(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011269
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】樹脂シート、積層体、成形体及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20230117BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230117BHJP
C08K 9/02 20060101ALI20230117BHJP
C08K 3/40 20060101ALI20230117BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20230117BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230117BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C08L23/10
C08K3/013
C08K9/02
C08K3/40
C08K3/34
B32B27/32 E
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115023
(22)【出願日】2021-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】500163366
【氏名又は名称】出光ユニテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】近藤 要
(72)【発明者】
【氏名】竹村 英祥
【テーマコード(参考)】
4F100
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AA19B
4F100AA21B
4F100AC05B
4F100AG00B
4F100AK01C
4F100AK03D
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK25D
4F100AK41D
4F100AK51D
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100CA13B
4F100CA13C
4F100HB31E
4F100JA11A
4F100JA11B
4F100JB16D
4F100JL10C
4F100JN22B
4F206AA28
4F206AD05
4F206AD08
4F206AD20
4F206AF10
4F206JA07
4F206JB12
4F206JF05
4F206JL02
4J002BB121
4J002BB141
4J002BP021
4J002DE146
4J002DJ056
4J002DL006
4J002FB076
4J002FD096
4J002GF00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】彩度が高く、かつ深みのある外観を有する樹脂シートを提供する。
【解決手段】スメチカ晶を含むポリプロピレンと、干渉パール顔料とを含む樹脂シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スメチカ晶を含むポリプロピレンと、干渉パール顔料とを含む樹脂シート。
【請求項2】
前記ポリプロピレンのアイソタクチックペンダット分率が85モル%~99モル%である、請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
前記ポリプロピレンの130℃の結晶化速度が2.5min-1以下である、請求項1又は2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
前記ポリプロピレンが、示差走査熱量測定で得られる曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1J/g以上の発熱ピークを有する、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項5】
前記干渉パール顔料が、酸化チタン被覆マイカ、酸化チタン被覆ガラス、及び酸化チタン被覆アルミナからなる群から選択される1以上である、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項6】
前記干渉パール顔料の含有量が、0.01質量%以上、20質量%以下である請求項1~5のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項7】
スメチカ晶を含むポリプロピレンを含む第1の層と、請求項1~6のいずれかに記載の樹脂シートからなる第2の層と、を含む積層体。
【請求項8】
前記第2の層の前記第1の層と反対側に、熱可塑性樹脂及び着色剤を含む第3の層を含む、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載の樹脂シートと易接着層とを含む、積層体。
【請求項10】
前記易接着層が、ウレタン、アクリル、ポリオレフィン及びポリエステルからなる群から選択される1以上の樹脂を含む、請求項9に記載の積層体。
【請求項11】
前記易接着層における前記樹脂シートと反対側の面に印刷層を有する、請求項9又は10に記載の積層体。
【請求項12】
請求項1~6のいずれかに記載の樹脂シート又は請求項7~11のいずれかに記載の積層体を用いて製造された成形体。
【請求項13】
請求項1~6のいずれかに記載の樹脂シート又は請求項7~11のいずれかに記載の積層体を成形し、成形体を得る成形体の製造方法。
【請求項14】
前記樹脂シート又は前記積層体を金型の上に配置すること、及び
成形用樹脂を前記樹脂シート又は前記積層体に向けて供給することで、前記樹脂シート又は前記積層体を金型に合致するように賦形しつつ、前記成形用樹脂と、前記樹脂シート又は前記積層体と、を一体化させること
を含む、請求項13に記載の成形体の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂シート又は前記積層体を金型に合致するよう賦形すること、及び
成形用樹脂を前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体と、を一体化させること
を含む、請求項13に記載の成形体の製造方法。
【請求項16】
