(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112798
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤およびその利用
(51)【国際特許分類】
D21H 21/22 20060101AFI20230807BHJP
D21H 17/44 20060101ALI20230807BHJP
D21J 1/00 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
D21H21/22
D21H17/44
D21J1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014739
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000234166
【氏名又は名称】伯東株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】野口 尊生
(72)【発明者】
【氏名】田邊 玲太
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA11
4L055AC09
4L055AG33
4L055AG80
4L055AG84
4L055AH50
4L055EA34
4L055FA16
4L055GA24
(57)【要約】
【課題】建材ボードとしての繊維混入板の嵩高性を向上させつつ、繊維混入板の強度低下を抑制できる技術を提供する。
【解決手段】セメントとパルプとを含有する建材ボードとしての繊維混入板に用いられる嵩高剤は、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方とカチオンポリマーとを含むことを特徴とし、建材ボードとしての繊維混入板は、セメントと、パルプと、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、カチオンポリマーとを含むことを特徴とし、建材ボードとしての繊維混入板の製造方法は、パルプと、セメントと、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、カチオンポリマーと、を混合する混合工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントとパルプとを含有する建材ボードとしての繊維混入板に用いられる嵩高剤であって、
有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、カチオンポリマーと、を含むことを特徴とする、
建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤。
【請求項2】
請求項1に記載の建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤において、
前記カチオンポリマーは、pH12以上において2meq/g以上のカチオン電荷を有することを特徴とする、
建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤において、
前記カチオンポリマーに対する、前記有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方の質量比(前記有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方/前記カチオンポリマー)は、0.04以上10以下であることを特徴とする、
建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤において、
前記カチオンポリマーは、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドを含むことを特徴とする、
建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤。
【請求項5】
建材ボードとしての繊維混入板であって、
セメントと、
パルプと、
有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、
カチオンポリマーと、を含むことを特徴とする、
建材ボードとしての繊維混入板。
【請求項6】
建材ボードとしての繊維混入板の製造方法であって、
パルプと、セメントと、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、カチオンポリマーと、を混合する混合工程を含むことを特徴とする、
建材ボードとしての繊維混入板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の建材ボードとしての繊維混入板の製造方法において、
前記混合工程は、
前記パルプを含有するパルプスラリーに、前記有機ホスホン酸その塩とのうちの少なくとも一方と、前記カチオンポリマーと、を混合する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記セメントを混合する第2工程と、
を含むことを特徴とする、
建材ボードとしての繊維混入板の製造方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の建材ボードとしての繊維混入板の製造方法において、
