(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112727
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】モーターコアとシャフトとの嵌合構造
(51)【国際特許分類】
H02K 1/28 20060101AFI20230807BHJP
【FI】
H02K1/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014603
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 直樹
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA01
5H601AA08
5H601BB20
5H601CC01
5H601DD09
5H601EE18
5H601GA02
5H601GA21
5H601GA37
5H601GA40
5H601GC02
5H601GC12
5H601JJ05
5H601KK01
5H601KK08
5H601KK13
5H601KK14
(57)【要約】
【課題】モーターの回転速度が上昇してもモーターコアとシャフトとの堅固な嵌合状態を維持することができるモーターコアとシャフトとの嵌合構造を提供する。
【解決手段】鋼板の積層体からなり且つ挿嵌孔が形成されたモーターコアの挿嵌孔にシャフトが圧入されてなるモーターコアとシャフトとの嵌合構造であって、シャフトの圧入前の鋼板において、挿嵌孔よりも小さい貫通孔である周縁孔が挿嵌孔を取り囲むように3個以上形成され、挿嵌孔と周縁孔との間の部分である橋部が挿嵌孔の内側に向かって突出し、挿嵌孔の周縁部が圧入方向に向かって予め湾曲し、挿嵌孔の周縁部の板厚が他の部分の板厚よりも薄く、シャフトの圧入後の鋼板において、シャフトによって押圧されて挿嵌孔の径方向における外側に向かって橋部が弾性変形すると共に挿嵌孔の周縁部がシャフトの圧入方向に向かって弾性変形して更に湾曲している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼板の積層体からなり且つ非円形の貫通孔である挿嵌孔が中央部に形成されたモーターコアの前記挿嵌孔に、金属からなり且つ前記挿嵌孔の形状と相似である横断面を有し且つ前記挿嵌孔に対して所定の圧入代を達成するシャフトが圧入されてなる、モーターコアとシャフトとの嵌合構造であって、
前記シャフトが前記挿嵌孔に圧入される前の前記鋼板において、
少なくとも3個の前記挿嵌孔よりも小さい貫通孔である周縁孔が前記挿嵌孔を取り囲むように前記挿嵌孔の径方向における外側に形成されており、
前記挿嵌孔と前記周縁孔との間の部分である橋部の少なくとも径方向における内側の端部である突出部が前記挿嵌孔の径方向における内側に向かって突出しており、
前記突出部を含む前記挿嵌孔の周縁に位置する部分である周縁部の少なくとも径方向における内側の端部である周縁端部が前記シャフトの圧入方向に向かって予め湾曲しており、
前記周縁部における前記鋼板の板厚が前記周縁部以外の部分である一般部における前記鋼板の板厚よりも薄く、
前記シャフトが前記挿嵌孔に圧入された後の前記鋼板において、
前記シャフトによって押圧されて対向する前記周縁孔に向かって前記橋部が弾性変形すると共に前記周縁端部が前記シャフトの圧入方向に向かって弾性変形して前記シャフトが前記挿嵌孔に圧入される前よりも更に湾曲している、
ことを特徴とする、モーターコアとシャフトとの嵌合構造。
【請求項2】
請求項1に記載されたモーターコアとシャフトとの嵌合構造であって、
前記周縁孔及び前記橋部が前記挿嵌孔の周囲に均等に配置されている、
ことを特徴とする、モーターコアとシャフトとの嵌合構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載されたモーターコアとシャフトとの嵌合構造であって、
前記鋼板の前記周縁端部の前記シャフトの圧入方向における上流側の表面のうち少なくとも前記シャフトの圧入時に前記シャフトと接触する部分が滑らかな曲面によって構成されている、
ことを特徴とする、モーターコアとシャフトとの嵌合構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載されたモーターコアとシャフトとの嵌合構造であって、
前記挿嵌孔が正八角形の貫通孔であり、
前記周縁孔及び前記橋部が前記挿嵌孔の正八角形の辺の両端に形成されている、
ことを特徴とする、モーターコアとシャフトとの嵌合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーターコアとシャフトとの嵌合構造に関する。より詳しくは、本発明は、モーターの回転速度の上昇時においてもモーターコアとシャフトとの堅固な嵌合状態を維持することができるモーターコアとシャフトとの嵌合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハイブリッド自動車(HEV)等に使用されるモーターにおいては、円形の横断面を有するシャフトをモーターコアに形成された貫通孔に圧入し、モーターコアとシャフトとの回転方向における滑りをキーによって防止している。このようなモーターの用途においては、モーターの最高回転速度が上昇傾向にある。モーターの回転速度が上昇するにつれて、モーターコアが遠心力によって径方向における外側へ向かって弾性変形するため、モーターコアへのシャフトの圧入代(締め代)が減少する。圧入代が減少しゼロ又はマイナス(クリアランスが発生)になると、モーターコアとシャフトとの同軸度が悪化して、例えばモーターの回転に伴う振動の発生等の問題を招く虞が高まる。
【0003】
上記問題への対策としては初期圧入代(モーターコアにシャフトを圧入する際の圧入代)を大きくすることが考えられるが、圧入代の増大は例えば圧入荷重の増大及び/又はシャフトの外周面における圧入に伴う傷の発生等の問題に繋がる虞がある。
【0004】
一方、当該技術分野においては、モーターコアにシャフトを圧入する際の種々の問題を解決することを目的とする様々な方策が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1(実開昭63-24150号公報)には、モーターコアを構成する薄板に形成された穿設孔の周縁部分に切り起こし片部を設け、切り起こし片部の穿設孔側の端部に突出部を形成し、斯かる薄板の積層体からなるモーターコアの穿設孔に回転軸(シャフト)を挿通した後、切り起こし片部を軸方向に押圧することにより回転軸の外周面に突出部を圧着固定する技術が開示されている。これによれば、ローレット加工等を回転軸に施すこと無く、モーターコアを回転軸に適切且つ迅速に固定することができるとされている。
【0006】
