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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113112
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】放射線防護衣及び放射線防護用品
(51)【国際特許分類】
   G21F 3/02 20060101AFI20230807BHJP
   G21F 3/00 20060101ALI20230807BHJP
   A41D 13/12 20060101ALI20230807BHJP
   A41D 13/05 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
G21F3/02 A
G21F3/00 G
A41D13/12 109
A41D13/12 136
A41D13/05 156
A41D13/05 162
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163651
(22)【出願日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2022014790
(32)【優先日】2022-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521349705
【氏名又は名称】株式会社Global Embrace Medical
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保科 匠
【テーマコード(参考)】
3B011
【Fターム(参考)】
3B011AA01
3B011AA02
3B011AB06
3B011AB08
3B011AC21
3B011AC22
3B011BA01
3B011BA03
3B011BA05
3B011BB02
(57)【要約】
【課題】縫い目の露出に起因する課題を改善可能な放射線防護衣及び放射線防護用品を提供する。
【解決手段】放射線防護衣は、放射線を遮蔽する遮蔽材(103)と、放射線防護衣の表地である第1表面材(101)と、放射線防護衣の裏地である第2表面材(102)と、が重ねられた防護部を有し、前記第1表面材及び前記第2表面材の各々は、防水性を有する熱可塑性樹脂からなり、前記遮蔽材は、前記第1表面材及び前記第2表面材が前記防護部の周縁の全周に亘って溶着されることで前記第1表面材と前記第2表面材との間に形成された密閉空間内に保持されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体を放射線から防護するための放射線防護衣であって、
放射線を遮蔽する遮蔽材と、放射線防護衣の表地である第1表面材と、放射線防護衣の裏地である第2表面材と、が重ねられた防護部を有し、
前記第1表面材及び前記第2表面材の各々は、防水性を有する熱可塑性樹脂からなり、
前記遮蔽材は、前記第1表面材及び前記第2表面材が前記防護部の周縁の全周に亘って溶着されることで前記第1表面材と前記第2表面材との間に形成された密閉空間内に保持されている、
ことを特徴とする放射線防護衣。
【請求項2】
前記第1表面材、前記遮蔽材及び前記第2表面材を貫通するように前記防護部に取り付けられた留め具をさらに有し、
前記留め具により、前記第1表面材及び前記第2表面材に対する前記遮蔽材の位置が固定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線防護衣。
【請求項3】
前記留め具は、前記第1表面材の外側に位置する頭部と、前記第2表面材の外側に位置し他の留め具と係合するホックと、前記第1表面材、前記遮蔽材及び前記第2表面材を貫通して前記頭部と前記ホックとを連結する連結部と、前記頭部に保持される遮蔽部材と、を有するボタンであり、
前記遮蔽部材は、少なくとも前記連結部が前記遮蔽材を貫通する穴と重なる位置に設けられている、
ことを特徴とする請求項2に記載の放射線防護衣。
【請求項4】
前記頭部を間に挟むように配置された第1シート片及び第2シート片をさらに有し、
前記遮蔽部材は、前記第1シート片及び前記第2シート片が前記頭部の外側で溶着されることで前記第1シート片と前記第2シート片との間に形成された空間に保持されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の放射線防護衣。
【請求項5】
前記防護部は、人体の前面を防護する前掛け部であり、
人体の背面を防護する後身部をさらに有し、
前記前掛け部に設けられた前記留め具と、前記後身部に設けられた留め具と、を着脱することで、前記後身部の取付け及び取外しが可能である、
