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特開2023-113285エポキシ樹脂組成物、繊維強化樹脂およびプリプレグ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113285
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、繊維強化樹脂およびプリプレグ
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/02 20060101AFI20230808BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C08G59/02
C08J5/24 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015528
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】武田 一朗
(72)【発明者】
【氏名】坂田 宏明
【テーマコード(参考)】
4F072
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AD31
4F072AE01
4F072AF14
4F072AF19
4F072AF28
4F072AG03
4F072AH04
4F072AJ22
4F072AL02
4F072AL11
4F072AL16
4J036AA01
4J036AH02
4J036AH07
4J036CA25
4J036CB04
4J036CB09
4J036CB11
4J036CB12
4J036CB26
4J036CC01
4J036DA01
4J036DB15
4J036DC09
4J036DC10
4J036DC19
4J036DC31
4J036DC40
4J036FB01
4J036FB07
4J036FB11
4J036FB15
4J036GA01
4J036HA12
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】本発明では、耐熱性、弾性率、強度に優れた樹脂組成物、およびその樹脂組成物が繊維基材に含浸されて成るプリプレグを提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明は、次の構成を有する樹脂組成物を提供する。
構成要素[A]、[B]および[C]を含むエポキシ樹脂組成物。
[A]一分子あたり平均で3個以上のエポキシ基を有する、アミノフェノール型エポキシ樹脂またはアニリン型エポキシ樹脂
[B]下式(I)で表されるエポキシ樹脂
【化1】
ここで、式(I)において、RおよびRは炭化水素であり、Xは、水酸基に加え、アミノ基、エステル基、スルフィド基またはヒドラジド基から選ばれる少なくともいずれか一つの官能基を有する。nは2または3で表される整数であり、mは1または2で表される整数であり、kは1または2で表される整数である。
[C]硬化剤
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成要素[A]、[B]および[C]を含むエポキシ樹脂組成物。
[A]一分子あたり平均で3個以上のエポキシ基を有する、アミノフェノール型エポキシ樹脂またはアニリン型エポキシ樹脂
[B]下式(I)で表されるエポキシ樹脂
【化1】
ここで、式(I)において、RおよびRは炭化水素であり、Xは、水酸基に加え、アミノ基、エステル基、スルフィド基またはヒドラジド基から選ばれる少なくともいずれか一つの官能基を有する。nは2または3で表される整数であり、mは1または2で表される整数であり、kは1または2で表される整数である。
[C]硬化剤
【請求項2】
構成要素[D]熱可塑性樹脂をさらに含む、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
式(I)のRは、下式群(II)から選択される骨格のいずれかである、請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化2】
ここで、Yはメチレン基、エーテル基またはスルフォニル基である。
【請求項4】
式(I)のRは、下式(III)から選択される骨格のいずれかである、請求項1-3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【化3】
ここで、Zは水素原子、炭化水素、あるいはヘテロ原子を有する置換基である。
【請求項5】
硬化物の曲げ弾性率が3.6GPa以上、曲げ強度が180MPa以上かつガラス転移温度が180℃以上である、請求項1-4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1-5のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物をマトリクスとした、繊維強化樹脂。
