(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112837
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】立坑およびトンネル施工方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20230807BHJP
E21D 8/00 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
E21D9/06 301C
E21D8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014799
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高見沢 計夫
(72)【発明者】
【氏名】志田 智之
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC02
2D054AD07
2D054EA07
(57)【要約】
【課題】土留め壁を鏡切することなく円滑に坑口を開口でき、かつ、立坑内への地下水や土砂の流入を抑制することを可能とした発進立坑およびトンネル施工方法を提案する。
【解決手段】地中に設けられた外筒2と、外筒2の内側に内挿された内筒3と、内筒3の内側に内挿された発進筒4とを備える発進立坑1である。外筒2には、掘進機Mが通過可能な第一発進口21が形成されている。また、発進筒4には、第一発進口21に対応する位置に掘進機Mが通過可能な第二発進口41が形成されているとともに、第二発進口41の内側に止水用エントランス42が形成されている。そして、内筒3を移動させることで、第一発進口21と第二発進口41とを連通させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に設けられた外筒と、
前記外筒の内側に内挿された内筒と、
前記内筒の内側に内挿されたエントランス筒と、を備える立坑であって、
前記外筒には、掘進機が通過可能な第一坑口が形成されており、
前記エントランス筒には、前記第一坑口に対応する位置に前記掘進機が通過可能な第二坑口が形成されているとともに、前記第二坑口の内側に止水用エントランスが形成されており、
前記内筒を上方に移動させることで、前記第一坑口と前記第二坑口とを連通させることを特徴とする、立坑。
【請求項2】
地中に設けられた外筒と、
前記外筒の内側に内挿された内筒と、
前記内筒の内側に内挿されたエントランス筒と、を備える立坑であって、
前記外筒には、掘進機が通過可能な第一坑口が形成されており、
前記エントランス筒には、前記第一坑口に対応する位置に前記掘進機が通過可能な第二坑口が形成されているとともに、前記第二坑口の内側に止水用エントランスが形成されており、
前記内筒には、前記第一坑口の高さ位置に対応する高さ位置に前記掘進機が通過可能な第三坑口が形成されており、
前記内筒を周方向に回転させることで、前記第一坑口、前記第二坑口および前記第三坑口を連通させることを特徴とする、立坑。
【請求項3】
前記外筒に、前記第一坑口の周囲に沿って、前記外筒と前記内筒との隙間を遮蔽する止水材が設けられていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の立坑。
【請求項4】
前記内筒の外面には、前記第一坑口の上下に、前記外筒と前記内筒との隙間を遮蔽する止水材が設けられていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の立坑。
【請求項5】
請求項1に記載の立坑を利用したトンネル施工方法であって、
前記内筒が内挿された前記外筒を地中に設置する工程と、
前記内筒の内側に前記エントランス筒を内挿する工程と、
前記止水用エントランスに一部を挿入した状態で前記掘進機を前記立坑内に配設する工程と、
前記内筒を引き上げて、前記第一坑口と前記第二坑口を連通させる工程と、
前記第一坑口および前記第二坑口から前記掘進機を発進させて、トンネルを構築する工程と、を備えていることを特徴とする、トンネル施工方法。
