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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113067
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】既存杭の撤去及び埋戻し方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 9/02 20060101AFI20230807BHJP
【FI】
E02D9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015200
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田屋 裕司
(72)【発明者】
【氏名】清塘 悠
(72)【発明者】
【氏名】原田 政幸
(72)【発明者】
【氏名】上田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】土屋 富男
(72)【発明者】
【氏名】水島 和浩
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】小川 大生
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050AA02
2D050CB03
2D050DA02
2D050DA03
(57)【要約】
【課題】埋戻し部の空洞化や未固化部分の発生を抑制することができる既存杭の撤去及び埋戻し方法を提供する。
【解決手段】既存杭の撤去及び埋戻し方法は、原地盤100に埋設された既存杭10の周囲をケーシング12で削孔し、周辺地盤102と既存杭10を縁切りして、既存杭10を引き抜く撤去工程と、既存杭10を引き抜いた後の杭孔50へオーガーロッド20を用いて、セメントベントナイト水120を注入しながら周辺土塊110を混合撹拌して埋め戻しする埋戻し工程と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に埋設された既存杭の周囲をケーシングで削孔し、周辺土塊と前記既存杭を縁切りして、前記既存杭を引き抜く撤去工程と、
前記既存杭を引き抜いた後の杭抜き孔へオーガーロッドを用いて、セメントミルク又は前記セメントミルクに添加剤を加えた液を注入しながら周辺土塊を混合撹拌して埋め戻しする埋戻し工程と、
を有する既存杭の撤去及び埋戻し方法。
【請求項2】
前記杭抜き孔の体積Aと前記既存杭の引き抜き後に前記混合撹拌する範囲の杭周土塊の体積Bとの比をA/Bとしたとき、A/Bは、0.25以上1.00以下である請求項1に記載の既存杭の撤去及び埋戻し方法。
【請求項3】
前記撤去工程で前記既存杭を引き抜くとき水を投入し、
前記撤去工程と前記埋戻し工程を別の日に施工する場合は、前記埋戻し工程を行う前、又は前記埋戻し工程の途中に、前記オーガーロッドを用いて、前記杭抜き孔の深さ方向に反復撹拌する、請求項1又は請求項2に記載の既存杭の撤去及び埋戻し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存杭の撤去及び埋戻し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既存杭の撤去方法が提案されている。下記特許文献1に記載の既存杭の撤去方法では、既存杭の周囲にケーシングを挿入し、ケーシング内の既存杭を上部から破砕し、破砕ガラ混合物をオーガースクリューにより地上へ運び、オーガー上部の排出口から地上に排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-163213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の既存杭の撤去方法では、既存杭を破砕するため、作業が煩雑となる。このため、既存杭を破砕せずに引き抜く工法が望まれる。
例えば、既存杭の周囲をケーシングで削孔し、ケーシングを引き抜いた後、充填材を注入しながら既存杭を引き抜く工法が考えられる。しかし、この工法では、既存杭の引き抜き後の地中に空洞化や未固化部分が発生する可能性がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、埋戻し部の空洞化や未固化部分の発生を抑制することができる既存杭の撤去及び埋戻し方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様に記載の既存杭の撤去及び埋戻し方法は、地盤に埋設された既存杭の周囲をケーシングで削孔し、周辺土塊と前記既存杭を縁切りして、前記既存杭を引き抜く撤去工程と、前記既存杭を引き抜いた後の杭抜き孔へオーガーロッドを用いて、セメントミルク又は前記セメントミルクに添加剤を加えた液を注入しながら周辺土塊を混合撹拌して埋め戻しする埋戻し工程と、を有する。
