(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113155
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】ハット形鋼矢板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 1/082 20060101AFI20230808BHJP
B21B 15/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B21B1/082
B21B15/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015294
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒城 倫哉
(72)【発明者】
【氏名】杉田 和範
(72)【発明者】
【氏名】吉村 隆
(72)【発明者】
【氏名】片山 淳詞
(72)【発明者】
【氏名】後藤 寛人
【テーマコード(参考)】
4E002
【Fターム(参考)】
4E002AC05
4E002BA01
4E002BB02
4E002CA14
(57)【要約】
【課題】フランジ波の発生を抑制しつつ、クロップ部の変形を抑制し、噛み込み不良を抑制することができるハット形鋼矢板の製造方法を提供すること。
【解決手段】圧延対象材に複数の孔型を用いて、粗圧延、中間圧延及び仕上げ圧延を順次施して、ウェブとフランジと腕部と継手部とを有するハット形鋼矢板を製造するハット形鋼矢板の製造方法であって、粗圧延において圧延対象材は、フランジの高さ方向中央部の厚みが、フランジの高さ方向中央部以外の部分の厚みよりも薄くなるように圧延され、粗圧延後、中間圧延が施されるまでに、粗圧延後の圧延対象材の先端クロップ部と後端クロップ部との少なくとも一方を切断する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延対象材に複数の孔型を用いて、粗圧延、中間圧延及び仕上げ圧延を順次施して、ウェブとフランジと腕部と継手部とを有するハット形鋼矢板を製造するハット形鋼矢板の製造方法であって、
前記粗圧延において前記圧延対象材は、前記フランジの高さ方向中央部の厚みが、前記フランジの高さ方向中央部以外の部分の厚みよりも薄くなるように圧延され、
前記粗圧延後、前記中間圧延が施されるまでに、前記粗圧延後の前記圧延対象材の先端クロップ部と後端クロップ部との少なくとも一方を切断することを特徴とするハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項2】
前記先端クロップ部と前記後端クロップ部とのどちらか一方を切断する場合には、前記中間圧延での最初の圧延の噛み込み側となるクロップ部を切断することを特徴とする請求項1に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項3】
前記粗圧延における最終孔型において、前記圧延対象材を、前記フランジの高さ方向中央部の厚みが、前記フランジの高さ方向中央部以外の部分の厚みよりも薄くなるように圧延することを特徴とする請求項1または2に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項4】
前記粗圧延における最終孔型において、前記圧延対象材を、前記フランジの高さ方向中央部の厚みが、前記フランジの高さ方向中央部以外の部分の厚みの85~95[%]となるように圧延することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハット形鋼矢板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハット形等の両端に継手を有する鋼矢板の製造は、孔型圧延法によって行われている。この孔型圧延法の一般的な工程としては、先ず加熱炉において所定の温度に加熱した鋼素材(矩形材)を、孔型をそれぞれ備えた、粗圧延機、中間圧延機及び仕上げ圧延機によって順に圧延することが知られている。また、粗圧延機、中間圧延機及び仕上げ圧延機による圧延をそれぞれ、粗圧延、中間圧延及び仕上げ圧延ともいい、これらの圧延を総称して造形圧延ともいう。
【0003】
