(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113230
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】有機EL素子及び有機EL素子を備える有機EL表示装置
(51)【国際特許分類】
H10K 50/10 20230101AFI20230808BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20230808BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20230808BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20230808BHJP
H05B 33/12 20060101ALI20230808BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
H05B33/14 B
H01L27/32
H05B33/22 D
H05B33/22 B
H05B33/12 C
G09F9/30 365
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015435
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000201814
【氏名又は名称】双葉電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】野口 聡
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 尚光
【テーマコード(参考)】
3K107
5C094
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC04
3K107DD51
3K107DD53
3K107DD58
3K107DD66
3K107DD68
3K107DD69
3K107DD71
3K107DD74
3K107DD78
3K107FF00
3K107FF14
3K107FF19
3K107FF20
5C094BA27
5C094DA13
5C094FB01
5C094JA02
(57)【要約】
【課題】発光効率を向上可能な有機EL素子及び当該有機EL素子を備える有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】有機EL素子は、第1電極と、第1電極上に位置する有機発光層と、有機発光層上に位置する第2電極と、を備える。有機発光層は、蛍光ドーパントと、ホール輸送性を示す第1ホストと、電子輸送性を示す第2ホストと、第3ホストとを含み、第3ホストの三重項励起エネルギー準位T
1は、蛍光ドーパントの三重項励起エネルギー準位T
D1、第1ホストの三重項励起エネルギー準位T
H1、及び第2ホストの三重項励起エネルギー準位T
H2よりも低く、第3ホストにおける三重項励起子の失活速度は、蛍光ドーパントにおける三重項励起子の失活速度よりも速い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
前記第1電極上に位置する有機発光層と、
前記有機発光層上に位置する第2電極と、を備え、
前記有機発光層は、蛍光ドーパントと、ホール輸送性を示す第1ホストと、電子輸送性を示す第2ホストと、第3ホストとを含み、
前記第3ホストの三重項励起エネルギー準位T1は、前記蛍光ドーパントの三重項励起エネルギー準位TD1、前記第1ホストの三重項励起エネルギー準位TH1、及び前記第2ホストの三重項励起エネルギー準位TH2よりも低く、
前記第3ホストにおける三重項励起子の失活速度は、前記蛍光ドーパントにおける三重項励起子の失活速度よりも速い、
有機EL素子。
【請求項2】
前記第1ホストの一重項励起エネルギー準位SH1と、前記第2ホストの一重項励起エネルギー準位SH2と、前記第3ホストの一重項励起エネルギー準位S1とのそれぞれは、前記蛍光ドーパントの一重項励起エネルギー準位SD1よりも高い、請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記第3ホストの一重項励起エネルギー準位S1は、前記第1ホストの一重項励起エネルギー準位SH1及び前記第2ホストの一重項励起エネルギー準位SH2よりも低い、請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記第3ホストにおける三重項励起子の失活速度は、前記第1ホストにおける三重項励起子の失活速度、及び、前記第2ホストにおける三重項励起子の失活速度の少なくとも一方よりも速い、請求項1~3のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記第1電極と前記有機発光層との間に位置するホール輸送層をさらに備え、
前記ホール輸送層に含まれるホール輸送材料は、前記第1ホストと同一である、請求項1~4のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記有機発光層と前記第2電極との間に位置する電子輸送層をさらに備え、
前記電子輸送層に含まれる電子輸送材料は、前記第2ホストまたは前記第3ホストと同一である、請求項1~5のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記有機発光層と前記第2電極との間に位置する第2有機発光層をさらに備え、
前記第2有機発光層は、第2蛍光ドーパントと、前記第1ホストと、前記第2ホストと、前記第3ホストとを含み、
前記第3ホストの前記三重項励起エネルギー準位T1は、前記第2蛍光ドーパントの三重項励起エネルギー準位TD2よりも低い、請求項1~6のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項8】
