(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112920
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】プレス工具、プレス金型、プレス装置、プレス加工方法、及び、プレス成形品
(51)【国際特許分類】
B21D 24/00 20060101AFI20230807BHJP
B21D 13/02 20060101ALI20230807BHJP
B21D 22/02 20060101ALI20230807BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20230807BHJP
B30B 1/26 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
B21D24/00 H
B21D13/02
B21D22/02 B
B21D24/00 F
B21D22/26 B
B30B1/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014947
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】水野 翔太
(72)【発明者】
【氏名】三田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】切通 毅
(72)【発明者】
【氏名】井芹 充博
【テーマコード(参考)】
4E090
4E137
【Fターム(参考)】
4E090AA01
4E090AB01
4E090BA02
4E090CC01
4E090EA01
4E090EB01
4E090EC01
4E090HA02
4E090HA03
4E137AA28
4E137BB01
4E137CA03
4E137CA09
4E137DA14
4E137EA02
4E137EA03
4E137EA22
4E137GA02
4E137GA15
(57)【要約】
【課題】複数の凸形状の意匠性を向上して成形するプレス工具、プレス金型、プレス装置、プレス加工方法、及び、プレス成形品を提供する。
【解決手段】所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群(40)を備えるダイ(18)と、所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群(39)と、凸部群の上方及び下方の少なくとも一方に配置されたビード(15、29)と、を備えるパンチ(16)と、を備えた、プレス工具(Pt)である。パンチ(16)の曲げまたは絞り加工により、ダイ(18)とパンチ(16)とに挟まれた平面状の被加工物(1)に斜面(2a)を成形しつつ、金属薄板(1)を凹部群及び凸部群で圧縮しながら斜面(2a)に複数の凸形状を成形する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群を備えるダイと、
前記所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群と、前記凸部群の上方及び下方の少なくとも一方に配置されたビードと、を備えるパンチと、を備え、
前記パンチの曲げまたは絞り加工により、前記ダイと前記パンチとに挟まれた平面状の被加工物に斜面を成形しつつ、前記被加工物を前記凹部群及び前記凸部群で圧縮しながら前記斜面に複数の前記凸形状を成形する、
プレス工具。
【請求項2】
前記ビードは、前記パンチの前記凸部群の上方と下方にそれぞれ配置され、
前記凸部群の上方に位置する前記ビードの高さは、前記凸部群の下方に位置する前記ビードの高さより大きい、
請求項1に記載のプレス工具。
【請求項3】
加工時に前記ビードと対向する前記ダイの面が平滑である、
請求項1または2に記載のプレス工具。
【請求項4】
被加工物を所定の形状に加工するプレス金型であって、
前記プレス金型は、加工時の分割面に対して上方に位置する上型と下方に位置する下型と、を備え、
前記上型または前記下型の少なくとも一方が可動し、
前記上型または前記下型の一方に、被加工物と接触するパッドと、所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群を備えるダイと、を搭載し、
前記上型または前記下型の他方に、前記所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群、及び、前記凸部群の上方及び下方の少なくとも一方に配置されたビードを有するパンチを搭載し、
前記パンチの曲げまたは絞り加工により、前記ダイと前記パンチとに挟まれた平面状の被加工物に斜面を成形しつつ、前記被加工物を前記凹部群及び前記凸部群で圧縮しながら前記斜面に複数の前記凸形状を成形する、
プレス金型。
【請求項5】
請求項4に記載のプレス金型と、
前記上型の上方に位置し、前記上型を固定する取り付け面と、
前記下型の下方に位置し、前記下型を固定する厚板と、
前記取り付け面を所定の方向に往復運動させると同時に前記取り付け面と前記厚板に荷重を与える、サーボモータ及びクランク機構と、を備える、
プレス装置。
【請求項6】
所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群を備えるダイと、
前記所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群を有するパンチと、を備え、
前記凸部群の複数の凸部のうち、中央部に位置する凸部の高さに対し、上端及び下端に位置する凸部の高さが大きく、
前記パンチの曲げまたは絞り加工により、前記ダイと前記パンチとに挟まれた平面状の被加工物に斜面を成形しつつ、前記被加工物を前記凹部群、凸部群で圧縮しながら前記斜面に複数の前記凸形状を成形する、
プレス工具。
【請求項7】
前記凸部群の上端に位置する凸部の高さが、前記凸部群の下端に位置する凸部の高さよりも大きい、
請求項6に記載のプレス工具。
【請求項8】
被加工物を所定の形状に加工するプレス金型であって、
前記プレス金型は、加工時の分割面に対して上方に位置する上型と下方に位置する下型とを備え、
前記上型または前記下型の少なくとも一方が可動し、
前記上型または前記下型の一方に、被加工物と接触するパッドと、所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群を備えるダイと、を搭載し、
前記上型または前記下型の他方に、前記所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群を備えるパンチを搭載し、