【請求項6】
請求項2に記載の立坑を利用したトンネル施工方法であって、
前記内筒が内挿された前記外筒を地中に設置する工程と、
前記内筒の内側に前記エントランス筒を内挿する工程と、
前記止水用エントランスに一部を挿入した状態で前記掘進機を前記立坑内に配設する工程と、
前記内筒を周方向に回転させて、前記第一坑口、前記第二坑口および前記第三坑口を連通させる工程と、
前記第一坑口、前記第二坑口および前記第三坑口から前記掘進機を発進させて、トンネルを構築する工程と、を備えていることを特徴とする、トンネル施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド工法や推進工法における立坑およびこれを利用したトンネル施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法や推進工法では、立坑を利用して、掘進機を所定の高さ位置に配設してから掘進する場合がある。立坑は、土留め壁を形成しながら、地盤を掘削することにより形成する。
立坑の形成方法として、土留め壁としての筒状部材(鋼管等)を連結しながら地中に打設するとともに、この筒状部材内の地盤を掘削する方法が知られている。
この立坑(発進立坑)から掘進機を発進させる際、あるいは立坑に掘進機を到達させる際には、筒状部材に対してガス切断等により坑口(掘進機が通過可能な発進口または到達口)を形成する鏡切を行う。このとき、坑口の周囲の地盤に対して薬液注入等により地盤改良を行うことで、立坑内への地下水や土砂の流入(出水や鏡部の崩落)を抑制する場合がある。
ところが、鏡切および地盤改良には手間がかかり、工期短縮化の妨げとなる。また、地盤改良を行う範囲に対して施工ヤードを確保する必要がある。
そのため、特許文献1には、土留め壁を構成する筒状部材に形成された開口部の外側に、ゲート用鋼板を密接させておき、ゲート用鋼板をスライドさせることで、開口部を開口し、掘進機の通過を可能としている立坑が開示されている。
ところが、特許文献1の立坑は、地盤側に設けられたゲート用鋼板が、筒状部材を地盤に打設する際に変形するおそれがある。ゲート用鋼板が変形すると、スライド移動が不能となり、開口部を開口できなくなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような観点から、本発明は、土留め壁を鏡切することなく円滑に坑口を開口でき、かつ、立坑内への地下水や土砂の流入を抑制することを可能とした立坑およびトンネル施工方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の立坑は、地中に設けられた外筒と、前記外筒の内側に内挿された内筒と、前記内筒の内側に内挿されたエントランス筒とを備えている。
本発明の立坑では、前記外筒に第一坑口が形成されているとともに、前記エントランス筒に第二坑口が形成されている。第一坑口および第二坑口は、掘進機が通過可能であり、第二坑口は、前記第一坑口に対応する位置に形成されている。前記第二坑口の内側には止水用エントランスが形成されており、地下水や土砂の流入を抑制する。
本発明の第一の立坑では、前記内筒を上方に移動させることで、前記第一坑口と前記第二坑口とが連通し、掘進機の通過が可能となる。
また、本発明の第二の立坑では、前記内筒に第三坑口が形成されている。第三坑口は、前記第一坑口の高さ位置に対応する高さ位置に形成されており、前記掘進機が通過可能である。本発明の第二の立坑では、前記内筒を周方向に回転させることで、前記第一坑口、前記第二坑口および前記第三坑口を連通し、掘進機の通過が可能となる。
【0006】
また、第一の立坑を利用したトンネル施工方法は、前記内筒が内挿された前記外筒を地中に設置する工程と、前記内筒の内側に前記エントランス筒を内挿する工程と、前記止水用エントランスに一部を挿入した状態で前記掘進機を前記立坑内に配設する工程と、前記内筒を引き上げて、前記第一坑口と前記第二坑口を連通させる工程と、前記第一坑口および前記第二坑口から前記掘進機を発進させてトンネルを構築する工程とを備えている。
