(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011306
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】合成燃料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10J 3/46 20060101AFI20230117BHJP
C10G 2/00 20060101ALI20230117BHJP
C10J 3/00 20060101ALI20230117BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20230117BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230117BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230117BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C10J3/46 J
C10G2/00
C10J3/00 Z
C10J3/46 H
C25B1/23
C25B9/00 Z
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B15/08 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115084
(22)【出願日】2021-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000222174
【氏名又は名称】東洋エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106138
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 政幸
(72)【発明者】
【氏名】神山 慶太
【テーマコード(参考)】
4H129
4K021
【Fターム(参考)】
4H129AA01
4H129BA12
4H129BB07
4H129BC45
4H129KA15
4H129NA21
4H129NA43
4K021AA01
4K021AA09
4K021AB25
4K021BA02
4K021DC01
4K021DC03
4K021DC11
4K021DC15
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の大気中への排出量を低減できる合成燃料の製造方法を提供する。
【解決手段】廃棄物を高温で酸素と水と反応させてガス化するガス化工程(G)と、工程(G)で生成したガス化ガス(1)から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程(S)と、工程(S)で二酸化炭素が分離された合成ガス(2)をフィッシャー・トロプシュ合成して合成燃料を生成するFT合成工程とを有する合成燃料の製造方法において、さらに、工程(S)で分離された二酸化炭素を電気分解して一酸化炭素及び二酸化炭素含む電解ガス(3)を生成する二酸化炭素電解工程(E)を有し、二酸化炭素電解工程(E)において生成した電解ガス(3)を二酸化炭素分離工程(S)に供給し、ガス化ガス(1)及び電解ガス(3)から二酸化炭素を分離することを特徴とする合成燃料の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物と酸素と水とを高温で反応させてガス化し、二酸化炭素、一酸化炭素及び水素を含むガス化ガス(1)を生成するガス化工程(G)と、
少なくともガス化工程(G)において生成したガス化ガス(1)から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程(S)と、
二酸化炭素分離工程(S)において二酸化炭素が分離された合成ガス(2)をフィッシャー・トロプシュ合成して合成燃料を生成するFT合成工程と、
を有する合成燃料の製造方法において、
さらに、二酸化炭素分離工程(S)において分離された二酸化炭素を電気分解して一酸化炭素及び二酸化炭素含む電解ガス(3)を生成する二酸化炭素電解工程(E)を有し、
