(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112929
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】水素化マグネシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 6/04 20060101AFI20230807BHJP
C01B 3/00 20060101ALI20230807BHJP
B02C 18/12 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
C01B6/04
C01B3/00 A
B02C18/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014961
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大石 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】澤木 宣忠
【テーマコード(参考)】
4D065
4G140
【Fターム(参考)】
4D065CA06
4D065CB03
4D065CC04
4D065DD11
4D065EB02
4D065EB20
4D065EC02
4D065ED38
4D065EE08
4D065EE15
4G140AA22
4G140AA24
4G140AA34
4G140AA46
(57)【要約】
【課題】5気圧以下の水素ガス雰囲気下でも、水素化可能な水素化マグネシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の水素化マグネシウムの製造方法は、マグネシウムを粉砕する粉砕工程と、粉砕したマグネシウムを、500Pa以上5気圧以下の水素ガス圧力下で、140℃以上水素化マグネシウムの分解温度未満の温度に加熱して水素化処理する水素化工程と、を備え、粉砕工程で添加する脂肪酸の添加量がマグネシウムと脂肪酸を合わせた総質量中の5質量%以上であり、粉砕したマグネシウムは水素化工程終了まで酸素に触れさせない。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化マグネシウムの製造方法であって、
脂肪酸を添加してマグネシウムを粉砕する粉砕工程と、
粉砕した前記マグネシウムを、500Pa以上、5気圧以下の水素ガス圧力下で、140℃以上、水素化マグネシウムの分解温度未満の温度に加熱して、水素化処理する水素化工程と、を備え、
前記粉砕工程で添加する前記脂肪酸の添加量が、前記マグネシウムと前記脂肪酸を合わせた総質量中の5質量%以上であり、
粉砕した前記マグネシウムは、前記水素化工程の終了まで、酸素に触れさせないことを特徴とする水素化マグネシウムの製造方法。
【請求項2】
前記水素化工程は、前記水素化処理の前に、真空引きを行いながら粉砕した前記マグネシウムを加熱する加熱処理工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の水素化マグネシウムの製造方法。
【請求項3】
前記添加量が、前記マグネシウムと前記脂肪酸を合わせた総質量中の15質量%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素化マグネシウムの製造方法。
【請求項4】
前記粉砕工程から前記水素化工程までの工程を一連のものとして合わせた粉砕水素化工程を複数回行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水素化マグネシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素化マグネシウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー源として水素が注目を浴びるようになっており、その水素を貯蔵する方法として水素化マグネシウムを用いるものがある。
【0003】
そして、特許文献1には、マグネシウムを主成分とする原料粉体を封入容器内に封入した水素ガス雰囲気中に保持しておき、封入容器内の水素ガス雰囲気の圧力を所定圧力に維持し、封入容器内の水素ガス雰囲気の温度を室温から上昇させ、封入容器内の水素ガス雰囲気の温度を、単体のマグネシウム及び水素分子が化合して水素化マグネシウムが生成する反応と逆反応との平衡曲線上の所定圧力に対応する温度よりも高温で、平衡曲線上の所定圧力に対応する温度からの温度差が100℃以内である温度に、所定の第1期間維持することによって、原料粉体表面の被膜を除去し、次に、封入容器内の水素ガス雰囲気の温度を、室温へ戻さずに、平衡曲線上の所定圧力に対応する温度よりも低温で、平衡曲線上の所定圧力に対応する温度からの温度差が100℃以内である温度に、所定の第2期間維持することによって、原料粉体からマグネシウム基水素化物を製造するマグネシウム基水素化物の製造方法が開示されている。
【0004】
つまり、特許文献1では、単体のマグネシウム及び水素分子が化合して水素化マグネシウムが生成する反応と逆反応との平衡曲線上の所定圧力に対応する温度よりも高温で、平衡曲線上の所定圧力に対応する温度からの温度差が100℃以内である温度に、所定の第1期間維持することを第1の特徴としている。
【0005】
この第1の特徴によって、特許文献1では、マグネシウム(Mg)の表面に形成されている水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)の熱分解が進み、その熱分解によって形成された酸化マグネシウム(MgO)の水素分子による還元も進むことで、マグネシウム表面の被膜が除去され、速やかに水素(H2)と反応することが可能となるとされている。
【0006】
また、特許文献1では、水素ガス雰囲気の温度を、室温へ戻さずに、平衡曲線上の所定圧力に対応する温度よりも低温で、平衡曲線上の所定圧力に対応する温度からの温度差が100℃以内である温度に、所定の第2期間維持することを第2の特徴としている。
【0007】
この第2の特徴によって、特許文献1では、加熱及び冷却を繰り返すことで水素の吸収及び放出を繰り返す活性化処理を必要とする従来技術に比べて、少ない投入エネルギーで高純度の水素化マグネシウム(MgH2)を得ることが可能となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1では、実施例を見ると、水素化処理を行う時の水素ガス圧力が10気圧(約1MPa)以上の圧力雰囲気とされている。
【0010】
また、特許文献1では、現実的な時間範囲内で水素化マグネシウムを製造するためには、少なくとも6気圧以上とすることも説明されている。
【0011】
このように、水素化処理を行う時の水素ガスの圧力が、高い圧力である場合、反応を起こすための容器構造に耐圧性能が求められるため、容器の厚みを厚くする必要があることから、容器内を加熱するための熱の通りが悪いものとなってしまう。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、例えば、5気圧以下の水素ガス雰囲気下であっても、水素化が可能な水素化マグネシウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために、以下の構成によって把握される。
(1)本発明の水素化マグネシウムの製造方法は、脂肪酸を添加してマグネシウムを粉砕する粉砕工程と、粉砕した前記マグネシウムを、500Pa以上、5気圧以下の水素ガス圧力下で、140℃以上、水素化マグネシウムの分解温度未満の温度に加熱して、水素化処理する水素化工程と、を備え、前記粉砕工程で添加する前記脂肪酸の添加量が、前記マグネシウムと前記脂肪酸を合わせた総質量中の5質量%以上であり、粉砕した前記マグネシウムは、前記水素化工程の終了まで、酸素に触れさせない。
【0014】
(2)上記(1)の構成において、前記水素化工程は、前記水素化処理の前に、真空引きを行いながら粉砕した前記マグネシウムを加熱する加熱処理工程を備える。
