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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112996
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】軸受用リング部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 53/10 20060101AFI20230807BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20230807BHJP
   B21D 22/30 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
B21D53/10 Z
F16C33/64
B21D22/30 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015070
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】萩原 信行
【テーマコード(参考)】
3J701
4E137
【Fターム(参考)】
3J701AA01
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA63
3J701DA09
3J701EA02
3J701FA44
4E137AA08
4E137AA12
4E137AA18
4E137AA26
4E137BB01
4E137CA07
4E137CA09
4E137CA24
4E137CA26
4E137DA02
4E137DA10
4E137EA01
4E137EA29
4E137GA11
4E137GB20
(57)【要約】
【課題】板状部分を含む部材から歩留まり良く複数の軸受用リング部材を製造することができる軸受用リング部材の製造方法を提供する。
【解決手段】軸受用リング部材の製造方法は、円環板状の第1部分11及び円筒状の第2部分12を有するワーク部材10を用意する用意工程と、第1部分11及び第2部分12を分離させ、第1部分11に対応する円環板状の第1部材21と、第2部分12に対応する円筒状の第2部材22と、を形成する分離工程と、第1部材21をパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させる反転工程と、をこの順に備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環板状の第1部分及び円筒状の第2部分を有するワーク部材を用意する用意工程と、
前記第1部分及び前記第2部分を分離させ、前記第1部分に対応する円環板状の第1部材と、前記第2部分に対応する円筒状の第2部材と、を形成する分離工程と、
前記第1部材をパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させる反転工程と、をこの順に備える、軸受用リング部材の製造方法。
【請求項2】
前記用意工程は、板状の加工部材に絞り加工を施すことにより前記ワーク部材を形成する工程を含む、請求項1に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項3】
前記第2部材にしごき加工を施す工程を更に備える、請求項1又は2に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項4】
前記用意工程で用意される前記ワーク部材は、円環板状の第3部分及び円筒状の第4部分を更に有し、
前記分離工程では、前記第1部分、前記第2部分、前記第3部分及び前記第4部分を分離させ、前記第1部材と、前記第2部材と、前記第3部分に対応する円環板状の第3部材と、前記第4部分に対応する円筒状の第4部材と、を形成し、
前記反転工程では、前記第1部材をパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させると共に、前記第3部材をパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項5】
円環板状の第1部分及び円環板状の第2部分を有するワーク部材を用意する用意工程と、
前記第1部分及び前記第2部分を分離させ、前記第1部分に対応する円環板状の第1部材と、前記第2部分に対応する円環板状の第2部材と、を形成する分離工程と、
前記第1部材をパンチとダイスによって挟み込んで円筒状に変形させると共に、前記第2部材をパンチとダイスによって挟み込んで円筒状に変形させる反転工程と、をこの順に備える、軸受用リング部材の製造方法。
【請求項6】
