IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIインフラシステムの特許一覧

特開2023-112822ゲート用開閉装置の2速度切換機構及びそれを備えたワイヤロープウインチ式開閉装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112822
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】ゲート用開閉装置の2速度切換機構及びそれを備えたワイヤロープウインチ式開閉装置
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/36 20060101AFI20230807BHJP
【FI】
E02B7/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014773
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 廣治
【テーマコード(参考)】
2D019
【Fターム(参考)】
2D019BA03
2D019BA21
(57)【要約】
【課題】緊急閉塞機能を要求されるゲート設備において、閉操作時には高速で確実に操作でき、開操作時には緊急閉鎖の必要な状況が解消された後に、安価、効率的、且つ確実に操作できるようにする。
【解決手段】駆動源に駆動される入力軸20と、入力軸と回転可能に接続される第1差動歯車装置19aと、第1差動歯車装置と回転可能に接続される第2差動歯車装置19bと、第2差動歯車装置と回転可能に接続されると共に、被駆動体を駆動可能な出力軸23と、を備え、第1差動歯車装置により入力軸と第2差動歯車装置との間で動力の伝達を行い、第2差動歯車装置により第1差動歯車装置と出力軸との間で動力の伝達を行うことにより、被駆動体を第1方向に移動させる低速の第1速度と、該第1速度よりも速く該被駆動体を第2方向に移動させる高速の第2速度との2速度を切り換えるように構成する。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に駆動される入力軸と、
上記入力軸と回転可能に接続される第1差動歯車装置と、
上記第1差動歯車装置と回転可能に接続される第2差動歯車装置と、
上記第2差動歯車装置と回転可能に接続されると共に、被駆動体を駆動可能な出力軸と、を備え、
上記第1差動歯車装置により上記入力軸と上記第2差動歯車装置との間で動力の伝達を行い、
上記第2差動歯車装置により上記第1差動歯車装置と上記出力軸との間で動力の伝達を行うことにより、
上記被駆動体を第1方向に移動させる低速の第1速度と、該第1速度よりも速く該被駆動体を第2方向に移動させる高速の第2速度との2速度を切り換えるように構成されている
ことを特徴とする2速度切換機構。
【請求項2】
上記第1差動歯車装置及び上記第2差動歯車装置は、それぞれ対向して配置された一対の太陽歯車及び該一対の太陽歯車と直交する軸を有する遊星歯車公転軸に取付けられた1つ以上の遊星歯車を有し、1本の回転軸からの荷重を2本の回転軸に分岐、又は、2本の回転軸の荷重を1本の回転軸に合流させるように構成されており、
上記入力軸から上記出力軸に至る低速側伝達経路及び高速側伝達経路を有し、低速側伝達経路の駆動側歯車の歯数を従動側歯車の歯数で割った歯数比が高速側伝達経路の駆動側歯車の歯数を従動側歯車の歯数で割った歯数比よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の2速度切換機構。
【請求項3】
上記低速側伝達経路の歯数比が上記高速側伝達経路の歯数比よりも2倍以上小さい
ことを特徴とする請求項2に記載の2速度切換機構。
【請求項4】
上記入力軸は、上記第1差動歯車装置の第1入力側太陽歯車と回転可能に接続され、
上記第1入力側太陽歯車に対向する第1出力側太陽歯車は、上記第1差動歯車装置の第1遊星歯車に噛み合うと共に、上記第2差動歯車装置の第2入力側太陽歯車及び第2遊星歯車の一方に回転可能に接続される第1動力伝達系統を構成し、
上記第1遊星歯車は、上記第2差動歯車装置の第2入力側太陽歯車及び第2遊星歯車の他方と回転可能に接続される第2動力伝達系統を構成し、
上記第2遊星歯車は、上記第2入力側太陽歯車に噛み合うと共に、該第2入力側太陽歯車に対向する第2出力側太陽歯車と噛み合い、上記出力軸に回転可能に接続されている
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の2速度切換機構。
【請求項5】
上記第1動力伝達系統と上記第2動力伝達系統とで歯数比の小さい方が、上記低速側伝達経路を構成し、
上記第1動力伝達系統と上記第2動力伝達系統とで歯数比の大きい方が、上記高速側伝達経路を構成している
ことを特徴とする請求項4に記載の2速度切換機構。
【請求項6】
上記入力軸は、上記第1差動歯車装置の第1リングギヤに自転可能及び公転可能に連結された第1遊星歯車と回転可能に接続され、
上記第1遊星歯車に噛み合う第1高速出力側太陽歯車は、上記第2差動歯車装置の第2高速入力側太陽歯車に回転可能に接続される高速側伝達経路を構成し、
上記第1遊星歯車に噛み合う第1低速出力側太陽歯車は、上記第2差動歯車装置の第2低速入力側太陽歯車に回転可能に接続される低速側伝達経路を構成し、
上記第2高速入力側太陽歯車及び上記第2低速入力側太陽歯車に噛み合う第2遊星歯車は、上記出力軸に回転可能に接続された第2リングギヤに自転可能及び公転可能に連結されている
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の2速度切換機構。
【請求項7】
請求項2から6のいずれか1つに記載の2速度切換機構を備え、
ワイヤロープを巻き取って上記被駆動体を上記第1速度で移動させ、
上記ワイヤロープを繰り出して上記被駆動体を上記第2速度で移動させるように構成されている
ことを特徴とするワイヤロープウインチ式開閉装置。
【請求項8】
上記被駆動体は、開閉ゲートであり、
上記第1速度は、上記開閉ゲートを上昇させてゲートを開くときの速度であり、
上記第2速度は、上記開閉ゲートを降下させて上記ゲートを閉じるときの速度である
ことを特徴とする請求項7に記載のワイヤロープウインチ式開閉装置。
【請求項9】
開閉ゲートを開閉操作させる開閉操作機構を備え、
上記開閉操作機構を開き操作すると、上記2速度切換機構を介して上記ゲートが低速の第1速度で開き、
上記開閉操作機構を閉じ操作すると、上記2速度切換機構を介して自重により上記ゲートが高速の第2速度で閉じる
ことを特徴とする請求項8に記載のワイヤロープウインチ式開閉装置。
【請求項10】
上記低速側伝達経路及び上記高速側伝達経路の歯数比の違いによって、上記第1差動歯車装置及び上記第2差動歯車装置に作用する負荷側荷重に差が生じ、当該差によって、
上記開き操作時には荷重の小さな上記低速側伝達経路が回転し、
上記閉じ操作時には上記ゲートの自重により強く引かれる上記高速側伝達経路が回転することで、回転及び動力を伝達する動力伝達系統が自然に切り換わる
ことを特徴とする請求項9に記載のワイヤロープウインチ式開閉装置。
【請求項11】
上記高速側伝達経路の駆動側に順方向にのみ回転を許容する第1ワンウェイクラッチが設けられ、
上記低速側伝達経路の駆動側に順方向にのみ回転を許容する第2ワンウェイクラッチが設けられ、
上記駆動源により上記入力軸を第1の方向に回転させると、上記第1ワンウェイクラッチ及び上記第2ワンウェイクラッチのいずれか一方が固定され、他方が回転し、回転する側の動力伝達系統の歯数比に適合した開閉速度で回転及び動力が伝達され、
上記駆動源により上記入力軸を第2の方向に回転させると、上記第1ワンウェイクラッチ及び上記第2ワンウェイクラッチの他方が固定され、一方が回転し、回転する側の動力伝達系統の歯数比に適合した開閉速度で回転及び動力が伝達される
ことを特徴とする請求項7又は8に記載のワイヤロープウインチ式開閉装置。
【請求項12】
上記高速側伝達経路の駆動側に制動又は制動解除の切換可能な第1制動機が設けられ、
上記低速側伝達経路の駆動側に制動又は制動解除の切換可能な第2制動機が設けられている
ことを特徴とする請求項9に記載のワイヤロープウインチ式開閉装置。
【請求項13】
上記高速側伝達経路の駆動側には、可変流量調整弁で回転数を変更できる油圧ポンプが設けられている
