(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112742
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】レーザ溶接装置及びこれを用いたレーザ溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20230807BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20230807BHJP
B23K 26/046 20140101ALI20230807BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20230807BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/064 K
B23K26/046
B23K26/082
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014632
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 範幸
(72)【発明者】
【氏名】中川 龍幸
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 通雄
(72)【発明者】
【氏名】藤原 潤司
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA86
4E168BA87
4E168CB04
4E168CB08
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA13
4E168DA32
4E168DA37
4E168DA38
4E168DA39
4E168EA02
4E168EA08
4E168EA15
4E168EA17
4E168EA24
4E168KA04
4E168KB02
(57)【要約】
【課題】溶込み深さを確保しつつ、外観美観性に優れた溶接ビードを形成することができるレーザ溶接装置を提供する。
【解決手段】レーザ溶接装置1000は、第1及び第2レーザ発振器100,200とレーザヘッド500と、を備えている。レーザ溶接装置1000は、第1レーザ発振器100からレーザヘッド500まで第1レーザ光L1を伝送する第1光ファイバ300と、第2レーザ発振器200からレーザヘッド500まで第2レーザ光L2を伝送する第2光ファイバ400と、を備えている。レーザヘッド500は、ワーク800に向かう第1レーザ光L1の光路を第2レーザ光L2の光路と異ならせる。第1及び第2レーザ発振器100,200は、レーザヘッド500に入射されるレーザ光のビームプロファイルを変更可能に構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1レーザ光を出射する第1レーザ発振器と、
第2レーザ光を出射する第2レーザ発振器と、
前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光を受け取って、ワークに向けて照射するレーザヘッドと、
前記第1レーザ発振器から前記レーザヘッドまで前記第1レーザ光を伝送する第1光ファイバと、
前記第2レーザ発振器から前記レーザヘッドまで前記第2レーザ光を伝送する第2光ファイバと、を備え、
前記レーザヘッドは、前記ワークに向かう前記第1レーザ光の光路を前記ワークに向かう前記第2レーザ光の光路と異ならせるように構成され、
前記第1レーザ発振器及び前記第2レーザ発振器の少なくとも一方は、前記レーザヘッドに入射されるレーザ光のビームプロファイルを変更可能に構成されていることを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接装置において、
前記レーザヘッドは、
前記第1レーザ光を平行化する第1コリメートレンズと、
前記第2レーザ光を平行化する第2コリメートレンズと、
前記第1コリメートレンズ及び前記第2コリメートレンズを通過した前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光を重ね合わせる第1光学部材と、
前記第1光学部材で重ね合わされた前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光を前記ワークに向けて集光させる第2光学部材と、を少なくとも有していることを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ溶接装置において、
前記レーザヘッドは、
前記第1光学部材に対する前記第1レーザ光の入射位置を調整する第1調整機構と、
前記第1光学部材に対する前記第2レーザ光の入射位置を調整する第2調整機構と、をさらに有していることを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項4】
請求項3に記載のレーザ溶接装置において、
前記第1調整機構及び前記第2調整機構の少なくとも一方を駆動することで、前記ワークの表面における前記第1レーザ光の集光点を、所定の溶接線に沿って、前記第2レーザ光の集光点の前方または後方に移動させるように構成されていることを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項5】
請求項3に記載のレーザ溶接装置において、
前記第1調整機構を駆動することで、前記ワークの表面における前記第1レーザ光の集光点を、所定の溶接線に沿って、前記第2レーザ光の集光点を跨いで前方及び後方に周期的に移動させるように構成されていることを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のレーザ溶接装置において、
前記第1レーザ発振器は、前記第1レーザ光を前記第1光ファイバに入射させる第1光路変更機構を備え、
前記第1光ファイバは、
軸心に設けられた第1コアと、
半径方向で前記第1コアの外側にかつ前記第1コアと同軸に設けられた第3コアと、を少なくとも有し、
前記第1光路変更機構は、前記第1レーザ光の光路を変更することで、前記第1コア及び前記第3コアにそれぞれ入射される前記第1レーザ光の比率を変更するように構成されていることを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザ溶接装置において、
前記第1光ファイバは、半径方向で前記第1コアと前記第3コアとの間にかつ前記第1コア及び前記第3コアと同軸に設けられた第2コアをさらに有し、
前記第1光路変更機構は、前記第1レーザ光の光路を変更することで、前記第1~前記第3コアにそれぞれ入射される前記第1レーザ光の比率を変更するように構成されていることを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のレーザ溶接装置において、
前記第2レーザ発振器は、前記第2レーザ光を前記第2光ファイバに入射させる第2光路変更機構を備え、
前記第2光ファイバは、
軸心に設けられた第1コアと、
半径方向で前記第1コアの外側にかつ前記第1コアと同軸に設けられた第3コアと、を少なくとも有し、
前記第2光路変更機構は、前記第2レーザ光の光路を変更することで、前記第1コア及び前記第3コアにそれぞれ入射される前記第2レーザ光の比率を変更するように構成されていることを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項9】
請求項8に記載のレーザ溶接装置において、
前記第2光ファイバは、半径方向で前記第1コアと前記第3コアとの間にかつ前記第1コア及び前記第3コアと同軸に設けられた第2コアをさらに有し、
前記第2光路変更機構は、前記第2レーザ光の光路を変更することで、前記第1~前記第3コアにそれぞれ入射される前記第2レーザ光の比率を変更するように構成されていることを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載のレーザ溶接装置において、
前記第1レーザ光の波長は、前記第2レーザ光の波長よりも短いことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載のレーザ溶接装置において、
前記第1レーザ光の波長は、前記第2レーザ光の波長と同じであることを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載のレーザ溶接装置を用いたレーザ溶接方法であって、
前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光のうちの一方を前記ワークの所定の溶接線に沿って照射する第1ステップと、
前記第1ステップに続けて、前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光のうちの他方を前記溶接線に沿って照射する第2ステップと、を少なくとも備え、
前記第1ステップと前記第2ステップとで、前記溶接線に照射されるレーザ光のパワー密度を異ならせることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項13】
請求項12に記載のレーザ溶接方法において、
前記第1ステップでは、前記ワークに溶接ビードを形成し、
前記第2ステップでは、前記溶接ビードの形状を整形するか、または前記溶接ビードの幅及び溶込み深さを広げることを特徴とするレーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ溶接装置及びこれを用いたレーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、1本のレーザ光を2本のレーザ光に分岐するとともに、それぞれのレーザ光を互いに異なる光ファイバを用いて、レーザヘッドに導くレーザ加工装置が開示されている。このレーザ加工装置では、レーザヘッドの内部に、2本のレーザ光を同軸の光路に導いて重畳させるとともに、同軸の光路に重畳した2本のレーザ光をワーク(被溶接物)上に集光する。
【0003】
また、特許文献2には、長波長と短波長の2本のレーザを同軸の光路に導いて重畳させる光学系と、同軸の光路に重畳した2本のレーザ光をワーク上に集光する集光レンズとを備えたレーザ加工光学装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-044543号公報
【特許文献2】特開2005-324254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ワークに形成される溶接ビードは、幅や溶込み深さの安定性だけでなく、外観美観性も要求される。例えば、溶接ビードの表面は滑らかで光沢を有することが求められることが多い。
【0006】