前記反転工程の後に、前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方を直径が増加する又は減少するように変形させる径調整工程を更に備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項7】
前記径調整工程では、前記第1部材及び前記第2部材の前記少なくとも一方を加熱した後に、前記第1部材及び前記第2部材の前記少なくとも一方を直径が増加するように変形させる、請求項6に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項8】
前記用意工程で用意される前記ワーク部材は、円板状の第5部分を更に有し、
前記分離工程では、前記第1部分、前記第2部分及び前記第5部分を分離させ、前記第1部材と、前記第2部材と、前記第5部分に対応する円板状の第5部材と、を形成する、請求項1~7のいずれか一項に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項9】
前記第5部材から円環板状の第6部分及び円筒状の第7部分を有するワーク部材を形成する工程と、
前記第6部分及び前記第7部分を分離させ、前記第6部分に対応する円環板状の第6部材と、前記第7部分に対応する円筒状の第7部材と、を形成する工程と、
前記第6部材をパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させる工程と、を更に備える、請求項8に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【請求項10】
前記第5部材から円環板状の第6部分及び円環板状の第7部分を有するワーク部材を形成する工程と、
前記第6部分及び前記第7部分を分離させ、前記第6部分に対応する円環板状の第6部材と、前記第7部分に対応する円環板状の第7部材と、を形成する工程と、
前記第6部材をパンチとダイスによって挟み込んで円筒状に変形させると共に、前記第7部材をパンチとダイスによって挟み込んで円筒状に変形させる工程と、を更に備える、請求項8に記載の軸受用リング部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受用リング部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、円柱状の素材を鍛造により所定の形状に成形した後に切断して2つの部材に分離させることにより、1つの素材から軸受の内輪及び外輪を製造する方法が記載されている。以下、このような成形方法を親子取り成形ともいう。特許文献2~4にも、親子取り成形により軸受の内輪及び外輪を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-244983号公報
【特許文献2】特開2007-130673号公報
【特許文献3】特開2016-117079号公報
【特許文献4】特開2000-304054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような親子取り成形では、1つの素材から軸受の内輪及び外輪を製造するため、歩留まりを向上することができる。一方、例えば板状の素材を用いて親子取り成形を行うことができれば、素材の形状の選択の自由度を高めることができる点で有利であると考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、板状部分を含む部材から歩留まり良く複数の軸受用リング部材を製造することができる軸受用リング部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、円環板状の第1部分及び円筒状の第2部分を有するワーク部材を用意する用意工程と、第1部分及び第2部分を分離させ、第1部分に対応する円環板状の第1部材と、第2部分に対応する円筒状の第2部材と、を形成する分離工程と、第1部材をパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させる反転工程と、をこの順に備える。
【0007】
この軸受用リング部材の製造方法では、円環板状の第1部分及び円筒状の第2部分を有するワーク部材から第1部分及び第2部分が分離させられ、第1部分に対応する円環板状の第1部材と、第2部分に対応する円筒状の第2部材と、が形成される。また、第1部材はパンチとダイスとによって挟み込まれて円筒状に変形させられる。これにより、1つのワーク部材から、軸受用リング部材として用いられ得る円筒状の第1部材及び第2部材を形成することができる。よって、この軸受用リング部材の製造方法によれば、板状部分を含む部材から歩留まり良く複数の軸受用リング部材を製造することができる。
【0008】
