(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112764
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】可塑性グラウト材料の配合決定方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20230807BHJP
【FI】
E02D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014669
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智彦
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AA06
2D040AB01
2D040AC03
(57)【要約】
【課題】施工現場毎に対応した性状を持つ可塑性グラウト材料の適正な配合を決定する方法の提供。
【解決手段】本発明の可塑性グラウト材料の配合決定方法は、施工対象地盤(例えば巨礫地盤)の性状(例えば、粒度分布や間隙率n等)を計測する工程と、計測された施工対象地盤の性状から降伏応力(τy)を演算する工程と、演算された降伏応力(τy)を充足する可塑性グラウト材の配合を決定する工程を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工対象地盤の性状を計測する工程と、
計測された施工対象地盤の性状から降伏応力を演算する工程と、
演算された降伏応力を充足する可塑性グラウト材の配合を決定する工程を有することを特徴とする可塑性グラウト材料の配合決定方法。
【請求項2】
施工対象地盤は礫地盤であり、計測される礫地盤の性状は粒度分布と間隙率であり、
礫を各辺の長さが等しい立方体であって円環状に欠損している部分を有する立方体に置換し且つ礫間の間隙を同一径の複数の円管の組み合わせに置換したモデルを用いて降伏応力を演算する請求項1の方法。
【請求項3】
降伏応力を演算する最初期の段階では可塑性グラウト材料の密度は、その配合しようとする可塑性グラウト材料の標準的な配合の密度と仮定して降伏応力の演算を行い、
演算された降伏応力を充足する可塑性グラウト材料の配合を選定し、選定された可塑性グラウト材の実際の密度を決定し、
決定された実際の密度を用いて降伏応力を再演算し、
再度演算された降伏応力と選定された可塑性グラウト材の降伏応力を比較して、再度演算された降伏応力が選定された可塑性グラウト材の降伏応力以下の場合には、最初に演算された降伏応力を充足する配合を可塑性グラウト材料の配合として決定し、
再度演算された降伏応力が選定された可塑性グラウト材の降伏応力よりも大きい場合には、最初に演算された降伏応力を充足する可塑性グラウト材料の配合を再度決定し、再度配合を決定された可塑性グラウト材料の実際の密度を決定し、決定された実際の密度を用いて降伏応力を再度演算し、再度演算された降伏応力と再度配合を決定された可塑性グラウト材料の降伏応力を比較する請求項1、2の何れかの方法。
【請求項4】
前記モデルの立方体の一片の長さは平均的な巨礫の大きさを表す50%粒径である請求項1~3の何れか1項の方法。
【請求項5】
前記モデルの立方体の一片の長さは10%粒径である請求項1~3の何れか1項の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑性グラウト材料の配合を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可塑性グラウト材料における「可塑性」なる文言は、せん断力が加わると流動性を発現し、せん断力が加わらないと流動性を発現しない性質を意味している。
可塑性グラウト材料はレオロジー特性としてビンガム流体に該当すると考えられ、水中不分離性及び低収縮性を有する。可塑性グラウト材料は、例えば、地盤や構造物の空隙、目地、ひび割れ、地盤と構造物の間に生じた隙間に注入する注入材料や、既設トンネルの履工背面空洞における充填材料として用いられている(例えば、特許文献1参照)。