前記有機発光層において、前記第1ホストと、前記第2ホストと、前記第3ホストとの合計質量に対する前記第2ホストの比率と、当該合計質量に対する前記第3ホストの比率との差は、5%以下である、請求項7に記載の有機EL素子。
【請求項9】
前記有機発光層と、前記第1電極及び前記第2電極の一方との間に位置する第2有機発光層をさらに備え、
前記第2有機発光層は、第2蛍光ドーパントと、前記第1ホストと、前記第2ホスト及び前記第3ホストの一方とを含み、
前記第3ホストの前記三重項励起エネルギー準位T1は、前記第2蛍光ドーパントの三重項励起エネルギー準位TD2よりも低く、
前記有機発光層において、前記第1ホストと、前記第2ホストと、前記第3ホストとの合計質量に対する前記第2ホストの比率と、当該合計質量に対する前記第3ホストの比率との差は、30%以上70%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項10】
前記第3ホストは、アントラセン誘導体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項11】
前記アントラセン誘導体は、下記化学式(1)にて表される、請求項10に記載の有機EL素子。
【化1】
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の有機EL素子を備える有機EL表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子及び有機EL素子を備える有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種表示装置に有機EL材料(EL:Electro-Luminescence)を発光物質として用いた有機EL素子が用いられる。例えば下記特許文献1には、フェニルアントラセン誘導体を、有機EL素子の有機化合物層、特に好ましくは青色発光用の発光層に用いる旨が開示されている。このフェニルアントラセン誘導体は、蛍光ドーパントとしても利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されるような有機EL素子においては、より高輝度の発揮が求められる。高輝度を発揮するためには、有機EL素子に与えられる電流密度を大きくすることが挙げられる。しかしながら、単に電流密度を大きくするほど、有機EL素子の寿命が短くなってしまう。加えて、電流密度を所定値よりも大きくすると、有機EL素子の発光効率(特に、外部量子効率)が低下してしまう現象(ロールオフ)が発生してしまう。このため、有機EL素子においては、高輝度の発揮のために発光効率のさらなる向上が望まれている。
【0005】
本発明の一側面は、発光効率を向上可能な有機EL素子及び当該有機EL素子を含む有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る有機EL素子は、第1電極と、第1電極上に位置する有機発光層と、有機発光層上に位置する第2電極と、を備え、有機発光層は、蛍光ドーパントと、ホール輸送性を示す第1ホストと、電子輸送性を示す第2ホストと、第3ホストとを含み、第3ホストの三重項励起エネルギー準位T1は、蛍光ドーパントの三重項励起エネルギー準位TD1、第1ホストの三重項励起エネルギー準位TH1、及び第2ホストの三重項励起エネルギー準位TH2よりも低く、第3ホストにおける三重項励起子の失活速度は、蛍光ドーパントにおける三重項励起子の失活速度よりも速い。
【0007】
この有機EL素子によれば、有機発光層は、蛍光ドーパントに加えて、第1~第3ホストを含む。また、第3ホストの三重項励起エネルギー準位T1は、蛍光ドーパントの三重項励起エネルギー準位TD1、第1ホストの三重項励起エネルギー準位TH1、及び第2ホストの三重項励起エネルギー準位TH2よりも低い。このため、有機発光層内の三重項励起子は、第3ホストに集中しやすい。ここで、第3ホストにおける三重項励起子の失活速度は、蛍光ドーパントにおける三重項励起子の失活速度よりも速い。このため、有機EL素子に与えられる電流密度を大きくしても、第3ホストには三重項励起子が過剰に集中しにくくなる。これにより、蛍光ドーパントの三重項励起子の第3ホスト等への移動が阻害されにくい。よって、当該蛍光ドーパントにおいて、一重項励起子と三重項励起子との対消滅(STA:Singlet-Triplet Annihilation)が発生しにくくなるので、ロールオフの発生が抑制される。したがって、発光効率を向上可能な上記有機EL素子を提供できる。
【0008】
第1ホストの一重項励起エネルギー準位SH1と、第2ホストの一重項励起エネルギー準位SH2と、第3ホストの一重項励起エネルギー準位S1とのそれぞれは、蛍光ドーパントの一重項励起エネルギー準位SD1よりも高くてもよい。この場合、蛍光ドーパントに一重項励起子が集中しやすいので、発光効率をより向上可能である。
【0009】
第3ホストの一重項励起エネルギー準位S1は、第1ホストの一重項励起エネルギー準位SH1及び第2ホストの一重項励起エネルギー準位SH2よりも低くてもよい。この場合、第3ホストから第1ホスト及び第2ホストに一重項励起子が移動しにくいので、蛍光ドーパントに一重項励起子がより集中しやすくなる。
【0010】
第3ホストにおける三重項励起子の失活速度は、第1ホストにおける三重項励起子の失活速度、及び、第2ホストにおける三重項励起子の失活速度の少なくとも一方よりも速くてもよい。この場合、有機発光層内に三重項励起子が過剰に蓄積しにくい。
【0011】
上記有機EL素子は、第1電極と有機発光層との間に位置するホール輸送層をさらに備え、ホール輸送層に含まれるホール輸送材料は、第1ホストと同一でもよい。この場合、ホール輸送層から有機発光層へのホール移動が阻害されにくくなる。
【0012】
