていたとしても、他のコイルを構成する導線から確実に絶縁される。
【0013】
本開示に係る変成器は、前記一の傾斜部と前記他の傾斜部との境界部分は、前記傾斜溝の側壁の前記巻き付け方向の下流側の端部に前記軸長方向に隣り合う位置に対応して設けられていることを特徴とする。
【0014】
本開示にあっては、第2面の一の傾斜部と他の傾斜部との境界部分が、傾斜溝の側壁の巻き付け方向の下流側の端部に軸長方向に隣り合う位置に対応して設けられている。即ち、枠体の外周の最も盛り上がっている部分が、傾斜溝の出口に対応する位置と同じかそれよりも巻き付け方向の上流側に配されている。この結果、渡り線が他のコイルの1層目の導線に隣り合う位置まで傾斜溝を巻き付け方向の下流側に長く延ばす必要がないので、傾斜溝が他のコイルに干渉する虞はない。
【0015】
本開示に係る変成器は、前記ガイドスロープの傾斜角度は、前記他の傾斜部の傾斜角度に等しいことを特徴とする。
【0016】
本開示にあっては、傾斜溝の底面であるガイドスロープの傾斜角度が、第2面の他の傾斜部の傾斜角度に等しい。故に、渡り線の傾斜角度と、渡り線から下流側に延びて他の傾斜部に接触する導線の傾斜角度とが互いに等しくなる。従って、渡り線と渡り線の下流側の導線との境界部分が屈曲してコイルが歪むことがない。
【発明の効果】
【0017】
本開示の変成器によれば、複数のコイルを簡易に並設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態に係る変成器の分解斜視図である。
【
図6】コイルの形成手順を説明するための模式的な平面図である。
【
図7】渡り線とコイルを構成する導線との接触を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施の形態について説明する。以下の説明では、図において矢符で示す上下、前後、及び左右を使用する。
【0020】
図1は実施の形態に係る変成器の分解斜視図である。
図中1は変成器である。変成器1は変圧器であり、コイルボビン11、2つの二次コイル12,13、カバー14、及び図示しない2つの巻鉄心を備える。
コイルボビン11は枠体2とコイル31~34とを備える。コイル31~34は一次コイルである。以下では、コイル31~34を区別しない場合、単にコイルという。
【0021】
枠体2は矩形環状をなす。枠体2の四隅は円弧形に湾曲している。枠体2は絶縁体であり、例えば合成樹脂製である。
枠体2の左辺部及び右辺部は枠体2の2つの長辺部であり、枠体2の上辺部及び下辺部は枠体2の2つの短辺部である。枠体2の長辺部に平行な方向は上下方向に対応し、枠体2の短辺部に平行な方向は左右方向に対応する。枠体2の軸長方向は前後方向に対応する。
以下では、枠体2の周方向を単に周方向という。
【0022】
図2は枠体2の上辺部の斜視図である。
図1及び
図2に示すように、枠体2の外周には溝21が設けられている。溝21は枠体2の全周にわたる。
枠体2の上辺部及び下辺部夫々において、溝21の前側壁21aには窓部22が設けられている。窓部22は、前側壁21aを頂部から底部に向けて切り欠いたような矩形状をなす。同様に、溝21の後側壁21bにも、枠体2の上辺部及び下辺部夫々において窓部22が設けられている。
【0023】
溝21の前側壁21aと後側壁21bとの間には、3つの絶縁壁23が前後方向に並設されている。各絶縁壁23は枠体2の全周にわたり、溝21の底面から枠体2の径方向の外向きに立ち上がっている。例えば枠体2の上辺部において、絶縁壁23の先端部/基端部は絶縁壁23の上端部/下端部である。
【0024】
コイル31~34は溝21の内側にあり、前から後に向けてこの順に並んでいる。コイル31~34夫々は、導線3a(後述する
図3及び
図6参照)が溝21の底面に周方向に巻き付けられることによって形成されている。コイル31~34夫々を構成する導線3aは複数層(例えば5層以上)整列巻きされている。
