(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112626
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】ヘルムホルツ吸音器によるスピーカの音質改善の方法及び装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/28 20060101AFI20230804BHJP
G10K 11/172 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
H04R1/28 310Z
G10K11/172
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014556
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】519050163
【氏名又は名称】合同会社日野春サウンドデザイン
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 敏
【テーマコード(参考)】
5D018
5D061
【Fターム(参考)】
5D018AA10
5D018AD17
5D061CC04
(57)【要約】
【課題】後面開放型スピーカ及び平面バッフル型スピーカにおいて振動板の前面と背面から出る音が干渉し周波数特性にピークディップを作る現象及び低域を低下させる現象と、後面開放型スピーカにおいてスピーカボックスの共鳴、定在波により周波数特性にピークを作る現象を改善する方法及び装置を提供する。
【解決手段】ヘルムホルツ吸音器の装置全体もしくは一部が、振動板背面から出る音の流れを抑制、調整し、振動板背面から出て周波数特性を悪化させている周波数の音を効率的に吸音する。振動板背面から出る音と振動板前面から出る音の吸音量の差を大きくすることで、ピークを高音質に改善し、干渉によるディップ及び低域の低下も改善することができる。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
後面開放型スピーカまたは平面バッフル型スピーカにおいて、
スピーカユニットの振動板前面から出た音に振動板背面から出て逆位相で干渉することにより周波数特性にディップまたは低域のレベル低下を生じさせている周波数の音を、
ヘルムホルツ吸音器で振動板背面から集中的に吸音することで、振動板前面から出る音と背面から出る音の吸音量の差を大きくして、
周波数特性のディップまたは低域のレベル低下を改善する方法。
【請求項2】
後面開放型スピーカ及び平面バッフル型スピーカにおいて、
スピーカユニットの振動板前面から出た音に振動板背面から出て同位相で干渉することにより周波数特性にピークを生じさせている周波数の音及び、
後面開放型スピーカにおいて、スピーカユニット背面から出た音がスピーカボックスに起因する共鳴または定在波により特定の周波数で増大し周波数特性にピークを作っている周波数の音を、
バッフル板の裏側またはスピーカボックス内部でヘルムホルツ吸音器を用いて吸音することにより、
周波数特性のピークを改善する方法。
【請求項3】
スピーカシステムのための吸音装置であって、
漏斗形などスピーカユニットの後部に覆い被せられる形状の吸音口を持ち、
吸音口には1つ以上のヘルムホルツ吸音器を接続している
吸音装置。
【請求項4】
後面開放型スピーカまたは平面バッフル型スピーカであって、
スピーカユニットの背面に筒状の音道が形成してあって、
音道にヘルムホルツ吸音器の吸音孔がついている、
スピーカシステム。
【請求項5】
後面開放型スピーカであって、
ヘルムホルツ吸音器の筐体がスピーカボックス内に狭い音道を形成するように配置され、
ヘルムホルツ吸音器の形状または置き方またはスピーカボックス内部の幅を調整することでスピーカユニットの背面の開放の程度を調節でき、
ヘルムホルツ吸音器の吸音孔が音道の最も狭い部分あるいはそれよりもスピーカユニットに近い位置に吸音孔が設けられた、