上記有機EL素子は、有機発光層と第2電極との間に位置する電子輸送層をさらに備え、電子輸送層に含まれる電子輸送材料は、第2ホストまたは第3ホストと同一でもよい。この場合、電子輸送層から有機発光層への電子移動が阻害されにくくなる。
【0013】
上記有機EL素子は、有機発光層と第2電極との間に位置する第2有機発光層をさらに備え、第2有機発光層は、第2蛍光ドーパントと、第1ホストと、第2ホストと、第3ホストとを含み、第3ホストの三重項励起エネルギー準位T1は、第2蛍光ドーパントの三重項励起エネルギー準位TD2よりも低くてもよい。この場合、上記有機発光層と同様に第2有機発光層においてもロールオフの発生が抑制される。
【0014】
有機発光層において、第1ホストと、第2ホストと、第3ホストとの合計質量に対する第2ホストの比率と、当該合計質量に対する第3ホストの比率との差は、5%以下でもよい。この場合、発光効率をより向上可能である。
【0015】
上記有機EL素子は、有機発光層と、第1電極及び第2電極の一方との間に位置する第2有機発光層をさらに備え、第2有機発光層は、第2蛍光ドーパントと、第1ホストと、第2ホスト及び第3ホストの一方とを含み、第3ホストの三重項励起エネルギー準位T1は、第2蛍光ドーパントの三重項励起エネルギー準位TD2よりも低く、第2有機発光層において、第1ホストと、第2ホストと、第3ホストとの合計質量に対する第2ホストの比率と、当該合計質量に対する第3ホストの比率との差は、30%以上70%以下でもよい。このような第2発光層が設けられる場合であっても、発光効率をより向上可能である。
【0016】
第3ホストは、アントラセン誘導体でもよい。加えて、当該アントラセン誘導体は、下記化学式(1)にて表されてもよい。
【化1】
【0017】
本発明の別の一側面に係る有機EL表示装置は、上記有機EL素子を備える。この場合、発光効率を向上可能な上記有機EL素子を備える有機EL表示装置を提供できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一側面によれば、発光効率を向上可能な有機EL素子及び当該有機EL素子を備える有機EL表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、第1発光層に含まれる各物質の一重項励起エネルギー準位と三重項励起エネルギー準位とを示す図である。
【
図3】
図3は、第2実施形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、第2発光層に含まれる各物質の一重項励起エネルギー準位と三重項励起エネルギー準位とを示す図である。
【
図5】
図5は、第3実施形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、比較例に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
【
図7】
図7は、各有機EL素子の輝度寿命測定結果を示す図である。
【
図8】
図8は、有機EL素子の電流密度に対する外部量子効率の測定結果を示す図である。
【
図9】
図9は、有機EL表示装置の概略斜視図である。
【
図10】
図10は、変形例に係る有機EL素子の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0021】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
図1に示されるように、第1実施形態に係る有機EL素子1は、電流が供給されることによって発光する素子である。有機EL素子1は、例えば白色光を発光可能な素子である。白色光は、例えば、赤色光、緑色光及び青色光が混合することによって生成されてもよいし、黄色光及び青色光が混合することによって生成されてもよい。有機EL素子1は、第1電極2、第2電極3、ホール注入層4,ホール輸送層5、第1発光層6、第2発光層7、電子輸送層8、及び電子注入層9を有する。有機EL素子1においては、順に積層されるホール注入層4、ホール輸送層5、第1発光層6、第2発光層7、電子輸送層8、及び電子注入層9が、第1電極2と第2電極3との間に位置する。
図1では、第1電極2が最も下側に位置し、第2電極3が最も上側に位置する。第1実施形態では、ホール注入層4、ホール輸送層5、第1発光層6、第2発光層7、電子輸送層8、及び電子注入層9のそれぞれは、有機材料を含む。ホール注入層4、ホール輸送層5、第1発光層6、第2発光層7、電子輸送層8、及び電子注入層9のそれぞれの厚さは、例えば0.1nm以上1000nm以下である。
【0022】
第1電極2は、陽極として機能する透明導電層であり、例えば透明基板上等に形成される。第1電極2を構成する材料としては、例えばITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化インジウム亜鉛)等の透光性を有する導電材料が用いられる。第1電極2は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法等のPVD法(物理気相成長法)によって、上記透明基板上に成膜した透明導電膜をパターニングすることによって形成される。なお、第1電極2と上記透明基板との間には、透明のバリア層などが設けられ得る。
【0023】
第2電極3は、陰極として機能する導電層である。第2電極3を構成する材料(導電材料)は、例えばアルミニウム、銀等の金属である。当該導電材料には、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム等)が含まれてもよいし、IZO(酸化インジウム亜鉛)、ITO(酸化インジウムスズ)等の透光性を有する材料が含まれてもよい。導電材料には、複数の導電材料が含まれてもよい。第2電極3は、例えばPVD法によって形成される。
【0024】
