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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112931
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】水素化マグネシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 6/04 20060101AFI20230807BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20230807BHJP
   B02C 17/08 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
C01B6/04
C01B3/00 A
B02C17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014963
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大石 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】澤木 宣忠
【テーマコード(参考)】
4D063
4G140
【Fターム(参考)】
4D063FF04
4D063FF21
4D063FF35
4D063GA02
4D063GA10
4D063GB02
4D063GC27
4D063GD04
4G140AA22
4G140AA24
4G140AA34
4G140AA46
(57)【要約】
【課題】マグネシウムの反応性を向上させ、水素ガスの圧力を低く保った状態でも、水素化処理ができる水素化マグネシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の水素化マグネシウムの製造方法は、脂肪酸を添加してマグネシウムを粉砕する粉砕工程と、5気圧以下の圧力に保つように、水素ガスが供給される反応容器内で、粉砕したマグネシウムを、140℃以上、水素化マグネシウムの分解温度未満の温度に加熱して、水素化する水素化工程と、を備え、粉砕工程が、窒素ガスの雰囲気下で行われ、粉砕したマグネシウムは、水素化工程の終了まで、酸素に触れさせない。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化マグネシウムの製造方法であって、
脂肪酸を添加してマグネシウムを粉砕する粉砕工程と、
5気圧以下の圧力に保つように、水素ガスが供給される反応容器内で、粉砕した前記マグネシウムを、140℃以上、水素化マグネシウムの分解温度未満の温度に加熱して、水素化する水素化工程と、を備え、
前記粉砕工程が、窒素ガスの雰囲気下で行われ、
粉砕した前記マグネシウムは、前記水素化工程の終了まで、酸素に触れさせないことを特徴とする水素化マグネシウムの製造方法。
【請求項2】
前記窒素ガスが、大気から純度99.9%以上の窒素ガスを生成する窒素発生器から供給されることを特徴とする請求項1に記載の水素化マグネシウムの製造方法。
【請求項3】
前記粉砕工程で添加する前記脂肪酸の添加量が、前記マグネシウムと前記脂肪酸を合わせた総質量中の3質量%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素化マグネシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素化マグネシウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー源として水素が注目を浴びるようになっており、その水素を貯蔵する方法として水素化マグネシウムがある。
【0003】
そして、特許文献1には、マグネシウムを主成分とする原料粉体を封入容器内に封入した水素ガス雰囲気中に保持しておき、封入容器内の水素ガス雰囲気の圧力を所定圧力に維持し、封入容器内の水素ガス雰囲気の温度を室温から上昇させ、封入容器内の水素ガス雰囲気の温度を、単体のマグネシウム及び水素分子が化合して水素化マグネシウムが生成する反応と逆反応との平衡曲線上の所定圧力に対応する温度よりも高温で、平衡曲線上の所定圧力に対応する温度からの温度差が100℃以内である温度に、所定の第1期間維持することによって、原料粉体表面の被膜を除去し、次に、封入容器内の水素ガス雰囲気の温度を、室温へ戻さずに、平衡曲線上の所定圧力に対応する温度よりも低温で、平衡曲線上の所定圧力に対応する温度からの温度差が100℃以内である温度に、所定の第2期間維持することによって、原料粉体からマグネシウム基水素化物を製造するマグネシウム基水素化物の製造方法が開示されている。
【0004】
つまり、特許文献1では、単体のマグネシウム及び水素分子が化合して水素化マグネシウムが生成する反応と逆反応との平衡曲線上の所定圧力に対応する温度よりも高温で、平衡曲線上の所定圧力に対応する温度からの温度差が100℃以内である温度に、所定の第1期間維持することを第1の特徴としている。
【0005】
この第1の特徴によって、特許文献1では、マグネシウム(Mg)の表面に形成されている水酸化マグネシウム(Mg(OH))の熱分解が進み、その熱分解によって形成された酸化マグネシウム(MgO)の水素分子による還元も進むことで、マグネシウム(Mg)表面の被膜が除去され、速やかに水素(H)と反応することが可能となることされている。
【0006】
また、特許文献1では、水素ガス雰囲気の温度を、室温へ戻さずに、平衡曲線上の所定圧力に対応する温度よりも低温で、平衡曲線上の所定圧力に対応する温度からの温度差が100℃以内である温度に、所定の第2期間維持することを第2の特徴としている。
【0007】
この第2の特徴によって、特許文献1では、加熱及び冷却を繰り返すことで水素の吸収及び放出を繰り返す活性化処理を必要とする従来技術に比べて、少ない投入エネルギーで高純度の水素化マグネシウム(MgH)を得ることが可能となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-44832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1では、実施例を見ると、水素化処理を行う時の水素ガス圧力が10気圧(約1MPa)以上の圧力雰囲気とされている。