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の放射線防護衣。
【請求項6】
前記遮蔽材には開口部が設けられ、
前記防護部は、前記第1表面材及び前記第2表面材が前記開口部の内側で溶着された内側溶着部を有し、
前記内側溶着部により、前記第1表面材及び前記第2表面材に対する前記遮蔽材の位置が固定される
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の放射線防護衣。
【請求項7】
前記開口部を覆うように配置され、周縁部を前記第1表面材又は前記第2表面材に溶着されたシート材と、
前記シート材と前記第1表面材又は前記第2表面材との間に形成される空間に保持され、前記開口部に向かう放射線を遮蔽する遮蔽部材と、
をさらに有する、
ことを特徴とする請求項6に記載の放射線防護衣。
【請求項8】
前記防護部の周縁の少なくとも1か所に配置された接合シート片を更に備え、
前記接合シート片は、前記遮蔽材と接合された接合部と、前記遮蔽材の外側に突出し前記第1表面材と前記第2表面材との間に挟まれた突出部と、を有し、
前記突出部が前記第1表面材及び前記第2表面材のそれぞれと溶着されることで、前記第1表面材及び前記第2表面材に対して前記遮蔽材が固定されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の放射線防護衣。
【請求項9】
前記接合シート片は、前記第1表面材及び前記第2表面材と同じシート材であり、
前記接合シート片の前記接合部は、前記遮蔽材と縫着されている、
ことを特徴とする請求項8に記載の放射線防護衣。
【請求項10】
人体を放射線から防護するための放射線防護用品であって、
放射線を遮蔽する遮蔽材と、放射線防護用品の表地である第1表面材と、放射線防護用品の裏地である第2表面材と、が重ねられた防護部を有し、
前記第1表面材及び前記第2表面材の各々は、防水性を有する熱可塑性樹脂からなり、
前記遮蔽材は、前記第1表面材及び前記第2表面材が前記防護部の周縁の全周に亘って溶着されることで前記第1表面材と前記第2表面材との間に形成された密閉空間内に保持されている、
ことを特徴とする放射線防護用品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療従事者又は患者の放射線被ばくを低減するための放射線防護衣及び放射線防護用品に関する。
【背景技術】
【0002】
X線等の放射線を用いる医療現場において、医療関係者や患者を放射線から防護するために種々の防護衣及び防護用品(以下、防護衣等)が用いられている。防護衣等の基本構造として、鉛等の放射線を遮蔽する材料を含有する遮蔽材を、防護衣等の表地及び裏地となる表面材で挟んだ積層構造が知られている。特許文献1には、2枚の表面布の間に遮蔽材を配置して、防護衣本体の周縁部において表面布及び遮蔽材を縫合(縫着)した防護衣が記載されている。また、図1(a)に示すように、防護衣等の周縁部を保護テープ104でくるんだ状態で表面材101,102及び遮蔽材103と共に縫製することで、表面材101,102及び遮蔽材103が一体化された製品が流通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-81302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
縫製された防護衣等の表面には、縫い目が露出することになる。しかしながら、縫い目を介して防護衣等の内部に水が侵入して遮蔽材が劣化する可能性があるため、従来の防護衣等は水洗いできないものが多かった。縫い目に汗や血液、薬剤等が染み込むと、除去が難しいために不潔になるばかりでなく、悪臭の発生源にもなる。また、水洗いができないため、感染症対策のために防護衣等の表面をアルコールで清拭する作業が行われる場合があるが、医療従事者の作業負担が大きかった。
【0005】
また、長期間に亘って防護衣等を使用する間に、縫い目を起点として遮蔽材の割れが発生して亀裂が進行し、表面材の内部で遮蔽材が脱落する可能性もある。また、縫製作業は手作業で行われており、量産効果が得られにくかった。また、縫い目を介して放射線が侵入する可能性について、人体に影響が無い線量であるとしても、着用者によっては心理的ストレスを感じる場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、縫い目が露出することに起因する上記各課題の少なくとも1つを改善することが可能な放射線防護衣及び放射線防護用品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明の代表的な構成は、
