(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112800
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】ジェット推進艇
(51)【国際特許分類】
B63H 11/08 20060101AFI20230807BHJP
B63B 79/30 20200101ALI20230807BHJP
【FI】
B63H11/08 A
B63B79/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014741
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 光義
(57)【要約】
【課題】ジェットポンプの状態を判断するための手間の低減を図ることができるジェット推進艇を提供する。
【解決手段】ジェット推進艇1は、船体と、船体に配置された駆動源と、駆動源の駆動力により水を吸引して噴出することによって推進力を発生するジェットポンプ4と、振動センサ51と、コントローラとを含む。振動センサ51は、ジェットポンプ4に設けられてジェットポンプ4の振動を検出する。コントローラは、振動センサ51の検出結果が所定条件を満たすか否かを判断する。コントローラは、振動センサ51の検出結果が所定条件を満たすと判断した場合に、ユーザ向けの情報を報知する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体と、
前記船体に配置された駆動源と、
前記駆動源の駆動力により水を吸引して噴出することによって推進力を発生するジェットポンプと、
前記ジェットポンプに設けられて前記ジェットポンプの振動を検出する振動センサと、
前記振動センサの検出結果が所定条件を満たすか否かを判断するコントローラであって、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合に、ユーザ向けの情報を報知するコントローラとを含む、ジェット推進艇。
【請求項2】
前記ジェット推進艇は、ディスプレーをさらに含み、
前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合に、ユーザ向けの情報を、前記ディスプレーに表示することによって報知する、請求項1に記載のジェット推進艇。
【請求項3】
前記ジェット推進艇は、ブザーをさらに含み、
前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合に、ユーザ向けの情報を、前記ブザーを鳴らすことによって報知する、請求項1又は2に記載のジェット推進艇。
【請求項4】
前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合に、前記駆動源の出力を制限する、請求項1~3のいずれか一項に記載のジェット推進艇。
【請求項5】
前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合に、前記駆動源の回転数を制限する、請求項4に記載のジェット推進艇。
【請求項6】
前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合に、前記駆動源を停止させる、請求項5に記載のジェット推進艇。
【請求項7】
前記振動センサが検出する前記ジェットポンプの振動数が所定値以上である状態が所定時間継続する場合に、前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断する、請求項1~6のいずれか一項に記載のジェット推進艇。
【請求項8】
前記振動センサは、前記ジェットポンプにおいて前記船体外の部分に設けられている、請求項1~7のいずれか一項に記載のジェット推進艇。
【請求項9】
前記ジェットポンプは、
前記船体内に配置された内シャフトと、前記船体外に配置されて前記内シャフトと一体回転する外シャフトとを有し、前記駆動源の駆動力が伝達されることによって回転するドライブシャフトと、
前記外シャフトに取り付けられて前記外シャフトと一体回転するインペラと、
前記船体外において前記船体に固定されて前記インペラを収容し、回転する前記インペラによって吸引される水を受け入れるインペラハウジングとを含み、
前記振動センサは、前記インペラハウジングに設けられている、請求項8に記載のジェット推進艇。
【請求項10】
前記ジェットポンプは、
前記船体内に配置された内シャフトと、前記船体外に配置されて前記内シャフトと一体回転する外シャフトとを有し、前記駆動源の駆動力が伝達されることによって回転するドライブシャフトと、
前記外シャフトに取り付けられて前記外シャフトと一体回転するインペラと、
前記船体外において前記船体に固定されて前記インペラを収容し、回転する前記インペラによって吸引される水を受け入れるインペラハウジングと
前記外シャフトを支持する外ベアリングと、
前記船体外において前記インペラハウジングよりも前記船体から離れて配置されて前記外ベアリングを支持し、前記インペラハウジング内を流れた水を受け入れるダクトと、
前記ダクト内に配置されて、前記ダクト内の水の流れを整える静翼とを含み、
前記振動センサは、前記ダクトに設けられている、請求項8又は9に記載のジェット推進艇。
【請求項11】
前記ジェットポンプは、
前記船体内に配置された内シャフトと、前記船体外に配置されて前記内シャフトと一体回転する外シャフトとを有し、前記駆動源の駆動力が伝達されることによって回転するドライブシャフトと、
前記外シャフトに取り付けられて前記外シャフトと一体回転するインペラと、
前記船体外において前記船体に固定されて前記インペラを収容し、回転する前記インペラによって吸引される水を受け入れるインペラハウジングと
前記外シャフトを支持する外ベアリングと、
前記船体外において前記インペラハウジングよりも前記船体から離れて配置されて前記外ベアリングを支持し、前記インペラハウジング内を流れた水を受け入れるダクトと、
