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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113213
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】周波数変調装置および周波数変調方法
(51)【国際特許分類】
   H03C 3/00 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
H03C3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015400
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】504371734
【氏名又は名称】株式会社ファイ・マイクロテック
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】濱口 浩規
(72)【発明者】
【氏名】結城 直彦
(57)【要約】
【課題】周波数変調装置内部で発生する雑音や電圧制御発振器の非線形性による復調信号に含まれる雑音を低減し、復調時の不要な高調波信号の増加を抑圧できる周波数変調装置及び周波数変調方式を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る周波数変調装置は、周波数変調信号(51)を復調してパルス密度変調信号(52)を出力するパルスカウント検波器(111)と、パルス密度変調信号(52)を周波数変調信号(58)に再度変換する1ビットカウンタ(303)と、をさらに備え、フィードバック回路(115)は、パルス密度変調信号(52)を復調信号(53)とすることを特徴とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号の周波数により信号振幅の増減率が変化する第1フィルタと、
前記第1フィルタが出力する信号の電圧を制御電圧とし、周波数変調信号を出力する電圧制御発振器と、
外部からの入力信号から前記周波数変調信号を復調した復調信号を減じて前記電気信号とするフィードバック回路と、
を備える周波数変調装置。
【請求項2】
前記フィードバック回路は、前記電圧制御発振器が出力した前記周波数変調信号が入力され、前記周波数変調信号を復調して前記復調信号とする復調器を有することを特徴とする請求項1に記載の周波数変調装置。
【請求項3】
前記周波数変調信号を復調してパルス密度変調信号を出力するパルスカウント検波器と、
前記パルス密度変調信号を前記周波数変調信号に再度変換する1ビットカウンタと、
をさらに備え、
前記フィードバック回路は、前記パルス密度変調信号を前記復調信号とすることを特徴とする請求項1に記載の周波数変調装置。
【請求項4】
前記フィードバック回路は、前記パルス密度変調信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域以外の周波数帯域を減衰する第2フィルタを有することを特徴とする請求項3に記載の周波数変調装置。
【請求項5】
制御電圧に基づき電圧制御発振器で周波数変調信号を生成すること、
外部からの入力信号から前記周波数変調信号を復調した復調信号を減ずるようにフィードバックすること、
前記入力信号から前記復調信号を減じた電気信号を、周波数により信号振幅の増減率が変化する第1フィルタを通過させること、及び
前記第1フィルタが出力する信号の電圧を前記制御電圧とすること
を行う周波数変調方法。
【請求項6】
前記フィードバックするときに、前記周波数変調信号を復調して前記復調信号とすることを特徴とする請求項5に記載の周波数変調方法。
【請求項7】
パルスカウント検波器で、前記周波数変調信号を復調してパルス密度変調信号とすること、
1ビットカウンタで、前記パルス密度変調信号を前記周波数変調信号に再度変換すること、及び
前記パルス密度変調信号を前記復調信号とすること
を特徴とする請求項5に記載の周波数変調方法。
【請求項8】
