IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-漏気検知方法 図1
  • 特開-漏気検知方法 図2
  • 特開-漏気検知方法 図3
  • 特開-漏気検知方法 図4
  • 特開-漏気検知方法 図5
  • 特開-漏気検知方法 図6
  • 特開-漏気検知方法 図7
  • 特開-漏気検知方法 図8
  • 特開-漏気検知方法 図9
  • 特開-漏気検知方法 図10
  • 特開-漏気検知方法 図11
  • 特開-漏気検知方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113280
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】漏気検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/26 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
G01M3/26 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015519
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】増田 潔
(72)【発明者】
【氏名】依田 篤士
(72)【発明者】
【氏名】若山 恵英
(72)【発明者】
【氏名】中山 翔太
【テーマコード(参考)】
2G067
【Fターム(参考)】
2G067AA01
2G067CC04
2G067DD02
(57)【要約】
【課題】従来よりも簡単に漏気を検知することができる漏気検知方法を提供する。
【解決手段】部屋の漏気を検知する漏気検知方法であって、前記部屋の室内音を測定する室内音測定工程(ステップS10)と、前記室内音から前記漏気の有無を判定する漏気判定工程(ステップS20)とを有し、室内音測定工程(ステップS10)では、前記部屋の内外に圧力差を発生させない状態での第1室内音と、圧力差を発生させた状態での第2室内音とを測定し、漏気判定工程(ステップS20)では、前記第1室内音と前記第2室内音との対比によって漏気の有無を判定することを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部屋の漏気を検知する漏気検知方法であって、
前記部屋の室内音を測定する室内音測定工程と、
前記室内音から前記漏気の有無を判定する漏気判定工程と、を有し、
前記室内音測定工程では、前記部屋の内外に圧力差を発生させない状態での第1室内音と、圧力差を発生させた状態での第2室内音とを測定し、
前記漏気判定工程では、前記第1室内音と前記第2室内音との対比によって漏気の有無を判定する、
ことを特徴とする漏気検知方法。
【請求項2】
前記漏気判定工程は、
前記第1室内音の成分と前記第2室内音の成分とを比較することで、漏気によって発生する漏気音の周波数帯域を特定する漏気音成分特定工程と、
前記漏気音成分特定工程で特定された周波数帯域を解析対象とし、前記第2室内音から前記漏気音の到来方向を推定する漏気音源推定工程と、を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の漏気検知方法。
【請求項3】
前記室内音測定工程では、複数のマイクロホンからなるマイクロホンアレイによって前記室内音を測定し、
前記漏気音源推定工程では、前記複数のマイクロホンから前記第2室内音の信号を受け付け、MUSICアルゴリズムにより前記漏気音の到来方向を推定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の漏気検知方法。
【請求項4】
前記漏気判定工程は、前記漏気音成分特定工程で特定された周波数帯域について音圧レベルの時刻歴を作成し、当該時刻歴に基づいて、前記漏気音の解析を行う時間帯を判定する解析時間帯判定工程をさらに有する、
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の漏気検知方法。
【請求項5】
前記解析時間帯判定工程では、音圧レベルの時刻歴から変位点検知を用いて前記漏気音が鳴り始める漏気音開始時刻を算出し、前記漏気音開始時刻から反射音の影響がない所定の時間帯を前記漏気音の解析を行う時間帯とする、
