(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113128
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】ラクチドの製造方法、及びラクチドの製造装置
(51)【国際特許分類】
C07D 319/12 20060101AFI20230807BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
C07D319/12
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010082
(22)【出願日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2022014930
(32)【優先日】2022-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】522046689
【氏名又は名称】株式会社ガット
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸敬
【テーマコード(参考)】
4H039
【Fターム(参考)】
4H039CA42
4H039CH20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】原料を搬送しながら連続的にラクチドを合成することができるラクチドの合成方法と、製造装置とを提供する。
【解決手段】第1液を搬送する第1経路と、第2液を搬送する第2経路と、第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路とを備える装置を用いて、乳酸塩又は第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体を原料として、該原料を搬送しながら、連続的にラクチドを合成するラクチドの製造方法、及び第1液を搬送する第1経路と、第2液を搬送する第2経路と、第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路とを備える装置であり、乳酸塩又は第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体を原料として、該原料を搬送しながら、連続的にラクチドを合成するラクチドの製造装置である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1液を搬送する第1経路と、
第2液を搬送する第2経路と、
第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路とを備える装置を用いて、乳酸塩又は第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体を原料として、該原料を搬送しながら、連続的にラクチドを合成するラクチドの製造方法。
【請求項2】
第1液を搬送する第1経路と、
第2液を搬送する第2経路と、
第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路とを備える装置を用いて、乳酸塩からラクチドを連続的に合成する方法であり、
第1液は、水に対して溶解しない有機溶媒を含有し、
第2液は、乳酸塩を含有する水溶液であり、
前記スラグ流を触媒の存在下かつ加圧下で加熱して、乳酸塩からラクチドを連続的に合成する請求項1に記載のラクチドの製造方法。
【請求項3】
第1液を搬送する第1経路と、
第2液を搬送する第2経路と、
第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路とを備える装置を用いて、第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体からラクチドを連続的に合成する方法であり、
第1液は、水に対して溶解しない有機溶媒を含有し、
第2液は、第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有し、
第1液と混合する前の第2液を加圧下で加熱し、
前記スラグ流を触媒の存在下かつ加圧下で加熱して、
第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体からラクチドを連続的に合成する請求項1に記載のラクチドの製造方法。
【請求項4】
前記触媒は、オクチル酸スズ、及びトリエチルアルミニウムからなる群より選ばれる1種以上の触媒である請求項2又は3に記載のラクチドの製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒は、クロロホルム、メチルイソブチルケトン、及び酢酸エチルからなる群より選ばれる1種以上の有機溶媒である請求項2又は3に記載のラクチドの製造方法。
【請求項6】
前記スラグ流を加熱する際の温度は、160℃以上である請求項2又は3に記載のラクチドの製造方法。
【請求項7】
第2液を加熱する際の温度は、280℃以上である請求項3に記載のラクチドの製造方法。
【請求項8】
第3経路を搬送される前記スラグ流を加熱した後に、前記スラグ流を冷却する請求項2又は3に記載のラクチドの製造方法。
【請求項9】
前記スラグ流を冷却する際には、スラグ流を40℃以下に冷却する請求項8に記載のラクチドの製造方法。
【請求項10】
第1液を搬送する第1経路と、
第2液を搬送する第2経路と、
第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路とを備える装置であり、
乳酸塩又は第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体を原料として、該原料を搬送しながら、連続的にラクチドを合成するラクチドの製造装置。
【請求項11】
第1液を搬送する第1経路と、
第2液を搬送する第2経路と、
第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路と、を備える装置であり、
