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特開2023-112587データ処理システム、及びデータ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112587
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】データ処理システム、及びデータ処理方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 40/00 20180101AFI20230804BHJP
【FI】
G16H40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014477
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 宝弘
(72)【発明者】
【氏名】竹本 享史
(72)【発明者】
【氏名】レイ ミャオメイ
(72)【発明者】
【氏名】寺田 圭佑
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】健康データを民間事業者が活用可能として、住民の健康を増進する。
【解決手段】データ処理システムであって、演算処理を実行する演算装置と、前記演算装置がアクセス可能な記憶装置とを備え、入力データを受け付ける受付部と、前記入力データを変換する情報変換部と、栄養素情報及びアウトカムに基づいて生成された健康予測モデルと、前記健康予測モデルによる予測結果に基づく対象者の情報を出力する出力部とを有し、前記受付部は、事業者の顧客に関する前記入力データを受け付け、前記情報変換部は、前記入力データを、前記顧客が摂取した栄養素を示す顧客栄養素情報に変換し、前記健康予測モデルは、前記顧客栄養素情報から健康を予測し、前記出力部は、前記予測結果に基づいて、前記対象者の健康のためのアドバイスを前記事業者に出力する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ処理システムであって、
演算処理を実行する演算装置と、前記演算装置がアクセス可能な記憶装置とを備え、
入力データを受け付ける受付部と、
前記入力データを変換する情報変換部と、
栄養素情報及びアウトカムに基づいて生成された健康予測モデルと、
前記健康予測モデルによる予測結果に基づく対象者の情報を出力する出力部とを有し、
前記受付部は、事業者の顧客に関する前記入力データを受け付け、
前記情報変換部は、前記入力データを、前記顧客が摂取した栄養素を示す顧客栄養素情報に変換し、
前記健康予測モデルは、前記顧客栄養素情報から健康を予測し、
前記出力部は、前記予測結果に基づいて、前記対象者の健康のためのアドバイスを前記事業者に出力することを特徴とするデータ処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載のデータ処理システムであって、
栄養調査データベースから取得したデータと前記顧客栄養素情報との比較結果に基づいて、前記健康予測モデルへ入力される顧客栄養素情報を補正する栄養素情報比較・補正部を有することを特徴とするデータ処理システム。
【請求項3】
請求項1に記載のデータ処理システムであって、
前記情報変換部へ入力されるデータを補正する情報補正部を有し、
前記受付部は、前記顧客の購買情報を前記入力データとして受け付け、
前記情報補正部は、所定の閾値より購買量が小さい購買情報に補正値を乗じて補正することを特徴とするデータ処理システム。
【請求項4】
請求項3に記載のデータ処理システムであって、
前記情報補正部は、
前記顧客の購買情報と複数の前記顧客の購買情報とを比較する比較器と、
前記比較器による比較結果に基づいて前記顧客の購買情報の購買量が少ない要因を判定する要因判定部と、
前記判定された要因に対応する補正値を生成する補正値生成部とを有し、
前記購買情報に前記生成された補正値を乗じて、購買情報を補正することを特徴とするデータ処理システム。
【請求項5】
請求項1に記載のデータ処理システムであって、
栄養調査データベースから取得したデータと前記顧客栄養素情報との比較結果に基づいて、前記健康予測モデルへ入力される顧客栄養素情報を補正する栄養素情報比較・補正部と、
前記情報変換部へ入力されるデータを補正する情報補正部とを有し、
前記受付部は、前記顧客の購買情報を前記入力データとして受け付け、
前記情報補正部は、所定の閾値より購買量が小さい購買情報に補正値を乗じて補正することを特徴とするデータ処理システム。
【請求項6】
請求項1に記載のデータ処理システムであって、
