(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113205
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】熱式流量センサ
(51)【国際特許分類】
G01F 1/684 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
G01F1/684 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015388
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大揮
【テーマコード(参考)】
2F035
【Fターム(参考)】
2F035EA05
2F035EA08
(57)【要約】
【課題】センサチップと流路との間の隙間に充填剤を充填するにあたり、充填剤の表面がセンサチップの表面や流路の壁面と面一にかつ平坦面となるようにする。
【解決手段】流路2を有するとともにセンサチップ取付用の凹部11を有する筐体3を備える。温度センサとヒータとを含む検出部を有し、検出部が流路2内で流路2の底壁面5aと同一平面上に位置するように凹部11に挿入されたセンサチップ4を備える。凹部11の底面11aから開口縁11bまで延びる内側壁16とセンサチップ4との間に充填された充填剤17を備える。凹部11の内側壁16は、底壁面5aから予め定めた微小な深さだけ底面11a側に離れる位置まで底面11aからセンサチップ4の側面に沿って延びる立ち上がり部16aと、立ち上がり部16aと底壁面5aとの間に形成された拡張部16bとを有している。拡張部16bは、センサチップ4との間隔が立ち上がり部16aとセンサチップ4との間隔より広くなるように形成されているとともに、凹部11の開口縁11bを形成している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定用の流体が流れる流路を有するとともに、前記流路の壁面に開口するセンサチップ取付用の凹部または貫通穴を有する筐体と、
温度センサとヒータとを含む検出部を有し、前記検出部が前記流路内で前記壁面と同一平面上に位置するように前記凹部に挿入されたセンサチップと、
前記凹部の底面から開口縁まで延びる内側壁と前記センサチップとの間に充填された充填剤とを備え、
前記内側壁は、前記壁面から予め定めた微小な深さだけ前記底面側に離れる位置まで前記底面から前記センサチップの側面に沿って延びる立ち上がり部と、
前記立ち上がり部と前記壁面との間に形成された拡張部とを有し、
前記拡張部は、前記センサチップとの間隔が前記立ち上がり部と前記センサチップとの間隔より広くなるように形成されているとともに、前記凹部の前記開口縁を形成していることを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項2】
請求項1記載の熱式流量センサにおいて、
前記拡張部は、前記センサチップとの間隔が前記立ち上がり部から前記壁面に向かうにしたがって次第に広くなるように傾斜していることを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の熱式流量センサにおいて、
前記内側壁の表面は、前記充填剤の濡れ性が向上する表面処理が施され、
前記表面処理は、紫外線照射による処理であることを特徴とする熱式流量センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサチップと流路の壁面との間の隙間に充填剤が充填された熱式流量センサに関する。
【背景技術】
【0002】
被測定用の流体の流量を測定する熱式流量センサとしては、流路の内部に直接センサチップが埋め込まれた構造のものがある。この種の熱式流量センサにおいて、高精度で再現性の高い計測を実現するためには、センサチップの直上における流速分布の乱れを可及的に小さくすることが重要である。センサチップの直上における流速は、センサチップと流路の壁面との間の段差が原因で乱れることが多い。このため、センサチップの表面と流路の壁面とが同一平面上に位置し、これらの面が一つの平坦面を構成するように並ぶことが望ましい。
【0003】
流路内に直接センサチップを埋め込む構造の熱式流量センサでは、センサチップを流路に埋め込む際にセンサチップと流路の壁面との間に隙間が生じる。このような隙間は流速分布を乱す原因の一つとなる。このため、例えば特許文献1に記載されているように、センサチップの周囲に形成される隙間に充填剤を充填し、隙間となる部分にセンサチップの表面や流路の壁面と面一となる面を形成することが望ましい。充填剤は、作業者により操作される注入器によって隙間に注入されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、充填剤の表面がセンサチップの表面や流路の壁面に対して面一にかつ平坦面となるように充填剤を隙間に充填することは難しいという問題があった。この理由は、センサチップと流路との間の狭い隙間の中で充填剤の液面の位置を目視で確認することが難しいからである。このため、センサチップの周囲の隙間を充填剤で埋める構造の従来の熱式流量センサにおいては、充填剤をセンサチップの表面付近まで充填することができない、あるいはセンサチップの表面上まで充填剤が流れる、充填剤を平坦に充填できない、充填状態の再現性が悪い、充填する作業の作業性が悪いといった課題がある。
