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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112558
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/048 20060101AFI20230804BHJP
   H01G 9/02 20060101ALI20230804BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
H01G9/048 Z
H01G9/02
H01G9/00 290C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014429
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】宮本 桃世
(57)【要約】
【課題】熱ストレス負荷後にもESRの上昇が抑制された固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】固体電解コンデンサは、一対の電極箔と電解質層とpH緩衝能を有する官能基を有する化合物を備える。一対の電極は、弁作用金属を含み、一方の箔の表面には誘電体酸化皮膜が形成されている。電解質層は、一対の電極箔の間に介在し、電解液及び導電性高分子を含む。pH緩衝能を有する官能基を有する化合物は、電極箔の一部又は全部に付着する。製造方法は、一対の電極箔又は更にセパレータを介在させることで、コンデンサ素子を組み立てる素子組み立て工程と、素子組み立て工程の後、pH緩衝能を有する官能基を有する化合物を含む液剤をコンデンサ素子に含浸させる化合物付着工程と、化合物付着工程の後、導電性高分子の分散液をコンデンサ素子に含浸させる導電性高分子付着工程とを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極箔と、
前記一対の電極箔の間に介在し、電解液及び導電性高分子を含む電解質層と、
前記電極箔に付着し、pH緩衝能を有する官能基を有する化合物と、
を備えること、
を特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記一対の電極箔の間に介在するセパレータを備え、
前記化合物は、前記電極箔に加えて前記セパレータに付着し、又は前記電極箔に代えて前記セパレータに付着すること、
を特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記pH緩衝能を有する官能基は、酸無水物又はホスホン酸基であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記化合物は、膜状に付着していること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記化合物は、吸着基としてシラノール基又はホスホン酸基を有すること、
を特徴とする請求項4記載に固体電解コンデンサ。
【請求項6】
一対の電極箔との間にセパレータを介在させることで、コンデンサ素子を組み立てる素子組み立て工程と、
前記素子組み立て工程の後、pH緩衝能を有する官能基を有する化合物を含む液剤を前記コンデンサ素子に含浸させる化合物付着工程と、
前記化合物付着工程の後、導電性高分子が分散した導電性高分子分散液を前記コンデンサ素子に含浸させる導電性高分子付着工程と、
を含むこと、
を特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
前記化合物付着工程と前記導電性高分子付着工程との間に、前記コンデンサ素子を乾燥させる乾燥工程を含むこと、
を特徴とする請求項6記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記pH緩衝能を有する官能基は、酸無水物又はホスホン酸基であること、
を特徴とする請求項6又は7記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記化合物は、吸着基としてシラノール基又はホスホン酸基を有すること、
を特徴とする請求項6乃至8の何れかに記載に固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質層に電解液と導電性高分子を含む固体電解コンデンサとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を利用した電解コンデンサは、弁作用金属からなる粉末を焼結した焼結体で構成した陽極電極、あるいは弁作用金属からなる延伸された箔体をエッチングして表面積を拡面化した陽極電極を備えることにより、小型で大きな容量を得ることができる。特に、誘電体酸化皮膜を固体電解質で覆った固体電解コンデンサは、小型、大容量、低等価直列抵抗であり、電子機器の小型化、高機能化、低コスト化に欠かせない。
【0003】
固体電解質としては、二酸化マンガンや7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られている。近年は、反応速度が緩やかで、また誘電体酸化皮膜との密着性に優れたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の、π共役二重結合を有するモノマーから誘導された導電性高分子が固体電解質として急速に普及している。導電性高分子としては、導電性を発現する外部ドーパントを用いた導電性高分子が挙げられる。外部ドーパントを用いた導電性高分子は、化学酸化重合又は電解酸化重合の際に、低分子アニオンやポリアニオン等をドーパントとして用いて作製される。また、導電性高分子としては、自己ドープ型導電性高分子が挙げられる。自己ドープ型導電性高分子は、モノマー分子内にドーパントとして作用する分子を有し、導電性の発現と溶媒への溶解性が付与されている。
【0004】
但し、固体電解コンデンサは、コンデンサ素子に電解液を含浸させ、固体電解質層を有さない液体型の電解コンデンサと比べて、誘電体酸化皮膜の欠陥部の修復作用に乏しく、漏れ電流が増大する虞がある。そこで、陽極箔と陰極箔とを対向させたコンデンサ素子に固体電解質層を形成すると共に、コンデンサ素子の空隙に電解液を含浸させた所謂ハイブリッドタイプの固体電解コンデンサが注目されている。