人体を放射線から防護するための放射線防護衣であって、
放射線を遮蔽する遮蔽材と、放射線防護衣の表地である第1表面材と、放射線防護衣の裏地である第2表面材と、が重ねられた防護部を有し、
前記第1表面材及び前記第2表面材の各々は、防水性を有する熱可塑性樹脂からなり、
前記遮蔽材は、前記第1表面材及び前記第2表面材が前記防護部の周縁の全周に亘って溶着されることで前記第1表面材と前記第2表面材との間に形成された密閉空間内に保持されている、
ことを特徴とする放射線防護衣である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、縫い目が露出することに起因する課題を改善した放射線防護衣及び放射線防護用品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の第1実施形態に係る防護衣の構造を説明するための図(a、b)。
図2】実施例に係る防護衣を着用した人物の正面図(a)及び背面図(b)。
図3】実施例に係る防護衣を着用した人物の背面図(a)及び側面図(b)。
図4】実施例に係る防護衣の各部の構成を説明するための図(a~c)。
図5】実施例に係る防護衣のボタンについて説明するための図(a、b)。
図6】変形例に係る防護衣を示す図。
図7】変形例に係る防護衣の一部を示す図。
図8】変形例に係るネックガードを示す図(a~d)。
図9】変形例に係るスカートを示す図(a~c)。
図10】変形例に係る掛布を示す図。
図11】第2実施形態に係る防護衣の概略図(a)及びその構造を示す模式図(b)、変形例を示す模式図(c)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
《第1実施形態》
本開示の第1実施形態に係る防護衣等は、図1(b)に示す防護シート100を基本的な構造とする。防護シート100は、放射線を遮蔽する遮蔽材103と、放射線防護衣の表地である表面材101(第1表面材)と、放射線防護衣の裏地である表面材102(第2表面材)と、が重ねられた積層構造を有する。表面材101,102の各々は、防水性を有する熱可塑性樹脂シートである。遮蔽材103は、表面材101,102が防護シート100の周縁の全周に亘って溶着されることで表面材101,102の間に形成された密閉空間内に保持されている。
【0012】
これにより、積層構造を備えた放射線防護衣を無縫製で製造することができ、縫い目の露出に起因する問題を回避することができる。
【0013】
遮蔽材103としては、例えば鉛粒子を添加した塩化ビニルシートを使用することができる。鉛に限らず、放射線の遮蔽性能が高い無鉛材料を含有したシート材であってもよい。遮蔽材103の材質は、防護衣等の用途や想定される放射線の種類及び線量等に応じて適宜選択すべきものである。
【0014】
表面材101,102としては、溶着可能な合成樹脂材料のシート材であれば特に限定されず、例えば熱可塑性ウレタンや塩化ビニルのシート材を用いることができる。また、溶着方法としては、高周波溶着、熱板溶着、超音波溶着、熱風溶着を用いることができる。
【0015】
なお、本実施形態における「放射線」とは、人体の診断又は治療に用いられる放射線一般を指し、X線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、電子線を含む。
【0016】
本実施形態における「防護衣」は、医療従事者又は患者が着脱可能な防護衣一般を指し、エプロン型、コート型、スカート型、ネックガード、防護用帽子を含む。エプロン型は、体幹部分の前面を防護する前掛け型の防護衣である。コート型は、体幹部分の前面と背面を保護する防護衣である。コート型は、上半身を防護するハーフコートと下半身を保護するスカートとが別パーツとなったセパレートタイプのものを含む。スカート型は、主に生殖腺を防護するための巻きスカート状の防護衣である。ネックガードは、主に甲状腺を防護するために首部に巻き付ける防護衣である。防護用帽子は、主に脳を保護するために頭部に装着する防護衣である。
【0017】
本実施形態における「防護用品」は、防護衣以外で、医療従事者又は患者を放射線から防護するために用いられるシート状の物品を指す。防護用品には、例えば患者用の掛布、防護カーテン、X線透視撮影装置(X線TV装置)のX線照射部に取り付ける防護カバー(防護クロス)が含まれる。
【0018】
以下、具体例を挙げて本実施形態に係る防護衣又は防護用品について説明する。
【0019】