住民の健康データの分析結果から栄養素情報とアウトカムとの関係を示した分析結果を格納する分析結果データベースを有し、
前記健康予測モデルは、前記分析結果データベースに格納された分析結果に基づいて生成されたものであることを特徴とするデータ処理システム。
【請求項7】
請求項6に記載のデータ処理システムであって、
前記健康予測モデルは、重回帰モデルで構成され、
前記分析結果データベースは、前記アウトカムに対する重回帰モデルの栄養素の偏回帰係数及び切片を含むことを特徴とするデータ処理システム。
【請求項8】
計算機が実行するデータ処理方法であって、
前記計算機は、演算処理を実行する演算装置と、前記演算装置がアクセス可能な記憶装置とを有し、
前記データ処理方法は、
事業者の顧客に関する入力データを受け付ける受付手順と、
前記入力データを前記顧客が摂取した栄養素を示す顧客栄養素情報に変換する情報変換手順と、
栄養素情報及びアウトカムに基づいて生成された健康予測モデルを用いて、前記顧客栄養素情報から健康を予測する予測手順と、
前記予測手順における予測結果に基づく前記対象者の健康のためのアドバイスを前記事業者に出力する出力手順とを含むことを特徴とするデータ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ処理システムに関し、特に健康データに基づいた有意義な情報を民間事業者に提供するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
地方自治体などでは住民の健康増進を目的として、住民から健康データを収集して分析する保健事業が行われている。このような保健事業は、大学・研究機関・企業などと連携してコホート研究として行われることがある。コホート研究で収集した住民の健康データは、コホート研究の目的である疾病や健康の指標などの要因特定のために分析・活用される。
【0003】
本技術分野の背景技術として、以下の先行技術がある。特許文献1(特開2020-135720号公報)には、食品販売に関する情報を少なくとも管理する管理端末と、ユーザが所有するユーザ端末と、該管理端末及び該ユーザ端末と通信可能なサーバ装置と、を備える買い物支援システムであって、前記管理端末は、前記ユーザが購入した食品毎の価格を含む食品に関する情報に基づいて電子化された購買情報を生成し、当該電子化された購買情報を前記サーバ装置に送信し、前記サーバ装置は、食品毎の価格と分量の交換比率の情報を含む食品情報を取得する食品情報取得手段を備え、前記ユーザが購入した食品の内、少なくとも一部の食品において、前記ユーザ及びその家族の個人情報と、前記管理端末から受信した前記電子化された購買情報が示す食品毎の価格と、取得した前記食品情報とに基づいて、前記ユーザ及びその家族が摂取する食品毎の分量を推測し、推測した前記食品毎の分量を前記ユーザ及びその家族の個人毎及び購入日から1日毎に割り振りし、この割り振りの結果に基づいて、前記ユーザ及びその家族が個人単位で1日毎に摂取すると推測される食品が有する栄養素の種類別の栄養価に関する食品栄養情報を解析し、前記ユーザ及びその家族の1日毎の栄養素の偏りを示す栄養偏向情報を生成して前記ユーザ端末に送信し、前記ユーザ端末は、前記サーバ装置から送信された栄養偏向情報を受信し、該受信した栄養偏向情報を出力することを特徴とする買い物支援システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-135720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自治体が保有する健康データの民間企業による利用は個人情報保護の観点から難しい。民間事業者が健康データを活用できれば、様々な健康サービスの提供によって住民の健康増進が期待できるものの、そのためには個人情報保護や倫理の観点から、目的ごとに対象となる住民の同意を得る必要がある。目的ごとに数万人から同意の取得は容易ではないため、健康データに直接アクセスすることなく、民間事業者に有意義な情報を提示し、コホート研究から得られる知見を民間事業者が活用可能とすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、データ処理システムであって、演算処理を実行する演算装置と、前記演算装置がアクセス可能な記憶装置とを備え、入力データを受け付ける受付部と、前記入力データを変換する情報変換部と、栄養素情報及びアウトカムに基づいて生成された健康予測モデルと、前記健康予測モデルによる予測結果に基づく対象者の情報を出力する出力部とを有し、前記受付部は、事業者の顧客に関する前記入力データを受け付け、前記情報変換部は、前記入力データを、前記顧客が摂取した栄養素を示す顧客栄養素情報に変換し、前記健康予測モデルは、前記顧客栄養素情報から健康を予測し、前記出力部は、前記予測結果に基づいて、前記対象者の健康のためのアドバイスを前記事業者に出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、住民の健康を増進できる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1のデータ処理システムの物理的な構成を示すブロック図である。