【0005】
また、このハイブリッドタイプの固体電解コンデンサは、等価直列抵抗(ESR)が電解液の電気伝導度の影響を受けにくい点でも注目されている。一般的には、電解質として電解液のみを用いた電解コンデンサのESRは、電解液の電気伝導度の影響を受けやすく、電解液の電気伝導度が低いほどESRが上昇する傾向がある。しかし、固体電解質層及び電解液を備える固体電解コンデンサのESRは、電解液の伝導度の影響を受けにくい。言い換えれば、電解液の伝導度が低くても製品のESRを十分に小さくすることができる。この理由は、固体電解コンデンサに使用される導電性高分子の電気伝導度が、電解液の電気伝導度と比較して桁違いに高いため、導電性高分子の電気伝導度がESRに大きな影響を与えるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-114540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、固体電解質と電解液とを併用した固体電解コンデンサは、ドーパントの脱ドープ反応により導電性が悪化し、固体電解コンデンサのESRが上昇してしまう。この脱ドープ反応に伴うESR上昇に対し、特許文献1には、電解液中の溶質成分である酸成分と塩基成分のモル比を酸過剰にすることで、脱ドープ反応を抑制できるという報告がある。この報告では、酸成分であるドーパントと電解液中の酸成分とが平衡状態を保つため、脱ドープ反応が抑制されると推定している。
【0008】
但し、固体電解コンデンサの高温環境下(例えば、115℃以上)での使用や、固体電解コンデンサを基板等へ実装する際のリフローはんだ付け工程など、固体電解コンデンサに対し熱ストレスが与えられることがある。この熱ストレスは、たとえ電解液中の溶質成分が酸過剰であっても脱ドープ反応を促進させてしまう。そのため、固体電解コンデンサのESRは、熱ストレス負荷後上昇してしまう。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、電解質として固体電解質と電解液とを有する固体電解コンデンサにおいて、熱ストレス負荷後にもESRの上昇が抑制された固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、固体電解コンデンサとして、カチオン成分の量を固定してアニオン成分の量を変化させたもの、およびカチオン成分の量を変化させてアニオン成分の量を固定したものを各々作製し、これらの固体電解コンデンサに熱ストレスを負荷するためにリフロー工程を行い、その熱ストレス負荷前後のESRを測定した。なお、図1の一番左側の結果(図1において「カチオンのみ」と記載)は、アニオン成分であるアゼライン酸を添加せずに、カチオン成分であるトリエチルアミンのみを添加したものである。この結果、図1に示すように、カチオン成分の量を固定した各固体電解コンデンサの熱ストレス負荷前後におけるESR変化はほぼ同様の傾向が見られたのに対し、アニオン成分の量を固定した固体電解コンデンサは、熱ストレス負荷前後でESR変化が大きいものや小さいものが見られた。
【0011】
本発明者らは、この結果より、熱ストレス負荷前後で生じるESRの変化は、pHの影響や酸塩基比の影響よりも、寧ろ電解質層に含有するカチオン成分の量によって決定されるとの知見を得た。もっとも、電解液中のカチオン成分は電解質層のイオン伝導度の向上に寄与するし、アニオン成分の相対比率の上昇を阻止して電極箔の耐腐食性を向上させる効果もある。
【0012】
そこで、上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサは、一対の電極箔と、前記一対の電極箔の間に介在し、電解液及び導電性高分子を含む電解質層と、前記電極箔に付着し、pH緩衝能を有する官能基を有する化合物と、を備える。
【0013】
前記一対の電極箔の間に介在するセパレータを備え、前記化合物は、前記電極箔に加えて前記セパレータに付着し、又は前記電極箔に代えて前記セパレータに付着するようにしてもよい。
【0014】
前記pH緩衝能を有する官能基は、酸無水物又はホスホン酸基であるようにしてもよい。
【0015】
前記化合物は、膜状に付着しているようにしてもよい。
【0016】
前記化合物は、吸着基としてシラノール基又はホスホン酸基を有するようにしてもよい。
【0017】
また、上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサの製造方法は、一対の電極箔との間にセパレータを介在させることで、コンデンサ素子を組み立てる素子組み立て工程と、前記素子組み立て工程の後、pH緩衝能を有する官能基を有する化合物を含む液剤を前記コンデンサ素子に含浸させる化合物付着工程と、前記化合物付着工程の後、導電性高分子が分散した導電性高分子分散液を前記コンデンサ素子に含浸させる導電性高分子付着工程と、を含む。
【0018】
前記化合物付着工程と前記導電性高分子付着工程との間に、前記コンデンサ素子を乾燥させる乾燥工程を含むようにしてもよい。
【0019】
前記pH緩衝能を有する官能基は、酸無水物又はホスホン酸基であるようにしてもよい。
【0020】
前記化合物は、吸着基としてシラノール基又はホスホン酸基を有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、固体電解質と液体とを有する固体電解コンデンサにおいて、熱ストレス負荷後にもESRの上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】液体に含まれるアニオン(酸)成分とカチオン(塩基)成分の比と、リフロー前後のESRの変化との関係を示すグラフである。
図2】実施例1及び3~6並びに比較例1及び6の固体電解コンデンサのESRの経時的変化を示すグラフである。
図3】実施例2並びに比較例2、3、5及び7の固体電解コンデンサのESRの経時的変化を示すグラフである。
図4】実施例1及び3~6並びに比較例1及び6の固体電解コンデンサの静電容量の経時的変化を示すグラフである。
図5】実施例2並びに比較例2、3、5及び7の固体電解コンデンサの静電容量の経時的変化を示すグラフである。
図6】実施例2、比較例2及び7乃至9の固体電解コンデンサのESRの経時的変化を示すグラフである。