可塑性グラウト材料は、護岸の基礎として構築された捨石マウンドなどの巨礫の間隙の充填に用いられる場合がある。その様な場合としては、護岸の耐震補強等を目的として施工されるケース等において、捨石マウンドの一部を限定的に改良するために施工されるケースがある。
【0003】
巨礫の間隙に可塑性グラウト材料を充填する場合には、可塑性グラウト材料が注入管の吐出口から同心円状(或いは球状)に広がって充填されるのが理想である。注入管の吐出口から同心円状(或いは球状)にグラウト材料が広がって充填されることにより、例えば耐震補強に必要とされる改良範囲に対して限定的に充填することが可能となり、不必要な範囲(必要とされる改良範囲外)への充填を防止することが出来る。
【0004】
しかし、巨礫の間隙の充填において、礫の大きさに対して流動性の大きなグラウト材料を使用すると、グラウト材料は自重により下方に流動してしまうので、所定の領域に留まる様な充填を行うことが出来ない。そして、巨礫地盤における充填では、施工地盤の礫の大きさに対応して、要求されるグラウト材料の性状が異なる。
そのため、施工現場毎に適正な可塑性グラウト材料の配合を決定する必要があるが、従来はその様な配合決定技術は提案されておらず、可塑性グラウト材料の配合の決定は作業員の経験に頼るか、或いは、施工現場毎に配合を複数設定した試験施工を実施して配合を決定する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、施工現場毎に対応した性状を持つ可塑性グラウト材料の配合を適正に決定することが出来る方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の可塑性グラウト材料の配合決定方法は、
施工対象地盤(例えば巨礫地盤)の性状(例えば、粒度分布や間隙率n等)を計測する工程と、
計測された施工対象地盤の性状から降伏応力(τy)を演算する工程と、
演算された降伏応力(τy)を充足する可塑性グラウト材の配合を決定する工程を有することを特徴としている。
【0008】
本発明において、施工対象地盤は礫地盤であり、計測される礫地盤の性状は粒度分布(例えば平均的な巨礫の大きさを表す50%粒径D50或いは10%粒径D10)と間隙率(n)であり、
礫(1)を各辺の長さが等しい立方体であって円環状に欠損している部分を有する立方体に置換し且つ礫(1)間の間隙を同一径(d)の複数の円管(2)の組み合わせ(或いは円管2のネットワーク)に置換したモデルを用いて降伏応力(τy)を演算するのが好ましい。
【0009】
また本発明において、降伏応力(τy)を演算する最初期の段階では可塑性グラウト材料の密度(ρg)は、その配合しようとする可塑性グラウト材料の標準的な配合の密度(例えば1.8)と仮定して降伏応力(τy)の演算を行い、
演算された降伏応力(τy)を充足する可塑性グラウト材料の配合(演算された降伏応力τy以上の降伏応力τyAを有する配合)を選定し、選定された可塑性グラウト材の実際の密度を決定し、
決定された実際の密度を用いて降伏応力(τy再)を再演算し、
再度演算された降伏応力(τy再)と選定された可塑性グラウト材の降伏応力(τyA)を比較して、再度演算された降伏応力(τy再)が選定された可塑性グラウト材の降伏応力(τyA)以下の場合には、最初に演算された降伏応力(τy)を充足する配合を可塑性グラウト材料の配合として決定し、
再度演算された降伏応力(τy再)が選定された可塑性グラウト材の降伏応力(τyA)よりも大きい場合には、最初に演算された降伏応力(τy)を充足する可塑性グラウト材料の配合を再度決定し、再度配合を決定された可塑性グラウト材料の実際の密度を決定し、決定された実際の密度を用いて降伏応力(τy再再)を再度演算(再々演算)し、再度演算された降伏応力(τy再再)と再度配合を決定された可塑性グラウト材料の降伏応力(τyA再)を比較するのが好ましい。