しかし、特許文献1,2には、溶込み深さの確保と外観美観性とを両立させる溶接方法に関して何ら開示されていない。
【0007】
本開示はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、溶込み深さを確保しつつ、外観美観性に優れた溶接ビードを形成可能なレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示に係るレーザ溶接装置は、第1レーザ光を出射する第1レーザ発振器と、第2レーザ光を出射する第2レーザ発振器と、前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光を受け取って、ワークに向けて照射するレーザヘッドと、前記第1レーザ発振器から前記レーザヘッドまで前記第1レーザ光を伝送する第1光ファイバと、前記第2レーザ発振器から前記レーザヘッドまで前記第2レーザ光を伝送する第2光ファイバと、を備え、前記レーザヘッドは、前記ワークに向かう前記第1レーザ光の光路を前記ワークに向かう前記第2レーザ光の光路と異ならせるように構成され、前記第1レーザ発振器及び前記第2レーザ発振器の少なくとも一方は、前記レーザヘッドに入射されるレーザ光のビームプロファイルを変更可能に構成されていることを特徴とする。
【0009】
本開示に係るレーザ溶接方法は、前記レーザ溶接装置を用いたレーザ溶接方法であって、前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光のうちの一方を前記ワークの所定の溶接線に沿って照射する第1ステップと、前記第1ステップに続けて、前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光のうちの他方を前記溶接線に沿って照射する第2ステップと、を少なくとも備え、前記第1ステップと前記第2ステップとで、前記溶接線に照射されるレーザ光のパワー密度を異ならせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、溶込み深さを確保しつつ、外観美観性に優れた溶接ビードを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1に係るレーザ溶接装置の概略構成図である。
【
図4】レーザ光のビーム径の定義を説明する模式図である。
【
図5】溶接線に沿ったレーザ光の照射面積を説明する模式図である。
【
図6】第2光ファイバから出射される第2レーザ光のビームプロファイルの一例を示す図である。
【
図7】光の波長と反射率との関係を示すグラフ図である。
【
図8】レーザ溶接中のレーザ光のビームプロファイルとパワー密度とピエゾアクチュエータの制御電圧とを示す模式図である。
【
図11】レーザ溶接時の溶接ビードの形状変化を示す断面模式図である。
【
図12】実施形態2に係るレーザ溶接中のレーザ光のビームプロファイルとパワー密度とピエゾアクチュエータの制御電圧とを示す模式図である。
【
図14】実施形態3に係るレーザ溶接中のレーザ光のビームプロファイルとパワー密度とピエゾアクチュエータの制御電圧とを示す模式図である。
【
図16】実施形態4に係るレーザ溶接中のレーザ光のビームプロファイルとパワー密度とピエゾアクチュエータの制御電圧とを示す模式図である。
【
図18】実施形態5に係るレーザ溶接中のレーザ光のビームプロファイルとパワー密度とピエゾアクチュエータの制御電圧とを示す模式図である。
【
図19】実施例に係るエネルギー密度と溶込み深さとの関係を示す図である。
【
図20】エネルギー密度と算術平均表面粗さとの関係を示す図である。
【
図21】溶込み深さと算術平均表面粗さとの関係を示す図である。
【
図22】ワークの材質毎の第1ステップ及び第2ステップにおける好ましいパラメータを示す図である。
【
図23】変形例2に係るレーザ溶接方法を説明する模式図である。
【
図24】別のレーザ溶接方法を説明する模式図である。
【
図25】実施形態7に係るレーザ溶接方法を説明する模式図である。
【
図26A】第1ステップにおける第1レーザ光のビームプロファイルの変化を示す模式図である。
【
図26B】第2ステップにおける第2レーザ光のビームプロファイルを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0013】
(実施形態1)
[レーザ溶接装置の構成]
図1は、本実施形態に係るレーザ溶接装置の概略構成図を示し、レーザ溶接装置1000は、第1レーザ発振器100と、第2レーザ発振器200と、第1光ファイバ300と、第2光ファイバ400と、レーザヘッド500と、ロボット600と、制御部700とを備える。なお、以降の説明において、レーザヘッド500からワーク800に照射されるレーザ光の進行方向をZ方向と呼ことがある。また、
図1において、第1レーザ発振器100及び第2レーザ発振器200からレーザヘッド500に向かう方向をX方向と呼び、X方向及びZ方向とそれぞれ交差する方向をY方向と呼ぶことがある。
【0014】
第1レーザ発振器100は、制御部700からの指令に基づいて、第1レーザ光L1を出力する。第1レーザ光L1は、短波長のレーザ光である。第1レーザ光L1は、波長が600nm以下(例えば、266nm~600nm)の青色レーザ光である。
【0015】
第1レーザ発振器100とレーザヘッド500とは、第1光ファイバ300で接続される。第1レーザ光L1は、第1光ファイバ300を介して、第1レーザ発振器100からレーザヘッド500に伝送される。
【0016】
第2レーザ発振器200は、制御部700からの指令に基づいて、第2レーザ光L2を出力する。第2レーザ光L2は、第1レーザ光L1よりも波長の長い長波長のレーザ光である。第2レーザ光L2は、波長が800nm以上(例えば、800nm~10800nm程度)の赤外レーザ光である。
【0017】
第2レーザ発振器200とレーザヘッド500とは、第2光ファイバ400で接続される。第2レーザ光L2は、第2光ファイバ400を介して、第2レーザ発振器200からレーザヘッド500に伝送される。
【0018】
レーザヘッド500は、第1光ファイバ300及び第2光ファイバ400から入射される第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を、ワーク800に向けて照射する。なお、第1光ファイバ300及び第2光ファイバ400の構造については後で詳述する。
【0019】
レーザヘッド500は、第1コリメートレンズ510と、第2コリメートレンズ520と、第1ミラー530と、第1調整機構540と、第2調整機構550と、ダイクロイックミラー560(第1光学部材560)と、fθレンズ570(第2光学部材570)とを有する。
【0020】
第1コリメートレンズ510は、第1光ファイバ300の出射端から出射された第1レーザ光L1を平行光線に変換する。言い換えると、第1レーザ光L1を平行化する。第2コリメートレンズ520は、第2光ファイバ400の出射端から出射された第2レーザ光L2を平行光線に変換する。言い換えると、第2レーザ光L2を平行化する。第1ミラー530は、第1コリメートレンズ510で平行化された第1レーザ光L1を反射して、第1調整機構540に導光する。
【0021】
第1調整機構540は、2軸MEMSミラーで構成される。第1調整機構540は、第1ミラー530で反射された第1レーザ光L1をさらに反射して、ダイクロイックミラー560に導光する。第1調整機構540は、ミラーの角度を変更することで、ダイクロイックミラー560に対する第1レーザ光L1の入射位置を変更する。なお、第1調整機構540は、2軸のガルバノメータを用いた構成としてもよい。
【0022】
第2調整機構550は、2軸MEMSミラーで構成される。第2調整機構550は、第2コリメートレンズ520で平行化された第2レーザ光L2を反射して、ダイクロイックミラー560に導光する。第2調整機構550は、ミラーの角度を変更することで、ダイクロイックミラー560に対する第2レーザ光L2の入射位置を変更する。なお、第2調整機構550は、2軸のガルバノメータを用いた構成としてもよい。
【0023】
ダイクロイックミラー560は、第2レーザ光L2を透過するとともに、第1レーザ光L1を反射する。ダイクロイックミラー560は、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を重ね合わせて、fθレンズ570に導光する。
【0024】
fθレンズ570は、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の入射位置において、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2をそれぞれ集光する。fθレンズ570で集光された第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2は、ワーク800に向けて照射される。
【0025】
ここで、fθレンズ570に対する第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の入射位置は、第1調整機構540及び第2調整機構550の角度をそれぞれ変更することで移動する。これにより、第1調整機構540及び第2調整機構550によって、ワーク800に対する第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の照射位置が変更可能となる。なお、レーザヘッド500のレーザ出射口は、図示しない保護ガラスで覆われている。
【0026】
ロボット600は、ロボットアーム610を有する。ロボットアーム610の先端部には、レーザヘッド500が取り付けられる。ロボットアーム610は、複数の関節部620を有する。
【0027】
ロボット600は、制御部700からの指令に基づいて、レーザヘッド500を所定の溶接方向WD(
図9参照)に沿って移動させ、ワーク800に対するレーザヘッド500の位置を変更する。これにより、ワーク800に対する第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の位置を移動させ、レーザ溶接を行う。
【0028】
制御部700は、第1レーザ発振器100、第2レーザ発振器200、レーザヘッド500、及びロボット600に接続される。制御部700は、第1レーザ発振器100、第2レーザ発振器200、レーザヘッド500及びロボット600の動作を制御する。制御部700は、レーザヘッド500の移動速度の他に、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の出力開始や停止、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の出力強度などを制御する機能も備える。
【0029】