前記凸部群の複数の凸部のうち、中央部に位置する前記凸部の高さに対し、上端及び下端に位置する凸部の高さが大きく、
前記パンチの曲げまたは絞り加工により、前記ダイと前記パンチとに挟まれた平面状の被加工物に斜面を成形しつつ、前記被加工物を前記凹部群及び前記凸部群で圧縮しながら前記斜面に複数の前記凸形状を成形する、
プレス金型。
【請求項9】
請求項8に記載のプレス金型と、
前記上型の上方に位置し、前記上型を固定する取り付け面と、
前記下型の下方に位置し、前記下型を固定する厚板と、
前記取り付け面を所定の方向に往復運動させると同時に前記取り付け面と前記厚板に荷重を与える、サーボモータ及びクランク機構と、を備える、
プレス装置。
【請求項10】
所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群を備えるダイと、
所定の凸形状を有する複数の凸部を有する凸部群を備えるパンチと、を備え、
前記凹部群の複数の凹部のうち、中央部に位置する前記凹部の表面粗さに対し、上端または下端に位置する凹部の表面粗さが大きく、
前記凸部群の複数の凸部のうち、中央部に位置する前記凸部の表面粗さに対し、上端または下端に位置する前記凸部の表面粗さが大きく、
前記パンチの曲げまたは絞り加工により、前記ダイと前記パンチとに挟まれた平面状の被加工物に斜面を成形しつつ、前記被加工物を前記凹部群及び前記凸部群で圧縮しながら前記斜面に複数の前記凸形状を成形する、
プレス工具。
【請求項11】
前記凸部群の上端に位置する凸部の表面粗さが、前記凸部群の下端に位置する凸部の表面粗さよりも大きい、または、
前記凹部群の上端に位置する凹部の表面粗さが、前記凹部群の下端に位置する凹部の表面粗さよりも大きい、または、
前記凸部群の上端に位置する凸部の表面粗さが、前記凸部群の下端に位置する凸部の表面粗さよりも大きく、かつ、前記凹部群の上端に位置する凹部の表面粗さが、前記凹部群の下端に位置する凹部の表面粗さよりも大きい、
請求項10に記載のプレス工具。
【請求項12】
被加工物を所定の形状に加工するプレス金型であって、
前記プレス金型は、加工時の分割面に対して上方に位置する上型と下方に位置する下型とを備え、
前記上型または前記下型の少なくとも一方が可動し、
前記上型または前記下型の一方に、被加工物と接触するパッドと、所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群を備えるダイと、を搭載し、
前記上型または前記下型の他方に、前記所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群を備えるパンチを搭載し、
前記凹部群の複数の凹部のうち、中央部に位置する凹部の表面粗さに対し、上端または下端に位置する凹部の表面粗さが大きく、
前記凸部群の複数の凸部のうち、中央部に位置する凸部の表面粗さに対し、上端または下端に位置する凸部の表面粗さが大きく、
前記パンチの曲げまたは絞り加工により、前記ダイと前記パンチとに挟まれた平面状の被加工物に斜面を成形しつつ、前記被加工物を前記凹部群及び前記凸部群で圧縮しながら前記斜面に複数の前記凸形状を成形する、
プレス金型。
【請求項13】
請求項12に記載のプレス金型と、
前記上型の上方に位置し、前記上型を固定する取り付け面と、
前記下型の下方に位置し、前記下型を固定する厚板と、
前記取り付け面を所定の方向に往復運動させると同時に前記取り付け面と前記厚板に荷重を与える、サーボモータ及びクランク機構と、を備える、
プレス装置。
【請求項14】
所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群を備えるダイと、前記所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群及び前記凸部群の上方及び下方の少なくとも一方に配置されたビードを備えるパンチとで、被加工物を挟みこんで曲げまたは絞り加工することにより、前記被加工物に斜面を成形し、
前記斜面を成形すると共に、前記被加工物を前記凹部群、凸部群で圧縮しながら前記斜面に複数の前記凸形状を成形する、
プレス加工方法。
【請求項15】
前記ビードは、前記パンチの前記凸部群の上方及び下方に配置され、
前記パンチの前記凸部群の上方に位置するビードの高さが、前記凸部群の下方に位置するビードの高さより大きい、
請求項14に記載のプレス加工方法。
【請求項16】
所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群を備えるダイと、前記所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群を備えるパンチとで、被加工物を挟みこんで曲げまたは絞り加工することにより、前記被加工物に斜面を成形し、
前記斜面を成形すると共に、前記被加工物を前記凹部群、凸部群で圧縮しながら前記斜面に複数の前記凸形状を成形し、
前記凸部群の複数の凸部のうち、中央部に位置する凸部の高さに対し、上端及び下端に位置する凸部の高さが大きい、
プレス加工方法。
【請求項17】
前記凸部群の上端に位置する凸部の高さが、前記凸部群の下端に位置する凸部の高さよりも大きい、
請求項16に記載のプレス加工方法。
【請求項18】
所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群を備えるダイと、前記所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群を備えるパンチとで、被加工物を挟みこんで曲げまたは絞り加工することにより、前記被加工物に斜面を成形し、
前記斜面を成形すると共に、前記被加工物を前記凹部群、凸部群で圧縮しながら前記斜面に複数の前記凸形状を成形し、
前記凹部群の複数の凹部のうち、中央部に位置する凹部の表面粗さに対し、上端または下端に位置する凹部の表面粗さが大きく、
前記凸部群の複数の凸部のうち、中央部に位置する凸部に対し、上端または下端に位置する凸部の表面粗さが大きい、
プレス加工方法。
【請求項19】
前記凸部群の上端に位置する凸部の表面粗さが、前記凸部群の下端に位置する凸部の表面粗さよりも大きい、または、
前記凹部群の上端に位置する凹部の表面粗さが、前記凹部群の下端に位置する凹部の表面粗さよりも大きい、または、
前記凸部群の上端に位置する凸部の表面粗さが、前記凸部群の下端に位置する凸部の表面粗さよりも大きく、かつ、前記凹部群の上端に位置する凹部の表面粗さが、前記凹部群の下端に位置する凹部の表面粗さよりも大きい、
請求項18に記載のプレス加工方法。