孔型圧延法として、例えば、特許文献1には、粗圧延、中間圧延及び仕上げ圧延において、ロールに複数の孔型を刻設し、各孔型にて1~2パスずつ圧延を行い、ハット形鋼矢板を製造する技術が開示されている。また、特許文献2には、フランジを有する鋼矢板の製造であって、粗圧延工程及び中間圧延工程における圧延対象材の圧延は、連続する複数の孔型における複数パス圧延によって行われ、複数の孔型での圧延において、連続する2つの孔型では、後段の孔型におけるフランジ総圧下率に比べて、圧延中立線近傍でのフランジ圧下率が小さくなるような所定の条件にてフランジ対応部のロール隙を構成し、圧延を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-88176号公報
【特許文献2】特開2019-38014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術には、未だ解決すべき以下のような問題があった。すなわち、特許文献1に開示された技術では、粗圧延、中間圧延工程、仕上げ圧延工程にて、フランジを製品とほぼ同じ角度の直線状態として1孔型で1~2パスの圧延を行うが、特にフランジ幅が大きく板厚が薄い場合には、リバース圧延を行うと断面内各部の延伸バランスが取れず、フランジ波が発生してしまう場合がある。また、中間圧延以降で、材料最先端部及び最後端部について、フランジのクロップが伸びすぎて、これがハット形の断面形状に対して「内側にしぼむ」もしくは「外側にひろがる」といった変形が起こり、次パスの圧延でうまく噛み込みが行えない、あるいは、クロップ部を2枚噛みさせてしまうなど、噛み込み不良を生じさせる場合があった。なお、2枚噛みとは、長く伸びたクロップ部が折れ曲がり、2枚の板のようにロールに噛みこんでしまうことである。また、特許文献2に開示された技術は、フランジ波の発生を抑制するための条件が十分ではない。また、中間圧延以降のクロップ部の変形及びクロップ部の変形による噛み込み不良を抑制する技術にはなっていない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、フランジ波の発生を抑制しつつ、クロップ部の変形を抑制し、噛み込み不良を抑制することができるハット形鋼矢板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るハット形鋼矢板の製造方法は、圧延対象材に複数の孔型を用いて、粗圧延、中間圧延及び仕上げ圧延を順次施して、ウェブとフランジと腕部と継手部とを有するハット形鋼矢板を製造するハット形鋼矢板の製造方法であって、前記粗圧延において前記圧延対象材は、前記フランジの高さ方向中央部の厚みが、前記フランジの高さ方向中央部以外の部分の厚みよりも薄くなるように圧延され、前記粗圧延後、前記中間圧延が施されるまでに、前記粗圧延後の前記圧延対象材の先端クロップ部と後端クロップ部との少なくとも一方を切断することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明に係るハット形鋼矢板の製造方法は、上記の発明において、前記先端クロップ部と前記後端クロップ部とのどちらか一方を切断する場合には、前記中間圧延での最初の圧延の噛み込み側となるクロップ部を切断することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明に係るハット形鋼矢板の製造方法は、上記の発明において、前記粗圧延における最終孔型において、前記圧延対象材を、前記フランジの高さ方向中央部の厚みが、前記フランジの高さ方向中央部以外の部分の厚みよりも薄くなるように圧延することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係るハット形鋼矢板の製造方法は、上記の発明において、前記粗圧延における最終孔型において、前記圧延対象材を、前記フランジの高さ方向中央部の厚みが、前記フランジの高さ方向中央部以外の部分の厚みの85~95[%]となるように圧延することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るハット形鋼矢板の製造方法は、フランジ波の発生を抑制しつつ、クロップ部の変形を抑制し、噛み込み不良を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、ハット形鋼矢板の断面形状を示した図である。
【
図2】
図2は、圧延ラインの設備構成を示す説明図である。
【
図3】
図3は、粗圧延のロール孔型を示した図である。
【
図4】
図4は、中間圧延のロール孔型を示した図である。
【
図5】
図5は、仕上げ圧延のロール孔型を示した図である。
