(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112973
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】ノズル噴霧能の評価方法および評価システム
(51)【国際特許分類】
B05D 1/02 20060101AFI20230807BHJP
B05B 15/00 20180101ALI20230807BHJP
B05C 11/00 20060101ALI20230807BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
B05D1/02 Z
B05B15/00
B05C11/00
B05D3/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015024
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000142023
【氏名又は名称】株式会社共立合金製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】西田 博一
(72)【発明者】
【氏名】荻野 夕介
(72)【発明者】
【氏名】菅原 夏子
【テーマコード(参考)】
4D073
4D075
4F042
【Fターム(参考)】
4D073AA10
4D073BB03
4D073CA30
4D073DA05
4D075AA01
4D075AA31
4D075AA82
4D075AA83
4D075AA84
4D075CA36
4D075CA37
4D075DA06
4D075DB43
4D075DC16
4D075EA06
4F042AA02
4F042BA12
4F042BA19
4F042DH09
(57)【要約】
【課題】高い精度で、ノズルにおける噴霧パターンの良否を簡易に評価できる評価方法を提供する。
【解決手段】流体を噴霧するためのノズルにおける噴霧能を評価する評価方法として、
前記ノズルから非親水性プレートに向けて親水性液体を噴霧し、前記非親水性プレート上で噴霧液滴を融合させ、得られた融合液滴からなる融合液滴群を前記非親水性プレート上に形成する噴霧工程、
前記融合液滴群における分布状態の均一性を評価することにより、前記ノズルにおける噴霧能を評価する評価工程とを経ることにより評価する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴霧するためのノズルの噴霧能を評価する評価方法であって
前記ノズルから非親水性プレートに向けて親水性液体を噴霧し、前記非親水性プレート上で噴霧液滴を融合させ、生成した融合液滴からなる融合液滴群を前記非親水性プレート上に形成する噴霧工程、
前記融合液滴群における分布状態の均一性に基づいて、前記ノズルにおける噴霧能を評価する評価工程とを含む評価方法。
【請求項2】
前記評価工程において、前記非親水性プレートに光を照射し、前記分布状態をカメラで撮影するとともに、得られた撮影画像を画像分析装置で解析処理する請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
前記噴霧工程において、前記融合液滴の平均径は300~5000μmである請求項1または2記載の評価方法。
【請求項4】
前記評価工程において、前記融合液滴径に基づいた閾値を設定して噴霧パターンの良否を判定する請求項1~3のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項5】
前記噴霧工程において、前記親水性液体を噴霧量0.3~300ml/minで0.1~10秒間噴霧する請求項1~4のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項6】
前記噴霧液滴の平均径が5~100μmであり、かつ前記融合液滴の平均径が、前記噴霧液滴の平均径に対して3~1000倍である請求項1~5のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項7】
前記親水性液体が水であり、前記非親水性プレートが透明または半透明のプレートである請求項1~6のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項8】
前記ノズルが液体を噴霧するための一流体ノズルである請求項1~7のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項9】
前記ノズルがホロコーンノズルである請求項1~8のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項10】
前記ノズルがバーナーノズルである請求項1~9のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項11】
前記噴霧工程の前工程として、ノズルにおける親水性液体の噴霧量、噴霧圧力、噴霧距離、噴霧時間を調整し、平均径が300~5000μmの融合液滴を得ることができる条件を決定する調整工程をさらに含む請求項1~10のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項12】
前記噴霧工程において、ノズルと非親水性プレートとの間で噴霧液を遮蔽可能な遮蔽手段を用いて噴霧時間を制御する請求項1~11のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項13】
流体を噴霧するためのノズルの噴霧能を評価する評価システムであって、
前記ノズルから噴霧された親水性液体の噴霧液滴を融合させた融合液滴からなる融合液滴群を形成するための非親水性プレートと、
前記融合液滴群における分布状態の均一性を評価することにより、前記ノズルにおける噴霧能を評価するための評価手段とを含む評価システム。
【請求項14】
前記評価手段が、