前記混合工程では、前記有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方を、前記パルプの質量に対して100mgPO4/kg以上5000mgPO4/kg以下の割合で混合することを特徴とする、
建材ボードとしての繊維混入板の製造方法。
【請求項9】
請求項6から請求項8までのいずれか一項に記載の建材ボードとしての繊維混入板の製造方法において、
前記混合工程では、前記カチオンポリマーを、前記パルプの質量に対して500mg/kg以上3000mg/kg以下の割合で混合することを特徴とする、
建材ボードとしての繊維混入板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建材ボードとしての繊維混入板において、材料価格の高騰、環境保護の必要性および資源の有効利用等の観点から、嵩高さに重要なパルプの使用量を減らしつつも、繊維混入板の厚みを維持することが望まれている。
【0003】
製紙の分野で用いられるパルプ嵩高剤としては、高級アルコールや、そのアルキレンオキシド付加物を含有する紙用嵩高剤(特許文献1)、油脂または糖アルコール系非イオン界面活性剤を含有する紙用嵩高剤(特許文献2)、脂肪酸のアルキレンオキシド付加物を含有する紙用嵩高剤(特許文献3)、カチオン性化合物、アミン、アミンの酸塩、両性化合物を含有する紙用嵩高剤(特許文献4)、更には多価アルコール脂肪酸エステルの紙用嵩高剤(特許文献5)や、脂肪族カルボン酸とポリアミンから得られる化合物にエピハロヒドリンを反応して得られる化合物を含有する紙用嵩高剤(特許文献6)が知られている。
【0004】
特許文献7には、嵩高な無機質板の製造方法として、スラリーにアルコキシシラン類を添加し、混合撹拌で発泡を促して微細気泡を含ませる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第98/03730号パンフレット
【特許文献2】特開平11-200283号公報
【特許文献3】特開平11-200284号公報
【特許文献4】特開平11-269799号公報
【特許文献5】特開平11-350380号公報
【特許文献6】特開2000-273792号公報
【特許文献7】特開2004-255618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~6に記載の紙用嵩高剤は、酸性~中性のスラリーに添加される。このため、スラリーの液性が強アルカリ性である繊維混入板においては、十分な嵩高効果が得られないことを本願発明者らは見出した。また、繊維混入板のスラリーは、カルシウムイオン濃度が極めて高い。このため、カルシウムイオン濃度が高くない対象物に適用される紙用嵩高剤を繊維混入板に用いても、十分な嵩高効果が得られないことを本願発明者らは見出した。
【0007】
また、特許文献7に記載の方法では、混合撹拌時の泡立ちの制御が必要であるため、品質の安定した繊維混入板の製造が困難となるおそれがあり、その結果、安定した嵩高効果が得られないことを本願発明者らは見出した。加えて、特許文献7に記載の方法では、気泡の混入により加圧成型時に水走りが生じて成型材に切れが生じるおそれがあり、繊維混入板の品質を損なうおそれがある。
【0008】
ここで、本願発明者らは、有機ホスホン酸を用いることにより、繊維混入板の嵩高性を向上できることを見出した。しかしながら、有機ホスホン酸を繊維混入板に用いると、繊維混入板の強度が低下するおそれがあることを、本願発明者らは見出した。一般に、嵩高性向上と強度低下とは、トレードオフの関係にある。このため、繊維混入板の嵩高性を向上させつつ、繊維混入板の強度低下を抑制できる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することができる。
【0010】
(1)本発明の一形態によれば、建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤が提供される。この繊維混入板用嵩高剤は、セメントとパルプとを含有する建材ボードとしての繊維混入板に用いられる嵩高剤であって、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、カチオンポリマーと、を含むことを特徴とする。この形態の繊維混入板用嵩高剤によれば、建材ボードとしての繊維混入板の嵩高性を向上させつつ、繊維混入板の強度低下を抑制できる。
【0011】
(2)上記形態の建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤において、前記カチオンポリマーは、pH12以上において2meq/g以上のカチオン電荷を有していてもよい。この形態の繊維混入板用嵩高剤によれば、繊維混入板の強度低下をより抑制できる。
【0012】
(3)上記形態の繊維混入板用嵩高剤において、前記カチオンポリマーに対する、前記有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方の質量比(前記有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方/前記カチオンポリマー)は、0.04以上10以下であってもよい。この形態の繊維混入板用嵩高剤によれば、繊維混入板の強度低下をより抑制できる。
【0013】