【請求項7】
請求項1-5のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物が繊維基材に含浸されてマトリクスとして成る、プリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性および機械特性に優れた複合材料を与えるエポキシ樹脂組成物、およびそのエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化樹脂およびプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機構造部材、風車の羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体などのコンピュータ用途等の高い構造性能を求められる製品には、繊維基材にエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させて作製されるプリプレグが用いられることが多い。特に、航空機分野においてはその多くの構造部材にエポキシ樹脂を用いた炭素繊維複合材料が採用されている。その一方で、航空機構造部材に対する要求性能は年々高まっており、その要求のすべてを満たすことが困難になっている。複合材料に要求される主要特性は耐熱性と圧縮強度、引張強度などの強度物性であり、一定以上の耐熱性を有しつつも高い強度物性が発現する複合材料が求められている。これら物性を満たすためには、複合材料を与える樹脂組成物は、その硬化物のガラス転移温度を一定以上としつつ、弾性率と強度を高いレベルで両立する必要がある。特許文献1では耐熱性および強度に優れた複合材料与えるエポキシ樹脂として、多官能エポキシ樹脂およびナフトールグリシジルエーテル類を使用したエポキシ樹脂組成物を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-242585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された樹脂組成物ではガラス転移温度が180℃以上と高い値を示したものの、弾性率および強度については大きな改善には至っていない。
【0005】
そこで本発明では、ガラス転移温度、弾性率、強度に優れた樹脂組成物、その樹脂組成物を用いた繊維強化樹脂およびその樹脂組成物が繊維基材に含浸されて成るプリプレグを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、次の構成を有する樹脂組成物を提供する。
【0007】
構成要素[A]、[B]および[C]を含むエポキシ樹脂組成物。
[A]一分子あたり平均で3個以上のエポキシ基を有する、アミノフェノール型エポキシ樹脂またはアニリン型エポキシ樹脂
[B]下式(I)で表されるエポキシ樹脂
【0008】
【化1】
【0009】
ここで、式(I)において、RおよびRは炭化水素であり、Xは、水酸基に加え、アミノ基、エステル基、スルフィド基またはヒドラジド基から選ばれる少なくともいずれか一つの官能基を有する。nは2または3で表される整数であり、mは1または2で表される整数であり、kは1または2で表される整数である。
[C]硬化剤
【発明の効果】
【0010】
本発明により、樹脂硬化物の耐熱性、強度および弾性率に優れた樹脂組成物を提供することができる。本発明の樹脂組成物を繊維基材と共に用いてなる繊維強化樹脂およびプリプレグは、上記同様に耐熱性および強度に優れる等の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物における各構成要素について詳細を述べる。なお、本発明において、「芳香族」とは、芳香族炭化水素や共役不飽和複素環式化合物を化学構造中に含むものである。また、ある物性・特性について、必須の範囲、好ましい範囲等が複数の数値範囲で示される場合に、同複数の範囲におけるいずれかの上限値と、いずれかの下限値を組み合わせたものも好ましい範囲とする(例えば、下記するエポキシ樹脂あるいはその混合物のエポキシ当量の好ましい範囲として、90-200g/eqがありえる)。
【0012】
「構成要素[A]」
構成要素[A]は少なくとも3個のエポキシ基を有する、アミノフェノール型エポキシ樹脂またはアニリン型エポキシ樹脂である。エポキシ樹脂の具体例として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(別名:4,4’-メチレンビス[N,N-ビス(オキシラニルメチル)アニリン])、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールや、これらのハロゲン、アルキル置換体、水添品などが挙げられる。