導線3aの枠体2への巻き付け方向は、枠体2の上面、左面、下面、及び右面をこの順に通る方向である。以下では、枠体2への巻き付け方向の上流側/下流側を、単に上流側/下流側という。枠体2の上辺部において、上流側/下流側は右側/左側であり、枠体2の下辺部において、上流側/下流側は左側/右側である。
【0025】
コイル31は前側壁21aと最前の絶縁壁23との間に配されている。コイル31とコイル32との間には最前の絶縁壁23が介在している。コイル32とコイル33との間には中央の絶縁壁23が介在している。コイル33とコイル34との間には最後の絶縁壁23が介在している。コイル34は最後の絶縁壁23と溝21の後側壁21bとの間に配されている。
コイル31~34は1本の連続した導線3aからなる。即ち、コイル31~34は互いに直列接続されている。コイル31~34夫々は前後方向に小さいので、何れかのコイルを構成する導線3aの整列巻きが部分的に乱れた場合であっても、コイル31~34の電圧が大きく変化する虞はない。
【0026】
図3は枠体2の平面図である。
図3には、コイル31の巻き終わり部分からコイル32の巻き始め部分までの導線3aと、コイル32の巻き終わり部分からコイル33の巻き始め部分までの導線3aとが、二点鎖線で示してある。
【0027】
コイル31の巻き終わり部分は最前の絶縁壁23の前面に接している。コイル31から延びる導線3aは、最前の絶縁壁23を乗り越えて、コイル32の巻き始め部分に連続している。コイル32の巻き始め部分は最前の絶縁壁23の後面に接している。
同様に、コイル32の巻き終わり部分は中央の絶縁壁23の前面に接している。コイル32から延びる導線3aは、中央の絶縁壁23を乗り越えて、コイル33の巻き始め部分に連続している。コイル33の巻き始め部分は中央の絶縁壁23の後面に接している。
また、コイル33の巻き終わり部分は最後の絶縁壁23の前面に接している。コイル33から延びる導線3aは、最後の絶縁壁23を乗り越えて、コイル34の巻き始め部分に連続している。コイル34の巻き始め部分は最後の絶縁壁23の後面に接している。
【0028】
コイル31を構成している導線3aは枠体2の周方向に概ね平行である。一方、コイル32~34夫々を構成している導線3aは、後述するように、枠体2の上辺部にて部分的に絶縁壁23の先端部側に湾曲している。
【0029】
図1に示すように、二次コイル12は矩形環状をなし、コイルボビン11の径方向の内側に収められる。二次コイル13は矩形環状をなす。二次コイル13の径方向の内側にコイルボビン11が収められる。二次コイル12,13夫々は、例えば平角線を折り曲げることによって形成されている。
【0030】
カバー14は2つのカバー部材141を備える。各カバー部材141は、互いに左右に隣り合う2つの半円筒を一体に有し、各半円筒の軸長方向は上下に延びる。2つのカバー部材141を組み合わせることによって、2つの円筒を有するカバー14が形成される。
カバー14の左側の円筒は、二次コイル12の内側を通るようにしてコイルボビン11及び二次コイル12,13夫々の左辺部を覆う。同様に、カバー14の右側の円筒は、コイルボビン11及び二次コイル12,13夫々の右辺部を覆う。
カバー14の2つの円筒夫々の外周面に、円筒状の巻鉄心(不図示)が設けられる。
【0031】
図4は枠体2の断面図である。
図4には枠体2の軸長方向に垂直な断面が示されている。
図4に示す矢符は導線3aの枠体2への巻き付け方向を表わしている。
図2~
図4に示すように、各絶縁壁23には傾斜溝5が設けられている。
傾斜溝5は、枠体2の上辺部における絶縁壁23の周方向の中央部にて概ね左右方向に延びる。傾斜溝5の深さ方向は下向きである。傾斜溝5の長さ方向の一側は、絶縁壁23の前面の先端部にて開口している。傾斜溝5の長さ方向の他側は、絶縁壁23の後面の基端部にて開口している。
【0032】
傾斜溝5は、絶縁壁23を乗り越える導線3aを案内する案内部である。傾斜溝5はガイドスロープ51及び2つの内側面52,53を有する。
ガイドスロープ51は傾斜溝5の底面であり、右端部から左端部に向けて下降する傾斜面である。
