(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112741
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法及びレーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/28 20140101AFI20230807BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20230807BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
B23K26/28
B23K26/064 K
B23K26/073
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014630
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 範幸
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 通雄
(72)【発明者】
【氏名】石川 諒
(72)【発明者】
【氏名】藤原 潤司
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA14
4E168BA87
4E168CB03
4E168CB08
4E168DA02
4E168DA32
4E168DA37
4E168DA39
4E168DA40
4E168DA43
4E168EA17
4E168EA20
(57)【要約】
【課題】溶込み深さを確保しつつ、外観美観性に優れた溶接ビードを形成可能なレーザ溶接方法を提供する。
【解決手段】光ファイバ40にて伝送したレーザ光LBをワーク200に向けて照射し、溶接方向WDに移動する溶接速度Vwでワーク200を溶接するレーザ溶接方法である。光ファイバ40は、第1コア41と、半径方向で第1コア41の外側にかつ第1コア41と同軸に設けられた第3コア45と、を少なくとも有している。1回目に、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率を第1比率R1に設定した状態で、ワーク200の所定の箇所にレーザ光LBを照射する。続けて、2回目に、第1比率R1よりも低い第2比率R2に設定した状態で、ワーク200の所定の箇所にレーザ光LBを照射する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバを伝送したレーザ光をワークに向けて照射し、溶接方向に移動する所定の溶接速度で前記ワークを溶接するレーザ溶接方法であって、
前記光ファイバは、
軸心に設けられた第1コアと、
半径方向で前記第1コアの外側にかつ前記第1コアと同軸に設けられた第3コアと、を少なくとも有し、
前記レーザ光の出力に対する前記第1コアに入射される前記レーザ光の比率を第1比率に設定した状態で、前記ワークの所定の箇所に前記レーザ光を照射する第1ステップと、
前記第1ステップに続けて、前記レーザ光の出力に対する前記第1コアに入射される前記レーザ光の比率を前記第1比率よりも低い第2比率に設定した状態で、前記所定の箇所に前記レーザ光を照射する第2ステップと、を少なくとも備えたことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接方法において、
前記光ファイバは、半径方向で前記第1コアと前記第3コアとの間にかつ前記第1コア及び前記第3コアと同軸に設けられた第2コアをさらに有し、
前記第2ステップでは、前記第1~前記第3コアに入射される前記レーザ光の比率を変更して、前記レーザ光の出力に対する前記第1コアに入射される前記レーザ光の比率を前記第1比率よりも低い前記第2比率に設定した状態で、前記所定の箇所に前記レーザ光を照射することを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレーザ溶接方法において、
前記第1ステップから前記第2ステップにかけて、前記レーザ光は連続して前記ワークに照射されるとともに、前記第1ステップ及び前記第2ステップの実行中に、前記ワークとのワーキングディスタンスは一定に保たれることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法において、
前記第1ステップから前記第2ステップにかけて、前記レーザ光は連続して前記ワークに照射されるとともに、前記第1ステップ及び前記第2ステップの実行中に、前記光ファイバに入射される前記レーザ光の出力は、一定に保たれることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法において、
前記ワークの表面における前記レーザ光のスポット径を、前記第1ステップよりも前記第2ステップにおいて広くすることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項6】
請求項5に記載のレーザ溶接方法において、
前記第1ステップでは、前記ワークに溶接ビードを形成し、
前記第2ステップでは、前記溶接ビードの形状を整形することを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザ溶接方法において、
前記第1ステップでは、前記ワークに対して前記レーザ光が断続的にまたはパルス状に照射され、
前記第2ステップでは、前記ワークに対して前記レーザ光が連続的に照射されることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載のレーザ溶接方法において、
前記第1ステップの前に、前記レーザ光の出力に対する前記第1コアに入射される前記レーザ光の比率を前記第1比率よりも低い第3比率に設定した状態で、前記所定の箇所に前記レーザ光を照射する前処理ステップをさらに備え、
前記前処理ステップでは、前記ワークを予熱することを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法において、
所定の軌跡を描くように前記ワークの表面に前記レーザ光を照射することで、前記ワークがスポット溶接されることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法において、
前記ワークは、回転し位置決めを行うポジショナで回転されるものであって、前記レーザ光が照射される位置の照射開始点と照射終了点とが一致するか、または前記照射開始点と前記照射終了点とが重ならないように、前記照射開始点と前記照射終了点とが互いに近傍に位置しており、
前記第1ステップでは、前記レーザ光は、前記ワークの外周にわたって略1回転分照射されて、前記照射開始点と前記照射終了点とが重ならないように、前記照射開始点と前記照射終了点とが互いに近傍に位置するようにし、
前記第2ステップでは、前記レーザ光の出力を前記第1ステップよりも低下させるか、または前記レーザ光のパワー密度を前記第1ステップよりも低下させた状態にするとともに、前記レーザ光は、前記ワークの外周にわたって略1回転分照射されて、前記レーザ光が照射される位置の前記照射開始点と前記照射終了点とが一致して重なるようにすることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項11】
レーザ光を出射するレーザ発振器と、
前記レーザ光を伝送する光ファイバと、
前記レーザ光を前記光ファイバに入射させる光路変更機構と、
前記光ファイバを伝送した前記レーザ光をワークに向けて照射するレーザヘッドと、を少なくとも備え、
前記光ファイバは、
軸心に設けられた第1コアと、
半径方向で前記第1コアの外側にかつ前記第1コアと同軸に設けられた第3コアと、を少なくとも有し、
前記光路変更機構は、前記レーザ光の光路を変更することで、前記第1コア及び前記第3コアにそれぞれ入射される前記レーザ光の比率を変更するように構成され、かつ
前記ワークの溶接中に、前記レーザ光の出力に対する前記第1コアに入射される前記レーザ光の比率を第1比率から前記第1比率よりも低い第2比率に変更するように構成されていることを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項12】
請求項11に記載のレーザ溶接装置において、
前記光ファイバは、半径方向で前記第1コアと前記第3コアとの間にかつ前記第1コア及び前記第3コアと同軸に設けられた第2コアをさらに有し、
前記光路変更機構は、前記レーザ光の光路を変更することで、前記第1~前記第3コアにそれぞれ入射される前記レーザ光の比率を変更するように構成され、かつ
前記ワークの溶接中に、前記レーザ光の出力に対する前記第1コアに入射される前記レーザ光の比率を前記第1比率から前記第1比率よりも低い前記第2比率に変更するように構成されていることを特徴とするレーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ溶接方法及びレーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光をワークの表面で走査しながら照射してワークをレーザ溶接する技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、レーザ光を旋回させながらワークの同じ箇所に照射するステップを2回以上行うレーザ溶接方法が提案されている。具体的には、レーザ光の旋回時の半径を1回目よりも2回目の方が大きくなるようにすることで、2枚の板材の重ね合わせ溶接において、2枚の板材の間に隙間があっても、溶落ちを抑制し、穴あきの発生を防止できる。また、溶接ビードの幅を緻密に制御できる。
【0004】
これとは別に、特許文献2~4には、2層のコアを有する光ファイバとレーザ光の光路を変更させる可動ミラーとを用いて、光ファイバから出射されるレーザ光のビームプロファイルを変化させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/022238号
【特許文献2】米国特許第10088632号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2018/0372959号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2019/0113688号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ワークに形成される溶接ビードは、幅や溶込み深さの安定性だけでなく、外観美観性も要求される。例えば、溶接ビードの表面は滑らかで光沢を有することが求められることが多い。
【0007】
しかし、特許文献1~4には、溶込み深さの確保と外観美観性とを両立させる溶接方法に関して何ら開示されていない。
【0008】