【0015】
(3)上記(1)又は(2)の構成において、前記添加量が、前記マグネシウムと前記脂肪酸を合わせた総質量中の15質量%以下である。
【0016】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つの構成において、前記粉砕工程から前記水素化工程までの工程を一連のものとして合わせた粉砕水素化工程を複数回行う。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、例えば、5気圧以下の水素ガス雰囲気下であっても、水素化が可能な水素化マグネシウムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の粉砕工程で用いる粉砕機の斜視図である。
【
図2】本発明に係る第1実施形態の粉砕機の粉砕部の斜視図である。
【
図3】本発明に係る第1実施形態の粉砕部の分解斜視図である。
【
図4】本発明に係る第1実施形態の粉砕工程の装置構成を示す図である。
【
図5】本発明に係る第1実施形態の粉砕工程の手順を示すフローチャートである。
【
図6】本発明に係る第1実施形態の水素化炉を示す側面図である。
【
図7】本発明に係る第1実施形態の水素化工程の手順を示すフローチャートである。
【
図8】本発明に係る第1実施形態の粉砕工程で脂肪酸を添加することの効果を示したグラフである。
【
図9】熱力学計算で求めた水素化マグネシウムの分解生成境界線を示すグラフである。
【
図10】本発明に係る第3実施形態の粉砕工程で用いる粉砕機の斜視図である。
【
図11】本発明に係る第3実施形態の粉砕機のフードを開けた状態を示す斜視図である。
【
図12】本発明に係る第3実施形態の粉砕容器の斜視図である。
【
図13】本発明に係る第3実施形態の粉砕容器の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。
なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ符号を付している。
【0020】
(第1実施形態)
本発明に係る第1実施形態の水素化マグネシウムの製造方法は、脂肪酸を添加してマグネシウムを粉砕する粉砕工程と、その粉砕したマグネシウムを水素ガス雰囲気下で水素化マグネシウムが生成可能な温度、つまり、水素化マグネシウムの分解温度未満の温度に加熱して水素化処理する水素化工程と、を備える。
【0021】
このため、装置としては、粉砕工程を実施するための粉砕機1(
図1参照)と、水素化工程を実施するための水素化炉8(
図6参照)と、を使用するので、順に、粉砕機1の説明を行った後に粉砕工程について説明し、次に、水素化炉8の説明を行った後に水素化工程の説明を行う。
【0022】
(粉砕機)
図1は、本発明に係る第1実施形態の粉砕工程で用いる粉砕機1の斜視図であり、
図2は、本発明に係る第1実施形態の粉砕機1の粉砕部3の斜視図であり、
図3は、本発明に係る第1実施形態の粉砕部3の分解斜視図である。
【0023】
図1に示すように、第1実施形態で用いる粉砕機1は、粉砕部3の攪拌粉砕歯41を回転させるモータを内蔵し、駆動電源のON、OFF操作を行うための押釦21を備えた粉砕機本体部2と、着脱可能に粉砕機本体部2に取り付けられ、粉砕対象物(図示せず)を収容する粉砕部3と、を備えている。
【0024】
図2は、粉砕部3を粉砕機本体部2から取り外して、粉砕部3だけを示した斜視図になっており、粉砕部3が粉砕機本体部2に取り付けられると、粉砕部3の攪拌粉砕歯41の回転軸と、粉砕機本体部2に設けられているモータの回転軸と、が嵌合し、駆動電源をONする押釦21(
図1の「入」の記載のある押釦21)を押すと、モータが回転し、それによって、粉砕部3の攪拌粉砕歯41が回転して、粉砕部3内に収容されている粉砕対象物(図示せず)の粉砕が行われる。
【0025】
図3に示すように、粉砕部3は、攪拌粉砕歯41が回転可能に取り付けられた粉砕部本体4と、その粉砕部本体4の上側を覆うように、着脱可能に取り付けられ、粉砕対象物(図示せず)が飛散するのを防止する蓋部5と、を備えている。
【0026】
具体的には、粉砕部本体4の内側に形成された螺合溝42と、蓋部5の下部外側に形成された螺合山51と、を螺合させることで、粉砕部本体4に対して蓋部5の取り付けが可能になっている。
【0027】
なお、第1実施形態で用いる粉砕機1は、お茶の葉、コーヒー豆などを粉末化するために、一般家庭でも使用されている家庭用ミル機であり、本実施形態では象印マホービン株式会社製の粉砕機を粉砕機1として用いている。
【0028】
このような粉砕機1を使用して、第1実施形態の粉砕工程が実施されるが、粉砕対象物がマグネシウムの場合、静電気等が着火源となり、粉砕によって微粉末となったマグネシウムが粉塵爆発を起こす危険性がある。
【0029】
このため、粉砕工程を実施するにあたっては、大気の混入を防止する気密ブース内に粉砕機1を配置し、その気密ブース内をアルゴンガス雰囲気とする対策を講じて、粉砕工程を実施しており、次に、この対策の内容を含め粉砕工程の説明を行う。
【0030】
(粉砕工程)
図4は、本発明に係る第1実施形態の粉砕工程の装置構成を示す図である。
図4に示すように、粉砕工程では、先ほど説明した粉砕機1を真空デシケータ6と呼ばれる市販の気密ブース内に設置して行っている。
【0031】
この真空デシケータ6は、上部が開口した角型の容器本体61と、その上部の開口を塞ぐ角型の蓋部62と、容器本体61の開口側縁部に配置され、容器本体61と蓋部62の間の気密を取るパッキンと、を備え、容器本体61と蓋部62が着脱可能に周方向に複数設けられたパッチン錠63で固定できる構造になっている。
【0032】
また、蓋部62は、真空デシケータ6内の圧力を表示する圧力ゲージ621と、ニードルバルブで開閉可能な2つの吸排気ポート622、623と、を備えている。
【0033】
そして、吸排気ポート622には、図示しない減圧バルブで0.2MPaに減圧されたアルゴンガス(Ar)の高圧ガスボンベB1からのガス供給ラインが接続されており、吸排気ポート623には、T字配管(3方配管ともいう。)が接続され、T字配管の一方には、真空ポンプP1に繋がる配管が接続されるとともに、T字配管の他方には、ニードルバルブNが取り付けられている。
【0034】
なお、
図4では、見えていないが、この真空デシケータ6は、容器本体61の粉砕機1の後ろ側の位置に、100V電源を接続するための内部電源ポートを備えている。
【0035】
そして、図示を省略しているが、気密を確保するために、容器本体61との隙間をパテで埋めるようにして、外側に引き出されている内部電源ポートの電気配線にタイマー機能を有するスイッチを接続し、そのスイッチの電気配線を室内の100V電源の電源ポートに接続している。
【0036】
このため、粉砕機本体部2の駆動電源をONする押釦21(
図1の「入」の記載のある押釦21)を押して、ONになる状態で真空デシケータ6内に、粉砕機1をセットし、粉砕機1のコンセントを真空デシケータ6の内部電源ポートに接続しておけば、真空デシケータ6の外に配置されている、タイマー機能を有するスイッチによって、粉砕機1の稼働と停止を制御できるようになっている。
【0037】
また、粉砕工程を実施するにあたっては、大気の巻き込みがないことを確認して行えるようにするために、真空デシケータ6内に、電池駆動式の酸素濃度計7を設置している。
【0038】
次に、具体的な粉砕工程の手順について、説明する。
図5は、本発明に係る第1実施形態の粉砕工程の手順を示すフローチャートである。
なお、作業を開始するにあたって、真空デシケータ6内に、粉砕機1の粉砕機本体部2、及び、酸素濃度計7がセットされた状態になっているとともに、真空デシケータ6の蓋部62は、容器本体61から取り外された状態になっている。
【0039】
(Step1)
まず、最初に、粉砕機1の粉砕部3内に粉砕対象物を収容するが(S1)、この収容作業で粉砕部3内に大気が混入することを避けるため、この作業は、一般にグローブボックスとの名称で販売されている作業用気密ボックスを使用し、アルゴンガス雰囲気下で行っている。