内側面52,53はガイドスロープ51の幅方向の両端から夫々立ち上がる。内側面52,53は前後方向に互いに隣り合う。内側面52,53夫々は、右端部から左端部に向かうほど前側に位置する傾斜面である。
【0033】
前側の内側面52の左端部から左向きに案内面521が延出している。案内面521は、導線3aを傾斜溝5の内側面52,53間から左向きに絶縁壁23の後面へ導く機能を有する。最前の絶縁壁23における案内面521は、コイル32の巻き始め部分が傾斜溝5の左隣にて最前の絶縁壁23の後面に接するように導線3aを案内する。同様に、中央(最後)の絶縁壁23における案内面521は、コイル33(コイル34)の巻き始め部分が傾斜溝5の左隣にて中央(最後)の絶縁壁23の後面に接するように導線3aを案内する。
【0034】
後側の内側面53の右端部から右向きに案内面531が延出している。案内面531は、導線3aを絶縁壁23の前面から左向きに傾斜溝5の内側面52,53間へ導く機能を有する。最前の絶縁壁23における案内面531は、コイル31の巻き終わり部分から延びる導線3aを内側面52,53間に導く。同様に、中央(最後)の絶縁壁23における案内面531は、コイル32(コイル33)の巻き終わり部分から延びる導線3aを内側面52,53間に導く。
案内面521,531も、絶縁壁23を乗り越える導線3aを案内する案内部である。
【0035】
図5は枠体2の拡大断面図である。
図5には傾斜溝5の近傍が示されている。
図4及び
図5に示すように、絶縁壁23の後面側において、溝21の底面の周方向の一部は第1面41であり、溝21の底面の周方向の残部は第2面42である。
第1面41は、周方向に対して平行に延びる面である。第2面42は、第1面41の下流端から第1面41の上流端にわたって周方向に延び、第1面41よりも絶縁壁23の先端部側に位置している。換言すれば、溝21の底面は、周方向の一部分が絶縁壁23の先端部側に盛り上がった構成を有する。
【0036】
更に詳細には、第2面42は傾斜部421,422を有する。傾斜部421は一の傾斜部であり、傾斜部422は他の傾斜部である。
傾斜部421の上流端は第1面41の下流端に隣接しており、傾斜部421の下流端は傾斜部422の上流端に隣接している。傾斜部421は、上流端が下流端よりも絶縁壁23の先端部側に位置するように傾斜している。
傾斜部422の下流端は第1面41の上流端に隣接している。傾斜部422は、上流端が下流端よりも絶縁壁23の基端部側に位置するように傾斜している。
【0037】
傾斜部421は、傾斜溝5に前後方向に隣り合っている。
本実施の形態においては、傾斜部421の上流端は傾斜溝5の後側壁を介してガイドスロープ51の上流端に前後方向に隣り合っているが、ガイドスロープ51の上流端よりも下流側の所定位置又は案内面531に隣り合ってもよい。
傾斜部421と傾斜部421との境界部分(即ち溝21の底面の最も盛り上がっている部分)は、傾斜溝5の下流側の端部に前後方向に隣り合っている。本実施の形態では、傾斜部421と傾斜部421との境界部分は傾斜溝5の後側壁の下流端(即ち傾斜溝5の出口)よりも適長上流側の所定位置に隣り合っているが、傾斜溝5の後側壁の下流端に隣り合ってもよい。
【0038】
傾斜部422の下流端は、枠体2の上辺部と右辺部との間の隅部に位置している。
ガイドスロープ51の傾斜角度と、傾斜部422の傾斜角度とは互いに等しい。ガイドスロープ51と傾斜部422とは、ガイドスロープ51から延びたガイドスロープ51に面一の傾斜面を介して一体に設けられている。
【0039】
図6はコイルの形成手順を説明するための模式的な平面図である。
図6A~
図6D夫々には1つの絶縁壁23と溝21の底面のみが模式的に示されている。図の見易さのために、絶縁壁23には右上がりのハッチングが施されている。
図中6はコイル形成装置である。作業者はコイル形成装置6に枠体2をセットする。コイル形成装置6にセットされた枠体2は、コイル形成装置6が備える図示しないモータに駆動されることにより、軸心を中心に、
図4に矢符で示す方向の逆方向に回転する。
【0040】
ここで、
