(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011255
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】ガスバリア性樹脂組成物及びガスバリア性フィルム
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20230117BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230117BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230117BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D7/61
C09D7/63
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115002
(22)【出願日】2021-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】奥村 敦
【テーマコード(参考)】
3E086
4J038
【Fターム(参考)】
3E086AB02
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB02
3E086BB05
3E086CA01
3E086CA11
3E086CA28
3E086CA31
4J038DG001
4J038JB18
4J038JB27
4J038KA03
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA08
4J038PB01
4J038PB04
(57)【要約】
【課題】高湿度条件下においても良好な酸素バリア性及び水蒸気バリア性を有するガスバリア性樹脂組成物及びこれを用いたガスバリア性フィルムを提供する。
【解決手段】酸基含有ポリウレタン樹脂(A)と膨潤性無機層状化合物(B)と架橋剤(C)とを主たる構成成分とするガスバリア性樹脂組成物であって、架橋剤(C)としてオキサゾリン基含有化合物又はカルボジイミド基含有化合物のどちらか一方又は両方を含み、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)100重量部に対し、膨潤性無機層状化合物(B)が1~100重量部と、架橋剤(C)が1~10重量部とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基含有ポリウレタン樹脂(A)と膨潤性無機層状化合物(B)と架橋剤(C)とを主たる構成成分とするガスバリア性樹脂組成物であって、
前記架橋剤(C)としてオキサゾリン基含有化合物又はカルボジイミド基含有化合物のどちらか一方又は両方を含み、
前記酸基含有ポリウレタン樹脂(A)100重量部に対し、
前記膨潤性無機層状化合物(B)が1~100重量部と、
前記架橋剤(C)が1~10重量部とを含む
ことを特徴とするガスバリア性樹脂組成物。
【請求項2】
前記酸基含有ポリウレタン樹脂(A)100重量部に対し、アミノ基含有シランカップリング剤(D)が0.05~1.5重量部含まれる請求項1に記載のガスバリア性樹脂組成物。
【請求項3】
前記酸基含有ポリウレタン樹脂(A)の酸価が5~60mgKOH/gである請求項1又は2に記載のガスバリア性樹脂組成物。
【請求項4】
基材フィルムの少なくとも一方の面に請求項1ないし3のいずれか1項に記載のガスバリア性樹脂組成物からなるガスバリア層(X)が積層されたガスバリア性フィルム。
【請求項5】
25℃条件下でCuΚα線を用いたX線回折により得られる前記ガスバリア層(X)のX線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=4°~7°の範囲内に回折ピークが観察される請求項4に記載のガスバリア性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性樹脂組成物及びガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品や飲料、医薬品のほか電子材料や精密部材等の包装材料には、内容物の変質の抑制あるいは防止のために、酸素や水蒸気を遮断するいわゆるガスバリア性を有するガスバリア性フィルムが広く使用されている。
【0003】
塩化ビニルデン共重合体(PVDC)を基材フィルムにコーティングしたフィルムはガスバリア性が高いフィルムとして知られているが、PVDCは燃焼により有害なガスを生ずるとともに、低温での焼却では発がん性の高い有機塩素化合物を生ずるため、使用が避けられる傾向にある。
【0004】
また、非塩素系のポリビニルアルコール(PVA)又はエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)を基材フィルムにコーティングしたフィルムも知られているが、PVA及びEVOHは高い親水性を有するため、高湿度の環境下では、水分に対するバリア性が大きく低下する問題がある。
【0005】
これらの問題を解決するために、ウレタン基及びウレア基濃度の合計が25~60重量%であり、かつ酸基を有するポリウレタン樹脂と、膨潤性無機層状化合物と、ポリアミン化合物とを含むガスバリア性水性樹脂組成物や(特許文献1参照。)、ポリウレタン系樹脂単独よりなる水分散性樹脂と水膨潤性無機板状粒子とを有するガスバリア層を、熱可塑性樹脂機材の片面あるいは両面上に少なくとも1層形成したフィルムが提案されている(特許文献2参照。)。さらに、全固形分中に占める水性ポリウレタン樹脂水溶性高分子及び無機層状鉱物の固形分配合比率を特定の範囲に規定した水系コーティング剤を基材フィルムの片面、あるいは両面に形成されたガスバリア性フィルムが提案されている(特許文献3参照。)。
【0006】
これらは、PVAやEVOHがコーティングされたフィルムよりも湿度依存性が抑えられ、高湿度条件下におけるガスバリア性は良化するものの、十分に満足できるものではない。特に、水分含有量の多い食品の包装に用いる場合には、ガスバリア性を十分に発揮することは困難である。さらには、近年では環境負荷削減の観点から、基材フィルムにおけるポリプロピレンの厚みを減らしてポリプロピレンの使用量の削減を図るために、コーティング剤の水蒸気バリア性のさらなる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-139436号公報
【特許文献2】特開2005-047209号公報
【特許文献3】特開2014-214232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、高湿度条件下においても良好な酸素バリア性及び水蒸気バリア性を有するガスバリア性樹脂組成物及びこれを用いたガスバリア性フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、第1の発明は、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)と膨潤性無機層状化合物(B)と架橋剤(C)とを主たる構成成分とするガスバリア性樹脂組成物であって、前記架橋剤(C)としてオキサゾリン基含有化合物又はカルボジイミド基含有化合物のどちらか一方又は両方を含み、前記酸基含有ポリウレタン樹脂(A)100重量部に対し、前記膨潤性無機層状化合物(B)が1~100重量部と、前記架橋剤(C)が1~10重量部とを含むことを特徴とするガスバリア性樹脂組成物に係る。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記酸基含有ポリウレタン樹脂(A)100重量部に対し、アミノ基含有シランカップリング剤(D)が0.05~1.5重量部含まれるガスバリア性樹脂組成物に係る。