第1液は、水に対して溶解しない有機溶媒を含有し、
第2液は、乳酸塩を含有する水溶液であり、
前記スラグ流を触媒の存在下かつ加圧下で加熱して、乳酸塩からラクチドを連続的に合成する請求項10に記載のラクチドの製造装置。
【請求項12】
第1液を搬送する第1経路と、
第2液を搬送する第2経路と、
第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路と、を備える装置であり、
第1液は、水に対して溶解しない有機溶媒を含有し、
第2液は、第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有し、
第1液と混合する前の第2液を加圧下で加熱し、
前記スラグ流を触媒の存在下かつ加圧下で加熱して、
第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体からラクチドを連続的に合成する請求項10に記載のラクチドの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクチドの製造方法とラクチドの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の特許文献1に記載されているように、ラクチドから開環重合によりポリ乳酸を製造する方法が知られている。
【0003】
また、以下の特許文献2には、グリセリンと水酸化ナトリウムとを反応させることによって、ラセミ乳酸ナトリウム水溶液を製造する工程と、ラセミ乳酸ナトリウム水溶液からナトリウムを分離してラセミ乳酸を回収する工程と、ラセミ乳酸ナトリウムを二量化させることによりメソラクチド及びラセミラクチドからなるラクチド混合物を生じさせる工程と、該混合物からメソラクチドを分離してラセミラクチドを回収する工程と、サレン型金属錯体を触媒として、前記ラセミラクチドを重合することにより、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を製造する工程とを含むポリ乳酸の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-185003号公報
【特許文献2】特開2012-1634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
使用済みの植物油とメタノールとを原料として、バイオディーゼル燃料を製造する技術が知られている。バイオディーゼル燃料を製造する際には、水酸化ナトリウムなどの強アルカリ液にグリセリンが溶解した液体が副生する。副生物である強アルカリ液に溶解したグリセリンを有効利用する方法が望まれている。
【0006】
特許文献1の方法では、ラクチドからポリ乳酸を得ることができるが、特許文献1には、ラクチドを合成する方法については特に記載されていない。
【0007】
特許文献2の方法では、グリセリンと水酸化ナトリウムとからポリ乳酸を合成することができる。この技術を使えば、廃材である強アルカリ液に溶解したグリセリンを原料として、ポリ乳酸を合成することが可能である。
【0008】
しかしながら、特許文献2の方法では、各工程がバッチ式であるし、途中の工程で合成されたラセミ乳酸ナトリウムからナトリウムと水とを分離して純粋な乳酸を取り出す工程が必要であり、ラクチドの合成手順が煩雑であった。
【0009】
本発明は、乳酸塩又は第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体を原料として、該原料を搬送しながら、連続的にラクチドを合成することができるラクチドの合成方法と、製造装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1液を搬送する第1経路と、第2液を搬送する第2経路と、第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路とを備える装置を用いて、乳酸塩又は第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体を原料として、該原料を搬送しながら、連続的にラクチドを合成するラクチドの製造方法により、上記の課題を解決する。
【0011】
第1液を搬送する第1経路と、第2液を搬送する第2経路と、第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路とを備える装置を用いて、乳酸塩からラクチドを連続的に合成する方法であり、第1液は、水に対して溶解しない有機溶媒を含有し、第2液は、乳酸塩を含有する水溶液であり、前記スラグ流を触媒の存在下かつ加圧下で加熱して、乳酸塩からラクチドを連続的に合成するラクチドの製造方法により、上記の課題を解決する。
【0012】
第1液を搬送する第1経路と、第2液を搬送する第2経路と、第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路とを備える装置を用いて、第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体からラクチドを連続的に合成する方法であり、第1液は、水に対して溶解しない有機溶媒を含有し、第2液は、第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有し、第1液と混合する前の第2液を加圧下で加熱し、前記スラグ流を触媒の存在下かつ加圧下で加熱して、第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体からラクチドを連続的に合成するラクチドの製造方法により、上記の課題を解決する。
【0013】
第1液を搬送する第1経路と、第2液を搬送する第2経路と、第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路とを備える装置であり、乳酸塩又は第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体を原料として、該原料を搬送しながら、連続的にラクチドを合成するラクチドの製造装置により上記の課題を解決する。