図2】実施例1のデータ処理システムの構成図である。
図3】実施例1の分析結果データベースにおける各被験者の摂取栄養素情報を多次元空間にマッピングした図である。
図4】実施例1の分析結果データベースの構成例を示す図である。
図5】実施例2のデータ処理システムの構成図である。
図6】実施例2の購買情報補正部の構成図である。
図7】実施例2の要因判定部における閾値の例を示す図である。
図8】実施例3のデータ処理システムの構成図である。
図9】実施例3の栄養素情報比較・補正部323の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の実施例において、便宜上その必要があるときは、複数のセクション又は実施例に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらは互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部又は全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施例において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0010】
さらに、以下の実施例において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合及び原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施例において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含むものとする。このことは、前述の数値及び範囲についても同様である。
【0011】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、実施例を説明するための全図において、同一の要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0012】
<実施例1>
図1は、本発明の実施例1のデータ処理システム30の物理的な構成を示すブロック図である。
【0013】
本実施例のデータ処理システム30は、プロセッサ(CPU)1、メモリ2、補助記憶装置3及び通信インターフェース4を有する計算機によって構成される。データ処理システム30は、入力インターフェース5及び出力インターフェース6を有してもよい。
【0014】
プロセッサ1は、メモリ2に格納されたプログラムを実行する演算装置である。プロセッサ1が、各種プログラムを実行することによって、データ処理システム30が提供する機能部(補正部320、介入提案・効果判定部330、入出力部340)が実現される。なお、プロセッサ1がプログラムを実行して行う処理の一部を、他の演算装置(例えば、ASIC、FPGA等のハードウェア)で実行してもよい。
【0015】
メモリ2は、不揮発性の記憶素子であるROM及び揮発性の記憶素子であるRAMを含む。ROMは、不変のプログラム(例えば、BIOS)などを格納する。RAMは、DRAM(Dynamic Random Access Memory)のような高速かつ揮発性の記憶素子であり、プロセッサ1が実行するプログラム及びプログラムの実行時に使用されるデータを一時的に格納する。
【0016】
補助記憶装置3は、例えば、磁気記憶装置(HDD)、フラッシュメモリ(SSD)等の大容量かつ不揮発性の記憶装置であり、データベース部310を構成する。また、補助記憶装置3は、プロセッサ1がプログラムの実行時に使用するデータ(例えば、分析結果データベース311など)、及びプロセッサ1が実行するプログラムを格納する。すなわち、プログラムは、補助記憶装置3から読み出されて、メモリ2にロードされて、プロセッサ1によって実行されることによって、データ処理システム30の各機能を実現する。
【0017】
通信インターフェース4は、所定のプロトコルに従って、他の装置(例えば、端末500)との通信を制御するネットワークインターフェース装置である。
【0018】