前記フィードバックするときに、第2フィルタで、前記パルス密度変調信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域以外の周波数帯域を減衰することを特徴とする請求項7に記載の周波数変調方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高精度な周波数変調装置および周波数変調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数変調(FM:Frequency Modulation)は、送信する情報信号である変調信号を搬送波の周波数を変化させることで伝送する方式であり、FMラジオ放送や、アマチュア無線、ワイヤレス・マイクロフォン、消防無線、タクシー無線などの用途で使われている。
【0003】
周波数変調は、変調信号は搬送波の周波数の変化に変換され伝送されることから搬送波の振幅には情報がなく振幅が一定であっても情報を伝送することができることから、伝送路等で振幅方向の雑音が付加されても、受信機のリミッタ回路(振幅制限器)で除去することで,振幅方向の雑音による信号対ノイズ比(SNR)の劣化を防止することができる。
【0004】
さらに、変調に利用する周波数の変化(周波数偏移)を大きく設定すれば、ダイナミックレンジや占有帯域幅が広がり、SNRを高くすることができる利点を有している。
【0005】
周波数変調器および復調器の回路構成を図1にしめす。周波数変調器(100)は、変調信号源(10)からの電気信号を入力信号(50)として、電圧制御発振器(101)で変調信号を周波数変調信号51に変調し、伝送線路40で伝送する。復調器(110)は、パルスカウント検波器(111)で周波数変調信号(51)をパルス密度変調信号(52)とし、ローパスフィルタ(112)を通過させる。ローパスフィルタ(112)の出力信号(53)が元の変調信号源(10)の信号となる。なお、以下の説明では電圧制御発振器を“VCO”と記載することがある(VCO:Voltage Controlled Oscillator)。VCOを用いた周波数変調の動作および復調の原理は、例えば、非特許文献1で開示される。
【0006】
電圧制御発振器(101)は、周波数が入力電圧(以後、制御電圧)に比例する周波数信号を出力する電子発振器回路であり、その周波数が制御電圧によって決定される。変調信号を制御電圧として電圧制御発振器に入力し、その出力信号の周波数を変調信号により変化させることにより周波数変調が実現できる。電圧制御発振器の制御電圧(V)と出力信号の周波数(fvco)は以下の式(1)で表される。
【数1】
ここで、KはVCOゲインであり、制御電圧Vの変化に対する出力周波数fvcoの変化の割合をHz/V(または角速度を用いて(rad/sec)/V)で表した係数である。また、fはオフセット周波数であり、V=0のときの出力周波数fvcoの値である。
【0007】
一方,周波数変調信号の復調は、パルスカウント検波により実現できる(例えば、特許文献1を参照。)。図2及び図3を用いてパルスカウント検波器を用いたパルスカウント方式FM復調器による周波数変調信号の復調動作原理を説明する。
【0008】
入力端子(23)に入力された周波数変調信号はリミッタ回路(201)にて振幅が一定のパルス信号に変換される。当該パルス信号は2分岐され、一方のパルス信号が時間τだけ遅延させる遅延回路(202)に入力される。分岐したもう一方のパルス信号は、遅延回路の出力信号である遅延した周波数変調信号(54)とともに排他論理和(203)に入力される。排他論理和(203)は、パルス信号(51)の変化点を起点としパルス幅がτの遅延検波パルス信号を出力端子(33)に出力する。この遅延検波パルス信号は、入力である周波数変調信号の周波数が高い程、出力時間間隔が狭くなり、逆に入力である周波数変調信号の周波数が低い程、出力時間間隔が広くなるパルス密度変調信号(52)である。
【0009】
この、遅延検波パルス信号即ちパルス密度変調信号(52)がローパスフィルタ(112)を通過することにより、元の変調信号(50)を得る。
【0010】
[補足説明1]
パルスカウント方式FM復調器の動作を説明する(例えば、特許文献1及び非特許文献1を参照。)。
変調信号をm(t)、搬送波信号をx(t)=Acos(2πft)とすると、周波数変調信号S(t)は式(2)で表される。
【数2】
即ち、周波数変調信号S(t)は、搬送波信号x(t)の位相を変調信号m(t)の時間積分に比例定数をKとして比例した量で変化させた位相変調信号と解することができる。
【0011】
周波数変調信号S(t)から元の変調信号であるm(t)を取り出す復調は、変調信号S(t)の任意の時刻における周波数を求めることであり、周波数変調信号S(t)の時間当たりの位相変化量(単位はrad/secとなる角速度即ち周波数に相当)を検出すことで実現でき、この動作はS(t)の位相を時間微分することに相当する。
