(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113286
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】内挿具および井戸管理方法
(51)【国際特許分類】
E21B 31/00 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
E21B31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015533
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高畑 陽
(57)【要約】
【課題】地下水の採取前に行うパージ量を減らすことができる内挿具および井戸管理方法を提供する。
【解決手段】地下水10を監視するための水質観測井戸9の内部に挿入される内挿具2であって、内挿具2内に地下水10が浸入しない構造になっており、水質観測井戸9に設置された状態で下端部が水質観測井戸9の底部に接触しないことを特徴とする。この内挿具2は、例えば棒体または中空の管状部4を閉塞した構造であってよい。内挿具2は、例えば地下水10に浮いた状態であり、水質観測井戸9の蓋部8に内挿具2の上端部が接触することで浮力による上方への移動が規制されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水を監視するための水質観測井戸の内部に挿入される内挿具であって、
前記内挿具内に前記地下水が浸入しない構造になっており、前記水質観測井戸に設置された状態で下端部が前記水質観測井戸の底部に接触しない、
ことを特徴とする内挿具。
【請求項2】
前記内挿具は、棒体または中空の管状部を閉塞した構造である、
ことを特徴とする請求項1に記載の内挿具。
【請求項3】
前記内挿具は、前記地下水に浮いた状態であり、
前記水質観測井戸の蓋部に前記内挿具の上端部が接触することで浮力による上方への移動が規制されている、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内挿具。
【請求項4】
地下水を監視するための水質観測井戸の井戸管理方法であって、
前記水質観測井戸を設置する井戸設置工程と、
前記水質観測井戸内に内挿具を設置する内挿具設置工程と、を有し、
前記内挿具は、前記地下水が浸入しない構造になっており、前記水質観測井戸に設置された状態で下端部が前記水質観測井戸の底部に接触していない、
ことを特徴とする井戸管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内挿具および井戸管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有害物質で汚染された地下水の状況を監視するために、水質観測井戸を設置することが行われている。水質観測井戸は、管壁にスクリーン(開口部)があり、管内に地下水を集めることが可能になっている。水質観測井戸の構築方法は、例えば特文献1,2に記載されており、水質観測井戸に溜まった地下水から試料を採水して汚染状況を確認する方法が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-274578号公報
【特許文献2】特開2016-056508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地下水の採水方法は、「土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン(https://www.env.go.jp/water/dojo/gl_ex-me/index.html)」の「Appendix-7.地下水試料採取方法」に詳述されている。このガイドラインには、地下水試料を採取する場合、「採水前のパージ」を行った後で地下水試料を採取するように記載されている。パージする揚水量は、「井戸内滞水量の3~5倍量を目安とする」と記載されており、例えば最も一般的な「VP50」の塩ビ管(内径51mm)の場合、地下水の滞水深度が「10m」とするとパージ量は水質観測井戸一本あたり「60L~100L」となる。パージ後の余剰水は適切に処理する必要があるとされているため、基本的には場内の水処理施設などで処理を行うが、そのような装置がない場所では採取した汚染地下水を処理可能な場所まで移動させる必要があり、手間と費用がかかる。そのため、パージ量はできるだけ少なくできることが望ましい。
このような観点から、本発明は、地下水の採取前に行うパージ量を減らすことができる内挿具および井戸管理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る内挿具は、地下水を監視するための水質観測井戸の内部に挿入される内挿具である。この内挿具は、前記地下水が浸入しない構造になっており、前記水質観測井戸に設置された状態で下端部が前記水質観測井戸の底部に接触しない。前記内挿具は、棒体または中空の管状部を閉塞した構造であってよい。
