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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112786
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】接着構造及び接着方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/48 20060101AFI20230807BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
B29C65/48
C09J5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014705
(22)【出願日】2022-02-02
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】512118370
【氏名又は名称】株式会社電子技研
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】小泉 剛
(72)【発明者】
【氏名】古川 勝紀
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 直人
(72)【発明者】
【氏名】谷田貝 朋紀
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖之
(72)【発明者】
【氏名】池田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】中谷 真大
【テーマコード(参考)】
4F211
4J040
【Fターム(参考)】
4F211AA13
4F211AA24
4F211AA26
4F211AA32
4F211AA34
4F211AD03
4F211AD04
4F211AD32
4F211AG03
4F211TA03
4F211TC02
4F211TD11
4F211TH24
4F211TN42
4J040EC001
4J040LA06
4J040MA02
4J040MA10
4J040PA15
(57)【要約】
【課題】基材や接着剤が難接着性のものであったとしても、基材表面を薬液により粗したり変質させたりすることなく、基材の表面と接着剤との接着強度の向上を図り、ひいては、同種又は異種の基材同士を強固に接着できるようにする。
【解決手段】第1基材、第2基材、及びこれらの基材の間に介在する接着剤からなる接着構造であって、第1基材又は第2基材の少なくとも一方の表面に官能基が存在しており、その官能基と、接着剤の有する官能基との少なくとも一部が、互いに反応することなく結合されているようにした。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基材、第2基材、及びこれらの基材の間に介在する接着剤からなる接着構造であって、
前記第1基材又は前記第2基材の少なくとも一方の表面に官能基が存在しており、その官能基と、前記接着剤の有する官能基との少なくとも一部が、互いに反応することなく結合されていることを特徴とする接着構造。
【請求項2】
前記第1基材及び前記第2基材の双方の表面に官能基が存在しており、それらの官能基と、前記接着剤の有する官能基との少なくとも一部が、互いに反応することなく結合されている、請求項1記載の接着構造。
【請求項3】
前記第1基材又は前記第2基材の少なくとも一方の表面に存在する前記官能基が、又は、前記接着剤の有する前記官能基が、-H、-NHx、-COOH、-C=O、-OH、-F、又は-CFxの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1又は2記載の接着構造。
【請求項4】
前記第1基材又は前記第2基材の少なくとも一方の表面に存在する前記官能基が、-NHxであることを特徴とする請求項1又は2記載の接着構造。
【請求項5】
前記第1基材と前記第2基材との一方又は両方が、PS(ポリスチレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、又は金属からなるものであることを特徴とする請求項1乃至4のうち何れか一項に記載の接着構造。
【請求項6】
前記第1基材と前記第2基材との一方が、銅、セラミック、又は金からなり、表面にプラズマ処理により前記官能基が形成されたものであって、その官能基と、エポキシ系接着剤又はシリコーン系接着剤に含まれる前記官能基との少なくとも一部が、互いに反応することなく結合されていることを特徴とする請求項1乃至5のうち何れか一項に記載の接着構造。