図1~
図4に示す枠体2の上面、左面、下面、及び右面をA面、B面、C面、及びD面と呼ぶ。
図6に示すコイル形成装置6にセットされた枠体2は、A面、B面、C面、D面、A面…がこの順に上向きになるようにして回転する。
図6A~
図6DはA面~D面が上向きになった状態を示しており、
図6Eは枠体2が1周して再びA面が上向きになった状態を示している。コイル形成装置6は
図6Aにのみ模式的に示されている。
【0041】
コイル形成装置6はリール61及びトラバース62を備える。
リール61は、枠体2に巻き付けるべき導線3aを供給する。作業者は、リール61から導線3aを引き出し、まだ回転していない枠体2の前側壁21aと最前の絶縁壁23との間の空間に導き入れる。次に、作業者は、導線3aを前側壁21aの後面に接触させ、前側壁21aにある窓部22を通して溝21の外部に引き出す。更に、作業者は、溝21から引き出した導線3aの始端部分を、コイル形成装置6が備える図示しない治具に一時的に固定する。
【0042】
導線3aの固定後、枠体2が回転することにより、導線3aはリール61から連続的に引き出され、A面、B面、C面、D面、A面、…の順に周方向に巻き付けられる。A面における上流側/下流側は、D面側/B面側であり、C面における上流側/下流側は、B面側/D面側である。
【0043】
トラバース62は、軸長方向が前後に向くローラであり、前後方向に往復移動可能に設けられている。トラバース62の周面には全周にわたる係合溝が設けられており、リール61と枠体2との間に位置している導線3aがトラバース62の係合溝に係合している。トラバース62の係合溝が枠体2の外周に対向した状態でトラバース62が前後方向に往復移動することにより、導線3aが枠体2に巻き付く位置が前後方向に調整される。トラバース62の動作は、コイル形成装置6が備える図示しない制御部によって制御される。
【0044】
コイル31~34は、この順に形成される。説明を簡単化するために、コイル31~34夫々はM層の整列巻きにより形成され、1層当たり導線3aがN巻きされるものとする(M,Nは自然数)。
図6A~
図6Eにおいて、絶縁壁23の後側には例えばコイル32の第1層の1巻き目が示されているが、コイル33,34夫々の第1層の1巻き目も同様である。図の見易さのために、コイル32の第1層の1巻き目の巻き始め部分には右下がりのハッチングが施されている(
図6A及び
図6E参照)。
【0045】
ここで、コイル31の形成手順について説明する。
コイル31の奇数層目を形成する場合、導線3aは前側壁21aの後面に接触しつつA面~D面の順に1巻きされる。巻き付けられる導線3aが再びA面に到達したときに、トラバース62は導線3aの外径分だけ後側に向けて移動する。この結果、奇数層2巻き目の導線3aは奇数層1巻き目の導線3aの右側に隣接する。
A面においてトラバース62が導線3aの1本分だけ後側へ移動しつつ導線3aが所定のN回だけ巻き付けられることにより、コイル31の奇数層が形成される。
【0046】
コイル31の偶数層目を形成する場合、導線3aは最前の絶縁壁23の前面に接触しつつA面~D面の順に1巻きされる。巻き付けられる導線3aが再びA面に到達したときに、トラバース62は導線3aの外径分だけ前側に向けて移動する。この結果、偶数層2巻き目の導線3aは偶数層1巻き目の導線3aの右側に隣接する。
A面においてトラバース62が導線3aの1本分だけ前側へ移動しつつ導線3aが所定のN回だけ巻き付けられることにより、コイル31の偶数層が形成される。
【0047】
M層目が形成されることにより、コイル31は巻き終わる。
コイル31の巻き終わりの際、トラバース62は所定の長さだけ後側に向けて移動する。トラバース62の後側への移動に伴い、導線3aには後向きの外力が加わる。この外力により、導線3aは最前の絶縁壁23の前側から後側に移動すると共に最前の絶縁壁23を乗り越える。絶縁壁23の乗り越えの際、導線3aは傾斜溝5に案内される。
【0048】
