(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112752
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】電極チップ整形装置
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20230807BHJP
【FI】
B23K11/30 350
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014649
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】313015100
【氏名又は名称】OBARA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】近川 博
(72)【発明者】
【氏名】関口 智彦
(72)【発明者】
【氏名】野村 浩二
(72)【発明者】
【氏名】福井 康佑
(57)【要約】
【課題】電極チップの整形品質の安定化を図ることが可能な電極チップ整形装置を提供する。
【解決手段】電極チップの先端を塑性変形させて整形する電極チップ整形装置に対し、電極チップの先端の整形時における電動モータの負荷電流を監視する。この負荷電流が第1の負荷電流以上となった場合には、整形加圧力を増加させる(ステップST1、ST2)。これにより、電極チップの先端の整形が良好に行われる。また、電動モータの負荷電流が更に上昇して第2の負荷電流以上となった場合には、電極チップの先端と整形工具の加工面との間に向けて潤滑剤を供給する(ステップST3、ST4)。これにより、電極チップの先端と整形工具の加工面との間の摩擦抵抗が減少し、負荷電流が電動モータの許容負荷電流を超えてしまうことを防止できる。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極チップの先端を整形するための整形工具と、該整形工具を回転させる電動モータと、前記電極チップの先端を前記整形工具の加工面に向けて加圧する加圧手段とを備え、前記電極チップの先端を前記整形工具の加工面に向けて加圧すると共に当該整形工具を回転させることによって前記電極チップの先端を塑性変形させて整形する電極チップ整形装置において、
前記電極チップの先端の整形時における前記電動モータの負荷電流、または、前記電極チップの先端の摩耗量の積算値を、整形動作変更のためのパラメータとして監視する監視部と、
前記監視部によって監視されている前記パラメータが所定値以上となった場合に、前記加圧手段による加圧力を増加させる加圧力設定部と、
前記電極チップの先端と前記整形工具の加工面との間に向けて潤滑剤を供給する潤滑剤供給手段と、を備えていることを特徴とする電極チップ整形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極チップ整形装置に係る。特に、本発明は、電極チップの整形品質の安定化を図るための対策に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の金属板を互いに接合する手段として抵抗スポット溶接が利用されている。この抵抗スポット溶接は、一対の電極チップで複数の金属板(被溶接材)を挟持しながら通電を行い、金属板自身の電気抵抗等により発生するジュール熱を利用して金属板同士を溶融させて接合するものである。
【0003】
電極チップの先端(以下、単に電極チップ先端という場合もある)は、溶接を繰り返すに従って摩耗や変形が生じる。この電極チップ先端の摩耗や変形によって電極チップの先端面が大きくなった場合には、溶接電流が変化して(例えば電流密度が低くなり)溶接品質が低下してしまう。このため、例えば特許文献1に開示されているように、電極チップ先端の形状を所定形状に整形するための電極チップ整形装置が使用されている。
【0004】