前記樹脂シート又は前記積層体を加熱して金型のキャビティ面上に配置し、前記樹脂シート又は前記積層体を前記金型の形状に合致するように賦形すること、及び
成形用樹脂を前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体と、を一体化させること
を含む、請求項13に記載の成形体の製造方法。
【請求項17】
チャンバーボックス内に芯材を配設し、前記芯材の上方に前記樹脂シート又は前記積層体を配置し、前記樹脂シート又は前記積層体を加熱軟化し、前記チャンバーボックス内を減圧して前記加熱軟化させた前記樹脂シート又は前記加熱軟化させた前記積層体を前記芯材に押圧して被覆させる、請求項13に記載の成形体の製造方法。
【請求項18】
請求項12に記載の成形体を用いて作成された車両の内装材、車両の外装材、鞍乗型車両用外装カバー、家電の筐体、化粧鋼鈑、化粧板、住宅設備、又は情報通信機器の筐体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シート、積層体、成形体及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電、建材、日用品、情報通信機器等様々な分野にて、外観の意匠性を向上させる方法として、塗装が用いられている。しかし、塗装は、大量のVOCを排出するため、環境負荷が大きい方法である。さらに、塗装ブースの温度・湿度コントロールや焼き付け工程にて、多量のエネルギーを消費し、大量の二酸化炭素を排出している。特に、新車の生産では、排出する二酸化炭素のうち、塗装が2割を占めている。これらの環境負荷を低減させるため、塗装を代替する工法が、積極的に開発されている。
【0003】
成形品の塗装を代替する方法として、例えば、特許文献1には、パール顔料等を含む特定の組成を有する樹脂組成物を用いることで、フリップフロップ性の外観を有する成形品を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される方法では、パール顔料の発色が損なわれるため成形品の彩度が低く、また、意匠の深みが乏しいといった課題があった。また、発色を良くするためにパール顔料の添加量を増やす必要があるが、パール顔料を高濃度にしたとしても、意匠の深みを向上することは困難であった。
本発明の目的は、彩度が高く、かつ深みのある外観を有する樹脂シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の樹脂シート等が提供される。
1.スメチカ晶を含むポリプロピレンと、干渉パール顔料とを含む樹脂シート。
2.前記ポリプロピレンのアイソタクチックペンダット分率が85モル%~99モル%である、1に記載の樹脂シート。
3.前記ポリプロピレンの130℃の結晶化速度が2.5min-1以下である、1又は2に記載の樹脂シート。
4.前記ポリプロピレンが、示差走査熱量測定で得られる曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1J/g以上の発熱ピークを有する、1~3のいずれかに記載の樹脂シート。
5.前記干渉パール顔料が、酸化チタン被覆マイカ、酸化チタン被覆ガラス、及び酸化チタン被覆アルミナからなる群から選択される1以上である、1~4のいずれかに記載の樹脂シート。
6.前記干渉パール顔料の含有量が、0.01質量%以上、20質量%以下である1~5のいずれかに記載の樹脂シート。
7.スメチカ晶を含むポリプロピレンを含む第1の層と、1~6のいずれかに記載の樹脂シートからなる第2の層と、を含む積層体。
8.前記第2の層の前記第1の層と反対側に、熱可塑性樹脂及び着色剤を含む第3の層を含む、7に記載の積層体。
9.1~6のいずれかに記載の樹脂シートと易接着層とを含む、積層体。
10.前記易接着層が、ウレタン、アクリル、ポリオレフィン及びポリエステルからなる群から選択される1以上の樹脂を含む、9に記載の積層体。
11.前記易接着層における前記樹脂シートと反対側の面に印刷層を有する、9又は10に記載の積層体。
12.1~6のいずれかに記載の樹脂シート又は7~11のいずれかに記載の積層体を用いて製造された成形体。
13.1~6のいずれかに記載の樹脂シート又は7~11のいずれかに記載の積層体を成形し、成形体を得る成形体の製造方法。
14.前記樹脂シート又は前記積層体を金型の上に配置すること、及び
成形用樹脂を前記樹脂シート又は前記積層体に向けて供給することで、前記樹脂シート又は前記積層体を金型に合致するように賦形しつつ、前記成形用樹脂と、前記樹脂シート又は前記積層体と、を一体化させること
を含む、13に記載の成形体の製造方法。
15.前記樹脂シート又は前記積層体を金型に合致するよう賦形すること、及び
成形用樹脂を前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体と、を一体化させること
を含む、13に記載の成形体の製造方法。
16.前記樹脂シート又は前記積層体を加熱して金型のキャビティ面上に配置し、前記樹脂シート又は前記積層体を前記金型の形状に合致するように賦形すること、及び
成形用樹脂を前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体と、を一体化させること
を含む、13に記載の成形体の製造方法。
17.チャンバーボックス内に芯材を配設し、前記芯材の上方に前記樹脂シート又は前記積層体を配置し、前記樹脂シート又は前記積層体を加熱軟化し、前記チャンバーボックス内を減圧して前記加熱軟化させた前記樹脂シート又は前記加熱軟化させた前記積層体を前記芯材に押圧して被覆させる、13に記載の成形体の製造方法。
18.12に記載の成形体を用いて作成された車両の内装材、車両の外装材、鞍乗型車両用外装カバー、家電の筐体、化粧鋼鈑、化粧板、住宅設備、又は情報通信機器の筐体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、彩度が高く、かつ深みのある外観を有する樹脂シートが提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る樹脂シート、積層体、成形体及び成形体の製造方法について説明する。本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。一の技術的事項に関して、「x以上」等の下限値が複数存在する場合、又は「y以下」等の上限値が複数存在する場合、当該上限値及び下限値から任意に選択して組み合わせることができるものとする。
【0009】
1.樹脂シート
本発明の一態様に係る樹脂シートは、スメチカ晶を含むポリプロピレンと、干渉パール顔料とを含む。
