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特開2023-112673熱伝導性シリコーン組成物および該組成物を使用する熱伝導性部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112673
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物および該組成物を使用する熱伝導性部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20230804BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
C08L83/04
C08L45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005214
(22)【出願日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2022014200
(32)【優先日】2022-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 明弘
(72)【発明者】
【氏名】酒井 和哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊介
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BK00Y
4J002CE00Y
4J002CP04X
4J002CP14W
4J002DE146
4J002DE147
4J002FD016
4J002FD017
(57)【要約】
【課題】発熱体や放熱対等の基材に対して密着性が良好であり、熱伝導率が高いことにより放熱特性に優れ、かつ、基材への塗布作業性に優れ、塗布後の形状保持性が良好であり、未硬化の状態で基材に塗布されることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物(ギャップフィラー)を提供する。
【解決手段】
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)テルペンフェノール樹脂と、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加反応触媒と、を含み、
未硬化の状態で基材に塗布されることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)テルペンフェノール樹脂と、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加反応触媒と、を含み、
未硬化の状態で基材に塗布されることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記(C)成分は、60℃における粘度が30,000mPa・s以下である、請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
前記(C)成分は、23℃で液体状もしくは粘稠体状のテルペンフェノール樹脂である、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
前記(A)成分、前記(B)成分、および前記(C)成分の合計量を100質量部としたときに、前記(C)成分の含有量は1質量部以上40質量部以下である、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
前記(D)熱伝導性フィラーは水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムから選択される少なくとも1種を含有する、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項6】
前記(A)成分、前記(B)成分、および前記(C)成分の合計量を100質量部としたときの各成分の配合量が、
前記(A)成分は1~98質量部となる量であり、
前記(B)成分は1~98量部となる量であり、
前記(C)成分は1~40質量部となる量であり、
前記(D)成分は300~2000質量部となる量であり、
前記(E)成分は触媒量である、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項7】
硬化後の熱伝導性シリコーン組成物とPET基材とを分離するときの、25℃、せん断引張速度50mm/分におけるせん断引張強さが0.05MPa以上かつ変位0.4mm以上であり、かつ、硬化前の前記熱伝導性シリコーン組成物の形状保持性が90%以上である、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項8】
第1液と第2液とを混合して熱伝導性シリコーン組成物を得る混合工程と、
前記熱伝導性シリコーン組成物を基板に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程において塗布された前記熱伝導性シリコーン組成物を硬化させる硬化工程と、を含む熱伝導性部材の製造方法であって、
前記第1液が
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)テルペンフェノール樹脂と、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加反応触媒と、を含み、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンを含まず、
前記第2液が
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)テルペンフェノール樹脂と、
(D)熱伝導性フィラーと、を含み、
(E)付加反応触媒を含まない、
熱伝導性部材の製造方法。
【請求項9】
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加反応触媒と、を含む熱伝導性シリコーン組成物中に、
(C)テルペンフェノール樹脂を配合することにより、熱伝導性シリコーン組成物の形状保持性を90%以上に維持しながら、熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の基材に対する密着性を向上させる方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性フィラーとテルペンフェノール樹脂を含有する硬化性熱伝導性シリコーン組成物及び該組成物を使用する熱伝導性部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の小型化、高性能化、高出力化に伴い、放出される熱エネルギーが増大し、電子部品の温度は上昇する傾向にある。また、近年は電気自動車の普及に伴い、高性能バッテリーの開発が進められている。このような背景から、電子部品やバッテリー等の発熱体が発する熱をヒートシンクなどの放熱部材に伝えるための熱伝導性部材として、放熱性シリコーン製品が多く開発されている。
【0003】
放熱性シリコーン製品は、放熱シート等のシート状で提供されるものと、ギャップフィラー、放熱オイルコンパウンド、放熱グリース等の液状またはペースト状で提供されるものとに大別できる。
放熱シートは、熱伝導性シリコーン組成物をシート状に硬化させた、柔軟で高熱伝導性のシリコーンゴムシートである。そのため、簡便に設置することが可能で、部品表面に密着して放熱性を高める特徴がある。しかし、複雑な形状の部品あるいは表面粗さの大きな素材に放熱シートが追随できず、界面に微小な空隙が生じる恐れがある。
一方でギャップフィラーは、液状またはペースト状の熱伝導性シリコーン組成物を発熱体または放熱体に直接塗布し、塗布後に硬化させることにより得られる。このため、複雑な凹凸形状に適用された場合にもその空隙を埋め、高い放熱効果を発揮する利点がある。
【0004】
ギャップフィラーがより高い放熱効果を発揮するためには、ギャップフィラーの熱伝導性を向上させ、かつ、発熱体や放熱体とギャップフィラーとの接触界面の密着性を向上させることが必要である。
十分な熱伝導率を得るためには、熱伝導性シリコーン組成物に熱伝導性フィラーを高充填する(熱伝導性フィラーを高含有率で含有する)必要がある。しかし熱伝導性フィラーを高充填すると、硬化後のギャップフィラーの柔軟性が損なわれ、界面の密着性が低下し、熱抵抗が上昇し、したがって放熱性を損なう場合がある。そのため、高熱伝導と密着性のバランスが重要である。