用意工程は、板状の加工部材に絞り加工を施すことによりワーク部材を形成する工程を含んでいてもよい。この場合、板状の素材から複数の軸受用リング部材を製造することができる。
【0009】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、第2部材にしごき加工を施す工程を更に備えていてもよい。例えば、円環板状の第1部分と円筒状の第2部分とが湾曲部を介して接続されている場合、第1部分及び第2部分を分離させた際に第2部分における第1部分との境界部に湾曲部が残ることがある。第2部材にしごき加工を施すことで、当該湾曲部を真っ直ぐにすることができ、第2部材の真円度を高めることができる。
【0010】
用意工程で用意されるワーク部材は、円環板状の第3部分及び円筒状の第4部分を更に有し、分離工程では、第1部分、第2部分、第3部分及び第4部分を分離させ、第1部材と、第2部材と、第3部分に対応する円環板状の第3部材と、第4部分に対応する円筒状の第4部材と、を形成し、反転工程では、第1部材をパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させると共に、第3部材をパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させてもよい。この場合、1つのワーク部材から、軸受用リング部材として用いられ得る円筒状の第1部材、第2部材、第3部材及び第4部材を形成することができる。
【0011】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、円環板状の第1部分及び円環板状の第2部分を有するワーク部材を用意する用意工程と、第1部分及び第2部分を分離させ、第1部分に対応する円環板状の第1部材と、第2部分に対応する円環板状の第2部材と、を形成する分離工程と、第1部材をパンチとダイスによって挟み込んで円筒状に変形させると共に、第2部材をパンチとダイスによって挟み込んで円筒状に変形させる反転工程と、をこの順に備える。
【0012】
この軸受用リング部材の製造方法では、円環板状の第1部分及び円環板状の第2部分を有するワーク部材から第1部分及び第2部分が分離させられ、第1部分に対応する円環板状の第1部材と、第2部分に対応する円環板状の第2部材と、が形成される。また、第1部材及び第2部材はパンチとダイスとによって挟み込まれて円筒状に変形させられる。これにより、1つのワーク部材から、軸受用リング部材として用いられ得る円筒状の第1部材及び第2部材を形成することができる。よって、この軸受用リング部材の製造方法によれば、板状部分を含む部材から歩留まり良く複数の軸受用リング部材を製造することができる。
【0013】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、反転工程の後に、第1部材及び第2部材の少なくとも一方を直径が増加する又は減少するように変形させる径調整工程を更に備えていてもよい。この場合、第1部材及び第2部材の少なくとも一方の直径を調整することができる。
【0014】
径調整工程では、第1部材及び第2部材の少なくとも一方を加熱した後に、第1部材及び第2部材の少なくとも一方を直径が増加するように変形させてもよい。この場合、直径が増加するように変形させた際に第1部材又は第2部材が周方向の引張り応力により割れてしまう事態を抑制することができる。
【0015】
用意工程で用意されるワーク部材は、円板状の第5部分を更に有し、分離工程では、第1部分、第2部分及び第5部分を分離させ、第1部材と、第2部材と、第5部分に対応する円板状の第5部材と、を形成してもよい。この場合、1つのワーク部材から、円筒状の第1部材及び第2部材に加えて、円板状の第5部材を形成することができる。
【0016】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、第5部材から円環板状の第6部分及び円筒状の第7部分を有するワーク部材を形成する工程と、第6部分及び第7部分を分離させ、第6部分に対応する円環板状の第6部材と、第7部分に対応する円筒状の第7部材と、を形成する工程と、第6部材をパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させる工程と、を更に備えてもよい。この場合、第5部材から円筒状の第6部材及び第7部材を形成することができ、その結果、1つのワーク部材から、軸受用リング部材として用いられ得る円筒状の第1部材、第2部材、第6部材及び第7部材を形成することができる。
【0017】