前記融合液滴群が形成された非親水性プレートに光を照射するための光源と、
前記分布状態を撮影するためのカメラと、
前記カメラで撮影された画像を分析するための画像分析装置とを含む請求項13記載の評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を噴霧するためのノズルにおける噴霧パターンの良否を評価するための評価方法および評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
スプレーの研究において、ノズルで液体を噴霧した状態を評価する装置として、レーザーにより液滴粒子の濃度を測定するための装置を用いた研究が実施されている。特に、液体の噴霧では、噴霧により数μmから数10μm径の微小な液滴が発生し、極めて高濃度の液滴が発生するため、レーザー照射による回折現象を利用した方法等により、液滴分布を測定している。この装置については、レーザーを使用するため、安全上の取扱いや測定準備が煩雑となる上に、レーザーの使用によるエネルギーロスも大きく、装置コストも高いため、検査装置としては、効率性が低いことが問題となっていた。
【0003】
さらに、石油給湯器用バーナー、穀物乾燥用バーナー等、燃料(燃料油)の噴霧用にスプレーノズルが使用されている。これらのスプレーノズルでは、燃焼効率を向上させるために、微粒化性能が求められる。噴霧形状としては、例えば、石油給湯器用バーナーの噴霧では、微粒化性能に有利な中空円錐(ホロコーン)状パターンのスプレー形状が利用されている。
【0004】
燃料油を噴霧するホロコーンノズルの噴霧状態を検査する方法として、水を用いて噴霧量0.3~300ml/minの噴霧パターンを検査する方法が実施されている。燃料油の噴霧では、異なる流量での燃焼のコントロールのため、流量変化に影響されない噴霧パターンの均一性の確保が重要である。噴霧パターンの不良には、(1)パターンの円周上における噴霧の極小領域で、液滴噴霧密度が小さくなる不良や逆に濃くなる不良、(2)パターンの上下、左右で液滴密度が異なる不良等がある。そこで、このような不良を検出するための検査を効率よく行う必要があるが、従来の方法では限界があった。
【0005】
内燃機関のインジェクタに利用される噴射装置の検査方法として、特許第4013236号公報(特許文献1)には、噴霧の進行方向に対して横から光を照射し、その反射光または透過光を撮像部で光電変換して得られた出力を多段階の画素ごとにパラメーター化した後、画像処理することにより、噴霧の濃度分布を検査する方法が開示されている。
【0006】
一方、発光ダイオード(LED)光源発光モジュールの製造過程において、実装基板上に噴霧される撥液剤のスプレーパターンを検査する方法として、特許第6157933号公報(特許文献2)には、スプレー対象基板に、機能性液体をスプレーして形成された機能性膜のスプレーパターンを読み取って得られた画像から、スプレーパターンの偏りやスプレーパターン全体の液滴密度を求め、液滴密度が適正か否かを判定するスプレーパターンの測定方法が開示されている。機能性液体の具体例としては、前記撥液剤に圧縮空気を供給して噴射させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4013236号公報
【特許文献2】特許第6157933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法では、噴霧方向に垂直なパターン上の分布を精度よく評価することが困難であった。また、特許文献2の方法では、パターン全体の密度を評価するのみであって、スプレーパターンの分布状態、例えば、円形パターンの円周方向の分布状態等を評価することはできなかった。なお、特許文献2では、画像処理方法の詳細も記載されていない。
【0009】
さらに、噴霧パターンの均一性には様々な要因が関与しており、例えば、複数の部材を組み立てて得られたノズルでは、部品形状、組み立て方などの要因が複雑に関係している。そのため、噴霧パターンの均一性は、実際にノズルを噴霧することにより評価することが必要であり、簡便で正確な評価方法が求められている。
【0010】
従って、本発明の目的は、高い精度で、噴霧パターンの均一性を簡易に評価できる評価方法および評価システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、流体を噴霧するためのノズルの噴霧能を評価する方法として、前記ノズルから非親水性プレートに向けて親水性液体を噴霧し、前記非親水性プレート上で噴霧液滴を融合させ、生成した融合液滴からなる融合液滴群を前記非親水性プレート上に形成する噴霧工程と、前記融合液滴群における分布状態の均一性に基づいて、前記ノズルにおける噴霧能を評価する評価工程とを組み合わせることにより、高い精度で、噴霧パターンの均一性を簡易に評価できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本開示の評価方法は、流体を噴霧するためのノズルの噴霧能(均一噴霧性)を評価する方法であって、
前記ノズルから非親水性プレートに向けて親水性液体を噴霧し、前記非親水性プレート上で噴霧液滴を融合させ、生成した融合液滴からなる融合液滴群を前記非親水性プレート上に形成する噴霧工程、
前記融合液滴群における分布状態の均一性に基づいて、前記ノズルにおける噴霧能を評価する評価工程とを含む。
【0013】
前記評価工程において、前記非親水性プレートに光を照射し、前記分布状態をカメラで撮影するとともに、得られた撮影画像を画像分析装置で解析処理してもよい。
【0014】