そして、再度演算された降伏応力(τy再再)が再度配合を決定された可塑性グラウト材料の降伏応力(τyA再)以下の場合には、再度配合を決定された可塑性グラウト材料の配合を可塑性グラウト材料の配合として決定する。一方、再度演算された降伏応力(τy再再)が再度配合を決定された可塑性グラウト材料の降伏応力(τyA再)よりも大きい場合には、最初に演算された降伏応力(τy)を充足する可塑性グラウト材料の配合を再々度決定して、上述の工程を繰り返す。
ここで、可塑性グラウト材の密度を決定のするに際しては、実際に製造された可塑性グラウト材の密度を実測する手法や、配合される個々の材料の密度から計算によって決定する手法等により、実行することが出来る。
また、最初に選定された可塑性グラウト材の降伏応力(τyA)、再度配合を決定された可塑性グラウト材料の降伏応力(τyA再)は、「演算された降伏応力(τy)を充足する」という条件を充足するため、既存の測定技術、例えば、回転粘度計や球引上げ粘度計、平行板プラストメータ等の機器を使用して測定する方法、スランプ試験、フロー試験等のコンシステンシー試験の結果から換算する方法、その他の方法により、配合を決定する際に必ず測定される。
【0010】
本発明の実施に際して、前記モデルの立方体の一片の長さ(L)については、巨礫の体積と立方体の体積が等価になる様に、立方体の一片の長さ(L)を計算により求めるのが好ましい。
ここで、前記モデルの立方体の一片の長さ(L)を、平均的な巨礫の大きさを表す50%粒径(D50:中央値に該当)とすることが出来る。
或いは、前記モデルの立方体の一片の長さ(L)は、10%粒径(D10)とすることが出来る。
【発明の効果】
【0011】
上述の構成を具備する本発明の可塑性グラウト材料の配合決定方法によれば、施工対象地盤の性状(例えば、粒度分布や間隙率n等)から降伏応力(τy)を演算し、演算された降伏応力(τy)を充足する様に可塑性グラウト材の配合を決定しているので、客観的な基準(パラメータ)により配合を決定することが出来る。そのため、従来の経験に頼って可塑性グラウト材料の配合の決定を決める方法や、施工現場毎に配合を複数設定して試験施工を実施することにより配合を決定する方法に比較して、より適正な配合を客観的に且つ容易に決定することが出来る。
そして、過去における可塑性グラウト材料とその降伏応力(τy)の情報(データ)を用いることにより、個々の施工現場に適切な可塑性グラウト材料の配合を決定することが出来る。
【0012】
個々の施工現場毎に条件が異なり、或いは、同一の施工現場であっても、個々の礫の寸法、形状は異なるので、降伏応力(τy)の演算は非常に複雑且つ難解となる恐れがある。しかし本発明によれば、礫を同一サイズの立方体に置換し、礫間の間隙を同一径の複数の円管の組み合わせ(或いは円管のネットワーク)に置換したモデルを用いており、その様なモデルを用いる結果、市販の表計算ソフト(例えば、マイクロソフト社の商品名「Excel」)を用いて、降伏応力(τy)決定に必要な各種パラメータ及び降伏応力(τy)を容易に演算することが出来る。
そのため、配合決定に関する各種コストを低く抑えることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態における手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図2の巨礫地盤を簡略表示してモデル化した一例を示す説明図である。
【
図4】
図3の簡略表示したモデルを詳細に示す説明図である。
【
図5】単一の巨礫のモデルと、円管による欠損部を示す説明図である。
【
図6】ビンガム流体のせん断応力とせん断速度の関係を示す特性図である。
【
図7】円管内におけるグラウト材料の釣り合いの状態を示す説明図である。
【
図8】
図1のステップS5の詳細を示すフローチャートである。
【
図9】実施形態の変形例における手順を示すフローチャートである。
【
図10】変形例で用いられる特性の一例であって、モデル化された地盤の間隙率ごとの粒径Dと円管径dの関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図示の実施形態に係る可塑性グラウト材料の配合決定方法における手順を示す