ことを特徴とする請求項4に記載の漏気検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部屋の漏気を検知する漏気検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製造現場や研究開発現場などで気密性のある空間が要求される場合がある。気密性のある空間の一例はクリーンルームであり、様々な構造のクリーンルームが提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。特許文献1に記載される技術は、パネルを連結することでクリーンルームを実現する連結構造に関するものである。特許文献2に記載される技術は、クリーンルーム内に区画を構成する間仕切り機構に関するものである。
対象空間の気密性を担保するために漏気検査を実施するのが一般的であり、例えば熱分布を画像として表示するサーモグラフィーを用いた方法がある。具体的な検査方法は以下の通り。
(1)クリーンルーム内部を負圧にし、外部から空気が流れる条件とする。
(2)クリーンルーム外部の部屋の温度を本設空調により調整する。
(3)漏気箇所がある場合、クリーンルーム内部に気温の異なる空気が流れ込む。
(4)サーモグラフィーを用いて熱分布を画像として取得し、画像から漏気が発生している箇所を判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-155944号公報
【特許文献2】特開平10-245919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のサーモグラフィーによる漏気検査は、実施可能な時期が本設空調の設置後に限定されていたり、漏気の判断が難しかったりと、漏気検査を実施するのが必ずしも簡単ではなかった。
例えば、クリーンルームの室圧調整は仮設設備で対応できるが、空気の温度調整には空調機が必要となるので、本設空調設備が稼働した後にしか漏気検査を実施できない。空調機の設置工程は、全体工期の後半となるため、早い段階で漏気検査を実施することは難しい。なお、最も望ましい実施時期は、壁や天井ができたタイミングである。また、是正作業が発生した際、クリーンルームの構築に携わった作業員が別現場に移動していると、呼び戻すまでに時間を要し、また、クリーンルームの構築時に使用した足場が解体されていると、足場の再構築に時間を要するなど、タイムリーに是正作業を行うことができないという問題があった。
また、サーモグラフィー画像を撮影して漏気検査の合否を判定するが、判定には技巧・技量が必要なために特定の作業員しか判定できない。例えば、ヒートブリッジが天井裏などに生じていると、サーモグラフィー画像では漏洩しているような画像になってしまい、紛らわしい画像に作業者が混乱する場合がある。
このような観点から、本発明は、従来よりも簡単に漏気を検知することができる漏気検知方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る漏気検知方法は、部屋の漏気を検知する漏気検知方法である。この漏気検知方法は、前記部屋の室内音を測定する室内音測定工程と、前記室内音から前記漏気の有無を判定する漏気判定工程と、を有する。前記室内音測定工程では、前記部屋の内外に圧力差を発生させない状態での第1室内音と、圧力差を発生させた状態での第2室内音とを測定する。前記漏気判定工程では、前記第1室内音と前記第2室内音との対比によって漏気の有無を判定する。
本発明に係る漏気検知方法においては、空気の温度調整を必要としないので、空調機が設置される前でも実施可能である。その為、検査を実施可能な時期が限定され難い。また、第1室内音と第2室内音の対比によって漏気音の有無が明確となる。その為、サーモグラフィー画像での判定のように技巧・技量を要せずとも判断が可能である。
前記漏気判定工程は、漏気音成分特定工程と、漏気音源推定工程とを有するのがよい。漏気音成分特定工程では、前記第1室内音の成分と前記第2室内音の成分とを比較することで、漏気によって発生する漏気音の周波数帯域を特定する。漏気音源推定工程では、前記漏気音成分特定工程で特定された周波数帯域を解析対象とし、前記第2室内音から前記漏気音の到来方向を推定する。