【0011】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記酸基含有ポリウレタン樹脂(A)の酸価が5~60mgKOH/gであるガスバリア性樹脂組成物に係る。
【0012】
第4の発明は、基材フィルムの少なくとも一方の面に第1ないし3の発明のいずれかのガスバリア性樹脂組成物からなるガスバリア層(X)が積層されたガスバリア性フィルムに係る。
【0013】
第5の発明は、第4の発明において、25℃条件下でCuΚα線を用いたX線回折により得られる前記ガスバリア層(X)のX線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=4°~7°の範囲内に回折ピークが観察されるガスバリア性フィルムに係る。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明に係るガスバリア性樹脂組成物によると、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)と膨潤性無機層状化合物(B)と架橋剤(C)とを主たる構成成分とするガスバリア性樹脂組成物であって、前記架橋剤(C)としてオキサゾリン基含有化合物又はカルボジイミド基含有化合物のどちらか一方又は両方を含み、前記酸基含有ポリウレタン樹脂(A)100重量部に対し、前記膨潤性無機層状化合物(B)が1~100重量部と、前記架橋剤(C)が1~10重量部とを含むため、高湿度条件下においても良好な酸素バリア性及び水蒸気バリア性を有する樹脂組成物とすることができる。
【0015】
第2の発明に係るガスバリア性樹脂組成物によると、第1の発明において、前記酸基含有ポリウレタン樹脂(A)100重量部に対し、アミノ基含有シランカップリング剤(D)が0.05~1.5重量部含まれるため、基材フィルムに該樹脂組成物をコーティングした際に、基材フィルムとの密着性が向上し、アンカー層の省略やラミネート強度の向上を図ることができる。
【0016】
第3の発明に係るガスバリア性樹脂組成物によると、第1又は2の発明において、前記酸基含有ポリウレタン樹脂(A)の酸価が5~60mgKOH/gであることから、高湿度条件下においてもより良好な酸素バリア性及び水蒸気バリア性を有する樹脂組成物とすることができる。
【0017】
第4の発明に係るガスバリア性フィルムによると、基材フィルムの少なくとも一方の面に第1ないし3の発明のいずれかのガスバリア性樹脂組成物からなるガスバリア層(X)が積層されたため、良好なガスバリア性能を有するフィルムとすることができる。
【0018】
第5の発明に係るガスバリア性フィルムによると、第4の発明において、25℃条件下でCuΚα線を用いたX線回折により得られる前記ガスバリア層(X)のX線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=4°~7°の範囲内に回折ピークが観察されることから、良好なガスバリア性能を有するフィルムとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のガスバリア性樹脂組成物は、フィルム等の基材表面に塗工され、ガスバリア層を形成する樹脂組成物であって、フィルム等の基材に酸素バリア性及び水蒸気バリア性を付与させるものである。本発明のガスバリア性樹脂組成物は、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分とを主たる構成成分とし、適宜添加剤としてのアミノ基含有シランカップリング剤(D)が添加されてなる。
【0020】
(A)成分は、酸基含有ポリウレタン樹脂である。酸基含有ポリウレタン樹脂は、公知の製法により調製され、水分散されたポリウレタン樹脂ディスパージョンが好ましく用いられる。例えば、ポリイソシアネート成分と、ポリオール成分(又はジアミン成分)とを反応させてイソシアネート基末端プレポリマーとし、その後、一次中和剤によって中和して水性媒体に溶解又は分散し、イソシアネート基末端プレポリマーを得る。次いで、適宜鎖伸長剤成分を添加して反応させ、有機溶媒を除去して酸基含有ポリウレタン樹脂(A)を調製する。
【0021】
ポリイソシアネート成分としては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート及び脂環族ジイソシアネート等が挙げられ、いずれを使用してもよい。特に、キシリレンジイソシアネート又は水添キシリレンジイソシアネートを含んでいることが好ましい。
【0022】
ポリオール成分としては、炭素数2~6のジオール及びアニオン性基を含有する活性水素基含有化合物を含むことが好ましい。炭素数2~6のジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール等が挙げられる。アニオン性基を含有する活性水素基含有化合物としては、例えば、カルボン酸等のアニオン性基と、2つ以上の水酸基またはアミノ基等の活性水素基とを併有する有機化合物であり、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸及び2,2-ジメチロールヘキサン酸等が挙げられ、ジメチロールプロピオン酸が好ましく用いられる。なお、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)の酸価は、アニオン性基を含有する活性水素基含有化合物の使用量により調整可能である。
【0023】
酸基含有ポリウレタン樹脂(A)の酸価は、5~100mgKOH/gであり、5~60mgKOH/gであることが好ましい。酸基含有ポリウレタン樹脂(A)の酸価が5mgKOH/g未満であると、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)の水溶性または水分散性が不十分となり、他の材料との均一分散性やガスバリア性樹脂組成物よりなるコーティング剤の分散安定性の低下を招くおそれがある。酸基含有ポリウレタン樹脂の酸価が100mgKOH/gを超えると、コーティング剤から形成される塗膜の耐水性やガスバリア性の低下を招くおそれがある。酸基含有ポリウレタン樹脂(A)の酸価が5~60mgKOH/gとすることによって、架橋剤(C)との架橋反応がより適切におこり、ガスバリア性樹脂組成物によって形成された塗膜が、高湿度雰囲気下でも優れたガスバリア性を発現させることができる。なお、酸基含有ポリウレタン樹脂の酸価は、JIS K 0070(1992)に準拠して測定される。
【0024】
酸基含有ポリウレタン樹脂(A)の酸基は、中和剤又は塩基で中和される。中和剤としては、慣用の塩基、例えば、有機塩基、無機塩基及びアルカリ金属炭酸塩が挙げられる。有機塩基は、例えば、第3級アミン類(トリメチルアミン、トリエチルアミン等のトリC1-4アルキルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン、モルホリン等の複素環式アミン等)がある。無機塩基は、アンモニア、アルカリ金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)がある。アルカリ金属炭酸塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。これらの塩基は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。ガスバリア性の観点からは、揮発性塩基、例えば、トリエチルアミン等のトリC1-3アルキルアミン、ジメチルエタノールアミン等のアルカノールアミン、アンモニアが好ましく用いられる。