図1において、ステップS1では、施工するべき地盤(対象地盤)における性状、例えば巨礫の粒度分布(例えば平均的な巨礫の大きさである50%粒径D
50或いは10%粒径D
10)や間隙率nを計測、調査等により把握する。
ステップS1による計測、調査等で求めた巨礫の粒度分布、間隙率nは、その後の工程でモデル円管の径dや対象地盤の降伏応力τyを演算するのに必要なデータであり、施工現場に適応した性状の可塑性グラウト材料の配合を決定する基礎データである。
【0015】
ステップS1に続くステップS2では、対象地盤である巨礫地盤を、礫1間の間隙を径寸法dの等間隔に配置された円管2に置き換え、礫1を立方体に置き換えたモデルに変換する。すなわち、
図2で示す礫1と間隙Cを有している巨礫地盤を、
図3で示す様に、等間隔dに配置された円管2と単一の形状と大きさの立方体により構成された礫1から成るモデルに変換する。
図2において、円管2は礫1の間の空白で表現されており、礫1を構成する立方体は正方形で表現されている。
【0016】
図3で簡略化して示すモデルは
図4で詳細に表示されている。
図4において、
図4(1)に示す複数の管径dの円管2のネットワークは、巨礫地盤の間隙をモデル化して表示したものである。
図4(1)では、巨岩地盤を構成する複数の礫1を3次元的に表示し、各礫1間の間隙を円管2(径寸法d:
図3)としている。
図4(1)では、ネットワークを構成する円管2が表示されているが、礫1は明確に表示されていない。
円管2は、各礫1間を3次元方向に延在している。
図4(2)に表示される様に、上述したモデルにおいて、礫1の形状は概略立方体であり、その全ての辺(12辺)が直径dの円管2により削除された様な形状のモデルに変換されている。
また、
図4(2)は巨礫地盤の間隙(直径dの円管2の部分)以外の空間を、複数の礫1として示している。そして
図4(3)は、
図4(2)で示す複数の礫1における単一の礫1を示している。
【0017】
図1のステップS2に続くステップS3では、ステップS2で置換された巨礫地盤のモデル(
図4(1)~
図4(3)参照)に基づいて、10%粒径D
10と間隙率nから、
図4のモデルにおける円管径dを演算する。ここで、礫の大きさとして10%粒径D
10を用いているが、平均的な巨礫の大きさを表す50%粒径D
50を用いることも出来る。
【0018】
巨礫の間隙を
図4に示す様に直径dの円管2のネットワークにモデル化した場合、
図4(3)で示す単一の礫1の形状は、
図5(1)~
図5(3)で示す様に、1辺の長さがLの立方体から、全ての辺(12辺)において、直径dの円管2の部分(直径dの円の1/4円弧の断面積を有する柱状体)の体積を減じた形状にモデル化されている。なお
図5において、円管2(直径dの円の1/4円弧の断面積を有する柱状体)は欠損部分Mである。
図5(1)において、1辺の長さがLの立方体から欠損した円管部分(欠損部M)は、
図5(1)の断面図である
図5(2)で示す様に、或いは単一の礫1を簡略化した
図5(3)で示す様に、4隅の欠損部Mを組み合わせると直径dの円形となる。
ここで、1辺の長さLの立方体の体積に対して、管径dの円管2によって前記立方体(1辺Lの立方体)の欠損部分の体積の比が、巨礫地盤の間隙率nに相当する。
【0019】
図5の巨礫モデルにおいて、礫1の1辺の長さをL、円管2の直径をdとした場合の欠損部Mの体積は下記の通りとなる。
M=3L(πd
2/4)-2×(2-2
1/2)d
3 [1]
礫1の体積は、直径dの3本の円管2が貫通した1辺の長さLの立方体の体積と等価である。前記3本の円管2は前記立方体の中央部で重なるので、欠損部Mの体積は、前記3本の円管2の体積から、重複した縁部分の体積{(2-2
1/2)d
3×2}を減じた値となる。
そして、モデル地盤の間隙率nは、1辺の長さLの立方体の体積に対する欠損部分Mの体積の比(例えば100分率)であるため、下式[2]となる。
n=(M/L
3)×100 [2]
式[1]、[2]を変形すると、下記式[3]が得られる。
n/100=(3π/4)(d
2/L
2)-2×(2-2
1/2)d
3/L
3 [3]
