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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113153
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】コモンモードノイズ電流測定器
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/00 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
G01R31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015292
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164013
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 菜実
(72)【発明者】
【氏名】渕野 遼
【テーマコード(参考)】
2G036
【Fターム(参考)】
2G036AA10
2G036BB20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】コモンモードノイズ電流を測定し、ノイズ対策に最適な磁性体コアを選定する機能を有するコモンモードノイズ電流測定器の提供。
【解決手段】コンピュータと接続するための接続部7と、接続部を介してコンピュータから複数の磁性体コアの最大許容電流値を含む型番データ表を格納する記憶部12と、導線を流れるコモンモードノイズ電流を検出するためのクランプ式のセンサヘッド部2と、センサヘッド部の電流測定をあらかじめ設定したサンプルレートで行い、その間の最大コモンモードノイズ電流測定値を求める電流計測部10と、最大コモンモードノイズ電流測定値を数値表示する表示部5と、最大コモンモードノイズ電流測定値と記憶部に格納されている型番データ表中の最大許容電流値とを比較する比較部と、接続部、記憶部、センサヘッド部、電流計測部、表示部、および比較部を制御する制御部13と、制御部に対してデータを入力する入力部4とを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータと接続するための接続部と、
前記接続部を介して前記コンピュータから、複数の磁性体コアの最大許容電流値を含む型番データ表を格納する記憶部と、
導線を流れるコモンモードノイズ電流を検出するためのクランプ式のセンサヘッド部と、
前記センサヘッド部の電流測定をあらかじめ設定したサンプルレートで行い、その間の最大コモンモードノイズ電流測定値を求める電流計測部と、
前記最大コモンモードノイズ電流測定値を数値表示する表示部と、
前記最大コモンモードノイズ電流測定値と、前記記憶部に格納されている前記型番データ表中の前記最大許容電流値とを比較する比較部と、
前記接続部、前記記憶部、前記センサヘッド部、前記電流計測部、前記表示部、および前記比較部を制御する制御部と、
前記制御部に対してデータを入力する入力部とを含むことを特徴とするコモンモードノイズ電流測定器。
【請求項2】
前記最大コモンモードノイズ電流測定値を固定して表示するための固定表示指示部をさらに有し、
使用者が前記固定表示指示部を用いて固定表示することを指示した場合、前記制御部は前記表示部に前記最大コモンモードノイズ電流測定値を固定して表示することを特徴とする請求項1に記載のコモンモードノイズ電流測定器。
【請求項3】
使用者が前記入力部を用いて磁性体コアの型番及び巻線数を入力した場合、
前記制御部は、入力された前記巻線数と前記最大コモンモードノイズ電流測定値とをもとに前記磁性体コアを流れる実効電流値を求め、かつ、前記型番データ表から前記型番に該当する前記磁性体コアの前記最大許容電流値を前記記憶部から読み出し、前記比較部により前記実効電流値と前記最大許容電流値とを比較し、
前記実効電流値が、前記最大許容電流測定値より小さい場合には磁気飽和していないという表示を前記表示部に表示し、前記実効電流値が前記最大許容電流値より大きい場合には磁気飽和していることを示す表示を前記表示部に表示、または/および音声を発信することを特徴とする請求項1または2に記載のコモンモードノイズ電流測定器。
【請求項4】
前記接続部を介して前記コンピュータから、あらかじめ設定した複数の巻線数を記憶部にさらに格納し、
前記電流計測部により最大コモンモードノイズ電流測定値が求められた場合、