スメチカ晶は準安定状態の中間相であり、一つ一つのドメインサイズが小さいことから、スメチカ晶を有するポリプロピレンは高い透明性を有する。このようなポリプロピレンを基材とする樹脂シートに干渉パール顔料を混合することで、干渉パール顔料による色味や輝度感が十分に発揮され、曇りのない鮮やかな外観を実現できる。また、ポリプロピレンの高い透明性により奥行き感(立体感)が生じ、さらに干渉パール顔料によるフリップフロップ性(陰影感)も相俟って、深みのある意匠性の高い樹脂シートとすることができる。また、このような樹脂シートを成形体表面に採用することで、上記のような優れた意匠性を有する成形体とすることができる。
以下、樹脂シートに用いる各材料について説明する。
【0010】
(ポリプロピレン)
ポリプロピレンは、少なくともプロピレンを含む重合体である。具体的には、ホモポリプロピレン、プロピレンとオレフィンとの共重合体等が挙げられる。特に、耐熱性、硬度の理由からホモポリプロピレンが好ましい。
【0011】
本発明の一態様に係る樹脂シートで用いるポリプロピレンは、スメチカ晶を含む。上述した通り、スメチカ晶は準安定状態の中間相であり、1つ1つのドメインサイズが小さいことから透明性に優れる。従来の方法で得られるポリプロピレンシートに含まれるα晶は、結晶サイズが大きいことから、成形品は、通常、不透明で白濁した外観となる。このようなポリプロピレンにパール顔料を添加しても、白濁の影響でパール顔料の発色は悪く、彩度が低くなり、深みのない意匠となるが、少なくとも一部にスメチカ晶を採用することで高い透明性が得られるため、このような不具合を解消し、優れた外観を実現できる。
また、スメチカ晶は、準安定状態であるため、結晶化が進んだα晶と比較して低い熱量でシートが軟化することから、成形性に優れるため、好ましい。
【0012】
ポリプロピレンの結晶構造としては、スメチカ晶の他に、α晶、β晶、γ晶、非晶部等他の結晶形を含んでもよい。
例えば、樹脂シート中のポリプロピレンの10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上又は90質量%以上がスメチカ晶であってもよい。
結晶構造の具体的な確認方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0013】
本発明の一態様において、ポリプロピレンは、好ましくはアイソタクチックペンタッド分率が80モル%以上である。
アイソタクチックペンタッド分率が80モル%以上であれば、樹脂シートとしたときに十分な剛性を得られる。
ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率は、85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、また、99モル%以下であることが好ましく、98.5モル%以下であることがより好ましい。
アイソタクチックペンタッド分率が、80モル%以上かつ99モル%以下であれば、樹脂シートとしたときに、優れた剛性とともに十分な透明性を得られる。
また、アイソタクチックペンタッド分率は、80モル%以上99モル%以下であることが好ましく、85モル%以上99モル%以下であることがより好ましく、90モル%以上98.5モル%以下であることがより好ましい。
【0014】
アイソタクチックペンタッド分率とは、樹脂組成の分子鎖中のペンタッド単位(プロピレンモノマーが5個連続してアイソタクチック結合したもの)でのアイソタクチック分率である。この分率の測定法は、例えばマクロモレキュールズ(Macromolecules)第8巻(1975年)687頁に記載された方法を採用でき、13C-NMRにより測定できる。
アイソタクチックペンタッド分率の具体的な測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0015】
プロピレンとオレフィンとの共重合体は、アイソタクチックペンタッド分率が80モル%以上(好ましくは80~99モル%)であれば、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよく、これらの混合物でもよい。
オレフィンとしては、エチレン、ブチレン、シクロオレフィン等が挙げられる。
【0016】
本発明の一態様において、ポリプロピレンのメルトフローレート(以下、「MFR」と言う場合がある。)は、0.5g/10分以上であること好ましく、1g/10分以上であることがより好ましく、2g/10分以上であることがさらに好ましい。また10g/10分以下であることが好ましく、8g/10分以下であることがより好ましく、6g/10分以下であることがさらに好ましい。この範囲内であれば、フィルム形状又はシート形状への成形性に優れる。ポリプロピレンのMFRは、JIS-K7210に準拠して、測定温度230℃、荷重2.16kgで測定する。
【0017】
本発明の一態様において、ポリプロピレンの130℃での結晶化速度は、成形性の観点から、2.5min-1以下であることが好ましく、2.0min-1以下であることがより好ましい。
結晶化速度が2.5min-1以下であると、意匠性の低下を防止することができる。
下限値は特に限定されないが、通常0.01min-1以上であり、0.05min-1以上であることが好ましい。
結晶化速度の具体的な測定方法は、実施例に記載の通りである。
【0018】
本発明の一態様において、樹脂シートは造核剤を実質的に含まないか、含まないことが好ましい。
造核剤を含む場合であっても、少量であることが好ましく、例えば、樹脂組成物の1.0質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、又は0.001質量%以下である。また、ポリプロピレンの量に対して、例えば、1.0質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、又は0.001質量%以下である。
造核剤としては、例えば、ソルビトール系結晶核剤等が挙げられ、市販品としてはゲルオールMD(新日本理化学株式会社)やリケマスターFC-1(理研ビタミン株式会社)等が挙げられる。
【0019】
一実施形態において、造核剤を添加しないでポリプロピレンの結晶化速度を2.5min-1以下とし、80℃/秒以上で冷却して上述したスメチカ晶を形成することにより、優れた透明性を有する樹脂シートを得ることができる。
【0020】
アイソタクチックペンタッド分率が80モル%以上99モル%以下、かつポリプロピレンの結晶化速度を2.5min-1以下で、透明性や光沢に優れた樹脂シートとするには、通常、スメチカ晶を形成することが必要となる。