しかしながら、上記のように切り起こし片部の穿設孔側の端部に突出部を形成することは圧入代の増大に繋がり、結果として、モーターコアに回転軸を圧入する際に回転軸の外周面に傷が発生する虞がある。斯かる問題への対策として、より高い硬度を有する材料によって回転軸(シャフト)を形成することが考えられる。斯かる対策は例えば小型モーター等においては有効であるが、例えばハイブリッド自動車(HEV)等に使用される大型モーターにおいてはシャフトも大きく、製造上の課題(例えば加工難度の増大及び/又は寸法精度の低下等)及び/又は製造コストの増大等の課題がある。加えて、モーターコアへの回転軸の挿通後に切り起こし片部を軸方向に押圧する工程が必須であるため、製造コストの増大が避けられない。何より、モーターの回転速度の上昇に伴う遠心力の増大によりモーターコアが径方向における外側へ向かって弾性変形することに起因するモーターコアと回転軸との嵌合状態に及ぼす影響(例えばロータシャフトと磁性部材との堅固な嵌合状態を維持することができるか否か等)については何ら言及されていない。
【0007】
また、特許文献2(特許第5945485号公報)には、回転電機用ロータにおいて、環状の磁性部材(モーターコア)にロータシャフト(シャフト)を圧入するための略多角形の挿嵌孔を形成し、ロータシャフトと磁性部材との嵌合面の角部等にクリアランス部(隙間)を設ける技術が開示されている。これによれば、ロータシャフトの挿嵌孔への圧入を容易にする(圧入荷重を低減する)と共にロータシャフトの角が磁性部材に干渉することを防ぐことができるとされている。
【0008】
上記のように非円形(例えば、略多角形)の横断面を有するシャフトと非円形(例えば、略多角形)の挿嵌孔とを嵌合させることにより、モーターコアとシャフトとの回転方向における滑りを低減することができる。しかしながら、モーターの回転速度の上昇に伴う遠心力の増大により磁性部材が径方向における外側へ向かって弾性変形した場合において、上記のようなクリアランス部の存在がロータシャフトと磁性部材との嵌合状態に及ぼす影響については不明である。また、ロータシャフトの角以外の部分については、ロータシャフトを磁性部材に圧入する際の干渉についての記載が無い。即ち、圧入に伴ってロータシャフトの外周面に発生する虞がある傷については十分に考慮されていない。
【0009】
更に、特許文献3(特許第5991545号公報)、特許文献4(特許第6189699号公報)及び特許文献5(特許第4929714号公報)には、回転子鉄芯(モーターコア)の挿嵌孔の内径側に配置した凸部と凸部付近に配置した穴部とを設けることにより、回転軸(シャフト)の圧入時に径方向において弾性的に凸部を圧縮する構造が開示されている。これによれば、高速回転時のトルク伝達性を維持し、回転アンバランスによる振動・騒音を防止することができるとされている。
【0010】
しかしながら、上記構造においては回転軸が凸部のみによって保持されており、挿嵌孔の内周面の凸部以外の部分は回転軸に十分に接触することができない。また、凸部と穴部との組み合わせによる径方向における弾性変形のみによってモーターの回転速度の上昇に伴う回転子鉄芯の径方向における外側への弾性変形を十分に相殺することは困難である。従って、モーターの回転速度が著しく上昇した場合において、回転子鉄芯と回転軸との間におけるトルク伝達性及び同軸度が悪化する虞がある。また、圧入に伴って回転軸の外周面に傷が発生する虞がある点については考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開昭63-24150号公報
【特許文献2】特許第5945485号公報
【特許文献3】特許第5991545号公報
【特許文献4】特許第6189699号公報
【特許文献5】特許第4929714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、当該技術分野においては、モーターの回転速度の上昇時においてもモーターコアとシャフトとの堅固な嵌合状態を維持することができる技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、モーターコアとしての積層体を構成する鋼板の中央部に形成された挿嵌孔の外側に形成された挿嵌孔よりも小さい周縁孔と挿嵌孔との間の部分である橋部を挿嵌孔の中心側に向かって突出させ且つ挿嵌孔の周縁部の板厚を他の部分よりも薄くすると共にシャフトの圧入方向に湾曲させた。これにより、モーターコアへのシャフトの圧入荷重が低減されると共に、圧入に伴ってシャフトによって押圧されて挿嵌孔の径方向における外側に向かって橋部が弾性変形すると共に挿嵌孔の周縁部がシャフトの圧入方向に向かって弾性変形して更に湾曲する。その結果、モーターの回転速度の上昇時においても、橋部及び周縁部の弾性変形の戻りにより、モーターコアとシャフトとの堅固な嵌合状態を維持することができることを見出した。
【0014】
具体的には、本発明に係るモーターコアとシャフトとの嵌合構造(以降、「本発明構造」と称呼される場合がある。)は、複数の鋼板の積層体からなり且つ非円形の貫通孔である挿嵌孔が中央部に形成されたモーターコアの挿嵌孔に、金属からなり且つ挿嵌孔の形状と相似である横断面を有し且つ挿嵌孔に対して所定の圧入代を達成するシャフトが圧入されてなる、モーターコアとシャフトとの嵌合構造である。
【0015】
更に、シャフトが挿嵌孔に圧入される前の鋼板においては、以下の要件1乃至要件4が満足されている。
要件1:少なくとも3個の挿嵌孔よりも小さい貫通孔である周縁孔が挿嵌孔を取り囲むように挿嵌孔の径方向における外側に形成されている。
要件2:挿嵌孔と周縁孔との間の部分である橋部の少なくとも径方向における内側の端部である突出部が挿嵌孔の径方向における内側に向かって突出している。
要件3:突出部を含む挿嵌孔の周縁に位置する部分である周縁部の少なくとも径方向における内側の端部である周縁端部がシャフトの圧入方向に向かって予め湾曲している。
要件4:周縁部における板厚が周縁部以外の部分である一般部における板厚よりも薄い。
【0016】
加えて、シャフトが挿嵌孔に圧入された後の鋼板においては、以下の要件5が満足されている。
要件5:シャフトによって押圧されて対向する周縁孔に向かって橋部が弾性変形すると共に周縁端部がシャフトの圧入方向に向かって弾性変形してシャフトが挿嵌孔に圧入される前よりも更に湾曲している。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、本発明構造においては、上述した要件1乃至要件4を満足する鋼板によってモーターコアとしての積層体を構成することにより、モーターコアの挿嵌孔へのシャフトの圧入に伴って上述した要件5が満足される。即ち、シャフトによって押圧されて対向する周縁孔に向かって橋部が弾性変形すると共に周縁端部がシャフトの圧入方向に向かって弾性変形して更に湾曲している。従って、モーターの回転速度の上昇に伴ってモーターコアが遠心力によって径方向における外側へ向かって弾性変形しても、橋部の周縁孔側への弾性変形の戻り及び周縁端部の圧入方向への弾性変形による更なる湾曲の戻りによってモーターコアとシャフトとの接触が維持される。その結果、モーターの回転速度が著しく上昇した場合においても、モーターコアとシャフトとの同軸度が悪化して例えばモーターの回転に伴う振動の発生等の問題が発生する可能性を低減することができる。