【0010】
また、特許文献1では、現実的な時間範囲内で水素化マグネシウムを製造するためには、少なくとも6気圧以上とすることも説明されている。
【0011】
しかしながら、高圧の水素ガス雰囲気下で処理する装置は、装置に要求される仕様(例えば、耐圧性能など)が厳しくなる。
【0012】
そこで、マグネシウムの反応性を向上させ、水素ガスの圧力を低く保った状態でも、水素化処理ができる技術の実現が望まれる。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、マグネシウムの反応性を向上させ、水素ガスの圧力を低く保った状態でも、水素化処理ができる水素化マグネシウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するために、以下の構成によって把握される。
(1)本発明の水素化マグネシウムの製造方法は、脂肪酸を添加してマグネシウムを粉砕する粉砕工程と、5気圧以下の圧力に保つように、水素ガスが供給される反応容器内で、粉砕した前記マグネシウムを、140℃以上、水素化マグネシウムの分解温度未満の温度に加熱して、水素化する水素化工程と、を備え、前記粉砕工程が、窒素ガスの雰囲気下で行われ、粉砕した前記マグネシウムは、前記水素化工程の終了まで、酸素に触れさせない。
【0015】
(2)上記(1)の構成において、前記窒素ガスが、大気から純度99.9%以上の窒素ガスを生成する窒素発生器から供給される。
【0016】
(3)上記(1)又は(2)の構成において、前記粉砕工程で添加する前記脂肪酸の添加量が、前記マグネシウムと前記脂肪酸を合わせた総質量中の3質量%以上である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マグネシウムの反応性を向上させ、水素ガスの圧力を低く保った状態でも、水素化処理ができる水素化マグネシウムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る第1実施形態の粉砕工程で用いる粉砕機の斜視図である。
図2】本発明に係る第1実施形態の粉砕機のフードを開けた状態を示す斜視図である。
図3】本発明に係る第1実施形態の粉砕容器の斜視図である。
図4】本発明に係る第1実施形態の粉砕容器の分解斜視図である。
図5】本発明に係る第1実施形態の水素化炉を示す側面図である。
図6】本発明に係る第1実施形態の水素化工程の手順を示すフローチャートである。
図7】熱力学計算で求めた水素化マグネシウムの分解生成境界線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。
なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ符号を付している。
【0020】
(第1実施形態)
本発明に係る第1実施形態の水素化マグネシウムの製造方法は、脂肪酸を添加して粉砕前のマグネシウム(以下、単に、マグネシウムと記載する場合がある。)を粉砕する粉砕工程と、5気圧以下の圧力に保つように、水素ガスが供給される反応容器内で、粉砕したマグネシウムを、140℃以上、水素化マグネシウムの分解温度未満の温度に加熱して、水素化する水素化工程と、を備える。
【0021】
このため、装置としては、粉砕工程を実施するための粉砕機1(図1参照)と、水素化工程を実施するための水素化炉8(図5参照)と、を使用するので、順に、粉砕機1、及び、水素化炉8(水素化炉8での作業手順含む)の説明を行った後に、具体的な実施例について、説明を行う。
【0022】
(粉砕機)
図1は、本発明に係る第1実施形態の粉砕工程で用いる粉砕機1の斜視図であり、図2は、本発明に係る第1実施形態の粉砕機1のフード3を開けた状態を示す斜視図であり、図3は、本発明に係る第1実施形態の粉砕容器4の斜視図であり、図4は、本発明に係る第1実施形態の粉砕容器4の分解斜視図である。
なお、これから説明する第1実施形態で使用する粉砕機1は、フリッチュ社製の遊星型ボールミル装置である。
【0023】
図1、及び、図2に示すように、第1実施形態で用いる粉砕機1は、着脱可能に固定された粉砕容器4(図2参照)を回転制御する粉砕機本体部2と、粉砕機本体部2に開閉可能にヒンジ構造で連結され、粉砕容器4を覆い隠すことが可能なフード3と、を備えている。
【0024】
図1に示すように、粉砕機本体部2は、粉砕容器4を回転制御させる条件を入力する条件入力部21と、非常停止ボタン22と、を備えている。
【0025】
粉砕容器4は、図3、及び、図4に示すように、粉砕対象物(図示せず)、及び、粉砕を促進する球形状の粉砕メディア(図示せず)を収容する収容部を構成する、上部開口を有する有底状の粉砕容器本体41と、粉砕容器本体41の上部開口を塞ぐ蓋部42と、を備えている。
【0026】
また、図4に示すように、粉砕容器本体41は、上部開口側の淵部にOリング5を配置する溝部411と、その溝部411よりも径方向外側に形成され、ネジが螺合するネジ螺合穴412と、を備えている。
なお、ネジ螺合穴412は、周方向に90℃ピッチで合計4個設けられている。
【0027】
一方、蓋部42は、外側となる面(図3参照)にネジの頭を収容するザグリが設けられた貫通穴421を備えている。
なお、この貫通穴421は、蓋部42を粉砕容器本体41にネジ固定する時に、ネジの螺合部を粉砕容器本体41側に通すための貫通穴421であるので、その貫通穴421の設けられている位置(中心からの距離など)は、粉砕容器本体S41のネジ螺合穴412に対応したものになっており、ネジ螺合穴412と同様に、周方向に90℃ピッチで合計4個設けられている。
【0028】
そして、粉砕容器本体41に、粉砕対象物(図示せず)、及び、粉砕を促進する球形状の粉砕メディア(図示せず)を収容し、蓋部42がOリング5を粉砕容器本体41側に押圧するように、蓋部42側から貫通穴421を通して、ネジ(図示せず)を粉砕容器本体41のネジ螺合穴412に螺合させると、粉砕対象物(図示せず)、及び、粉砕を促進する球形状の粉砕メディア(図示せず)が、完全密封状態で粉砕容器4内に収容された状態になる。