【0014】
第1液を搬送する第1経路と、第2液を搬送する第2経路と、第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路と、を備える装置であり、第1液は、水に対して溶解しない有機溶媒を含有し、第2液は、乳酸塩を含有する水溶液であり、前記スラグ流を触媒の存在下かつ加圧下で加熱して、乳酸塩からラクチドを連続的に合成するラクチドの製造装置により、上記の課題を解決する。
【0015】
第1液を搬送する第1経路と、第2液を搬送する第2経路と、第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路と、を備える装置であり、第1液は、水に対して溶解しない有機溶媒を含有し、第2液は、第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有し、第1液と混合する前の第2液を加圧下で加熱し、前記スラグ流を触媒の存在下かつ加圧下で加熱して、第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体からラクチドを連続的に合成するラクチドの製造装置により、上記の課題を解決する。
【0016】
上記のラクチドの製造装置、及び上記のラクチドの製造方法においては、前記触媒は、例えば、オクチル酸スズ、及びトリエチルアルミニウムからなる群より選ばれる1種以上の触媒とすることができる。また、前記有機溶媒は、クロロホルム、メチルイソブチルケトン、及び酢酸エチルからなる群より選ばれる1種以上の有機溶媒とすることができる。また、前記スラグ流を加熱する際の温度は、160℃以上にすることができる。また、第2液を加熱する際の温度は、280℃以上にすることができる。また、第3経路を搬送される前記スラグ流を加熱した後に、前記スラグ流を冷却することができる。また、前記スラグ流を冷却する際には、スラグ流を40℃以下に冷却することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、乳酸塩又は第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体を原料として、該原料を搬送しながら、連続的にラクチドを合成することができるラクチドの合成方法と、製造装置とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】乳酸塩を原料として、該原料を搬送しながら、連続的にラクチドを合成するための製造装置の一例を示す説明図である。
【
図2】第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとの混合物を原料として、該原料を搬送しながら、連続的にラクチドを合成するための製造装置の一例を示す説明図である。
【
図3】乳酸塩又は第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体を原料として、連続的にラクチドを合成する経路を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の限られた例であり、本発明の技術的範囲は例示した実施形態に何ら限定されるものではない。
【0020】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る方法は、第1液を搬送する第1経路と、第2液を搬送する第2経路と、第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路とを備える装置を用いて、乳酸塩からラクチドを連続的に合成する方法であり、第1液は、水に対して溶解しない有機溶媒を含有し、第2液は、乳酸塩を含有する水溶液であり、前記スラグ流を触媒の存在下かつ加圧下で加熱して、乳酸塩からラクチドを連続的に合成するラクチドの製造方法である。
【0021】
上記の製造方法は、特に限定するものではないが、例えば、
図1に示した装置を使用して実施することができる。
図1の装置1は、第1液を搬送する第1経路11と、第2液を搬送する第2経路12と、第1経路11と第2経路12とを合流させる合流部14と、合流部14で合流させた第3液を搬送する第3経路13とを備える。
【0022】
第3経路13には、合流部側、すなわち上流に加熱部131が設けられており、吐出側、すなわち下流に冷却部132が設けられる。
図1の例では、加熱部131は、オイルバスであり、冷却部132はウォーターバスである。加熱部131と冷却部132とにおける滞留時間を稼ぐために第3経路13は、螺旋状に湾曲した形状とされる。湾曲される形状は、滞留時間を稼ぐことが可能な形状であればよく、例えば、経路が蛇行するように湾曲する形状であってもよい。湾曲した部分は、それぞれ、加熱部内、及び冷却部内に配置される。加熱部内に配置される流路の長さは、特に限定されないが、例えば、0.5m以上にすることができる。加熱部内に配置される流路の長さの上限値は、特に限定されないが、例えば、10m以下にすることができる。冷却部に配置される流路の長さは、特に限定されないが、例えば、0.2m以上にすることができる。冷却部に配置される流路の長さの上限値は、特に限定されないが、例えば、4m以下にすることができる。
【0023】
第1経路、第2経路、又は第3経路は、液体を搬送できるものであればよい。例えば、任意の素材で構成された中空管を好適に使用することができる。中空管を構成する素材は、特に限定されないが、例えば、ガラス、ステンレス鋼、合成樹脂素材などが挙げられる。中でも、耐食性と熱伝導性と耐圧性に優れるステンレス鋼を使用することが好ましい。
【0024】
第1経路11と、第2経路12と、第3経路13とを合流させる構成は、別部材として構成された合流部14を使用する例に限定されず、第1経路、第2経路、第3経路を三叉状にするなど、第1経路と第2経路と第3経路とを一体の中空管として構成し、第1液と第2液とを合流させる構成としてもよい。