二酸化炭素電解工程(E)において生成した電解ガス(3)を二酸化炭素分離工程(S)に供給し、ガス化ガス(1)及び電解ガス(3)から二酸化炭素を分離することを特徴とする合成燃料の製造方法。
【請求項2】
さらに、水を電気分解して酸素と水素を生成する水電解工程(WE)を有し、生成した水素をFT合成工程に供給し、生成した酸素をガス化工程(G)に供給する請求項1に記載の合成燃料の製造方法。
【請求項3】
さらに、空気から酸素を分離する酸素分離工程を有し、分離した酸素をガス化工程(G)に供給する請求項1又は2に記載の合成燃料の製造方法。
【請求項4】
既存の合成燃料の製造設備の装置において発生する二酸化炭素の大気中への排出量を低減する為の改良方法であって、
廃棄物と酸素と水とを高温で反応させてガス化し、二酸化炭素、一酸化炭素及び水素を含むガス化ガス(1)を生成するガス化装置(g)と、
少なくともガス化装置(g)において生成したガス化ガス(1)から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離装置(s)と、
二酸化炭素分離装置(s)において二酸化炭素が分離された合成ガス(2)をフィッシャー・トロプシュ合成して合成燃料を生成するFT合成装置と、
を有する既存の合成燃料の製造設備に対して、
二酸化炭素分離装置(s)において分離された二酸化炭素を電気分解して一酸化炭素及び二酸化炭素を含む電解ガス(3)を生成する二酸化炭素電解装置(e)を追加し、
二酸化炭素電解装置(e)において生成した電解ガス(3)を二酸化炭素分離装置(s)に供給し、ガス化ガス(1)及び電解ガス(3)から二酸化炭素を分離することを特徴とする合成燃料の製造設備の改良方法。
【請求項5】
さらに、水を電気分解して酸素と水素を生成する水電解装置(we)を追加し、生成した水素をFT合成装置に供給し、生成した酸素をガス化装置(g)に供給する請求項4に記載の合成燃料の製造設備の改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス等の廃棄物からSAF(Sustainable aviation fuel)やディーゼル燃料等の合成燃料を製造する方法に関し、より詳しくは、廃棄物と酸素と水とを高温で反応させてガス化する際に生成する二酸化炭素の大気中への排出量を低減できる合成燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木質バイオマスやMSW(Municipal Solid Waste、都市ゴミ)等の廃棄物と酸素と水とをガス化炉にて高温で反応させてガス化し、その得られた一酸化炭素及び水素をフィッシャー・トロプシュ(FT)合成して合成燃料を製造する技術が知られている。
【0003】
図2は、従来の合成燃料の製造方法の各工程の一例を示すフロー図である。この
図2に示す方法は、木質バイオマスやMSWなどの廃棄物と酸素と水とを高温で反応させてガス化し、二酸化炭素、一酸化炭素及び水素を含むガス化ガス(1)を生成するガス化工程(G)と、ガス化工程(G)において生成したガス化ガス(1)から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程(S)と、二酸化炭素分離工程(S)において二酸化炭素が分離された合成ガス(2)(一酸化炭素と水素を含むガス)をFT合成して、合成燃料を生成するFT合成工程とを含む。この従来の方法において、二酸化炭素分離工程(S)で分離された二酸化炭素は、通常、大気中に排出される。
【0004】
なお、二酸化炭素を原料の一つとする合成燃料の製造方法として、例えば特許文献1に記載の方法がある。この特許文献1には、二酸化炭素及び水を合成ガス生成セル(固体酸化物電解槽セル)中で共電解することにより一酸化炭素及び水素に変換し、次いでこれを触媒反応器中で炭化水素燃料に変換するプロセスが開示されている。
【0005】
バイオマス等の廃棄物からFT合成によりSAFなどの合成燃料を製造する際の反応式は、以下に代表される。
CpHq+pH2O → pCO+(p+(q/2))H2 (1)
CO+H2O ←→ CO2+H2 (2)
nCO+(2n+1)H2 → CnH2n+2+nH2O (3)
【0006】