具体的には、コイル31の巻き終わり部分から延びる導線3aが案内面531に案内されて傾斜溝5の内側面52,53間に導かれ、ガイドスロープ51に案内されて最前の絶縁壁23の先端部側から基端部側に向かう。その後、導線3aは案内面521に案内されて傾斜溝5の内側面52,53間から最前の絶縁壁23の後面に導かれる(
図3参照)。
導線3aが傾斜溝5から枠体2の軸長方向に脱落することは傾斜溝5の内側面52,53により阻止される。
【0049】
以上のようにして最前の絶縁壁23を乗り越えた導線3aにより、コイル31の形成手順と同様の形成手順で、コイル32が形成される。
コイル32の巻き終わりの際、コイル31の巻き終わりの際と同様に、トラバース62は所定の長さだけ後側に向けて移動する。この結果、コイル32の巻き終わり部分から延びる導線3aが傾斜溝5に案内されて中央の絶縁壁23を乗り越える。その後、中央の絶縁壁23を乗り越えた導線3aにより、コイル33が形成される。
【0050】
コイル33の形成後、コイル33の巻き終わり部分から延びる導線3aが傾斜溝5に案内されて最後の絶縁壁23の後面に導かれる。最後の絶縁壁23を乗り越えた導線3aにより、コイル34が形成される。
コイル34の形成後、枠体2の回転が停止する。作業者は、コイル形成装置6から枠体2を取り外す。
【0051】
以上のような変成器1の製造方法によれば、導線3a同士を接続する作業が不要である。従って、導線3a同士を確実に接続するために作業者が煩雑な接続手順を強いられることがないので、複数のコイル31~34を簡易に並設することができる。しかも、傾斜溝5が導線3aの枠体2への巻き付け方向に延びるので、コイル31~34の形成中に枠体2の回転を止める必要がない。
また、絶縁壁23に設けられている傾斜溝5が、絶縁壁23を乗り越える導線3aを案内するので、導線3aが円滑に絶縁壁23を乗り越えることができる。
【0052】
ここで、溝21の底面に第1面41及び第2面42が設けられている理由を述べる。
コイル31~34夫々はM層整列巻きされており、例えばM≧5である。コイル31~34夫々を構成する導線3aの内、高層に位置する導線3aの電位は低層に位置する導線3aの電位よりも高い。例えば、コイルの巻き始め部分の導線3a(即ち1層目の導線3a)の電位は、2層目以上の導線3aの電位よりも低い。
【0053】
図7は後述する渡り線3bとコイルを構成する導線3aとの接触を説明するための模式的な断面図である。
図7において、傾斜溝5の後側の側壁は二点鎖線で示してある。
例えばコイル31の巻き終わり部分から絶縁壁23を乗り越えて絶縁壁23の後面側に進入した導線3a(以下、渡り線3bという)の電位は、コイル32の巻き始め部分の導線3aの電位に等しい。即ち、渡り線3bの電位はコイル32を構成する導線3aの電位以下である。
【0054】
故に、渡り線3bがコイル32を構成する高電位の導線3aに接触した場合、大きな電位差により絶縁破壊が起きる虞がある。実験的には、5層目以上の導線3aに接触した場合、導線3aの表面を覆う図示しない絶縁層が破壊されることがある。絶縁層が破壊された渡り線3bと5層目以上の導線3aとの接触により、短絡が生じて変成器1の性能が低下する。
このような問題は、コイル33,34においても起こり得る。
【0055】
前述のように、溝21の底面は、周方向の一部分が絶縁壁23の先端部側に盛り上がった構成を有する(
図4及び
図5参照)。
図7に示すように、渡り線3bは傾斜溝5に案内されて溝21の底面に向けて延び、更に傾斜溝5から延び出て第2面42の傾斜部422に案内される。
一方、渡り線3bから下流側に延びる導線3aは、第1面41に案内されて枠体2を1巻きした後で、第2面42の傾斜部421に案内されて絶縁壁23の先端部側に向けて延びる(
図7に明示した導線3a参照)。その後、1層目の2巻き目の巻き始め部分が、傾斜溝5の出口の近傍にて傾斜溝5から延び出た渡り線3bに前後方向に隣り合うと共に、第2面42の傾斜部422に案内されて絶縁壁23の基端部側に向けて延びる。
【0056】