前記ダクト内に配置されて、前記ダクト内の水の流れを整える静翼と、
前記船体外において前記ダクトよりも前記船体から離れて配置されて噴出口が設けられ、前記ダクト内を流れた水を前記噴出口から噴出するノズルとを含み、
前記振動センサは、前記ノズルに設けられている、請求項8~10のいずれか一項に記載のジェット推進艇。
【請求項12】
前記振動センサは、前記ジェットポンプにおいて前記船体内の部分に設けられている、請求項1~11のいずれか一項に記載のジェット推進艇。
【請求項13】
前記ジェットポンプは、
前記船体内に配置された内シャフトと、前記船体外に配置されて前記内シャフトと一体回転する外シャフトとを有し、前記駆動源の駆動力が伝達されることによって回転するドライブシャフトと、
前記内シャフトを支持する内ベアリングと、前記内ベアリングを支持するホルダと、前記ホルダを弾性支持するダンパとを有して前記船体内に配置されたハウジングベアリングとを含み、
前記振動センサは、前記内ベアリング又は前記ホルダに設けられている、請求項12に記載のジェット推進艇。
【請求項14】
船体と、
前記船体に配置された駆動源と、
前記駆動源の駆動力により水を吸引して噴出することによって推進力を発生するジェットポンプと、
前記ジェットポンプに設けられて前記ジェットポンプの振動を検出する振動センサとを含む、ジェット推進艇。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェット推進艇に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、ジェット推進艇の一例である水ジェット推進艇を開示している。水ジェット推進艇は、駆動源の一例であるエンジンと、ジェットポンプの一例であるジェット推進機とを含む。ジェット推進機は、エンジンのクランク軸に連結されたインペラ軸と、インペラ軸に取り付けられたインペラと、インペラを収容したインペラハウジングと、インペラハウジングの後端部に取り付けられた噴射ノズルとを含む。エンジンによってジェット推進機が駆動されると、インペラが噴流を発生させる。噴流が噴射ノズルから噴射されることによって、推進力が発生する。
【0003】
水ジェット推進艇は、エンジンの運転状態を示すエンジン回転数、スロットル開度、冷却水温、冷却水圧等の運転状態データを検出する様々なセンサと、所定のサンプリング周期ごとに検出された運転状態データが記録されるECUとを含む。ECUに記録された運転状態データは、水ジェット推進艇から外部の診断支援システムに出力されて、診断支援システムにおいて、ジェット推進機のインペラの摩耗状態等を診断するために用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように水ジェット推進艇の駆動源の運転状態データに基いて外部の診断支援システムによってジェットポンプの状態を判断する場合には、運転状態データの送受信や、運転状態データとジェットポンプの状態との関連性の検証等のために手間がかかる。
【0006】
そこで、本発明の一実施形態は、ジェットポンプの状態を判断するための手間の低減を図ることができるジェット推進艇を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、船体と、前記船体に配置された駆動源と、前記駆動源の駆動力により水を吸引して噴出することによって推進力を発生するジェットポンプと、振動センサと、コントローラとを含む、ジェット推進艇を提供する。前記振動センサは、前記ジェットポンプに設けられて前記ジェットポンプの振動を検出する。前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が所定条件を満たすか否かを判断する。前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合に、ユーザ向けの情報を報知する。
【0008】
この構成により、ジェット推進艇では、コントローラが、ジェットポンプに設けられてジェットポンプの振動を検出する振動センサの検出結果が所定条件を満たすか否かを判断する。つまり、駆動源の運転状態を示す情報を外部の診断支援システム等によって分析しなくても、ジェット推進艇自体が、振動センサの検出結果であるジェットポンプそのものの振動に基いてジェットポンプの状態を判断することができる。これにより、ジェットポンプの状態を判断するための手間の低減を図ることができる。さらに、振動センサの検出結果が所定条件を満たす場合、つまりジェットポンプが所定の状態にある場合には、コントローラがユーザ向けの情報を報知するので、この情報を受けたユーザは、ジェットポンプの状態の変更等のために適切に対応することができる。
【0009】
本発明の一実施形態においては、前記ジェット推進艇は、ディスプレーをさらに含み、前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合に、ユーザ向けの情報を、前記ディスプレーに表示することによって報知してもよい。
【0010】
本発明の一実施形態においては、前記ジェット推進艇は、ブザーをさらに含み、前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合に、ユーザ向けの情報を、前記ブザーを鳴らすことによって報知してもよい。
【0011】
本発明の一実施形態においては、前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合に、前記駆動源の出力を制限する。
【0012】
この構成により、振動センサの検出結果が所定条件を満たす場合、例えばジェットポンプが改善すべき状態にある場合には、駆動源の出力が制限されることによってジェットポンプの負荷が低減されるので、ジェットポンプの状態の悪化を抑制できる。
【0013】
本発明の一実施形態においては、前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合に、前記駆動源の回転数を制限することによって、前記駆動源の出力を制限してもよい。