まず、図2図5を用いて、エプロン型/コート型の2WAY仕様の防護衣1に本実施形態を適用した実施例を説明する。図2(a)は、防護衣1のエプロン10を着用した人物を正面から見た図であり、図2(b)は、エプロン10を着用した人物を背面から見た図である。図3(a)は、コート型の防護衣1(エプロン10及び後身頃20)を着用した人物を背面から見た図であり、図3(b)は、コート型の防護衣1を着用した人物を側面から見た図である。図4(a~c)は、エプロン10及び後身頃20の構成を説明するための図である。図5は、防護衣1におけるボタンBの取付構造を表す図である(a、b)。
【0020】
図2(a、b)、図3(a、b)に示すように、防護衣1はエプロン10と後身頃20(後身部)とによって構成される。後身頃20は、エプロン10に対して着脱可能である。防護衣1は、後身頃20を取り外した状態でエプロン型の防護衣として使用することも、後身頃20を取り付けた状態でコート型の防護衣として使用することも可能である。
【0021】
図2(a、b)、図4(a、b)に示すように、エプロン10は、人体の左側前面を覆う左前身頃10Lと、人体の右側前面を覆う右前身頃10Rと、人体の背面側で左前身頃10Lと右前身頃10Rとを接続する背面部10Bと、を有する。この内、左前身頃10L及び右前身頃10Rからなる前掛け部は、図1(b)に示す防護シート100で構成される。左前身頃10L及び右前身頃10Rは、本実施例の防護部である。
【0022】
右前身頃10R及び左前身頃10Lが重なる位置には、面ファスナーF1,F2が取り付けられている。例えば、面ファスナーF1を左前身頃10Lの裏地に両面接着剤等で固定し、面ファスナーF2を右前身頃10Rの表地に両面接着剤等で固定する。面ファスナーF1,F2の着脱により、ユーザは防護衣を容易に着脱できる。
【0023】
なお、右前身頃10R及び左前身頃10Lには、ユーザの希望に応じてポケットP1~P3を取り付けてもよい。ポケットP1~P3は、例えば表面材101に対して予めウレタンシート片を溶着することで形成される。
【0024】
図2(b)、図4(b)に示すように、背面部10Bは、背骨に沿って上下に延びる中央部からY字状に分岐して左右の肩部において左前身頃10L及び右前身頃10Rに接続されると共に、中央部の下端部から略水平に延びて左前身頃10L及び右前身頃10Rに接続されている。これにより、首及び両腕を通すための空間が形成される。背面部10Bは、例えば遮蔽材103に代えて中綿を封入した構造とする。
【0025】
また、背面部10Bとは別に、背面側で右前身頃10Rと左前身頃10Lを接続するバックルベルト10Aを設けている。バックルベルト10Aの長さを調節することで、ユーザの体格に合わせて防護衣1を調整することができる。なお、バックルベルト10Aは長さ調整可能なアジャスターの一例であり、公知の他のアジャスターを用いてもよい。
【0026】
図3(a、b)、図4(c)に示すように、後身頃20は略矩形状の防護シート100で構成される。後身頃20の肩部及び左右の側部には、留め具としての複数のボタンb1,b2,b3が装着されている。エプロン10にも、これらのボタンb1,b2,b3と対応する位置にボタンB1,B2,B3が取り付けられている(図4(b))。後身頃20は、ボタンb1とボタンB1を係合させ、ボタンb2とボタンB2を係合させ、ボタンb3とボタンB3を係合させることにより、エプロン10に取り付けられる。
【0027】
本実施例はこのような2WAY仕様としたため、ユーザにとってはエプロン型の防護衣とコート型の防護衣を個別に購入する場合に比べて購入コストを抑えられる利点がある。また、後身頃20を取り外すことで、製品の安全性を確保するためのX線透視検査等を容易に行える。
【0028】
上記の構成において、左前身頃10Lは、周縁10Lp(図4(a、b))の全周に亘って表面材101,102が高周波溶着された防護シート100で構成される。右前身頃10Rは、周縁10Rp(図4(a、b))の全周に亘って表面材101,102が高周波溶着された防護シート100で構成される。なお、左前身頃10L及び右前身頃10Rは、エプロン10の背面部10Bとの境界部(肩の稜線付近)を溶着されている。後身頃20は、周縁20p(図4(c))の全周に亘って表面材101,102が高周波溶着された防護シート100で構成される。
【0029】
これにより、各パーツの遮蔽材103は、周縁部を全周に亘って溶着された表面材101,102によって形成される密閉空間に保持されている。このように、縫製によらず表面材101,102と遮蔽材103を一体化して遮蔽材103の防水性を確保したことにより、縫い目が露出することによる問題を回避することができる。
【0030】
具体的には、縫い目を介した水の侵入が生じないため、防護衣1を水洗いすることができる。これにより、汗や血液、薬剤等を洗い流して清潔に保つことができ、悪臭の発生を予防できる。また、例えば防護衣1をハンガーラックに吊るしてホースで水をかける等の方法で容易に水洗いを行うことができ、医療従事者の作業負担を軽減できる。