【請求項7】
前記接着剤は、比誘電率Dkが3.0以下のものである、請求項1乃至6のうち何れか一項に記載の接着構造。
【請求項8】
前記接着剤は、ガラス転移温度Tgが250℃以上のものである、請求項1乃至6のうち何れか一項に記載の接着構造。
【請求項9】
第1基材又は第2基材の少なくとも一方の表面にプラズマ処理により官能基を生成し、その官能基と、接着剤の有する官能基との少なくとも一部を、互いに反応させることなく結合させ、当該接着剤を介して前記第1基材の表面及び前記第2基材の表面を接着させることを特徴とする接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種又は同種の基材を接着させる接着構造及び接着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、プリント回路基板、半導体基板、タッチパネル、液晶基板、スポーツ用品、文房具など、種々の製品の製造プロセスにおいて、同種又は異種の基材を貼り合わせる工程があり、かかる工程に接着剤が用いられることがままある。
【0003】
なお、接着剤を用いる理由の一つとしては、異種の基材を貼り合わせる場合に、これらを直接的に貼り合わせてしまうと、熱膨張率の差に起因して応力が発生して基材の割れ等が生じる恐れがあるところ、基材の間に接着剤を介在させることにより、その接着剤が緩衝材として働き、上述した割れ等を防ぐことができるといった理由が挙げられる。
【0004】
ここで、基材が例えばテフロン等のような難接着性のものであったり、接着剤が誘電率の低いもの又は耐熱性の高いものであったりすると、基材の表面と接着剤との間の接着強度が弱く、ひいては基材を貼り合わされてなる製品の不良を招来し得る。
【0005】
そこで、従来、上述した難接着性の基材や難接着性の接着剤を用いる場合、基材の表面と接着剤との間の接着強度の向上を図るべく、基材表面を粗したり変質させたりする前処理がなされており、この前処理には、例えば金属Naアンモニア水、過Mn酸などの劇薬や特殊薬液を用いられている。
【0006】
ところが、上述した劇薬や特殊薬液は、使用や廃液による環境負荷が大きく、特に近時における種々の環境保全の要請に鑑みれば、今後も使用し続けることは難しくなることが予想される。
【0007】
一方、接着剤を用いずに2枚の基材を貼り合わせる方法としては、例えば特許文献1に示すように、フッ素樹脂シートの表面にプラズマ処理により-OH基を生成し、このフッ素樹脂シートの表面を金属部材に接合させる方法がある。
【0008】
しかしながら、-OH基による脱水縮合など、官能基の反応により得られる実際の接着力は決して強いとは言えず、例えばテフロン等のような難接着性の基材に対しては、これまで十分な接着力が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5152784号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題を一挙に解決するべくなされたものであり、基材や接着剤が難接着性のものであったとしても、基材表面を薬液により粗したり変質させたりすることなく、基材の表面と接着剤との接着強度の向上を図り、ひいては、同種又は異種の基材同士を強固に接着できるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明に係る接着構造は、第1基材、第2基材、及びこれらの基材の間に介在する接着剤からなる接着構造であって、前記第1基材又は前記第2基材の少なくとも一方の表面に官能基が存在しており、その官能基と、前記接着剤の有する官能基との少なくとも一部が、互いに反応することなく結合されていることを特徴とするものである。
【0012】
このような接着構造によれば、第1基材及び第2基材の少なくとも一方の表面に存在する官能基と、接着剤の有する官能基との少なくとも一部が、例えば共有結合や分子結合などにより、互いに反応することなく結合されているので、少なくとも一方の基材の表面と接着剤との機械的強度の向上を図れる。
これにより、第1基材又は第2基材の一方が仮にテフロン等の難接着性のものであったり、接着剤が難接着性のものであったりしても、基材表面を薬液により粗したり変質させたりすることなく、一方の基材の表面と接着剤との接着強度を向上させることができ、ひいては、第1基材及び第2基材を強固に接着することができる。
【0013】
前記第1基材及び前記第2基材の双方の表面に官能基が存在しており、それらの官能基と、前記接着剤の有する官能基との少なくとも一部が、互いに反応することなく結合されていることが好ましい。