樹脂シートの加熱を行うことによって、樹脂シートのポリプロピレンはスメチカ晶由来の微細構造を維持したままα晶に転移するが、成形体中のポリプロピレンが、アイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上99モル%以下かつポリプロピレンの結晶化速度が2.5min-1以下であれば、スメチカ晶由来といえる。
【0021】
小角X線散乱解析法により散乱強度分布と長周期を算出することにより、樹脂シートが80℃/秒以上で冷却して得られたものか、そうでないかを判断することができる。即ち、上記解析により樹脂シートがスメチカ晶由来の微細構造を有しているか否かを判断することが可能である。測定は以下の条件で行う。
・X線発生装置はultraX 18HF(株式会社リガク製)を用い、散乱の検出にはイメージングプレートを使用する。
・光源波長:0.154nm
・電圧/電流:50kV/250mA
・照射時間:60分
・カメラ長:1.085m
・試料厚み:1.5~2.0mmになるようにシートを重ねる。製膜(MD)方向が揃うようにシートを重ねる。
尚、測定時間を短縮するため、1.5~2.0mmになるようにシートを重ねているが、測定時間を長くすれば、シートを重ねずに1枚でも測定可能である。
【0022】
本発明の一態様において、ポリプロピレンは、好ましくは示差走査熱量(DSC)測定で得られる曲線(DSC曲線)において、最大吸熱ピークの低温側に1J/g以上、好ましくは1.5J/g以上の発熱ピーク(「低温側発熱ピーク」ともいう。)を有する。上限値は特に限定されないが、通常10J/g以下である。
【0023】
本発明の一態様において、樹脂シートにおけるポリプロピレンの含有量は、通常、50質量%以上、60質量%以上、又は70質量%以上であり、好ましくは、80質量%以上又は90質量%以上である。
また、通常、99.99質量%以下であり、好ましくは99.97質量%以下又は99.95質量%以下であり、例えば99.7質量%以下又は99.5質量%以下としてもよい。
【0024】
(干渉パール顔料)
干渉パール顔料とは、薄片状基質(鱗状微粒子)の表面に酸化チタン等の無色高屈折率材料からなる金属酸化物が被覆された顔料であり、通常、透光性を有する。このような鱗状微粒子が層状に配置されることにより、光が多重反射され、金属や真珠のような光沢感を生じさせることができる。
また、被覆層が一定の厚さを有することから、反射光及び透過光が変化して種々の干渉色を生じ、見る方向(角度)によって色が変わる(フリップフロップ性)。なお、干渉パール顔料は、虹彩色パール顔料や偏光パール顔料と呼ばれる場合もある。
薄片状基質としては、マイカ(雲母)、アルミナ、ガラス(ガラスフレーク)、シリカ等が挙げられる。
【0025】
干渉パール顔料としては、酸化チタン被覆マイカ、酸化チタン被覆ガラス、及び酸化チタン被覆アルミナ等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、干渉パール顔料として1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
干渉パール顔料の市販品(商品名)としては、例えば、Lumina Royal Russet、Lumina Exterior Russet S5903D、Lumina Royal Copper、Lumina Royal Exterior Blue 6803H、Lumina Exterior Gold 2303D、Lumina Exterior Brass 2323D、Mearlin Exterior CFS Micro Russet 4503M、Mearlin Exterior CFS Bright Silver 1303Z、Glacier Exterior Frost White S1303D(以上、BASFカラー&エフェクトジャパン株式会社製)、Iriodin 7225 Ultra Rutile Blue Pearl、Iriodin 7219 Ultra Rutile Lilac Pearl、Xirallic Galaxy Blue、Colorstream T10-04 Lapis Sunlight、Miraval 5426 Magic Green、Miraval 5421 Magic Copper(以上、メルクパフォーマンスマテリアルズ合同会社製)、TWINCLE PEARL SXA、TWINCLE PEARL YXB(以上、日本光研工業株式会社)等が挙げられる。
【0027】
本発明の一態様において、干渉パール顔料の粒子径は、通常、1~200μmであり、好ましくは5~100μmである。
干渉パール顔料の粒子径は粒度分布計を用いて測定する。具体的には、JIS Z 8828(2013)に準拠し、動的光散乱式粒径分布測定装置を用いて、試料セル内に、分散媒中に粒子を分散させた測定試料を収容し、この測定試料に対してレーザ光を照射し、前記粒子により散乱された光の周波数強度分布に基づいて粒径分布を求める。
全粒子のうち、70個数%以上、80個数%以上、又は90個数%以上が上記粒子径の範囲に含まれると好ましい。なお、本明細書において「主に粒子径AA~BBμmの粒子からなる顔料」とは、当該顔料に含まれる粒子の90個数%以上の粒子径がAA~BBμmの範囲に含まれることを意味する。
【0028】
本発明の一態様において、樹脂シートにおける干渉パール顔料の含有量は、通常、0.01質量%以上であり、好ましくは0.03質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上であり、例えば0.3質量%以上又は0.5質量%以上としてもよい。また、通常、20質量%以下であり、好ましくは10質量%以下である。
【0029】
本発明の一態様において、樹脂シートの厚みは、5μm以上、10μm以上又は20μm以上であってもよく、また、3000μm以下、2000μm以下又は500μm以下であってもよい。
【0030】
2.積層体
本発明の一態様に係る樹脂シートは、各種機能や意匠性を付与するための層を積層して積層体としてもよい。このような層として、以下に説明する通り、例えば、透明層や着色層が挙げられる。
【0031】
(透明層、着色層)
本発明の一態様に係る積層体は、スメチカ晶を含むポリプロピレンを含む第1の層(透明層)と、上記の樹脂シートからなる第2の層(干渉パール顔料含有層)と、を含む。
【0032】
樹脂シートについて説明した通り、スメチカ晶を含むポリプロピレンは高い透明性を有するため、このような層を本発明の一態様に係る樹脂シート(干渉パール顔料含有層)の上に積層することで、積層体全体にさらに奥行き感(立体感)が生じ、より深みのある、意匠性の高い外観を実現することが可能となる。