ことを特徴とする請求項10に記載のワイヤロープウインチ式開閉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ダムや河川の制水設備に用いられるワイヤロープウインチ式のゲート用開閉装置の2速度切換機構及びそれを備えたワイヤロープウインチ式開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、ダム貯水池における取水設備の取水口飲口部に設けられて取水量調節ゲートの異常時に緊急閉塞する制水ゲートや、河川河口部に設けられて海洋地震発生時に国土を津波被害から防護するために緊急閉塞する防潮ゲートで用いられる閉操作可能な開閉装置は、通常のゲートよりも速い速度、例えば、通常の0.3m/minに対して1.0m/minで駆動されることが知られている。
【0003】
この種の開閉装置には、その動力として定出力タイプの極数変換電動機を使用し、開閉荷重が小さく、且つ、操作に緊急性のある閉操作時には高速(例えば、1.0m/min)で操作し、開閉荷重が大きく、且つ、緊急閉塞が必要な状況からの解消後に時間を掛けて操作することのできる開操作時には低速(例えば、0.5m/min)で操作される。
【0004】
なお、特許文献1のように、出力軸に回転力を伝える動力伝達手段と、この動力伝達手段に連結された遊星ギヤA、及び、この遊星ギヤAにそれぞれ噛み合った第1、第2の入力ギヤを有する遊星歯車機構αと、ゲートを昇降させる回転力を、第1の入力ギヤ、遊星ギヤA及び動力伝達手段を介して、出力軸に与える電動モータと、ゲートを上昇させる回転力を、第2の入力ギヤ、遊星ギヤA及び動力伝達手段を介して、出力軸に与える燃料エンジンと、ゲートを上昇させる回転力を、動力伝達手段を介して前記出力軸に与える手動ハンドルと、第1、第2の入力ギヤをそれぞれ固定する第1、第2のブレーキ手段と、ゲートを自重で降下させる解放状態への切換を、電力供給なしで行うロック解除手段とを備える、出力軸を回転させて外部のゲートを昇降するゲート駆動設備のように、電動モータ、燃料エンジン又は手動ハンドルからの動力を、遊星ギヤを用いた出力軸に伝達する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6356010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
定出力タイプの極数変換電動機を使用する場合、低速時(例えば12極時)と高速時(例えば6極時)の定格出力動力が等しく、両者の定格電流値が同程度であることが理想であるが、大きな荷重で扉体等の被駆動部を引き上げる低速時の力率が低いために低速時の定格電流値が大きくなり、その定格電流値は高速時の1.7倍にもなることがある。
【0007】
さらに、低速時には同一区間を開操作する場合の所要時間が長く(例えば2倍)なることも合わせて考慮すると、所要電力量が大きくなり、極数変換電動機を採用する意義がないと考えられる。
【0008】
さらに、ゲート設備以外の異分野では、速度の変換方法としてインバータを用いて周波数を変換する方法に移行していることから、電動機製造メーカでは極数変換電動機の製造対応する型番(出力動力)を減らしており、近い将来には、極数変換電動機から完全撤退することも推測できる。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、極数変換電動機を使用することなく、差動歯車装置を用いて2速度切換を行い、元々極数変換電動機が目的としていた省消費電力開閉操作を行うことができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明では、接続される一対の差動歯車装置を用いて出力軸における2つの速度を実現できるようにした。
【0011】
具体的には、第1の発明では、
駆動源に駆動される入力軸と、
上記入力軸と回転可能に接続される第1差動歯車装置と、
上記第1差動歯車装置と回転可能に接続される第2差動歯車装置と、
上記第2差動歯車装置と回転可能に接続されると共に、被駆動体を駆動可能な出力軸と、を備え、
上記第1差動歯車装置により上記入力軸と上記第2差動歯車装置との間で動力の伝達を行い、
上記第2差動歯車装置により上記第1差動歯車装置と上記出力軸との間で動力の伝達を行うことにより、
上記被駆動体を第1方向に移動させる低速の第1速度と、該第1速度よりも速く該被駆動体を第2方向に移動させる高速の第2速度との2速度を切り換えるように構成されている。
【0012】
上記の構成によると、極数変換電動機の場合には、低速時(例えば12極時)の力率が悪く、所定の定格出力動力を得るための定格電流値が大きくなっていたものが、本発明の場合には第1方向且つ第1速度の低速時及び第2方向且つ第2速度の高速時共に、電動機は適正な力率で駆動でき、定格電流値が小さくなって、消費電力量の低減になる。そして、電気制御装置においても、極数変換の切換用機器が不要になり、制御を単純化できる。
【0013】
第2の発明では、第1の発明において、
上記第1差動歯車装置及び上記第2差動歯車装置は、それぞれ対向して配置された一対の太陽歯車及び該一対の太陽歯車と直交する軸を有する遊星歯車公転軸に取付けられた1つ以上の遊星歯車を有し、1本の回転軸からの荷重を2本の回転軸に分岐、又は、2本の回転軸の荷重を1本の回転軸に合流させるように構成されており、
上記入力軸から上記出力軸に至る低速側伝達経路及び高速側伝達経路を有し、低速側伝達経路の駆動側歯車の歯数を従動側歯車の歯数で割った歯数比が高速側伝達経路の駆動側歯車の歯数を従動側歯車の歯数で割った歯数比よりも小さい。
【0014】
以下で歯数比とは、駆動側歯車の歯数を従動側歯車の歯数で割った値をいう。
【0015】
上記の構成によると、一対の太陽歯車とそれらに噛み合う1つ以上の遊星歯車を有する第1及び第2差動歯車装置を用いて入力軸から出力軸に至る動力伝達経路に異なる駆動側歯車の歯数を従動側歯車の歯数で割った歯数比の歯車列を設けて低速側伝達経路及び高速側伝達経路を形成することで、出力軸における2つの速度の切替が可能となる。さらに、従来の極数変換電動機による方法と比較すると、極数変換電動機の場合には「6極/12極」や「4極/12極」等の比率に限定していたものが、歯車の歯数比で比較的自由に設定することができるようになる。
【0016】
第3の発明では、第2の発明において、
上記低速側伝達経路の歯数比が上記高速側伝達経路の歯数比よりも2倍以上小さい。
【0017】
上記の構成によると、低速側伝達経路の歯数比を高速側伝達経路に対して2倍以上小さくすることで、低速側と高速側との切り換えがメリハリを持って行われる。
【0018】
第4の発明では、第2又は第3の発明において、
上記入力軸は、上記第1差動歯車装置の第1入力側太陽歯車と回転可能に接続され、
上記第1入力側太陽歯車に対向する第1出力側太陽歯車は、上記第1差動歯車装置の第1遊星歯車に噛み合うと共に、上記第2差動歯車装置の第2入力側太陽歯車及び第2遊星歯車の一方に回転可能に接続される第1動力伝達系統を構成し、
上記第1遊星歯車は、上記第2差動歯車装置の第2入力側太陽歯車及び第2遊星歯車の他方と回転可能に接続される第2動力伝達系統を構成し、
上記第2遊星歯車は、上記第2入力側太陽歯車に噛み合うと共に、該第2入力側太陽歯車に対向する第2出力側太陽歯車と噛み合い、上記出力軸に回転可能に接続されている。
【0019】
上記の構成によると、第1動力伝達系統と第2動力伝達系統とが2つの差動歯車装置によって実現され、これら2つの動力伝達系統により、出力軸が2つの速度で回転する。
【0020】
第5の発明では、第4の発明において、
上記第1動力伝達系統と上記第2動力伝達系統とで歯数比の小さい方が、上記低速側伝達経路を構成し、
上記第1動力伝達系統と上記第2動力伝達系統とで歯数比の大きい方が、上記高速側伝達経路を構成している。
【0021】
上記の構成によると、歯数比の違いで低速側伝達経路と高速側伝達経路の役割分担を行える。
【0022】
第6の発明では、第2又は第3の発明において、
上記入力軸は、上記第1差動歯車装置の第1リングギヤに自転可能及び公転可能に連結された第1遊星歯車と回転可能に接続され、
上記第1遊星歯車に噛み合う第1高速出力側太陽歯車は、上記第2差動歯車装置の第2高速入力側太陽歯車に回転可能に接続される高速側伝達経路を構成し、
上記第1遊星歯車に噛み合う第1低速出力側太陽歯車は、上記第2差動歯車装置の第2低速入力側太陽歯車に回転可能に接続される低速側伝達経路を構成し、