さらに、第二の立坑を利用したトンネル施工方法は、前記内筒が内挿された前記外筒を地中に設置する工程と、前記内筒の内側に前記エントランス筒を内挿する工程と、前記止水用エントランスに一部を挿入した状態で前記掘進機を前記立坑内に配設する工程と、前記内筒を周方向に回転させて、前記第一坑口、前記第二坑口および前記第三坑口を連通させる工程と、前記第一坑口、前記第二坑口および前記第三坑口から前記掘進機を発進させてトンネルを構築する工程とを備えている。
【0007】
かかる立坑(第一の立坑、第二の立坑)およびトンネル施工方法によれば、鏡切を要しないため、鏡切作業および鏡切に伴う地盤改良の手間や費用を削減できる。また、立坑の施工時には、主として外筒に土圧等が作用するため、外筒に内挿された内筒に有害な変形は生じない。したがって、内筒の移動が容易となり、坑口の開口を円滑に行うことができる。
なお、前記外筒の前記第一坑口の周囲に沿って、前記外筒と前記内筒との隙間を遮蔽する止水材を設けることで、止水性が向上する。
また、前記内筒の外面において、前記第一坑口の上下に、前記外筒と前記内筒との隙間を遮蔽する止水材を設けることで、止水性がさらに向上する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の立坑およびトンネル施工方法によれば、鏡切を要することなく円滑に坑口を開口でき、かつ、立坑内への地下水や土砂の流入を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る立坑の概要を示す図であって、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【
図2】第一実施形態の立坑の一部を示す拡大断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るトンネル施工方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】(a)および(b)は土留壁形成工程を示す断面図である。
【
図6】発進筒内挿工程を示す断面図であって、(a)は架台形成状況、(b)は発進筒内挿状況、(c)発進筒内挿後である。
【
図7】(a)および(b)は止水用エントランスの形成状況を示す斜視図である。
【
図8】(a)および(b)は掘進機配設工程を示す斜視図である。
【
図9】第一実施形態の発進口連通工程を示す斜視図である。
【
図10】(a)および(b)は第一実施形態の掘進工程を示す斜視図である。
【
図11】第二実施形態の立坑の一部を示す拡大断面図である。
【
図12】(a)および(b)は第二実施形態の発進口連通工程を示す概略図である。
【
図13】第二実施形態の掘進工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第一実施形態>
本実施形態では、円筒状の土留壁11を有する発進立坑(立坑)1から掘進機Mを発進させて、トンネルを施工する場合について説明する。
図1に発進立坑1を示す。
本実施形態の発進立坑1は、
図1(a)および(b)に示すように、地中に設けられた外筒2(土留壁11)と、外筒2の内側に内挿された内筒3と、内筒3の内側に内挿された発進筒(エントランス筒)4とを備えている。発進立坑1には、トンネルの掘進方向(発進方向)に応じて、発進口(坑口)10が形成されている。
外筒2は、複数の平面視円形の鋼管20を上下方向に連結することにより形成されており、発進立坑1の土留壁11を構成している。外筒2は、トンネルの高さ位置よりも低い位置まで到達するように形成されている。外筒2には、トンネルの高さ位置および発進方向に対応して、掘進機Mが通過可能な直径を有した正面視円形の第一発進口(第一坑口)21(発進口10)が形成されている。
図2に発進立坑1の拡大断面図を示す。
