(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112760
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂粒子、熱可塑性樹脂微粒子および熱可塑性プリプレグの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20230807BHJP
C08J 9/16 20060101ALI20230807BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
C08J3/12 A CEZ
C08J9/16
C08J5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014664
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】越 政之
(72)【発明者】
【氏名】石竹 賢次
(72)【発明者】
【氏名】小寺 将一
【テーマコード(参考)】
4F070
4F072
4F074
【Fターム(参考)】
4F070AA48
4F070AA52
4F070AA55
4F070AA58
4F070AB09
4F070AB11
4F070AB15
4F070AC01
4F070AE12
4F070DA46
4F070DC03
4F070DC07
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AD45
4F072AD46
4F072AD56
4F072AG03
4F072AH05
4F072AH21
4F072AH49
4F072AL02
4F072AL11
4F074AA74
4F074AA87
4F074AA98
4F074BA33
4F074CA22
4F074CC05Z
4F074CD20
4F074DA02
4F074DA35
4F074DA47
(57)【要約】
【課題】熱可塑性樹脂粒子に関して、粒子内部に空隙を有することで微粉砕が容易である熱可塑性樹脂粒子を提供する。
【解決手段】平均粒子径が0.5~10mmであり、粒子内部の空隙率が10~60%である熱可塑性樹脂粒子を得るとともに、さらにこの熱可塑性樹脂粒子を粉砕する工程を含む平均粒子径が5~150μmである熱可塑性樹脂微粒子の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.5~10mmであり、粒子内部の空隙率が10~60%である熱可塑性樹脂粒子。
【請求項2】
熱可塑性樹脂粒子を構成する熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、液晶ポリマー(LCP)からなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂である請求項1に記載の熱可塑性樹脂粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂粒子を粉砕する工程を含む平均粒子径が5~150μmである熱可塑性樹脂微粒子の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂微粒子の製造方法であって、成形機中で溶融状態の熱可塑性樹脂に発泡ガスを注入し、その後該熱可塑性樹脂を成形機から吐出することにより粒子内部の空隙率が10~60%である熱可塑性樹脂粒子を得る工程と、得られた熱可塑性樹脂粒子を微粉砕する工程を含む熱可塑性樹脂微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の熱可塑性樹脂微粒子の製造方法で得られた熱可塑性樹脂微粒子が分散されたスラリー中に強化繊維を通過させて強化繊維基材を得る工程と、得られた強化繊維基材を加熱、加圧する工程を含む熱可塑性プリプレグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強化繊維と熱可塑性樹脂からなる熱可塑性プリプレグに用いられる熱可塑性樹脂粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂からなるプラスチック系複合材料は、金属系複合材料やセラミックス系複合材料に比べ、軽量で、多種多様な材料があり、進展も目覚しい材料である。成形品等として、電気および電子機器の部材、精密機械の部材、建築資材、自動車用部材、家電製品、家庭用品、スポーツ用品、医療器具、航空機および宇宙用機器部材等に利用されている。
【0003】
近年、成形性および溶着による後加工が容易である点などからマトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を使用する繊維強化熱可塑性樹脂が注目されている。
【0004】
熱可塑性樹脂を強化繊維に含浸させる方法の一つに、強化繊維が樹脂粉体を分散させたスラリー浴に通過させる粉末含浸法がある。例えば特許文献1には、粒子径の小さいポリフェニレンサルファイド粒子を用いてプリプレグを作製する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載される技術では、含浸に微粒子が要求されるが靱性が高い熱可塑性樹脂や一部のポリマーアロイ材料などのペレット形態からスタートする熱可塑性樹脂においては粉砕が困難であり、目的とする微粒子が得られないため粉末含浸に適用した際に含浸性の悪化が懸念される。
【0007】
そこで本発明の課題は、熱可塑性樹脂粒子に関して、粒子内部に空隙を有することで微粉砕が容易である熱可塑性樹脂粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、主として、以下の構成を有する。
[1]平均粒子径が0.5~10mmであり、粒子内部の空隙率が10~60%である熱可塑性樹脂粒子。