上記第2高速入力側太陽歯車及び上記第2低速入力側太陽歯車に噛み合う第2遊星歯車は、上記出力軸に回転可能に接続された第2リングギヤに自転可能及び公転可能に連結されている。
【0023】
上記の構成によると、簡易な構成で出力軸が2つの速度で回転する。
【0024】
第7の発明では、第2から第6のいずれか1つの発明において、
ワイヤロープを巻き取って上記被駆動体を上記第1速度で移動させ、
上記ワイヤロープを繰り出して上記被駆動体を上記第2速度で移動させるように構成されている。
【0025】
上記の構成によると、巻き取り時の第1速度よりも繰り出し時の第2速度を速くすることで、自重を用いたゲートなどの開閉操作に適するワイヤロープウインチ式開閉装置が得られる。
【0026】
第8の発明では、第7の発明において、
上記被駆動体は、開閉ゲートであり、
上記第1速度は、上記開閉ゲートを上昇させてゲートを開くときの速度であり、
上記第2速度は、上記開閉ゲートを降下させて上記ゲートを閉じるときの速度である。
【0027】
上記の構成によると、一対の差動歯車装置を用いて、ゲートの自重の負荷がかかるゲートの開き操作時の第1速度をゲートの自重を利用してゲートを閉じる第2速度よりも遅くすることで、開閉時の低速と高速との切換を実現できる。
【0028】
第9の発明では、第8の発明において、
開閉ゲートを開閉操作させる開閉操作機構を備え、
上記開閉操作機構を開き操作すると、上記2速度切換機構を介して上記ゲートが低速の第1速度で開き、
上記開閉操作機構を閉じ操作すると、上記2速度切換機構を介して自重により上記ゲートが高速の第2速度で閉じる。
【0029】
上記の構成によると、開閉操作機構を開閉操作するだけで、ゲートの自重による荷重の軽重による一対の差動歯車装置の作用の違いを利用して開閉速度の差が実現される。
【0030】
第10の発明では、第9の発明において、
上記低速側伝達経路及び上記高速側伝達経路の歯数比の違いによって、上記第1差動歯車装置及び上記第2差動歯車装置に作用する負荷側荷重に差が生じ、当該差によって、
上記開き操作時には荷重の小さな上記低速側伝達経路が回転し、
上記閉じ操作時には上記ゲートの自重により強く引かれる上記高速側伝達経路が回転することで、回転及び動力を伝達する動力伝達系統が自然に切り換わる。
【0031】
上記の構成によると、ゲートの自重を利用した閉じ操作時の高速閉動作と、開き操作時の低速開動作が行われる。
【0032】
第11の発明では、第7又は第8の発明において、
上記高速側伝達経路の駆動側に順方向にのみ回転を許容する第1ワンウェイクラッチが設けられ、
上記低速側伝達経路の駆動側に順方向にのみ回転を許容する第2ワンウェイクラッチが設けられ、
上記駆動源により上記入力軸を第1の方向に回転させると、上記第1ワンウェイクラッチ及び上記第2ワンウェイクラッチのいずれか一方が固定され、他方が回転し、回転する側の動力伝達系統の歯数比に適合した開閉速度で回転及び動力が伝達され、
上記駆動源により上記入力軸を第2の方向に回転させると、上記第1ワンウェイクラッチ及び上記第2ワンウェイクラッチの他方が固定され、一方が回転し、回転する側の動力伝達系統の歯数比に適合した開閉速度で回転及び動力が伝達される。
【0033】
上記の構成によると、高速側と低速側の歯数比の差が、あまり大きくない場合においても、確実に2速度切換機能が作動するように、2系統の動力伝達系統において、各動力伝達系統の駆動側に位置する軸に逆転防止(バックストップ)用一方(ワンウエイ)クラッチを、互いに逆方向回転で「噛み合い」状態になる。この機構の機能により、電動機を回転させると、2基の一方クラッチのうちの片側が「噛み合い」状態となって軸が固定され、他の側は「空転」となって軸が回転する。そして、その回転する側の動力伝達系統の歯数比に適合した開閉速度で回転及び動力が伝達される。また、上記とは逆方向に電動機を回転させると、一方クラッチの「噛み合い」状態と「空転」状態が上記とは逆転し、上記とは異なる側の動力伝達系統の歯数比に適合した開閉速度で回転及び動力が伝達される。
【0034】
第12の発明では、第9の発明において、
上記高速側伝達経路の駆動側に制動又は制動解除の切換可能な第1制動機が設けられ、
上記低速側伝達経路の駆動側に制動又は制動解除の切換可能な第2制動機が設けられている。
【0035】
すなわち、通常は低速での開操作及び高速での閉操作に設定されていることが多いが、上記の構成のように制動機を追加することにより、強制的に低速での閉操作及び高速での開操作を選択することも可能である。また、被駆動体の移動方法に関係なく、任意に高速操作と低速操作を選択することができる。
【0036】
第13の発明では、第10の発明において、
上記高速側伝達経路の駆動側には、可変流量調整弁で回転数を変更できる油圧ポンプが設けられている。
【0037】
上記の構成によると、低速での閉操作を行うようにするための制動機を、可変流量調整弁を接続した油圧ポンプとすることにより、通常区間では高速で閉操作していたゲートが、開度検出装置で全閉着床位置に接近したことを検知すると、高速から低速へ徐々に減速し、低速で着床させ、着床時の衝撃を緩和することが可能である。
【0038】
すなわち、通常区間の閉操作では、流量調整弁を効かせずに油圧ポンプから吐出された油圧作動油を最小限の抵抗で自由に通過させ、第10の発明に示す機構により、自然に高速操作を選択して閉操作を行い、全閉着床位置に接近すると、全閉着床の衝撃を緩和させることを目的として、高速状態から低速状態へ下降速度を徐々に変化させる機構を付加させることができる。
【発明の効果】
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、極数変換電動機を用いなくても、一対の差動歯車装置を利用して出力軸で低速と高速の切替をできる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の実施形態に係るダムの取水設備に設ける制水ゲートの扉体とワイヤロープウインチ式開閉装置との関係を示す断面図である。
図2A】本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を有するワイヤロープウインチ式開閉装置のうち、同機能を直交軸形減速機に内蔵する場合の平面図である。
図2B】本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を有するワイヤロープウインチ式開閉装置のうち、同機能を平行軸形減速機の第2段減速に内蔵する場合の平面図である。
図2C】本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を有するワイヤロープウインチ式開閉装置のうち、同機能を平行軸形減速機の第1段減速に内蔵する場合の平面図である。
図2D】本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を有するワイヤロープウインチ式開閉装置のうち、直交軸形減速機に単体の切換装置を追加設置する場合の平面図である。
図2E】本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を有するワイヤロープウインチ式開閉装置のうち、平行軸形減速機に単体の切換装置を追加設置する場合の平面図である。
図3A】本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ直交軸形減速機の内部機構図である。
図3B】本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ平行軸形減速機のうちの、第2段減速に設置する場合の内部機構図である。
図3C】本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ平行軸形減速機のうちの、第1段減速に設置する場合の内部機構図である。
図3D】本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ単独の切換装置の内部機構図である。
図3E】本発明の第1の実施形態に係る高速側動力伝達経路と低速側動力伝達経路を対称に配置した直交軸形減速機の内部機構図である。
図4A】本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ直交軸形減速機の動力伝達図であり、(a)が低速の開操作時を示し、(b)が高速の閉操作時を示す。