【0040】
なお、この粉砕時に、脂肪酸を粉砕対象物であるマグネシウムに添加するため、マグネシウムと脂肪酸の混合物を粉砕部3内に収容する作業となるが、具体的な脂肪酸の添加量(加える分量)などは、後ほど説明する。
【0041】
(Step2)
次に、粉砕対象物を収容した粉砕部3を真空デシケータ6内に設置されている粉砕機本体部2に取り付ける(S2)。
なお、粉砕部3の取り付けを行った後、忘れず、粉砕機本体部2の駆動電源をONする押釦21(
図1の「入」の記載のある押釦21)を押して、ONになる状態にするが、先ほど、説明したタイマー機能を有するスイッチをスタートさせなければ、電力の供給が起きないため、この時点で粉砕機1が稼働することはない。
【0042】
(Step3)
続いて、真空デシケータ6の蓋部62を容器本体61にパッチン錠63で固定し、吸排気ポート622が閉、吸排気ポート623が開、ニードルバルブNが閉の状態で、真空ポンプP1を駆動させ、真空デシケータ6内を真空引きする(S3)。
【0043】
粉砕部3は、微細な粉塵などの漏れを抑えるため、比較的気密が良い構造になっており、内外の圧力差がない状態では、しばらくの間、外側からの大気の巻き込みをある程度抑えることができる。
しかし、真空引きを実施して、外側の圧力が低くなると、その圧力差に応じて、粉砕部3内部のアルゴンガスも少しずつ吸い出され、このステップで真空状態になる。
【0044】
なお、真空引きの目安としては、圧力ゲージ621の圧力を示す針が限界まで真空側に動いた状態になっていることに加え、減圧が進むにつれて、酸素濃度計7の酸素濃度の表示も0%に近づいていくので、酸素濃度計7の表示が酸素濃度0%になるまでとした。
【0045】
(Step4)
十分な真空引きが終わったところで、吸排気ポート623を閉にした後、吸排気ポート622を開にして、真空デシケータ6内にアルゴンガスの充填を行う(S4)。
そして、この充填作業を開始したところで、真空ポンプP1の駆動を停止するとともに、ニードルバルブNを開にしておく。
【0046】
なお、アルゴンガスの供給に際しては、適切な供給量となるように、吸排気ポート622のニードルバルブの開度を調整すればよい。
【0047】
また、このアルゴンガスの充填時には、先ほどの真空引きによって、真空状態になっている粉砕部3に対して、真空デシケータ6内の圧力が高くなるため、その圧力差によって、粉砕部3内にもアルゴンガスが充填されていく。
【0048】
そして、真空デシケータ6の圧力ゲージ621が大気圧より、若干、陽圧側に来るところまで真空デシケータ6内の圧力が上昇したら、吸排気ポート623のニードルバルブを少しだけ開の状態にし、アルゴンガス吹き流し状態での弱陽圧管理が可能な状態にして、真空デシケータ6内のアルゴンガスの充填作業が終了する。
【0049】
このように、アルゴンガス吹き流しで弱陽圧状態を保つようにすることで粉砕中の真空デシケータ6内に大気が巻き込まれることを確実に防止している。
【0050】
(Step5)
アルゴンガスの充填が終了し、粉砕機1に大気が巻き込まれるおそれがない状態になったら、粉砕機1を稼働し(S5)、粉砕対象物の粉砕を実施する。
【0051】
具体的には、先に説明したタイマー機能を有するスイッチの駆動を開始し、所定の時間粉砕機1を稼働させ、所定の時間粉砕機1の稼働を停止する動作を繰り返し行うようにして、粉砕機1の稼働時間のトータルが約12時間となるまで稼働を行った。
つまり、粉砕機1が停止している時間を含まない、実際に稼働している時間が12時間に到達したところまで粉砕を実施し、粉砕機1での粉砕を終了するようにしている。
【0052】
なお、粉砕機1の動作を稼働と停止を繰り返す断続運転としているのは、先に話したとおり、第1実施形態の粉砕機1が、一般的な家庭などで用いられる市販のミル機であり、長時間の連続運転を行うと故障するためであり、長時間運転が許される工業用ミル機などであれば、停止時間を取る必要はない。
【0053】
(Step6)
粉砕対象物の粉砕が終わったら、その粉砕材料(粉砕紛)の取り出しを行うが(S6)、粉砕機1を停止させた直後は、粉砕紛の温度が、若干、上がっている。
【0054】
このため、アルゴンガス吹き流し状態で大気の巻き込みを防止しつつ、粉砕紛の温度が下がるのを待った後、手早く、真空デシケータ6から粉砕機1の粉砕部3を取り外して、粉砕部3に粉砕対象物を収容する作業を行ったのと同じ、作業用気密ボックスに移し、アルゴンガス雰囲気下で、大気の巻き込みを防止できる気密瓶に粉砕紛を移し替える作業を行い、粉砕工程が終了する。
【0055】
なお、気密瓶への粉砕紛の移し替え作業がアルゴンガス雰囲気下で行われているため、気密瓶内は、アルゴンガス充填状態になっており、この状態で保管することで、次の工程である水素化工程を実施するまでの間、粉砕したマグネシウムが大気(主に、酸素)に触れて、酸化劣化が起きるのを防止することができ、水素化効率の低下を抑えることができる。
【0056】
一方、ここでは気密瓶内をアルゴンガス封入したものとして、粉砕したマグネシウムの劣化を防止しているが、常温であって、少なくとも1週間以内の保管あれば、市販されている大気から99.9%純度の窒素を生成する窒素発生器の窒素雰囲気下で保管しても水素化に影響が出るような粉砕したマグネシウムの劣化が起らないことを確認している。
【0057】
したがって、粉砕後のマグネシウムを常温まで冷ました後であれば、水素化工程を実施するまでの間、窒素発生器の窒素が充填されているような容器やブース内で、その粉砕したマグネシウムを保管するようにしてもよく、この場合も酸素に触れて酸化劣化が進むのを防止できる。
【0058】
次に、水素化工程について、説明するが、まず、先に、水素化工程を行うための水素化炉8について説明を行う。
【0059】
(水素化炉)
図6は、本発明に係る第1実施形態の水素化炉8を示す側面図である。
なお、
図6は、説明が分かりやすいように、加熱炉81を断面図として図示している。
また、
図6は、説明が分かりやすいように、クランプ824について、取り付け位置を点線で示すに留めており、実際に使用しているのはNW規格のフランジをクランプする市販のクランプである。
【0060】
図6に示すように、水素化炉8は、粉砕したマグネシウムを水素化する反応を行う反応容器82と、その反応容器82を着脱可能に受け入れ、反応容器82内の温度を水素化に適した温度に加熱することが可能な加熱炉81と、水素ガスの圧力を所定の圧力に維持するように制御され、フレキシブルなガス配管FGPで反応容器82に、その水素ガスが供給可能に接続される圧力調整タンク83と、を備えている。
【0061】
反応容器82は、上下方向の途中位置の外周に加熱炉81に支持されるフランジ部8211を有するとともに、粉砕したマグネシウムを収容可能に上側が開口した反応容器本体821と、その上側の開口を塞ぐための蓋部822と、反応容器本体821の開口側の淵部に配置され、反応容器本体821と蓋部822で挟まれることで気密を取るOリング823と、Oリング823を反応容器本体821と蓋部822で押圧するように固定するクランプ824と、を備えている。
【0062】
また、蓋部822は、フレキシブルなガス配管FGPに着脱可能なニードルバルブN1が取り付けられ、そのニードルバルブN1の操作で開閉操作が可能な吸排気ポート8221を備えている。
【0063】
加熱炉81は、反応容器本体821を受け入れる開口を有する断熱筐体811と、断熱筐体811の内側に設けられたヒータ部812と、そのヒータ部812を設定温度に保つ制御を行う温調器(図示せず)と、を備え、反応容器本体821を受け入れる開口は、反応容器本体821のフランジ部8211を支持できるように、フランジ部8211の外径より若干小さい内径に設定されている。
【0064】
ただし、反応容器本体821を受け入れる開口は、反応容器本体821が受け入れられるように、反応容器本体821の胴体外径よりは大きな内径に設定されている。
【0065】
なお、温調器は、ヒータ部812の温度を測定する温度測定部(例えば、熱電対)と、その温度測定の結果を基にヒータ部812に供給する電力を制御して設定温度に維持する電力制御部と、を備えている。