【0025】
図1の装置1は、背圧弁133を備える。背圧弁133により、第1経路11、第2経路12、又は第3経路13に圧力をかけて、加圧下で反応を行うことができる。
【0026】
図1の装置は、第1貯留部111と第2貯留部121とを備えており、それぞれ第1液と第2液とを貯留する。第1液は、第1ポンプ112による駆動力により、第1貯留部111から吸い上げられて第1経路内を搬送される。第2液は、第2ポンプ122による駆動力により、第2貯留部121から吸い上げられて第2経路内を搬送される。第1液と第2液とを合流させた第3液は、第1ポンプ及び/又は第2ポンプの駆動力により、第3経路内を搬送されて、背圧弁133を経て、第3経路13の外へ排出される。
図1の例では、第1貯留部111、及び第2貯留部121は、ガラス瓶である。
【0027】
第1液としては、水に対して溶解しない有機溶媒と、有機溶媒に対して溶解する触媒とを含有する液体を使用する。前記有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、メチルイソブチルケトン、及び酢酸エチルからなる群より選ばれる1種以上の有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は、水に対して溶解せず、スラグ流を形成しやすい。また、前記触媒としては、オクチル酸スズ(ビス(2エチルヘキサン酸)スズ)、及びトリエチルアルミニウムからなる群より選ばれる1種以上の触媒が挙げられる。これらの触媒は、有機酸に溶解するので、触媒の濃度を均一化しやすい。
【0028】
第1液中における触媒の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1質量%以上にすることができる。第1液中における触媒の濃度の上限値は、特に限定されないが、例えば、5質量%以下にすることができる。触媒の濃度の上限値は、3質量%以下にすることがより好ましい。
【0029】
第2液としては、乳酸塩を含有する水溶液を使用する。乳酸塩を含有する液体としては、例えば乳酸塩を水に溶解させたもの、乳酸と塩の水酸化物などの水中で塩を電離する化合物とを水に溶解させたものなどを使用することができる。塩としては、第1族元素を挙げることが可能であり、第1族元素としては、ナトリウム、又はカリウムが挙げられる。乳酸と塩とは、水中でpHに依存して、平衡反応によって、乳酸塩を生じる。第2液のpHは、特に限定されないが、例えば、pH4以上とすることができる。第2液のpHの上限値は、特に限定されないが、例えば、pH13以下とすることができる。
【0030】
乳酸塩の濃度は、特に限定されないが、例えば、第2液中に含まれる乳酸塩の濃度が0.1M(mol/L)以上とすることができる。第2液中に含まれる乳酸塩の濃度の上限値は特に限定されないが、例えば、3M以下とすることができる。第2液中に含まれる乳酸塩の濃度の下限値は、0.3M以上であることがより好ましい。第2液中に含まれる乳酸塩の濃度の上限値は、1M以下であることがより好ましい。
【0031】
第1経路11と第2経路12とを合流させて、第1液と第2液とを混合することで、第3経路中においてスラグ流が形成される。スラグ流とは、互いに混和しない水相と有機溶媒相とが交互に流れるものであり、水相と有機溶媒相との界面が非常に大きく、各相内の撹拌が激しく生じる。このため、後述するように、有機溶媒相と水相との界面近傍の水相中で生成した産物であるラクチドが、有機溶媒相に速やかに移動し、ラクチドが平衡反応により反応基質に逆戻りすることが阻止されると推測される。
【0032】
第3経路13内を搬送されるスラグ流を加圧下で加熱することによって、
図3に示したStep2(ステップ2)の反応が生じる。第3経路13を冷却することによって、第3経路から排出される第3液が大気圧下に放出される際に突沸しないようにする。
【0033】
第3経路13内のスラグ流を加熱する際の温度は、特に限定されないが、例えば、160℃以上とすることができる。第3経路13内のスラグ流を加熱する際の温度の上限値は、特に限定されないが、例えば、250℃以下にすることができる。第3経路13内のスラグ流を加熱する際の温度の下限値は、170℃以上であることがより好ましい。第3経路13内のスラグ流を加熱する際の温度の上限値は、210℃以下であることがより好ましい。
【0034】
第3経路13内のスラグ流を冷却する際の温度は、特に限定されないが、例えば、40℃以下にすることができる。第3経路13内のスラグ流を冷却する際の温度の下限値は、特に限定されないが、例えば、1℃以上にすることができる。第3経路13内のスラグ流を冷却する際の温度の下限値は、10℃以上であることがより好ましい。第3経路13内のスラグ流を冷却する際の温度の上限値は、30℃以下であることがより好ましい。
【0035】
第3経路13内のスラグ流を加熱する時間、すなわち、加熱部131に第3液が滞留する時間は、特に限定されないが、例えば、15秒以上とすることができる。加熱部131に第3液が滞留する時間の上限値は、特に限定されないが、25分以下にすることができる。加熱部131に第3液が滞留する時間の下限値は、5分以上であることがより好ましい。加熱部131に第3液が滞留する時間の上限値は、15分以下であることがより好ましい。
【0036】
第3経路13内のスラグ流を冷却する時間、すなわち、冷却部に第3液が滞留する時間は、特に限定されないが、例えば、30秒以上にすることができる。冷却部に第3液が滞留する時間の上限値は、特に限定されないが、例えば、2分以下にすることが可能である。
【0037】
第1実施形態に係る方法の加圧条件としては、特に限定されないが、例えば、背圧弁の流入口で測定した圧力が3MPa以上とすることができる。背圧弁の流入口で測定した圧力の上限値は、特に限定されないが、例えば、30MPa以下とすることが可能である。圧力の上限値は、22MPa以下とすることがより好ましく、8MPa以下にすることがさらに好ましい。
【0038】