これならば、第1基材及び第2基材の双方が難接着性のものであったとしても、双方の基材の表面を薬液により粗したり変質させたりすることなく、双方の基材それぞれの表面と接着剤との接着強度を向上させることができる。
【0014】
難接着性の基材に対して十分な接着力を得るための一実施態様としては、前記第1基材又は前記第2基材の少なくとも一方の表面に存在する前記官能基が、又は、前記接着剤の有する前記官能基が、-H、-NHx、-COOH、-C=O、-OH、-F、又は-CFxの少なくとも一つであることが好ましい。なお、xは1以上の自然数である。
【0015】
前記第1基材又は前記第2基材の少なくとも一方の表面に存在する前記官能基が、-NHxであることが好ましい。
これならば、フッ素樹脂などの難接着基材と低誘電接着剤との接着力を向上させる機能が特に優れたものとなる。
【0016】
本発明の作用効果は、基材が難接着性の場合により顕著に発揮され、かかる基材としては、前記第1基材と前記第2基材との一方又は両方が、PS(ポリスチレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、又は金属からなるものを挙げることができる。
【0017】
また、基材と接着剤との接着強度が従来に比べて飛躍的に向上する実施態様としては、前記第1基材と前記第2基材との一方が、銅、セラミック、又は金からなり、表面にプラズマ処理により前記官能基が形成されたものであって、その官能基と、エポキシ系接着剤又はシリコーン系接着剤に含まれる前記官能基との少なくとも一部が、互いに反応することなく結合されている態様を挙げることができる。
【0018】
また、本発明の作用効果は、接着剤の誘電率が低い場合、或いは、接着剤の耐熱性が高い場合に、より顕著に発揮され、かかる接着剤としては、比誘電率Dkが3.0以下のもの、或いは、ガラス転移温度Tgが250℃以上のものを挙げることができる。
【0019】
また、本発明に係る接着方法は、第1基材又は第2基材の少なくとも一方の表面にプラズマ処理により官能基を生成し、その官能基と、接着剤の有する官能基との少なくとも一部を、互いに反応させることなく結合させ、当該接着剤を介して前記第1基材の表面及び前記第2基材の表面を接着させることを特徴とする方法である。
このような接着方法であっても、上述した接着構造と同様の作用効果を奏し得る。
【発明の効果】
【0020】
このように構成した本発明によれば、基材や接着剤が難接着性のものであったとしても、基材表面を薬液により粗したり変質させたりすることなく、基材の表面と接着剤との接着強度の向上を図り、ひいては、同種又は異種の基材同士を強固に接着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係るプラズマ処理装置の構成を模式的に示す図。
図2】同実施形態における接着方法の手順を示すフローチャート図。
図3】同実施形態における接着構造の構成を示す概念図。
図4】同実施形態における官能基の結合態様を示す概念図。
図5】同実施形態における接着構造をX線解析した解析結果。
図6】同実施形態における接着構造の接着強度の評価概念図。
図7】同実施形態における官能基の付与前のPTFEフィルムをX線解析した結果。
図8】同実施形態における官能基の付与後のPTFEフィルムをX線解析した結果。
図9】その他の実施形態における接着構造の構成を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係る接着構造及びこの接着方法について図面を参照しながら説明する。
【0023】
<装置構成>
まず、接着構造を製造するための装置について説明する。
【0024】
本装置は、基材の表面をプラズマ処理するプラズマ処理装置100であり、図1に示すように、真空チャンバ1と、真空チャンバ1内に設けられて基材Wを支持する下部電極2と、真空チャンバ1内において基材Wに対向配置された上部電極3と、高周波電源4とを具備し、高周波電源4から1kHz~2.45GHzまでの例えば13.50MHzの高周波電力を下部電極2に供給するとともに、上部電極3を接地することで、真空チャンバ1内にプラズマPを生成するように構成されている。また、本プラズマ処理装置100は、基材材質、反応ガスの種類などによっては、下部電極2を接地するとともに、上部電極3に高周波電力を供給する方式へ切り替え可能に構成されている。
【0025】
そして、この実施形態のプラズマ処理装置100は、基材Wの表面に官能基を生成するために用いられ、生成する官能基に対応したプロセスガスGが0.1~10000Paの減圧下で真空チャンバ1内に供給される。