前記制御部は、あらかじめ設定した複数の前記巻線数と前記最大コモンモードノイズ電流測定値とをもとにそれぞれの巻線数に対応した実効電流値を求め、かつ、前記記憶部に格納されている前記磁性体コアの前記最大許容電流値を読み出し、前記比較部により前記実効電流値と前記最大許容電流値とを比較し、前記最大許容電流値よりも小さな実効電流値を示す磁性体コアの型番と巻線数とを前記表示部に表示することを特徴とする請求項1または2に記載のコモンモードノイズ電流測定器。
【請求項5】
前記記憶部に格納した前記型番データ表は、前記接続部を介して前記コンピュータにより任意に書き換え又は追加できるようにしたことを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載のコモンモードノイズ電流測定器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンモードノイズ電流を計測し、その電流値にもとづいてノイズフィルタとして用いる磁性体コアを選定することができるコモンモードノイズ電流測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの電気機器では安定な動作や他の機器に影響を与えないようにするためにノイズ対策が重要であり、ノイズレベルが規制値をオーバーしたり、誤作動が生じる場合には、ノイズ対策を行うことが要求される。ノイズ対策部品の一つとして磁性体コアがある。これは、ノイズ電流を反射と吸収とにより減少させる機能を有するものであり、ノイズ電流が発生する電源ラインなどで多く使われている。反射は、ノイズ源側にノイズ成分だけを押し戻し、信号成分だけを通過させる機能である。そして、吸収はノイズ成分を磁性体コアで吸収し、熱エネルギーに変換する機能である。
【0003】
磁性体コアを用いてノイズ対策を行うためには、導線に流れるノイズ電流を測定し、それに適した磁性体コアを選定することが重要である。電流を計測する機器としてクランプ電流計がよく用いられている。クランプ電流計は電線を被覆の上からクランプするだけで電流を測定できるので操作が簡単であるだけでなく、回路に直接接続しないので、安全に大電流を測定することができるという特徴を有している。
【0004】
クランプ電流計を用いて導線を流れる電流を単純に計測するだけでなく、フィルター回路の定数を選定することや、基準漏れ電流値と実測値とを比較するなど、ノイズ対策をより容易に行うための種々の機能を付加したノイズ電流測定器が開発されている。
【0005】
例えば、測定漏れ電流値とメモリに記憶された基準漏れ電流値とを比較する機能を有し、測定漏れ電流値が上記基準値を超えるときはブザーを鳴らすようにしたクランプ電流計が開示されている。具体的には、比較用データを記憶するメモリと、この比較用データと求められた測定値とを比較するマイコンと、このマイコンの比較結果を報知するブザーを備えた構成からなる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、ケーブルの総合的なEMC性能を容易に測定評価する方法として、ケーブルの一端に信号を送信してケーブルを駆動する発信器と、ケーブルの他端に接続する負荷と、プローブからの信号を受信する受信器と、発信器と負荷と受信器とを制御する制御部を含み、制御部は発信器の送端条件と負荷の終端条件とを選択制御し、プローブをスキャンしてケーブルの特性を測定する評価方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
さらに、電力線又は電力線に接続されたACケーブルからの放射電磁波を受信するアンテナ部と、アンテナ部に接続されアンテナ部に生じるコモンモード電流を検出する検出回路部と、検出回路部によるコモンモード電流の検出量が所定値以上か否かを判定する異常判定部とを備えたコモンモード電流検出器が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平6-28745号公報
【特許文献2】特開2007-64707号公報
【特許文献3】特開2008-172372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の発明は、測定した電流値がクランプ電流計自身で所定の基準に適合しているか否かの判定を行えるようにして使い勝手のよい電流計を実現したものである。しかし、この発明は電路および電気機器の劣化による漏れ電流が所定の値以下であることを計測するものであり、ノイズ電流などを計測して磁気特性や発熱特性を考慮して磁性体コアを選定することについては開示も示唆もない。
【0010】
特許文献2に記載の発明は、EMC性能評価を簡単な操作で行うために、ケーブルのコモンモード電流を測定しているが、ケーブルのノイズ対策のために最適な特性を有する磁性体コアを選定することについては開示も示唆もない。