本開示はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、溶込み深さを確保しつつ、外観美観性に優れた溶接ビードを形成可能なレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本開示に係るレーザ溶接方法は、光ファイバを伝送したレーザ光をワークに向けて照射し、溶接方向に移動する所定の溶接速度で前記ワークを溶接するレーザ溶接方法であって、前記光ファイバは、軸心に設けられた第1コアと、半径方向で前記第1コアの外側にかつ前記第1コアと同軸に設けられた第3コアと、を少なくとも有し、前記レーザ光の出力に対する前記第1コアに入射される前記レーザ光の比率を第1比率に設定した状態で、前記ワークの所定の箇所に前記レーザ光を照射する第1ステップと、前記第1ステップに続けて、前記レーザ光の出力に対する前記第1コアに入射される前記レーザ光の比率を前記第1比率よりも低い第2比率に設定した状態で、前記所定の箇所に前記レーザ光を照射する第2ステップと、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0010】
本開示に係るレーザ溶接装置は、レーザ光を出射するレーザ発振器と、前記レーザ光を伝送する光ファイバと、前記レーザ光を前記光ファイバに入射させる光路変更機構と、前記光ファイバを伝送した前記レーザ光をワークに向けて照射するレーザヘッドと、を少なくとも備え、前記光ファイバは、軸心に設けられた第1コアと、半径方向で前記第1コアの外側にかつ前記第1コアと同軸に設けられた第3コアと、を少なくとも有し、前記光路変更機構は、前記レーザ光の光路を変更することで、前記第1コア及び前記第3コアにそれぞれ入射される前記レーザ光の比率を変更するように構成され、かつ前記ワークの溶接中に、前記レーザ光の出力に対する前記第1コアに入射される前記レーザ光の比率を第1比率から前記第1比率よりも低い第2比率に変更するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、溶込み深さを確保しつつ、外観美観性に優れた溶接ビードを形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1に係るレーザ溶接装置の概略構成図である。
【
図3】レーザ光のビーム径の定義を説明する模式図である。
【
図4】溶接線に沿ったレーザ光の照射面積を説明する模式図である。
【
図5】光ファイバから出射されるレーザ光のビームプロファイルの一例を示す図である。
【
図6】実施形態1に係るレーザ溶接方法を説明する模式図である。
【
図7】ピエゾアクチュエータの制御電圧及びレーザ光のビームプロファイルの時間変化を示す模式図である。
【
図8A】レーザ光の第2の照射軌跡を示す図である。
【
図8B】レーザ光の第3の照射軌跡を示す図である。
【
図8C】レーザ光の第4の照射軌跡を示す図である。
【
図9】実施例に係るエネルギー密度と溶込み深さとの関係を示す図である。
【
図10】エネルギー密度と算術平均表面粗さとの関係を示す図である。
【
図11】溶込み深さと算術平均表面粗さとの関係を示す図である。
【
図12】ワークの材質毎の第1ステップ及び第2ステップにおける好ましいパラメータを示す図である。
【
図13】実施形態2に係るレーザ溶接装置の一部拡大図である。
【
図14B】レーザ光の別の照射軌跡を示す図である。
【
図15】変形例1に係るレーザ溶接方法を説明する模式図である。
【
図16】変形例2に係るピエゾアクチュエータの制御電圧及びレーザ光のビームプロファイルの時間変化を示す模式図である。
【
図17】変形例3に係るピエゾアクチュエータの制御電圧及びレーザ光のビームプロファイルの時間変化を示す模式図である。
【
図18】実施形態3に係るレーザ溶接装置の概略構成図である。
【
図19】光ファイバから出射されるレーザ光のビームプロファイルの変化を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0014】
(実施形態1)
[レーザ溶接装置の構成]
図1は、本実施形態に係るレーザ溶接装置の概略構成図を示す。
【0015】
レーザ溶接装置100は、レーザ発振器10と光結合ユニット20と集光ユニット30と光ファイバ40とレーザヘッド50とステージ60とマニピュレータ70とを有している。なお、以降の説明において、レーザヘッド50からワーク200に照射されるレーザ光LBの進行方向をZ方向と呼び、光結合ユニット20から集光ユニット30に向かうレーザ光LBの進行方向をX方向と呼び、X方向及びZ方向とそれぞれ交差する方向をY方向と呼ぶことがある。
【0016】
レーザ発振器10は、複数のレーザモジュール11とレーザ光合成器12とを有している。複数のレーザモジュール11からそれぞれ出射されたレーザ光がレーザ光合成器12で合成されて1本のレーザ光LBとして出射される。本願明細書において、レーザ光LBの波長は、900nm~1000nmの範囲であるが、特にこれに限定されず、適宜他の値を取りうる。
【0017】
光結合ユニット20は、筐体21の内部に折り返しミラー22と光路変更機構23とを有している。折り返しミラー22は筐体21の内部に固定配置されており、レーザ光LBを光路変更機構23に向けて反射する。なお、
図1に示す例では、レーザ発振器10が筐体21の内部に配置されているが、筐体21の外部に配置されてもよい。
【0018】
光路変更機構23は、ミラー24とピエゾステージ25とピエゾアクチュエータ26とを有している。ミラー24は、折り返しミラー22で反射されたレーザ光LBを集光ユニット30の集光レンズ32に向けて反射する。ミラー24はピエゾステージ25に一体に取り付けられており、ピエゾアクチュエータ26はピエゾステージ25に取り付けられている。ピエゾアクチュエータ26を駆動することで、ピエゾステージ25及びミラー24は、Y方向と平行な軸回りに傾動し、ミラー24で反射されたレーザ光LBの光軸を所定の範囲で変化させる。なお、光路変更機構23に対してレーザ光LBが直接入射される場合は、折り返しミラー22は省略されうる。
【0019】
集光ユニット30は、筐体31の内部に集光レンズ32とシャッタ33とビームダンパ34とを有している。集光レンズ32は、光路変更機構23のミラー24で反射されたレーザ光LBを集光して光ファイバ40に入射させる。シャッタ33は、レーザ光LBの光路中と光路外との間を移動可能に構成されており、所定の制御信号に応じてレーザ光LBの光路を開閉する。シャッタ33がレーザ光LBの光路中に配置される場合、シャッタ33で反射されたレーザ光LBはビームダンパ34に入射され、熱に変換される。なお、レーザ光LBの集光位置を光ファイバ40の入射端面に合わせるために、集光ユニット30には、図示しない集光位置調整部が設けられている。
【0020】
光ファイバ40は、集光ユニット30とレーザヘッド50とに接続されており、集光ユニット30から入射されたレーザ光LBをレーザヘッド50まで伝送する。光ファイバ40の構造については後で詳述する。
【0021】
レーザヘッド50は、内部に図示しない光学系、例えばコリメーションレンズと集光レンズとを有しており、レーザヘッド50に伝送されたレーザ光LBを平行光に変換した後、ワーク200の表面に集光して、ワーク200がレーザ溶接される。また、レーザヘッド50のレーザ出射口は、図示しない保護ガラスで覆われている。
【0022】
ステージ60は、ワーク200を保持するとともに、レーザヘッド50に対して相対的に移動するように構成されている。マニピュレータ70は、レーザヘッド50を保持するとともに、レーザヘッド50を所望の位置に移動させるように構成されている。
【0023】
また、レーザ溶接装置100は、光路制御部91とステージ制御部92とマニピュレータ制御部93とレーザ制御部94とを有している。光路制御部91は、ピエゾアクチュエータ26及びシャッタ33の駆動機構(図示せず)に電気的に接続されており、ピエゾアクチュエータ26の動作及びシャッタ33の開閉動作を制御する。光路制御部91からピエゾアクチュエータ26に印加する制御電圧の大きさに応じて、光路変更機構23の傾動範囲が変化し、後で述べるように、レーザ光LBの光ファイバ40への入射位置Pを変化させることができる。なお、ピエゾアクチュエータ26とシャッタ33の駆動機構とはそれぞれ別の制御部で制御されてもよい。
【0024】
ステージ制御部92は、ステージ60に電気的に接続されており、レーザヘッド50に対するステージ60の相対動作、言い換えるとワーク200に入射されるレーザ光LBに対するステージ60の相対位置を制御するように構成されている。例えば、ステージ制御部92により、ステージ60をXY平面に沿って移動させることができる。あるいは、ステージ60は、Z方向と平行な軸回りに回転させることができる。
【0025】
マニピュレータ制御部93は、マニピュレータ70に電気的に接続されており、マニピュレータ70の動作を制御するように構成されている。なお、ステージ60とマニピュレータ70とが同じ制御部で制御されていてもよい。
【0026】
なお、ステージ制御部92とマニピュレータ制御部93とが連動して、マニピュレータ70とステージ60の両方を動作させる場合がある。通常は、マニピュレータ制御部93によりマニピュレータ70を動作させてレーザヘッド50を移動させ、レーザ光LBを溶接線WL(
図6参照)に沿ってワーク200の表面に照射させる。一方、マニピュレータ70の動作範囲を超えて、レーザ光LBを走査する場合は、マニピュレータ70と同時にステージ制御部92によりステージ60も動作させる。このようにすることで、レーザ光LBの照射範囲を拡大できる。また、溶接時間を短縮して作業効率を向上させたい場合も、ステージ制御部92とマニピュレータ制御部93とが連動して、マニピュレータ70とステージ60の両方を動作させることがある。なお、ステージ制御部92によりステージ60のみを移動させることでレーザ光LBを溶接線WLに沿って移動させてもよい。
【0027】
レーザ制御部94は、レーザ発振器10に接続された電源81及びレーザ発振器10に接続されており、レーザ光LBの出力開始及び出力停止のタイミングや期間、また、レーザ光LBの出力を制御するように構成されている。
【0028】
光路制御部91、ステージ制御部92、マニピュレータ制御部93及びレーザ制御部94における前述の機能は、それぞれが有するハードウェア上で、所定の溶接プログラムを実行することで実現される。当該ハードウェアは、主にCPU(Central Processing Unit)やメモリで構成される。また、光路制御部91、ステージ制御部92、マニピュレータ制御部93及びレーザ制御部94が、図示しない上位コントローラに接続される場合は、上位コントローラで実行される溶接プログラムに基づいた実行命令が、光路制御部91、ステージ制御部92、マニピュレータ制御部93及びレーザ制御部94のそれぞれに送信され、所定の処理を実行する。なお、光路制御部91、ステージ制御部92、マニピュレータ制御部93及びレーザ制御部94が、一体化されて一つの制御部になっていてもよい。