故に、渡り線3bがコイル32を構成する導線3aに接触したとしても、渡り線3bが接触する導線3aは、1層目に位置する低電位の導線3aである。従って、電位差が小さいので、大きな電位差による絶縁破壊の発生を防止することができる。傾斜溝5から延び出た渡り線3bは5層目以上の導線3aから十分に遠いので、渡り線3bに多少の位置ずれが生じたとしても、5層目以上の導線3aに接触する虞はない。
傾斜溝5の内側にある渡り線3bは、コイル32を構成する導線3aから絶縁されるので、5層目以上の導線3aに接触する虞はない。
【0057】
ところで、コイル32の形成時に、第1面41に沿ってD面からA面に向かった導線3aは、第2面42の傾斜部421に沿って絶縁壁23の先端部側に傾斜し、次いで、第2面42の傾斜部422に沿って絶縁壁23の基端部側に傾斜しながらB面に向かう。故に、コイル32は周方向に部分的に歪んでいると言える。
しかしながら、傾斜部421,422が互いに隣接しているので、溝21の底面の最も盛り上がっている部分が周方向に長く延びることはない。また、傾斜部421は枠体2の上辺部において長く延びるので傾斜部421の傾斜は緩やかである。
【0058】
一方、傾斜部422の傾斜は傾斜部421の傾斜に比べて急である。ただし、傾斜部422の下流端は枠体2の隅部に位置している。仮に、溝21の底面が第2面42に替えて第1面41と同様の面を備えているとしても、枠体2の隅部における溝21の底面は枠体2の上辺部における溝21の底面から見て絶縁壁23の基端部側に傾斜している。故に、傾斜部422の傾斜がコイル32に与える悪影響は無視することができる。
以上の結果、枠体2の溝21の底面が全周にわたって平坦ではないことによるコイル32の歪みは最小限である。従って、コイル32の歪みのせいで変成器1の性能が低下する虞はない。
【0059】
同様に、コイル33(又はコイル34)において、渡り線3bがコイル33(又はコイル34)を構成する導線3aに接触したとしても、大きな電位差による絶縁破壊の発生を防止することができる。また、コイル33(又はコイル34)の歪みのせいで変成器1の性能が低下する虞はない。
【0060】
溝21の底面の最も盛り上がっている部分は、傾斜溝5の出口に対応する位置よりも巻き付け方向の上流側に配されている。この結果、渡り線3bがコイルの1層目の導線3aに隣り合う位置まで傾斜溝5を巻き付け方向の下流側に長く延ばす必要がないので、傾斜溝5がコイルに干渉する虞はない。これは、溝21の底面の最も盛り上がっている部分が傾斜溝5の出口に対応する位置に配されている場合も同様である。
【0061】
傾斜溝5のガイドスロープ51の傾斜角度が、第2面42の傾斜部422の傾斜角度に等しいので、渡り線3bの傾斜角度と、渡り線3bから下流側に延びて傾斜部422に接触する導線3aの傾斜角度とが互いに等しくなる。従って、渡り線3bと渡り線3bの下流側の導線3aとの境界部分が屈曲してコイルが歪むことがない。
【0062】
なお、第2面42の構成は前述の構成に限定されない。例えば、傾斜部421,422夫々は、より急激に又は緩慢に傾斜してもよい。傾斜部421と傾斜部422との間に、周方向に平行な面があってもよい。
第1面41、及び第2面の一部には、導線3aを整列させるための溝(
図3参照)が設けられているが、これに限定されない。また、枠体2の肉抜きのために、第1面41にはコイル31~34夫々に歪みが生じない程度の凹部(
図4参照)が設けられているが、これに限定されない。
変成器1は電力用でも計器用でもよい。変成器1は変流器でもよい。
【0063】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲と均等の意味及び特許請求の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0064】
1 変成器; 2 枠体; 23 絶縁壁; 31~34 コイル; 3a 導線; 41 第1面; 42 第2面; 421 傾斜部(一の傾斜部); 422 傾斜部(他の傾斜部); 5 傾斜溝(案内部); 51 ガイドスロープ; 521,531 案内面(案内部)