前記室内音測定工程では、複数のマイクロホンからなるマイクロホンアレイによって前記室内音を測定してもよい。その場合、前記漏気音源推定工程では、前記複数のマイクロホンから前記第2室内音の信号を受け付け、例えばMUSICアルゴリズムにより前記漏気音の到来方向を推定することができる。なお、MUSICアルゴリズム以外の手法によって漏気音の到来方向を推定してもよい。
このようにすると、漏気を発生している箇所を特定することが可能である。
【0006】
前記漏気判定工程は、前記漏気音成分特定工程で特定された周波数帯域について音圧レベルの時刻歴を作成し、当該時刻歴に基づいて、前記漏気音の解析を行う時間帯を判定する解析時間帯判定工程をさらに有してもよい。
前記解析時間帯判定工程では、音圧レベルの時刻歴から変位点検知を用いて前記漏気音が鳴り始める漏気音開始時刻を算出し、前記漏気音開始時刻から反射音の影響がない所定の時間帯を前記漏気音の解析を行う時間帯とするのがよい。
このようにすると、室内で発生する反射音(部屋の反響)の影響を抑制することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来よりも簡単に漏気を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る漏気検知システムの構成図である。
図2】音源探査システムの構成図である。
図3】漏気音源推定部のブロック図である。
図4】漏気検知システムの処理を示すフローチャートの例示である。
図5】解析時間帯判定工程を示すフローチャートの例示である。
図6】実験を行った環境を説明するための図である。
図7】検証実験で収録した暗騒音(第1室内音)および漏気音を含む室内音(第2室内音)の1/3オクターブ音圧レベルを示すグラフである。
図8】帯域毎(「250Hz」、「1600Hz」、「2000Hz」の3種類)の騒音レベルの時刻歴を示すグラフである。
図9】「250Hz」の帯域での変化点検知の結果である。
図10】「1600Hz」の帯域での変化点検知の結果である。
図11】「2000Hz」の帯域での変化点検知の結果である。
図12】全天球画像にMUSICスペクトルを重ねた合成画像のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
<実施形態に係る漏気検知システムの構成について>
図1を参照して、漏気検知システム100の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る漏気検知システム100の構成図である。漏気検知システム100は、部屋の漏気を検知するシステムである。漏気検知システム100によって漏気を検知する対象の部屋は、気密性を有する(気密性を実現するために設計されている)ことが前提であり、一例を挙げればクリーンルームである。なお、漏気を検知する対象の部屋は、完全な気密性を有している必要はなく、例えば空調設備などが部屋に設置されていてもよい。また、漏気検知システム100で検知する漏気は、部屋の内外を結ぶ(部屋の構成物を貫通する)断面積が小さい孔部により発生する場合を想定する。この孔部は、例えば人間が目視では容易に認識できない程度の狭隘な隙間である。
【0010】
漏気検知システム100は、部屋の内外に圧力差を発生させることで、漏気の原因となる孔部を通過する空気の流れを強制的に発生させる。例えば、部屋の内部を負圧にし、外部から部屋内に空気が流れる環境を作る。前述した通り、漏気の原因となる孔部は断面積が小さいので、空気が通過することにより空気の渦が発生して音が鳴る。本実施形態では、孔部を空気が通過することによって鳴る音を「漏気音」と称する。漏気検知システム100は、部屋の内外に圧力差を発生させた状態で漏気音を収音することによって部屋で漏気が発生することを検知する。また、収音した漏気音を解析することで漏気が発生している漏気箇所を特定する。つまり、漏気が発生している部屋の場合、部屋内で録音した音(室内音)には漏気音が含まれるが、漏気が発生していない部屋の場合、部屋内で録音した音(室内音)には漏気音が含まれない。なお、部屋の内外で環境音が発生している場合、室内音には環境音が含まれることになる。
【0011】