【0029】
[光ファイバの構成]
図2は、
図1のII-II線での断面図であり、光ファイバ40の断面構造を示している。
【0030】
光ファイバ40は、第1~第3コア41,43,45と第1~第3クラッド42,44,46と保護皮膜47とを有しており、保護皮膜47を除いてそれぞれ石英からなる。
【0031】
第1コア41は、光ファイバ40の軸心に配置されており、断面視で円形状である。第3コア45は、光ファイバ40の半径方向(
図2中のY方向及びZ方向)で第1コア41の外側にかつ第1コア41と同軸に設けられており、断面視でリング状である。第2コア43は、光ファイバ40の半径方向で第1コア41と第3コア45との間にかつ第1コア41及び第3コア45と同軸に設けられており、断面視でリング状である。
【0032】
第1クラッド42は、第1コア41の外周面と第2コア43の内周面にそれぞれ接して第1コア41と同軸に設けられており、断面視でリング状である。第2クラッド44は、第2コア43の外周面と第3コア45の内周面にそれぞれ接して第1コア41と同軸に設けられており、断面視でリング状である。第3クラッド46は、第3コア45の外周面に接して第1コア41と同軸に設けられており、断面視でリング状である。
【0033】
第1コア41の屈折率は、第1クラッド42の屈折率よりも高くなるように設定される。第2コア43の屈折率は、第1クラッド42及び第2クラッド44のそれぞれの屈折率よりも高くなるように設定される。第3コア45の屈折率は、第2クラッド44及び第3クラッド46のそれぞれの屈折率よりも高くなるように設定される。第1~第3クラッド42,44,46の屈折率を低下させるために、例えば、第1~第3クラッド42,44,46のそれぞれに所定量のフッ素がドープされる。なお、第1クラッド42及び第2クラッド44のそれぞれの屈折率よりも、第3クラッド46の屈折率が低くなるようにするのが好ましい。このようにすることで、第3コア45から第3クラッド46にレーザ光LBが漏れ出すのを抑制できる。
【0034】
保護皮膜47は、例えば、合成樹脂からなり、石英からなる第1~第3コア41,43,45及び第1~第3クラッド42,44,46を機械的に保護するとともに、光ファイバ40からレーザ光LBが漏れ出たり、外部から光ファイバ40に光が漏れ込んだりするのを防止する。
【0035】
[レーザ光のビームプロファイルを変化させる手順]
図3は、レーザ光のビーム径の定義を説明する模式図であり、
図4は、溶接線に沿ったレーザ光の照射面積を説明する模式図である。
【0036】
なお、本願明細書において、「溶接速度Vw」とは、ワーク200の溶接線WL(例えば、
図6参照)に沿ったレーザ光LBの進行速度を意味する。例えば、溶接速度Vwは、ワーク200を保持するステージ60が静止した状態で、レーザ光LBを出射中のレーザヘッド50をマニピュレータ70により溶接線WLに沿って移動させる速度に相当する。また、溶接速度Vwは、レーザ光LBを出射中のレーザヘッド50が静止した状態で、ワーク200が保持されたステージ60をレーザヘッド50に対して移動させる速度に相当する。
【0037】
また、
図3の(a)図に示すように、レーザ光LBの「ビーム径φ」とは、光ファイバ40から出射されるレーザ光LBが最も絞られる位置であるビームウエストで光路と直交する断面の直径である。また、ビーム径φは、ワーク200の平坦面にレーザ光LBが照射された場合のレーザ光LBのスポットの直径(以下、単にスポット径と言う)に対応している。また、「パワー密度PD」とは、レーザ光LBの出力をワーク200に照射されるレーザ光LBのスポット面積Sp(
図3の(b)図参照)で割った値である。また、レーザ光LBの出力をLPとすると、パワー密度PDとレーザ光LBのビーム径φとの関係は、式(1)に示す関係を満たす。
【0038】
PD=LP/Sp=LP/(π×(φ/2)
2)=4×LP/(π×φ
2) ・・・(1)
また、レーザ光LBの「エネルギー密度ED」とは、レーザ光LBの出力にレーザ光LBの照射時間Tを乗じた値をレーザ光LBの照射面積Sで割った値である。ここで、照射面積Sは、溶接線WLにわたってレーザ光LBが照射されたワーク200の表面の面積にあたる。また、
図4に示す例で言えば、溶接線WLに沿った長さをLwとすると、照射面積Sは、式(2)で示される。
【0039】
S=Lw×φ+Sp ・・・(2)
また、エネルギー密度EDは、式(3)に示す関係を満たす。
【0040】
ED=LP×T/S ・・・(3)
図5は、光ファイバから出射されるレーザ光のビームプロファイルの一例を示す。なお、
図5に示すレーザ光LBのビームプロファイルは簡略化して図示している。また、説明の便宜上、X方向に関する一次元のビームプロファイルのみ図示しているが、実際には、Y方向にも同様の形状のビームプロファイルとなる。また、
図5において、光ファイバ40に入射されるレーザ光LBの出力を所定の出力値に設定した場合、それぞれの光強度の最大値を1に規格化してビームプロファイルを図示している。また、光強度が1/e
2となる位置で測定されたビームプロファイルの幅が、前述のビーム径φに相当する。
【0041】
光路制御部91からピエゾアクチュエータ26に印加される電圧V(以下、制御電圧Vという)に応じて駆動し、光路変更機構23のミラー24は、Y方向と平行な軸回りに所定量傾動する。このことにより、ミラー24で反射されたレーザ光LBの光軸が変化する。
【0042】
光路制御部91からピエゾアクチュエータ26に印加する制御電圧Vの大きさに応じて、ミラー24で反射されたレーザ光LBの光軸が変化すると、光ファイバ40に入射されるレーザ光LBの入射位置P(
図2参照;以下、単に入射位置Pと呼ぶことがある)も変化する。言い換えると、光ファイバ40に対するレーザ光LBの入射位置Pを変化させることで、光ファイバ40のコアに入射されるレーザ光LBの入射量が変わり、光ファイバ40のコア(第1コア41、第2コア43、第3コア45)に入射される、レーザ光LBの出力に対するレーザ光LBの比率を変化させることができる。ここで、レーザ光LBの出力とは、レーザ光LBが光ファイバ40に入射する全入射量に相当する。このことを利用して、光ファイバ40から出射されるレーザ光LBのビームプロファイル(以下、単にレーザ光LBのビームプロファイルと呼ぶことがある。)を変化させることができる。
【0043】
言い換えると、レーザ光LBの出力に対する、光ファイバ40のコアに入射されるレーザ光LBの比率は、光ファイバ40に対して照射されるレーザLBの全入射量に対する、光ファイバ40の各コア(第1コア41、第2コア43、第3コア45)に入射されるレーザLBの入射量の比率に相当する。レーザ光LBの出力は、光ファイバ40に対して照射されるレーザLBの全入射量に相当する。
【0044】
光路制御部91からピエゾアクチュエータ26に印加する制御電圧Vの大きさを変えることで、レーザ光LBの出力に対する、光ファイバ40のコアに入射されるレーザ光LBの比率を変更することができる。
【0045】
光路変更機構23が動作していない状態、つまり、制御電圧VがV0(=0V)の状態で、レーザ光LBが光ファイバ40の軸心に入射し、第1コア41に伝送されるようにレーザ溶接装置100の内部で各光学部品の配置関係が規定されている。この場合の入射位置PをP0(
図2参照)とする。
【0046】
制御電圧VをV0からV1(>V0)へ、さらにV2(>V1)、V3(>V2)へと変化させると、
図2に示すように、入射位置Pは、P0からP1へ、さらに、P2、P3へと変更される。
【0047】
入射位置PがP0の場合、
図5のパターン0に示すように、X=0となる位置を中心とした単峰状のガウシアン分布となる。なお、X=0は、光ファイバ40の軸心に対応している。
【0048】
入射位置PがP1に変更されると、
図2に示すように、レーザ光LBは、第1コア41と第1クラッド42との間に入射される。この場合、レーザ光LBの一部が第2コア43に入射されるため、レーザ光LBのビームプロファイルは、
図5のパターン1に示すように、中央のピークの両縁が持ち上がって裾を引くような形状となる。また、中央のピークの半値幅は、パターン0の半値幅よりも広くなる。なお、以降の説明において、パターン1をトップハット形状と呼ぶことがある。
【0049】
入射位置PがP2に変更されると、レーザ光LBの大部分が、第2コア43に入射される。この場合、レーザ光LBのビームプロファイルは、
図5のパターン2に示すように、中央のピークが小さくなる一方、X=0となる位置を挟んで第2コア43に対応する位置にピークが現れる双峰状の形状となる。実際には、XY平面上にリング状のピークを有する分布となる。
【0050】
入射位置PがP2に変更されると、レーザ光LBの大部分が、第3コア45に入射される。この場合、レーザ光LBのビームプロファイルは、
図5のパターン3に示すように、第2コア43に対応する位置のピークが小さくなる一方、第2コア43の外側に位置する第3コア45に対応する位置にピークが現れる双峰状の形状となる。実際には、XY平面上にリング状のピークを有する分布となる。
【0051】
また、
図5及び以上の説明から明らかなように、パターン1は、パターン0よりもX方向及びY方向に広がった形状となる。同様に、パターン2はパターン1よりも、パターン3はパターン2よりもそれぞれX方向及びY方向に広がった形状となる。言い換えると、ワーク200に照射されるレーザ光LBのスポットの直径(以下、単にスポット径という)は、パターン0→パターン1→パターン2→パターン3の順で大きくなる。
【0052】
なお、本願明細書において、電圧V1,V2,V3は、それぞれ3.6V、6V、9Vであるが、特にこれに限定されない。ピエゾアクチュエータ26の種類やサイズ等に応じて適宜変更されうる。
【0053】
また、ミラー24及びピエゾステージ25は、X方向と平行な軸回りに傾動してもよい。光ファイバ40の軸心からXY平面上で等距離の位置にレーザ光LBが入射した場合、レーザ光LBのビームプロファイルは同じ形状となる。例えば、光ファイバ40の軸心、つまり、入射位置P=P0を中心として、P0からP1までの距離を半径とした円周上にレーザ光LBが入射すれば、レーザ光LBのビームプロファイルは、
図5に示すパターン1となる。
【0054】
[レーザ溶接方法]
図6は、本実施形態に係るレーザ溶接方法を説明する模式図を示し、
図7は、ピエゾアクチュエータの制御電圧及びレーザ光のビームプロファイルの時間変化を模式的に示す。
図8A~
図8Cは、レーザ光の第2~第4の照射軌跡を示す。
【0055】
本実施形態では、
図6に示すように、溶接方向WDに沿って、ワーク200にサークル形状の軌跡TR1を描くようにレーザ光LBを照射することで、ワーク200をスポット溶接する場合を例に取って説明する。ワーク200は、例えば、鉄からなる板材である。なお、以降の説明において、軌跡TR1を含んで、ワーク200の表面におけるレーザ光LBの照射軌跡を溶接線WLと呼ぶことがある。