なお、後で述べるように、第1レーザ発振器100及び第2レーザ発振器200には、それぞれの内部で第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の光路を変更させる第1光路制御部117及び第2光路制御部217が設けられている。
【0030】
第1光路制御部117及び第2光路制御部217、さらに制御部700における前述の機能は、それぞれが有するハードウェア上で、所定の溶接プログラムを実行することで実現される。当該ハードウェアは、主にCPU(Central Processing Unit)やメモリで構成される。また、第1光路制御部117及び第2光路制御部217、さらに制御部700が、図示しない上位コントローラに接続される場合がある。この場合、上位コントローラで実行される溶接プログラムに基づいた実行命令が、第1光路制御部117及び第2光路制御部217、さらに制御部700にそれぞれ送信され、所定の処理を実行する。なお、第1光路制御部117及び第2光路制御部217と制御部700とが一体化されて一つの制御部になっていてもよい。また、第1レーザ発振器100及び第2レーザ発振器200の動作を制御する制御部とレーザヘッド500及びロボット600の動作を制御する制御部とが別個に設けられていてもよい。ただし、その場合も、それぞれの制御部が連動してレーザ溶接装置1000の動作を制御する。
【0031】
第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の少なくとも一方が、ワーク800に照射されることで、ワーク800に溶接ビード810が形成される。なお、ワーク800の構造や材質については、後で述べる。
【0032】
[第1レーザ発振器及び第2レーザ発振器の構成]
図2は、本実施形態に係る第1レーザ発振器の概略構成図を示し、第1レーザ発振器100は、複数の第1レーザモジュール101と第1レーザ光合成器102と第1光結合ユニット110と第1集光ユニット120とを有している。複数の第1レーザモジュール101からそれぞれ出射されたレーザ光が第1レーザ光合成器102で合成されて1本の第1レーザ光L1として出射される。
【0033】
第1光結合ユニット110は、筐体111の内部に第1折り返しミラー112と第1光路変更機構113とを有している。第1折り返しミラー112は筐体111の内部に固定配置されており、第1レーザ光L1を第1光路変更機構113に向けて反射する。
【0034】
第1光路変更機構113は、第1スキャンミラー114と第1ピエゾステージ115と第1ピエゾアクチュエータ116とを有している。第1スキャンミラー114は、第1折り返しミラー112で反射された第1レーザ光L1を第1集光ユニット120の第1集光レンズ122に向けて反射する。第1スキャンミラー114は第1ピエゾステージ115に一体に取り付けられており、第1ピエゾアクチュエータ116は第1ピエゾステージ115に取り付けられている。第1ピエゾアクチュエータ116を駆動することで、第1ピエゾステージ115及び第1スキャンミラー114は、Y方向と平行な軸回りに傾動し、第1スキャンミラー114で反射された第1レーザ光L1の光軸を所定の範囲で変化させる。なお、第1光路変更機構113に対して第1レーザ光L1が直接入射される場合は、第1折り返しミラー112は省略されうる。
【0035】
第1集光ユニット120は、筐体121の内部に第1集光レンズ122と第1シャッタ123と第1ビームダンパ124とを有している。第1集光レンズ122は、第1光路変更機構113の第1スキャンミラー114で反射された第1レーザ光L1を集光して第1光ファイバ300に入射させる。第1シャッタ123は、第1レーザ光L1の光路中と光路外との間を移動可能に構成されており、所定の制御信号に応じて第1レーザ光L1の光路を開閉する。第1シャッタ123が第1レーザ光L1の光路中に配置される場合、第1シャッタ123で反射された第1レーザ光L1は第1ビームダンパ124に入射され、熱に変換される。なお、第1レーザ光L1の集光位置を第1光ファイバ300の入射端面に合わせるために、第1集光ユニット120には、図示しない第1集光位置調整部が設けられている。
【0036】
また、第1レーザ発振器100は、第1光路制御部117を有している。第1光路制御部117は、第1ピエゾアクチュエータ116及び第1シャッタ123の駆動機構(図示せず)に電気的に接続されており、第1ピエゾアクチュエータ116の動作及び第1シャッタ123の開閉動作を制御する。第1光路制御部117から第1ピエゾアクチュエータ116に印加する制御電圧の大きさに応じて、第1光路変更機構113の傾動範囲が変化し、後で述べるように、第1レーザ光L1の第1光ファイバ300への入射位置Pを変化させることができる。なお、第1ピエゾアクチュエータ116と第1シャッタ123の駆動機構とはそれぞれ別の制御部で制御されてもよい。
【0037】
なお、第2レーザ発振器200の内部構成及び動作、さらに内部の各構成要素の構成及び動作は、
図2に示すのと同様である。したがって、第2レーザ発振器200の各構成要素の図示と詳細な説明は省略する。なお、
図2において、第2レーザ発振器200の各構成要素の符号を、カッコ付きで第1レーザ発振器100の各構成要素の符号に併記して示している。例えば、第2レーザ発振器200において、第2レーザモジュールを示す符号を201とし、第2光路変更機構を示す符号を213としている。
【0038】
[第1光ファイバ及び第2光ファイバの構成]
図3は、
図1のIII-III線での断面図であり、第1光ファイバ300の断面構造を示している。
【0039】
第1光ファイバ300は、第1~第3コア310,330,350と第1~第3クラッド320,340,360と保護皮膜370とを有しており、保護皮膜370を除いてそれぞれ石英からなる。
【0040】
第1コア310は、第1光ファイバ300の軸心に配置されており、断面視で円形状である。第3コア350は、第1光ファイバ300の半径方向(
図3中のY方向及びZ方向)で第1コア310の外側にかつ第1コア310と同軸に設けられており、断面視でリング状である。第2コア330は、第1光ファイバ300の半径方向で第1コア310と第3コア350との間にかつ第1コア310及び第3コア350と同軸に設けられており、断面視でリング状である。
【0041】
第1クラッド320は、第1コア310の外周面と第2コア330の内周面にそれぞれ接して第1コア310と同軸に設けられており、断面視でリング状である。第2クラッド340は、第2コア330の外周面と第3コア350の内周面にそれぞれ接して第1コア310と同軸に設けられており、断面視でリング状である。第3クラッド360は、第3コア350の外周面に接して第1コア310と同軸に設けられており、断面視でリング状である。
【0042】
第1コア310の屈折率は、第1クラッド320の屈折率よりも高くなるように設定される。第2コア330の屈折率は、第1クラッド320及び第2クラッド340のそれぞれの屈折率よりも高くなるように設定される。第3コア350の屈折率は、第2クラッド340及び第3クラッド360のそれぞれの屈折率よりも高くなるように設定される。第1~第3クラッド320,340,360の屈折率を低下させるために、例えば、第1~第3クラッド320,340,360のそれぞれに所定量のフッ素がドープされる。なお、第1クラッド320及び第2クラッド340のそれぞれの屈折率よりも、第3クラッド360の屈折率が低くなるようにするのが好ましい。このようにすることで、第3コア350から第3クラッド360に第1レーザ光L1が漏れ出すのを抑制できる。
【0043】
保護皮膜370は、例えば、合成樹脂からなり、石英からなる第1~第3コア310,330,350及び第1~第3クラッド320,340,360を機械的に保護するとともに、第1光ファイバ300から第1レーザ光L1が漏れ出たり、外部から第1光ファイバ300に光が漏れ込んだりするのを防止する。
【0044】
なお、第2光ファイバ400の構造及び各部の機能は、
図3に示すのと同様である。したがって、第2光ファイバ400の各構成要素の図示と詳細な説明は省略する。なお、
図3において、第2光ファイバ400の各構成要素の符号を、カッコ付きで第1光ファイバ300の各構成要素の符号に併記して示している。例えば、第2光ファイバ400において、第1コアを示す符号を410とし、第1クラッドを示す符号を420としている。
【0045】
[レーザ光のビームプロファイルを変化させる手順]
図4は、レーザ光のビーム径の定義を説明する模式図であり、
図5は、溶接線に沿ったレーザ光の照射面積を説明する模式図である。
【0046】
なお、本願明細書において、第1レーザ光L1と第2レーザ光L2とを区別せずに呼称する場合、単にレーザ光LBと呼ぶことがある。また、「溶接速度Vw」とは、ワーク800の溶接線WL(例えば、
図9~11参照)に沿ったレーザ光LBの進行速度を意味し、例えば、レーザ光LBを出射中のレーザヘッド500をロボット600により溶接線WLに沿って移動させる速度に相当する。
【0047】
また、
図4の(a)図に示すように、レーザ光LBの「ビーム径φ」とは、第1光ファイバ300または第2光ファイバ400から出射されるレーザ光LBが最も絞られる位置であるビームウエストで光路と直交する断面の直径である。また、ビーム径φは、ワーク800の平坦面にレーザ光LBが照射された場合のレーザ光LBのスポットの直径(以下、単にスポット径と言う)に対応している。また、「パワー密度PD」とは、レーザ光LBの出力をワーク800に照射されるレーザ光LBのスポット面積Sp(
図4の(b)図参照)で割った値である。また、レーザ光LBの出力をLPとすると、パワー密度PDとレーザ光LBのビーム径φとの関係は、式(1)に示す関係を満たす。
【0048】
PD=LP/Sp=LP/(π×(φ/2)
2)=4×LP/(π×φ
2) ・・・(1)
また、レーザ光LBの「エネルギー密度ED」とは、レーザ光LBの出力にレーザ光LBの照射時間Tを乗じた値をレーザ光LBの照射面積Sで割った値である。ここで、照射面積Sは、溶接線WLにわたってレーザ光LBが照射されたワーク800の表面の面積にあたる。また、
図5に示す例で言えば、溶接線WLに沿った長さをLwとすると、照射面積Sは、式(2)で示される。
【0049】
S=Lw×φ+Sp ・・・(2)
また、エネルギー密度EDは、式(3)に示す関係を満たす。
【0050】
ED=LP×T/S ・・・(3)
図6は、第2光ファイバから出射される第2レーザ光のビームプロファイルの一例を示す。なお、
図6に示す第2レーザ光L2のビームプロファイルは簡略化して図示している。また、説明の便宜上、X方向に関する一次元のビームプロファイルのみ図示しているが、実際には、Y方向にも同様の形状のビームプロファイルとなる。また、
図6において、光ファイバ40に入射されるレーザ光LBの出力を所定の出力値に設定した場合、それぞれの光強度の最大値を1に規格化してビームプロファイルを図示している。また、光強度が1/e
2となる位置で測定されたビームプロファイルの幅が、前述のビーム径φに相当する。