【0026】
<接着方法>
次に、上述したプラズマ処理装置を用いて、異種又は同種の第1基材及び第2基材を、接着剤を用いつつ接着させる手順について、図2のフローチャートや図3の概念図を参照しながら説明する。
【0027】
第1基材及び第2基材としては、例えば平板状のものであり、具体的には、PS(ポリスチレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、又はPET(ポリエチレンテレフタレート)などの難接着性樹脂からなるものや、銅、アルミニウム、或いは鉄などの金属からなるものを挙げることができる。
【0028】
以下では、例えば5G対応における60~80GHzの高周波特性を有するプリント回路基板として用いられる異種の第1基材及び第2基材を接着させる方法について述べることとし、第1基材がフッ素樹脂製のものであり、第2基材が銅などの金属製のものである場合について説明する。
【0029】
ただし、基材の用途や材質等はこれに限定されるものではなく、例えば、基材としては、半導体基板、タッチパネル、液晶基板、スポーツ用品、文房具など種々の製品の製造プロセスに用いられるものとして構わない。
【0030】
まず、第1基材(以下、樹脂基材ともいう)を上述したプラズマ処理装置によりプラズマ処理することにより、図2及び図3に示すように、この樹脂基材の表面にダングリングボンドを形成する(S1)。
【0031】
具体的には、樹脂基材をプラズマエッチングすることで、表面のC-F結合からF原子を切り離して、C原子のダングリングボンド(未結合手)を形成し、樹脂基材の表面の反応性を活性化させる。
【0032】
次に、図2及び図3に示すように、ダングリングボンドに所望の官能基(以下、第1の官能基ともいう)を結合させる(S2)。
【0033】
具体的には、上述したプロセスガスとして、第1の官能基に対応するガス種を選択して、真空チャンバ内に供給することで、第1の官能基がプラズマ化されてダングリングボンドと結合する。
【0034】
本実施形態では、親水性の官能基であるアミノ基を第1の官能基として樹脂基材の表面に形成するようにしており、プロセスガスは、アンモニウムガス等のアミノ基含有ガスである。
【0035】
より詳細には、真空チャンバに1sccm以上の流量でアンモニウムガスを供給し、プロセス圧力を0.1~10,000Paに維持する雰囲気のもと、1kHz~2.45GHzの高周波を0.01~3W/cmのパワー密度で印加して高周波減圧プラズマ処理する。
なお、プロセスガスとしては、アミノ基含有ガスと希ガスや不活性ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe、N)との混合ガスであっても良い。
【0036】
これにより、アミノ基である-NH(2級アミノ基)や-NH(1級アミノ基)がプラズマ化され、樹脂基材の表面に形成されたダングリングボンドと結合する。なお、第1の官能基としては、アミノ基である-NHxに限らず、-H、-COOH、-C=O、-OH、-F、又は-CFxなどであっても良い。
【0037】
ここで、S2における第1の官能基の形成は、例えば基材の材質や第1の官能基の種類などに鑑みて、S1におけるダングリングボンドの形成とともに行っても良いし、S1におけるダングリングボンドの形成の後に、S1とは別の工程として行っても良い。
【0038】
すなわち、真空チャンバ内にアミノ基含有ガスを供給しながら樹脂基材をプラズマエッチングすれば、ダングリングボンドの形成とともにアミノ基の形成が進行するので、S1の工程及びS2の工程が1つの工程として同時に進行する。
【0039】
一方、真空チャンバ内に例えばハロゲンガス等のアミノ基含有ガスとは別のプロセスガスを供給しながら樹脂基材をプラズマエッチングすれば、ダングリングボンドの形成後に、プロセスガスをハロゲンガスからアミノ基含有ガスに切り替えて、第1の官能基の形成することになり、S1の工程及びS2の工程が別工程として進行する。
【0040】
次に、図3に示すように、第2基材(以下、銅基材ともいう)を上述したプラズマ処理装置によりプラズマ処理することにより、この銅基材の表面に所謂マイクロクラックを形成する(S3)。なお、ここでいうマイクロクラックは、微小アンカーから原子格子欠損までを含むものである。
【0041】
具体的には、銅基材をプラズマエッチングすることで、表面に数nm~数百nm程度又はそれよりも小さい欠陥(微小アンカーから原子格子欠損までを含むマイクロクラック)を、官能基を結合させるための構造物として形成する。
【0042】
次に、図3に示すように、微小構造物であるマイクロクラックに所望の官能基(以下、第2の官能基ともいう)を結合させる(S4)。