図2に示すように、外筒2の内面には、第一発進口21の周囲に沿って、第一発進口用止水材51が固定されている。第一発進口用止水材51は、樹脂製の環状部材からなり、外筒2と内筒3との隙間を遮蔽する厚さを有している。なお、図示は省略するが、本実施形態では、第一発進口21(発進口10)に補強を行う。第一発進口21の補強は、例えば、第一発進口21の周囲に沿って鉄筋を溶接する方法や、第一発進口21の内外に鋼管を溶接する方法等により行えばよい。
【0011】
内筒3は、外筒2を構成する鋼管20の内径よりも小さな外径を有する平面視円形の鋼管からなる。また、内筒3は、立坑掘削に使用するバケット(掘削手段)に応じた内径を有している。内筒3は、
図2に示すように、第一発進口21の直径に余裕代を加えた長さ(上下方向の高さ)を有しており、第一発進口21を遮蔽するように、第一発進口21の高さ位置に対応して設けられている。なお、余裕代は、外筒2と内筒3との間に止水性を確保できる重ね代を確保できる長さとする。
内筒3の外面には、第一発進口21の上下に、内筒用止水材52,52が周設されている。内筒用止水材52は、外筒2と内筒3の隙間以上の厚さを有する平面視環状の樹脂製部材からなり、外筒2と内筒3との隙間を遮蔽している。内筒用止水材52の内径は、内筒3の外径以下であり、内筒用止水材52の外径は、外筒2の内径以上である。また、本実施形態では、第一発進口21の周縁と内筒3の外面との間において、樹脂などからなるコーキング剤53により止水処理が施されている。
【0012】
内筒3は、外筒2の内面に固定された台座6に載置されている。台座6は、平面視環状の鋼板を、発進立坑1の底版12よりも高い位置において、外筒2の内面に溶接またはボルト固定することにより形成されている。本実施形態では、内筒3の下端面と台座6との間に止水材を介設する。
また、内筒3の上部には、吊り金具31が固定されていて、揚重機等から吊架された引き上げ部材(ワイヤー等)を係止可能に構成されている。内筒3は、揚重機等により引き上げ可能であり、下端が第一発進口21よりも高い位置(第一発進口21を開口できる高さ位置)まで上昇させることが可能である。
【0013】
発進筒4は、内筒3を構成する鋼管の内径よりも小さな外径を有する平面視円形の鋼管からなる。
図2に示すように、発進筒4には、第一発進口21に対応する位置に、掘進機Mが通過可能な第二発進口(第二坑口)41が形成されている。第二発進口41の中心は、掘進機Mの発進時の中心軸の延長線上に位置する。第二発進口41の内径は、第一発進口21の内径と同等以上である。また、発進筒4の長さ(上下方向の寸法)は、内筒3を上昇させて内筒3の下端を第二発進口41の上方に位置させた際でも内筒3と発進筒4との間に止水性を保てる重ね代を確保できる長さとする。なお、図示は省略するが、第二発進口41には、補強を行うのが望ましい。第二発進口41の補強は、例えば、第二発進口41の周囲に沿って鉄筋を溶接する方法や、第二発進口41の内外に鋼管を溶接する方法等により行えばよい。
【0014】
発進筒4の外面には、第二発進口41の周囲に沿って第二発進口用止水材54が固定されている。第二発進口用止水材54は、樹脂製の環状部材からなり、内筒3と発進筒4との隙間を遮蔽する厚さを有している。また、発進筒4の上部外面には、内筒3と発進筒4との隙間を遮蔽する発進筒用止水材55が設けられている。発進筒用止水材55は、内筒3と発進筒4との隙間以上の厚さを有する樹脂製の平面視環状部材からなる。発進筒用止水材55の内径は、発進筒4の外径以下であり、発進筒用止水材55の外径は内筒3の内径以上である。
発進筒4の内面には、止水用エントランス42が形成されている。止水用エントランス42は、第二発進口41の内側の位置に設けられており、第二発進口41と掘進機Mとの間に形成される隙間を遮蔽して、土砂等が発進立坑1内に流入することを防止する。本実施形態では、エントランス金物を発進筒4に固定することにより止水用エントランス42が形成されている。止水用エントランス42には、止水用エントランス42と掘進機Mとの隙間を遮蔽する止水手段43が掘進機Mの進行方向に沿って2段設けられている。本実施形態では、止水手段43として止水ブラシを使用するが、止水手段の構成は限定されるものではなく、例えば、ゴムパッキンでもよい。また、止水手段43の段数は2段に限定されるものではなく、例えば、1段でもよいし、3段以上設けてもよい。