第1経路内を搬送される第1液、第2経路内を搬送される第2液の温度は、特に限定されないが、本実施形態の装置では、加熱又は冷却の処理を行わず、常温としている。
【0039】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る方法は、第1液を搬送する第1経路と、第2液を搬送する第2経路と、第1液と第2液とを合流させて生じさせたスラグ流を搬送する第3経路とを備える装置を用いて、第1族元素のイオンと水酸化物イオン(OH-)とグリセリンとを含有する液体からラクチドを連続的に合成する方法であり、第1液は、水に対して溶解しない有機溶媒を含有し、第2液は、第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有し、第1液と混合する前の第2液を加圧下で加熱し、前記スラグ流を触媒の存在下かつ加圧下で加熱して、第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有する液体からラクチドを連続的に合成するラクチドの製造方法である。
【0040】
上記の製造方法は、特に限定するものではないが、例えば、
図2に示した装置を使用して実施することができる。
図2の装置1bは、第2液を搬送する第2経路12bに上記加熱部131とは別の加熱部(第2加熱部123)を設けた点において、
図1の装置とは異なり、その他の点は、
図1の装置構成と同様である。以下では異なる点について説明する。
【0041】
図2の装置1bでは、第2液を搬送するための第2経路12bが、螺旋状に湾曲した形状とされる。湾曲される形状は、滞留時間を稼ぐことが可能な形状であればよく、例えば、経路が蛇行するように湾曲する形状であってもよい。湾曲した部分は、第3経路13を加熱するための加熱部131とは別の第2加熱部123内に配置される。第2経路12bは、装置1の第2経路12と同様の素材で構成することができる。
【0042】
上述のとおり、第2経路12bは、第2加熱部123により加熱される。第2加熱部123は、第2経路12bを加熱することができるものであればよい。
図2の装置1bでは、第2加熱部123bとして、オーブンを使用している。
【0043】
第2経路を加熱する際の温度は、特に限定されないが、例えば、280℃以上にすることができる。第2経路を加熱する際の温度の上限値は、特に限定されないが、例えば、364℃以下にすることができる。
【0044】
第2経路で第2液を加熱する時間は、特に限定されないが、1分以上にすることができる。第2経路で第2液を加熱する時間の上限値は、特に限定されないが、例えば、3分以下にすることができる。また、第2加熱部内における第2経路の長さは、特に限定されないが、0.2m以上にすることができる。第2加熱部内における第2経路の長さの上限値は、特に限定されないが、例えば、5m以下にすることができる。
【0045】
第1液としては、水に対して溶解しない有機溶媒と、有機溶媒に対して溶解する触媒とを含有する液体を使用する。有機溶媒、又は触媒は、第1実施形態の方法と同様のものを使用することが可能であり、それらの濃度も第1実施形態の方法と同様にすることができる。
【0046】
第2液としては、第1族元素のイオンと水酸化物イオンとグリセリンとを含有するものを使用する。第1族元素のイオンとしては、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンが挙げられる。水酸化物イオンは、OH-である。
【0047】
第2液は、例えば、第1族元素の水酸化物の水溶液と、グリセリンとを混合することにより調製することができる。第1族元素の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0048】
第2液としては、バイオディーゼル燃料をアルカリ触媒法により製造する際に副生するグリセリンと第1族元素のイオンと水酸化物イオンとを含有する廃液を利用してもよい。
【0049】
第2液におけるグリセリンの濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1M以上にすることができる。第2液におけるグリセリンの濃度の上限値は、特に限定されないが、例えば、3M以下にすることができる。第2液におけるグリセリンの濃度の下限値は、0.3M以上とすることがより好ましい。第2液におけるグリセリンの濃度の上限値は、1M以下にすることがより好ましい。
【0050】
第2液における第1族元素のイオン、又は水酸化物イオンの濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1M以上にすることができる。第2液における第1族元素のイオン、又は水酸化物イオンの濃度の上限値は、特に限定されないが、例えば、3M以下にすることができる。第2液における第1族元素のイオン、又は水酸化物イオンの濃度の下限値は、0.3M以上とすることがより好ましい。第2液における第1族元素のイオン、又は水酸化物イオンの濃度の上限値は、1M以下とすることがより好ましい。
【0051】
第2液のpHは、特に限定されないが、例えば、pH11以上にすることができる。第2液のpHの上限値は、特に限定されないが、例えば、pH14以下にすることができる。
【0052】
第2実施形態に係る方法の加圧条件としては、特に限定されないが、例えば、背圧弁の流入口で測定した圧力が13MPa以上とすることができる。背圧弁の流入口で測定した圧力の上限値は、特に限定されないが、30MPa以下にすることができる。背圧弁の流入口で測定した圧力の下限値は、16MPa以上であることがより好ましく、18MPa以上であることがさらに好ましい。背圧弁の流入口で測定した圧力の上限値は、25MPa以下であることがより好ましく、23MPa以下であることがさらに好ましい。
【0053】
第3経路13内のスラグ流を加熱する時間や加熱部内の流路の長さは、第1実施形態の方法と同様にすることができる。
【0054】
第3経路13内のスラグ流を冷却する時間や冷却部内の流路の長さは、第1実施形態の方法と同様にすることができる。
【0055】