【0007】
第1態様に記載の既存杭の撤去及び埋戻し方法によれば、地盤に埋設された既存杭の周囲をケーシングで削孔し、周辺土塊と既存杭を縁切りして、既存杭を引き抜く。さらに、既存杭を引き抜いた後の杭抜き孔へオーガーロッドを用いて、セメントミルク又はセメントミルクに添加剤を加えた液を注入しながら周辺土塊を混合撹拌して埋め戻しする。このため、埋戻し部の空洞化や未固化部分が発生せず、深さ方向に均一な強度の埋戻し地盤を造成できる。
【0008】
第2態様に記載の既存杭の撤去及び埋戻し方法は、第1態様に記載の既存杭の撤去及び埋戻し方法において、前記杭抜き孔の体積Aと前記既存杭の引き抜き後に前記混合撹拌する範囲の杭周土塊の体積Bとの比をA/Bとしたとき、A/Bは、0.25以上1.00以下である。
【0009】
第2態様に記載の既存杭の撤去及び埋戻し方法によれば、杭抜き孔の体積Aと既存杭の引き抜き後に撹拌する範囲の杭周土塊の体積Bとの比A/Bを、0.25以上1.00以下とすることで、埋め戻した地盤の強度が所望の埋戻し強度となり、その後、新設杭の偏心及び傾斜トラブルを低減できる。
すなわち、体積Aと体積Bとの比A/Bが0.25より小さいと、埋戻し地盤の強度が高くなり、新設杭が埋戻し地盤から逃げて偏心及び傾斜する可能性がある。また、体積Aと体積Bとの比A/Bが1.00より大きいと、埋戻し地盤の強度が低くなり、新設杭が埋戻し地盤へ寄ってきて偏心及び傾斜する可能性がある。
【0010】
第3態様に記載の既存杭の撤去及び埋戻し方法は、第1態様又は第2態様に記載の既存杭の撤去及び埋戻し方法において、前記撤去工程で前記既存杭を引き抜くとき水を投入し、前記撤去工程と前記埋戻し工程を別の日に施工する場合は、前記埋戻し工程を行う前、又は前記埋戻し工程の途中に、前記オーガーロッドを用いて、前記杭抜き孔の深さ方向に反復撹拌する。
【0011】
第3態様に記載の既存杭の撤去及び埋戻し方法によれば、既存杭を引き抜いた後に既存杭の周囲の土塊の剥離又は沈降により泥土分布の偏在が生じても、埋戻し工程を行う前又は埋戻し工程の途中に、オーガーロッドを用いて、杭抜き孔の深さ方向に反復撹拌することで、埋め戻した地盤の強度の深さ方向のばらつきを抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、埋戻し部の空洞化や未固化部分の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法が適用される工程を(A)~(F)に順番に示す工程図である。
図2】(A)は、杭孔の体積Aと既存杭の引き抜き後に混合撹拌する範囲の杭周土塊の体積Bとを説明する斜視図であり、(B)は、杭孔の体積Aと杭周土塊の体積Bとを説明する平面図である。
図3】(A)は、杭孔と杭周土塊との体積比A/Bを第1所定値としたときに、埋戻地盤を採取した試料の深度と一軸圧縮強度との関係を示すグラフであり、(B)は、杭孔と杭周土塊との体積比A/Bを第2所定値としたときに、埋戻地盤を採取した試料の深度と一軸圧縮強度との関係を示すグラフである。
図4】埋戻地盤の強度と、杭孔と杭周土塊の体積比A/Bとの関係を示すグラフである。
図5】(A)は、新設杭の掘削ロッドの偏心量を計測する方法を示す図であり、(B)は、掘削ロッドの芯の変位量と、新設杭の掘削部と既存杭の埋戻地盤とのラップ率との関係を示すグラフである。
図6】(A)は埋戻地盤の強度特性が周辺地盤の強度特性よりも大き過ぎて掘削精度を保持できない施工トラブルの掘削ロッドの動きを説明する説明図であり、(B)は埋戻地盤の強度特性が周辺地盤の強度特性よりも小さ過ぎて掘削精度を保持できない施工トラブルの掘削ロッドの動きを説明する説明図である。
図7】第1実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法のサイクルタイムの一例を示す図である。
図8】第2実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法のサイクルタイムの一例を示す図である。
図9】既存杭の撤去工程と埋戻し工程を別の日に施工した場合に、埋戻地盤を採取した試料の深度と一軸圧縮強度との関係を示すグラフである。
図10】第3実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法のサイクルタイムの一例を示す図である。
図11】比較例の既存杭の撤去方法が適用される工程を(A)~(F)に順番に示す工程図である。
図12】(A)は、比較例の既存杭の撤去方法において、既存杭を撤去する工程を示す断面図であり、(B)は、既存杭を撤去した後の状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。各図面において、本発明と関連性の低いものは図示を省略している。