具体的には、上述したプロセスガスとして、第2の官能基に対応するガス種を選択して、真空チャンバ内に供給することで、第2の官能基がプラズマ化されてマイクロクラックに結合する。
【0043】
本実施形態では、銅基材の表面に-Hや-OH(ヒドロキシ基)を第2の官能基として形成するようにしており、プロセスガスとしては、水素ガスを含むものを用いており、例えば水素ガスそのものであっても良いし、水素ガスを希ガスや不活性ガスによって混合希釈したものであっても良い。
【0044】
より詳細には、真空チャンバに1sccm以上の流量で水素ガスを供給し、プロセス圧力を1~1,000Paに維持する雰囲気のもと、1~100MHzの高周波を0.01~3W/cmのパワー密度で印加して高周波減圧プラズマ処理する。
なお、プロセスガスとしては、水素ガスと希ガスや不活性ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe、N)との混合ガスであっても良い。
【0045】
これにより、-Hや-OHがプラズマ化され、銅基材の表面に形成されたマイクロクラックに結合する。なお、第2の官能基としては、-Hや-OHに限らず、-NHx、-COOH、-C=O、--F、又は-CFxなどであっても良い。
【0046】
ここで、S2における第1の官能基の形成と同様、S4における第2の官能基の形成は、例えば基材の材質や第2の官能基の種類などに鑑みて、S3におけるマイクロクラックの形成とともに行っても良いし、S3におけるマイクロクラックの形成の後に、S3とは別の工程として行われても良い。
【0047】
すなわち、真空チャンバ内に例えば水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを供給しながら銅基材をプラズマエッチングすれば、マイクロクラックの形成とともに-Hや-OHの官能基形成が進行するので、S3の工程及びS4の工程が1つの工程として同時に進行する。
【0048】
一方、真空チャンバ内に例えばアルゴンガス等の水素ガスとは別のプロセスガスを供給しながら銅基材をプラズマ処理すれば、この銅基材にマイクロクラックを形成することができ、その後プロセスガスをアルゴンガスから水素ガス或いは水素ガスと希ガスや不活性ガスとの混合ガスに切り替えることで、第2の官能基を形成することができ、S3の工程及びS4の工程が別工程として進行する。
【0049】
上述したS1~S4の工程により、第1の官能基及び第2の官能基は、それぞれ第1基材及び第2基材の表面から原子レベルから数十nm程度の厚みで形成される。
【0050】
なお、この実施形態では、第1基材である樹脂基材に第1の官能基を形成した後、第2基材である銅基材に第2の官能基を形成しているが、これらの工程の順序は逆であっても良いし、複数のプラズマ処理装置を用いて同時に行っても良い。
【0051】
そして、図2及び図3に示すように、第1基材たる樹脂基材の第1の官能基が形成された表面と、第2基材たる銅基材の第2の官能基が形成された表面とを対向させるとともに、これらの第1基材及び第2基材を接着剤を介して接着させる(S5)。
【0052】
接着剤は、図3に示すように、官能基(以下、第3の官能基ともいう)を有する有機物であり、例えばエポキシ系接着剤又はシリコーン接着剤などを挙げることができる。なお、第3の官能基としては、-H、-NHx、-COOH、-C=O、-OH、-F、又は-CFxなどを挙げることができる。
【0053】
具体的にここでの接着剤は、高周波特性の高い低誘電率のものを用いており、例えば比誘電率Dkが3.0以下の難接着性のものである。
ただし、接着剤としては、その他の難接着性のものとしては、耐熱性の高いものを挙げることができ、例えばガラス転移温度Tgが250℃以上のものであっても良い。さらに、接着剤としては、必ずしも難接着性のものに限らず、接着性の高いものであっても良く、比誘電率Dkやガラス転移温度Tgは、必ずしも上述した数値範囲に限るものでもない。
【0054】
この接着工程S5は、第1基材の表面と第2基材の表面とを可及的にフラットにして近づけるべく、第1基材及び第2基材に荷重を与える工程であり、具体的には、これらの表面を例えば数nm程度に近づけるために加圧しており、ここでは第1基材及び第2基材に加える荷重を0.5kg/cmとしている。
なお、第1基材の表面と第2基材の表面とを密接させる方法としては、加圧に限らず、真空引き等を利用した方法など、適宜変更して構わない。
【0055】
このようにして、第1基材の表面と第2基材の表面とが可及的にフラットになり、例えば数nm程度に近づくと、第1の官能基及び第3の官能基の間に互いに引き合う力が生じるとともに、第2の官能基及び第3の官能基の間に互いに引き合う力が生じる。