【0015】
発進筒4の下端は、外筒2に固定された架台7に固定されている。架台7は、環状の板材からなり、外周囲が外筒2の内面に全周溶接されている。また、発進筒4の下端は、架台7に全周溶接されている。こうすることで、発進筒4の下端における外筒2と発進筒4との隙間が遮蔽されている。なお、発進筒4は、必ずしも架台7に全周溶接する必要はなく、例えば、発進筒4の下端と架台7との間に止水材を介設した状態で架台7に載置して、偏挙動防止としてボルト止めでもよい。本実施形態では、架台7の下面と外筒2の内面との間に補強用の斜材71が設けられている。斜材71は、必要に応じて設ければよい。
また、発進筒4の上端部は、固定部材8を介して外筒2に固定されている。固定部材8は、棒状部材または板状部材からなり、固定部材8の上端が外筒2の内面に固定されていて、固定部材8の下端が発進筒4の上端部に固定されている。固定部材8の長さは、固定部材8の上端の外筒2との接合箇所の高さ位置から第二発進口41の上端の高さ位置までの距離が、内筒3の長さ(高さ)以上となる寸法を確保している。そのため、発進筒4の上端部を外筒2に固定しても、内筒3の上昇が妨げられることがない。固定部材8は、例えば鋼棒などにより構成すればよい。本実施形態では、外筒2の内面に取付け金具81を突設させておき、この取付け金具81に固定部材8の上端を固定する。
【0016】
以下、本実施形態の発進立坑1を利用したトンネル施工法について説明する。
図3にトンネル施工方法の手順を示す。
図3に示すように、本実施形態のトンネル施工方法は、土留壁形成工程S1と、発進筒内挿工程S2と、掘進機配設工程S3と、発進口連通工程S4と、掘進工程S5とを備えている。
土留壁形成工程S1は、地中に土留壁11(外筒2)を形成する工程である。
図4に土留壁形成工程S1を示す。
図4(a)および(b)に示すように、土留壁11の施工は、鋼管20を地盤に配設(打設や圧入)するとともに、鋼管20内の地盤を掘削することにより行う。鋼管20を連設して、地表面GLから所定の深さに至る土留壁11(外筒2)を形成したら、底部にコンクリートを打設して、底版12を形成する(
図2参照)。
図5に外筒2(土留壁11)および内筒3の一部を示す。
図5に示すように、外筒2を構成する鋼管20の一部には、予め第一発進口21が形成されている。第一発進口21が形成された鋼管20を地盤に打設する際には、当該鋼管20に内筒3を内挿して第一発進口21を遮蔽した状態で行う。こうすることで、第一発進口21からの土砂や地下水等の流入を抑制する。外筒2は、第一発進口21の中心が、掘進機Mを発進する際の中心軸と一致するように配置する。なお、土留壁形成工程S1では、掘削時にバケットと内筒3とが干渉しないようにする。バケットと内筒3との干渉を抑制する方法としては、例えば、外筒2と内筒3との段差部分に楔形の部材(ガイドレール)を適度な間隔で設置し、バケットが内筒3のほぼ中心にくるように誘導すればよい(図示せず)。
【0017】
発進筒内挿工程S2は、内筒3の内側に発進筒4を内挿する工程である。
図6に発進筒内挿工程S2を示す。まず、
図6(a)に示すように、外筒2の内面に架台7を形成する。架台7は、外筒2の内面に環状の鋼鈑を全周溶接することにより形成する。このとき、必要に応じて斜材71により架台7の補強を行う。
次に、
図6(b)に示すように、外筒2(土留壁11)の上方から、発進筒4を吊り下ろすことで、発進筒4を内筒3の内側に挿入する。発進筒4は、
図2に示すように、第二発進口41が第一発進口21と重なるように配置した状態で、外筒2に固定する。すなわち、発進筒4は、第二発進口41の中心が、掘進機Mを発進する際の中心軸と一致するように配置する。そして、
図6(c)に示すように、発進筒4を架台7に上載させた状態で、発進筒4の下端を架台7に全周溶接する。また、固定部材8を利用して、発進筒4の上端部を外筒2に固定する。なお、発進筒4は、架台7に必ずしも溶接する必要はなく、例えば、発進筒をOリングなどの止水材を介して架台7に載置する場合には、溶接を省略してボルトを用いた固定でもよい。
【0018】