【0029】
このように、粉砕容器4内に粉砕対象物(図示せず)、及び、粉砕を促進する球形状の粉砕メディア(図示せず)を収容した状態とした後、図2に示すように、粉砕容器4を粉砕機本体部2に固定し、図1に示すように、粉砕機本体部2のフード3を閉じ、条件入力部21を操作し、粉砕容器4の回転制御のための条件を入力して、粉砕スタートボタンを押すと、粉砕が開始される。
【0030】
具体的には、粉砕スタートボタンを押すと、粉砕容器4自体の回転が開始され、その密閉状態とされた粉砕容器4内で、回転力によって、粉砕を促進するための粉砕メディア、具体的には、剛球(例えば、5mmφの高硬度球(SUS440C、クロム鋼などの剛球))と粉砕対象物であるマグネシウムが激しく攪拌され、粉砕が進行する。
【0031】
そして、上述のように、粉砕容器4は、完全密封が可能な構成になっているため、粉砕中に外気が混入することがない。
【0032】
したがって、粉砕容器本体41に粉砕対象物(図示せず)、及び、粉砕を促進する球形状の粉砕メディア(図示せず)を入れて、粉砕容器本体41にネジ(図示せず)で蓋部42を固定する作業を、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で行えば、粉砕容器4内がアルゴンガス雰囲気となり、アルゴンガス雰囲気中での粉砕を実施することができる。
【0033】
また、粉砕容器本体41に粉砕対象物(図示せず)、及び、粉砕を促進する球形状の粉砕メディア(図示せず)を入れて、粉砕容器本体41にネジ(図示せず)で蓋部42を固定する作業を、窒素ガス雰囲気のグローブボックス内で行えば、粉砕容器4内が窒素ガス雰囲気となり、窒素ガス雰囲気中での粉砕を実施することができる。
【0034】
そして、粉砕処理が終了したら、再び、粉砕機本体部2から粉砕容器4を取外し、粉砕容器4をグローブボックス内に移し、グローブボックス内で外気の混入を防止できる気密瓶に粉砕した材料を移して、粉砕した材料を回収する。
【0035】
なお、この回収作業をアルゴンガス雰囲気にしたグローブボックス内で行えば、粉砕した材料は、アルゴンガスが充填された気密瓶内で保管されることになり、窒素ガス雰囲気にしたグローブボックス内で行えば、粉砕した材料は、窒素ガスが充填された気密瓶内で保管されることになる。
【0036】
また、後述するが粉砕容器4内に粉砕対象物であるマグネシウムを収容する際、脂肪酸を加えることで、脂肪酸を添加してマグネシウムを粉砕する粉砕工程とすることができ、水素化効率の良好な反応性の高い粉砕したマグネシウムとすることができる。
【0037】
反応性が高くなる理由としては、脂肪酸は、カルボキシル基を有しており、金属酸化物の酸素(例えば、マグネシウムの表面に形成される酸化膜の酸素)とカルボキシル基が反応し、金属酸化物より、融点・沸点・硬度などが大幅に低い金属石鹸を形成することから、このような反応が水素化効率の良好な反応性の高い粉砕したマグネシウムの形成に何らかの寄与をしているものと推察される。
なお、脂肪酸は、金属そのものとも反応し、金属石鹸を形成すると考えられる。
【0038】
例えば、添加する脂肪酸としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸、などを好適に用いることができる。
【0039】
ただし、アルキル鎖が短いと疎水性が弱くなり、水分を含有しやすくなるため、水分を吸収しないように取扱う必要があり、逆に、アルキル鎖が長いと融点が高くなり、粉砕工程での温度上昇では脂肪酸の融解が起きず、マグネシウムへの添加が行い難くなると考えられる。
【0040】
このことから、脂肪酸としては、トータルの炭素数が7から30程度のもの、つまり、ヘプタン酸(炭素数7)、オクタン酸(炭素数8)、ノナン酸(炭素数9)、デカン酸(炭素数10)、ドデカン酸(炭素数12)、テトラデカン酸(炭素数14)、ペンタデカン酸(炭素数15)、ヘキサデカン酸(炭素数16)、ヘプタデカン酸(炭素数17)、オクタデカン酸(炭素数18)、イコサン酸(炭素数20)、ヘンイコサン酸(炭素数21)、ドコサン酸(炭素数22)、テトラコサン酸(炭素数24)、ヘキサコサン酸(炭素数26)、オクタコサン酸(炭素数28)、トリアコンタン酸(炭素数30)、などがより好適であると考えられる。
【0041】
(水素化炉)
図5は、本発明に係る第1実施形態の水素化炉8を示す側面図である。
なお、図5は、説明が分かりやすいように、加熱炉81を断面図として図示している。
また、図5は、説明が分かりやすいように、クランプ824について、取付け位置を点線で示すに留めており、実際に使用しているのはNW規格のフランジをクランプする市販のクランプである。
【0042】
図5に示すように、水素化炉8は、粉砕したマグネシウムを水素化する反応を行う反応容器82と、その反応容器82を着脱可能に受け入れ、反応容器82内の温度を水素化に適した温度に加熱することが可能な加熱炉81と、水素ガスの圧力を所定の圧力に維持するように制御され、フレキシブルなガス配管FGPで反応容器82に、その水素ガスが供給可能に接続される圧力調整タンク83と、を備えている。
【0043】
反応容器82は、上下方向の途中位置の外周に加熱炉81に支持されるフランジ部8211を有するとともに、粉砕したマグネシウムを収容可能に上側が開口した反応容器本体821と、その上側の開口を塞ぐための蓋部822と、反応容器本体821の開口側の淵部に配置され、反応容器本体821と蓋部822で挟まれることで気密を取るOリング823と、Oリング823を反応容器本体821と蓋部822で押圧するように固定するクランプ824と、を備えている。
【0044】
また、蓋部822は、フレキシブルなガス配管FGPに着脱可能なニードルバルブN1が取付けられ、そのニードルバルブN1の操作で開閉操作が可能な吸排気ポート8221を備えている。
【0045】