例えば、特許文献1では、熱伝導性及び耐水性に優れ、かつ実装時の密着性も良好な放熱部材として用いられる熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物を提供することを課題とし、オルガノポリシロキサンをベースポリマーとし、窒化アルミニウムと破砕状アルミナとを含み、破砕状アルミナを合計で熱伝導性シリコーン組成物中60~95質量%含有することにより課題を解決している。しかし、窒化アルミニウムに代表される高熱伝導のフィラーを多量に充填することにより熱伝導率は上昇させることができるものの、組成物の粘度上昇は大きく、塗布作業性が悪くなる、比重が大きい、コストが上昇するといった問題がある。
【0005】
密着性を向上させるためには、熱伝導性シリコーン組成物に配合される液状の添加剤を増量させる方法がある。しかし、該組成物の粘度が低下してしまい、ポンプアウトや吐出後のビード形状保持性が危惧される。
化学的に接着性を付与する接着助材など使用して密着性を向上させる方法もあるが、通常そのような接着助材は何かしらの反応エネルギーが必要である。例えば加熱等の2次加工が必要であり、アプリケーションで制約が生じる。
特許文献2には、エラストマーに液状のエポキシ樹脂を含有させることで、反りが抑制されるとともに低温での金属層に対する密着強度に優れる絶縁層を得ることが開示されている。しかし、高温での加熱硬化が必要であるため、車載バッテリーの放熱材には不向きである。
特許文献3には、導電性接着剤組成物に、所定の粒径を有する銀粉にエポキシ樹脂等のバインダ樹脂と硬化剤を配合することにより、被接着材料との密着性が向上することを開示する。ここでも加熱硬化が必要であることから、車載バッテリーの放熱材には不向きである。また、フィラーに銀粉を使用することから高価であり、導電性組成物となるため絶縁性を求められる用途には不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-210518号公報
【特許文献2】特開2019-038969号公報
【特許文献3】再表2019/189512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の背景から、本発明は、基材への塗布作業性に優れ、塗布後の形状保持性が良好であり、かつ、硬化後に、放熱特性と発熱体や放熱対等の基材に対する密着性が良好な熱伝導性部材を形成可能である熱伝導性シリコーン組成物(ギャップフィラー用組成物)であって、未硬化の状態で基材に塗布されることを特徴とする組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、オルガノポリシロキサンを含む熱伝導性シリコーン組成物において、テルペンフェノール樹脂を配合することにより、本発明の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)テルペンフェノール樹脂と、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加反応触媒と、を含み、
未硬化の状態で基材に塗布されることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物は、基材への塗布作業性に優れ、塗布後の形状保持性が良好であり、かつ、硬化後に、放熱特性と発熱体や放熱対等の基材に対する密着性が良好な熱伝導性部材を形成可能であるため、ギャップフィラー用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明に係る、熱伝導性シリコーン組成物、該熱伝導性シリコーン組成物の製造方法、および該熱伝導性シリコーン組成物の特性を向上させる方法の詳細を説明する。なお、本明細書において熱伝導性フィラーを単にフィラーまたは充填材ともいう。
【0012】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物は、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)テルペンフェノール樹脂と、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加反応触媒と、を含み、
未硬化の状態で基材に塗布されることを特徴とする。
【0013】
テルペンフェノール樹脂を配合することにより、組成物の極性を高めることができるため、(A)成分および(B)成分の配合量を所定量以下に抑えながら、当該組成物を硬化させていられる熱伝導性部材の基材、特にポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂基材への密着性を向上させることができる。テルペンフェノール樹脂を配合すると、例えばPET―PETを被着体とした場合の熱伝導性部材のせん断引張強さは、0.05MPa以上であり、せん断引張変位は0.4mm以上とすることが可能である。
これは、テルペンフェノール樹脂の水酸基と、基材の極性基との相互作用による効果によるものである。また、液状のテルペンフェノール樹脂を使用することにより、熱伝導性フィラーを高充填できるため熱伝導性を確保することができ、当該組成物の粘度の上昇を抑え塗布作業性、且つ、基材へ塗布した後の形状保持性を維持することができる。高せん断での粘度は100~300Pa・s、低せん断での粘度は500~1200Pa・sの範囲になる。
なお、形状保持性を有する樹脂として他にも液状でありながら極性基を持つ樹脂もあるが、例えばアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等、これらの樹脂は硬化阻害が懸念され、また空気中の水分により保存安定性が好ましくない。
一方テルペンフェノール樹脂はシリコーンとの反応性がなく、また空気中の水分にたいしても安定であることから、シリコーン組成物への添加剤として貯蔵性の点で好ましい。
【0014】
(成分(A))
成分(A)は、熱伝導性シリコーン組成物の主剤であり、25℃における粘度が10mPa・s以上1,000,000mPa・s以下である、ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンであることができる。
ジオルガノポリシロキサンは、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これは、熱伝導性シリコーン組成物(以下、単にシリコーン組成物と記載する場合がある。)の主剤であり、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に平均して、少なくとも1個、好ましくは2~50個、より好ましくは2~20個有するものである。
【0015】
(A)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状構造、一部分岐を有する直鎖状構造、分岐鎖状構造、環状構造、分岐を有する環状構造であってもよい。(A)成分は、このうち、実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサンであることが好ましく、具体的には、分子鎖が主にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。分子鎖末端の一部または全部がSi-OH基であってもよい。
【0016】
また、(A)成分は、単一のシロキサン単位からなる重合体であっても、2種以上のシロキサン単位からなる共重合体であってもよい。さらに、(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の位置は特に制限されず、該アルケニル基は分子鎖末端のケイ素原子及び分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子のどちらか一方にのみ結合していてもよいし、これら両者に結合していてもよい。
【0017】
(A)成分の25℃における粘度は、特に限定されず、10mPa・s以上1,000,000mPa・s以下であってもよく、20mPa・s以上500,000mPa・s以下が好ましく、50mPa・s以上10,000mPa・s以下がさらに好ましい。上記粘度が低すぎると、得られるシリコーン組成物において、後述の (D)成分の充填材が沈降しやすくなり、長期の保存性に欠けるおそれがある。