前記噴霧工程において、前記融合液滴の平均径は300~5000μmであってもよい。前記評価工程において、前記融合液滴径に基づいた閾値を設定して噴霧パターンの良否を判定してもよく、特に、所定の融合液滴径を下回る領域の面積を閾値として設定してもよい。前記噴霧工程において、前記親水性液体を噴霧量0.3~300ml/minで0.1~10秒間噴霧してもよい。前記噴霧液滴の平均径は5~100μmであってもよい。前記融合液滴の平均径は、前記噴霧液滴の平均径に対して3~1000倍であってもよい。前記親水性液体は水であってもよい。前記非親水性プレートは、透明または半透明のプレート(例えば、樹脂板または撥水処理ガラス板)であってもよい。前記ノズルは、液体を噴霧するための一流体ノズルであってもよい。前記ノズルはホロコーンノズルであってもよい。前記ノズルはバーナーノズルであってもよい。前記評価方法は、前記噴霧工程の前工程として、ノズルにおける親水性液体の噴霧量、噴霧圧力、噴霧距離、噴霧時間を調整し、平均径が300~5000μmの融合液滴を得ることができる条件を決定する調整工程をさらに含んでいてもよい。前記噴霧工程では、ノズルと非親水性プレートとの間で噴霧液を遮蔽可能な遮蔽手段を用いて噴霧時間を制御してもよい。
【0015】
本開示には、流体を噴霧するためのノズルの噴霧能を評価するシステムであって、
前記ノズルから噴霧された親水性液体の噴霧液滴を融合させた融合液滴からなる融合液滴群を形成するための非親水性プレートと、
前記融合液滴群における分布状態の均一性を評価することにより、前記ノズルにおける噴霧能を評価するための評価手段とを含む評価システムが含まれる。
【0016】
前記評価手段は、前記融合液滴群が形成された非親水性プレートに光を照射するための光源と、前記分布状態を撮影するためのカメラと、前記カメラで撮影された画像を分析するための画像分析装置とを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示では、流体を噴霧するためのノズルの噴霧能を評価する評価方法として、前記ノズルから非親水性プレートに向けて親水性液体を噴霧し、前記非親水性プレート上で噴霧液滴を融合させ、得られた融合液滴からなる融合液滴群を前記非親水性プレート上に形成する噴霧工程と、前記融合液滴群における分布状態の均一性を評価することにより、前記ノズルにおける噴霧能を評価する評価工程とを組み合わせているため、高い精度で、噴霧パターンの均一性を簡易に評価できる。さらに、前記融合液滴群の分布状態をカメラで撮影した画像を画像分析装置で解析処理することにより、高い検査効率で噴霧パターンの良否を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本開示の評価方法の一例において、ノズル噴霧能を判定するためのフローチャートである。
【
図2】
図2は、実施例におけるノズル噴霧能の評価方法を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、実施例におけるサンプル2の融合液滴群の分布状態を撮影した画像である。
【
図4】
図4は、
図3の画像において、1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴を画像処理ソフトで着色した画像である。
【
図5】
図5は、実施例におけるサンプル5の融合液滴群の分布状態を撮影した画像である。
【
図6】
図6は、
図5の画像において、1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴を画像処理ソフトで着色した画像である。
【
図7】
図7は、実施例におけるサンプル1の撮影画像において、1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴を画像処理ソフトで着色し、評価領域と1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴が存在しない領域の角度とを記載した画像である。
【
図8】
図8は、実施例におけるサンプル2の撮影画像において、1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴を画像処理ソフトで着色し、評価領域と1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴が存在しない領域の角度とを記載した画像である。
【
図9】
図9は、実施例におけるサンプル3の撮影画像において、1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴を画像処理ソフトで着色し、評価領域と1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴が存在しない領域の角度とを記載した画像である。
【
図10】
図10は、実施例におけるサンプル4の撮影画像において、1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴を画像処理ソフトで着色し、評価領域と1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴が存在しない領域の角度とを記載した画像である。
【
図11】
図11は、実施例におけるサンプル5の撮影画像において、1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴を画像処理ソフトで着色し、評価領域と1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴が存在しない領域の角度とを記載した画像である。
【
図12】
図12は、実施例におけるサンプル6の撮影画像において、1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴を画像処理ソフトで着色し、評価領域と1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴が存在しない領域の角度とを記載した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示のノズル噴霧能の評価方法は、均一な噴霧パターンを噴霧できるか否かのノズル噴霧能を評価する方法であり、前記噴霧工程と前記評価工程とを含む。