【0031】
また、長期間に亘って防護衣等を使用する場合でも、縫い目を起点とした遮蔽材の割れが発生することはないので、表面材の内部で遮蔽材が脱落する可能性を低減できる。また、溶着技術により低コストで量産が可能である。さらに、縫い目が無いことが視認できるため、縫い目を介した放射線の侵入に関する心理的ストレスを緩和することができる。
【0032】
ボタンB1~B3,b1~b3は、表面材101,102及び遮蔽材103を貫通するように取り付けられた留め具の例である。この留め具により、表面材101,102に対する遮蔽材103の位置が固定される。従って、表面材101,102の内部で遮蔽材が位置ずれすることを防ぐことができる。
【0033】
なお、本実施例の留め具は、防護衣の着脱可能なパーツ(後身頃20)を着脱するために用いられるが、他の用途で防護衣に設けられた留め具も同様の効果を発揮する。例えば、ユーザが防護衣を着脱する際に取付け及び取外しされる留め具(後述の図6の変形例参照)であってもよい。他にも、防護衣をユーザの体格に合わせてサイズ調整するための留め具であってもよい。留め具の配置は、留め具の用途や製品仕様に応じて変更可能である。また、留め具はボタン(スナップボタン、ドットボタン)に限らず、例えばフックやマグネットでもよい。さらに、ボタン等の留め具を、防護衣の着脱やサイズ調整等の機能とは無関係に、専ら遮蔽材103を固定(係止)するための固定部材(係止部材)として配置してもよい(後述の変形例も参照)。遮蔽材103を固定する固定部材としての留め具は、他の留め具と係合する機能を持たないもの(例えば、リベット)であってもよい。
【0034】
ボタンB1~B3,b1~b3の取付構造について、図5(a、b)を用いて詳しく説明する。ボタンB1~B3の構造は実質的に同一であり、ボタンb1~b3の構造は実質的に同一である。そのため、以下の説明ではボタンB1~B3の任意の1つをボタンBとし、これに対応するボタンb1~b3の1つをボタンbとする。なお、ボタンB,bのいずれか一方が雄側であり、他方が雌側である。
【0035】
図5(a)に示すように、ボタンBは、頭部31(キャップ)と、ホック32と、脚部33(連結部、貫通部)と、を有する。頭部31は、表面材101の外側(表側)に位置し、ホック32は表面材102の外側(裏側)に位置する。脚部33は、表面材101,102及び遮蔽材103を貫通して頭部31とホック32を連結する。脚部33は頭部31と一体に形成された針状の部分である。脚部33に防護シート100を貫通させ、さらに脚部33の先端をホック32の穴から突出させた状態で先端をかしめることで、ボタンBは防護シート100に取り付けられる。図5(b)に示すように、ボタンbも同様の方法で防護シート100に取り付けられる。
【0036】
ここで、本実施例のボタンBの頭部31には、遮蔽部材34が保持されている。遮蔽部材34は、脚部33が防護シート100を貫通する方向(脚部33の軸線方向)に見た場合に、少なくとも脚部33が遮蔽材103を貫通する穴O1と重なる位置に設けられている。遮蔽部材34は、ボタンBを装着するための遮蔽材103の穴O1に向かう放射線を遮蔽する。遮蔽部材34は、遮蔽材103を同じ材料を、脚部33の外径より大きく且つ頭部31の外径以下の円状に切り取ったシート片を用いることができる。
【0037】
遮蔽部材34は、頭部31と共に、頭部31の外側で周縁部を溶着されたシート片35,36の間の空間に保持されている。シート片35,36は、好ましくは周縁部の全周を溶着される。シート片35は第1シート片の例であり、シート片36は第2シート片の例である。シート片35,36は、防護シート100の表面材101,102と同じ材料を用いることができる。なお、図5(a、b)に示すボタンBとは異なる留め具を用いる場合でも、遮蔽材103を貫通する留め具用の穴を覆うように、留め具の頭部に遮蔽部材を保持させると好適である。
【0038】
上記のように、ボタンBを装着するための遮蔽材103の穴O1を遮蔽する遮蔽部材34を設けたので、穴O1を介して放射線が侵入することを防ぐことができる。なお、ボタンB,bの位置関係から、遮蔽部材34は、ボタンBに対向するボタンbを装着するための遮蔽材103の穴O2を介した放射線の侵入も防いでいる。また、遮蔽部材34及びシート片35,36を防護シート100の遮蔽材103及び表面材101,102と同じ材料から用意すれば、遮蔽部材34を配置することによる材料コストの増大を抑制できる。
【0039】