【0011】
特許文献3に記載の発明は、電力線通信に用いるものであり、コモンモード電流を検出し、検出量が所定値以上に増大した場合には電力線通信を停止するようにしたものであり、ノイズ対策については開示も示唆もない。
【0012】
本発明は、コモンモードノイズ電流を測定し、ノイズ対策に最適な磁性体コアを容易に選定する機能を有するコモンモードノイズ電流測定器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記従来の課題を解決するために本発明のコモンモードノイズ電流測定器は、コンピュータと接続するための接続部と、その接続部を介してコンピュータから複数の磁性体コアの最大許容電流値を含む型番データ表を格納する記憶部と、導線を流れるコモンモードノイズ電流を検出するためのクランプ式のセンサヘッド部と、センサヘッド部の電流測定をあらかじめ設定したサンプルレートで行い、その間の最大コモンモードノイズ電流測定値を求める電流計測部と、最大コモンモードノイズ電流測定値を数値表示する表示部と、最大コモンモードノイズ電流測定値と記憶部に格納されている型番データ表中の最大許容電流値とを比較する比較部と、接続部、記憶部、センサヘッド部、電流計測部、表示部、および比較部を制御する制御部と、制御部に対してデータを入力する入力部とを含むことを特徴とする。
【0014】
このような構成とすることにより、ノイズ対策を行うための導線を流れるコモンモードノイズ電流を検出し、そのコモンモードノイズ電流の最大コモンモードノイズ電流測定値とあらかじめ格納してある型番データ表中の最大許容電流値とを比較することが容易に行える。
【0015】
なお、最大許容電流値は、インピーダンス値の低下が大きくなる直流電流値をいうものとする。また、磁性体コアとしては、リング状のトロイダルコア、長円形状のコアや太いケーブルに対応した大型サイズで台座付きのコアなど、ノイズ対策部品として用いられる磁性体コアであればいずれも用いることができる。材料としては、酸化鉄、Mn-Zn系やNi-Zn系のフェライトコア、磁性粉末を樹脂と混合して成形したダストコアやシート状にして巻きまわして作製したコア等があるが、目的に合わせて使い分ければよい。
【0016】
上記構成において、最大コモンモードノイズ電流測定値を固定して表示するための固定表示指示部をさらに有し、使用者が固定表示指示部を用いて固定表示することを指示した場合、制御部は表示部に最大コモンモードノイズ電流測定値を固定して表示するようにしてもよい。
このような構成とすることにより、最大コモンモードノイズ電流測定値を固定してデジタル表示できるので使用者にとってわかりやすい。
【0017】
上記構成において、使用者が入力部を用いて磁性体コアの型番及び巻線数を入力した場合、制御部は入力された巻線数と最大コモンモードノイズ電流測定値とをもとにその磁性体コアを流れる実効電流値を求め、かつ、型番データ表からその型番に該当する磁性体コアの最大許容電流値を記憶部から読み出し、比較部により実効電流値と最大許容電流値とを比較し、実効電流値が最大許容電流測定値より小さい場合には磁気飽和していないという表示を表示部に表示し、実効電流値が最大許容電流値より大きい場合には磁気飽和していることを示す表示を表示部に表示、または/および音声を発信するようにしてもよい。
【0018】
この場合において、使用者が固定表示指示部を用いて固定表示することを指示し、最大コモンモードノイズ電流測定値が表示部に表示されてから、使用者が入力部を用いて磁性体コアの型番及び巻線数を入力するようにしてもよい。
【0019】
なお、実効電流値は、例えば巻線数が1ターンであれば最大コモンモードノイズ電流測定値がそのまま実効電流値となるが、例えば3ターンとした場合には最大コモンモードノイズ電流測定値の3倍が実効電流値となる。このように、実効電流値は最大コモンモードノイズ電流測定値に対して巻線数に応じて2倍や3倍とした数値となる。
【0020】
このような構成とすることにより、導線を流れる最大コモンモードノイズ電流を測定し、ノイズフィルタとして使用する磁性体コアの型番と巻線数とを入力すれば、制御部が作動してその磁性体コアを用いた場合、磁気飽和するかどうかを表示および/または音声により知らせるので容易に判定できる。なお、磁気飽和するという通知がなされた場合には、再度別の型番と巻線数とを入力すれば、制御部は再度判定を行う。したがって、磁気飽和しないという結果を得るまで何回も色々な型番と巻線数とを入力をすればよい。その結果、1回コモンモードノイズ電流を測定するだけで、ノイズフィルタとして最適な磁性体コアを簡単に選定することができる。
【0021】