【0051】
図2に示す第2光路制御部217から第2ピエゾアクチュエータ216に印加される電圧V(以下、制御電圧Vという)に応じて駆動し、第2光路変更機構213の第2スキャンミラー214は、Y方向と平行な軸回りに所定量傾動する。このことにより、第2スキャンミラー214で反射された第2レーザ光L2の光軸が変化する。なお、第1光路制御部117から第1ピエゾアクチュエータ116に電圧が印加される場合も、当該電圧を制御電圧Vという。
【0052】
第2光路制御部217から第2ピエゾアクチュエータ216に印加する制御電圧Vの大きさに応じて、第2スキャンミラー214で反射された第2レーザ光L2の光軸が変化すると、第2光ファイバ400に入射される第2レーザ光L2の入射位置P(
図3参照;以下、単に入射位置Pと呼ぶことがある)も変化する。言い換えると、第2光ファイバ400に対する第2レーザ光L2の入射位置Pを変化させることで、第2光ファイバ400のコアに入射される第2レーザ光L2の入射量が変わり、第2光ファイバ400のコア(第1コア410、第2コア430、第3コア450)に入射される、第2レーザ光L2の出力に対する第2レーザ光L2の比率を変化させることができる。ここで、第2レーザ光L2の出力とは、第2レーザ光L2が第2光ファイバ400に入射する全入射量に相当する。このことを利用して、第2光ファイバ400から出射される第2レーザ光L2のビームプロファイル(以下、単に第2レーザ光L2のビームプロファイルと呼ぶことがある。)を変化させることができる。なお、第1光ファイバ300から出射される第1レーザ光L1のビームプロファイルを、単に第1レーザ光L1のビームプロファイルと呼ぶことがある。
【0053】
言い換えると、第2レーザ光L2の出力に対する、第2光ファイバ400のコアに入射される第2レーザ光L2の比率は、第2光ファイバ400に対して照射される第2レーザ光L2の全入射量に対する、第2光ファイバ400の各コア(第1コア410、第2コア430、第3コア450)に入射される第2レーザ光L2の入射量の比率に相当する。第2レーザ光L2の出力は、第2光ファイバ400に対して照射される第2レーザ光L2の全入射量に相当する。
【0054】
第2光路制御部217から第2ピエゾアクチュエータ216に印加する制御電圧Vの大きさを変えることで、第2レーザ光L2の出力に対する、第2光ファイバ400のコアに入射される第2レーザ光L2の比率を変更することができる。
【0055】
また、第1光ファイバ300に対する第1レーザ光L1の入射位置Pを変化させることで、第1光ファイバ300のコアに入射される第1レーザ光L1の入射量が変わり、第1光ファイバ300のコア(第1コア310、第2コア330、第3コア350)に入射される、第1レーザ光L1の出力に対する第1レーザ光L1の比率を変化させることができる。ここで、第1レーザ光L1の出力とは、第1レーザ光L1が第1光ファイバ300に入射する全入射量に相当する。
【0056】
言い換えると、第1レーザ光L1の出力に対する、第1光ファイバ300のコアに入射される第1レーザ光L1の比率は、第1光ファイバ300に対して照射される第1レーザ光L1の全入射量に対する、第1光ファイバ300の各コア(第1コア310、第2コア330、第3コア350)に入射される第1レーザ光L1の入射量の比率に相当する。第1レーザ光L1の出力は、第1光ファイバ300に対して照射される第1レーザ光L1の全入射量に相当する。
【0057】
第1光路制御部117から第1ピエゾアクチュエータ116に印加する制御電圧Vの大きさを変えることで、第1レーザ光L1の出力に対する、第1光ファイバ300のコアに入射される第1レーザ光L1の比率を変更することができる。
【0058】
第2光路変更機構213が動作していない状態、つまり、第2光路制御部217から第2ピエゾアクチュエータ216に印加される制御電圧VがV0(=0V)の状態で、第2レーザ光L2が第2光ファイバ400の軸心に入射し、第1コア410に伝送されるように第2レーザ発振器200の内部で各光学部品の配置関係が規定されている。この場合の入射位置PをP0(
図3参照)とする。
【0059】
第2光路制御部217から第2ピエゾアクチュエータ216に印加される制御電圧VをV0からV1(>V0)へ、さらにV2(>V1)、V3(>V2)へと変化させると、
図3に示すように、入射位置Pは、P0からP1へ、さらに、P2、P3へと変更される。
【0060】
入射位置PがP0の場合、
図6のパターン0に示すように、X=0となる位置を中心とした単峰状のガウシアン分布となる。なお、X=0は、第2光ファイバ400の軸心に対応している。
【0061】
入射位置PがP1に変更されると、
図3に示すように、第2レーザ光L2は、第1コア410と第1クラッド420との間に入射される。この場合、第2レーザ光L2の一部が第2コア430に入射されるため、第2レーザ光L2のビームプロファイルは、
図6のパターン1に示すように、中央のピークの両縁が持ち上がって裾を引くような形状となる。また、中央のピークの半値幅は、パターン0の半値幅よりも広くなる。なお、以降の説明において、パターン1をトップハット形状と呼ぶことがある。
【0062】
入射位置PがP2に変更されると、第2レーザ光L2の大部分が、第2コア430に入射される。この場合、第2レーザ光L2のビームプロファイルは、
図6のパターン2に示すように、中央のピークが小さくなる一方、X=0となる位置を挟んで第2コア430に対応する位置にピークが現れる双峰状の形状となる。実際には、XY平面上にリング状のピークを有する分布となる。
【0063】
入射位置PがP2に変更されると、第2レーザ光L2の大部分が、第3コア450に入射される。この場合、第2レーザ光L2のビームプロファイルは、
図6のパターン3に示すように、第2コア430に対応する位置のピークが小さくなる一方、第2コア430の外側に位置する第3コア450に対応する位置にピークが現れる双峰状の形状となる。実際には、XY平面上にリング状のピークを有する分布となる。
【0064】
また、
図6及び以上の説明から明らかなように、パターン1は、パターン0よりもX方向及びY方向に広がった形状となる。同様に、パターン2はパターン1よりも、パターン3はパターン2よりもそれぞれX方向及びY方向に広がった形状となる。言い換えると、ワーク800に照射される第2レーザ光L2のスポットの直径(以下、単にスポット径という)は、パターン0→パターン1→パターン2→パターン3の順で大きくなる。
【0065】
なお、本願明細書において、電圧V1,V2,V3は、それぞれ3.6V、6V、9Vであるが、特にこれに限定されない。第2ピエゾアクチュエータ216の種類やサイズ等に応じて適宜変更されうる。
【0066】
また、第2スキャンミラー214及び第2ピエゾステージ215は、X方向と平行な軸回りに傾動してもよい。第2光ファイバ400の軸心からXY平面上で等距離の位置に第2レーザ光L2が入射した場合、第2レーザ光L2のビームプロファイルは同じ形状となる。例えば、第2光ファイバ400の軸心、つまり、入射位置P=P0を中心として、P0からP1までの距離を半径とした円周上に第2レーザ光L2が入射すれば、第2レーザ光L2のビームプロファイルは、
図6に示すパターン1となる。
【0067】
なお、前述したように、第1レーザ発振器100及び第1光ファイバ300の構成は、第2レーザ発振器200及び第2光ファイバ400の構成とそれぞれ同様である。したがって、第1光路変更機構113により、第1光ファイバ300に入射される第1レーザ光L1の入射位置Pを変更することで、第1レーザ光L1のビームプロファイルを変化させることができる。また、第1ピエゾアクチュエータ116に印加される制御電圧Vに対する第1レーザ光L1のビームプロファイルの変化も、
図6に示したのと同様である。なお、第1光ファイバ300に入射される第1レーザ光L1のビーム径φに応じて、同様の形状のビームプロファイルを得るための制御電圧Vは、第1レーザ発振器100と第2レーザ発振器200とで異なっていてもよい。
【0068】
以上説明したように、本実施形態のレーザ溶接装置1000では、レーザヘッド500から出射される第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2のビームプロファイルを、それぞれ独立して変化させることができる。
【0069】
[レーザ溶接方法]
図7は、ワークの反射率の波長依存性を示す。
図7に示すように、ワーク800の反射率は、ワーク800の材質によって異なる。例えば、波長が800nm以上の赤外レーザ光をワーク800に照射した場合(
図7の破線参照)、反射率は、銀(Ag)で最も高く、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)の順に低下する。言い換えると、赤外レーザ光をワーク800に照射した場合、材質が鉄(Fe)であるワーク800での光吸収率が最も高くなる。
反射率が75%から85%の間である。これを基準とすると、銅(Cu)や銀(Ag)は、反射率が85%以上であり、高反射率材料、つまり、レーザ光の光吸収率が低い材料であることが分かる。一方、鉄(Fe)は、反射率が55%から75%の間であり、低反射率材料、つまり、レーザ光の光吸収率が高い材料であることが分かる。なお、
図7に示す反射率は、ワーク800の温度が室温程度の場合である。ワーク800が所定以上の温度、例えば、百数十℃~数百℃まで加熱された状態では、レーザ光の波長が800nm以上の場合も、反射率は大幅に低下する。つまり、照射されたレーザ光がワーク800に十分に吸収され、ワーク800が溶融する。
【0070】
このように、ワーク800の材質によってレーザ光の反射率が異なる場合、1種類の波長のレーザ光を1回照射するだけでは、所望の形状や外観の溶接ビード810を得られないことがある。
【0071】
そこで、本実施形態では、第1レーザ光L1に続けて第2レーザ光L2を照射することで、溶接ビード810を確実に形成しつつ、溶接ビード810の幅や溶込み深さを所望の値にすることができる。
【0072】
なお、本実施形態のワーク800の材質は、銅(Cu)である。また、板厚は、1.0mm以上に設定される。また、第2光ファイバ400に入射される第2レーザ光L2の出力は、第1光ファイバ300に入射される第1レーザ光L1の出力よりも大きくなるように設定されている。例えば、第2レーザ光L2の出力が数kWであり、第1レーザ光L1の出力が数百W~1kW程度である。ただし、これらの値は適宜変更されうる。
【0073】
図8は、レーザ溶接中のレーザ光のビームプロファイルとパワー密度とピエゾアクチュエータの制御電圧とを模式的に示す。
図9,10は、レーザ溶接方法を説明する模式図を示す。
図11は、レーザ溶接時の溶接ビードの形状変化の断面模式図を示す。
【0074】
まず、第1調整機構540を駆動して、溶接線WLに沿って、ワーク800の表面における第1レーザ光L1の集光点が、第2レーザ光L2の集光点の前方に移動するように調整しておく。