特許文献1に開示されている電極チップ整形装置にあっては、電極チップ先端を整形工具に嵌合させ、電動モータによって、整形工具を電極チップの軸心回りに回転させると共に、電極チップを軸心方向に沿って整形工具に向けて加圧することにより、電極チップ先端と整形工具とを相対移動させて電極チップ先端を整形している。また、この特許文献1には、整形工具の整形回転数を段階的に増加させ、電極チップの加圧力を整形回転数の増加に同期して増加させることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、抵抗スポット溶接(以下、単にスポット溶接という場合もある)と電極チップ先端の整形(以下、電極チップの整形という場合もある)とを繰り返していった場合、電極チップ先端と整形工具との接触状態が変化していく。つまり、整形時に電極チップ先端の余肉が側面に向けて流れることで電極チップと整形工具との接触面積が増加し(例えば電極チップの側面も整形工具に接触する状態となり)、それに起因して電極チップの整形不良を招いてしまったり電動モータに過負荷異常が生じてしまったりする可能性があった。このため、電極チップの整形品質の安定化を図る上において改良の余地があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電極チップの整形品質の安定化を図ることが可能な電極チップ整形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、電極チップの先端を整形するための整形工具と、該整形工具を回転させる電動モータと、前記電極チップの先端を前記整形工具の加工面に向けて加圧する加圧手段とを備え、前記電極チップの先端を前記整形工具の加工面に向けて加圧すると共に当該整形工具を回転させることによって前記電極チップの先端を塑性変形させて整形する電極チップ整形装置を前提とする。そして、この電極チップ整形装置は、前記電極チップの先端の整形時における前記電動モータの負荷電流、または、前記電極チップの先端の摩耗量の積算値を、整形動作変更のためのパラメータとして監視する監視部と、前記監視部によって監視されている前記パラメータが所定値以上となった場合に、前記加圧手段による加圧力を増加させる加圧力設定部と、前記電極チップの先端と前記整形工具の加工面との間に向けて潤滑剤を供給する潤滑剤供給手段とを備えていることを特徴とする。
【0009】
この特定事項により、スポット溶接後に行われる電極チップの先端の整形時にあっては、電極チップの先端を整形工具の加工面に向けて加圧すると共に当該整形工具を回転させることによって電極チップの先端を塑性変形させることになる。そして、スポット溶接と電極チップの先端の整形とを繰り返していった場合、電極チップの先端と整形工具との接触状態が変化していく(例えば、電極チップの側面も整形工具に接触する状態となる)ことに起因して電極チップの先端の整形時における電動モータの負荷電流が増加していく。または、スポット溶接と電極チップの先端の整形との繰り返しによって電極チップの先端の摩耗量が増加していく。監視部は、電動モータの負荷電流または電極チップの先端の摩耗量の積算値といった整形動作変更のためのパラメータを監視しており、該パラメータが所定値以上となった場合には、加圧力設定部が、加圧手段による加圧力を増加させる。つまり、電極チップの先端を整形工具の加工面に向けて加圧する加圧力を増加させる。これにより、電極チップの先端と整形工具の加工面とを確実に接触させることが可能となり整形が良好に行われることになる(電極チップの先端が整形工具の加工面に沿うように適正に整形される)。また、このように加圧力を増加させた場合、負荷電流が更に上昇してしまう可能性があり、電動モータの許容負荷電流を超えてしまう虞があるが、潤滑剤供給手段によって電極チップの先端と整形工具の加工面との間に向けて潤滑剤が供給されることにより、両者間の摩擦抵抗が減少し、負荷電流が許容負荷電流を超えてしまうことを防止できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、電極チップの先端を、回転する整形工具の加工面に向けて加圧することで整形する電極チップ整形装置に対し、電動モータの負荷電流または電極チップの先端の摩耗量の積算値といった整形動作変更のためのパラメータを監視し、該パラメータが所定値以上となった場合には、電極チップの先端を整形工具の加工面に向けて加圧する加圧力を増加させるようにしている。また、電極チップの先端と整形工具の加工面との間に向けて潤滑剤を供給するようにしている。これにより、電極チップの先端の整形を良好に行うことができ、電極チップの整形品質の安定化を図ることができる。また、電動モータの負荷電流が許容負荷電流を超えてしまうことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る抵抗スポット溶接装置の溶接ガンの概略構成図である。
【
図2】制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】上側電極の電極チップを下側から見た斜視図である。
【
図5】実施形態に係る電極チップ整形装置の構成および電極チップの整形動作を説明するための概略図である。