[2]熱可塑性樹脂粒子を構成する熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、液晶ポリマー(LCP)からなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂である[1]に記載の熱可塑性樹脂粒子。
[3][1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂粒子を粉砕する工程を含む平均粒子径が5~150μmである熱可塑性樹脂微粒子の製造方法。
[4]熱可塑性樹脂微粒子の製造方法であって、成形機中で溶融状態の熱可塑性樹脂に発泡ガスを注入し、その後該熱可塑性樹脂を成形機から吐出することにより粒子内部の空隙率が10~60%である熱可塑性樹脂粒子を得る工程と、得られた熱可塑性樹脂粒子を微粉砕する工程を含む熱可塑性樹脂微粒子の製造方法。
[5][3]または[4]に記載の熱可塑性樹脂微粒子の製造方法で得られた熱可塑性樹脂微粒子が分散されたスラリー中に強化繊維を通過させて強化繊維基材を得る工程と、得られた強化繊維基材を加熱、加圧する工程を含む熱可塑性プリプレグの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱可塑性粒子に空隙を形成することにより、難粉砕材であっても容易に粉砕することを目的とする熱可塑性微粒子が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明について、実施形態とともに詳細に説明する。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂粒子を構成する熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステルや、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他や、ポリオキシメチレン樹脂(POM)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリメチレンメタクリレート樹脂(PMMA)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、変性PPE樹脂、ポリイミド樹脂(PI)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、ポリスルホン樹脂(PSU)、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリケトン樹脂(PK)、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK)、ポリアリレート樹脂(PAR)、ポリエーテルニトリル樹脂(PEN)、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、フッ素系樹脂等の熱可塑エラストマー等やこれらの共重合体、変性体、および2種以上ブレンドした樹脂などでであってもよい。とりわけ、機械特性および耐熱性の観点から、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、液晶ポリマー(LCP)からなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましく、これらの熱可塑性樹脂を2種以上ブレンドした樹脂がさらに好ましい。
【0012】
前記ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK)としては、例えば、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテエーテルルケトンエーテルケトン(PEEKEK)、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)、及びポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)等やこれらの共重合体、変性体、および2種以上ブレンドした樹脂などであってもよい。
【0013】
本発明に係る熱可塑性樹脂は、必要に応じて、さらに、充填材、他種ポリマー、各種添加剤などを含有してもよい。
【0014】
充填材としては、一般に樹脂用フィラーとして用いられる任意のものを用いることができ、繊維強化熱可塑性樹脂基材やそれを用いた成形品の強度、剛性、耐熱性、寸法安定性をより向上させることができる。充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状無機充填材、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、タルク、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、モンモリロナイト、アスベスト、アルミノシリケート、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、シリカなどの非繊維状無機充填材などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これら充填材は中空であってもよい。また、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で処理されていてもよい。また、モンモリロナイトとして、有機アンモニウム塩で層間イオンをカチオン交換した有機化モンモリロナイトを用いてもよい。なお、繊維状充填材は、不連続繊維からなるものであれば、連続繊維からなる強化繊維の補強効果を損なうことなく機能を付与できる。
【0015】
耐衝撃性改良剤の具体例としては、エチレン/メタクリル酸共重合体およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/プロピレン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン-1-g-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0016】
