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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112908
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】吊り治具及び吊り上げ方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 1/10 20060101AFI20230807BHJP
【FI】
B66C1/10 Z
B66C1/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014927
(22)【出願日】2022-02-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年7月28日「吊り治具及び吊り上げ方法」の使用
(71)【出願人】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山村 浩介
【テーマコード(参考)】
3F004
【Fターム(参考)】
3F004KA02
3F004KA04
(57)【要約】
【課題】形状や大きさが異なる複数の吊り荷の吊り作業を、単純な構成の吊り治具によって効率よく進める。
【解決手段】吊り治具10は、長手方向の中央で重ねられて接続される2本の長手部材12、14と、各長手部材12、14の、接続位置16と両端部12a、12bとの間の2つの領域の下側に設けられ、吊り荷側ワイヤが連結される複数の吊り穴24が間隔を空けて形成された下部材20と、各長手部材12、14の、接続位置16から両端側へ等距離離れた2つの位置の上側に設けられ、クレーン側ワイヤが連結される上部材30とを含み、長手部材12、14は互いの交差角度が自在に変化するように接続されている。これにより、長手部材12、14の長さでカバーできる範囲で、様々な形状や大きさの吊り荷に対応することができ、単純な構成であるにも関わらず効率よく吊り作業を進めることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンによる吊り荷の吊り作業に用いられる吊り治具であって、
長手方向の中央において、上下に重ねられて交差する態様で接続される2本の長手部材と、
該2本の長手部材の各々の、前記長手方向の中央の接続位置と前記長手方向の両端部との間の2つの領域の下側に設けられ、前記吊り荷に接続される吊り荷側ワイヤが連結される複数の吊り穴が前記長手方向に間隔を空けて形成された下部材と、
前記2本の長手部材の各々の、前記接続位置から前記長手方向の両端側へ等距離離れた2つの位置の上側に設けられ、前記クレーンに接続されるクレーン側ワイヤが連結される上部材と、を含み、
前記2本の長手部材は、互いの交差角度が自在に変化するように接続されていることを特徴とする吊り治具。
【請求項2】
前記下部材は、前記長手方向へ延在すると共に下方へ突出した板材で形成され、
前記2本の長手部材のうち、上側の長手部材の前記2つの領域に設けられた前記下部材と、下側の長手部材の前記2つの領域に設けられた前記下部材とは、前記2本の長手部材が重ねられた上下方向に関して、双方の下縁が同じ高さにあると共に、双方の前記複数の吊り穴が同じ高さに形成されていることを特徴とする請求項1記載の吊り治具。
【請求項3】
前記2本の長手部材のうち、上側の長手部材の前記2つの位置に設けられた前記上部材と、下側の長手部材の前記2つの位置に設けられた前記上部材とは、前記2本の長手部材が重ねられた上下方向に関して、前記クレーン側ワイヤとの双方の連結位置が同じ高さにあることを特徴とする請求項1又は2記載の吊り治具。
【請求項4】
前記2本の長手部材の各々は、角形の鋼管により形成され、前記下部材が前記鋼管の下面に取り付けられると共に、前記上部材が前記鋼管の上面に取り付けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の吊り治具。
【請求項5】
前記吊り荷の、少なくとも重心が考慮された4箇所に吊り輪が設けられており、前記吊り穴に対して、前記吊り輪に接続された前記吊り荷側ワイヤが連結されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の吊り治具。
【請求項6】
前記吊り荷として、床版を吊り上げるものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の吊り治具。
【請求項7】
吊り治具を用いてクレーンにより吊り荷を吊り上げる方法であって、
前記吊り治具を、
長手方向の中央において、上下に重ねられて交差する態様で接続される2本の長手部材と、
該2本の長手部材の各々の、前記長手方向の中央の接続位置と前記長手方向の両端部との間の2つの領域の下側に設けられ、前記吊り荷に接続される吊り荷側ワイヤが連結される複数の吊り穴が前記長手方向に間隔を空けて形成された下部材と、
前記2本の長手部材の各々の、前記接続位置から前記長手方向の両端側へ等距離離れた2つの位置の上側に設けられ、前記クレーンに接続されるクレーン側ワイヤが連結される上部材と、により構成し、
前記2本の長手部材の各々の、前記2つの領域に設けられた前記下部材の各々において、前記複数の吊り穴のうちの何れか1つに前記吊り荷側ワイヤを連結すると共に、前記2本の長手部材の各々の、前記2つの位置に設けられた前記上部材の各々に対して、前記クレーン側ワイヤを連結し、前記吊り治具を介して前記クレーンにより前記吊り荷を吊り上げた状態で、前記2本の長手部材の交差角度が、前記吊り荷毎に設定される角度に定まるように、前記交差角度を自在に変化させることを特徴とする吊り上げ方法。
【請求項8】
前記下部材を、前記長手方向へ延在すると共に下方へ突出した板材で形成し、