ホール注入層4は、第1電極2からホールが流れ込む層であり、第1電極2の直上に位置する。ホール注入層4が設けられることによって、ホール輸送層5、第1発光層6及び第2発光層7にホールが到達しやすくなる。ホール注入層4は、ホール注入性を有する材料として、例えば、アリールアミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体等を含む。なお、例えば、アリールアミン誘導体は、アリールアミン自体も含む概念であり、他の誘導体も同様である。ホール注入層4は、p型有機半導体を含んでもよい。p型有機半導体は、例えば、7,7,8,8-テトラシアノジメタン(TCNQ)、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)、1,4,6,8,9,11-ヘキサアゾトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HAT-CN)等である。ホール注入層4は、三酸化モリブデンなどの無機化合物を含んでもよい。ホール注入層4は、高分子材料を含んでもよい。高分子材料としては、例えば、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸共重合体(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリスチレンスルホン酸共重合体(Pani/PSS)などが挙げられる。
【0025】
ホール輸送層5は、ホール注入層4に流れ込んだホールを第1発光層6へ輸送する層であり、ホール注入層4の直上であって第1電極2と第1発光層6との間に位置する。ホール輸送層5は、ホール輸送性を有する材料(ホール輸送材料)として、低分子材料、上述した高分子材料のいずれを含んでもよい。低分子材料としては、例えば芳香族三級アミン、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、ポリチオフェン等を含む。ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、テトラフェニルジアミノビフェニル誘導体などが挙げられる。ホール輸送層5は、上記低分子材料と上記高分子材料とのうち、1または複数の材料を含み得る。ホール輸送層5は、単層構造を有してもよいし、積層構造を有してもよい。ホール輸送層5が積層構造を有する場合、各層に含まれるホール輸送材料は、互いに異なり得る。
【0026】
第1発光層6と第2発光層7とのそれぞれは、注入されるホール及び電子の結合に伴うエネルギー放出を利用して発光する層(有機発光層)である。第1発光層6は、ホール輸送層5の直上であって第1電極2と第2発光層7との間に位置する。第2発光層7は、第1発光層6の直上であって第1発光層6と第2電極3との間に位置する。第1発光層6と第2発光層7とのそれぞれは、ホスト及びドーパントを含む。第1発光層6と第2発光層7とのそれぞれにおいて、ホストとドーパントとの合計質量に対するホストの比率は、50%より大きい。換言すると、第1発光層6と第2発光層7とのそれぞれにおいて、ホストの含有量は、ドーパントの含有量よりも大きい。第1発光層6と第2発光層7とのそれぞれにおけるドーパントの含有量は、例えば、0.01質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%または1質量%以上であり、30質量%以下、20質量%以下または10質量%以下である。発光層におけるドーパントの含有量を少なくすることによって、ホストからドーパントへの三重項励起子のエネルギー移動を抑制できる。一方、発光層におけるドーパントの含有量を多くすることによって、ホストからドーパントへの一重項励起子のエネルギー移動が起こりやすくなり、各発光層が発光しやすくなる。これらの観点から、第1発光層6と第2発光層7とのそれぞれにおけるドーパントの含有量は、例えば、0.5質量%以上10質量%以下である。第1発光層6と第2発光層7とのそれぞれに含まれるホスト及びドーパントの詳細な説明は、後述する。
【0027】
電子輸送層8は、電子注入層9に流れ込んだ電子を第2発光層7へ輸送する層であり、第2発光層7の直上であって第1発光層6と第2電極3との間に位置する。電子輸送層8は、電子輸送性を有する材料(電子輸送材料)として、低分子材料、高分子材料のいずれを含んでもよい。低分子材料としては、例えば、アントラセン誘導体、キノリン誘導体、ペリレン誘導体、スチリルアミン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン誘導体、フルオレン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン誘導体、フェナントロリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体並びにこれらの化合物を配位子とする金属錯体などが挙げられる。高分子材料としては、ポリキノキサリン、ポリキノリンなどが挙げられる。電子輸送層8は、単層構造を有してもよいし、積層構造を有してもよい。電子輸送層8が積層構造を有する場合、各層に含まれる電子輸送材料は、互いに異なり得る。また、一つの電子輸送層に含まれる電子輸送材料は、第1発光層6に含まれるホストと異なってもよいし、第2発光層7に含まれるホストと異なってもよい。
【0028】
電子注入層9は、第2電極3から電子が流れ込む層であり、第2電極3の直下に位置する。電子注入層9が設けられることによって、電子輸送層8、第2発光層7及び第1発光層6に電子が到達しやすくなる。電子注入層9は、電子注入性の高い物質を含む層である。電子注入性の高い物質は、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの化合物である。当該化合物は、例えば、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化カルシウム(CaF2)、リチウム酸化物等である。電子注入性の高い物質は、例えば、8-ヒドロキシキノリラト-リチウム(Liq)等の金属錯体でもよい。