また、上記粘度が高すぎると、得られるシリコーン組成物は著しく流動性に欠けたものとなりやすく、塗布作業性が低下するおそれがある。また、当該組成物をディスペンサー等を用いて吐出することにより基材に塗布する場合には、吐出性が低下し、生産性が低下するおそれがある。
最終的な生成物であるシリコーン組成物の粘度調整のため、粘度の異なる2種類以上のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンを用いることもできる。
【0018】
具体的には、成分(A)は、平均組成式が下記一般式(1)で表される。
R1 aSiO(4-a)/2 (1)
(ただし、式(1)中、R1は、互いに同一または異種の炭素数1~18の非置換のまたは置換された一価炭化水素基である。aは1.7~2.1である。)
【0019】
一つの実施形態において、上記R1で示される一価炭化水素基のうち、少なくとも2個以上はビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などのアルケニル基から選ばれ、それ以外の基は、炭素数1~18の置換または非置換の一価炭化水素基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基などのアラルキル基や、これらの炭化水素基中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子、シアノ基などによって置換されたクロロメチル基、2-ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、シアノエチル基などのハロゲン置換アルキル基やシアノ置換アルキル基などから選ばれる。
【0020】
R1の選択にあたって、2個以上必要なアルケニル基としてはビニル基が好ましく、その他の基としてはメチル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基が好ましい。また、全R1中の70モル%以上がメチル基であることが、硬化物の物性および経済性などの点で好ましく、通常はメチル基が80モル%以上のものが用いられる。
【0021】
成分(A)の分子構造としては、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサンコポリマー、式:(CH3)2ViSiO1/2で示されるシロキサン単位、式:(CH3)3SiO1/2で示されるシロキサン単位、式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン(式中のViは、ビニル基を表す)、これらのオルガノポリシロキサンのメチル基の一部または全部をエチル基、プロピル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;3,3,3-トリフルオロプロピル基などのハロゲン化アルキル基で置換したオルガノポリシロキサン、およびこれらのオルガノポリシロキサンの2種類以上の混合物が例示されるが、分子鎖長の増長によって硬化物の切断時の伸びを高める観点から、直鎖状のジオルガノポリシロキサンで分子鎖両末端にビニル基を有するものが好ましい。
【0022】
これらのジオルガノポリシロキサンは市販のものを使用してもよく、また当業者に公知の方法で製造されたものを使用してもよい。
【0023】
本発明のシリコーン組成物中、(A)~(C)の合計量を100質量部とした場合、(A)成分のジオルガノポリシロキサンの含有量は、1質量部以上98質量部以下であることが好ましく、10質量部以上90質量部以下であることがより好ましい。上記範囲内であれば、シリコーン組成物全体の粘度が適切な範囲となり、適度な流動性と濡れ性を有することにより熱伝導性フィラーを十分に充填でき、熱伝導性を高く維持することが可能となる。
【0024】
(成分(B))
成分(B)は、25℃における粘度が10mPa・s以上1,000,000mPa・s以下であり、ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンであることができる。
成分(B)は1分子中にケイ素原子に結合している水素原子を1個以上含有するジオルガノポリシロキサンであり、本発明のシリコーン組成物を硬化させるための架橋剤の役割を果たす成分である。
【0025】
成分(B)は、1分子中にケイ素原子と結合している水素原子(SiH基)を1個以上含有するジオルガノポリシロキサンであればいかなるものでもよく、例えば、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー、メチルフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー、ジメチルハイドロジェンシロキシ単位とSiO4/2単位からなるコポリマーが用いられる。成分(B)は、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
成分(B)の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐状、環状、又は三次元網状構造のいずれのものであってもよいが、具体的には、下記平均組成式(2)で示されるものを用いることができる。
R3 pHqSiO(4-p-q)/2 (2)
(式中、R3は脂肪族不飽和炭化水素基を除く、非置換又は置換の一価炭化水素基である。またpは0~3.0、好ましくは0.7~2.1、qは0.0001~3.0、好ましくは0.001~1.0で、かつp+qは0.5~3.0、好ましくは0.8~3.0を満足する正数である。)
【0027】
式(2)中のR3としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の、脂肪族不飽和炭化水素基を除く、通常、炭素数1~10、好ましくは1~8程度の非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基等が例示され、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0028】
(B)成分としては、具体的には、例えば1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、H(CH3)2SiO1/2単位とSiO2単位との共重合体、H(CH3)2SiO1/2単位と(CH3)3SiO1/2単位とSiO2単位との共重合体や、これらのジオルガノポリシロキサンの2種以上の混合物等が例示できる。
【0029】
上記シリコーン組成物中、(B)成分の含有量は、(A)成分中のアルケニル基に対する(B)成分中のSiHの比(SiH結合の数/アルケニル基の数)が1/10~7となる範囲であることが好ましく、1/5~5となる範囲であることがより好ましく、1/3~2の範囲であることがさらにより好ましい。
上記範囲内であればシリコーン組成物が十分に硬化し、シリコーン組成物全体の硬さがより好適な範囲となり、当該組成物を硬化させて得られる熱伝導性部材をギャップフィラーとして使用する場合に割れが生じにくくなるほか、縦型に基材を配置した場合にもシリコーン組成物が垂直保持性を維持できるという利点がある。
【0030】
(B)成分中のSiH基は、分子鎖末端にあってもよく、側鎖にあってもよく、分子鎖末端と側鎖の両方にあってもよい。分子鎖末端にのみSiH基を有するジオルガノポリシロキサンと、分子鎖側鎖にのみSiH基を有するジオルガノポリシロキサンを混合して使用することが好ましい。
分子鎖末端にのみSiH基を有するジオルガノポリシロキサンは、立体障害が少ないことから反応性が高いという利点があり、側鎖にSiH基を有するジオルガノポリシロキサンは架橋反応によりネットワーク構築に寄与するため、熱伝導性部材の強度を向上させるという利点がある。
【0031】
成分(B)は、接着性および耐熱性向上の観点からは、ジオルガノポリシロキサンの分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基を有するもので、分子中に芳香族の基を分子中に少なくとも1個含有するジオルガノポリシロキサンを含むこともできる。経済的な理由により芳香族の基としてはフェニル基であることがより好ましい。
【0032】