以上の反応式(1)は、廃棄物を部分燃焼又は水蒸気ガス化することにより一酸化炭素(CO)及び水素ガス(H2)を生成する反応を表わしている。そして反応式(3)は、一酸化炭素(CO)及び水素ガス(H2)から合成燃料(CnH2n+2)を生成する反応を表わしており、一酸化炭素(CO)の使用量(n)に対する水素ガス(H2)の使用量は2倍以上(2n+1)である。一方、反応式(2)で表わされるように、一酸化炭素及び水(CO+H2O)と二酸化炭素及び水素ガス(CO2+H2)の間にはシフト反応が生じる。その結果、一酸化炭素(CO)の生成量が多い場合は水素ガス(H2)の生成量が少なくなり、逆に水素ガス(H2)の生成量が多い場合は一酸化炭素(CO)の生成量が少なくなる。したがって、水素ガス(H2)の生成量を一酸化炭素の生成量の2倍以上に増やす場合は、その分一酸化炭素(CO)の生成量が減ってしまう。しかも、大気中に排出する二酸化炭素(CO2)の生成量が増えてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図2に示した従来の方法において、二酸化炭素分離工程(S)で分離された二酸化炭素は、通常、大気中に排出される。しかしながら、温室効果ガスの一つである二酸化炭素を大気中に大量に排出することは、地球温暖化防止の観点から好ましくない。そこで本発明者は、二酸化炭素の大気中への排出量を低減する為に、二酸化炭素の有効なリサイクル方法について検討した。
【0009】
すなわち本発明の目的は、二酸化炭素の大気中への排出量を低減できる合成燃料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成する為に鋭意検討した結果、
図2に示した従来の方法に対して二酸化炭素電解工程等の工程を組み合わせ、電気分解により生成した一酸化炭素をFT合成の原料としてリサイクルすることが非常に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の事項により特定される。
【0011】
[1]廃棄物と酸素と水とを高温で反応させてガス化し、二酸化炭素、一酸化炭素及び水素を含むガス化ガス(1)を生成するガス化工程(G)と、
少なくともガス化工程(G)において生成したガス化ガス(1)から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程(S)と、
二酸化炭素分離工程(S)において二酸化炭素が分離された合成ガス(2)をフィッシャー・トロプシュ合成して合成燃料を生成するFT合成工程と、
を有する合成燃料の製造方法において、
さらに、二酸化炭素分離工程(S)において分離された二酸化炭素を電気分解して一酸化炭素及び二酸化炭素含む電解ガス(3)を生成する二酸化炭素電解工程(E)を有し、
二酸化炭素電解工程(E)において生成した電解ガス(3)を二酸化炭素分離工程(S)に供給し、ガス化ガス(1)及び電解ガス(3)から二酸化炭素を分離することを特徴とする合成燃料の製造方法。
【0012】
[2]さらに、水を電気分解して酸素と水素を生成する水電解工程(WE)を有し、生成した水素をFT合成工程に供給し、生成した酸素をガス化工程(G)に供給する[1]に記載の合成燃料の製造方法。
【0013】
[3]さらに、空気から酸素を分離する酸素分離工程を有し、分離した酸素をガス化工程(G)に供給する[1]又は[2]に記載の合成燃料の製造方法。
【0014】
[4]既存の合成燃料の製造設備の装置において発生する二酸化炭素の大気中への排出量を低減する為の改良方法であって、
廃棄物を酸素と水とを高温で反応させてガス化し、二酸化炭素、一酸化炭素及び水素を含むガス化ガス(1)を生成するガス化装置(g)と、
少なくともガス化装置(g)において生成したガス化ガス(1)から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離装置(s)と、
二酸化炭素分離装置(s)において二酸化炭素が分離された合成ガス(2)をフィッシャー・トロプシュ合成して合成燃料を生成するFT合成装置と、
を有する既存の合成燃料の製造設備に対して、
二酸化炭素分離装置(s)において分離された二酸化炭素を電気分解して一酸化炭素及び二酸化炭素含む電解ガス(3)を生成する二酸化炭素電解装置(e)を追加し、
二酸化炭素電解装置(e)において生成した電解ガス(3)を二酸化炭素分離装置(s)に供給し、ガス化ガス(1)及び電解ガス(3)から二酸化炭素を分離することを特徴とする合成燃料の製造設備の改良方法。