加熱炉81は、反応容器本体821を受け入れる開口を有する断熱筐体811と、断熱筐体811の内側に設けられたヒータ部812と、そのヒータ部812を設定温度に保つ制御を行う温調器(図示せず)と、を備え、反応容器本体821を受け入れる開口は、反応容器本体821のフランジ部8211を支持できるように、フランジ部8211の外径より若干小さい内径に設定されている。
【0046】
ただし、反応容器本体821を受け入れる開口は、反応容器本体821が受け入れられるように、反応容器本体821の胴体外径よりは大きな内径に設定されている。
【0047】
なお、温調器は、ヒータ部812の温度を測定する温度測定部(例えば、熱電対)と、その温度測定の結果を基にヒータ部812に供給する電力を制御して設定温度に維持する電力制御部と、を備えている。
【0048】
圧力調整タンク83は、ガスを閉じ込める密閉構造のステンレス製のタンクであり、タンク内の圧力の測定を行うためのデジタル圧力計DPを取付ける取付ポートPT1と、開閉バルブOCB2が取付けられ、水素ガスの受け入れを行うための水素ガスの受入ポートPT2と、開閉バルブOCB3が取付けられ、アルゴンガスの受け入れを行うためのアルゴンガスの受入ポートPT3と、ニードルバルブN2が取付けられ、タンク内のガスを反応容器82に送るためのフレキシブルなガス配管FGPが接続されるガス供給用ポートPT4と、開閉バルブOCB5が取付けられ、タンク内のガスを置換する際に用いられる真空ポンプP2との接続を行うための排気ポートPT5と、を備えている。
【0049】
なお、圧力調整タンク83への水素ガスの供給は、高圧ガスの水素ガスボンベB2の減圧バルブでマスフローコントローラの動作圧である0.2~0.3MPaの圧力に減圧された水素ガスが、水素ガスの受入ポートPT2に配管接続された水素ガス用マスフローコントローラMFC-Hを介して供給される構成になっている。
【0050】
また、圧力調整タンク83へのアルゴンガスの供給は、高圧ガスのアルゴンガスボンベB3の減圧バルブでマスフローコントローラの動作圧である0.2~0.3MPaの圧力に減圧されたアルゴンガスが、アルゴンガスの受入ポートPT3に配管接続されたアルゴンガス用マスフローコントローラMFC-Aを介して供給される構成になっている。
【0051】
そして、水素化炉8は、ガスの供給を制御するための制御装置を備えており、具体的には、その制御装置に制御プログラムを構築することが可能な制御器であるシーケンサーPLCを使用している。
なお、図5において、シーケンサーPLCと、デジタル圧力計DP、水素ガス用マスフローコントローラMFC-H、及び、アルゴンガス用マスフローコントローラMFC-Aと、の間が一点鎖線で繋がっているのは、入出力信号を伝達する信号線で繋がっていることを示しているものである。
【0052】
シーケンサーPLCの制御プログラムとしては、シーケンサーPLCの液晶画面上で、動作させるマスフローコントローラと流量を指定して、その流量を流すように指定したマスフローコントローラ(水素ガス用マスフローコントローラMFC-H、アルゴンガス用マスフローコントローラMFC-A)を動作させる制御を行う直接入力モードと、シーケンサーの液晶画面上で、動作させるマスフローコントローラと圧力の上下限を指定して、デジタル圧力計DPの出力値が圧力の下限を下回ると、指定したマスフローコントローラに予め設定した流量でガスの供給を行うように動作させる制御を行う圧力制御モードと、を設けている。
【0053】
なお、圧力制御モードの場合、ガスの供給によって、デジタル圧力計DPの出力値が圧力の上限に到達すると、マスフローコントローラの動作を停止させ、ガスの供給を止めるようになっている。
【0054】
また、上記説明では、水素化炉8にアルゴンガスの供給ができる構成で説明したが、アルゴンガスを窒素ガスに変更しても問題ない。
この場合、高圧ガスのアルゴンガスボンベB3を、高圧ガスの窒素ボンベ、又は、大気から純度99.9%以上の窒素ガスを生成する窒素発生器に変更するとともに、アルゴンガス用マスフローコントローラMFC-Aを、窒素ガス用マスフローコントローラに変更すればよい。
【0055】
(水素化炉での作業手順)
次に、上述のような水素化炉8を用いた作業手順(水素化工程の手順)について、説明する。
図6は、本発明に係る第1実施形態の水素化工程の手順を示すフローチャートである。
以下の説明では、水素化炉8にアルゴンガスが供給される構成で説明するが、先に説明した通り、アルゴンガスを窒素ガスに代えても問題はないため、その場合は、アルゴンガスに関する記述部分を窒素ガスに読み替えて理解されればよい。
【0056】
なお、水素化工程の手順の説明に先立って、圧力調整タンク83から反応容器82まで大気圧のアルゴンガスが充填されている状態であるものとし、水素ガスの受入ポートPT2、アルゴンガスの受入ポートPT3、及び、排気ポートPT5に取付けられている開閉バルブOCB2、OCB3、OCB5が閉の状態になっているものとする。
また、蓋部822の吸排気ポート8221、及び、ガス供給用ポートPT4に取付けられているニードルバルブN1、N2も閉の状態になっているものとする。
【0057】
(Step1)
まず、水素化炉8から反応容器82の取外を行う(S1)。
具体的には、蓋部822の吸排気ポート8221に取付けられているニードルバルブN1と、フレキシブルなガス配管FGPと、の接続を解除して、反応容器82の水素化炉8からの取外しを行う。
【0058】
なお、接続を解除することによって、フレキシブルなガス配管FGP内には、外気(大気)が入ることになるが、反応容器82は、蓋部822の吸排気ポート8221に取付けられているニードルバルブN1が閉の状態であるため、反応容器82内に外気が侵入することはない。
同様に、ニードルバルブN2も閉であるため、圧力調整タンク83内に、外気が侵入することもない。
【0059】
(Step2)
次に、取外した反応容器82を、グローブボックスボックス内に入れ、反応容器82内に粉砕工程で粉砕した粉砕対象物(具体的には、粉砕したマグネシウム)を収容する作業を行う(S2)。
【0060】
具体的には、グローブボックス内で反応容器82のクランプ824を外し、反応容器本体821から蓋部822を取外し、反応容器本体821の上側の開口から粉砕したマグネシウムを反応容器本体821内に入れる。