入力インターフェース5は、キーボード7やマウス8などの入力装置が接続され、オペレータからの入力を受けるインターフェースである。出力インターフェース6は、ディスプレイ装置9やプリンタ(図示省略)などの出力装置が接続され、プログラムの実行結果をオペレータが視認可能な形式で出力するインターフェースである。なお、データ処理システム30にネットワークを介して接続されたユーザ端末(図示省略)が入力装置及び出力装置を提供してもよい。この場合、データ処理システム30がウェブサーバの機能を有し、ユーザ端末がデータ処理システム30に所定のプロトコル(例えばhttp)でアクセスしてもよい。
【0019】
プロセッサ1が実行するプログラムは、リムーバブルメディア(CD-ROM、フラッシュメモリなど)又はネットワークを介してデータ処理システム30に提供され、非一時的記憶媒体である不揮発性の補助記憶装置3に格納される。このため、データ処理システム30は、リムーバブルメディアからデータを読み込むインターフェースを有するとよい。
【0020】
データ処理システム30は、物理的に一つの計算機上で、又は、論理的又は物理的に構成された複数の計算機上で構成される計算機システムであり、複数の物理的計算機資源上に構築された仮想計算機上で動作してもよい。例えば、補正部320、介入提案・効果判定部330、入出力部340は、各々別個の物理的又は論理的計算機上で動作するものでも、複数が組み合わされて一つの物理的又は論理的計算機上で動作するものでもよい。
【0021】
図2は、本発明の実施例1のデータ処理システム30の構成図である。
【0022】
実施例1のデータ処理システム30は、データベース部310、補正部320、介入提案・効果判定部330、及び入出力部340を有する。入出力部340は、小売りなどの民間事業者40から購買情報(いわゆるID-POSデータ)を受け付ける受付部341と、受け付けた購買データ毎に家族構成を推測する家族構成推測部343と、推測された家族構成から対象者を特定して、家族構成や年齢や性別などの対象者を特定するための情報を出力する対象者特定部344と、特定された対象者の購買情報を選択する購買情報選択部342と、介入提案・効果判定部330の出力結果から特定された対象者の情報を選択する結果選択部345と、対象者の情報と商品販売上のアドバイスを出力する出力部346とを有する。
【0023】
民間事業者40は、POSシステムを用いて、出力部346から出力されたアドバイスに従って、当該対象者に適する商品の購入を促す宣伝をする。
【0024】
データベース部310は、分析結果データベース311を有する。分析結果データベース311は、自治体健康データシステム20から提供された、自治体などが保有する健康データ210の分析結果を格納する。補正部320は、購買情報から栄養素情報に変換する情報変換部322とを有する。介入提案・効果判定部330は、健康予測モデル331と、アドバイス生成部332と、介入効果判定部333とを有する。介入提案・効果判定部330は、健康予測モデル331と、アドバイス生成部332と、介入効果判定部333とを有する。
【0025】
自治体健康データシステム20は、住民10の健康データ210が収集されており、健康データ210を分析して、将来の健康状態を予測するデータ分析・健康予測部220と、将来の健康状態の予測結果に基づいて、住民10へのアドバイスを生成するアドバイス生成部230とを有する。
【0026】
入出力部340が、選択された購買情報を受け付けると、補正部320は、受け付けられた購買情報を栄養素情報に変換する。健康予測モデル331は、栄養素情報を用いて対象者の健康を予測する。アドバイス生成部332は、健康予測と対象者情報とに基づいてアドバイスを生成する。介入効果判定部333は、購買情報の時系列変化などに基づいて、その変化による効果を判定する。介入効果判定部333は、例えば、モデルベースで構成するとよい。入出力部340は、生成されたアドバイスと介入効果の対象者を選定し、生成されたアドバイスと介入効果を選定された対象者に出力する。
【0027】
健康予測モデル331は、健康データ210から機械学習などに基づいて生成されるとよいが、前述の通り自治体が保有する健康データ210の活用は困難である。本実施例では、健康データ210を統計的に分析した結果や匿名化されたデータを分析結果データベース311に格納し、分析結果データベース311に基づいて健康予測モデル331を作成する。分析結果データベース311は個人情報を含まない統計情報や匿名化データを格納するため、住民などから同意を得る必要がない。
【0028】