スピーカシステム。
【請求項6】
後面開放型スピーカであって、
スピーカボックス内部にホーンが形成され、
ホーンの内部にはヘルムホルツ吸音器が形成され、
ホーンの狭い部分の幅を調節することでスピーカユニットの背面の開放の程度を調節でき、
ホーンの最も狭い部分またはそれよりもスピーカユニットに近い位置に吸音孔が設けられた、
スピーカシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後面開放及び平面バッフル型スピーカに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は後面開放及び平面バッフル型スピーカに関するものである。共にスピーカユニットの背面側が大きく開放された構造であり、類似している。共通点、異なる点を説明した後、詳細を述べる。
【0003】
図1は後面開放型スピーカ1の斜視図を、
図2は後面開放型スピーカ1の振動板の前後から出る音がL1とL2の経路で聴取者3に届く様子を表す。
図3のグラフは後面開放型スピーカ1の周波数特性の一例である。
【0004】
図4は平面バッフル型スピーカ2の斜視図を、
図5は平面バッフル型スピーカ2の振動板の前後から出る音がL3とL4の経路で聴取者3に届く様子を表す。
図6は平面バッフル型スピーカ2の周波数特性の一例である。
【0005】
図2と
図5を見比べてわかるように、後面開放型スピーカは平面バッフル型スピーカの端を折り曲げたものである。共に、振動板背面から出た音をそのまま背面方向に放射していること、振動板背面が開放されているためバスレフ型や密閉型スピーカシステムに比べ振動板の動きがスピーカユニット背面の空気圧の影響を受けにくいこと、後面開放型スピーカは奥行きが浅くなるに従い平面バッフル型スピーカと違いが無くなることなど、類似した形式と言える。
図3は後面開放型スピーカの、
図6は平面バッフル型スピーカの、振動板前面から出た音と振動板背面から出た音の経路長の差が0.34mのときの周波数特性の一例である。
図3と
図6の形が類似しているのは、ピーク1002を除けば、周波数特性の乱れが振動板前面から出た音と振動板背面から出た音の波の干渉によって生じており、ピークとディップの周波数が経路長の差で決まるからである。違いであるピーク1002は後面開放型スピーカだけがスピーカユニット背面に箱形状を持っていることに起因しており、箱の部分に共鳴が発生して生じたためである。他、箱内部の定在波による周波数特性の悪化が起こる場合がある。
【0006】
以降、平面バッフル型スピーカの欠点を合わせ持つ後面開放型スピーカを主として、欠点と原因の詳細、従来の対策技術を述べる。
【0007】
図1は後面開放型スピーカ1の外観を示す斜視図である。
図2は
図1におけるA-A’線断面図と聴取者3の位置関係を表した図である。
図3は後面開放型スピーカ1の周波数特性の一例である。
後面開放型スピーカ1に取り付けられたスピーカユニット4の振動板前面から出た音はL1の経路で、振動板背面から出た音はL2の経路で聴取者3に届く。ここではこれ以降、L2とL1 の差が波長の1/2になる周波数を fc と呼ぶ。音速がcのとき
【数1】
である。
図1、
図2、
図3は、一例として、L2-L1=0.34m、音速340m/sec、としたもので、fc は500Hzとなる。なお、平面バッフル型スピーカ2では、
図5のL4-L3が、
図2のL2-L1に当たり、同じように考えることができる。
【0008】
図3で fc にあたる500Hzにあるピーク1001が約2.5dBのピークになっているのは、スピーカユニット4の振動板前面から出てL1の経路で聴取者3に到達した音と、スピーカユニット4の振動板背面から逆位相で出てL2の経路で聴取者3に到達した音の、位相が一致する周波数のためである。fcより低い周波数ではL2-L1の距離差が音の1/2波長よりも短くなるため干渉によるピークディップは現れなくなり、
図3の低域のレベル低下1004のようにハイパスフィルタを通したかのように低域が低下してしまう。これは後面開放型スピーカ及び平面バッフル形スピーカの大きな欠点であった。