【請求項20】
斜面を有するプレス成形品であって、
前記斜面の一方の面上に複数の凸形状部を有し、
前記斜面の他方の面上に複数の凹形状部を有し、前記凹形状部の上方及び下方の少なくとも一方に前記凹形状部よりも深さが小さい溝を有する、
プレス成形品。
【請求項21】
斜面を有するプレス成形品であって、
前記斜面の一方の面上に複数の凸形状部を有し、
前記斜面の他方の面上に複数の凹形状部を有し、
前記複数の凹形状部のうち、前記斜面の中央部に位置する凹形状部の深さに対して、前記斜面の上端または下端に位置する凹形状部の深さが大きい、
プレス成形品。
【請求項22】
斜面を有するプレス成形品であって、
前記斜面の一方の面上に複数の凸形状部を有し、
前記斜面の他方の面上に複数の凹形状部を有し、
前記複数の凸形状部のうち、前記斜面の中央部に位置する凸形状部の表面粗さに対して、前記斜面の上端または下端に位置する凸形状部の表面粗さが大きく、
前記複数の凹形状部のうち、前記斜面の中央部に位置する凹形状部の表面粗さに対して、前記斜面の上端または下端に位置する凹形状部の表面粗さが大きい、
プレス成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、凸形状を形成するプレス工具、プレス金型、プレス装置、プレス加工方法、及び、プレス成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に、従来の凸形状を成形するプレス加工方法が記載されている。第1工程において、工具の凸部とその突起の根元に設けられた段差とで被加工物の材料を押し出し、第3工程において円錐状突起を成形するために必要な材料を確保しつつ、第2工程円錐台突起より小さい第1工程円錐台突起を成形する。
【0003】
第2、3工程では第1工程円錐台突起及び第2工程円錐台突起の先端に工具の凸状面を係合させ、工具凸部の根元に設けられた段差で材料を円錐台突起先端に押し出した状態でプレスし、円錐台突起の先端部分の材料が外周に逃げ、薄くなることを防止あるいは抑制して、複数の円錐状突起を成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、平面状の被加工物に対して曲げまたは絞り加工をすると同時に、形成される被加工物の斜面にエッジを有する複数の凸形状を形成する場合、凸形状の意匠性が低減してしまう。
【0006】
従って、本開示は、前記課題を解決するものであり、複数の凸形状の意匠性を向上して成形するプレス工具、プレス金型、プレス装置、プレス加工方法、及び、プレス成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示のプレス工具は、所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群を備えるダイと、所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群と、凸部群の上方及び下方の少なくとも一方に配置されたビードと、を備えるパンチと、を備える。パンチの曲げまたは絞り加工により、ダイとパンチとに挟まれた平面状の被加工物に斜面を成形しつつ、被加工物を凹部群及び凸部群で圧縮しながら斜面に複数の凸形状を成形する。
【0008】
上記目的を達成するために、本開示のプレス金型は、被加工物を所定の形状に加工するプレス金型であって、プレス金型は、加工時の分割面に対して上方に位置する上型と下方に位置する下型と、を備える。上型または下型の少なくとも一方が可動し、上型または下型の一方に、被加工物と接触するパッドと、所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群を備えるダイと、を搭載し、上型または下型の他方に、所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群、及び、凸部群の上方及び下方の少なくとも一方に配置されたビードを有するパンチを搭載する。パンチの曲げまたは絞り加工により、ダイとパンチとに挟まれた平面状の被加工物に斜面を成形しつつ、被加工物を凹部群及び凸部群で圧縮しながら斜面に複数の凸形状を成形する。
【0009】
上記目的を達成するために、本開示のプレス装置は、上述したプレス金型と、上型の上方に位置し、上型を固定する取り付け面と、下型の下方に位置し、下型を固定する厚板と、取り付け面を所定の方向に往復運動させると同時に取付け面と厚板に荷重を与える、サーボモータ及びクランク機構と、を備える。
【0010】
上記目的を達成するために、本開示のプレス加工方法は、所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群を備えるダイと、所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群及び凸部群の上方及び下方の少なくとも一方に配置されたビードを備えるパンチとで、被加工物を挟みこんで曲げまたは絞り加工することにより、被加工物に斜面を成形し、斜面を成形すると共に、被加工物を凹部群、凸部群で圧縮しながら斜面に複数の凸形状を成形する。
【0011】
上記目的を達成するために、本開示のプレス成形品は、斜面を有するプレス成形品であって、斜面の一方の面上に複数の凸形状部を有し、斜面の他方の面上に複数の凹形状部を有し、凹形状部の上方及び下方の少なくとも一方に凹形状部よりも深さが小さい溝を有する。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本開示のプレス工具、プレス金型、プレス装置、プレス加工方法、及び、プレス成形品によれば、複数の凸形状の意匠性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の実施の形態1においてプレス成形される被加工物としての金属薄板を示す図
【
図2】実施の形態1におけるプレス成形されたプレス成形品を示す図
【
図3】実施の形態1におけるプレス装置の構成を示す図
【
図4】実施の形態1におけるプレス金型の構成を示す縦断面図
【
図5】実施の形態1におけるプレス工程を説明する縦断面図
【
図6】実施の形態1におけるプレス工程を説明する縦断面図
【
図7】実施の形態1におけるプレス工程を説明する縦断面図
【
図8】実施の形態1におけるプレス工程の流れを示すフローチャート
【
図9】実施の形態2におけるプレス成形されたプレス成形品を示す図
【
図10】実施の形態2におけるプレス金型の構成を示す縦断面図
【
図11】実施の形態2におけるプレス工程を説明する縦断面図
【
図12】実施の形態2におけるプレス工程を説明する縦断面図