【0056】
本実施形態に示すレーザ溶接方法では、軌跡TR1(溶接線WL)に沿って、ワーク200の同じ箇所にレーザ光LBを2回照射している。言い換えるとレーザ光LBを軌跡TR1(溶接線WL)上に2周照射している。
図7に示すように、1回目の照射では、光路制御部91からピエゾアクチュエータ26に印加する制御電圧VをV1(
図5参照)としている。これにより、光路制御部91からピエゾアクチュエータ26に印加する制御電圧Vの大きさに応じて、光路変更機構23の傾動範囲が変化し、レーザ光LBの光ファイバ40への入射位置Pを変化させ、レーザ光LBのビームプロファイルを変更することができる。言い換えると、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率を第1比率R1に設定しレーザ光LBのビームプロファイルを変更する。このため、ワーク200に照射されるレーザ光LBのビームプロファイルは、
図5に示すパターン1となる。一方、2回目の照射は、1回目の照射に連続して行われる。また、1回目の照射及び2回目の照射において、ワーク200とのワーキングディスタンスは一定に保たれる。また、1回目の照射及び2回目の照射の実行中に、光ファイバ40に入射されるレーザ光LBの出力は一定に保たれる。
【0057】
2回目の照射では、ピエゾアクチュエータ26に印加する制御電圧VをV1からV3に変化させる。このため、ワーク200に照射されるレーザ光LBのビームプロファイルは、
図5に示すパターン3に変化する。言い換えると、1回目の照射では、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率を第1比率R1に設定した状態で、ワーク200の所定の箇所、この場合は、軌跡TR1に沿ってレーザ光LBを照射する。1回目の照射に続けて、2回目の照射では、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率を第1比率R1よりも低い第2比率R2に設定した状態で、軌跡TR1に沿ってレーザ光LBを照射する。
【0058】
本実施形態では、1回目の照射で、ワーク200が軌跡TR1に沿ってレーザ溶接され、
図6の右側に示すように、溶接ビード300が形成される。なお、制御電圧VをV1とすることで、レーザ光LBのビームプロファイルは、
図5に示すパターン1、すなわちトップハット形状となる。レーザ光LBのビームプロファイルがパターン0の場合に比べて、レーザ光LBのスポット径が広がるだけでなく、スポットの周縁での入熱量を高められる。このことにより、ワーク200に形成されるキーホール(図示せず)の開口部分の直径を広げることができ、キーホールの形状を安定化できる。また、ワーク200に形成される溶融池(図示せず)の形状や振動状態を安定化させることができる。このことにより、溶接速度Vwを高めても、スパッタの発生を抑制できる。
【0059】
2回目の照射では、1回目と同じ軌跡TR1に沿って、溶接ビード300全体にレーザ光LBが照射される。この場合、レーザ光LBのビームプロファイルは、
図5に示すパターン3に変化しており、軌跡TR1におけるレーザ光LBのパワー密度PDは、1回目よりも低下している。このことについては後で説明する。
【0060】
また、1回目の照射時の溶接速度Vw1(以下、単に溶接速度Vw1と呼ぶことがある。)は、2回目の照射時の溶接速度Vw2(以下、単に溶接速度Vw2と呼ぶことがある。)よりも高くなるように設定されてもよい。
【0061】
また、
図5及び
図6から明らかなように、ワーク200の表面に照射されるレーザ光LBのスポット径は、1回目の照射よりも2回目の照射において広くなる。このため、2回目の照射では、1回目の照射でワーク200に形成された溶接ビード300よりも広い範囲にレーザ光LBが照射される。なお、パターン3の中心部分には、レーザ光LBはほとんど照射されない。レーザ光LBが照射される周縁部分からの熱伝導により、ワーク200におけるパターン3の中心部分に対応する部分に入熱される。本実施形態では、1回目の照射時のスポット径は、1000μm程度であり、2回目の照射時のスポット径は、2000μm程度である。ただし、これに特に限定されず、それぞれの値は適宜変更しうる。
【0062】
その結果、2回目の照射では、1回目の照射で形成された溶接ビード300が一部軟化する。軟化した部分の表面張力に起因して、溶接ビード300の表面が平坦化される、その結果、溶接ビード300の表面粗さを小さくして、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を形成できる。このことについては後で詳述する。
【0063】
[効果等]
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ溶接方法は、光ファイバ40を伝送したレーザ光LBをワーク200に向けて照射し、溶接方向WDに移動する溶接速度Vwでワーク200を溶接する。
【0064】
光ファイバ40は、軸心に設けられた第1コア41と、半径方向で第1コア41の外側にかつ第1コア41と同軸に設けられた第3コア45と、半径方向で第1コア41と第3コア45との間にかつ第1コア41及び第3コア45と同軸に設けられた第2コア43を少なくとも有している。
【0065】
本実施形態のレーザ溶接方法は、1回目の照射で、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率を第1比率R1に設定した状態で、ワーク200の所定の箇所にレーザ光LBを照射する(第1ステップ)。
【0066】
第1ステップに続けて、2回目の照射では、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率を第1比率R1よりも低い第2比率R2に設定した状態で、所定の箇所にレーザ光LBを照射する(第2ステップ)。別の見方をすると、第2ステップでは、第1~第3コア41,43,45に入射されるレーザ光LBの比率を変更して、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率を第1比率R1よりも低い第2比率R2に設定した状態で、所定の箇所にレーザ光LBを照射する。
【0067】
軌跡TR1を描くようにワーク200の表面にレーザ光LBを照射することで、ワーク200がスポット溶接される。また、第1ステップでは、ワーク200に溶接ビード300を形成し、第2ステップでは、溶接ビード300の形状を整形する。
【0068】
本実施形態によれば、第1ステップを行うことで、ワーク200の溶込み深さを確保して溶接ビード300を確実に形成できる。また、第2ステップを行うことで、ワーク200に形成される溶接ビード300の表面粗さを小さくして、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を形成できる。
【0069】
また、一般的なウィービングによりワーク200をスポット溶接する場合と異なり、走査周波数を低下させずにワーク200をスポット溶接できる。また、レーザ光LBをウィービングさせた場合、溶接線WLに対して、レーザ光LBが照射される部分が非対称となり、溶接方向WDに沿って非連続な溶融池の流れができてしまう。このため、溶接ビード300の形状がいびつになることがある。
【0070】
一方、本実施形態によれば、同じ軌跡TR1に沿って、レーザ光LBのビームプロファイルを変化させた上でレーザ光LBを2回照射している。このことにより、溶融池の流れが溶接方向WDに沿って不連続になったり、溶接ビード300の形状がいびつになったりすることがない。その結果、美しい外観の溶接ビード300を形成できる。
【0071】
第1ステップから第2ステップにかけて、レーザ光LBは連続してワーク200に照射されるとともに、第1ステップ及び第2ステップの実行中に、ワーク200とのワーキングディスタンスは一定に保たれる。
【0072】
このようにすることで、第1ステップでワーク200に形成された溶接ビード300が十分に冷却される前に、第2ステップでレーザ光LBを照射するため、溶接ビード300の表面の一部が再度溶融する。このことにより、溶接ビード300の表面粗さを小さくでき、美しい外観の溶接ビード300を形成できる。
【0073】
ワーク200の表面におけるレーザ光LBのスポット径を、第1ステップよりも第2ステップにおいて広くするのが好ましく、このようにすることで、第2ステップで、溶接ビード300全体にレーザ光LBが照射され、溶接ビード300の表面全体で表面粗さを小さくでき、美しい外観の溶接ビード300を形成できる。
【0074】
第1ステップにおける溶接速度Vw1は、第2ステップにおける溶接速度Vw2よりも高いことが好ましい。第2ステップでは、レーザ光LBのパワー密度PDが、第1ステップに比べて大幅に低くなる。よって、溶接速度Vw2を溶接速度Vw1よりも低くすることで、溶接ビード300の形状を整形するのに必要な投入熱量を確保することができる。ただし、これに特に限定されず、溶接速度Vw2が溶接速度Vw1と同じ値であってもよい。あるいは、溶接速度Vw2を溶接速度Vw1より高くなるように設定してもよい。
【0075】
また、本実施形態において、第1ステップ及び第2ステップの実行中に、光ファイバ40に入射されるレーザ光LBの出力は一定に保たれている。このようにすることで、レーザ制御部94によるレーザ発振器10や電源81の制御が簡素化される。
【0076】
なお、本実施形態では、ワーク200の材質は鉄であるが、特にこれに限定されない。ワーク200が鉄を主たる構成材料として含む材質でもよい。また、後で述べるように、ワーク200がアルミニウムを主たる構成材料として含む材質であってもよい。
【0077】
本実施形態に係るレーザ溶接装置100は、レーザ光LBを出射するレーザ発振器10と、レーザ光LBを伝送する光ファイバ40と、レーザ光LBを光ファイバ40に入射させる光路変更機構23と、光ファイバ40を伝送したレーザ光LBをワーク200に向けて照射するレーザヘッド50と、を少なくとも備えている。
【0078】
光ファイバ40は、軸心に設けられた第1コア41と、半径方向で第1コア41の外側にかつ第1コア41と同軸に設けられた第3コア45と、半径方向で第1コア41と第3コア45との間にかつ第1コア41及び第3コア45と同軸に設けられた第2コア43を少なくとも有している。
【0079】
光路変更機構23は、レーザ光LBの光路を変更することで、第1~第3コア41,43,45にそれぞれ入射されるレーザ光LBの比率を変更するように構成されている。また、光路変更機構23は、ワーク200の溶接中に、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率を第1比率R1から第1比率R1よりも低い第2比率R2に変更するように構成されている。
【0080】