【0029】
次に、第1発光層6のホスト及びドーパントについて説明する。第1発光層6は、3種類のホスト(第1ホスト、第2ホスト、及び第3ホスト)と、1種類の蛍光ドーパント(第1蛍光ドーパント)とを含む。すなわち、第1発光層6は、4つの異なる物質を含む層(4元構成層)である。第1実施形態では、第1発光層6に含まれる第1ホスト、第2ホスト、及び第3ホストと、蛍光ドーパントとのそれぞれは、以下に記載される条件を満たす材料である。
【0030】
第1ホスト、第2ホスト、及び第3ホストのそれぞれは、電子とホールとの再結合により励起子が生成すると共に、当該励起子がエネルギーを放出して基底状態に戻る有機物材料である。第1ホストは、ホール輸送性を示す材料である。第1実施形態では、ホール輸送層5に含まれるホール輸送材料は、第1ホストと同一であるが、これに限られない。換言すると、ホール輸送層5に含まれるホール輸送材料と、第1ホストとが互いに異なってもよい。第2ホストは、電子輸送性を示す材料である。第1実施形態では、電子輸送層8に含まれる電子輸送材料は、第2ホストと異なる。第2ホストの具体例は、例えば、上述した電子輸送材料のいずれかであればよい。
【0031】
第3ホストは、第2ホストと同様に、電子輸送性を示す材料である。電子輸送層8に含まれる電子輸送材料は、第3ホストと同一である。すなわち、第2ホストと第3ホストとは、互いに異なる電子輸送材料である。以下にて説明する励起子の失活速度の観点から、第3ホストは、ペリレン誘導体、アントラセン誘導体、シクロオクテン系化合物、スチリルアミン誘導体などでもよい。本実施形態では、第3ホストとしてアントラセン誘導体が用いられる。アントラセン誘導体の具体例は、以下の化学式(1)にて示される1,4-ビス(10-フェニル-9-アンスリル)ベンゼンである。
【0032】
【0033】
蛍光ドーパントは、電子とホールとの再結合により励起子が生成すると共に、当該励起子がエネルギーを放出して基底状態に戻る際に蛍光発光する有機物材料(ドーパント材料)である。蛍光ドーパントは、第1ホスト、第2ホスト、及び第3ホストの少なくとも一が基底状態に戻るときに放出されるエネルギーを受け取ることができる。これにより、蛍光ドーパントが蛍光発光する可能性が高くなる。ドーパント材料は、例えば、有機金属錯体化合物、芳香族炭化水素化合物及びその誘導体、及びそれらの誘導体、スチリルアミン誘導体、テトラアリールジアミン誘導体等である。芳香族炭化水素化合物は、例えば、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペリレン、ベンゾフルオランテン、ナフトフルオランテン等である。
【0034】
図2は、第1発光層に含まれる各物質の一重項励起エネルギー準位と三重項励起エネルギー準位とを示す図である。
図2には、第1ホストの三重項励起エネルギー準位T
H1及び一重項励起エネルギー準位S
H1と、第2ホストの三重項励起エネルギー準位T
H2及び一重項励起エネルギー準位S
H2と、第3ホストの三重項励起エネルギー準位T
1及び一重項励起エネルギー準位S
1と、蛍光ドーパントの三重項励起エネルギー準位T
D1及び一重項励起エネルギー準位S
D1とが示される。以下では、三重項励起エネルギー準位T
H1,T
H2,T
1,T
D1のそれぞれは単に準位T
H1,T
H2,T
1,T
D1と呼称し、一重項励起エネルギー準位S
H1,S
H2,S
1,S
D1のそれぞれは単に準位S
H1,S
H2,S
1,S
D1と呼称する。
【0035】
第1発光層6では、準位T1は、準位TD1,TH1,TH2よりも低い。これにより、準位TD1,TH1,TH2のいずれかに存在する三重項励起子のエネルギーは、第3ホストの準位T1に移動しやすい。この場合、準位TD1,TH1,TH2のいずれかに存在する三重項励起子は、第3ホストに集中しやすい。これにより、集中した三重項励起子同士の衝突により一重項励起子が生成されやすくなる。すなわち、第3ホストにてTTA(Triplet-Triplet-Annihilation)が発生しやすくなる。また、準位TD1は、準位TH1よりも低い。このため、準位TH1に存在する三重項励起子は、準位TD1に移動することがある。このような三重項励起子の移動を抑制するため、第1発光層6における蛍光ドーパント及び/又は第1ホストの含有量を少なくしてもよい。準位TD1は、準位TH2よりも高い。このため、準位TD1に存在する三重項励起子は、準位T1だけでなく、準位TH2にも移動しやすい。よって、準位TD1には三重項励起子が蓄積しにくくなる。
【0036】
蛍光ドーパントにおける三重項励起子の集中を抑制する観点から、蛍光ドーパントにおける三重項励起子の失活速度は、第3ホストにおける三重項励起子の失活速度よりも遅い(すなわち、第3ホストにおける三重項励起子の失活速度は、蛍光ドーパントにおける三重項励起子の失活速度よりも速い)。この場合、蛍光ドーパントから第3ホストへ移動した三重項励起子が失活しやすいので、第3ホストには三重項励起子が過剰に蓄積しにくい。このため、蛍光ドーパントから第3ホストへの三重項励起子の移動が阻害されにくい。第3ホストにおける三重項励起子の失活速度は、第1ホストにおける三重項励起子の失活速度と同一以上でもよいし、第2ホストにおける三重項励起子の失活速度と同一以上でもよい。このため、第3ホストにおける三重項励起子の失活速度は、第1ホストにおける三重項励起子の失活速度、及び、第2ホストにおける三重項励起子の失活速度の少なくとも一つより速くてもよい。なお、TTAの発生を維持する観点から、第3ホストにおける三重項励起子の失活速度は、例えばナノ秒オーダー以上マイクロ秒オーダー以下の時間幅を有する。
【0037】