【0020】
[噴霧工程]
噴霧工程では、噴霧能を評価する対象のノズル(スプレーノズル)から非親水性プレートに向けて親水性液体を噴霧し、前記非親水性プレート上で噴霧液滴を融合させ、融合液滴からなる融合液滴群を非親水性プレート上に形成する。
【0021】
(ノズル)
前記ノズルとしては、流体を噴霧するためのノズルであればよく、特に限定されないが、液体を含む流体を噴霧するためのノズルが好ましい。
【0022】
前記ノズルは、液体を噴霧させる一流体ノズルであってもよく、液体と気体(空気)とを噴霧させる二流体ノズルであってもよい。これらのうち、高い精度で噴霧パターンの均一性を評価できる点から、液体を噴霧させる一流体ノズルが好ましい。二流体ノズルの気圧(空気圧)が高圧であったり、流量が多い場合、プレート上の液滴が吹き飛ばされるか、空気流れにより液滴形状が変形、融合等の影響を受け易く、噴霧パターンをプレート上に反映させるのが困難であるのに対して、液体を噴霧するための一流体ノズルでは、噴霧パターンをプレート上に反映させ易い。
【0023】
前記液体としては、用途に応じて、例えば、水、溶媒、オイルなどが挙げられる。前記液体のうち、微小な液滴で噴霧され、本開示の評価方法の効果が大きい点から、燃料油(化石燃料)などのオイルが好ましい。
【0024】
前記ノズルとしては、例えば、バーナーノズル、インクジェットプリンタ用ノズル、加湿または冷却用ノズル、消毒殺菌用または薬剤散布用ノズル、塗油用ノズル、エレクトロニクス分野で使用されるノズル(例えば、基板エッチング用スプレーノズルや基板コーティング用スプレーノズルなど)などが挙げられる。これらのうち、微小な液滴で噴霧され、本開示の評価方法の効果が大きい点から、バーナーノズルが好ましく、石油給湯器用バーナー、穀物乾燥用バーナー等において、燃料油(化石燃料)を噴霧するためのバーナーノズルが特に好ましい。
【0025】
前記ノズルは、噴霧の態様も限定されず、フルコーン(充円錐)ノズル、ホロコーン(空円錐)ノズル、フラット(扇形)ノズルのいずれであってもよい。これらのうち、液滴径が小さく、均一性の評価が困難であり、本開示の評価方法の効果が顕著である点から、ホロコーンノズルが好ましい。
【0026】
前記ノズルの噴霧パターンの形状(外延形状)としては、例えば、円形状、楕円形状、フラットパターン状などが挙げられる。これらのうち、高い精度で簡便に評価できる点から、円形状が好ましい。
【0027】
(親水性液体)
本開示の評価方法では、前記ノズルにおける噴霧パターンの均一性を評価するための流体(評価用流体)として、実際の使用において、前記バーナーノズルなどから噴霧される液体(燃料油など)に代えて、親水性液体を用いる。
【0028】
親水性液体としては、例えば、水、親水性有機溶媒(エタノールやイソプロパノールなどの低級アルコール、アセトンなどのケトン類など)などが挙げられる。親水性液体は、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウムなどの薬剤を含んでいてもよい。これらのうち、簡便性などの点から、水、水を主成分とする親水性有機溶媒との混合溶媒(水性溶媒)、または前記薬剤を含む水溶液が好ましく、水が特に好ましい。燃料油等の疎水性液体の噴霧を評価する場合でも、噴霧の均一性を評価するために親水性液体で代用できる。
【0029】
(非親水性プレート)
非親水性プレートとしては、ノズルから噴霧された親水性液体の噴霧液滴がプレート上で融合して融合液滴を形成可能な程度の非親水性表面を有するプレートであればよい。非親水性プレートの表面が適度な非親水性を有すると、プレート上で衝突した噴霧液滴がプレート上で連続膜を形成するのを抑制でき、周囲の噴霧液滴と適度に融合することにより融合液滴を生成するのを促進する。生成した融合液滴は、前記噴霧液滴よりも液滴径が大きいため、光を照射した画像処理が容易となる。そのため、融合液滴群が形成された非親水性プレートを用いて、高い精度で噴霧パターンの均一性を評価できる。
【0030】
非親水性プレートは、少なくとも表面が非親水性であればよく、少なくとも表面が疎水性である疎水性プレートであってもよく、少なくとも表面が撥水性である撥水性プレートであってもよい。
【0031】
非親水性プレート表面の水接触角(温度26.5℃、湿度25%RH)は30°を超えていればよく、好ましくは35°以上(例えば35~170°)、さらに好ましくは40°以上、より好ましくは50°以上、最も好ましくは60°以上である。疎水性プレートの場合、水接触角は、例えば40~70°、好ましくは50~70°、さらに好ましくは60~70°であってもよい。水接触角が小さすぎると、非親水性プレート上で液滴を形成するのが困難となる虞がある。
【0032】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、水接触角は、慣用の方法、例えば、接触角液滴法で測定できる。
【0033】
非親水性プレートは、有機材料で形成されていてもよく、無機材料で形成されていてもよい。
【0034】
有機材料は、慣用のプラスチックを利用できる。慣用のプラスチックとしては、例えば、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、スチレン系樹脂(ポリスチレン、など)、(メタ)アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリルなど)、塩化ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニルなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレートなど)、ポリカーボネート系樹脂(ビスフェノールA型ポリカーボネートなど)、ポリアミド樹脂(ポリアミド6など)、ポリウレタン、フッ素樹脂などが挙げられる。これらのうち、オレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましく、(メタ)アクリル系樹脂が特に好ましい。