【0006】
本発明の目的は、センサチップと流路との間の隙間に充填剤を充填するにあたり、充填剤の表面がセンサチップの表面や流路の壁面と面一にかつ平坦面となるようにすることが可能な熱式流量センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明に係る熱式流量センサは、被測定用の流体が流れる流路を有するとともに、前記流路の壁面に開口するセンサチップ取付用の凹部または貫通穴を有する筐体と、温度センサとヒータとを含む検出部を有し、前記検出部が前記流路内で前記壁面と同一平面上に位置するように前記凹部に挿入されたセンサチップと、前記凹部の底面から開口縁まで延びる内側壁と前記センサチップとの間に充填された充填剤とを備え、前記内側壁は、前記壁面から予め定めた微小な深さだけ前記底面側に離れる位置まで前記底面から前記センサチップの側面に沿って延びる立ち上がり部と、前記立ち上がり部と前記壁面との間に形成された拡張部とを有し、前記拡張部は、前記センサチップとの間隔が前記立ち上がり部と前記センサチップとの間隔より広くなるように形成されているとともに、前記凹部の前記開口縁を形成しているものである。
【0008】
本発明は、前記熱式流量センサにおいて、前記拡張部は、前記センサチップとの間隔が前記立ち上がり部から前記壁面に向かうにしたがって次第に広くなるように傾斜していてもよい。
【0009】
本発明は、前記熱式流量センサにおいて、前記内側壁の表面は、前記充填剤の濡れ性が向上する表面処理が施され、前記表面処理は、紫外線照射による処理であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、センサチップと凹部の内壁面との間の隙間が充填剤で満たされることにより、充填剤が拡張部に流入した状態となる。このため、充填剤の充填が過不足なく行われたことを拡張部を見て判断することができる。したがって、本発明によれば、センサチップと流路との間の隙間に充填剤を充填するにあたり、充填剤の表面がセンサチップの表面や流路の壁面と面一にかつ平坦面となるようにすることが可能な熱式流量センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係る熱式流量センサの使用状態における平面図である。
【
図4】
図4は、凹部の内側壁とセンサチップの一部を拡大して示す断面図である。
【
図5】
図5は、充填剤を充填する手順を説明するための断面図である。
【
図6】
図6は、変形例における充填剤を充填する手順を説明するための断面図である。
【
図7】
図7は、凹部の内側壁に紫外線を照射している状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る熱式流量センサの一実施の形態を
図1~
図7を参照して詳細に説明する。
図1に示す熱式流量センサ1は、流路2を流れる被測定用の流体の流量を測定するもので、流路2を形成する筐体3と、筐体3に取付けられたセンサチップ4などを備えている。センサチップ4は、図示していない基板に支持された状態で筐体3に取付けられている。
【0013】
流路2は、筐体3に形成された溝5と、筐体3に溝5の開口部を塞ぐように取付けられた蓋体(図示せず)とによって形成されている。溝5は、平坦面からなる底壁面5aと、底壁面5aに対して垂直な第1の側壁面5bおよび第2の側壁面5cとによって形成されている。この実施の形態においては、底壁面5aが本発明でいう「流路の壁面」に相当する。
流体は、
図1中に矢印Aで示すように
図1において左から右に流れる。
図1は、製造時の筐体3を上方から見た状態で描いてある。すなわち、
図1に示す溝5は、上方に向けて開放されている。
【0014】
筐体3には、
図2に示すように、センサチップ取付用の凹部11が形成されている。凹部11は、センサチップ4を挿入して取付けることができる大きさに形成されている。この実施の形態による凹部11は、溝5の底壁面5aと、流路2の上流側から見て右側に位置する第1の側壁面5bとに開口するように形成されている。凹部11の深さは、
図3に示すように、凹部11に挿入されたセンサチップ4の上面が溝5の底壁面5aと同一平面上に位置するような深さである。センサチップ4は、
図1に示すように、温度センサ12,13とヒータ14とを含む検出部15を有し、検出部15が流路2内で溝5の底壁面5aと同一平面上に位置するように凹部11に挿入されている。
【0015】
流体が流れる方向における凹部11の開口幅と、流路2の上流側から見て左右方向における凹部11の開口幅は、何れもセンサチップ4の外形より大きい。この凹部11の内側壁16とセンサチップ4との間の隙間には、
図3に示すように充填剤17が充填されている。ここでいう凹部11の内側壁16とは、
図4に示すように、凹部11の底面11aから開口縁11bまで延びる壁である。
【0016】
凹部11の流路2内に開口する部分の内側壁16は、
図4に示すように、凹部11の底面11aからセンサチップ4の側面4aに沿って延びる立ち上がり部16aと、立ち上がり部16aと流路2の底壁面5aとの間に形成された拡張部16bとを有している。立ち上がり部16aは、流路2の底壁面5aから予め定めた微小な深さだけ凹部11の底面11a側に離れる位置まで底面11aから延びている。拡張部16bは、センサチップ4との間隔が立ち上がり部16aとセンサチップ4との間隔より広くなるように形成されている。凹部11の流路2内に開口する部分の開口縁11bは、拡張部16bによって形成されている。