本実施形態によれば、例えば、ワーク200の溶接中において、レーザ光LBの光路変更前に、ワーク200に溶接ビード300を形成し、レーザ光LBの光路変更後に、溶接ビード300の形状を整形することができる。このことにより、ワーク200に形成される溶接ビード300の表面粗さを小さくして、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を形成できる。
【0081】
光路変更機構23は、光路変更機構23は、レーザ光LBを光ファイバ40に向けて偏向するミラー24と、レーザ光LBの入射方向に対するミラー24の角度を変更するピエゾアクチュエータ(アクチュエータ)26と、ピエゾアクチュエータ26の動作を制御する光路制御部91と、を少なくとも有している。
【0082】
光路制御部91は、ピエゾアクチュエータ26を動作させてミラー24の角度を変更することで、レーザ光LBの出力に対する第1~第3コア41,43,45にそれぞれ入射されるレーザ光LBの比率を変更するように構成されている。
【0083】
このようにすることで、ワーク200の溶接中に、ワーク200に照射されるレーザ光LBのビームプロファイルを変化させることができる。また、ワーク200の表面におけるレーザ光LBのスポット径やレーザ光LBのパワー密度PDやエネルギー密度EDを変化させることができる。
【0084】
レーザ溶接装置100は、レーザヘッド50を保持し、レーザヘッド50を溶接方向WDに移動するマニピュレータ70と、マニピュレータ70の動作を制御するマニピュレータ制御部93と、をさらに備えている。マニピュレータ制御部93は、軌跡TR1(溶接線WL)に沿って、レーザ光LBが溶接速度Vw1またはVw2で照射されるようにマニピュレータ70を制御してもよい。
【0085】
このようにマニピュレータ制御部93を設けることで、レーザ光LBを軌跡TR1(溶接線WL)に沿って容易に進行させることができる。また、溶接速度Vw1及びVw2の調整を容易に行うことができる。
【0086】
なお、本実施形態では、溶接速度Vw1、Vw2はそれぞれ一定値であるとしたが、溶接速度Vw1、Vw2が、それぞれ連続的に変化してもよい。
【0087】
また、レーザ溶接装置100は、ワーク200を保持するステージ60と、ステージ60のレーザヘッド50に対する相対動作を制御するステージ制御部92と、をさらに備えている。ステージ制御部92は、軌跡TR1(溶接線WL)に沿って、レーザ光LBが所定の溶接速度Vw1またはVw2で照射されるようにステージ60を制御してもよい。
【0088】
このようにステージ制御部92を設けることで、レーザ光LBを軌跡TR1(溶接線WL)に沿って容易に進行させることができる。また、溶接速度Vw1及びVw2の調整を容易に行うことができる。なお、前述したように、ステージ制御部92とマニピュレータ制御部93とで、ステージ60及びマニピュレータ70の動作をそれぞれ制御することで、レーザ光LBを軌跡TR1(溶接線WL)に沿って進行させてもよい。この場合も、溶接速度Vw1及びVw2の調整を容易に行うことができる。
【0089】
なお、マニピュレータ70及びマニピュレータ制御部93を設けた場合は、ステージ60の移動機構及びステージ制御部92は設けなくてもよい。また、移動機構を有するステージ60及びステージ制御部92を設けた場合は、マニピュレータ70及びマニピュレータ制御部93は設けなくてもよい。また、レーザ光LBを走査させる手段として、マニピュレータ70を移動させずに、レーザヘッド50内に設けた光走査機構(図示せず)を用いてレーザ光LBを走査してもよい。
【0090】
マニピュレータ制御部93は、ワーク200の溶接中に、ワーク200とのワーキングディスタンスを一定に保つようにマニピュレータ70を制御する。このようにすることで、レーザ溶接中にワーク200に対してシールドガスを確実に吹き付けることができる。このことにより、溶接ビード300の形状を良好に保てるとともに、溶接不良の発生を抑制できる。
【0091】
溶接速度Vwは、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率が第1比率R1に設定される場合と第2比率R2に設定される場合とで異なっている。当該比率が第2比率R2に設定される場合の溶接速度Vw2が、第1比率R1に設定される場合の溶接速度Vw1よりも高くなるように設定されていてもよい。なお、溶接速度Vw1が、溶接速度Vw2よりも高くなるように設定されていてもよい。
【0092】
このようにすることで、第2ステップにおいて、溶接ビード300の形状を整形するのに必要な投入熱量を確保することができる。
【0093】
また、ワーク200の材質がアルミニウムやステンレスの場合、レーザ光LBの照射箇所に対してシールドガスを吹き付ける必要がある。シールドガスは、レーザヘッド50からワーク200に向けて吹き付けられる。
【0094】
しかし、例えば、レーザ光LBをデフォーカスさせて、ワーク200の表面でのスポット径を変化させる場合、ワーク200とのワーキングディスタンスも変化するため、レーザ光LBの照射箇所に対してシールドガスが適切に吹き付けられなくなる。また、レーザヘッド50に設けられたシールドガスユニット(図示せず)からワーク200に対して横方向に吹き付けるエアーがワーク200の溶接部分の近くで供給できなくなる。このため、溶接時に発生するプルームやヒューム等の金属蒸気を除去できなくなる。
【0095】
このようなことが起こると、プルームやヒュームを十分に除去できないため、レーザ光LBが散乱し、ワーク200の表面でレーザ光LBの減衰または焦点シフトが発生し、溶込み不足によって溶接ビード300の形状を良好に保てないことがある。また、それだけでなく、溶接不良、例えば、穴あきやスパッタが大量に発生したり、溶接箇所の強度不足が起こったりすることがある。また、ワーク200に対して、シールドが適正に行えないため、冶金的な問題が起こるだけでなく、適正な溶接条件も変化する。このように、シールドが不十分なため、溶接ビード300の形状を良好に保てなくなることがある。
【0096】
一方、本実施形態によれば、ワーク200とのワーキングディスタンスを一定に保つことで、レーザ溶接中にワーク200に対してシールドガスを確実に吹き付けることができ、溶接ビード300の形状を良好に保てるとともに、溶接不良の発生を抑制できる。
【0097】
なお、ワーク200をスポット溶接する場合のレーザ光LBの照射軌跡は、
図6に示した例に特に限定されず、例えば、
図8A~8Cに示すように、オープンサークル形状の軌跡TR2やオーバル形状の軌跡TR3やオープンオーバル形状の軌跡TR4であってもよい。
【0098】
また、本実施形態では、制御電圧VをV1からV3に変化させる例を示したが、特にこれに限定されず、例えば、制御電圧VをV1からV2に変化させてもよい。また、スパッタの発生や溶接ビード300の形状異常が抑制される範囲において、制御電圧VをV0からV2やV3に変化させてもよい。
【0099】
なお、本願発明者等の検討により、ワーク200の溶込み深さや溶接ビード300の表面粗さは、ワーク200に照射されるレーザ光LBのエネルギー密度EDと相関関係を有していることがわかった。以下、この点について具体的に説明する。
【実施例0100】
以下に示す条件で板材のワーク200にレーザ光LBを照射した。
【0101】
ワーク200の材質:A5052(Mg添加 アルミ系合金)
ワーク200の厚さ:6mm
溶接速度 :3m/min
レーザ光LBの出力:5kW
また、上記の条件を同じにして、制御電圧VをV0からV3まで所定の電圧間隔で変化させ、ワーク200に溶接ビード300を形成した。その都度、ワーク200の溶込み深さD及び算術平均表面粗さRa(以下、単に表面粗さRaという)を測定した。その結果を、
図9~11に示す。
【0102】
図9は、本実施例に係るエネルギー密度と溶込み深さとの関係を、
図10は、エネルギー密度と算術平均表面粗さとの関係を、
図11は、溶込み深さと算術平均表面粗さとの関係をそれぞれ示す。
【0103】
図9に示すように、エネルギー密度EDが増加すると、溶込み深さDも単調に増加した。また、
図10に示すように、エネルギー密度EDが増加すると、表面粗さRaも単調に増加した。ただし、溶込み深さDが3mm以上になると、表面粗さRaが測定不能となった(
図11も参照)。これは、溶接ビード300の表面凹凸が大きすぎたためと考えられた。なお、溶込み深さDが3mmとなる場合のエネルギー密度EDは、10,000J/cm
2であった。
【0104】
一方、
図11に示すように、溶込み深さDが3mmになるまでは、溶込み深さDが増加すると、表面粗さRaも単調に増加した。ただし、
図11に示すデータを詳細に分析すると、溶込み深さDが1mm以下の場合は、表面粗さRaが小さく、かつ大きく変化していない。その結果、溶接ビード300の表面は滑らであった(
図11中の下側の写真参照)。一方、溶込み深さDが1mmを超えてくると、表面粗さRaの増加の度合いも大きくなり、また、溶接ビード300の表面で凹凸が大きくなってくるのが確認できた(
図11中の上側の写真参照)。また、
図10から読み取れるように、エネルギー密度EDが6,000J/cm
2以下である場合、表面粗さRaが1μm以下でかつ大きく変化しないことが確認できた。
【0105】
第1ステップで、ワーク200の溶接を確実に行うためには、溶込み深さDを所定値以上にする必要がある。また、第2ステップで、溶接ビード300の外観を滑らかで美しいものにするためには、表面粗さRaを所定値以下にする必要がある。
【0106】
今回の検討から、第1ステップで、ワーク200に照射されるレーザ光LBのエネルギー密度EDまたは溶込み深さDを所定値以上になるように制御することで、ワーク200に確実に溶接ビード300を形成できることが分かった。また、第2ステップで、レーザ光LBのエネルギー密度EDまたは溶込み深さDを所定値以下になるように制御することで、表面粗さが小さく、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を形成できることが分かった。
【0107】
また、今回の検討で、ワーク200の材質によって、エネルギー密度EDまたは溶込み深さDの好ましい範囲が変動することがわかった。
【0108】
図12は、ワークの材質毎の第1ステップ及び第2ステップにおける好ましいパラメータを示す。
【0109】
図12に示すように、ワーク200の材質が、アルミ系合金、この場合はA5052である場合、第1ステップでは、溶込み深さDを3.0mm以上とするか、または、エネルギー密度EDを10,000J/cm
2以上とすることが好ましいことが分かった。また、第2ステップでは、溶込み深さDを1.0mm以下とするか、または、エネルギー密度EDを6,000J/cm
2以下とすることが好ましいことが分かった。このようにすることで、表面粗さRaが1.0μm以下となり安定した。
【0110】