式(3)は「d/L」を変数とする3次方程式であり、間隙率nの値が定まれば(ステップS1で測定すれば)、例えば表計算ソフトの計算機能等を使用して式[3]の3次方程式を解くことで「d/L」を容易に求めることができる。
【0020】
また巨礫1ケ当たりの体積Vは、1辺Lの立方体から欠損部Mの体積を減じた数値なので、下式[4]で表現される。
V=L3-M [4]
式[2]、[4]から下式[5]が得られる。
(V/L3)=1-(n/100) [5]
式[5]における体積Vが、地盤の代表粒径(例えば10%粒径D10)を直径とする礫1の体積と等価であると考えれば、ステップS1で代表粒径(例えば10%粒径D10)の値から求めたVと、ステップS1で計測された間隙率nの値に基づき、式[5]から前記立方体の1辺の長さLの値を求めることができる。
Lの値が求まれば、前記式[3]の3次方程式の解である「d/L」の値から、円管径dの値が求まる。
【0021】
図1のステップS3に続くステップS4では、ステップS3で求めた円管径dの値、可塑性グラウト材料の密度ρ
gに基づいて、可塑性グラウト材料の降伏応力τyを演算する。
ステップS4において、先ず、グラウト材料が自重によって下方に流動しないために当該グラウト材料に求められる性状を、礫の大きさから求める態様について、説明する。
可塑性グラウト材料のレオロジー性状は、ビンガム流体と考えられる。
図6にビンガム流体におけるせん断応力(τ)とせん断速度(γ)の関係を示す。
このビンガム流体の流動式は下式[6]のようになる。
τ=τy+η
Bγ [6]
ここでτ
y:降伏応力
η
B:塑性粘度
【0022】
次に、円管内のグラウト材料の釣り合いを示す
図7において、鉛直に設置された直径dの円管2内の可塑性グラウト材料が、自重と円管2の内壁面との摩擦抵抗力によってつり合い、流動(流下)せずに留まっている場合について考える。
可塑性グラウト材料をビンガム流体と考えた場合、
図7において、円管2の内壁面に生じるせん断応力がビンガム流体における降伏応力より大きくなると流動が開始すると考えられる。そして
図7において、鉛直に設置された円管2内においてグラウト材料が自重により下方に流下することなく、
図7で示すつり合った状態で留まる場合のつり合い条件から、次式[7]が得られる。
(πd
2/4)・ρ
ggL≦πdL・τ
y [7]
ここでτ
y:降伏応力
d:円管の直径
L:円管内の可塑性グラウト材料の円管軸方向長
g:重力加速度
ρ
g:可塑性グラウト材料の密度
【0023】
式[7]より次式[8]が得られる。
d≦(4τ
y)/(ρ
gg) [8]
式[8]から、配合を決定するべき可塑性グラウト材料をビンガム流体として考えた場合の降伏応力およびグラウト材料の密度に応じて、当該可塑性グラウト材料が自重によって下方に流動しない条件(
図7)における円管径dが求まる。すなわち、
図7の円管内において、配合を決定するべき可塑性グラウト材がつり合った状態に留まり続けることのできる(
図7の状態)円管径dが求められる。
ここで、式[8]は空気中における円管内の可塑性グラウト材料のつり合いから求めた式であり、水中においては次式[8A]のようになる。
d≦(4τ
y)/{(ρ
g-ρ
w)g} [8A]
ρ
w:水の密度
【0024】
そして、
図7で示す様に、直径dの円管内において、自重によって下方に流動することのない可塑性グラウト材料の降伏応力τyは、式[8]を変形することにより式[9]のように求められる。
τy≧d(ρ
gg/4) [9]
また、水中において、重力により下方に移動しない可塑性グラウト材料の降伏応力τyは、式[8A]を変形することにより、式[10]により求められる。
τy≧d{(ρ
g-ρ
w)g/4} [10]
【0025】
図1のステップS4では、上述した態様により、円管径dの値、可塑性グラウト材料の密度ρ
gに基づいて、可塑性グラウト材料の降伏応力τyを演算する。
その際、可塑性グラウト材料の材料選定の最初期(当初)においては、可塑性グラウト材の密度ρ
gは、その可塑性グラウト材料の標準的な配合の密度(例えば1.8)と仮定して計算する。可塑性グラウト材の密度ρ