【0025】
鎖伸長剤には、活性水素原子を有する窒素含有化合物、特に、ジアミン、ヒドラジン又はヒドラジン誘導体から選択された少なくとも一種が使用される。鎖伸長剤としてのジアミン成分としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂環族アミンが挙げられる。脂肪族アミンは、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン等のC2-10アルキレンジアミン等がある。芳香族アミンは、例えば、m-又はp-フェニレンジアミン、1,3-又は1,4-キシリレンジアミンもしくはその混合物等がある。脂環族アミンは、例えば、水添キシリレンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン等)、ヒドロキシル基含有ジアミン[2-[(2’-アミノエチル)アミノ]エタノール、2-アミノエチルアミノプロパノール、2-(3’-アミノプロピル)アミノエタノール(3-(2’-ヒドロキシエチル)アミノプロピルアミン)等のアミノC2-6アルキルアミノC2-3アルキルアルコール等がある。
【0026】
ヒドラジン、ヒドラジン誘導体としては、ヒドラジン、ヒドロキシル基含有ヒドラジン(2-ヒドラジノエタノール等のヒドラジノC2-3アルキルアルコール等)、ジカルボン酸ヒドラジド(脂肪族ジカルボン酸ヒドラジド(コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド等のC4-20アルカン-ジカルボン酸ジヒドラジド)、芳香族ジカルボン酸ヒドラジド(イソフタル酸ジヒドラジド等のC6-10アレーン-ジカルボン酸ヒドラジド等)等)等が挙げられる。これらの鎖伸長剤成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0027】
これら鎖伸長剤のうち、ガスバリア性の観点から、通常、炭素数8以下(C2-8、特にC2-6)の低分子量の鎖伸長剤、例えば、ジアミン(例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のC2-6アルキレンジアミン、2-アミノエチルアミノエタノール、キシリレンジアミン等)、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体(例えば、2-ヒドラジノエタノール、アジピン酸ジヒドラジド等)が使用される。なお、鎖伸長剤は、必要に応じて3官能以上のポリアミン成分(ポリアミン、ポリヒドラジド等)を併用することができる。
【0028】
(B)成分は、膨潤性無機層状化合物である。膨潤性無機層状化合物は、極薄の単位結晶からなり、該単位結晶層間に溶媒が配位又は吸収・膨潤する性質を有する粘土鉱物である。膨潤性無機層状化合物としては、例えば、含水ケイ酸塩(フィロケイ酸塩鉱物等)、カオリナイト族粘土鉱物(ハロイサイト、カオリナイト、エンデライト、ディッカイト、ナクライト等)、アンチゴライト族粘土鉱物(アンチゴライト、クリソタイル等)、スメクタイト族粘土鉱物(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等)、バーミキュライト族粘土鉱物(バーミキュライト等)、雲母又はマイカ族粘土鉱物(白雲母、金雲母等の雲母、マーガライト、テトラシリリックマイカ、テニオライト等)等が挙げられる。これら粘土鉱物は天然粘土鉱物であってもよく合成粘土鉱物であってもよい。膨潤性無機層状化合物は単独又は二種以上組み合わせて使用することができる。これらの無機層状化合物のうち、スメクタイト族粘土鉱物(モンモリロナイト等)、マイカ族粘土鉱物(水膨潤性雲母等)が特に好ましく用いられる。
【0029】
膨潤性無機層状化合物の平均粒径は、通常20μm以下、好ましくは100nm~10μm程度とされるのがよい。膨潤性無機層状化合物のアスペクト比は、例えば、50~5000、好ましくは100~3000、さらに好ましくは200~2000程度であってもよい。
【0030】
膨潤性無機層状化合物(B)は、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)100重量部に対して1~100重量部含有される。好ましくは、3~50重量部、さらに好ましくは5~40重量部程度含有されるのがよい。水膨潤性である膨潤性無機層状化合物(B)の混合比が増加するとガスバリア性は向上するものの、膨潤性無機層状化合物(B)を酸基含有ポリウレタン樹脂(A)100重量部に対して100重量部以上含有したとしても、高湿度下でのガスバリア性に向上はみられない。そればかりか、フィルムとして加工した際の可撓性が低下し、フィルムの取り扱いに劣るきらいがある。そのため、ガスバリア性とフィルムの利便性とを勘案し、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)100重量部に対して膨潤性無機層状化合物(B)は、1~100重量部含有されるのがよい。
【0031】
(C)成分は、架橋剤である。架橋剤は、オキサゾリン基含有化合物又はカルボジイミド基含有化合物のどちらか一方又は両方を含む。オキサゾリン基含有化合物は、架橋性官能基としてのオキサゾリン基を1分子中に1つ以上有する化合物である。オキサゾリン基含有化合物としては、例えば、2,2’-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-メチレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-トリメチレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-ヘキサメチレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-オクタメチレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレン-ビス-(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレン-ビス-(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、ビス-(2-オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス-(2-オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド等のジオキサゾリン等のオキサゾリン基含有ポリマーなどが挙げられる。これらオキサゾリン基含有化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0032】