図1に示すように、漏気検知システム100は、音源探査システム1と、圧力差発生部2とを主に備える。漏気検知システム100は、差圧計9を備える。差圧計9は、チューブによって部屋に接続されており、部屋内の圧力を測定可能である。
音源探査システム1は、観測した音(本実施形態では漏気音)の発生箇所を特定するシステムである。音源探査システム1の構成を図2に示す。図2は、音源探査システム1の構成図である。音源探査システム1の構成については後述する。
図1に示す圧力差発生部2は、部屋の内外に圧力差を発生させる装置である。本実施形態での圧力差発生部2は送風機であり、部屋の壁に設置されている。圧力差発生部2は、部屋の中の空気を外部に送り出すことで部屋内を負圧にする。なお、圧力差発生部2は、部屋の外の空気を内部に取り入れることで部屋内を正圧にしてもよい。なお、圧力差発生部2の稼働音は漏気検知において無視できる程度に小さいことが望ましく、本実施形態でも圧力差発生部2の稼働音が無視できる程度に小さいことにする。
【0012】
図2を参照して、音源探査システム1の構成について説明する。音源探査システム1は、マイクロホンアレイ3と、A/D変換器4と、信号処理部5と、画像処理部6と、全天球カメラ7と、表示部8とを備えている。マイクロホンアレイ3および全天球カメラ7は、部屋の内部に設置されるのが望ましく、他の構成要素は部屋の内外のどちらに設置されてもよい。信号処理部5および画像処理部6は、CPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理や、専用回路等により実現される。
全天球カメラ7は、撮影部の一例であり、漏気の検知を行う部屋内の画像(特に、マイクロホンアレイ3の周囲)を撮影する。ここでの全天球カメラ7は、上下左右全方位の360度画像を撮影できる。
表示部8は、例えば、ディスプレイであり、全天球カメラ7で撮影した画像を表示できる。
【0013】
マイクロホンアレイ3は、三次元的に配置された複数のマイクロホンMから構成される。マイクロホンMは、例えば、無指向性のマイクロホンである。各々のマイクロホンMは、観測信号をA/D変換器4に出力する。つまり、マイクロホンアレイ3は、マイクロホンMの数分だけのアナログ観測信号をA/D変換器4に出力する。本実施形態では、マイクロホンアレイ3を用いて、二つの室内音を収録する。一つ目は、部屋の内外に圧力差を発生させない状態での室内音であり「第1室内音」と称する。第1室内音は、例えば暗騒音である。二つ目は、部屋の内外に圧力差を発生させた状態での室内音であり「第2室内音」と称する。部屋で漏気が発生している場合、第2室内音には漏気音が含まれる。第1室内音および第2室内音には環境音が含まれてもよいが、第1室内音に含まれる環境音と第2室内音に含まれる環境音とは同様のものである。
A/D変換器4は、マイクロホンアレイ3からマイクロホンMの数分のアナログ観測信号を受け付け、受けたアナログ観測信号に対してアナログ/デジタル変換を行う。そして、A/D変換器4は、デジタル観測信号を信号処理部5に出力する。
【0014】
信号処理部5(漏気判定部)は、第2室内音に含まれる漏気音の成分のみに着目して、漏気の発生や漏気音の到来方向の推定を行う。信号処理部5には、A/D変換器4でアナログ/デジタル変換された第1室内音および第2室内音のデジタル観測信号が入力される。信号処理部5は、漏気音成分特定部51と、解析時間帯判定部52と、漏気音源推定部53とを備えている。
漏気音成分特定部51は、第1室内音と第2室内音とを取得し、第1室内音と第2室内音との対比によって漏気の有無を判定する。例えば、漏気音成分特定部51は、第1室内音の成分と第2室内音の成分とを比較することで、漏気によって発生する漏気音の周波数帯域を特定する。漏気音成分特定部51は、例えば第1室内音の成分と第2室内音の成分との差が閾値以上である帯域を漏気音の周波数帯域として特定する。漏気音成分特定部51は、第1室内音の成分と第2室内音の成分との差が閾値以上である帯域が一つ以上存在する場合に漏気音が鳴っている(つまり部屋で漏気が発生している)と判定し、閾値以上である帯域がない場合に漏気音が鳴っていない(つまり部屋で漏気が発生していない)と判定する。漏気音成分特定部51は、特定した漏気音の成分に関する情報を解析時間帯判定部52および漏気音源推定部53に出力する。