【0014】
本発明の一実施形態においては、前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合に、前記駆動源を停止させることによって、前記駆動源の出力を制限してもよい。
【0015】
本発明の一実施形態においては、前記振動センサが検出する前記ジェットポンプの振動数が所定値以上である状態が所定時間継続する場合に、前記コントローラは、前記振動センサの検出結果が前記所定条件を満たすと判断してもよい。
【0016】
本発明の一実施形態においては、前記振動センサは、前記ジェットポンプにおいて前記船体外の部分に設けられていてもよい。
【0017】
本発明の一実施形態においては、前記ジェットポンプは、ドライブシャフトと、インペラと、インペラハウジングとを含む。前記ドライブシャフトは、前記船体内に配置された内シャフトと、前記船体外に配置されて前記内シャフトと一体回転する外シャフトとを有し、前記駆動源の駆動力が伝達されることによって回転する。前記インペラは、前記外シャフトに取り付けられて前記外シャフトと一体回転する。前記インペラハウジングは、前記船体外において前記船体に固定されて前記インペラを収容し、回転する前記インペラによって吸引される水を受け入れる。前記振動センサは、前記インペラハウジングに設けられている。
【0018】
この構成により、ジェット推進艇のコントローラは、ジェットポンプにおいてインペラとインペラハウジングとの隙間における異物の有無等を、インペラハウジングに設けられた振動センサの検出結果に基いて判断することができる。
【0019】
本発明の一実施形態においては、前記ジェットポンプは、ドライブシャフトと、インペラと、インペラハウジングと、外ベアリングと、ダクトと、静翼とを含む。前記ドライブシャフトは、前記船体内に配置された内シャフトと、前記船体外に配置されて前記内シャフトと一体回転する外シャフトとを有し、前記駆動源の駆動力が伝達されることによって回転する。前記インペラは、前記外シャフトに取り付けられて前記外シャフトと一体回転する。前記インペラハウジングは、前記船体外において前記船体に固定されて前記インペラを収容し、回転する前記インペラによって吸引される水を受け入れる。前記外ベアリングは、前記外シャフトを支持する。前記ダクトは、前記船体外において前記インペラハウジングよりも前記船体から離れて配置されて前記外ベアリングを支持し、前記インペラハウジング内を流れた水を受け入れる。前記静翼は、前記ダクト内に配置されて、前記ダクト内の水の流れを整える。前記振動センサは、前記ダクトに設けられている。
【0020】
この構成により、ジェット推進艇のコントローラは、ジェットポンプにおいてダクトによって支持された外ベアリング等の状態を、ダクトに設けられた振動センサの検出結果に基いて判断することができる。
【0021】
本発明の一実施形態においては、前記ジェットポンプは、ドライブシャフトと、インペラと、インペラハウジングと、外ベアリングと、ダクトと、静翼と、ノズルとを含む。前記ドライブシャフトは、前記船体内に配置された内シャフトと、前記船体外に配置されて前記内シャフトと一体回転する外シャフトとを有し、前記駆動源の駆動力が伝達されることによって回転する。前記インペラは、前記外シャフトに取り付けられて前記外シャフトと一体回転する。前記インペラハウジングは、前記船体外において前記船体に固定されて前記インペラを収容し、回転する前記インペラによって吸引される水を受け入れる。前記外ベアリングは、前記外シャフトを支持する。前記ダクトは、前記船体外において前記インペラハウジングよりも前記船体から離れて配置されて前記外ベアリングを支持し、前記インペラハウジング内を流れた水を受け入れる。前記静翼は、前記ダクト内に配置されて、前記ダクト内の水の流れを整える。前記ノズルは、前記船体外において前記ダクトよりも前記船体から離れて配置されている。前記ノズルには、噴出口が設けられている。前記ノズルは、前記ダクト内を流れた水を前記噴出口から噴出する。前記振動センサは、前記ノズルに設けられている。
【0022】
この構成により、ジェット推進艇のコントローラは、ジェットポンプにおいてノズル内における異物の有無等を、ノズルに設けられた振動センサの検出結果に基いて判断することができる。また、ノズルは、ジェットポンプにおいて、インペラハウジング及びダクトよりも船体から離れた位置にあることから、比較的大きく振動する。そのため、ノズルに設けられた振動センサは、ジェットポンプ全体の振動を敏感に検出することができる。
【0023】
本発明の一実施形態においては、前記振動センサは、前記ジェットポンプにおいて前記船体内の部分に設けられていてもよい。
【0024】
本発明の一実施形態においては、前記ジェットポンプは、ドライブシャフトと、ハウジングベアリングとを含む。前記ドライブシャフトは、前記船体内に配置された内シャフトと、前記船体外に配置されて前記内シャフトと一体回転する外シャフトとを有し、前記駆動源の駆動力が伝達されることによって回転する。前記ハウジングベアリングは、前記内シャフトを支持する内ベアリングと、前記内ベアリングを支持するホルダと、前記ホルダを弾性支持するダンパとを有して前記船体内に配置されている。前記振動センサは、前記内ベアリング又は前記ホルダに設けられている。
【0025】
この構成により、ジェット推進艇のコントローラは、ハウジングベアリングにおいて内ベアリングによって支持された内シャフト等の状態を、内ベアリング又はホルダに設けられた振動センサの検出結果に基いて判断することができる。
【0026】
本発明の一実施形態は、船体と、前記船体に配置された駆動源と、前記駆動源の駆動力により水を吸引して噴出することによって推進力を発生するジェットポンプと、振動センサとを含む、ジェット推進艇を提供する。前記振動センサは、前記ジェットポンプに設けられて前記ジェットポンプの振動を検出する。
【0027】