【0012】
パルスカウント検波器により生成されるパルス密度変調信号は、周波数変調信号S(t)の位相がπ[rad]変化した時刻を起点として一定時間幅のパルス信号が出力される。従って、パルス密度変調信号におけるパルス信号のパルス発生の時間間隔は周波数変調信号S(t)の位相の角速度すなわち周波数の逆数に比例した量となることから、パルス出現間隔時間に反比例する電圧もしくは電流信号に変換することで復調動作が実現でき、遅延検波信号に対してローパスフィルタを介することによりこの動作を実現できる。
【0013】
周波数変調は変調信号m(t)の時間積分を搬送波信号x(t)の位相に変換し、復調はx(t)の位相を時間微分する動作であることから、時間積分した変調信号m(t)は時間微分により元の信号に復調されるが、周波数変調信号S(t)の位相に影響を及ぼす伝送時における雑音は時間微分のみ施されることになる。
【0014】
時間微分の周波数特性は、周波数が低い程振幅が減衰し、周波数が高くなるに従い振幅が大きくなる20dB/decの傾きをもつハイパスフィルタとなることから、復調後の雑音の周波数スペクトルは低周波程小さく周波数が高くなるにつれて大きくなる.これは三角雑音として知られており、低周波領域では雑音が小さくなることから、ローパスフィルタにて低周波側の周波数帯域を取り出すことにより高いSNRを実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006-324734
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】東邦大学メディアネットセン/バーチャルラボラトリ/情報通信理論-情報と通信のハイパーテキスト/周波数変調、URL:https://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/yobology/frequency_modulation/frequency_modulation.htm(2021年12月28日検索)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
周波数変調は振幅変調や位相変調等の他の変調方式に比べて雑音に対する耐性が強く高精度に信号を伝送できる変調方式ではあるが、周波数変調装置で加わる位相に影響を及ぼす雑音は、時間微分の効果による三角雑音特性を示すが全体としての雑音量が増加しSNRが劣化する。
【0018】
特に,電圧制御発振器により周波数変調をおこなう場合には電圧制御発振器の位相雑音およびVCOゲイン(K)の非線形性が復調時の復調信号精度の劣化を引き起こす。電圧制御発振器で発生する位相雑音(θ(t))を含む周波数変調信号は式(2)に位相雑音(θ(t))を加えた式(3)で表される。
【数3】
【0019】
復調動作である位相の時間微分を施すことにより、θ(t)は時間微分が施され dθ(t)/dtの雑音成分となる。よって、この雑音の周波数特性は時間微分の効果による三角雑音特性を示すことが分かる。つまり、電圧制御発振器の制御電圧と発振周波数の非線形性即ちVCOゲイン(K)が制御電圧(V)により変化する場合、復調後信号の波形が歪み、不要な高調波信号が発生してしまうという課題があった。
【0020】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、周波数変調装置内部で発生する雑音や電圧制御発振器の非線形性による復調信号に含まれる雑音を低減し、復調時の不要な高調波信号の増加を抑圧できる周波数変調装置及び周波数変調方式を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明に係る周波数変調装置は、VCOの出力を入力側にフィードバックすること、及びVCOの前に入力信号の周波数により信号振幅の増減率が変化する第1フィルタを配置することとした。
【0022】
具体的には、本発明に係る周波数変調装置は、
電気信号の周波数により信号振幅の増減率が変化する第1フィルタと、
前記第1フィルタが出力する信号の電圧を制御電圧とし、周波数変調信号を出力する電圧制御発振器と、
外部からの入力信号から前記周波数変調信号を復調した復調信号を減じて前記電気信号とするフィードバック回路と、
を備える。
【0023】