図3のディップ1003にあたる2fc においてはL2とL1の差が1波長分になる。元々振動板背面から出る音は振動板前面から出る音に対して逆位相であるため、1波長の距離で完全な逆位相となり、打ち消し合って最小ではゼロに近くなるが、実際はL2の経路の方が減衰が大きいため、その分ディップは浅くなる。3fc以降もピークとディップは交互に現れるが、徐々にピーク・ディップは小さくなる。
【0009】
後面開放型のみの欠点として、スピーカユニット4の振動板背面から出た音に対して、スピーカボックスに起因する 共鳴、定在波、などが発生し周波数特性を悪化させることがある。これは振動板前面と背面から出た音の波の干渉ではなく、振動板背面から出た音とスピーカボックスとの関係で発生する。共鳴によるピークは急峻で高く、音質を大きく損ねるが対策は難しかった。非特許文献1には、コーンの振動方向によって生じる共振であり後面解放のために防ぐ方法は無いので奥行きを最小にして影響を少なくする、旨が書かれている。しかし奥行きを小さくすることはfcを高くすることに直結するため低音再生能力とトレードオフになりやすい。
図3のグラフで 400Hz に出ているピーク1002がこれに当たる。
【0010】
これらの欠点に対する従来の改善技術を挙げる。
【0011】
スピーカシステムの形式については触れられていないが、スピーカシステムの周波数特性改善のためにヘルムホルツ吸音器を使用したものとしては特許文献1、特許文献2がある。
しかしながら、どちらもスピーカユニット振動板の直近では無くバッフル面に吸音孔が開いているため振動板前面と背面から出た音を区別無く吸音してしまい、振動板背面から出た音が原因で周波数特性にピークを作っている場合には、ピークを小さくする効果はあるものの、原因となっている振動板背面から出る音を選択的に吸収する方法に比べると効果と音質の点で不利である。また、振動板前面と背面から出た音の吸収量の差が小さいため、波の干渉により発生する周波数特性のディップや低域の低下を改善することは難しく、説明の記述からも干渉によるディップや低域の低下を改善する意図は無いと考えられる。
【0012】
なお、特許文献1には「高品質のステレオ等におけるスピーカシステムでは、スピーカのキャビネット内もしくはスピーカシステムの設置される室内にヘルムホルツ共鳴器を配置し、特定の周波数の信号を減衰せしめ、特性の改善を行うようにしたものがあった」との記述がある。
【0013】
しかし、後面開放及び平面バッフル型スピーカは、バスレフ型等と違ってスピーカユニット背面が大きく開放されているため音がすぐに拡散してしまい、本発明で行っているような吸音効率を上げる工夫を行わなければヘルムホルツ吸音器による改善対策は効果を得にくいものである。ヘルムホルツ吸音器を用いて音質改善をおこなった後面開放及び平面バッフル型スピーカ、及び先行技術は感知していない。
【0014】
後面開放型スピーカの低域の低下に対する改善技術としては特許文献3がある。振動板背面を分割し、一部を後面開放型とし、一部を位相反転型とするか、パッシブラジエータを介して出力する方法である。しかしながら、この方法はスピーカユニットも専用設計する必要があり一般的なスピーカユニットには適用が困難である。また、低域の改善が主でありヘルムホルツ吸音器を使った場合のようにピークディップの出来た周波数をピンポイントで改善することはできない。
【0015】
ほかに、非特許文献1には、バッフルの形状を不整形にする、スピーカユニットの取り付け位置を工夫する、スピーカボックスの側板同士が平行面にならないようにする、スピーカボックスの内側にグラスウールやフェルトを貼り付ける、スピーカボックスの奥行きをなるべく浅くする、スピーカボックスの各辺の寸法比が整数倍にならないようにする、が挙げられている。非特許文献2もほぼ同じであるが、ほかに、スピーカシステムの室内での配置を工夫する、が挙げられている。しかしながら、これらは定石として設計初期段階では有用であるが、筐体デザイン全体に関わるものが多く、改善対策としては適用が難しいことがある。
【0016】