図4B】本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ平行軸形減速機のうちの、第2段減速に設置する場合の動力伝達図であり、(a)が低速の開操作時を示し、(b)が高速の閉操作時を示す。
図4C】本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ平行軸形減速機のうちの、第1段減速に設置する場合の動力伝達図であり、(a)が低速の開操作時を示し、(b)が高速の閉操作時を示す。
図4D】本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ単独の切換装置の動力伝達図であり、(a)が低速の開操作時を示し、(b)が高速の閉操作時を示す。
図4E】本発明の第1の実施形態に係る高速側動力伝達経路と低速側動力伝達経路を対称に配置した直交軸形減速機の動力伝達図であり、(a)が低速の開操作時を示し、(b)が高速の閉操作時を示す。
図5】2速度切換機能の機構説明図であり、(a)が低速の開操作時を示し、(b)が高速の閉操作時を示す。
図6】本発明の第2の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ直交軸形減速機の内部機構図である。
図7A】本発明の第3の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ直交軸形減速機のうちの、電磁ブレーキを減速機本体に直付する場合の内部機構図である。
図7B】本発明の第3の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ直交軸形減速機のうちの、外付の制動機と接続するための軸を設ける場合の内部機構図である。
図8】本発明の第4の実施形態に係る2速度切換機能を有するワイヤロープウインチ式開閉装置のうち、同機能を直交軸形減速機に内蔵する場合の平面図である。
図9A】従来の直交軸形減速機を使用した2速度切換機能を有するワイヤロープウインチ式開閉装置の平面図である。
図9B】従来の平行軸形減速機を使用した2速度切換機能を有するワイヤロープウインチ式開閉装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0042】
図1は、本発明による2速度切換機構を備えたワイヤロープウインチ式開閉装置2a~2e,2gが設けられた、ダムの取水設備の制水ゲートの全体縦断面図を示す。ここに示す取水設備の下流側には、同図には示していないが、取水量を制御するためのゲート設備等が設けられる。そして、取水量制御用ゲートの異常によるダム湖からの異常流出を防止する目的で、取水口飲口を緊急で閉塞するために、制水ゲート1が設けられる。
【0043】
この形式のゲート設備では、一般に揚程が大きいため、後述するような高揚程への対応が容易なワイヤロープウインチ式開閉装置が多く採用されている。
【0044】
このような機能が要求される制水ゲート1の開閉装置として、開(上昇)操作時には省電力を考慮して第1の方向としての上方向に第1速度としての低速で駆動し、閉(下降)操作時には緊急閉塞に対応するため第2の方向としての下方向に第2速度としての高速で駆動する、2速度切換機構を有する開閉装置が多くの設備で採用されている。
【0045】
-従来の2速度切換機構を有する開閉装置-
図9A及び図9Bは、比較のために、図1に示す2速度切換機構を有する開閉装置のうち、従来の設備で多く採用されていた機器の配置を示す。ワイヤロープウインチ式開閉装置102a又は102bに使用する減速機にはドラム軸と減速機入力軸とが直交関係にある「直交軸タイプ」のもの111aと、ドラム軸と減速機入力軸とが平行関係にある「平行軸タイプ」のもの111bがあり、直交軸形減速機を使用した事例を図9Aに、平行軸形減速機を使用した事例を図9Bにそれぞれ示す。
【0046】
従来の設備では、電動機にゲート用極数変換電動機(例えば6極/12極)109を使用し、電動機の出力動力を制動機110、減速機111a,111b、ドラムピニオン115、ドラムギヤ116、ドラム106の順に伝達し、扉体3を開閉している。なお、ワイヤロープウインチ式開閉装置102a又は102bは、開閉装置側シーブ107、ワイヤロープ端末固定部108、チェーンカップリング113、ギヤカップリング114等をそれぞれ備えている。
【0047】
そして、開閉速度の切換は、電気制御装置内の電磁接触器による電動機固定子回路の切換でゲート用極数変換電動機109の極数を変換し、開閉速度を変更している。
【0048】
この極数変換による方法は、「低速時の力率が低いため定格電流値が大きく、省電力効果が小さい」及び「電動機製造メーカによる将来の継続的な極数変換電動機の供給に不安がある」という問題がある。
【0049】
-本発明の実施形態-
本発明では、ワイヤロープウインチ式開閉装置の電動機及び制動機の次に設ける減速機の内部の高速部分、あるいは、制動機と減速機との間に設ける専用の切換装置内部に、2速度変換用に2種類の歯数比の歯車装置を並列に配置し、この2種類の歯車装置のいずれか片方のみが動力伝達するように切換機構が設けられている。なお、以下で歯数比とは、駆動側歯車の歯数を従動側歯車の歯数で割った値をいう。
【0050】
さらに、開操作時に低速、閉操作時に高速というように、回転方向を変更することによって必要な速度が変化することに着目し、回転方向を変更することで自然に動力を伝達する歯車が切り換わる切換機構としている。
【0051】
具体的には、減速機等の内部の連続する2本の歯車軸の各々1基、合計2基の差動歯車装置を設け、入力軸側の差動歯車装置で2系統の動力伝達経路に分け、各動力伝達経路に1組のハスバ歯車減速部を設け、さらに出力軸側の差動歯車装置で2系統の動力伝達経路を合流させて1つの動力伝達経路とし、出力軸側へ伝達するようにしている。
【0052】
以下で説明する2組の差動歯車装置は、対向して配置された2個のマガリバカサ歯車(太陽歯車)及び太陽歯車と直交する軸に取付けられたマガリバカサ歯車(遊星歯車、2個以上とする場合が多い)で構成され、1軸からの荷重を2軸に分岐、あるいは、2軸の荷重を1軸に合流させるための歯車装置である。
【0053】
また、上記2系統の動力伝達に各1組、合計2組設けたハスバ歯車減速部のうちの1組を高速用、すなわち閉操作時の操作速度に適合した歯数比とし、他の1組を低速用、すなわち開操作時の操作速度に適合した歯数比として、2基の差動歯車装置間の動力伝達経路を切り換えることにより開操作時と閉操作時で操作速度を切り換えることができるようにしている。
【0054】
また、閉操作時には、扉体等の被駆動部の自重による降下力に対して、電動機で制動しながら降下させることから、上記の出力軸側から遡ってて伝達された回転トルクは「駆動のための動力源としての回転トルク」となり、負荷側からの回転及び動力は、大きなトルクで回転させようとする高速側の動力伝達経路によって優先的に伝達される。
【0055】
そして、電動機を開方向に回転させると、減速機等の内部に組み込んでいる、2組の差動歯車装置の間に設けた2組の歯車減速部のうち、低速側の歯車減速部が自然に選択されて、低速で駆動する。
【0056】
このように、回転方向を切り換えるだけで、各々の回転方向に適合した減速比が得られる。
【0057】
以上より、確実な速度の切換が行われるためには、低速側と高速側との間に、確実且つ安定して動力伝達経路が選択されるだけの歯数比の差が必要である。
【0058】
さらに、設備の運用条件によっては、「低速運転による開操作」及び「高速運転による閉操作」の他の操作条件、例えば「低操作運転による閉操作」が要求される場合がある。
【0059】
-第1の実施形態-
(直交軸形減速機11aを使用するワイヤロープウインチ式開閉装置2a)
図2Aは、本発明の第1の実施形態のうち、直交軸形減速機11aを使用するワイヤロープウインチ式開閉装置2aに実施する場合で、直交軸形減速機111aを、本発明対象である2速度切換機構を内蔵する直交軸形減速機11aに変更する場合の機器の配置を示す。従来方式の開閉装置と比較すると、機器の点数は変わらないが、電動機が極数変換型のゲート用極数変換電動機109から通常(極数固定)のゲート用電動機9に変わり、その電動機の定格トルクに対応した制動機10を設置している。そして、直交軸形減速機11aの内部の入力軸側に近い部分に、2速度切換機構を内蔵している。なお、詳しい説明は省略するが、以下の各実施形態でも、ワイヤロープウインチ式開閉装置は、それぞれ扉体側シーブ5、ドラム6、開閉装置側シーブ7、ワイヤロープ端末固定部8、チェーンカップリング13、ギヤカップリング14、ドラムピニオン15、ドラムギヤ16等をそれぞれ備えている。