【0015】
解析時間帯判定部52は、漏気音の解析を行うのに適した時間帯を判定する。前述した通り、漏気を検知する対象の部屋は気密性を有するので、部屋内は閉空間となり例えば壁からの反射音(反響)によって漏気音の到来方向を推定する精度が低下する。その為、解析時間帯判定部52で反射の影響がない(または小さい)時間帯を判定し、その時間帯に基づいて漏気音源推定部53が漏気音の推定を行う。例えば、解析時間帯判定部52は、漏気音成分特定部51で特定された周波数帯域について音圧レベルの時刻歴を作成し、作成した音圧レベルの時刻歴に基づいて、漏気音の解析を行う時間帯を判定する。解析時間帯判定部52は、音圧レベルの時刻歴から変位点検知を用いて漏気音が鳴り始める漏気音開始時刻を算出し、漏気音開始時刻から反射音の影響がない所定の時間帯を漏気音の解析を行う時間帯とする。例えば、反射音が到達するまでの時間を予め計算しておき、それよりも短い時間(例えば、数ミリ秒~数百ミリ秒程度)を漏気音の解析を行う時間帯として設定する。なお、変化点検知の手法としては、例えば「k-近傍法」、「特異スペクトル変換法」、「Changefinder法」などがある。また、現在では、時系列予測アルゴリズムがオープンソースソフトウェアライブラリとして公開されており(例えばツール名「Prophet」など)、これらの公開されているツールを用いてもよい。つまり、変化点検知の手法は特に限定されない。解析時間帯判定部52は、漏気音の解析を行うのに適した時間帯に関する情報を漏気音源推定部53に出力する。
【0016】
漏気音源推定部53は、漏気音成分特定部51で特定された周波数帯域を解析対象とし、第2室内音から漏気音の到来方向(漏気音源の位置)を推定する。つまり、部屋の内外に圧力差を発生させたことにより暗騒音から上昇した周波数帯域のみを解析周波数として設定し、当該解析周波数に基づいて漏気音の到来方向(漏気音源の位置)の推定を行う。漏気音源推定部53は、解析時間帯判定部52によって判定された漏気音の解析を行うのに適した時間帯で漏気音の解析を行うのが望ましい。その場合、漏気音源推定部53は、第2室内音および漏気音成分特定部51で求めた解析対象周波数を受け付ける。本実施形態での漏気音源推定部53は、複数のマイクロホンMから第2室内音の信号を受け付け、MUSICアルゴリズムにより漏気音の到来方向を推定する。そして、漏気音源推定部53は、漏気音の到来方向の推定値(水平角φ、仰角θ)やMUSICスペクトルを画像処理部6に出力する。なお、漏気音源推定部53が出力する情報は、漏気音の位置を特定できるものであればよく、漏気音の到来方向の推定値やMUSICスペクトルはあくまで例示である。なお、漏気音の到来方向の推定値(水平角φ、仰角θ)およびMUSICスペクトルの何れか一方のみを出力してもよい。
【0017】
図3を参照して(適宜、図1および図2を参照)、漏気音源推定部53の構成例を説明する。図3は、漏気音源推定部53のブロック図である。なお、漏気音源推定部53は、MUSICアルゴリズムにより漏気音源の位置を推定することができる一般的な構成であってよい。
ここでの漏気音源推定部53は、フレーム処理部53aと、FFT(Fast Fourier Transformation)53bと、観測空間相関行列算出部53cと、固有値分解部53dと、MUSICスペクトル算出部53eと、到来方向推定部53fと、モデル空間相関行列記憶部53gと、到来方向記憶部53hとからなる。なお、ここでの漏気音源推定部53の構成は、あくまで例示である。
フレーム処理部53aは、A/D変換器4から出力されるマイクロホン数分のデジタル観測信号(第2室内音)を、所定のフレーム長でフレーム化する。例えば、フレーム処理部52aは、解析時間帯をさらに分割した分割時間帯で第2室内音を分割する。分割時間帯は、例えば隣り合う時間帯と一部が重複していてもよい(例えば、分割時間帯の半分が重複している「50%オーバーラップ」にする)。解析時間帯を分割時間帯に分割せずに第2室内音の処理を行うことも可能である。
FFT53bは、FFT処理(高速フーリエ変換処理)を施し、フレーム化された各々のデジタル観測信号(試験対象音)から観測信号ベクトルを算出する。
【0018】