【0018】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るモーターコアとシャフトとの嵌合構造(第1構造)を構成するモーターコアとしての積層体を構成する鋼板の構成の1つの例を示す模式図である。
【
図2】第1構造を構成するモーターコアとしての積層体を構成する鋼板の構成のもう1つの例を示す模式図である。
【
図3】第1構造を構成するモーターコアとしての積層体を構成する鋼板の構成のもう1つの例を示す模式図である。
【
図4】第1構造を構成するキー溝が形成されたモーターコアとしての積層体を構成する鋼板の構成の1つの例を示す模式図である。
【
図5】第1構造を構成するキー溝が形成されたモーターコアとしての積層体を構成する鋼板の構成のもう1つの例を示す模式図である。
【
図6】第1構造を構成するモーターコアとしての積層体を構成する鋼板の周縁部の構成を例示する模式的な断面図である。
【
図7】モーターコアとしての積層体を構成する鋼板の周縁端部の形状による鋼板の積層状体の違いを示す模式的な断面図である。
【
図8】
図1に例示した鋼板の周縁部近傍の構成を例示する模式的な断面図である。
【
図9】
図8に例示した要件4を満足する鋼板の積層状態を例示する模式的な断面図である。
【
図10】要件1乃至要件4を満足する鋼板の製造方法の1つの例を示す模式図である。
【
図11】要件1乃至要件4を満足する鋼板の製造方法のもう1つの例を示す模式図である。
【
図12】要件1乃至要件4を満足する鋼板がモーターコアへのシャフトの圧入により要件5を満足する状態へと変化する様子を例示する模式的な断面図である。
【
図13】外周面に凸部が設けられたシャフトの構成の一例を示す模式的な横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
《第1実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第1実施形態に係るモーターコアとシャフトとの嵌合構造(以降、「第1構造」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0021】
第1構造は、複数の鋼板の積層体からなり且つ非円形の貫通孔である挿嵌孔が中央部に形成されたモーターコアの挿嵌孔に、金属からなり且つ挿嵌孔の形状と相似である横断面を有し且つ挿嵌孔に対して所定の圧入代を達成するシャフトが圧入されてなる、モーターコアとシャフトとの嵌合構造である。
【0022】
モーターコアとしての積層体を構成する鋼板の材料は、モーターコアとしての所期の機能を発揮することが可能であり且つモーターの製造時及び使用時の環境に耐え得るものである限り特に限定されない。典型的には、所謂「電磁鋼板」の積層体がモーターコアとして使用される。挿嵌孔の形状は、モーターコアとシャフトとの回転方向における滑りを低減することが可能な非円形である限り特に限定されない。非円形の具体例には、例えば、楕円形及び多角形等の回転対称な形状のみならず、回転対称ではない形状も含まれる。更に、円形の一部が欠落した形状もまた非円形に含まれる。
【0023】
シャフトを構成する材料は、モーターの製造時及び使用時の環境に耐え得るものである限り特に限定されず、種々の材料から適宜選択することができる。一般的には、シャフトを構成する材料は例えば鋼鉄等の金属であり、典型的にはステンレス鋼である。また、例えば軽量化等を目的として、中空のシャフトを採用してもよい。シャフトはモーターコアに形成された挿嵌孔に圧入されるので、シャフトの横断面の形状は挿嵌孔の形状と相似である。更に、挿嵌孔への圧入によりモーターコアとシャフトとが堅固に嵌合する必要があるので、シャフトの横断面の形状は挿嵌孔の形状よりも僅かに大きい。即ち、シャフトの横断面の形状は、挿嵌孔に対して所定の圧入代(締め代)を達成することができるように設計される。
【0024】
更に、シャフトが挿嵌孔に圧入される前の鋼板においては、以下の要件1乃至要件4が満足されている。
要件1:少なくとも3個の挿嵌孔よりも小さい貫通孔である周縁孔が挿嵌孔を取り囲むように挿嵌孔の径方向における外側に形成されている。
要件2:挿嵌孔と周縁孔との間の部分である橋部の少なくとも径方向における内側の端部である突出部が挿嵌孔の径方向における内側に向かって突出している。
要件3:突出部を含む挿嵌孔の周縁に位置する部分である周縁部の少なくとも径方向における内側の端部である周縁端部がシャフトの圧入方向に向かって予め湾曲している。
要件4:周縁部における板厚が周縁部以外の部分である一般部における板厚よりも薄い。
これら要件1乃至要件4の各々につき、以下に詳細に説明する。
【0025】
先ず、要件1は、シャフトが挿嵌孔に圧入される前の鋼板において、少なくとも3個の挿嵌孔よりも小さい貫通孔である周縁孔が挿嵌孔を取り囲むように挿嵌孔の径方向における外側に形成されていることである。周縁孔の形状及び大きさ並びに位置は、挿嵌孔と周縁孔との間の部分である橋部が、後述するように、モーターコアへのシャフトの圧入に伴ってシャフトによって押圧されて対向する周縁孔に向かって弾性変形するように、適宜定められる。また、モーターコアとシャフトとが同軸状に配置されることを担保する観点から、挿嵌孔を取り囲むように3個以上の周縁孔を配置する必要があるが、周縁孔の数は4個以上の任意の数とすることができる。
【0026】
次に、要件2は、シャフトが挿嵌孔に圧入される前の鋼板において、挿嵌孔と周縁孔との間の部分である橋部の少なくとも径方向における内側の端部である突出部が挿嵌孔の径方向における内側に向かって突出していることである。突出部は、橋部の一部(即ち、橋部の少なくとも径方向における内側の端部)であってもよく、或いは橋部の全部であってもよい。挿嵌孔の径方向における内側へと向かう橋部の突出量を左右する橋部の形状及び大きさ並びに位置は周縁孔の形状及び大きさ並びに位置によって影響される。例えば、挿嵌孔と周縁孔との間の距離が大きいほど橋部の幅が広くなり、挿嵌孔に沿う方向における周縁孔の長さが大きいほど挿嵌孔に沿う方向における橋部の長さも大きくなる。更に、当然のことながら、橋部は挿嵌孔と周縁孔との間の部分であるので、周縁孔の位置によって橋部の位置が定まる。加えて、挿嵌孔の周縁孔に対向する部分の形状もまた橋部の形状及び幅を規定する要因となる。これらの要因は、上述したように、モーターコアへのシャフトの圧入に伴ってシャフトによって押圧されて対向する周縁孔に向かって橋部が弾性変形することが可能であるように、適宜定められる。