【0056】
その結果、第1基材及び第2基材は、第1の官能基及び第3の官能基の間に生じる共有結合、水素結合、又は分子結合、及び、第2の官能基及び第3の官能基の間に生じる共有結合、水素結合、又は分子結合によって接着される。
【0057】
<接着構造>
このように接着された第1基材の表面、及び、第2基材の表面は、粗されたり変質させられたりしておらず、極めて高い平坦度を有している。
【0058】
そして、第1基材、第2基材、及びこれらの基材の間に介在する接着剤からなる接着構造は、第1基材又は第2基材の少なくとも一方の表面に存在する官能基と、接着剤の官能基との少なくとも一部が、互いに反応することなく結合されていることを特徴とする。
【0059】
この実施形態では、第1基材及び第2基材の双方の表面に官能基が存在しており、それらの官能基と、接着剤の有する官能基との少なくとも一部が、互いに反応することなく結合されている。
【0060】
具体的には、図4(a)に示す例では、第1基材及び第2基材の一方の表面に存在する末端官能基と、第1基材及び第2基材の一方の表面に存在する-Hとの間に、これらの極性が異なることにより引き付けあう力が生じ、この力により、第1基材及び第2基材の表面に存在する官能基の少なくとも一部が、共有結合又は水素結合により結合されている。
【0061】
また、図4(b)に示す例では、分子内の電子の偏りにより発生した極性によって引き付けあう力が生じ、この力により第1基材及び第2基材の表面に存在する官能基が、分子間力(ファンデルワールス力)により結合がされている。
【0062】
図5に示すスペクトルは、本実施形態の接着構造をX線解析した結果である。具体的には、共有結合を確認するべく、第1基材である樹脂基材(具体的にはフッ素樹脂)の表面に、プラズマ処理により第1の官能基としてアミノ基を付与してプラズマ改質層(NH3処理層)を形成し、その層に接着剤としてエポキシ系接着剤を塗布した接着構造物を作成し、その接着構造物を例えば数nmずつエッチングしながらXPSにより解析した結果である。
なお、第1基材への官能基の付与に用いたプラズマ表面処理装置は、株式会社電子技研製プラズマ装置であり、解析に用いたXPSは、大阪産業技術研究所所有の設備であり島津製作所製のAXIS ULTRAである。
【0063】
この解析結果から分かるように、上述した接着構造物は、化学結合状態が互いに異なる3層、すなわち接着剤、プラズマ改質層(NH3処理層)、及び、樹脂基材の3層で構成されており、各々が単独層として存在していることが確認された。
【0064】
このことは、第1基材の表面に官能基が存在しており、その官能基と、接着剤の有する官能基との少なくとも一部が、互いに反応することなく結合されていることの証左である。
【実施例0065】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、その趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することが勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0066】
まず、図6に示す模式図は、本発明の効果を評価する接着強度の評価概念図である。具体的には、フッ素樹脂Fの表面及び裏面に試料S(プラズマ処理により基材の表面に官能基を付与したものや、未処理のもの)を設け、それらの試料Sに接着剤Xを塗布して引張治具にZ取り付け、0.5mm/minの速度で引っ張った際の最大点応力を測定することで、接着強度を評価した。
【0067】
[銅とエポキシ系接着剤との接着強度評価]
表1に記載のプラズマ処理条件により銅の表面に官能基を付与し、接着剤としてエポキシ系接着剤を用いた結果、表2に示すように、未処理のもの(基材に官能基を付与することなく接着剤を塗布したもの)に比べて約4倍の接着強度となり、密着性が大幅に向上されていることが示された。
【0068】
【表1】
なお、当業者であれば当然に理解できようが、高周波のパワー500[W]は、パワー密度に換算すると0.13[W/cm]である。
【0069】
【表2】
【0070】
[金とシリコーン系接着剤との接着強度評価]
表3に記載のプラズマ処理条件により金の表面に官能基を付与し、接着剤としてシリコーン系接着剤を用いた結果、表4に示すように、未処理のもの(基材に官能基を付与することなく接着剤を塗布したもの)に比べて約4倍の接着強度となり、密着性が大幅に向上されていることが示された。
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