図7】実施例2、比較例2及び7乃至9の固体電解コンデンサの静電容量の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施形態に係る固体電解コンデンサについて説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0024】
(固体電解コンデンサ)
固体電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜の誘電分極作用により静電容量を得て電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。この固体電解コンデンサは、コンデンサ素子をケースに収容して、封口体でケース開口を封止して成る。コンデンサ素子は、一対の電極箔、セパレータ及び電解質層を備える。
【0025】
一対の電極箔は陽極箔と陰極箔である。陽極箔と陰極箔はセパレータを介して対向し、巻回又は積層される。誘電体酸化皮膜は陽極箔の表面に形成されている。電解質層は、導電性高分子を含む固体電解質層と電解液とにより成る。固体電解質層は、陽極箔と陰極箔との間に介在し、誘電体酸化皮膜と密着する。電解液は、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子の空隙に含浸する。この電解質層は、真の陰極として機能している。
【0026】
(電極箔)
陽極箔及び陰極箔は弁作用金属を材料とする長尺の箔体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、陽極箔に関して99.9%以上が望ましく、陰極箔に関して99%程度以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていても良い。
【0027】
陽極箔は、弁作用金属の粉体を焼結した焼結体、又は弁作用金属を延伸した箔にエッチング処理を施したエッチング箔として、表面が拡面化される。拡面構造は、トンネル状のピット、海綿状のピット、又は密集した粉体間の空隙により成る。トンネル状のピットは、陽極箔の深部を残して掘り込まれていても、陽極箔を貫通するように形成されていてもよい。
【0028】
この拡面構造は、電解エッチング、ケミカルエッチング若しくはサンドブラスト等により形成され、又は箔体に金属粒子等を蒸着若しくは焼結することにより形成される。電解エッチングとしては塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流又は交流を印加する直流エッチング又は交流エッチングが挙げられる。また、ケミカルエッチングでは、金属箔を酸溶液やアルカリ溶液に浸漬させる。
【0029】
誘電体酸化皮膜は、典型的には、陽極箔の表層に形成される酸化皮膜であり、陽極箔がアルミニウム製であれば拡面構造領域を酸化させた酸化アルミニウムである。この誘電体酸化皮膜は、アジピン酸、ホウ酸又はリン酸等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加する化成処理により形成される。さらに、誘電体酸化皮膜は、金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物からなる層を蒸着法により形成したもの、あるいは表面に炭素を含有したものを用いて作出してもよい。
【0030】
陰極箔は、拡面構造のないプレーン箔であってもよいし、陽極箔と同じように蒸着、焼結又はエッチングによって拡面構造を有するようにしてもよい。拡面層には、酸化皮膜が意図的又は自然に形成されていてもよい。意図的には、化成処理により、薄い誘電体酸化皮膜(1~10Vfs程度)を形成してもよい。自然酸化皮膜は、陰極箔が空気中の酸素と反応することにより形成される。
【0031】
陽極箔と陰極箔には引出端子が接続される。引出端子は、ステッチ、超音波溶接等により陽極箔及び陰極箔のそれぞれに接続されている。この引出端子は、陽極箔、陰極箔と接続部と外部との電気的な接続を担う。
【0032】
(セパレータ)
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロース及びこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【0033】
(pH緩衝能を有する官能基を有する化合物)
一対の電極箔、セパレータ、これらの複数又は全部の表面全域又は一部表面には、pH緩衝能を有する官能基を有する化合物(以下、特定化合物という)が付着している。この特定化合物は、pH緩衝能を有する官能基として、カルボキシル基やホスホン酸基等を有する。pH緩衝能を有する官能基によって、特定化合物は、多価の酸として作用する。特定化合物は、電解質層中に含まれるカチオンと中和反応を生じる。但し、多価の酸として作用する特定化合物には、酸解離定数が複数存在する。そのため、カチオンによって特定化合物の全ての酸成分が完全に中和されるまで、中和反応は、酸解離定数に準じた特定のpH領域において段階的に進行する。そのため、特定化合物の中和によるpHの変化は緩やかになる。即ち、pH緩衝能を有する官能基は、複数の酸解離定数を特定化合物に与える官能基である。この特定化合物が電解質層中に含まれるカチオンを緩衝することで、電解質層の急激なpH変動が抑制される。
【0034】
推測であり、このメカニズムに限定されるものではないが、この特定化合物により熱ストレス負荷後の固体電解コンデンサのESR上昇は、次のようなメカニズムにより抑制される。即ち、電解質中のカチオンは、熱ストレスによりドーパントへ作用し、ドーパントの脱ドープ反応を起り易くする。脱ドープ反応が促進されると、固体電解質層の伝導度が下がり、固体電解コンデンサの熱ストレス負荷後のESRが大きくなってしまう。そこで、特定化合物が電解質中のカチオンを緩衝することにより、カチオンによるドーパントの脱ドープ反応が抑制されることで固体電解質層の伝導度の低下も抑制され、熱ストレス負荷後においても固体電解コンデンサのESRの上昇を抑制することができる。
【0035】
pH緩衝能を有する官能基には、電解コンデンサ内で生じる化学反応によりpH緩衝能を獲得する酸無水物も含まれる。酸無水物としては例えばコハク酸酸無水物が挙げられる。酸無水物自体はpH緩衝作用を有しないが、例えばコハク酸無水物は、以下式(1)のように加水分解により容易に開環し、2価の酸であるコハク酸となり、pH緩衝作用を獲得し、電解質中のカチオンを緩衝する。