【0035】
無機材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属などが挙げられる。これらのうち、透明性の点から、ガラスが好ましい。ガラスは、表面が疎水処理または撥水処理されたガラスであってもよく、撥水処理されたガラスが特に好ましい。
【0036】
非親水性プレートは、ガラスに限定されず、表面を疎水処理または撥水処理(例えば、撥水剤をコーティングする処理など)することにより、疎水性および撥水性を調整してもよい。
【0037】
非親水性プレートは、後述する評価工程において、光を照射して融合液滴群の分布状態が明確な画像を撮影し易い点から、透明または半透明であるのが好ましく、透明であるのが特に好ましい。
【0038】
非親水性プレートの全光線透過率は、例えば50%以上であってもよく、例えば50~100%、好ましくは60~100%、さらに好ましくは70~100%である。非親水性プレートの全光線透過率が低過ぎると、評価工程での融合液滴群の画像処理が困難となる虞がある。
【0039】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、全光線透過率は、JIS K7361に準拠して測定できる。
【0040】
非親水性プレートの表面は平滑であるのが好ましく、例えば、算術平均表面粗さRaは、例えば10μm以下、好ましくは5μm以下(例えば0.001~5μm)、さらに好ましくは1μm以下(例えば0.005~1μm)、より好ましくは0.5μm以下(例えば0.01~0.5μm)、最も好ましくは0.2μm以下(例えば0.013~0.2μm)である。なお、本明細書および特許請求の範囲において、平均粗さは、JIS B0601(2001)に準拠した方法で測定できる。
【0041】
非親水性プレートの平均厚みは、例えば0.5~10mm、好ましくは1.0~8.0mm、さらに好ましくは1.5~6.0mmである。
【0042】
(噴霧条件)
本開示の評価方法では、前記ノズルの噴霧パターンの均一性を評価するために、前記ノズルから非親水性プレートに向けて親水性液体を噴霧する。
【0043】
噴霧液滴の平均径は1~1000μm程度の範囲から選択できるが、噴霧パターンの均一性を評価するのが困難であり、本開示の方法による効果が大きい点から、例えば3~300μm、好ましくは5~100μm、さらに好ましくは10~80μm、より好ましくは30~70μmである。噴霧液滴の平均径が小さすぎると、融合液滴群の液滴径も小さくなり、均一性の評価が困難となる虞があり、大きすぎると、融合液滴群を調製するのが困難となり、均一性の評価が困難となる虞がある。
【0044】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、噴霧液滴の平均径[ザウター平均粒径(D32)]は、位相ドップラー式レーザー粒子分析計(PDPA)を用いて測定できる。
【0045】
噴霧工程では、噴霧液が非親水性プレートに衝突するとともに、複数の噴霧液滴が融合し、噴霧液滴径よりも大きい液滴径を有する融合液滴を生成させる。そのため、融合液滴の平均径は、前記噴霧液の液滴径よりも大きい。本開示の方法では、融合液滴の平均径を噴霧液の液滴径よりも大きい所定の範囲に調整することにより、液滴の分布状態を解析し易くなり、噴霧パターンの均一性を精度良く簡便に評価できる。
【0046】
融合液滴(非親水性プレートに到達するまでの液滴)の平均径は100μm~10mm程度の範囲から選択でき、例えば300~5000μm、好ましくは500~4000μm、さらに好ましくは700~3500μm、より好ましくは800~3300μm、最も好ましくは1000~3000μmである。融合液滴の平均径が小さすぎると、噴霧パターンの均一性を簡便に評価するのが困難となる虞があり、逆に大きすぎると、融合液滴の分布状態の均一性を判別するのが困難となる上に、噴霧時間が長くなり、検査効率が低下する虞がある。
【0047】
融合液滴の平均径は、噴霧液滴の平均径に対して3倍以上であればよく、例えば3~1000倍、好ましくは5~500倍、さらに好ましくは10~300倍、より好ましくは20~100倍、最も好ましくは30~50倍である。噴霧液滴径に対する融合液滴径の比が小さすぎると、噴霧パターンの均一性を簡便に評価するのが困難となる虞がある。
【0048】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、融合液滴の平均径は、カメラで撮影した画像に基づいて測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。画像処理ソフトを用いた場合、前記平均径は投影円相当径(Heywood径)であってもよい。
【0049】
ノズルの噴霧方向は、非親水性プレート上に安定した融合液滴群を形成し易い点から、重力方向が好ましい。
【0050】
噴霧工程では、親水性液体の噴霧圧力、噴霧量、噴霧距離および噴霧時間は、前記範囲の平均径を有する融合液滴を調製できればよく、特に限定されない。
【0051】
噴霧圧力は0.01~10MPa程度の範囲から選択でき、例えば0.05~8MPa、好ましくは0.1~4MPa、さらに好ましくは0.2~3MPa、より好ましくは0.3~2MPaである。
【0052】
噴霧量は0.1~500ml/min程度の範囲から選択でき、例えば0.3~300ml/min、好ましくは0.5~250ml/min、さらに好ましくは1~200ml/min、より好ましくは3~150ml/min、最も好ましくは5~100ml/minである。
【0053】
噴霧距離(ノズルの吐出孔と非親水性プレートとの最短距離)は10~500mm程度の範囲から選択でき、例えば20~200mm、好ましくは30~150mm、さらに好ましくは40~120mm、より好ましくは50~100mmである。
【0054】