【0060】
図3Aは、本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ直交軸形減速機11aの内部機構図を示す。
【0061】
この直交軸形減速機11aは入力軸20と出力軸23が直交するため、第1段減速にマガリバカサ歯車26aを採用し、その次に位置する第2歯車軸と第3歯車軸に各々1組、計2組の第1差動歯車装置19a及び第2差動歯車装置19bを配置し、第1差動歯車装置19a及び第2差動歯車装置19bの間には第1及び第2動力伝達経路を並列に構成し、各動力伝達経路には互いに歯数比の異なるハスバ歯車を各1組、計2組、すなわち、ハスバ歯車28aとハスバ歯車29a並びにハスバ歯車28bとハスバ歯車29bを設けている。
【0062】
そして、歯数比(駆動側歯車の歯数を従動側歯車の歯数で割った値)の小さいハスバ歯車28bと29b側を「低速側」伝達経路、大きいハスバ歯車28aと29a側を「高速側」伝達経路としている。このとき、歯数比で2倍以上の差(例えば、低速側;1/4.50、高速側;1/2.25の場合には2倍の差)を設けるようにすることが望ましい。
【0063】
図4Aは、本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ直交軸形減速機11aの動力伝達図を示し、上側(a)に開操作(低速)時の動力伝達を、下側(b)に閉操作(高速)時の動力伝達を示す。
【0064】
なお、開操作時に低速側伝達経路を、閉操作時に高速側伝達経路を自然に選択するメカニズムは、図5を用いて後述する。
【0065】
図4A(a)に示す開操作(低速)時には、入力軸(第1歯車軸)20へ伝達された動力は、第1段減速のマガリバカサ歯車26aを介して第1差動歯車装置19aの第1入力側太陽歯車24aへ伝達される。
【0066】
第1入力側太陽歯車24aの回転は、第1遊星歯車25aの回転(自転)に伝達され、第1遊星歯車25aは公転せずに、第1出力側太陽歯車24bへ伝達される。
【0067】
第1出力側太陽歯車24bの回転は、第1出力側太陽歯車軸(第2歯車軸)21bと第2入力側太陽歯車軸(第3歯車軸)22bとの間の低速用のハスバ歯車28b及び29bを介して第2差動歯車装置19bの第2入力側太陽歯車24cへ伝達される。
【0068】
第2入力側太陽歯車24cの回転は、第2遊星歯車25bの回転(自転)に伝達され、第2遊星歯車25bは公転せずに、第2出力側太陽歯車24dへ伝達され、さらに、第2出力側太陽歯車24dの延長ボス部24eに取付けたハスバ歯車31を介して出力軸側歯車軸30側へ伝達される。
【0069】
この場合、第1差動歯車装置19a及び第2差動歯車装置19bを通過する時の速度変更はなく、マガリバカサ歯車26aとハスバ歯車31の間の減速比は、低速用のハスバ歯車28b及び29bの歯数比に等しくなる。
【0070】
また、図4A(b)に示す閉操作(高速)時には、入力軸(第1歯車軸)20へ伝達された動力は、第1段減速のマガリバカサ歯車26aを介して第1差動歯車装置19aの第1入力側太陽歯車24aへ伝達される。
【0071】
第1入力側太陽歯車24aの回転は、第1遊星歯車25aの回転(自転)に伝達され、第1出力側太陽歯車24bは回転せずに、第1遊星歯車25aが公転し、第1遊星歯車公転軸21aへ伝達される。
【0072】
第1遊星歯車公転軸21aの回転は、第1遊星歯車公転軸21aに取付けた高速用のハスバ歯車28a及び29aを介して第2差動歯車装置19bの第2遊星歯車公転軸22aへ伝達される。
【0073】
第2遊星歯車公転軸22aの回転は、第2遊星歯車25bの回転(自転)に伝達され、低速側の第2入力側太陽歯車24cは回転せずに、第2出力側太陽歯車24dへ伝達され、さらに、第2出力側太陽歯車24dの延長ボス部24eに取付けたハスバ歯車31を介して出力軸側歯車軸30側へ伝達される。
【0074】
この場合、駆動側の差動歯車装置19aを通過する時に1/2倍の減速、従動側の第2差動歯車装置19bを通過する時に2倍の増速があり、この両者が相殺されて、マガリバカサ歯車26a~ハスバ歯車31の間の減速比は、高速用のハスバ歯車28a及び29aの歯数比に等しくなる。
【0075】
なお、これらの歯車構成は、大きな動力を用いて扉体3等の被駆動体を引き上げる開(低速)操作時に遊星歯車の公転による潤滑油の撹拌抵抗が生じないようにし、動力伝達効率の向上に配慮したものである。
【0076】
(平行軸形減速機11bを使用するワイヤロープウインチ式開閉装置2b)
図2Bは、本発明の第1の実施形態のうち、平行軸形減速機11bを使用するワイヤロープウインチ式開閉装置2bに実施する場合で、減速機を本発明対象である2速度切換機構を内蔵する減速機に変更する場合の機器の配置を示す。そして、その特徴は図2Aに示す直交軸形減速機11aの場合と同様である。
【0077】
図3Bは、本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を第2段減速部に組み込んだ平行軸形減速機11bの内部機構図を示す。
【0078】
この平行軸形減速機11bは入力軸20と出力軸23が平行であるため、第1段減速にハスバ歯車26bを採用し、これ以降は図3Aに示す直交軸形減速機11aと同様である。
【0079】
図4Bは、本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を第2段減速部に組み込んだ平行軸形減速機11bの動力伝達図を示し、上側(a)に開操作(低速)時の動力伝達を、下側(b)に閉操作(高速)時の動力伝達を示す。
【0080】
この平行軸形減速機11bは入力軸20と出力軸23が平行であるため、第1段減速にハスバ歯車26bを採用していることから、開操作(低速)時及び閉操作(高速)時共に、入力軸(第1歯車軸)20へ伝達された動力は、第1段減速のハスバ歯車26bを介して第1差動歯車装置19aの第1入力側太陽歯車24aへ伝達される。これ以降は図4Aに示す直交軸形減速機11aと同様である。
【0081】
(平行軸形減速機11cを内蔵するワイヤロープウインチ式開閉装置2c)
図2Cは、図2Bの場合と同様に平行軸形減速機11cに本発明対象である2速度切換機構を内蔵するワイヤロープウインチ式開閉装置2cであるが、図2A及び図2Bに示すものが減速機の第2段減速部に切換機構を組み込んでいたものを、図2Cのワイヤロープウインチ式開閉装置2cでは伝達トルクの小さな第1段減速部に切換機構を組み込むことで装置のコンパクト化を目指したものである。それ以外の特徴は、図2A及び図2Bに示すものと同様である。
【0082】
図3Cは、本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ平行軸形減速機11cの内部機構図を示すが、図3Bと異なる点は、切換機能を第1段減速部に設けること、すなわち、第1歯車軸(入力軸)20の代わりとなる入力軸側歯車軸27及び第1遊星歯車公転軸21a並びに第2遊星歯車公転軸22a及び第2歯車軸となる第2出力側太陽歯車軸22bに第1及び第2差動歯車装置19a,19bをそれぞれ配置したことであり、伝達トルクの小さな入力軸側歯車軸27に近い位置に第1差動歯車装置19aを配置することで装置のコンパクト化を図ったものである。
【0083】
図4Cは、本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を第1段減速部に組み込んだ平行軸形減速機11cの動力伝達図を示し、上側(a)に開操作(低速)時の動力伝達を、下側(b)に閉操作(高速)時の動力伝達を示す。
【0084】
図4C(a)に示す開操作(低速)時には、入力軸(第1歯車軸)に対応する入力軸側歯車軸27へ伝達された動力は、入力軸側歯車軸27に直結された第1差動歯車装置19aの第1入力側太陽歯車24aへ伝達される。
【0085】
第1入力側太陽歯車24aの回転は、第1遊星歯車25aの回転(自転)に伝達され、第1出力側太陽歯車24bは回転せずに、第1遊星歯車25aが公転し、第1遊星歯車公転軸21aへ伝達される。
【0086】
第1遊星歯車公転軸21aの回転は、第1遊星歯車公転軸21aに取付けた低速用のハスバ歯車28bと、これに噛み合うハスバ歯車29bを介して第2差動歯車装置19bの第2入力側太陽歯車24cへ伝達される。
【0087】