観測空間相関行列算出部53cは、FFT53bから得られた観測信号ベクトルと、過去の相関行列とに基づいて現在の観測空間相関行列を算出する。この際に、観測空間相関行列算出部53cは、漏気音成分特定部51で算出した解析対象周波数でのみ観測空間相関行列を算出する。
固有値分解部53dは、現在の観測空間相関行列を固有値分解し、値の大きな固有値以外の固有値に対応するノイズレベル固有ベクトルを求める。
MUSICスペクトル算出部53eは、事前にモデル空間相関行列記憶部53gに保存されたモデル空間相関行列と、固有値分解部53dで算出したノイズレベル固有ベクトルとに基づいてMUSICスペクトルを算出する。MUSICスペクトル算出部53eは、解析時間帯を分割した各々の分割時間帯でMUSICスペクトルを算出する。算出されたMUSICスペクトルは、到来方向推定部53fおよび画像処理部6に出力される。
到来方向推定部53fは、解析対象周波数領域で求められる推定方向を平均し、そのピーク値を最終的な到来方向推定値とする。
モデル空間相関行列記憶部53gには、モデル空間相関行列が記憶される。モデル空間相関行列は、一つのマイクロホンMを基準とした各マイクロホンMの出力の位相差により得られる行列である。
到来方向記憶部53hには、推定した到来方向推定値が記憶される。
【0019】
図2に示す画像処理部6は、全天球画像補正部61と、画像合成部62とを備えている。全天球画像補正部61は、全天球カメラ7で撮影した全天球画像を平面画像に補正する。画像合成部62は、補正後の全天球画像にMUSICスペクトルをコンター図で表示した画像を合成する。各々の分割時間帯でコンター図が作成された場合、画像合成部62は、各々の分割時間帯に対応するコンター図を時系列に並べた映像として表示してもよいし、各々の分割時間帯に対応するコンター図を平均化した新たなコンター図を作成して表示してもよい。コンター図を平均化した場合、ノイズの影響などを排除できるので望ましい。画像合成部62で合成した画像のイメージを図12に示す。図12は、全天球画像にMUSICスペクトルを重ねた合成画像のイメージ図である。画像処理部6は、漏気音の到来方向の推定値(水平角φ、仰角θ)や合成した画像を表示部8に表示する。
【0020】
<実施形態に係る漏気検知システムの処理(方法)について>
図4を参照して(適宜、図1ないし図3を参照)、漏気検知システム100の処理を説明する。図4は、漏気検知システム100の処理を示すフローチャートの例示である。図4に示すように、漏気検知システム100の処理の工程は、主に「室内音測定工程(ステップS10)」と、「漏気判定工程(ステップS20)」とがある。なお、事前準備として、漏気検査を行う部屋に圧力差発生部2を予め設置しておく。圧力差発生部2は、検査終了後に簡単に取り外し可能であるのが望ましく、例えば小型ファンであるのがよい。
(室内音測定工程(ステップS10))
最初に、漏気検知システム100は、暗騒音を第1室内音として測定(録音)する(ステップS11)。暗騒音(第1室内音)の測定は、圧力差発生部2を稼働させない状態(つまり、部屋の内外に圧力差を発生させない状態)で行われる。続いて、漏気検知システム100は、漏気音を含む室内音を第2室内音として測定(録音)する(ステップS12~S16)。漏気音を含む室内音(第2室内音)の測定は、圧力差発生部2を稼働させた状態(つまり、部屋の内外に圧力差を発生させた状態)で行われる。例えば、漏気検知システム100は、漏気音の録音を開始し(ステップS12)、次に圧力差発生部2としての小型ファンを稼働させる(ステップS13)。漏気検知システム100は、小型ファンを一定時間稼働させた後で停止し(ステップS14,S15)、また漏気音の録音を停止する(ステップS16)。これにより、室内音測定工程が終了する。なお、漏気音の録音を開始した後で小型ファンを稼働させるのは、漏気音の反射音が発生していない期間(漏気音の鳴り始めの期間)の録音を確実に行うためである。
【0021】
(漏気判定工程(ステップS20))