この構成により、駆動源の運転状態を示す情報を分析しなくても、振動センサの検出結果であるジェットポンプそのものの振動に基いてジェットポンプの状態を判断することができる。これにより、ジェットポンプの状態を判断するための手間の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ジェットポンプの状態を判断するための手間の低減を図ることができるジェット推進艇を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係るジェット推進艇の模式的な側面図である。
【
図2】ジェット推進艇に含まれるジェットポンプの縦断面側面図である。
【
図5】ジェット推進艇の電気的構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るジェット推進艇1の模式的な左側面図である。
図1における左右方向がジェット推進艇1の前後方向である。
図1における左方はジェット推進艇1の前方である。
図1における右方はジェット推進艇1の後方である。以下の説明では、ジェット推進艇1の前方を向いたときを基準としてジェット推進艇1の左右方向を定義する。すなわち、
図1の紙面に直交する方向における手前が、ジェット推進艇1の左方であり、
図1の紙面に直交する方向における奥が、ジェット推進艇1の右方である。
【0031】
ジェット推進艇1の一例は、パーソナルウォータークラフト(PWC)と呼ばれる小型船舶である。ジェット推進艇1は、略左右対称に構成された船体2と、船体2に配置された駆動源3と、駆動源3よりも後方に配置されて推進力を発生するジェットポンプ4とを含む。
【0032】
船体2は、船底を形成するハル5と、ハル5の上方に配置されたデッキ6とを含み、前後方向に長手である。ジェット推進艇1の前後方向と直交する垂直面で切断したときにハル5の断面形状は、U字状又はV字状である。そのため、ハル5の内面5Aの大部分は、前後方向から見てU字状又はV字状であり、ハル5は、内面5Aによって区画された凹状空間を有している。ハル5の後端部には、後方に向かうにつれて上方へ傾斜した傾斜壁5Bが設けられている。傾斜壁5Bには、傾斜壁5Bを前後方向に貫通した貫通穴5Cが形成されている。ハル5において傾斜壁5Bよりも後方の部分は、トランサム5Dである。
【0033】
デッキ6は、ハル5の凹状空間を上方から塞いでいる。これにより、船体2は、上下方向におけるハル5とデッキ6との間に区画された内部空間2Aを有する。内部空間2Aは、前後方向に長手であり、その一部は、ハル5の凹状空間によって構成されている。
【0034】
船体2には、内部空間2Aに配置された隔壁7と、船体2の上部において前後方向に並んで配置されたシート8及びステアリングハンドル9が設けられている。
【0035】
隔壁7は、左右方向に延びる縦板によって構成されていて、船体2の内部空間2Aにおいて例えば後寄りの位置に固定されている。隔壁7は、ハル5の傾斜壁5Bよりも前方に配置されている。隔壁7の下縁は、前後方向から見て、ハル5の内面5Aに整合するU字状又はV字状に形成されている。内部空間2Aは、隔壁7によって、隔壁7よりも前方の前領域2Bと、隔壁7よりも後方の後領域2Cとに仕切られている。隔壁7には、隔壁7を前後方向に貫通した挿通穴7Aが形成されている。
【0036】
シート8は、デッキ6の中央部に配置されている。シート8には、ジェット推進艇1のユーザである1名又は複数名の乗員が座ることができる。
【0037】
ステアリングハンドル9は、シート8に座った乗員が前方に伸ばした手が届く位置に配置されている。ステアリングハンドル9の右端部には、ジェットポンプ4の推進力の大きさを変更するために乗員によって操作されるアクセルレバー10が設けられている。ステアリングハンドル9の左端部には、ジェット推進艇1を後進させる推進力をジェットポンプ4に発生させるために乗員によって操作されるリバースレバー11が設けられている。
【0038】
駆動源3は、内部空間2Aの前領域2Bに配置されている。本実施形態における駆動源3は、前後方向に延びる回転軸線C(
図2参照)まわりに回転するクランクシャフト3Aを含むエンジン、つまり内燃機関であるが、駆動源3は、電動モータであってもよい。駆動源3の出力である駆動力は、乗員によるアクセルレバー10の操作によって調整される。
【0039】
ジェットポンプ4は、駆動源3の駆動力によって水を船底から吸引して船体2の外に噴出することによって、ジェット推進艇1を推進させるための推進力を発生する。詳しくは、ジェットポンプ4は、ハル5の傾斜壁5Bから後方へ延びる筒状の流路14と、流路14によって支持されたデフレクタ15及びリバースゲート16とをさらに含む。ジェットポンプ4は、駆動源3の駆動力をジェットポンプ4に伝達するためのドライブシャフト17と、ドライブシャフト17に取り付けられたインペラ18と、船体2内に配置されてドライブシャフト17を支持するハウジングベアリング19とをさらに含む。
【0040】
図2は、ジェットポンプ4の縦断面左側面図である。流路14及びその内部は、船体2の内部空間2Aとは別の空間に配置されている。つまり、流路14は、ジェットポンプ4において船体2外の部分である。船体2のハル5の傾斜壁5Bに形成された貫通穴5Cは、前方から流路14の内部に臨んでいる。流路14の前端部には、下向きに開口して船体2の周辺の水を吸引する吸水口14Aが設けられている。流路14の後端部には、後向きに開口した噴出口14Bが設けられている。流路14は、吸水口14Aから流路14内に吸引された水を噴出口14Bに導く。
【0041】
流路14において吸水口14Aよりも後方の部分は、筒状のインペラハウジング141と、インペラハウジング141の後方に配置された筒状のダクト142と、筒状のダクト142の後方に配置された筒状のノズル143とを含む。
【0042】
図3は、