第2入力側太陽歯車24cの回転は、第2遊星歯車25bの回転(自転)に伝達され、第2遊星歯車25bは公転せずに、第2出力側太陽歯車24dへ伝達され、さらに、第2出力側太陽歯車軸22bに取付けたハスバ歯車31を介して出力軸側歯車軸30及び出力軸23側へ伝達される。
【0088】
この場合、駆動側の第1差動歯車装置19aを通過する時に1/2倍に減速し、第2差動歯車装置19bを通過する時には速度変更はないため、入力軸側歯車軸27~第2出力側太陽歯車軸22bの間の減速比は、低速用のハスバ歯車28b及び29bの歯数比×1/2となる。
【0089】
また、図4C(b)に示す閉操作(高速)時には、入力軸側歯車軸27へ伝達された動力は、入力軸側歯車軸27に直結された第1差動歯車装置19aの第1入力側太陽歯車24aへ伝達される。
【0090】
第1入力側太陽歯車24aの回転は、第1遊星歯車25aの回転(自転)に伝達され、第1遊星歯車25aは公転せずに、第1出力側太陽歯車24bへ伝達される。
【0091】
第1出力側太陽歯車24bの回転は、第1出力側太陽歯車24bの延長ボス部に取付けた高速用のハスバ歯車28aと、それに噛み合うハスバ歯車29aを介して第2差動歯車装置19bの第2遊星歯車公転軸22aへ伝達される。
【0092】
第2遊星歯車公転軸22aの回転は、第2遊星歯車25bの回転(自転)に伝達され、低速側の第2入力側太陽歯車24cは回転せずに、第2出力側太陽歯車24dへ伝達され、さらに、第2出力側太陽歯車軸22bに取付けたハスバ歯車31を介して出力軸側歯車軸30及び出力軸23側へ伝達される。
【0093】
この場合、駆動側の第1差動歯車装置19aを通過する時には速度変更はなく、従動側の第2差動歯車装置19bを通過する時に2倍増速され、入力軸側歯車軸27と第2出力側太陽歯車軸22bの間の減速比は、高速用のハスバ歯車28a及び29aの歯数比×2倍になる。
【0094】
このように歯車を配置すると、第1及び第2差動歯車装置19a,19bだけで1/2倍」と「2倍」の差、すなわち、4倍の差がある。
【0095】
しかし、反対に、高速時と低速時の速度差が大きい場合には、この速度差を活用できる場合もある。
【0096】
(2速度切換機構を内蔵した切換装置のワイヤロープウインチ式開閉装置2d,2e)
図2D及び図2Eは、制動機10と直交軸形減速機111a若しくは平行形減速機111bとの間に本発明に係る2速度切換機構を内蔵した単体の切換装置12を追加設置するワイヤロープウインチ式開閉装置2d,2eであり、直交軸形減速機111aに接続したワイヤロープウインチ式開閉装置2dを図2Dに、平行軸形減速機111bに接続したワイヤロープウインチ式開閉装置2eを図2Eに示す。これ以外の特徴は、図2A図2Cに示すものと同様である。
【0097】
図3Dは、本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能のみを組み込んだ単独の2速度切換装置12の内部機構図を示し、その内部構成は図3Cに示す平行軸形減速機の入力軸側歯車軸27並びに第1遊星歯車公転軸21a及び第2遊星歯車公転軸22a並びにその周辺部分と同様である。
【0098】
図4Dは、本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ単独の2速度切換装置12の動力伝達図を示す。
【0099】
その動力伝達は、図4Cに示す切換機能を第1段減速部に設ける平行軸形減速機11cの動力伝達と同様である。
【0100】
(高速側動力伝達経路と低速側動力伝達経路を対称に配置した直交軸形減速機11h)
図3Eは、本発明の第1の実施形態に係る高速側動力伝達経路と低速側動力伝達経路を対称に配置した直交軸形減速機11hの内部機構図を示す。この減速機は入力軸20と出力軸23が直交するため、第1段減速にマガリバカサ歯車26cを採用し、その次に位置する第2歯車軸と第3歯車軸に各々1組、第1及び第2差動歯車装置19a,19bを配置し、第1及び第2差動歯車装置19a,19bの間には2系統の動力伝達経路を並列に構成し、各動力伝達経路には互いに歯数比の異なるハスバ歯車を各1組、計2組、すなわち、ハスバ歯車28aとハスバ歯車29a並びにハスバ歯車28bとハスバ歯車29bを設けている。
【0101】
そして、歯数比(駆動側歯車の歯数を従動側歯車の歯数で割った値)の小さい側のハスバ歯車28bと29bを「低速側」、大きい側のハスバ歯車28aと29aを「高速側」としている。
【0102】
この実施形態は、最も基本的な配置である、「高速側」の動力伝達経路と「低速側」の動力伝達経路を機構的に対称の配置としたものである。すなわち、入力軸20からの動力は駆動側の第1差動歯車装置19aの遊星歯車公転軸に接続するマガリカサ歯車26cを介して第1遊星歯車25aに伝達され、さらに、対向する第1高速出力側太陽歯車24a及び第1低速出力側太陽歯車24bのいずれかに一方に伝達される。
【0103】
そして、ハスバ歯車28a及びハスバ歯車29a又はハスバ歯車28b及びハスバ歯車29bを経て、従動側の差動歯車装置19bの対向する第2高速入力側太陽歯車24c及び第2低速入力側太陽歯車24dのいずれかに一方から第2遊星歯車25bに伝達され、遊星歯車公転軸22aに接続するハスバ歯車31を介して出力軸23側へ伝達される。
【0104】
図4Eは、本発明の第1の実施形態に係る高速側動力伝達経路と低速側動力伝達経路を対称に配置した直交軸形減速機11hの動力伝達図を示し、上側(a)に開操作(低速)時の動力伝達を、下側(b)に閉操作(高速)時の動力伝達を示す。
【0105】
図4E(a)に示す開操作(低速)時には、入力軸(第1歯車軸)20へ伝達された動力は、駆動側の第1差動歯車装置19aの遊星歯車公転軸に接続された第1段減速のマガリバカサ歯車(リングギヤ)26cを介して第1差動歯車装置19aの第1遊星歯車25aへ伝達され、第1遊星歯車25aは自転しながら公転する。
【0106】
このとき、対向する第1高速出力側太陽歯車24a及び第1低速出力太陽歯車24bのうち、高速側動力伝達経路に接続された第1高速出力太陽歯車24aは回転せず、第1遊星歯車25aの回転(自転及び公転)は、低速側動力伝達経路に接続された第1低速出力側太陽歯車24bのみに伝達される。
【0107】
第1低速出力太陽歯車24bの回転は、第1低速出力側太陽歯車軸21bと第2低速出力側太陽歯車軸22bとの間の低速用のハスバ歯車28b及び29bを介して従動側の第2差動歯車装置19bの第2低速入力側太陽歯車24dへ伝達される。
【0108】
第2差動歯車装置19bでは、高速側の第2高速入力側太陽歯車24cが回転せず、第2低速入力側太陽歯車24dの回転のみの回転によって、第2遊星歯車25bの回転(自転及び公転)に伝達され、遊星歯車公転軸に接続されたハスバ歯車31を介して出力軸側歯車軸30及び出力軸23側へ伝達される。
【0109】
この場合、駆動側の差動歯車装置19aを通過する時に2倍の増速、従動側の差動歯車装置19bを通過する時に1/2倍の減速があり、この両者が相殺されて、マガリバカサ歯車(リングギヤ)26c~ハスバ歯車31の間の減速比は、低速用のハスバ歯車28b及び29bの歯数比に等しくなる。
【0110】
また、図4E(b)に示す閉操作(高速)時には、入力軸(第1歯車軸)20へ伝達された動力は、第1差動歯車装置19aの遊星歯車公転軸に接続された第1段減速のマガリバカサ歯車(リングギヤ)26cを介して第1差動歯車装置19aの第1遊星歯車25aへ伝達され、第1遊星歯車25aは自転しながら公転する。
【0111】
このとき、対向する第1高速出力側太陽歯車24a及び第1低速出力側太陽歯車24bのうち低速側動力伝達経路に接続された第1低速出力側太陽歯車24bは回転せず、第1遊星歯車25aの回転(自転及び公転)は、高速側動力伝達経路に接続された第1高速出力側太陽歯車24aのみに伝達される。
【0112】
第1高速出力側太陽歯車24aの回転は、第1高速側歯車軸21a’と第2高速側歯車軸22a’との間の高速用のハスバ歯車28a及び29aを介して従動側の第2差動歯車装置19bの第2高速入力側太陽歯車24cへ伝達される。
【0113】
第2差動歯車装置19bでは、低速側の第2低速入力側太陽歯車24dが回転せず、高速側の第2高速入力側太陽歯車24cの回転のみの回転によって、第2遊星歯車25bの回転(自転及び公転)に伝達され、遊星歯車公転軸に接続されたハスバ歯車31を介して出力軸側歯車軸30及び出力軸23側へ伝達される。
【0114】
この場合、駆動側の第1差動歯車装置19aを通過する時に2倍の増速、従動側の第2差動歯車装置19bを通過する時に1/2倍の減速があり、この両者が相殺されて、マガリバカサ歯車(リングギヤ)26c~ハスバ歯車31の間の減速比は、高速用のハスバ歯車28a及び29aの歯数比に等しくなる。