ワーク200の材質が、ステンレス、この場合はSUS304である場合、第1ステップでは、溶込み深さDを3.0mm以上とするか、または、エネルギー密度EDを6,000J/cm2以上とすることが好ましいことが分かった。また、第2ステップでは、溶込み深さDを2.0mm以下とするか、または、エネルギー密度EDを6,000J/cm2以下とすることが好ましいことが分かった。このようにすることで、表面粗さRaが4.0μm以下となり安定した。
【0111】
ワーク200の材質が、軟鋼である場合、第1ステップでは、溶込み深さDを3.0mm以上とするか、または、エネルギー密度EDを6,000J/cm2以上とすることが好ましいことが分かった。また、第2ステップでは、溶込み深さDを2.0mm以下とするか、または、エネルギー密度EDを6,000J/cm2以下とすることが好ましいことが分かった。このようにすることで、表面粗さRaが4.0μm以下となり安定した。
【0112】
以上をまとめると、本開示のレーザ溶接方法は、以下の構成を備えていてもよい。
【0113】
第1ステップで、ワーク200に溶接ビード300を形成する場合は、ワーク200に照射されるレーザ光LBのエネルギー密度EDを第1の値以上とする。一方、溶接ビード300の形状を整形する場合は、ワーク200に照射されるレーザ光LBのエネルギー密度EDを第1の値よりも低い第2の値以下とする。第1の値及び第2の値は、ワーク200の材質に応じてそれぞれ設定される。
【0114】
また、本開示のレーザ溶接方法は、以下の構成を備えていてもよい。
【0115】
第1ステップで、ワーク200に溶接ビード300を形成する場合は、レーザ光LBを照射した場合のワーク200の溶込み深さDを第3の値以上とする。一方、溶接ビード300の形状を整形する場合は、レーザ光LBを照射した場合のワーク200の溶込み深さDを第3の値よりも小さい第4の値以下とする。第3の値及び第4の値は、ワーク200の材質に応じてそれぞれ設定される。
【0116】
(実施形態2)
図13は、本実施形態に係るレーザ溶接装置の一部拡大図を示し、
図14A、14Bは、レーザ光の照射軌跡をそれぞれ示す。なお、
図13、
図14A、
図14B及び以降に示す各図面において、実施形態1と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。また、
図14A,14Bにおいて、ステージ60及びポジショナ61の図示を省略している。
【0117】
図13に示す本実施形態のレーザ溶接装置100は、ステージ60にポジショナ61が取り付けられている点で
図1に示す実施形態1のレーザ溶接装置100と異なる。
図13に示すように、ポジショナ61は、軸線AL回りに回転可能に構成されており、ポジショナ61には、ワーク200が着脱可能に取り付けられる。ポジショナ61にワーク200が取り付けられることで、ワーク200の位置決めが行われる。ポジショナ61が軸線AL回りに回転することで、ワーク200も軸線AL回りに回転する。なお、ワーク200とのワーキングディスタンスが一定に保たれることは、実施形態1に示す構成と同様である。なお、図示しないが、ポジショナ61に含まれるモータの回転位置を制御することで、レーザ光LBに対してワーク200の位置が決定される。
【0118】
このような構成のレーザ溶接装置100を用いてワーク200をレーザ溶接する場合、1回の照射で、レーザ光LBは、ワーク200の外周にわたって1回転分照射される。ワーク200の形状等やレーザ溶接条件によって、
図14Aに示すように、レーザ光LBが照射される位置の照射開始点SPと照射終了点EPとが一致する場合がある。また、
図14Bに示すように、照射開始点SPと照射終了点EPとが重ならないように、照射開始点SPと照射終了点EPとが互いに近傍に位置する場合もある。
【0119】
本実施形態でも、実施形態1に示すのと同様に、1回目の照射で、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率を第1比率R1に設定した状態で、ワーク200の所定の箇所にレーザ光LBを照射する(第1ステップ)。ただし、第1ステップでは、
図14Bに示すように、レーザ光LBは、レーザ光LBが照射される位置の照射開始点SPと照射終了点EPとが重ならないように、ワーク200の外周にわたって略1回転分照射される。つまり、照射開始点SPと照射終了点EPとが互いに近傍に位置するようにレーザ光LBが照射される。
【0120】
第1ステップに続けて、2回目の照射では、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率を第1比率R1よりも低い第2比率R2に設定した状態で、所定の箇所にレーザ光LBを照射する(第2ステップ)。なお、第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率が低下することで、レーザ光LBのビーム径φは、第1ステップよりも拡がる。よって、レーザ光LBの出力及び溶接速度Vwを第1ステップと同じ状態にしても、第2ステップでは、レーザ光LBのエネルギー密度EDは第1ステップよりも低下した状態になる。この状態で、レーザ光LBは、ワーク200の外周にわたって略1回転分照射される。この場合、照射開始点SPと照射終了点EPとが一致して重なるようにレーザ光LBが照射される。
【0121】
なお、本実施形態における溶接線WLは、
図14A,14Bに示すように、ワーク200の外周にわたったラインであり、側面視で軸線ALと交差している。また、溶接線WLに沿って、溶接ビード300が形成される。また、第1ステップと第2ステップとでのレーザ光LBの出力を変化させる場合、出力変化は、レーザ制御部94により制御される。例えば、レーザ光LBの出力を第1ステップよりも第2ステップで低下させるようにしてもよい。
【0122】
本実施形態によれば、実施形態1に示す構成が奏するのと同様に、ワーク200の溶込み深さを確保して、ワーク200に確実に溶接ビード300を形成できる。また、ワーク200に形成される溶接ビード300の表面粗さを小さくして、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を形成できる。
【0123】
また、第1ステップでは、照射開始点SPと照射終了点EPとが重ならないようにレーザ光LBを照射することで、照射開始点SP及び照射終了点EPにおける過剰な入熱を抑制して、ワーク200の穴あきや溶落ちの発生を防止できる。また、溶接ビード300全体にわたって、ワーク200の溶込み深さを一定に近づけることができる。
【0124】
また、第2ステップでは、照射開始点SPと照射終了点EPとが一致して重なるようにレーザ光LBを照射すること、溶接ビード300全体にレーザ光LBが照射される。このことにより、溶接ビード300の表面が均されて平坦化する。その結果、溶接ビード300の表面粗さを小さくして、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を溶接開始部から溶接終了部に至るまで形成できる。つまり、溶接ビード300全体の外観を滑らかで光沢のある美しいものにできる。
【0125】
また、本実施形態によれば、レーザ溶接後にワーク200の溶接箇所に生じる歪量を低減することができる。このことについてさらに説明する。
【0126】
例えば、1回の照射でワーク200をレーザ溶接する場合を考える。この場合、溶込み深さを確保するともに溶接ビード300の外観美観性を満足するために、単位長さ当たりの入熱エネルギーが、1500J/cm必要であるとする。例えば、レーザ光LBの出力が1.5kWで、溶接速度Vwが60cm/minである場合がこの条件に当てはまる。
【0127】
一方、本開示のレーザ溶接方法では、2回の照射でワーク200をレーザ溶接している。したがって、2回の照射の合計で前述した入熱エネルギーを満足するようにすればよい。
【0128】
例えば、1回目の照射(第1ステップ)では、制御電圧VをV1とする一方、単位長さ当たりの入熱エネルギーを1000J/cmとすることで、所望の溶込み深さを確保でき、ワーク200の外周にわたって溶接ビード300が形成される。例えば、レーザ光LBの出力が2.0kWで、溶接速度Vw1が120cm/minである場合が、この入熱エネルギーの条件に当てはまる。
【0129】
一方、2回目の照射(第2ステップ)では、制御電圧VをV3とする一方、単位長さ当たりの入熱エネルギーを500J/cmとすることで、溶接ビード300の表面が均され、溶接ビード300の表面粗さを小さくして、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を形成できる。例えば、レーザ光LBの出力が1.0kWで、溶接速度Vw2が120cm/minである場合が、この入熱エネルギーの条件に当てはまる。
【0130】
また、本実施形態に示すように、溶接線WLに沿ってワーク200の所定の長さをレーザ溶接する場合、第1ステップでレーザ光LBが照射された箇所は、第2ステップで再びレーザ光LBが照射されるまでは、自然冷却される。つまり、ワーク200における溶接箇所には、1回目のレーザ光LBの照射による加熱と2回目のレーザ光LBの照射による加熱との間に冷却過程が発生している。また、2回目のレーザ光LBの照射による加熱後にもワーク200は自然冷却される。
【0131】
このように、加熱と冷却のサイクルを2回繰り返すことで、1回のサイクルあたりで発生するワーク200の歪量を小さくでき、ひいては、前述した1回のレーザ照射による溶接時よりもワーク200の溶接箇所に生じる歪量を低減することができる。
【0132】
なお、溶接後の歪低減効果は、本実施形態に示す例に特に限られるものではない。実施形態1に示すスポット溶接においても、1回のレーザ光LBの照射でレーザ溶接する場合と比べて、レーザ溶接後の溶接箇所の歪量が低減されるのは言うまでもない。
【0133】
なお、本実施形態では、軸線ALはX方向と平行な方向に延びているが、特にこれに限定されず、軸線ALが、Y方向またはZ方向と平行な方向に延びていてもよい。その場合、ポジショナ61の配置及びワーク200の配置が、それぞれ
図13に示す例から変更されることは言うまでもない。また、この場合、ワーク200の表面に対して交差する方向からレーザ光LBが入射されるように、マニピュレータ70によりレーザヘッド50が移動されることは言うまでもない。また、本実施例では説明を簡略化するために、回転軸が1軸のポジショナ61を用いて説明したが、回転軸が複数軸のポジショナ61を用いて実施してもよい。
【0134】
<変形例1>
図15は、本変形例に係るレーザ溶接方法を説明する模式図を示す。なお、説明の便宜上、
図15において、ワーク200を平板状に示しているが、実際には、
図13に示すように、ワーク200はポジショナ61に取り付けられている。
【0135】