【化1】
【0036】
pH緩衝能を有する官能基として、1価の酸として作用するカルボキシル基、エポキシ基、アクリル酸基及びアミノ基は不適である。アミノ基は、導電性高分子の脱ドープ反応を促進する方向に作用する。カルボキシル基が1価の酸である場合、pH緩衝能が得られ難いため不適である。また、エポキシ基、アクリル酸基は、電解液の溶媒と相溶性があることが原因と推測されるが、電極箔に対する導電性高分子の密着性を悪化させる方向に作用し、固体電解コンデンサのESRを悪化させてしまう。
【0037】
特定化合物は、更に吸着基を有し、自己組織化膜となって一対の電極箔、セパレータ、これらの複数又は全部の表面全域又は一部表面に成膜されることが好ましい。吸着基としては、シラノール基類及びホスホン酸基等が挙げられる。シラノール基類としては、例えばトリエトキシシラノール基及びトリメトキシシラノール基が挙げられる。
【0038】
pH緩衝能を有する官能基としては、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基などが挙げられる。吸着基としては、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基、アルコキシシラノール基、ヒドロキシル基、アミノ基などが挙げられる。更にpH緩衝能を有する官能基及び吸着基の両方として作用するものとして、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基などが挙げられる。また、特定化合物は、複数のpH緩衝能を有する官能基を有していてもよい。特定化合物が有する複数のpH緩衝能を有する官能基は、2種以上であってもよい。このような特定化合物としては、例えば[3-(トリエトキシシリル)プロピル]コハク酸無水物、[3-(トリメトキシシリル)プロピル]コハク酸無水物、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、グリシン-N,N-ビス(メチレンホスホン酸)、エチドロン酸及びピロリン酸等が挙げられる。
【0039】
特に、特定化合物としては、[3-(トリエトキシシリル)プロピル]コハク酸無水物又は[3-(トリメトキシシリル)プロピル]コハク酸無水物が好ましい。[3-(トリエトキシシリル)プロピル]コハク酸無水物又は[3-(トリメトキシシリル)プロピル]コハク酸無水物を特定化合物として選択した場合、固体電解コンデンサの静電容量も特に良好に維持できるため、好ましい。推測であり、これに限定されないが、[3-(トリエトキシシリル)プロピル]コハク酸無水物及び[3-(トリメトキシシリル)プロピル]コハク酸無水物は、陽極箔の誘電体酸化皮膜及び陰極箔の酸化皮膜の溶解性が低いため、固体電解コンデンサの静電容量が特に良好に維持されるものと考えられる。
【0040】
特定化合物の付着量は、電解液中のカチオン濃度に応じて適宜選択すればよい。好ましくは、特定化合物の付着量は、コンデンサ素子内部に存在するpH緩衝作用を有する官能基のモル比が、電解液中のカチオン成分のモル比に対して等量以上である。pH緩衝作用を有する官能基のモル比が、電解液中のカチオン成分のモル比を下回っても、固体電解コンデンサの熱ストレス負荷後のESR上昇を抑制する効果は得られるが、等量以上であると特に良好な抑制効果が得られる。但し、吸着基が強い酸性を示す場合、特定化合物を含む液剤をコンデンサ素子に含浸する化合物付着工程において、誘電体酸化皮膜の溶解を生じないように、特定化合物の付着量を減らすか、化合物付着工程の処理条件を適宜選択することが好ましい。
【0041】
(固体電解質層)
導電性高分子は、分子内のドーパント分子によりドーピングされた自己ドープ型又は外部ドーパント分子によりドーピングされた共役系高分子である。共役系高分子は、π共役二重結合を有するモノマー又はその誘導体を化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られる。共役系高分子にドープ反応を行うことで導電性高分子は高い導電性を発現する。即ち、共役系高分子に電子を受け入れやすいアクセプター、もしくは電子を与えやすいドナーといったドーパントを化学的又は電気化学的に少量添加することで導電性を発現する。
【0042】
共役系高分子としては、公知のものを特に限定なく使用することができる。例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリチオフェンビニレンなどが挙げられる。これら共役系高分子は、単独で用いられてもよく、2種類以上を組み合わせても良く、更に2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。
【0043】
上記の共役系高分子の中でも、チオフェン又はその誘導体が重合されて成る共役系高分子が好ましく、3,4-エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン)、3-アルキルチオフェン、3-アルコキシチオフェン、3-アルキル-4-アルコキシチオフェン、3,4-アルキルチオフェン、3,4-アルコキシチオフェン又はこれらの誘導体が重合された共役系高分子が好ましい。チオフェン誘導体としては、3位と4位に置換基を有するチオフェンから選択された化合物が好ましく、チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。アルキル基やアルコキシ基の炭素数は1~16が適している。
【0044】
特に、EDOTと呼称される3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体、即ち、PEDOTと呼称されるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。また、3,4-エチレンジオキシチオフェンに置換基が付加された単量体が用いられてもよい。例えば、置換基としてアルキル基が付加されたアルキル化エチレンジオキシチオフェンが用いられてもよく、例えば、メチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-メチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、エチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-エチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、ブチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-ブチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)などが挙げられる。