本発明の軸受用リング部材の製造方法は、第5部材から円環板状の第6部分及び円環板状の第7部分を有するワーク部材を形成する工程と、第6部分及び第7部分を分離させ、第6部分に対応する円環板状の第6部材と、第7部分に対応する円環板状の第7部材と、を形成する工程と、第6部材をパンチとダイスによって挟み込んで円筒状に変形させると共に、第7部材をパンチとダイスによって挟み込んで円筒状に変形させる工程と、を更に備えてもよい。この場合、第5部材から円筒状の第6部材及び第7部材を形成することができ、その結果、1つのワーク部材から、軸受用リング部材として用いられ得る円筒状の第1部材、第2部材、第6部材及び第7部材を形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、板状部分を含む部材から歩留まり良く複数の軸受用リング部材を製造することができる軸受用リング部材の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)~(c)は、実施形態の軸受用リング部材の製造方法を説明するための断面図である。
図2】(a)及び(b)は、実施形態の軸受用リング部材の製造方法を説明するための断面図である。
図3】(a)及び(b)は、実施形態の軸受用リング部材の製造方法を説明するための断面図である。
図4】(a)及び(b)は、実施形態の軸受用リング部材の製造方法を説明するための断面図である。
図5】(a)及び(b)は、反転工程を説明するための断面図である。
図6】(a)及び(b)は、径調整工程を説明するための断面図である。
図7】(a)~(c)は、第1変形例の軸受用リング部材の製造方法を説明するための断面図である。
図8】(a)~(c)は、第2変形例の軸受用リング部材の製造方法を説明するための断面図である。
図9】(a)~(c)は、第3変形例の軸受用リング部材の製造方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0021】
実施形態の軸受用リング部材の製造方法では、図1及び図2に示されるように、加工部材5からワーク部材10が形成され、ワーク部材10から第1リング部材1(図2(b)参照)及び第2リング部材2(図2(b)参照)が形成される。第1リング部材1及び第2リング部材2は、略円筒状の軸受用リング部材である。図1及び図2には、第1リング部材1及び第2リング部材2の軸方向(中心軸CLに平行な方向)と平行な断面が示されている。
【0022】
第1リング部材1は、例えば軸受の内輪又は外輪として用いられ得る。製造された第1リング部材1自体が内輪又は外輪として用いられてもよいし、第1リング部材1に更なる加工が施されることで内輪又は外輪が製造されてもよい。第2リング部材2は、例えば軸受の内輪又は外輪として用いられ得る。製造された第2リング部材2自体が内輪又は外輪として用いられてもよいし、第2リング部材2に更なる加工が施されることで内輪又は外輪が製造されてもよい。この例では、第1リング部材1が軸受の外輪として用いられる外輪用リング部材であり、第2リング部材2が軸受の内輪として用いられる内輪用リング部材であるが、それとは逆に第1リング部材1が内輪用リング部材であり、第2リング部材2が外輪用リング部材であってもよい。或いは、第1リング部材1及び第2リング部材2の両方が内輪用リング部材又は外輪用リング部材であってもよい。
【0023】
第1リング部材1及び第2リング部材2が適用される軸受は、任意の軸受であってよく、例えばニードル軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、玉軸受等であってよい。この例では、第1リング部材1は、円筒状に形成されており、径方向の外側を向いた円筒状の軌道面1aを有している。第2リング部材2は、第1リング部材1よりも小さな直径を有する円筒状に形成されており、径方向の内側を向いた円筒状の軌道面2aを有している。
【0024】
実施形態の軸受用リング部材の製造方法は、用意工程(図1(a)、図1(b))と、分離工程(図1(c))と、反転工程(図2(a))と、径調整工程(図2(b))と、をこの順に備えている。以下、各工程について説明する。
【0025】
用意工程は、ワーク部材10を用意する工程である(図1(a)、図1(b))。ワーク部材10は、円環板状の第1部分11と、円筒状の第2部分12と、円板状の円板部分(第5部分)13と、を有している。第1部分11は、第2部分12における軸方向の一端から径方向の外側に延在している。円板部分13は、第2部分12における軸方向の他端に接続されており、第2部分12の他端側の開口を塞いで第2部分12の底面を構成している。第2部分12は、軸方向に沿って延在しており、第1部分11及び円板部分13は、第2部分12と垂直に径方向に沿って延在している。このように、ワーク部材10は、フランジ付きのカップ形状に形成されている。すなわち、第2部分12及び円板部分13によりカップ部が形成され、第1部分11によりフランジ部が形成されている。
【0026】