【0066】
圧力調整タンク83は、ガスを閉じ込める密閉構造のステンレス製のタンクであり、タンク内の圧力の測定を行うためのデジタル圧力計DPを取り付ける取付ポートPT1と、開閉バルブOCB2が取り付けられ、水素ガスの受け入れを行うための水素ガスの受入ポートPT2と、開閉バルブOCB3が取り付けられ、アルゴンガスの受け入れを行うためのアルゴンガスの受入ポートPT3と、ニードルバルブN2が取り付けられ、タンク内のガスを反応容器82に送るためのフレキシブルなガス配管FGPが接続されるガス供給用ポートPT4と、開閉バルブOCB5が取り付けられ、タンク内のガスを置換する際に用いられる真空ポンプP2との接続を行うための排気ポートPT5と、を備えている。
【0067】
なお、圧力調整タンク83への水素ガスの供給は、高圧ガスの水素ガスボンベB2の減圧バルブでマスフローコントローラの動作圧である0.2~0.3MPaの圧力に減圧された水素ガスが、水素ガスの受入ポートPT2に配管接続された水素ガス用マスフローコントローラMFC-Hを介して供給される構成になっている。
【0068】
また、圧力調整タンク83へのアルゴンガスの供給は、高圧ガスのアルゴンガスボンベB3の減圧バルブでマスフローコントローラの動作圧である0.2~0.3MPaの圧力に減圧されたアルゴンガスが、アルゴンガスの受入ポートPT3に配管接続されたアルゴンガス用マスフローコントローラMFC-Aを介して供給される構成になっている。
【0069】
そして、ガスの供給を制御するために、制御プログラムを構築することが可能な制御器であるシーケンサーPLCを使用している。
なお、
図6において、シーケンサーPLCと、デジタル圧力計DP、水素ガス用マスフローコントローラMFC-H、及び、アルゴンガス用マスフローコントローラMFC-Aと、の間が一点鎖線で繋がっているのは、入出力信号を伝達する信号線で繋がっていることを示しているものである。
【0070】
シーケンサーPLCの制御プログラムとしては、シーケンサーPLCの液晶画面上で、動作させるマスフローコントローラと流量を指定して、その流量を流すように指定したマスフローコントローラ(水素ガス用マスフローコントローラMFC-H、アルゴンガス用マスフローコントローラMFC-A)を動作させる制御を行う直接入力モードと、シーケンサーPLCの液晶画面上で、動作させるマスフローコントローラと圧力の上下限を指定して、デジタル圧力計DPの出力値が圧力の下限を下回ると、指定したマスフローコントローラに予め設定した流量でガスの供給を行うように動作させる制御を行う圧力制御モードと、を設けている。
【0071】
なお、圧力制御モードの場合、ガスの供給によって、デジタル圧力計DPの出力値が圧力の上限に到達すると、マスフローコントローラの動作を停止させ、ガスの供給を止めるようになっている。
【0072】
(水素化工程)
次に、具体的な水素化工程の手順について、説明する。
図7は、本発明に係る第1実施形態の水素化工程の手順を示すフローチャートである。
なお、水素化工程の手順の説明に先立って、圧力調整タンク83から反応容器82まで大気圧のアルゴンガスが充填されている状態であるものとし、水素ガスの受入ポートPT2、アルゴンガスの受入ポートPT3、及び、排気ポートPT5に取り付けられている開閉バルブOCB2、OCB3、OCB5が閉の状態になっているものとする。
また、蓋部822の吸排気ポート8221、及び、ガス供給用ポートPT4に取り付けられているニードルバルブN1、N2も閉の状態になっているものとする。
【0073】
(Step11)
まず、水素化炉8から反応容器82の取外しを行う(S11)。
具体的には、蓋部822の吸排気ポート8221に取り付けられているニードルバルブN1と、フレキシブルなガス配管FGPと、の接続を解除して、反応容器82の水素化炉8からの取外しを行う。
【0074】
なお、接続を解除することによって、フレキシブルなガス配管FGP内には、大気が入ることになるが、反応容器82は、蓋部822の吸排気ポート8221に取り付けられているニードルバルブN1が閉の状態であるため、反応容器82内に大気が侵入することはない。
同様に、ニードルバルブN2も閉であるため、圧力調整タンク83内に、大気が侵入することもない。
【0075】
(Step12)
次に、取り外した反応容器82を、先ほど、粉砕工程で説明した粉砕対象物を粉砕部3内に収容する作業で使用したのと同じ作業用気密ボックス内に入れ、アルゴンガス雰囲気下で反応容器82内に粉砕工程で粉砕した粉砕材料(具体的には、粉砕したマグネシウム)を収容する作業を行う(S12)。
【0076】
具体的には、作業用気密ボックス内で反応容器82のクランプ824を外し、反応容器本体821から蓋部822を取外し、反応容器本体821の上側の開口から粉砕したマグネシウムを反応容器本体821内に入れる。
続いて、反応容器本体821の上側の開口を塞ぐように蓋部822を設置するとともに、クランプ824を取り付け、外気が反応容器82内に入らない密閉状態にする。
【0077】
なお、この粉砕したマグネシウムを反応容器82内に収容する作業は、作業用気密ボックス内のアルゴンガス雰囲気下で行われているため、粉砕したマグネシウムを収容した反応容器82は、アルゴンガス封入状態になっている。
【0078】
(Step13)
次に、粉砕したマグネシウムを収容した反応容器82を加熱炉81に、再び、取り付ける(S13)。
具体的には、
図6に示したように、反応容器本体821のフランジ部8211が断熱筐体811に支持されるように、アルゴンガス封入状態の反応容器82を設置するとともに、蓋部822の吸排気ポート8221に取り付けられているニードルバルブN1とフレキシブルなガス配管FGPを接続する。
【0079】
(Step14)
次に、フレキシブルなガス配管FGP中に混入している大気、圧力調整タンク83、及び、反応容器82内のアルゴンガスを排気し、水素ガスの充填が可能な状態にするための真空引きを行う(S14)。
【0080】
まず、真空ポンプP2を駆動させ、排気ポートPT5に取り付けられている開閉バルブOCB5を開にして圧力調整タンク83内のアルゴンガスの排気を始める。
【0081】
続いて、ガス供給用ポートPT4に取り付けられているニードルバルブN2を開にして、フレキシブルなガス配管FGP中に混入している大気の排気を行う。
【0082】
そして、フレキシブルなガス配管FGP中に混入している大気が完全に排出されるまで、この状態でしばらく、待つ。
【0083】
このように、十分に真空引きを行った後(例えば、数Paぐらいまで真空引きを行った後)、蓋部822の吸排気ポート8221に取り付けられているニードルバルブN1を、ゆっくり回して開の状態にする。
【0084】
なお、吸排気ポート8221に取り付けられているニードルバルブN1を、ゆっくり回して開の状態にするのは、反応容器82内の粉砕材料(粉砕したマグネシウム)が吸引されないように緩やかに反応容器82内のアルゴンガスの排気を行うためである。
【0085】
(Step15)
反応容器82内が真空状態になったら、水素ガス雰囲気下で水素化が進む温度に、粉砕材料(粉砕したマグネシウム)を加熱する水素化処理を実施する(S15)。
【0086】
まず、実際に水素ガスを供給して水素化処理を行う前に、真空引きを続けたまま、加熱炉81のヒータ部812をONにして、粉砕材料(粉砕したマグネシウム)の加熱を開始する。
ヒータ部812の設定温度は、粉砕材料(粉砕したマグネシウム)の水素化を行うのに適した温度に加熱する時の温度でよい。
【0087】
具体的には、水素化のための加熱温度は、水素ガスの圧力が90KPa程度(約0.9気圧)の場合、140℃未満になると急激に水素化の反応が遅くなっていくため、140℃以上にしておくことが望ましく、220℃±40℃程度の範囲が、比較的、水素化効率が良いため、第1実施形態では、ヒータ部812の設定温度は、粉砕材料(粉砕したマグネシウム)を220℃に加熱する温度に設定している。
【0088】
このように、加熱の開始を真空引き状態で行うことで、粉砕材料(粉砕したマグネシウム)の表面に付着している粉砕工程で添加した過剰な脂肪酸を除去し、その脂肪酸の影響で水素化効率が低下するのを防止できる。