第1発光層6では、準位SH1,SH2,S1のそれぞれは、準位SD1よりも高い。これにより、準位SH1,SH2,S1のいずれかに存在する励起子は、蛍光ドーパントの準位SD1に移動しやすい。また、準位S1は、準位SH1よりも低い。これにより、準位S1に存在する励起子のエネルギーは準位SH1に移動しにくい。加えて、準位S1は、準位SH2よりも低いので、準位S1に存在する励起子のエネルギーは準位SH2に移動しにくい。
【0038】
第1発光層6において、第1ホストと、第2ホストと、第3ホストとの質量比は、特に限定されない。第1発光層6において、第1ホストと第2ホストと第3ホストの合計質量に対する第1ホストの比率は、例えば、1%以上99%以下、または10%以上90%以下などである。第1発光層6において、第1ホストと第2ホストと第3ホストの合計質量に対する第2ホストの比率は、1%以上99%以下、または10%以上90%以下などである。第1発光層6において、第1ホストと第2ホストと第3ホストの合計質量に対する第3ホストの比率は、1%以上99%以下、または10%以上50%以下などである。第1実施形態では、第1発光層6において、第1ホストの含有量は、第2ホストの含有量と、第3ホストの含有量とのそれぞれよりも小さい。また、第2ホストの含有量と、第3ホストの含有量とは、互いに同一でもよいし、互いに異なってもよい。第1発光層6の発光効率の観点から、第1発光層6において、第1ホストと、第2ホストと、第3ホストとの合計質量に対する第2ホストの比率と、当該合計質量に対する第3ホストの比率との差は、例えば30%以上70%以下である。当該差は、50%以上でもよいし、55%以上でもよいし、65%以下でもよいし、60%以下でもよい。
【0039】
次に、第2発光層7のホスト及びドーパントについて説明する。第2発光層7は、2種類のホストに加え、1種類の蛍光ドーパントを含む。具体的には、第2発光層7は、ホール輸送性を示すホストと、電子輸送性を示すホストと、第1発光層6の蛍光ドーパントとは異なる蛍光ドーパント(第2蛍光ドーパント)とを含む。第1実施形態では、第1発光層6と第2発光層7との間におけるホール及び電子の移動に伴うエネルギーロス低減の観点から、第2発光層7に含まれるホール輸送性を示すホストは第1ホストと同一であり、第2発光層7に含まれる電子輸送性を示すホストは第2ホスト及び第3ホストの一方と同一である。第1発光層6と第2発光層7との位置関係の観点から、第2蛍光ドーパントによって発生する光の波長は、第1蛍光ドーパントによって発生する光の波長よりも短くてもよい。本実施形態では、第1蛍光ドーパントは黄色発光用のドーパントであり、第2蛍光ドーパントは青色発光用のドーパントである。なお、第2発光層7に含まれるホール輸送性を示すホストは、第1ホストと異なってもよい。第2発光層7に含まれる電子輸送性を示すホストは、第2ホスト及び第3ホストと異なってもよい。
【0040】
以上に説明した第1実施形態に係る有機EL素子1によれば、第1発光層6は、蛍光ドーパントに加えて、第1~第3ホストを含む。また、第3ホストの三重項励起エネルギー準位T1は、蛍光ドーパントの三重項励起エネルギー準位TD1、第1ホストの三重項励起エネルギー準位TH1、及び第2ホストの三重項励起エネルギー準位TH2よりも低い。このため、第1発光層6内の三重項励起子は、第3ホストに集中しやすい。ここで、第3ホストにおける三重項励起子の失活速度は、蛍光ドーパントにおける三重項励起子の失活速度よりも速い。このため、有機EL素子1に与えられる電流密度を大きくしても、第3ホストには三重項励起子が過剰に集中しにくくなる。これにより、蛍光ドーパントの三重項励起子の第3ホスト等への移動が阻害されにくい。よって、当該蛍光ドーパントにおいて、一重項励起子と三重項励起子との対消滅が発生しにくくなるので、ロールオフの発生が抑制される。したがって、発光効率を向上可能な有機EL素子1を提供できる。
【0041】
加えて、第3ホストに集中する三重項励起子同士の衝突により一重項励起子が生成されやすくなる。すなわち、TTAが発生しやすくなる。よって、有機EL素子1の外部量子効率を向上でき、発光効率をより向上可能である。
【0042】
第1実施形態では、第1ホストの一重項励起エネルギー準位SH1と、第2ホストの一重項励起エネルギー準位SH2と、第3ホストの一重項励起エネルギー準位S1とのそれぞれは、蛍光ドーパントの一重項励起エネルギー準位SD1よりも高い。このため、蛍光ドーパントに一重項励起子が集中しやすいので、発光効率をより向上可能である。
【0043】
第1実施形態では、第3ホストの一重項励起エネルギー準位S1は、第1ホストの一重項励起エネルギー準位SH1及び第2ホストの一重項励起エネルギー準位SH2よりも低い。このため、第3ホストから第1ホスト及び第2ホストに一重項励起子が移動しにくいので、蛍光ドーパントに一重項励起子がより集中しやすくなる。
【0044】
第1実施形態では、有機EL素子1は、第1電極2と第1発光層6との間に位置するホール輸送層5を備え、ホール輸送層5に含まれるホール輸送材料は、第1ホストと同一である。このため、ホール輸送層5から第1発光層6へのホール移動が阻害されにくくなる。
【0045】
第1実施形態では、有機EL素子1は、第1発光層6と第2電極3との間に位置する電子輸送層8を備え、電子輸送層8に含まれる電子輸送材料は、第3ホストと同一である。このため、電子輸送層8から第1発光層6への電子移動が阻害されにくくなる。
【0046】
第1実施形態では、第1発光層6において、第1ホストと、第2ホストと、第3ホストとの合計質量に対する第2ホストの比率と、当該合計質量に対する第3ホストの比率との差は、30%以上70%以下である。このため、発光効率をより向上可能である。
【0047】
(第2実施形態)
以下では、第2実施形態に係る有機EL素子について説明する。第2実施形態の説明において第1実施形態と重複する記載は省略し、第1実施形態と異なる部分を記載する。つまり、技術的に可能な範囲において、第2実施形態に第1実施形態の記載を適宜用いてもよい。
【0048】
図3は、第2実施形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