【0013】
樹脂硬化物の耐熱性、強度および弾性率の観点から、構成要素[A]の平均のエポキシ当量は90-300g/eqであることが好ましい。さらに好ましくは、100-200g/eqである。上記平均のエポキシ当量は次式(1)より求められる。
【0014】
【数1】
【0015】
上記平均のエポキシ当量が300g/eq以下である場合、樹脂硬化物の架橋密度が低くなり過ぎず、耐熱性および弾性率に優れるため好ましい。また、この平均のエポキシ当量が90g/eq以上である場合、樹脂硬化物の架橋密度が高くなりすぎず、強度に優れるため好ましい。樹脂硬化物の耐熱性および弾性率の観点から、構成要素[A]の一分子あたりの平均のエポキシ基の数は3個以上である。上記一分子あたりの平均のエポキシ基の数が3個以上である場合、樹脂硬化物の架橋密度が低くなり過ぎず、耐熱性および弾性率に優れるため好ましい。また、一分子あたりの平均のエポキシ基の数が6個以下である場合、樹脂硬化物の架橋密度が高くなり過ぎず、強度に優れるため好ましい。上記エポキシ樹脂は、本発明で特に限定されない。
【0016】
上記エポキシ樹脂は市販品を用いることができる。例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンとしては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM-434、ELM-434L、ELM-434VL(住友化学工業(株)製)、YH434L(東都化成(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY720、MY721(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製)、トリグリシジルアミノフェノールまたはトリグリシジルアミノクレゾールとしては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100、ELM120(住友化学工業(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製)、“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
【0017】
「構成要素[B]」
構成要素[B]は、下式(I)で表されるエポキシ樹脂である。
【0018】
【化2】
【0019】
ここで、RおよびRは炭化水素であり、Xは水酸基に加え、アミノ基、エステル基、スルフィド基またはヒドラジド基から選ばれる少なくともいずれか一つを有する構造である。式(I)中のnは2または3で表される整数であり、mは1または2で表される整数であり、kは1または2で表される整数である。nが2以上である場合、樹脂硬化物の架橋密度が低くなり過ぎず、耐熱性および弾性率に優れるため好ましい。また、nが3以下である場合、樹脂硬化物の架橋密度が高くなりすぎず、強度に優れるため好ましい。mが1以上である場合、樹脂硬化物の架橋密度が高くなりすぎず、強度に優れるため好ましい。また、mが2以下である場合、樹脂硬化物の架橋密度が低くなり過ぎず、耐熱性および弾性率に優れるため好ましい。kが1以上である場合、樹脂硬化物の架橋密度が低くなり過ぎず、耐熱性および弾性率に優れるため好ましい。また、kが2以下である場合、樹脂硬化物の架橋密度が高くなりすぎず、強度に優れるため好ましい。樹脂硬化物の耐熱性、弾性率、強度の観点から、上式(I)のRはヘテロ原子と直接結合した芳香族環を含むことが好ましく、Rはアミノ基、エステル基、スルフィド基またはヒドラジド基のいずれかと直接結合した芳香族環を含むことが好ましい。具体的な構造としては、Rが下式群(II)から選択される骨格のいずれかであり、Rが下式(III)から選択される骨格のいずれかであることが好ましい。
【0020】
【化3】
【0021】
【化4】
【0022】
ここで、式群(II)における骨格に含まれるYはメチレン基、エーテル基、スルフィド基またはスルフォニル基であり、式(III)におけるZは水素原子、炭化水素、あるいはヘテロ原子を有する置換基である。
【0023】
構成要素[B]は、特定のエポキシ樹脂と単官能反応剤を反応させることによって得られる。エポキシ樹脂として用いられる化合物は構成要素[A]に準じ、ここから選定される。単官能反応剤とは、エポキシ基と0-200℃の温度範囲で反応し化学結合を形成し得る官能基を化学構造内に一つ有する化合物を指す。エポキシ基と反応し得る化合物として、カルボン酸、アミン、チオール、ヒドラジドなどが挙げられる。単官能反応剤の使用は、樹脂硬化物の弾性率および強度の観点から好ましい。以下、上述した代表的な単官能反応剤について述べる。
【0024】
・カルボン酸