前記2本の長手部材のうち、上側の長手部材の前記2つの領域に設けられた前記下部材と、下側の長手部材の前記2つの領域に設けられた前記下部材とを、前記2本の長手部材が重ねられた上下方向に関して、双方の下縁を同じ高さにすると共に、双方の前記複数の吊り穴を同じ高さに形成することを特徴とする請求項7記載の吊り上げ方法。
【請求項9】
前記2本の長手部材のうち、上側の長手部材の前記2つの位置に設けられた前記上部材と、下側の長手部材の前記2つの位置に設けられた前記上部材とを、前記2本の長手部材が重ねられた上下方向に関して、前記クレーン側ワイヤとの双方の連結位置を同じ高さにすることを特徴とする請求項7又は8記載の吊り上げ方法。
【請求項10】
前記2本の長手部材の各々を、角形の鋼管により形成し、前記下部材を前記鋼管の下面に取り付けると共に、前記上部材を前記鋼管の上面に取り付けることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項記載の吊り上げ方法。
【請求項11】
前記吊り荷の、少なくとも重心を考慮した4箇所に吊り輪を設け、前記吊り穴に対して、前記吊り輪に接続した前記吊り荷側ワイヤを連結することを特徴とする請求項7から10のいずれか1項記載の吊り上げ方法。
【請求項12】
前記吊り荷として、床版を吊り上げることを特徴とする請求項7から11のいずれか1項記載の吊り上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンによる吊り荷の吊り作業に用いられる吊り治具と、吊り治具を用いてクレーンにより吊り荷を吊り上げる吊り上げ方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば建築現場などにおいて、比較的大型の吊り荷をクレーンによって吊り上げる際には、吊り荷をバランスよく吊り上げるために、吊り治具や吊り天秤といったものが用いられる。例えば、特許文献1には、複数の油圧シリンダを具備し、吊り荷の荷重を油圧シリンダの駆動力として利用する構造により、コストの低減やシリンダの制御系の単純化を図る吊り天秤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-244143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、現場において吊り上げる吊り荷には、様々な形状や大きさのものが存在する。このため、従来は、形状や大きさが異なる吊り荷毎に、その吊り荷をバランスよく吊り上げるための吊り治具を予め用意し、吊り荷に応じて吊り治具を変更して使い分けていた。従って、複数の吊り治具を製作するためのコストが嵩むだけでなく、作業時に吊り治具を付け替える手間によって作業効率が低下していた。また、特許文献1に開示されたような吊り天秤は、地切り時に油圧シリンダを利用してバランス調整を行うことが必要な吊り荷に対しては有用であるが、その他の吊り荷が対象の場合は、性能が過剰で構造が複雑過ぎるものであった。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、形状や大きさが異なる複数の吊り荷の吊り作業を、単純な構成の吊り治具によって効率よく進めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)クレーンによる吊り荷の吊り作業に用いられる吊り治具であって、長手方向の中央において、上下に重ねられて交差する態様で接続される2本の長手部材と、該2本の長手部材の各々の、前記長手方向の中央の接続位置と前記長手方向の両端部との間の2つの領域の下側に設けられ、前記吊り荷に接続される吊り荷側ワイヤが連結される複数の吊り穴が前記長手方向に間隔を空けて形成された下部材と、前記2本の長手部材の各々の、前記接続位置から前記長手方向の両端側へ等距離離れた2つの位置の上側に設けられ、前記クレーンに接続されるクレーン側ワイヤが連結される上部材と、を含み、前記2本の長手部材は、互いの交差角度が自在に変化するように接続されている吊り治具。
【0008】
本項に記載の吊り治具は、2本の長手部材と、これら2本の長手部材の各々に設けられた下部材及び上部材とを含み、2本の長手部材は、互いの長手方向の中央において上下に重ねられ、そこで互いに交差する態様で接続されている。下部材は、各長手部材の上述したような長手方向の中央の接続位置と、各長手部材の長手方向の両端部との間の、2つの領域の下側に設けられる。すなわち、下部材は、長手部材の各々において、接続位置と長手方向の一方側端部との間の領域、及び、接続位置と長手方向の他方側端部との間の領域に設けられ、吊り治具全体で4つの領域に設けられる。そして、そのような下部材の各々には、長手部材の長手方向に間隔を空けて複数の吊り穴が形成されており、これら複数の吊り穴の何れか1つに対して、吊り作業時に、吊り荷側に接続される吊り荷側ワイヤが連結される。このため、吊り治具と吊り荷との間は、4本の吊り荷側ワイヤにより連結される。
【0009】
上部材は、各長手部材の接続位置から、各長手部材の長手方向の両端側へ等距離離れた2つの位置の上側に設けられる。すなわち、上部材は、長手部材の各々において、接続位置から長手方向の一方側へ一定距離離れた位置と、接続位置から長手方向の他方側へ同じく一定距離離れた位置とに設けられ、吊り治具全体で4つの位置に設けられる。そして、このような上部材の各々には、吊り作業時に、クレーンに接続されるクレーン側ワイヤが連結される。このため、吊り治具とクレーンとの間は、4本のクレーン側ワイヤにより連結される。更に、上記のように交差する態様で接続された2本の長手部材は、互いの交差角度が自在に変化するように接続されている。
【0010】