【0045】
ドーパントは、公知のものを特に限定なく使用することができる。ドーパントは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、高分子又は単量体を用いてもよい。例えば、ドーパントとしては、ポリアニオン、ホウ酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシ-3,5-ベンゼンジスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ボロジサリチル酸、ビスオキサレートボレート酸、スルホニルイミド酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。
【0046】
ポリアニオンは、例えば、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステルであって、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマー、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーが挙げられる。具体的には、ポリアニオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸などが挙げられる。
【0047】
固体電解質層には、導電性高分子に加えて、多価アルコール等の各種添加物を含めてもよい。多価アルコールとしては、ソルビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ポリオキシエチレングリセリン、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。多価アルコールは沸点が高いために乾燥工程後も固体電解質層に残留させることができ、ESR低減や耐電圧向上効果が得られる。
【0048】
(電解液)
電解液は、アニオン成分とカチオン成分が溶媒に添加した溶液である。アニオン成分とカチオン成分は、典型的には、有機酸の塩、無機酸の塩、又は有機酸と無機酸との複合化合物の塩であり、アニオン成分とカチオン成分に解離するイオン解離性塩によって溶媒に添加される。アニオン成分となる酸及びカチオン成分となる塩基が別々に溶媒に添加されてもよい。また、電解液は、アニオン成分又はカチオン成分、アニオン成分とカチオン成分の両者が溶媒に含まれていなくてもよい。
【0049】
アニオン成分となる有機酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、レゾルシン酸、フロログルシン酸、没食子酸、ゲンチシン酸、プロトカテク酸、ピロカテク酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等のカルボン酸や、フェノール類、スルホン酸が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸、ボロジマロン酸、ボロジコハク酸、ボロジアジピン酸、ボロジアゼライン酸、ボロジ安息香酸、ボロジマレイン酸、ボロジ乳酸、ボロジリンゴ酸、ボロジ酒石酸、ボロジクエン酸、ボロジフタル酸、ボロジ(2-ヒドロキシ)イソ酪酸、ボロジレゾルシン酸、ボロジメチルサリチル酸、ボロジナフトエ酸、ボロジマンデル酸及びボロジ(3-ヒドロキシ)プロピオン酸等が挙げられる。
【0050】
また、有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩としては、例えばアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしては、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウム塩としては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウム等が挙げられる。アミン塩としては、一級アミン、二級アミン、三級アミンの塩が挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミン等、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0051】
電解液の溶媒は、特に限定されるものではないが、プロトン性の有機極性溶媒又は非プロトン性の有機極性溶媒を用いることができる。プロトン性の有機溶媒としては、一価アルコール類、多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類などが挙げられる。一価アルコール類としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール、ポリエチレングリコールやポリオキシエチレングリセリンなどの多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0052】
非プロトン性の有機極性溶媒として、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、スルホキシド系などが用いられてもよい。スルホン系としては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。アミド系としては、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等が挙げられる。ラクトン類、環状アミド系としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等が挙げられる。ニトリル系としては、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等が挙げられる。スルホキシド系としてはジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0053】