磁気飽和していない場合には、その型番の磁性体コアを用いればよいので表示のみでよいが、磁気飽和している場合にはその型番の磁性体コアを用いることはできないため、単に表示するだけでなく、音声を含めて表示、あるいは音声のみの発信としてもよい。
【0022】
使用者が型番と巻線数とを入力するときに、型番データ表にない型番を入力する場合もあるが、その場合には制御部は記憶部に格納してある型番データ表を検索し、その型番が型番データ表にないことを確認し、表示部に型番データ表にないものであるという表示をするようにしてもよい。これにより、使用者は再度別の型番と巻線数とを入力して最適な磁性体コアを選定することができる。
【0023】
上記構成において、接続部を介してコンピュータから、あらかじめ設定した複数の巻線数を記憶部にさらに格納し、電流計測部により最大コモンモードノイズ電流測定値が求められた場合、制御部はあらかじめ設定した複数の巻線数と最大コモンモードノイズ電流測定値とをもとにそれぞれの巻線数に対応した実効電流値を求め、かつ、記憶部に格納されている磁性体コアの最大許容電流値を読み出し、比較部により実効電流値と最大許容電流値とを比較し、最大許容電流値よりも小さな実効電流値を示す磁性体コアの型番と巻線数とを表示部に表示するようにしてもよい。
【0024】
このような構成とすることにより、使用者が型番と巻線数とを入力することなく、制御部はあらかじめ設定した巻線数と最大コモンモードノイズ電流測定値とをもとに実効電流値を求め、さらにあらかじめ記憶部に格納されている磁性体コアの型番データ表からその磁性体コアの最大許容電流値を求め、比較部は実効電流値と最大許容電流値とを比較し、磁気飽和しない磁性体コアの型番と巻線数とを表示するようにできる。このため、磁性体コアの選定がさらに容易になる。
【0025】
この場合において、使用者が固定表示指示部を用いて固定表示することを指示した後に、制御部があらかじめ設定した巻線数と最大コモンモードノイズ電流測定値とをもとに実効電流値を求める動作を開始するようにしてもよい。
【0026】
なお、巻線数は1ターンから3ターン程度までをあらかじめ設定して記憶させておけばよい。ただし、必ずしも3ターンまでに限定はされない。通常、磁性体コアをノイズフィルタとして用いる場合には3ターン程度まででほとんど対応できるが、巻線数をさらに多くする必要がある場合には増やしてもよい。表示部での表示は、巻線数毎に使用可能な磁性体コアの型番を表示するようにすればよい。
上記構成において、記憶部に格納した型番データ表は接続部を介してコンピュータにより任意に書き換え又は追加できるようにしてもよい。
【0027】
このようにすることにより、使用者に応じて必要な磁性体コアの型番データ表をインプットして記憶部に格納することができるし、使用者がさらに追加してほしいという要望を受けた場合には簡単に新たな型番データ表を追加することもできる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のコモンモードノイズ電流測定器は、導線を流れるコモンモードノイズ電流を測定するだけで、そのコモンモードノイズ電流に応じてノイズフィルタとして最適な磁性体コアを容易に選定できるという大きな効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器の概略平面図である。
図2】同実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器の概略斜視図で、(a)は表側から見た斜視図、(b)は裏側から見た斜視図である。
図3】同実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器の回路構成を示すブロック図である。
図4】同実施の形態において、コモンモードノイズ電流測定器とコンピュータとを接続部により接続した状態を示す図である。
図5】表1に示す型番データ表の磁性体コアのインピーダンス特性図である。
図6】表1に示す型番データ表の磁性体コアのインダクタンス特性図である。
図7】第1の実施の形態の変形例に係るコモンモードノイズ電流測定器の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1の実施の形態)
【0031】
本発明の第1の実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器の概略平面図である。図2は、同実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器の概略斜視図で、(a)は表側から見た斜視図、(b)は裏側から見た斜視図である。図3は、同実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器の回路構成を示すブロック図である。以下、これらの図を用いて本実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器について詳細に説明する。