カルボジイミド基含有化合物は、カルボジイミド基を1分子中に1つ以上有する化合物である。ポリカルボジイミド化合物は、例えば、公知のカルボジイミド化触媒の存在下で、ポリイソシアネートを脱炭酸縮合反応させることによって得ることができる。カルボジイミドを構成するポリイソシアネートとしては、例えば、上記したポリイソシアネート成分として例示されたポリイソシアネート等が挙げられ、具体的には、上記した芳香族ポリイソシアネート、上記した芳香脂肪族ポリイソシアネート(キシリレンジイソシアネートを含む)、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート(水添キシリレンジイソシアネートを含む)及びこれらの誘導体が挙げられる。また、カルボジイミド化触媒としては、特に制限されず、例えば、ホスホレン、ホスホレンオキサイド等の公知の触媒が挙げられる。カルボジイミド化触媒によるポリイソシアネートの脱炭酸縮合反応は、無溶剤反応であってもよく、また、溶剤の存在下における反応であってもよい。
【0033】
カルボジイミドとして、より具体的には、例えば、テトラメチルキシリレンジイソシアネ-ト系カルボジイミド、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)系
カルボジイミド、ペンタメチレンジイソシアネート系カルボジイミド等が挙げられる。これらカルボジイミド、カルボジイミド基含有化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
これら架橋剤は、オキサゾリン基含有化合物又はカルボジイミド基含有化合物のうち、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。架橋剤(C)は、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)100重量部に対して1~10重量部含有される。好ましくは2~10重量部、さらに好ましくは3~10重量部程度含まれるのが良い。架橋剤(C)の含有量を該範囲とすることにより、基材フィルムに該樹脂組成物をコーティングした際に、基材フィルムとの密着性が向上するとともに、ガスバリア性の向上も図ることができる。
【0035】
前記酸基含有ポリウレタン樹脂(A)と膨潤性無機層状化合物(B)と架橋剤(C)との組み合わせにより、高湿度下においても高いガスバリア性が発現される。本発明の樹脂組成物におけるガスバリア性の発現機構は明確ではないが、水等の溶媒(塗剤)中において、単位結晶層間に溶媒を配位、吸収・膨潤し、分散処理により層間で劈開が生ずる。分散処理を行い劈開した膨潤性無機層状化合物(B)と、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)、架橋剤(C)とが溶媒の存在下で混合されると、ランダムに分散された膨潤性無機層状化合物(B)の単位結晶層間に酸基含有ポリウレタン樹脂(A)と架橋剤(C)が存在している状態となる。該層間に架橋剤(C)が挿入され、膨潤性無機層状化合物(B)の層間が拡がることにより、層間の劈開を促進させる。このような状態にある樹脂組成物を含む塗剤が基材(基材フィルム)上に塗布される。その後の乾燥工程において、膨潤性無機層状化合物(B)はその単位結晶層間に酸基含有ポリウレタン樹脂(A)、架橋剤(C)成分を挟んだ状態で互いの結晶面同士が入り組んで重なり合う。このとき、層間の劈開が促進されていると、より入り組んで重なり合って迷路効果が向上し、ガスの透過が規制されやすくなると推測される。
【0036】
さらに架橋剤(C)は、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)の酸基と結合可能であり、架橋構造を形成する。そのため、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)と架橋剤(C)、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)と架橋剤(C)と膨潤性無機層状化合物間(B)の凝集力を高める効果が発現されると考えられる。従って、酸素や水蒸気等の気体分子の透過が良好に抑制されると推定される。このため、膨潤性無機層状化合物(B)及び架橋剤(C)を含有しない組成物にあっては、ガスバリア性の改善は期待できない。
【0037】
また、アミノ基含有シランカップリング剤(D)も適宜添加されることもできる。アミノ基含有シランカップリング剤(D)は、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等も使用できる。アミノ基含有シランカップリング剤は、基材フィルムに対するガスバリア性樹脂組成物の密着性を改良するのに有効である。これらアミノ基含有シランカップリング剤(D)は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0038】
アミノ基含有シランカップリング剤(D)は、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)100重量部に対して0.05~1.5重量部含有されるのがよい。好ましくは、0.1~1.0重量部程度含有されるのがよい。アミノ基含有シランカップリング剤(D)が多すぎると、樹脂組成物の粘度が上昇したりゲル化が生ずるほか、ガスバリア性も低下してしまう。このため、基材との密着性向上の観点から、アミノ基含有シランカップリング剤(D)は、該範囲の添加量とするのがよい。
【0039】
ガスバリア性樹脂組成物は、必要に応じてガスバリア性を損なわない範囲で、アミノ基含有シランカップリング剤(D)以外の各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等)、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、着色剤、フィラー、結晶核剤等が挙げられる。
【0040】
ガスバリア性樹脂組成物の分散液の調製方法は特に制限されず、例えば、膨潤性無機層状化合物(B)を溶媒に均一に分散させた分散液と、酸基含有ポリウレタン樹脂(A)の分散液又は水溶液と架橋剤(C)とを混合することによりガスバリア性樹脂組成物を調製できる。架橋剤(C)は任意の段階で添加でき、膨潤性無機層状化合物(B)の分散液又は酸基含有ポリウレタン樹脂(A)を含む分散液に添加してもよく、またそれぞれの分散液の混合液に添加してもよい。
【0041】
ガスバリア性を高めるためには、ガスバリア性樹脂組成物の分散液中に酸基含有ポリウレタン樹脂(A)と膨潤性無機層状化合物(B)とが極めて均一に分散している状態が好ましい。特に膨潤性無機層状化合物(B)は、ガスバリア性樹脂組成物の分散液において二次凝集している可能性がある。このため、膨潤性無機層状化合物(B)を溶媒に分散又は混合した後、せん断力、ずり応力が作用する機械的な強制分散処理、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、ジェットミル、ニーダー、サンドミル、ボールミル、3本ロール、超音波分散装置等による公知の分散処理を利用して、膨潤性無機層状化合物(B)の均一な分散を図ることが好ましい。
【0042】
ガスバリア性フィルムは、基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも一方の面に積層されたガスバリア性樹脂組成物からなるガスバリア層とを備える。ガスバリア層は、基材フィルムの表面にガスバリア性樹脂組成物が塗工されて形成される。
【0043】