【0033】
第1の層(透明層)に用いるポリプロピレンとしては、本発明の一態様に係る樹脂シートで用いるポリプロピレンと同じである。
第1の層(透明層)の厚さは、5μm以上、7μm以上又は10μm以上であってもよく、また、300μm以下、250μm以下又は200μm以下であってもよい。
【0034】
また、本発明の一態様に係る樹脂シート(干渉パール顔料含有層)に、熱可塑性樹脂及び着色剤を含む層(着色層)を積層してもよい。着色層を設けることにより、光の透過を防止して反射率を向上できるため、干渉パール顔料含有層側から見た場合に、着色層を背景として、干渉パール顔料のより優れた発色を実現できる。
【0035】
本発明の一態様において、上記の透明層と着色層の両方を設け、(着色層/干渉パール顔料含有層/透明層)の積層体としてもよく、上述した効果を同時に実現することが可能となる。
【0036】
着色層に用いる着色剤としては、公知の染料、無機顔料、及び有機顔料等を使用することができる。予め熱可塑性樹脂に配合する場合があることを考慮すると、無機顔料、有機顔料等の顔料を採用するのが好ましい。
染料としては、アソ染料やアンスラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、インジゴイド染料等が挙げられる。
【0037】
無機顔料としては、酸化チタン、亜鉛フェライト、黄色酸化鉄、鉄黒、硫化亜鉛、酸化亜鉛、カーボンブラック、チタンイエロー、群青、コバルトブルー、コバルトグリーン、酸化クロム、酸化鉄赤、複合酸化物系顔料等が挙げられる。
【0038】
有機顔料としては、ベンゾイミダゾロンイエロー、キノフタロンイエロー、イソインドリノンイエロー、ジスアゾイエロー、モノアゾイエロー、縮合アゾイエロー、ペリノンオレンジ、ベンズイミダゾロンオレンジ、ペリレンレッドキナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ、ジケトピロロピロール、キナクリドンバイオレット、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等が挙げられる。
【0039】
着色層に着色を施す方法としては、特に制限されず、例えば、着色剤を予め原料樹脂に配合し、溶融混練した後、シート状に成形する方法を採用できる。また、予め着色剤を原料樹脂や他の樹脂に配合し、溶融混練した後に押し出してマスターバッチ化したものを、原料樹脂に配合してシート状に成形する方法を採用することもできる。
【0040】
このように、予め原料樹脂に着色剤を添加して着色層を製造することで、印刷で着色層を製造する場合のように、シート表面に特殊処理を施す必要がなくなり、製造工程を簡略化でき、コスト低減につながる。
【0041】
着色の色は特に限定されないが、例えば、黒色、白色、赤色、黄色、緑色、青色等である。本発明の一態様による積層体によれば、どのような色であっても、その色に応じた意匠性を高めることができる。
【0042】
着色層における着色剤の含有量は、通常、0.1質量%以上であり、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは1.5質量%以上である。また、通常、10質量%以下であり、好ましくは7質量%以下である。
【0043】
熱可塑性樹脂としては、特に制限はないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられ、好ましくはポリプロピレンである。
着色層の樹脂成分としてポリプロピレンを用いる場合、第1の層に用いるポリプロピレンと同一でもよいし、異なってもよい。同一とは、上述したポリプロピレンの各種物性が同一であることを意味する。
【0044】
着色層における熱可塑性樹脂の含有量は、通常、90質量%以上であり、好ましくは93質量%以上である。また、通常、99.9質量%以下であり、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは98.5質量%以下である。
着色層の厚さは、20μm以上、40μm以上又は50μm以上であってもよく、また、900μm以下、700μm以下又は500μm以下であってもよい。
【0045】
また、本発明の一態様に係る樹脂シートは、上述した層以外に、各種機能を付与するための層を積層することもできる。このような層としては、易接着層、アンダーコート層、金属層、印刷層等が挙げられる。以下、これらの層について説明する。
【0046】
(易接着層)
易接着層は、好ましくはウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂を含む。
そのような易接着層を設けることで、後述する成形体が複雑な非平面状に成形された場合であっても、易接着層が樹脂シートに追従して良好に層構成を形成でき、ひび割れや剥離が生じることを防止できる。
【0047】
ウレタン系樹脂としては、ジイソシアネート、高分子量ポリオール及び鎖延長剤を反応させて得られるウレタン系樹脂が好ましい。高分子量ポリオールは、ポリエーテルポリオール又はポリカーボネートポリオールとしてもよい。ウレタン系樹脂の市販品としては、ハイドランWLS-202(DIC株式会社製)等が挙げられる。
アクリル系樹脂としては、アクリット8UA-366(大成ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂としては、アローベースDA-1010(ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0048】
易接着層は、上述した材料を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
易接着層が含むウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂のうち、後述する金属層及び印刷層への密着性や成形性を考慮すると、ウレタン系樹脂が好ましい。
【0050】
なお、易接着層がポリプロピレン系樹脂を含む場合、易接着層が含むポリプロピレン系樹脂は、樹脂シートや成形体本体が含み得るポリプロピレンとは、通常、異なる。
【0051】
易接着層は、1層単独でもよく、又は、2層以上の積層構造でもよい。
【0052】
易接着層の厚さは、35nm以上3000nm以下としてもよく、50nm以上2000nm以下としてもよく、50nm以上1000nm以下としてもよい。
また、易接着層の厚さは、35nm以上、又は50nm以上としてもよく、3000nm以下、2000nm以下、又は1000nm以下としてもよい。