噴霧時間は、噴霧量に応じて0.05秒~1分程度の範囲から選択でき、例えば0.1~20秒、好ましくは0.2~10秒、さらに好ましくは0.2~7秒、より好ましくは0.3~5秒である。
【0055】
噴霧パターンの噴射角度[ホロコーンノズルの場合、ホロコーン状パターン(円錐)におけるテーパー角度(頂角)]は、圧力や用途などに応じて30~150°程度の範囲から選択でき、例えば35~135°、好ましくは40~120°、さらに好ましくは45~110°、より好ましくは50~100°である。
【0056】
本開示の評価方法は、所定の融合液滴径を得るための条件(前記噴霧圧力、噴霧量、噴霧距離、噴霧時間)を決めるために、噴霧工程の前工程として、親水性液体の噴霧量、噴霧圧力、噴霧距離、噴霧時間などを調整する調整工程をさらに含むのが好ましい。
【0057】
前記調整工程および噴霧工程において、噴霧時間を調整するために、ノズルへの親水性液体の導入を停止することにより調整してもよいが、短時間の噴霧時間を精度良く調整できる点から、ノズルと非親水性プレートとの間で噴霧液を遮蔽可能な遮蔽手段を用いることにより調整するのが好ましい。このような遮蔽手段は、瞬時に水平移動して、噴霧液の流路を遮断できれば特に限定されないが、例えば、タイマーを備えたエアーシリンダー、ソレノイドなどを駆動源とするシャッター(遮蔽ブロック)などを利用できる。具体的には、タイマーによってシリンダーなどの駆動源を作動させることにより、噴霧流を遮るための遮蔽具を移動させ、物理的に噴霧液を遮蔽させるシャッターを利用できる。遮蔽具は、プレート状であってもよく、カップ状であってもよい。遮蔽具は、噴霧液の飛散を抑制するために、遮蔽具は、吸水して排水する機能を有してもよい。
【0058】
前記遮蔽手段を用いると、短時間の噴霧時間だけでなく、長時間の噴霧時間でも精度良く噴霧時間を調整できるため、調整工程において、噴霧時間を変化させる場合に特に有効である。さらに、調整工程および噴霧工程において、噴霧時間を短時間にすることにより、短時間での調整および評価が可能となり、検査効率を向上できる。
【0059】
[評価工程]
評価工程では、前記融合液滴群における分布状態の均一性を評価することにより、前記ノズルにおける噴霧能を評価する。すなわち、本開示の方法では、実際にノズルで使用される流体の種類に拘わらず、評価用流体として、親水性液体を用いて得られた融合液滴群の分布状態に基づいて、ノズルの噴霧能を精度良く簡便に評価できる。
【0060】
(カメラ)
前記融合液滴群における分布状態の均一性を評価する方法としては、肉眼で評価してもよいが、精度良く簡便に評価できる点から、カメラで撮影した画像に基づいて評価するのが好ましい。カメラとしては、例えば、CCD(固体撮像素子)カメラ、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)カメラ、レーザカメラ、熱画像カメラ、ステレオビジョンカメラなどが挙げられる。これらのうち、画像処理の速度および精度が高く、安価である点から、CCDカメラ、CMOSカメラなどのデジタルカメラが好ましく、CMOSカメラが特に好ましい。
【0061】
表面に融合液滴群を有する非親水性プレートをカメラで撮影する場合、前記噴霧工程での親水性液体の噴霧後に、前記非親水性プレートをカメラでの撮影箇所に移動させて撮影してもよい。
【0062】
(光源)
カメラでの撮影においては、表面に融合液滴群を有する非親水性プレートに、光源を用いて光を照射して撮影するのが好ましい。前記噴霧工程において、非親水性プレートの上から親水性液体を噴霧した場合、非親水性プレートの上表面に融合液滴群が形成されている。非親水性プレートが半透明または透明である場合、カメラによる前記融合液滴群の撮影は、非親水性プレートの下側から撮影してもよく、上側から撮影してもよいが、画像の識別性が高い点から、上側から撮影するのが好ましい。カメラで上側から撮影する場合、光源は、非親水性プレートの下側に投光器を設置し、非親水性プレートの下側から光を照射して撮影するのが好ましい。さらに、液滴群の画像の明瞭性を向上させるために、光源と非親水性プレートとの間に光拡散板を介在させてもよい。カメラの撮影は、液滴の乾燥や変形を抑制できる点から、噴霧と同時または噴霧後速やかに撮影するのが好ましい。
【0063】
光源としては、例えば、ストロボ光源、タングステン光源、蛍光灯光源、LED光源などが挙げられる。これらのうち、エネルギー効率が高く、長寿命であるため、LED光源が好ましい。
【0064】
(判定方法)
カメラで融合液滴群の画像を撮影した場合、ノズルの噴霧能は、融合液滴群の評価領域を特定し、液滴の数、密度、液滴径などを数値化し、得られた数値を組み合わせて評価できる。さらに、噴霧パターンが円形状である場合は、円周上の液滴間距離(角度)を数値化して前記数値と組み合わせることによりノズル噴霧能を判定してもよい。噴霧能として融合液滴群の分布状態が均一であるか否かについて、市販の画像処理ソフトなどを備えた慣用の画像分析装置を用いて解析してもよい。
【0065】
具体的な判定方法としては、例えば、融合液滴群(親水性液体の噴霧パターン)を複数の領域に等分割し、各領域毎の液滴径分布、液滴径の占有面積、液滴間距離を比較して、それぞれの設定の閾値を決定して、噴霧パターンの均一性の良否を判定する方法などが挙げられる。
【0066】
また、他の判定方法としては、融合液滴径に基づいた閾値を設定する判定方法であってもよい。この方法では、目的の噴霧領域(ホロコーンノズルの場合、ホロコーン状の噴霧パターン)において、噴霧濃度の高い領域で融合液滴径が大きくなる傾向があるため、融合液滴径を比較することにより融合液滴群(親水性液体の噴霧パターン)の分布状態を把握でき、噴霧パターンの均一性を簡易に評価できる。
【0067】
融合液滴径に基づいた閾値を設定する判定方法は、一定液滴径以上の液滴間最長距離で判定する方法であってもよい。特に、噴霧パターンが円形状であるホロコーンノズルの場合、融合液滴径に基づいた閾値を設定する判定方法は、以下のステップ(手順)(1)~(5)で示されたアルゴリズムに基づく方法であってもよい。