成分(B)のジオルガノポリシロキサンの25℃における粘度は特に限定されず、10mPa・s以上1,000,000mPa・s以下であってもよく、20mPa・s以上500,000mPa・s以下が好ましく、50mPa・s以上10,000mPa・s以下がさらに好ましい。
最終的な生成物であるシリコーン組成物の粘度 調整のため、粘度の異なる2種類以上の、水素原子を有するジオルガノポリシロキサンを用いることもできる
【0033】
本発明のシリコーン組成物中、(A)~(C)の合計量を100質量部とした場合、(B)成分のオルガノポリシロキサンの含有量は、1質量部以上98質量部以下であることが好ましく、10質量部以上90質量部以下であることがより好ましい。上記範囲内であれば、シリコーン組成物全体の粘度が適切な範囲となり、より押しつぶし性に優れ、基材へ塗布した後に流出する現象を抑制可能であり、適度な流動性を有することにより熱伝導性を高く維持することが可能となる。
【0034】
(成分(C))
成分(C)のテルペンフェノール樹脂は、熱伝導性部材と基材の密着性を向上させ、熱伝導性、ディスペンス性、形状保持性を向上させるための成分である。電子基板等に適用するための塗布作業性、熱伝導性、形状保持性の高い熱伝導性部材(例えばギャップフィラーである)を得るためには、成分(C)のテルペンフェノール樹脂は液状を使用することが好ましい。
テルペン系の樹脂には、α-ピネン系、β-ピネン系、ジペンテン系等のテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、OH基を有するテルペンフェノール樹脂、水添テルペンフェノール樹脂等があるが、本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物に配合される(C)成分としてはテルペンフェノール樹脂を使用する。
これはテルペンフェノール樹脂に含まれるOH基が基材の極性原子(PET基材だとカルボニル基、金属基材なら金属表面の-OHなど)との相互作用により熱伝導性部材と基材との密着性を発揮させるすると同時に、(A)成分および(B)成分の架橋部分と相互作用することにより硬化後のシリコーン組成物の分離を抑制するためである。
【0035】
成分(C)はさらに、60℃、せん断速度10(1/s)における粘度が30,000mPa・s以下であってもよく、25,000mPa・s以下であればさらに好ましい。 60℃における粘度が30,000mPa・s以上であっても、例えば固体状であっても加温して混合することができる。60℃における粘度が30,000mPa・s未満であれば、加温の作業は不要であるため作業性の点で好ましく、25,000mPa・s以下であればさらに好ましい。
【0036】
成分(C)は、23℃で液体状もしくは粘稠体状のテルペンフェノール樹脂とすることができる。
本発明においては、テルペンフェノール樹脂が液体状又は粘稠体であるか否かは、一定体積のテルペンフェノール樹脂が容器の形に従って自由に流動変形し得るものか否かを目視により確認し、判断することができる。
【0037】
成分(C)の水酸基価は10mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であってもよく、好ましくは40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であってもよく、さらに好ましくは200mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であってもよい。
ここで成分(C)の水酸基価は、成分(C)1gをアセチル化するとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムの量をミリグラム数で表したものであり、電位差滴定法(JIS K0070:1992)により測定した値である。
水酸基価が上記範囲であると、PET―PETを被着体とした場合の熱伝導性部材のせん断引張試験におけるせん断引張変位をより大きくすることが可能である。
例えば、水酸基価が50mgKOH/gのテルペンフェノール樹脂を5~30質量部配合すると、PET-PETを被着体とした場合の熱伝導性部材のせん断引張強さは、0.05MPa以上であり、せん断引張変位は0.4mm以上である。水酸基価が220mgKOH/gのテルペンフェノール樹脂を5~30質量部配合すると、PET―PETを被着体とした場合の熱伝導性部材のせん断引張強さは、0.05MPa以上であり、せん断引張変位は0.8mm以上である。
これは、テルペンフェノール樹脂の水酸基と、基材の極性基との相互作用による効果によるものであり、水酸基価が大きいほど、水酸基が多く、基材との結合点が多くなるため、熱伝導性部材は高いせん断引張強さを維持しながら、高い伸び、つまり変位を示すと考えられる。
【0038】
本発明で用いられるテルペンフェノール樹脂としては、たとえば、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ターピノーレン等のテルペン類を、フェノール類の存在する反応系内で重合する方法等により製造されるものを使用できる。なお、フェノール類としては、フェノール、ビスフェノールA、またはクレゾール、キシレノール、p-t-ブチルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール等のアルキルフェノール類があげられる。
【0039】
テルペンフェノール樹脂は、一般にフェノール部位の多寡により、水酸基価がコントロールされる。本発明ではヤスハラケミカル製のテルペンフェノールが好適に使用されるが、水酸基価としては、10~300mgKOH/gであることが好ましく、50~230mgKOH/gであることがなお好ましい。当該テルペンフェノール樹脂としては、YSポリスター、YSレジンシリーズなどが好適である。その中でも液状シリコーン組成物との相溶性の点から、また加温による溶解が不要である液状テルペンフェノール樹脂、例えばYSレジンCP、YSポリスターTシリーズがなお好ましい。
【0040】
テルペンフェノール樹脂は上記に記載のとおり、液状シリコーン組成物との相溶性の他に、熱伝導性シリコーン組成物としての塗布作業性、熱伝導性フィラーの充填性の両立のため、室温で液状であることが好ましい。具体的には60℃における粘度が10mPa・s以上、30,000mPa・s以下であってもよく、10mPa・s以上、25,000mPa・s以下であればさらに好ましい。
【0041】
本発明のシリコーン組成物中、(C)成分の含有量は、(A)~(C)の合計量を100質量部とした場合、1質量部以上40質量部以下が好ましく、5質量部以上30質量部以下がより好ましい。(C)成分の含有量が少なすぎると、得られる熱伝導性部材のせん断引張強さは、0.05MPa以下となり、十分な基材への密着性が得られない。一方、(C)成分の含有量が多すぎるとシリコーン組成物は高粘度になり、シリコーン組成物を均一に塗布することが困難となるおそれがある。
【0042】
(成分(D))
(D)熱伝導性フィラーは、シリコーン組成物の熱伝導率を向上させるための成分である。電子基板等に適用するための絶縁性の高いギャップフィラーを得るためには、(D)成分の熱伝導性フィラーは熱伝導性のみならず絶縁性にも優れた材料を使用することが好ましい。
【0043】
(D)熱伝導性フィラーとしては、例えば、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ベリリウム等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物;炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ケイ素等の炭化物;グラファイト、;アルミニウム、銅、ニッケル、銀等の金属、およびこれらの混合物からなるのもが挙げられる。特に、シリコーン組成物に電気絶縁性が必要な場合は、金属酸化物、金属水酸化物、窒化物、またはこれらの混合物であることが好ましく、両性水酸化物または両性酸化物であってもよく、具体的には、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムからなる群より選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。
なお、酸化アルミニウムは絶縁材料であり、成分(A)および(B)との相溶性が比較的良好であり、工業的に広範囲な粒径の品種が選択可能であり、資源的に入手が容易であり、比較的安価で入手可能であることから、熱伝導性無機充填材として好適である。
