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特開2023-112820抽出後のコーヒー油成分抽出物及びそれを配合した化粧料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112820
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】抽出後のコーヒー油成分抽出物及びそれを配合した化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20230807BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014770
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000226437
【氏名又は名称】日光ケミカルズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 俊介
(72)【発明者】
【氏名】島田 亙
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AA122
4C083AB032
4C083AC012
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC122
4C083AC132
4C083AC242
4C083AC351
4C083AC352
4C083AC421
4C083AC422
4C083AC442
4C083AD042
4C083CC05
4C083CC23
4C083DD08
4C083EE11
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】産業廃棄物である抽出後のコーヒー粉を再利用し、化粧品用油剤として利用する簡易的製法および、それらを配合した化粧料を提供することを課題とする。
【解決手段】抽出後のコーヒー粉および化粧品用油剤を用いて、コーヒーに含まれる油成分を簡易的な製法によって抽出すること。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出後のコーヒー粉から得られるコーヒー油成分抽出物。
【請求項2】
常温で液体のエステル油および又はトリグリセライドで抽出された、請求項1に記載のコーヒー油成分抽出物。
【請求項3】
オリーブ油、マカデミアナッツ油、2-エチルヘキサン酸セチル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリルの一種または二種以上の油剤で抽出された、請求項1又は2に記載のコーヒー油成分抽出物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のコーヒー油成分抽出物を配合した化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品油剤を抽出溶媒とした抽出後のコーヒー粉から得られるコーヒー油成分抽出物及びそれを配合した化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化粧品において生豆からの抽出や圧搾から得られるコーヒーオイルは、原料として一般的に使用されており、抗酸化作用や痩身効果などの皮膚有用性があることが知られている(特許文献1)。また、飲料用に使用された抽出後のコーヒー粉の再利用についても様々な分野において資源再利用を目的に展開されている(特許文献2,3)。しかしながら、抽出後のコーヒー粉を原料とした化粧品原料への用途展開事例は少なく、その理由として水分を含むコーヒー粉をカビなどの影響を防ぎ、安定に化粧品原料に用いる手段が少ないことが挙げられる。事例としては、バイオ加工技術を用いて、回収したコーヒー粉をカビなどの繁殖を抑え、工業用原料として使用している例がある(特許文献4)。ただし、プロセスが複雑であり工業用への利用は広く進んでいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-346060号公報
【特許文献2】特開2009-197380号公報
【特許文献3】特開2011-57920号公報
【特許文献4】国際公開2021/069749号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
簡易的な製法プロセスを用いて抽出後のコーヒー粉からコーヒー油成分を抽出し、それを配合した化粧料を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
産業廃棄物である水分を含んだ抽出後のコーヒー粉を乾燥させ、化粧品油剤を用いて抽出させることで安全かつ安定にコーヒー油成分を得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。また、水分を含んだ抽出後のコーヒー粉を化粧品用油剤に入れ、撹拌下、加温して水分を除去し、冷却後、ろ過させることで安全かつ安定にコーヒー油成分を得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、簡易な方法により抽出後のコーヒー粉から化粧品原料として有用であるコーヒー油成分抽出物を得、それを配合した化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳述する。
本発明に用いる抽出後のコーヒー粉は、飲料用などに用いられたものに特に限定されない。
【0008】