【
図13】実施の形態2におけるプレス工程を説明する縦断面図
【
図14】実施の形態3におけるプレス金型の構成を示す縦断面図
【
図15】実施の形態4におけるプレス金型の構成を示す縦断面図
【
図16】比較例におけるプレス工程を説明する縦断面図
【
図17】比較例におけるプレス工程を説明する縦断面図
【
図18】比較例におけるプレス工程を説明する縦断面図
【
図19】比較例におけるプレス工程を説明する縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、
図16を参照して、本開示のプレス工具、プレス金型、プレス装置、プレス加工方法の課題についてさらに詳細に説明する。被加工物としての平面状の金属薄板108に複数の凸形状及び複数の凹形状を加工する場合、以下の課題が生じる。
図16は、比較例におけるプレス工程を説明する説明図である。
【0015】
図16(a)に示すように、パンチ91は水平方向に配列された複数の凸部91aを有し、ダイ92は水平方向に配列された複数の凹部92aを有する。ダイ92の凹部92aにパンチ91の凸部91aが嵌合するようにそれぞれ配置されている。金属薄板108を、パンチ91とダイ92との間に挟み込み、パンチ91をプレスすると、金属薄板108がそれぞれの凹部92aに流入するように変形する。このとき、中央の凹部92aには、金属薄板108が逃げにくく、凹部92aの底にまで充填しやすい。しかしながら、両端の凹部92aについては内側にしか凸部91aがないので、金属薄板108が外側に逃げやすい。これにより、両端の凹部92aの底にまで金属薄板108を充填することができず、エッジが丸くなる課題がある。
【0016】
また、
図16(b)に示すように、薄板108に対して曲げや絞り加工すると、
図16(c)に示すように、曲げ部分108aの金属薄板108が延びて厚みが薄くなる。したがって、この曲げ部分108a近傍に凹凸形状を形成する場合、材料が少なくなっているので充填しにくい課題がある。
【0017】
次に、
図17から
図19を参照して、特許文献1に記載された従来の凸形状を成形するプレス加工方法を、斜面を有する成形品の加工に用いた場合に発生する課題をさらに詳細に説明する。
図17から
図19は、比較例におけるプレス工程を説明する縦断面図である。
【0018】
上述した従来の構成では、
図17に示すように、工具凸部101と工具凸部101の根元に設けられた凸部段差102で凸形状成形に必要な材料を確保及び材料流出の抑制を行う。しかしながら、金属薄板108の斜面への複数の凸形状成形においては、
図19に示すように、凸形状上端110の先端の材料が足りず、凸形状上端110の成形が困難で、そのまま上方に位置する凹部を有する工具103を下降させ、加工量を増やした場合においても、すでに材料が充填している凹部中央113、凹部下端114において局所的圧力上昇が起こる。これにより、凹部を有する工具103を破損させるため、斜面に対しエッジを有する複数の凸形状を成形することができないという課題が発生する。
【0019】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示の実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0020】
なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために、提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本開示の実施の形態1においてプレス成形される被加工物としての金属薄板1を示す図である。
図1(a)は、金属薄板1の上面図である。
図1(b)は、金属薄板1の縦断面図である。
図1(a)及び(b)に示すように、金属薄板1は、例えば、アルミニウム、ステンレス等の板金であり、製品のサイズに合わせて所定の形状に切断されたものである。実施の形態1において金属薄板1は、例えば、円盤形状を有する。
【0022】
金属薄板1に対して、プレス工具Ptを用いて絞り加工による斜面形成と凸形状形成とを同時におこなう。これにより、
図2(a)及び(b)に示すように、金属薄板1の全周にエッジの稜線を有する角錐台の上端の凸形状部、中央の凸形状部5、及び、下端の凸形状部6を有する凸形状群3と、ビードの形状が転写された溝7と、上端の凹形状部8a、中央の凹形状部8b、及び下端の凹形状部8cを有する凹形状群8と、を有するプレス成形品2が成形される。
図2は、実施の形態1におけるプレス成形されたプレス成形品を示す図である。
図2(a)は、プレス成形品2の上面図である。
図2(b)は、プレス成形品2の縦断面図である。
【0023】
図3は、斜面2aに凸形状を加工する金型11を搭載したプレス装置43の概略図である。プレス装置43は、金型11、スライド12、ボルスター13、クラウン44、ベッド45、ボルスター13、フレーム46、駆動機構47、及び、サーボモータ48を備える。
【0024】
ベッド45の上方に厚板としてのボルスター13が固定され、フレーム46によってクラウン44が支えられている。クラウン44内の駆動機構47によって、スライド12を上昇・下降させると同時にスライド12及びボルスター13に固定された金型11に荷重を与えることができる。駆動機構47は、例えば、クランク機構である。駆動機構47は、サーボモータ48からの動力により駆動される。
【0025】
図4は、金型11を、プレス装置43のスライド12、ボルスター13に固定したときの概略断面図である。凸形状群3を成形するための複数の凸部14及び凸部14の上方に位置する第1のビード15及び凸部14の下方に位置する第2のビード29を有するパンチ16が直接、ストリッパー22がストリッパースプリング23を介してダイセット下型17に、凸形状群3を成形するための複数の凹部28aを有する凹部群28を備えるダイ18が直接、パッド24がパッドスプリング25を介してダイセット上型19に取り付けられている。
【0026】
凹部外壁31の水平面に対する角度θ1及び凸部外壁32の水平面に対する角度θ2が90度以下であり、ダイセット上型19に固定されたガイドブッシュ20が、ダイセット下型17に固定されたガイドポスト21に沿って摺動することで、水平方向の精度を保ったままダイセット上型19が上昇及び下降することを可能にしている。
【0027】
次に、
図5~
図8を参照して本実施の形態のプレス工程を説明する。
図5~
図7は、それぞれ、斜面に凸形状を加工時の切断線41及びプレス成形品2の切断線42での断面を示している。
図8は、プレス工程のフローチャートである。
【0028】