【0068】
(1)画像中の融合液滴群における円形領域(融合液滴全体で形成された円形状の領域)を検出し、融合液滴群の中心円周を特定するステップ
(2)中心円周から所定幅を有する評価領域(同心円周)を特定するステップ
(3)評価領域内にある分布不良を判別できる基準液滴径を設定するステップ
(4)前記基準液滴径以上の液滴が存在しない領域を特定するステップ
(5)前記基準液滴径の存在しない領域の面積割合に関する閾値を設定するステップ。
【0069】
ホロコーンノズルの噴霧パターン(ホロコーン状パターン)は、ノズル軸心との交点を中心とする円形状において、中心部が空洞のドーナツ形状であるため、親水性液体で形成された融合液滴群を撮影した画像もドーナツ形状である。
【0070】
前記アルゴリズムのステップ(1)では、まず、ドーナツ形状の融合液滴群の画像において、ノズル軸心との交点を中心とする円形領域を検出する。ドーナツ形状の融合液滴群は、最も噴霧濃度が高く融合液滴群の液滴径が大きい中心円周に対して、外周方向に向かうにつれて前記液滴径が小さくなり、かつ内周方向に向かうにつれて前記液滴径が小さくなる分布構造を有している。中心円周の特定方法は、肉眼で撮影画像を観察することにより、液滴径や液滴密度に基づいて中心円周を決定する方法であってもよく、画像処理ソフトを用いて、半径方向の液滴径の分布や液滴密度の分布(画像中で液滴が占める面積の割合)に基づいて中心円周を決定する方法などであってもよい。また、円形領域の中心は、ノズル中心の垂直真下を中心としてもよい。
【0071】
ステップ(2)では、液滴の分布を評価するための評価領域を特定する。すなわち、中心円周から内周側および外周側にそれぞれ所定の幅を有する評価領域(同心円周で囲まれた領域)を設定し、この評価領域に基づいて融合液滴の分布状態を後述する手順で評価する。評価領域において、中心円周に対する内周側の幅と外周側の幅とは、通常、同一幅であり、例えば、燃料油のバーナーノズルでは、各幅は10mm以下(例えば1~10mm)であってもよく、好ましくは8mm以下(例えば2~8mm)、さらに好ましくは6mm以下(例えば3~6mm)であってもよい。評価領域の特定方法も、肉眼で観察した融合液滴群の液滴径に応じて評価領域を決定する方法であってもよく、画像処理ソフトを用いて半径方向の前記液滴径の分布に基づいて評価領域を決定する方法などであってもよい。
【0072】
ステップ(3)では、評価領域内における融合液滴について、分布不良が判別できる基準液滴径を設定する。基準液滴径の設定方法としては、均一に分布し、かつ融合液滴群の液滴径が大きい領域(大液滴径領域)に含まれる液滴の液滴径と、大液滴径領域以外の領域(小液滴径領域)には含まれる液滴径とを比較して基準液滴径を決定する。詳しくは、大液滴径領域の液滴のうち、小液滴径領域では含まれない液滴径を有する液滴を選択し、選択した液滴のうち、最小の液滴径を基準液滴径とする。なお、明確な基準液滴径を設定できなかった場合は、ステップ(1)に戻って、他のノズルで判定する。判別のための基準液滴径は、ノズルの種類に応じて選択でき、燃料油のバーナーノズルでは、例えば0.5~3mm(特に1~2mm)であってもよい。この領域を特定する方法も、肉眼で観察して決定する方法であってもよく、画像処理ソフトを用いて決定する方法であってもよい。簡便性および精度の点から、画像処理ソフトを用いて決定する方法が好ましい。
【0073】
ステップ(4)では、前記基準液滴径以上の液滴が存在しない領域(小液滴径領域)を、画像処理ソフトなどを用いて特定する。この小液滴径領域を特定する方法も、肉眼で観察して決定する方法であってもよく、画像処理ソフトを用いて決定する方法であってもよい。
【0074】
ステップ(5)では、前記小液滴径領域の面積割合に関する閾値を設定する。小液滴径領域の面積割合は、ドーナツ形状の中心を基準とする扇形状の中心角の角度(前記領域角度)で比較してもよい。すなわち、領域角度が大きいことは、小液滴径領域の面積割合が大きく、噴霧パターンの均一性が低下することを意味する。なお、前記領域角度は、複数の領域が存在する場合は、最大角度を意味する。そのため、前記領域角度を閾値とすると、前記領域角度が大きくなるほど、前記小液滴径領域の面積は大きくなり、噴霧パターンの均一性は低下する。閾値を決定する方法は、用途に応じて、前記領域角度の異なるノズルを実際に運転して比較することにより決定する方法であってもよく、画像処理ソフトなどを用いたシミュレーションなどに基づいて、決定する方法などであってもよい。これらのうち、簡便性の点から、画像処理ソフトを用いて閾値を決定する方法が好ましい。画像処理を用いて閾値を決定する方法としては、例えば、ディープラーニングを用いる方法、機械学習を用いる方法、人工知能(AI)を用いる方法が挙げられ、正確でかつ効率が良い点から、機械学習またはAIを用いる方法が好ましく、AIを用いる方法が特に好ましい。閾値としての前記領域角度は、ノズルの種類に応じて選択でき、燃料油のバーナーノズルでは、例えば30°以下であってもよく、好ましくは20°以下(例えば5~15°)であってもよい。
【0075】
前記アルゴリズムで得られた閾値を基準として、ノズルの噴霧能を評価するためのフローチャートを
図1に示す。本開示の評価方法では、融合液滴群の画像を取得した後は、
図1に示すように、前記アルゴリズムと同様の手順で、小液滴径領域(基準液滴径の液滴が存在しない領域)の面積割合を特定した後、得られた面積割合が閾値内であれば良品と判定する一方で、閾値外であれば不良品と判定できる。
【0076】
[評価システム]
本開示の評価システムは、前記評価方法に使用される非親水性プレートと評価手段との組み合わせであってもよい。すなわち、本開示の評価システムは、ノズルから噴霧された親水性液体の噴霧液滴を融合させた融合液滴からなる融合液滴群を形成するための非親水性プレートと、前記融合液滴群における分布状態の均一性を評価することにより、前記ノズルにおける噴霧能を評価するための評価手段とを含む。前記評価手段は、前記融合液滴群が形成された非親水性プレートに光を照射するための光源と、前記分布状態を撮影するためのカメラと、前記カメラで撮影された画像を分析するための画像分析装置とを含んでいてもよい。