基材フィルムとしては、通常、熱可塑性樹脂で構成されたフィルムが使用される。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン-エチレン共重合体等)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン66等)、ビニル系樹脂(例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等)、セロファン等が挙げられる。これらの樹脂は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。好ましい基材フィルムとしては、ポリプロピレン系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルムが挙げられる。
【0044】
基材フィルムは、単層フィルムや複数の樹脂を用いた単層又は積層フィルムが使用できる。また、基材フィルムとしては、他の基材(アルミニウム等の金属、紙等)と熱可塑性樹脂との積層基材フィルムを用いることもでき、アルミニウムなどの金属、シリカ等の金属酸化物が蒸着された樹脂フィルムも用いられることができる。さらに、基材フィルムは、未延伸フィルムであってもよく、一軸又は二軸延伸配向フィルムであってもよく、ガスバリア性塗膜との密着性の観点から、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、アンカーコート処理、プライマーコート処理等の表面活性化処理を行っても良い。基材フィルムの厚みは、用途によって異なるものの、3~200μm、好ましくは5~120μm、より好ましくは9~100μmとするのがよい。
【0045】
ガスバリア性樹脂組成物の基材フィルム等への塗工方法は特に限定されず、例えば、グラビアコート法、リバースコート法、ロールコート法、バーコート法、スプレーコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ディッピング法等の公知のコーティング方法が採用される。基材フィルム上に上記コーティング方法によってガスバリア性樹脂組成物が塗布ないし積層された後、乾燥工程で溶媒が除去されて製膜されることでガスバリア層が形成され、ガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0046】
ガスバリア層の単位面積当たりの質量は、0.1~10g/m2が好ましく、0.2~5g/m2がより好ましく、0.3~2g/m2がさらに好ましい。上記範囲とすると、ガスバリア性が良好となるとともに、外観も良好となる。ガスバリア層の厚さは、0.2~5μmが好ましく、0.3~2μmがより好ましい。上記範囲とするとガスバリア性及び外観がより良好となる。
【0047】
乾燥工程における乾燥方法は特に限定されないが、例えば、熱風乾燥法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法、熱ロール加熱法、過熱水蒸気による加熱法等の方法が挙げられる。これらの乾燥方法は、単独または組み合わせて行っても良い。乾燥温度は特に限定されないが、溶媒として水や水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合は、通常、50~160℃とすることが好ましい。
【0048】
X線の回折は、物質中の各原子からの散乱X線が互いに干渉した結果観測される現象であり、結晶などの原子の規則的な構造の配列を解析する方法である。X線回折では、原子の間隔と同程度の波長(0.5Å~3Å)を持つX線を入射すると、各原子で散乱されたX線が、ある特定の方向で干渉し合い、強いX線を生じる。入射X線の波長(λ)の整数(n)倍のときに波の位相が一致(干渉)し、強い回折X線となる(下記の式(i)の条件を満たす)。θはブラッグ角(Bragg angle)、2θ(入射X線方向と回折X線方向とのなす角度)は回折角(Diffaraction angle)という。
2dsinθ=nλ ・・・(i)
【0049】
結晶に、波長λが一定の単色X線を照射してθを観測し、そのθと上記の式(1)から面間隔(結晶格子面の間隔)dが求められる。なお、上記の式(i)において、nは干渉し合う波の位相の差を表す。本発明の実施例においては、通常、1次の回折線(n=1)を用いる。本発明では25℃条件下、CuΚα線を用いてX線回折により得られる前記ガスバリア層(Y)のX線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=4°~7°の範囲内に回折ピークが観察される。なお、実施例では、ガスバリア性フィルムは室温(20℃、50%RH)にて24時間放置したものを用いた。
【0050】
この条件において、例えば、膨潤性無機層状化合物の層間にナトリウムイオンが介在する一般的な水膨潤性無機層状化合物からなる分散液を基材などに塗工し、十分に加熱乾燥させた塗膜のX線回折スペクトルを測定すると、2θ=9.1°前後にスペクトルが観察される。結晶層間に1水和層が形成されていると、2θ=7.5°前後にスペクトルが観察される。特に加熱乾燥が不十分であった場合や膨潤性無機層状化合物の粒子径が大きくなると、加熱乾燥しても結晶層間の1水和層が残存しやすくなるため、2θ=9.1°及び7.5°前後の2つのピークが観察される傾向にある。
【0051】
なお水膨潤性無機層状化合物からなる分散液の加熱乾燥条件としては、例えば、熱風オーブンなどで70℃~100℃の乾燥温度で10時間以上乾燥させると良い。加熱乾燥が不十分であれば、より高い乾燥温度又は長い乾燥時間で行っても良い。本発明のガスバリア性樹脂組成物から形成されるガスバリア層において、前述のとおり、ガスバリア層における膨潤性無機層状化合物は、その単位結晶層間に酸基含有ポリウレタン樹脂、架橋剤成分を挟んだ状態で互いの結晶面同士が入り組んで重なり合っていると考えられる。該層間に架橋剤が入り込み、無機層状化合物の層間が拡がることにより、層間の劈開も促進されているため、層間距離が開きやすいと考えられる。よって、ガスバリア層(Y)のX線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=4°~7°の範囲内に回折ピークが観察される。
【実施例0052】
[使用材料]
発明者は、ガスバリア性樹脂組成物を作成するため、下記の材料を用いた。
【0053】
<(A)成分>
・酸基含有ポリウレタン樹脂(a1):三井化学株式会社製、「タケラック(登録商標)WPB-341A」、固形分濃度30%、酸価27mgKOH/g
【0054】
<(B)成分>
・膨潤性無機層状化合物(b1):片倉コープアグリ株式会社製、「ソマシフ(登録商標)MEB-3」、固形分濃度8%、平均粒子径2.2μm
・膨潤性無機層状化合物(b2):片倉コープアグリ株式会社製、「ソマシフ(登録商標)ME200B-4T」、固形分濃度8%、平均粒子径7.4μm
・膨潤性無機層状化合物(B2):片倉コープアグリ株式会社製、「ソマシフ(登録商標)ME300B-4T」、固形分濃度7.9%、平均粒子径16.5μm
【0055】
<(C)成分>
・架橋剤(c1):株式会社日本触媒製、「オキサゾリン基含有化合物 WS-700」、固形分濃度25%
・架橋剤(c2):株式会社日本触媒製、「オキサゾリン基含有化合物 WS-300」、固形分濃度10%
・架橋剤(c3):日清紡ケミカル株式会社製、「カルボジイミド基含有化合物 V-02-L2」、固形分濃度40%
・架橋剤(c4):日清紡ケミカル株式会社製、「カルボジイミド基含有化合物 V-02」、固形分濃度40%