図8のステップS1において、被加工物である金属薄板1がダイ18とパンチ16との間に配置される。例えば、
図5に示すように、金属薄板1がパンチ16及びストリッパー22の上方に位置するように置かれ、金属薄板1の上方にダイ18及びパッド24が位置していて、ダイ18の下面位置26が、パッド24の下面位置27よりも上方または同じ高さに位置する。
【0029】
次に、
図8のステップS2において、パンチ16をダイ18へ接近させる。
図6に示すように、ダイ18、パッド24が下降し、金属薄板1をパンチ16及びパッドスプリング25のたわみにより圧力を受けたパッド24によりダイ18と挟み込むようにして金属薄板1を固定する。
【0030】
次に、
図8のステップS3において、パンチ16が被加工物である金属薄板1を絞り、さらに、ステップS4において、パンチ16の凸部14により金属薄板1に凸形状を転写する。このステップS3とステップS4は同時に行われる。
【0031】
図7に示すように、ダイ18が下降し、プレス成形品2の斜面を形成しながら、ダイ18の平面部と第1のビード15及びダイ18の平面部と第2のビード29でプレス成形品2を挟み込み、下端と上端に位置する凹部28aから材料が流出することを抑制しつつ、パンチ16の凸部14により材料の凹部28aへの押し込むことで、材料を凹部28aの先端部分まで流し込みエッジを有する複数の凸形状群3を成形する。
【0032】
加えて、上記の構成において、凸部14の高さH及び第1のビード15の高さH1及び第2のビード29の高さH2が、H>H2>H1の関係が成り立つ場合、材料の不足が起こりやすい上端の凹部28aからの材料の流出抑制及び凹部28aへの材料流し込みの効果を大きくすることができ、中央の凸形状部5、下端の凸形状部6と同様に上端の凸形状部4を成形することができる。
【0033】
次に、
図8のステップS5においてパンチ16をダイ18から離して、ステップS6においてプレス成形品2をプレス工具Ptから取り出す。以上で、本実施の形態のプレス工程が終了する。
【0034】
比較例の
図17に示すように、工具凸部101と凸部の根元に設けられた凸部段差102で凸形状成形に必要な材料を確保及び材料流出の抑制を行いつつ斜面への複数の凸形状成形する方法も考えられるが、
図18に示すように、上方に位置する凹部を有する工具103が最下点に下降するまでの加工途中において、凸部段差102を含む凸部外壁104と凹部外壁105の間のクリアランスは凸部段差102を含む凸部内壁106と凹部内壁107の間のクリアランスに対して小さくなり、そのクリアランスが小さい部分においては金属薄板108に対する圧縮力が大きくなり、凸部外壁104及び凹部外壁105の間からは材料が逃げにくく、凸部内壁106と凹部内壁107の間では金属薄板108に対する圧縮力が凸部外壁104と凹部外壁105の間に対して小さくなる。
【0035】
これにより、凸部内壁106及び凹部内壁107の間から材料が逃げやすく、特に工具凸部101の上端については、その上方に材料の流出を抑制する凸部外壁104及び凹部外壁105が存在しないため、材料が上方に逃げやすいことと、斜面成形において、金属薄板108の天面と斜面の境界の曲げ部分近傍109が板厚減少により薄くなる。
【0036】
図19に示すように、凸形状上端110の上方の材料が凸形状下端112の下方の材料より少ないため、凸形状中央111及び凸形状下端112が成形できても、凸形状上端110の先端の材料が足りず、凸形状上端110成形が困難で、そのまま上方に位置する凹部を有する工具103を下降させ、加工量を増やした場合においても、すでに材料が充填している凹部中央113、凹部下端114において局所的圧力上昇が起こる。これにより、凹部を有する工具103を破損させるため、斜面に対しエッジを有する凸形状群を成形することができない。
【0037】
本実施の形態の構成によれば従来加工において異なるタイミングで形成されていた、上端の凸形状部4、中央の凸形状部5、下端の凸形状部6をほぼ同時に形成することができ、先に形成しやすい中央の凸形状部5、その次に形成しやすい下端の凸形状部6を形成するダイ18の凹部28aの材料をさらに押し込むことで生じる凹部28aにおける局所的圧力上昇及びそれによるダイ18の破損を防ぐことができる。
【0038】
さらには、斜面凸形状加工において、プレス成形品2がパンチ16に食らいついた場合においても、ストリッパースプリング23の復元力により押し上げられたストリッパー22により、プレス成形品2をパンチ16から押し外すことができる。また、このときプレス成形品2の端末部30に力を与え、パンチ16から押し外すため、プレス成形品2の外観面に打痕などの外観不良を残しにくい。
【0039】
なお、本実施の形態において、角錐台の上端の凸形状部4、中央の凸形状部5、下端の凸形状部6により構成される凸形状群3としたが、凸形状はダイ18の凹部外壁31の水平面に対する角度θが90度以下であれば、角錐、円錐台、円錐等の凸形状についても同様に成形することができ、また、それらの組み合わせによって構成される凸形状群に関しても成形することができる。
【0040】
また、本実施の形態において、プレス成形品2は斜面2aの傾斜方向に3段の凸形状部の切断線42上に形成される凸形状は上端、中央、下端の3段の凸形状部を有しているが、これに限らず1段、2段、または4段以上の凸形状部を有するプレス成形品2を同様に成形することができる。
【0041】
以上述べたように、実施の形態1にかかるプレス工具Ptは、所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群40を備えるダイ18と、所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群39と、凸部群39の上方及び下方の少なくとも一方に配置されたビード15、29と、を備えるパンチ16と、を備える。パンチ16の曲げまたは絞り加工により、ダイ18とパンチ16とに挟まれた平面状の金属薄板1に斜面2aを成形しつつ、金属薄板1を凹部群40及び凸部群39で圧縮しながら斜面2aに複数の凸形状を成形する。
【0042】
ビード15、29によって金属薄板1が斜面方向に流出するのを低減することができるので、上端の凹部及び下端の凹部にも金属薄板1を充填することができ、エッジのあるプレス成形品2を製造することができる。これにより、プレス成形品2の意匠性を向上させることができる。
【0043】
また、第1及び第2のビード15、29は、パンチ16の凸部群39の上方と下方にそれぞれ配置され、凸部群39の上方に位置する第1のビード15の高さは、凸部群39の下方に位置する第2のビード29の高さより大きい。これにより、パンチ16の凸部群39の上方で曲げ加工する場合、曲げによる金属薄板1の減少の影響を低減することができ、上端の凹部にも下端の凹部と同様に金属薄板1を充填することができる。