芳香族環を有する単官能カルボン酸であり、下式(IV)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
【0025】
【化5】
【0026】
ここで、式(IV)に含まれるZは水素原子、炭化水素、あるいはヘテロ原子を有する置換基である。カルボン酸の具体例として、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、p-アニス酸、m-アニス酸、o-アニス酸、4-ニトロ安息香酸、3-ニトロ安息香酸、2-ニトロアニリン安息香酸、4-シアノ安息香酸、3-シアノ安息香酸、2-シアノ安息香酸、4-アセチル安息香酸、3-アセチル安息香酸、2-アセチル安息香酸、4-ベンゾイル安息香酸、3-ベンゾイル安息香酸、2-ベンゾイル安息香酸、4-(メチルスルフォニル)安息香酸などが挙げられる。
【0027】
上記カルボン酸は市販品を用いることができる。例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、p-アニス酸、m-アニス酸、o-アニス酸、4-ニトロ安息香酸、3-ニトロ安息香酸、2-ニトロアニリン安息香酸、4-シアノ安息香酸、3-シアノ安息香酸、4-アセチル安息香酸、4-ベンゾイル安息香酸、4-(メチルスルフォニル)安息香酸(東京化成工業(株)製)、2-シアノ安息香酸(シグマ-アルドリッチ(株)製)などが挙げられる。
【0028】
・アミン
芳香族環を有する単官能アミンであり、下式(V)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
【0029】
【化6】
【0030】
ここで、式(V)に含まれるZは水素原子、炭化水素、あるいはヘテロ原子を有する置換基である。アミンの具体例として、4-アミノフェノール、3-アミノフェノール、2-アミノフェノール、p-アニシジン、m-アニシジン、o-アニシジン、4-ニトロアニリン、3-ニトロアニリン、2-ニトロアニリン、4-アミノベンゾニトリル、3-アミノベンゾニトリル、2-アミノベンゾニトリル、4-アミノアセトフェノン、3-アミノアセトフェノン、2-アミノアセトフェノン、4-アミノベンゾフェノン、3-アミノベンゾフェノン、2-アミノベンゾフェノン、4-(メチルスルフォニル)アニリン、3-アミノ-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホンなどが挙げられる。
【0031】
上記アミンは市販品を用いることができる。例えば、4-アミノフェノール、3-アミノフェノール、2-アミノフェノール、p-アニシジン、m-アニシジン、o-アニシジン、4-ニトロアニリン、3-ニトロアニリン、2-ニトロアニリン、4-アミノベンゾニトリル、3-アミノベンゾニトリル、2-アミノベンゾニトリル、4-アミノアセトフェノン、3-アミノアセトフェノン、2-アミノアセトフェノン、4-アミノベンゾフェノン、3-アミノベンゾフェノン、2-アミノベンゾフェノン、4-(メチルスルフォニル)アニリン、3-アミノ-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホン(いずれも東京化成工業(株)製)などが挙げられる。
【0032】
・チオール
芳香族環を有する単官能チオールであり、下式(VI)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
【0033】
【化7】
【0034】
ここで、式(VI)に含まれるZは水素原子、炭化水素、あるいはヘテロ原子を有する置換基である。チオールの具体例として、チオフェノール、4-ニトロチオフェノール、4-メトキシチオフェノール、4-ヒドロキシチオフェノールなどが挙げられる。
【0035】
上記チオールは市販品を用いることができる。例えば、チオフェノール、4-ニトロチオフェノール、4-メトキシチオフェノール、4-ヒドロキシチオフェノール(いずれもシグマ-アルドリッチ(株)製)などが挙げられる。
【0036】
・ヒドラジド
芳香族環を有する単官能ヒドラジドであり、下式群(VII)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
【0037】
【化8】
【0038】
ここで、式(VII)に含まれるZは水素原子、炭化水素、あるいはヘテロ原子を有する置換基である。ヒドラジドの具体例として、ベンゾイルヒドラジン、4-メチルベンゾヒドラジド、4-ヒドロキシベンゾヒドラジド、3-ヒドロキシベンゾヒドラジド、2-ヒドロキシベンゾヒドラジド、4-メトキシベンゾヒドラジド、3-メトキシベンゾヒドラジド、4-ニトロベンゾヒドラジド、3-ニトロベンゾヒドラジド、2-ニトロベンゾヒドラジド、N-アミノフタルイミドなどが挙げられる。
【0039】