【
図6】整形工具の上側加工面の周辺を示す斜視図である。
【
図7】整形工具の各加工面に対して各電極チップが加圧された状態を示す図である。
【
図8】
図7におけるVIII-VIII線に沿った断面図である。
【
図9】
図7におけるIX-IX線に沿った断面図である。
【
図10】スポット溶接および整形動作による電極チップ先端の変化を説明するための断面図である。
【
図11】電極チップ整形動作の手順を示すフローチャート図である。
【
図12】電極チップの整形が繰り返された場合における電動モータの負荷電流および整形加圧力の推移、潤滑剤供給タイミングを示す図である。
【
図13】電極チップの整形が繰り返された場合の電極チップ先端の表面状態の変化量の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、複数枚の鉄製またはアルミニウム合金製の板材同士の抵抗スポット溶接(以下、単に溶接という場合もある)を行う抵抗スポット溶接装置に使用される電極チップを整形するための電極チップ整形装置として本発明を適用した場合について説明する。また、本実施形態では、本発明でいう「整形動作変更のためのパラメータ」を電動モータの負荷電流とした場合について説明する。
【0013】
-抵抗スポット溶接装置の構成-
電極チップ整形装置について説明する前に、抵抗スポット溶接装置の構成について説明する。
【0014】
図1は本実施形態に係る抵抗スポット溶接装置の溶接ガンGを示す概略構成図である。また、
図2は、溶接ガンGの制御および後述する電極チップの整形動作(整形制御)に用いる制御装置10の概略構成を示すブロック図である。
【0015】
溶接ガンGは、ロボットアームRAに保持されたガン本体1と、上側電極2と、ガン本体1の下部1aに立設された下側電極3と、上側電極2を保持して昇降させる電動式の上側電極昇降装置(以下、単に電極昇降装置という)4と、電極位置検出装置5と、上側電極2と下側電極3との間に流す溶接電流値(以下、単に電流値という場合もある)を調整する電流調整装置6とを主要構成要素として構成されている。また、各電極2,3の先端部には、後述する電極チップ整形装置100(
図5を参照)によって整形される電極チップ21,31(以下、上側電極2の電極チップ21を上側電極チップ21と呼び、下側電極3の電極チップ31を下側電極チップ31と呼ぶ場合もある)が備えられている。なお、
図1において、W1,W2は金属製板材(鉄製板材またはアルミニウム合金製板材)である。
【0016】
ガン本体1は、
図1に示すように、概略コ字状の部材とされ、その下部1aの上面に下側電極3が着脱自在に立設されている。また、ガン本体1の上部1bの先端には、電極昇降装置4が装着されている。
【0017】
電極昇降装置4は、ガン本体1の上部1bの先端に装着されているサーボ電動モータ41と、このサーボ電動モータ41の駆動軸(図示省略)と結合している昇降部材42とを備えており、この昇降部材42の下端部42aに上側電極2が着脱自在に装着されている。この電極昇降装置4が本発明における加圧手段に相当する。
【0018】
電極位置検出装置5は、例えばエンコーダによって構成され、前記サーボ電動モータ41の上端部41aに装着されている。そして、その検出値は制御装置10へ送信される。
【0019】
電流調整装置6は、制御装置10から送信される電流指令値に応じて上側電極2と下側電極3との間に流す電流値を調整するものである。この電流調整装置6としては、例えば可変抵抗器を備えたものやコンバータを備えたもの等の周知の装置が適用される。
【0020】
制御装置10は、溶接ガンGの制御や図示しない溶接ロボットの制御(ロボットアームRAの各関節の回転角度等の制御)を行うものであって、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、制御プログラムを記憶するROM(Read-Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random-Access Memory)、および、入出力ポート等を備えている。
図2に示すように、制御装置10は、前記制御プログラムによって実現される機能部として、入力部11、電極位置算出部12、電流値算出部13、加圧力設定部14、ロボットアーム制御部15、および、出力部16を備えている。また、この制御装置10は、各電極チップ21,31の整形動作時に作動する機能部として監視部17も備えている。
【0021】