【0053】
易接着層は、例えば、上述した樹脂をグラビアコーター、キスコーター又はバーコーター等で塗布し、40~100℃にて10秒~10分間乾燥することで形成することができる。
【0054】
易接着層の上には、インキやハードコート、反射防止コート、遮熱コート等の各種コーティングを積層できる。
また、樹脂シートにおいて、上記の易接着層(第1の易接着層)と反対側の面に易接着層をもう1層設けてもよい(第2の易接着層)。このようにすることで、成形体の表面となるポリオレフィン樹脂層に、表面処理やハードコーティング等の機能性を付与することができる。
【0055】
(アンダーコート層)
アンダーコート層は、易接着層と金属層とを密着させることができる層である。アンダーコート層を設けることにより、熱成形時に応力が加わった場合でも、金属層に極めて微細なクラックを無数に生じさせることができ、レインボー現象の発生を無くし、又は低減することができる。
アンダーコート層を形成する材料としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル等が挙げられる。
【0056】
成形時の耐白化性(白化現象の起こりにくさ)や金属層との密着性の観点から、アンダーコート層を形成する材料としては、アクリル樹脂が好ましく、例えば荒川化学工業株式会社製「DA-105」を用いることができる。
【0057】
上記材料は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
アンダーコート層において、上述した樹脂成分(主剤)に硬化剤を組み合わせて用いてもよい。硬化剤としては、アジリジン系化合物、ブロックドイソシアネート化合物、エポキシ系化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられ、例えば荒川化学工業株式会社製「CL102H」を用いることができる。
【0059】
硬化剤を用いる場合、アンダーコート層における主剤と硬化剤の含有割合は、固形分の質量比で、例えば35:4~35:40であり、好ましくは35:4~35:32であり、より好ましくは35:12~35:32である。また、35:12~35:20としてもよい。
硬化剤の配合量が主剤35に対して4以上であると、硬化反応が問題なく進行し、耐白化性を維持することができる。40以下であると、アンダーコート層の伸び性が良好であり、成形時のひび割れを抑制することができる。
【0060】
アンダーコート層の形成方法としては、例えば、上述した材料をグラビアコーター、キスコーター又はバーコーター等で塗布し、50~100℃にて10秒~10分間乾燥し、40~100℃にて10~200時間エージングすることで形成することができる。
【0061】
アンダーコート層の厚さは、0.05μm~50μmとしてもよく、0.1μm~10μmとしてもよく、0.5μm~5μmとしてもよい。
また、アンダーコート層の厚さは、0.05μm以上、0.1μm以上、又は0.5μm以上としてもよく、50μm以下、10μm以下、又は5μm以下としてもよい。
【0062】
(金属層)
金属層は、金属又は金属酸化物を含む層である。
金属層を形成する金属としては、積層体に金属調の意匠を付与できる金属であれば特に限定されないが、例えば、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金及び亜鉛が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を含む合金を用いてもよい。
上記のうち、インジウム及びアルミニウムは伸展性と色調に特に優れるため好ましい。金属層が伸展性に優れると、積層体を三次元成形した際にひび割れが発生しにくい。
【0063】
金属層の形成方法は特に制限されないが、質感が高く高級感のある金属調の意匠を積層体に付与する観点から、例えば、上記の金属を用いた、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の蒸着法等を用いることができる。特に、真空蒸着法は低コストであり、かつ、被蒸着体へのダメージを少なくすることができる。真空蒸着法の条件は、用いる金属の溶融温度又は蒸発温度に応じて適宜設定すればよい。
【0064】
上記方法の他、上記の金属又は金属酸化物を含むペーストを塗工する方法、上記の金属を用いためっき法等を用いることもできる。
【0065】
金属層の厚さは、5nm以上80nm以下としてもよい。5nm以上であると所望の金属光沢が問題なく得られ、80nm以下であるとひび割れが発生しにくい。
【0066】
(印刷層)
印刷層の形状としては、特に制限されないが、例えばベタ状、カーボン調、木目調等の様々な形状が挙げられる。
印刷の方法としては、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、スプレーコート法等の一般的な印刷方法が利用できる。特に、スクリーン印刷法はインキの膜厚が厚くできるため、複雑な形状に成形した際にインキ割れが発生しにくい。
例えば、スクリーン印刷の場合、成形時の伸びに優れたインキが好ましく、十条ケミカル株式会社製の「FM3107高濃度白」や「SIM3207高濃度白」等が例示できるが、この限りではない。
【0067】
3.樹脂シート(又は積層体)の製造方法
本発明の一態様に係る樹脂シート(又は積層体)の製造方法は特に制限されないが、例えば押出法(共押出法)等が挙げられる。押出法では上述した樹脂シートの溶融物(以下、溶融樹脂と称する。)の冷却を含み、当該冷却は、好ましくは80℃/秒以上の冷却速度で行い、樹脂シートの内部温度が結晶化温度以下となるまで行う。これにより、樹脂シートに含まれるポリプロピレンの結晶構造を、上述のスメチカ晶とすることができる。冷却速度は、90℃/秒以上がより好ましく、150℃/秒以上がさらに好ましい。
具体的な製造方法は、実施例において詳述する。
【0068】
4.成形体
本発明の一態様に係る樹脂シート又は積層体を用いて成形体とすることができる。成形体は、樹脂シート又は積層体を熱成形等の方法によって成形して製造されたものである。一実施形態において、成形体には三次元曲面を含む形状が付与されている。
【0069】
5.成形体の製造方法
本発明の一態様に係る成形体の製造方法は、樹脂シート又は積層体を成形することを含む。成形方法としては、例えば、インモールド成形、インサート成形、金型内附形インサート成形、被覆成形等が挙げられる。
【0070】
インモールド成形は、金型内に積層体を設置して、金型内に供給される成形用樹脂の圧力で所望の形状に成形して成形体を得る方法である。