続いて、反応容器本体821の上側の開口を塞ぐように蓋部822を設置するとともに、クランプ824を取付け、外気(大気)が反応容器82内に入らない密閉状態にする。
【0061】
なお、このグローブボックス内で、粉砕したマグネシウムを反応容器82内に収容する作業の際、グローブボックス内をアルゴンガス雰囲気にしておけば、粉砕したマグネシウムを収容した反応容器82は、アルゴンガス封入状態になる。
【0062】
同様に、このグローブボックス内で、粉砕したマグネシウムを反応容器82内に収容する作業の際、グローブボックス内を窒素ガス雰囲気にしておけば、粉砕したマグネシウムを収容した反応容器82は、窒素ガス封入状態になる。
【0063】
(Step3)
次に、粉砕したマグネシウムを収容した反応容器82を加熱炉8に、再び、取付ける(S3)。
具体的には、図5に示したように、反応容器本体821のフランジ部8211が断熱筐体811に支持されるように、グローブボックス内の雰囲気ガス封入状態の反応容器82を設置するとともに、蓋部822の吸排気ポート8221に取付けられているニードルバルブN1とフレキシブルなガス配管FGPを接続する。
【0064】
(Step4)
次に、フレキシブルなガス配管FGP中に混入している外気(大気)、圧力調整タンク83のアルゴンガス、及び、反応容器82内のガスを排気し、水素ガスの充填が可能な状態にするための真空引きを行う(S4)。
【0065】
まず、真空ポンプP2を駆動させ、排気ポートPT5に取付けられている開閉バルブOCB5を開にして圧力調整タンク83内のアルゴンガスの排気を始める。
【0066】
続いて、ガス供給用ポートPT4に取付けられているニードルバルブN2を開にして、フレキシブルなガス配管FGP中に混入している外気(大気)の排気を行う。
【0067】
そして、フレキシブルなガス配管FGP中に混入している外気(大気)が完全に排出されるまで、この状態でしばらく、待つ。
【0068】
このように、十分に真空引きを行った後(例えば、数Paぐらいまで真空引きを行った後)、蓋部822の吸排気ポート8221に取付けられているニードルバルブN1を、ゆっくり回して開の状態にする。
【0069】
なお、吸排気ポート8221に取付けられているニードルバルブN1を、ゆっくり回して開の状態にするのは、反応容器82内の粉砕したマグネシウムが吸引されないように緩やかに反応容器82内のガスの排気を行うためである。
【0070】
(Step5)
反応容器82内が真空状態になったら、水素ガス雰囲気下で水素化が進む温度に、粉砕したマグネシウムを加熱する水素化処理を実施する(S5)。
【0071】
まず、実際に水素ガスを供給して水素化処理を行う前に、真空引きを続けたまま、加熱炉81のヒータ部812をONにして、粉砕したマグネシウムの加熱を開始する。
ヒータ部812の設定温度は、粉砕したマグネシウムの水素化を行うのに適した温度に加熱する時の温度でよい。
【0072】
具体的には、水素化のための加熱温度は、水素ガスの圧力が90kPa程度(約0.9気圧)の場合、140℃未満になると急激に水素化の反応が遅くなっていくため、140℃以上にしておくことが望ましく、220℃±40℃程度の範囲が、比較的、水素化効率が良いため、第1実施形態では、ヒータ部812の設定温度は、粉砕したマグネシウムを220℃に加熱する温度に設定している。
【0073】
このように、加熱の開始を真空引き状態で行うことで、粉砕したマグネシウムの表面に付着している粉砕工程で添加した過剰な脂肪酸を除去し、その脂肪酸の影響で水素化効率が低下するのを防止できる。
【0074】
ただし、脂肪酸の添加量が多くない場合は、このような真空引きを行いながら粉砕したマグネシウムを加熱する加熱処理を省略してもよい。
つまり、先に水素ガスの供給を行った後、加熱を開始するようにしてもよい。
【0075】
そして、次に、排気ポートPT5に取付けられている開閉バルブOCB5を閉にして、真空ポンプP2の駆動を停止した後、水素ガスの受入ポートPT2に取付けられている開閉バルブOCB2を開にして、シーケンサーPLCの圧力制御モードをスタートする。
【0076】
第1実施形態では、水素ガスの圧力を約90kPa(約0.9気圧)に制御するようにしているため、制御する圧力の上下限を、それぞれ、下限89kPa、上限91kPaに設定しており、デジタル圧力計DPの出力値が91kPaになると、水素ガス用マスフローコントローラMFC-Hの駆動が停止し、水素ガスの供給が止まる。
【0077】
なお、水素化が進行するのに伴って、水素ガスが粉砕したマグネシウム中に取り込まれるため、圧力調整タンク83の圧力が下がり、デジタル圧力計DPの出力値が89kPaになる。
【0078】
そうすると、再び、水素ガス用マスフローコントローラMFC-Hが駆動し、デジタル圧力計DPの出力値が91kPaになるまで、水素ガスの供給が行われることになる。
【0079】
このように、水素ガス雰囲気の圧力を約90kPaに維持しつつ、粉砕したマグネシウムを約220℃に加熱ながら所定の時間、水素化処理を行ったら、加熱炉81のヒータ部812をOFFにするとともに、シーケンサーPLCの圧力制御モードを終了し、水素化処理が終わる。
【0080】
(Step6)
水素化処理が終わったら、水素化後の材料(水素化マグネシウム)の取り出しを行うが、圧力調整タンク83、並びに、反応容器82内には、水素ガスが充填されている状態であるため、まず、アルゴンガスの状態にガス置換を行う(S6)。
【0081】
具体的には、水素ガスの受入ポートPT2に取付けられている開閉バルブOCB2を閉にした後、真空ポンプP2を駆動させるとともに、排気ポートPT5に取付けられている開閉バルブOCB5を開にする。
【0082】
そして、十分に真空引きを行った後、排気ポートPT5に取付けられている開閉バルブOCB5を閉にして、真空ポンプP2の駆動を止め、アルゴンガスの受入ポートPT3に取付けられている開閉バルブOCB3を開にして、大気圧に到達するまでアルゴンガスの供給を行う。
【0083】
圧力調整タンク83、並びに、反応容器82の圧力が大気圧に到達するまでアルゴンガスの充填が終わったら、アルゴンガスの供給を停止し、アルゴンガスの受入ポートPT3に取付けられている開閉バルブOCB3を閉にする。