【0027】
図1乃至
図3は、第1構造を構成するモーターコアとしての積層体を構成する鋼板の構成を例示する模式図である。何れの図においても、(a)は挿嵌孔の周辺部分の拡大図であり、(b)は(a)において太い破線によって囲まれた部分の拡大図である。
【0028】
図1に例示する鋼板101aにおいては、(a)に示すように、挿嵌孔111aの形状は略正八角形であり、挿嵌孔111aの8個の辺の両端付近の径方向における外側にそれぞれ1個ずつ(合計16個)の小さな円形の周縁孔121aが形成されている。
図2に例示する鋼板101bにおいては、(a)に示すように、
図1に例示した挿嵌孔111aと同様に挿嵌孔111bの形状は略正八角形であるものの、挿嵌孔111bの8個の角部(頂点)の径方向における外側にそれぞれ1個ずつ(合計8個)の小さな楕円形の周縁孔121bが形成されている。
図3に例示する鋼板101cにおいては、(a)に示すように、
図1及び
図2にそれぞれ例示した挿嵌孔111a及び挿嵌孔111bと同様に挿嵌孔111cの形状は略正八角形であるものの、挿嵌孔111cの8個の角部(頂点)の径方向における外側にそれぞれ1個ずつ(合計8個)の挿嵌孔111cの角部に沿うように曲がって延在する小さな長円形の周縁孔121cが形成されている。
【0029】
ところで、第1構造においては、モーターコアとシャフトとの嵌合面に形成されたキー溝にキーを嵌合させてモーターコアとシャフトとの回転方向における滑りを防止してもよい。この場合、モーターコアとしての積層体を構成する鋼板の挿嵌孔の形状においては、キー溝を構成する切り欠きが形成される。このような鋼板においても、挿嵌孔の周りに周縁孔が形成され、挿嵌孔と周縁孔との間には橋部が形成される。
【0030】
図4及び
図5は、このような鋼板の構成を例示する模式図である。
図1乃至
図3と同様に、何れの図においても、(a)は挿嵌孔の周辺部分の拡大図であり、(b)は(a)において太い破線によって囲まれた部分の拡大図である。
【0031】
図4に例示する鋼板101dにおいては、(a)に示すように、挿嵌孔111dの形状は略円形であるが、キー溝を構成する切り欠き141dが形成されており、切り欠き141dの両脇にそれぞれ1個ずつの小さな楕円形の周縁孔121dと挿嵌孔111dの切り欠き141dが形成されていない部分の外側に2対の小さな楕円形の周縁孔121dとが形成されている。即ち、鋼板101dにおいては、合計で6個の周縁孔121dが形成されている。一方、
図5に例示する鋼板101eにおいては、(a)に示すように、
図4に例示した挿嵌孔111dと同様に挿嵌孔111eの形状はキー溝を構成する切り欠き141eが形成された略円形であるものの、周縁孔121eの個数及び位置が鋼板101dとは異なる。具体的には、鋼板101eにおいては、3個の小さな楕円形の周縁孔121eの全てが挿嵌孔111eの切り欠き141eが形成されていない部分の外側に形成されている。
【0032】
図1乃至
図5の(b)において太い破線によって囲まれた部分は、それぞれ、鋼板101a乃至101eの挿嵌孔111a乃至111eと周縁孔121a乃至121eとの間の部分である橋部131a乃至131eである。
図1乃至
図3の(b)並びに
図4及び
図5の(a)及び(b)に例示するように、挿嵌孔111a乃至孔111eの径方向における内側に向かって橋部131a乃至131eの径方向における内側の端部である突出部132a乃至132eが突出している。これにより、詳しくは後述するように、モーターコアへのシャフトの圧入に伴ってシャフトによって押圧されて対向する周縁孔121a乃至孔121eに向かって橋部131a乃至131eが弾性変形すると共にシャフトの圧入方向に向かって弾性変形して更に湾曲することができる。
【0033】
尚、
図1乃至
図5の何れにおいても、本発明に関する理解を容易なものとすることを目的として、挿嵌孔の径方向における内側に向かって橋部の突出部が突出している様子が強調されて描かれている。しかしながら、実際の第1構造において挿嵌孔を画定する鋼板の内周面における突出部以外の部分からの突出部の突出量は、例えば数μm乃至数百μm程度の極僅かな大きさである。
【0034】
次に、要件3は、シャフトが挿嵌孔に圧入される前の鋼板において、突出部を含む挿嵌孔の周縁に位置する部分である周縁部の少なくとも径方向における内側の端部である周縁端部がシャフトの圧入方向に向かって予め湾曲していることである。シャフトが挿嵌孔に圧入される前の鋼板における挿嵌孔の周縁部の湾曲は非弾性変形である。従って、この湾曲は、モーターの回転速度の上昇に伴ってモーターコアが遠心力によって径方向における外側へ向かって弾性変形した場合におけるモーターコアとシャフトとの接触の維持には寄与しない。しかしながら、周縁端部がシャフトの圧入方向に向かって予め湾曲していることにより、モーターコアへのシャフトの圧入時におけるシャフトと周縁端部との接触角が鋭角となり、圧入荷重を低減することができる。
【0035】
図6は、第1構造を構成するモーターコアとしての積層体を構成する鋼板の周縁部の構成を例示する模式的な部分拡大断面図である。但し、
図6においては、本発明に関する理解を容易なものとすることを目的として、積層体を構成する鋼板が2枚のみ描かれている。また、
図6においては、シャフトが挿嵌孔に圧入される前の状態を例示するものであるが、モーターコアを構成する鋼板とシャフトとの位置関係を示すことを目的として、シャフトが破線によって描かれている。
【0036】
図6に例示するように、鋼板100の突出部を含む挿嵌孔の周縁に位置する部分である周縁部の少なくとも径方向における内側の端部である周縁端部がシャフト200の圧入方向(図中に示す黒塗りの矢印を参照)に向かって予め(即ち、シャフト200が挿嵌孔に圧入される前から)湾曲している。これにより、モーターコアに形成された挿嵌孔へのシャフト200の圧入時におけるシャフトと周縁端部との接触角θが鋭角となり、圧入荷重を低減することができる。
図6に示すように、シャフトと周縁端部との接触角とは、シャフトの軸を含む平面による断面におけるシャフトの外周面と鋼板の周縁端部の圧入方向における上流側の周面とがなす角度を意味する。
【0037】