【0056】
<(D)成分>
・アミノ基含有シランカップリング剤(d1):信越化学工業株式会社製、「KBM-903」、固形分濃度100%
なお、試作例に添加する際には、水99.5gにアミノ基含有シランカップリング剤を0.5g添加し、スターラーにて1時間攪拌して濃度0.5%の調製液を用いた。
【0057】
[ガスバリア性樹脂組成物の調製]
<試作例1>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液43.48gに架橋剤(c1)を1.04g、水55.48gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この膨潤性無機層状化合物(b1)と架橋剤(c1)の水分散液53.76gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを15.58g、水を30.66g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、試作例1のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0058】
<試作例2>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液38.46gに架橋剤(c1)を1.85g、水59.69gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この膨潤性無機層状化合物(b1)と架橋剤(c1)の水分散液59.33gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを15.21g、水を25.46g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、試作例2のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0059】
<試作例3>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液38.46gに架橋剤(c3)を1.15g、水60.38gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この膨潤性無機層状化合物(b1)と架橋剤(c3)の水分散液59.33gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを15.21g、水を25.46g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、試作例3のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0060】
<試作例4>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液55.80gに架橋剤(c3)を0.67g、水43.53gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2.5%)。この膨潤性無機層状化合物(b1)と架橋剤(c3)の水分散液82.56gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを12.29g、水を5.15g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、試作例4のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0061】
<試作例5>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液38.46gに架橋剤(c1)を0.92g、(c3)を0.58g、水60.04gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この膨潤性無機層状化合物(b1)と架橋剤(c1)、(c3)の水分散液59.33gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを15.21g、水を25.46g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、試作例5のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0062】
<試作例6>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液41.67gに架橋剤(c1)を1.00g、(c2)を0.83g、水56.50gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この膨潤性無機層状化合物(b1)と架橋剤(c1)、(c2)の水分散液55.65gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを15.46g、水を28.90g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、試作例6のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0063】
<試作例7>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液42.55gに架橋剤(c1)を1.02g、アミノ基含有シランカップリング剤(d1)の調製液を8.51g、水47.91gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この膨潤性無機層状化合物(b1)と架橋剤(c1)、アミノ基含有シランカップリング剤の水分散液54.71gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを15.52g、水を29.77g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、試作例7のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0064】
<試作例8>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液37.74gに架橋剤(c3)を1.13g、アミノ基含有シランカップリング剤(d1)の調製液を7.55g、水53.58gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この膨潤性無機層状化合物(b1)と架橋剤(c3)、アミノ基含有シランカップリング剤の水分散液60.23gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを15.15g、水を24.62g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、試作例8のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0065】