さらに、電解液には他の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ホウ酸エステル、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、p-ニトロベンジルアルコールなど)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
(製造方法)
このような固体電解コンデンサの製造方法において、好ましくは、特定化合物を付着させる化合物付着工程を、コンデンサ素子の素子組み立て工程の後に行い、また固体電解質層を形成する導電性高分子付着工程の前に行うことが好ましい。換言すれば、導電性高分子付着工程は、化合物付着工程の後に行われることが好ましい。化合物付着工程を先に行い、化合物付着工程の後に導電性高分子付着工程を行った場合、固体電解コンデンサを高温環境下に長時間晒したとしても、固体電解コンデンサのESR及び静電容量は大きく悪化することなく良好に維持される。
【0055】
この順序の工程によると、ESR及び静電容量が大きく悪化しないのは次の理由によるものと考えられる。まず、導電性高分子は、粒子又は粉末の状態で導電性高分子分散液に分散しており、固体電解質層は、導電性高分子分散液をコンデンサ素子に含浸させることにより形成される。また、特定化合物は、特定化合物を添加した溶液にコンデンサ素子を浸漬することで、吸着基を有する特定化合物は自己組織化膜となって一対の電極箔、セパレータ、これらの複数又は全部の表面全域又は一部表面に成膜される。先に化合物付着工程を経ていれば、特定化合物を添加した溶液に、導電性高分子分散液中の添加物が溶け出してしまうことを阻止でき、ESR及び静電容量が急激な悪化することを抑制できるものである。
【0056】
特に、導電性高分子分散液にエチレングリコールやソルビトールを添加させている場合、先に化合物付着工程を経て、後に導電性高分子付着工程を経ることで、ESR及び静電容量の急激な悪化阻止の効果が顕著になる。
【0057】
(素子組み立て工程)
尚、素子組み立て工程では、誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と陰極箔とをセパレータを介在させて巻回し、円筒状の巻回体を作製する。セパレータは、その一端が陽極箔と陰極箔の一端よりも飛び出すように重ね合わせておき、飛び出したセパレータを先に巻き始めて巻芯部を作製し、続けてその巻芯部を巻軸にすることで巻回していく。巻回前には、陽極箔と陰極箔に対して、例えばアルミニウム製の引出端子をステッチ、コールドウェルド、超音波溶接又はレーザー溶接などにより接続しておく。
【0058】
巻回の後には、誘電体酸化皮膜層が形成された陽極箔を所望の幅に切断した際に露出した弁作用金属の地金部分および巻回等の物理的ストレスによって生じた陽極箔及び陰極箔の欠陥を修復する素子化成工程を設けるようにしてもよい。素子化成工程では、巻回体を化成液に浸漬し、電圧を印加する。化成液としては、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液、ホウ酸とクエン酸などのジカルボン酸を混合した化成液を用いることができる。電圧は、例えば、化成電圧に対して0.1~1.2倍の値を素子化成時の印加電圧とすることが好ましい。また、素子化成時の電圧印加方法として、素子化成開始から一定電圧を印加する方法、または、一定の間隔で段階的に印加電圧を上昇させる方法などが適宜選択される。
【0059】
(化合物付着工程)
特定化合物を付着させる化合物付着工程において、特定化合物を添加した溶液の溶媒は、特に限定はないが、例えば水、エタノールなどのアルコール類、テトラヒドロフランなどの非プロトン性極性溶媒、ヘキサンなどの低極性溶媒など種々の溶媒が挙げられる。浸漬条件に特に限定はないが、10℃~80℃の溶液に1分から720分の間、溶液にコンデンサ素子を浸漬しておく。
【0060】
特定化合物を添加した溶液にコンデンサ素子を浸漬した後は、導電性高分子付着工程の前に、コンデンサ素子を乾燥させておくことが好ましい。この乾燥工程の条件に特に限定はないが、例えば40℃~200℃の温度環境下に1分から720分の間、コンデンサ素子を静置しておく。これにより、自己組織化膜となった特定化合物を残し、溶媒を除去する。乾燥工程は複数回繰り返してもよい。減圧環境下で乾燥してもよく、例えば5kPa以上100kPa以下の圧力で減圧してもよい。
【0061】
(導電性高分子付着工程)
導電性高分子付着工程において、導電性高分子分散液の溶媒としては、例えば水や有機溶媒又はそれらの混合物が溶媒として用いられる。有機溶媒としては、極性溶媒、アルコール類、エステル類、炭化水素類、カーボネート化合物、エーテル化合物、鎖状エーテル類、複素環化合物、ニトリル化合物等が挙げられる。
【0062】
極性溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。炭化水素類としては、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。カーボネート化合物としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。エーテル化合物としては、ジオキサン、ジエチルエーテル等が挙げられる。鎖状エーテル類としては、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。複素環化合物としては、3-メチル-2-オキサゾリジノン等が挙げられる。ニトリル化合物としては、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。
【0063】
導電性高分子分散液には、溶媒及び導電性高分子の他に、多価アルコール等の添加物を含んでいてもよい。多価アルコールとしては、ソルビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、グリセリン、ポリオキシエチレングリセリン、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。多価アルコールは沸点が高いために、導電性高分子付着工程後の乾燥工程でも固体電解質層に残留させることができ、ESR低減や耐電圧向上効果が得られる。