また、本発明に係る周波数変調方法は、
制御電圧に基づき電圧制御発振器で周波数変調信号を生成すること、
外部からの入力信号から前記周波数変調信号を復調した復調信号を減ずるようにフィードバックすること、
前記入力信号から前記復調信号を減じた電気信号を、周波数により信号振幅の増減率が変化する第1フィルタを通過させること、及び
前記第1フィルタが出力する信号の電圧を前記制御電圧とすること
を行う。
【0024】
図4は、本発明に係る周波数変調装置及びその方法の原理を説明する図である。図4において、Xは入力信号(55)であり、Yは出力信号(56)である。XからYを減じた信号を第1フィルタ(302)に入力する。第1フィルタ(302)は入力信号の周波数により信号振幅の増減率が変化するフィルタである。第1フィルタ(302)の伝達関数をH(f)とする。fは信号の周波数である。第1フィルタ(302)の出力に雑音Q(57)を加算してYとなる。Yは2分岐され、一方がフィードバック点(300)でXからYを減じるためのフィードバック信号となり、ループを形成する。
【0025】
図4でのXとYの関係は式(4)で示される。
【数4】
【0026】
式(4)においてXの信号周波数帯域をωとし、H(f)がωで1より十分に大きい場合、式(4)のX、Qそれぞれの項の係数が、
【数5】
【数6】
となることから式(4)はY=Xとなり、第1フィルタ(302)においてXは透過し、雑音Qだけが減衰することとなる。
【0027】
図4において、加合せ点(301)がVCOであると考えれば、雑音Qを低減することができ、VCOゲイン(Kv)が非線形であっても復調時の復調信号に含まれる雑音や不要な高調波信号の増加を抑圧できる。従って、本発明は、周波数変調装置内部で発生する雑音や電圧制御発振器の非線形性による復調信号に含まれる雑音を低減し、復調時の不要な高調波信号の増加を抑圧できる周波数変調装置及び周波数変調方式を提供することができる。
【0028】
本発明に係る周波数変調装置の前記フィードバック回路は、前記電圧制御発振器が出力した前記周波数変調信号が入力され、前記周波数変調信号を復調して前記復調信号とする復調器を有することを特徴とする。入力側へフィードバックする信号は周波数変調信号を復調した信号である。この周波数変調信号を復調する復調器で発生する雑音が実用に影響がない程度に小さい場合には、当該復調器をフィードバック回路に配置し、VCOの出力を周波数変調装置の出力(周波数変調信号)とすることができる。
【0029】
本発明に係る周波数変調装置は、
前記周波数変調信号を復調してパルス密度変調信号を出力するパルスカウント検波器と、
前記パルス密度変調信号を前記周波数変調信号に再度変換する1ビットカウンタと、
をさらに備え、
前記フィードバック回路は、前記パルス密度変調信号を前記復調信号とすることを特徴とする。
【0030】
周波数変調信号を復調する復調器をパルスカウント検波器とし、その出力をフィードバックさせることで、パルスカウント検波器で発生する雑音に対しても第1フィルタによる雑音抑圧効果が得られる。
【0031】
本発明に係る周波数変調装置の前記フィードバック回路は、前記パルス密度変調信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域以外の周波数帯域を減衰する第2フィルタを有することを特徴とする。第1フィルタの所要周波数帯域での増幅率を大きくすることができ、雑音低減効果が大きくなる。
【0032】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、周波数変調装置内部で発生する雑音や電圧制御発振器の非線形性による復調信号に含まれる雑音を低減し、復調時の不要な高調波信号の増加を抑圧できる周波数変調装置及び周波数変調方式を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】周波数変調器および復調器の回路構成を説明する図である。
図2】パルスカウント検波器の回路構成を説明する図である。
図3】パルスカウント方式FM復調器による周波数変調信号の復調動作原理を説明する図である。
図4】本発明に係る周波数変調装置及びその方法の原理を説明する図である。
図5】本発明に係る周波数変調装置の回路構成を説明する図である。
図6】本発明に係る周波数変調装置の第1フィルタの実施例を説明する図である。
図7】本発明に係る周波数変調装置の回路構成を説明する図である。