用意工程は、加工部材5に絞り加工を施すことによりワーク部材10を形成する絞り工程を含んでいる(図1(b))。この例では、加工部材5は円板状の素材である。絞り工程では、例えば、パンチ及びダイスによって挟み込むことにより、加工部材5を上述したワーク部材10の形状に変形させる。加工部材5は、例えば、板状の金属材料を打ち抜くことにより形成され得る(打ち抜き工程)。すなわち、用意工程は、打ち抜き工程を更に含んでいてもよい。
【0027】
分離工程では、第1部分11、第2部分12及び円板部分13を分離させ、第1部分11に対応する円環板状の第1部材21と、第2部分12に対応する円筒状の第2部材22と、円板部分13に対応する円板状の円板部材(第5部材)23と、を形成する(図1(c))。「第1部分11に対応する円環板状の第1部材21」とは、第1部材21の形状が第1部分11と実質的に同一の円環板状であることを意味する。この例では、第1部材21は、第1部分11と同一の形状を有している。「第2部分12に対応する円筒状の第2部材22」とは、第2部材22の形状が第2部分12と実質的に同一の円筒状であることを意味する。この例では、第2部材22は、後述する湾曲部12a,22aを有しない点を除いて第2部分12と同一の形状を有している。同様に、「部分Aに対応する形状の部材B」とは、部材Bの形状が部分Aと実質的に同一の形状であることを意味する。
【0028】
図3及び図4を参照しつつ、分離工程の詳細を説明する。分離工程では、まず、円板部分13が打ち抜かれて第2部分12から分離され、円板部材23が形成される(図3(a))。円板部材23は、例えばスクラップとして廃棄されてもよいし、後述する第3変形例のように後工程において利用されてもよい。
【0029】
続いて、第2部分12にしごき加工が施される(図3(b))。このように、分離工程は、第2部分12にしごき加工を施す第1しごき工程を含んでいる。第1しごき工程では、第2部分12における円板部分13との境界部に残存している湾曲部12aを真っ直ぐに変形させ、第2部分12における第1部分11とは反対側の端部を真っ直ぐに加工する。第1しごき工程では、例えば、しごき加工用の金型M1,M2によって挟み込むことにより、湾曲部12aを真っ直ぐに変形させる。金型M1,M2の間の隙間は、例えばワーク部材10の厚さよりも小さく設定されているが、しごき加工が可能であれば、ワーク部材10の厚さと等しくてもよいし、ワーク部材10の厚さよりも大きくてもよい。湾曲部12aは、絞り工程によるワーク部材10の形成時に第2部分12と円板部分13との間に形成され得る。
【0030】
続いて、第1部分11と第2部分12とが互いに分離させられ、第1部材21及び第2部材22が形成される(図4(a))。第1部分11と第2部分12とは、例えば打ち抜き加工(プレス加工)により分離させられる。図4(a)には、打ち抜き加工用のパンチP1及びダイスP2が示されている。
【0031】
続いて、第2部材22にしごき加工が施される(図4(b))。このように、分離工程は、第2部材22にしごき加工を施す第2しごき工程を含んでいる。第2しごき工程では、第2部材22における第1部材21(第1部分11)との境界部に残存している湾曲部22aを真っ直ぐに変形させ、第2部材22における第1部材21側の端部を真っ直ぐに加工する。第2しごき工程では、例えば、クリアランスの小さいパンチ及びダイスによって挟み込むことで、湾曲部22aを真っ直ぐに変形させる。湾曲部22aは、絞り工程によるワーク部材10の形成時に第1部分11と第2部分12との間に形成され得る。
【0032】
以上の分離工程により、円環板状の第1部材21と、円筒状の第2部材22と、が得られる。この第2部材22は、第2リング部材2として用いられ得る。分離工程に続く反転工程では、第1部材21に反転加工が施され、第1部材21が円筒状に変形させられる(図2(a))。このように、反転工程では、第1部材21の断面形状が90度回転させられる。
【0033】
図5に示されるように、反転工程では、軸方向における第1側S1に配置されたパンチ40と第1側S1とは反対側の第2側S2に配置されたダイス50とによって第1部材21を挟み込む。パンチ40は、軸方向に平行な軸線を有する略円筒状に形成されている。ダイス50は、軸方向に平行な軸線を有する略円柱状に形成されている。反転工程では、例えば、図5(a)に示される初期状態から図5(b)に示されるようにパンチ40が第2側S2に移動することでパンチ40とダイス50とによって第1部材21が挟み込まれ、円環板状の第1部材21が円筒状に変形する。
【0034】
反転工程に続く径調整工程では、第1部材21を直径が増加するように変形させる(図2(b))。径調整工程は、この例では、第1部材21を加熱する加熱工程と、加熱された第1部材21の直径を増加させる変形工程と、を含んでいる。加熱工程では、図6(a)に示されるように、例えば、コイル60の内側に第1部材21が配置された状態でコイル60に通電することにより、第1部材21を誘導加熱する。加熱温度は、例えば300℃~900℃程度である。