【0064】
他の添加物としては、例えば、有機バインダー、界面活性剤、分散剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の慣用の添加剤を添加してもよい。導電性高分子分散液に添加剤を添加したり、導電性高分子の分散液をコンデンサ素子へ含浸する回数を増やすことでESRを大幅に低下させることも可能である。
【0065】
導電性高分子分散液のコンデンサ素子への含浸の促進を図るべく、必要に応じて減圧処理や加圧処理を施してもよい。含浸工程は複数回繰り返しても良い。導電性高分子分散液をコンデンサ素子に含浸させた後は、乾燥工程により分散液の溶媒を除去する。乾燥工程では、陽極箔、陰極箔及びセパレータの各々又はコンデンサ素子を例えば40℃以上200℃以下の温度環境下に3分以上180分以下の範囲で晒す。この乾燥工程は複数回繰り返してもよい。減圧環境下で乾燥してもよく、例えば5kPa以上100kPa以下の圧力で減圧する。また、乾燥工程を予備乾燥と本乾燥の工程に分けてもよい。
【0066】
その他の固体電解コンデンサの各製造工程の順番は、可能な限り自由に組み替えができ、省略でき、また並行処理が可能である。また、一つの工程は、複数の細工程を含み、そのうちの一部の細工程は、他の工程中に行われ、あるいは他の工程の一つの細工程と次の細工程との間に組み込まれていてもよい。例えば、導電性高分子付着工程を経た後は、コンデンサ素子に封口体を組み合わせ、コンデンサ素子に電解液を含浸させ、一端有底及び他端開口の外装ケースにコンデンサ素子を収容し、コンデンサ素子を封口体で外装ケースに封止する。そして、外装ケースにコンデンサ素子を封止した後、固体電解コンデンサは、エージング工程を経て作製が完了する。エージング工程では、固体電解コンデンサに直流電圧を印加し、電解液が誘電体酸化皮膜層等の欠陥箇所を修復する。
【実施例0067】
以下、実施例の固体電解コンデンサ及び製造方法をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものでない。
【0068】
(実施例)
実施例1乃至6並びに比較例1乃至7の固体電解コンデンサを作製した。まず、アルミニウム箔を用いて陽極箔及び陰極箔を作製した。陽極箔及び陰極箔は、エッチング処理により拡面化した。陽極箔には化成処理により誘電体酸化皮膜を形成した。そして、素子組み立て工程において、これら陽極箔と陰極箔の各々にリード線を接続し、マニラ紙のセパレータを介して陽極箔と陰極箔を対向させて巻回した。このコンデンサ素子に対しては、液温40℃のリン酸二水素アンモニウム水溶液内で56.5Vの印加電圧及び10mAの電流密度の条件で20分間通電することで、修復化成が行われた。その後、105℃で乾燥させた。
【0069】
次に、化合物付着工程に移り、実施例1乃至6並びに比較例1乃至5のコンデンサ素子を、以下表1の化合物が添加された溶液に浸漬した。比較例6及び7のコンデンサ素子は、この化合物付着工程が省かれた。
(表1)
【0070】
表1に示すように、実施例1乃至6のコンデンサ素子を浸漬した溶液には特定化合物が添加されている。一方、比較例1乃至5のコンデンサ素子を浸漬した溶液には、pH緩衝能を有する官能基を持つ化合物、即ち特定化合物が含まれていない。尚、実施例1乃至6並びに比較例1乃至5のコンデンサ素子を浸漬した溶液の溶媒として、実施例1及び実施例2並びに比較例2乃至5では水とエタノールの混合溶媒を、実施例3乃至6並びに比較例1では水を用いた。溶液の液温は室温であり、コンデンサ素子は30分間浸漬された。浸漬後、実施例1乃至6並びに比較例1乃至5のコンデンサ素子を、130℃の温度環境下に15分間晒すことで乾燥させた。
【0071】
導電性高分子付着工程に移り、これらコンデンサ素子を導電性高分子分散液に浸漬し、陽極箔の誘電体酸化皮膜、陰極箔及びセパレータに導電性高分子を付着させた。コンデンサ素子は、20kPaの加圧環境下で導電性高分子分散液に2分間浸漬した。浸漬後、コンデンサ素子を室温で10分間予備乾燥させた後、更に150℃で30分間乾燥させた。ここで、実施例1及び3~6並びに比較例1及び6のコンデンサ素子を浸漬させた導電性高分子分散液には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の微粒子とポリスチレンスルホン酸が分散している。実施例2並びに比較例2乃至5及び7のコンデンサ素子を浸漬させた導電性高分子分散液は、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の微粒子とポリスチレンスルホン酸の分散液がソルビトールとエチレングリコールで希釈して調製されている。
【0072】
導電性高分子付着工程の後は、コンデンサ素子に封口体を装着し、コンデンサ素子に電解液を含浸させた。実施例1及び3~6並びに比較例1及び6のコンデンサ素子にはエチレングリコール系の電解液を含浸させ、実施例2並びに比較例2乃至5及び7のコンデンサ素子にはスルホラン系の電解液を含浸させた。その後、有底筒状の外装ケースにコンデンサ素子を挿入し、外装ケースの開口を封口体で封止した。そして、各固体電解コンデンサは、電圧印加によってエージング処理した。
【0073】
(ESR及び静電容量)
実施例1乃至6並びに比較例1乃至7の固体電解コンデンサのESR及び静電容量の経時的な変化を測定した。各固体電解コンデンサは、150℃の温度環境下に晒しつつ、直流35Vの負荷をかけ続けた。ESRの測定周波数は、高周波領域である100kHzとした。静電容量の測定周波数は、120Hzとした。
【0074】
尚、比較例4の固体電解コンデンサは、ESRの初期、即ち固体電解コンデンサの作製完了後、150℃の高温環境下で電圧を負荷する前のESRが他の固体電解コンデンサと比べて二桁以上高くなってしまったため、ESR及び静電容量の測定を中止した。
【0075】
実施例1及び3~6並びに比較例1及び6の固体電解コンデンサのESRの経時的変化を図2のグラフに示す。グラフ中、塗りつぶされた丸印のプロットが実施例1であり、塗りつぶされた菱形のプロットが実施例3であり、白抜きの菱形のプロットが実施例4であり、四角のプロットが実施例5であり、白抜きの丸印のプロットが実施例6であり、三角のプロットが比較例1であり、x印のプロットが比較例6である。