入力部11は、金属製板材W1,W2の板厚等を入力する入力装置7からの情報を取得する。電極位置算出部12は、電極位置検出装置5の検出値により電極位置を算出する。電流値算出部13は、上側電極2と下側電極3との間に通電を行う際の電流値を算出する。加圧力設定部14は、溶接に必要な加圧力(上側電極2と下側電極3とによる金属製板材W1,W2への加圧力)を設定する。なお、この加圧力設定部14は、後述する各電極チップ21,31の整形時における整形工具110(
図5を参照)に対する各電極チップ21,31の加圧力も設定する。ロボットアーム制御部15は、ロボットアームRAの各関節の回転角度等の制御を行うものであって、予めティーチングによって、スポット溶接時における溶接ガンGの位置や姿勢、および、各電極チップ21,31の整形時における溶接ガンGの位置や姿勢の情報が記憶され、該情報に従ってロボットアームRAの制御を行う。出力部16は、前記電流値算出部13で算出された電流値の情報、加圧力設定部14で設定された加圧力の情報、および、ロボットアーム制御部15からのロボットアームRAの各関節の回転角度等の指示情報を出力する。また、RAMには電極位置検出装置5からの検出値や板厚等の情報が一時的に格納される。なお、制御装置10のその他の構成は、従来より溶接ガンGについて用いられているものと同様であるので、その詳細な説明は省略する。また、制御装置10における機能部のうち各電極チップ21,31の整形動作に係わる機能部(監視部17)については後述する。
【0022】
図3は上側電極2の上側電極チップ21を下側から見た斜視図である。この上側電極チップ21は、Cu-Cr、Cu-Cr-Zr等の銅合金や、Al
2O
3等の硬質物質を分散させた銅材によって構成されている。
図3に示すように、上側電極チップ21は、略円柱形状の部材であって、金属製板材W1,W2を挟持するための先端(先端の表面)の形状としては所定の半径を有する円形の平坦面(または僅かに凸形状となった曲面)となっている。なお、下側電極3の下側電極チップ31も同様の構成となっている。
【0023】
図4は上側電極チップ21の側面図である。この
図4における寸法φaが上側電極チップ21の先端面の径寸法であり、溶接品質を良好に得るためには、この先端面の寸法(径寸法)φaが安定的に得られている必要がある。同様に、下側電極チップ31の先端面の径寸法も安定的に得られている必要がある。各電極チップ21,31の先端面の径寸法は溶接時の目標ナゲット径に応じて予め設定されるものである。この先端面の径寸法を安定的に得るための各電極チップ21,31の先端の整形が、後述する電極チップ整形装置100による整形動作によって行われるようになっている。
【0024】
従来より、溶接を繰り返すに従って電極チップ先端の摩耗や変形によって電極チップの先端面が大きくなった場合には、溶接電流が変化して(例えば電流密度が低くなり)溶接品質が低下してしまうため、電極チップ先端の形状を所定形状に整形するための電極チップ整形装置による整形動作が行われている。しかし、スポット溶接と電極チップ先端の整形とを繰り返していった場合、電極チップ先端と整形工具との接触状態が変化していく。例えば、整形時に電極チップ先端の余肉が側面に向けて流れることで電極チップと整形工具との接触面積が増加し(例えば電極チップの側面も整形工具に接触する状態となり)、それに起因して電極チップの整形不良を招いてしまったり(例えば電極チップ先端と整形工具との接触が不十分となって整形不良を招いてしまったり)、整形工具を回転させる電動モータに過負荷異常が生じてしまったりする可能性があった。特に、電極チップ先端と整形工具との接触が不十分となっている場合にあっては、電極チップ先端の中央部に円形の窪み(損傷径とも呼ばれる)が生じる可能性がある。このような窪みが発生した場合、当該窪みの径が大きくなるのに伴って、スポット溶接時における発熱量が不足し、溶接不良の発生原因となってしまう。
【0025】
本実施形態は、この点に鑑み、電極チップの整形品質の安定化を図ることができる電極チップ整形装置100を提供するものである。
【0026】
-電極チップ整形装置-
次に、
図5を用いて電極チップ整形装置100について説明する。
【0027】
電極チップ整形装置100は、整形ヘッド101と、電動モータ102と、フレーム103と、案内レール104とを備えている。
【0028】
整形ヘッド101は、整形工具110を備えている。整形工具110について、詳しくは後述する。整形ヘッド101は、案内レール104によって
図1における上下方向に移動自在に支持されている。整形ヘッド101の先端部には、整形工具110が回転可能に装着されている。
【0029】