本発明に係る内挿具を水質観測井戸に挿入することで、地下水の採取前に行うパージ量を減らすことができる。その結果、パージ後の余剰水を処理する手間と費用を削減できる。また、内挿具の下端部が水質観測井戸の底部に接触しないので、内挿具を引き抜く際に水質観測井戸の底部に溜まる泥をまき上げ難くなり、地下水の採水に影響を与えることもない。
前記内挿具は、例えば前記地下水に浮いた状態であってよく、その場合、前記水質観測井戸の蓋部に前記内挿具の上端部が接触することで浮力による上方への移動を規制してもよい。このようにすると、内挿具を適切な位置で保つことができる。
また、本発明に係る井戸管理方法は、地下水を監視するための水質観測井戸を管理する方法である。この井戸管理方法は、前記水質観測井戸を設置する井戸設置工程と、前記水質観測井戸内に内挿具を設置する内挿具設置工程とを有する。この内挿具は、前記地下水が浸入しない構造になっており、前記水質観測井戸に設置された状態で下端部が前記水質観測井戸の底部に接触していない。
本発明に係る井戸管理方法では、地下水の採取前に行うパージ量を減らすことができる。その結果、パージ後の余剰水を処理する手間と費用を削減できる。また、内挿具を引き抜く際に水質観測井戸の底部に溜まる泥をまき上げ難くなるので、地下水の採水に影響を与えることもない。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、地下水の採取前に行うパージ量を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る内挿具を説明する図であり、(a)は水質観測井戸の断面図、(b)は水質観測井戸に内挿具を挿入した状態での断面図、(c)は水質観測井戸に蓋部を装着した状態での平面図、(d)は水質観測井戸に内挿具を挿入した状態(蓋部を取り除いた状態)での平面図である。
【
図2】塩化ビニル製の管(VP管)の規格を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
<実施形態に係る内挿具について>
図1を参照して、実施形態に係る内挿具2の構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る内挿具を説明する図であり、(a)は水質観測井戸の断面図、(b)は水質観測井戸に内挿具を挿入した状態での断面図、(c)は水質観測井戸に蓋部を装着した状態での平面図、(d)は水質観測井戸に内挿具を挿入した状態(蓋部を取り除いた状態)での平面図である。
図1(b)に示す内挿具2は、水質観測井戸9内に挿入する器具である。
図1(a)に示すように、水質観測井戸9は、帯水層の浄化状況を確認するためのものであり、内部に地下水10を集めることによって地下水10の監視を可能にする。水質観測井戸9の構造は限定されず、例えばスクリーン(開口部)が形成された管状の部材(井戸管)を、ボーリング孔に埋め込んだものであってよい。水質観測井戸9の底部には、例えば泥溜め部9aが設けられており、泥9bが堆積している。
【0009】
図1(b)に示すように、内挿具2は、中空の管状部4と、管状部4の内部に地下水10が浸入しないように管状部4を閉塞する閉塞部5とを備える。本実施形態では、閉塞部5によって管状部4の一端(内挿具2を水質観測井戸9に配置した状態で水質観測井戸9の底部に対向する側)を閉塞する。内挿具2を水質観測井戸9に配置した状態で水質観測井戸9の底部に対向する側を「下端」と称し、下端の反対側(地上に対応する側)を「上端」と称する。閉塞部5は、例えば管状部4のサイズに合ったキャップ等であり、管状部4に取り付けることで地下水10が管状部4内に入らないように閉じられる。なお、閉塞部5は、管状部4と一体となっていてもよく、また、形状は特に限定されない。閉塞部5は、例えば丸みを有する形状や先端が先細りになった形状であってもよい。このように、管状部4を閉塞する構造にすることで内挿具2内に地下水が入らず、内挿具2の体積に相当する量の地下水10を減らすことができる。なお、閉塞部5の位置は、管状部4の下端部に限定されない。
管状部4は、
図1(d)に示すように筒状を呈しており(本実施形態では円筒を想定)、水質観測井戸9の深さ(井戸管の長さ)と同程度の長さである。なお、内挿具2は、内部を中空とせず、棒体でもよい。管状部4および閉塞部5の材質は、井戸管として使用できる材質(例えば、塩化ビニル、ポリ塩化ビニル(PVC)及びステンレス(SUS)製)であることが望ましい。井戸管として使用できる材質については、例えば「土壌汚染対策法ガイドライン第1編:土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン(改訂第3版)の付録(Appendix-7. 地下水試料採取方法)」に記載がある。
【0010】