【0015】
<第1実施形態>
第1実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法について説明する。
【0016】
[既存杭の撤去及び埋戻しの工程]
図1には、第1実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法が適用される工程が順番に示されている。
【0017】
図1(A)に示すように、原地盤100には既存杭10が埋設されている。原地盤100は、地盤の一例である。図1(B)に示すように、この埋設されている既存杭10の周囲に筒状のケーシング12を挿入し、既存杭10と周辺地盤102との縁切りを行う。なわち、既存杭10の周囲をケーシング12で削孔する。周辺地盤102は、周辺土塊の一例である。
【0018】
図1(C)及び図1(D)に示すように、ケーシング12を引き抜いた後に、ワイヤー20等を用いて既存杭10を引き抜く(撤去工程)。なお、既存杭10の周囲の周辺地盤102には、ケーシング12を引き抜いた筒状部分104が形成されている。既存杭10を引き抜く際、負圧発生による杭孔50の壁52の崩壊等を防ぐため、杭孔50内の水位が一定となるように、水124を投入しながら既存杭10を引き抜く(図1(D)参照)。杭孔50は、杭抜き孔の一例である。
【0019】
例えば、水124は、杭孔50の上方から供給チューブ125を用いて杭孔50内に投入(すなわち、注入)する。既存杭10を引き抜くときに杭孔50の水位が低下すると、孔内土水圧が孔外土水圧(杭孔50の外側の土水圧)よりも小さくなり、杭孔50の壁52の崩壊やボイリング等が発生する虞が高くなる。このため、既存杭10を引き抜くときに、孔内土水圧と孔外土水圧とが同じになるように、杭孔50に水を充填するようにしている。
【0020】
図1(E)及び図1(F)に示すように、セメントベントナイト水(以下、CB液という)120を注入しながら、オーガーロッド200で筒状部分104付近の杭周土塊110(図1(E)参照)と杭孔50に充填された水124とを混合撹拌して埋め戻す。これにより、埋戻地盤130(図1(F)参照)を構築する(埋戻し工程)。例えば、CB液120は、オーガーロッド200の先端部から注入する。
【0021】
CB液120は、ベントナイトとセメントと水とを所定の割合で混合した液体である。ベントナイトは粘性があり、CB液のブリージングを抑制するために付与される。ここで、CB液120は、セメントミルクに添加剤を加えた液の一例である。セメントミルクとは、セメントと水を練り混ぜたものである。ベントナイトは、添加剤の一例である。なお、その他の添加剤として、増粘剤又はソーダ灰等を用いてもよい。
【0022】
本実施形態では、既存杭10の周囲の土壌であって、ケーシング12を引き抜いた筒状部分104付近を含んだ土壌を、杭周土塊110とする。杭周土塊110は、オーガーロッド200(図1(E)及び図1(F)参照)で撹拌混合する地盤である。オーガーロッド200のオーガー径(突出部分の外径)は、ケーシング12の外径と同等又はケーシング12の外径以上に設定されている。一例として、オーガーロッド200のオーガー径は、ケーシング12の外径以上に設定されており、杭周土塊110の外径は、ケーシング12を引き抜いた筒状部分104の外径以上となっている図1(E)参照)。なお、杭周土塊110と杭孔50に充填された水124とを攪拌混合したものを泥土150(図1(E)参照)とする。
【0023】
[施工サイクルタイムの一例]
次に、本実施形態の施工サイクルタイムの一例について説明する。図7に示すように、本実施形態では、既存杭10の周囲のケーシング12の削孔及び引き上げ、水投入による既存杭10の引き抜きの後、CB液120を注入しながらオーガーロッド200で混合撹拌して埋め戻す(図1(B)~(F)参照)。図7に示す例では、例えば、原地盤100に埋設された既存杭10の先端深度は、20m程度である。
【0024】
図7には、比較例の施工サイクルタイムの一例が示されている。この比較例は、図11に示す比較例の既存杭の撤去方法と同様である。ここで、比較例の既存杭の撤去方法について簡単に説明する。図11(A)に示すように、原地盤100には既存杭10が埋設されている。図11(B)に示すように、既存杭10の周囲をケーシング12で削孔し、既存杭10と周辺地盤102との縁切りを行う。図11(C)に示すように、ケーシング12を引き抜き、その後、図11(D)に示すように、ケーシング12を用いて既存杭10にワイヤー20をセットする。そして、図11(E)及び図11(F)に示すように、充填材500を注入しながら、既存杭10を引き抜く。これにより、既存杭10の撤去が完了する。この比較例の既存杭の撤去方法については、後に説明する。
【0025】