上記ヒドラジドは市販品を用いることができる。例えば、ベンゾイルヒドラジン、4-メチルベンゾヒドラジド、4-ヒドロキシベンゾヒドラジド、3-ヒドロキシベンゾヒドラジド、2-ヒドロキシベンゾヒドラジド、4-メトキシベンゾヒドラジド、3-メトキシベンゾヒドラジド、4-ニトロベンゾヒドラジド、3-ニトロベンゾヒドラジド、2-ニトロベンゾヒドラジド、N-アミノフタルイミド(いずれも東京化成工業(株)製)などが挙げられる。
【0040】
エポキシ樹脂および単官能反応剤の反応の組み合わせは、構成要素[B]が生成されるのであれば、本発明で特に限定されない。なお、式(I)で表されるエポキシ樹脂を生成するにあたって、構成要素[A]および[B]の合計を100質量部とした場合、単官能反応剤は5-50質量部であることが樹脂硬化物の耐熱性、弾性率および強度の観点から好ましい。より好ましくは、10-30質量部である。上記反応は加熱による反応が好ましく、反応に触媒を用いても良い。上記反応としては、エポキシ樹脂と単官能反応剤を0-200℃で1-12時間攪拌するが好ましく、より好ましくは80-150℃、1-5時間の攪拌である。上記反応は、硬化剤の存在しない系にて、予備反応として行う方法が好ましく用いられ、構成要素[A]と構成要素[B]を含む予備反応の反応生成物に、硬化剤等を加えて、エポキシ樹脂組成物を得ることが可能である。
【0041】
上記の通り、エポキシ樹脂および単官能反応剤の反応には触媒を用いても良く、その量は反応に使用するエポキシ樹脂および単官能反応剤の合計を100質量部としたとき0.1-10質量部であることが好ましい。触媒の種類は、特に限定されず、三級アミン、イミダゾール類、有機リン化合物等が挙げられる。上記触媒は市販品を用いることができる。例えば、“カオーライザー(登録商標)”No.20(花王(株)製)、キュアゾール1.2DMZ、C11Z、C17Z(四国化成(株)製)、TPP-MK、TPP-S、TPP-EB、TPP-PB(北興化学工業(株))などが挙げられる。
【0042】
「構成要素[C]」
本発明のエポキシ樹脂組成物は、構成要素[C]として硬化剤を含有する。構成要素[C]の硬化剤の種類は、上述の[B]の合成に用いられる単官能反応剤以外であってエポキシ樹脂を硬化せしめる化合物であれば特に限定されず、芳香族アミン系硬化剤、脂環式アミン系硬化剤、脂肪族アミン系硬化剤、ジシアンジアミド、イミダゾール類、カチオン硬化剤、酸無水物、ハロゲン化ホウ素アミン錯体等が挙げられる。これは、上述した単官能反応剤とエポキシ樹脂との反応を促進する触媒を含んでよい。樹脂硬化物の耐熱性、弾性率および強度の観点から二官能以上の芳香族アミン系硬化剤またはジシアンジアミドを用いることが好ましい。
【0043】
上記硬化剤は市販品を用いることができる。例えば、芳香族アミン系硬化剤においてはSEIKACURE-S(セイカ(株)製)、脂環式アミン系硬化剤においては“VESTAMIN(登録商標)”PACM(エボニック・ジャパン(株)製)、脂肪族アミン系硬化剤においては“JEFFAMINE(登録商標)”D-400(HUNTSMAN製)、ジシアンジアミドにおいては“jERキュア(登録商標)”DICY7、DICY15(三菱ケミカル(株)製)、イミダゾール類においてはキュアゾール1.2DMZ、C11Z、C17Z(四国化成(株)製)、カチオン硬化開始剤においては“アデカオプトン(登録商標)”CP-77、“アデカオプトン(登録商標)”CP-66((株)ADEKA製)、CI-2639、CI-2624(日本曹達)、“サンエイド(登録商標)”SI-60、“サンエイド(登録商標)”SI-80、“サンエイド(登録商標)”SI-100、“サンエイド(登録商標)”SI-150、“サンエイド(登録商標)”SI-B4、“サンエイド(登録商標)”SI-B5(三新化学工業(株)製)、TA-100、IK-1PC(80)(サンアプロ株式会社)、酸無水物においては“リカシッド(登録商標)”(新日本理化(株)製)、ハロゲン化ホウ素アミン錯体においては三フッ化ホウ素モノエチルアミン、三フッ化ホウ素ピペリジン(ステラケミファ(株)製)などが挙げられる。
【0044】
芳香族アミン系硬化剤、脂環式アミン系硬化剤、脂肪族アミン系硬化剤またはジシアンジアミドの好ましい配合量は、エポキシ樹脂組成物に配合される全てのエポキシ樹脂に由来するエポキシ基のモル数に対し、芳香族アミン系硬化剤の活性水素のモル数が0.6-1.2倍となる配合量であることが、良好な機械物性を発現する硬化物が得られる点から好ましい。さらに0.7-1.0倍であると耐熱性に優れるのでさらに好ましい。
【0045】
「構成要素[D]」
