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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112745
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】生分解性積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20230807BHJP
【FI】
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014636
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】594050821
【氏名又は名称】日生化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(74)【代理人】
【氏名又は名称】田中 政浩
(72)【発明者】
【氏名】赤松 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】河野 博
(72)【発明者】
【氏名】田中 良和
(72)【発明者】
【氏名】荒井 克浩
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100BA02
4F100EH20
4F100GB15
4F100JC00
4F100JL12
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】生分解性樹脂から成り環境汚染の問題がなく、腰があり、破れにくく、ヒートシール強度が高く、粘り強く、ラミ加工が可能な積層フィルムを提供する。
【解決手段】上記課題は、ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンアジペートテレフタレートを主成分とする層とポリブチレンサクシネートアジペートを主成分とする層よりなる溶着積層フィルムによって解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンアジペートテレフタレートを主成分とする層とポリブチレンサクシネートアジペートを主成分とする層よりなる溶着積層フィルム
【請求項2】
ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンアジペートテレフタレートを主成分とする層が、ポリブチレンサクシネートを主成分とする層である請求項1記載の溶着積層フィルム
【請求項3】
ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンアジペートテレフタレートを主成分とする層が、ポリブチレンアジペートテレフタレートを主成分とする層である請求項1記載の溶着積層フィルム
【請求項4】
溶着積層フィルムが共押出積層フィルムである請求項1ないし3のいずれかに記載の溶着積層フィルム
【請求項5】
ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンアジペートテレフタレートを主成分とする層の厚さが10~45μmであり、ポリブチレンサクシネートアジペートを主成分とする層の厚さが10~55μmであり、全体の厚さが20~100μmである請求項1ないし4のいずれかに記載の溶着積層フィルム
【請求項6】
ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンアジペートテレフタレートを主成分とする層と、ポリブチレンサクシネートアジペートを主成分とする層をインフレーション押出成形機を用いてインフレーションフィルムを製造することを特徴とする請求項1記載の溶着積層フィルムの製造方法
【請求項7】
ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンアジペートテレフタレートを主成分とする層を内面とし、ポリブチレンサクシネートアジペートを主成分とする層を外面とする請求項6記載の溶着積層フィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂である、ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンアジペートテレフタレートを主成分とする層とポリブチレンサクシネートアジペートを主成分とする層を溶着して積層した積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは包装材料をはじめ幅広い分野で多量に使用されているが、そのほとんどは生分解性がなく、地球の環境汚染の大きな問題となっており、近年、生分解性があって環境汚染の問題がないプラスチックの開発が盛んに行われている。そのなかには、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族ポリエステルも含まれている。
【0003】
プラスチックフィルムの成形方法としては、Tダイ法に比べて設備費が安価ですむインフレーション法が普及しているが、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステルは溶融張力が小さいためバブルの形状が変動しやすいという欠点があった。これを特許文献1では、まず、線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンをまず押出機に供給して製膜を開始し、これを脂肪族ポリエステルに変えていくことによってバブルを安定させてこの問題を解決している。
【0004】
また、積層フィルムとしては、特許文献2に、ポリブチレンサクシネートを主成分とする基材層をポリブチレンサクシネート50~90重量部とポリエチレン系樹脂10~50重量部からなる混合樹脂を主成分とするシール層からなる共押出積層フィルムが開示されている。この共押出積層フィルムは、ポリ乳酸等からなる容器の蓋材として使用する際に、ポリブチレンサクシネート単独ではヒートシール強度が強くなりすぎてイージーピール性を確保できないので、これにポリエチレン系樹脂を適量配合することによってイージーピール性が得られるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3655625号公報