図2における流路14の周辺の要部の拡大図である。インペラハウジング141は、前後方向に延びる円筒状である。インペラハウジング141の前端部には、その径方向における外方へ張り出したフランジ141Aが設けられている。フランジ141Aは、ハル5のトランサム5Dに対して後方から対向している。締結部材B1がフランジ141Aを貫通してトランサム5Dに組み付けられることによって、インペラハウジング141を含む流路14の全体が船体2に固定されている。締結部材B1として、ボルト等を用いることができる。後述する他の締結部材についても同様である。
【0043】
ダクト142は、前後方向に延びる円筒状の外筒142Aと、外筒142Aによって同軸状で取り囲まれた円筒状の内筒142Bと、ダクト142内に配置された単数又複数の静翼142Cとを含む。締結部材(図示せず)が外筒142Aの前端部とインペラハウジング141の後端部とに組み付けられることによって、ダクト142がインペラハウジング141に固定されている。この状態におけるダクト142は、船体2外においてインペラハウジング141よりも船体2から後方へ離れて配置されている。インペラハウジング141とダクト142とは、本実施形態のように別部品であってもよいし、一体形成されてもよい。外筒142Aの内径は、インペラハウジング141の内径と同じ又は略同じである。外筒142Aの外径は、インペラハウジング141の外径と同じ又は略同じである。
【0044】
内筒142B内には、複数又は単数の外ベアリング21が配置されている。一例として、外ベアリング21は、ボールベアリングであり、2つの外ベアリング21が、前後方向に並んだ状態で内筒142B内に同軸状で配置されている。外ベアリング21の外輪が内筒142Bの内周面に嵌っていて、これにより、外ベアリング21は、内筒142Bつまりダクト142によって支持されている。
【0045】
静翼142Cは、外筒142Aの内周面と内筒142Bの外周面との間に架設されている。静翼142Cが複数設けられる場合、これらの静翼142Cは、内筒142Bの外周面から放射状に延びて外筒142Aの内周面に接続される。外筒142Aの内周面と内筒142Bの外周面との間において静翼142Cを避けた領域は、ダクト142の内部において前後方向の両側へ開放された内部流路142Dである。内部流路142Dは、インペラハウジング141の内部空間141Bに対して後方から連通している。
【0046】
ノズル143は、後方へ向かうにつれて縮径する円筒状である。締結部材B2がノズル143の前端部を貫通してダクト142の外筒142Aに組み付けられることによって、ノズル143がダクト142に固定されている。この状態におけるノズル143は、船体2外においてダクト142よりも船体2から後方へ離れて配置されている。ノズル143の前端部の内径は、外筒142Aの内径と同じ又は略同じである。ノズル143の前端部の外径は、外筒142Aの外径と同じ又は略同じである。ノズル143の内部空間143Aは、ダクト142の内部流路142Dに対して後方から連通している。ノズル143の後端部に設けられて内部空間143Aを後方へ開放した開口が、前述した噴出口14Bである。
【0047】
デフレクタ15は、前後方向に延びる筒状である。デフレクタ15には、後方へ向けて開口した第1噴出口15Aと、前下方へ向けて開口した第2噴出口15Bとが設けられている。ノズル143の後端部が、デフレクタ15内に配置されていて、噴出口14Bが、前方から第1噴出口15Aに対向している。上下一対の締結部材B3によって、デフレクタ15は、ノズル143に連結されている。デフレクタ15は、上下方向に延びる仮想の回動軸線Kまわりに左右方向に回動可能である。
【0048】
デフレクタ15と、前述したステアリングハンドル9とは、ステアリングケーブル22によってつながっている。ステアリングケーブル22の後端部は、デフレクタ15の外面に固定されている。乗員がステアリングハンドル9を操作すると、この操作力がステアリングケーブル22を介して伝達されることによって、デフレクタ15が回動する。別の例として、ジェット推進艇1は、ステアリングハンドル9の位置を検出するステアリングポジションセンサ(図示せず)と、ステアリングポジションセンサの検出値に基いてデフレクタ15を回動させる電動のアクチュエータ(図示せず)とを備えてもよい。
【0049】
リバースゲート16は、左右方向に延びる本体部16Aと、左右方向における本体部16Aの両端部から前方に延びる一対の連結部16Bとを含む。一対の連結部16Bは、デフレクタ15を左右方向の両側から挟むように配置されている。締結部材B4によって、一対の連結部16Bのそれぞれは、デフレクタ15に連結されている。この状態におけるリバースゲート16は、左右方向に延びる仮想の回動軸線Lまわりに上下方向に回動可能である。
【0050】
図3に示すリバースゲート16は、本体部16Aがデフレクタ15の第1噴出口15Aから上方へ離れた待機位置にある。リバースゲート16は、本体部16Aが後方から第1噴出口15Aに対向するリバース位置(図示せず)まで下方へ回動することができる。
【0051】
ドライブシャフト17の全体は、前後方向に延びている。ドライブシャフト17は、ドライブシャフト17の後部分として船体2外に配置された外シャフト17Aと、ドライブシャフト17の前部分として船体2内に配置された内シャフト17Bとを有する(
図2参照)。外シャフト17Aと内シャフト17Bとは、同軸状に配置されている。
【0052】
ドライブシャフト17は、駆動源3の駆動力を受けることによって、ドライブシャフト17の中心軸線と一致する回転軸線Cまわりに回転し、その際、外シャフト17Aと内シャフト17Bとは回転軸線Cまわりに一体回転する。外シャフト17Aと内シャフト17Bとは、一体形成されてもよいし、互いに別部品であって一体回転可能に連結されてもよい。
【0053】
外シャフト17Aは、流路14内に配置されている。外シャフト17Aの後端部は、ダクト142の内筒142B内に同軸状で配置されて、外ベアリング21によって、ドライブシャフト17の回転軸線Cまわりに回転可能に支持されている。
【0054】
外シャフト17Aの後端部において最も前方に位置する外ベアリング21よりも前方の部分と内筒142Bの前端部との隙間は、単数又は複数のシール部材23によって塞がれている。シール部材23は、オイルシールやOリング等の環状体である。後述する他のシール部材についても同様である。