先行技術として、スピーカユニットの振動板前面から出た音と振動板背面から出た音が干渉して発生する周波数特性のディップまたは低域のレベル低下を、振動板背面から出る音を集中的に吸音し、振動板前面から出る音と背面から出る音の吸音量の差を大きくすることで改善する方法、は感知していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【0018】
【0019】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】山本武夫編著、スピーカ・システム(下)、初版、株式会社ラジオ技術社、1977年7月15日、p.252-256
【0021】
【非特許文献2】佐伯多門監修、新版スピーカー&エンクロージャー百科、第2刷、株式会社誠文堂新光社、2001年4月10日、p.114-115
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
後面開放及び平面バッフル型スピーカにおいて、スピーカユニット前面から出る音に背面から出る音が干渉し、規則的なピーク・ディップを発生したり、低域が減衰する現象。
【0023】
後面開放型スピーカにおいて、スピーカユニット背面から出た音がスピーカボックスに起因する共鳴または定在波により特定の周波数で増大し、周波数特性にピークを作る現象。
【課題を解決するための手段】
【0024】
後面開放型スピーカまたは平面バッフル型スピーカにおいて、スピーカユニットの振動板前面から出た音に振動板背面から出て逆位相で干渉することにより周波数特性にディップまたは低域のレベル低下を生じさせている周波数の音を、ヘルムホルツ吸音器で振動板背面から集中的に吸音することで、振動板前面から出る音と背面から出る音の吸音量の差を大きくして、周波数特性のディップまたは低域のレベル低下を改善すること、を特徴とする。
【0025】
後面開放型スピーカ及び平面バッフル型スピーカにおいてスピーカユニットの振動板前面から出た音に振動板背面から出て同位相で干渉することにより周波数特性にピークを生じさせている周波数の音及び、後面開放型スピーカにおいて、スピーカユニット背面から出た音がスピーカボックスに起因する共鳴または定在波により特定の周波数で増大し周波数特性にピークを作っている周波数の音を、バッフル板の裏側またはスピーカボックス内部でヘルムホルツ吸音器を用いて吸音することにより、周波数特性のピークを改善すること、を特徴とする。
【0026】
スピーカシステムのための吸音装置であって、漏斗形などのスピーカユニットの後部に覆い被せられる形状の吸音口を持ち、吸音口には1つ以上のヘルムホルツ吸音器を接続していること、を特徴とする。
【0027】
後面開放型スピーカまたは平面バッフル型スピーカであって、スピーカユニットの背面に筒状の音道が形成してあって、音道にヘルムホルツ吸音器の吸音孔がついている、ことを特徴とする。
【0028】
後面開放型スピーカであって、ヘルムホルツ吸音器の筐体がスピーカボックス内に狭い音道を形成するように配置され、ヘルムホルツ吸音器の形状または置き方またはスピーカボックス内部の幅を調整することでスピーカユニットの背面の開放の程度を調節でき、ヘルムホルツ吸音器の吸音孔が音道の最も狭い部分あるいはそれよりもスピーカユニットに近い位置に吸音孔が設けられている、ことを特徴とする。
【0029】
後面開放型スピーカであって、スピーカボックス内部にホーンが形成されており、ホーンの内部にはヘルムホルツ吸音器が形成され、ホーンの狭い部分の幅を調節することでスピーカユニットの背面の開放の程度を調節でき、ホーンの最も狭い部分またはそれよりもスピーカユニットに近い位置に吸音孔が設けらている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
後面開放及び平面バッフル型スピーカの、振動板前面から出る音と振動板背面から出る音の干渉に起因する、周波数特性のピーク・ディップ及び低域の減衰を改善することができる。
【0031】