管状部4の材質は、地下水10に浮く材料であるのがよく、内挿具2を水質観測井戸9に挿入した際に浮力が生じる塩化ビニル、ポリ塩化ビニル製などが適している。つまり、内挿具2を水質観測井戸9に挿入した状態で、内挿具2の下端部が水質観測井戸9の底部に接触しないようにするのがよい。内挿具2を水質観測井戸9の底部に接触させない理由は、内挿具2を引き抜く際に泥をまき上げないようにするためである。泥がまき上がると、その後に実施する地下水10の採水に影響を与えてしまうが、内挿具2を水質観測井戸9の底部に接触させない構成とすれば、底部に溜まった泥をまき上げ難くなる。例えば、「管状部4の長さ=井戸管全長-泥溜め部9aの高さ」となるように管状部4の長さを調製し、管状部4が水質観測井戸9の底部に到達しないように、帯水層11において内挿具2が常に浮力を受ける状態にするのがよい。本実施形態では管状部4の下端部を閉塞部5で閉塞することで、浮力を最大限に得られるようになっている。また、内挿具2の下端部を水質観測井戸9の底部に接触させない為に、図示しない吊持手段によって内挿具2を上方から吊り下げたり、図示しない固定手段によって水質観測井戸9に内挿具2を固定してもよい。
【0011】
図1(d)に示すように、管状部4の外径は、水質観測井戸9の内径(井戸管の内径)より小さく、水質観測井戸9内に挿入でき、管状部4と水質観測井戸9との間をできるだけ小さくすることによりパージ量を減らすことができる。
図2に、塩化ビニル製(省略して「塩ビ管」と称する場合がある)の管(VP管)の規格を示す。例えば「VP50」の塩ビ管を井戸管として用いる場合、「VP40」の塩ビ管を管状部4として用いると管状部4と水質観測井戸9との間を最も小さくできるため好適である。しかしながら、この場合は3mmの余裕しかないため、水質観測井戸9の井戸長が大きくなると水質観測井戸9内で内挿具2の出し入れがスムーズに行えない虞がある。そのような場合には、水質観測井戸9の長さに応じて「VP40」ではなくパージ量は多くなるが管状部4の出し入れが容易な「VP30」の塩ビ管を管状部4として用いるのがよい。
管状部4は、長尺な一つの管状部材(例えば、塩ビ管)で構成されたものでもよいし、複数の管状部材を連結して構成されたものでもよい。例えば、水質観測井戸9が深く、管状部4の軸心方向の寸法が長くなる場合、複数の管状部材を連結させる必要がある。管状部材の連結箇所は下端部分と同様に地下水10が浸入しないように接着等を行うのがよい。この場合、ソケットを用いても良いし、接着受口付片受直管を用いても良い。また、管状部材の両端部をネジ加工して個々の管状部材をネジ接合で連結してもよい。管状部材の両端部をネジ加工した場合、必要に応じて連結を解除することができるので、例えば内挿具2の挿入や引き抜きに支障が生じた場合に連結を解除した状態で作業を行うことが可能になる。
なお、内挿具2が浮力により浮き上がり過ぎない工夫をしてもよい。例えば、内挿具2の挿入後に井戸管の管頭部(水質観測井戸9の入口)に蓋部8(
図1(b)参照)を設け、内挿具2の上端部が水質観測井戸9の入口より上方に出ないようにする。そうすることにより、浮力で上方に移動しようとする内挿具2が蓋部8の存在により移動が規制され、内挿具2は適切な位置に保たれる。
【0012】
<実施形態に係る内挿具を用いた井戸管理方法について>
図1を参照して、実施形態に係る内挿具2を用いた井戸管理方法について説明する。最初に、地盤に水質観測井戸9を設置する(井戸設置工程)。次に、水質観測井戸9の深さに合わせて管状部材(例えば、塩ビ管)を連結するなどして内挿具2を作製し、作成した内挿具2を水質観測井戸9に挿入して設置する(内挿具設置工程)。内挿具2の材質は地下水10に浮く材料であるので、水質観測井戸9に挿入された内挿具2は水質観測井戸9の底部に接触せずに浮いた状態となる。内挿具2を水質観測井戸9から取り外す場合には、管状部材を分解(管状部材の接続を解除)しながら順番に取り外してもよい。地下水10の採水を行う場合には、内挿具2を水質観測井戸9から取り外すと作業がしやすいのでよい。なお、内挿具2を設置したままで採水も可能である。例えば、水質観測井戸9の内径と内挿具2の外径に差を付ければ、水質観測井戸9と内挿具2との間の隙間にチューブ等を挿入することができポンプ等を用いて地下水を採水できる。
【0013】
図1(a)に示す水質観測井戸9を想定した場合、例えば地下水の採取前に、符号Vを付した領域の水量×約3倍のパージ(汚染地下水の排出)が必要となる。
水量Vは、「V=(π(D/2)
2)×H」である。ここで、「D」は、水質観測井戸9の内径であり、「H」は、帯水層11の深さ寸法である。
一方、
図1(b)に示すように、水質観測井戸9に内挿具2を挿入した場合のパージを想定する。この場合、内挿具2があることでパージの基準となる空間の水量は、「(π(d/2)
2)×H」だけ減ることになる。ここで、「d」は、内挿具2の外径であり、「H」は、帯水層11の深さ寸法である。その結果、最終的にパージが必要な水量も減少する。
以上のように、水質観測井戸9に内挿具2を挿入することで、地下水の採取前に行うパージ量を減らすことができる。その結果、パージ後の余剰水を処理する手間と費用を削減できる。また、内挿具2の下端部が水質観測井戸9の底部に接触しないので、内挿具2を引き抜く際に水質観測井戸9の底部に溜まる泥をまき上げ難くなり、地下水10の採水に影響を与えることもない。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
【0014】
2 内挿具
4 管状部
5 閉塞部
8 蓋部
9 水質観測井戸
10 地下水
11 帯水層