【0015】
[5]さらに、水を電気分解して酸素と水素を生成する水電解装置(we)を追加し、生成した水素をFT合成装置に供給し、生成した酸素をガス化装置(g)に供給する[4]に記載の合成燃料の製造設備の改良方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、従来の方法では大気中に排出されていた二酸化炭素の一部を二酸化炭素電解工程(E)において一酸化炭素に還元し、これをFT合成の原料としてリサイクルするので、大気中への二酸化炭素排出量を低減できる。
【0017】
さらに、水を電気分解して生成した水素をFT合成工程に供給することが好ましい。これにより、FT合成工程における原料ガス中の水素の不足分を補うことができる。この場合、水を電気分解して生成した水素のFT合成工程に供給するモル量は、電解ガス(3)中の一酸化炭素のモル量の2倍以上であることが好ましい。これにより、FT合成工程における原料ガスの組成バランスが好適になる。
【0018】
さらに、水を電気分解して生成した酸素をガス化工程(G)に供給することも好ましい。この酸素を廃棄物のガス化に利用することにより、酸素分離工程の負荷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の合成燃料の製造方法の各工程の一例を示すフロー図である。
【
図2】従来の合成燃料の製造方法の各工程の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の合成燃料の製造方法の各工程の一例を示すフロー図である。以下、各工程について説明する。
【0021】
[酸素分離工程]
図1に示す酸素分離工程は、空気から酸素を分離する工程である。この酸素分離工程において分離した酸素は、後述するガス化工程(G)に供給する。
【0022】
この酸素分離工程において空気から酸素を分離する方法としては、代表的には、圧力を調整することにより空気中の酸素以外のガス(窒素等)を吸着剤(例えば合成ゼオライト)に吸着させて、高純度の酸素ガスを得る方法(Vacuum Pressure Swing Adsorption(VPSA)法)が挙げられる。吸着した酸素以外のガス(窒素等)は、大気中に排出すれば良い。その具体的な反応条件、吸着剤の種類や反応装置構成については、酸素分離技術に関する公知の条件、種類及び構成を制限なく採用できる。
【0023】
本発明においては、ガス化工程(G)に供給する為の酸素を得る工程の一つとして、上記のようなVPSA工程を用いることが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されない。VPSA工程に代えて、他の公知の方法(深冷分離法など)によって高純度の酸素ガスを得て、それをガス化工程(G)に供給しても構わない。VPSA工程が経済性の点で有利である場合が多いが、例えば小規模プラントにおいては深冷分離法の方が経済性の点で有利である場合がある。
【0024】
[ガス化工程(G)]
図1に示すガス化工程(G)は、廃棄物と酸素と水とを高温で反応させてガス化し、二酸化炭素、一酸化炭素及び水素を含むガス化ガス(1)[CO
2/CO/H
2]を生成する工程である。このガス化工程(G)において生成したガス化ガス(1)[CO
2/CO/H
2]は、後述する二酸化炭素分離工程(S)に供給する。
【0025】
この工程(G)において廃棄物と酸素と水とを高温で反応させてガス化する方法としては、代表的には、ガス化炉(溶融炉)に廃棄物、酸素及び水を供給し、所定の温度及び圧力で反応させる方法が挙げられる。その具体的な反応条件や反応装置構成については、ガス化技術に関する公知の条件及び構成を制限なく採用できる。例えば、反応温度は通常700℃以上であり、好ましくは800℃~1200℃である。
【0026】
ガス化工程(G)において原料となる廃棄物は、例えば、木質バイオマスやMSW(Municipal Solid Waste、都市ゴミ)である。ただし、本発明はこれに限定されない。例えば草本バイオマス、PKS(Palm Kernel Shell、パーム椰子殻)等の廃棄物も使用可能である。
【0027】
[二酸化炭素分離工程(S)]