【実施例0077】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、液滴径の測定方法、実施例で使用した機器の詳細、カメラの撮影条件、ノズルの噴霧能を評価した結果を以下に示す。
【0078】
[噴霧液滴の平均径]
噴霧液滴の平均径は、位相ドップラー式レーザー粒子分析計(TSI社製「FSA4000/4W水冷Arレーザー」)を用いて、噴霧域に2本のレーザーを照射して測定した。
【0079】
[使用機器]
疎水性プレート:透明アクリル板(市販のアクリル板)、水接触角64°(温度26.5℃、湿度25%RH)、縦165×横185mm×厚み2mm
光拡散板:乳白色の樹脂板(市販のアクリル樹脂)、縦165×横185mm×厚み2mm
遮蔽ブロック:タイマー(オムロン(株)製H3CA)および遮蔽具(噴霧流を受けて遮蔽するための遮蔽具)を備えたエアシリンダー(SMC社製CDJ2RKA16-100)
カメラ:キヤノン(株)製「EOSKISSX9」、2420万画素
LED投光器:(株)長輝製「10W-LED投光器 DT-11」、12W、850 lm
画像処理ソフト:Mountech Co.,Ltd 製「Mac-View Ver.4」。
【0080】
[撮影条件]
下記条件のカメラを用いて、LED投光器、光拡散板、疎水性プレート、カメラの順に設置し、液滴にピントを合わせて透過投影画像で撮影した。
【0081】
カメラ:一眼レフカメラ
レンズ:EF-S 18-55mm
カメラ設定:ISO感度 ISO400
シャッター速度 1/250
絞り値 F8.0。
【0082】
[ノズル噴霧能の評価]
ノズルとして、特開2002-306992号公報の実施例に記載されたホロコーンノズルを6個作製した。この6個のホロコーンノズルをサンプル1~6として、それぞれ噴霧能を評価した。
図2の(a)に示すように、ノズル1の直下7cmの箇所に、疎水性プレート3として透明アクリル板を設置し、噴射角度71°で水量88ml/min.の水を水圧1.0MPaで0.5秒間加圧噴霧し、疎水性プレート3の上に、融合液滴群2を形成した。アクリル板の噴霧時間については、ノズル1と疎水性プレート3との間を遮蔽可能な遮蔽ブロック4でコントロールした。上記条件の噴霧液滴径を計測したところ、平均液滴径は約60μmであった。
【0083】
図2の(b)に示すように、融合液滴群2を有する疎水性プレート3を水平方向に移動させ、噴霧と反対方向からLED投光器6で照射し、噴霧方向からカメラ5を用いて融合液滴群2の分布状態を撮影した。なお、画像の鮮明性を向上させるために、疎水性プレート3とLED投光器6との間には光拡散板7を介在させた。光拡散板7は、疎水性プレート3と30mmの間隔をあけて配設した。さらに、得られた撮影画像を画像処理ソフトで画像解析し、融合液滴群2の中心円周を決定した後、評価領域として直径60mmの内径と直径70mm外径内の領域を特定した。この領域に含まれる融合液滴の投影円相当径(Heywood径)1.3~3mmの液滴に分類できたため、基準液滴径を1.3mmに決定した。
【0084】
サンプル2の撮影画像を
図3に示すとともに、撮影画像のうち、基準液滴径である1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴を画像処理ソフトで着色した画像を
図4に示す。
図4から明らかなように、評価領域の左斜め下方向に着色の薄い領域があり、その領域では融合液滴径が小さく、融合液滴群の分布状態が不均一であることが観察できる。
【0085】
また、サンプル5の撮影画像を
図5に示すとともに、撮影画像のうち、基準液滴径である1.3mm以上の融合液滴を画像処理ソフトで着色した画像を
図6に示す。
図6から明らかなように、サンプル2に比べて、融合液滴群の分布状態が均一であることが観察できる。
【0086】
サンプル1~6のそれぞれについて、1.3mm以上の液滴が存在しない領域の角度(中心角)を測定した結果を表1に示す。さらに、サンプル1~6のそれぞれの撮影画像に対して、1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴を画像処理ソフトで着色し、評価領域と1.3mm以上の液滴径を有する融合液滴が存在しない領域の角度とを記載した撮影画像を
図7~12に示す。
【0087】
【0088】
1.3mm以上の液滴が存在しない領域角度10°以内を良品として、10°を超えるものを噴霧不良として選別した。すなわち、表1の結果から、このノズルでは、前記角度10°が閾値であり、10°を超えると、噴霧パターンが不均一となり、ノズルの噴霧能が低下することが確認できた。
【0089】
その結果、噴霧パターンの良否判断が適格、かつ迅速に、自動で行えた。1.3mm以下の液滴領域については、噴霧液滴の液滴密度が小さいため、疎水性プレートに衝突後に、疎水性プレート上に、小さい液滴を形成するものと考えられる。本開示の評価方法では、このように、ノズルの流量、噴霧距離、時間と、選別する液滴径を適切に与えることにより、噴霧パターンの良否判断が自動で、正確に、効率よく行うことができる。
本開示の評価方法および評価システムは、流体を噴霧するための各種ノズル、例えば、バーナーノズル、インクジェットプリンタ用ノズル、加湿または冷却用ノズル、消毒殺菌用または薬剤散布用ノズル、塗油用ノズル、エレクトロニクス分野で使用されるノズル(例えば、基板エッチング用スプレーノズルや基板コーティング用スプレーノズルなど)などに利用できる。前記ノズルのうち、微小な液滴を噴霧する用途に効果的であるため、バーナーノズルが好適であり、石油給湯器用バーナー、穀物乾燥用バーナー等において、燃料油を噴霧するためのバーナーノズルが特に好適である。