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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113193
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】防護装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 59/02 20060101AFI20230808BHJP
   B63B 35/34 20060101ALI20230808BHJP
   E02B 3/26 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B63B59/02 E
B63B59/02 L
B63B35/34 B
E02B3/26 J
E02B3/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015366
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小尾 博俊
(57)【要約】
【課題】浮体構造物に対する船舶などの衝突に対して、十分な緩衝効果を得ることが可能な防護装置を提案する。
【解決手段】浮体構造物の外面に添設されるパネル体4と、パネル体4の下部に固定された浮体5とを備える防護装置3である。パネル体4は、浮体構造物側から順に、発泡樹脂製またはゴム製の第一板材43からなる第一層41と、繊維補強コンクリート製の第二板材44からなる第二層42とが積層されてなり、浮体5の内部の空気量を変化させることにより、パネル体4の水面からの突出高さを調整可能である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体構造物の外面に添設されるパネル体と、前記パネル体の下部に固定された浮体と、を備える防護装置であって、
前記パネル体は、前記浮体構造物側から順に、発泡樹脂製またはゴム製の第一板材からなる第一層と、繊維補強コンクリート製の第二板材からなる第二層とが積層されてなり、
前記浮体の内部の空気量を変化させることにより、前記パネル体の水面からの突出高さを調整可能であることを特徴とする、防護装置。
【請求項2】
前記第一層では、複数の前記第一板材が配置されていて、
前記第二層では、前記第一板材同士の境界を覆うように、複数の前記第二板材が千鳥配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の防護装置。
【請求項3】
前記パネル体と、前記浮体構造物とを連結する係留治具を備えており、
前記係留治具は、
前記浮体構造物に固定されたレールと、
前記レールに沿って上下動するローラーと、
前記ローラーと前記パネル体とをつなぐ係留索と、を備えていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の防護装置。
【請求項4】
前記浮体構造物は、中央に配設された柱状のセンターカラムと、前記センターカラムの周囲に間隔をあけて配設された複数のサイドカラムと、前記センターカラムと前記サイドカラムとを連結するアームと、を備えており、
前記パネル体は、前記サイドカラムの外面に添設されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の防護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体構造物の防護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスの排出量削減を目的として、再生可能エネルギーの需要が高まっている。再生可能エネルギーには、例えば、太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス等がある。風力発電施設は、風車による騒音や振動が生活環境に影響を及ぼす場合があり、居住空間等への影響を十分に考慮する必要があることから、居住区域から離れた山間部などに設置されることが多い。しかしながら、大型の風車を設置する用地を山間部に確保することは難しく、また、風力発電施設までの交通路の確保や、送電線等の設置等も困難であった。そのため、風力発電施設を海上(水上)に設置することが検討されている。
水上に構造物を構築する場合において、基礎構造として浮体構造物を採用する場合がある(例えば、特許文献1参照)。ところが、水上構造物には、船舶や漂流物が衝突するおそれがある。また、浮体構造物は、曳航したのち、所定の位置に係留するのが一般的であるが、曳航中に曳船が接触するおそれもある。浮体構造物は、船舶や漂流物などが衝突して破損が生じると、水没するおそれがある。
一方、浮体構造物自体の強度を高めて船舶等が衝突した際の耐衝撃性を確保しようとすると、浮体構造物が大規模になり、不経済である。そのため、浮体構造物に防護装置を設置することで、耐衝撃性の向上を図る場合がある。このような防護装置として、例えば、特許文献2には、所定の間隔を隔てて連結した複数の浮遊式防舷材を水上構造物の表面に沿って上下方向に摺動可能に設けたものが開示されている。ところが、特許文献2の防護装置に、船首等の尖頭な部位や漂流物が衝突した際には、浮遊式防舷材が移動して、隙間が生じ、十分な緩衝効果を得られないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-039474号公報