また、本発明に用いる油剤は、化粧品用途で使用されるものであれば特に限定はなく、例えば、動物油、植物油、合成油等の起源、及び、固形油、半固形油、液体油、揮発性油等の性状を問わず用いることができ、炭化水素類、油脂類、ロウ類、硬化油類、エステル油およびトリグリセライド類、脂肪酸類、高級アルコール類、シリコーン油類等が挙げられる。具体的には、流動パラフィン、オレフィンオリゴマー、スクワラン、ポリブテン、パラフィンワックス、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モクロウ、ワセリン等の炭化水素類、常温で液体であるイソステアリン酸イソステアリル、イソステアリン酸コレステリル、イソステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ラウリン酸ヘキシル、イソノナン酸イソノニル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、ステアリン酸イソセチル、パルミチン酸イソプロピル、ダイマー酸ジイソプロピル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ジメチルオクタン酸オクチルドデシル、2-エチルヘキサン酸セチル、パルミチン酸オクチル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル、オクチルドデシル)、トリエチルヘキサノイン、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル等のエステル油およびトリグリセライド類、ミツロウ、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ゲイロウ等のロウ類、アボガド油、オリーブ油、サフラワー油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、ヤシ油、ヒマシ油、ヒマワリ油、メドウフォーム油、硬化ヒマシ油、シア脂、ラノリン、魚油等の精製油又は硬化(水添)油等の動植物油類、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、ミリスチン酸等の脂肪酸類、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ホホバアルコール等の高級アルコール類、メチルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等のシリコーン油類等が挙げられ、これらを一種又は二種以上を用いることで得られる。好ましくは、取り扱いやすい常温で液体のエステル油および又はトリグリセライド類が挙げられる。さらに好ましくは、コーヒー油成分と相溶性に優れ、かつ汎用的に化粧品に用いられるオリーブ油、マカデミアナッツ油、2-エチルヘキサン酸セチル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリルが挙げられる。
【0009】
本発明のコーヒー油成分抽出物の安定性を向上させる目的で、酸化防止剤、キレート剤、防腐剤、UV遮蔽剤などを任意に配合することができる。
【0010】
また、本発明のコーヒー油成分抽出物を配合した化粧料の剤形としては、美容オイル、ヘアオイル、乳化型スキンケア用化粧料、ローション、ヘアシャンプー、ヘアコンディショナー、ファンデーション、口紅などが挙げられるが、特に限定されない。
【0011】
以下に本発明の実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、以下の例において、配合量の記載は特に断りがない限り、質量%を意味する。
【実施例0012】
実施例1.抽出後のコーヒー乾燥物の調製
ステンレスバットに抽出後のコーヒー3686gを入れ、105℃の恒温槽で24時間乾燥させた。恒温槽より抽出後のコーヒー入りステンレスバットを取出し、室温まで冷却させたところ、収量1364g、収率37.0%で抽出後のコーヒー乾燥物を得た。
乾燥減量(105℃、1g、1h)は、0.91%でほとんどの水分を除去できた。菌検査を実施したところ、乾燥前の抽出後のコーヒーは、10の6乗オーダーの菌が検出されたが、水分を除去した抽出後のコーヒー乾燥物は、菌は未検出だった。
IR(ATR法):3318cm-1、2922 cm-1、2852 cm-1、1744 cm-1、1643 cm-1、1454 cm-1、1377 cm-1、1153cm-1、1028 cm-1、712 cm-1
2922 cm-1、2852 cm-1、1454cm-1、712 cm-1にコーヒー油由来のアルキル基の吸収、1744 cm-1にコーヒー油由来のカルボニル結合の吸収があり、コーヒー油由来成分が含有されていることが確認された。
【0013】
実施例2.コーヒー油含有シュガースクワラン溶液の調製
200mLビーカーにシュガースクワラン80gと抽出後のコーヒー乾燥物40gを入れ、室温で2時間混合撹拌した。次に、ろ紙と珪藻土を用いてろ過し、ろ液を回収し、コーヒー油含有シュガースクワラン溶液68.78gを得た。
IR(液膜法):2953cm-1、2926 cm-1、2868 cm-1、2857 cm-1、1749 cm-1、1464 cm-1、1377 cm-1、1367cm-1、1169 cm-1、735 cm-1
1749 cm-1にコーヒー油由来のカルボニル結合の吸収が確認され、コーヒー油含有シュガースクワラン溶液が得られた。
ガスクロマトグラフィーによりシュガースクワランを定量したところ、99.0%であり、コーヒー油由来成分が1%抽出されていることが確認できた。
【0014】
実施例3.コーヒー油含有2-エチルヘキサン酸セチル溶液の調製
200mLビーカーに2-エチルヘキサン酸セチル80gと抽出後のコーヒー乾燥物40gを入れ、室温で2時間混合撹拌した。次に、ろ紙と珪藻土を用いてろ過し、ろ液を回収し、コーヒー油含有2-エチルヘキサン酸セチル溶液66.95gを得た。
IR(液膜法):2957cm-1、2924 cm-1、2855cm-1、1736cm-1、1466cm-1、1379cm-1、1263cm-1、1225cm-1、1173cm-1、1144cm-1、721 cm-1
ガスクロマトグラフィーにより2-エチルヘキサン酸セチルを定量したところ、94.4%であり、コーヒー油由来成分が5.6%含有されていることが確認できた。
【0015】
実施例4.コーヒー油含有トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル溶液の調製
200mLビーカーにトリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル120gと抽出後のコーヒー乾燥物80gを入れ、室温で2時間混合撹拌した。次に、ろ紙と珪藻土を用いてろ過し、ろ液を回収し、コーヒー油含有トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル溶液113.56gを得た。
IR(液膜法):2955cm-1、2926 cm-1、2857cm-1、1746cm-1、1466cm-1、1418cm-1、1379cm-1、1159cm-1、1107cm-1、723 cm-1
ガスクロマトグラフィーによりトリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリルを定量したところ、96.2%であり、コーヒー油由来成分が3.8%含有されていることが確認できた。
【0016】
実施例5.コーヒー油含有トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル溶液の調製
水分離器を付けた500mLコルベンにトリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル120gと抽出後のコーヒー(wet品) 270gを入れ、窒素雰囲気下、130℃で水を留出させながら3時間撹拌し、さらに40~50mmHgの減圧下、120~130℃で0.5時間撹拌した。次に、窒素で常圧に戻し、50℃以下まで冷却し、ろ紙と珪藻土を用いてろ過を行い、ろ液を回収し、コーヒー油含有トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル溶液80.85gを得た。
IR(液膜法):2955cm-1、2926 cm-1、2857cm-1、1744cm-1、1466cm-1、1418cm-1、1379cm-1、1159cm-1、1107cm-1、723 cm-1
ガスクロマトグラフィーによりトリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリルを定量したところ、93.9%であり、コーヒー油由来成分が6.1%含有されていることが確認できた。
【0017】
抗酸化能を表すDPPHラジカル消去率の測定原理について示す。Diphenyl-2-pierylhydrazyl(以下、DPPHという)は、ラジカル状態で517nmの極大吸収を持つ化合物である。DPPHラジカル消去率とは、DPPHに抗酸化物質を添加して還元した際の、DPPHラジカルの517nmにおける吸光度の減少率であり、この値によって、抗酸化物質の抗酸化能を評価することができる。DPPHラジカル消去率が大きいほど、抗酸化能が高いことを示す。高い抗酸化能により、肌の老化(シワ・ハリ・弾力低下)やシミ、くすみへの効果が期待される。
【0018】
実施例2から5で得られたコーヒー油含有油について、下記の試験法により非常に安定なラジカルであるDPPHを使用してラジカル消去作用を試験した。
【0019】
試験方法
400μmol/LのDPPHエタノール溶液100μLに各濃度に調整したコーヒー油 含有油100μLを加え、室温、暗所にて60分静置した。その後、波長517nmにおける吸光度を測定した。比較例1として、コーヒー油の抽出溶媒の一つであるトリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリルを用いて同様に操作し、波長517nmの吸光度を測定した。コントロールとして、試験試料溶液の希釈に用いたエタノール溶液を同様に操作し、波長517nmの吸光度を測定した。また、ブランクとして、DPPHを含まないエタノール溶液100μLに試験試料溶液100μLを加えて同様に操作し、波長517nmにおける吸光度を測定した。測定された各吸光度より、次式によりDPPHラジカル消去率(%)を算出した。
【0020】
DPPHラジカル消去率(%)={1-(B-C)/A}×100
上記式中、「A」は「コントロールの吸光度」、「B」は「試験試料溶液を添加した場合の吸光度」、「C」は「ブランクの吸光度」を表す。下表に実施例2から5のコーヒー油含有油および比較例1の各濃度におけるDPPHラジカル消去率(%)を示す。
【0021】
【表1】
【0022】
上記の結果から、抽出溶媒の一つであるトリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル(比較例1)では、DPPHラジカル消去作用は認められず、実施例2~5に示したコーヒー油含有油において濃度依存的なDPPHラジカル消去作用が確認された。また、このDPPHラジカル消去作用の程度は、抽出物の濃度によって調節できることが確認された。
【0023】
以下に本発明の抽出後のコーヒー粉から得られるコーヒー油成分抽出物を含有する化粧料の応用例を示す。配合量は質量%である。処方例1~3は実施例2~5と同様にラジカル消去作用を評価したところ、優れた結果を得た。
【0024】
<処方例1>スキンケア乳液
1.モノステアリン酸POE(20)ソルビタン 1.0
2.テトラオレイン酸POE(40)ソルビトール 1.5
3.親油型モノステアリン酸グリセリル 1.0
4.ステアリン酸 0.2
5.ベヘニルアルコール 0.3
6.パルミチン酸セチル 0.5
7.スクワラン 3.0
8.2-エチルヘキサン酸セチル 2.0
9.実施例4に示したコーヒー含有油 5.0
10.防腐剤 適量
11.1,3-ブチレングリコール 7.0
12.ジプロピレングリコール 4.0
13.精製水 残量
(調製方法)1~9、10~13ともに加温溶解し、1~9をホモミキサーで撹拌しながら、10~13を徐々に加え乳化する。パドル撹拌しながら冷却し、調製を終了とする。
【0025】
<処方例2>ヘアオイルミスト
1.実施例2に示したコーヒー含有油 10.0
2.スクワラン 10.0
3.ミリスチン酸メチルへプチル 5.0
4.香料 微量
5.イソドデカン 残量
(調製方法)配合原料を撹拌均一混合する。
【0026】
<処方例3>洗顔フォーム
1.ラウリン酸 10.0
2.パルミチン酸 12.0
3.ステアリン酸 10.0
4.ラウロイルメチルタウリンNa液 5.0
5.ステアリン酸グリセリル(SE) 2.0
6.PEG-30 10.0
7.グリセリン 10.0
8.ソルビトール(70%水溶液) 5.0
9.実施例5に示したコーヒー含有油 1.0
10.防腐剤 適量
11.KOH 7.0
12.精製水 残量
(調製方法)1~10、11~12をそれぞれ加温溶解し、1~10を撹拌しながら、11~12を徐々に加え均一化する。撹拌しながら冷却し、調製を終了とする。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の抽出後のコーヒー油成分抽出物は、化粧品用途油剤を用いて抽出することで簡易に得ることができ、それらを化粧料に配合することにより、コーヒー油成分抽出物による肌への有効性を得ることができる。