(4)上記形態の繊維混入板用嵩高剤において、前記カチオンポリマーは、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドを含んでいてもよい。この形態の繊維混入板用嵩高剤によれば、また、アルカリ条件下においても電荷を失いにくいポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドをカチオンポリマーとして用いるので、繊維混入板の嵩高性をより向上させつつ、繊維混入板の強度低下をより抑制できる。
【0014】
(5)本発明の他の形態によれば、建材ボードとしての繊維混入板が提供される。この建材ボードとしての繊維混入板は、セメントと、パルプと、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、カチオンポリマーと、を含むことを特徴とする。この形態の繊維混入板によれば、嵩高性に優れつつ強度低下を抑制できる。
【0015】
(6)本発明の他の形態によれば、建材ボードとしての繊維混入板の製造方法が提供される。この建材ボードとしての繊維混入板の製造方法は、パルプと、セメントと、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、カチオンポリマーと、を混合する混合工程を含むことを特徴とする。この形態の繊維混入板の製造方法によれば、繊維混入板の嵩高性を向上させつつ、繊維混入板の強度低下を抑制できる。
【0016】
(7)上記形態の繊維混入板の製造方法において、前記混合工程は、前記パルプを含有するパルプスラリーに、前記有機ホスホン酸その塩とのうちの少なくとも一方と、前記カチオンポリマーと、を混合する第1工程と、前記第1工程の後に、前記セメントを混合する第2工程と、を含んでいてもよい。この形態の繊維混入板の製造方法によれば、繊維混入板の嵩高性をより向上させつつ、繊維混入板の強度低下をより抑制できる。
【0017】
(8)上記形態の繊維混入板の製造方法において、前記混合工程では、前記有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方を、前記パルプの質量に対して100mgPO4/kg以上5000mgPO4/kg以下の割合で混合してもよい。この形態の繊維混入板の製造方法によれば、繊維混入板の嵩高性を向上させつつ、繊維混入板の強度低下をより抑制できる。
【0018】
(9)上記形態の繊維混入板の製造方法において、前記混合工程では、前記カチオンポリマーを、前記パルプの質量に対して500mg/kg以上3000mg/kg以下の割合で混合してもよい。この形態の繊維混入板の製造方法によれば、繊維混入板の嵩高性を向上させつつ、繊維混入板の強度低下をより抑制できる。
【0019】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、繊維混入板用嵩高剤の製造方法、繊維混入板を用いた建造物等の態様で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤
本発明の一実施形態である嵩高剤は、セメントとパルプとを含有する建材ボードとしての繊維混入板に用いられる。本実施形態の嵩高剤は、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、カチオンポリマーとを含むことを特徴とする。
【0021】
有機ホスホン酸とは、分子中に少なくとも1つのホスホノ基を有する有機化合物を意味する。すなわち、有機ホスホン酸は、分子中に、C-PO(OH)2の構造を含んでいる。有機ホスホン酸の塩は、ホスホノ基が塩の形態である化合物であり、塩としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。なお、遊離の有機ホスホン酸は、分子中に少なくとも1つのホスホノ基(-PO(OH)2)の電離基を有する。以下の説明では、便宜上、有機ホスホン酸とその塩とを総称して、「有機ホスホン酸化合物」とも呼ぶ。
【0022】
有機ホスホン酸化合物1分子あたりのホスホノ基の数は、分子中におけるホスホノ基が占める割合を増大させて嵩高性を効果的に向上させる観点から、2以上であることが好ましい。分子中におけるホスホノ基が占める割合が大きいことにより、有機ホスホン酸化合物の添加量を少なくできる。また、有機ホスホン酸化合物は、水への溶解性の観点から、ヒドロキシル基を有することが好ましい。
【0023】
有機ホスホン酸としては、例えば、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸や1-ヒドロキシメタン-1,1-ジホスホン酸のようなアルキリデンジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)やエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)のようなアルキレンホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸等が挙げられる。有機ホスホン酸化合物は、経済性や汎用性の観点から、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸またはその塩であることが特に好ましい。なお、有機ホスホン酸化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