【0089】
ただし、脂肪酸の添加量が多くない場合は、このような真空引きを行いながら粉砕材料(粉砕したマグネシウム)を加熱する加熱処理を省略してもよい。
つまり、先に水素ガスの供給を行った後、加熱を開始するようにしてもよい。
【0090】
そして、次に、排気ポートPT5に取り付けられている開閉バルブOCB5を閉にして、真空ポンプP2の駆動を停止した後、水素ガス受入ポートPT2に取り付けられている開閉バルブOCB2を開にして、シーケンサーPLCの圧力制御モードをスタートする。
【0091】
第1実施形態では、水素ガスの圧力を約90KPa(約0.9気圧)に制御するようにしているため、制御する圧力の上下限を、それぞれ、下限89KPa、上限91KPaに設定しており、デジタル圧力計DPの出力値が91KPaになると、水素ガス用マスフローコントローラMFC-Hの駆動が停止し、水素ガスの供給が止まる。
【0092】
なお、水素化が進行するのに伴って、水素ガスが粉砕したマグネシウム中に取り込まれるため、圧力調整タンク83の圧力が下がり、デジタル圧力計DPの出力値が89KPaになる。
【0093】
そうすると、再び、水素ガス用マスフローコントローラMFC-Hが駆動し、デジタル圧力計DPの出力値が91KPaになるまで、水素ガスの供給が行われることになる。
【0094】
このように、水素ガス雰囲気の圧力を約90KPaに維持しつつ、粉砕材料(粉砕したマグネシウム)を約220℃に加熱しながら所定の時間、水素化処理を行ったら、加熱炉81のヒータ部812をOFFにするとともに、シーケンサーPLCの圧力制御モードを終了し、水素化処理が終わる。
【0095】
(Step16)
水素化処理が終わったら、水素化後の材料(水素化マグネシウム)の取り出しを行うが、圧力調整タンク83、並びに、反応容器82内には、水素ガスが充填されている状態であるため、まず、アルゴンガスの状態にガス置換を行う(S16)。
【0096】
具体的には、水素ガスの受入ポートPT2に取り付けられている開閉バルブOCB2を閉にした後、真空ポンプP2を駆動させるとともに、排気ポートPT5に取り付けられている開閉バルブOCB5を開にする。
【0097】
そして、十分に真空引きを行った後、排気ポートPT5に取り付けられている開閉バルブOCB5を閉にして、真空ポンプP2の駆動を止め、アルゴンガスの受入ポートPT3に取り付けられている開閉バルブOCB3を開にして、大気圧に到達するまでアルゴンガスの供給を行う。
【0098】
圧力調整タンク83、並びに、反応容器82の圧力が大気圧に到達するまでアルゴンガスの充填が終わったら、アルゴンガスの供給を停止し、アルゴンガスの受入ポートPT3に取り付けられている開閉バルブOCB3を閉にする。
【0099】
また、この時に、反応容器82の蓋部822の吸排気ポート8221に取り付けられているニードルバルブN1、及び、圧力調整タンク83のガス供給用ポートPT4に取り付けられているニードルバルブN2を閉にし、ガス置換の作業を終了する。
【0100】
(Step17)
ガス置換が終わったら最後に水素化後の材料である水素化マグネシウムの取り出しを行う(S17)。
水素化マグネシウムは、湿気に触れなければ、大気中でも比較的安定であるため、粉砕材料(粉砕したマグネシウム)を反応容器82に収容する時に使用した作業用気密ボックス内で行う必要はない。
【0101】
しかし、第1実施形態では、粉砕材料(粉砕したマグネシウム)を反応容器82に収容した時と同様に、取り出し作業においても、作業用気密ボックス内で行い、アルゴンガス封入状態の気密瓶内に水素化マグネシウムを保管するようにしている。
なお、取り出し時の作業は、反応容器82に粉砕材料(粉砕したマグネシウム)を収容した作業と逆手順(反応容器82から気密瓶への材料収容作業)となるだけで、ほぼ同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0102】
このように、反応容器82からの水素化後の材料である水素化マグネシウムの取り出しが終わると、水素化工程が終了する。
【0103】
次に、粉砕工程で脂肪酸を添加することの効果について、説明する。
図8は、粉砕工程で脂肪酸を添加することの効果を示したグラフである。
図8に示すグラフでは、3サンプルの水素化後の結果を示しているが、これらのサンプルで異なる点は、粉砕工程時に添加する脂肪酸の添加量だけである。
【0104】
脂肪酸としては、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸、などを好適に用いることが可能であり、ここでは、オクタデカン酸を用いている。
【0105】
具体的には、どのサンプルも粉砕前のマグネシウムとして同じメーカーの平均粒子径が約500μmのものを使用し、粉砕工程を行うマグネシウムの量は50gに統一した。
【0106】
そして、グラフの横軸を見ると分かるように、1つのサンプルは、脂肪酸の添加量を0wt%(0質量%)、つまり、添加しないで粉砕工程を実施している。
【0107】
また、もう1つのサンプルは、50gのマグネシウムに対して約1.55gのオクタデカン酸(脂肪酸)を加え、マグネシウムと脂肪酸を合わせた総質量(約51.55g)中の約3wt%(約3質量%)がオクタデカン酸(脂肪酸)であるようにした。
つまり、粉砕工程でのオクタデカン酸(脂肪酸)の添加量が、総質量中の約3質量%になるようにしたものである。
【0108】
さらに、残りの1つのサンプルは、50gのマグネシウムに対して約2.63gのオクタデカン酸(脂肪酸)を加え、マグネシウムと脂肪酸を合わせた総質量(約52.63g)中の約5wt%(約5質量%)がオクタデカン酸(脂肪酸)であるようにした。
つまり、粉砕工程でのオクタデカン酸(脂肪酸)の添加量が、総質量中の約5質量%になるようにしたものである。
【0109】
粉砕工程、及び、水素化工程については、先に説明したとおりであり、粉砕工程は、いずれのサンプルにおいても、粉砕機1の稼働・停止の断続運転の時間を同じにするとともに、実稼働時間で12時間の粉砕を行うようにした。
【0110】
また、水素化工程は、粉砕したマグネシウムの水素化に適した220℃に加熱するための温度設定で、真空引き状態のままヒータ部812をONにして、設定温度に到達するまでは、真空引きの状態を維持し、設定温度に到達したところで水素ガスの供給を行い、水素ガス雰囲気の圧力を約90KPa(約0.9気圧)に保つようにして8時間の加熱(水素化処理)を実施した。
【0111】
そして、水素ガスの圧力が約90KPaに到達して8時間が経過したところでヒータ部812をOFFにして、室温まで温度が下がった後、水素化後の粉砕マグネシウムの取り出しを行っている。
【0112】
その後、水素化後の粉砕マグネシウムを篩にかけて、53μm以下のものだけをX線回折装置(XRD装置)にかけ水素化率、つまり、水素化後の粉砕マグネシウムに占める水素化マグネシウムの含有量(wt%)を求めた。
なお、水素化効率は粒径依存性を有すると考えられるが、先に説明したように、家庭で用いられる市販の粉砕機1を使用して粉砕工程を行っているため、粒径のばらつきが大きいので、水素化後の粉砕マグネシウムを篩分けして、粒径が比較的均一な状態で分析することで粒径依存のばらつきを排除している。
【0113】
図8に示すように、オクタデカン酸を添加せずに粉砕したマグネシウムは、8時間の水素化処理を行っても水素化率が3.47wt%でしかない。
【0114】
しかしながら、オクタデカン酸の添加量を増やしていくと、オクタデカン酸の添加量が3wt%の時には、水素化率が14.9wt%まで上昇しており、さらに、オクタデカン酸の添加量を5wt%にすると、水素化率が43.3wt%まで上昇しており、大幅に水素化効率が向上していることが分かる。
【0115】
第1実施形態では、先に説明したとおり、一般家庭で使用されている回転歯の回転で粉砕対象物を攪拌しながら粉砕するミル機を使用している。
【0116】