【
図6】
図6は、フランジ波を模式的に示した図である。
【
図7】
図7は、中間圧延後のクロップ形状の例を示した図である。
【
図8】
図8(a)は、フランジのクロップ部が内側に曲がった形態を示した図である。
図8(b)は、フランジのクロップ部が外側に曲がった形態を示した図である。
【
図9】
図9(a)は、K7孔型におけるフランジ部位の部分拡大図である。
図9(b)は、
図9(a)中のA部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係るハット形鋼矢板の製造方法の実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。また、本実施形態においては、ハット形鋼矢板形状の圧延対象材を、ウェブがフランジよりも上方に位置する姿勢(いわゆる逆U姿勢、あるいは、ハット姿勢)で圧延されるものとして説明するが、当然、本発明の適用範囲はその他の姿勢(例えばU姿勢)での圧延にも及ぶ。
【0014】
図1は、ハット形鋼矢板1の断面形状を示した図である。
【0015】
本実施形態において製造されるハット形鋼矢板1は、
図1に示すように、長手方向に直交する一様な断面形状がハット形である。ハット形鋼矢板1は、断面形状として、ウェブ11と、一対のフランジ12と、一対の腕部13と、一対の継手部14とを有する。ウェブ11は、一方向(
図1の左右方向であり、以下では、「左右方向」とも称する。)に延在する部位である。一対のフランジ12は、ウェブ11の左右方向の両端に接続され、左右方向に対して傾いて延在する部位である。
図1に示す例では、一対のフランジ12は、ウェブ11の反対側の端部が上下方向(
図1の上下方向であり、左右方向に直交する方向)の下側となるように傾いて延在する。一対の腕部13は、一対のフランジ12のウェブ11が接続されていない側に接続され、左右方向に延在する部位である。一対の継手部14は、一対の腕部13のフランジ12が接続されていない側に接続される部位であり、上下方向の上側または下側に開いた鉤状の形状を有する。一対の継手部14は、鋼矢板として用いられる際に、他の鋼矢板の継手部に嵌合することで、他の鋼矢板との接続に用いられる部位である。なお、本実施形態では、腕部13と継手部14とをまとめて平坦部ともいう。平坦部は、ハット形鋼矢板1において、フランジ12のウェブ11が接続されていない側の端に接続して形成され、左右方向に延在する平坦箇所を有する部位である。本実施形態では、腕部13が、平坦部における平坦箇所となる。また、
図1のWで示す一対の継手部14間の距離を有効幅といい、
図1のHで示すウェブ11の上面から腕部13の下面までの上下方向の距離を有効高さという。
【0016】
次に、ハット形鋼矢板1に製造に用いる圧延ラインについて説明する。
図2は、圧延ライン2の設備構成を示す説明図である。
【0017】
図2において、圧延ライン2での圧延進行方向、つまり、圧延対象材の搬送方向は、
図2中に矢印で示す方向である。加熱炉3で加熱された圧延対象材であるスラブは、複数の孔型を用いて、粗圧延機4、中間圧延機5、仕上げ圧延機6の順に熱間で孔型圧延され、
図1に示すハット形鋼矢板1の製品形状に仕上げられる。これらの圧延機には、カリバと呼ばれる孔型が、上ロールと下ロールとに刻設されている。なお、本実施形態では、粗圧延機4、中間圧延機5及び仕上げ圧延機6による圧延をそれぞれ、粗圧延、中間圧延、仕上げ圧延ともいい、これらの圧延を総称して造形圧延ともいう。本実施形態において、粗圧延及び中間圧延は、それぞれ前記複数の孔型のうちの2以上の孔型を用いた複数パス圧延により行われ、仕上げ圧延は、前記複数の孔型のうちの1以上の孔型を用いた1パス以上の圧延により行われ、
図2に示すように、粗圧延3段(Box、K8、K7)、中間圧延4段(K6、K5、K4、K3)及び、仕上げ圧延2段(K2、K1)が例示される。また、粗圧延機4の出側には、タングカットソー7が設置されており、粗圧延を終了した圧延素材の先端クロップ部と後端クロップ部との少なくとも一方を切断して切り落とすことができる。
【0018】
図3は、粗圧延のロール孔型を示した図である。具体的には、
図3にハット形鋼矢板1の粗圧延に用いられる粗圧延機4の孔型の例を示しており、上ロール41と下ロール42とに対し、Box孔型、K8孔型及びK7孔型という3つの孔型が刻設されている。
【0019】