図8】本発明に係る周波数変調装置及びその方法の原理を説明する図である。
図9】本発明に係る周波数変調装置の回路構成を説明する図である。
図10】本発明に係る周波数変調装置の回路構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0036】
(実施形態1)
図5は、本実施形態の周波数変調装置(501)の回路構成を説明する図である。周波数変調装置(501)は、
電気信号(50)の周波数により信号振幅の増減率が変化する第1フィルタ(302)と、
第1フィルタ(302)が出力する信号(64)の電圧を制御電圧とし、周波数変調信号(51)を出力する電圧制御発振器(101)と、
外部からの入力信号(55)から周波数変調信号(51)を復調したローカルFM復調信号(61)を減じて電気信号(50)とするフィードバック回路(115)と、
を備える。
【0037】
周波数変調装置(501)は、
周波数変調信号(51)を復調してパルス密度変調信号(52)を出力するパルスカウント検波器(111)と、
パルス密度変調信号(52)を周波数変調信号(58)に再度変換する1ビットカウンタ(303)と、
をさらに備え、
フィードバック回路(115)は、パルス密度変調信号(52)をローカルFM復調信号(61)とすることを特徴とする。
なお、図5において、Xは入力信号(55)、Yはパルス密度変調信号(52)、Zは周波数変調装置(501)から出力される周波数変調信号(58)である。
【0038】
例えば、第1フィルタ(302)を図6のような積分器で構成することができる。積分器は直流で無限大のゲインをもち、周波数が高くなるにつれて減衰する周波数特性を有する。このため、積分器で構成された第1フィルタ(302)は、低周波の雑音ほど減衰し、高周波の信号に対してゲインを増大するハイパスフィルタの特性をしめす。また、第1フィルタ(302)をバンドパスフィルタ(BPF)および増幅器で構成することもできる。この場合、第1フィルタ(302)はBPFの通過帯域で雑音を減衰し、他の周波数帯の信号に対してゲインを増大するバンドストップフィルタの特性をしめす。
【0039】
[補足説明2]
図6の積分器の回路について説明を補足する。図6の積分器は演算増幅器(OP-AMP)を用いて構成した回路である。下式のとおり、出力電圧信号(VOUT)は、入力電圧信号(VIN)を積分した値に係数(-1/CR)を乗じた値となる。Cは容量、Rは抵抗値である。
【数A1】
は積分のゼロ基準である。図6ではVはGNDなのでGNDより高い電圧Vはプラス、低い電圧Vはマイナスとして積分される。このゼロ基準VをVref(任意の電圧値)とすることで、Vrefより高い電圧Vをプラス、低い電圧Vをマイナスとして扱うことができる。
【0040】
周波数変調装置(501)は、図4の雑音Qの発生源を周波数変調器であるVOC(101)および復調器であるパルスカウント検波器(111)としている。周波数変調装置(501)は、入力信号(55)を変調信号(51)及びパルス密度変調信号(52)として透過し、VOC(101)およびパルスカウント検波器(111)で発生する雑音を第1フィルタ(302)の周波数特性に従い、H(f)>>1である信号通過帯域で抑圧することができる。
【0041】
周波数変調装置(501)は、復調器であるパルスカウント検波器(111)をVCO(101)の直後に配置する構成である。本構成とすることで次のような有利な効果がある。
(効果1) VCO(101)の非線形性に起因する高調波雑音を含む周波数変調信号をパルスカウント検波器(111)で復調する時に発生する雑音に対しても第1フィルタ(302)による雑音抑圧効果が得られる。
(効果2) パルスカウント検波器(111)の出力であるパルス密度変調信号(52)は、1ビットカウンタ(303)で容易に周波数変調信号(58)に再変換できる。つまり、他の方式の復調器より構成が簡易とすることができる。
【0042】
(実施形態2)
図7は、本実施形態の周波数変調装置(502)を説明する図である。周波数変調装置(502)は、図5の周波数変調装置(501)に対し、フィードバック回路(115)に、パルス密度変調信号(52)に含まれる、入力信号(55)の周波数帯域以外の周波数帯域を減衰する第2フィルタ(304)を有することを特徴とする。第2フィルタ(304)の伝達関数をG(f)とする。fは信号の周波数である。
なお、図7において、Xは入力信号(55)、Yはパルス密度変調信号(52)、Zは周波数変調装置(502)から出力される周波数変調信号(58)である。