【0084】
また、この時に、反応容器82の蓋部822の吸排気ポート8221に取付けられているニードルバルブN1、及び、圧力調整タンク83のガス供給用ポートPT4に取付けられているニードルバルブN2を閉にし、ガス置換の作業を終了する。
【0085】
(Step7)
ガス置換が終わったら最後に水素化後の材料である水素化マグネシウムの取り出しを行う(S7)。
水素化マグネシウムは、湿気に触れなければ、大気中でも比較的安定であるため、粉砕したマグネシウムを反応容器82に収容する時に使用したグローブボックス内で行う必要はない。
【0086】
ただし、グローブボックス内で作業を行えば、湿気の極めて低い環境下で、水素化マグネシウムの取り出し作業が行えるため、窒素ガス、又は、アルゴンガス雰囲気にしたグローブボックス内で水素化マグネシウムを保管する気密瓶などに回収する作業を行ってもよい。
【0087】
このように、反応容器82からの水素化後の材料である水素化マグネシウムの取り出しが終わると、水素化工程が終了する。
【0088】
ここで、水素化処理の水素ガス雰囲気、及び、加熱条件について、簡単に説明しておく。
図7は、熱力学計算で求めた水素化マグネシウムの分解生成境界線を示すグラフである。
なお、この分解生成境界線上の温度のことを分解生成境界温度と呼ぶ場合がある。
図7に示すグラフは、縦軸に水素ガス雰囲気の圧力(単位:Pa)、横軸に温度(単位:℃)を示し、各圧力で水素化マグネシウムの分解が始まる最も低い温度を求め、グラフ化したものである。
【0089】
つまり、水素化マグネシウムの分解生成境界線BLを境に右側(高温側)では、水素化マグネシウムが分解してマグネシウムと水素ガスの状態になり、左側(低温側)では、水素化マグネシウムの分解が発生せず、マグネシウムと水素ガスが存在していれば水素化マグネシウムになる生成反応が進む領域である。
【0090】
第1実施形態では、水素ガス雰囲気の圧力を約90kPaにしていることから、100000Paより若干低い圧力であり、水素化マグネシウムの分解生成境界線BL上の温度は、280℃前後になる。
【0091】
しかし、実際の加熱温度は220℃程度であるから、水素化マグネシウムの分解生成境界線BL上の温度より60℃前後低い温度でよい。
【0092】
このことから、例えば、グラフ上に点線で示す5atm(5気圧)の水素ガス雰囲気での処理であれば、水素化マグネシウムの分解生成境界線BL上の温度が約350℃であることから、実際の加熱温度は、300℃以下で良いと考えられる。
【0093】
一方、先行技術文献で示されるように、水素化マグネシウムの分解生成境界線BL上の温度より50℃程度高い温度での処理を実施しようとすると、5atm(5気圧)の水素ガス雰囲気での処理の場合、400℃以上の温度に加熱することになり、この場合、輻射熱が支配的になる。
【0094】
そして、反応容器82には、一般的にステンレスなどの金属材料を使用することになるが、ステンレスなどを使用すると、輻射が反射されるため、熱の伝達効率が下がり、エネルギーロスが大きくなると考えられる。
【0095】
しかしながら、脂肪酸を添加してマグネシウムを粉砕する粉砕工程を実施することで、先行技術文献で示されるような水素化マグネシウムの分解生成境界線BL上の温度より50℃程度高い温度での処理を不要としても、十分に高い純度の水素化マグネシウムの製造が可能である。
【0096】
したがって、水素化工程での水素ガス雰囲気の圧力を5atm(5気圧)以下にすれば、輻射熱が支配的となる約400℃から100℃以上、低温帯での水素化処理が行え、エネルギー効率の良い水素化処理が実現できる。
【0097】
さらに、5atm(5気圧)以下の比較的低い圧力での処理が可能なため、耐圧性能のために、反応容器82の厚みを厚くする必要がないことから熱の通りもよく、効率的に粉砕したマグネシウムを加熱することが可能となることから、この点でもエネルギー効率が良いと考えられる。
【0098】
一方、熱力学計算上は、低温でも水素化マグネシウムが安定に存在できることになるが、熱力学計算には、反応速度のファクタがなく、マグネシウムの加熱温度が140℃を下回ると、マグネシウムへの水素ガスの吸収に起因する水素化工程で見られる圧力の減少が著しく遅くなる。
【0099】
このため、水素化工程の水素化処理では、140℃以上の温度にマグネシウムを加熱することが好ましい。
【0100】
具体的には、図7のグラフに一点鎖線で示すラインが500Paであり、この場合、水素化マグネシウムの分解生成境界線BL上の温度は約150℃であるから、水素ガス雰囲気の圧力を500Pa以上にすれば、140℃の温度で水素化マグネシウムが分解することはない。
【0101】
したがって、水素化工程の水素化処理は、500Pa以上、5気圧以下の水素ガス圧力下で、140℃以上、水素化マグネシウムの分解温度未満の温度に粉砕したマグネシウムを加熱して処理することが好ましく、そうすることで輻射熱の影響が強くなる400℃より100℃以上低い温度帯で処理ができるとともに、反応容器82の厚みを厚くする必要がないことから熱の通りもよく、エネルギー効率の良い処理ができる。
【0102】
例えば、水素化工程の水素ガスの圧力が、0.2MPa未満の場合、法律上、定期点検すら必要がなく、また、水素化を促進する上では、高い圧力、例えば、30kPa(約0.3気圧)以上が良いことから、水素化工程の水素化処理は、30kPa以上、0.2MPa未満の水素ガス圧力下で粉砕したマグネシウムを加熱して水素化処理することがより好ましい。
【0103】
次に、実施例1、及び、比較例1について説明する。
実施例1、及び、比較例1の粉砕工程では、どちらの場合も、粉砕条件として、粉砕容器4の内容積の1/3を占めるように5mmΦの高硬度ステンレス(SUS440C)製の剛球を入れ、同様に内容積の1/3を占めるように、平均粒子径180μmのマグネシウム70gを入れた。
【0104】
また、粉砕容器4にマグネシウムを入れる際に、脂肪酸として、オクタデカン酸を入れ、脂肪酸を添加してマグネシウムを粉砕する粉砕工程となるようにした。
【0105】