図7に示すように、比較例の既存杭の撤去方法では、既存杭10の周囲のケーシング12の削孔及び引き上げ、充填材500の投入による既存杭10の引き抜きを行っており、作業時間の合計は、約2.8時間である。
【0026】
これに対し、本実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、既存杭10の引き抜き後に、埋戻し工程(図1(E)及び(F)参照)が付加されており、施工時間が比較例の施工時間よりも長くなる。本実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、すべての工程(図1(B)~(F)参照)を1日(すなわち、同日)に行う。作業時間の合計は、約4.9時間である。
【0027】
[杭抜き孔の体積と杭周土塊の体積との比]
次に、図1(E)の工程で杭孔50の体積と杭周土塊110の体積との比について説明する。
【0028】
図2(A)に示すように、オーガーロッド200(図1(E)参照)で撹拌混合する範囲の地盤の体積は、杭孔50の体積A及び杭周土塊110の体積Bを加えた体積である。例えば、既存杭10の杭径φ1とオーガーロッド200のオーガー径φ2とから、杭孔50の体積Aと杭周土塊110の体積Bとを求める。図2(A)では、既存杭10の杭径φ1は、上下方向で同等であり、オーガー径φ2は、上下方向で同等であるが、これに限定されず、上下方向で変化していてもよい。
【0029】
さらに、杭孔50の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの比である体積比A/Bを求める(図2(B)参照)。
【0030】
埋戻地盤130の改良強度に及ぼす影響因子として、杭孔50の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bが与える影響について確認する実験を行った。図3(A)、(B)は、杭孔50と杭周土塊110との体積比A/Bを変えたときの埋戻地盤130を採取した試料の深度と一軸圧縮強度との関係を示すグラフである。図3(A)では、採取した試料No.1~No.6について、埋戻地盤130の強度の深度分布を示している。図3(B)では、採取した試料No.7~No.11について、埋戻地盤130の強度の深度分布を示している。
【0031】
図3(A)では、杭孔50と杭周土塊110との体積比A/Bを0.66~0.80とし、CB液120の配合は水セメント比(w/c)を250%とする。図3(A)に示すように、埋戻地盤130の強度の深度分布は、200~600kN/mである。これに対し、図3(B)では、杭孔50と杭周土塊110との体積比A/Bを0.33~0.45とし、CB液120の配合は水セメント比(w/c)を350%とする。図3(B)に示すように、セメント量が少ない配合にもかかわらず、埋戻地盤130の強度の深度分布は、300~800kN/mと2倍程度に増加する。このため、埋戻地盤130の改良強度に及ぼす影響因子として、杭孔50の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bの影響が大きいことが分かる。
【0032】
次に、図3(A)と同じ施工現場で採取した沖積粘性土に対し、杭孔50の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bがソイルセメント強度に及ぼす影響について、CB液120の水セメント比(w/c)を変化させて確認する室内配合実験を行った。CB液120の配合は、水セメント比(w/c)を250~600%、ベントナイトセメント比(B/c)を10~20%とする。この実験では、CB液120の注入率、すなわち埋戻地盤130に対するCB液120の体積割合(p)を50~100%に変化させた。
【0033】
図4は、一例として、CB液120の注入率を75%とした場合の体積比A/Bと埋戻地盤130の強度(改良強度)quとの関係を示すグラフである。図4に示すように、CB液120の水セメント比によって差はあるものの、体積比A/Bが小さくなると、埋戻地盤130の強度quは著しく増加することが分かる。
【0034】
埋戻地盤130の強度quは、図6に示す新設杭の掘削ロッドの偏心トラブルが発生しにくいという観点から、200kN/m以上400kN/m以下が好ましい。このため、図4に示すグラフから、埋戻地盤130の強度quが上記範囲となるように、杭孔50の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bを設定することが好ましい。このような観点から、杭孔50の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bは、0.25以上1.00以下であることが好ましく、0.30以上0.95以下であることがより好ましく、0.35以上0.90以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、杭孔50の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bは、0.25以上1.00以下に設定する。