【0044】
また、加工時に第1及び第2のビード15、29とそれぞれ対向するダイ18の面が平滑である。これにより、プレス成形品2に高さの異なる凸部が形成されるのを防ぐことができる。
【0045】
また、実施の形態1にかかる金型11は、加工時の分割面Asに対して上方に位置する上型19と下方に位置する下型17と、を備える。上型19または下型17の少なくとも一方が可動する。上型19または下型17の一方に、金属薄板1と接触するパッド24と、所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群28を備えるダイ18と、を搭載する。上型19または下型17の他方に、所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群39、及び、凸部群39の上方及び下方の少なくとも一方に配置されたビード15、29を有するパンチ16を搭載する。パンチ16の曲げまたは絞り加工により、ダイ18とパンチ16とに挟まれた平面状の金属薄板1に斜面2aを成形しつつ、金属薄板1を凹部群28及び凸部群39で圧縮しながら斜面2aに複数の凸形状群3を成形する。
【0046】
ビード15、29によって金属薄板1が斜面2a方向に流出するのを低減することができるので、上端の凹部及び下端の凹部にも金属薄板1を充填することができ、エッジのあるプレス成形品2を製造することができる。これにより、プレス成形品2の意匠性を向上させることができる。
【0047】
また、実施の形態1にかかるプレス装置43は、金型11と、上型19の上方に位置し、上型19を固定する取り付け面12aと、下型17の下方に位置し、下型17を固定するボルスター13と、取り付け面12aを所定の方向に往復運動させると同時に取付け面12aとボルスター13に荷重を与える、サーボモータ48及び駆動機構47と、を備える。これにより、これにより、意匠性を向上させたプレス成形品2を製造することができるプレス装置43を提供することができる。
【0048】
また、実施の形態1にかかるプレス加工方法は、所定の凸形状を反転させた複数の凹部を有する凹部群40を備えるダイ18と、所定の凸形状の複数の凸部を有する凸部群39及び凸部群39の上方及び下方に配置された第1及び第2のビード15、29を備えるパンチ16とで、金属薄板1を挟みこんで曲げまたは絞り加工することにより、金属薄板1に斜面2aを成形し、斜面2aを成形すると共に、金属薄板1を凹部群28及び凸部群39で圧縮しながら斜面2aに複数の凸形状群3を成形する。これにより、金属薄板1が斜面方向に流出するのを低減することができるので、上端の凹部及び下端の凹部にも金属薄板1を充填することができ、エッジのあるプレス成形品2を製造することができる。これにより、プレス成形品2の意匠性を向上させることができる。
【0049】
また、実施の形態1にかかるプレス成形品2は、斜面2aを有し、斜面2aの一方の面上に複数の凸形状部を有し、斜面2aの他方の面上に複数の凹形状部を有し、凹形状部の上方及び下方の少なくとも一方に凹形状部よりも深さが小さい溝7を有する。
【0050】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2におけるプレス工具、プレス金型、プレス装置、プレス加工方法について説明する。実施の形態2に関する以下の説明において、実施の形態1と共通する構成については説明を省略し、異なる構成について説明する。
図9は、本開示の実施の形態2におけるプレス成形品2Aを示す図である。
【0051】
図9(a)及び(b)に示すように、金属薄板1は、アルミニウム、ステンレス等の板金を製品のサイズに合わせて所定の形状に切断されたものであり、金属薄板1において、絞り加工による斜面形成と凸形状形成を同時におこなうことで、全周にエッジの稜線を有する角錐台の上端の凸形状部4、中央の凸形状部5、下端の凸形状部6で構成される凸形状群3を有するプレス成形品2を成形する。実施の形態1と異なり、成形品2Aの上端の凹形状部8aの上方及び下端の凹形状部8cの下方に溝7が形成されていない。
【0052】
図10は、金型11を、プレス機のスライド12、ボルスター13に固定したときの概略断面図である。凸形状群3を成形するための上端の凸部33及び中央の凸部34及び下端の凸部35を有するパンチ16Aが直接、ストリッパー22がストリッパースプリング23を介してダイセット下型17に、凸形状群3を成形するための複数の凹部28aを有するダイ18が直接、パッド24がパッドスプリング25を介してダイセット上型19に固定されており、凹部外壁31の水平面に対する角度θ1及び凸部群39の凸部外壁の水平面に対する角度θ3が90度以下であり、ダイセット上型19に固定されたガイドブッシュ20が、ダイセット下型17に固定されたガイドポスト21に沿って摺動することで、水平方向の精度を保ったままダイセット上型19が上昇・下降することを可能にしている。
【0053】
図11~
図13は、斜面に凸形状を加工時の金属薄板1の切断線41及びプレス成形品2の切断線42での断面を示している。
【0054】
図11に示すように、金属薄板1がパンチ16A及びストリッパー22の上方に位置するように置かれ、金属薄板1の上方にダイ18及びパッド24が位置していて、ダイ18の下面位置26が、パッド24の下面位置27よりも上方または同じ高さに位置する。
【0055】
図12に示すように、ダイ18、パッド24が下降し、金属薄板1をパンチ16A及びパッドスプリング25のたわみにより圧力を受けたパッド24により挟み込むようにして金属薄板1を固定し、
図13に示すように、ダイ18が下降し、プレス成形品2の斜面を形成しながら、パンチ16Aの上端の凸部33及び中央の凸部34及び下端の凸部35により材料の凹部28aへの押し込むことで、材料を凹部28aの底部分まで流し込みエッジを有する複数の凸形状群3を成形する。
【0056】
加えて、上記の構成において、上端の凸部33の高さn1、中央の凸部34の高さn2、下端の凸部35の高さn3が、n1>n3>n2の関係が成り立つ場合、材料の不足が起こりやすい上端の凹部28aにおいて材料の充填に必要な体積を減少させるとともに、凹部28aへ材料を流し込み、中央の凸形状部5、下端の凸形状部6と同様に上端の凸形状部4を成形することができる。上端の凸部33の高さn1は、例えば、中央の凸部34の高さn2の1.1倍以上3倍以下である。
【0057】
