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特開2023-113331インターロックシステム、インターロック方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113331
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】インターロックシステム、インターロック方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 9/02 20060101AFI20230808BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20230808BHJP
   G21D 3/04 20060101ALI20230808BHJP
   G21C 17/10 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
G05B9/02 G
G05B23/02 T
G05B23/02 302P
G21D3/04 B
G21C17/10 700
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015610
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】浦上 貢輔
(72)【発明者】
【氏名】住田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 北斗
(72)【発明者】
【氏名】大槻 昇平
【テーマコード(参考)】
2G075
3C223
5H209
【Fターム(参考)】
2G075AA01
2G075CA39
2G075DA18
2G075FA07
2G075FB04
2G075FC05
3C223AA02
3C223AA03
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB07
3C223FF02
3C223FF12
3C223FF42
3C223FF52
3C223FF53
3C223GG01
5H209AA03
5H209BB18
5H209CC01
5H209CC03
5H209CC09
5H209CC13
5H209DD01
5H209DD04
5H209EE01
5H209EE11
5H209GG01
5H209GG04
5H209HH02
5H209HH04
5H209JJ03
5H209JJ05
(57)【要約】
【課題】運転員の判断に依存せずに、機器の異常を検知し、異常を緩和するシステムを提供する。
【解決手段】インターロックシステムは、機器の動作に伴う関連パラメータの変化に対して、機器を制御する制御信号の状態が矛盾している場合に、異常を検知する異常検知部と、意図した操作に伴う前記関連パラメータの変化に対して、正常と診断する正常診断部と、異常検知部で異常と検知され、且つ、正常診断部で正常の診断がなされない場合に、機器の動作を停止する停止部とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の動作に伴う関連パラメータの変化に対して、前記機器を制御する制御信号の状態が矛盾している場合に、異常を検知する異常検知部と、
意図した操作に伴う前記関連パラメータの変化に対して、正常と診断する正常診断部と、
前記異常検知部で異常と検知され、且つ、前記正常診断部で正常の診断がなされない場合に、前記機器の動作を停止する停止部と、
を有するインターロックシステム。
【請求項2】
前記異常検知部は、前記関連パラメータの変化率が閾値の範囲内となるべき前記制御信号に対して、前記変化率が前記閾値の範囲外となったときに、前記機器の異常を検知する、請求項1に記載のインターロックシステム。
【請求項3】
前記異常検知部は、前記関連パラメータの変化率を不完全微分によって求める、
請求項1または請求項2に記載のインターロックシステム。
【請求項4】
前記正常診断部では、前記意図した操作が行われてから所定時間が経過するまでは、前記関連パラメータの変化率が前記意図した操作によって生じる前記変化率の範囲内に収まる場合、正常と診断し、前記変化率が予め設定した設定値を下回ることにより、前記正常の診断を停止する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載のインターロックシステム。
【請求項5】
前記停止部は、前記異常検知部による異常の検知と前記正常診断部による正常の診断に関わらず、運転員の指示に基づいて、前記機器を停止する信号を出力する、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載のインターロックシステム。
【請求項6】
前記停止部は、前記異常検知部で異常と検知され、且つ、前記正常診断部で正常の診断がなされない場合に、運転員の指示に基づいて、前記機器の動作の停止を取りやめる、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載のインターロックシステム。
【請求項7】
前記機器は、原子炉の制御棒であり、前記関連パラメータは中性子束出力値の変化率であり、前記制御の信号は、制御棒制御用偏差信号である、
請求項1から請求項6の何れか1項に記載のインターロックシステム。
【請求項8】
前記異常検知部は異常を検知すると、インターロック信号を出力し、
前記正常診断部は、正常と診断すると、インターロックブロック信号を出力し、
前記停止部は、前記インターロック信号を受信し、前記インターロックブロック信号を受信しないときに前記機器の動作を停止する、
請求項1から請求項7の何れか1項に記載のインターロックシステム。
【請求項9】
機器の動作に伴う関連パラメータの変化に対して、前記機器を制御する制御信号の状態が矛盾している場合に、異常を検知するステップと、
意図した操作に伴う前記関連パラメータの変化に対して、正常と診断するステップと、
前記異常を検知するステップで異常と検知され、且つ、前記正常と診断するステップで正常の診断がなされない場合に、前記機器の動作を停止するステップと、
を有するインターロック方法。
【請求項10】
コンピュータに、
機器の動作に伴う関連パラメータの変化に対して、前記機器を制御する制御信号の状態が矛盾している場合に、異常を検知するステップと、
意図した操作に伴う前記関連パラメータの変化に対して、正常と診断するステップと、