次に、分析結果データベース311について説明する。まず、図3に示すように、健康データ210における各被験者の摂取栄養素情報をN次元空間(Nは正の整数)にマッピングし、クラスタリングする。接種栄養素情報は、主成分分析(PCA)などで次元数を低減して、関連性の強い栄養素を纏めて、計算コストを低減してもよい。次に、各クラスタ(図3におけるCL-1、CL-2、CL-3、CL-4、CL-5)ごとにアウトカムに対する重回帰モデルの各栄養素の偏回帰係数と切片を計算する。アウトカムは、対象者の健康に影響する因子であり、例えば、妊婦を対象にするアウトカムは、子どもの出生体重や腸内細菌叢の多様性などであり、高齢者を対象とするアウトカムは、フレイル危険度や認知症危険度や心疾患リスクなどである。なお、重回帰モデルではなく、学習済ニューラルネットワークを用いてもよい。
【0029】
健康予測モデル331は、対象者の栄養素情報から、その栄養素情報が上述したどのクラスタに属するかを判定し、属するクラスタの重回帰モデルを適用する。
【0030】
図4は、分析結果データベース311に記録されるアウトカムに対する各クラスタでの偏回帰係数と切片の例を示す図であり、腸内細菌叢多様性をアウトカムとした場合の重回帰モデルにおける摂取栄養素の偏回帰係数と切片を示す。分析結果データベース311には、図3のクラスタ情報(各クラスタの表面座標情報や重心情報など)と、図4の各アウトカムに対する偏回帰係数と切片の情報が登録される。偏回帰係数と切片は重回帰モデルの説明変数であり、アウトカムは重回帰モデルの目的変数である。
【0031】
重回帰モデルは、後述する手順で作成できる。まず、対象者の摂取栄養情報をマッピングし、該当するクラスタを特定する。マッピングされた座標がクラスタとクラスタの隙間や、クラスタの外側に位置して、いずれのクラスタにも属さない場合、マッピングされた座標と重心が最も近いクラスタに属するように定めることで、どのクラスタにも属さない状況を回避できる。また、クラスタの特定は、マッピングされた座標と各クラスタの重心情報から、重心までの距離が最も近いクラスタに属するように定めてもよい。この場合、クラスタの表面座標情報は不要となるため、データ容量や計算コストを低減できる。特定されたクラスタの偏回帰係数と切片に基づいて、アウトカムを予測する重回帰モデルを作成する。全要素で重回帰モデルを作成する場合、例えば2次関数となる要素については正しくないモデルとなるが、クラスタに分けることによって、クラスタ内では線形に近似できる可能性が高まるため、より正確なモデルを作成でき、多様性を考慮して適切なアドバイスを生成できる。
【0032】
実施例1のデータ処理システム30は、演算処理を実行する演算装置(プロセッサ1)と、プロセッサ1がアクセス可能な記憶装置(メモリ2、補助記憶装置3)とを備え、入力データを受け付ける受付部341と、入力データを変換する情報変換部322と、栄養素情報及びアウトカムに基づいて生成された健康予測モデル331と、健康予測モデル331による予測結果に基づく対象者の情報を出力する出力部346とを有し、受付部341は、事業者の顧客に関する入力データを受け付け、情報変換部322は、入力データを事業者の顧客が摂取した栄養素を示す顧客栄養素情報に変換し、健康予測モデル331は、顧客栄養素情報から健康を予測し、出力部346は、予測結果に基づいて、対象者の健康のためのアドバイス又は対象者の情報を事業者に出力するので、民間事業者の行為によって住民の健康を増進でき、医療費を低減できる。民間事業者は、自治体が保有する健康データに直接アクセスすることなく、コホート研究から得られる知見を活用できる。このデータを用いて健康サービスを展開でき、サービス拡充によるユーザ拡大や購買予測による在庫最適化が期待され、利益を向上できる。
【0033】
<実施例2>
前述した実施例1では、購買情報から得られた栄養素情報を対象者のある期間中の全摂取栄養素として扱っているが、実際には対象者は複数の小売店で食品を購入したり、外食をしたりするため、購買情報に含まれない栄養素も摂取している。従って、特定の小売店の購買情報だけでは正確な摂取栄養素を得られない課題がある。実施例2では、補正部320に購買情報補正部321を設けて、この課題を解決する。実施例2において、前述した実施例1との相違点を主に説明し、実施例1と同じ構成及び機能の説明は省略する。
【0034】
図5は、実施例2のデータ処理システム30の構成図である。
【0035】
実施例2のデータ処理システム30は、データベース部310、補正部320、介入提案・効果判定部330、及び入出力部340を有する。補正部320は、購買情報補正部321と、購買情報から栄養素情報に変換する情報変換部322とを有する。
【0036】
図6は、実施例2の購買情報補正部321の構成図である。
【0037】