上記構成によれば従来加工において異なるタイミングで形成されていた、上端の凸形状部4、中央の凸形状部5、下端の凸形状部6をほぼ同時に形成することができ、先に形成しやすい中央の凸形状部5、その次に形成しやすい下端の凸形状部6を形成するダイ18の凹部28aの材料をさらに押し込むことで生じる凹部における局所的圧力上昇及びそれによるダイ18の破損を防ぐことができる。
【0058】
なお、本実施の形態において、角錐台の上端の凸形状部4、中央の凸形状部5、下端の凸形状部6により構成される凸形状群3としたが、凸形状はダイ18の凹部外壁31の水平面に対する角度θが90度以下であれば、角錐、円錐台、円錐等の凸形状についても同様に成形することができ、また、それらの組み合わせによって構成される凸形状群に関しても成形することができる。
【0059】
本実施の形態において、凸形状群の稜線は半径0.2mm以下のエッジに成形することができ、凸形状群の強度は金属薄板1よりも高くなる。加えて、ダイ18の凹部の表面を凸形状群に転写することができ、光沢や艶消しといった意匠を実現することができる。
【0060】
また、本実施の形態にかかるプレス成形品2Aは、斜面2aを有し、斜面2aの一方の面上に複数の凸形状部を有し、斜面2aの他方の面上に複数の凹形状部を有し、複数の凹形状部のうち、斜面2aの中央部に位置する凹形状部の深さに対して、斜面2aの上端または下端に位置する凹形状部の深さが大きい。
【0061】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3におけるプレス工具、プレス金型、プレス装置、プレス加工方法について説明する。実施の形態3に関する以下の説明において、実施の形態1及び2と共通する構成については説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0062】
図14は、金型11を、プレス装置43のスライド12、ボルスター13に固定したときの概略断面図である。凸形状群3を成形するための上端の凸部33及び中央の凸部34及び下端の凸部35を有するパンチ16Bが直接、ストリッパー22がストリッパースプリング23を介してダイセット下型17に、凸形状群3を成形するための上端の凹部36及び中央の凹部37及び下端の凹部38を有するダイ18が直接、パッド24がパッドスプリング25を介してダイセット上型19に固定されており、凹部群40の水平面に対する角度θ4及び凸部群39の水平面に対する角度θ3が90度以下であり、ダイセット上型19に固定されたガイドブッシュ20が、ダイセット下型17に固定されたガイドポスト21に沿って摺動することで、水平方向の精度を保ったままダイセット上型19が上昇・下降することを可能にしている。
【0063】
加えて、上記の構成において、上端の凸部33の表面粗さR1、中央の凸部34の表面粗さR2、下端の凸部35の表面粗さR3がR1>R3>R2及び上端の凹部36の表面粗さr1、中央の凹部37の表面粗さr2、下端の凹部38の表面粗さr3がr1>r3>r2関係が成り立つ場合、材料の不足が起こりやすい上端の凹部36において材料の流出を抑制し、中央の凹部37からの上端の凹部36及び下端の凹部38への材料流れを促進させることができる。これにより、上端の凹部36及び中央の凹部37及び下端の凹部38の先端部まで材料を充填させ、中央の凸形状部5、下端の凸形状部6と同様に上端の凸形状部4を成形することができる。例えば、上端の凸部33の表面粗さR1は、例えば、中央の凸部34の表面粗さR2の1.2倍以上30倍以下であり、下端の凸部35の表面粗さR3は、例えば、中央の凸部34の表面粗さR2の1.1倍以上29倍以下である。また、例えば、上端の凹部36の表面粗さr1は、例えば、中央の凹部37の表面粗さr2の1.2倍以上30倍以下であり、下端の凹部38の表面粗さr3は、例えば、中央の凹部37の表面粗さr2の1.1倍以上29倍以下である。
【0064】
上記構成によれば従来加工において異なるタイミングで形成されていた、上端の凸形状部4、中央の凸形状部5、下端の凸形状部6をほぼ同時に形成することができ、先に形成しやすい中央の凸形状部5を形成する中央の凹部37、その次に形成しやすい下端の凸形状部6を形成する下端の凹部38の材料をさらに押し込むことで生じる凹部における局所的圧力上昇及びそれによるダイ18の破損を防ぐことができる。
【0065】
また、本実施の形態にかかるプレス成形品2Aは、斜面2aを有し、斜面2aの一方の面上に複数の凸形状部を有し、斜面2aの他方の面上に複数の凹形状部を有し、斜面2aの中央部に位置する凸形状部5の表面粗さに対して、斜面2aの上端または下端に位置する凸形状部4、6の表面粗さが大きく、複数の凹形状部のうち、斜面2aの中央部に位置する凹形状部8bの表面粗さに対して、斜面2aの上端または下端に位置する凹形状部8a、8cの表面粗さが大きい。このように、斜面2a上に異なる表面粗さが形成されているので、手触り感が中央と上側または下側で異なり、光の反射の程度も変化するので意匠性も向上させることができる。
【0066】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4におけるプレス工具、プレス金型、プレス装置、プレス加工方法について説明する。実施の形態4に関する以下の説明において、実施の形態1~3と共通する構成については説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0067】
実施の形態4におけるプレス成形品2は、
図2に示されるものと同様に、金属薄板1は、アルミニウム、ステンレス等の板金を製品のサイズに合わせて所定の形状に切断されたものであり、金属薄板1において、絞り加工による斜面形成と凸形状形成を同時におこなうことで、全周にエッジの稜線を有する角錐台の上端の凸形状部4、中央の凸形状部5、下端の凸形状部6で構成される凸形状群3及び溝7を有するプレス成形品2を成形する。
【0068】
図15は、金型11を、プレス機のスライド12、ボルスター13に固定したときの概略断面図である。凸形状群3を成形するための上端の凸部33及び中央の凸部34及び下端の凸部35及び上端の凸部33の上方に位置する第1のビード15及び下端の凸部35の下方に位置する第2のビード29を有するパンチ16が直接、ストリッパー22がストリッパースプリング23を介してダイセット下型17に、凸形状群3を成形するための複数の凹部28aを有するダイ18が直接、パッド24がパッドスプリング25を介してダイセット上型19に固定されており、凹部群40の水平面に対する角度θ4及び凸部群39の水平面に対する角度θ3が90度以下であり、ダイセット上型19に固定されたガイドブッシュ20が、ダイセット下型17に固定されたガイドポスト21に沿って摺動することで、水平方向の精度を保ったままダイセット上型19が上昇・下降することを可能にしている。