【0043】
周波数変調装置(501)の場合、帰還させたパルス密度変調信号(52)をフィードバック点(300)で入力信号(55)から直接減算すると減算後の電気信号(50)の振幅が大きくなり、1<<H(f)の第1フィルタ(302)の出力ダイナミックレンジを大きくする必要がある。出力ダイナミックレンジが大きい第1フィルタ(302)を電子回路で実現することは好ましくなく、その結果、第1フィルタ(302)の増幅率を制限せざるを得なくなる。
【0044】
そこで、図7で示すように、フィードバック信号となるパルス密度変調信号(52)を、フィードバック回路(115)に配置した第2フィルタ(304)で不要な周波数帯域を減衰させる。この信号をローカルFM復調信号(61)として入力信号(55)から減じることで、パルス密度変調信号(52)の不要な帯域の信号を除去することができ、帰還するローカルFM復調信号(61)は入力信号(55)と極めて同形の信号となる。ローカルFM復調信号(61)と入力信号(55)との差分の振幅が小さくなることから、第1フィルタ(302)の所要周波数帯域での増幅率を大きくすることが可能となる。
【0045】
図8は、周波数変調装置(502)の入力Xと出力Yとの関係を説明する図である。入力Xと出力Yとは式(7)で示される関係となる。
【数7】
【0046】
第2フィルタ(304)は、入力信号Xの信号帯域、即ちH(f)>>1となる周波数帯域で第2フィルタ(304)の増幅率が1倍(G(f)=1)であり、その他の不要な周波数帯域(H(f)が小さくなる周波数帯域)の信号を減衰させる特性を有するフィルタである。第2フィルタ(304)をこのような特性とすることで、入力信号Xの信号帯域かつ雑音を抑圧したい周波数帯域において、第2フィルタ(304)を配置したことの影響を無視することができる。
【0047】
(実施形態3)
図9は、本実施形態の周波数変調装置(503)を説明する図である。周波数変調装置(503)は、図5の周波数変調装置(501)に対し、フィードバック回路(115)に、電圧制御発振器(101)が出力した周波数変調信号(51)が入力され、周波数変調信号(51)を復調してローカルFM復調信号(61)とする復調器(117)を有することを特徴とする。
なお、図9において、Xは入力信号(55)、Yは周波数変調信号(51)、Zは周波数変調装置(501)から出力される周波数変調信号(58)である。
【0048】
図5の周波数変調装置(501)において、パルスカウント検波器(111)で発生する雑音が実用に影響がない程度に小さい場合には、これをフィードバック回路(115)側に配置することもできる。復調器(117)は、パルスカウント方式に限定されず、他の復調方式でもよい。
【0049】
周波数変調装置(503)は、図5の周波数変調装置(501)が備える1ビットカウンタ(303)が不要であり、VCO(101)の出力(51)をそのまま周波数変調信号(58)とすることができる。
【0050】
(実施形態4)
本実施形態では、図7で説明した周波数変調装置(502)を構成する具体的な回路を説明する。
図10は、本実施形態の周波数変調装置(504)の回路構成を説明する図である。周波数変調装置(504)では、フィードバック点(300)をアナログ減算器(401)で実現する。周波数変調装置(504)では、第1フィルタ(302)を増幅器(403)と積分回路(402)で実現する。また、周波数変調装置(504)では、第2フィルタ(304)をローパスフィルタ(112)、増幅器(404)及び直流オフセット調整回路(405)で実現する。本構成は、低周波領域における雑音を抑圧する効果が得られる構成である。
【0051】
アナログ減算回路(401)により入力信号(55)からローカルFM復調信号(61)が減算される。アナログ減算回路(401)が出力する電気信号(50)は、利得調整用である増幅器(403)にて振幅増幅され、積分回路(402)に入力される。
【0052】
積分回路(402)は、理想的には直流で無限大の利得を有するが積分器を構成する演算増幅器の利得が有限であるため直流での利得がこれにより制限される。積分器を直列に多段接続することにより利得並びに雑音の減衰特性を急峻にすることができる。ただし、積分器では位相が90度回転するため2段以上の積分器を接続しフィードバックループを構成すると発振する。このため、積分回路(402)ではこの発振を防止する対策が必要となる。