このようなミル機の場合、微粉を作製するのに用いられるボールミル装置やビーズミル装置のように、粉砕を促進する剛球を使用していないため、粉砕過程でマグネシウムが押し伸ばされ、押し合わされて一体化するようなことを繰り返しながら粉砕が進行するのではなく、マグネシウム同士が擦れ合ったり、マグネシウムが回転歯に衝突する時に、破片状に粉砕されているだけであるため、添加したオクタデカン酸は、粉砕したマグネシウムの表面にだけ存在し、内部に練り込まれることは発生していないと推察される。
【0117】
このことから、水素化効率が向上するメカニズムは、マグネシウムの表面にオクタデカン酸が何らかの作用を及ぼしているものと推察される。
例えば、脂肪酸は、カルボキシル基を有しており、金属酸化物の酸素(例えば、マグネシウムの表面に形成される酸化膜の酸素)とカルボキシル基が反応し、金属酸化物より、融点・沸点・硬度などが大幅に低い金属石鹸を形成するなど、物質の表面に作用するので、マグネシウムの表面にオクタデカン酸が何らかの作用を及ぼしていると推察される。
なお、脂肪酸は、金属そのものとも反応し、金属石鹸を形成すると考えられる。
【0118】
そして、オクタデカン酸を添加せずに、粉砕したマグネシウムの水素化率を見れば、第1実施形態のように、水素ガス雰囲気の圧力が低い状態では、先行技術文献でも述べられているとおり、現実的な時間で水素化率を高めることが困難である。
【0119】
しかし、粉砕工程でマグネシウムにオクタデカン酸を添加すれば、従来、現実的な時間で水素化率を高めるのが難しいとされているような低い圧力の水素ガス雰囲気中であっても水素化を行うことが可能になる。
【0120】
そして、マグネシウムの水素化は、当然、マグネシウムの表面から中心に向かって進行することになり、中心まで反応が進行した時、水素化率が100%に到達すると考えられる。
【0121】
このことから、マグネシウムの粒子径を小さくし、水素が浸透する必要がある中心までの距離を短くすることで、水素化反応を素早く終わらせることが可能であると考えられる。
先に説明したとおり、今回分析したサンプルは、いずれも篩分けして、53μm以下のものとしているが、さらに、30μmの粒子が通過できる目の細かい篩にかけてもその篩を通過する微粒子がなかった。
【0122】
このことから、30μmから53μmの大きさの粒子であっても、粉砕工程で5wt%(5質量%)程度のオクタデカン酸を添加すれば、8時間の水素化処理で40wt%を超える水素化率が得られている。
【0123】
例えば、30μmの粒子を考えた場合、40wt%が水素化されるためには、表面から2μm前後の深さまで水素化が進行していると考えられ、粉砕工程で4μm前後まで粉砕が進めば、このような、従来、現実的な時間で水素化率を高めるのが難しいとされている低い圧力の水素ガス雰囲気中であっても、100%に近い極めて高い水素化率が得られることが予想される。
そして、その程度の粒径までの粉砕であれば、柔らかく、微粉末になり難いマグネシウムであっても、十分に粉砕が可能なレベルであると言える。
【0124】
したがって、粉砕工程で添加するオクタデカン酸(脂肪酸)の添加量が、マグネシウムとオクタデカン酸(脂肪酸)を合わせた総質量中の5質量%以上であれば、現実的な時間で水素化率を高めるのが難しいとされている低い圧力の水素ガス雰囲気中であっても、現実的な粉砕粒径の範囲内で、且つ、現実的な水素化時間で、極めて高い水素化率が得られることが予想される。
【0125】
ただし、このような粉砕したマグネシウムは、著しく反応性が高まっていることから酸素による酸化劣化の進行も速く、それによって水素化反応が起こらなくなるため、粉砕したマグネシウムは、水素化工程の終了まで、酸素に触れさせないようにするのが重要である。
【0126】
一方、第1実施形態の説明から分かるとおり、本手法は、先行技術文献で示されるような、高い圧力の水素ガス雰囲気中で、水素化マグネシウムが分解するような高い温度に保持することを必要としない。
【0127】
図9は、熱力学計算で求めた水素化マグネシウムの分解生成境界線BLを示すグラフであり、これを参照しながら本手法の温度面での利点について説明する。
なお、この分解生成境界線上の温度のことを分解生成境界温度と呼ぶ場合がある。
図9に示すグラフは、縦軸に水素ガス雰囲気の圧力(単位:Pa)、横軸に温度(単位:℃)を示し、各圧力で水素化マグネシウムの分解が始まる最も低い温度を求め、グラフ化したものである。
【0128】
つまり、水素化マグネシウムの分解生成境界線BLを境に右側(高温側)では、水素化マグネシウムが分解してマグネシウムと水素ガスの状態になり、左側(低温側)では、水素化マグネシウムの分解が発生せず、マグネシウムと水素ガスが存在していれば水素化マグネシウムになる生成反応が進む領域である。
【0129】
先ほど、説明した水素化の例では、水素ガス雰囲気の圧力を約90kPaにしていることから、100000Pa(100kPa)より若干低い圧力であり、水素化マグネシウムの分解生成境界線BL上の温度は、280℃前後になる。
【0130】
しかし、実際の加熱温度は220℃程度であるから、水素化マグネシウムの分解生成境界線BL上の温度より60℃前後低い温度でよい。
【0131】
このことから、例えば、グラフ上に点線で示す5atm(5気圧)の水素ガス雰囲気での処理であれば、水素化マグネシウムの分解生成境界線BL上の温度が約350℃であることから、実際の加熱温度は、300℃以下で良いと考えられる。
【0132】
一方、先行技術文献で示されるように、水素化マグネシウムの分解生成境界線BL上の温度より50℃程度高い温度での処理を実施しようとすると、400℃以上の温度に加熱することになり、この場合、輻射熱が支配的になる。
【0133】
そして、反応容器82には、一般的にステンレスなどの金属材料を使用することになるが、ステンレスなどを使用すると、輻射熱が反射されるため、熱の伝達効率が下がり、エネルギーロスが大きくなると考えられ、本手法のように、輻射熱が支配的でない低温帯の処理が行えることでエネルギー効率の良い水素化処理が行えると考えられる。
【0134】
さらに、本手法であれば、比較的低い圧力での処理が可能なため、耐圧性能のために、反応容器82の厚みを厚くする必要がないことから熱の通りもよく、効率的に粉砕したマグネシウムを加熱することが可能となることからエネルギー効率が良いと考えられる。
【0135】
一方、熱力学計算上は、低温でも水素化マグネシウムが安定に存在できることになるが、熱力学計算には、反応速度のファクタがなく、先にも触れたとおり、マグネシウムの加熱温度が140℃を下回ると、マグネシウムへの水素ガスの吸収に起因する水素化工程で見られる圧力の減少が著しく遅くなる。
【0136】
このため、水素化工程の水素化処理では、140℃以上の温度にマグネシウムを加熱することが好ましい。
【0137】
具体的には、
図9のグラフに一点鎖線で示すラインが500Pa(0.5kPa)であり、この場合、水素化マグネシウムの分解生成境界線BL上の温度は約150℃であるから、水素ガス雰囲気の圧力を500Pa以上にすれば、140℃の温度で水素化マグネシウムが分解することはない。
【0138】
したがって、水素化工程の水素化処理は、500Pa以上、5気圧以下の水素ガス圧力下で、140℃以上、水素化マグネシウムの分解温度未満の温度に粉砕したマグネシウムを加熱して処理することが好ましく、そうすることで輻射熱の影響が強くなる400℃より50℃以上低い温度帯で処理ができるとともに、反応容器82の厚みを厚くする必要がないことから熱の通りもよく、エネルギー効率の良い処理ができる。
なお、
【0139】
例えば、水素化工程の水素ガスの圧力が、0.2MPa未満の場合、法律上、定期点検すら必要がなく、また、水素化を促進する上では、高い圧力、例えば、30kPa(約0.3気圧)以上が良いことから、水素化工程の水素化処理は、30kPa以上、0.2MPa未満の水素ガス圧力下で粉砕したマグネシウムを加熱して処理することがより好ましい。
【0140】
(第2実施形態)
第1実施形態では、脂肪酸にオクタデカン酸を用いたが、第2実施形態では、脂肪酸にドデカン酸を用いた場合について説明する。