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、上記構成要素[A]~[C]の他に、さらに構成要素[D]として熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂を例示すると、ポリエーテルスルフォン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルブチラール、それ以外ではポリ酢酸ビニル、水添ビスフェノールA・ペンタエリストールホスファイトポリマー、水添テルペン、水添テルペンフェノールなどを挙げることができる。樹脂硬化物の耐熱性、弾性率および強度の観点から芳香族環を有する熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0046】
上記の中で、特に、エポキシ樹脂への溶解性が高いポリエーテルスルフォンは、エポキシ樹脂組成物の粘度調整が容易である点で好ましい。
【0047】
また、樹脂フィルム化の容易性および樹脂フィルムを繊維基材に含浸して作製したプリプレグのタック性の観点から、これらの熱可塑性樹脂の数平均分子量は10000-100000g/molであることが好ましい。より好ましくは10000-50000g/molである。熱可塑性樹脂の数平均分子量が100000g/molを超える場合、熱可塑性樹脂の添加量当たりのエポキシ樹脂組成物の粘度上昇が大きくなることがあるため、樹脂フィルム化の容易性とタック調整の観点から添加量を少なくすることが要求されるが、熱可塑性樹脂の添加量が低下するほど樹脂硬化物の曲げ破断歪の低下がみられることがある。一方、熱可塑性樹脂の数平均分子量が10000g/molに満たない場合、熱可塑性樹脂の添加量当たりのエポキシ樹脂組成物の粘度上昇が小さくなることがあるため、フィルムのタックが過剰となり、また樹脂硬化物の弾性率の低下がみられることがある。熱可塑性樹脂の数平均分子量が10000-100000g/molである場合、樹脂組成物のフィルム化の容易性および適切なタック、樹脂硬化物の破断歪および弾性率の適切なバランスが提供される。ここでの数平均分子量とは、ゲル浸透クロマグラフィーによるポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。
【0048】
上記熱可塑性樹脂は市販品を用いることができる。例えば、“スミカエクセル(登録商標)”5003P、5003PS、5900P、5400P、5200P、4800P、4100P、3600P(住友化学工業(株)製)、PET、PBT((株)KDA製)、“J-POVAL(登録商標)”JC-25、JM-17、JP-03(日本酢ビ・ポバール(株)製)、“エスレック(登録商標)”BX-L、KS-1、KS-10(積水化学工業(株)製)、“ウルトラセン(登録商標)”515、530(東ソー(株)製)、“JPH-3800”(城北化学工業(株)製)、“YSポリスターUH130”(ヤスハラケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0049】
上記熱可塑性樹脂の配合量は、構成要素[A]および[B]を合わせて100質量部とした場合、1-50質量部であることが、樹脂フィルム化の容易性および樹脂フィルムを繊維基材に含浸し作製したプリプレグのタック性の観点から好ましい。より好ましくは、5-20質量部である。
【0050】
「その他添加剤」
本発明におけるエポキシ樹脂組成物は必要に応じて、ゴム、無機粒子、チキソトロープ剤、難燃剤、光安定剤、酸化防止剤、脱泡剤などの任意の添加材を含むことができる。
【0051】
ゴムの例としては天然ゴム、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴムなどを挙げることができる。ジエン系ゴムの例としてはスチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴムなどが挙げられる。非ジエン系ゴムの例としてはブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。ゴムの形状としては特にパウダー状であればエポキシ樹脂組成物中での分散性に優れるため好ましい。
【0052】
これら添加剤の配合量は、本発明の樹脂組成物の本来の性質を損なわない範囲の量、すなわち構成要素[A]および[B]を合わせて100質量部とした場合、50質量部以下が好ましい。
【0053】
「繊維強化樹脂」
本発明におけるエポキシ樹脂は、繊維基材に含浸しマトリクスとすることで、繊維強化樹脂として用いることができる。繊維基材に用いられる繊維の例としては、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、高強度ポリエチレン繊維、タングステンカーバイド繊維、PBO繊維、ガラス繊維などが挙げられ、これらを単独で、または2種以上を組合せて用いてもかまわない。繊維は連続繊維で一方向に引き揃えられていてもよいし、織物や編物のように布帛基材としてもよい。不連続繊維が集積したマット、不織布でもかまわない。本発明の繊維強化樹脂は繊維目付けに特段の制限はない。