本実施形態の粗圧延では、まず、Box孔型で圧延対象材(素材)であるスラブの幅圧下が行われる。次いで、K8孔型で、スラブのハット形への曲げ変形及び厚み圧下が行われる。さらに、K7孔型で、さらに厚み圧下が行われ、製品断面形状に近い形に造形される。粗圧延のK8孔型及びK7孔型では、それぞれ複数パスの圧延が行われている。
【0020】
中間圧延機5についても同様に、2~4つ程度の孔型が上下で一つのロール組に刻設されており、これらの孔型での圧延が順次行われる。
図4は、中間圧延のロール孔型を示した図である。具体的には、
図4にハット形鋼矢板1用の中間圧延機5における圧延機5Aの孔型の例を示しており、上下で一つのロール組である上ロール51Aと下ロール52Aとに対し、K6孔型及びK3孔型の2つの孔型が刻設されている。
【0021】
また、ハット形鋼矢板1用の中間圧延機5における図示しないもう一方の圧延機5Bにも2つの孔型、K5孔型とK4孔型とが刻設されている。
【0022】
本実施形態の中間圧延では、中間圧延の1パス目にK6孔型で圧延を行い(K5圧延はダミーで圧下なし)、1パス目とは逆方向の圧延となる2パス目には、K6孔型とK5孔型とでのタンデム圧延を行う。さらに3パス目には、K4孔型とK3孔型とでタンデム圧延を行う。
【0023】
仕上げ圧延機6についても同様に、1~3つ程度の孔型が上下で一つのロール組に刻設されており、これらの孔型での圧延が順次行われる。
図5は、仕上げ圧延のロール孔型を示した図である。具体的には、
図5にハット形鋼矢板1用の仕上げ圧延機6の孔型の例を示しており、上下で一つのロール組である上ロール61と下ロール62とに対し、K2孔型及びK1孔型の2つの孔型が刻設されている。
【0024】
本実施形態の仕上げ圧延では、中間圧延された素材に対して、仕上げ圧延の1パス目にK2孔型で最終的な厚みを仕上げる圧延を行い、逆方向の圧延となる2パス目にK1孔型で継手部14の爪曲げ成型が行われ、製品断面形状となる。3パス目はK1孔型を通す正方向の圧延であるが、圧下や爪曲げを行わないダミー圧延としている。なお、この仕上げ圧延では、2パス目をダミー圧延として、3パス目にK1孔型で爪曲げを行っても構わない。また、K2孔型で2パスの圧延を行ってもよい。
【0025】
このようなハット形鋼矢板1の圧延では、「フランジ波」と呼ばれる形状不良が発生することがある。
図6は、フランジ波20を模式的に示した図である。
図6に示すように、フランジ波20は、フランジ12(の外面側)が平坦とはならずに長手方向で高さが変化し波打ち形状となる形状不良である。
【0026】
ここで、フランジ波20は、厚みが薄くなる中間圧延の後半パスや仕上げ圧延で発生することが多い。発生したフランジ波20が最終圧延後に残っていると、その材は製品とすることはできず(不合格品)、製品歩留まりを大きく低下させるため、フランジ波20の発生を抑制する必要がある。なお、フランジ波20のない合格品とは、例えば、本実施形態において、フランジ12の外面側について、長手方向での波の最高点と波の最低点との高さの差が予め定めた許容値を超えていない材をいい、前記許容値は適宜設定されるが本実施形態では0.5[mm]とする。
【0027】
次に、ハット形鋼矢板1のクロップ部について説明する。
図7は、中間圧延後のクロップ形状の例を示した図である。
【0028】
ウェブ11、フランジ12及び腕部13のそれぞれのクロップ部151,152,153の長さは、その断面内の圧下率の影響も受けるが、フランジ12のクロップ部152については、フランジ12の高さ方向中央部が伸びやすく、フランジ12の高さ方向中央部が長くなる形状になりやすい。これは、ハット形鋼矢板1の孔型圧延の特性で、圧延時にフランジ12の高さ方向上部及び下部から、フランジ12の高さ方向中央部に向かってメタルフローが生じ、フランジ12の高さ方向中央部のメタル量が多くなるためである。このように、フランジ12の高さ方向中央部に集まって来るメタルに対して、中間圧延以降、フランジ12の高さ方向でほぼ等しいロール隙で圧延を行うため、クロップ部152としてもフランジ12の高さ方向中央部が最も長く伸びる形状になる。
【0029】
図8(a)は、フランジ12のクロップ部152が内側に曲がった形態を示した図である。
図8(b)は、フランジ12のクロップ部152が外側に曲がった形態を示した図である。
【0030】
フランジ12のクロップ部152の変形は、圧延での噛み込み端側で生じ易く、内側と外側とのどちらに曲がるかは、フランジ12を圧延する孔型が刻設された上側ロールと下側ロールとの摩擦状態の差などの圧延条件による。また、フランジ12のクロップ部152の長さ(クロップ長さ)が長いと、クロップ部152の内側または外側への変形量も大きくなり、圧延での噛み込み不良が生じ易くなる。例えば、