電動モータ102は、整形ヘッド101の先端部に装着されている整形工具110を回転駆動するように構成されている。例えば、電動モータ102の出力軸の回転が図示しない複数のギヤによって整形工具110に伝達されて整形工具110が鉛直軸周りに回転するようになっている。フレーム103は、上下方向で互いに対向するプレート103a,103bを具備している。案内レール104は、対向するプレート103a,103b同士の間に亘って設けられている。整形ヘッド101は、プレート103a,103bの間において、案内レール104に装着された圧縮コイルバネ105からの付勢力を受けて上下に移動自在に支持されている。なお、電極チップ整形装置100における整形ヘッド101の支持構造としては前述したものには限定されない。
【0030】
ここで、整形工具110について説明する。前述したように整形工具110は整形ヘッド101の先端部に回転可能に装着されており、電動モータ102の駆動力を受けることで鉛直軸周りに回転する。
【0031】
図6は、整形工具110の上側加工面111aの周辺を示す斜視図である。また、
図7は、整形工具110の各加工面111a,111bに対して各電極チップ21,31が加圧された状態を示す図である。
【0032】
これらの図に示すように、整形工具110は、水平方向に延在する本体部111と、該本体部111の延在方向(水平方向)の両端から上方へ延在する上側延在部112,112と、本体部111の延在方向の両端から下方へ延在する下側延在部113,113とを備えている。上側延在部112,112の内側面は上方に向かうに従って外側に傾斜する傾斜面となっている。同様に、下側延在部113,113の内側面は下方に向かうに従って外側に傾斜する傾斜面となっている。これら傾斜面の傾斜角度は、各電極チップ21,31の先端付近の側面の傾斜角度に略一致している。本体部111と各上側延在部112,112とによって上側電極チップ21が挿入される凹部(上側に開放した凹部)が形成され、本体部111と各下側延在部113,113とによって下側電極チップ31が挿入される凹部(下側に開放した凹部)が形成されている。
【0033】
本体部111の上面は、上側電極チップ21の先端を整形するための上側加工面111aであり、予め設計された所定形状(上側電極チップ21の先端に対して規定された所定の整形形状)に加工されている。同様に、本体部111の下面は、下側電極チップ31の先端を整形するための下側加工面111bであり、予め設計された所定形状(下側電極チップ31の先端に対して規定された所定の整形形状)に加工されている。
【0034】
図5に示すように、本実施形態に係る電極チップ整形装置100は、電極チップ21,31の先端と整形工具110の加工面111a,111bとの間に向けて潤滑剤(潤滑油)を供給する潤滑剤供給装置(潤滑剤供給手段)120が設けられている。この潤滑剤供給装置120は、潤滑剤を貯留する図示しないタンクおよび該タンクに接続された潤滑剤供給管121を備えている。
図5では、上側電極チップ21の先端と整形工具110の上側加工面111aとの間に向けて潤滑剤を供給する潤滑剤供給管121のみを示しているが、本実施形態に係る潤滑剤供給装置120にあっては、下側電極チップ31の先端と整形工具110の下側加工面111bとの間に向けて潤滑剤を供給する潤滑剤供給管を備えていてもよい。
【0035】
また、前記タンクには、潤滑剤供給管121に向けての潤滑剤の供給および非供給を切り替えるための図示しない開閉弁が設けられている。つまり、この開閉弁が閉鎖状態となっている場合には、潤滑剤供給管121に向けての潤滑剤の供給は行われず、開閉弁が開放状態となっている場合には、潤滑剤供給管121に向けての潤滑剤の供給が行われるようになっている。なお、潤滑剤供給装置120の構成としては前述したものには限定されない。
【0036】
図2に示すように、前記制御装置10は、電動モータ102および潤滑剤供給装置120が電気的に接続されている。制御装置10は、前述した入力部11、電極位置算出部12、電流値算出部13、加圧力設定部14、ロボットアーム制御部15、出力部16以外に、監視部17を備えている。この監視部17は、各電極チップ21,31の先端の整形時における電動モータ102の負荷電流を監視する。この負荷電流を監視するための具体的な手法としては、電動モータ102の電気回路に備えられた電流計によって計測された電流値に基づき公知の手法によって算出される。この電動モータ102の負荷電流が本発明でいう「整形動作変更のためのパラメータ」の一例である。
【0037】