【0075】
図8に示すように、まず、溶接線WLに沿って第1レーザ光L1を溶接方向WDに移動させながら、第1レーザ光L1をワーク800に照射する(第1ステップ)。このとき、第1光ファイバ300に対して、第1レーザ光L1が
図3に示す入射位置P0に入射されるように第1光路変更機構113を駆動させる。具体的には、第1光路変更機構113の第1ピエゾアクチュエータ116の制御電圧をV0とする。このとき、第1レーザ光L1のビームプロファイルは、
図6に示すパターン0となる。また、第1レーザ光L1のパワー密度PDをPD13とする。
【0076】
なお、以降の説明において、レーザ光LBのパワー密度PDをPDxy(x=1または2、y=0,1,2,3のいずれか)と示すことがある。この場合、添字xは、レーザ光LBが第1レーザ光L1であるか第2レーザ光L2であるかを示す。添字yは、パワー密度PDの大小関係を示す。例えば、パワー密度PD10~PD13は、いずれも第1レーザ光L1のパワー密度PDを示し、PD10<PD11<PD12<PD13の関係を満たす。同様に、パワー密度PD20~PD23は、いずれも第2レーザ光L2のパワー密度PDを示し、PD20<PD21<PD22<PD23の関係を満たす。
【0077】
第1ステップでは、第1レーザ光L1が照射された部分Sp1(以下、照射部分Sp1という)の周りには溶融池が形成される。また、
図10に示すように、第1レーザ光L1を溶接方向WDに移動させると、照射部分Sp1の溶接方向WDに沿った後方に、溶接ビード810が形成される。
【0078】
なお、第1レーザ光L1の照射により形成された場合、溶接ビード810A、溶融池820A、キーホール830A(
図13参照)及び予熱部840A(
図15参照)と呼ぶことがある。第2レーザ光L2の照射により形成された場合、溶接ビード810B、溶融池820B、キーホール830B及び予熱部840Bと呼ぶことがある。
【0079】
第1ステップに続けて、溶接線WLに沿って第2レーザ光L2を溶接方向WDに移動させながら、第2レーザ光L2をワーク800に照射する(第2ステップ)。このとき、第2光ファイバ400に対して、第2レーザ光L2が
図3に示す入射位置P1に入射されるように第2光路変更機構213を駆動させる。具体的には、第2光路変更機構213の第2ピエゾアクチュエータ216の制御電圧をV1とする。これにより、第2光路制御部217から第2ピエゾアクチュエータ216に印加する制御電圧Vの大きさに応じて、第2光路変更機構213の傾動範囲が変化し、第2レーザ光L2の第2光ファイバ400への入射位置Pを変化させ、第2レーザ光L2のビームプロファイルを変更することができる。このとき、第2レーザ光L2のビームプロファイルは、
図6に示すパターン1となる。また、第2レーザ光L2のパワー密度PDをPD22(<PD13)とする。また、それぞれ溶接速度Vwが同じになるように、第1レーザ光L1と第2レーザ光L2とが溶接線WLに沿って進行する。
【0080】
この場合、
図10に示すように、第2レーザ光L2が照射された部分Sp2(以下、照射部分Sp2という)の周りには溶融池820Bが形成される。また、
図10に示すように、第1レーザ光L1を溶接方向WDに移動させると、照射部分Sp2の溶接方向WDに沿った後方に、溶接ビード810Bが形成される。
【0081】
図11に示すように、第1ステップでは、ワーク800に溶接ビード810Aが形成される。
図7に示すように、銅からなるワーク800に対して、第1レーザ光L1の光吸収率は、第2レーザ光L2の光吸収率よりも高い。したがって、ワーク800の温度が十分に高い状態でなくても、ワーク800に溶接ビード810Aを確実に形成できる。一方、第1レーザ光L1のパワー密度PDが高くなりすぎると、スパッタ等が生じて溶接ビード810Aの外観を損ねることがある。このため、パワー密度PD13をあまり高めることができず、第1ステップで形成される溶接ビード810Aの幅W1や溶込み深さD1が、それぞれ所望の値W、Dに達しない場合がある。
【0082】
このような場合、本実施形態に示すように、第2ステップで、第1レーザ光L1に続けて第2レーザ光L2をワーク800に照射する。第1ステップで、既にワーク800が加熱されており、第2レーザ光L2もワーク800に十分に吸収される。第2レーザ光L2のビーム径φ及びパワー密度PD22を適切に設定することで、所望の幅Wと溶込み深さDを有する溶接ビード810(810B)をワーク800に形成することができる。
【0083】
なお、
図8に示すように、第2レーザ光L2のビームプロファイルをトップハット形状とすることで、
図6に示すパターン0とする場合に比べてスパッタの発生が抑制される。また、溶接ビード810の掘れ込み等の不良の発生が抑制される。
【0084】
なお、第1レーザ光L1のパワー密度PDを調整するために、例えば、第1レーザ光L1のビームプロファイルを
図6に示すパターン1となるようにしてもよい。このようにすることで、
図8に示す例よりも、第1レーザ光L1のパワー密度PDを低くでき、スパッタの発生をさらに抑制することができる。
【0085】
[効果等]
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ溶接装置1000は、第1レーザ光L1を出射する第1レーザ発振器100と、第2レーザ光L2を出射する第2レーザ発振器200と、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を受け取って、ワーク800に向けて照射するレーザヘッド500と、を少なくとも備えている。第1レーザ光L1の波長は、第2レーザ光L2の波長よりも短い。
【0086】
また、レーザ溶接装置1000は、第1レーザ発振器100からレーザヘッド500まで第1レーザ光L1を伝送する第1光ファイバ300と、第2レーザ発振器200からレーザヘッド500まで第2レーザ光L2を伝送する第2光ファイバ400と、を備えている。
【0087】
レーザヘッド500は、ワーク800に向かう第1レーザ光L1の光路をワーク800に向かう第2レーザ光L2の光路と異ならせるように構成されている。
【0088】
第1レーザ発振器100及び第2レーザ発振器200の少なくとも一方は、レーザヘッド500に入射されるレーザ光LBのビームプロファイルを変更可能に構成されている。
【0089】
レーザ溶接装置1000をこのように構成することで、ワーク800の表面で互いの集光点が異なるようにして、2本のレーザ光L1、L2をワーク800に照射することができる。このことにより、例えば、本実施形態に示すように、光吸収率の高い波長を有する第1レーザ光L1に続けて、大出力の第2レーザ光L2を照射することで、ワーク800に確実に溶接ビード810を形成することができる。また、溶接ビード810の形状、例えば、溶接ビード810の幅や溶込み深さを所望の値とすることができる。
【0090】
また、第2ステップで、レーザヘッド500に入射される第2レーザ光L2のビームプロファイルを変更している。具体的には、第2光路変更機構213を駆動して、第2レーザ光L2のビームプロファイルがトップハット形状になるようにしている。このようにすることで、第2レーザ光L2のパワー密度PDが高くなりすぎるのを抑制し、スパッタ等の発生を低減している。このことにより、外観美観性に優れた溶接ビード810を形成できる。
【0091】
レーザヘッド500は、第1レーザ光L1を平行化する第1コリメートレンズ510と、第2レーザ光L2を平行化する第2コリメートレンズ520と、を有している。また、レーザヘッド500は、第1コリメートレンズ510及び第2コリメートレンズ520を通過した第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を重ね合わせるダイクロイックミラー560(第1光学部材560)と、ダイクロイックミラー560で重ね合わされた第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2をワーク800に向けて集光させるfθレンズ570(第2光学部材570)と、を有している。
【0092】
レーザヘッド500をこのように構成することで、ワーク800の表面に第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2のそれぞれの集光点を位置させることができる。
【0093】
また、レーザヘッド500は、ダイクロイックミラー560に対する第1レーザ光L1の入射位置を調整する第1調整機構540と、ダイクロイックミラー560に対する第2レーザ光L2の入射位置を調整する第2調整機構550と、を有している。
【0094】
第1調整機構540を駆動することで、ワーク800の表面における第1レーザ光L1の集光点を、溶接線WLに沿って、第2レーザ光L2の集光点の前方または後方に移動させることができる。
【0095】
第1レーザ発振器100は、第1レーザ光L1を第1光ファイバ300に入射させる第1光路変更機構113を備えている。
【0096】
第1光ファイバ300は、軸心に設けられた第1コア310と、半径方向で第1コア310の外側にかつ第1コア310と同軸に設けられた第3コア350と、半径方向で第1コア310と第3コア350との間にかつ第1コア310及び第3コア350と同軸に設けられた第2コア330と、を少なくとも有している。
【0097】
第1光路変更機構113は、第1レーザ光L1の光路を変更することで、第1~第3コア310,330,350にそれぞれ入射される第1レーザ光L1の比率を変更するように構成されている。
【0098】
このようにすることで、レーザヘッド500から出射される第1レーザ光L1のビームプロファイルを確実に変更することができる。
【0099】
同様に、第2レーザ発振器200は、第2レーザ光L2を第2光ファイバ400に入射させる第2光路変更機構213を備えている。
【0100】
第2光ファイバ400は、軸心に設けられた第1コア410と、半径方向で第1コア410の外側にかつ第1コア410と同軸に設けられた第3コア450と、半径方向で第1コア410と第3コア450との間にかつ第1コア410及び第3コア450と同軸に設けられた第2コア430と、を少なくとも有している。
【0101】
第2光路変更機構213は、第2レーザ光L2の光路を変更することで、第1~第3コア410,430,450にそれぞれ入射される第2レーザ光L2の比率を変更するように構成されている。
【0102】
このようにすることで、レーザヘッド500から出射される第2レーザ光L2のビームプロファイルを確実に変更することができる。
【0103】
本実施形態に係るレーザ溶接方法は、レーザ溶接装置1000を用いて、以下のステップを実行する。
【0104】