【0055】
外シャフト17Aの後端部において外ベアリング21よりも後方の部分には、ナット24が組み付けられている。後方へ向かうにつれて縮径する円錐状のキャップ25が、締結部材B5によって内筒142Bの後端部に固定されている。キャップ25は、ノズル143の内部空間143Aに配置されている。ナット24は、キャップ25内に配置されている。キャップ25の前端部は、内筒142Bの後端部内に嵌め込まれていて、キャップ25の前端部と内筒142Bの後端部との隙間は、シール部材26によって塞がれている。シール部材23及びシール部材26により、外ベアリング21の浸水が抑制されている。
【0056】
外シャフト17Aにおいて最も前方に位置するシール部材23よりも前方かつインペラハウジング141内に配置された部分には、インペラ18が取り付けられている。インペラ18は、例えばスプラインによって外シャフト17Aに対して一体回転可能に連結された中心部18Aと、中心部18Aから放射状に延びる複数の羽根18Bとを含み、インペラハウジング141内に収容されている。それぞれの羽根18Bの先端とインペラハウジング141の内周面との間には、微小な隙間Mが区画されている。そのため、インペラ18は、インペラハウジング141の内周面と非接触の状態で、外シャフト17Aと一体回転する。
【0057】
内シャフト17Bは、ハル5の貫通穴5Cを通って船体2の内部空間2Aの後領域2Cに配置され、隔壁7の挿通穴7Aに挿通されて、継手27を介して駆動源3のクランクシャフト3Aに連結されている(
図2参照)。
【0058】
図4は、
図2における内シャフト17Bの周辺の要部の拡大図である。内シャフト17Bは、第1シャフト17C及び第2シャフト17Dを含む。第1シャフト17Cは、前後方向に延びる円管状である。第2シャフト17Dは、前後方向に延びる中実の円柱状であり、第1シャフト17Cの中空部分に対して後方から挿通されている。第1シャフト17Cと第2シャフト17Dとは、スプライン結合されていて、一体回転可能である。第1シャフト17Cの内周面の後端部と第2シャフト17Dの外周面との間の隙間は、シール部材30によって塞がれている。
【0059】
前述した継手27は、第1シャフト17Cの前端部に固定された第1継手27Aと、駆動源3のクランクシャフト3Aの後端部に固定された第2継手27B(
図1参照)と、第1継手27Aと第2継手27Bとの間に配置されたダンパ27C(
図1参照)とを有する。第1継手27A及び第2継手27Bは、互いに噛み合う歯車状に形成されている。ダンパ27Cは、ゴム等の弾性材料によって歯車状に形成されている。ダンパ27Cにおける複数の歯(図示せず)は、第1継手27Aの歯27Dと第2継手27Bの歯(図示せず)との間に1つずつ配置されている。第1継手27Aと第2継手27Bとの間での動力伝達の際に生じる衝撃は、ダンパ27Cの弾性変形によって吸収される。
【0060】
ハウジングベアリング19は、内シャフト17Bを回転自在に支持する内ベアリング31と、内ベアリング31を支持するホルダ32と、ホルダ32内に配置されたシール部材33とを有する。ハウジングベアリング19は、ホルダ32を弾性支持するダンパ34と、ダンパ34を支持して隔壁7に固定されたハウジング35も有する。
【0061】
内ベアリング31は、例えばボールベアリングであって、第1シャフト17Cの外周面において第1継手27Aよりも後方の部分を取り囲んでいる。ホルダ32は、ドライブシャフト17と同軸状に配置された円筒体であって、内ベアリング31を取り囲んでいる。内ベアリング31は、第1シャフト17Cの外周面とホルダ32の内周面との間に嵌っている。ホルダ32の内周面には、ワッシャ等によって構成された前後一対の位置決め部36が設けられている。これらの位置決め部36が内ベアリング31の外輪を挟むことによって、内ベアリング31が、ホルダ32に対して前後方向において位置決めされている。
【0062】
単数又は複数のシール部材33が、前後一対の位置決め部36に対して前方及び後方のそれぞれの位置に設けられている。これらのシール部材33は、第1シャフト17Cの外周面とホルダ32の内周面との間を塞いでいる。これにより、これらの位置決め部36の間に位置する内ベアリング31の浸水が抑制されている。
【0063】
ダンパ34は、ドライブシャフト17と同軸状に配置された円筒体であって、ゴム等の弾性材料によって形成されている。ダンパ34には、その前端面から後方に延びる単数又は複数の肉抜き穴34Aが形成されてもよい。ダンパ34は、ホルダ32を取り囲んでいる。ダンパ34の内周面は、ホルダ32の外周面に接触している。ダンパ34は、接着等によってホルダ32に固定されている。
【0064】
ハウジング35は、ドライブシャフト17と同軸状に配置された円筒体である。ハウジング35は、ダンパ34を取り囲んでいて、ハウジング35の内周面は、ダンパ34の外周面に接触している。ハウジング35は、接着等によってダンパ34に固定されている。ハウジング35には、その径方向における外方へ張り出したフランジ35Aが設けられている。フランジ35Aは、隔壁7に対して前方から対向している。締結部材B6がフランジ35Aを貫通して隔壁7に組み付けられることによって、ハウジング35を含むハウジングベアリング19の全体が船体2に固定されている。
【0065】
図5は、ジェット推進艇1の電気的構成を示すブロック図である。ジェット推進艇1は、CPU(中央処理装置)及びメモリを含むマイクロコンピュータによって構成されたコントローラ41をさらに含む。ジェット推進艇1は、コントローラ41に対して電気的に接続されたアクセルレバーセンサ42、リバースレバーセンサ43、リバースゲートセンサ44、スロットルアクチュエータ45、燃料噴射装置46及び点火装置47をさらに含む。ジェット推進艇1は、コントローラ41に対して電気的に接続されたリバースゲートアクチュエータ48、ディスプレー49、ブザー50及び振動センサ51をさらに含む。