漏気検知システム100(特に、漏気音成分特定部51)は、部屋の内外に圧力差を発生させない状態で収録した暗騒音(第1室内音)と、部屋の内外に圧力差を発生させた状態で収録した収録音(第2室内音)とを比較する(ステップS21)。ステップS21で比較結果が閾値よりも小さい場合、漏気検知システム100は、漏気音なしと判定し(ステップS22)、部屋に漏気が発生していないとして漏気検査を終了する。漏気検査が終了した後で圧力差発生部2としての小型ファンを部屋から撤去する。ステップS21で比較結果が閾値以上の場合、漏気検知システム100は、漏気音ありと判定し、閾値以上の周波数帯域(つまり、漏気音の成分)を抽出する(ステップS23)。抽出する周波数帯は複数であってもよい。
ステップS23に続いて、漏気検知システム100(特に、解析時間帯判定部52)は、解析を行う時間帯(例えば開始時刻および終了時刻)を設定する。例えば、漏気検知システム100は、漏気音成分特定部51で特定された周波数帯域について音圧レベルの時刻歴を作成し、作成した音圧レベルの時刻歴に基づいて漏気音の解析を行う時間帯を設定する。ステップS23で複数の帯域を抽出した場合、各々の帯域で別々の時間帯(開始時刻および終了時刻)を設定してもよい。なお、解析を行う時間帯(開始時刻および終了時刻)の設定を人間が行ってもよく、その場合には例えば漏気検知システム100が音圧レベルの時刻歴を画面に表示し、人間による時間帯(開始時刻および終了時刻)の設定を受け付ける。
ステップS24に続いて、漏気検知システム100(特に、漏気音源推定部53)は、対象の周波数帯域および解析時間帯に基づいて漏気音の音源探査解析を行う(ステップS25)。例えば、漏気音源推定部53は、漏気音成分特定部51で特定された周波数帯域を解析対象とし、解析時間帯における第2室内音から漏気音の到来方向(漏気音源の位置)を推定する。
【0022】
ステップS23における処理の一例を図5に示す。図5は、ステップS23における解析時間帯判定工程を示すフローチャートの例示である。図5に示すように、例えば、解析時間帯判定部52は、部屋の内外に圧力差を発生させた状態で収録した収録音(第2室内音)に対象周波数帯域フィルタを畳み込む(ステップS241)。対象周波数帯域フィルタは、対象の帯域の信号を通過させるフィルタである。次に、解析時間帯判定部52は、対象周波数帯域フィルタを通過した帯域別の信号に対して、100msごとの騒音レベルを算出する(ステップS242)。次に、解析時間帯判定部52は、変化点検知を用いて、帯域ごとに解析開始時刻を設定する(ステップS243)。
変化点検知は、時系列データの変化が起きた時点を検出することである。一般的には異常検知の手法として用いられている。変化点検知を目的とした時系列解析手法は過去に提案されており、例えば「k-近傍法」、「特異スペクトル変換法」、「Changefinder法」、「ツール名「Prophet」による手法」などがある。本実施形態では、漏気音の鳴り始める時刻を検知できればよく、変化点検知の手法は特に限定されない。例えば、各帯域の「100ms」ごとの騒音レベルを時系列データとして扱い、最初の変化点検知を行う。
【0023】
以上のように、実施形態に係る漏気検知システム100で実現される漏気検知方法は、空気の温度調整を必要としないので、空調機が設置される前でも実施可能である。その為、検査を実施可能な時期が限定され難い。また、第1室内音と第2室内音の対比によって漏気音の有無が明確となる。その為、サーモグラフィー画像での判定のように技巧・技量を要せずとも判断が可能である。
【0024】
<検証実験>
実施形態に係る漏気検知システム100の効果を検証するための実験について説明する。最初に、図6を参照して(適宜、図1ないし図5を参照)、検証実験を行った環境について説明する。図6は、検証実験を行った環境を説明するための図である。
図6に示すように、大室Q1と、大室Q1に隣接する小室Q2と、小室Q2の前室Q3とを用いて実験を行った。大室Q1は、人工気象室(温度などを変えられる実験室)である。大室Q1は、気密性のある構造になっており、出入り口の扉R1を閉めた状態で大室Q1の内外で空気の流れはなくなる。本検証実験では、大室Q1と小室Q2との境界にある壁R2に設けられた取外し可能なパネルR3を緩めることで、壁R2とパネルR3との間に狭隘な隙間を作っている。