なお、防護シート100側のシート片36と、防護シート100との間に、環状のシール部材37(パッキン)を介在させると好適である。シール部材37は、弾性材料で環状に形成され、ボタンBの装着時に頭部31とホック32の間で圧縮される。これにより、防護シート100の脚部33が貫通する穴を介して防護シート100の内部に水が侵入することを防ぐことができる。なお、穴O1,O2が設けられた各防護シート100の両面にシール部材37を配置し、さらに防水性を高めてもよい。
【0040】
(変形例)
上記実施例の変形例を説明する。上述した防護衣1では、面ファスナーF1,F2を用いて左前身頃10Lと右前身頃10Rを留める構成としていた。これに限らず、例えば図6に示すボタンB4を用いて左前身頃10Lと右前身頃10Rを留めるようにしてもよい。この場合、ボタンB4の取付構造は、図5(a、b)を用いて説明したものと同様とすればよい。ボタンB4は防護シート100を貫通して取り付けられるため、遮蔽材103を表面材101,102に対して固定できる。また、ボタンB4の頭部に遮蔽部材を設けることで、ボタンB4を装着するために形成された遮蔽材103の穴O1を介して放射線が侵入することを防ぐことができる。
【0041】
また、上述した実施例では、防護衣1の前身頃が左右に分かれている形態を例示したが、前身頃が1枚の防護シート100で構成された形態としてもよい。
【0042】
さらに他の変形例として、図7に示すように、防護シート100の周縁の内側で遮蔽材103に開口部103cを設け、開口部103cの内側で表面材101,102を溶着した内側溶着部を設けてもよい。内側溶着部を設けることにより、遮蔽材103を表面材101,102に対して固定することができる。この場合において、開口部103cを覆うようにシート材110の周縁p1を表面材101に溶着してポケット状とし、遮蔽部材103Aをポケット内に挿入した後にポケットの開口縁p2を表面材101に溶着することで、遮蔽材103の開口部103cを遮蔽すると好適である。
【0043】
(他の防護衣及び防護用品)
本実施形態を他の防護衣及び防護用品に適用した例を説明する。図8(a~d)は、防護衣の他の例としてのネックガードN1,N2を示す。図8(a、c)はネックガードN1,N2を首に巻き付けた状態を表す斜視図であり、図8(b、d)はネックガードN1,N2を広げた状態を表している。ネックガードN1,N2は、首に巻き付けた状態で、両端部のボタンBn、bnを首の背面側で結合させることで着用される。ネックガードN1,N2の全体を防護シート100で構成し、周縁部N1p,N2pの全周に亘って表面材101,102を溶着する。これにより、周縁部N1p,N2pに縫い目が存在しないため、縫い目が露出することによる問題を回避することができる。
【0044】
また、図8(c、d)に示すように、周縁部N1p,N2pよりも内側に配置した留め具としてのボタンBn、bn、Bにより、表面材101,102に対して遮蔽材103を固定することができる。なお、図8(b)に示す両端部のボタンBn、bnはネックガードN1を着脱するための留め具として機能するが、中央寄りの2つのボタンBは遮蔽材103を固定するための固定部材として設けられており、ネックガードN1の着脱に必要ではない。固定部材としてのボタンBの数や配置は、適宜変更可能である。また、ネックガードN1,N2において、両端部のボタンBn、bnに代えて面ファスナーで着脱するようにしてもよい。その場合、遮蔽材103の面積等に応じて、遮蔽材103を十分に固定するために必要な数のボタンBを配置すればよい。
【0045】
図9(a~c)は、スカート型の防護衣(スカートSc)を示す。図9(a、b)はスカートScを装着した状態の正面図及び側面図であり、図9(c)はスカートScを広げた状態を表している。スカートScは、腰部に巻き付けた状態で面ファスナーF3を結合することで着用される。スカートScの全体を防護シート100で構成し、周縁部Scpの全周に亘って表面材101,102を溶着する。これにより、周縁部Scpに縫い目が存在しないため、縫い目が露出することによる問題を回避することができる。
【0046】
また、図9(c)に示すように、周縁部Scpよりも内側に配置した留め具としてのボタンBにより、表面材101,102に対して遮蔽材103を固定することができる。これらのボタンBは、遮蔽材103を固定するための固定部材として設けられており、スカートScの着脱に必要ではないが、面ファスナーF3に代えてボタンの留め外しによってスカートScを着脱できるようにすることも可能である。また、ここでは身体の前面側を覆うエプロン型のスカートScを例示したが、身体の全周を覆う巻きスカートにも同様の構造を適用可能である。
【0047】