各種添加剤としては、例えば、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどの非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、0.1~10mmでありより好ましくは1~7mmである。平均粒子径が10mm以上であれば粉砕が困難となり、平均粒子径が0.1mm以下の粒子は製造が困難である。さらに、前記平均粒子径の範囲内であれば粒子は粉体状であっても良いし、ペレット形態であっても良い。
【0018】
なお熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、熱可塑性樹脂粒子を100個以上選択し、光学顕微鏡を用いて撮影し、撮影した熱可塑性樹脂粒子の短径と長径を測定する。その平均値を代表値として用いる。
【0019】
本発明に係る熱可塑性樹脂粒子は粒子内部の空隙率が10~60%である。好ましくは20~55%であり、より好ましくは30~50%である。空隙率が上記範囲内であることにより粒子の形態を保持でき取り扱い性と粉砕性の両立が可能である。
【0020】
なお、熱可塑性樹脂粒子の空隙率はX線観察装置を用いて3次元画像を撮影し、画像処理により空隙を評価し、式(1)により求めた。
【0021】
空隙率=熱可塑性樹脂粒子中の空隙体積/熱可塑性樹脂粒子の体積・・・(1)
本発明に係る熱可塑性樹脂粒子内部に形成される空隙は複数の空隙が粒子内部に分散していることが好ましい。空隙が分散していることにより粉砕時に空隙間の樹脂厚みが薄くなり容易に粉砕できる。
【0022】
本発明に係る熱可塑性樹脂粒子の空隙の大きさは1~100μmが好ましく、10~80μmがより好ましい。空隙の大きさが上記範囲であることにより粉砕性が向上できる。
【0023】
本発明に係る熱可塑性樹脂粒子は押出機や射出成形機などの成形機中の熱可塑性樹脂に超臨界状態の発泡ガスを注入し、該熱可塑性樹脂が成形機から吐出される際に圧力が開放されることにより得られる。
【0024】
発泡ガスとしては熱可塑性樹脂に対して不活性なガスを使用することが好ましい。不活性なガスとは、使用する熱可塑性樹脂と化学的に反応しないガスを意味する。具体的には、空気、窒素、二酸化炭素やヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスが挙げられるがこれに限定されない。また、これらのガスは1種で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、二酸化炭素や窒素からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、不活性度の高い窒素がより好ましい。発泡ガスの供給量としては、0.1~1.0wt%が好ましく、0.3~0.6wt%がさらに好ましい。発泡ガスの供給量が0.1wt%未満では空隙の形成が不十分であり0.6wt%以上では樹脂の吐出が困難となる。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂微粒子の製造方法は、前記熱可塑性樹脂粒子を粉砕する工程を含むものである。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂微粒子の製造方法において、熱可塑性樹脂粒子の粉砕方法は、ジェットミル、ビーズミル、ハンマーミル、ボールミル、カッターミル、石臼型摩砕機等を用いた乾式粉砕、湿式粉砕、冷凍粉砕を用いることができる。エネルギー効率と粉砕能力から冷凍粉砕およびジェットミル法が好ましい。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂微粒子の製造方法により得られる熱可塑性樹脂微粒子の平均粒子径は、5~150μmであり、好ましくは10~120μmであり、より好ましくは15~100μmが好ましい。平均粒子径を5~200μmとすることにより、繊維強化熱可塑性樹脂を安定して製造することができる。平均粒子径の測定方法は、後述するレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0028】
本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂基材は、強化繊維基材に熱可塑性樹脂微粒子を含浸させることにより得ることができる。
【0029】
本発明において、連続した強化繊維からなる連続繊維基材とは、繊維強化熱可塑性樹脂基材中で当該強化繊維が途切れのないものをいう。本発明における連続繊維基材の形態および配列としては、例えば、連続した強化繊維を一方向に引き揃えられたもの、織物(クロス)、編み物、組み紐、トウ等が挙げられる。中でも、特定方向の機械特性を効率よく高められることから、強化繊維を一方向に引き揃えられたものが好ましい。
【0030】
強化繊維の種類としては特に限定されず、炭素繊維、金属繊維、有機繊維、無機繊維が例示される。これらを2種以上用いてもよい。強化繊維に炭素繊維を用いることで、軽量でありながら高い機械特性を有する繊維強化熱可塑性樹脂基材が得られる。
【0031】
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石油タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、ビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とするセルロース系炭素繊維、炭化水素などを原料とする気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが挙げられる。これら炭素繊維のうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0032】