図8(a)に示すように、フランジ12のクロップ部152が内側に曲がっていたときには、次パス(次の孔型)の入側のウェブガイドにクロップ部152が当たってロールに噛ますことができないという不具合が生じる。また、逆に、
図8(b)に示すように、フランジ12のクロップ部152が外側に曲がっていたときには、次パス(次の孔型)の噛み込みでクロップ部152が完全に折れ曲がってしまい、2枚噛みが発生する場合がある。この2枚噛みが発生すると、その部分の入側フランジ厚が通常の2倍になるため、ロール割損やロール折損リスクが非常に大きくなる。
【0031】
本願発明者らは、
図2に示した圧延ラインで、中間圧延以降のフランジ12のクロップ部152の伸びを抑制することで、クロップ変形を抑制する方法を検討した。その結果として、粗圧延の段階で、粗形鋼片におけるフランジ12の高さ方向中央部の近傍を、フランジ12の他の部分よりも薄く成形し、このフランジ12のクロップ部152を、粗圧延機4の後段に設置されているタングカットソー7で切断する。そして、この後の中間圧延及び仕上げ圧延におけるフランジ12の高さ方向中央部の近傍の厚みの圧下率を、フランジ12の他の部位よりも大きくなり過ぎないようにして、フランジ12の高さ方向中央部のクロップ伸びを抑制することとした。この方法によって、中間圧延以降でのフランジ12の高さ方向中央部の圧下率を小さくすることができるため、中間圧延の後半や仕上げ圧延で問題となるフランジ波の発生も抑制することができる。
【0032】
なお、フランジ12のクロップ部152の伸びとして、フランジ12の上方側(ハット姿勢でウェブ11に近い側)や、フランジ12の下方側(ハット姿勢で腕部13に近い側)が、フランジ12の高さ方向中央部よりも伸びた場合には、フランジ12とウェブ11との接合部となる屈曲部、もしくは、フランジ12と腕部13との接合部となる屈曲部に近いため、剛性が高くクロップ変形が生じにくい。
【0033】
フランジ波が問題となるのは、中間圧延の後半から仕上げ圧延であり、ここでのフランジ波の発生を抑制するためには、これより上流側の圧延においてフランジ12の中央部の増厚を防ぐことが重要である。フランジ波の原因となる増厚が発生しやすいのは、中間圧延以降の孔型での圧延である。そのため、この増厚を予め抑制するために、本実施形態においては、例えば、粗圧延の最終のK7孔型や中間圧延の最初のK6孔型における圧延において、フランジ12の高さ方向中央部を圧下するロール隙を、フランジ12の他の部位を圧下するロール隙よりも狭めるような圧延条件を採用する。
【0034】
図9(a)は、K7孔型におけるフランジ部位の部分拡大図である。
図9(b)は、
図9(a)中のA部の拡大図である。
【0035】
図9に示すように、本実施形態においては、粗圧延の最後のK7孔型として、下ロール42のフランジ12の高さ方向中央部に対応する位置に凸量dの凸部421を設けて、フランジ12の高さ方向中央部を圧下するロール隙をフランジ12の他の部位よりも狭めた孔型を適用している。なお、
図9中の「L1」は、フランジ12に沿った方向での凸部421の幅を示している。
図9(b)中の「L2」は、ハット形鋼矢板1の左右方向(ウェブ11に沿った方向)での凸部421の幅を示している。また、K7孔型においてフランジ12の高さ方向中央部に対応する位置に設ける凸部は、上ロール41と下ロール42とのいずれか一方または両方に設置すればよい。凸部の形状は、
図9(b)に示したような円弧形状に限るものではなく、例えば、台形形状や三角形形状などであってもよい。
【0036】
そして、このようなK7孔型で圧延を行うことによって、フランジ12の高さ方向中央部の厚みをフランジ12の他の部分よりも薄く形成することができる。この際、フランジ12の高さ方向中央部の厚みは、フランジ12の他の部分に対して85~95[%]の厚みとすることが望ましい。その理由は、95[%]を超える厚みとした場合、中間圧延以降のフランジ12の高さ方向中央部におけるクロップ部152の伸び過ぎを抑制する効果が小さくなるおそれがあるためである。また、逆に、85[%]未満の厚みとした場合には、K7孔型での最初の圧延パスにてフランジ12の噛み込み性に問題が生じる、例えば、フランジ12の高さ方向中央部が局所的に強圧下になり、うまく噛み込みを行えないおそれがあるためである。
【0037】