後面開放型スピーカの振動板背面から出る音によりスピーカボックス内部に共鳴や定在波が発生することでできる、周波数特性のピークを改善することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明を実施していない後面開放型スピーカ1の斜視図である。
【
図2】後面開放型スピーカ1
図1のA-A’断面図と聴取者3の位置関係を描いた図である。
【
図3】
図2においてL2-L1=0.34m、音速340m/sのときの周波数特性の一例である。
【
図4】本発明を実施していない平面バッフル型スピーカ2の斜視図である。
【
図5】
図4の平面バッフル型スピーカ2
図4のB-B’断面図と聴取者3の位置関係を描いた図である。
【
図6】
図5においてL4-L3=0.34m、音速340m/sのときの周波数特性の一例である。
【
図7】後面開放型スピーカ1での本発明の(実施例1)の斜視図である。
【
図8】
図7の後面開放型スピーカ1(実施例1)の吸音器100のみを描いた斜視図である。
【
図9】後面開放型スピーカ1(実施例1)
図7のC-C’断面図と聴取者3の位置関係を描いた図である。
【
図10】
図7の後面開放型スピーカ1(実施例1)による周波数特性の改善の一例である。実線が改善前、点線が改善後である。
【
図11】平面バッフル型スピーカ2での(実施例2)の斜視図である。
【
図12】後面開放型スピーカ1(実施例3)の斜視図である。
【
図13】後面開放型スピーカ1(実施例3)の円柱形のヘルムホルツ吸音器200のみを描いた斜視図である。
【
図14】後面開放型スピーカ1(実施例3)の
図12のD-D’断面図である。
【
図15】平面バッフル型スピーカ2(実施例4)の斜視図である。
【
図16】平面バッフル型スピーカ2(実施例4)を後側から見た斜視図である。
【
図17】平面バッフル型スピーカ2(実施例4)
図15 のE-E’断面図である。
【
図18】平面バッフル型スピーカ2(実施例4)
図15 のF-F’断面図である。
【
図19】平面バッフル型スピーカ2(実施例5)の斜視図である。
【
図20】平面バッフル型スピーカ2(実施例6)の斜視図である。
【
図21】後面開放型スピーカ1(実施例7)の斜視図である。
【
図22】後面開放型スピーカ1(実施例7)
図21の左上のヘルムホルツ吸音器のみを描いた斜視図である。
【
図23】後面開放型スピーカ1(実施例7)
図21のG-G’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。また、実施例1にて改善方法の詳細を併せて述べる。
【実施例0034】
図7は本発明の後面開放型スピーカ1での一実施例を示す斜視図である(実施例1)。ヘルムホルツ共鳴器は共鳴周波数で吸音する性質があるので吸音器として利用している。スピーカボックス内部に設置した吸音器100は、
図8に詳細を示す4つの音響的に独立したヘルムホルツ吸音器の容器部分103と4つに共用の吸音口102からなる。4つのヘルムホルツ吸音器は、別々の周波数を吸音させることも、いくつかを同じ周波数で吸音させることも可能である。ヘルムホルツ吸音器の数に制約はなく、必要性、コスト、機器の大きさ、などから決める。
【0035】
図9は
図7のC-C’断面図と聴取者3の位置関係を描いた図である。吸音口102をスピーカユニット4の背面に隙間をもたせてかぶせる、隙間の大きさを調整することで、振動板背面から出た音に対する吸音効率と、後面開放型スピーカとしての動作に関わるスピーカ後面の開放の程度、を調整する。吸音口102と振動板背面が近いほど、振動板背面から出た音は拡散していないことと、吸音口102自体も振動板背面に近づけるほど音の拡散を妨げるため、振動板背面から出た音に対する吸音効率が向上するからである。反面、近づけすぎると後面開放型スピーカの長所である、振動板にスピーカボックスに起因する空気圧がかからないことや、ダイポール形の音の指向性、は損なわれるため、調整が重要となる。調整の際、聴感上の差異は試聴によって行い、特性面への影響は再生音の周波数特性とインピーダンスカーブの変化を測定することによって、評価できる。なお、吸音口102はここに挙げた機能を満足すれば良いため、漏斗形に限るものでは無く、例えば、シャーレ形やお椀形でも良い。