【特許文献2】特開2007-223201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、包装材料等として生分解性に優れた樹脂としてポリブチレンサクシネートに着目したが、ポリブチレンサクシネートフィルムは腰があり、ラミ加工が可能である等の長所があったが、破れやすく、また、ヒートシール部がエッジ切れを起すなどして、そのままでは包装材料として使用しにくいことが分った。そこで、類縁の生分解性樹脂であるポリブチレンサクシネートアジペートとポリブチレンアジペートテレフタレートについて検討したところ、ポリブチレンサクシネートアジペートフィルムは破れにくいものであったが、ヒートシール強度が低く、また、伸び易く、ラミ加工性が欠けている等の問題があった。ポリブチレンアジペートテレフタレートフィルムも破れにくく、また腰があり、ラミ加工が可能であるものであったが、ヒートシール強度はあまり高くなかった。
【0007】
本発明の目的は、生分解性樹脂から成り環境汚染の問題がなく、腰があり、破れにくく、ヒートシール強度が高く、粘り強く、ラミ加工が可能な積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を進め、ポリブチレンサクシネート(PBS)とポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)を共押出ししたところ、この共押出フィルムは、腰があって、破れにくいばかりでなく、ヒートシール強度も良好であることを見出した。このヒートシール強度については、PBSAの融点がPBSより低く、PBSA層が先に融解するので、これをヒートシール層とせざるを得ない。このPBSAは単層フィルムではヒートシール強度が弱かったが、驚くべきことに、これを共押出フィルムの層にすることによってヒートシール強度が高くなることを見出した。これは、PBSにPBSAを積層することによって、ヒートシールの際にPBS層がPBSAを支えてPBSA層同士の融解性が高まって両層がよく一体化されるためであると考えられる。このPBSとPBSAの共押出フィルムは、さらに粘り強く、成形に有利でありラミ加工も可能であった。これは、PBSA(例えばTm84℃)により、積層時(ダイ出口)PBS(例えばTm115℃)の温度が急激に下げられるため、成形に有利となったと考えられる。
【0009】
そして、さらにPBSに変えてポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)とPBSAを共押出ししたところ、この共押出フィルムはPBS/PBSA共押出フィルムより衝撃強度、ヒートシール強度において、さらに優れていることを見出した。これは、PBATがPBSよりも溶融弾性が大きいことによる。
【0010】
PBS/PBSAとPBAT/PBSA共押出フィルムは、層間の溶着が可能で接着層を必要としない。従って、両層の共押出ばかりではなく、押出ラミネートで形成した積層フィルムであってもよい。
【0011】
本発明は、これらの知見によって達成されたものであり、ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンアジペートテレフタレートを主成分とする層とポリブチレンサクシネートアジペートを主成分とする層よりなる溶着積層フィルムを提供するものである。
【0012】
上記の積層フィルムにおいて、ポリブチレンアジペートテレフタレートフィルムはポリブチレンサクシネートフィルムより引張弾性率が低いので、上記の積層フィルムにおいてポリブチレンサクシネートフィルムを用いることにより引張弾性率も良好な積層フィルムになる。
【0013】
そこで、本発明は、ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンアジペートテレフタレートを主成分とする層が、ポリブチレンサクシネートを主成分とする層である上記の溶着積層フィルムを提供するものでもある。
【0014】
一方、上記の積層フィルムにおいて、ポリブチレンサクシネートフィルムはポリブチレンアジペートテレフタレートフィルムより衝撃強度が低いので、上記
の積層フィルムにおいて、ポリブチレンアジペートテレフタレートフィルムを用いることにより、衝撃強度も高い積層フィルムになる。また、ポリブチレンアジペートテレフタレートは、ポリブチレンサクシネートより溶融弾性が大きく、当該層への熱によるダメージが少なく、全体的に良好な積層フィルムが得られる。
【0015】
そこで、本発明は、ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンアジペートテレフタレートを主成分とする層が、ポリブチレンアジペートテレフタレートを主成分とする層である上記の溶着積層フィルムを提供するものでもある。
【0016】
ポリブチレンサクシネートは溶融張力が低く、一般的にインフレーション法による製膜は容易でないが、積層フィルムでは、フィルムが溶着するダイ出口において、ポリブチレンサクシネート(例えばTm115℃)の樹脂温度が、ポリブチレンサクシネートアジぺート(例えばTm84℃)の低い樹脂温度により急激に下げられてより安定したインフレーション法による製膜を可能としている。
【0017】
そこで、本発明は、溶着積層フィルムが共押出積層フィルムである上記の溶着積層フィルムを提供するものでもある。これらの積層フィルムにおいて、各層のフィルムの優位性を持たせるためには、各層の厚みを10μm以上に、好ましくは15μm以上にするとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の積層フィルムは、生分解性樹脂から成り環境汚染の問題がなく、腰があって、破れにくく、ヒートシール強度が高く、粘り強く、ラミ加工が可能であるという優れた物性を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のポリブチレンサクシネート(PBS)またはポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)を主成分とする層は、PBS、PBATもしくは両者の混合物を主成分とする層又はPBSを主成分とする層とPBATを主成分とする層の組合せからなるものである。
【0020】
PBSはコハク酸と、1、4-ブタンジオールの共重合体であり、融点が100~130℃程度、好ましくは110~120℃程度で、MFRが2~8g/10分程度、好ましくは3~6g/10分程度のものが好ましい。