このようにして粗圧延で形成した粗形鋼片におけるフランジ12のクロップ部152については、フランジ12の高さ方向中央部が従来よりも伸びた形状となるが、粗圧延の段階では材料の厚みが厚いため、特にクロップ変形が問題となることはない。また、中間圧延以降でクロップ変形が問題となる先端側または後端側の少なくとも一方については、粗圧延機4の下流側に設けたタングカットソー7によって、フランジ12のクロップ部152などを切り落とすことにより、中間圧延開始時のクロップ長を0にする。
【0038】
例えば、
図2に示した圧延ラインでの圧延の場合には、中間圧延を終えた素材の先端側は、次の仕上げ圧延1パス目について、再度、先端側として噛みこむことになるため、特に圧延先端側のクロップ変形が問題となりやすい。そこで、この場合には、粗圧延後に材料の先端側のクロップ部をタングカットソー7によって切断することが好ましい。一方、圧延後端側については、戻りパスとなる中間圧延の2パス目に、材料の後端側からK6孔型、K5孔型の順に噛み込むことになる。したがって、孔型形状や圧延条件にもよるが、このK5孔型の噛み込み時にクロップ変形が問題となるおそれがある。このような場合には、粗圧延終了時点で材料後端側のクロップ部をタングカットソー7によって切り落とせばよい。このように、粗圧延終了後に先端側及び後端側のクロップ部をどのように切断するかは、中間圧延以降の圧延方法や圧延状況に応じて、適宜、選択することができる。
【0039】
なお、
図9では、K7孔型にフランジ12の高さ方向中央部を薄くする孔型を適用した場合を示したが、K8孔型にも同様の形態の孔型を適用することもできる。また、
図9に示したK7孔型によって1パスの圧延を行ってもよいし、複数パスの圧延を行ってもよい。
【0040】
(実施例)
本発明の実施例として、製品ウェブ厚が13.2[mm]となる25H(シリーズ呼称)のハット形鋼矢板1について、
図2に示した圧延ラインで
図3~
図5に示したロール孔型を用いて圧延を行った。また、適合例では、K7孔型について、
図9(a)及び
図9(b)に示すようなフランジ12の高さ方向中央部を圧下するロール隙について凸部421を設けた孔型を用いて圧延した。この凸部421の凸量dは2.0[mm]とした。なお、K6孔型~K1孔型は、凸部のない通常の孔型である。これに対して、比較例の一部では、K7孔型についても凸部のないフラットな孔型を用いた。これらの適合例及び比較例では、粗圧延終了時点に行うタングカットソー7での素材の先端及び後端のクロップ部の切断を種々の条件とした。また、製品段階でのフランジ波の発生有無を調査した。これらの条件と結果とを表1に示す。なお、表1において、適合例6及び7(条件No.8及び9)は、中間圧延の1パス目のロール隙を中間圧延機5の2台の圧延機5A,5Bとも大きく開いて厚み圧下なしとして、中間圧延の噛み込み開始を後端側からとした条件である。
【0041】
【0042】
表1から明らかなように、適合例1~7では、問題となる波の凹凸高さが0.5[mm]を超えるフランジ波の発生はなく、良好な形状の製品が得られた。特に、K7孔型圧延において、フランジ12の高さ方向中央部の厚みを、フランジ12の高さ方向中央部以外の厚みの85~95[%]の範囲とした適合例1~3及び5~7(条件No.1~3及び7~9)では、フランジ波の高さが0.2[mm]以下の特に形状が良好な製品が得られた。
【0043】
これに対して、比較例1では、圧延条件を調整することによって仕上げ圧延まで圧延可能となったが、結局、製品としてフランジ波の高さが基準(0.5[mm])を超えており、良好な形状の製品を採取することができなかった。また、タングカットソー7によるクロップ部の切断を行わなかった比較例2では、先端側のクロップ変形が大きく、仕上げ圧延1パス目をロールに噛みこませられないミスロールとなった。
【0044】
なお、本実施例では、25Hのハット形鋼矢板1の圧延例を示したが、本発明はハット形鋼矢板の他のシリーズ(10Hや50Hなど)でも適用できることを確認している。また、後端側のクロップ部をタングカットソー7によって切断しても、特に複数パスにおいて後端側から続けて噛みこませる圧延パスで、同様の効果が発揮できる。
【符号の説明】
【0045】
1 ハット形鋼矢板
2 圧延ライン
3 加熱炉
4 粗圧延機
5 中間圧延機
5A,5B 圧延機
6 仕上げ圧延機
7 タングカットソー
11 ウェブ
12 フランジ
13 腕部
14 継手部
20 フランジ波
41,51A,61 上ロール
42,52A,62 下ロール
151,152,153 クロップ部
421 凸部