カチオンポリマーとは、カチオン性の官能基を有する高分子を意味する。カチオン性の官能基としては、例えば、アミノ基やイミダゾリル基、ピリジル基等が挙げられる。カチオンポリマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチルアクリレート・メチルクロライド4級塩や、ジメチルアミノエチルメタクリレート・メチルクロライド4級塩や、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド等のアルケニルアミン類や、グリシジルジメチルアンモニウムクロライド等の2級アミンとエピクロルヒドリンの反応で得られるグリシジルアミン類をポリマー構成単位として含有するポリマー、ポリアミドポリアミンやポリエチレンイミン等、またはこれらの誘導体等が挙げられる。カチオンポリマーは、アミノ基や第4級アンモニウム骨格を有することが好ましく、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(以下、「PDADMAC」とも呼ぶ)であることが特に好ましい。PDADMACは、アルカリ条件下においても電荷を失いにくく、カチオンとして存在しやすいという性質を有する。
【0025】
カチオンポリマーは、繊維混入板の製造工程のスラリーpH12以上の条件において、カチオン電荷を失いにくいカチオンポリマーを用いることが好ましい。より具体的には、pH12以上において1meq/g以上のカチオン電荷を有するカチオンポリマーが好ましく、pH12以上において2meq/g以上のカチオン電荷を有するカチオンポリマーがより好ましい。ここで、カチオン電荷とは、カチオンポリマーの分子量に対する、該カチオンポリマーにおける正電荷数の比を意味する。すなわち、カチオン電荷は、カチオンポリマーのグラム当たりの正電荷の当量数(meq/g)として定義される。
【0026】
カチオンポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、3,000以上500,000以下であることが好ましく、10,000以上300,000以下であることがより好ましい。なお、カチオンポリマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤は、有機ホスホン酸化合物やカチオンポリマーが液状であればそのまま使用することもでき、また、取扱い性等の観点から、水等を用いて適宜希釈して調製されていてもよい。
【0028】
建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤は、有機ホスホン酸化合物やカチオンポリマーが溶媒に溶解されたものであってもよく、有機ホスホン酸化合物やカチオンポリマーが分散媒に分散(例えば、懸濁、乳化)されたものであってもよい。かかる溶媒または分散媒としては、特に限定されないが、例えば、水、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ベンゾフェノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、グリセリン脂肪酸エステル等のエステル類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール等のアルコール類、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化バリウム水溶液等のアルカリ水溶液、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ポリエーテルアミン等のアミン類等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤は、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲で、任意成分を含んでもよい。かかる任意成分としては、特に限定されないが、例えば、防腐剤、防カビ剤、殺菌剤、分散剤等が挙げられる。これらの任意成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤における有機ホスホン酸化合物の濃度は、嵩高効果を向上させる観点から、1質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。また、建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤における有機ホスホン酸化合物の濃度は、取り扱い性の観点から、90質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤におけるカチオンポリマーの濃度は、嵩高効果を向上させる観点から、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。また、建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤におけるカチオンポリマーの濃度は、取り扱い性の観点から、60質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤において、カチオンポリマーに対する、有機ホスホン酸化合物の質量比(有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方/カチオンポリマー)は、強度および経済性の観点から、0.04以上10以下であることが好ましく、0.25以上5以下であることがより好ましく、0.4以上2.5以下であることがさらに好ましい。
【0033】