第2実施形態でも、第1実施形態で使用したのと同じマグネシウム50gに対してマグネシウムとドデカン酸を合わせた総質量中のドデカン酸の添加量が約5wt%(約5質量%:2.63g)となるように、粉砕工程でマグネシウムにドデカン酸を添加して粉砕を行った。
【0141】
なお、粉砕機1、及び、その粉砕機1を用いた粉砕条件等は、第1実施形態と同じであり、また、水素化工程を実施した水素化炉8についても第1実施形態と同じである。
【0142】
そして、粉砕したマグネシウムを2つに分け、片方については、第1実施形態とまったく同じ条件の水素化工程の処理を実施し、水素化後の粉砕マグネシウムを篩にかけて、53μm以下のものだけをX線回折装置(XRD装置)にかけ水素化マグネシウムの含有量(wt%)を求めた。
結果、水素化率は51.3wt%であり、オクタデカン酸よりも良い結果が得られたことから、粉砕工程で添加する脂肪酸は、オクタデカン酸でなくとも良いことが分かった。
【0143】
ただし、アルキル鎖が短いと疎水性が弱くなり、水分を含有しやすくなるため、水分を吸収しないように取扱う必要があり、逆に、アルキル鎖が長いと融点が高くなり、粉砕工程での温度上昇では脂肪酸の融解が起きず、マグネシウムの表面への添加が行い難くなると考えられる。
【0144】
このことから、脂肪酸としては、トータルの炭素数が7から30程度のもの、つまり、ヘプタン酸(炭素数7)、オクタン酸(炭素数8)、ノナン酸(炭素数9)、デカン酸(炭素数10)、ドデカン酸(炭素数12)、テトラデカン酸(炭素数14)、ペンタデカン酸(炭素数15)、ヘキサデカン酸(炭素数16)、ヘプタデカン酸(炭素数17)、オクタデカン酸(炭素数18)、イコサン酸(炭素数20)、ヘンイコサン酸(炭素数21)、ドコサン酸(炭素数22)、テトラコサン酸(炭素数24)、ヘキサコサン酸(炭素数26)、オクタコサン酸(炭素数28)、トリアコンタン酸(炭素数30)、などがより好適であると考えられる。
【0145】
一方、粉砕したマグネシウムの内の残る片方については、反応容器82内を真空引きした後、ヒータ部812をONする前に、90kPaとなるように水素ガスを充填し、それからヒータ部812をONにして設定温度に到達したところから8時間の水素化処理を行った。
つまり、ヒータ部812をONするより前に水素ガスの供給を行った点が異なる点であり、その他は同じである。
【0146】
そして、このようにヒータ部812をONするより前に水素ガスの供給を行って水素化処理を実施したものについても、水素化後の粉砕マグネシウムを篩にかけて、53μm以下のものだけをX線回折装置(XRD装置)にかけ水素化マグネシウムの含有量(wt%)を求めたが、水素化率は29.8wt%とやや低い値であった。
【0147】
このことから、水素化工程は、水素化処理の前に、真空引きを行いながら粉砕したマグネシウムを加熱する加熱処理を備えるものとすることが好ましい。
【0148】
(第3実施形態)
第1実施形態、及び、第2実施形態では、粉砕機1に、お茶の葉、コーヒー豆などを粉末化するために、一般家庭でも使用されている家庭用ミル機を用いた場合について示した。
この家庭用ミル機は、工業用のミル機とは違い過負荷が掛かると故障する。
このため、粉砕時の温度上昇で脂肪酸が解けて粘性が高い状態になるが、脂肪酸の添加量が5wt%を超えて、その粘性が極めて高くなると、動かなくなる問題がある。
【0149】
そこで、第3実施形態では、脂肪酸の添加量がより多い場合でも水素化効率が向上するのかを見るために、フリッチュ社製の遊星型ボールミル装置を用いて粉砕した場合について説明する。
【0150】
(粉砕機)
図10は、本発明に係る第3実施形態の粉砕工程で用いる粉砕機S1の斜視図であり、
図11は、本発明に係る第3実施形態の粉砕機S1のフードS3を開けた状態を示す斜視図であり、
図12は、本発明に係る第3実施形態の粉砕容器S4の斜視図であり、
図13は、本発明に係る第3実施形態の粉砕容器S4の分解斜視図である。
【0151】
図10、及び、
図11に示すように、第3実施形態で用いる粉砕機S1は、着脱可能に固定された粉砕容器S4(
図11参照)を回転制御する粉砕機本体部S2と、粉砕機本体部S2に開閉可能にヒンジ構造で連結され、粉砕容器S4を覆い隠すことが可能なフードS3と、を備えている。
【0152】
図10に示すように、粉砕機本体部S2は、粉砕容器S4を回転制御させる条件を入力する条件入力部S21と、非常停止ボタンS22と、を備えている。
【0153】
粉砕容器S4は、
図12、及び、
図13に示すように、粉砕材料(図示せず)、及び、粉砕を促進する球形状の粉砕メディア(図示せず)を収容する収容部を構成する、上部開口を有する有底状の粉砕容器本体S41と、粉砕容器本体S41の上部開口を塞ぐ蓋部S42と、を備えている。
【0154】
また、
図13に示すように、粉砕容器本体S41は、上部開口側の縁部にOリングS5を配置する溝部S411と、その溝部S411よりも径方向外側に形成され、ネジが螺合するネジ螺合穴S412と、を備えている。
なお、ネジ螺合穴S412は、周方向に90度ピッチで合計4個設けられている。
【0155】
一方、蓋部S42は、外側となる面(
図12参照)にネジの頭を収容するザグリが設けられた貫通穴S421を備えている。
なお、この貫通穴S421は、蓋部S42を粉砕容器本体S41にネジ固定する時に、ネジの螺合部を粉砕容器本体S41側に通すための貫通穴S421であるので、その貫通穴S421の設けられている位置(中心からの距離等)は、粉砕容器本体S41のネジ螺合穴S412に対応したものになっている。
【0156】
そして、粉砕容器本体S41に、粉砕材料(図示せず)、及び、粉砕を促進する球形状の粉砕メディア(図示せず)を収容し、蓋部S42がOリングS5を粉砕容器本体S41側に押圧するように、蓋部S42側から貫通穴S421を通して、ネジ(図示せず)を粉砕容器本体S41のネジ螺合穴S412に螺合させると、粉砕材料(図示せず)、及び、粉砕を促進する球形状の粉砕メディア(図示せず)が、完全密封状態で粉砕容器S4内に収容された状態になる。
【0157】
このように、粉砕容器S4内に粉砕材料(図示せず)、及び、粉砕を促進する球形状の粉砕メディア(図示せず)を収容した状態とした後、
図11に示すように、粉砕容器S4を粉砕機本体部S2に固定し、
図10に示すように、フードS3を閉じ、条件入力部S21を操作し、粉砕容器S4の回転制御のための条件を入力して、粉砕スタートボタンを押すと、粉砕が開始される。
【0158】
具体的には、粉砕スタートボタンを押すと、粉砕容器S4自体の回転が開始され、その密閉状態とされた粉砕容器S4内で、回転力によって、粉砕を促進するための剛球(例えば、5mmφの高硬度球(SUS440C、クロム鋼))と粉砕対象物であるマグネシウムが激しく攪拌され、粉砕が進行する。
【0159】
そして、粉砕容器S4が、第1実施形態、及び、第2実施形態の粉砕機1の粉砕部3に対応し、粉砕工程、及び、水素化工程の基本的な作業手順は第1実施形態、及び、第2実施形態とほぼ同じであるので、以下では、異なる点について説明し、同様である点については、説明を省略する場合がある。
【0160】
上記の説明から分かるように、第3実施形態の粉砕機S1である遊星型ボールミル装置は、粉砕を行うための粉砕容器S4自体を回転させるだけの構成である。
このため、粉砕容器S4内に機械的な攪拌構造はなく、粉砕容器本体S41と蓋部S42との間もOリングS5によって完全な気密が取られるように、粉砕容器S4が構成されている。
したがって、粉砕の動作中に外気が、粉砕容器S4内に巻き込まれる心配はない。
【0161】
このことから、粉砕を行うための粉砕容器S4内に、剛球と粉砕対象物であるマグネシウム(添加のための脂肪酸含む)を収容する作業、並びに、粉砕したマグネシウムを取り出す作業については、第1実施形態、及び、第2実施形態と同様に作業用気密ボックス内のアルゴンガス雰囲気下で行っているが、遊星型ボールミル装置自体は、室内の大気中に置いた状態で粉砕を実施している。
【0162】
次に、第3実施形態の具体的な事例について説明する。
第3実施形態では、粉砕に用いるマグネシウムに平均粒子径が約180μmのものを使用した。
【0163】