購買情報補正部321は、一人当たり平均購買算出部3211と、比較器3210と、要因判定部3216と、補正値生成部3217と、乗算器3212、3213、3214と、加算器3215とを有する。
【0038】
一人当たり平均購買算出部3211は、複数の対象者の購買情報と家族構成情報を用いて基準値を算出する。家族構成情報は対象者から提供を受けても、購買情報から推測してもよい。一人当たり平均購買算出部3211は、入力された購買情報を分類器によって購買項目ごとに分類し、購買項目ごとの購買情報と家族構成情報から、基準値となる購買項目ごとの一人当たりの平均購買量を算出する。購買項目は、例えば、穀類、肉類、魚類、大豆製品類、乳製品類、野菜類、芋類、海藻類、果物類、油脂類、調味料類などの項目であり、一般的に図7に示す分布となる。平均購買量は、購入金額や重量である。
【0039】
対象者の購買量が少ない要因はいくつか考えられる。(1)別の小売店でも購入している、(2)一部の食品を別の小売店で購入している(野菜は八百屋で購入、米はインターネットで購入など)、(3)趣味や趣向から特定の食品を購入しない、などである。要因(3)は補正する必要はないが、要因(1)と要因(2)による購入量の低下を補正するため、まず、比較器3210は、算出した基準値と対象者の購買情報とを比較する。算出した基準値と対象者の家族構成から、基準となる購買情報を算出し、対象者の購買情報と比較する。要因(1)の場合には、全体的に購入量が少なくなる。従って、要因判定部3216は、対象者の購買情報における各購買項目の購買量の平均値の基準となる購買情報に対する比(k1)が閾値1(th1)以下であれば、要因(1)であると判定する。閾値1(th1)としては、基準値の算出で用いた複数の対象者の購買情報の平均値から標準偏差を減じた値を採用することで、統計的に意味のある閾値となる。要因(1)と判定された対象者の購買情報は、全項目に対してth1/k1を乗じて補正する。具体的には、補正値生成部3217が補正値を生成し、乗算器3214が、生成された補正値を対象者の購買情報と乗じて出力する。このような補正によって、要因(1)による購買量の低下を補正でき、k1に対して不連続な購買量となることを防ぐことができる。また、k1が極めて小さい場合、補正による誤差が大きくなるおそれがあるため、k1がある閾値2(th2)以下の場合には補正不能として、その後のプロセスから除外すると、低い精度の健康予測を抑制できる。閾値2(th2)としては、基準値の算出で用いた複数の対象者の購買情報の平均値から2×標準偏差を減じた値を採用することで、統計的に意味のある閾値となる。
【0040】
要因(2)と要因(3)とは区別が困難であるが、穀類と野菜類が極端に少ない場合には要因(2)と判定できる。要因(1)に該当せず、穀類や野菜類の購買量が所定の閾値3(th3)以下であれば、要因判定部3216が要因(2)と判定する。閾値3(th3)としては、基準値の算出で用いた複数の対象者の購買情報の平均値から2×標準偏差を減じた値を採用することで、統計的に意味のある閾値となる。閾値3以下の穀類と野菜類の購買量は、平均購買情報×th3/平均値に補正することで、過度の補正を抑制しつつ連続性を確保する。具体的には、補正値生成部3217が補正値を生成し、乗算器3213が生成された補正値を一人当たり購買平均量と対象者の家族構成と乗じて出力する。
【0041】
要因判定部3216は、補正不要又は要因が不明と判定した場合、乗算器3213及び3114に補正値1を出力する。
【0042】
加算器3215は、乗算器3213の出力と乗算器3214の出力とを加算し、補正後の栄養素情報として出力する。以上により、別の小売店での購入が要因で低下している購買量を補正できる。
【0043】
実施例2のデータ処理システム30は、情報変換部322へ入力されるデータを補正する購買情報補正部321を有し、受付部341は、事業者の顧客の購買情報を受け付け、購買情報補正部321は、所定の閾値より購買量が小さい購買情報に補正値を乗じて補正するので、広いユーザの健康を予測でき、より多くの対象者の健康を正確に予測できる。
【0044】
また、購買情報補正部321は、事業者の顧客の購買情報と事業者の複数の顧客の購買情報とを比較する比較器3210と、比較器3210による比較結果に基づいて事業者の顧客の購買情報の購買量が少ない要因を判定する要因判定部3216と、判定された要因に対応する補正値を生成する補正値生成部3217とを有し、購買情報補正部321は、購買情報に生成された補正値を乗じて、購買情報を補正するので、推測された要因毎に購買量の補正が可能となり、対象者の特性に合わせて適切な補正でき、正確に健康を予測できる。
【0045】
<実施例3>