具体的には、実施例1、及び、比較例1のどちらの場合も、マグネシウム(70g)とオクタデカン酸(3.684g)を粉砕容器4内に入れるようにし、マグネシウムとオクタデカン酸を合わせた総質量(73.684g)中の5質量%(wt%)のオクタデカン酸(脂肪酸)を入れ、総質量中の5質量%(wt%)のオクタデカン酸を添加してマグネシウムを粉砕する粉砕工程となるようにした。
【0106】
そして、粉砕機1の動作としては、実施例1、及び、比較例1のどちらの場合も、330rpmの回転速度で1時間稼働させ、1時間停止させる動作を24回行い、粉砕のために粉砕容器4が回転している時間が24時間になるようにした。
【0107】
なお、1時間稼働後に、1時間の停止を行っているのは、粉砕のための粉砕容器4の温度上昇を抑えるためであり、メーカーの推奨では100℃を超えないように使用することが推奨されている。
【0108】
そして、実施例1では、粉砕容器4内にマグネシウム、脂肪酸、及び、剛球を入れる作業を、窒素ガス雰囲気としたグローボックス内で行うことで、粉砕容器4内の雰囲気を窒素ガスとし、粉砕工程が窒素ガスの雰囲気下で行われたものとした。
【0109】
なお、グローボックス内を窒素ガス雰囲気にするにあたっては、グローブボックスのガス受入ポートに、大気から純度99.9%の窒素ガスを生成する窒素発生器(株式会社日立産機システム製)で生成した窒素ガスを供給するようにし、グローブボックス内に設置している酸素濃度計の酸素濃度の表示が0%を表示している状態にし、その状態で粉砕容器4内にマグネシウム、脂肪酸、及び、剛球を入れる作業を行った。
【0110】
そして、実施例1では、粉砕後に、粉砕したマグネシウムを気密瓶に回収する作業においても、窒素発生器からの窒素ガスで窒素ガス雰囲気にしたグローブボックス内で行うようにした。
【0111】
一方、比較例1では、粉砕容器4内にマグネシウム、脂肪酸、及び、剛球を入れる作業を、アルゴンガス雰囲気としたグローボックス内で行うことで、粉砕容器4内の雰囲気をアルゴンガスとし、粉砕工程がアルゴンガスの雰囲気下で行われたものとした。
【0112】
なお、グローボックス内をアルゴンガス雰囲気にするにあたっては、グローブボックスのガス受入ポートに、高純度アルゴンボンベからのアルゴンガスを供給するようにし、グローブボックス内に設置している酸素濃度計の酸素濃度の表示が0%を表示している状態にし、その状態で粉砕容器4内にマグネシウム、脂肪酸、及び、剛球を入れる作業を行った。
【0113】
そして、比較例1では、粉砕後に、粉砕したマグネシウムを気密瓶に回収する作業においても、高純度アルゴンボンベからのアルゴンガスでアルゴンガス雰囲気にしたグローブボックス内で行うようにした。
【0114】
続いて、先に説明した手順で、実施例1、及び、比較例1の粉砕したマグネシウムの水素化工程を行った。
【0115】
ただし、実施例1では、粉砕したマグネシウムを気密瓶から水素化炉8の反応容器82に移し替える作業、つまり、気密瓶内の粉砕したマグネシウムを、水素化炉8の反応容器82内に収容する収容処理を、窒素ガス雰囲気としたグローブボックス内で行い、その収容する処理が窒素ガスの雰囲気下で行われたものとした。
【0116】
一方、比較例1では、粉砕したマグネシウムを気密瓶から水素化炉8の反応容器82に移し替える作業、つまり、気密瓶内の粉砕したマグネシウムを水素化炉8の反応容器82内に収容する収容処理を、アルゴンガス雰囲気としたグローブボックス内で行い、その収容する処理がアルゴンガスの雰囲気下で行われたものとした。
【0117】
なお、具体的な水素化処理における条件は、実施例1、及び、比較例1のどちらも同じにしている。
具体的には、粉砕したマグネシウムの水素化に適した220℃に加熱するための温度設定で、真空引き状態のままヒータ部812をONにして、設定温度に到達するまでは、真空引きの状態を維持し、設定温度に到達したところで水素ガスの供給を行い、水素ガス雰囲気の圧力を約90kPa(約0.9気圧)に保つようにして4時間の加熱(水素化処理)を実施し、ヒータ部812をOFFにした後、室温まで冷却後、水素化後のマグネシウムの取り出しを行った。
【0118】
そして、上記の説明からわかるように、実施例1は、粉砕工程から水素化工程の終了まで粉砕したマグネシウムが窒素ガス、及び、水素ガスにしか触れておらず、比較例1は、粉砕工程から水素化工程の終了まで粉砕したマグネシウムがアルゴンガス、及び、水素ガスにしか触れていない。
【0119】
したがって、実施例1、及び、比較例1のどちらの場合も、粉砕工程から水素化工程の終了に至るまで、大気に触れることがないように取扱われ、粉砕したマグネシウムが、水素化工程の終了まで、酸素に触れさせないようにされており、粉砕工程により高めたマグネシウムの反応性が大気(主に酸素)の影響で劣化しないようにしている。
【0120】
続いて、実施例1、及び、比較例1の水素化後の粉砕したマグネシウムを、それぞれ、X線回折装置(XRD装置)にかけ水素化率、つまり、水素化後の粉砕したマグネシウムに占める水素化マグネシウムの含有量を求めた結果、実施例1の平均水素化率は22.8質量%(wt%)であり、比較例1の平均水素化率は7.6質量%(wt%)であった。
【0121】
なお、平均水素化率とは、粉砕したマグネシウム中には、粒径の大小のばらつきが含まれており、水素化効率は粒径依存性があると考えられることから、粒径の小さいものほど水素化が進むと考えられるが、ふるい分けなどを行うことなく、粒径の大小のばらつきを含んだままの平均的な水素化率であること意味している。
【0122】
そして、水素化反応は、粉砕したマグネシウムの表面から中心に向かって進行すると考えられることから、実施例1の結果は、粉砕したマグネシウム全体を見た時に、表面から22.8質量%(wt%)の水素化率が達成できる深さまで水素化が進行したものと考えられる。
【0123】
したがって、その進行した深さの2倍程度の直径の粒子までマグネシウムを微粒化、具体的には、マグネシウムの粒子径(平均粒子径)を実施例1の粉砕したマグネシウムの約1/13まで小さくすれば、実施例1と同じ水素化条件で、100質量%(wt%)に近い水素化マグネシウムが得られることが予想される。
【0124】