掘進機配設工程S3は、発進立坑1内に掘進機Mを配設する工程である。
まず、
図7に示すように、発進筒4に止水用エントランス42を形成する。
図7は発進立坑1を示す斜視図である。止水用エントランス42は、第二発進口41の内側において、発進筒4の内面にエントランス金物を固定することにより形成する。
なお、発進筒4は、予め止水用エントランス42を形成した状態で、内筒3に内挿してもよい。
次に、掘進機Mを発進立坑1の上方から吊り下げて、発進立坑1の内部に挿入する。
図8に掘進機Mの配設状況を示す。
図8(a)に示すように、掘進機Mを所定の高さ位置に下ろしたら、
図8(b)に示すように、掘進機Mの先端部(一部)を止水用エントランス42に先端部を挿入する。掘進機Mを配設したら、止水用エントランス42の内部に加泥材を充填する。なお、
図8では、マシン受台および反力受材や元押しジャッキ等の図示を省略している。
【0019】
発進口連通工程S4は、第一発進口21と第二発進口41を連通させる工程である。
図9に発進口連通工程S4を示す。第一発進口21と第二発進口41との連通は、
図9に示すように、内筒3を引き上げて上方に移動させることにより行う。内筒3の引き上げは、揚重機等から延設されたワイヤーを吊り金具31(
図2参照)に係止させた状態で、ワイヤーを巻き上げることにより行う。なお、内筒3を引き上げる際には、ワイヤーにより吊り上げる方法に限定されるものではなく、例えば、油圧ジャッキ、チェーンブロックまたはラックアンドピニオンを利用してもよい。内筒3は、下端が第一発進口21および第二発進口41の上端よりも上側に位置するまで引き上げる。
掘進工程S5は、トンネルを構築する工程である。
図10に掘進機Mの発進状況を示す。トンネルの構築は、
図10に示すように、第一発進口21および第二発進口41から掘進機Mを発進させて、地盤に形成された掘削孔にセグメントまたは推進管等を配設することにより行う。
【0020】
本実施形態の発進立坑(立坑)1およびこの発進立坑(立坑)1を利用したトンネル施工方法によれば、土留壁11に予め発進口10(第一発進口21および第二発進口41)が形成されていて、鏡切を要しないため、鏡切作業および鏡切に伴う地盤改良の手間や費用を削減できる。内筒3を上昇させるのみで発進口10(第一発進口21および第二発進口41)が開口するため、作業性に優れている。
また、発進立坑1の施工時には、主として外筒2に土圧等が作用するため、内筒3に有害な変形は生じない。したがって、内筒3の移動が容易となり、第一発進口21および第二発進口41の開口を円滑に行うことができる。
【0021】
第一発進口用止水材51,内筒用止水材52,コーキング剤53,第二発進口用止水材54,発進筒用止水材55が設けられているため、外筒2と内筒3との隙間や内筒3と発進筒4との隙間から土砂や地下水が発進立坑1内に流入することがない。
発進筒4は、上部および下部において外筒2に一体に固定されているため、掘進機Mを発進させる際に上下方向あるいは周方向に移動する(ズレる)ことはない。また、発進筒4は、棒状または板状の固定部材8により、内筒3の移動範囲よりも高い位置で外筒2に固定されているため、内筒3の移動が妨げられることもない。
架台7により、外筒2と発進筒4との隙間が遮蔽されているため、止水性が高められている。
【0022】
<第二実施形態>
第二実施形態では、第一実施形態と同様に、円筒状の土留壁11を有する発進立坑(立坑)1から掘進機Mを発進させて、トンネルを施工する場合について説明する。
本実施形態の発進立坑1は、地中に設けられた外筒2(土留壁11)と、外筒2の内側に内挿された内筒3と、内筒3の内側に内挿された発進筒(エントランス筒)4とを備えている(
図1参照)。
外筒2の詳細は、第一実施形態で示したものと同様なため詳細な説明は省略する。
【0023】
内筒3は、外筒2を構成する鋼管の内径よりも小さな外径を有する平面視円形の鋼管からなる。また、内筒3は、立坑掘削に使用するバケット(掘削手段)に応じた内径を有している。
図11に発進立坑1の部分拡大図を示す。内筒3は、