そして、監視部17によって監視されている電動モータ102の負荷電流が予め設定された第1の負荷電流以上となった場合には、該監視部17から加圧力増加指令が出力され、該加圧力増加指令が出力部16から電極昇降装置4に出力される。これにより、各電極チップ21,31の先端を整形工具110の各加工面111a,111bに向けて加圧する加圧力を高くするようになっている。
【0038】
前記第1の負荷電流は、各電極チップ21,31の先端と整形工具110の各加工面111a,111bとの接触面積が拡大したこと(各電極チップ21,31の先端面積が拡大したこと)を検知するための値として予め実験やシミュレーションによって決定されている。また、前記加圧力の上昇量は、各電極チップ21,31の先端と整形工具110の各加工面111a,111bとを確実に接触させることが可能となる加圧力の上昇量として予め実験やシミュレーションによって決定されている。
【0039】
更に、監視部17は、監視している電動モータ102の負荷電流が上昇して予め設定された第2の負荷電流以上となった場合には、潤滑剤供給装置120の開閉弁を開放状態にして、電極チップ21,31の先端と整形工具110の加工面111a,111bとの間に向けて潤滑剤を供給する。これにより、電極チップ21,31の先端と整形工具110の加工面111a,111bとの間の摩擦抵抗を減少させるようになっている。前記第2の負荷電流は、前記第1の負荷電流よりも高い値であって、且つ電動モータ102の許容負荷電流未満の値として予め実験やシミュレーションによって決定されている。
【0040】
-電極チップの整形動作-
次に、前述の如く構成された電極チップ整形装置100による各電極チップ21,31の整形動作について説明する。この電極チップ21,31の整形動作は、所定回数のスポット溶接が終了する度に実施され、摩耗や変形や溶接物(鉄や亜鉛等)の付着等が生じている電極チップ21,31の先端を塑性変形によって整形して、溶接品質を確保するために行われる。
【0041】
各電極チップ21,31の先端の整形時にあっては、
図7に示すように、上側電極チップ21の先端が整形工具110の上側加工面111aに当接され、下側電極チップ31の先端が整形工具110の下側加工面111bに当接され、これら電極チップ21,31によって整形工具110の本体部111を上下方向から所定の加圧力(初期設定された加圧力)で挟持した状態で、電動モータ102の駆動力を受けた整形工具110が鉛直軸周りに回転する。例えば、回転している整形工具110の各加工面111a,111bに向けて各電極チップ21,31の先端を当接させ且つ所定の加圧力で加圧することになる。
【0042】
図8は、
図7におけるVIII-VIII線に沿った断面図である。また、
図9は、
図7におけるIX-IX線に沿った断面図である。この
図9における矢印は整形工具110の回転方向を示している。このような整形動作により、上側電極チップ21の先端と整形工具110の上側加工面111aとを相対移動させると共に、下側電極チップ31の先端と整形工具110の下側加工面111bとを相対移動させることによって、各電極チップ21,31の先端を各加工面111a,111bそれぞれの形状に応じた形状(整形形状)に整形するようになっている。
【0043】
図10は、本実施形態におけるスポット溶接および整形動作による電極チップ先端の変化を説明するための断面図である。
図10(a)は、所定回数のスポット溶接が行われた場合(整形動作が実施されていない場合)における電極チップ21の先端の断面図である。この
図10(a)にあっては、電極チップ(例えば上側電極チップ)21の先端に、合金層Laおよび溶接物の付着層Lbが形成された状態にある。合金層Laは、例えば銅と亜鉛との合金により成る層である。付着層Lbは、例えば鉄や亜鉛で成る層である。
【0044】
この状態から更にスポット溶接が行われた場合には、
図10(b)に示すように、電極チップ21の先端の変形や変質(
図10(b)にあっては付着層Lbの変形)を招き、溶接品質の低下を招いてしまう可能性のある状態となる。
【0045】
そして、この状態から、電極チップ整形装置100による電極チップ21の整形動作が実施されると、
図10(c)に示すように、電極チップ21の先端を塑性変形(整形工具110の上側加工面111aに沿うように塑性変形)させることにより、電極チップ21の先端が所定形状に整形され、溶接品質の改善が図れる電極チップ21の先端形状を得ることができる。
図10(c)に示すものの場合、付着層Lbが寸法(変化量)A1だけ変形された整形が行われている。
【0046】