このような構成により、吊り荷側ワイヤの連結位置が、各下部材において複数の吊り穴の中から自由に選択されると共に、2本の長手部材の交差角度が、吊り荷に応じて変化するものとなる。そこで、例えば、吊り荷がバランスよく吊り上げられるように、吊り荷の構造計算などによって、吊り荷側ワイヤを接続する吊り荷の4箇所の吊り位置や、2本の長手部材の交差角度を、形状や大きさが異なる吊り荷毎に予め設定することとする。そして、吊り荷の吊り作業時に、各下部材において、吊り荷側ワイヤを予め定められた吊り位置に対応した位置の吊り穴へ連結し、更に、4つの位置に設けられた上部材へクレーン側ワイヤを連結した状態で、クレーンにより吊り荷を吊り上げる。すると、2本の長手部材の交差角度が、吊り荷毎に予め定められた角度まで変化し、その角度で停止した状態になる。
【0011】
これにより、吊り荷の形状や大きさに応じた適切な吊り位置及び長手部材の交差角度で、吊り荷がバランスよく吊り上げられるものとなる。更に、使用する吊り穴が自由に選択され、2本の長手部材の交差角度が自在に変化することから、2本の長手部材の長さでカバーされる範囲で、様々な形状や大きさの吊り荷に対応するものである。このため、形状や大きさが異なる吊り荷毎に吊り治具を付け替える必要もなく、効率よく吊り作業が進められるものである。しかも、油圧シリンダなどの複雑な機構を利用することなく、2本の長手部材、上部材、及び下部材という単純な構成であるにも関わらず、効率のよい吊り作業が実現されるものである。
【0012】
(2)上記(1)項において、前記下部材は、前記長手方向へ延在すると共に下方へ突出した板材で形成され、前記2本の長手部材のうち、上側の長手部材の前記2つの領域に設けられた前記下部材と、下側の長手部材の前記2つの領域に設けられた前記下部材とは、前記2本の長手部材が重ねられた上下方向に関して、双方の下縁が同じ高さにあると共に、双方の前記複数の吊り穴が同じ高さに形成されている吊り治具。
本項に記載の吊り治具は、各長手部材において2つの領域に設けられる下部材が板材で形成され、この板材は、長手部材の長手方向へ延在すると共に下方へ突出している。このため、板材の2つの面が、長手部材の長手方向と上下方向との双方に直交する方向を向いており、その2つの面を貫通して、複数の吊り穴が形成されている。
【0013】
また、2本の長手部材のうち、上側に重ねられた一方の長手部材の2つの領域に設けられた下部材と、下側に重ねられたもう一方の長手部材の2つの領域に設けられた下部材とは、2本の長手部材が重ねられた上下方向に関して、双方の下縁が同じ高さに位置している。すなわち、下側の長手部材に設けられた下部材としての板材は、複数の吊り穴の穿設や吊り穴への吊り荷側ワイヤの連結に必要な長さで下方へ突出し、上側の長手部材に設けられた下部材としての板材は、下側の長手部材を超えて、下側の長手部材の板材の下縁と同じ位置まで下方へ突出している。
【0014】
これにより、交差した2本の長手部材から下方へ延びる、合計で4枚の板材の下縁が、平面視でX字のような位置関係で同一平面上に位置することになるため、未使用時の吊り治具が単独で、地面などにおいて安定した姿勢を維持するものである。更に、下部材の各々に形成される複数の吊り穴が、上側の長手部材に設けられた下部材と、下側の長手部材に設けられた下部材とで、同じ高さに形成されている。これにより、吊り荷へ接続される4本の吊り荷側ワイヤの長さを同じにすることで、吊り治具と吊り荷との間の連結に起因して吊り荷が斜めに吊り上げられることはなく、吊り荷がより安定した姿勢で吊り上げられるものとなる。
【0015】
(3)上記(1)(2)項において、前記2本の長手部材のうち、上側の長手部材の前記2つの位置に設けられた前記上部材と、下側の長手部材の前記2つの位置に設けられた前記上部材とは、前記2本の長手部材が重ねられた上下方向に関して、前記クレーン側ワイヤとの双方の連結位置が同じ高さにある吊り治具。
本項に記載の吊り治具は、2本の長手部材のうち、上側に重ねられた一方の長手部材の2つの位置に設けられた上部材と、下側に重ねられたもう一方の長手部材の2つの位置に設けられた上部材とについて規定するものである。
【0016】
具体的に、上側の長手部材の上部材と、下側の長手部材の上部材とは、2本の長手部材が重ねられた上下方向に関して、クレーン側ワイヤとの双方の連結位置が同じ高さにある。すなわち、下側の長手部材に設けられた上部材は、少なくとも、上側の長手部材を超えて、上側の長手部材の上部材にクレーン側ワイヤが連結される位置と同じ高さまで上方へ突出しており、上側の長手部材の上部材と同じ高さ位置においてクレーン側ワイヤが連結される。これにより、クレーンへ接続される4本のクレーン側ワイヤの長さを同じにすることで、吊り治具とクレーンとの間の連結に起因して吊り荷が斜めに吊り上げられることはなく、吊り荷がより安定した姿勢で吊り上げられるものとなる。
【0017】
(4)上記(1)から(3)項において、前記2本の長手部材の各々は、角形の鋼管により形成され、前記下部材が前記鋼管の下面に取り付けられると共に、前記上部材が前記鋼管の上面に取り付けられている吊り治具。
本項に記載の吊り治具は、2本の長手部材の各々が角形の鋼管により形成されたものであり、それらの各鋼管の下面の2つの領域に下部材が取り付けられ、各鋼管の上面の2つの位置に上部材が取り付けられる。このような構成により、吊り治具の製作が容易になると共に、鋼管が利用されることで必要な強度の確保と軽量化との双方が図られるものである。
【0018】
(5)上記(1)から(4)項において、前記吊り荷の、少なくとも重心が考慮された4箇所に吊り輪が設けられており、前記吊り穴に対して、前記吊り輪に接続された前記吊り荷側ワイヤが連結される吊り治具。
本項に記載の吊り治具は、下部材の吊り穴に連結される吊り荷側ワイヤの接続先である吊り荷に、吊り位置となる吊り輪が4箇所に設けられているものである。すなわち、形状や大きさが異なる吊り荷毎に、少なくとも吊り荷の重心が考慮された構造計算などによって、各吊り荷がバランスよく吊り上げられるような4箇所の吊り位置が求められ、そこに吊り輪が設けられるものである。そして、このような4箇所の吊り輪に吊り荷側ワイヤが接続され、それらの各々が、吊り治具の各下部材に形成された複数の吊り穴のうち、吊り輪の位置に対応する位置にある吊り穴に連結される。
【0019】