図10は、放射線防護用品の例としての掛布Brを示す。掛布Brは、患者の特定の部位を覆うように掛けることで当該部位を簡易的に防護することができる。掛布Brの全体を防護シート100で構成し、周縁部Brpの全周に亘って表面材101,102を溶着する。これにより、周縁部Brpに縫い目が存在しないため、縫い目が露出することによる問題を回避することができる。また、留め具としてのボタンBにより、表面材101,102に対して遮蔽材103を固定することができる。これらのボタンBは、専ら遮蔽材103を固定するための固定部材として設けられているものの、ボタンBを利用して掛布Brを他の物品に着脱できるようにしてもよい。
【0048】
《第2実施形態》
縫い目が露出することに起因する問題を改善可能な他の構成として、第2実施形態では縫製と溶着とを組み合わせた防護衣及び防護用品について説明する。以下、第1実施形態と共通の参照符号を付した要素は、特に断らない限り、第1実施形態で説明したものと実質的に同じ構成及び作用を有するものとする。
【0049】
図11(a)は、本実施形態に係る防護衣2を示す概略図であり、図11(b)は、本実施形態に係る防護衣2の製法を説明するための模式図である。図11(b)は、図11(a)において一点鎖線で囲んだ領域A1に対応する。
【0050】
図11(a)に示す防護衣2は、エプロン型防護衣の前身頃部分である。この場合、防護衣2は、例えば第1実施形態で説明した背面部10B(図4(b))と一体化された状態で使用される。ただし、本実施形態は、エプロン型防護衣に限らず、第1実施形態(変形例を含む)で例示した種々の防護衣及び防護用品に適用可能である。
【0051】
防護衣2は、表面材101(第1表面材、表地)と、表面材102(第2表面材、裏地)と、遮蔽材103と、接合シート片106と、を含む。表面材101,102の周縁部2pは、遮蔽材103の周囲の全周に亘って溶着される。これにより、表面材101,102の間に形成された密閉空間内に遮蔽材103が封入される点は第1実施形態と同様である。
【0052】
本実施形態では、以下で説明するように、接合シート片106を使用して遮蔽材103を表面材101,102に対して固定する点で第1実施形態と異なっている。
【0053】
接合シート片106は、表面材101,102のいずれとも溶着可能なシート材からなるシート片である。該シート材としては、表面材101及び/又は表面材102と同一の材質(共生地)を好適に用いることができるが、溶着可能なものであれば表面材101,102とは異なる材質であってもよい。接合シート片106は、防護衣2の周縁部2pの少なくとも一か所に配置される。図示した防護衣2では、左右の肩部の2か所と、左右の袖ぐり直下の2か所と、左右の裾部の2か所の、合計6か所に接合シート片106を配置する。
【0054】
図11(b)を用いて、接合シート片106により形成される接合部の構造を説明する。なお、図11(b)には図11(a)の右下の接合シート片106のみを図示したが、他の接合シート片106により形成される接合部も実質的に同じ構造である。
【0055】
接合シート片106及び遮蔽材103は、予め縫着されることで接合される。このとき、接合シート片106の一部が遮蔽材103の周縁103pの外側に突出するように、接合シート片106及び遮蔽材103を位置決めした状態で縫製を行う。また、縫い目106bは、遮蔽材103の周縁103pの外側にはみ出さないようにする。つまり、接合シート片106は、遮蔽材103と接合される接合部としての縫い目106bと、遮蔽材103の周縁の外側に突出する突出部106aと、を含む。
【0056】
そして、表面材101と、接合された接合シート片106及び遮蔽材103と、表面材102と、を重ね合わせた状態で、周縁部2pを溶着する。このとき、遮蔽材103の突出部106aが表面材101,102の間に挟まれるように遮蔽材103及び表面材101,102を位置決めした状態で、高周波ウェルダ等で周縁部2pの溶着を行う。
【0057】
すると、接合シート片106の突出部106aの片方の面が表面材101と溶着され、これと同時に、突出部106aの他方の面が表面材102と溶着される。したがって、遮蔽材103は、周縁部2pの溶着により表面材101,102の間に形成される密閉空間内に収容されると共に、接合シート片106を介して表面材101,102に対して固定される。
【0058】
また、接合シート片106と遮蔽材103の縫製により形成される縫い目106bは、遮蔽材103と共に、表面材101,102の間の密閉空間内に収容される。そのため、縫い目106bが防護衣2の表面に露出することはない。
【0059】
すなわち、本実施形態の構成によれば、防護衣2の一部に縫製を用いながらも、縫い目106bが露出することに起因する種々の問題を改善することができる。具体的には、縫い目から水が浸入することがないため水洗いが可能であり、縫い目に汗等が染み込むことがないため清潔を保ちやすく悪臭を抑制することができ、防護衣の清潔を保つための作業負担を軽減可能である。