【0044】
(D)成分の形状は特に限定されず、球状、不定形、または繊維状であってもよい。特に、(D)成分として酸化アルミニウムを用いる場合には球状又は不定形のものを用いることが好ましい。球状酸化アルミニウムは、主として高温溶射法あるいはアルミナ水和物の水熱処理により得られるα-アルミナである。ここでいう球状とは、真球状のみならず、丸み状であってもよい。
不定形とは、その粒子の長径/短径のアスペクト比が2以上5未満のものであり、鱗片状と呼ばれるものも含む。
球形とは、長径/短径のアスペクト比が1以上2未満のものをいう。
【0045】
(D)成分の平均粒径は特に限定されず、例えば0.1μm以上500μm以下の範囲であってもよく、0.5μm以上200μm以下がより好ましく、1.0μm以上100μm以下がさらにより好ましい。なお、本発明において、(D)成分の平均粒径は、レーザー回折式粒度測定装置で測定された体積基準累積粒度分布における50%粒子径であるD50(又はメジアン径)である。
【0046】
本発明のシリコーン組成物中、(D)成分の含有量は、(A)~(C)の合計量を100質量部とした場合、300質量部以上2000質量部以下が好ましく、500質量部以上1500質量部以下がより好ましい。上記範囲内であれば、シリコーン組成物全体として十分な熱伝導率を有し、配合時に混合しやすく、硬化後にも柔軟性が維持され、さらに比重も大きくなりすぎないことから、熱伝導性と軽量化が求められるギャップフィラー用組成物としてより好適である。
(D)成分の含有量が少なすぎると、得られるシリコーン組成物の硬化物である熱伝導性部材の熱伝導率を十分に高めることが困難となり、一方、(D)成分の含有量が多すぎるとシリコーン組成物は高粘度になり、シリコーン組成物を均一に塗布することが困難となるおそれがあり、熱伝導性部材の熱抵抗上昇、柔軟性の低下といった問題が生じる場合がある。
【0047】
(成分(E))
成分(E)の付加反応触媒は、上述した成分(A)におけるケイ素原子に結合しているアルケニル基と、上述した成分(B)におけるケイ素原子に結合している水素原子との付加硬化反応を促進する触媒であって、当業者には公知の触媒である。成分(E)としては白金、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、ルテニウムなどの白金族金属、または、これらを微粒子状の担体材料(例えば、活性炭、酸化アルミニウム、酸化ケイ素)に固定したものが挙げられる。
さらに、成分(E)としては、白金ハロゲン化物、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金-アルコラート錯体、白金-ビニルシロキサン錯体、ジシクロペンタジエン-白金ジクロライド、シクロオクタジエン-白金ジクロライド、シクロペンタジエン-白金ジクロライド等の白金化合物が挙げられる。
【0048】
また、経済的な観点から、上述したような白金族金属以外の金属化合物触媒を用いてもよい。例えば、ヒドロシリル化鉄触媒としては、鉄-カルボニル錯体触媒、シクロペンタジエニル基を配位子として有する鉄触媒、ターピリジン系配位子や、ターピリジン系配位子とビストリメチルシリルメチル基を有する鉄触媒、ビスイミノピリジン配位子を有する鉄触媒、ビスイミノキノリン配位子を有する鉄触媒、アリール基を配位子として有する鉄触媒、不飽和基を有する環状または非環状のオレフィン基を有する鉄触媒、不飽和基を有する環状または非環状のオレフィニル基を有する鉄触媒である。その他、ヒドロシリル化のコバルト触媒、バナジウム触媒、ルテニウム触媒、イリジウム触媒、サマリウム触媒、ニッケル触媒、マンガン触媒などが例示される。
【0049】
成分(E)の配合量は用途により所望される硬化温度や硬化時間に応じた有効量が用いられるが、通常、硬化性シリコーン組成物の合計質量に対して、触媒金属元素の濃度として好ましくは0.5~1,000ppm、より好ましくは1~500ppm、より一層好ましくは1~100ppmの範囲である。配合量が0.5ppm未満の場合は、付加反応が著しく遅くなり、一方、配合量が1,000ppmを超えるとコストが上昇するため経済的に好ましくない。
【0050】
本発明の熱伝導充填材含有の硬化性シリコーン組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、さらに、上記成分(A)~(E)以外のさらなる任意成分として、シリコーンゴム、ゲルへの添加物として従来公知のものを使用することができる。このような添加物としては、加水分解によりシラノールを生成する有機機ケイ素化合物またはオルガノシロキサン(シランカップリング剤ともいう)、粘度調整剤、縮合触媒、接着付与剤、顔料、染料、硬化抑制剤、耐熱付与剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、気密性向上剤、放射線遮蔽剤、電磁波遮蔽剤、防腐剤、安定剤、有機溶剤、可塑剤、防かび剤、あるいは、1分子中に1個のケイ素原子結合水素原子またはアルケニル基を含有し、他の官能性基を含有しないオルガノポリシロキサンや、ケイ素原子結合水素原子およびアルケニル基を含有しない無官能性のオルガノポリシロキサンが例示され、これらのさらなる任意成分は、1種を単独で使用してもよく、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
シランカップリング剤としては、1分子中にエポキシ基、アルキル基、アリール基等の有機基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物またはオルガノシロキサンが挙げられる。
加水分解により生成したシラノールは金属基材または有機樹脂基材の表面に存在する縮合性基(例えば、水酸基、アルコキシ基、酸基等)と反応・結合し得るものであり、後述する縮合触媒の触媒効果によりシラノールと縮合性基とが反応・結合することにより、熱伝導性シリコーン組成物の各種基材への接着を進行させる。
本発明のシリコーン組成物中、シランカップリング剤の含有量は、(A)~(C)の合計量を100質量部とした場合、1質量部以上15質量部以下が好ましく、2質量部以上10質量部以下がより好ましい。
【0052】
必要に応じて、上記シランカップリング剤と共に縮合触媒を使用してもよい。縮合触媒としては、マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、タングステン、ビスマスから選ばれる金属の化合物等が使用できる。
アルミニウム三価、鉄三価、コバルト三価、亜鉛二価、ジルコニウム四価、ビスマス三価の有機酸塩、アルコキシド、キレート化合物等の金属化合物が好ましく挙げられる。例えば、オクチル酸、ラウリン酸、ステアリン酸等の有機酸、プロポキシド、ブトキシド等のアルコキシド、カテコール、クラウンエーテル、多価カルボン酸、ヒドロキシ酸、ジケトン、ケト酸等の多座配位子キレート化合物が挙げられ、一つの金属に複数種類の配位子が結合していてもよい。
特に、配合や使用条件が多少異なっても安定した硬化性が得られ易いジルコニウム、アルミニウム、鉄の化合物が好ましく、更に望ましい化合物は、ジルコニウムのブトキサイド、または、マロン酸エステル、アセト酢酸エステル、アセチルアセトン、それらの置換誘導体等を多座配位子としたアルミニウム又は鉄の三価キレート化合物である。アルミニウム三価、鉄三価の金属化合物では更にオクチル酸等の炭素数5~20の有機酸も好ましく使用でき、上述の多座配位子と有機酸とが一つの金属に結合している構造でもよい。
【0053】
上記置換誘導体としては、上記化合物中に含まれる水素原子をメチル基、エチル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基、塩素原子、フッ素原子等のハロゲン原子、水酸基、フルオロアルキル基、エステル基含有基、エーテル含有基、ケトン含有基、アミノ基含有基、アミド基含有基、カルボン酸含有基、ニトリル基含有基、エポキシ基含有基等で置換したものであって、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオーネ、ヘキサフルオロペンタンジオーネを挙げることができる。
【0054】
粘度調整剤としては、チキソ性を付与するシリカ、繊維状フィラーなどの無機フィラー、または流動性を付与するソフトナー(例えば両末端にOH基を有するポリジアルキルシロキサンである)などを用いても良い。