gは1.8前後の場合が多いからである。
図1のステップS5では、ステップS4で求めた降伏応力τy以上の降伏応力を有するようなグラウト材料の配合を決定する。係るグラウト材料の配合については、過去におけるグラウト材料の配合及びその降伏応力τyに関する情報に基づいて行うことが出来る。ステップS5では、決定された配合の可塑性グラウト材料を製造し、製造された可塑性グラウト材の密度ρ
gを決定し、決定された密度ρ
gにより降伏応力τyを再計算する。ここで、ステップS5で密度を決定するに際しては、可塑性グラウト材を実際に製造しても良いし、実際に製造することなく、配合から当該可塑性グラウト材の密度を計算しても良い。
ここで、「ステップS4で求めた降伏応力τy以上の降伏応力を有する」という条件を充足するため、ステップS5で配合を決定するに際しては、当該配合による可塑性グラウト材の降伏応力τy
Aが必ず決定される。その様な可塑性グラウト材の降伏応力τy
Aを決定するに際して用いられる降伏応力の測定方法としては、回転粘度計や球引上げ粘度計、平行板プラストメータ等の機器を使用して測定する方法があり、その他、スランプ試験、フロー試験等のコンシステンシー試験の結果から換算する方法もあることを付記する。ただし、本発明においては、降伏応力τyの測定方法については特に限定はしない。
【0026】
ステップS5の詳細は、
図8を参照して説明する。
図8において、ステップS51では、
図1のステップS4で計算された降伏応力τy以上の降伏応力τy
Aを有する(降伏応力τyを充足する)可塑性グラウト材料の配合を選定し、当該配合の可塑性グラウト材料を製造する。その際に、選定された配合の可塑性グラウト材料の降伏応力τy
Aを決定する。
ステップS52では、ステップS51で選定、製造された配合の可塑性グラウト材料における密度ρ
gを決定する。ここで、可塑性グラウト材の密度を決定するステップS52では、実際に製造された可塑性グラウト材の密度を実測して密度ρ
gを決定することが出来る。或いは、配合される個々の材料の密度から計算によって可塑性グラウト材の密度を決定することにより、可塑性グラウト材の密度ρ
gを決定することが出来る。すなわち、ステップS52で密度を決定するに際しては、ステップS51で実際に製造された可塑性グラウト材の密度を計測しても良いし、或いは、ステップS51で可塑性グラウト材を実際に製造せずに、選定された配合から当該可塑性グラウト材の密度を計算で求めることも出来る。
ステップS53では、ステップS52で決定された密度ρ
gを用いて可塑性グラウト材料の降伏応力τy
再を再計算する。
【0027】
図8におけるステップS54では、ステップS53で再計算された可塑性グラウト材料の降伏応力τy
再と、ステップS51で選定された配合の可塑性グラウト材料の降伏応力τy
Aを比較し、ステップS51で選定された配合の可塑性グラウト材料の降伏応力τy
Aが再計算された降伏応力τy
再以上の場合は(ステップS54が「Yes」)、ステップS55に進む。
一方、再計算された降伏応力τy
再がステップS51で選定された配合の可塑性グラウト材料の降伏応力τy
Aよりも大きい場合は(ステップS54が「No」)、ステップS51に戻る。
【0028】
ステップS55(τy再≦τyAの場合)では、「ステップS51で選定された配合の可塑性グラウト材料の降伏応力τyAが、ステップS53で再計算された降伏応力τy再以上である」ことを受け、ステップS51で選定した最初に計算された降伏応力τy(ステップS4で計算された降伏応力τy)を充足する可塑性グラウト材料の配合によれば可塑性グラウト材は下方に流動せずに球状に分布するので「適正」であると判断し、ステップS4で計算された降伏応力τyを充足する可塑性グラウト材料の配合(ステップS51で決定された配合)に決定する。