【0032】
本実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器1は、コンピュータと接続するための接続部7と、接続部7を介してコンピュータから複数の磁性体コアの最大許容電流値を含む型番データ表を格納する記憶部12と、導線を流れるコモンモードノイズ電流を検出するためのクランプ式のセンサヘッド部2と、センサヘッド部2の電流測定をあらかじめ設定したサンプルレートで行い、その間の最大コモンモードノイズ電流測定値を求める電流計測部10と、最大コモンモードノイズ電流測定値を数値表示する表示部5と、最大コモンモードノイズ電流測定値と記憶部12に格納されている型番データ表中の最大許容電流値とを比較する比較部11と、接続部7、記憶部12、センサヘッド部2、電流計測部10、表示部5、および比較部11を制御する制御部13と、制御部13に対してデータを入力する入力部4とを含む構成からなる。
【0033】
入力部4と表示部5とは本体部6に取り付けられている。センサヘッド部2も本体部6に取り付けられており、全体として片手で操作できる程度の形状を有する。比較部11、記憶部12および制御部13は、それぞれ別々の部品から構成されていてもよいし、マイコンを用いて、マイコンにこれらの機能を有するようにしてもよい。
【0034】
センサヘッド部2はクランプ方式であり、固定ヘッド部2aは本体部6に固定されており、回動ヘッド部2bは開閉レバー3を使用者が操作することにより開閉し、測定する導線を挟むことができる。固定ヘッド部2aと回動ヘッド部2bとは接触部2cで接触して導線に流れる電流を計測することができる。電流検出は、電流が流れることにより発生する磁界をトランスコアで検出し、測定電流に比例した出力を取り出すものである。なお、電流検出方式としてはトランスコア方式だけでなく、ロゴスキーコイル方式、ホール素子方式やフラックスゲート方式などもあり使用可能であるが、コモンモードノイズ電流を測定するにはトランスコア方式が使いやすく、かつ安価である。
【0035】
本実施の形態のコモンモードノイズ電流測定器1では、入力部4は複数のボタン4a~4hにより構成されており、型番や巻線数などをボタン操作により入力することができる。なお、これらのボタン4a~4hは、単一の機能ではなく、ボタンの操作により複数の機能を有するようにしておくと、複雑な入力も容易に行うことができる。
【0036】
表示部5は、例えば液晶表示素子から構成されており、数字だけでなく、文字なども表示できる。なお、本実施の形態のコモンモードノイズ電流測定器1では、入力部4と表示部5とはそれぞれ別個の部品で構成したが、タッチパネル付きの表示部として入力部と表示部とを一体化したものを用いてもよい。このような構成の表示部とすれば、より複雑な入力や表示をすることができる。
【0037】
コモンモードノイズ電流測定器1の記憶部12に複数の磁性体コアの最大許容電流値を含むコアの型番データ表を格納する方法について説明する。図4は、コモンモードノイズ電流測定器1とコンピュータ14とを接続部7により接続した状態を示す図である。コンピュータ14を接続した後、コンピュータ14を操作して表1に示すような型番と最大許容電流値とを記載したコアの型番データ表を記憶部12に格納する。コンピュータ14は、パーソナルコンピュータ(パソコン)でもよいし、タブレット型端末でもよい。型番データ表はパソコンやタブレット型端末中に格納したものを記憶部12に格納するようにしてもよい。あるいは、パソコンやタブレット型端末をコモンモードノイズ電流測定器1に接続した状態でインターネットを介してサーバーに接続し、サーバーに格納されている型番データ表を記憶部12に格納するようにしてもよい。
【0038】
なお、表1に示す型番データ表は例示であって、実際のコモンモードノイズ電流測定器では低周波用や高周波用、あるいは両用向けなどに応じて数10程度のデータを記憶部に格納する。接続部7はUSBケーブルを接続できる端子がコンピュータと接続しやすく使い勝手がよい。また、表1では、型番と最大許容電流値だけとしているが、さらに磁性体コアの外形寸法や許容発熱温度上昇値なども加えてもよい。
【0039】
【表1】
【0040】