【特許文献2】実開平02-112719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、浮体構造物に対する船舶などの衝突に対して、十分な緩衝効果を得ることが可能な防護装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明は、浮体構造物の外面に添設されるパネル体と、前記パネル体の下部に固定された浮体とを備える防護装置であって、前記パネル体は、前記浮体構造物側から順に、発泡樹脂製またはゴム製の第一板材からなる第一層と、繊維補強コンクリート製の第二板材からなる第二層とが積層されてなり、前記浮体の内部の空気量を変化させることにより、前記パネル体の水面からの突出高さを調整可能である。
かかる防護装置によれば、浮体構造物の外面に発泡樹脂製またはゴム製の第一板材を備えるパネル体が添設されているため、船舶等が衝突した際の衝突力を吸収し、浮体構造物の損傷を低減できる。また、船舶等が衝突した場合であっても、パネル体に隙間が形成されることがない。また、パネル体の表面に繊維補強コンクリート製の第二板材が配設されているため、衝突力を分散して第一板材に伝達することができ、衝突力を効率的に吸収できる。
【0006】
なお、互いの端面同士を突き合せた状態で配置された複数の前記第一板材同士の境界を覆うように、複数の前記第二板材が千鳥配置されていれば、板材同士の接合部が弱部なることを防ぎ、パネル体のどの位置に船舶などが衝突した場合であっても、同様な緩衝効果を期待できる。
防護装置は、浮体構造物の吃水が変動しても、衝突想定範囲を常に防護できるように、前記パネル体と前記浮体構造物とを連結する係留治具を備えているのが望ましい。このような係留治具としては、前記浮体構造物に固定されたレールと、前記レールに沿って上下動するローラーと、前記ローラーと前記パネル体とをつなぐ係留索とを備えているのが望ましい。
なお、前記浮体構造物が、中央に配設された柱状のセンターカラムと、前記センターカラムの周囲に間隔をあけて配設された複数のサイドカラムと、前記センターカラムと前記サイドカラムとを連結するアームとを備えている場合には、前記パネル体は、前記サイドカラムの外面に添設すればよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の防護装置によれば、浮体構造物に対する船舶などの衝突に対して、十分な緩衝効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る水上施設を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る防護装置を示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図3】防護装置のパネル体を示す斜視図である。
図4】係留治具を示す図であって、(a)は正面図、(b)は平面図である。
図5】解析モデルを示す図であって、(a)は比較例、(b)は実施例1、(c)は実施例2である。
図6】他の形態に係る防護装置を示す図であって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、洋上風力発電施設(水上施設)1の基礎構造2を保護するための防護装置3について説明する。図1は、洋上風力発電施設1の斜視図である。図1に示すように、洋上風力発電施設1は、風車11と、風車11を支持する支柱12とを有していて、基礎構造2を介して水面よりも高い位置に設けられている。風車11は、支柱12の上端部に回転可能に設けられている。支柱12は、基礎構造2上に立設されている。
基礎構造2は、コンクリート製の浮体構造物である。本実施形態の基礎構造2は、中央に配設されて支柱12を支持する柱状のセンターカラム21と、センターカラム21の周囲に間隔をあけて配設された複数本(本実施形態では3本)のサイドカラム22,22,22と、センターカラム21とサイドカラム22とを連結するアーム23とを備えている。
基礎構造2のサイドカラム22の外面には、防護装置3が添設されている。
【0010】
図2に防護装置3を示す。図2(a)および(b)に示すように、防護装置3は、基礎構造2(サイドカラム22)の外面に添設されるパネル体4と、パネル体4の下部に固定された浮体5と、パネル体4とサイドカラム22とを連結する係留治具6を備えている。本実施形態では、サイドカラム22の外面のうち、船舶や漂流物等の衝突物Mの衝突が予想される範囲(衝突想定範囲)を覆うように、防護装置3を設置する。
【0011】
図3にパネル体4を示す。パネル体4は、基礎構造2(サイドカラム22)側から順に、第一層41と第二層42とが積層されてなる。
図3に示すように、第一層41は、複数の発泡樹脂製またはゴム製の第一板材43,43,…が、互いの端面同士を突き合せた状態で配置されている。第一層41の露出面(例えば、第一層41の基礎構造2側の面や、第一層41の上端面または下端面等)は、劣化防止材(図示せず)によりで覆われている。劣化防止材には、例えば、ポリウレア樹脂を使用すればよい。
第二層42では、複数の繊維補強コンクリート製の第二板材44,44,…が、第一板材43同士の境界(突き合せ部)を覆うように、互いの端面同士を突き合せた状態で、千鳥配置されている。
パネル体4は、サイドカラム22の形状に応じて湾曲させた状態で、サイドカラム22の外面に添設する(図2(a)参照)。パネル体4を湾曲させる方法としては、例えば、第一板材43および第二板材44を、サイドカラム22の形状に応じて予め湾曲させた形状に形成してもよいし、第一板材43および第二板材44を平板状とし、隣り合う第一板材43同士および第二板材44同士の接合部において角度を設けることで、サイドカラム22の形状に応じてパネル体4を湾曲させてもよい。