本発明のシリコーン組成物中、粘度調整剤の含有量は、(A)~(C)の合計量を100質量部とした場合、0.1質量部以上20質量部以下が好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がより好ましい。
【0055】
顔料としては、酸化チタン、アルミナケイ酸、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カーボンブラック、希土類酸化物、酸化クロム、コバルト顔料、群青、セリウムシラノレート、アルミニウムオキシド、アルミニウムヒドロキシド、チタンイエロー、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム等、および、これらの混合物が例示される。
【0056】
硬化抑制剤としては、付加反応の硬化速度を調整する能力を有するものであり、アセチレン系化合物、ヒドラジン類、トリアゾール類、フォスフィン類、メルカプタン類が例示され、硬化抑制効果を持つ化合物として当該技術分野で従来公知の硬化抑制剤はすべて使用することができる。かかる化合物としては、トリフェニルホスフィン等のリン含有化合物、トリブチルアミンやテトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の窒素含有化合物、硫黄含有化合物、アセチレン系化合物、アルケニル基を2個以上含有する化合物、ハイドロパーオキシ化合物、マレイン酸誘導体などが例示される。また、アミノ基を有する、シランおよびシリコーン化合物を使用してもよい。
【0057】
具体的には、3-メチル-3-ペンテンー1-イン、および3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-インのような各種の「エン-イン」システム;3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、および2-フェニル-3-ブチン-2-オールのようなアセチレン性アルコール;周知のジアルキル、ジアルケニル、およびジアルコキシアルキルフマラートおよびマレアートのようなマレアートおよびフマラート;およびシクロビニルシロキサンを含有するものが例示される。
特に硬化物をギャップフィラーとして使用する場合においては、室温で熱伝導性シリコーン組成物の硬化反応が進行することが好ましい。そのためには、(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンとして、アルケニル基含量が1mmol/g以下であるジオルガノポリシロキサンを使用し、硬化抑制剤としてアルケニル基含量が2mmol/g以上であるオルガノポリシロキサンを使用することが好ましい。このような硬化抑制剤としては、例えば、ビニルジメチルシロキシ基を両末端に有するジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサンコポリマーであってアルケニル基含量が2mmol/g以上であるものが挙げられる。
【0058】
耐熱付与剤としては、水酸化セリウム、酸化セリウム、酸化鉄、ヒューム二酸化チタン等、および、これらの混合物が例示される。
【0059】
気密性向上剤としては、硬化物の通気性を低下させる効果を有するものであればいかなるものでもよく、有機物、無機物を問わず、具体的にはウレタン、ポリビニルアルコール、ポリイソブチレン、イソブチレン-イソプレン共重合体や、板状形状を有するタルク、マイカ、ガラスフレーク、ベーマイト、各種金属箔や金属酸化物の粉体、および、これらの混合物が例示される。
【0060】
上記成分を含む組成物は未硬化の状態で基材に塗布される熱伝導性シリコーン組成物である。すなわち、当該組成物は25℃における初期粘度せん断速度10(1/s)において50Pa・s以上2,000Pa・s以下の範囲の液状であり、基材へ塗布された後120分以内に非流動性の反応物を形成する。粘度範囲は、より好ましくはより好ましくは100Pa・s以上1,000Pa・s以下である。 粘度が上記範囲にある液状の上記シリコーン組成物は、カートリッジ、リボン、又はディスペンサー、シリンジ及びチューブ等の容器から押し出され、基材に塗布することができる。L 字ノズル/ ニードル等を備えたディスペンサーを用いて基材に塗布することが好ましい。
ここで基材とは放熱部や発熱部をいう。
ここで基材としてはガラス、金属、セラミックス、および樹脂から選択される1種以上であってもよい。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物が硬化して接着する金属基材は、アルミニウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、チタン、ステンレス、銅、鉛、亜鉛、モリブデン、シリコンから選択される金属基材またはこれらの合金であることが好ましい。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物が硬化して接着するセラミックス基材は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、アルミナジルコニア、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化ベリリウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、などそのほか、酸化物、炭化物、窒化物であることが好ましい。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物が硬化して接着する樹脂基材は、ポリエステル、エポキシ、ポリアミド、ポリイミド、エステル、ポリアクリルアミド、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、スチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、アクリル、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびシリコーンから選択される樹脂基材であることが好ましい。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物が硬化して得られる熱伝導性部材が、バッテリーユニット用ギャップフィラーである場合、接着する基材であるバッテリーユニット筐体は、基材表面がカチオン電着塗装により少なくとも一部を被覆された鉄表面を有してもよく、ヒートシンクとしてはアルミニウム表面有してもよい。
シリコーン組成物は、放熱部に塗布された後にシリコーン組成物を挟むように発熱部を配置してもよく、発熱部に塗布したのちにシリコーン組成物を挟むように放熱部を配置してもよく、発熱部と放熱部の間の空隙に注入してもよい。
【0061】
上記熱伝導性シリコーン組成物は、硬化させる前の段階において形状保持性が90%以上であることを特徴とする。
形状保持性が90%以上であれば、基材へ吐出後の流れ出し(ポンプアウト)が抑制可能である。
ここで、形状保持性とは基板に熱伝導性シリコーン組成物を円錐状に塗布し、塗布直後の高さ(初期高さ)に対する、30分経過後の高さの変化をいい、数値が100%に近いほど形状保持性が良好である。
【0062】
上記組成物は(E)付加反応触媒の存在下で、(A)成分と(B)成分とが架橋反応し、硬化物を与える。該組成物は、熱伝導率が1以上であればよく、2以上であればより好ましい。また、組成物の比重は1.5以上10以下であればよい。熱伝導性シリコーン組成物が塗布される基材を含む部材(例えば電子機器、バッテリー等である)は軽量化が重視される傾向にあることから、組成物の比重は5.0以下であることが好ましく、2.9以下であることがさらに好ましい。
さらに上記組成物は絶縁性であることが好ましく、具体的には体積抵抗率が10^10(Ω・cm)以上であることが好ましい。
【0063】
上記熱伝導性シリコーン組成物を放熱部である基材に塗布したのち、室温化で放置して組成物を硬化させることができる。硬化前の前記熱伝導性シリコーン組成物の形状保持性は90%以上である。また、基材をPETとした場合に、硬化後に得られる熱伝導性部材はPETとを分離するときの、25℃、せん断引張速度50mm/分におけるせん断引張強度が0.05MPa以上かつ変位0.4mm以上である。せん断引張強度は好ましくは0.06MPa以上であり、さらに好ましくは0.07MPa以上であり、3.0MPa以下であるる。変位は好ましくは0.8mm以上であり、さらに好ましくは1.0mm以上であり、5.0mm以下である。