シャフトが挿嵌孔に圧入される前の鋼板における挿嵌孔の周縁端部の湾曲の程度及び周縁端部の大きさは、モーターコアへのシャフトの圧入後におけるシャフトの保持荷重が十分に確保される程度とする必要がある。換言すれば、圧入前の周縁端部の湾曲の程度及び周縁端部の大きさは、シャフトが挿嵌孔に圧入された後の鋼板において周縁端部がシャフトの圧入方向に向かって弾性変形してシャフトが挿嵌孔に圧入される前よりも更に湾曲して当該弾性変形の戻りによってシャフトを堅固に保持することができる程度に抑える必要がある。このような圧入前の周縁端部の湾曲の程度及び周縁端部の大きさは、例えば、予備実験による実測又はコンピュータによるシミュレーション等により特定される圧入後の周縁端部の更なる湾曲の程度等に基づいて、所期の効果を達成するのに十分に大きい弾性変形による湾曲がシャフトの圧入時に得られるように定められる。更に、モーターコアへのシャフトの圧入時における荷重(圧入荷重)を低減する観点からは、シャフトと周縁端部との接触角がより小さくなるように周縁端部の湾曲の程度を十分に大きくすることが望ましい。
【0038】
ところで、上記のようにモーターコアとしての積層体を構成する鋼板の周縁端部がシャフトの圧入方向に向かって湾曲していると、湾曲した部分は湾曲していない部分に対して斜めになる。従って、鋼板の全体に亘って板厚が均一である場合、湾曲した部分の圧入方向(軸方向)における厚さが湾曲してない部分の圧入方向(軸方向)における厚さよりも大きくなる。その結果、モーターコアとしての積層体における複数の鋼板の密着(積層性)を達成することは困難となる虞がある。このことについて図面を参照しながら以下に説明する。
【0039】
図7は、モーターコアとしての積層体を構成する鋼板の周縁端部の形状による鋼板の積層状体の違いを示すシャフトの軸を含む平面による模式的な断面図である。
図7の(a)に例示する鋼板100’は全体に亘って板厚が均一であり且つ周縁端部が湾曲していないので、モーターコアとしての積層体において鋼板同士が密着することができる。一方、
図7の(b)に例示する鋼板100”は全体に亘って板厚が均一であり且つ周縁端部が湾曲している。このため、湾曲していない部分の圧入方向(軸方向)における厚さ(図中に示す実線の両矢印T1を参照)よりも湾曲した部分の圧入方向(軸方向)における厚さ(図中に示す破線の両矢印T2を参照)が大きくなる(T1<T2)。その結果、
図7の(b)に例示するように、モーターコアとしての積層体における複数の鋼板の密着を維持しながら挿嵌孔にシャフトを圧入することが困難となる。そこで、第1構造においては以下に示す要件4を満足するように鋼板が構成される。
【0040】
要件4は、シャフトが挿嵌孔に圧入される前の鋼板において、周縁部における板厚が周縁部以外の部分である一般部における板厚よりも薄いことである。
図8の(a)は
図1に例示した鋼板101aの周縁部の近傍の構成を例示する模式図であり、
図8の(b)は(a)に示した周縁孔121aを通る一点鎖線Aを含む平面による鋼板101aの周縁部近傍の断面図であり、
図8の(c)は(a)に示した周縁孔121aを通らない一点鎖線Bを含む平面による鋼板101aの周縁部近傍の断面図である。
【0041】
図8に例示するように、鋼板101aにおいては、上述した要件1乃至要件3が満足されている。具体的には、前述したように、合計16個の周縁孔121aが挿嵌孔111aを取り囲むように形成されており(要件1)、挿嵌孔111aと周縁孔121aとの間の部分である橋部131aの挿嵌孔111a側の端部である突出部132aが挿嵌孔111a側に向かって突出しており(要件2)、挿嵌孔111aの周縁部113aの挿嵌孔111a側の端部である周縁端部114aがシャフトの圧入方向(図中に示す黒塗りの矢印を参照)に向かって湾曲している(要件3)。尚、突出部132aは、挿嵌孔111aと周縁孔121aとの間の部分である橋部131aの先端部であるので、
図8の(a)に例示するように周縁端部114aの一部分を構成しており、
図8の(b)に例示する橋部131aが形成されていない部分よりもΔPだけ挿嵌孔111a側に突出している。
【0042】
更に、鋼板101aにおいては、上述した要件4が満足されている。具体的には、
図8の(a)及び(b)に例示するように、周縁部113aにおける板厚が周縁部113a以外の部分である一般部112aにおける板厚よりも薄い。即ち、
図9に例示するように、湾曲していない部分(一般部112a)の圧入方向(図中に示す黒塗りの矢印を参照)における厚さ(図中に示す実線の両矢印T1を参照)よりも湾曲した部分(周縁端部113a)の圧入方向における厚さ(図中に示す破線の両矢印T3を参照)の方が薄い(T1>T3)。その結果、鋼板101aの周縁端部がシャフトの圧入方向に向かって湾曲しているにもかかわらず、モーターコアとしての積層体における複数の鋼板の密着(積層性)を達成することが可能となる。
【0043】
挿嵌孔の周縁部における鋼板の板厚と挿嵌孔の周縁部以外の部分である一般部における鋼板の板厚との差は、例えばモーターコアへのシャフトの圧入時に想定される鋼板における挿嵌孔の周縁部の湾曲の程度及び/又は圧入荷重の大きさ等に応じて、適宜定めることができる。鋼板の板厚を薄くする周縁部の具体的な範囲もまた、例えばモーターコアへのシャフトの圧入時に想定される鋼板における挿嵌孔の周縁部の湾曲の程度及び/又は圧入荷重の大きさ等に応じて、適宜定めることができる。鋼板の板厚を薄くする周縁部の具体的な範囲は、例えば、径方向において周縁孔の最内端よりも内側(挿嵌孔側)であり且つ挿嵌孔よりも外側の範囲に位置し挿嵌孔を取り囲む領域であってもよく、径方向において周縁孔の最外端よりも内側(挿嵌孔側)であり且つ挿嵌孔よりも外側の範囲に位置し挿嵌孔を取り囲む領域であってもよく、或いは、挿嵌孔から径方向において周縁孔の最外端よりも外側(挿嵌孔とは反対側)にまで及ぶ範囲に位置し挿嵌孔を取り囲む領域であってもよい。
【0044】
具体的には、
図8に例示した鋼板101aにおいては、一般部112aよりも薄い板厚を有する周縁部113aの全体がシャフトの圧入方向(図中に示す黒塗りの矢印を参照)に向かって湾曲している。即ち、鋼板101aにおいては周縁部113aの全体が周縁端部114aを構成しているが、周縁部113aの一部(挿嵌孔111a側の端部)のみが周縁端部114aを構成していてもよい。また、
図8の(b)に例示した鋼板101aにおいては周縁孔121aの全体が一般部112aに形成されているが、周縁孔121aの全体が周縁部113aに形成されていてもよく、或いは、周縁孔121aが一般部112aと周縁部113aとに跨がるように形成されていてもよい。更に、
図8の(b)に例示した鋼板101aにおいては橋部131aが一般部112aと周縁部113aとに跨がるように形成されているが、橋部131aの全体が周縁部113aに形成されていてもよい。即ち、第1構造を構成するモーターコアとしての積層体を構成する鋼板における挿嵌孔、一般部、周縁部、周縁端部、周縁孔、橋部及び突出部の大きさ、形状並びに/又は配置は、要件1乃至要件5を満足するものである限り特に限定されない。
【0045】
尚、上述した要件1乃至要件4を満足する鋼板を製造する方法は特に限定されず、当業者に周知である様々な加工方法の中から適宜選択することができる。斯かる製造方法の一例としては、例えば、絞り加工、切削加工及び打ち抜き加工等、並びにこのような加工方法の組み合わせ等を挙げることができる。