図3に示されるように、有機EL素子1Aは、上記第1実施形態の有機EL素子1と異なり、第1発光層6及び第2発光層7の代わりに、第1発光層6A及び第2発光層7Aを有する。第1発光層6Aは、第1ホストと、第2ホスト及び第3ホストの一方と、蛍光ドーパントとを含む。一方、第2発光層7Aは、3種類のホストと、第2蛍光ドーパントを有する。すなわち、第2実施形態では、第2発光層7Aが4元構成層である。第2発光層7Aは、上記第1実施形態の第1発光層6と同様に、第1ホストと、第2ホストと、第3ホストとを含む。
【0049】
図4は、第2発光層に含まれる各物質の一重項励起エネルギー準位と三重項励起エネルギー準位とを示す図である。
図4には、準位T
H1,T
H2,T
1及び準位S
H1,S
H2,S
1に加えて、第2蛍光ドーパントの三重項励起エネルギー準位T
D2及び一重項励起エネルギー準位S
D2とが示される。以下では、三重項励起エネルギー準位T
D2は単に準位T
D2と呼称し、一重項励起エネルギー準位S
D2は単に準位S
D2と呼称する。
【0050】
第2発光層7Aでは、準位T1は、準位TD2よりも低い。これにより、準位TD2に存在する三重項励起子のエネルギーは、第3ホストの準位T1に移動しやすい。また、第2発光層7Aでは、準位SH1,SH2,S1のそれぞれは、準位SD2よりも高い。これにより、準位SH1,SH2,S1のいずれかに存在する励起子は、第2蛍光ドーパントの準位SD2に移動しやすい。なお、第2発光層7Aにおける第1ホストと、第2ホストと、第3ホストとの質量比は、上記第1実施形態の第1発光層6と同様である。
【0051】
以上に説明した第2実施形態に係る有機EL素子1Aにおいては、第2発光層7AにてTTAが発生しやすくなる一方でSTAが発生しにくくなる。したがって、上記第1実施形態と同様の作用効果が発揮される。
【0052】
第2実施形態では、有機EL素子1Aは、第1発光層6Aと第2電極3との間に位置する第2発光層7Aを備え、第2発光層7Aは、第2蛍光ドーパントと、第1ホストと、第2ホストと、第3ホストとを含み、第3ホストの三重項励起エネルギー準位T1は、第2蛍光ドーパントの三重項励起エネルギー準位TD2よりも低い。このため上記第1実施形態と同様の理由にて、第2発光層7Aにおいてもロールオフの発生が抑制される。
【0053】
(第3実施形態)
以下では、第3実施形態に係る有機EL素子について説明する。第3実施形態の説明において第1及び第2実施形態と重複する記載は省略し、第1及び第2実施形態と異なる部分を記載する。つまり、技術的に可能な範囲において、第3実施形態に第1及び第2実施形態の記載を適宜用いてもよい。
【0054】
図5は、第3実施形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
図5に示されるように、有機EL素子1Bは、上記第1実施形態の有機EL素子1と異なり、第2発光層7の代わりに、上記第2実施形態の第2発光層7Aを有する。すなわち、第3実施形態では、第1発光層6と第2発光層7Aとのそれぞれは、4元構成層である。第1発光層6に含まれるホストと、第2発光層7Aに含まれるホストとは、互いに同一でもよいし、互いに異なってもよい。後者の場合、第1発光層6と第2発光層7Aとのそれぞれにおいて、各ホストのエネルギー領域の関係と、各ホストの失活速度の関係とが満たされていればよい。
【0055】
第3実施形態では、第1発光層6の発光効率の観点から、第1発光層6において、第1ホストと、第2ホストと、第3ホストとの合計質量に対する第2ホストの比率と、当該合計質量に対する第3ホストの比率との差は、例えば25%以下である。当該差は、10%以下でもよいし、5%以下でもよいし、3%以下でもよいし、1%以下でもよい。
【0056】
以上に説明した第3実施形態に係る有機EL素子1Bにおいても、上記第1及び第2実施形態と同様の作用効果が発揮される。
【0057】
以下では、
図6に示される比較例を参照しながら、第1~第3実施形態に係る発明の作用効果を説明する。
図6は、比較例に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
図6に示されるように、比較例に係る有機EL素子100は、上記第1実施形態の有機EL素子1と異なり、第1発光層6の代わりに、上記第2実施形態の第1発光層6Aを有する。すなわち、有機EL素子100は、4元構成層である発光層を有さない。なお、各測定に用いられる有機EL素子1,1A,1B,100において、第1電極2、第2電極3、ホール注入層4、ホール輸送層5、電子輸送層8及び電子注入層9は、同一条件にて形成された。また、当該有機EL素子1,1A,1B,100において、第1発光層6,6Aはホストの種類が異なること以外は同一条件にて形成された。同様に、上記有機EL素子1,1A,1B,100において、第2発光層7,7Aはホストの種類が異なること以外は同一条件にて形成された。
【0058】
図7は、各有機EL素子の輝度寿命測定結果を示す図である。
図7において、横軸は駆動時間を示し、縦軸は輝度残存率を示す。
図7において、プロット11は、上記第1実施形態に係る有機EL素子1の輝度寿命測定結果を示し、プロット12は、上記第2実施形態に係る有機EL素子1Aの輝度寿命測定結果を示し、プロット13は、上記第3実施形態に係る有機EL素子1Bの輝度寿命測定結果を示し、プロット14は、上記比較例に係る有機EL素子100の輝度寿命測定結果を示す。
図7に示されるように,有機EL素子1,1A,1Bのいずれにおいても、4000時間駆動したときの輝度残存率が60%以上であり、有機EL素子100の輝度残存率と大幅な違いは無いと言える。加えて、有機EL素子1の輝度残存率は、有機EL素子100よりも高い傾向がある。
【0059】
図8は、有機EL素子の外部量子効率測定結果を示す図である。
図8において、横軸は電流密度を示し、縦軸は外部量子効率(規格値)を示す。