【0035】
ここで、埋戻地盤130の近傍に新しく新設杭を打つために掘削ロッド220で掘削する際の掘削ロッド220の偏心トラブルについて説明する。図6(A)に示すように、埋戻地盤130の強度特性が周辺地盤102の強度特性よりも大きい場合、埋戻地盤130の近傍を掘削ロッド220で掘削すると、掘削ロッド220が埋戻地盤130から逸れて削孔精度が落ちてしまう虞がある。或いは、図6(B)のように埋戻地盤130の強度特性が周辺地盤102の強度特性よりも小さい場合、埋戻地盤130の近傍を掘削ロッド220で掘削すると、掘削ロッド220が埋戻地盤130に寄って削孔精度が落ちていく虞がある。
【0036】
図5(A)は、埋戻地盤130の近傍を掘削ロッド220で掘削する際に、掘削ロッド220の変位量を計測する方法を示す図である。図5(A)に示すように、掘削ロッド220で掘削される掘削部160の上部付近の掘削ロッド220の芯(掘削芯)の変位を測定装置230で計測することで、掘削ロッド220の変位量(すなわち、掘削ロッド220の偏心量)を計測する。
【0037】
図5(B)は、新設杭の掘削部160と埋戻地盤130のラップ率と、掘削ロッド220(掘削芯)の変位量との関係を示すグラフである。ラップ率は、「新設杭の掘削部と埋戻地盤130のラップ量/新設杭の掘削径×100」の式で求めた値である。
【0038】
図5(B)に示すように、本実施形態では、掘削ロッド220の変位量が許容値以内となることが確認された。本実施形態では、杭孔50の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bは、0.25以上1.00以下に設定されていることで、埋戻地盤130の強度quを200kN/m以上400kN/m以下に制御でき、掘削ロッド220の偏心トラブルが抑制されると考えらえる。
【0039】
<作用及び効果>
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0040】
本実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法は、原地盤100に埋設された既存杭10の周囲をケーシング12で削孔し、周辺地盤102と既存杭10を縁切りして、既存杭10を引き抜く撤去工程を有する(図1(A)~(D)参照)。さらに、本実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法は、既存杭10を引き抜いた後の杭孔50へオーガーロッド200を用いて、CB液120を注入しながら杭周土塊110と杭孔50に充填された水124とを混合撹拌して埋め戻しする埋戻し工程を有する(図1(E)及び図1(F)参照)。
【0041】
このため、本実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、オーガーロッド200を用いて混合撹拌して埋め戻した埋戻地盤130の空洞化や未固化部分が発生しにくく、深さ方向に均一な強度の埋戻地盤130を造成できる。
【0042】
また、本実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、杭孔50の体積Aと既存杭10の引き抜き後に混合撹拌する範囲の杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bは、0.25以上1.00以下である。
【0043】
このため、本実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、杭孔50の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bを、0.25以上1.00以下とすることで、埋戻地盤130の強度が所望の埋戻し強度となり、その後、新設杭を打つための掘削ロッド220の偏心トラブルを低減できる。
【0044】
すなわち、杭孔50の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bが0.25より小さいと、図6(A)に示すように、埋戻地盤130の強度が高くなり、新設杭の掘削ロッド220が埋戻地盤130から逃げて偏心する可能性がある。また、杭孔50の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bが1.00より大きいと、図6(B)に示すように、埋戻地盤130の強度が低くなり、新設杭の掘削ロッド220が埋戻地盤130へ寄ってきて偏心する可能性がある。
【0045】