図11に示すように、第一発進口(第一坑口)21の直径に余裕代を加えた長さ(上下方向の高さ)を有している。なお、余裕代は、外筒2と内筒3との間に止水性を確保できる長さとする。また、内筒3には、第一発進口21の高さ位置に対応する高さ位置に掘進機Mが通過可能な第三(第三坑口)32が形成されている。第三発進口32の内径は、第一発進口21の内径以上とする。内筒3は、第三発進口32が第一発進口21と重ならないように、第三発進口32の中心が第一発進口21の中心から第三発進口32の内径以上横方向にずらした状態で、外筒2に内挿されている。すなわち、内筒3の外面(板面)により第一発進口21を遮蔽している。なお、図示は省略するが、第三発進口32には、補強を行うのが望ましい。第三発進口32の補強は、例えば、第三発進口32の周囲に沿って鉄筋を溶接する方法や、第三発進口32の内外に鋼管を溶接する方法等により行えばよい。
内筒3の外面には、第一発進口21の上下に、内筒用止水材52,52が周設されている。内筒用止水材52は、外筒2と内筒3の隙間以上の厚さを有する平面視環状の樹脂製部材からなり、外筒2と内筒3との隙間を遮蔽している。内筒用止水材52の内径は、内筒3の外径以下であり、内筒用止水材52の外径は、外筒2の内径以上である。また、内筒3の外面には、第三発進口32の周囲に沿って第三発進口用止水材56が固定されている。第三発進口用止水材56は、樹脂製の環状部材からなり、外筒2と内筒3との隙間を遮蔽する厚さを有している。さらに、第一発進口21の周縁と内筒3の内面(板面)との間では、樹脂などからなるコーキング剤53により止水処理が施されている。
【0024】
内筒3は、外筒2の内面に固定された台座6上に載置されている。台座6は、環状の鋼鈑を、発進立坑1の底版12よりも高い位置において、外筒2の内面に溶接またはボルト固定することにより形成されている。本実施形態では、内筒3の下端と台座6との間にローラ、車輪、球体等の走行手段33が介設されていて、内筒3が台座6上をスムーズに回動可能に構成されている。
また、内筒3の上部には、ラック34が設けられている。ラック34は、モーターの出力軸に取り付けられたピニオン(図示せず)と歯合する。内筒3は、モーターを作動させることにより、台座6上において周方向に回転する。
【0025】
発進筒4は、内筒3を構成する鋼管の内径よりも小さな外径を有する平面視円形の鋼管からなる。発進筒4には、第一発進口21に対応する位置に、掘進機Mが通過可能な第二発進口(第二坑口)41が形成されている。第二発進口41の中心は、発進時の掘進機Mの中心軸の延長線上に位置している。第二発進口41の内径は、第一発進口21の内径の同等以上である。また、発進筒4の長さ(上下方向の寸法)は、第二発進口41の上下に十分な長さを確保する寸法とし、内筒3と発進筒4との間に止水性を保てる重ね代を確保できるようにする。
発進筒4の下端は、外筒2に固定された架台7に固定されている。架台7は、環状の板材からなり、外周囲が外筒2の内面に全周溶接されている。発進筒4の下端は、架台7に全周溶接されている。こうすることで、発進筒4の下端における外筒2と発進筒4との隙間が遮蔽されている。なお、止水材を介して発進筒4を架台7に載置することで、止水性を確保する場合には、発進筒4の下端の全周溶接は省略してもよい。本実施形態では、架台7の下面と外筒2の内面との間に補強用の斜材71が設けられている。斜材71は、必要に応じて設ければよい。
【0026】
発進筒4の上端部は、固定部材8を介して外筒2に固定されている。固定部材8は、棒状部材または板状部材からなる。固定部材8の上端は、外筒2の内面に固定されていて、固定部材8の下端は、発進筒4の上端部に固定されている。固定部材8は、例えば鋼棒により構成すればよい。本実施形態では、外筒2の内面に取付け金具81を突設させておき、この取付け金具81に固定部材8の上端を固定する。
発進筒4の外面には、第一実施形態の発進筒4と同様に、第二発進口用止水材54と発進筒用止水材が設けられている。
また、発進筒4の内面には、第一実施形態の発進筒4と同様に、第二発進口41の内側の位置に止水用エントランス42が形成されている。止水用エントランス42の構成は限定されるものではないが、本実施形態では、第一実施形態の止水用エントランス42と同様とする。