【0115】
(ワイヤロープウインチ式開閉装置2aの作動)
図5は、本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ直交軸形減速機11aを有するワイヤロープウインチ式開閉装置2aにおいて、開操作時(a)に低速が、閉操作時(b)に高速が自然に選択される作動例を示す。
【0116】
扉体3等の被駆動体の自重により発生し、動力側へ遡り、各ハスバ歯車減速部を超えて入力軸側の第1差動歯車装置19aの動力分岐点まで伝達した時の回転トルクに確実な差が生じる。
【0117】
すなわち、出力軸側歯車軸30及び出力軸23側から第1差動歯車装置19aの動力分岐点への「遡る方向」への動力伝達を見ると、低速側の動力伝達経路の方が高速側の動力伝達経路よりも大きく増速しており、大きく増速される低速側の動力伝達経路を経て伝達された回転トルクの方が、高速側の動力伝達経路を経て伝達された回転トルクよりも小さくなる。
【0118】
この回転トルクの差を利用して速度の切換を行うものであり、開操作時には、上記の出力軸側歯車軸30及び出力軸23側から遡って伝達された回転トルクは「駆動のための必要トルク」となり、電動機からの回転及び動力は、必要トルクの小さな低速側の動力伝達経路の方に優先的に伝達される。
【0119】
具体的に、図1に示す扉体3等の被駆動部の自重等による自重降下力がワイヤロープ4に作用し、回転トルクとして図2Aに示す、ワイヤロープ巻取りドラム6、ドラムギヤ16、ドラムピニオン15を介して直交軸形減速機11aの出力軸23に伝達し、直交軸形減速機11a内の歯車及び歯車軸を介して第2差動歯車装置19bの第2入力側太陽歯車軸へ伝達され、この回転トルクを「T3」と表記する。
【0120】
このとき、図5(a)に示すように、第2入力側太陽歯車軸24eの回転トルク「T3」の全てが、低速側の動力伝達経路を介して第1差動歯車装置19aの第1入力側太陽歯車24aへ伝達されるならば、
第2差動歯車装置19bの第2出力側太陽歯車軸24e
~第2差動歯車装置の第2出力側太陽歯車24d
~第2差動歯車装置の遊星歯車(自転)25b
~第2差動歯車装置の第2入力側太陽歯車24c
~第2差動歯車装置の第2入力側太陽歯車軸22b
~低速用歯車(従動側)29b~低速用歯車(駆動側)28b
~第1差動歯車装置の第1出力側太陽歯車軸21b
~第1差動歯車装置の第1出力側太陽歯車24b
~第1差動歯車装置の遊星歯車(自転)25a
~第1差動歯車装置の第1入力側太陽歯車24a
の経路でトルクが伝達される。
【0121】
ここで、低速用歯車(従動側)29bの歯数をZLD
低速用歯車(駆動側)28bの歯数をZLM とすると、
第1差動歯車装置の第1入力側太陽歯車24aへ伝達されるトルクは、
「T3×ZLM/ZLD」となる。
【0122】
また、図5(b)に示すように、第2出力側太陽歯車軸24eの回転トルク「T3」の全てが、高速側の動力伝達経路を介して第1差動歯車装置19aの第1入力側太陽歯車24aへ伝達されるならば、
第2差動歯車装置19bの第2出力側太陽歯車軸24e
~第2差動歯車装置の第2出力側太陽歯車24d
~第2差動歯車装置の遊星歯車(自転・公転)25b
~第2差動歯車装置の遊星歯車公転軸22a
~高速用歯車(従動側)29a~高速用歯車(駆動側)28a
~第1差動歯車装置の第1遊星歯車公転軸21a
~第1差動歯車装置の遊星歯車(自転・公転)25a
~第1差動歯車装置の第1入力側太陽歯車24a
の経路でトルクが伝達される。
【0123】
ここで、高速用歯車(従動側)の歯数をZHD
高速用歯車(駆動側)の歯数をZHM とすると、
第1差動歯車装置の第1入力側太陽歯車24aへ伝達されるトルクは、
「T3×ZHM/ZHD」となる。
【0124】
低速用と高速用の歯数比を比較すると
低速用歯数比;「ZLM/ZLD」 < 高速用歯数比;「ZHM/ZHD」 より、
低速側を介した伝達トルク;「T3×ZLM/ZLD」 < 高速側を介した伝達トルク;「T3×ZHM/ZHD」となる。
【0125】
ここで、開操作時を考えると、引き上げ易い側、すなわち必要トルクの少ない低速側を介して回転及び動力が伝達される。
【0126】
反対に、閉操作時を考えると、扉体3等の被駆動体から強く引かれる側、すなわち伝達トルクの大きい高速側を介して回転及び動力が伝達される。
【0127】
-第2の実施形態-
図6は、本発明の第2の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ直交軸形減速機11dの内部機構図を示す。
【0128】
この直交軸形減速機11dは、図3Aに示した「本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ直交軸形減速機11a」の第1差動歯車装置19aの第1遊星歯車公転軸21a及び第1差動歯車装置19aの第1出力側太陽歯車軸21b、すなわち、高速駆動側のハスバ歯車28a及び低速駆動側のハスバ歯車28bを取付けている各歯車軸を減速機箱の外側まで延長し、逆転防止(バックストップ)用の第1ワンウェイクラッチ32a及び第2ワンウェイクラッチ32bを取り付けている。
【0129】
つまり、「低速側」の第1出力側太陽歯車軸21bに取付ける第2ワンウェイクラッチ32bは、閉方向回転で「噛み合い」状態となって回転しないように固定し、「高速側」の第1遊星歯車公転軸21aに取付ける第1ワンウェイクラッチ32aは、開方向回転で「噛み合い」状態となって回転しないように取り付けられている。
【0130】
具体的には、上記第1の実施形態と異なって高速時と低速時との速度の差が小さい場合にも本切換機構が適用できるように、上記実施形態1における第1及び第2差動歯車装置19a,19bのうちの入力軸側の第1差動歯車装置19aから2系統に分かれた軸に、各1基、合計2基の逆転防止(バックストップ)用の一方(ワンウエイ)クラッチ32a,32bを設けている。
【0131】
そして、上記のワンウェイクラッチ32a,32bは互いに逆回転で「噛み合い」状態になるように組み込んでいる。
【0132】
このワンウェイクラッチ32a,32bの機能により、開操作時には、高速側の動力伝達経路の第1ワンウェイクラッチ32aが「噛み合い」状態となって装置の外箱に固定され、低速側の動力伝達経路の第2ワンウェイクラッチ32bが「空転」状態となって回転可能になり、自動的に、低速側の動力伝達経路を経て回転及び動力が伝達される。
【0133】
また、閉操作時には、扉体3等の被駆動体の自重による降下力に対して、電動機9で制動しながら降下させることになるが、この場合は、低速側の動力伝達経路の第2ワンウェイクラッチ32bが「噛み合い」状態となって装置の外箱に固定され、高速側の動力伝達経路の第1ワンウェイクラッチ32aが「空転」状態となって回転可能になり、自動的に、高速側の動力伝達経路を経て回転及び動力が伝達される。
【0134】
すなわち、電動機9を開方向に回転させると、減速機等の内部に組み込んでいる本発明の対象である第1及び第2差動歯車装置19a,19bの間に設けた2組の歯車減速部のうち、低速側の歯車減速部がワンウェイクラッチ32a,32bの機能によって自動的に選択されて、低速で駆動する。
【0135】
また、電動機9を閉方向に回転させると、減速機等の内部に組み込んでいる本発明の対象である第1及び第2差動歯車装置19a,19bの間に設けた2組の歯車減速部のうち、高速側の歯車減速部がワンウェイクラッチ32a,32bの機能によって自動的に選択されて、高速で駆動する。
【0136】
-第3の実施形態-
図7Aは、本発明の第3の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ直交軸形減速機11eの内部機構図を示す。
【0137】
第1及び第2差動歯車装置19a,19bのうちの入力軸側の第1差動歯車装置19aから2系統に分かれた軸のうち、いずれか要求機能上必要な側の軸、あるいは両方の軸の端末を装置の外箱の外まで延長して、外付の制動機を接続可能な構造とし、各軸に1基、合計1基ないし2基の外付制動機(例えば電磁ブレーキ)を設けている。
【0138】