第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2のうちの一方、この場合は、第1レーザ光L1をワーク800の溶接線WL(所定の箇所)に照射する第1ステップと、第1ステップに続けて、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2のうちの他方、この場合は、第2レーザ光L2を溶接線WLに照射する第2ステップと、を少なくとも備えている。
【0105】
第1ステップと第2ステップとで、溶接線WLに照射されるレーザ光LBのパワー密度を異ならせている。
【0106】
このようにすることで、第1ステップでは、ワーク800に溶接ビード810を形成し、第2ステップでは、溶接ビード810の幅及び溶込みを広げている。
【0107】
本実施形態によれば、ワーク800に対して溶接ビード810を確実に形成することができる。また、溶接ビード810の幅及び溶込み深さを所望の値にすることができる。
【0108】
なお、溶接線WLに沿って、第1レーザ光L1を第2レーザ光L2の前方に位置させるか、または後方に位置させるかは、ワーク800の材質や形状、求められる溶接品質等に応じて適宜変更されうる。同様に、レーザヘッド500に入射される第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2のいずれか、または両方のビームプロファイルをどのように変化させるかは、ワーク800の材質や形状、求められる溶接品質等に応じて適宜変更されうる。これらについては実施形態2以降で詳述する。
【0109】
<変形例1>
本変形例では、ワーク800の材質がアルミニウムまたはアルミ系合金である点を除いて、実施形態1に示す構成や方法と同じである。
【0110】
アルミニウムを主たる構成材料として含むワーク800は、通常、その表面に厚い酸化膜が形成されている。この酸化膜を破壊、除去してレーザ溶接を行うために、レーザ光LBのパワー密度PDを上げてワーク800に照射する必要がある。
【0111】
しかし、酸化膜には膜厚むらがあるため、酸化膜の破壊とワーク800の溶接とを同時に行う場合、膜厚むらに起因して溶接ビード810の幅や溶込み深さがばらつくことがある。また、酸化膜圧が薄い部分では、ワーク800への入熱量が大きくなりすぎて、溶融した金属が飛び散り、スパッタとなってワーク800の表面に付着することがある。このようなスパッタは、溶接箇所の外観を損ねる。
【0112】
一方、本変形例によれば、第1ステップで、第1レーザ光L1をワーク800に照射して、ワーク800の表面の酸化膜を破壊、除去する。第1ステップに続けて、第2レーザ光L2をワーク800に照射して、ワーク800に溶接ビード810を形成する。このようにすることで、幅や溶込み深さのばらつきが小さい溶接ビード810を形成することができる。また、スパッタの発生を抑制でき、溶接ビード810の外観を良好なものとすることができる。
【0113】
なお、酸化膜を破壊、除去するために、第1レーザ光L1のビームプロファイルは、ある程度狭める必要がある。一方、第1レーザ光L1の出力があまり大きいと、第1ステップでスパッタが発生するおそれがある。このため、第1ステップにおける第1レーザ光L1のビームプロファイルと出力とは、酸化膜を破壊、除去できる程度の値となるように設定される。
【0114】
また、本変形例では、アルミニウムの酸化膜を破壊、除去する目的で、第1ステップを実行しているが、特にこれに限定されない。例えば、ワーク800の表面を改質してから溶接を行う場合に、本変形例に示すように、第1ステップで、第1レーザ光L1をワーク800に照射し、第1ステップに続けて、第2レーザ光L2をワーク800に照射してもよい。また、この場合、第1レーザ光L1のビームプロファイルと出力とは、表面改質の度合いに応じて、適宜設定される。
【0115】
また、ワーク800の表面改質を目的として、第1ステップで、第2レーザ光L2をワーク800に照射し、第1ステップに続けて、第1レーザ光L1をワーク800に照射してもよい。
【0116】
(実施形態2)
図12は、本実施形態に係るレーザ溶接中のレーザ光のビームプロファイルとパワー密度とピエゾアクチュエータの制御電圧とを模式的に示す。
図13は、レーザ溶接方法を説明する模式図を示す。なお、
図12,13及び以降に示す各図面において、説明の便宜上、実施形態1と同様の箇所については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0117】
本実施形態は、第1ステップで第2レーザ光L2をワーク800に照射し、第2ステップで第1レーザ光L1をワーク800に照射している点で、実施形態1に示すレーザ溶接方法と異なる。また、本実施形態におけるワーク800の材質は鉄またはステンレスである。なお、ワーク800の材質がアルミニウムまたはアルミ系合金であってもよい。
【0118】
具体的には、
図13に示すように、第2レーザ光L2が、溶接線WLに沿って第1レーザ光L1の前方に位置するように、第1調整機構540を駆動している。
【0119】
また、
図12に示すように、第1ステップでは、第2光路変更機構213の第2ピエゾアクチュエータ216の制御電圧をV1に調整して、第2レーザ光L2のビームプロファイルを
図6に示すパターン1(トップハット形状)にしている。一方、第1ステップでは、第1光路変更機構113の第1ピエゾアクチュエータ116の制御電圧をV3に調整して、第1レーザ光L1のビームプロファイルを
図6に示すパターン3にしている。
【0120】
本実施形態では、第1ステップでワーク800に溶接ビード810B(810)を形成している。また、第2ステップで溶接ビード810Bを整形している。具体的には、溶接ビード810Bの表面を軟化させるか、一部溶融して、溶接ビード810Bの表面を均している。
【0121】
ワーク800をレーザ溶接する場合、通常、
図13に示すように、レーザ光LBの照射部分、この場合は第2レーザ光L2の照射部分Sp2の中央でワーク800を構成する金属が蒸発し、ワーク800の表面から内部に向かうキーホール830B(830)が形成される。また、第2レーザ光L2を溶接速度Vwで移動させると、照射部分Sp2の後方に溶融池820B(820)が形成される。溶接池820Bが冷却固化された部分が溶接ビード810Bになる。
【0122】
キーホール830が形成される際、突沸により溶融した金属がワーク800の表面に飛び散ることがある。このような溶融金属がそのまま固化されると、溶接ビード810の表面凹凸が大きくなり、外観を損ねることがある。
【0123】
そこで、本実施形態に示すように、ワーク800に溶接ビード810Bを形成した後、溶接ビード810にパワー密度が低いレーザ光LB、この場合は第1レーザ光L1を照射することで、溶接ビード810Bの表面を均して、外観を良好なものとすることができる。
【0124】
前述したように、第1レーザ光L1は、第2レーザ光L2よりもワーク800に対して光吸収率が高いため、より小さなパワー密度PDで溶接ビード810Bを整形できる。また、第1レーザ光L1は、出力自体が小さく、ビーム径φを広げることで、パワー密度PD10をパワー密度PD22よりも大幅に低下させることができる。したがって、再溶融による溶接ビード810Bの形状崩れを確実に抑制しつつ、溶接ビード810Bを整形して、外観を良好なものとできる。なお、パワー密度PD22は、溶接ビード810Bを形成する場合の第2レーザ光L2のパワー密度である。
【0125】
なお、溶接ビード810Bの表面凹凸が大きい場合は、例えば、第1レーザ光L1のビームプロファイルが、
図6に示すパターン2となるようにしてもよい。その場合のパワー密度PD11は、前述したようにパワー密度PD10よりも高くなる。
【0126】
(実施形態3)
図14は、本実施形態に係るレーザ溶接中のレーザ光のビームプロファイルとパワー密度とピエゾアクチュエータの制御電圧とを模式的に示す。
図15は、レーザ溶接方法を説明する模式図を示す。また、本実施形態におけるワーク800の材質は銅からなる。ワーク800の材質が鉄またはステンレスでであってもよい。また、アルミニウムまたはアルミ系合金であってもよい。
【0127】
本実施形態は、第1ステップにおける第1レーザ光L1のビームプロファイル及びパワー密度PDが、実施形態1に示すレーザ溶接方法と異なる。
【0128】
前述したように、第2レーザ光L2は、銅における反射率が高く、銅からなるワーク800に吸収されにくい。この場合、実施形態1に示すように、まず、銅における反射率が低い第1レーザ光L1をワーク800に照射することで、ワーク800が加熱され、また、溶接ビード810が形成される。
【0129】
しかし、ワーク800の厚さが所定以上に薄い場合、第1ステップで溶接ビード810が形成される程度まで第1レーザ光L1のパワー密度PDが高くなると、続く第2ステップでワーク800の溶落ち等の不良が発生することがある。
【0130】
一方、本実施形態によれば、
図14に示すように、第1ステップにおける第1レーザ光L1のビームプロファイルを
図6に示すパターン3としている。また、パワー密度PDをPD10としている。このようにすることで、第1ステップでは、第1レーザ光L1によりワーク800は加熱されるものの、溶接ビード810が形成されるまでには至らない。つまり、
図15に示すように、第1レーザ光L1の照射部分Sp1の後方では、予熱部840Aが形成される。
【0131】
このように予熱部840Aが形成されることで、ワーク800の温度が上昇し、第2レーザ光L2の反射率が大きく低下する。第1ステップに続けて、第2ステップで第2レーザ光L2がワーク800に照射されると、第2レーザ光L2がワーク800に十分に吸収され、溶接ビード810B(810)が確実に形成される。
【0132】
なお、ワーク800の材質が銅以外の場合にも、本実施形態に示すレーザ溶接方法を適用することで、第2ステップを実行する前のワーク800の温度を高めることができる。このことにより、第2ステップの実行時に、第2レーザ光L2の照射部分Sp2での温度変化幅を低減できる。その結果、幅及び溶込み深さのばらつきが少ない溶接ビード810を形成できる。
【0133】
(実施形態4)
図16は、本実施形態に係るレーザ溶接中のレーザ光のビームプロファイルとパワー密度とピエゾアクチュエータの制御電圧とを模式的に示す。
図17は、レーザ溶接方法を説明する模式図を示す。
【0134】
図16に示すように、本実施形態は、第2ステップに続けて、第1レーザ光L1をワーク800に照射する第3ステップを備える点で、実施形態3に示すレーザ溶接方法と異なる。第3ステップでは、第1レーザ光L1のビームプロファイルを
図6に示すパターン3にしてワーク800に照射することで、実施形態2に示したのと同様に、溶接ビード810Bを整形している。
【0135】
なお、本実施形態では、第1調整機構540を周期的に傾動することで、第1レーザ光L1の照射位置が切り替えられる。具体的には、