【0017】
充填剤17は、センサチップ4が凹部11内に設置された状態で、
図5(A),(B)に示すように内側壁16とセンサチップ4との間に上方から注入用ニードル18によって注入される。
図5(A)は注入開始直後の状態を示し、
図5(B)は注入終了直前の状態を示す。充填剤17は、接着性と耐腐食性とを有する接着剤を用いることができる。充填剤17を注入する作業は、作業者が目視で注入位置を確認しながら実施する。注入用ニードル18から流出した充填剤17は、凹部11の内側壁16とセンサチップ4との間に溜められ、立ち上がり部16aとセンサチップ4との間を満たした後に
図5(B)に示すように拡張部16bとセンサチップ4との間に流入する。
【0018】
拡張部16bは、立ち上がり部16aよりセンサチップ4との間の間隔が広くなるように形成されている。このため、作業者は、拡張部16bに流入した充填剤17を容易に視認することができる。作業者は、このように拡張部16bまで充填剤17が流入したときに充填剤17の注入を止める。拡張部16bに流入した充填剤17の上面は、流路2の底壁面5aやセンサチップ4の上面に殆ど段差がない状態で接続されるか、段差があったとしても無視できる微小な段差を介して接続されるようになる。
【0019】
このため、拡張部16bに流入した充填剤17が実質的に目印となり、充填剤17の充填が過不足なく行われたことを拡張部16bを見て判断することができる。したがって、この実施の形態によれば、センサチップと流路との間の隙間に充填剤を充填するにあたり、充填剤の表面がセンサチップの表面や流路の壁面と面一にかつ平坦面となるようにすることが可能な熱式流量センサを提供することができる。
【0020】
(凹部の内側壁の変形例)
凹部の流路内に開口する部分の内側壁は、
図6(A)~(C)に示すように形成することができる。
図6(A)は充填剤を注入する以前の状態を示す断面図、
図6(B)は充填剤が充填された状態を示す断面図、
図6(C)は、内側壁とセンサチップの一部を拡大して示す断面図である。
図6において、
図1~
図5によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
【0021】
図6(A)~(C)に示す凹部11の内側壁21は、凹部11の底面11aからセンサチップ4の側面4aに沿って延びる立ち上がり部21aと、この立ち上がり部21aと流路2の底壁面5aとの間に形成された傾斜面からなる拡張部21bとを有している。立ち上がり部21aは、流路2の底壁面5aから予め定めた微小な深さだけ凹部11の底面11a側に離れる位置まで底面11aから延びている。
拡張部21bは、センサチップ4との間隔が立ち上がり部21aから流路2の底壁面5aに向かうにしたがって次第に広くなるように傾斜している。
【0022】
このように拡張部21bが傾斜していると、拡張部21bとセンサチップ4との間に充填剤17が入った状態で充填剤17が継続して注入されることにより、上方から見える充填剤17の幅が次第に広くなる。このため、拡張部21bとセンサチップ4との間に流入した充填剤17の量を目で見て判断することが可能になるから、充填剤17の表面と流路2の底壁面5aやセンサチップ4の上面との間に段差が生じることがないように充填剤17を注入することが可能になる。
【0023】
(凹部の内側壁の表面処理について)
凹部11の内側壁16,21の表面には、充填剤17の濡れ性が向上する表面処理を施すことができる。濡れ性が向上する表面処理は、紫外線照射による処理である。この表面処理は、例えば
図7に示すように、紫外線照射ライト31を使用し、内側壁16,21に紫外線を照射することにより実施することができる。
内側壁21の拡張部21bに濡れ性が向上する表面処理が施されることにより、充填剤17が傾斜面上を拡がり易くなるから、充填剤17を流路2の底壁面5aとセンサチップ4の上面とに面一となるように充填する作業を容易に行うことができる。
【0024】
(筐体の変形例)
図1~
図7に示す筐体3は、センサチップ4を挿入して取付けるために凹部11を有している。しかし、センサチップ4を取付けるためには、
図8に示すように貫通穴41を使用することができる。
貫通穴41は、筐体3の一側部3aに開口し、一側部3aから他側部3bに向けて流体の流れる方向とは直交する方向に延びて流路2を横切るように形成されている。
この形態を採る場合であっても、貫通穴41の流路2内に開口する部分の内側壁16は、貫通穴41の底面11aからセンサチップ4の側面4aに沿って延びる立ち上がり部16aと、立ち上がり部16aと流路2の底壁面5aとの間に形成された拡張部16bとを有している。
センサチップ4を貫通穴41に取付ける構成を採る場合であっても、拡張部16bに流入した充填剤17が実質的に目印となり、充填剤17の充填が過不足なく行われたことを拡張部16bを見て判断することができる。このため、センサチップと流路との間の隙間に充填剤を充填するにあたり、充填剤の表面がセンサチップの表面や流路の壁面と面一にかつ平坦面となるようにすることが可能な熱式流量センサを提供することができる。
【符号の説明】
【0025】
1…熱式流量センサ、2…流路、3…筐体、4…センサチップ、5a…底壁面、11…凹部、12,13…温度センサ、14…ヒータ、15…検出部、11a…底面、11b…開口縁、16…内側壁、16a…立ち上がり部、16b,21b…拡張部、17…充填剤、31…紫外線照射ライト、41…貫通穴。