【0012】
浮体5は、内部に空気を貯留可能な中空部材からなる。浮体5は、パネル体4を水面から突出させることが可能な浮力を有していて、浮体5の内部の空気量を変化させることにより、パネル体4の水面からの突出高さを調整可能である。
図4に係留治具6を示す。係留治具6は、基礎構造2(サイドカラム22)の外面に固定されたレール61と、レール61に沿って上下動するローラー62と、ローラー62とパネル体4とをつなぐ係留索63とを備えている。係留治具6は、ローラー62がレール61に沿って上下動するため、パネル体4の上下動(浮き沈み)を妨げることなくパネル体4をサイドカラム22に連結する。係留索63には、ロープ、チェーン、ワイヤー等を使用する。
【0013】
本実施形態の防護装置3によれば、衝突物Mが衝突した場合であっても、発泡樹脂製またはゴム製の第一板材43が衝突力を吸収するため、基礎構造2(浮体構造物)の損傷を低減できる。
また、パネル体4の表面に繊維補強コンクリート製の第二板材44が配設されているため、衝突力を分散して第一板材43に伝達することができ、衝突力を効率的に吸収できる。
さらに、第一層41の第一板材43同士の境界を覆うように、第二層42の第二板材44を千鳥配置しているため、第一板材43同士の接合部または第二板材44同士の接合部が弱部になり難い。そのため、パネル体4のどの位置に衝突物Mが衝突した場合であっても、防護装置3(パネル体4)に隙間が形成されることがなく、同様な緩衝効果を期待できる。
第一板材43の表面(露出面)は、劣化防止材(ポリウレア樹脂)で覆われているため、海水や紫外線等による劣化に対して耐久性が確保されている。
また、パネル体4の水面からの突出高さを浮体5により調整可能であるため、基礎構造2の吃水が変動しても、衝突想定範囲を常に防護できる。
また、係留治具6は、パネル体4の上下動を妨げることなく基礎構造2とパネル体4とを連結するため、基礎構造2の吃水が変動しても、衝突想定範囲を常に防護できる。
【0014】
以下、本実施形態の防護装置3の効果について検証した解析結果を示す。
解析では、基礎構造2としての縦5000mm×横5000mm×厚さ500mmの鉄筋コンクリート版20の中央に、排水量200トンの曳航船(衝突物M)が衝突速度5ノット(≒2.6m/s)で衝突するものとした(図5参照)。なお、図5は解析モデルを示す斜視図である。鉄筋コンクリート版20を構成するコンクリートは設計基準強度FC50N/mmで、鉄筋はD51とし、200mmピッチで縦横2段の配筋とした。
【0015】
基礎構造2(鉄筋コンクリート版20)の表面に設置されるパネル体4(防護装置3)として、実施例1では、第一板材43を厚さ450mmの発泡ポリスチレン(EPS)製の板材とし、第二板材44を厚さ50mmの超高強度繊維補強コンクリート(UFC)製の板材とした(図5(b)参照)。また、実施例2では、第一板材43を厚さ300mmのゴム板(格子状またはハニカム状)とし、第二板材44を実施例1と同じ厚さ50mmの超高強度繊維補強コンクリート(UFC)製の板材とした(図5(c)参照)。
また、比較例として、図5(a)に示すように、防護装置3が設置されていない鉄筋コンクリート版20についても解析を行った。
【0016】
防護装置3が設置されていない比較例1は、鉄筋コンクリート版20が大破する結果となった。また、比較例1では、鉄筋が降伏する結果となった。
一方、防護装置3を設置した実施例1,2では、鉄筋コンクリート版20の損傷は軽微であった。第一板材43として、発泡樹脂を使用した場合(実施例1)と、ゴム板を使用した場合(実施例2)とのいずれも場合であっても、衝突荷重を緩衝可能であることが確認できた。また、実施例1および実施例2における鉄筋の応力は弾性範囲内であった。
以上のとおり、本実施形態の防護装置3によれば、浮体構造物に対する船舶や漂流物の衝突に対する緩衝効果が得られることが確認できた。
【0017】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
前記実施形態では、基礎構造2がセンターカラム21とサイドカラム22とを有したいわゆるセミサブマージブル型である場合について説明したが、基礎構造2の形式は限定されるものではなく、例えば、バージ型、スパー型またはTLP型であってもよい。
また、防護装置3により保護する浮体構造物は、洋上風力発電施設1の基礎構造2に限定されるものではない。また、水上施設は洋上風力発電施設1に限定されるものではない。
【0018】
前記実施形態では、サイドカラム22の衝突想定範囲に対して防護装置3を設置するものとしたが、防護装置3は、図6(a)および(b)に示すように、サイドカラム22の全周囲または基礎構造2の全周囲を囲うように設置してもよい。
係留治具6の構成は限定されるものではない。例えば、係留索63の端部がレール61に沿って摺動可能であれば、ローラー62を省略してもよい。また、係留治具6は、必要に応じて設置すればよい。
第一板材43および第二板材44は、必ずしも千鳥状に配置する必要はなく、第一板材43および第二板材44の配置、枚数等は限定されるものではない。
第一板材43としてゴム板を使用する場合には、ゴム板は、密実の板材であってもよいし、ハニカム状または格子状であってもよい。
【符号の説明】
【0019】
1 洋上風力発電施設(水上施設)
2 基礎構造(浮体構造物)
21 センターカラム
22 サイドカラム
23 アーム
3 防護装置
4 パネル体
41 第一層
42 第二層
43 第一板材
44 第二板材
5 浮体
6 係留治具
61 レール
62 ローラー
63 係留索
図1
図2
図3
図4
図5
図6