【0060】
また、本実施形態によれば、第1実施形態のようにボタンを配置することなく、遮蔽材103を固定することができる。これにより、長期間に亘って防水性をより確実に維持することができる。例えば、第1実施形態においては、仮に防護衣を非常に長い期間に亘って使用した場合の表面材101,102又はシール部材37の経年劣化等によって表面材101,102のボタン穴に水が到達したとすると、ボタン穴を介して防護衣内部に水が侵入できることになるが、本実施形態ではボタン穴が存在しないため、ボタン穴を経由した水の侵入は生じない。また、防護衣2の表面材101,102から突出した部品(ボタンの頭部やホック等)が減るので、水拭き等の作業が容易になると共に、防護衣の突出部が周囲の物の引っ掛かる可能性も低減することができる。また、ボタンに比べて追加部品が少なくコスト低減が可能であり、特に接合シート片106として表面材101,102の共生地を使用すれば更なるコスト低減が可能である。
【0061】
ただし、本実施形態においても、防護衣の着脱用の留め具としてボタンを取り付けることは構わない。また、1つの防護衣において、ボタンを用いた遮蔽材103の固定方法と、接合シート片106を用いた遮蔽材103の固定方法を併用し、部位によって使い分けてもよい。
【0062】
(変形例)
本実施形態は、図示した防護衣2の構成に限らず、例えば以下のように変形して適用することができる。
【0063】
図11(c)に示すように、ポケット101pを形成するように表面材101にシート片105の三辺を溶着し、ポケット101pに遮蔽材103Bを入れて残りの一片を溶着した表面材101を用いてもよい。ポケット101pは、遮蔽材103Bが縫い目106b(図11(b))と重なるように配置する。この表面材101を用いて図11(b)のように表面材102及び接合シート片106と溶着すれば、縫い目106bが遮蔽材103Bによって覆われるため、縫い目106bによる放射線の透過をより確実に防ぐことができる。なお、防護衣において、縫い目106bの穴を介した放射線の漏洩は極僅かであり、エプロンやコートの後面や側面における縫い目を透過するX線は設計時に考慮しないとされているが、上記のように追加の遮蔽材103Bを設けることで、例えば感受性の高い身体部位の付近であっても接合シート片106によって遮蔽材103を固定することが容易になる。
【0064】
接合シート片106を配置する数及び位置は、遮蔽材103の重量を確実に支持しながら遮蔽材103を固定することができ、かつ所望の耐久性が得られるように、防護衣又は防護用品の形状やサイズ等に応じて適宜変更可能である。即ち、遮蔽材103の面積が大きい場合、各接合シート片106の面積を大きくしたり、接合シート片106の配置間隔を狭くして数を増やしてもよい。反対に、ネックガードのような小型の防護用品であれば、1か所又は2か所に接合シート片106に配置すれば遮蔽材103を固定できる場合がある。また、遮蔽材103の周縁の全周に亘る細長い1枚の接合シート片106を設け、全周に亘って接合シート片106を遮蔽材103と縫着してもよい。
【0065】
また、1か所に2枚の接合シート片106を用いて遮蔽材103を固定してもよい。つまり、遮蔽材103の表面に1枚の接合シート片106を縫着し、遮蔽材103の裏面に他の1枚の接合シート片106を縫着し、2枚の接合シート片106ごと表面材101,102の溶着を行ってもよい。
【0066】
また、接合シート片106と遮蔽材103を縫着する方法は、接合シート片106と遮蔽材103との間に求められる接合強度に応じて適宜変更可能である。例えば、図11(a)において遮蔽材103の重量負荷が集中する肩部の接合シート片106については、縫い目106bを二重にするなどして、他の接合シート片106よりも強度の高い方法で縫着してもよい。また、縫い目106bは、遮蔽材103の形状に合わせて曲線状にしてもよい。同様に、接合シート片106の形状も矩形状に限らず、接合シート片106と表面材101,102との間に求められる接合強度等を考慮して適宜変更可能である。
【0067】
また、接合シート片106と遮蔽材103とを十分な強度で接合可能なものであれば、縫製に代えて接着剤で接合シート片106と遮蔽材103とを接合(接着)してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…放射線防護衣/101…第1表面材/102…第2表面材/103…遮蔽材
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