第2実施形態の方法においては、第2経路で第2液を加熱することにより、
図3におけるStep1(ステップ1)の反応が進行して、乳酸塩が生成し、第3経路で第1液と第2液とのスラグ流を加圧下で加熱することで、
図3におけるStep2(ステップ2)の反応が進行して、ラクチドが生成するように設計されている。第2実施形態の方法では、装置に1度だけ第1液と第2液とを通過させることで、ラクチドを連続的に製造することができる。
【0056】
[その他]
上述の第1実施形態の装置、又は第2実施形態の装置では、第1経路、第2経路、第3経路の内径は、0.8mmの細管を使用し、小規模の反応としている。第1経路、第2経路、第3経路の内径は、特に限定されないが、例えば、0.1mm以上とすることができる。第1経路、第2経路、第3経路の内径の上限値は、特に限定されないが、例えば、2.3mm以下とすることができる。第1経路、第2経路、第3経路の内径の上限値は、特に限定されないが、例えば、2mm以下とすることがより好ましい。
【0057】
第1ポンプの流速は、特に限定されないが、30μL/分以上とすることができる。第1ポンプの流速の上限値は、特に限定されないが、0.5mL/分以下にすることができる。同様に、第2ポンプの流速は、特に限定されないが、30μL/分以上にすることができる。第2ポンプの流速の上限値は、0.5mL/分以下にすることができる。
【0058】
加熱部、又は第2加熱部は、上記の例に限定されず、第2経路、又は第3経路を加熱することができるものであればよい。加熱部、又は第2加熱部としては、搬送経路の外部に配置され、内部に加熱媒体を流通させる加熱ジャケット、オーブン、乾熱加熱装置、過熱水蒸気を利用した加熱装置、オイルバス等が挙げられる。
【0059】
冷却部は、上記の例に限定されず、第3経路を加熱することができるものであればよい。冷却部としては、経路の外部に配置され、内部に冷却媒体を流通させる冷却ジャケット、送風装置、水若しくはオイルなどの冷却媒体を利用した冷却装置等が挙げられる。
【0060】
本明細書において、乳酸、乳酸塩、又はラクチドという場合、D体、L体、及びDL体(ラセミ体)のうちのいずれでもよく、D体、L体、又はDL体(ラセミ体)を含むものとする。
【0061】
上記の第1実施形態に係る方法においては、第1液に、水に対して溶解しない有機溶媒と、有機溶媒に対して溶解する触媒とを含有させる。そして、当該第1液と水相である第2液とを混合することにより、第3経路内において、スラグ流を触媒の存在下かつ加圧下で加熱する。スラグ流を触媒の存在下かつ加圧下で加熱するには、例えば、触媒を第3経路に固定してもよい。触媒を第3経路に固定するには、例えば、内部に触媒を固定した筒状の触媒カラムを、第3経路の途中に固定してもよい。
【実施例0062】
以下、本発明の実施例について説明する。以下に示す実施例は、本発明の一実施態様であり、本発明の技術的範囲は例示した実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
本実施例は、
図1に示した装置を用いて、乳酸ナトリウムを反応基質として、ラクチドを連続的に製造する方法である。
【0064】
図1の装置は、反応基質である乳酸ナトリウムを含有する水溶液を搬送する第1経路と、有機溶媒と触媒とを含有する液体を搬送する第2経路と、第1経路と第2経路とを合流させる合流部と、合流部で合流させた前記水溶液と有機溶媒及び触媒とを搬送する第3経路と、第3経路の末端部に設けられた背圧弁とを有する。第1経路、第2経路、及び第3経路は、内径が0.8mmのSUS316の管で構成される。合流部は、
図2に示したように、T字型の内径が0.8mmの流路を有する部材であり、流入側の第1ポートに第1経路が接続され、流入側の第2ポートに第2経路が接続され、排出側の第3ポートに第3経路が接続される。これにより、第1経路内を搬送された液体と、第2経路内を搬送された液体とが、合流部内で合流し、合流された液体は、第3経路から排出される。
【0065】
第3経路の中を搬送される液体は、加熱部で加熱され、その後、冷却部で冷却されるように構成されている。
図1の例では、加熱部はオイルバスで構成されており、浴槽に貯留された加熱用のオイルを加熱することで、第3経路の内部を流れる液体を加熱する。第3経路は、浴槽の内部で螺旋状に湾曲した形状とされており、第3経路が加熱部内を流れる時間を稼ぐ。
【0066】
図1の例では、冷却部はウォーターバスで構成されており、浴槽に貯留された冷却用の水により、第3経路の内部を流れる液体を冷却する。第3経路は、浴槽の内部で螺旋状に湾曲した形状とされており、第3経路が冷却部内を流れる時間を稼ぐ。
【0067】
図1の第1貯留部111に、有機溶媒であるメチルイソブチルケトン(純度98%)と、触媒としてオクチル酸スズ(純度98%)とを投入して、第1液を調製する。このときオクチル酸スズの濃度は、1.0質量%となるようにする。
【0068】
図1の第2貯留部121に、乳酸と、水酸化ナトリウムと、イオン交換水とを投入して、乳酸の濃度が1.0Mであり、水酸化ナトリウムの濃度が1.0Mであり、pH6.0の水溶液(第2液)を調製した。pH6.0においては、平衡反応により、乳酸と水酸化ナトリウムとから乳酸ナトリウムが生じる。
【0069】
第1ポンプにより、流速0.1mL/分で、前記第1液を、第1経路を経て、前記合流部へと搬送する。また、第2ポンプにより、流速0.1mL/分で、前記第2液を、第2経路を経て、前記合流部へと搬送する。第1経路、及び第2経路、合流部、及び後述する第3経路内の液体は、背圧弁により加圧された状態とし、背圧弁の位置における圧力は、5MPaとする。
【0070】
上記の第1液と第2液とは、合流部で混合されたスラグ流となり、第3経路内を流れる。なお、スラグ流が形成されることは第3経路を透明なチューブとすることで目視により確認される。第3経路内を流れる液体は、加熱部で180℃に達するまで加熱され、冷却部で25℃に冷却される。加熱部における第3液の滞留時間は、10分である。冷却部における第3液の滞留時間は、1分である。なお、加熱部内の第3流路の長さは6mであり、冷却部内の第3経路の長さは0.4mである。