粉砕条件としては、粉砕閉容器S4の内容積の1/3を占めるように5mmΦの高硬度ステンレス(SUS440C)製の剛球を入れ、同様に内容積の1/3を占めるように、70gのマグネシウムを入れた。
なお、脂肪酸としては、マグネシウムと脂肪酸の総質量中の約13wt%となる量のオクタデカン酸を、粉砕のための粉砕容器S4内に入れた。
そして、330rpmの回転速度で1時間稼働させ、1時間停止させる動作を24回行い、粉砕のために粉砕容器S4が回転している時間が24時間になるようにした。
【0164】
なお、1時間稼働後に、1時間の停止を行っているのは、粉砕のための粉砕容器S4の温度上昇を抑えるためであり、メーカーでは100℃を超えないように使用することが推奨されている。
【0165】
このようにして、オクタデカン酸を13wt%(13質量%)添加して粉砕マグネシウムを作製し、その粉砕したマグネシウムを用いて水素化工程を行った。
具体的には、第1実施形態の水素化工程と同様であるが、第1実施形態では8時間の水素化処理を行っていたが、第3実施形態では、4時間の水素化処理とした。
【0166】
そして、第1実施形態と同様に、水素化後の粉砕マグネシウムを篩にかけて、53μm以下のものだけをX線回折装置(XRD装置)にかけ水素化率、つまり、水素化後の粉砕マグネシウムに占める水素化マグネシウムの含有量(wt%)を求めた結果、39.5wt%であった。
【0167】
第3実施形態では、約40wt%の水素化率が得られ、第1実施形態のオクタデカン酸を5wt%(5質量%)添加したものと遜色のない結果が得られており、第3実施形態の水素化処理の時間が第1実施形態の水素化処理の時間の半分である点を考慮すれば、第3実施形態の結果は、第1実施形態のオクタデカン酸を5wt%(5質量%)添加したものよりも明らかに良い結果が得られている。
【0168】
一方、あまり脂肪酸を多く添加しすぎると、粉砕したマグネシウムの表面に厚い脂肪酸の層が形成され、水素化を阻害するようになるおそれもあることから、脂肪酸の添加量は、マグネシウムと脂肪酸を合わせた総質量中の15質量%以下程度に留めるのが良いと考えられる。
【0169】
なお、遊星型ボールミル装置では、一般に、粉砕に使用する剛球の直径が小さいものほど、粉砕可能な限界粒子径が小さくなるため、第3実施形態では、5mmφの高硬度球を用いていたが、3mmφの高硬度球や1.5mmφの高硬度球を粉砕に使用するようにすれば、粉砕後のマグネシウムの粒子径を、さらに、小さくすることが可能であると考えられる。
【0170】
そして、第3実施形態の水素化時間が、第1実施形態の水素化時間の半分である点を考慮すれば、第3実施形態は、第1実施形態よりも、さらに、良い結果が得られていると言え、第1実施形態と同様に、十分に、現実的な粉砕粒径の範囲内で、且つ、現実的な水素化時間で、極めて高い水素化率が得られることが予想される。
【0171】
なお、粉砕工程でマグネシウムに添加する脂肪酸の添加量は、マグネシウムと脂肪酸を合わせた総質量中の6wt%以上、7wt%以上、8wt%以上、9wt%以上、10wt%以上、11wt%以上、12wt%以上の順に、より好ましいものとなると考えられる。
しかしながら、過剰添加による弊害も予想されることから、粉砕工程でマグネシウムに添加する脂肪酸の添加量は、マグネシウムと脂肪酸を合わせた総質量中の15wt%以下、14wt%以下に抑えるのが良いと考えられる。
【0172】
以上、具体的な実施形態の説明を行ってきたが、本発明は具体的な実施形態に限定されるものではない。
例えば、具体的な説明では、さらに、水素化率を高めるための方法として、粉砕工程でのマグネシウムの粉砕粒径を小さくすることについて説明したが、粉砕工程と水素化工程を繰り返し実施するものとしてもよい。
【0173】
最初の粉砕工程と水素化工程を行った後の粉砕したマグネシウムは、表面からある程度の深さまで水素化が進行し、水素化マグネシウムの層が形成されている。
そして、水素化マグネシウムの層は、非金属化が進行した層であるため、粉砕が進みやすく、短時間の粉砕で水素化マグネシウムの層が粉体となり、内部の金属マグネシウムの部分が現れ、その金属マグネシウムの部分が、さらに、粉砕されることでマグネシウムの微粉末化が効率よく進むものと考えられる。
【0174】
このため、一度、水素化処理を行った粉砕したマグネシウムに対して、再度、粉砕工程を実施すれば、さらに、粉砕が進んだ状態となるので、その粉砕が進んだ状態の粉砕したマグネシウムに対して水素化処理を実施すれば、より水素化率の高い水素化マグネシウムを得ることができる。
【0175】
この2回目の粉砕工程でも、粉砕によって水素化マグネシウムの層が取れ、粉砕が一段と進んだ金属マグネシウムの微粉末ができるが、脂肪酸を添加して粉砕工程を行っておくことで、その金属マグネシウムの微粉末は水素化が進みやすいようになると考えられる。
したがって、2回目以降の粉砕工程においても、脂肪酸を添加することが望ましい。
【0176】
この2回目の粉砕工程では、水素化マグネシウムの部分を含むマグネシウムを粉砕することになるが、この場合の脂肪酸の添加量も、マグネシウムの質量(水素化マグネシウムの部分を除いたマグネシウムの質量)と脂肪酸の質量を合わせた総質量中の5質量%以上であれば十分であると考えられる。
【0177】
一方、水素化処理後の粉砕したマグネシウムは、表面に水素化マグネシウムの層が形成されているため、内部の水素化が進んでいない金属マグネシウムが大気中の酸素で酸化されるのを防止する効果が期待できる。
しかし、2回目の粉砕工程直後の粉砕したマグネシウムは、そのような水素化マグネシウムの層の保護がない状態になるため、やはり、2回目の粉砕工程後の粉砕したマグネシウムにあっても、2回目の水素化工程の終了まで、酸素に触れさせないことが水素化反応を進めるために重要といえる。
【0178】
したがって、水素化マグネシウムの製造方法は、脂肪酸を添加してマグネシウムを粉砕する粉砕工程と、粉砕したマグネシウムを、500Pa以上、5気圧以下の水素ガス圧力下で、140℃以上、水素化マグネシウムの分解温度未満の温度に加熱して、水素化処理する水素化工程と、を備え、その粉砕工程から水素化工程までの工程を一連のものとして合わせた粉砕水素化工程を複数回行うものとしてもよいが、この場合でも、各粉砕水素化工程中の粉砕工程で添加する脂肪酸の添加量は、マグネシウムと脂肪酸を合わせた総質量中の5質量%以上とし、粉砕したマグネシウムは、各粉砕水素化工程中の水素化工程の終了まで、酸素に触れさせないものとするのがよい。
【0179】
このように、本発明は具体的な実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を施したものも本発明の技術的範囲に含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0180】
1 粉砕機
2 粉砕機本体部
21 押釦
3 粉砕部
4 粉砕部本体
41 攪拌粉砕歯
42 螺合溝
5 蓋部
51 螺合山
6 真空デシケータ
61 容器本体
62 蓋部
621 圧力ゲージ
622、623 吸排気ポート
63 パッチン錠
7 酸素濃度計
8 水素化炉
81 加熱炉
811 断熱筐体
812 ヒータ部
82 反応容器
821 反応容器本体
8211 フランジ部
822 蓋部
8221 吸排気ポート
823 Oリング
824 クランプ
83 圧力調整タンク
B1 高圧ガスボンベ
B2 水素ガスボンベ
B3 アルゴンガスボンベ
BL 分解生成境界線
DP デジタル圧力計
FGP ガス配管
MFC-A アルゴンガス用マスフローコントローラ
MFC-H 水素ガス用マスフローコントローラ
N、N1、N2 ニードルバルブ
OCB2、OCB3、OCB5 開閉バルブ
P1、P2 真空ポンプ
PLC シーケンサー
PT1 取付ポート
PT2、PT3 受入ポート
PT4 ガス供給用ポート
PT5 排気ポート
S1 粉砕機
S2 粉砕機本体部
S21 条件入力部
S22 非常停止ボタン
S3 フード
S4 粉砕容器
S41 粉砕容器本体
S411 溝部
S412 ネジ螺合穴
S42 蓋部
S421 貫通穴
S5 Oリング