【0069】
加えて、上記の構成において、上端の凸部33の高さn1、中央の凸部34の高さn2、下端の凸部35の高さn3及び第1のビード15の高さH1、第2のビード29の高さH2に、n1>n3>n2>H2>H1の関係が成り立ち、上端の凸部33の表面粗さR1、中央の凸部34の表面粗さR2、下端の凸部35の表面粗さR3がR1>R3>R2及び上端の凹部36の表面粗さr1、中央の凹部37の表面粗さr2、下端の凹部38の表面粗さr3にr1>r3>r2の関係が成り立つ場合、材料の不足が起こりやすい上端の凹部36において材料の充填に必要な体積を減少させるとともに、上端の凹部36からの材料の流出抑制及び上端の凹部36への材料押し込み、中央の凹部37からの上端の凹部36及び下端の凹部38への材料流れの促進効果を大きくすることができ、中央の凸形状部5、下端の凸形状部6と同様に上端の凸形状部4を容易に成形することができる。
【0070】
ここで、再び比較例を参照する。
図17に示すように、工具凸部101と凸部の根元に設けられた凸部段差102で凸形状成形に必要な材料を確保し、かつ、材料流出の抑制を行いつつ斜面への複数の凸形状成形する方法も考えられる。しかしながら、
図18に示すように、上方に位置する凹部を有する工具103が最下点に下降するまでの加工途中において、凸部段差102を含む凸部外壁104と凹部外壁105の間のクリアランスは凸部段差102を含む凸部内壁106と凹部内壁107の間のクリアランスに対して小さくなり、そのクリアランスが小さい部分においては金属薄板108に対する圧縮力が大きくなり、凸部外壁104及び凹部外壁105の間からは材料が逃げにくく、凸部内壁106と凹部内壁107の間では金属薄板108に対する圧縮力が凸部外壁104と凹部外壁105の間に対して小さくなる。これにより、凸部内壁106及び凹部内壁107の間から材料が逃げやすく、特に工具凸部101の上端については、その上方に材料の流出を抑制する凸部外壁104及び凹部外壁105が存在しないため、材料が上方に逃げやすいことと、斜面成形において、金属薄板108の天面と斜面の境界の曲げ部分近傍109が板厚減少により薄くなり、
図19に示すように、凸形状上端110の上方の材料が凸形状下端112の下方の材料より少ないため、凸形状中央111及び凸形状下端112が成形できても、凸形状上端110の先端の材料が足りず凸形状上端110成形が困難で、そのまま上方に位置する凹部を有する工具103を下降させ、加工量を増やした場合においても、すでに材料が充填している凹部中央113、凹部下端114において局所的圧力上昇が起こり、凹部を有する工具103を破損させるため、斜面に対しエッジを有する凸形状群を成形することができない。
【0071】
上記構成によれば従来加工において異なるタイミングで形成されていた、上端の凸形状部4、中央の凸形状部5、下端の凸形状部6をほぼ同時に形成することができ、先に形成しやすい中央の凸形状部5を形成する中央の凹部37、その次に形成しやすい下端の凸形状部6を形成する下端の凹部38の材料をさらに押し込むことで生じる凹部における局所的圧力上昇及びそれによるダイ18の破損を防ぐことができる。
【0072】
本開示は、上記実施の形態のものに限らず、次のように変形実施することができる。
【0073】
(1)上記各実施の形態において、角錐台の上端の凸形状部4、中央の凸形状部5、下端の凸形状部6により構成される凸形状群3としたが、凸形状はダイ18の凹部群40の水平面に対する角度θ4が90度以下であれば、角錐、円錐台、円錐等の凸形状についても同様に成形することができ、それらの組み合わせによって構成される凸形状群に関しても成形することができる。
【0074】
(2)上記各実施の形態において、プレス成形品2の切断線42上に形成される凸形状は上端、中央、下端の3つとしているが、これに限らず1つまたは2つ、4つ以上の場合においても同様に成形することができる。
【0075】
(4)上記各実施の形態において、斜面への凸形状加工における金属薄板1、ダイ18、パンチ16、パッド24、ストリッパー22は上記の位置関に限らず、上下反対にしてもよく、凸形状群3の形成と同時におこなっている斜面の成形についても別途追加工程を設けて実施してもよい。
【0076】
(5)実施の形態4は、実施の形態1と実施の形態2と実施の形態3を組み合わせたものであるが、この他にも、実施の形態1と実施の形態2とを組み合わせた形態や、実施の形態1と実施の形態3とを組み合わせた形態、及び、実施の形態2と実施の形態3とを組み合わせた形態を実施しても効果が得られる。また、パンチ16の上端の凸部の高さが中央の凸部よりも高く、下端の凸部の表面粗さが中央の凸部の表面粗さよりも大きいというような組み合わせでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本開示のプレス加工方法及びプレス金型は、角錐台形状等の凸形状を製品斜面に形成することができ、車載及び家電等の操作ノブ等のプレス加工の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 金属薄板
2 プレス成形品
3 凸形状群
4 上端の凸形状部
5 中央の凸形状部
6 下端の凸形状部
7 溝
8 凹形状群
8a 上端の凹形状部
8b 中央の凹形状部
8c 下端の凹形状部
11 金型
12 スライド
12a 取り付け面
13 ボルスター
14 凸部
15 第1のビード
16 パンチ
17 ダイセット下型
18 ダイ
19 ダイセット上型
20 ガイドブッシュ
21 ガイドポスト
22 ストリッパー
23 ストリッパースプリング
24 パッド
25 パッドスプリング
26 ダイの下面位置
27 パッドの下面位置
28 凹部群
28a 凹部
29 第2のビード
30 端末部
31 凹部外壁
32 凸部外壁
33 上端の凸部
34 中央の凸部
35 下端の凸部
36 上端の凹部
37 中央の凹部
38 下端の凹部
39 凸部群
40 凹部群
41 切断線
42 切断線
43 プレス装置
44 クラウン
45 ベッド
46 フレーム
47 駆動機構
48 サーボモータ
101 工具凸部
102 凸部段差
103 凹部を有する工具
104 凸部外壁
105 凹部外壁
106 凸部内壁
107 凹部内壁
108 金属薄板
109 曲げ部分近傍
110 凸形状上端
111 凸形状中央
112 凸形状下端
113 凹部中央
114 凹部下端
As 分割面
H、H1、H2 高さ
Pt プレス工具