具体的には、この減速機は、図3Aに示す「本発明の第1の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ直交軸形減速機11a」の第1差動歯車装置の第1遊星歯車公転軸21a及び第1差動歯車装置の第1出力側太陽歯車軸21b、すなわち、高速駆動側のハスバ歯車28a及び低速駆動側のハスバ歯車28bを取り付けている各歯車軸21a,21bを減速機箱の外側まで延長し、常時無励磁で「解除」状態となり、電源を供給することにより「制動」状態となる第1制動機としての第1電磁ブレーキ33a及び第2制動機としての第2電磁ブレーキ33bをそれぞれ取り付けている。
【0139】
これにより、常時(無励磁時)は電磁ブレーキが「解除」状態であるため、第1の実施形態と同様の機能となり、これに加えて、任意で「高速操作」を選択した場合には、電気制御装置から「低速側」の第1出力側太陽歯車軸21bに取付ける第2電磁ブレーキ33bに電源を供給して「制動」状態とし、「低速側」の第1出力側太陽歯車軸21bが回転しないようにして「高速側」の第1遊星歯車公転軸21aで動力及び回転を伝達させ、「低速操作」を選択した場合には、電気制御装置から「高速側」の第1遊星歯車公転軸21aに取付ける第1電磁ブレーキ33aに電源を供給して「制動」状態とし、「高速側」の第1遊星歯車公転軸21aが回転しないようにして「低速側」の第1出力側太陽歯車軸21bで動力及び回転を伝達させるようにしている。
【0140】
なお、この図では、「高速側」及び「低速側」の両方の軸21a,21bに第1及び第2電磁ブレーキ33a及び33bをそれぞれ取り付けている場合を示しているが、要求される操作条件によっては、いずれか片側のみの軸に設けることもできる。
【0141】
図7Bも、本発明の第3の実施形態に係る2速度切換機能を組み込んだ直交軸形減速機11fの内部機構図を示すが、図7Aと異なる点は、第1及び第2電磁ブレーキ33a,33bを減速機外箱外面に取り付けて直結するのではなく、軸継手を用いて外付の制動機を接合できるように、第1及び第2制動機用接続軸34a及び34bをそれぞれ設けている点である。
【0142】
「低速運転による開操作」及び「高速運転による閉操作」以外の条件で操作できるようにするため、電気制御装置からの電源供給により励磁して「制動」状態になる制動機を切換機構部に組み込み、選択していない側の軸が回転しないように固定するようにしている。
【0143】
この制動機の機能により、低速操作選択時には、高速側の動力伝達経路の制動機に電源を供給することにより励磁して「制動」状態として装置の外箱に固定し、低速側の動力伝達経路の制動機は無励磁で「解除」状態であるため、低速側の動力伝達経路を経て回転及び動力が伝達される。
【0144】
また、高速操作選択時には、低速側の動力伝達経路の制動機に電源を供給することにより励磁して「制動」状態として装置の外箱に固定し、高速側の動力伝達経路の制動機は無励磁で「解除」状態であるため、高速側の動力伝達経路を経て回転及び動力が伝達される。
【0145】
一方、上記の外付制動機は上記第1の実施形態における制動機10と同様の機能を有するものとし、操作方向に関係なく、任意に高速操作と低速操作を選択することができる。この外付制動機は、その製品の機能により「無励磁;制動~励磁;解除」の製品を採用することも可能である。
【0146】
その場合には、低速時には、高速側の動力伝達経路の第1制動機は無励磁で「制動」状態となって装置の外箱に固定され、低速側の動力伝達経路の第2制動機に電源を供給することにより励磁して「解除」状態となって回転可能になり、低速側の動力伝達経路を経て回転及び動力が伝達される。
【0147】
また、高速操作時には、低速側の動力伝達経路の第2制動機は無励磁で「制動」状態となって装置の外箱に固定され、高速側の動力伝達経路の第1制動機に電源を供給することにより励磁して「解除」状態となって回転可能になり、高速側の動力伝達経路を経て回転及び動力が伝達される。
【0148】
-第4の実施形態-
図8は、本発明の第4の実施形態に係る2速度切換機能を有するワイヤロープウインチ式開閉装置のうち、同機能を直交軸形減速機11gに内蔵する場合の平面図を示すワイヤロープウインチ式開閉装置2gであり、図2Aに示すように配置された直交軸形減速機11gにおいて、高速側の動力伝達経路を構成する第1遊星歯車公転軸21aを図7Bに示すように減速機箱外へ延長した直交軸形減速機11gを有し、油圧ポンプ35とチェーンカップリング13で連結している。
【0149】
油圧ポンプ35の吸込み側は、油圧配管39で油タンク38に繋がり、油圧ポンプ35の吐出側の油圧配管39は、並行する2系統の流路に分岐し、各々、可変流量調整弁36、電磁ストップ弁37を配置して再合流し、油タンク38に繋がるようにして回路を構成している。
【0150】
そして、開度検出装置40で扉体3の位置を検出し、全閉着床位置への接近を検知すると、電気制御装置41から電磁ストップ弁37と可変流量調整弁36の流量調整装置42へ操作信号が発信されるようになっている。
【0151】
通常区間での閉操作中は、電磁ストップ弁37は「開」状態となって、電磁ストップ弁37と可変流量調整弁36の両方から、小さな損失圧力で油圧作動油を通過させ、油圧ポンプ35は小さな損失動力で回転することができる。このため、図5に示す機構により自然に高速側の動力伝達経路が選択され、高速での閉操作となる。
【0152】
開度検出装置40で全閉着床位置への接近を検知すると、電気制御装置41からの操作信号により電磁ストップ弁37を「閉」とし、作動油は可変流量調整弁36のみから流れる状態となる。
【0153】
可変流量調整弁36では、最初は高速操作時のポンプ回転数に対応した流量に適合した流量設定(開度)とし、電気制御装置41からの信号で流量調整装置42を作動させ、徐々に可変流量調整弁36の開度を絞り、最終的には「開度;0」まで絞り込む。
【0154】
そして、可変流量調整弁36の開度を絞り込んでいる過程では、油圧ポンプ35の回転数が低下し、ゲート用電動機9の出力回転数の全てを高速側の動力伝達経路だけでは負荷側へ伝達することができなくなり、伝達できなくなった分は、低速側の動力伝達経路を経て負荷側へ伝達されることになる。
【0155】
この現象は、可変流量調整弁36の開度を絞り込んで油圧ポンプ35の回転が遅くなる程、低速側の動力伝達経路を経由する比率が増え、最終的には低速で閉操作を行うようになり、低速状態で着床するように調整することができる。
【符号の説明】
【0156】
1 制水ゲート
2a~2e,2g ワイヤロープウインチ式開閉装置
3 扉体
4 ワイヤロープ
5 扉体側シーブ
6 ドラム
7 開閉装置側シーブ
8 ワイヤロープ端末固定部
9 ゲート用電動機
10 制動機
11a 直交軸形減速機
11b 平行軸形減速機
11c 平行軸形減速機
11d 直交軸形減速機
11e 直交軸形減速機
11f 直交軸形減速機
11g 直交軸形減速機
11h 直交軸形減速機
12 速度切換装置
13 チェーンカップリング
14 ギヤカップリング
15 ドラムピニオン
16 ドラムギヤ
19a 第1差動歯車装置
19b 第2差動歯車装置
20 第1歯車軸/入力軸
21a 第1遊星歯車公転軸
21a’ 第1高速側歯車軸
21b 第1出力側太陽歯車軸
22a 第2遊星歯車公転軸
22a’ 第2高速側歯車軸
22b 第2入力側太陽歯車軸
23 出力軸
24a 第1入力側太陽歯車/第1高速出力側太陽歯車
24b 第1出力側太陽歯車/第1低速出力側太陽歯車
24c 第2入力側太陽歯車/第2高速入力側太陽歯車
24d 第2出力側太陽歯車/第2低速入力側太陽歯車
24e 延長ボス部
25a 第1遊星歯車
25b 第2遊星歯車
26a マガリバカサ歯車
26b ハスバ歯車
26c マガリバカサ歯車
27 入力軸側歯車軸
28a ハスバ歯車
28b ハスバ歯車
29a ハスバ歯車
29b ハスバ歯車
30 出力軸側歯車軸
31 ハスバ歯車
32a 第1ワンウェイクラッチ
32b 第2ワンウェイクラッチ
33a 第1電磁ブレーキ
33b 第2電磁ブレーキ
34a 第1制動機用接続軸
34b 第2制動機用接続軸
35 油圧ポンプ
36 可変流量調整弁
37 電磁ストップ弁
38 油タンク
39 油圧配管
40 開度検出装置
41 電気制御装置
42 流量調整装置
102a,102b ワイヤロープウインチ式開閉装置
106 ドラム
107 開閉装置側シーブ
108 ワイヤロープ端末固定部
109 ゲート用極数変換電動機
110 制動機
111a 直交軸形減速機
111b 平行軸形減速機
113 チェーンカップリング
114 ギヤカップリング
115 ドラムピニオン
116 ドラムギヤ
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B