<試作例9>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b2)の水分散液37.74gに架橋剤(c3)を1.13g、アミノ基含有シランカップリング剤(d1)の調製液を7.55g、水53.58gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この膨潤性無機層状化合物(b2)と架橋剤(c3)、アミノ基含有シランカップリング剤の水分散液60.23gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを15.15g、水を24.62g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、試作例9のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0066】
<試作例10>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b2)の水分散液40.82gに架橋剤(c1)を0.33g、(c3)を0.61g、アミノ基含有シランカップリング剤(d1)の調製液を8.16g、水50.41gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この膨潤性無機層状化合物(b1)と架橋剤(c1)、(c3)、アミノ基含有シランカップリング剤の水分散液56.58gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを15.39g、水を28.03g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、試作例10のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0067】
<試作例11>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b3)の水分散液34.48gに架橋剤(c1)を0.83g、(c3)を1.03g、水63.66gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この膨潤性無機層状化合物(b3)と架橋剤(c1)、(c3)の水分散液64.63gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを14.86g、水を20.51g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、試作例11のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0068】
<比較例1>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液13.07gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを17.42g、水を69.51g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、比較例1のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0069】
<比較例2>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液23.96gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを15.97g、水を60.07g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、比較例2のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0070】
<比較例3>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液33.17gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを14.74g、水を52.08g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、比較例3のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0071】
<比較例4>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液48.78gに、アミノ基含有シランカップリング剤(d1)の調製液を9.76g、水41.46gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この水分散液48.91gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを15.91g、水を35.18g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、比較例4のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0072】
<比較例5>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液45.45gに、アミノ基含有シランカップリング剤(d1)の調製液を36.36g、水18.18gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この水分散液51.84gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを15.71g、水を32.45g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、比較例5のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0073】
<比較例6>
酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを18.61g、架橋剤(c1)を0.67g、水を80.72g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、比較例6のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0074】
<比較例7>
酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを18.08g、架橋剤(c3)を0.81g、水を81.10g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、比較例7のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0075】
<比較例8>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液30.30gに架橋剤(c1)を0.73g、(c3)を1.52g、水67.45gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この水分散液71.33gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを14.41g、水を14.25g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、比較例8のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0076】