本実施形態にあっては、前述したように監視部17によって監視されている電動モータ102の負荷電流に応じて、各電極チップ21,31の先端を整形工具110の各加工面111a,111bに向けて加圧する加圧力の変更、および、潤滑剤供給装置120の作動を行う。
図11は、これら動作の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示す動作は、電極チップ整形装置100による電極チップ21,31の整形動作が行われる度に実施される。
【0047】
先ず、ステップST1において、監視部17によって監視されている電動モータ102の負荷電流が前記第1の負荷電流以上となったか否かを判定する。電動モータ102の負荷電流が第1の負荷電流に達しておらず、ステップST1でNO判定された場合には、前記加圧力の変更を行うことなく、そのままリターンされる。
【0048】
一方、電動モータ102の負荷電流が第1の負荷電流以上となり、ステップST1でYES判定された場合には、ステップST2に移り、電極チップ21,31の加圧力を増加させる。具体的には、監視部17から加圧力増加指令が出力され、該加圧力増加指令が出力部16から電極昇降装置4に出力される。これにより、各電極チップ21,31の先端を整形工具110の各加工面111a,111bに向けて加圧する加圧力を高くし、各電極チップ21,31の先端と整形工具110の各加工面111a,111bとを確実に接触させることを可能にする。
【0049】
その後、ステップST3に移り、前記監視部17によって監視されている電動モータ102の負荷電流が前記第2の負荷電流以上となったか否かを判定する。電動モータ102の負荷電流が第2の負荷電流に達しておらず、ステップST3でNO判定された場合には、前記潤滑油(潤滑剤)の供給を行うことなく、そのままリターンされる。
【0050】
一方、電動モータ102の負荷電流が第2の負荷電流以上となり、ステップST3でYES判定された場合には、ステップST4に移り、潤滑剤供給装置120による潤滑剤の供給を開始する。具体的には、監視部17から開弁指令が出力され、該開弁指令が出力部16から潤滑剤供給装置120に出力される。これにより、潤滑剤供給装置120の開閉弁が開放状態となり、電極チップ21,31の先端と整形工具110の加工面111a,111bとの間に向けて潤滑剤が供給され、電極チップ21,31の先端と整形工具110の加工面111a,111bとの間の摩擦抵抗を減少させる。
【0051】
このような動作が、電極チップ21,31の整形動作が行われる度に繰り返される。
【0052】
図12は、電極チップ21,31の整形が繰り返された場合における電動モータ102の負荷電流および加圧力(整形加圧力)の推移、潤滑剤供給タイミングを示す図である。この
図12における横軸は整形動作の回数(整形回数)であり、縦軸は電動モータ102の負荷電流および整形加圧力である。この
図12にあっては、整形回数がNa回目に達した時点において、電動モータ102の負荷電流が第1の負荷電流以上となり、整形加圧力を増加させる制御が開始されている。また、整形動作の回数がNb回目に達した時点において、電動モータ102の負荷電流が第2の負荷電流以上となり、電極チップ21,31の先端と整形工具110の加工面111a,111bとの間に向けての潤滑剤の供給が開始されている。
【0053】
図13は、スポット溶接および電極チップ21,31の整形動作が繰り返された場合の電極チップ21,31の先端の表面状態の変化量(例えば電極チップ21,31の先端面積の拡大量)の推移を示す図であり、横軸が溶接回数であり、縦軸が表面状態の変化量である。この
図13における一点鎖線は、電極チップ21,31の表面状態の変化量が、溶接品質が悪化する程度まで大きくなった値を示している。本実施形態では、この電極チップ21,31の表面状態の変化量が当該一点鎖線(溶接品質が悪化する変化量)に達する前の時点で電極チップ21,31の整形動作が行われ(図中におけるタイミングt1~t5それぞれにおいて整形動作が行われ)、前述した塑性変形により、電極チップ21,31の表面状態の変化量(整形に伴う変化量であって
図13におけるA2)を小さく抑えながらも複数回の整形動作が可能であり、電極チップ21,31の長寿命化が図れる状態となっていることを表している。
【0054】
-実施形態の効果-
以上説明したように本実施形態では以下に述べる効果を奏することができる。
【0055】