ここで、吊り輪の位置(吊り位置)に対応する吊り穴の選定方法について言及すると、まず、吊り治具が吊り荷の上に仮想的に重ねられたときの平面視で、2本の長手部材の接続位置と吊り荷の重心とが合わせられると共に、2本の長手部材の各々が吊り荷の2箇所の吊り位置を通るような状態を想定する。そして、この状態において、各下部材に形成された複数の吊り穴のうち、長手部材の接続位置からの距離が、吊り荷の重心から各吊り位置への距離と可能な限り等しくなるような吊り穴が選定される。このようにして選定された各吊り穴に吊り荷側ワイヤが連結され、クレーンにより吊り荷が吊り上げられると、吊り荷の重心の真上に2本の長手部材の接続位置があり、更に2本の長手部材が平面視で吊り荷の4箇所の吊り位置に重なるような位置及び交差角度になる。このため、吊り荷がより一層バランスよく吊り上げられるものである。
【0020】
(6)上記(1)から(5)項において、前記吊り荷として、床版を吊り上げるものである吊り治具。
本項に記載の吊り治具は、橋などの建築に用いられる床版を吊り荷として吊り上げるものである。床版は、橋などの形状や据え付け位置などに応じて、様々な形状や大きさのものが製作され、主に据え付け時にクレーンによって吊り上げられる。このため、形状や大きさが異なる複数の床版が、従来の吊り治具のように床版毎に付け替えが行われることなく、本項に記載に吊り治具が使用されて吊り上げられるものとなり、床版の据え付け作業の効率が格段に向上されるものである。
【0021】
(7)吊り治具を用いてクレーンにより吊り荷を吊り上げる方法であって、前記吊り治具を、長手方向の中央において、上下に重ねられて交差する態様で接続される2本の長手部材と、該2本の長手部材の各々の、前記長手方向の中央の接続位置と前記長手方向の両端部との間の2つの領域の下側に設けられ、前記吊り荷に接続される吊り荷側ワイヤが連結される複数の吊り穴が前記長手方向に間隔を空けて形成された下部材と、前記2本の長手部材の各々の、前記接続位置から前記長手方向の両端側へ等距離離れた2つの位置の上側に設けられ、前記クレーンに接続されるクレーン側ワイヤが連結される上部材と、により構成し、前記2本の長手部材の各々の、前記2つの領域に設けられた前記下部材の各々において、前記複数の吊り穴のうちの何れか1つに前記吊り荷側ワイヤを連結すると共に、前記2本の長手部材の各々の、前記2つの位置に設けられた前記上部材の各々に対して、前記クレーン側ワイヤを連結し、前記吊り治具を介して前記クレーンにより前記吊り荷を吊り上げた状態で、前記2本の長手部材の交差角度が、前記吊り荷毎に設定される角度に定まるように、前記交差角度を自在に変化させる吊り上げ方法。
【0022】
(8)上記(7)項において、前記下部材を、前記長手方向へ延在すると共に下方へ突出した板材で形成し、前記2本の長手部材のうち、上側の長手部材の前記2つの領域に設けられた前記下部材と、下側の長手部材の前記2つの領域に設けられた前記下部材とを、前記2本の長手部材が重ねられた上下方向に関して、双方の下縁を同じ高さにすると共に、双方の前記複数の吊り穴を同じ高さに形成する吊り上げ方法。
(9)上記(7)(8)項において、前記2本の長手部材のうち、上側の長手部材の前記2つの位置に設けられた前記上部材と、下側の長手部材の前記2つの位置に設けられた前記上部材とを、前記2本の長手部材が重ねられた上下方向に関して、前記クレーン側ワイヤとの双方の連結位置を同じ高さにする吊り上げ方法。
(10)上記(7)から(9)項において、前記2本の長手部材の各々を、角形の鋼管により形成し、前記下部材を前記鋼管の下面に取り付けると共に、前記上部材を前記鋼管の上面に取り付ける吊り上げ方法。
【0023】
(11)上記(7)から(10)項において、前記吊り荷の、少なくとも重心を考慮した4箇所に吊り輪を設け、前記吊り穴に対して、前記吊り輪に接続した前記吊り荷側ワイヤを連結する吊り上げ方法。
(12)上記(7)から(11)項において、前記吊り荷として、床版を吊り上げる吊り上げ方法。
そして、(7)から(12)項に記載の吊り上げ方法は、各々、上記(1)から(6)項の吊り治具を用いて実行されることで、上記(1)から(6)項の吊り治具と同様の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は上記のような構成であるため、形状や大きさが異なる複数の吊り荷の吊り作業を、単純な構成の吊り治具によって効率よく進めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態に係る吊り治具の構成の一例を示す斜視図である。
図2図1の吊り治具の、2本の長手部材が直交した状態における、主に上側の長手部材の詳細を示しており、(a)が正面図、(b)が(a)のA-A線における拡大断面図、(c)が(a)のA-A線近傍の拡大平面図である。
図3図1の吊り治具の、2本の長手部材が直交した状態における、主に下側の長手部材の詳細を示しており、(a)が正面図、(b)が(a)のB-B線における拡大断面図、(c)が(a)のB-B線近傍の拡大平面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る吊り治具を利用して吊り上げる吊り荷としての床版の三面図であり、(a)が平面図、(b)が一部透過した正面図、(c)が一部透過した側面図である。
図5】本発明の実施の形態に係る吊り治具を利用して吊り上げる吊り荷としての、図4と形状が異なる床版の三面図であり、(a)が平面図、(b)が一部透過した正面図、(c)が一部透過した側面図である。
図6】床版の吊り位置を決定する方法を示す平面イメージ図であり、(a)が図4の床版に対応するもの、(b)が図5の床版に対応するものである。
図7】本発明の実施の形態に係る吊り治具を用いて、クレーンにより吊り荷を吊り上げた様子を示す作業イメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づき説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、また、図面の全体にわたって、同一部分若しくは対応する部分は、同一の符号で示している。