【0066】
コントローラ41は、いわゆるECU(電子制御ユニット)であり、所定のソフトウェア処理を実行する。アクセルレバーセンサ42は、乗員によるアクセルレバー10の操作を検出するセンサである。リバースレバーセンサ43は、乗員によるリバースレバー11の操作を検出するセンサである。リバースゲートセンサ44は、リバースゲート16の位置を検出するセンサである。アクセルレバーセンサ42、リバースレバーセンサ43及びリバースゲートセンサ44のそれぞれは、ポテンショメータによって構成されてもよい。
【0067】
スロットルアクチュエータ45、燃料噴射装置46及び点火装置47は、駆動源3がエンジンである場合に駆動源3に関連する電気部品である。スロットルアクチュエータ45は、エンジンのスロットル開度を変化させるアクチュエータである。燃料噴射装置46は、エンジンの燃焼室内に燃料を噴射する装置である。点火装置47は、エンジンの燃焼室内において燃料及び空気による混合気に点火する装置である。コントローラ41は、アクセルレバーセンサ42の検出結果等に基いてスロットルアクチュエータ45、燃料噴射装置46及び点火装置47を制御することによって、駆動源3の駆動力を調整する。
【0068】
リバースゲートアクチュエータ48は、リバースゲート16を待機位置とリバース位置との間で回動させる電動アクチュエータである。コントローラ41は、リバースレバーセンサ43の検出結果に基いてリバースゲートアクチュエータ48によってリバースゲート16の位置を調整する。また、コントローラ41は、リバースゲートセンサ44の検出結果に基いてリバースゲート16の位置を監視する。なお、リバースレバー11とリバースゲート16とがケーブル(図示せず)によってつながっていて、乗員によるリバースレバー11の操作力によってリバースゲート16が回動してもよく、この場合には、リバースゲートアクチュエータ48が省略される。
【0069】
ディスプレー49は、液晶パネル等によって構成され、ジェット推進艇1において乗員の目が届く位置に配置されている(
図1参照)。ブザー50は、ディスプレー49の近くに配置されてもよい。
【0070】
振動センサ51は、ジェットポンプ4に設けられてジェットポンプ4の振動を検出するセンサである。振動センサ51として、振動ピックアップや、加速度センサ等を用いることができる。振動センサ51の検出結果は、本実施形態では振動数(換言すれば周波数)であるが、加速度等であってもよい。振動センサ51は、締結部材や接着剤によってジェットポンプ4に固定されている。
図2~
図4のそれぞれにおいて黒く塗り潰して示すように、振動センサ51は、ジェットポンプ4において、流路14及びハウジングベアリング19の少なくともいずれかに設けられている。
【0071】
流路14に設けられる場合の振動センサ51は、
図3に示すように、インペラハウジング141の外周面141C、ダクト142の外周面142E及びノズル143の外周面143Bの少なくともいずれかに設けられている。なお、インペラハウジング141、ダクト142及びノズル143のそれぞれに設けられる振動センサ51の個数は任意に設定できる。
【0072】
ハウジングベアリング19に設けられる場合の振動センサ51は、
図4に示すように、内ベアリング31を支持するホルダ32に設けられている。ホルダ32は、ハウジングベアリング19においてダンパ34よりも内ベアリング31に近い部分の一例である。振動センサ51は、内ベアリング31に直接設けられてもよい。
【0073】
図2を参照して、乗員によるアクセルレバー10の操作に応じて駆動源3の駆動力がクランクシャフト3Aを介してドライブシャフト17に伝達されると、インペラ18が、ドライブシャフト17と共に回転駆動される。すると、船体2の周辺の水が、回転するインペラ18によって吸水口14Aから流路14内に吸引されて後方へ流れ、インペラハウジング141内、つまり内部空間141Bに受け入れられる(矢印Y1を参照)。インペラハウジング141内を流れた水は、ダクト142内、つまり内部流路142Dに受け入れられる(矢印Y2を参照)。ダクト142内において水が静翼142Cを通過することにより、インペラ18の回転によって生じた水流のねじれが低減され、水流が整えられる。
【0074】
このように静翼142Cによって整えられた水が、ダクト142内を流れた後にノズル143の内部空間143Aに送られて、ノズル143の後端の噴出口14Bから後方へ噴出される(矢印Y3を参照)。噴出口14Bから後方に噴出された水は、デフレクタ15の内部を通って後方へ流れる。このときにリバースゲート16が待機位置(
図2及び3参照)にあれば、デフレクタ15内の水は、第1噴出口15Aから後方へ噴出されるので(矢印Y4を参照)、前進方向の推進力が発生する。この状態で乗員がステアリングハンドル9を操作すると、デフレクタ15及びリバースゲート16が一体となって左右方向に回動することにより、推進力の向きが左右方向に変更されるので、ジェット推進艇1が左旋回又は右旋回する。一方、リバースゲート16がリバース位置にあれば、デフレクタ15内の水は、第2噴出口15Bから前下方へ噴出されるので(矢印Y5を参照)、後進方向の推進力が発生する。
【0075】
このように推進力が発生している状態等において、コントローラ41は、振動センサ51の検出結果が所定条件を満たすか否かを判断する。一例として、振動センサ51が検出するジェットポンプ4の振動数が所定値以上である状態が所定時間継続する場合に、コントローラ41は、振動センサ51の検出結果が前記所定条件を満たすと判断する。この所定値の一例は、改善すべき症状がジェットポンプ4に存在すると推定できる指標であり、実験等によって症状毎に定められてコントローラ41のメモリに記憶されている。
【0076】