このようにして型番データ表を記憶部12に格納することで、最大コモンモードノイズ電流測定値と、型番データ表に記載されている最大許容電流値とを、比較部11で比較することができる。なお、図5および図6は、表1に示す型番データ表の磁性体コアのインピーダンス特性とインダクタンス特性図である。これらの特性図をもとにして、最大許容電流値を求めた。
【0041】
本実施の形態では、最大コモンモードノイズ電流測定値を固定して表示するための固定表示指示部4aを設けている。使用者が固定表示指示部4aを用いて固定表示することを指示した場合、制御部15は表示部5に最大コモンモードノイズ電流測定値を固定して表示するようにしている。本実施の形態では、固定表示指示部4aは入力部4のなかの一つのボタンとしているが、本発明はこれに限定されず入力部4とは別のボタンで構成してもよい。これにより、使用者は容易に最大コモンモードノイズ電流測定値を視認することができる。
つぎに、本実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器1を用いて磁性体コアを選定する手順について説明する。
【0042】
最初に、コモンモードノイズ電流測定器1の電源ボタン4bを押し、電源をONにする。電源ボタン4bについても入力部4とは別のボタンで構成してもよい。次に、開閉レバー3を押してセンサヘッド部2の回動ヘッド部2bを開き、コモンモードノイズ電流を測定する導線、例えばPN2線やUVW相の3線をまとめてセンサヘッド部2内に入れて回動ヘッド部2bを閉じてクランプする。
【0043】
この状態で、導線(図示せず)を流れるコモンモードノイズ電流を測定する。センサヘッド部2の電流測定はあらかじめ設定したサンプルレートで行い、電流計測部10は、その間の最大コモンモードノイズ電流測定値を求める。サンプルレートは、例えば3回/秒、5秒間計測し、その間の測定値の最大値を最大コモンモードノイズ電流測定値とする。なお、サンプルレートは上記に限定することなく適宜選定することができる。
【0044】
そして、固定表示指示部4aのボタンが押されると、最大コモンモードノイズ電流測定値を表示部5に固定して数値表示する。その後、開閉レバー3を操作して回動ヘッド部2bを開き、導線(図示せず)をセンサヘッド部2から外す。
【0045】
次に、入力部4の操作ボタン4c~4hを操作して、使用を予定している磁性体コアの型番と巻線数とを入力する。なお、入力部4の操作ボタン数は、本実施の形態では8個としているが、これは一例であってさらに増やしてもよい。また、操作ボタンは数字だけでなく、アルファベットなども入力できるようにしてあるので、簡単な文章の入力も行うことができる。
【0046】
型番と巻線数とが入力されると、制御部13は入力された巻線数と最大コモンモードノイズ電流測定値とをもとに実効電流値を求める。また、制御部13は、型番データ表からその型番に該当する磁性体コアの最大許容電流値を記憶部12から読み出す。そして、比較部11において、実効電流値と最大許容電流値とを比較する。
【0047】
その結果、実効電流値が最大許容電流値より小さい場合には磁気飽和していないという表示を表示部5に表示する。一方、実効電流値が最大許容電流値より大きい場合には磁気飽和していることを示す表示を表示部5に表示、または/および音声を発信する。磁気飽和しているということは、その磁性体コアは使用不可ということであるので、表示だけでなく、音声も加えて発信するか、あるいは音声だけでの発信とすることで、使用者がより明確に認識できるようにしている。
【0048】
例えば、最大コモンモードノイズ電流測定値が7Aであった場合、使用者が型番としてT-003、巻線数として2ターンを入力部4によりインプットしたとする。制御部13は、巻線数の2ターンと最大コモンモードノイズ電流測定値の7Aとをもとにして実効電流値を求める。この場合には14Aとなる。次に、記憶部12に格納されているT-003の最大許容電流値を読み出す。そして、比較部11において、実効電流値の14Aと最大許容電流値の10Aとを比較する。最大許容電流値は10Aであり、実効電流値は14Aであるので、この磁性体コアを用いると磁気飽和することがわかる。そこで、この場合には、磁気飽和していることを知らせる表示または/およびブザーによる発信をする。
【0049】
ブザー音などで磁気飽和していることが分かると、次に例えば同じ型番のT-003で巻線数を1ターンとしてインプットする。この場合には実効電流値は最大コモンモードノイズ電流測定値と同じ7Aであり、最大許容電流値は10Aであるので磁気飽和していないことが分かる。その結果、表示部5には磁気飽和していないことを表示する。このようにして、型番と巻線数とをもとにして磁気飽和しない磁性体コアを容易に選定することができる。
【0050】