まず、本発明の実施の形態に係る吊り治具10は、例えば図7に示すように、クレーン60によって吊り荷50を吊り上げる際に、クレーン60に接続されたクレーン側ワイヤ42と、吊り荷50に接続された吊り荷側ワイヤ40との間に介在して、吊り荷50をバランスよく吊り上げるためのものである。
【0027】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る吊り治具10は、2本の長手部材12及び14と、2本の長手部材12及び14の各々に設けられた下部材20と、同じく2本の長手部材12及び14の各々に設けられた上部材30とを含んでいる。2本の長手部材12及び14は、長手部材12が上側、長手部材14が下側の配置で、上下に重ねられて交差するように接続されており、その接続位置16は、2本の長手部材12及び14の互いの長手方向の中央に位置している。なお、図2には、主に長手部材12及びそこに設けられた下部材20と上部材30との詳細を示し、図3には、主に長手部材14及びそこに設けられた下部材20と上部材30との詳細を示しているため、以降はこれらも参照されたい。
【0028】
上記のように接続された2本の長手部材12及び14は、平面視での互いの交差角度K(図6参照)が自在に変化するように接続されている。すなわち、例えば図7のように、クレーン60により吊り治具10が吊り荷50と共に吊り上げられたときに、2本の長手部材12及び14が接続位置16を中心として相対的に回転し、その後、交差角度Kが吊り荷側ワイヤ40の連結位置などに応じた一定の角度の状態で回転が停止するように、2本の長手部材12及び14は接続されている。このような接続は、接続位置16において、例えばボルトなどが使用されて実現される。本実施形態において、2本の長手部材12及び14の各々は、角形の鋼管によって形成されている。長手部材12の両端部12a、12b間の距離と、長手部材14の両端部14a、14b間の距離とは、互いに等しくなっており、これに限定されるものではないが、その大きさは例えば4200mm程度である。なお、2本の長手部材12及び14の長さは、対象とする吊り荷50の大きさなどに応じて設定してよい。
【0029】
長手部材12の下部材20(20A、20B)は、長手部材12の長手方向中央に位置する接続位置16と両端部12a及び12bとの夫々の間の、2つの領域の下側に設けられている。図1及び図2で確認できるように、本実施形態では、角形の鋼管である長手部材12の下面に、鋼材などで形成される矩形板状の下部材20A、20Bが取り付けられている。図2(a)に示すように、下部材20Aは、長手部材12の長手方向に関して、長手部材12の一方の端部12aから、接続位置16よりも図中左側の位置まで延在しており、その下縁22が長手部材14よりも下方に位置している。また、下部材20Bは、長手部材12の長手方向に関して、長手部材12の他方の端部12bから、接続位置16よりも図中右側の位置まで延在しており、その下縁22が、長手部材14よりも下方の、下部材20Aの下縁22と同じ高さ位置にある。
【0030】
下部材20A、20Bの各々には、長手部材12への接続部分の近傍に、複数の補強材26が設けられている。更に、下部材20A、20Bの各々には、吊り荷側ワイヤ40(図7参照)を連結するための複数の吊り穴24が形成されている。これら複数の吊り穴24は、下部材20A及び20Bの下端近傍に、長手部材12の長手方向に沿って互いに等間隔の位置に形成されている。これに限定されるものではないが、下部材20A、20Bの大きさは、図2(a)における左右方向の長さが1600mm程度、上下方向の長さが380mmであり、隣接する吊り穴24の中心同士の間隔が100mm程度である。
【0031】
これに対し、長手部材14の下部材20(20C、20D)は、長手部材12の下部材20と同様に、長手部材14の長手方向中央に位置する接続位置16と両端部14a及び14bとの夫々の間の、2つの領域の下側に設けられている。図1及び図3で確認できるように、本実施形態では、角形の鋼管である長手部材14の下面に、鋼材などで形成される矩形板状の下部材20C、20Dが取り付けられている。図3(a)に示すように、下部材20Cは、長手部材14の長手方向に関して、長手部材14の一方の端部14aから、接続位置16よりも図中左側の位置まで延在している。また、下部材20Dは、長手部材14の長手方向に関して、長手部材14の他方の端部14bから、接続位置16よりも図中右側の位置まで延在している。下部材20Cの下縁22と下部材20Dの下縁22とは、同じ高さ位置にある。
【0032】
下部材20A、20Bと同様に、下部材20C、20Dの各々には、長手部材14への接続部分の近傍に複数の補強材26が設けられると共に、吊り荷側ワイヤ40(図7参照)を連結するための複数の吊り穴24が、長手部材14の長手方向に沿って互いに等間隔の位置に形成されている。これに限定されるものではないが、下部材20C、20Dの大きさは、図3(a)における左右方向の長さが、下部材20A、20Bと同じく1600mm程度、上下方向の長さが100mmであり、隣接する吊り穴24の中心同士の間隔が、下部材20A、20Bと同じく100mm程度である。
【0033】
そして、図1で確認できるように、上側の長手部材12に設けられた下部材20A、20Bの下縁22と、下側の長手部材14に設けられた下部材20C、20Dの下縁22とは、同じ高さ位置にあって同一の平面上に位置している。更に、下部材20A、20Bに形成された複数の吊り穴24の、下部材20A、20Bの下縁22からの距離と、下部材20C、20Dに形成された複数の吊り穴24の、下部材20C、20Dの下縁22からの距離とは、等しくなっている。すなわち、4つの下部材20A~20Dに形成された複数の吊り穴24は、全て同じ高さ位置にある。
【0034】