本実施形態の建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤は、有機ホスホン酸化合物を含有することにより、繊維混入板の嵩高性を向上させることができる。このメカニズムは定かでないが、推定メカニズムとしては、有機ホスホン酸がセメントに付着して作用することにより、繊維混入板の嵩高性を向上させることができると考えられる。さらに、本実施形態の建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤は、カチオンポリマーを含有することにより、繊維混入板の嵩高性をさらに向上させつつ、繊維混入板の強度低下を抑制できる。このメカニズムは定かでないが、推定メカニズムとしては、カチオンポリマーが、マイナス電荷をもつパルプと有機ホスホン酸化合物とを接着する役割を有すると推定され、その結果、有機ホスホン酸化合物がセメントに過度に接着することを抑制できるためと考えられる。また、アルカリ条件下においても電荷を失いにくいPDADMACをカチオンポリマーとして用いることにより、有機ホスホン酸化合物がセメントに過度に接着することをより抑制できると推定される。したがって、PDADMACをカチオンポリマーとして用いることにより、繊維混入板の嵩高性をより向上させつつ、繊維混入板の強度低下をより抑制できる。
【0034】
本実施形態の建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤によれば、嵩高性に優れつつ強度低下が抑制された繊維混入板を提供できる。このため、嵩高効果による原料コストの削減や、繊維混入板の軽量化等に貢献できる。また、本実施形態の建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤は、繊維混入板を製造する際に、他の原料に混合して用いることができる。このため、繊維混入板の製造工程が複雑化することを抑制できるので、大掛かりな設備変更を省略でき、また、工程管理の複雑化を抑制できる。したがって、繊維混入板の強度を損なわずに嵩高性を容易に向上させることができる。
【0035】
B.建材ボードとしての繊維混入板
本発明の他の形態である建材ボードとしての繊維混入板は、セメントと、パルプと、上記の有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、カチオンポリマーとを含むことを特徴とする。本実施形態の建材ボードとしての繊維混入板は、特に限定されないが、例えば、窯業サイディングボード、人工スレート、スラグ石灰板、ケイ酸カルシウム板等が挙げられる。本明細書において、窯業サイディングボードは、例えば、家や店舗の外壁材や内壁材として利用される。上記の嵩高剤は、窯業サイディングボードに好適に用いることが出来る。
【0036】
〔建材ボードとしての繊維混入板の原料〕
本実施形態において用いられるセメントとしては、特に限定されないが、例えば、普通、早強、超早強、低熱および中庸熱等の各種ポルトランドセメント、石灰石粉末等や高炉徐冷スラグ微粉末を混合したフィラーセメント、各種の産業廃棄物を主原料として製造される環境調和型セメント等が挙げられる。セメントは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、セメントには、フライアッシュ、珪酸カルシウム、石膏、炭酸カルシウム、高炉スラグ、シリカ等の無機粉末が混合されていてもよい。
【0037】
本実施形態のパルプは、天然繊維を含んで構成され、繊維混入板において補強繊維としての役割を有する。原料のパルプは、木材パルプであってもよく、非木材パルプであってもよい。木材パルプとしては、特に限定されないが、例えば、針葉樹クラフトパルプ(NKP)や広葉樹クラフトパルプ(LKP)等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、例えば、ケナフ、バガス、竹、麻、藁等が挙げられる。パルプは、漂白処理された晒パルプであってもよく、漂白処理されていない未晒パルプであってもよい。また、パルプは、木材や非木材から直接作られたバージンパルプであってもよく、既に紙等として製造されたものを回収して原料とした古紙パルプであってもよい。なお、パルプは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本実施形態の建材ボードとしての繊維混入板は、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲で、任意成分を含んでもよい。かかる任意成分としては、特に限定されないが、例えば、消泡剤、炭化水素、防腐剤、防カビ剤、殺菌剤、防錆剤、皮張り防止剤等が挙げられる。これらの任意成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
〔建材ボードとしての繊維混入板の製造方法〕
本実施形態の建材ボードとしての繊維混入板の製造方法は、特に限定されず、流し込み、押し出し、抄造等の各種製造方法を適用することができる。本実施形態の建材ボードとしての繊維混入板の製造方法では、パルプと、セメントと、上記の有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、上記のカチオンポリマーと、を混合する混合工程を含む。混合工程では、水に上記の原料を加えたスラリーを、混合撹拌する。
【0040】