【0071】
背圧弁に接続された排出用の流路から、反応後の液体を大気圧下に排出して、反応液を貯留部で受けて、反応後の液体を回収する。
【0072】
回収した液体を静置して、水相と有機溶媒相とに比重分離させる。有機溶媒相には合成したラクチドが含まれる。有機溶媒相を分離することにより、ラクチドを得ることができる。
【0073】
[実施例2]
本実施例は、有機溶媒をクロロホルム(純度98%)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、水相と有機溶媒相とに比重分離した液体を得る方法である。この方法によっても、実施例1の方法と同様にラクチドを1つの装置で連続的に合成することができる。ラクチドは、実施例1の方法と同様に有機溶媒相に含まれる。
【0074】
[実施例3]
本実施例は、有機溶媒を酢酸エチル(純度98%)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、水相と有機溶媒相とに比重分離した液体を得る方法である。この方法によっても、実施例1の方法と同様にラクチドを1つの装置で連続的に合成することができる。ラクチドは、実施例1の方法と同様に有機溶媒相に含まれる。
【0075】
[実施例4]
本実施例は、触媒をトリエチルアルミニウム1.0質量%に変更した点以外は、実施例1と同様にして、水相と有機溶媒相とに比重分離した液体を得る方法である。この方法によっても、実施例1の方法と同様にラクチドを1つの装置で連続的に合成することができる。ラクチドは、実施例1の方法と同様に有機溶媒相に含まれる。
【0076】
実施例1ないし4の方法では、乳酸ナトリウムから乳酸を分離することなく、ラクチドを合成することが可能である。詳細な機構は不明であるが、第3経路内で生じたスラグ流により、ラクチドの合成が促進されると推測される。すなわち、反応基質である乳酸ナトリウムから、触媒の存在下で、生成物であるラクチドが生成する。この反応は、乳酸ナトリウムとラクチド及び水との平衡反応であり、スラグ流における水相において、触媒と加熱により進行すると推測される。ラクチドは疎水性が強いため、ラクチドが生成すると、スラグ流の水相から有機溶媒相へと、ラクチドが速やかに移行すると推測される。これによって、生成したラクチドが乳酸ナトリウムに戻ってしまうことが阻止されると推測される。
【0077】
[実施例5]
本実施例は、
図2に示した装置を用いて、水酸化ナトリウムとグリセリンとを含有する液体を原料として、ラクチドを連続的に製造する方法である。
【0078】
図2の装置は、有機溶媒と触媒とを含有する液体を搬送する第1経路と、反応基質であるグリセリンと水酸化物イオンとナトリウムイオンとを含有する水溶液を搬送する第2経路と、第1経路と第2経路とを合流させる合流部と、合流部で合流させた第3液を搬送する第3経路と、第3経路の末端部に設けられた背圧弁とを有する。第1経路、第2経路、及び第3経路は、内径が0.8mmのSUS316の管で構成される。合流部は、
図2に示したように、T字型の内径が0.8mmの流路を有する部材であり、流入側の第1ポートに第1経路が接続され、流入側の第2ポートに第2経路が接続され、排出側の第3ポートに第3経路が接続される。これにより、第1経路内を搬送された液体と、第2経路内を搬送された液体とが、合流部内で合流し、合流された第3液は、第3経路から排出される。
【0079】
第3経路は、実施例1の装置と同様の構成であり、加熱部により第3経路の内部を流れる液体が180℃に達するまで加熱され、その後、冷却部により第3経路の内部を流れる液体が冷却されるように構成されている。加熱部における第3液の滞留時間は10分である。冷却部における第3液の滞留時間は、1分であり、第3液が25℃に達するまで冷却される。
【0080】
第2経路12bは、上記の加熱部とは別の加熱部(第2加熱部)で第2経路の内部を流れる液体を加熱することができるように構成されている。
図2の例では、第2加熱部123は、電熱式の加熱炉(オーブン)を利用している。第2経路12bは、加熱炉の内部で螺旋状に湾曲した形状とされており、第2経路を流れる第2液が第2加熱部内を流れる時間を稼ぐために螺旋状に湾曲した形状とされている。第2加熱部123における第2液の滞留時間は、2分であり、第2の液体が350℃に達するまで加熱する。なお、第2加熱部内の第2経路の長さは、3mであり、加熱部内の第3流路の長さは6mであり、冷却部内の第3経路の長さは0.4mである。
【0081】
図2の第1貯留部111に、有機溶媒であるメチルイソブチルケトン(純度98%)と、オクチル酸スズ(純度98%)とを投入して、第1液を調製する。このときオクチル酸スズの濃度は、1.0質量%となるようにする。
【0082】
図2の第2貯留部121に、グリセリンと、水酸化ナトリウムと、イオン交換水とを投入して、グリセリンの濃度が1.0Mであり、水酸化ナトリウムの濃度が1.0Mであり、pH13の水溶液(第2液)を調製する。なお、水酸化ナトリウムは強塩基であるので、水酸化物イオンの濃度は、1.0Mであり、ナトリウムイオンの濃度は1.0Mである。
【0083】
第1ポンプ112により、流速0.1mL/分で、前記第1液を、第1経路11を経て、前記合流部14へと搬送する。また、第2ポンプ122により、流速0.1mL/分で、前記第2液を、第2経路12を経て、前記合流部14へと搬送する。第1経路11、及び第2経路12、合流部14、及び後述する第3経路13内の液体は、背圧弁133により加圧された状態とし、背圧弁133の位置における圧力は、20MPaとする。
【0084】
第1液と第2液とは合流部で混合されたスラグ流となり、第3経路内を流れる。なお、スラグ流が形成されることは第3経路を透明なチューブとすることで目視により確認される。第3経路内を流れる液体は、加熱部131で180℃となるように加熱し、冷却部132で25℃に冷却する。加熱部131における第3液の滞留時間は、10分とする。冷却部132における第3液の滞留時間は、1分とする。
【0085】