例えば、遊星型ボールミル装置では、粉砕を促進するための剛球の直径が大きい方が、粉砕速度が速い一方、粉砕で達成される限界粒子径が大きくなり、逆に、剛球の直径が小さいほど、粉砕速度は遅いものの、粉砕で達成される限界粒子径が小さくなる。
このことから、直径が小さい剛球を用いた追加粉砕を行うようにすることで、さらに、高い水素化率を得ると考えられる。
【0125】
そして、一般的には、マグネシウムの表面に窒化膜、酸化膜が存在することで、水素化が起き難くなるといわれているが、上記の結果から、マグネシウムを粉砕する粉砕工程を窒素発生器で発生させた窒素ガスの雰囲気下で行っても水素化効率が劣化することはなく、それどころか、驚くことに、アルゴンガス中で粉砕処理を行った場合より、水素化効率が良い結果が得られた。
【0126】
なお、窒素発生器で窒素ガスを発生させる方が、ガスボンベで窒素ガスを購入して使用するより安価で済む。
したがって、粉砕機等の大型化などで窒素ガスの使用量が多くなる時に、大幅なランニングコストの低減が行えるので、窒素ガスの使用にあたっては、窒素発生器で発生させた窒素ガスを用いるのが好ましい。
【0127】
また、実施例1では、粉砕したマグネシウムを水素化炉8の反応容器82内に収容する収容処理も、窒素ガスの雰囲気下で行われたものとしており、窒素ガスの雰囲気下で、このような作業を行っても水素化効率が劣化することがない。
【0128】
次に、粉砕工程で添加する脂肪酸の添加量を増やした実施例2について説明する。
実施例2でも脂肪酸として、オクタデカン酸を用い、使用したマグネシウムも実施例1と同じである。
【0129】
そして、実施例2では、マグネシウム(70g)とオクタデカン酸(6.923g)を粉砕容器4内に入れるようにすることで、マグネシウムとオクタデカン酸を合わせた総質量(76.923g)中の9質量%(wt%)のオクタデカン酸を添加してマグネシウムを粉砕する粉砕工程とした。
【0130】
なお、実施例2は、実施例1と比較して、脂肪酸の添加量が異なるだけであり、その他は、実施例1と同じである。
【0131】
つまり、実施例2は、粉砕工程から水素化工程に至るまで、脂肪酸の添加量が異なるだけで、その他は、全て実施例1と同じにしている。
【0132】
そして、実施例2の水素化後の粉砕したマグネシウムを、X線回折装置(XRD装置)にかけ水素化率、つまり、水素化後の粉砕したマグネシウムに占める水素化マグネシウムの含有量を求めた結果、平均水素化率は54.2質量%(wt%)であり、脂肪酸の添加量を増やしたことで、実施例1よりも、さらに、高い水素化率を得ることができた。
【0133】
このように、粉砕工程で添加する脂肪酸の添加量を増やすと、粉砕したマグネシウムの反応性が大幅に向上するが、過剰に添加すると水素化処理での真空加熱で有機化合物の膜を除去するのに掛かる時間が長くなると推察される。
【0134】
また、脂肪酸は、粉砕時の温度で液状化するが過剰に添加すると、その液状化した脂肪酸が粉砕時の摩擦抵抗を下げる潤滑液の役目を果たし、粉砕速度が低下する恐れもある。
【0135】
したがって、脂肪酸の添加量としては、マグネシウムと脂肪酸を合わせた総質量中の15質量%以下に留めるのがよく、さらには、14質量%以下に留めるのが良い。
【0136】
一方、脂肪酸には、粉砕過程で粉砕したマグネシウム同士が凝集するのを抑える効果もあることから、粉砕工程では、少なくともマグネシウムと脂肪酸を合わせた総質量中の3質量%以上の脂肪酸を添加するのが良い。
【0137】
また、実施例1、及び、実施例2を見れば、粉砕工程で添加する脂肪酸の添加量を多くすると水素化率が良くなることから、粉砕工程では、マグネシウムと脂肪酸を合わせた総質量中の4質量%以上の脂肪酸を添加するのが良く、さらには、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、10質量%以上の順に、添加量が多いことが好ましい。
【0138】
以上、具体的な実施形態の説明を行ってきたが、本発明は具体的な実施形態に限定されるものではない。
上記では、粉砕機1にボールミル装置を用いた場合で説明したが、例えば、アシザワファインテック株式会社、日本コークス工業株式会社などの大量粉砕を目的とした連続処理可能なビーズミル装置を粉砕機1に用いるようにしてもよい。
【0139】
そして、連続処理可能なビーズミル装置は、当然、粉砕紛が外部に飛散しないための、気密構造を有しているものの、完全な密閉構造にはなっていないため、水素化効率を高めるための窒素ガスの使用だけでなく、反応性を高めた粉砕マグネシウムの反応性低下を抑制するために、粉砕部や粉砕紛回収部への外気(主に大気中の酸素)侵入を抑制する意味でも、大量の窒素ガスを供給する必要があり、このような場合に、窒素発生器で発生させた窒素ガスを用いると大幅なランニングコストの低減が行える。
【0140】
このように、本発明は具体的な実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を施したものも本発明の技術的範囲に含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0141】
1 粉砕機
2 粉砕機本体
21 条件入力部
22 非常停止ボタン
3 フード
4 粉砕容器
41 粉砕容器本体
411 溝部
412 ネジ螺合穴
42 蓋部
421 貫通穴
5 Oリング
8 水素化炉
81 加熱炉
811 断熱筐体
812 ヒータ部
82 反応容器
821 反応容器本体
8211 フランジ部
822 蓋部
8221 吸排気ポート
823 Oリング
824 クランプ
83 圧力調整タンク
B1 高圧ガスボンベ
B2 水素ガスボンベ
B3 アルゴンガスボンベ
BL 分解生成境界線
DP デジタル圧力計
FGP ガス配管
MFC-A アルゴンガス用マスフローコントローラ
MFC-H 水素ガス用マスフローコントローラ
N、N1、N2 ニードルバルブ
OCB2、OCB3、OCB5 開閉バルブ
P1、P2 真空ポンプ
PLC シーケンサー
PT1 取付ポート
PT2 受入ポート
PT3 受入ポート
PT4 ガス供給用ポート
PT5 排気ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7