【0046】
図10は、上述した要件1乃至要件4を満足する鋼板の製造方法の1つの例を示す模式図である。尚、
図10においては、モーターコアの回転軸AXよりも図面に向かって左側の部分のみが描かれている。
図10に例示する製造方法においては、先ず、(a)に示すように、プレス成形により鋼板の中央部を圧入方向(図面に向かって下向き)に窪ませる。これにより、鋼板における窪ませなかった部分と窪みの底面との間の部分に圧入方向に向かって湾曲する湾曲部が形成されると共に湾曲部において絞り及び曲げによる減肉が生ずる(図中に示す黒塗りの矢印を参照)。次に、(b)に示すように、図中に示すトリムラインTLに沿って鋼板の中央部に打ち抜き加工を施す。これにより、湾曲部にダレが生じ、シャフトの圧入方向に向かって予め湾曲した部分である周縁端部の形成が完了する。
【0047】
或いは、上述した要件1乃至要件4を満足する鋼板を単工程のプレス成形によって製造することもできる。
図11は、要件1乃至要件4を満足する鋼板の製造方法のもう1つの例を示す模式図である。尚、
図11においては、プレス成形によって打ち抜かれる部分の近傍のみが描かれている。
図11に例示する製造方法によれば、上型301と下型302との間のクリアランスを大きく確保したり、打ち抜き加工のための切り刃の刃先の曲率半径(R)を大きくしたりすることにより、鋼板100の中央部を上型301によって打ち抜く際に生ずるダレを大きくすることができる。
【0048】
加えて、シャフトが挿嵌孔に圧入された後の鋼板においては、以下の要件5が満足されている。
要件5:シャフトによって押圧されて対向する周縁孔に向かって橋部が弾性変形すると共に周縁端部がシャフトの圧入方向に向かって弾性変形してシャフトが挿嵌孔に圧入される前よりも更に湾曲している。
【0049】
尚、上述した要件4に関する説明から明らかであるように、一般部よりも薄い板厚を有する周縁部には挿嵌孔と周縁孔との間の部分である橋部の少なくとも一部が含まれる。従って、橋部の少なくとも一部の板厚もまた、周縁部以外の部分である一般部における板厚よりも薄い。また、上述したように、突出部は橋部の少なくとも径方向における内側の端部であるので、鋼板における挿嵌孔の周縁部において挿嵌孔の径方向における最も内側に位置する部分である。従って、上述した要件3に関する説明においても述べたように、鋼板の周縁部の挿嵌孔側の端部においてシャフトの圧入方向に向かって予め湾曲している部分である周縁端部には橋部の突出部が含まれる。その結果、上記のようにモーターコアへのシャフトの圧入に伴って、シャフトによって押圧されて、対向する周縁孔に向かって橋部が弾性変形すると共に周縁端部がシャフトの圧入方向に向かって弾性変形してシャフトが挿嵌孔に圧入される前よりも更に湾曲することができる。
【0050】
図12は、上述した要件1乃至要件4を満足する鋼板が、モーターコアへのシャフトの圧入により上述した要件5を満足する状態へと変化する様子を例示するシャフトの軸を含み且つ周縁孔及び橋部を通る平面による模式的な断面図である。
図12の(a)に例示するように、鋼板100においては、挿嵌孔を取り囲むように周縁孔120が形成され(要件1)、挿嵌孔と周縁孔120との間の部分である橋部130の先端である突出部が挿嵌孔側に突出し(要件2)、周縁端部114aがシャフトの圧入方向(図中に示す黒塗りの矢印を参照)に向かって湾曲し(要件3)、周縁部113aの板厚が一般部112aの板厚よりも薄い(要件4)。
【0051】
上記のような構成を有する鋼板100が積層されてなるモーターコアの挿嵌孔にシャフト200が圧入される(図中に示す黒塗りの矢印を参照)と、
図12の(b)に例示するように、周縁端部114aがシャフト200によって押圧されて、周縁孔120側に向かって橋部130が弾性変形する(図中に示す太い実線の矢印を参照)と共に周縁端部114aが弾性変形してシャフト200の圧入方向に向かって更に湾曲する(図中に示す太い破線の矢印を参照)。但し、周縁部が湾曲した結果として斜めになっているので橋部130の周縁孔120側への弾性変形を示す矢印も斜めになっている。以上のように、
図12の(b)に例示する鋼板100は要件5を満足している。
【0052】
前述したように、モーターの回転速度の上昇に伴ってモーターコアが遠心力によって径方向における外側へ向かって弾性変形する(図中に示す白抜きの矢印を参照)。その結果、要件4及び要件5を満足しない従来技術に係るモーターコアとシャフトとの嵌合構造においては、本明細書の冒頭において述べたように、モーターコアへのシャフトの圧入代(締め代)が減少してモーターコアとシャフトとの同軸度が悪化し、例えばモーターの回転に伴う振動の発生等の問題を招く虞が高まる。
【0053】
しかしながら、第1構造においては、上述したように(要件1乃至要件4及び)要件5を満足することにより、モーターの回転速度の上昇に伴ってモーターコアが遠心力によって径方向における外側へ向かって弾性変形した場合においても、橋部130の周縁孔120側への弾性変形の戻り及び周縁端部114aの圧入方向への弾性変形による更なる湾曲の戻りにより、モーターコアを構成する鋼板100の周縁端部とシャフト200との接触(嵌合)がシャフト200の全周に亘って維持される。換言すれば、橋部130の周縁孔120側への弾性変形の戻り及び周縁端部114aの圧入方向への弾性変形による更なる湾曲の戻りにより、モーターコアを構成する鋼板100の周縁端部とシャフト200との接触(嵌合)が突出部を含む橋部130のみならず周縁端部の橋部130以外の領域においても維持される。その結果、第1構造によれば、モーターの回転速度が著しく上昇した場合においても、モーターコアとシャフトとの同軸度が悪化して例えばモーターの回転に伴う振動の発生等の問題が発生する可能性を低減することができる。
【0054】
また、前述した特許文献3乃至5に記載された発明においてはモーターコアの挿嵌孔の内径側に配置した凸部のみによってシャフトが保持されるので、モーターの回転速度の上昇に伴ってモーターコアが遠心力によって径方向における外側へ向かって弾性変形した場合においてモーターコアとシャフトとの間におけるトルク伝達性が悪化する虞がある。しかしながら、第1構造においては、上記のようにモーターコアを構成する鋼板100の周縁端部114aとシャフト200との接触(嵌合)がシャフト200の全周に亘って維持される。従って、第1構造によれば、従来技術と比べて、モーターコアとシャフトとの間におけるトルク伝達をより確実に行うことができる。更に、シャフトの圧入前から周縁端部が圧入方向に向かって予め湾曲しており且つシャフトの圧入に伴って橋部130が周縁孔120側へ弾性変形すると共に周縁端部が圧入方向への弾性変形により更に湾曲することにより、モーターコアへのシャフトの圧入時における圧入荷重を低減することができる。