本実施形態の混合工程は、(i)パルプを含有するパルプスラリーに、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方と、カチオンポリマーと、を混合する第1工程と、(ii)第1工程の後にセメントを混合する第2工程と、を含んでいてもよい。第1工程では、原料のパルプを水中に含むパルプスラリーと、有機ホスホン酸化合物およびカチオンポリマーとを混合して撹拌する。第1工程において、パルプが離解される。パルプスラリーのpHは、強アルカリ性(例えば、pH10~pH13.5、好ましくはpH11.5~pH13.2)である。第2工程では、有機ホスホン酸化合物とカチオンポリマーとが混合された状態のパルプスラリーと、セメントとを混合して撹拌する。第2工程により、セメント混合スラリーが得られる。混合工程が上記第1工程と上記第2工程とを含むことにより、繊維混入板の嵩高性をより向上できる。なお、第2工程では、セメントとともに無機粉末が混合されてもよい。
【0041】
混合工程は、上記第1工程と上記第2工程とに代えて、例えば、パルプスラリーにセメントを混合して得られたセメント混合スラリーに、有機ホスホン酸化合物とカチオンポリマーとを混合する工程であってもよい。また、有機ホスホン酸化合物とカチオンポリマーとは、別々のタイミングにおいてスラリーに添加されてもよく、カチオンポリマーが添加された後に有機ホスホン酸化合物が添加されてもよく、有機ホスホン酸化合物が添加された後にカチオンポリマーが添加されてもよい。有機ホスホン酸化合物とセメントとの過度な接着を抑制する観点から、少なくともカチオンポリマーは、パルプスラリーに添加されることが好ましい。
【0042】
パルプスラリーやセメント混合スラリーに対する有機ホスホン酸化合物およびカチオンポリマーの混合方法は、有機ホスホン酸化合物およびカチオンポリマーがスラリー中に分散される方法であれば特に制限されない。例えば、送液ポンプを用いて連続的に混合する方法や、一定期間毎に規定のバッチ量を混合する方法等が挙げられる。また、有機ホスホン酸化合物およびカチオンポリマーの混合場所としては、例えば、パルパーや、繊維混入板製造時に排出される濾水の戻りライン、原料希釈水等であってもよい。また、必要に応じて、複数の箇所において、有機ホスホン酸化合物およびカチオンポリマーが添加されてもよい。
【0043】
建材ボードとしての繊維混入板の製造工程において、カチオンポリマーの添加量に対する、有機ホスホン酸化合物の添加量の質量比(有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方/カチオンポリマー)は、強度と経済性の観点から、0.04以上10以下であることが好ましく、0.25以上5以下であることがより好ましく、0.4以上2.5以下であることがさらに好ましい。
【0044】
有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方は、嵩高効果を向上させる観点から、原料パルプの質量に対して、100mgPO4/kg以上の割合で混合されることが好ましく、1000mgPO4/kg以上の割合で混合されることがより好ましい。また、有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方は、建材ボードとしての繊維混入板の強度低下を抑制する観点と経済性の観点とから、原料パルプの質量に対して、10000mgPO4/kg以下の割合で混合されることが好ましく、5000mgPO4/kg以下の割合で混合されることがより好ましい。例えば、有機ホスホン酸化合物を、原料パルプの質量に対して100mgPO4/kg以上5000mgPO4/kg以下の割合で混合することにより、嵩高性に優れつつ、建材ボードとしての繊維混入板の強度低下を抑制できる。
【0045】
カチオンポリマーは、建材ボードとしての繊維混入板の強度低下を抑制する観点から、原料パルプの質量に対して、500mg/kg以上の割合で混合されることが好ましく、1000mg/kg以上の割合で混合されることがより好ましい。また、カチオンポリマーは、経済性の観点から、原料パルプの質量に対して、3000mg/kg以下の割合で混合されることが好ましく、2000mg/kg以下の割合で混合されることがより好ましい。例えば、カチオンポリマーを、原料パルプの質量に対して500mg/kg以上3000mg/kg以下の割合で混合することにより、嵩高性に優れつつ、建材ボードとしての繊維混入板の強度低下を抑制できる。
【0046】
パルプスラリーの質量に対する有機ホスホン酸化合物およびカチオンポリマーの上記の好ましい質量は、パルプスラリーに有機ホスホン酸化合物およびカチオンポリマーを混合する場合に限らず、セメント混合スラリー等に有機ホスホン酸化合物およびカチオンポリマーを混合する場合等においても同様である。なお、パルプスラリーにおけるパルプの濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1~10質量%であってもよい。
【0047】
有機ホスホン酸とその塩とのうちの少なくとも一方は、嵩高性を向上させる観点から、セメント混合スラリーの質量に対して、1mgPO4/kg以上の割合で混合されることが好ましく、10mgPO4/kg以上の割合で混合されることがより好ましい。また、経済性の観点から、セメント混合スラリーの質量に対して、100mgPO4/kg以下の割合で混合されることが好ましく、50mgPO4/kg以下の割合で混合されることがより好ましい。また、カチオンポリマーは、強度低下を抑制しつつ嵩高性を向上させる観点から、セメント混合スラリーの質量に対して、3mg/kg以上の割合で混合されることが好ましく、5mg/kg以上の割合で混合されることがより好ましい。また、経済性の観点から、セメント混合スラリーの質量に対して、20mg/kg以下の割合で混合されることが好ましく、15mg/kg以下の割合で混合されることがより好ましい。なお、セメント混合スラリーにおけるセメントの濃度は、特に限定されないが、例えば、2~15質量%であってもよい。