一方、ステップS54が「No」の場合(τy再>τyA)にはステップS51に戻り、ステップS54の判断結果が「ステップS51で選定された配合の可塑性グラウト材料の降伏応力τyAが、ステップS53で再計算された降伏応力τy再以上である再計算された降伏応力τy再より小さい」であるため、ステップS4で計算された降伏応力τyの配合による可塑性グラウト材料では、巨礫地盤に注入した際には球状に分布せず、下方へ流動してしまうと判断し、「ステップS4で求めた降伏応力τy以上の降伏応力を有する」という条件を充足する可塑性グラウト材料の配合を選択し直す。その際にも、当該新たに選択された配合の可塑性グラウト材料の降伏応力τyA再が決定される。
そしてステップS52で、選択し直した新たな配合の可塑性グラウト材料の実際の密度を決定し、ステップS53で再度決定された密度を用いて降伏応力(τy再再)を再々演算する。そして、新たに選択された配合の可塑性グラウト材料の降伏応力τyA再と比較して、τy再再≦τyA再であれば、降伏応力τyA再を有する新たに選択された可塑性グラウト材料の配合(繰り返し行われたステップS51で選定された配合)を適正な配合として決定する。
一方、τy再再>τyA再であれば、ステップS51~ステップS54のルーチンを繰り返す。すなわち必要に応じてステップS51~ステップS54のルーチンを繰り返し、可塑性グラウト材料の配合を適正な配合を決定する。
【0029】
図9、
図10は、図示の実施形態の変形例を示している。
図9で示す変形例の手順は、
図1のステップS3及びステップS4に相当する手順が異なっている。
図1のステップS1、S2、S5に相当する手順については、
図1~
図8で説明したのと同様である。
図9において、
図1~
図8で説明した手順と異なるステップについては、それぞれ「ステップS3A」、「ステップS4A」と符号を付している。ステップS3A、ステップS4Aについて、以下に説明する。
図1のステップS3では、巨礫地盤のモデル(
図4)に基づいて、10%粒径D
10と間隙率nから円管径dを演算している。それに対して、
図9のステップS3Aでは、ステップS2のモデルにおける礫の大きさ(例えば10%粒径D
10)と円管径dとの関係(円管径-礫粒径特性)を予め特定し、予め特定された礫の大きさと円管径dとの関係から、円管径dを決定している。
係る円管径dと礫粒径の特性は、その一例が例えば
図10で示されている。
図10は、
図4、
図5で示すモデル化された地盤の間隙率n(30%~50%)ごとに(間隙率nを変化させて)、巨礫地盤の粒径(例えば10%粒径D
10)とモデルにおける円管径dとの関係(特性)を示す。当該特性は、
図9の変形例の実施前の任意のタイミングで、施工現場毎に測定・決定する。
図9のステップS4Aでは、ステップS3Aで求めた円管径dの値、可塑性グラウト材料の密度ρ
gに基づいて、可塑性グラウト材料の降伏応力τyを演算する。
図9、
図10を参照して説明した変形例のその他の構成及び作用効果は、
図1~
図8の実施形態と同様である。
【0030】
図示の実施形態によれば、施工対象地盤の性状(例えば、粒度分布や間隙率n)から降伏応力τyを演算し、演算された降伏応力τyを充足する様に可塑性グラウト材の配合を決定しているので、客観的な基準(パラメータ)に基づき配合を決定することが出来る。
演算に際しては、礫1を同一サイズの立方体に置換し、礫間の間隙を同一径dの複数の円管1の組み合わせ(円管のネットワーク)に置換したモデルを用いて単純化している。係る様なモデルを用いる結果、市販の表計算ソフト(例えば、マイクロソフト社の商品名「Excel」)等を用いて、降伏応力τy決定に必要な各種パラメータ(立方体の1辺の長さL、円管径d)及び降伏応力τyを演算することが出来る。そのため、配合決定に関するコストを低く抑えることが出来る。
また、過去における可塑性グラウト材料とその降伏応力τyの情報(データ)により、個々の施工現場に適切な可塑性グラウト材料の配合を決定することが出来る。
【0031】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
例えば、図示の実施形態では礫の大きさとして10%粒径D10を用いているが、50%粒径D50を用いても良い。
【符号の説明】
【0032】
1・・・礫
2・・・円管
d・・・円管の直径
L・・・モデルの立方体(礫)の一片の長さ