図3を参照して、インペラハウジング141に設けられた振動センサ51である振動センサ51Aが検出する振動数が所定値以上である状態が所定時間継続する場合には、インペラ18とインペラハウジング141との隙間Mに異物が存在する可能性がある。また、インペラ18が摩耗していたり異常を発生していたりする可能性もある。コントローラ41は、ジェットポンプ4においてインペラ18とインペラハウジング141との隙間Mにおける異物の有無等を、振動センサ51Aの検出結果に基いて判断することができる。
【0077】
なお、振動センサ51Aは、複数設けられてもよく、コントローラ41は、これらの振動センサ51Aが検出する振動数の平均値に基いて、隙間Mにおける異物の有無等を判断してもよい。複数の振動センサ51の検出結果の平均値を用いて判断する構成は、後述する他の振動センサ51B~51Dにも適用できる。
【0078】
ダクト142に設けられた振動センサ51である振動センサ51Bが検出する振動数が所定値以上である状態が所定時間継続する場合には、ダクト142によって支持された外ベアリング21に異物や腐食が存在している可能性等がある。コントローラ41は、外ベアリング21等の状態を、振動センサ51Bの検出結果に基いて判断することができる。
【0079】
ノズル143に設けられた振動センサ51である振動センサ51Cが検出する振動数が所定値以上である状態が所定時間継続する場合には、ノズル143内、つまり内部空間143Aに異物が存在する可能性等がある。コントローラ41は、ノズル143内における異物の有無等を、振動センサ51Cの検出結果に基いて判断することができる。また、ノズル143は、ジェットポンプ4において、インペラハウジング141及びダクト142よりも船体2のトランサム5D(ジェット推進艇1における固定点)から離れた位置にあることから、比較的大きく振動する。そのため、振動センサ51Cは、ジェットポンプ4全体の振動、特に、ステアリングケーブル22(
図3参照)の状態を悪化させるような振動数の振動を敏感に検出することができる。
【0080】
図4を参照して、内ベアリング31又はホルダ32に設けられた振動センサ51である振動センサ51Dが検出する振動数が所定値以上である状態が所定時間継続する場合には、内シャフト17Bに摩耗や芯ずれが存在する可能性がある。内シャフト17Bの摩耗とは、例えば、第1シャフト17Cと第2シャフト17Dとの間におけるスプライン摩耗である。また、振動センサ51Dが検出する振動数が所定値以上である状態が所定時間継続する場合には、内ベアリング31に腐食が存在する可能性もある。コントローラ41は、内シャフト17Bや内ベアリング31等の状態を、振動センサ51Dの検出結果に基いて判断することができる。
【0081】
このように、ジェット推進艇1では、コントローラ41が、ジェットポンプ4に設けられた振動センサ51の検出結果が前記所定条件を満たすか否かを判断することによって、ジェットポンプ4の状態を判断する。つまり、駆動源3の運転状態を示す情報を外部の診断支援システム等によって分析しなくても、ジェット推進艇1自体が、振動センサ51の検出結果であるジェットポンプ4そのものの振動に基いてジェットポンプ4の状態を判断することができる。これにより、ジェットポンプ4の状態を判断するための手間の低減を図ることができる。また、この場合には、駆動源3の運転状態に関する情報(エンジン回転数等)を用いなくても、ジェットポンプ4の振動に基いてジェットポンプ4の状態を正確に判断することができる。
【0082】
振動センサ51の検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合に、つまりジェットポンプ4が所定の状態にある場合には、コントローラ41は、ユーザ向けの情報を報知する。ユーザ向けの情報は、警告や、ジェットポンプ4の状態に関する情報や、ユーザがなすべき対応に関する情報等を含む。コントローラ41は、ユーザ向けの情報を、ディスプレー49に表示することによって報知してもよいし、ブザー50を鳴らすことによって報知してもよい。この情報を受けたユーザは、ジェットポンプ4の状態の変更等のために、適切な対応を実行することができる。このような対応として、ユーザは、自分自身でジェットポンプ4をメンテナンスしてもよいし、ジェット推進艇1をディーラーに持ち込んでもよい。
【0083】
振動センサ51の検出結果が前記所定条件を満たすと判断した場合、例えばジェットポンプ4が改善すべき状態にある場合には、コントローラ41は、駆動源3の出力を制限してもよい。そのために、コントローラ41は、駆動源3の回転数を制限してもよい。駆動源3の回転数の制限の一例として、コントローラ41は、駆動源3を停止させてもよい。このように駆動源3の出力が制限されることによってジェットポンプ4の負荷が低減されるので、ジェットポンプ4の状態の悪化を抑制できる。
【0084】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、さらに他の形態で実施することもできる。
【0085】
例えば、ジェット推進艇1は、ジェットポンプ4を複数備えてもよい。ジェット推進艇1は、前述したパーソナルウォータークラフト(
図1参照)に限らず、キャビンを備えたスポーツボートであってもよい。スポーツボートである場合のジェットポンプ4には、キャビンにいるユーザが流路14内にアクセスするための点検口4Aが設けられてもよい(
図2参照)。ディスプレー49やブザー50による報知を受けたユーザは、メンテナンスのために点検口4Aから流路14内にアクセスして、流路14内の異物を取り除くことができる。
【0086】
以上で説明した様々な特徴は、適宜組み合わされてもよい。
【0087】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0088】
1:ジェット推進艇、2:船体、3:駆動源、4:ジェットポンプ、14:流路、14B:噴出口、17:ドライブシャフト、17A:外シャフト、17B:内シャフト、18:インペラ、19:ハウジングベアリング、21:外ベアリング、31:内ベアリング、32:ホルダ、34:ダンパ、41:コントローラ、49:ディスプレー、50:ブザー、51:振動センサ、141:インペラハウジング、142:ダクト、142C:静翼、143:ノズル