【0048】
抄造製造により繊維混入板を製造する場合は、混合工程によって得られたセメント混合スラリーを、抄造する抄造工程をさらに含む。抄造工程では、セメント混合スラリーを、紙のように抄き取って板状の成形板を作製する。より具体的には、例えば、セメント混合スラリーを網上に流し出した後、ろ過し脱水したセメントケーキを生成する。生成したセメントケーキをプレスして成型し、乾燥・硬化させて繊維混入板を作製する。
【0049】
本実施形態において、有機ホスホン酸化合物およびカチオンポリマーをスラリーに分散した後の、抄造工程までの時間経過には制限がない。一般に、調製後のセメント混合スラリー及びパルプスラリーは、1~30分程度で抄造工程へと送られるが、有機ホスホン酸化合物およびカチオンポリマー混合後の経過時間の長短によらず、嵩高性に優れつつ強度低下が抑制された繊維混入板を製造することができる。
【実施例0050】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」との記載は、特に限定のない限り質量%を意味する。
【0051】
以下の表に示す実施例用の化合物1~6および比較例用の化合物7~9を用いて、実施例1~17および比較例1~18の繊維混入板としての窯業サイディングボードを、以下のように作製した。なお、実施例および比較例におけるパルプスラリーのpHは、それぞれ以下の表に示すとおりであった。
【0052】
〔実施例1〕
古紙パルプを水中に3.7%含むパルプスラリー250gに、原料パルプに対してリン酸換算で5000mgPO4/kgとなるように化合物1(1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸)と、化合物質量500mg/kgとなるように化合物4(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド)とを加えて、5分間撹拌した。その後、水1250g、フライアッシュ(JIS A6201-II種相当品)75g、ポルトランドセメント45gを加えて1分間強撹拌し、セメント混合スラリーを得た。得られたセメント混合スラリーを、No.1濾紙を用いて、直径100mmサイズの濾過器で吸引濾過した。水分量が40%程度になるまで吸引濾過を行ない、濾過残渣のセメントケーキを回収した。回収されたセメントケーキを直径100mmサイズの型枠に入れ、18kgf/cm2の圧力でプレスし、成型した。成型物を50℃飽和水蒸気圧下で12時間程度静置した後、160℃飽和水蒸気圧下で5時間処理して水和反応により硬化させて養生を行なった。その後、120℃で24時間静置して乾燥させることにより、実施例1の窯業サイディングボードを得た。
【0053】
〔実施例2~10〕
以下の表1に記載された含有量となるように化合物1および化合物4を含有させた以外は、実施例1と同様な製造方法にて、実施例2~10の窯業サイディングボードを得た。
【0054】
〔実施例11~14〕
化合物4に代えて化合物5(ポリアミドポリアミン)、化合物6(ポリエチレンイミン)を用いた以外は、実施例6と同様に実施例11、12の窯業サイディングボードを得た。また、化合物1に代えて化合物2(2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸)、化合物3(ニトリロトリスメチレンホスホン酸)を用いた以外は、実施例6と同様に実施例13、14の窯業サイディングボードを得た。
【0055】
〔実施例15〕
古紙パルプに代えて、バージンパルプを用いた以外は、実施例6と同様に実施例15の窯業サイディングボードを得た。
【0056】
〔比較例1〕
有機ホスホン酸化合物およびカチオンポリマーを添加しなかった以外は、実施例1と同様な製造方法にて、比較例1の窯業サイディングボードを得た。
【0057】
〔比較例2~7〕
以下の表2に記載された含有量となるように化合物1~3を含有させ、カチオンポリマーを添加しなかった以外は、実施例1と同様な製造方法にて、比較例2~7の窯業サイディングボードを得た。
【0058】
〔比較例8~13〕
以下の表2に記載された含有量となるように化合物4~6を含有させ、有機ホスホン酸化合物を添加しなかった以外は、実施例1と同様な製造方法にて、比較例8~13の窯業サイディングボードを得た。
【0059】
〔比較例14〕
古紙パルプに代えて、バージンパルプを用いた以外は、比較例1と同様な製造方法にて、比較例14の窯業サイディングボードを得た。
【0060】
〔比較例15~18〕
有機ホスホン酸化合物およびカチオンポリマーに代えて化合物7(リグニンスルホン酸ナトリウム)、化合物8(ラウリルアルコール)、化合物9(テトラブトキシシラン)、化合物10(リン酸)を添加した以外は、実施例1と同様な製造方法にて、比較例15~18の窯業サイディングボードを得た。
【0061】
実施例1~15および比較例1~18の繊維混入板としての窯業サイディングボードを用いて、下記の方法に従い、各特性を求めた。
【0062】
<窯業サイディングボードの厚み>
窯業サイディングボードを120℃で24時間乾燥させ、乾燥後の窯業サイディングボードの厚み(ボード厚)を、ノギスを用いて測定した。
【0063】
<窯業サイディングボードの嵩高率>