なお、本実施の形態では、使用者が固定表示指示部4aのボタンを用いて最大コモンモードノイズ電流測定値を固定表示する指示を出した後に、入力部4の操作ボタン4c~4hを操作して使用を予定している磁性体コアの型番と巻線数とを入力したが、本発明はこれに限定されない。固定表示指示部4aを操作して固定表示することなく、すぐに入力部4の操作ボタン4c~4hを操作して使用を予定している磁性体コアの型番と巻線数とを入力するようにしてもよい。
(第1の実施の形態の変形例)
【0051】
本実施の形態の変形例のコモンモードノイズ電流測定器16について図面を用いて説明する。図7は、本実施の形態の変形例に係るコモンモードノイズ電流測定器16の構成を示すブロック図である。この変形例のコモンモードノイズ電流測定器16は、第1の実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器1に対して、非接触温度センサー15をさらに取り付けたことを特徴とする。非接触温度センサー15は、図2(b)に示す裏面部に取り付けることが操作面で好ましい。そして、非接触温度センサー15を作動させるための操作ボタンを入力部4に新たに設けるか、あるいは図1に示す入力部4の操作ボタンのいずれかを共用して用いるようにしてもよい。
【0052】
導線を流れる電流により磁性体コアが発熱すると磁性体コアの特性が劣化したり、過熱により磁性体コアが破損する場合も生じる。このため、実際に使用している場合の発熱温度をこの非接触温度センサー15により計測して、安定に使用できるかどうかを判断することが好ましい。このように温度センサー15を設けることで発熱による劣化や破損の可能性についても早期に判断し、最適な磁性体コアを選定することができる。
(第2の実施の形態)
【0053】
第1の実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器1では、使用者が型番と巻線数とを入力して磁気飽和しない磁性体コアを選定した。本実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器のばあいには、導線の最大コモンモードノイズ電流を測定し、使用者が表示部に数値を固定表示することを指示したら、その後は制御部が自動的に磁気飽和しない磁性体コアの型番と巻線数とを表示部に表示するようにしたことが特徴である。
【0054】
測定器の構成やブロック図については、第1の実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器1と同じであるので、構成等についての説明は省略する。本実施の形態では、制御部の機能が第1の実施の形態の制御部とは少し異なるが、制御部も含めて図1から図3の符号をそのまま用いて、本実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器で磁気飽和しない磁性体コアの型番と巻線数とを表示する方法について説明する。
【0055】
本実施の形態においても、最大コモンモードノイズ電流測定値を固定して表示するための固定表示指示部4aを有し、使用者が固定表示指示部4aを用いて固定表示することを指示する。それにより、制御部13は表示部5に最大コモンモードノイズ電流測定値を固定して表示する。本実施の形態では、固定表示指示部4aは入力部4のなかの一つのボタンとしているが、本発明はこれに限定されず入力部4とは別のボタンで構成してもよい。これにより、使用者は容易に最大コモンモードノイズ電流測定値を視認することができる。
つぎに、本実施の形態に係るコモンモードノイズ電流測定器1を用いて磁性体コアを選定する手順について説明する。
【0056】
本実施の形態では、接続部を介してコンピュータから、あらかじめ設定した複数の巻線数を記憶部にさらに格納している。そして、使用者が固定表示指示部4aを用いて固定表示することを指示すると、制御部13はあらかじめ設定した複数の巻線数と最大コモンモードノイズ電流測定値とをもとにそれぞれの巻線数に対応した実効電流値を求める。次に、制御部13は、記憶部12に格納されている磁性体コアの最大許容電流値を読み出す。
【0057】
そして、比較部11が巻線数に対応した実効電流値と型番の最大許容電流値とをそれぞれ比較する。そして、最大許容電流値よりも小さな実効電流値の磁性体コアの型番と巻線数とを表示部5に表示する。最大許容電流値よりも小さな実効電流値の磁性体コアの型番と巻線数とは複数存在する場合があるが、表示部5にはこれらを一括又は順次表示する。使用者はその表示をチェックし、最適な磁性体コアを選択する。
以下事例を用いてさらに説明する。
【0058】