一方、図1及び図2に示すように、長手部材12の上部材30(30A、30B)は、長手部材12の長手方向中央に位置する接続位置16と両端部12a及び12bとの夫々の間の、2つの位置の上側に設けられている。そして、長手部材12の長手方向に関して、接続位置16から上部材30Aまでの距離は、接続位置16から上部材30Bまでの距離と等しくなっている。また、本実施形態では、角形の鋼管である長手部材12の上面に、鋼材などで形成される上部材30A、30Bが、上方へ突出する態様で取り付けられている。
【0035】
上部材30A、30Bは、同じ高さ位置まで突出しており、夫々の先端に、クレーン側ワイヤ42(図7参照)が連結される連結位置32としての穴が形成されている。なお、図1では、上部材30A、30Bの連結位置32に、上部材30A、30Bとクレーン側ワイヤ42とを連結する連結具46が取り付けられている。上部材30A、30Bの各々には、長手部材12への接続部分の近傍に、2つの補強材36が設けられている。これに限定されるものではないが、上部材30A、30Bの大きさは、長手部材12の上面からの高さが125mm程度であり、図2(a)における接続位置16から上部材30A、30Bまで左右方向の距離は、1600mm程度である。
【0036】
他方、図1及び図3に示すように、長手部材14の上部材30(30C、30D)は、長手部材12の上部材30と同様に、長手部材14の長手方向中央に位置する接続位置16と両端部14a及び14bとの夫々の間の、2つの位置の上側に設けられている。そして、長手部材14の長手方向に関して、接続位置16から上部材30Cまでの距離は、接続位置16から上部材30Dまでの距離と等しくなっている。また、本実施形態では、角形の鋼管である長手部材14の上面に、鋼材などで形成される上部材30C、30Dが、上方へ突出する態様で取り付けられている。
【0037】
上部材30C、30Dは、同じ高さ位置まで突出しており、夫々の先端に、クレーン側ワイヤ42(図7参照)が連結される連結位置32としての穴が形成されている。なお、図1では、上部材30A、30Bと同様に、上部材30C、30Dの連結位置32に、上部材30C、30Dとクレーン側ワイヤ42とを連結する連結具46が取り付けられている。上部材30C、30Dの各々には、長手部材14への接続部分の近傍に、2つの補強材36が設けられている。これに限定されるものではないが、上部材30C、30Dの大きさは、長手部材14の上面からの高さが410mm程度であり、図3(a)における接続位置16から上部材30C、30Dまで左右方向の距離は、1600mm程度である。すなわち、接続位置16から4つの上部材30A~30Dの各々までの距離は、全て等しくなっている。また、4つの上部材30A~30Dは、全て同じ高さ位置まで突出しており、全ての連結位置32が同じ高さ位置にある。
【0038】
次に、図4及び図5には、本発明の実施の形態に係る吊り治具10を利用して吊り上げる吊り荷50の例として、互いに形状及び大きさが異なる2つの床版56を示している。これらの床版56には、後述するように設定される4箇所の吊り位置に応じた位置に、吊り輪52が設けられている。この吊り輪52は、例えば形状加工された丸鋼などにより形成され、床版56の製作時におけるコンクリート打設の際に、床版56の上側の鉄筋と下側の鉄筋との間に埋め込まれるものである。そして、図7に示すように、床版56がクレーン60により吊り上げられる際に、各吊り輪52に連結具などを介して吊り荷側ワイヤ40が接続されることになる。
【0039】
続いて、図6を参照して、床版56の吊り位置などの設定方法について簡単に説明する。なお、図6(a)は図4の床版56に対応するイメージ図であり、図6(b)は図5の床版56に対応するイメージ図である。図示のように、重心Gが図示された床版56の平面図(符号56´で示す)に、2本の長手部材12、14の配置を示す2本の仮想線(符号12´及び14´で示す)と、仮想円Cとが重ねられている。2本の仮想線12´及び14´は、その交差位置(接続位置16に相当)が床版56´の重心Gに合わせられており、互いの交差角度が符号Kで示されている。仮想円Cは、接続位置16から等しい距離にある4つの上部材30(図6では符号30´で示す)が配置され得る位置を示しており、仮想円Cの半径が接続位置16から各上部材30までの距離に相当する。
【0040】
上記のような状態で、4つの上部材30´が、床版56´上やその近傍に可能な限り互いに間隔を空けて配置されるように、2本の仮想線12´及び14´の交差角度Kを設定する。そして、2本の仮想線12´及び14´上で、4つの上部材30´から重心G側へ離れた位置に、4つの吊り位置Sが設定される。4つの上部材30´から4つの吊り位置Sまでの距離Lは、床版56の構造計算などから、床版56が損傷しないような床版56´の端縁からの最低限のクリアランスが確保されると共に、4つの吊り位置Sに荷重が均等にかかるように設定され、互いに大きさが異なっていてもよい。なお、床版56´には、構造計算のための補助線が描かれている。
【0041】
そして、上記のように設定された4箇所の吊り位置Sに、図4及び図5に示したような吊り輪52が設置され、それらに吊り荷側ワイヤ40が接続される。更に、4本の吊り荷側ワイヤ40の各々は、4つの下部材20の各々に設けられた複数の吊り穴24の中から、連結先の吊り穴24が選定されて連結される。このとき、連結先の吊り穴24として、図6に示したような上部材30´から吊り位置Sまでの距離Lや、重心Gから吊り位置Sまでの距離などに対して、上部材30や接続位置16からの距離が最も近い位置にある吊り穴24が選定される。例えば、図6(a)における左上の上部材30´が、図2(a)に示す長手部材12の上部材30Aに相当する場合について言及する。この場合、下部材20Aに形成された複数の吊り穴24の中から、上部材30Aや接続位置16からの図2(a)における左右方向の距離が、図6(a)における左上の距離Lや重心Gから吊り位置Sまでの距離に、可能な限り近い位置の吊り穴24が選定される。
【0042】