図17に示すように、溶接線WLに沿って、第2レーザ光L2の照射部分Sp2の前方に第1レーザ光L1を照射する。その後、第1調整機構540を駆動して、第2レーザ光L2の照射部分Sp2の後方に第1レーザ光L1を照射する。つまり、レーザ溶接装置1000は、第1調整機構540を駆動することで、ワーク800の表面における第1レーザ光L1の集光点を、溶接方向WDに沿って、第2レーザ光L2の集光点を跨いで前方及び後方に周期的に移動させるように構成されている。
【0136】
本実施形態によれば、第2レーザ光L2の光吸収率が低い材質のワーク800に対して、溶接ビード810Bを確実に形成できる。また、溶接ビード810Bの表面を均して、その外観を良好なものとすることができる。なお、第1ステップにおける第1レーザ光L1のビームプロファイルを
図6に示すパターン2とし、パワー密度PDをPD11としてもよい。同様に、第3ステップにおける第1レーザ光L1のビームプロファイルを
図6に示すパターン2とし、パワー密度PDをPD11としてもよい。第2ステップを実行する前に必要なワーク800の温度や第2ステップで形成された溶接ビード810の表面凹凸に応じて、第1レーザ光L1のビームプロファイルやパワー密度PDは、適宜変更されうる。
【0137】
また、ワーク800の材質がアルミニウムまたはアルミ系合金である場合、第1ステップにおける第1レーザ光L1のビームプロファイルを
図6に示すパターン0とし、パワー密度PDをPD13とするのが好ましい。このようにすることで、ワーク800の表面の酸化膜を確実に破壊、除去でき、幅や溶込み深さのばらつきが小さい溶接ビード810B(810)を形成することができる。また、溶接ビード810B(810)の表面を均して、その外観を良好なものとすることができる。
【0138】
(実施形態5)
実施形態1~4において、第1レーザ光L1と第2レーザ光L2の波長が異なる場合、具体的には、第1レーザ光L1が青色レーザ光で、第2レーザ光L2が赤外レーザ光である場合について説明してきた。
【0139】
しかし、本開示のレーザ溶接装置1000及びレーザ溶接方法には、第1レーザ光L1の波長と第2レーザ光L2の波長とが同じである場合も含まれる。
【0140】
本実施形態及び以降に示す各実施形態において、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2が、ともに同じ波長の赤外レーザ光である場合について説明する。
【0141】
図18は、本実施形態に係るレーザ溶接中のレーザ光のビームプロファイルとパワー密度とピエゾアクチュエータの制御電圧とを模式的に示す。
【0142】
本実施形態に示すレーザ溶接方法において、第2ステップで、第1レーザ光L1のビームプロファイルが
図6に示すパターン2であり、パワー密度PDがPD11である点で、実施形態2に示すレーザ溶接方法と異なる。なお、パワー密度PD11は、前述のパワー密度PD10よりも高く、第1ステップにおける第2レーザ光のパワー密度PD22よりも低い。ただし、第2ステップで、第1レーザ光L1のビームプロファイルを
図6に示すパターン3とし、パワー密度PDをPD10としてもよい。
【0143】
本実施形態では、実施形態2に示すのと同様に、第1ステップでワーク800に溶接ビード810を形成している。また、第2ステップで溶接ビード810の表面を均して溶接ビード810を整形している。前述したように、第2レーザ光L2のビームプロファイルをトップハット形状とすることで、スパッタの発生が抑制される。また、溶接ビード810の掘れ込み等の不良の発生が抑制される。
【0144】
また、第2ステップで、溶接ビード810の表面を均すことで、表面粗さが小さく光沢のある美しい外観の溶接ビード810を形成できる。
【0145】
なお、本実施形態に示すレーザ溶接方法は、ワーク800の材質によらず、前述の効果を奏する。特に、ワーク800が、アルミ系合金やマグネシウム合金等の熱伝導率の高い軽金属材料である場合は有効である。
【0146】
例えば、ワーク800の材質がアルミニウムやアルミ合金の場合、熱伝導度が高く、また、溶融後に冷え固まりやすいため、溶融池820の振動、または突沸現象により生じた凹凸が、そのまま溶接ビード810の外観として残りやすい。
【0147】
一方、本実施形態によれば、溶接ビード810を形成した後に、ビームプロファイルを広げ、かつパワー密度PDを低下させて第1レーザ光L1を照射している。このことにより、溶接ビード810の表面凹凸を適切に均して、表面粗さを小さくすることができる。その結果、光沢のある美しい外観の溶接ビード810を形成できる。
【0148】
なお、実施形態2に示すレーザ溶接方法を用いても同様に、熱伝導率の高い軽金属材料からなるワーク800に光沢のある美しい外観の溶接ビード810を形成できることは言うまでもない。
【0149】
なお、本願発明者等の検討により、ワーク800の溶込み深さや溶接ビード810の表面粗さは、ワーク800に照射されるレーザ光LBのエネルギー密度EDと相関関係を有していることがわかった。以下、この点について具体的に説明する。
【実施例0150】
以下に示す条件で板材のワーク800に第1レーザ光L1を照射した。
【0151】
ワーク800の材質:A5052(Mg添加 アルミ系合金)
ワーク800の厚さ:6mm
溶接速度 :3m/min
第1レーザ光L1の出力:5kW
第1レーザ光L1の波長:970nm
また、上記の条件を同じにして、第1光路制御部117から第1ピエゾアクチュエータ116に印加される制御電圧VをV0からV3まで所定の電圧間隔で変化させ、ワーク800に溶接ビード810を形成した。その都度、ワーク800の溶込み深さD及び算術平均表面粗さRa(以下、単に表面粗さRaという)を測定した。その結果を、
図19~21に示す。
【0152】
図19は、本実施例に係るエネルギー密度と溶込み深さとの関係を、
図20は、エネルギー密度と算術平均表面粗さとの関係を、
図21は、溶込み深さと算術平均表面粗さとの関係をそれぞれ示す。
【0153】
図19に示すように、エネルギー密度EDが増加すると、溶込み深さDも単調に増加した。また、
図20に示すように、エネルギー密度EDが増加すると、表面粗さRaも単調に増加した。ただし、溶込み深さDが3mm以上になると、表面粗さRaが測定不能となった(
図21も参照)。これは、溶接ビード810の表面凹凸が大きすぎたためと考えられた。なお、溶込み深さDが3mmとなる場合のエネルギー密度EDは、10,000J/cm
2であった。
【0154】
一方、
図21に示すように、溶込み深さDが3mmになるまでは、溶込み深さDが増加すると、表面粗さRaも単調に増加した。ただし、
図21に示すデータを詳細に分析すると、溶込み深さDが1mm以下の場合は、表面粗さRaが小さく、かつ大きく変化していない。その結果、溶接ビード810の表面は滑らであった(
図21中の下側の写真参照)。一方、溶込み深さDが1mmを超えてくると、表面粗さRaの増加の度合いも大きくなり、また、溶接ビード810の表面で凹凸が大きくなってくるのが確認できた(
図21中の上側の写真参照)。また、
図20から読み取れるように、エネルギー密度EDが6,000J/cm
2以下である場合、表面粗さRaが1μm以下でかつ大きく変化しないことが確認できた。
【0155】
第1ステップで、ワーク800の溶接を確実に行うためには、溶込み深さDを所定値以上にする必要がある。また、第2ステップで、溶接ビード810の外観を滑らかで美しいものにするためには、表面粗さRaを所定値以下にする必要がある。
【0156】
今回の検討から、第1ステップで、ワーク800に照射される第1レーザ光L1のエネルギー密度EDまたは溶込み深さDを所定値以上になるように制御することで、ワーク800に確実に溶接ビード810を形成できることが分かった。また、第2ステップで、第2レーザ光L2のエネルギー密度EDまたは溶込み深さDを所定値以下になるように制御することで、表面粗さが小さく、滑らかで光沢のある美しい外観の溶接ビード810を形成できることが分かった。
【0157】
また、今回の検討で、ワーク800の材質によって、エネルギー密度EDまたは溶込み深さDの好ましい範囲が変動することがわかった。
【0158】
図22は、ワークの材質毎の第1ステップ及び第2ステップにおける好ましいパラメータを示す。
【0159】
図22に示すように、ワーク800の材質が、アルミ系合金、この場合はA5052である場合、第1ステップでは、溶込み深さDを3.0mm以上とするか、または、エネルギー密度EDを10,000J/cm
2以上とすることが好ましいことが分かった。また、第2ステップでは、溶込み深さDを1.0mm以下とするか、または、エネルギー密度EDを6,000J/cm
2以下とすることが好ましいことが分かった。このようにすることで、表面粗さRaが1.0μm以下となり安定した。
【0160】
ワーク800の材質が、ステンレス、この場合はSUS304である場合、第1ステップでは、溶込み深さDを3.0mm以上とするか、または、エネルギー密度EDを6,000J/cm2以上とすることが好ましいことが分かった。また、第2ステップでは、溶込み深さDを2.0mm以下とするか、または、エネルギー密度EDを6,000J/cm2以下とすることが好ましいことが分かった。このようにすることで、表面粗さRaが4.0μm以下となり安定した。
【0161】
ワーク800の材質が、軟鋼である場合、第1ステップでは、溶込み深さDを3.0mm以上とするか、または、エネルギー密度EDを6,000J/cm2以上とすることが好ましいことが分かった。また、第2ステップでは、溶込み深さDを2.0mm以下とするか、または、エネルギー密度EDを6,000J/cm2以下とすることが好ましいことが分かった。このようにすることで、表面粗さRaが4.0μm以下となり安定した。
【0162】
以上をまとめると、本開示のレーザ溶接方法は、以下の構成を備えていてもよい。
【0163】
第1ステップで、ワーク800に溶接ビード810を形成する場合は、ワーク800に照射されるレーザ光LBのエネルギー密度EDを第1の値以上とする。一方、溶接ビード810の形状を整形する場合は、ワーク800に照射されるレーザ光LBのエネルギー密度EDを第1の値よりも低い第2の値以下とする。第1の値及び第2の値は、ワーク800の材質に応じてそれぞれ設定される。
【0164】
また、本開示のレーザ溶接方法は、以下の構成を備えていてもよい。
【0165】
第1ステップで、ワーク800に溶接ビード810を形成する場合は、レーザ光LBを照射した場合のワーク800の溶込み深さDを第3の値以上とする。一方、溶接ビード810の形状を整形する場合は、レーザ光LBを照射した場合のワーク800の溶込み深さDを第3の値よりも小さい第4の値以下とする。第3の値及び第4の値は、ワーク800の材質に応じてそれぞれ設定される。
【0166】
(実施形態6)
本実施形態に示すレーザ溶接方法は、第1レーザ光L1の波長が第2レーザ光L2と同じである点を除いて、実施形態3に示すレーザ溶接方法と同様である。ただし、本実施形態の第1ステップにおける第1レーザ光L1のパワー密度PDが、
図14に示すパワー密度PD10と必ずしも同じでなくてもよい。
【0167】