実際のレーザ溶接において、溶接線WLに沿ったワーク200の性質が一様であるとは限らない。例えば、一部が他の部分よりも熱容量が小さくなっていることがある。このようなワーク200に対して、レーザ光LBを同じ出力で連続して照射した場合、熱容量が小さくなる部分で、溶接後にワーク200の歪量が大きくなることがある。
【0136】
このような不具合を解消するために、本変形例に示すレーザ溶接方法では、第1ステップでは、ワーク200の溶接予定箇所に対してレーザ光LBが断続的に照射されるようにしている。また、第2ステップでは、ワーク200の溶接箇所に対してレーザ光LBが連続的に照射される。このことについて
図15を用いてさらに説明する。
【0137】
図15に示すように、ワーク200は、レーザ光LBの照射開始点SPと照射終了点EPとの間に第1領域201とその前方と後方に第2領域202とを有している。第1領域201は、第2領域202よりも熱容量が小さくなっている。
【0138】
このワーク200をレーザ溶接するにあたって、第1ステップにおいて、制御電圧VをV0またはV1に設定した上で、ワーク200にレーザ光LBを断続的に照射する。例えば、集光ユニット30のシャッタ33を周期的にレーザ光LBの光路中に移動させることで、レーザ光LBを断続的に照射する。また、レーザ制御部94により、電源81からレーザ発振器10に供給される電力を周期的にオンオフするようにしてもよい。続けて、第2ステップにおいて、制御電圧VをV3に設定した上で、ワーク200にレーザ光LBを連続的に照射する。なお、第1ステップにおけるレーザ光LBのスポット径が、第2ステップにおけるレーザ光LBのスポット径よりも小さいことは、実施形態1と同様である。
【0139】
第1ステップにおいて、ワーク200にレーザ光LBを断続的に照射することで、第1領域201での投入熱量が過剰になるのを抑制でき、また、所望の溶込み深さを確保できる。また、スパッタの発生や穴あきの発生等を防止できる。一方、第1ステップで形成される溶接ビード300は、波目が粗くなる。第2ステップにおいて、レーザ光LBのスポット径を広げつつ、ワーク200にレーザ光LBを連続的に照射することで、溶接ビード300全体の表面を平坦化し、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を形成できる。また、変形例2に示すのと同様に、ワーク200の溶接箇所に生じる歪量を低減することができる。
【0140】
なお、溶接ビード300の外観美観性と歪量の低減とが両立できる範囲で、第2ステップにおいて、ワーク200にレーザ光LBを断続的に照射してもよい。また、第2ステップにおいて、溶接ビード300を繰り返し横切るように、レーザ光LBを走査してもよい。当該走査には、らせんウィービングも含まれる。特に、第1ステップにおいて、溶接ビード300の幅が広くなったときには、第2ステップにおいて、レーザ光LBを、溶接ビード300を繰り返し横切るように走査すると、第1ステップで形成された溶接ビード300の表面全体にレーザ光LBが確実に照射される。このことにより、溶接ビード300の表面全体を確実に均すことができ、外観美観性の確保に効果的である。
【0141】
さらに、第1ステップにおいて、レーザ光LBを断続的に照射する場合について記載したが、前述したように、これは、ワーク200の歪を小さくすることが目的である。当該目的が達成できれば、レーザ光LBを断続的に照射する場合以外の方法を適宜取りうる。例えば、レーザ光LBをワーク200に向けてパルス状に照射してよい。
【0142】
<変形例2>
図16は、本変形例に係るピエゾアクチュエータの制御電圧及びレーザ光のビームプロファイルの時間変化を示す模式図を示す。なお、
図16及び後で述べる
図17に示すパターンi(i=0,1,2,3)は、
図5に示すパターンiと同じである。
【0143】
図16に示す本変形例のレーザ溶接方法は、前述の第1ステップの前に、前処理ステップを備える点で、実施形態1や実施形態2に示すレーザ溶接方法と異なる。
図16に示す前処理ステップは、ワーク200を予熱するためのステップである。また、本変形例のワーク200の材質は、高張力鋼である。
【0144】
前処理ステップでは、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率を第1比率R1よりも低い第3比率R3に設定した状態で、ワーク200の溶接予定箇所にレーザ光LBを照射する。なお、第3比率R3は、前述の第2比率と同じ値でもよいし、異なっていてもよい。本変形例では、前処理ステップにおいて、制御電圧VをV3に設定した状態で、溶接線WL(
図6、
図14A、
図14B参照)に沿ってワーク200にレーザ光LBを照射する。なお、第2ステップで、制御電圧VをV2に設定してもよい。
【0145】
このようにすることで、実施形態1,2に示す構成が奏するのと同様に、ワーク200の溶込み深さを確保して、ワーク200に確実に溶接ビード300を形成できる。また、ワーク200に形成される溶接ビード300の表面粗さを小さくして、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を形成できる。また、レーザ溶接後にワーク200の溶接箇所に生じる歪量を低減することができる。
【0146】
また、高張力鋼や、クロムモリブデン鋼等の、軟鋼と比較して割れやすい材料に対してレーザ光LBを照射して急激な温度変化を加えると、ワーク200の内部応力によって、レーザ光LBの照射箇所に割れを生じることがある。また、溶接後の冷却速度が速いことにより、レーザ光LBの照射箇所が、マルテンサイト組織等の硬質で脆い組織へと変化することがある。
【0147】
このような現象の発生を回避するために、本変形例に示すように、ワーク200を予熱するための前処理ステップを設けている。このようにすることで、第1ステップでレーザ光LBの照射箇所に生じる温度変化の幅を小さくできる。このことにより、軟鋼と比較して割れやすい材料であるワーク200が溶接中に割れるのを抑制できる。また、溶接後の冷却速度が遅くなることで、レーザ光LBの照射箇所が、硬くて脆いマルテンサイト以外の組織、例えばベイナイト組織等へと組織変化することができる。なお、前処理ステップでは、ワーク200に溶融池を形成する必要は無い。このため、光ファイバ40に入射されるレーザ光LBの出力を前処理ステップでは第1ステップよりも低下させてもよい。
【0148】
また、ワーク200を後熱するための後処理ステップをさらに設けても良い。後処理ステップの目的は、ワーク200を予熱するための前処理ステップと同様であり、高張力鋼や、クロムモリブデン鋼等の、軟鋼と比較して割れやすい材料に対して有効である。ワーク200を後熱することで、ワーク200の割れを抑制でき、また、ワーク200の内部組織が改善されて割れにくい材料とすることができる。また、ワーク200の冷却速度を遅くすることができ、溶融池内に侵入した水素や、溶融池内で発生した気泡等を、ワーク200の外部に抜ける時間を確保することができる。このことにより、ワーク200の内部に欠陥が発生するのを抑制できる。
【0149】
なお、ワーク200を予熱するための前処理ステップや、ワーク200を後熱するための後処理ステップは、本溶接での溶接線と溶接線をずらしても良い。この場合、本溶接の溶接線と略平行にかつ本溶接の溶接線と離間するように後処理ステップの溶接線をずらす。溶接線をずらすことで、液体状の溶融池にレーザ照射することや、繰り返し溶融、凝固のプロセスを行うことが回避でき、より欠陥が生じにくいクリーンな溶接が実現可能となる。
【0150】
なお、本変形例では、ワーク200の材質を高張力鋼や、クロムモリブデン鋼等の、軟鋼と比較して割れやすい材料としたが、特にこれに限定されない。例えば、形状や材質の関係で熱容量が大きい構造のワーク200では、必要な溶込み深さを得るための投入熱量が大きくなる。しかし、加熱されていない状態で投入熱量が大きくなるとスパッタの発生を引き起こすおそれがある。このようなスパッタの発生を抑制するために、本変形例に示すように、第1ステップの前に前処理ステップを設けるようにしてもよい。
【0151】
なお、本変形例において、前処理ステップでのレーザ光LBのエネルギー密度EDや溶込み深さが、
図12の第1ステップにおける条件を満たすことが好ましいことは言うまでもない。
【0152】
<変形例3>
図17は、本変形例に係るピエゾアクチュエータの制御電圧及びレーザ光のビームプロファイルの時間変化を示す模式図を示す。
【0153】
図17に示す本変形例のレーザ溶接方法は、第1ステップでは、ワーク200の表面を改質し、第2ステップでは、ワーク200に溶接ビード300を形成する点、及び第2ステップの後に後処理ステップをさらに備える点で、実施形態1や実施形態2に示すレーザ溶接方法と異なる。後処理ステップでは、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率を第2比率R2よりも低い第4比率R4に設定した状態で、溶接線WL(
図6、
図14A、
図14B参照)に沿ってワーク200にレーザ光LBを照射する。
【0154】
図17に示す後処理ステップは、溶接ビード300の形状を整形するためのステップである。また、本変形例のワーク200は、アルミニウムを主たる構成材料として含む。純アルミであってもよい。
【0155】
本変形例では、第1ステップで、制御電圧VをV0に設定した状態で、ワーク200にレーザ光LBを照射する。第2ステップで、制御電圧VをV1に設定した状態で、ワーク200にレーザ光LBを照射する。後処理ステップで、制御電圧VをV3に設定した状態で、ワーク200にレーザ光LBを照射する。なお、後処理ステップで、制御電圧VをV2に設定してもよい。
【0156】
このようにすることで、実施形態1,2に示す構成が奏するのと同様に、ワーク200に形成される溶接ビード300の表面粗さを小さくして、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を形成できる。また、レーザ溶接後にワーク200の溶接箇所に生じる歪量を低減することができる。
【0157】
また、本変形例によれば、第1ステップにおいて、ワーク200の表面に形成されたアルミニウム酸化膜を破壊することができ、これに続く第2ステップで、ワーク200に良好な形状の溶接ビード300を形成することができる。
【0158】
なお、第1ステップでは、レーザ光LBのエネルギー密度EDを高めるために、レーザ光LBのビーム径を第2ステップよりも小さくした状態にしている。また、第2ステップで形成された溶接ビード300全体にレーザ光LBが照射されるように、後処理ステップでは、レーザ光LBのビーム径を第2ステップよりも大きくした状態にしている。ここで、レーザ光LBの「ビーム径」とは、光ファイバ40から出射されるレーザ光LBにおいて、光路と直交する断面の直径であり、ワーク200の平坦面にレーザ光LBが照射された場合のレーザ光LBのスポット径に対応している。
【0159】