図1に示す二酸化炭素分離工程(S)は、ガス化工程(G)において生成したガス化ガス(1)[CO
2/CO/H
2]及び後述する二酸化炭素電解工程(E)において生成した電解ガス(3)[CO
2/CO]から二酸化炭素を分離する工程である。
【0028】
この二酸化炭素分離工程(S)において分離した二酸化炭素は大気中へ排出せずに、後述する二酸化炭素電解工程(E)に供給してリサイクルする。その結果、二酸化炭素の大気中への排出量を低減できる。
【0029】
一方、二酸化炭素が分離された後の合成ガス、すなわち一酸化炭素及び水素を含む合成ガス(2)[CO/H2]は合成燃料の原料として、後述するFT合成工程に供給する。
【0030】
この工程(S)においてガス化ガス(1)及び電解ガス(3)から二酸化炭素を分離する方法としては、代表的には、吸収工程でアミンなどの吸収液に二酸化炭素を吸収させ、再生工程で吸収液を加熱することで二酸化炭素を分離する化学吸収法が挙げられる。その具体的な反応条件や反応装置構成については、二酸化炭素分離技術に関する公知の条件及び構成を制限なく採用できる。
【0031】
[二酸化炭素電解工程(E)]
図1に示す二酸化炭素電解工程(E)は、二酸化炭素分離工程(S)において分離された二酸化炭素を電気分解して一酸化炭素及び二酸化炭素含む電解ガス(3)[CO/CO
2]を生成する工程である。この二酸化炭素電解工程(E)において生成した電解ガス(3)[CO/CO
2]は、二酸化炭素分離工程(S)に戻す。
【0032】
二酸化炭素電解工程(E)は、代表的には、二酸化炭素の一部を電気分解により一酸化炭素に還元する工程である。したがって、生成する電解ガス(3)[CO/CO2]は、代表的には、還元により生成した一酸化炭素と還元されなかった二酸化炭素との混合ガスとなる。その具体的な電解条件や電解装置構成については、二酸化炭素電解技術に関する公知の条件及び構成を制限なく採用できる。
【0033】
この二酸化炭素の一部を電気分解により一酸化炭素に還元する工程は、特許文献1に記載のような方法(二酸化炭素及び水を固体酸化物電解槽セル中で高温(500℃以上)で共電解することにより一酸化炭素及び水素に変換する方法)と比較して、低温(100℃未満)で電気分解が可能であり、析出炭素の電極付着による性能低下の問題も生じないという利点もある。
【0034】
そして、二酸化炭素電解工程(E)で生成した電解ガス(3)を二酸化炭素分離工程(S)に戻すことにより、電解ガス(3)[CO/CO2]中の一酸化炭素は合成燃料の原料の一部になる。
【0035】
なお、二酸化炭素電解工程(E)で処理した後の一部の二酸化炭素は大気へ排出することが好ましい。その理由は、系内に窒素などの不活性ガスが蓄積するのを防ぐためである。ただし、この工程において大気へ排出する二酸化炭素の排出量は、
図1に示した従来の方法における排出量(すなわち二酸化炭素分離工程(S)において分離した全ての二酸化炭素の量)と比較すると、極めて少ない量である。したがって本発明によれば、従来の方法と比較して二酸化炭素の排出量を十分低減できる。
【0036】
二酸化炭素電解工程(E)には再生可能エネルギーによって発電された電力(再エネ電力)を使用することが好ましい。再生可能エネルギーとは、太陽光、風力、地熱、水力等の自然界に常に存在するエネルギーであり、発電の際に二酸化炭素を排出しないという特徴がある。この再エネ電力を二酸化炭素電解工程(E)に使用することは、二酸化炭素の排出量を低減するという本発明の目的に沿うことになる。
【0037】
[水電解工程(WE)]
図1に示す水電解工程(WE)は、水を電気分解して酸素と水素を生成する工程である。この工程(WE)における具体的な電解条件や電解装置構成については、水電解技術に関する公知の条件及び構成を制限なく採用できる。
【0038】
水電解工程(WE)においては、生成した水素を後述するFT合成工程に供給する。これにより、FT合成工程における原料ガス中の水素の不足分を補うことができる。水電解工程(WE)で生成した水素のFT合成工程に供給するモル量は、電解ガス(3)中の一酸化炭素のモル量の2倍以上であることが好ましい。これにより、FT合成工程における原料ガスの組成バランスが好適になる。
【0039】
一方、水電解工程(WE)において生成した酸素は、ガス化工程(G)に供給する。この酸素を廃棄物のガス化に利用することにより、酸素分離工程の負荷を低減できる。