本実施形態では、実施形態3に示すのと同様に、第1ステップでワーク800を予熱し、第2ステップでワーク800に溶接ビード810を形成している。このようにすることで、実施形態3に示すのと同様に、幅及び溶込み深さのばらつきが少ない溶接ビード810を形成できる。
【0168】
特に、ワーク800が、レーザ溶接中に発生する熱により割れが生じやすい材料、例えば、高張力鋼やクロムモリブデン鋼等の合金鋼や高炭素鋼等の場合、本実施形態に示すレーザ溶接方法は有効である。これについてさらに説明する。
【0169】
本実施形態によれば、第1ステップでワーク800を予熱することにより、第2ステップにおいて、第2レーザ光L2の照射箇所での温度変化の幅を小さくできる。このことにより、ワーク800が溶接中に割れるのを抑制できる。また、溶接後の冷却速度が遅くなることにより、第2レーザ光L2の照射箇所が、マルテンサイトを代表とした硬くて脆い金属組織となることを抑制でき、ワーク800の割れを抑制できる。このことによっても、ワーク800が溶接中に割れるのを抑制できる。
【0170】
なお、ワーク800の材質が、ステンレスやアルミである場合、溶接中に発生するガス等の影響で、ワーク800の内部にブローホールが生じることがある。ブローホールは、ワーク800の内部に形成された空洞状の欠陥である。ブローホールが形成されると溶接強度及び溶接品質が低下してしまう。
【0171】
一方、本実施形態によれば、溶接後の冷却速度を遅くできるため、ブローホールの原因となるガスが溶融池820から外部に排出される時間を長くできる。このことにより、ブローホールの発生を抑制して、溶接強度及び溶接品質の低下を抑制することができる。
【0172】
なお、実施形態3に示すレーザ溶接方法を用いても、本実施形態に示す方法が奏するのと同様の効果を奏することができるのは言うまでもない。つまり、溶接中のワーク800の割れを防止できる。また、ワーク800にマルテンサイトを代表とした硬くて脆い金属組織が形成されるのを抑制できる。ブローホールの発生を抑制して、溶接強度及び溶接品質の低下を抑制できる。
【0173】
<変形例2>
図23は、本変形例に係るレーザ溶接方法を説明する模式図を示し、
図24は、別のレーザ溶接方法を説明する模式図を示す。
【0174】
本変形例では、ワーク800が、第1板材800Aと第2板材800Bとが端面同士で突き合わされた構造の場合を例に取って説明する。また、第1板材800Aは、クロムモリブデン鋼であり、第2板材800Bは、炭素鋼(S25C)である。なお、ワーク800が別の構造、例えば、平板が重ね合わされた構造等であってもよい。
【0175】
本変形例に示すレーザ溶接方法は、第2ステップにおける溶接線WLに対して、第1ステップにおける溶接線WL2を第1板材800A側にずらしている点で、実施形態4や実施形態6に示すレーザ溶接方法と異なる。このことについて、まず、
図23を用いて説明する。なお、
図23,24から明らかなように、第2ステップにおける溶接線WLは、第1板材800Aと第2板材800Bとの境界線を含んでいる。
【0176】
第1板材800Aは、第2板材800Bに比べて、溶接中に割れが生じやすい材料である。したがって、第1ステップにおける溶接線WL2を第2ステップにおける溶接線WLから第1板材800A側にずらすことで、第2ステップにおける温度変化の幅を第2板材800Bよりも第1板材800Aで小さくできる。このことにより、割れを生じやすい第1板材800Aにおいて、溶接中の割れを確実に抑制できる。つまり、ワーク800が溶接中に割れるのを確実に抑制できる。また、溶接後の冷却速度も第2板材800Bよりも第1板材800Aで遅くできる。このことにより、第1板材800Aに、マルテンサイトを代表とした硬くて脆い金属組織が形成されるのを抑制でき、ワーク800の割れを抑制できる。
【0177】
また、第1ステップにおいて、第1レーザ光L1をワーク800に照射する場合、ワーク800の表面はわずかに溶融し、溶融池820(
図23中では示さず)が形成される。続く第2ステップで、溶融状態である溶融池820に第2レーザ光L2が照射されると、前述したブローホール等の欠陥が生じやすい。また、これらの欠陥が生じた状態でワーク800が冷却されることで、ワーク800に割れが生じやすくなる。この傾向が、割れが生じやすい第1板材でより顕著であるのは言うまでもない。
【0178】
そこで、本変形例に示すように、第1ステップにおける溶接線WL2を第2ステップにおける溶接線WLから第1板材800A側にずらすことで、第1板材800Aにおける温度変化の幅を小さくし、また、冷却速度を遅くする。このことにより、ブローホール等の欠陥の発生を抑制し、割れを生じやすい第1板材800Aにおいて、溶接中の割れを確実に抑制できる。つまり、ワーク800が溶接中に割れるのを確実に抑制できる。
【0179】
なお、実施形態4に示すように、第2ステップに続けて、第3ステップでワーク800に第1レーザ光L1を照射するようにしてもよい。この場合、
図24に示すように、第2レーザ光L2の後方に照射される第1レーザ光L1も、溶接線WL2に沿って照射される。つまり、第3ステップにおける溶接線WL2も第2ステップにおける溶接線WLから第1板材800A側にずらすのが好ましい。
【0180】
このように第3ステップを設け、さらに溶接線WL2を溶接線WLから第1板材800A側にずらすことで、溶接ビード810が形成された後の第1板材800Aの温度変化の幅を小さくすることができる。また、溶接後の第1板材800Aの冷却速度を第2板材800Bの冷却速度よりも遅くすることができる。このことにより、割れを生じやすい第1板材800Aにおいて、溶接中の割れを確実に抑制できる。つまり、ワーク800が溶接中に割れるのを確実に抑制できる。また、第1板材800Aに、マルテンサイトを代表とした硬くて脆い金属組織が形成されるのを抑制でき、ワーク800の割れを抑制できる。
【0181】
(実施形態7)
図25は、本実施形態に係るレーザ溶接方法を説明する模式図を示す。
図26Aは、第1ステップにおける第1レーザ光のビームプロファイルの変化を模式的に示す。
図26Bは、第2ステップにおける第2レーザ光のビームプロファイルを模式的に示す。
【0182】
本実施形態に示すレーザ溶接方法は、第1ステップにおいて、ビームプロファイルを周期的に変化させながら、溶接線WLに沿って第1レーザ光L1をワーク800に照射している点で、実施形態1~6に示すレーザ溶接方法と異なる。このことについてさらに説明する。
【0183】
図25に示すように、第2ステップでワーク800に照射される第2レーザ光L2は、ビームプロファイルが一定であり、
図26Bに示すパターン2(
図6参照)となるように、第2光路変更機構213により、第1光ファイバ300への入射位置Pが調整されている。
【0184】
一方、第1ステップでワーク800に照射される第1レーザ光L1は、溶接線WLに沿って第2レーザ光L2の前方に照射される。また、第1レーザ光L1は、周波数fでビームプロファイルが周期的に変化している。具体的には、
図26Aに示すように、ビームプロファイルがパターン0(
図6参照)からパターン2(
図6参照)へ、また、パターン0へと周期的に変化するように、第1光路変更機構113が駆動される。なお、本実施形態における周波数fは、200Hz程度であるが、特にこれに限定されず、適宜変更しうる。
【0185】
例えば、ワーク800が、赤外レーザ光に対する反射率の高いアルミニウムやアルミ系合金である場合、前述したように、表面に形成された酸化膜を破壊、除去することで、幅や溶込みのばらつきが少ない溶接ビード810を形成できる。
【0186】
本実施形態によれば、第1ステップにおいて、ビームプロファイルがパターン0である第1レーザ光L1を照射している期間で、表面の酸化膜の破壊、除去を行っている。また、ビームプロファイルがパターン2である第1レーザ光L1を照射している期間で、ワーク800に溶接ビード810を形成している。つまり、第1ステップにおいて、ワーク800の表面改質と溶接とを同時に行っている。このことにより、幅や溶込みのばらつきが少ない溶接ビード810を形成できる。
【0187】
また、第2ステップでは、第1ステップにおける第1レーザ光L1のビームプロファイルのうち、幅の広いパターン2に合わせて、第2レーザ光L2のビームプロファイルを制御している。このようにすることで、第1ステップで形成された溶接ビード810の幅を大きく変えることがない。また、パワー密度PDも一定であるため、最終的に形成される溶接ビード810の溶込み深さのばらつきを小さくできる。さらに、第2ステップにおいて、第1ステップで形成された溶接ビード810の表面が均されるため、良好な美観を有する溶接ビード810を形成できる。
【0188】
(その他の実施形態)
実施形態1~7及び変形例1,2に示す各構成要素を適宜組み合わせて、新たな実施形態とすることもできる。例えば、実施形態3に示すレーザ溶接方法において、ワーク800の構造等に応じて、実施形態6に示すように、第2ステップでの溶接線WL2を第2ステップでの溶接線WLとずらすようにしてもよい。
【0189】
また、本願明細書では、第1光ファイバ300が、第1~第3コア310,330,350を有する、いわゆる3層コア構造を例に取って説明したが、特にこれに限定されず、2層以上のコアを有していればよい。
【0190】
例えば、
図27に示すように、第1光ファイバ300が第1コア310と第3コア350を有するか、あるいは第1コア310と第2コア330を有する構造であってもよい。この場合も、第1光路変更機構113により第1レーザ光L1の第1光ファイバ300への入射位置Pを変更することで、第1レーザ光L1の出力に対する第1コア310に入射される第1レーザ光L1の比率を変化させることができる。このことにより、本開示のレーザ溶接方法の各ステップで、ワーク800に対して第1レーザ光L1による所望の処理を行うことができる。また、図示しないが、第2光ファイバ400が第1コア410と第3コア450を有するか、あるいは第1コア410と第2コア430を有する構造であってもよいことは言うまでもない。
【0191】
なお、本願明細書では、第1調整機構540を駆動することで、ワーク800の表面における第1レーザ光L1の集光点を、溶接線WLに沿って、第2レーザ光L2の集光点の前方または後方に移動させるようにしたが、特にこれに限られない。第2調整機構550または第1調整機構540及び第2調整機構550の両方を駆動することで、ワーク800の表面における第1レーザ光L1の集光点を、溶接線WLに沿って、第2レーザ光L2の集光点の前方または後方に移動させるようにしてもよい。
【0192】
また、第1レーザ光L1または第2レーザ光L2のいずれかで、ビームプロファイルが固定されて使用される場合は、第1光路変更機構113または第2光路変更機構213のいずれかが省略されてもよい。
【0193】
なお、第1ピエゾアクチュエータ116及び第2ピエゾアクチュエータ216の代わりに別のアクチュエータ、例えば、ステッピングモータを用いてもよい。