【0055】
ところで、圧入代の具体的な大きさはモーターの回転速度の最大値(上限値)等に基づいて定められる。現実には、挿嵌孔の径及びシャフトの径にはバラツキが生ずるので、当該バラツキを考慮して圧入代の大きさを定める必要がある。具体的には、挿嵌孔の径のバラツキの範囲内での最大値とシャフトの径のバラツキの範囲内での最小値との組み合わせとなった場合においてもモーターコアとシャフトとの十分な嵌合状態を維持することが可能な圧入代が担保されるように、圧入代の最小値(下限値)を定める必要がある。一方、圧入代の最大値は、挿嵌孔の径のバラツキの範囲内での最小値とシャフトの径のバラツキの範囲内での最大値との組み合わせとなった場合においても圧入荷重が過大になったり圧入時にモーターコア及び/又はシャフトに傷が発生したりしないように定める必要がある。
【0056】
第1構造においては、鋼板の周縁端部の圧入前からの湾曲並びにシャフトの圧入に伴う周縁端部の弾性変形による更なる湾曲及び周縁孔側への橋部の弾性変形により圧入荷重が低減されるので、モーターコア及び/又はシャフトにおける傷の発生を低減することができる。従って、第1構造によれば、従来技術に係る嵌合構造に比べて、圧入代の最大値(上限値)をより高く定めることができる。その結果、挿嵌孔の径及びシャフトの径におけるバラツキの許容範囲が広がるので、モーターコア及び/又はシャフトの寸法精度を下げることができる。即ち、モーターコア及び/又はシャフトの製造工程及び/又は材料の選択の幅が広がるので、製造コスト面でのメリットとなる。
【0057】
《第2実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第2実施形態に係るモーターコアとシャフトとの嵌合構造(以降、「第2構造」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0058】
上述したように、周縁孔の形状及び大きさ並びに位置は、挿嵌孔と周縁孔との間の部分である橋部がモーターコアへのシャフトの圧入に伴ってシャフトによって押圧されて対向する周縁孔に向かって弾性変形することが可能であるように適宜定められる。また、モーターコアとシャフトとが同軸状に配置されることを担保する観点から、挿嵌孔を取り囲むように3個以上の周縁孔を配置する必要がある。
【0059】
モーターの回転に伴う振動の発生等の問題を低減する観点からは、上記に加えて、モーターコア及びシャフトによって構成されるロータの重心がロータの回転軸上に位置することが望ましい。例えばモーターコア及びシャフトのみによってロータが構成されている場合は、モーターコアの重心がシャフトの回転軸(中心軸)上に位置することが望ましい。この場合、モーターコアとしての積層体を構成する鋼板の重心がシャフトの中心軸上に位置することが望ましい。
【0060】
そこで、第2構造は、上述した第1構造であって、周縁孔及び橋部が挿嵌孔の周囲に均等に配置されていることを特徴とする、モーターコアとシャフトとの嵌合構造である。
【0061】
ここでいう「周縁孔及び橋部が挿嵌孔の周囲に均等に配置されている」とは、周縁孔と橋部との組が挿嵌孔の周囲において挿嵌孔の中心の周りに同一の角度にて隔てられて配置されていることを意味する。しかしながら、必ずしも周縁孔と橋部との組の1つ1つが挿嵌孔の周囲において挿嵌孔の中心の周りに同一の角度(割出)にて隔てられて配置されている必要は無い。例えば、周縁孔と橋部との複数の組からなる群が挿嵌孔の周囲において挿嵌孔の中心の周りに同一の角度にて隔てられて配置されていてもよい。
【0062】
例えば、
図1に例示した鋼板101aについては、略正八角形の挿嵌孔111aの角部(頂点)を挟むように配置された2つの「周縁孔121aと橋部131aとの組」が挿嵌孔111aの周囲に45°ずつ隔てて均等に配置されていると見做すことができる。また、
図2及び
図3に例示した鋼板101b及び鋼板101cについては、略正八角形の挿嵌孔111b及び挿嵌孔111cの角部(頂点)の径方向における外側に配置された周縁孔121bと橋部131bとの組及び周縁孔121cと橋部131cとの組が挿嵌孔111b及び挿嵌孔111cの周囲に45°ずつ隔てて均等に配置されている。更に、
図5に例示した鋼板101eについては、周縁孔121eと橋部131eとの組が略円形の挿嵌孔111eの周囲に120°ずつ隔てて均等に配置されている。即ち、
図1乃至
図3及び
図5において例示したモーターコアとしての積層体を構成する鋼板は、第2構造としての構成要件をも満足している。
【0063】
上記のように、第2構造においては、周縁孔及び橋部が挿嵌孔の周囲に均等に配置されている。これにより、第2構造によれば、モーターコアとシャフトとを同軸状に配置することを担保するのみならず、モーターコアの重心をシャフトの回転軸(中心軸)上に位置させることができるので、モーターの回転に伴う振動の発生等の問題をより確実に低減することができる。
【0064】
《第3実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第3実施形態に係るモーターコアとシャフトとの嵌合構造(以降、「第3構造」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0065】
モーターコアへのシャフトの圧入においては、上述した要件5に記載されているように、鋼板の周縁端部がシャフトによって押圧されて、シャフトの圧入方向に向かって弾性変形して更に湾曲する。従って、シャフトの外周面における圧入に伴う傷の発生等の問題を低減する観点からは、シャフトの外周面と接触する鋼板の周縁端部の表面が滑らかな曲面によって構成されていることが望ましい。
【0066】
そこで、第3構造は、上述した第1構造又は第2構造であって、鋼板の周縁端部のシャフトの圧入方向における上流側の表面のうち少なくともシャフトの圧入時にシャフトと接触する部分が滑らかな曲面によって構成されている、ことを特徴とする、モーターコアとシャフトとの嵌合構造である。
【0067】
上述した第1構造に関する説明において参照した
図8乃至
図12において例示したモーターコアとしての積層体を構成する鋼板においては、周縁端部のシャフトの圧入方向における上流側の表面が滑らかな曲面によって構成されている。即ち、
図8乃至
図12において例示したモーターコアとしての積層体を構成する鋼板は、第3構造としての構成要件をも満足している。
【0068】
上記の結果、第3構造によれば、鋼板の周縁端部における圧入方向の上流側の角が丸められていない場合に比べて、モーターコアへのシャフトの圧入に伴う、シャフトの外周面における圧入に伴う傷の発生等の問題を低減することができる。
【0069】