あらかじめ設定した巻線数は、例えば1ターンから3ターンとする。この巻線数はコンピュータを介して記憶部にあらかじめ格納しておく。そして、導線を流れる最大コモンモードノイズ電流測定値を計測した後、固定表示指示部4aのボタンが押されると、制御部13は実効電流値を求める。例えば、最大コモンモードノイズ電流測定値が8Aであった場合、実効電流値は1ターンでは最大コモンモードノイズ電流測定値と同じ8A、2ターンでは最大コモンモードノイズ電流測定値の2倍の16Aが実効電流値となり、3ターンでは最大コモンモードノイズ電流測定値の3倍の24Aが実効電流値となる。
【0059】
次に、制御部13は、記憶部12に格納されている型番の最大許容電流値を順次読み出す。そして、比較部11により、巻線数に対応した実効電流値と、型番から読み出した最大許容電流値とを比較する。型番がT-003では最大許容電流値は10Aである。そこで比較部11では、最大許容電流値の10Aと、巻線数に対応した実効電流値の8A、16Aおよび24Aとがそれぞれ比較される。その結果、巻線数が1ターンの場合のみ磁気飽和しないことが分かる。
【0060】
次に、制御部13は、型番がT-004の最大許容電流値を読み出し、比較部11により比較する。この場合には、最大許容電流値は50Aであるので、巻線数に対応した実効電流値8A、16Aおよび24Aと比較すると、すべての巻線数の場合で磁気飽和しないことが分かる。
【0061】
同様のことを他の型番についてもすべて行う。この事例では、T-001、T-002はすべての条件で磁気飽和するので使用不可となる。T-003では、巻線数が1ターンの場合のみ磁気飽和しない。一方、T-004、T-005およびT-006については、すべての条件で磁気飽和しない。その結果として、制御部13は表示部5に、型番T-003では巻線数1ターンのみ、T-004、T-005およびT-006については、巻線数が1ターンから3ターンまでを使用可能と表示する。
これにより使用者は、最大コモン電流測定値の測定結果から導線のノイズフィルタとしてどの磁性体コアを用いればよいかを容易に判断することができる。
なお、本実施の形態の場合についても第1の実施の形態の変形例と同じように非接触温度センサーを設けてもよい。
【0062】
また、本実施の形態では、使用者が固定表示指示部4aのボタンを用いて最大コモンモードノイズ電流測定値を固定表示する指示を出した後に、制御部13があらかじめ設定した複数の巻線数と最大コモンモードノイズ電流測定値とをもとにそれぞれの巻線数に対応した実効電流値を求めるようにしたが、本発明はこれに限定されない。使用者が固定表示指示部4aを操作して固定表示をすることを指示しなくても最大コモンモードノイズ電流値が測定されれば、制御部13はあらかじめ設定した複数の巻線数と最大コモンモードノイズ電流測定値とをもとにそれぞれの巻線数に対応した実効電流値を求めて、比較部11で比較し、磁気飽和しない型番と巻線数とを表示部5に表示するようにしてもよい。
【0063】
また、表1では、型番と最大許容電流値だけとしているが、さらに磁性体コアの外形寸法や許容発熱温度上昇値なども加えてもよい。例えば、外形寸法を型番中に含めた場合、複数の磁性体コアが磁気飽和しないことが分かったら、さらにそれらの外形寸法も表示するようにすれば、使用者は磁気飽和しない磁性体コアの中から最適な外形寸法の磁性体コアを容易に選択することができる。
【0064】
なお、本発明はコモンモードノイズ電流を主として測定するための電流測定器であるが、本発明は発明の名称に限定されずノーマルモードノイズ電流などを含め、磁性体コアを用いてノイズを抑制するために電流計測を行う場合には広く使用することができる。
【0065】
また、表示部とセンサー部とを一体化した小型形状の電流測定器で、周波数が数kHz帯域で1mA程度の微小電流値を測定できるものはみられないが、本発明のコモンモードノイズ電流測定器ではこのような範囲の微小電流も計測できる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のコモンモードノイズ電流測定器は導線を流れるコモンモードノイズ電流を測定するだけでなく、その電流値を基に磁気飽和しない磁性体コアを容易に選定できるので、ノイズ対策分野に有用である。
【符号の説明】
【0067】
1、16 コモンモードノイズ電流測定器
2 センサヘッド部
2a 固定ヘッド部
2b 回動ヘッド部
2c 接触部
3 開閉レバー
4 入力部
4a 固定表示指示部
4b 電源ボタン
4c、4d、4e、4f、4g、4h 操作ボタン
5 表示部
6 本体部
7 接続部
10 電流計測部
12 記憶部
13 制御部
14 コンピュータ
15 非接触温度センサー

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7