【0036】
図7において、スピーカボックス内部に周波数選択性の少ない吸音材であるスポンジ12を貼って定在波を防いでいるが、最終的に不要の場合は取り除く。
【0037】
図8は吸音器100のみを描いたものであるが、吸音口102と筒状の吸音孔104を除いた全体の形状は涙滴形である。目的は、音を遮ぎることを最小限に抑え、スピーカボックス壁面と平行面を作らないようにするためである。よって目的に合っていれば、球形、円柱形、多角形などでも良く、ヘルムホルツ吸音器の容器部分103をスピーカボックスの外側に出してしまっても良い。
【0038】
改善方法の一例を示す。最初に吸音器100を入れる前のスピーカシステムの周波数特性を測定し、振動板前後から出る音の干渉、またはスピーカボックス内部の共鳴や定在波の影響でピークになっている周波数を特定する。次に振動板前後から出る音の干渉によりディップになっている周波数、及び干渉により低域が低下している範囲を特定する。振動板前面から出た音が原因であれば、例えばスピーカボックス背面を板で完全に塞ぐことで改善するため、原因を切り分けることが出来る。なお、吸音器100を入れることで容積や音の経路変化し周波数特性が変わることがあるため、吸音孔104を塞いだ状態の吸音器100を入れた状態でも測定して変化を確認する。
【0039】
改善対象とする周波数を特定したら、4つヘルムホルツ吸音器をどの周波数の対策に充てるかを決め、筒状の吸音孔104の長さと太さを調整しヘルムホルツ共鳴の共鳴周波数を合わせる。必要ならばヘルムホルツ吸音器の容器部分103の容積も変更する。実施例1では吸音する周波数を250Hz、400Hz、500Hz、1000Hzに設定している。
【0040】
次に、吸音器100をスピーカボックス内に設置し吸音口102とスピーカユニット4の背面との距離を変えながら測定と試聴により設置位置を決める。仮に、吸音口102をバッフル板に密着し隙間が無くなる位置まで近づけた場合、それは後面開放型スピーカでは無くなってしまうが、振動板背面から出た音は外に出てこないため背面から出る音に起因するピークディップや低域の低下は完全に解決する。逆に、吸音口102を遠く離すほど完全な後面開放型スピーカの動作に近くなるが、ヘルムホルツ吸音器の効果はとても小さくなる。スピーカ背面を完全に覆った位置と、遠く離した位置、の間にバランスの良い点があれば完了となる。位置を調整しながら、周波数特性の改善と音質、がどちらも許容値以上であれば完了とし、位置を変えてもうまくいかないときは、各ヘルムホルツ吸音器の周波数設定、吸音口102の漏斗の大きさ、ヘルムホルツ吸音器の数、スピーカシステムに求める音質及び性能の見直し、も含めてカットアンドトライを繰り返す。
【0041】
実施例1の作用効果。
図10に本発明を入れる前後の周波数特性の一例を示す。
ピーク1001、ピーク1002、ディップ1003と低域のレベル低下1004、について個々に説明する。
【0042】
図9は
図7のC-C’断面図と聴取者3の位置関係を描いた図である。500Hzにあるピーク1001は振動板前面から出る音と背面から出る音の干渉によって生じている。干渉によるピークは位相が合った波の加算になるので条件により最大で2倍、+6dBとなる。ピークを下げるために吸音器を使う場合、振動板前面から出る音であっても背面から出る音であっても吸音した分 周波数特性のピークは下がる。しかし、振動板前面から出た音を多く吸音して聴取者3の位置で振動板後面から出た音の比率が大きくなると、その周波数だけはL2の経路で到達するため、他の周波数の音に対して遅れた音を聴くことになる。音質を考慮すれば、振動板前面から出る音はできるだけ吸音せず背面から出る音を吸音する方が望ましい。また、振動板から出た音は周波数と条件により程度に差はあるが空間が開けていれば拡散するため、拡散してからでは吸音効率が悪化する。ここでは