ここで、本発明の実施の形態に係る吊り治具10は、図1図3に示した構成に限定されるものではなく、別の構成であってもよい。例えば、2本の長手部材12、14は、角形の鋼管以外の管材や、管材ではないもので形成されていてもよい。また、下部材20や上部材30は、図示とは異なる形状のものであってもよく、下部材20の各々に形成される吊り穴24の数量や間隔も、図示の数量や間隔と異なっていてもよい。更に、本発明の実施の形態に係る吊り治具10は、図4図5に示された床版56のみを対象とするものではなく、床版56以外の吊り荷50の吊り上げに利用されてもよい。また、吊り荷50に設けられる吊り輪52は、4箇所の吊り位置Sに対して必ずしも1対1で設けられる必要はなく、1箇所の吊り位置Sを2つの吊り輪52でカバーするように、合計で8箇所に吊り輪52が設けられてもよい。更に、吊り荷50の大きさや形状に応じて、吊り位置Sが2箇所にのみ設定されてもよい。
【0043】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る吊り治具10は、図1図3に示すように、2本の長手部材12、14と、これら2本の長手部材12、14の各々に設けられた下部材20及び上部材30とを含んでいる。2本の長手部材12、14は、互いの長手方向の中央において上下に重ねられ、そこで互いに交差する態様で接続されている。下部材20は、各長手部材12、14の上述したような長手方向の中央の接続位置16と、各長手部材12、14の長手方向の両端部12a、12b、14a、14bとの間の、2つの領域の下側に設けられる。
【0044】
すなわち、下部材20は、長手部材12、14の各々において、接続位置16と長手方向の一方側端部12a、14aとの間の領域、及び、接続位置16と長手方向の他方側端部12b、14bとの間の領域に設けられ、吊り治具10全体で4つの領域に設けられる。そして、そのような下部材20(20A~20D)の各々には、長手部材12、14の長手方向に間隔を空けて複数の吊り穴24が形成されており、これら複数の吊り穴24の何れか1つに対して、吊り作業時に、吊り荷50側に接続される吊り荷側ワイヤ40(図7参照)が連結される。このため、吊り治具10と吊り荷50との間は、4本の吊り荷側ワイヤ40により連結される。
【0045】
上部材30は、各長手部材12、14の接続位置16から、各長手部材12、14の長手方向の両端12a、12b、14a、14b側へ等距離離れた2つの位置の上側に設けられる。すなわち、上部材30は、長手部材12、14の各々において、接続位置16から長手方向の一方側(12a、14a側)へ一定距離離れた位置と、接続位置16から長手方向の他方側(12b、14b側)へ同じく一定距離離れた位置とに設けられ、吊り治具10全体で4つの位置に設けられる。そして、このような上部材30(30A~30D)の各々には、吊り作業時に、クレーン60に接続されるクレーン側ワイヤ42(図7参照)が連結される。このため、吊り治具10とクレーン60との間は、4本のクレーン側ワイヤ42により連結される。更に、上記のように交差する態様で接続された2本の長手部材12、14は、互いの交差角度K(図6参照)が自在に変化するように接続されている。
【0046】
このような構成により、吊り荷側ワイヤ40の連結位置を、各下部材20において複数の吊り穴24の中から自由に選択することができると共に、2本の長手部材12、14の交差角度Kを、吊り荷50に応じて変化させることができる。そこで、例えば、吊り荷50がバランスよく吊り上げられるように、図6に示すように、吊り荷50の構造計算などによって、吊り荷側ワイヤ40を接続する吊り荷50の4箇所の吊り位置Sや、2本の長手部材12、14の交差角度Kを、形状や大きさが異なる吊り荷50毎に予め設定することとする。そして、吊り荷50の吊り作業時に、各下部材20において、吊り荷側ワイヤ40を予め定められた吊り位置Sに対応した位置の吊り穴24へ連結し、更に、4つの位置に設けられた上部材30へクレーン側ワイヤ42を連結した状態で、クレーン60により吊り荷50を吊り上げる。すると、2本の長手部材12、14の交差角度Kが、吊り荷50毎に予め定められた角度まで変化し、その角度で停止した状態になる。
【0047】
これにより、吊り荷50の形状や大きさに応じた適切な吊り位置S及び長手部材12、14の交差角度Kで、吊り荷50をバランスよく吊り上げることができる。更に、使用する吊り穴24を自由に選択することができ、2本の長手部材12、14の交差角度Kを自在に変化させることができるため、2本の長手部材12、14の長さでカバーできる範囲で、様々な形状や大きさの吊り荷50に対応することができる。このため、形状や大きさが異なる吊り荷50毎に吊り治具10を付け替える必要もなく、効率よく吊り作業を進めることが可能となる。しかも、油圧シリンダなどの複雑な機構を利用することなく、2本の長手部材12、14、下部材20、及び上部材30という単純な構成であるにも関わらず、効率のよい吊り作業を実現することができる。
【0048】
また、本発明の実施の形態に係る吊り治具10は、図1図3に示すように、各長手部材12、14において2つの領域に設けられる下部材20が板材で形成され、この板材は、長手部材12、14の長手方向へ延在すると共に下方へ突出している。このため、板材の2つの面が、長手部材12、14の長手方向と上下方向との双方に直交する方向を向いており、その2つの面を貫通して、複数の吊り穴24が形成されている。また、2本の長手部材12、14のうち、上側に重ねられた一方の長手部材12の2つの領域に設けられた下部材20A、20Bと、下側に重ねられたもう一方の長手部材14の2つの領域に設けられた下部材20C、20Dとは、2本の長手部材12、14が重ねられた上下方向に関して、双方の下縁22が同じ高さに位置している。すなわち、下側の長手部材14に設けられた下部材20C、20Dとしての板材は、複数の吊り穴24の穿設や吊り穴24への吊り荷側ワイヤ40の連結に必要な長さで下方へ突出している。また、上側の長手部材12に設けられた下部材20A、20Bとしての板材は、下側の長手部材14を超えて、下側の長手部材14の板材の下縁22と同じ位置まで下方へ突出している。