【0054】
「プリプレグ」
本発明におけるエポキシ樹脂組成物は、繊維基材に含浸させ、プリプレグとして用いることができる。
【0055】
プリプレグにおける繊維基材に用いられる繊維の例は、上記した繊維強化樹脂に用いられる繊維と同じである。本発明のプリプレグは繊維目付けに特段の制限はない。
【0056】
「硬化特性」
提供されるエポキシ樹脂組成物およびその樹脂組成物からなるプリプレグは、保存安定性の観点から、後述の示唆走査熱量(DSC)測定において測定される硬化発熱ピーク温度が100-250℃であることが好ましい。より好ましくは、150-220℃である。
【0057】
「曲げ弾性率」
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、硬化物の曲げ弾性率が3.6GPa以上であることが、航空機構造部材に使用する複合材料に求められる圧縮強度の観点から好ましい。さらに好ましくは4.0GPa以上である。曲げ弾性率の好ましい上限は特にないが、6.0GPaを超える構造とする場合、他物性への影響が大きくなるため6.0GPa以下が好ましい。
【0058】
曲げ弾性率は、エポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、昇温速度2℃/分で昇温し、180℃で120分保持して硬化させることにより得られる厚さ2mm、幅10mmの樹脂硬化板について、JIS-K7171(1994)に従い、支点間距離32mm、弾性率取得荷重範囲5-30Nでの三点曲げを実施し、測定される数値であり、測定数6の平均値を求める。詳細な例は後述の実施例のとおりである。
【0059】
「曲げ強度」
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、硬化物の強度が180MPa以上であることが、航空機構造部材の樹脂由来の損傷を抑制できる観点から好ましい。曲げ強度の好ましい上限は特にないが、300MPaを超える構造とする場合、他物性への影響が大きくなるため300MPa以下が好ましい。
【0060】
曲げ強度は、エポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、昇温速度2℃/分で昇温し、180℃で120分保持して硬化させることにより得られる厚さ2mmの樹脂硬化板について、JIS-K7171(1994)に従い、支点間距離32mmの三点曲げを実施し、測定される数値であり、測定数6の平均値を求める。詳細な例は後述の実施例のとおりである。
【0061】
「ガラス転移温度」
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、硬化物のガラス転移温度(以下、Tg)が180℃以上であることが、航空機構造部材に使用する複合材料に求められる耐熱性の観点から好ましい。ガラス転移温度の好ましい上限は特にないが、300℃を超える構造とする場合、他物性への影響が大きくなるため300℃以下が好ましい。
【0062】
ガラス転移温度は、エポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、昇温速度2℃/分で昇温し、180℃で120分保持して硬化させることにより得られる厚さ2mmの樹脂硬化板について、動的粘弾性測定装置を用いて周波数1.0Hz、昇温速度5℃/分で0℃から280℃まで昇温した際に測定され、貯蔵弾性率と損失弾性率より求められる損失正接が最大となった温度をガラス転移温度とする。詳細な例は後述の実施例のとおりである。
【実施例0063】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。また、各種特性の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0064】
<実施例および比較例で用いた材料>
(1)エポキシ樹脂
・テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(“スミエポキシ(登録商標)”ELM-434VL、住友化学工業(株)製)エポキシ当量:115(g/eq)、四官能
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER(登録商標)”825、三菱ケミカル(株)製)エポキシ当量:170-180(g/eq)、二官能
(2)単官能カルボン酸
・p-アニス酸(東京化成工業(株)製)活性水素当量:76(g/eq)
(3)単官能アミン
・4-アミノフェノール(東京化成工業(株)製)活性水素当量:55(g/eq)
(4)単官能チオール
・4-ニトロベンゼンチオール(東京化成工業(株)製)活性水素当量:155(g/eq)