先ず、本実施形態にあっては、電動モータ102の負荷電流を監視し、該負荷電流が所定値(前記第1の負荷電流)以上となった場合には、各電極チップ21,31の先端を整形工具110の各加工面111a,111bに向けて加圧する加圧力を増加させるようにしている。これにより、各電極チップ21,31の先端と整形工具110の各加工面111a,111bとを確実に接触させることが可能となり、前述した窪み(損傷径)の発生を抑制することができて、電極チップ21,31の整形を良好に行うことができる。
【0056】
また、更に電動モータ102の負荷電流が上昇して所定値(前記第2の負荷電流)以上となった場合には、潤滑剤供給装置120によって電極チップ21,31の先端と整形工具110の加工面111a,111bとの間に向けて潤滑剤を供給するようにしている。これにより、電極チップ21,31の先端と整形工具110の加工面111a,111bとの間の摩擦抵抗が減少し、負荷電流が許容負荷電流を超えてしまうことを防止できる。また、この潤滑剤の供給により、整形工具110の各加工面111a,111bに異物(所謂、整形カス)が固着してしまうことを抑制でき、電極チップ21,31の先端が局部的に切削されてしまうといったことも抑制でき、これによっても電極チップ21,31の整形品質の安定化を図ることができる。
【0057】
また、本実施形態にあっては、各電極チップ21,31の先端を塑性変形(整形工具110の各加工面111a,111bに沿うように塑性変形)させることにより、各電極チップ21,31の先端が所定形状に整形されるようにしているため、一般的なドレッサ(切削刃)によって電極チップ先端を切削するものに比べて、電極チップ21,31の長さが短くなる寸法を小さくでき、電極チップ21,31の長寿命化を図ることができる。
【0058】
-他の実施形態-
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲および該範囲と均等の範囲で包含される全ての変形や応用が可能である。
【0059】
例えば、前記実施形態では、本発明でいう「整形動作変更のためのパラメータ」を電動モータ102の負荷電流とした場合について説明した。本発明はこれに限らず、電極チップ21,31の先端の摩耗量の積算値(電極チップ21,31の初期状態からの摩耗量の積算値)を、整形動作変更のためのパラメータとしてもよい。つまり、電極チップ21,31の先端の摩耗量の積算値が所定の第1の摩耗量に達した場合には、電極チップ21,31の先端を整形工具110の加工面111a,111bに向けて加圧する加圧力を増加させ、更に、電極チップ21,31の先端の摩耗が進んで、該摩耗量の積算値が所定の第2の摩耗量に達した場合には、潤滑剤供給装置120の開閉弁を開放状態にして、電極チップ21,31の先端と整形工具110の加工面111a,111bとの間に向けて潤滑剤を供給するものである。なお、この電極チップ21,31の先端の摩耗量の積算値は、前記電極位置検出装置5によって検出される電極位置(例えば昇降部材42のストロークから得られる電極位置)に基づいて算出される。
【0060】
また、前記実施形態にあっては、各電極チップ21,31の先端を整形工具110の各加工面111a,111bに向けて加圧する加圧力を増加させるタイミングと、電極チップ21,31の先端と整形工具110の加工面111a,111bとの間に向けて潤滑剤を供給するタイミングとを互いに異なるタイミングとしていた。本発明はこれに限らず、これらのタイミングを一致させるようにしてもよい。
【0061】
また、前記実施形態における電極チップ整形装置100では、回転している整形工具110の各加工面111a,111bに向けて各電極チップ21,31の先端を当接させるようにしていたが、これに限らず、整形工具110の回転開始と、各加工面111a,111bに対する各電極チップ21,31の先端の当接とが同じタイミングで行われるようになっていてもよい。
【0062】
また、前記実施形態にあっては、上側電極チップ21の先端の整形と下側電極チップ31の先端の整形とを同時に行っていた。本発明はこれに限らず、上側電極チップ21の先端の整形と下側電極チップ31の先端の整形とを異なるタイミングで行うようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、電極チップの整形品質の安定化を図ることができる電極チップ整形装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
4 電極昇降装置(加圧手段)
14 加圧力設定部
17 監視部
21 上側電極チップ
31 下側電極チップ
100 電極チップ整形装置
102 電動モータ
110 整形工具
111a 上側加工面
111b 下側加工面
120 潤滑剤供給装置(潤滑剤供給手段)