図9のように振動板背面から出た音が拡散する前に漏斗状の吸音口で吸音している。また、その位置は振動板前面から最も遠い位置でもある。よって振動板前面から出る音に比べ振動板背面から出る音を多く吸音することができる。
図10の例では対策により2dB程度改善されている。
【0043】
ピーク1002は振動板背面から出た音がスピーカボックス11で共鳴し増大したものである。スピーカボックス形状により、ヘルムホルツ共鳴、気柱の共鳴、定在波、などでもピークは発生するが、振動板背面から出た音がスピーカボックスによりピークを作ったものであればいずれも本発明の効果がある。これは、振動板の前と後から出た音の干渉ではなく、振動板背面から出た音が増大したものであるから、原因ではない振動板前面から出る音を吸音するよりも、振動板背面から出る音を吸音する方が効果的であり、音質の面でも望ましい。よって対策方法もピーク1001と同様である。
図10の例では対策によりほとんどピークが消失している。なお、このピークはスピーカボックスを持たない平面バッフル型スピーカには発生しない。
【0044】
ディップ1003はピーク1001と同様に振動板前面から出る音と背面から出る音の干渉によって生じているが、ディップである点が異なる。ディップの場合は振動板前面から出る音と比較して振動板背面から出る音をより多く吸音しなければ逆にディップが深くなってしまうことがあり注意が必要である。次に概算を示す。
【0045】
図10に実線で示すディップ1003の音圧レベルの低下は約-2.5dBである。0dBを1とすると、-2.5dBは0.75である。数2参照。
【数2】
スピーカユニット振動板前面から出る音の周波数特性が完全に平坦とすると振動板前面から出て聴取位置に届くL1を経由した音の大きさは周波数に関わらず1だから、振動板背面から出て聴取位置にて逆位相で打ち消しを行っているL2を経由した音の大きさは
(数3)
1-0.75=0.25
と考えられる。
図9のように吸音器を取り付け、その効果により振動板背面から出て聴取位置に届く音を対策前の40%に減少させたとすると、L2経由の音は
(数4)
0.25×0.4=0.1
に減少する。振動板前面と吸音口は遠いため、L1経由で聴取位置に届く音はあまり吸音されずに対策前の95%になったとするとL1経由の音は
(数5)
1×0.95=0.95
となる。この2つが逆位相で合成された聴取位置での音の大きさは
(数6)
0.95-0.1=0.85
となり、dBで表すと
【数7】
となるので、ディップの改善量は
(数8)
2.5-1.4=1.1dB
である。
図10の例では対策によりディップ1003は1dB程度改善している。
【0046】
考え方として重要なので、改悪するケースを述べる。吸音器の設置条件が悪く、振動板背面から出て聴取位置に届く音が対策前の60%にしかならない場合、L2経由の音は
(数8)
0.25×0.6=0.15
となる。また吸音器が振動板前面から出た音を多く吸ってしまいL1経由の音は対策前の80%まで下がるとすると、
(数9)
1×0.8=0.8
となる。この2つが逆位相で合成された聴取位置での音の大きさは
(数10)
0.8-0.15=0.65
となり、音圧差をdBで表すと
【数11】
であるから、対策前よりも
(数12)
2.5-3.7=-1.2dB
1.2dB 悪化することになる。この結果よりスピーカユニット振動板前面から出る音はなるべく吸音せず、背面から出る音は効率的に吸音することがディップを持ち上げる際には非常に重要であることがわかる。
【0047】
低域のレベル低下1004について述べる。後面開放及び平面バッフル型スピーカはfcを堺にしてfcよりも低い周波数はハイパスフィルタを通したようにレベルが低下する。1004はその範囲の中で0dBを下回った部分全体を指す。これはディップ1003と原因、対策、共に同じである。但し、レベル低下している範囲が広く、少数のヘルムホルツ吸音器で全体を持ち上げることは難しいため、広範囲の改善には周波数をずらした吸音器を複数使用する必要がある。
図10の例では1つのヘルムホルツ吸音器による対策で300Hz付近が0.5dB程度改善している。