上記範囲であれば発熱体と放熱体間の振動に変位追従をするとこができ密着性を確保することが可能であるため、放熱部である基材のギャップに充填することにより放熱特性を高めるギャップフィラーとして好適である。
ここで示す基材は、電子機器やバッテリーの表層部材を指す。例えばPET、PP,PE、ポリアミドなどのプラスチック、または銅、鉄、アルミニウム、ステンレス及びそれらを表面処理したものなどをさす。
特にコストと軽量化の観点からバッテリー表層にPETが用いられる場合があり、熱伝導性部材のPET表層への密着性は極めて重要である。
【0064】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物は、付加硬化型組成物であり、1液型組成物としてもよいが、2液型組成物としてもよい。1液型の場合には、加熱硬化により硬化させる組成にする、湿気硬化型組成物にする等の工夫により、貯蔵性を向上させることができる。
熱伝導性シリコーン組成物を2液型とする場合には、これらの工夫なしに貯蔵安定性をさらに向上させることが可能になり、室温(例えば25℃)で硬化する組成物とすることが容易である。その場合、本発明に係るシリコーン組成物を例えば次のように第1液と第2液とに分配して、2液型の熱伝導性シリコーン組成物とすることができる。第1液は(B)成分を含まず、(E)成分を含むことを特徴とし、第2液は(B)成分を含み、(E)成分を含まないことを特徴とする。
第1液:
(A)25℃における粘度が10mPa・s以上1,000,000mPa・s以下であり、ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)テルペンフェノール樹脂と、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加反応触媒と、を含み、
(B)25℃における粘度が10mPa・s以上1,000,000mPa・s以下であり、ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンを含まない。
第2液:
(A)25℃における粘度が10mPa・s以上1,000,000mPa・s以下であり、ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)25℃における粘度が10mPa・s以上1,000,000mPa・s以下であり、ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)テルペンフェノール樹脂と、
(D)熱伝導性フィラーと、を含み、
(E)付加反応触媒を含まない。
【0065】
上記の組成物を、第1液と第2液とに分配して保存するためには、これらの各成分を、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、あるいはホワイトスピリット、あるいはこれらの混合物などの有機溶剤中に保存したり、あるいはこれらの異なる成分を、乳化剤を用いて乳化して水系エマルジョン状態として保存してもよい。特に、有機溶剤の揮発による火災の危険性、作業環境の悪化および大気汚染などの問題を防ぐためには、無溶剤系や、乳化剤を用いて乳化したエマルジョンの形態とすることもできる。
【0066】
本発明に係る熱伝導性シリコーン組成物の製造方法には、当業者に公知な方法を用いることができ、その方法は限定されないが、(A)、(B)、及び(C)成分を混合した後に(D)成分を添加し、さらに混合する工程を有するものとしてもよい。
例えば、予め成分(A)、(B)および(C)を攪拌機で混合したり、あるいは2本ロール、ニーダーミキサー、加圧ニーダーミキサーや、ロスミキサーなどの高せん断型の混合機や押出し機、連続式の押出し機などで均一に混練してシリコーンゴムベースを調整した後、これに成分(D)を添加配合して製造するという方法が用いられる。
成分(E)およびその他の任意成分は最終的にシリコーン組成物中に配合されていればよく、成分(A)、(B)、および(C)と共に混合されてもよいが、成分(D)と共に混合されてもよく、(D)を混合したあとで混合されてもよい。 上記第1液と第2液とからなる2液型の熱伝導性シリコーン組成物を使用して、以下の通り熱伝導性部材を製造することができる。
まず、第1液と第2液とを混合して、熱伝導性シリコーン組成物を得る(混合工程)。
次に、混合工程で得られた熱伝導性シリコーン組成物を基材に塗布する(塗布工程)。
塗布工程において塗布された熱伝導性シリコーン組成物は基板上で硬化し、熱伝導性部材を形成する(硬化工程)。
硬化工程では、熱伝導性シリコーン組成物を加熱することもできるが、常温(例えば10℃以上40℃以下の温度である)で硬化させることが好ましい。
【0067】
本発明はまた、成分(A)と成分(B)との混合物に、テルペンフェノール樹脂と、熱伝導性フィラーとを配合することにより得られる熱伝導性シリコーン組成物の基材へ塗布後の形状保持性を向上させ、かつ
熱伝導性シリコーン組成物の基材へ塗布後の形状保持性を90%以上に向上させ、
基材への塗布後に当該熱伝導性シリコーン組成物を硬化させて得られる熱伝導性部材(硬化物)の、基材に対する密着性を向上させる方法である。該熱伝導性シリコーン組成物は、基材への塗布作業性に優れ、硬化後の熱伝導性部材の熱伝導率が高く放熱特性に優れる。ものである
【実施例0068】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。実施例および比較例の各成分の配合比と評価結果を表1に示す。表1中に示す配合比の数値は質量部を示す。
【0069】
<熱伝導性シリコーン組成物の作成方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、各熱伝導性シリコーン組成物を作製した。これを、各評価項目に応じた試験片となるように、23℃、24時間で硬化させ、各硬化物を作製した。
【0070】
<硬さの測定方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、直径30mm×高さ6mmの円柱状のプレス金型に流し込み、100℃60分で硬化させ、円柱状の硬化物を作製した。
Shore-OO硬さの測定は、日本ゴム協会規格JIS K6253法に準拠し、デュロメータ硬さ試験機を使用してて、温度23℃の環境下で行った。
具体的には、デュロメータ硬さ試験機を得られた円柱状硬化物の表面に真上から押し当て、加圧面を密着さ せてえられた値を測定値とし、上記硬度計を用いて3回測定し、測定結果の平均値を採用した。一般に、Shore-OO硬さが小さいほど柔軟性が高いことを示す。
硬化物のShore-OO硬さは40以上90以下の範囲であることが好ましい。硬度が40未満では、硬化物の強度が不十分であり、十分なせん断強度が得られない。一方硬さが90を超えると、硬化物がの柔軟性が損なわれ、発熱体と放熱体の間隙に充填硬化後の振動に対する追従性が十分ではないと推察される。
【0071】
<比重の測定方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、縦約10cm×横約10cm×厚み2mmのシート状のプレス金型に流し込み、100℃60分で硬化させ、硬化物を作製した。 JIS K 6249に準拠し、実施例、比較例で得られた硬化物の比重(密度)(g/cm3)を測定した。
軽量化が重視される用途の場合、比重は3以下であることが好ましい。
【0072】
<密着性の測定方法>
密着性としてせん断引張強度を測定した。せん断引張強度はJIS K6850に準拠し、縦約60cm×横約25cm×厚み2mmのPETを基材とし、熱伝導性シリコーン組成物を縦約25mm、横約25mmの面積で、厚み約1mmで塗布し、もう一方のPETで挟み、室温で24時間で硬化させ、島津製作所製オートグラフを使用し、23℃の環境下で測定した。せん断引張強度は0.05MPa以上、変位は0.4mm以上が好ましい。
【0073】
<熱伝導率の測定方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、直径30mm×高さ6mmの円柱状のプレス金型に流し込み、100℃60分で硬化させ、円柱状の硬化物を作製した。硬化物の熱伝導率はISO 22007-2に準拠したホットディスク法により測定する機械[TPS-500、京都電子工業(株)製]を用いて測定した。上記で作成した2個の円柱状の硬化物にセンサーを挟み、上記装置で熱伝導率を測定した。