【0035】
変形工程では、図6(b)に示されるように、例えば、傾斜面71を有するパンチ(拡径パンチ)70に第1部材21を通すことにより、第1部材21の直径を増加させる。傾斜面71は、軸方向における第2側S2(第1部材21とは反対側)に向かうにつれて直径が大きくなるように傾斜した円錐台形状の表面である。変形工程では、例えば押し部材75によって第2側S2に向けて押されつつ、第1部材21が傾斜面71上を第2側S2に向けて移動する。押し部材75は、例えば、周方向に沿って並べられた複数のブロック部材75aによって構成されている。各ブロック部材75aは、傾斜面71に沿って移動可能となっている。
【0036】
径調整工程による加工後の第1部材21は、第1リング部材1として用いられ得る。このように、軸受用リング部材の製造方法では、第1リング部材1として用いられ得る第1部材21と、第2リング部材2として用いられ得る第2部材22と、を形成することができる。
[作用及び効果]
【0037】
実施形態の軸受用リング部材の製造方法では、円環板状の第1部分11及び円筒状の第2部分12を有するワーク部材10から第1部分11及び第2部分12が分離させられ、第1部分11に対応する円環板状の第1部材21と、第2部分12に対応する円筒状の第2部材22と、が形成される。また、第1部材21はパンチ40とダイス50とによって挟み込まれて円筒状に変形させられる。これにより、1つのワーク部材10から、軸受用リング部材(第1リング部材1及び第2リング部材2)として用いられ得る円筒状の第1部材21及び第2部材22を形成することができる。よって、実施形態の軸受用リング部材の製造方法によれば、板状部分を含む部材(加工部材5又はワーク部材10)から歩留まり良く複数の軸受用リング部材を製造することができ、その結果、素材の形状の選択の自由度を高めることができる。また、実施形態の軸受用リング部材の製造方法によれば、円柱状等の素材から親子取り成形を行う従来の方法と比べて、低コスト化を図ることができる。すなわち、円柱素材の鍛造としては、主に冷間鍛造と熱間鍛造とがある。冷間鍛造の場合、通常、金型を超硬合金により焼き嵌めで形成する必要があり、金型の加工が複雑であり、コストが高い。また、加工に要する荷重が高く、工程数も多いため、設備が大きくなりやすい。熱間鍛造の場合、工程数は少ないが、加工に要する荷重は高い。また、熱と高荷重のために金型の寿命が短く、設備も大きいものが多いため、コストが高い。更に、熱間鍛造は1200℃程度にまで円柱素材を加熱するため、電気代が高く、ランニングコストや環境負荷がかかる。対して、実施形態の軸受用リング部材の製造方法によれば、板状部材を素材として用いるため、荷重を低くして金型のコストを低減することができると共に設備を小さくすることができ、その結果、低コスト化を図ることができる。
【0038】
用意工程が、板状の加工部材5に絞り加工を施すことによりワーク部材10を形成する工程を含んでいる。これにより、板状の素材から複数の軸受用リング部材を製造することができる。
【0039】
第2部材22にしごき加工を施す第2しごき工程が実施される。上記実施形態では、円環板状の第1部分11と円筒状の第2部分12とが湾曲部22aを介して接続されており、第1部分11及び第2部分12を分離させた後に第2部材22における第1部材21(第1部分11)との境界部に湾曲部22aが残存している。第2部材22にしごき加工を施すことで、湾曲部22aを真っ直ぐにすることができ、第2部材22の真円度を高めることができる。
【0040】
反転工程の後に、第1部材21を直径が増加するように変形させる径調整工程が実施される。これにより、第1部材21の直径を調整することができる。
【0041】
径調整工程では、第1部材21を加熱した後に、第1部材21を直径が増加するように変形させる。これにより、直径が増加するように変形させた際に第1部材21が周方向の引張り応力により割れてしまう事態を抑制することができる。
【0042】
用意工程で用意されるワーク部材10が、円板状の円板部分13(第5部分)を有し、分離工程では、第1部分11、第2部分12及び円板部分13を分離させ、第1部材21と第2部材22と円板部材23とが形成される。これにより、1つのワーク部材10から、円筒状の第1部材21及び第2部材22に加えて、円板状の円板部材23を形成することができる。
[変形例]
【0043】