背圧弁に接続された排出用の流路から、反応後の液体を大気圧下に排出して、反応液を貯留部で受けて、反応後の液体を回収する。
【0086】
回収した液体を静置して、水相と有機溶媒相とに比重分離させる。有機溶媒相には合成したラクチドが含まれる。有機溶媒相を分離することにより、ラクチドを得ることができる。
【0087】
第2経路を加熱部で加熱した直後、かつ合流部に流入する前の第2経路内の液体には乳酸ナトリウムが含まれる。
【0088】
[実施例6]
本実施例は、有機溶媒をクロロホルム(純度98%)に変更した点以外は、実施例5と同様にして、水相と有機溶媒相とに比重分離した液体を得る方法である。この方法によっても、実施例5の方法と同様にラクチドを1つの装置で連続的に合成することができる。ラクチドは、実施例5の方法と同様に有機溶媒相に含まれる。
【0089】
[実施例7]
本実施例は、有機溶媒を酢酸エチル(純度98%)に変更した点以外は、実施例5と同様にして、水相と有機溶媒相とに比重分離した液体を得る方法である。この方法によっても、実施例5の方法と同様にラクチドを1つの装置で連続的に合成することができる。ラクチドは、実施例5の方法と同様に有機溶媒相に含まれる。
【0090】
[実施例8]
本実施例は、触媒をトリエチルアルミニウム1.0質量%に変更した点以外は、実施例5と同様にして、水相と有機溶媒相とに比重分離した液体を得る方法である。この方法によっても、実施例5の方法と同様にラクチドを1つの装置で連続的に合成することができる。ラクチドは、実施例5の方法と同様に有機溶媒相に含まれる。
【0091】
実施例5ないし8の方法では、グリセリンと水酸化ナトリウムとの混合液から、ワンパスで連続的に、ラクチドを合成することが可能である。実施例5ないし8の方法では、中間産物として、D-、L-乳酸ナトリウム(ラセミ体)が生成し最終産物として、D-、L-ラクチド(ラセミ体)が生成する。
【0092】
実施例5ないし8の方法では、第2経路において、反応基質であるグリセリンとナトリウムから、生成物である乳酸ナトリウムが生成され、合流部において乳酸ナトリウムと、触媒及び有機溶媒とが合流し、第3経路内に、乳酸ナトリウムを含有する水相と、有機溶媒と触媒とを含有する有機溶媒相とからなるスラグ流が形成される。詳細な機構は不明であるが、第3経路内で生じたスラグ流により、ラクチドの合成が促進されると推測される。すなわち、反応基質である乳酸ナトリウムから、触媒の存在下で、生成物であるラクチドが生成する。この反応は、乳酸ナトリウムとラクチド及び水との平衡反応であり、スラグ流における水相において、触媒と加熱により進行すると推測される。ラクチドは疎水性が強いため、ラクチドが生成すると、スラグ流の水相から有機溶媒相へと、ラクチドが速やかに移行すると推測される。これによって、生成したラクチドが乳酸ナトリウムに戻ってしまうことが阻止されると推測される。
【0093】
廃食油からバイオディーゼルオイルを製造する際に、水酸化ナトリウムとグリセリンとを含む水溶液が副生する。実施例5ないし8の方法によれば、副生した廃材を基に、ラクチドを効率的に合成することが可能になる。ラクチドは、生分解性プラスチックの原料として使用される。実施例5ないし8の方法を利用すれば、廃材であるグリセリンと水酸化ナトリウムの混合液を利用して、生分解性プラスチックを効率的に製造する反応系を確立することが可能になる。
【0094】
[実施例9]
本実施例は、
図1に示した装置を用いて、乳酸ナトリウムを反応基質として、ラクチドを連続的に製造する方法である。
【0095】
図1の第1貯留部111に、有機溶媒であるメチルイソブチルケトン(純度98%)と、触媒としてオクチル酸スズ(純度98%)とを投入して、第1液を調製する。このときオクチル酸スズの濃度は、0.7質量%となるようにする。
【0096】
図1の第2貯留部121に、乳酸と、水酸化ナトリウムと、イオン交換水とを投入して、乳酸の濃度が1.0Mであり、水酸化ナトリウムの濃度が0.8Mであり、pH6.0の水溶液(第2液)を調製した。pH6.0においては、平衡反応により、乳酸と水酸化ナトリウムとから乳酸ナトリウムが生じる。
【0097】
第1ポンプにより、流速0.11mL/分で、前記第1液を、第1経路を経て、前記合流部へと搬送する。また、第2ポンプにより、流速0.11mL/分で、前記第2液を、第2経路を経て、前記合流部へと搬送する。第1経路、及び第2経路、合流部、及び後述する第3経路内の液体は、背圧弁により加圧された状態とし、背圧弁の位置における圧力は、5MPaとする。
【0098】
上記の第1液と第2液とは、合流部で混合されたスラグ流となり、第3経路内を流れる。なお、スラグ流が形成されることは第3経路を透明なチューブとすることで目視により確認される。第3経路内を流れる液体は、加熱部で220℃に達するまで加熱され、冷却部で25℃に冷却される。加熱部における第3液の滞留時間は、4分である。冷却部における第3液の滞留時間は、1分である。なお、加熱部内の第3流路の長さは2mであり、冷却部内の第3経路の長さは0.4mである。
【0099】
背圧弁に接続された排出用の流路から、反応後の液体を大気圧下に排出して、反応液を貯留部で受けて、反応後の液体を回収する。
【0100】
回収した液体を静置して、水相と有機溶媒相とに比重分離させる。有機溶媒相には合成したラクチドが含まれる。有機溶媒相を分離することにより、ラクチドを得ることができる。
【0101】
実施例9の方法では、乳酸ナトリウムから乳酸を分離することなく、ラクチドを合成することが可能である。詳細な機構は不明であるが、第3経路内で生じたスラグ流により、ラクチドの合成が促進されると推測される。すなわち、反応基質である乳酸ナトリウムから、触媒の存在下で、生成物であるラクチドが生成する。この反応は、乳酸ナトリウムとラクチド及び水との平衡反応であり、スラグ流における水相において、触媒と加熱により進行すると推測される。ラクチドは疎水性が強いため、ラクチドが生成すると、スラグ流の水相から有機溶媒相へと、ラクチドが速やかに移行すると推測される。これによって、生成したラクチドが乳酸ナトリウムに戻ってしまうことが阻止されると推測される。