金属繊維としては、例えば、鉄、金、銀、銅、アルミニウム、黄銅、ステンレスなどの金属からなる繊維が挙げられる。
【0033】
有機繊維としては、例えば、アラミド、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンなどの有機材料からなる繊維が挙げられる。アラミド繊維としては、例えば、強度や弾性率に優れるパラ系アラミド繊維と、難燃性、長期耐熱性に優れるメタ系アラミド繊維が挙げられる。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維などが挙げられ、メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維などが挙げられる。アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維に比べて弾性率の高いパラ系アラミド繊維が好ましく用いられる。
【0034】
無機繊維としては、例えば、ガラス、バサルト、シリコンカーバイト、シリコンナイトライドなどの無機材料からなる繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、例えば、Eガラス繊維(電気用)、Cガラス繊維(耐食用)、Sガラス繊維、Tガラス繊維(高強度、高弾性率)などが挙げられる。バサルト繊維は、鉱物である玄武岩を繊維化した物で、耐熱性の非常に高い繊維である。玄武岩は、一般的に、鉄の化合物であるFeOまたはFeO2を9~25重量%、チタンの化合物であるTiOまたはTiO2を1~6重量%含有するが、溶融状態でこれらの成分を増量して繊維化することも可能である。
【0035】
本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂基材は、補強材としての役目を期待されることが多いため、高い機械特性を発現することが望ましく、高い機械特性を発現するためには、強化繊維として炭素繊維を含むことが好ましい。
【0036】
繊維強化熱可塑性樹脂基材において、連続繊維基材は、通常、多数本の単繊維を束ねた強化繊維束を1本または複数本並べて構成される。1本または複数本の強化繊維束を並べたときの、強化繊維束1本あたりの総フィラメント数(単繊維の本数)は、1,000~2,000,000本が好ましい。生産性の観点からは、強化繊維の総フィラメント数は、1,000~1,000,000本がより好ましく、1,000~600,000本がさらに好ましく、1,000~300,000本が特に好ましい。強化繊維束1本あたりの総フィラメント数の上限は、分散性や取り扱い性とのバランスも考慮して、生産性と分散性、取り扱い性を良好に保てるように決められればよい。
【0037】
1本の強化繊維束は、好ましくは平均直径5~10μmである強化繊維の単繊維を1,000~50,000本束ねて構成される。
【0038】
含浸方法としては、熱可塑性樹脂微粒子を強化繊維束における繊維の隙間に分散させた後、熱可塑性樹脂微粒子を溶融させ、加圧することで強化繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させる粉末含浸法が高品質の繊維強化基材を生産性良く製造できることから好ましい。
【実施例0039】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。各実施例および比較例における物性評価は下記の方法に準拠して実施した。
【0040】
[体積含有率(Vf)]
各実施例および比較例により得られた繊維強化熱可塑性樹脂基材の質量W0を測定したのち、該繊維強化熱可塑性樹脂基材を空気中550℃で240分加熱して、樹脂成分を焼き飛ばし、残った強化繊維の質量W1を測定し、下記式(2)により繊維強化熱可塑性樹脂基材の体積含有率(Vf)を算出した。
Vf(体積%)=(W1/ρf)/{W1/ρf+(W0-W1)/ρ1}×100・・・(2)
ρf:強化繊維の密度(g/cm3)
ρr:樹脂組成物の密度(g/cm3)。
【0041】
[熱可塑性樹脂粒子の空隙率]
各実施例および比較例により得られた熱可塑性樹脂粒子について、X線顕微鏡(カールツァイス社製 Xradia 510 versa)を用いて3次元画像を撮影し、画像処理により空隙を評価し、式(3)により求めた。
【0042】
空隙率=熱可塑性樹脂粒子中の空隙体積/熱可塑性樹脂粒子の体積・・・(3)
[熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径]
各実施例および比較例により得られた熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、熱可塑性樹脂粒子を100個以上選択し、光学顕微鏡を用いて撮影し、撮影した熱可塑性樹脂粒子の短径と長径を測定する。その平均値を代表値として用いた。
【0043】
[熱可塑性樹脂微粒子の平均粒子径]
各実施例および比較例により得られた熱可塑性樹脂粒子の粒子径はレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックMT3300)を用いて測定し、D50(μm)を代表値とした。
【0044】
[原料]
各実施例および比較例において、原料は以下に示すものを用いた。
熱可塑性樹脂:
ポリフェニレンスルフィド 東レ(株)製“トレリナ(登録商標)”
ポリエーテルイミド サビック(株)製“ULTEM(登録商標)”
【0045】
【0046】
(実施例1)
表1に示す配合組成で、原料を混合し、射出成形機のフィード口に投入した後、0.3質量%の窒素ガスを供給した。射出成形機としては日本製鋼所製 J110AD-180HD仕様、ガス供給装置としてはトレクセル社製 T100-J仕様を用いた。所定の混練温度、スクリュー回転数で溶融混錬を行い射出成形機先端より、ストランド状の溶融樹脂を吐出した。吐出されたストランド状の溶融樹脂を、冷却、粉砕し熱可塑性樹脂粒子のサンプルを得た。得られた熱可塑性樹脂粒子を前記評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0047】