【0027】
以下、本実施形態の発進立坑1を利用したトンネル施工法について説明する。本実施形態のトンネル施工方法は、土留壁形成工程S1と、発進筒内挿工程S2と、掘進機配設工程S3と、発進口連通工程S4と、掘進工程S5とを備えている(
図3参照)。土留壁形成工程S1、発進筒内挿工程S2および掘進機配設工程S3の詳細は、第一実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0028】
発進口連通工程S4は、第一発進口21、第二発進口41および第三発進口32を連通させる工程である。
図12に発進口連通工程S4を示す。なお、
図12では、発進筒4の図示を省略している。第一発進口21、第二発進口41(
図11参照)および第三発進口32の連通は、
図12(a)および(b)に示すように、内筒3を周方向に回転させることにより行う。内筒3は、ラック34にモーターのギヤを歯合させた状態で、モーターを作動させることにより、周方向に回転させる。内筒3の回転は、第三発進口32の中心が、掘進機Mの掘進方向の中心軸の延長線と一致する位置に到達するまで行う。
掘進工程S5は、トンネルを構築する工程である。
図13に掘進機Mの発進状況を示す。掘進機Mは、
図13に示すように、第一発進口21、第二発進口41および第三発進口32を通過させることで、発進させる。そして、地盤に形成された掘削孔にセグメントまたは推進管を配設することによりトンネルを構築する。
【0029】
本実施形態の発進立坑1およびこの発進立坑1を利用したトンネル施工方法によれば、土留壁11に予め発進口10(第一発進口21、第二発進口41および第三発進口32)が形成されていて、鏡切を要しないため、鏡切作業および鏡切に伴う地盤改良の手間や費用を削減できる。内筒3を周方向に回転させるのみで発進口10(第一発進口21、第二発進口41および第三発進口32)が開口するため、作業性に優れている。この他の第二実施形態の発進立坑1およびトンネル施工方法の採用効果は、第一実施形態の発進立坑1およびトンネル施工方法と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
前記実施形態では、本発明の立坑を発進立坑として使用する場合について説明したが、本発明の立坑は到達立坑に使用してもよい。
第一発進口用止水材51、内筒用止水材52、第二発進口用止水材54、発進筒用止水材55および第三発進口用止水材56は、環状に限定されるものではなく、例えばU字状であってもよい。また、止水材の設置個所、材料、形状などは、適宜決定すればよい。
内筒3を載置する台座(第一実施形態の台座6)は、必ずしも環状の板材である必要はない。例えば、逆L字状の鋼材であってもよい。この場合には、外筒2の周方向に対して所定の間隔をあけて(間欠的に)、複数の台座6を設けるものとする。
内筒3を周方向に回転させて、発進口10を開口させる場合の、内筒3を回転させる方法はモーターを利用した方法に限定されるものではなく、例えば、ワイヤー式やプッシュロッド式により行ってもよい。また、内筒3は必ずしも走行手段を有している必要はなく、走行手段33は必要に応じて設ければよい。
固定部材8を構成する材料は、鋼棒に限定されるものではなく、例えば、鋼板やアングル材等の鋼材であってもよい。また、固定部材8を構成する鋼棒は、限定されるものではなく、例えば、丸形鋼、角形鋼、異形鉄筋等を使用すればよい。
【符号の説明】
【0031】
1 発進立坑(立坑)
10 発進口
11 土留壁
12 底版
2 外筒
20 鋼管
21 第一発進口(第一坑口)
3 内筒
31 吊り金具
32 第三発進口(第三坑口)
33 走行手段
4 発進筒(エントランス筒)
41 第二発進口(第二坑口)
42 止水用エントランス
51 第一発進口用止水材
52 内筒用止水材
53 コーキング剤
54 第二発進口用止水材
55 発進筒用止水材
56 第三発進口用止水材
6 台座
7 架台
71 斜材
8 固定部材
81 取付け金具
G 地盤
M 掘進機