図7は、第1変形例の軸受用リング部材の製造方法を説明するための断面図である。第1変形例の用意工程で用意されるワーク部材10Aは、円板状の第3部分14と、円筒状の第4部分15と、を更に有している(図7(a))。第4部分15は、第1部分11の外縁から第2部分12とは反対側に延在している。第3部分14は、第4部分15における第1部分11とは反対側の端部から径方向の外側に延在している。第4部分15は、軸方向に沿って延在しており、第3部分14は、第4部分15と垂直に径方向に沿って延在している。このように、ワーク部材10Aは、フランジ付きの2段カップ形状に形成されている。すなわち、第2部分12及び円板部分13により1段目のカップ部が形成され、第1部分11及び第4部分15により2段目のカップ部が形成され、第3部分14によりフランジ部が形成されている。
【0044】
第1変形例の分離工程では、第1部分11、第2部分12、円板部分13、第3部分14及び第4部分15を分離させ、第1部材21と、第2部材22と、円板部材23と、第3部分14に対応する円環板状の第3部材24と、第4部分15に対応する円筒状の第4部材25を形成する(図7(b))。分離された第2部材22及び第4部材25の各々は、例えば内輪用リング部材である第2リング部材2として用いられ得る。
【0045】
第1変形例の反転工程では、第1部材21をパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させると共に、第3部材24をパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させる。(図7(c))。第1部材21を変形させるためのパンチ及びダイスは、第3部材24を変形させるためのパンチ及びダイスとは異なる形状を有していてもよい。反転工程の後には、第1部材21を直径が増加するように変形させると共に、第3部材24を直径が増加するように変形させる径調整工程が実施されてもよい。径調整工程による加工後の第1部材21及び第3部材24の各々は、例えば外輪用リング部材である第1リング部材1として用いられ得る。このように、第1変形例の軸受用リング部材の製造方法では、内輪用リング部材と外輪用リング部材の対を2対形成することができる。
【0046】
このような第1変形例によっても、上記実施形態と同様に、板状部分を含む部材から歩留まり良く複数の軸受用リング部材を製造することができる。また、1つのワーク部材10Aから、軸受用リング部材として用いられ得る円筒状の第1部材21、第2部材22、第3部材24及び第4部材25を形成することができる。
【0047】
図8は、第2変形例の軸受用リング部材の製造方法を説明するための断面図である。第2変形例の用意工程で用意されるワーク部材10Bは、円板状である。すなわち、第2変形例では、用意工程が絞り工程を含んでいない。ワーク部材10Bは、円環板状の外側部分(第1部分)16と、円環板状の内側部分(第2部分)17と、円板状の円板部分13と、を有している(図8(a))。内側部分17は円板部分13を囲んでおり、外側部分16は内側部分17を囲んでいる。外側部分16、内側部分17及び円板部分13は、同一平面上に位置しており、軸方向と垂直に延在している。
【0048】
第2変形例の分離工程では、外側部分16、内側部分17及び円板部分13を分離させ、外側部分16に対応する円環板状の部材(第3部材)26と、内側部分17に対応する円環板状の部材(第4部材)27と、円板部材23と、を形成する(図8(b))。
【0049】
第2変形例の反転工程では、部材26をパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させると共に、部材27をパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させる。(図8(c))。部材26を変形させるためのパンチ及びダイスは、部材27を変形させるためのパンチ及びダイスとは異なる形状を有していてもよい。反転加工後の部材27は、例えば内輪用リング部材である第2リング部材2として用いられ得る。反転工程の後には、部材26を直径が増加するように変形させる径調整工程が実施されてもよい。径調整工程による加工後の部材26は、例えば外輪用リング部材である第1リング部材1として用いられ得る。
【0050】
このような第2変形例によっても、上記実施形態と同様に、板状部分を含む部材から歩留まり良く複数の軸受用リング部材を製造することができる。すなわち、第2変形例の軸受用リング部材の製造方法では、円環板状の外側部分16及び円環板状の内側部分17を有するワーク部材10Bから外側部分16及び内側部分17が分離させられ、外側部分16に対応する円環板状の部材26と、内側部分17に対応する円環板状の部材27と、が形成される。また、部材26,27はパンチとダイスとによって挟み込まれて円筒状に変形させられる。これにより、1つのワーク部材10Bから、軸受用リング部材として用いられ得る円筒状の部材26,27を形成することができる。
【0051】