インモールド成形として、積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して一体化して行うことが好ましい。
【0071】
インサート成形では、金型内に設置する賦形体を予備賦形しておき、その形状に成形用樹脂を充填することで、成形体を得る方法である。より複雑な形状を形成することができる。
インサート成形として、積層体を金型に合致するよう賦形し、賦形した積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して一体化して行うことができる。
金型に合致するように行う賦形(予備賦形)は、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形、プラグアシスト成形等で行うことができる。
【0072】
成形用樹脂は、成形可能な熱可塑性樹脂を用いることができる。具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、アセチレン-スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル重合体等が例示できるが、この限りではない。熱可塑性樹脂には、ファイバーやタルク等の無機フィラーを添加してもよい。
供給は、射出で行うことが好ましく、圧力5MPa以上120MPa以下が好ましい。金型温度は20℃以上90℃以下であることが好ましい。
【0073】
また、インサート成形の一類型として、樹脂シートの予備賦形を、射出成形を行う金型内で行う方法も挙げられる。
具体的には、樹脂シートを加熱して金型のキャビティ面上に配置し、樹脂シートを金型の形状に合致するように賦形すること、及び、成形用樹脂を賦形された樹脂シートに向けて供給することで、成形用樹脂と、賦形された樹脂シートと、を一体化させることを含む。
樹脂シートの予備賦形の方法としては、例えば、樹脂シートをヒーター等で予め加熱し、加熱された樹脂シートを射出成形用の金型のキャビティ面上に配置し、キャビティ内部を吸引することで、樹脂シートを金型の内部形状に合致するように賦形することができる。その後、キャビティ内に賦形された樹脂シートを設置したまま、成形用樹脂を充填することで、成形体を得ることができる。
本方法によれば、より複雑な形状の成形体を、より簡易な方法により形成することができる。
【0074】
被覆成形では、チャンバーボックス内に芯材を配設し、芯材の上方に、積層体を配置し、チャンバーボックス内を減圧し、積層体を加熱軟化し、芯材の上面に、積層体を接触し、加熱軟化させた積層体を芯材に押圧して被覆させることができる。
加熱軟化後、芯材の上面に積層体を接触させてもよい。押圧は、チャンバーボックス内において、積層体の芯材と接する側を減圧したまま、積層体の芯材の反対側を加圧して行うことができる。
【0075】
芯材は、凸状でも凹状であってもよく、例えば三次元曲面を有する樹脂、金属、セラミック等が挙げられる。樹脂は格別限定されず、例えば上述の成形に用いる熱可塑性樹脂と同様のものが挙げられる。
【0076】
被覆成形には、例えば、互いに分離可能な上下2つの成形室から構成されるチャンバーボックスを用いることができる。
まず、下成形室内のテーブル上へ芯材を載せ、セットする。被成形物である積層体を下成形室上面にクランプで固定する。この際、上・下成形室内は大気圧である。
次に上成形室を降下させ、上・下成形室を接合させ、チャンバーボックス内を閉塞状態にする。上・下成形室内の両方を大気圧状態から、真空タンクによって真空吸引状態とする。
上・下成形室内を真空吸引状態にした後、ヒーターを点けて積層体の加熱を行なう。次に上・下成形室内は真空状態のまま下成形室内のテーブルを上昇させる。
次に、上成形室内の真空を開放し大気圧を入れることによって、積層体は芯材へ押し付けられてオーバーレイ(成形)される。尚、上成形室内に圧縮空気を供給することで、より大きな力で積層体を芯材へ密着させることも可能である。
オーバーレイが完了した後、ヒーターを消灯し、下成形室内の真空も開放して大気圧状態へ戻し、上成形室を上昇させ、積層体が表皮材として被覆された製品を取り出す。
【0077】
6.成形体の用途
以上に説明した成形体の用途は特に限定されず、種々の用途に用いることができる。一実施形態において、成形体は、鞍乗型車両の外装部品又は四輪車両の外装部品に用いることができる。また、成形体は、車両の内装材、外装材、家電の筐体、化粧鋼鈑、化粧板、住宅設備、情報通信機器の筐体等に用いることができる。
【実施例0078】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例により限定されない。
【0079】
実施例1
樹脂シートの製造にあたり、下記材料を準備した。
・ポリプロピレン系樹脂:ホモポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロF-133A」、MFR:2.8g/10分、以下、「PP1」と言う)
・光沢顔料:干渉パール顔料(酸化チタン被覆マイカ、BASFカラー&エフェクトジャパン株式会社製「Lumina Exterior Russet S5903D」、赤色干渉色、主に粒子径6~43μmの粒子からなる顔料、以下、「干渉パール1」と言う)
【0080】
[樹脂シートの製造と評価]
PP1と干渉パール1とを表1に示す配合量で溶融混練し、ペレット状溶融混練物を得た。得られた溶融混練物を押出機の直径20mmのキャスト成形機(Dr.COLLIN社製「TEACH-LINE 押出機 E20T」)を用いて、成形温度230℃で押出成形し、40μm厚の樹脂シートを製造した。その後、得られた樹脂シートをステンレスプレートに挟み込み、プレス機(東京実業株式会社製「TJ-S5030SM」)を用いて200℃に加熱した後、10℃の水に浸漬させ(冷却速度:95℃/秒)、樹脂シートを得た(以上の製造方法を、以下、「製法1」と言う)。
【0081】
得られた樹脂シートについて以下の評価を行った。結果を表1に示す。
(アイソタクチックペンダット分率)
PP1について13C-NMRスペクトルを評価することでアイソタクチックペンダット分率を測定した。具体的には、アイソタクチックペンダット分率の測定は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,8,687(1975)」で提案されたピークの帰属に従い、下記の装置、条件及び計算式を用いて行った。
・装置・条件
装置:日本電子(株)製JNM-EX400型13C-NMR装置
方法:プロトン完全デカップリング法 濃度:220mg/ml
溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10000回
・計算式
アイソタクチックペンダット分率[mmmm]=m/S×100
S:全プロピレン単位の側鎖メチル炭素原子のシグナル強度
m:メソペンタッド連鎖:21.7~22.5ppm
【0082】
(結晶化速度)
示差走査熱量測定器(DSC)(製品名「Diamond DSC」、パーキンエルマー社製)を用いて、PP1の結晶化速度を測定した。具体的には、PP1を10℃/分にて50℃から230℃に昇温し、230℃にて5分間保持し、80℃/分で230℃から130℃に冷却し、その後130℃に保持して結晶化を行った。130℃になった時点から熱量変化について測定を開始し、DSC曲線を得た。得られたDSC曲線から、以下の手順(i)~(iv)により結晶化速度を求めた。
(i)測定開始からピークトップまでの時間の10倍の時点から、20倍の時点までの熱量変化を直線で近似したものをベースラインとした。
(ii)ピークの変曲点における傾きを有する接線とベースラインとの交点を求め、結晶化開始及び終了時間を求めた。
(iii)得られた結晶化開始時間から、ピークトップまでの時間を結晶化時間として測定した。
(iv)得られた結晶化時間の逆数から、結晶化速度を求めた。
【0083】
(結晶形)
ポリプロピレン系樹脂の結晶形を、T.Konishiらの用いた方法(Macromolecules、38,8749,2005)を参考にして、広角X線回折(WAXD:Wide-Angle X-ray Diffraction)により確認した。解析は、X線回折プロファイルについて非晶相、中間相、及び結晶相それぞれのピーク分離を行い、各相に帰属されるピーク面積から存在比率を求めた。
【0084】
(彩度)
分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社製「CM-M6」)を使用して、D65光源、10度視野、照明角度45°、受光角度15°の条件にて、L*a*b*表色系を測色し、彩度C*の値を測定した。
彩度C*は{(a*)2+(b*)2}1/2で計算した。
【0085】
(意匠の深み)
樹脂シートの意匠の深みを下記基準で目視により評価した。
A:意匠に深みがあり、立体的に観察される。
B:意匠に深みが無く、平面的に観察される。
C:シートが白濁し、意匠に深みがない。
【0086】
(フリップフロップ性)
樹脂シートのフリップフロップ性を下記基準で目視により評価した。
A:フリップフロップ性があり、陰影感が感じられる。
B:フリップフロップ性が無く、平面的に感じられる。
【0087】
実施例2
光沢顔料を、干渉パール顔料(酸化チタン被覆マイカ、メルクパフォーマンスマテリアルズ合同会社製「Iriodin7225」、青色干渉色、主に粒子径10~60μmの粒子からなる顔料、以下、「干渉パール2」と言う)に変更した以外は、実施例1と同じ方法で樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0088】
実施例3
光沢顔料を、干渉パール顔料(酸化チタン被覆マイカ、BASFカラー&エフェクトジャパン株式会社製「Lumina Royal Exterior Copper 3903H」、主に粒子径6~43μmの粒子からなる顔料、赤銅色干渉色、以下、「干渉パール3」と言う)に変更した以外は、実施例1と同じ方法で樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0089】
実施例4
光沢顔料の配合量を1.0質量%に変更した以外は、実施例3と同じ方法で樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0090】
実施例5
光沢顔料を、干渉パール顔料(酸化チタン被覆アルミナ、メルクパフォーマンスマテリアルズ合同会社製「Xirallic T60-23 SW Galaxy Blue」、主に粒子径5~30μmの粒子からなる顔料、青色干渉色、以下、「干渉パール4」と言う)に変更した以外は、実施例1と同じ方法で樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0091】
比較例1
実施例1の樹脂シートの製造において、プレス機による加熱と10℃の水への浸漬を行わず、キャスト成形機(Dr.COLLIN社製「TEACH-LINE 押出機 E20T」)で得られた樹脂シートをそのまま用いた以外は、実施例1と同じ方法で樹脂シートを製造し、評価した(冷却速度:45℃/秒、この樹脂シートの製造方法を、以下、「製法2」と言う)。結果を表1に示す。
【0092】
比較例2
製法2により樹脂シートを製造した以外は、実施例2と同じ方法で樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0093】
比較例3
製法2により樹脂シートを製造した以外は、実施例3と同じ方法で樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0094】
比較例4
製法2により樹脂シートを製造した以外は、実施例4と同じ方法で樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0095】
比較例5
製法2により樹脂シートを製造した以外は、実施例5と同じ方法で樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0096】
比較例6
光沢顔料を、アルミ顔料(旭化成株式会社製「Silveeds M100-BP」、主に粒子径3~30μmの粒子からなる顔料、アルミニウム90質量%とポリエチレングリコール10質量%とを含むメタリック顔料、以下、「アルミ1」と言う)に変更した以外は、実施例1と同じ方法で樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
比較例6では製法1により樹脂シートを作製したが、アルミ1が不透明であることから樹脂シート全体の透明性が低下し、奥行き感や立体感が得られず、深みの乏しい意匠となった。
【0097】
比較例7
製法2により樹脂シートを製造した以外は、比較例6と同じ方法で樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0098】
本発明の積層体から得られる成形体は、多岐にわたる種々の用途に使用することができ、例えば、輸送機器(自動車や二輪車等)、住宅設備、建築材料、家電等の多岐に渡る分野の筐体にて、塗装を代替する加飾シートとして使用することができる。