【0021】
PBATはアジビン酸とテレフタル酸と1、4-ブタンジオールのランダム共重合体であり、アジビン酸とテレフタル酸のモル比は100:5~200程度である。融点が100~130℃程度、好ましくは110~120℃程度で、MFRが2~8g/10分程度、好ましくは2~5g/10分程度のものが好ましい。
【0022】
PBSとPBATの混合物を主成分とする場合の混合比は問わないが、PBSの特性を望む場合はPBSの割合を多くし、PBATの特性を望む場合はPBATの割合を多くする。
【0023】
このPBS又はPBATを主成分とする層の厚さは、10~45μm程度、好ましくは15~40μm程度が適当である。ここで、これらのフィルムが10μm程度以下では、フィルムの持つ特徴が大きく損じられ、また、45μm程度以上では、生産性が大幅に損じられフィルムコスト面でも問題である。
【0024】
ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)はコハク酸とアジビン酸と1、4-ブタンジオールの共重合体であり、コハク酸とアジビン酸と1、4&#8212;ブタンジオールのモル比は、単量体単位全体を基準100モル%とした場合、コハク酸30~60モル%:アジピン酸0.5~20モル%:1、4&#8212;ブタンジオール30~60モル%程度である。融点は70~90℃程度、好ましくは80~90℃程度で、PBS又はPBATの融点との差が10~50℃程度であり、MFRが2~6g/10分程度、好ましくは3~5g/10分のものが好ましい。
【0025】
このPBSAを主成分とする層の厚さは10~55μm程度、好ましくは15~40μm程度で、PBS又はPBATの主成分とする層の厚さの比が55:10~10:45程度、好ましくは40:15~15:40程度が適当である。
【0026】
PBS又はPBAT層とPBSA層を合わせた全体の厚さは20~100μm程度、好ましくは30~80μm程度が適当である。
【0027】
PBS又はPBATを主成分とする層とPBSAを主成分とする層における、PBS、PBAT又はPBSAの含有量は、本発明におけるこれらの樹脂がその機能を発揮できればよく、60重量%以上、通常70重量%以上である。これらの層におけるその他の成分としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリヒドロキシン酪酸などの生分解性樹脂、他には顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、可塑剤、光安定剤、発泡剤、核剤、滑剤、帯電防止剤、難燃化剤などを必要に応じて配合することができる。
【0028】
本発明の積層フィルムは、腰があり、破れにくく、ヒートシール強度が高く、粘り強く、ラミ加工が可能である等の優れた利点を有するものである。すなわち、本発明の積層フィルムを構成するフィルムは、基本的には脂肪族ポリエステルで個々のフィルムは、各フィルムの持つメリット、デメリットを補い合い、腰のある(引張弾性率)、破れにくい(衝撃強度)、ねばり強い(引張伸度)、ラミ加工の改善された実用においてバランスの良いフィルムを可能とした。
【0029】
本発明の積層フィルムの製造方法は、PBS又はPBATを主成分とする層とPBSAを主成分とする層を、接着性樹脂等は用いずに、直接溶着により積層できる方法であればよく、インフレーションやTダイによる共押出フィルム製造装置を用いる方法の外、押出ラミネート装置でPBS又はPBATフィルムにPBSAを押出しラミネートし、あるいは、逆にPBSAフィルムにPBS又はPBATを押出しラミネートしてもよい。
【0030】
尚、特許文献1で指摘されているように、PBSは溶融張力が小さく、インフレーション法で製膜するのは容易ではないが、これをPBSAと共押出しすることによって、ダイ出口におけるPBSの樹脂温度が、低い樹脂温度のPBSAに接することにより急激に下げられ、その結果、溶融張力が改善されて安定したバブル成形を可能としている。また、PBATにおいても同じことが言え、安定したバブル成形を可能としている。
【0031】
製造条件は、それぞれの樹脂について公知の条件で行えばよい。内面、外面のフィルムに特定はされないが、ブロッキング問題等より成形温度の低いPBSAを外面に用いることが好ましい。
【0032】
本発明の積層フィルムは、PBSAを主成分とする層をシーラント層として、特徴として生分解性樹脂から成る包材で一般シール包材の他、ガゼット袋等に幅広く利用することができる。
【実施例0033】
下記の樹脂とインフレーション押出成形機を用いて、2層共押出インフレーションフィルムを製造した。
【0034】
使用樹脂
PBS :BioPBS FZ91(三菱化学)
密度 1.26g/cm MFR 5g/10min
Tm(融点) 115℃
PBSA:BioPBS FD92(三菱化学)
密度 1.24g/cm MFR 4g/10min
Tm 84℃
PBAT:エコフレックス(BASF)
密度 1.25~1.27g/cm
MFR 2.5~4.5g/10min
Tm 110~120℃
【0035】
インフレーション押出成形機
内面押出機(トミー機械工業) スクリュー外径 50mmΦ
外面押出機(トミー機械工業) スクリュー外径 50mmΦ
サーキュラーダイ(トミー機械工業) 2種2層ダイ
ダイクリップ直径 200mmΦ
バブル冷却装置(トミー機械工業) エアーリング
【0036】
フィルムの構成は、実施例1では内面PBSで外面PBSA、実施例2では内面PBATで外面PBSA、比較例1では内面外面共PBSで、比較例2では内面外面共PBSA、比較例3では内面外面共PBATで、厚みは各層共30μ
m、全厚60μmとした。
【0037】
得られた各フィルムについて下記の物性値を測定した。
引張強度:JIS K7127に準拠 引張速度50mm/分
引張伸度:同上
引張弾性率:同上
衝撃強度:ASTM D
3420に準拠
最大ヒートシール強度:JIS Z0238に準拠 シール時間1秒
シール荷重0.2MPa
得られた結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の積層フィルムは、生分解性樹脂から成り環境汚染の問題がなく、強度に優れ、ヒートシール性も良好であるので、包装材料として幅広く利用できる。