得られた熱可塑性樹脂粒子を冷凍粉砕機により粉砕し、熱可塑性樹脂微粒子を得た。得られた熱可塑性樹脂微粒子を前記評価に供した。
【0048】
(実施例2)
熱可塑性樹脂粒子の原料を表1に示す配合および重量割合に変更した以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂微粒子を得た。得られた繊維強化熱可塑性樹脂微粒子を前記評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0049】
(比較例1および2)
熱可塑性樹脂粒子の製造条件を表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして熱可塑性微粒子および繊維強化熱可塑性樹脂基材を得た。得られた熱可塑性樹脂微粒子を前記評価に供した。
本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂基材は、オートクレーブ成形、プレス成形、フィルム成形などの任意の成形方法により、所望の形状に成形することが可能である。本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂基材を用いた成形により得られる成形品は、例えば、航空機エンジン周辺部品、航空機内装部品、航空機外装部品、車両骨格、自動車エンジン周辺部品、自動車アンダーフード部品、自動車ギア部品、自動車内装部品、自動車外装部品、吸排気系部品、エンジン冷却水系部品、自動車電装部品などの自動車用途、LEDリフレクタやSMTコネクタなどの電気・電子部品用途などに有効である。
具体的には、本発明における繊維強化熱可塑性樹脂基材またはその成形品は、ファンブレードなどの航空機エンジン周辺部品、ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、各種シート、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種メンバ、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、各種レール、各種ヒンジなどの自動車ボディー部品、エンジンカバー、エアインテークパイプ、タイミングベルトカバー、インテークマニホールド、フィラーキャップ、スロットルボディ、クーリングファンなどの自動車エンジン周辺部品、クーリングファン、ラジエータータンクのトップおよびベース、シリンダーヘッドカバー、オイルパン、ブレーキ配管、燃料配管用チューブ、排ガス系統部品などの自動車アンダーフード部品、ギア、アクチュエーター、ベアリングリテーナー、ベアリングケージ、チェーンガイド、チェーンテンショナなどの自動車ギア部品、シフトレバーブラケット、ステアリングロックブラケット、キーシリンダー、ドアインナーハンドル、ドアハンドルカウル、室内ミラーブラケット、エアコンスイッチ、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、グローブボックス、ステアリングホイール、トリムなどの自動車内装部品、フロントフェンダー、リアフェンダー、フューエルリッド、ドアパネル、シリンダーヘッドカバー、ドアミラーステイ、テールゲートパネル、ライセンスガーニッシュ、ルーフレール、エンジンマウントブラケット、リアガーニッシュ、リアスポイラー、トランクリッド、ロッカーモール、モール、ランプハウジング、フロントグリル、マッドガード、サイドバンパーなどの自動車外装部品、エアインテークマニホールド、インタークーラーインレット、ターボチャージャ、エキゾーストパイプカバー、インナーブッシュ、ベアリングリテーナー、エンジンマウント、エンジンヘッドカバー、リゾネーター、及びスロットルボディなどの吸排気系部品、チェーンカバー、サーモスタットハウジング、アウトレットパイプ、ラジエータータンク、オルタネーター、及びデリバリーパイプなどのエンジン冷却水系部品、コネクタやワイヤーハーネスコネクタ、モーター部品、ランプソケット、センサー車載スイッチ、コンビネーションスイッチなどの自動車電装部品、電気・電子部品としては、例えば、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、抵抗器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、スイッチ、ナイフスイッチ、多極ロッド、モーターケース、テレビハウジング、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、CRTディスプレーハウジングおよび内部部品、プリンターハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品、ICやLED対応ハウジング、コンデンサー座板、ヒューズホルダー、各種ギヤー、各種ケース、キャビネットなどの電気部品、コネクタ、SMT対応のコネクタ、カードコネクタ、ジャック、コイル、コイルボビン、センサー、LEDランプ、ソケット、抵抗器、リレー、リレーケース、リフレクタ、小型スイッチ、電源部品、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップシャーシ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、SiパワーモジュールやSiCパワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、トランス部材、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などの電子部品などに好ましく用いられる。