[セラミックスとシリコーン系接着剤との接着強度評価]
表5に記載のプラズマ処理条件によりセラミックスの表面に官能基を付与し、接着剤としてシリコーン系接着剤を用いた結果、表6に示すように、未処理のもの(基材に官能基を付与することなく接着剤を塗布したもの)に比べて約4倍の接着強度となり、密着性が大幅に向上されていることが示された。
【0074】
【表5】
【0075】
【表6】
【0076】
[PTFEとエポキシ系接着剤との接着強度評価]
表7に記載のプラズマ処理条件によりPTFEの表面に官能基を付与し、接着剤としてエポキシ系接着剤を用いた結果、表8に示すように、未処理のもの(基材に官能基を付与することなく接着剤を塗布したもの)に比べて接着強度の向上が見られ、密着性が大幅に向上されていることが示された。
【0077】
【表7】
【0078】
【表8】
【0079】
[ポリイミドとエポキシ系接着剤との接着強度評価]
表9に記載の2ステップのプラズマ処理条件によりポリイミドの表面に官能基を付与し、接着剤としてエポキシ系接着剤を用いた結果、表10に示すように、未処理のもの(基材に官能基を付与することなく接着剤を塗布したもの)に比べて約4倍の接着強度となり、密着性が大幅に向上されていることが示された。
【0080】
【表9】
【0081】
【表10】
【0082】
ここで、上述した実施例を代表して、表8における試料2のPTFEフィルムをX線解析した結果を図7及び図8に示す。なお、図7は官能基の付与前のものであり、図8は官能基の付与後のものである。
【0083】
官能基の付与前のスペクトル(図7)において、Cに着目するとフィルム起因のCF結合のピークが現れており、一方でO及びNに着目すると、これらの元素に起因する結合のピークは現れていない。
【0084】
これに対して、官能基の付与後のスペクトル(図8)において、Cに着目するとCF結合とは別のピークが現れており、O及びNに着目しても、これらの元素に起因するピークが現れており、官能基が付与されていることが見て取れる。なお、Oに現れているピークは、PTFEフィルムをプラズマ処理したことにより表面が親水化されたことによるものと推測される。
【0085】
以上に述べたように、本実施形態に係る接着構造及び接着方法によれば、第1基材又は第2基材の一方が仮にテフロン等の難接着性のものであったり、接着剤が難接着性のものであったりしても、基材表面を薬液により粗したり変質させたりすることなく、一方の基材の表面と接着剤との接着強度を向上させることができ、ひいては、第1基材及び第2基材を強固に接着することができる。
これにより、環境負荷の低減を図りつつも、高周波特性の高いプリント基板を製造することができ、例えば高速通信技術などに資する。
【0086】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0087】
例えば、前記実施形態では、樹脂基材と銅基材とを接着する場合について説明したが、同種の基材、例えば2枚の銅基材同士や2枚の樹脂基材同士を接着剤を介して接着しても良い。
例えば2枚の樹脂基材同士を接着させる場合、図9に示すように、一方の基材の表面に-H、-NHx、-COOH、、-C=O、-OH、-F、又は-CFxの少なくとも一つの官能基を形成し、他方の基材の表面に-H、-NHx、-COOH、、-C=O、-OH、-F、又は-CFxの少なくとも一つの官能基を形成し、これらの基材の一方又は両方に接着剤を塗布して接着すれば良い。
【0088】
また、第1基材又は第2基材の一方が樹脂や金属であれば、他方は、例えばセラミックや木材など、樹脂や金属とは異なる材質からなるものであっても構わない。
【0089】
さらに、前記実施形態では第2基材として、銅基材について説明したが、アルミニウム基材や鉄鋼基材などであっても良い。この場合、アルミニウム基材や鉄鋼基材の表面に-H、-NHx、-COOH、、-C=O、-OH、-F、又は-CFxの少なくとも一つの官能基を形成すれば良い。
【0090】
そのうえ、前記実施形態では2枚の基材を接着させる場合について説明したが、異種又は同種の3枚以上の基材を接着剤を介して接着させる場合に、本発明に係る接着構造や接着方法を適用しても良い。
【0091】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0092】
X ・・・プラズマ処理装置
P ・・・プラズマ
1 ・・・真空チャンバ
2 ・・・下部電極
3 ・・・上部電極
4 ・・・高周波電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9