漏気検知システム100の音源探査システム1は、大室Q1に設置されており、圧力差発生部2としての小型ファンは、扉R1がある出入口を封鎖した仮設の部材に設置されている。圧力差発生部2を稼働させることで、大室Q1内の空気が外部に送り出され、大室Q1の気圧は小室Q2の気圧(大気圧)に対して「100Pa」だけ低くなった。これにより、壁R2とパネルR3との間の隙間を介して、小室Q2内の空気が符号Pで示すように大室Q1に流れ込んだ。つまり、大室Q1と小室Q2との間に人工的に漏気を発生させ、漏気音が鳴る環境を作り出した。なお、大室Q1内の温度は「25℃」であり、小室Q2の温度は「30℃」であった。
【0025】
図7を参照して、検証実験で収録した暗騒音(第1室内音)および漏気音を含む室内音(第2室内音)について説明する。図7は、検証実験で収録した暗騒音(第1室内音)および漏気音を含む室内音(第2室内音)の1/3オクターブ音圧レベルを示すグラフである。第1室内音と第2室内音との差の閾値として「10dB」を設定した場合、図7の破線の領域で示すように、「250Hz」、「1600Hz」、「2000Hz」の帯域が特定された。
図8ないし図11を参照して、検証実験での解析時間帯の判定について説明する。実証実験では、「250Hz」、「1600Hz」、「2000Hz」の帯域をそれぞれ通過させる対象周波数帯域フィルタを第2室内音に畳み込み、各帯域(「250Hz」、「1600Hz」、「2000Hz」の3種類)について「100ms」ごとの時系列騒音レベルを求めた(図8参照)。図8は、帯域毎(「250Hz」、「1600Hz」、「2000Hz」の3種類)の騒音レベルの時刻歴を示すグラフである。
【0026】
図8に示すように、帯域によって漏気音の鳴り始める時刻が異なる(音圧レベルが大きくなる時期が帯域毎に異なっている)。今回の検証実験では、特に「250Hz」と、「1600Hz」および「2000Hz」との違いを認識することができる。その為、反射音の影響を抑制するためには、帯域ごとに解析開始時刻を適切に設定する必要がある。今回の検証実験では、漏気音の鳴り始める時刻を、ツール名「Prophet」を用いて算出した。具体的には、各帯域の「100ms」ごとの騒音レベルを時系列データとして扱い、最初の変化点検知を行った。この時系列データの特徴は、非定常時系列信号ということである。時系列データの大まかな変化のトレンドを図8に矢印で示す。時系列で最初の変化点K1の時刻を検知することが目的となる。
帯域ごとの変化点検知の結果を図9ないし図11に示す。図9は、「250Hz」の帯域での変化点検知の結果であり、図10は、「1600Hz」の帯域での変化点検知の結果であり、図11は、「2000Hz」の帯域での変化点検知の結果である。図9ないし図11での黒い点は、実際のデータを示しており、線グラフ(実線)はこれらのデータに基づいて描いたものである。図9ないし図11における紙面縦方向の破線は、変化点検知によって算出された変化点Kを示しており、これらの変化点Kのうち、時系列で最初の変化点K1を解析開始時刻に設定する。
【0027】
検証実験における全天球画像にMUSICスペクトルのコンター図を重ねた合成画像のイメージを図12に示す。図12では、漏気音の発生箇所Eである取外し可能なパネルR3(図6参照)が全天球画像の中央に映っており、MUSICスペクトルを示すハッチングの領域が発生箇所Eに重なっている。つまり、漏気検知システム100により漏気箇所の特定に成功したと言える。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
例えば、実施形態では複数のマイクロホンMから第2室内音の信号を受け付け、MUSICアルゴリズムにより漏気音の到来方向を推定していた。しかしながら、MUSICアルゴリズム以外の手法によって漏気音の位置を推定することもできる。
なお、漏気箇所が複数ありそれぞれで異なる漏気音が鳴っている場合でも、漏気検知システム100は複数の漏気箇所をそれぞれ特定することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 音源探査システム
2 圧力差発生部
3 マイクロホンアレイ
4 A/D変換器
5 信号処理部(漏気判定部)
6 画像処理部
7 全天球カメラ(撮影部)
8 表示部
51 漏気音成分特定部
52 解析時間帯判定部
53 漏気音源推定部
61 全天球画像補正部
62 画像合成部
100 漏気検知システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12