ここで、図11に示す比較例の既存杭の撤去方法について説明する。上記したように比較例の既存杭の撤去方法では、図11(B)に示すように、原地盤100に埋設された既存杭10の周囲をケーシング12で削孔し、既存杭10と周辺地盤102との縁切りを行う。そして、図11(C)に示すように、ケーシング12を引き抜いた後、図11(D)に示すように、ケーシング12を用いて既存杭10にワイヤー20をセットする。図11(E)及び図11(F)に示すように、充填材500を注入しながら、既存杭10を引き抜く。これにより、既存杭10の撤去が完了する。
【0046】
図12(A)に示すように、既存杭10を引き抜く際には、例えば、既存杭10の引き上げ速度を調整し、既存杭10を引き上げながら、引き抜き上部の杭孔510の側方から充填材500を流し込む。充填材500として、例えば、セメントミルク又は流動化処理土などが用いられる。このような充填材500の注入方法では、既存杭10を引き上げる際に杭孔510にできる負圧空間に周囲の土砂や泥水が引き込まれながら入っていく場合がある。
【0047】
既存杭10を引き抜く際には、図12(B)に示すように、まず杭孔510の底周囲に堆積している土砂が入り込み、杭孔510の最下部に杭周堆積土502が堆積する。次に、杭孔510の杭周堆積土502の上部に削孔泥水504が入り込む。次に、杭孔510の削孔泥水504の上部に削孔泥水504と充填材500が入り混じった混合物506が入り込み、この混合物506の上部に充填材500が入り込む。このため、既存杭10を抜き終わった段階で、杭孔510の中は、最下部から上方側に向かって、杭周堆積土502、削孔泥水504、混合物506、充填材500の4層構造となる。このため、杭孔510の中に未固化部分などが発生しやすく、深さ方向に強度が不均一になりやすい。
【0048】
これに対し、本実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、既存杭10を引き抜いた後の杭孔50へオーガーロッド200を用いて、CB液120を注入しながら杭周土塊110と杭孔50に充填された水124とを混合撹拌して埋め戻し、埋戻地盤130を構築する(図1(E)及び図1(F)参照)。このため、本実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、埋戻地盤130の空洞化や未固化部分が発生しにくく、深さ方向に均一な強度の埋戻地盤130を造成できる。
【0049】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0050】
図8は、第2実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法の施工サイクルタイムの一例を示す図である。第2実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、既存杭10を引き抜く撤去工程(図1(A)~(D)参照)と、既存杭10を引き抜いた後の埋戻し工程(図1(E)及び図1(F)参照)は、第1実施形態と同様である。
【0051】
図8に示されるように、第2実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、撤去工程(図1(A)~(D)参照)と、埋戻し工程(図1(E)及び図1(F)参照)とを別の日に施工する。
【0052】
図8に示すように、第2実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、比較例と比べて、既存杭10の杭抜き後に、CB液120を注入しながらオーガーロッド200により混合撹拌して埋め戻す埋戻し工程が付加されるため、比較例の施工時間よりも施工時間が長くなる。このため、例えば、既存杭10の先端深度が30mを超えるような長尺な既存杭10を撤去する場合、一日(作業時間が約8時間)では埋戻しが完了しないことが想定される。
【0053】
例えば、既存杭10の撤去工程と、既存杭10を引き抜いた後の埋戻し工程とを別の日に施工する場合、2日目に杭孔50内で杭周土塊110が剥離及び沈降して、杭孔50の深さ方向に堆積する可能性がある。
【0054】
図9は、既存杭10の撤去工程と既存杭10の撤去後の埋戻し工程とを別の日に施工したときの埋戻地盤130を採取した試料の深度と一軸圧縮強度との関係を示すグラフである。図9では、採取した試料No.12~No.14について、埋戻地盤130の強度の深度分布を示している。CB液120の配合は水セメント比(w/c)を250%とする。図9に示すように、埋戻地盤130の強度の深度分布は、400~1000kN/mである。また、撤去工程と埋戻し工程とを別の日に施工した場合は、図3(A)に示す第1実施形態(同日施工)の埋戻地盤130の強度の深度分布と比較して、杭周土塊の沈降及び堆積により、埋戻地盤130の強度が深さ方向に増大してしまう。
【0055】