【0049】
これにより、交差した2本の長手部材12、14から下方へ延びる、合計で4枚の板材の下縁22が、平面視でX字のような位置関係で同一平面上に位置することになるため、図1に示すように、未使用時の吊り治具10を単独で、地面などにおいて安定した姿勢に維持することができる。更に、下部材20の各々に形成される複数の吊り穴24が、上側の長手部材12に設けられた下部材20A、20Bと、下側の長手部材14に設けられた下部材20C、20Dとで、同じ高さに形成されている。これにより、吊り荷50へ接続する4本の吊り荷側ワイヤ40の長さを同じにすることで、吊り治具10と吊り荷50との間の連結に起因して吊り荷50が斜めに吊り上げられることはなく、吊り荷50をより安定した姿勢で吊り上げることが可能となる。
【0050】
また、本発明の実施の形態に係る吊り治具10は、2本の長手部材12、14のうち、上側に重ねられた一方の長手部材12の2つの位置に設けられた上部材30A、30Bと、下側に重ねられたもう一方の長手部材14の2つの位置に設けられた上部材30C、30Dとについて、以下のように規定するものである。具体的に、上側の長手部材12の上部材30A、30Bと、下側の長手部材14の上部材30C、30Dとは、2本の長手部材12、14が重ねられた上下方向に関して、クレーン側ワイヤ42との双方の連結位置32が同じ高さにある。
【0051】
すなわち、下側の長手部材14に設けられた上部材30C、30Dは、少なくとも、上側の長手部材12を超えて、上側の長手部材12の上部材30A、30Bにクレーン側ワイヤ42が連結される位置32と同じ高さまで上方へ突出しており、上側の長手部材12の上部材30A、30Bと同じ高さ位置においてクレーン側ワイヤ42が連結される。これにより、クレーン60へ接続する4本のクレーン側ワイヤ42の長さを同じにすることで、吊り治具10とクレーン60との間の連結に起因して吊り荷50が斜めに吊り上げられることはなく、吊り荷50をより安定した姿勢で吊り上げることができる。
【0052】
更に、本発明の実施の形態に係る吊り治具10は、2本の長手部材12、14の各々が、角形の鋼管により形成されたものである、そして、それらの各鋼管の下面の2つの領域に下部材20A、20B、又は20C、20Dが取り付けられ、各鋼管の上面の2つの位置に上部材30A、30B、又は30C、30Dが取り付けられる。このような構成により、吊り治具10の製作を容易にすることができると共に、鋼管を利用することで必要な強度の確保と軽量化との双方を図ることが可能となる。
【0053】
また、本発明の実施の形態に係る吊り治具10は、図4及び図5に示すように、下部材20の吊り穴24に連結される吊り荷側ワイヤ40の接続先である吊り荷50に、吊り位置Sとなる吊り輪52が4箇所に設けられているものである。すなわち、形状や大きさが異なる吊り荷50毎に、図6に示すような少なくとも吊り荷50の重心Gが考慮された構造計算などによって、各吊り荷50がバランスよく吊り上げられるような4箇所の吊り位置Sが求められ、そこに対応するように少なくとも4つの吊り輪52が設けられるものである。そして、このような4箇所の吊り輪52に吊り荷側ワイヤ40が接続され、それらの各々が、吊り治具10の各下部材20に形成された複数の吊り穴24のうち、吊り輪52の位置に対応する位置にある吊り穴24に連結される。
【0054】
ここで、吊り輪52の位置(吊り位置S)に対応する吊り穴24の選定方法について言及すると、まず、吊り治具10が吊り荷50の上に仮想的に重ねられたときの平面視で、2本の長手部材12、14の接続位置16と吊り荷50の重心Gとが合わせられると共に、2本の長手部材12、14の各々が吊り荷50の2箇所の吊り位置Sを通るような状態(図6参照)を想定する。そして、この状態において、各下部材20に形成された複数の吊り穴24のうち、長手部材12、14の接続位置16からの距離が、吊り荷50の重心Gから各吊り位置Sへの距離と可能な限り等しくなるような吊り穴24が選定される。このようにして選定された各吊り穴24に吊り荷側ワイヤ40が連結され、クレーン60により吊り荷50が吊り上げられると、吊り荷50の重心Gの真上に2本の長手部材12、14の接続位置16があり、更に2本の長手部材12、14が平面視で吊り荷50の4箇所の吊り位置Sに重なるような位置及び交差角度Kになる。このため、吊り荷50をより一層バランスよく吊り上げることが可能となる。
【0055】
加えて、本発明の実施の形態に係る吊り治具10は、図4及び図5に示すような、橋などの建築に用いられる床版56を吊り荷50として吊り上げるものである。床版56は、橋などの形状や据え付け位置などに応じて、様々な形状や大きさのものが製作され、主に据え付け時にクレーン60によって吊り上げられる。このため、形状や大きさが異なる複数の床版56を、従来の吊り治具のように床版56毎に付け替えを行うことなく、本発明の実施の形態に係る吊り治具10を使用して吊り上げることができ、床版56の据え付け作業の効率を格段に向上することが可能となる。
なお、本発明の実施の形態に係る吊り上げ方法は、上述した本発明の実施の形態に係る吊り治具10を用いて実行されることで、吊り治具10と同等の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0056】
10:吊り治具、12、14:長手部材、12a、12b、14a、14b:端部、16:接続位置、20(20A~20D):下部材、22:下縁、24:吊り穴、30(30A~30D):上部材、32:連結位置、40:吊り荷側ワイヤ、42:クレーン側ワイヤ、50:吊り荷、G:重心、52:吊り輪、56:床版、60:クレーン、K:交差角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7