【0053】
アナログ減算回路(401)の出力信号(50)は極めて小さい振幅の信号となるため、増幅回路(403)を用いて変調信号の積分回路(402)における通過帯域での利得を大きくする。
【0054】
積分回路(402)の出力信号(64)は、VCO(101)の制御信号となり周波数変調信号(51)を得る。周波数変調信号(51)はパルスカウント検波器(111)へ入力されパルス密度変調信号(52)となる。パルス密度変調信号(52)を2分岐し、一方は1ビットカウンタ回路(303)により周波数変調信号(58)となり、出力される。
【0055】
2分岐したパルス密度変調信号(52)のもう一方は、ローパスフィルタ(112)を通過させる。ローパスフィルタ(112)は、周波数変調信号(51)の信号帯域(DC~ω)で利得が1倍(0dB)でありω以上の帯域で減衰する特性を持つ。パルス密度変調信号(52)は、ローパスフィルタ(112)を通過させることにより不要な周波数帯域での雑音成分を減衰させた復調信号(53)となる。
【0056】
この復調信号(53)は、パルス密度変調信号(52)の信号レベル(パルス信号のハイ/ローの電圧値)によりローパスフィルタ(112)を通過した後の信号の直流オフセット値およびF/Vゲイン(周波数を増減させたときの出力信号の増減の割合)が定まる。このため、復調信号(53)は入力信号(55)と特性が一致しない場合がある。
【0057】
アナログ減算回路(401)にフィードバックされる信号が入力信号(55)と特性が同じとなるように、増幅回路(404)および直流オフセット調整回路(405)をローパルフィルタ(112)の後段に配置する。具体的には、増幅回路(404)でフィードバック回路(115)の利得を1倍(0dB)とし、直流オフセット調整回路(405)で直流オフセット値を合わせる。
【0058】
ローパスフィルタ(112)通過後の信号を利得調整、直流オフセット調整を施した信号はローカルFM復調信号(61)となり、アナログ減算回路(401)にフィードバック信号として入力され入力信号(55)から減算される。
【0059】
周波数変調装置(504)は、第1フィルタ(302)に積分回路(402)を用いた例であり、前述したとおり変調信号の所要帯域に応じて積分器をバンドパスフィルタ等に変えて構成することができる。第1フィルタ(302)にバンドパスフィルタを適用する場合には、低域側での雑音を減衰させるために、第2フィルタ(304)も変更すべきであり、変調信号の通過帯域で1倍となり不要帯域で信号が減衰するフィルタに変更することが必要である。
【0060】
(発明の効果)
以上の説明から明らかなように、本発明により周波数変調装置内部で発生する位相雑音や電圧制御発振器の非線形性等により生じる復調時の復調信号に含まれる雑音や不要な高調波信号の増加を抑圧し、高精度な周波数変調装置を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、低雑音な周波数変調を可能とし、高精度な周波数変調信号を必要とする産業で利用される。
【符号の説明】
【0062】
10:変調信号源
21:周波数変調器入力端子
22:FM復調器入力端子
23:パルス検出器入力端子
31:周波数変調器出力端子
32:FM復調器出力端子
33:パルス検出器出力端子
40:伝送線路
50:電気信号
51:周波数変調信号
52:パルス密度変調信号
53:復調信号
54:遅延した周波数変調信号
55:入力信号
56:出力信号
57:雑音信号
58:パルス密度変調信号を1ビットカウンタにより周波数変調信号に変換した信号
59:積分器出力信号
60:増幅回路出力信号
61:ローカルFM復調信号
63:増幅回路出力信号
64:積分回路の出力信号
100:周波数変調器
101:電圧制御発振器(VCO)
110:パルスカウント方式FM復調器
111:パルスカウント検波器
112:ローパスフィルタ(LPF)
115:フィードバック回路
117:復調器
201:リミッタ回路
202:遅延回路
203:排他的論理和(XOR)
300:フィードバック点
301:加合せ点
302:第1フィルタ
303:1ビットカウンタ
304:第2フィルタ
401:アナログ減算回路
402:積分回路
403:増幅回路
404:増幅回路
405:直流オフセット調整回路
501~504:周波数変調装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10