【0040】
水電解工程(WE)には、先に説明した二酸化炭素電解工程(E)の場合と同様に、再生可能エネルギーによって発電された電力を使用することが好ましい。
【0041】
本発明においては、以上説明した水電解工程(WE)をFT合成工程に供給する水素を生成する工程の一つとして用いることが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されない。水電解工程(WE)に代えて、他の公知の方法によって水素を生成し、それをFT合成工程に供給しても構わない。
【0042】
[FT合成工程]
図1に示すFT合成工程は、二酸化炭素分離工程(S)において二酸化炭素が分離された合成ガス(2)、すなわち一酸化炭素及び水素を含む合成ガス(2)[CO/H
2]をフィッシャー・トロプシュ(FT)合成して、合成燃料を生成する工程である。
【0043】
フィッシャー・トロプシュ(FT)合成とは、触媒反応により一酸化炭素と水素から合成燃料(ガスおよび液体炭化水素)を得る合成法である。触媒としては、鉄やコバルトの化合物が通常使用される。このFT合成における具体的な反応条件、触媒の種類や反応装置構成については、FT合成技術に関する公知の条件、種類及び構成を制限なく採用できる。
【0044】
このFT合成工程により、SAF(Sustainable aviation fuel)及びその他の合成燃料が得られる。その他の合成燃料としては、例えば灯油、ディーゼル、ナフサなどが挙げられる。また、合成時に生じたガス留分は、燃料ガスとして使用するか、フレアなどで燃焼させオフガスとして大気に放出する。
【0045】
[合成燃料の製造設備の改良方法]
以上説明した本発明の合成燃料の製造方法は、各工程を実施する為の各装置を全て新たに建造することによって実施できる。ただし、既存の製造設備に対して二酸化炭素電解装置及び必要に応じてその他の装置(例えば水電解装置)を追加することによっても実施できる。
【0046】
すなわち、本発明の合成燃料の製造設備の改良方法は、既存の合成燃料の製造設備の装置において発生する二酸化炭素の大気中への排出量を低減する為の改良方法であって、廃棄物と酸素と水とを高温で反応させてガス化し、二酸化炭素、一酸化炭素及び水素を含むガス化ガス(1)を生成するガス化装置(g)と、少なくともガス化装置(g)において生成したガス化ガス(1)から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離装置(s)と、二酸化炭素分離装置(s)において二酸化炭素が分離された合成ガス(2)をフィッシャー・トロプシュ合成して合成燃料を生成するFT合成装置と、を有する既存の合成燃料の製造設備に対して、二酸化炭素分離装置(s)において分離された二酸化炭素を電気分解して一酸化炭素及び二酸化炭素含む電解ガス(3)を生成する二酸化炭素電解装置(e)を追加し、二酸化炭素電解装置(e)において生成した電解ガス(3)を二酸化炭素分離装置(s)に供給し、ガス化ガス(1)及び電解ガス(3)から二酸化炭素を分離することを特徴とする合成燃料の製造設備の改良方法である。
【0047】
さらに、この改良方法においては、水を電気分解して酸素と水素を生成する水電解装置(we)を追加し、生成した水素をFT合成装置に供給することが好ましい。この場合、水電解装置(we)で生成した水素のFT合成装置に供給するモル量は、電解ガス(3)中の一酸化炭素のモル量の2倍以上であることが好ましい。また、水電解装置(we)で生成した酸素をガス化装置(g)に供給することも好ましい。
【0048】
このように既存の製造設備に対して二酸化炭素電解装置等の装置を追加することは、新規に全ての設備を建造する場合に比べて設備コストの点で有利である。さらに、既存の製造設備では排出していた二酸化炭素を有効利用することで、合成燃料の製造量を増大できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、廃棄物から合成燃料を製造する際に生成する二酸化炭素をリサイクルし、二酸化炭素の大気中への排出量を低減できるので、地球温暖化防止の観点から非常に有用である。
【符号の説明】
【0050】
(G) ガス化工程
(S) 二酸化炭素分離工程
(E) 二酸化炭素電解工程
(WE) 水電解工程