(5)単官能ヒドラジド
・ベンゾイルヒドラジン(東京化成工業(株)製)活性水素当量:68(g/eq)
・N-アミノフタルイミド(東京化成工業(株)製)活性水素当量:81(g/eq)
(6)硬化剤
・4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン(SEIKACURE-S、セイカ(株)製)活性水素当量:62(g/eq)
【0065】
〔実施例1-10、比較例1-3〕
以下の手順でエポキシ樹脂組成物を調製し、これを用いて弾性率、強度等を評価した。表1には、予備反応させたエポキシ樹脂と単官能反応剤の種類、および予備反応による反応生成物(構成要素[A]および[B])を示す。式群(VIII)には実施例1-10で得られたそれぞれの構成要素[B]の化学構造を示す。また、エポキシ樹脂組成物の組成および測定(評価)結果を表2に示す。なお、比較例1-3では予備反応を行わなかった。
【0066】
<構成要素[A]および[B]の混合物の調製(実施例1-10)>
エポキシ樹脂に対して表1に記載の単官能反応剤および触媒を添加し、100-200℃にて加熱混合することで構成要素[A]および[B]の混合物を得た。なお、生成物中の[B]について、HPLC測定によって単官能反応剤が全量消費されたことを確認し、生成した反応物をH NMR測定により分析することで、式(I)に記載の構造であることを確認した。HPLC測定によって、構成要素[A]および[B]の比率を求めた。
【0067】
<エポキシ樹脂組成物の調製(実施例1-10、比較例1-3)>
<構成要素[A]および[B]の混合物の調製(実施例1-10)>で得られた構成要素[A]および[B]の混合物、または上記(1)に示すエポキシ樹脂を60-80℃の温度にした後、硬化剤を添加し混合することで均一に分散させ、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0068】
<エポキシ樹脂組成物の発熱ピーク温度の測定方法>
示差走査熱量計(DSC Q2500:TAインスツルメント社製)を用いて、窒素雰囲気中で5℃/分の昇温速度にて、上述の<エポキシ樹脂組成物の調製>にて得られたエポキシ樹脂組成物の発熱曲線を得た。得られた発熱曲線中で、発熱量が100mW/g以上である発熱ピークの頂点の温度を、本発明におけるDSCの発熱ピーク温度として算出した。発熱量が100mW/g以上である発熱ピークが2つ以上ある場合は、低温側のピークの頂点の温度を、上記発熱ピーク温度として算出した(表2)。
【0069】
<樹脂硬化板の作製>
上述の<エポキシ樹脂組成物の調製>にて得られたエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、厚さ2mmのポリテトラフルオロエチレン製のスペーサーと共にアルミニウム板で挟んで、昇温速度2℃/分で昇温し、180℃で120分保持して硬化させることにより、厚さ2mmの樹脂硬化板を得た。
【0070】
<樹脂硬化物の曲げ試験>
上述の<樹脂硬化板の作製>にて得られた厚み2mmのエポキシ樹脂硬化物を幅10±0.1mm、長さ60±1mmにカットし、試験片を得た。インストロン万能試験機(インストロン製)を用いJIS-K7171(1994)に従い、支点間距離32mm、弾性率取得荷重範囲5-30Nでの三点曲げを実施し、弾性率と強度(測定時発生した最大応力)を評価した。測定数は6とし、その平均値を求めた(表2)。実施例1-10において曲げ弾性率は3.6GPa以上であり、曲げ強度は180MPa以上であった。一方で、構成要素[B]を添加していない比較例1-3の樹脂硬化物の曲げ弾性率および曲げ強度は、上記範囲に未達であった。また、試験を行った範囲内では、構成要素[B]の添加量が多いほど曲げ弾性率および曲げ強度が高くなる傾向が示された。
【0071】
<樹脂硬化物の動的粘弾性試験>
上述の<樹脂硬化板の作製>にて得られた厚み2mmのエポキシ樹脂硬化物を幅10±0.1mm、長さ60±1mmにカットし、試験片を得た。DMA Q800(ティーエイ・インスツルメント社製)を用いてまた、周波数1.0Hz、昇温速度5℃/分で0℃から280℃まで昇温して測定を実施し、貯蔵弾性率と損失弾性率より求められる損失正接が最大となった温度をガラス転移温度(Tg)とした(表2)。実施例1-10においてTgは180℃以上であった。一方で、構成要素[A]の一分子あたりのエポキシ基の数が2個以下である比較例3のTgは、180℃未満となり、未達であった。また、構成要素[B]の添加量が多いほどTgが低くなる傾向が示された。構成要素[B]を添加していない比較例1、2はTgが180℃以上であるものの、弾性率と強度は実施例1-10と比較して低い値であった。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【化9】