熱伝導率は2.0以上であることが好ましい。
【0074】
<混合粘度の測定方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、JIS K 7117―2に従い、25℃における粘度を測定した。具体的には直径25mmのパラレルプレート間に上記未硬化の熱伝導組成物を乗せ、せん断速度10(1/s)および1(1/s)、ギャップ0.5mmで粘度をAnton Paar社製 Physica MR 301で測定した。
せん断速度10(1/s)での粘度300Pa・s以下であれば塗布作業性が良好であるといえる。せん断速度1 (1/s)での粘度500Pa・s以上であれば形状保持性が良好であるといえる。
【0075】
<形状保持性の評価方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、23℃雰囲気下で底面直径約5cm、高さ約5cmの円錐状に塗布し、塗布直後の高さ(初期高さとする)と、30分後の高さを測定する。初期高さ5cmとした場合、例えば30分後の高さが4cmであった場合、形状保持性は80%となる。数値が100%に近いほど形状保持性が良好であると判断する。形状保持性は90%以上であることが好ましい。
【0076】
<熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の作製方法>
(実施例1)
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液とを、表に示す組成に従い、それぞれ以下の手順により作成した。表に示す各成分の配合比の単位は質量部である。
【0077】
[実施例1の第1液]
成分(A)として、アルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン、成分(C)として、テルペンフェノール樹脂(YSレジンCP、ヤスハラケミカル社製、水酸基価220mgKOH/g)、成分(E)として、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体をそれぞれ計量し加え、プラネタリミキサーを用いて室温で30分間混練りした。
成分(A)であるA-1は末端にアルケニル基を有し、粘度が120mPa・sである直鎖のジメチルポリシロキサンである。式ViMe2SiO-(Me2SiO)n-SiMe2Viで表される(Viはビニル基、Meはメチル基を表す。nは200である)
その後、任意成分のシランカップリング剤として、n―オクチルエトキシシランの半量、成分(D)として熱伝導性フィラーである酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムの半量を加えプラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りした。
酸化アルミニウムとしてはデンカ株式会社製球状アルミナDAW―70(平均粒径74.6μm)を使用した。
水酸化アルミニウムとしては日本軽金属株式会社製のBX103 (平均粒径5μm)を使用した。
その後、n―オクチルエトキシシランの半量、成分(D)として球状である熱伝導性フィラーおよび不定形である熱伝導性フィラーの半量、プラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りし、第1液を作製した。
【0078】
[実施例1の第2液]
成分(A)として、第1液と同じアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン、成分(B)として、水素原子を有するジオルガノポリシロキサン、成分(C)として、第1液と同じテルペンフェノール樹脂、任意の成分(H)として架橋剤、をそれぞれ計量し加え、プラネタリミキサーを用いて室温で30分間混練りした。
成分(B)は側鎖および末端にSi-H基を有し、粘度が20mPa・sである直鎖のジメチルハイドロジェンポリシロキサンである。
架橋剤は、側鎖にのみケイ素原子に結合する水素原子を有する、粘度200mPa・sのジメチルポリシロキサンである。
その後、任意成分のシランカップリング剤として、n―オクチルエトキシシランの半量、成分(D)として熱伝導性フィラーである酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムの半量を加えプラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りした。
その後、n―オクチルエトキシシランの半量、成分(D)として球状である熱伝導性フィラーおよび不定形である熱伝導性フィラーの半量を加えプラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りし、比較例および実施例の第2液を作製した。
【0079】
(実施例2~5)
第1液の成分(A)、テルペンフェノール樹脂、第2液の成分(B)、テルペンフェノール樹脂の配合量を変化させた以外は実施例1と同様にして第1液と第2液を作製した。
【0080】
(実施例6~8)
フィラーの配合量を変化させた以外は実施例3と同様にして第1液と第2液を作製した。
【0081】
(実施例9)
テルペンフェノール樹脂に代えて、YSポリスターT30(ヤスハラケミカル社製、水酸基価50~60mgKOH/g)を使用した以外は実施例3と同様にして第1液と第2液を作製した。
【0082】
(比較例1)
テルペンフェノール樹脂を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして第1液と第2液を作製した。
【0083】
(比較例2~3)
高粘度のシリコーンポリマーを配合した以外は、比較例1と同様にして第1液と第2液を作製した。
比較例2で成分(A)として使用したA-2は末端にアルケニル基を有し、粘度が11000mPa・sである直鎖のジメチルポリシロキサンであり、分子中に少なくとも1つの水酸基を有するジメチルオルガノポリシロキサンである。
比較例3で成分(A)として使用したA-3は末端にアルケニル基を有し、粘度が1000mPa・sである直鎖のジメチルポリシロキサンである。
【0084】
(比較例4~5)
比較例4ではテルペンフェノール樹脂の替りにテルペン樹脂であるダイマロン(ヤスハラケミカル社製)を配合した以外は、実施例3と同様にして第1液と第2液を作製した。
比較例5ではテルペンフェノール樹脂の替りにテルペン樹脂であるYSレジンLP(ヤスハラケミカル社製)を配合した以外は、実施例3と同様にして第1液と第2液を作製した。
【0085】
評価結果は表1に示す通りであった。
実施例1~9では、PET-PETせん断引張強度(PET基材間におけるせん断引張強度)が0.05MPa以上、せん断引張変位が1.0mm以上であり、PET基材への密着性が良好であり、せん断速度10/sにおける粘度が300Pa・s以下と低いことから吐出性が良好であり、形状保持性も95%と非常に良好であった。
実施例1~5は、テルペンフェノール樹脂の配合量を5~40質量部の範囲で変化させたが、せん断引張強度、せん断引張変位、粘度、形状保持性においていずれも良好な結果であった。
実施例6~8では、実施例3のフィラー配合を変えたが、せん断引張強度、せん断引張変位、粘度、形状保持性においていずれも良好な結果であった。
実施例9では、実施例3のテルペンフェノール樹脂を水酸基価の低いテルペンフェノール樹脂に変えたが、せん断引張変位は下がるものの、せん断引張強度、粘度、形状保持性においていずれも良好な結果であった。
【0086】
比較例1~3は、テルペンフェノール樹脂を配合しない組成物であるが、形状保持性は良好であるが、Shore-OO硬さが90以上となり、発熱体と放熱体の間隙に充填硬化後の振動に対する追従性が十分ではないと推察される。比較例1においては、せん断引張強度が弱く被着体への密着性が不十分である。比較例2~3においては、低せん断速度領域での粘度を高める目的でより高粘度のシリコーンポリマーを配合したが、密着性は良好であるが、高せん断速度での粘度も上昇してしまい、吐出性が良好であるとはいえない。
比較例4~5では、フェノール基を持たないテルペン樹脂を配合したが、PET基材に対する密着性を評価するせん断引張強度が低く、密着性が十分あるとは言えない。また低せん断速度での粘度が500Pa・s以下であり、吐出後の形状保持性が十分であるとは言えない。
【0087】
【表1】