また、本変形例における第2ステップと後処理ステップとの関係は、実施形態1,2における第1ステップと第2ステップとの関係と同じである。よって、実施形態1に示したのと同じ理由から、本変形例において、第2ステップにおける溶接速度Vwは、後処理ステップにおける溶接速度Vwよりも高いことが好ましいことは言うまでもない。
【0160】
なお、本変形例では、アルミニウムを主たる構成材料として含むワーク200を例に取って説明したが、特にこれに限定されない。溶接ビード300を形成する前に、ワーク200の表面を改質する必要がある場合は、本変形例に示すレーザ溶接方法を適用できる。また、溶接ビード300の表面を均す必要が無い場合、本変形例における後処理ステップは省略される。
【0161】
(実施形態3)
図18は、本実施形態に係るレーザ溶接装置の概略構成図を示し、
図19は、光ファイバから出射されるレーザ光のビームプロファイルの変化を模式的に示す。
【0162】
図18に示す本実施形態のレーザ溶接装置100は、第1レーザ発振器10と第2レーザ発振器13とを有している点で、
図1に示す実施形態1のレーザ溶接装置100と異なる。なお、第1レーザ発振器10は、
図1に示すレーザ発振器10と同じであり、第1電源81とレーザ制御部94とに接続されている。なお、第1電源81は、
図1に示す電源81と同じである。また、第1レーザ発振器10から出射される第1レーザ光LB1の光路も、
図1に示すレーザ光LBの光路と同じである。
【0163】
一方、第2レーザ発振器13は、第1レーザ発振器10と同様に筐体21の内部に配置されており、第2電源82とレーザ制御部94とに接続されている。よって、第2レーザ発振器13から出射される第2レーザ光LB2の出力は、第1レーザ光LB1の出力とは独立に制御される。一方、第2レーザ光LB2は、第1レーザ光LB1と同じ波長である。なお、第1レーザ発振器10及び第2レーザ発振器13の少なくとも一方が、筐体21の外部に配置されてもよい。
【0164】
第2レーザ光LB2は、集光レンズ32に直接入射され、集光レンズ32により光ファイバ40の入射端面、具体的には第3コア45に集光される。なお、光ファイバ40の入射端面における第2レーザ光LB2の入射位置が、第1レーザ光LB1の入射位置と重ならないように、集光レンズ32への第2レーザ光LB2の入射角度または入射位置が設定される。また、第2レーザ光LB2の光路中と光路外との間を移動可能に第2シャッタ35が集光ユニット30内に配置されている。第2シャッタ35は、第1レーザ光LB1の光路中と光路外との間を移動可能に設けられた第1シャッタ33と連動して動作する。
【0165】
図18に示すレーザ溶接装置100を用いることで、実施形態1,2や変形例1~3に示すレーザ溶接方法をより細かくかつ精度良く実行することができる。例えば、前述の第2ステップにおいて、第2レーザ光LB2を第3コア45に入射させないようにし、第1ステップにおいて、第2レーザ光LB2を第3コア45に入射させる。つまり、光ファイバ40に入射され、光ファイバ40から出射されるレーザ光LBは、第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2とを含む。
【0166】
制御電圧Vを
図7に示すように制御することで、第1レーザ光LB1のビームプロファイルは、第1ステップでは
図3に示すパターン1となり、第2ステップでは
図5に示すパターン3に変化する。一方、第2レーザ光LB2は、第1ステップにのみ第3コア45に入射される。
【0167】
よって、レーザ光LBのビームプロファイルは、
図19に示すように変化する。第1ステップでは、制御電圧VをV1に設定することで、
図19の左側に示すように、第1レーザ光LB1に起因するパターン1の外周縁に、第2レーザ光LB2に起因するピークが重畳される。また、第2レーザ光LB2が第3コア45に入射される期間が、制御電圧VがV1である期間と一致するように、レーザ制御部94により、第2レーザ光LB2の出力が制御される。また、第1ステップにおけるレーザ光LBのビームプロファイルが、
図19の左側に示す形状となるように、レーザ制御部94により、第2レーザ光LB2の出力が制御される。つまり、第2レーザ光LB2は、レーザ光LBより出力が低いか、またはレーザ光LBのパワー密度PDよりもパワー密度が低くなるように設定される。
【0168】
一方、第2ステップでは、制御電圧VをV3に設定し、かつ第2レーザ光LB2を第3コア45に入射させないようにする。その結果、第2ステップでは、
図19の右側に示すように、レーザ光LBのビームプロファイルは、第1レーザ光LB1に起因するパターン3となる。
【0169】
このようにすることで、例えば、実施形態1に示す場合よりも、第1ステップにおけるレーザ光LBのスポット径を広げられ、また、ワーク200に照射されるレーザ光LBのパワー密度PDを変化させて、スポットの周縁での入熱量を高められる。このことにより、溶融池及びキーホールの形状をより安定化させることができ、スパッタの発生を抑制できる。また、溶込み深さと溶接ビード300の形状をそれぞれ安定化することができる。ワーク200に形成される溶接ビード300の表面粗さを小さくして、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を形成できる。また、レーザ溶接後にワーク200の溶接箇所に生じる歪量を低減することができる。
【0170】
また、本実施形態によれば、第1レーザ光LB1の出力と第2レーザ光LB2の出力とをそれぞれ独立に制御することができる。このようにすることで、レーザ光LBの照射領域における中央部分と側縁部分とで、レーザ光LBのパワー密度PD、言い換えれば投入熱量を独立に制御することができる。このことにより、ワーク200に形成されるキーホールや溶融池のサイズを適切に設定できるとともに、それらの形状を安定化できる。またワーク200に形成される溶接ビード300の表面粗さを小さくして、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を形成できる。また、レーザ溶接後にワーク200の溶接箇所に生じる歪量を低減することができる。
【0171】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ溶接方法は、以下の構成を含んでいる。
【0172】
レーザ光LBは、第1レーザ光LB1と、レーザ光LBより出力が低いか、またはレーザ光LBのパワー密度PDよりもパワー密度が低い第2レーザ光LB2とを含んでいる。第1コア41には第1レーザ光LB1が、第3コア45には第2レーザ光LB2がそれぞれ入射される。
【0173】
本実施形態に係るレーザ溶接装置100は、第1レーザ発振器10及び第2レーザ発振器13からそれぞれ出射される第1レーザ光LB1及び第2レーザ光LB2の出力を制御するレーザ制御部94をさらに備えている。
【0174】
光路制御部91は、光ファイバ40への第1レーザ光LB1の入射位置を変更することで、光ファイバ40から出射されるレーザ光LBのエネルギー密度EDを変化させる。
【0175】
第1コア41には第1レーザ光LB1が、第3コア45には第2レーザ光LB2がそれぞれ入射される。
【0176】
例えば、レーザ制御部94により、第2レーザ発振器13を所定の期間オフさせてもよい。この場合は、レーザ制御部94は、ワーク200の溶接中における所定の期間、この場合は、第1ステップでは第2レーザ光LB2を第3コア45に入射させ、それ以外の期間、この場合は第2ステップでは第2レーザ光LB2を第3コア45に入射させないように構成されている。
【0177】
また、光路制御部91により、第2シャッタ35を所定の期間、閉じるようにしてもよい。この場合は、光路制御部91は、ワーク200の溶接中における所定の期間、この場合は、第1ステップでは第2レーザ光LB2を第3コア45に入射させ、それ以外の期間、この場合は第2ステップでは第2レーザ光LB2を第3コア45に入射させないように構成されている。
【0178】
なお、ワーク200の形状や材質、あるいは溶接ビード300の形状に関する使用によっては、第2ステップでは第2レーザ光LB2を第3コア45に入射させ、第1ステップでは第2レーザ光LB2を第3コア45に入射させないようにしてもよい。その場合、第2ステップでは、第1レーザ光LB1に起因する双峰状のピークに対し、第2レーザ光LB2に起因するピークが重畳される。
【0179】
また、第2ステップにおいて、第2レーザ光LB2の出力を適切に設定することで、溶接ビード300の表面粗さをより小さくして、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を形成できる。また、レーザ溶接後にワーク200の溶接箇所に生じる歪量をより低減することができる。
【0180】
また、第2レーザ光LB2は、光路変更機構23で反射されてから集光レンズ32に入射されるようにしてもよい。その場合も、光ファイバ40の入射端面における第2レーザ光LB2の入射位置を第1レーザ光LB1の入射位置と異ならせるようにする。例えば、光路変更機構23に対する第2レーザ光LB2の入射角度を第1レーザ光LB1の入射角度と異ならせるようにする。
【0181】
また、第1レーザ発振器10から出射された第1レーザ光LB1を、折り返しミラー22と光路変更機構23との間で一部分岐して、第2レーザ光LB2として利用してもよい。
【0182】
(その他の実施形態)
実施形態1~3及び変形例1~3に示す各構成要素を適宜組み合わせて、新たな実施形態とすることもできる。例えば、実施形態3に示すレーザ溶接装置100を変形例1~3に示すレーザ溶接方法に適用することも可能である。
【0183】
また、本願明細書では、光ファイバ40が、第1~第3コア41,43,45を有する、いわゆる3層コア構造を例に取って説明したが、特にこれに限定されず、2層以上のコアを有していればよい。
【0184】
例えば、
図20に示すように、光ファイバ40が第1コア41と第3コア45を有するか、あるいは第1コア41と第2コア43を有する構造であってもよい。この場合も、光路変更機構23によりレーザ光LBの光ファイバ40への入射位置Pを変更することで、レーザ光LBの出力に対する第1コア41に入射されるレーザ光LBの比率を変化させることができる。このことにより、本開示のレーザ溶接方法の各ステップで、ワーク200に対してレーザ光LBによる所望の処理を行うことができる。また、ワーク200に形成される溶接ビード300の表面粗さを小さくして、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード300を形成できる。また、レーザ溶接後にワーク200の溶接箇所に生じる歪量を低減することができる。
【0185】
なお、本願明細書では、制御電圧Vをステップ状に変化させる例を示したが、所定の時間傾度を持って、制御電圧Vが変化するようにしてもよい。また、ピエゾアクチュエータ26の代わりに別のアクチュエータ、例えば、ステッピングモータを用いてもよい。