図8において、プロット15は、上記第1実施形態に係る有機EL素子1の外部量子効率測定結果を示し、プロット16は、上記第2実施形態に係る有機EL素子1Aの外部量子効率測定結果を示す。プロット17は、上記第3実施形態に係る有機EL素子1Bの外部量子効率測定結果を示し、プロット18は、上記比較例に係る有機EL素子100の外部量子効率測定結果を示す。
図8に示されるように、電流密度が100mA/cm
2以上である場合、有機EL素子1,1A,1Bの外部量子効率は、有機EL素子100の外部量子効率よりも高い。動作時の有機EL素子の電流密度は、要求される輝度に依存するが、1000mA/cm
2以上(例えば、1500mA/cm
2など)であることが多い。このため、通常利用においては、有機EL素子100よりも有機EL素子1,1A,1Bの外部量子効率が優れており、ロールオフが抑制されていることがわかる。
【0060】
次に、
図9を参照しながら有機EL素子の応用例について説明する。
図9は、有機EL表示装置の概略斜視図である。
図9に示される有機EL表示装置20は、上述した有機EL素子1,1A,1Bのいずれかを備える装置である。有機EL表示装置20は、アクティブマトリックス型表示装置でもよいし、パッシブマトリックス型表示装置でもよいし、セグメント型表示装置でもよい。有機EL表示装置20がアクティブマトリクス型表示装置である場合、各有機EL素子に対応するトランジスタ等が設けられ得る。
【0061】
有機EL表示装置20は、互いに積層している第1基板21及び第2基板22と、表示部23と、配線部24と、集積回路25と、FPC26(フレキシブルプリント基板)と、保護樹脂27とを備える。以下では、第1基板21と第2基板22とが互いに積層する方向を、単に「積層方向」として説明する。積層方向は、第1基板21及び第2基板22の厚さ方向に相当する。
【0062】
第1基板21は、封止基板として機能する基板であり、第2基板22に対向するように設けられている。第1基板21は、例えばガラス基板、セラミックス基板、金属基板、又は可撓性を有する基板(例えば、プラスチック基板)である。第2基板22は、表示部23及び配線部24が設けられる素子基板であり、積層方向から見て表示部23を囲う封止部(不図示)を介して第1基板21と一体化されている。第2基板22は、例えばガラス基板、又は可撓性を有する基板(例えば、プラスチック基板等)であり、透光性を有している。第1基板21と第2基板22とのそれぞれは、積層方向から見て矩形状を有する。
【0063】
表示部23は、多数の有機EL素子が配置される部分であり、第2基板22上に設けられる。表示部23は、第1基板21、第2基板22、及び封止部によって囲まれて封止された封止空間内に設けられる。なお、封止空間内には、乾燥剤、充填材等が設けられてもよい。配線部24は、複数の引き回し配線を含む部分であり、第1領域24a及び第2領域24bを有する。第1領域24aには表示部23と集積回路25とを接続する引き回し配線(不図示)が設けられ、第2領域24bには集積回路25とFPC26とを接続する引き回し配線(不図示)が設けられる。
【0064】
集積回路25は、有機EL表示装置20の動作を制御する駆動回路であり、例えばICチップ等である。第2基板22上に搭載される集積回路25の数は、1つでもよいし、複数でもよい。FPC26は、有機EL表示装置20と外部装置とを接続する部材であり、例えば可撓性を有するプラスチック基板を用いて形成される。FPC26に接続される外部装置は、例えば電源及び電流制御回路等である。保護樹脂27は、配線部24及び集積回路25を保護するために設けられる樹脂である。保護樹脂27は、例えば種々の硬化性樹脂である。
【0065】
本発明による有機EL素子は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、有機EL素子は、第1発光層及び第2発光層を有するが、これに限られない。
図10は、変形例に係る有機EL素子の概略断面図である。
図10に示されるように、有機EL素子1Cは、第1発光層6及び第2発光層7の代わりに、単一の発光層10を有してもよい。発光層10は、例えば、第1ホストと、第2ホストと、第3ホストと、蛍光ドーパントとを含む。なお、発光層には、複数の蛍光ドーパントが含まれてもよい。
【0066】
上記実施形態及び上記変形例において、有機EL素子は、第1電極、第2電極、ホール注入層、ホール輸送層、少なくとも一つの発光層、電子輸送層、及び電子注入層を有するが、これに限られない。例えば、有機EL素子は、ホールブロック層、電子ブロック層、2つの発光層の間に位置する中間層等を有してもよい。また、上記実施形態及び上記変形例において、有機EL素子は、電子輸送層及び電子注入層を有するが、これに限られない。例えば、有機EL素子は、電子注入層を有さなくてもよい。この場合、有機EL素子は、電子注入性の高い物質と、電子輸送材料とを含む層(電子注入輸送層)を有してもよい。この電子注入輸送層は、例えば、電子注入性の高い物質と、電子輸送材料とを共蒸着することによって得られる。
【0067】
上記実施形態及び上記変形例において、第3ホストは、電子輸送層に含まれる電子輸送材料と同一であるが、これに限られない。第3ホストと、電子輸送層に含まれる電子輸送料とは、互いに異なってもよい。
【0068】
上記実施形態及び上記変形例において、第1基板及び第2基板の両方は、積層方向から見て矩形状に限られない。例えば、積層方向から見て第1基板及び第2基板の両方は、多角形状を有してもよいし、略円形状を有してもよい。
【符号の説明】
【0069】
1,1A,1B,1C,100…有機EL素子、2…第1電極、3…第2電極、4…ホール注入層,5…ホール輸送層、6,6A…第1発光層、7,7A…第2発光層、8…電子輸送層、9…電子注入層、10…発光層、20…有機EL表示装置、21…第1基板、22…第2基板、23…表示部、24…配線部、25…集積回路、26…FPC、27…保護樹脂。