図8に示すように、第2実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、撤去工程と埋戻し工程とを別の日に施工するとき、埋戻し工程を施工する前に、オーガーロッド200を用いて、杭孔50の全深度に亘り反復撹拌を行う。図8では、一例として、2日目の最初に、オーガーロッド200を用いて、杭孔50の全深度に亘り反復撹拌を行っている。その他の工程は、第1実施形態の工程を同様である。
【0056】
第2実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、既存杭10の撤去工程と既存杭10の撤去後の埋戻し工程とを別の日に施工するとき、埋戻し工程を施工する前に、オーガーロッド200を用いて、杭孔50の全深度に亘り反復撹拌を行う。このため、既存杭10を引き抜いた後に既存杭10の周囲の土塊の剥離又は沈降により泥土分布の偏在が生じても、オーガーロッド200を用いて杭孔50の全深度に亘り反復撹拌を行うことで、埋戻地盤130の強度の深さ方向のばらつきを抑制できる。
【0057】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法について説明する。なお、前述した第1及び第2実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0058】
図10は、第3実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法の施工サイクルタイムの一例を示す図である。図10に示すように、第3実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、撤去工程と埋戻し工程とを別の日に施工するとき、埋戻し工程の途中に、オーガーロッド200を用いて、杭孔50の全深度に亘り反復撹拌を行う。図10では、一例として、2日目の埋戻し工程の途中(例えば、埋戻し工程の中間付近)で、オーガーロッド200を用いて、杭孔50の深さ方向の大部分の領域(すなわち、オーガーロッド200の反復長を大きくして)、反復撹拌を行っている。本実施形態では、第2実施形態のオーガーロッド200の反復回数よりも、オーガーロッド200の反復回数を増やしている。例えば、杭孔50の深さ方向の8割以上の領域で反復撹拌を行っている。その他の工程は、第1実施形態の工程を同様である。
【0059】
第2実施形態の既存杭の撤去及び埋戻し方法では、既存杭10の撤去工程と既存杭10の撤去後の埋戻し工程とを別の日に施工するとき、埋戻し工程の途中に、オーガーロッド200を用いて、杭孔50の深さ方向に反復撹拌を行う。このため、既存杭10を引き抜いた後に既存杭10の周囲の土塊の剥離又は沈降により泥土分布の偏在が生じても、オーガーロッド200を用いて杭孔50の深さ方向に反復撹拌を行うことで、埋戻地盤130の強度の深さ方向のばらつきを抑制できる。
【0060】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0061】
例えば、上記第1~第3実施形態では、杭孔50の体積Aと杭周土塊110の体積Bとの体積比A/Bは、既存杭10の杭径φ1とオーガーロッド200のオーガー径φ2とから求めたが、これに限定されるものではない。例えば、既存杭10を引き抜いた後の杭孔50の直径を実測して水124の体積を求めてもよい。
【0062】
また、上記第1~第3実施形態では、埋戻し工程でCB液120を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、CB液120に代えて、セメントミルク又はセメントミルクに他の添加剤(増粘剤など)を加えた液等を用いてもよい。また、CB液120の注入方法は、上記第1~第3実施形態に限定されるものではなく、例えば、オーガーロッドを用いずに、上から投入し、その後オーガーロッドで混合撹拌してもよい。
【0063】
上記第2及び第3実施形態では、埋戻し工程を施工する前に、又は埋戻し工程の途中に、オーガーロッド200を用いて、杭孔50の深さ方向に反復撹拌したが、反復撹拌させる杭孔50の深さ方向の長さや反復撹拌の回数は変更可能である。
【0064】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。複数の実施形態及び変形例等は、適宜、組み合わされて実施可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 既存杭
12 ケーシング
50 杭孔(杭抜き孔)
100 原地盤(地盤)
102 周辺地盤(周辺土塊)
110 杭周土塊
120 CB液(セメントミルクに添加剤を加えた液)
124 水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12