<比較例9>
4重量%に調製した膨潤性無機層状化合物(b1)の水分散液27.03gに架橋剤(c1)を1.08g、(c3)を1.62g、水70.27gを加え、ホモディスパーにより1時間攪拌した(全固形分濃度2%)。この水分散液77.65gに酸基含有ポリウレタン樹脂(a1)のディスパージョンを13.99g、水を8.36g添加し、ホモディスパーにより30分間攪拌し、比較例9のガスバリア性樹脂組成物を得た。
【0077】
[ガスバリア性フィルムの作成]
次に、基材フィルムとして、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製、「CKC」、厚み25μm)を用い、各試作例及び比較例に対応するガスバリア性フィルムを作成した。基材フィルムのコロナ処理面に、ワイヤバーによってガスバリア性樹脂組成物を乾燥後の重量(塗布量)が0.5g/m2となるように塗工し、90℃のオーブンで30秒間の乾燥を行い、続けて各塗布面に同一のガスバリア性樹脂組成物を塗工して、同様に乾燥させ、乾燥後の重量(塗布量)が合計1.0g/m2となるガスバリア性フィルムを作成した。なお、比較例5のガスバリア性樹脂組成物は凝集物が多数発生して、基材フィルムへの塗工ができなかったため、後述の各測定は行うことができなかった。
【0078】
また、試作例11のガスバリア性樹脂組成物については、基材フィルムを二軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製、「CKC」、厚み20μm)としたガスバリア性フィルムを併せて作成し、試作例12のガスバリア性フィルムとした。
【0079】
試作例1~11及び比較例1~9のガスバリア性樹脂組成物に用いた(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の種類と、(A)成分100重量部に対する(B)、(C)、(D)成分の添加量(重量部)を表1及び表2にまとめた。
【0080】
【0081】
【0082】
[ガスバリア性フィルムの性能の評価]
試作例1~12及び比較例1~9のガスバリア性フィルムのガスバリア性能を評価するため、酸素透過度及び水蒸気透過度を測定した。また、基材フィルムとして用いた二軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製、「CKC」、厚み25μm)を参考例1として、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製、「CKC」、厚み20μm)を参考例2として、酸素透過度及び水蒸気透過度の測定も行った。結果を表3及び表4にまとめた。
【0083】
<酸素透過度の測定>
酸素透過度(cm3/m2・atm・day)の測定は、JIS K 7126(2006)に準拠し、酸素透過率測定装置(モコン社製、「OX-TRAN(登録商標) 2/20 MH」)を使用して、温度20℃、相対湿度80%(80%RH)及び温度20℃、相対湿度90%(90%RH)の条件下で測定した。
【0084】
<水蒸気透過度の測定>
水蒸気透過度(g/m2・day)は、JIS K 7129(2008)に準拠し、水蒸気透過率測定装置(モコン社製、「PERMATRAN-W(登録商標) 3/33」)を使用して温度40℃、相対湿度90%(90%RH)の条件下で測定した。
【0085】
[X線回折測定]
また、試作例1~12及び比較例1~9のガスバリア性フィルムのX線回折測定を行い、ガスバリア性フィルムにおけるガスバリア層が積層された側のX線回折スペクトルとして2θ(°)及び面間隔(Å)を測定した。なお、各試作例及び比較例のガスバリア性フィルムは室温(20℃、50%RH)において24時間放置したものを用いた。25℃条件下でX線回折装置(リガク社製、「RINT-2000」、(X線源=CuKα、λ=1.5405Å、電圧40kV、電流20mA、受光スリット1/2°、散乱スリット1/2°、スキャンスピード2°/min))を用いて、ガスバリア性フィルムのX線回折スペクトルを測定した。なお、回折ピークが確認されなかったものについては、ピークなし「-」とした。
【0086】
【0087】
【0088】
[結果と考察]
表3及び表4に示される通り、試作例1~11では酸素透過度及び水蒸気透過度ともに良好な結果が得られた。また、X線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=4~7°の範囲内に回折ピークが観察された。そして、試作例12では試作例11と同等の酸素透過度を示し、水蒸気透過度は参考例1(二軸延伸ポリプロピレンフィルム(厚み25μm))と同程度の値を示したことから、本発明のガスバリア性樹脂組成物を用いることで、基材フィルムの厚み5μm分のポリプロピレンの使用量の削減が可能であることが示された。
【0089】
試作例1~3,5,6と、架橋剤(C)が添加されず、膨潤性無機層状化合物(B)の種類及び添加量が同じ比較例2とを比較すると、試作例1~3,5,6は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性がより良好となることが示された。試作例7~9と、架橋剤(C)が添加されず、添加剤としてアミノ基含有シランカップリング剤(D)が同量添加された比較例4とを比較すると、試作例7~9は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性がより良好となることが示された。また、試作例1~3,5,6と架橋剤(C)の含有量が多い比較例8,9との比較において、試作例1~3,5,6の方が良好な酸素バリア性及び水蒸気バリア性を示した。以上から、架橋剤(C)を加えることで、ガスバリア層におけるガスバリア性は向上するものの、一定量を超えて含有されるとかえってガスバリア性を損ねることが理解された。
【0090】
さらに、試作例1,3と膨潤性無機層状化合物(B)が含まれない比較例6,7とをそれぞれ比較すると、試作例1,3は良好なガスバリア性を示し、膨潤性無機層状化合物(B)を含有することによるガスバリア性の向上が確認された。また、膨潤性無機層状化合物(B)の含有量が異なる試作例3,4を比較すると、膨潤性無機層状化合物(B)の含有量が増えてもガスバリア性は同程度であることから、膨潤性無機層状化合物(B)の含有量を増やしすぎても期待する効果が得られないばかりか、フィルムの加工適性を損なうきらいがあると考えられる。なお、比較例5は、凝集物が多数発生し、均一な塗膜形成ができなかった。
【0091】
以上示されたように、試作例1~12は、高湿度条件下において、酸素バリア性だけでなく水蒸気バリア性も向上することが確認された。この点から、水分含量の多い食品の包装に用いることができるのみにとどまらず、延伸ポリプロピレンフィルム等の基材として用いるフィルムを薄くすることが可能となるため、ポリプロピレンの使用量を低減でき、環境負荷削減を図ることができる。
本発明のガスバリア性樹脂組成物は、基材フィルムに塗工されてガスバリア性層を形成してガスバリア性フィルムを得ることができ、該ガスバリア性フィルムは、高湿度条件下においても、良好な酸素バリア性及び水蒸気バリア性を備える。つまり、本発明のガスバリア性樹脂組成物によれば、複雑な工程を経ることなしに基材フィルムに優れたガスバリア性能を付与することが可能である。