前述した実施例1では、購買情報から抽出された栄養素情報と分析結果データベース311の栄養素情報を同様に扱っている。どちらも同じ種類の情報から抽出された栄養素情報であればこのような扱いが可能であるが、多くの場合に異なっている。自治体の健康データ210における栄養素情報として広く用いられているものにBDHQ(簡易型自記式食事歴法質問票:Brief-type self-administered Diet History Questionnaire)がある。BDHQは、対象者へのアンケートに基づいて栄養素や食品の摂取状態を定量的に調べるものである。BDHQと購買情報のように、異なる方法で得られた栄養素情報を同じ栄養素情報として扱うと、正確性が低下する。実施例3では、補正部320に栄養素情報比較・補正部323を設けて、この課題を解決する。実施例3において、前述した実施例1との相違点を主に説明し、実施例1と同じ構成及び機能の説明は省略する。
【0046】
図8は、実施例3のデータ処理システム30の構成図である。
【0047】
実施例3のデータ処理システム30は、データベース部310、補正部320、介入提案・効果判定部330、及び入出力部340を有する。データベース部310は、分析結果データベース311と、栄養調査データベース312とを有する。栄養調査データベース312は、厚生労働省の栄養調査データを格納する。栄養調査データベース312は、オンラインで参照するように構成してもよい。補正部320は、購買情報から栄養素情報に変換する情報変換部322と、栄養素情報比較・補正部323とを有する。介入提案・効果判定部330は、健康予測モデル331と、アドバイス生成部332と、介入効果判定部333とを有する。
【0048】
図9は、実施例3の栄養素情報比較・補正部323の構成図である。
【0049】
栄養素情報比較・補正部323は、比較器3230と乗算器3231とを有し、厚生労働省の栄養調査結果を補正のための基準値として使用する。栄養調査はBDHQにて行われており、基準値として適している。比較器3230は、厚労省の栄養調査結果における各種摂取栄養素と、購買情報から計算された各種摂取栄養素とを比較し、各摂取栄養素ごとに前者に対する後者の比(kk1~kkn、nは栄養素の総数)を計算する。乗算器3231は、kk1~kknを補正値として乗じて、対象者の栄養素情報を補正する。厚労省の栄養調査結果は都道府県ごとに調査されており、地域特性を考慮して補正できる。
【0050】
以上に、実施例2と実施例3を別個に説明したが、実施例2と実施例3とを組み合わせて、実施例2と実施例3との両方の要素を含むのデータ処理システムを構成してもよい。
【0051】
実施例3のデータ処理システム30は、栄養調査データベースから取得したデータと前記顧客栄養素情報との比較結果に基づいて、健康予測モデルへ入力される顧客栄養素情報を補正する栄養素情報比較・補正部323を有するので、購買情報と栄養素情報とのミスマッチを解消し、予測精度を向上できる。
【0052】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。
【0053】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0054】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【0055】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0056】
1:プロセッサ(CPU)
2:メモリ
3:補助記憶装置
4:通信インターフェース
5:入力インターフェース
6:出力インターフェース
7:キーボード
8:マウス
9:ディスプレイ装置
10:住民
20:自治体健康データシステム
30:データ処理システム
40:民間事業者
210:健康データ・データベース
220:データ分析・健康予測部
230:アドバイス生成部
310:データベース部
311:分析結果データベース
312:栄養調査データベース
320:補正部
321:購買情報補正部
322:情報変換部
323:栄養素情報比較・補正部
330:介入提案・効果判定部
331:健康予測モデル
332:アドバイス生成部
333:介入効果判定部
340:入出力部
341:受付部
342:購買情報選択部
343:家族情報推測部
344:対象者特定部
345:結果選択部
346:出力部
3210:比較器
3211:一人当たり平均購買量算出部
3212、3213、3214:乗算器
3215:加算器
3216:要因判定部
3217:補正値生成部
3230:比較器
3231:乗算器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9