図9は、第3変形例の軸受用リング部材の製造方法を説明するための断面図である。第3変形例の軸受用リング部材の製造方法では、上記実施形態の分離工程において形成された円板部材23(第5部材)を上記実施形態の用意工程における加工部材5として用いて、実施形態の軸受用リング部材の製造方法を実施する。第3変形例の軸受用リング部材の製造方法では、例えば実施形態の軸受用リング部材の製造方法の実施後に、円板部材23からワーク部材10Cを形成する(図9(b))。ワーク部材10Cは、ワーク部材10Aと相似な形状を有している。すなわち、ワーク部材10Cは、第1部分11に対応する第6部分11Aと、第2部分12に対応する第7部分12Aと、円板部分13に対応する円板部分13Aと、を有している。第6部分11Aは円環板状であり、第7部分12Aは円筒状であり、円板部分13Aは円板状である。
【0052】
続いて、第6部分11A、第7部分12A及び円板部分13Aを分離させ、第6部分11Aに対応する円環板状の第6部材21Aと、第7部分12Aに対応する円筒状の第7部材22Aと、円板部分13Aに対応する円板状の円板部材23Aと、を形成する(図9(b))。分離された第7部材22Aは、例えば内輪用リング部材である第2リング部材2として用いられ得る。続いて、第6部材21Aをパンチとダイスとによって挟み込んで円筒状に変形させる(図9(c))。その後、例えば、第6部材21Aを直径が増加するように変形させる径調整工程が実施されてもよい。径調整工程による加工後の第6部材21Aは、例えば外輪用リング部材である第1リング部材1として用いられ得る。
【0053】
このような第3変形例によっても、上記実施形態と同様に、板状部分を含む部材から歩留まり良く複数の軸受用リング部材を製造することができる。また、円板部材23から円筒状の第6部材21A及び第7部材22Aを形成することができ、その結果、1つのワーク部材10から、軸受用リング部材として用いられ得る円筒状の第1部材21、第2部材22、第6部材21A及び第7部材22Aを形成することができる。したがって、歩留まりを向上して材料費を一層低減することができる。
【0054】
本発明は、上記実施形態及び変形例に限られない。例えば、各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。
【0055】
実施形態の径調整工程では第1部材21を直径が増加させるように変形させたが、径調整工程では、第1部材21の直径を減少させてもよい。直径を減少させる場合、第1部材21を加熱する加熱工程は省略されてもよい。すなわち、第1部材21を直径が減少するように変形させる加工は、冷間で実施されてもよい。直径を減少させる場合には第1部材21に周方向の圧縮応力が作用することから、引張り応力の場合と比べて割れが発生しにくいためである。また、径調整工程では、第1部材21に加えて又は代えて、第2部材22を直径が増加するように又は減少するように変形させてもよい。また、径調整工程は省略されてもよい。
【0056】
第3変形例では実施形態の分離工程において形成された円板部材23が実施形態の用意工程における加工部材5として用いられたが、実施形態の分離工程において形成された円板部材23が第2変形例の用意工程における加工部材5として用いられてもよい。この場合、円板部材23から、円環板状の第6部分11A及び円環板状の第7部分12Aを有するワーク部材が形成される。続いて、第6部分11A及び第7部分12Aが分離させられ、第6部分11Aに対応する円環板状の第6部材21Aと、第7部分12Aに対応する円環板状の第7部材22Aと、が形成される。続いて、第6部材21Aがパンチとダイスによって挟み込んで円筒状に変形させられると共に、第7部材22Aがパンチとダイスによって挟み込んで円筒状に変形させられる。このような変形例によっても、1つのワーク部材10から、軸受用リング部材として用いられ得る円筒状の第1部材21、第2部材22、第6部材21A及び第7部材22Aを形成することができる。或いは、実施形態、第1変形例又は第2変形例の分離工程において形成された円板部材23が、実施形態、第1変形例又は第2変形例の用意工程における加工部材5として用いられてもよい。
【符号の説明】
【0057】
5…加工部材、10,10A,10B,10C…ワーク部材、11…第1部分、12…第2部分、13…円板部分(第5部分)、14…第3部分、15…第4部分、16…外側部分(第1部分)、17…内側部分(第2部分)、11A…第6部分、12A…第7部分、21…第1部材、22…第2部材、21A…第6部材、22A…第7部材、23…円板部材(第5部材)、24…第3部材、25…第4部材、26…部材(第3部材)、27…部材(第4部材)、40…パンチ、50…ダイス。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9