【0076】
また、実施例2並びに比較例2、3、5及び7の固体電解コンデンサのESRの経時的変化を図3のグラフに示す。グラフ中、塗りつぶされた丸印のプロットが実施例2であり、菱形のプロットが比較例2であり、白抜きの丸印のプロットが比較例3であり、四角のプロットが実施例5であり、x印のプロットが比較例7である。
【0077】
図2に示すように、化合物付着工程を省いた比較例6に対し、比較例1の固体電解コンデンサはESRが悪化してしまった。一方、化合物付着工程において特定化合物を付着させた実施例1、3~5の固体電解コンデンサは、比較例6よりもESRが良好な結果となった。同様に、図3に示すように、化合物付着工程を省いた比較例7に対し、比較例2及び3の固体電解コンデンサはESRが悪化してしまった。比較例5の固体電解コンデンサについても、3000時間経過後には、化合物付着工程を省いた比較例7と同等のESRにまで悪化してしまった。一方、化合物付着工程において特定化合物を付着させた実施例2の固体電解コンデンサは、比較例7よりもESRが良好な結果となった。
【0078】
これにより、pH緩衝能を有する官能基を有する特定化合物を、一対の電極箔、セパレータ、これらの複数又は全部の表面全域又は一部表面に付着させることによって、電解液や固体電解質層の種類に依らず、熱ストレスがかかった後であっても、固体電解コンデンサのESRの上昇が抑制されることが確認された。
【0079】
次に、実施例1及び3~6並びに比較例1及び6の固体電解コンデンサの静電容量の経時的変化を図4のグラフに示す。グラフ中、塗りつぶされた丸印のプロットが実施例1であり、塗りつぶされた菱形のプロットが実施例3であり、白抜きの菱形のプロットが実施例4であり、四角のプロットが実施例5であり、白抜きの丸印のプロットが実施例6であり、三角のプロットが比較例1であり、x印のプロットが比較例6である。
【0080】
また、実施例2並びに比較例2、3、5及び7の固体電解コンデンサの静電容量の経時的変化を図5のグラフに示す。グラフ中、塗りつぶされた丸印のプロットが実施例2であり、菱形のプロットが比較例2であり、白抜きの丸印のプロットが比較例3であり、四角のプロットが比較例5であり、x印のプロットが比較例7である。
【0081】
図4に示すように、実施例1の固体電解コンデンサの静電容量は、熱ストレスがかかった後も、化合物付着工程を省いた比較例6と同等であった。また、図5に示すように、実施例2の固体電解コンデンサの静電容量は、熱ストレスがかかった後も、化合物付着工程を省いた比較例7と同等であった。
【0082】
これにより、特定化合物のpH緩衝能を有する官能基が酸無水物である場合、熱ストレスがかかった後であっても、固体電解コンデンサの静電容量も維持されることが確認された。
【0083】
(製造方法試験)
比較例8及び9の固体電解コンデンサを作製した。比較例8は実施例2と、比較例9は比較例2と構成、組成、組成比が同じであるが製造方法が異なる。比較例8及び9の固体電解コンデンサは、実施例2及び比較例2と異なり、素子組み立て工程を経た後、先に導電性高分子付着工程を行って固体電解質層を形成し、導電性高分子付着工程の後に化合物付着工程を行った。
【0084】
そして、実施例2、比較例2及び7乃至9の固体電解コンデンサのESR及び静電容量の経時的な変化を測定した。各固体電解コンデンサは、150℃の温度環境下に晒しつつ、直流35Vの負荷をかけ続けた。ESRの測定周波数は、高周波領域である100kHzとした。静電容量の測定周波数は、120Hzとした。
【0085】
尚、実施例2、比較例2、8及び9の固体電解コンデンサの固体電解質層は、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の微粒子とポリスチレンスルホン酸の分散液がソルビトールとエチレングリコールで希釈して調製された導電性高分子分散液にコンデンサ素子を浸漬して形成されたものである。実施例2と比較例8は、pH緩衝能を有する官能基を持つ特定化合物が付着しており、比較例2及び比較例9は特定化合物とは異なる化合物が付着している。比較例7は、化合物付着工程が省かれている。
【0086】
実施例2、比較例2及び7乃至9の固体電解コンデンサのESRの経時的変化を図6のグラフに示す。グラフ中、塗りつぶされた丸印のプロットが実施例2であり、塗りつぶされた菱形のプロットが比較例2であり、白抜きの丸印のプロットが比較例8であり、白抜きの丸印のプロットが比較例9であり、x印のプロットが比較例7である。
【0087】
図6に示すように、実施例2と比較例2に比べ、比較例7乃至9の固体電解コンデンサのESRは2000時間を経過以降に急上昇箇所が見られた。一方、実施例2と比較例2の固体電解コンデンサのESRは時間が経過しても急上昇しなかった。これにより、素子組み立て工程を経た後、先に化合物付着工程を行い、後に導電性高分子付着工程を行うことで、熱ストレスがかかってもESRの急激な上昇を阻止できることが確認された。
【0088】
また、実施例2、比較例2及び7乃至9の固体電解コンデンサの静電容量の経時的変化を図7のグラフに示す。グラフ中、塗りつぶされた丸印のプロットが実施例2であり、塗りつぶされた菱形のプロットが比較例2であり、白抜きの丸印のプロットが比較例8であり、白抜きの丸印のプロットが比較例9であり、x印のプロットが比較例7である。
【0089】
図7に示すように、実施例2と比較例2に比べ、比較例8及び9の固体電解コンデンサの静電容量は2000時間を経過以降に急降下箇所が見られた。また、比較例9については、2500時間経過後に容量を引き出すことができず、測定を中止した。一方、実施例2と比較例2の固体電解コンデンサの静電容量は時間が経過しても急降下しなかった。これにより、素子組み立て工程を経た後、先に化合物付着工程を行い、後に導電性高分子付着工程を行うことで、熱ストレスがかかっても静電容量の急激な降下を阻止できることが確認された。この理由は推測であり、このメカニズムに限定されるものではないが、次の通り考えられる。先に導電性高分子付着工程を行い、後に化合物付着工程を行うことで、導電性高分子溶液に添加したエチレングリコールやソルビトールが化合物付着工程で浸漬した溶液に溶け出してしまい、ESR及び静電容量の経時的変化が悪化したと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7