比較例1を基準とした実施例1~14および比較例2~13、15~18の嵩高率と、比較例14を基準とした実施例15の嵩高率の各々を、上記の方法で測定されたボード厚を用いて算出した。より具体的には、比較例1の窯業サイディングボードの厚みを100%とした場合の、実施例1~14および比較例2~13、15~18の窯業サイディングボードの厚みから、嵩高率を算出した。同様に、比較例14を基準とした実施例15の嵩高率を算出した。
【0064】
<窯業サイディングボードの相対強度>
JIS A 1106:2018「コンクリートの曲げ強度試験方法」に規定する方法に準拠して、材齢13週の窯業サイディングボードの曲げ強度を測定した。比較例1の曲げ強度を100とした場合の実施例1~14および比較例2~13、15~18の相対強度を算出した。同様に、比較例14の曲げ強度を100とした場合の実施例15の相対強度を算出した。
【0065】
以下に、得られた結果を示す。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
上述の結果から以下のことが分かった。実施例1~14と比較例1との比較および実施例15と比較例14との比較から、有機ホスホン酸化合物とカチオンポリマーとを含有することにより、繊維混入板としての窯業サイディングボードの嵩高性が向上し、かつ、強度低下が抑制されることがわかった。また、実施例1,5,9の比較および実施例4,8,10の比較から、有機ホスホン酸化合物の含有量の増大に伴って窯業サイディングボードの厚みが増加する傾向にあり、繊維混入板としての窯業サイディングボードの嵩高性が向上することがわかった。有機ホスホン酸化合物の含有量の増大に伴って繊維混入板としての窯業サイディングボードの嵩高性が向上することは、比較例2~5の結果からもわかる。
【0070】
また、実施例6,13,14の比較から、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(化合物2)およびニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(化合物3)においても、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(化合物1)と同様な嵩高効果が得られることがわかった。すなわち、有機ホスホン酸化合物の種類にかかわらず、繊維混入板としての窯業サイディングボードの厚みが増加する傾向にあり、嵩高効果が得られることがわかった。
【0071】
また、実施例1~4と比較例3との比較や、実施例5~8と比較例4との比較、実施例9,10と比較例5との比較、実施例13と比較例6との比較、実施例14と比較例7との比較から、カチオンポリマーを含有することにより、繊維混入板としての窯業サイディングボードの強度低下を抑制できることがわかった。また、実施例1~4の比較や、実施例5~8の比較、実施例9,10の比較から、カチオンポリマーの含有量の増大に伴って繊維混入板としての窯業サイディングボードの嵩高性をさらに向上できることがわかった。
【0072】
また、実施例6,11,12の比較から、ポリアミドポリアミン(化合物6)およびポリエチレンイミン(化合物7)においても、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(化合物4)と同様に、嵩高性を向上させつつ強度低下を抑制できることがわかった。すなわち、カチオンポリマーの種類にかかわらず、嵩高性を向上させつつ強度低下を抑制できることがわかった。
【0073】
また、実施例6と実施例15との比較から、原料パルプとして古紙パルプとバージンパルプとのいずれのパルプを用いた場合においても、繊維混入板としての窯業サイディングボードの嵩高性を向上させつつ強度低下を抑制できることがわかった。
【0074】
他方、比較例8~13では、カチオンポリマーを各々単独添加したが、嵩高効果は認められなかった。比較例8~11の結果から、カチオンポリマーの含有量を増大させた場合であっても、実施例のような嵩高効果が得られないことがわかった。
【0075】
また、比較例15において添加されたリグニンスルホン酸ナトリウム(化合物7)は、一般にAE減水剤としてセメントボードに添加される物質である。リグニンスルホン酸ナトリウムのようなAE減水剤として用いられる物質では、繊維混入板としての窯業サイディングボードの嵩高性を向上させる効果は認められなかった。
【0076】
比較例16において添加されたラウリルアルコール(化合物8)は、一般に紙用嵩高剤として製紙工程において添加される代表的な物質である。ラウリルアルコールのような製紙用嵩高剤として用いられる物質では、繊維混入板としての窯業サイディングボードの嵩高性を向上させる効果は認められなかった。
【0077】
比較例17において添加されたテトラブトキシシラン(化合物9)は、建材ボード製造時に泡を含ませることで嵩高効果が得られることが公知の物質である。しかしながら、繊維混入板としての窯業サイディングボードの製造方法において泡を含ませる工程がなかったため、嵩高効果は認められなかった。
【0078】
比較例18において添加されたリン酸(化合物10)は、コンクリートの凝結遅延剤として用いられることがある無機酸である。表3に示されるように、リン酸の添加では嵩高効果が得られなかった。
【0079】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
本発明の建材ボードとしての繊維混入板用嵩高剤、建材ボードとしての繊維混入板、建材ボードとしての繊維混入板の製造方法によれば、嵩高性に優れる建材ボードとしての繊維混入板を提供できる。このため、嵩高効果による原料コストの削減等に貢献できる。