《第4実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第4実施形態に係るモーターコアとシャフトとの嵌合構造(以降、「第4構造」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0070】
上述したように、モーターコアとしての積層体を構成する鋼板に形成される挿嵌孔の形状は、モーターコアとシャフトとの回転方向における滑りを低減することが可能な非円形である限り特に限定されない。非円形の具体例には、例えば、楕円形及び多角形等の回転対称な形状のみならず、回転対称ではない形状も含まれる。更に、円形の一部が欠落した形状(例えば、キー溝を構成する切り欠きが設けられた円形)もまた非円形に含まれる。
【0071】
但し、ロータの重心をロータの回転軸に一致させてモーターの回転に伴う振動の発生等を低減する観点からは、挿嵌孔の形状は楕円形及び多角形等の回転対称な形状であることが望ましい。また、例えば回転対称な鋼板の挿嵌孔及びシャフトの横断面を形成する際の加工量(例えば、変形量及び/又は切削量等)を低減する観点及び挿嵌孔の内周面とシャフトの外周面との接触長(即ち、モーターコアの挿嵌孔の内周面とシャフトの外周面との接触面積)を増大させてトルク伝達性を向上させる観点からは、挿嵌孔の形状は多角形であることが望ましい。挿嵌孔の形状は、好ましくは正六角形又は正八角形であり、より好ましくは正八角形である。尚、本明細書における挿嵌孔の形状についての記載は、その文言に厳密に合致する形状に限定して解釈されるべきものではなく、前述したように挿嵌孔の内周面から径方向における内側に向かって突出する突出部が存在してもよく、或いは、多角形の角部(頂点)が丸みを帯びていてもよい。換言すれば、本明細書における挿嵌孔の形状についての記載は、社会通念上又は当業者によって、その文言が指し示す形状であると認識される形状を広く包含するものである。
【0072】
更に、前述したように、周縁孔の形状及び大きさ並びに位置は、挿嵌孔と周縁孔との間の部分である橋部がモーターコアへのシャフトの圧入に伴ってシャフトによって押圧されて対向する周縁孔に向かって弾性変形することが可能であるように適宜定められる。また、モーターコアとシャフトとが同軸状に配置されることを担保する観点から、挿嵌孔を取り囲むように3個以上の周縁孔を配置する必要がある。
【0073】
但し、ロータの重心をロータの回転軸に一致させてモーターの回転に伴う振動の発生等を低減する観点からは、前述したように、周縁孔及び橋部が挿嵌孔の周囲に均等に配置されていることが望ましい。尚、前述したように、必ずしも周縁孔と橋部との組の1つ1つが上記のように配置されている必要は無く、例えば、周縁孔と橋部との複数の組からなる群が上記のように配置されていてもよい。
【0074】
一方、モーターコアとシャフトとの間におけるトルク伝達性を向上させる観点からは、多角形の挿嵌孔の辺の部分を長く確保することが望ましい。斯かる観点からは、多角形の挿嵌孔の辺の両端の径方向における外側に周縁孔及び橋部を配置することが望ましい。換言すれば、多角形の挿嵌孔の角部(頂点)の径方向における外側に周縁孔及び橋部を配置することが望ましい。尚、本明細書における周縁孔及び橋部の位置についての記載は、その文言に厳密に合致する位置に限定して解釈されるべきものではなく、その文言に厳密に合致する位置の近傍をも含むものと解釈されるべきである。換言すれば、本明細書における周縁孔及び橋部の位置についての記載は、社会通念上又は当業者によって、その文言が指し示す位置であると認識される位置を広く包含するものである。
【0075】
以上から、第4構造は、上述した第1構造乃至第3構造の何れかであって、
挿嵌孔が正八角形の貫通孔であり、
周縁孔及び橋部が挿嵌孔の正八角形の辺の両端の径方向における外側に形成されている、
ことを特徴とする、モーターコアとシャフトとの嵌合構造である。
【0076】
例えば、
図1に例示した鋼板101aにおいては、上述したように、略正八角形の挿嵌孔111aの角部(頂点)を挟むように配置された2つの「周縁孔121aと橋部131aとの組」が挿嵌孔111aの周囲に45°ずつ隔てて均等に配置されている。換言すれば、鋼板101aにおいては、挿嵌孔111aが正八角形の貫通孔であり、周縁孔121a及び橋部131aが挿嵌孔111aの正八角形の辺の両端の径方向における外側に形成されている。即ち、
図1に例示したモーターコアとしての積層体を構成する鋼板101aは、第4構造としての構成要件をも満足している。
【0077】
上記のような第4構造によれば、ロータの重心をロータの回転軸に一致させてモーターの回転に伴う振動の発生等を低減し、鋼板の挿嵌孔及びシャフトの横断面を形成する際の加工量を低減し、且つ挿嵌孔のモーターコアの挿嵌孔の内周面とシャフトの外周面との接触面積を増大させてトルク伝達性を向上させるという効果を、より確実に達成することができる。
【0078】
ところで、本発明の種々の実施形態に関するこれまでの説明においては、モーターコアとしての積層体を構成する鋼板にのみ周縁孔及び橋部、板厚の薄い周縁部並びにシャフトの圧入方向に向かって湾曲している周縁端部を設ける態様について言及してきた。しかしながら、上述した本発明の種々の実施形態において、シャフトの外周面に凸部を更に設けてもよい。この場合、シャフトの外周面において凸部を設ける位置は、モーターコアとしての積層体を構成する鋼板に設けられた周縁孔及び橋部に対向する位置であってもよく、或いは、当該鋼板において周縁孔及び橋部が設けられていない位置に対向する位置であってもよい。
【0079】
図13は、上記のように外周面に凸部が設けられたシャフトの構成の一例を示す模式的な横断面図である。
図13に例示するシャフト200aは略正八角形の横断面を有し、当該略正八角形の8個の辺の両端付近にそれぞれ1個ずつ(合計16個)の小さな凸部201が形成されている。換言すれば、シャフト200aにおいては、略正八角形の横断面の角部(頂点)を挟むように配置された2つの凸部201がシャフト200aの外周面に45°ずつ隔てて均等に配置されている。従って、
図13に例示するシャフト200aを
図1に例示した鋼板101aによって構成されるモーターコアに圧入する場合、鋼板101aに設けられた周縁孔121a及び橋部131aに、200aの外周面に設けられた各々の凸部201が対向することとなる。但し、上述したように、シャフトの外周面において凸部を設ける位置は、
図13に例示した位置に限定されない。
【0080】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0081】
100,100’,100”,101a~101e,103,104…鋼板
111a~e…挿嵌孔
112a…一般部
113a…周縁部
114a…周縁端部
120,121a~e…周縁孔
130,131a~e…橋部
132a~e…突出部
141d,141e…切り欠き
200,200a…シャフト
201…凸部
301…上型
302…下型