前記異常を検知するステップで異常と検知され、且つ、前記正常と診断するステップで正常の診断がなされない場合に、前記機器の動作を停止するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機器のインターロックシステム、インターロック方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、定期点検の期間を短縮して原子力プラントの稼働率を向上させるために、運転の長サイクル化やOLM(On Line Maintenance:運転中保全)の導入に向けた検討が進んでいる。そのほかにも稼働率向上の観点からは、予定外の運転停止を回避することが重要である。現状の既設プラントを深層防護の観点から見ると、運転継続能力には改善の余地がある。過去の事例を分析すると、制御棒の動作が要因で原子炉トリップに至っている事例がみられる。現在、制御棒の動作に関して、正常と異常を判別し、異常の場合に緩和操作を行って制御棒の動作を正常化することは、運転員の判断に依存している。運転員の判断が原子炉トリップに至る原因となる場合がある。
【0003】
特許文献1には、制御棒位置制御回路から制御棒駆動指令が出力されていない状況において、制御棒の動作が検知された場合、電源供給装置の誤動作がその要因であると考えられることに対し、電源遮断器をOFF状態にすることによって制御棒を停止させることによって、電源供給装置が誤動作しても、原子炉への予期せぬ反応度投入操作を防止する制御が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-333494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
運転員の判断に依存せずに、機器の動作の異常を検知し、異常を緩和する制御が求められている。
【0006】
本開示は、上記課題を解決することができるインターロックシステム、インターロック方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態によれば、インターロックシステムは、機器の動作に伴う関連パラメータの変化に対して、前記機器を制御する制御信号の状態が矛盾している場合に、異常を検知する異常検知部と、意図した操作に伴う前記関連パラメータの変化に対して、正常と診断する正常診断部と、前記異常検知部で異常と検知され、且つ、前記正常診断部で正常の診断がなされない場合に、前記機器の動作を停止する停止部と、を有する。
【0008】
本開示の一実施形態によれば、インターロック方法は、機器の動作に伴う関連パラメータの変化に対して、前記機器を制御する制御信号の状態が矛盾している場合に、異常を検知するステップと、意図した操作に伴う前記関連パラメータの変化に対して、正常と診断するステップと、前記異常を検知するステップで異常と検知され、且つ、前記正常と診断するステップで正常の診断がなされない場合に、前記機器の動作を停止するステップと、を有する。
【0009】
本開示の一実施形態によれば、プログラムは、コンピュータに、機器の動作に伴う関連パラメータの変化に対して、前記機器を制御する制御信号の状態が矛盾している場合に、異常を検知するステップと、意図した操作に伴う前記関連パラメータの変化に対して、正常と診断するステップと、前記異常を検知するステップで異常と検知され、且つ、前記正常と診断するステップで正常の診断がなされない場合に、前記機器の動作を停止するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
上述のインターロックシステム及びインターロック方法によれば、運転員の判断に依存せず、関連パラメータ等から機器の異常動作を検知し、その異常を緩和することができる。これにより、原子力プラントのトリップを防止し、プラント稼働率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る原子力プラントの概略図である。
図2】実施形態のインターロック機能の制御ロジックを示す図である。
図3】実施形態の制御棒動作に係る判定フローの一例を示す図である。
図4】実施形態の制御システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
(構成)
以下、本開示のインターロックシステムについて、図1図4を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るPWR(Pressurized Water Reactor)型の原子力プラント100の概略図である。原子力プラント100は、原子炉設備5と、制御システム40と、を含む。原子炉設備5には、原子炉1と、一次冷却材が循環する一次冷却ループ4と、検出器6と、図示しない蒸気発生器、加圧器、冷却水ポンプなどが格納されている。原子炉1には、燃料クラスタ2と、複数の制御棒3と、が設けられている。複数の制御棒3は、炉心軸方向に上下させて原子炉1の出力を制御する。原子炉1の外部に設けられた検出器6は、原子炉1から出力される出力領域中性子束を検出する。検出器6は、例えば、4個設けられており、各検出器6が検出した出力領域中性子束の出力値(以下、単に中性子束の出力値と記載する。)は、それぞれCH1~4(図2における出力領域中性子束1~4、図2では1~4はローマ数字で記載する。)の4つのチャンネルの中性子束の検出値として制御システム40へ出力される。また、原子炉設備5では、一次冷却材の温度が計測され、制御システム40へ出力される。原子力プラント100は、この他にも、タービン、復水器、発電機などのタービン設備や、各種の計器類、制御器、機器類等を備えるが図示を省略する。
【0013】
制御システム40は、インターロック機能付きの制御棒3の制御システムである。インターロック機能とは、制御棒3の異常動作を検知し、その異常動作を緩和する機能である。制御システム40は、異常診断ロジックと異常緩和ロジックの2つの機能を有する。異常診断ロジックは、原子力プラント100に備わる計器類が計測した関連パラメータの計測値や、制御器等によって出力された制御信号などを利用して、制御棒3の「あるべき状態」からの逸脱を検知することにより、制御棒の動作の異常を診断する。異常緩和ロジックは、異常診断ロジックによって異常が検知された場合に、検知された異常を緩和する制御を行う。例えば、異常緩和ロジックは、異常を緩和するために制御棒3の動作を停止する。
【0014】
制御システム40は、原子炉制御系計器ラック10と、制御盤20と、制御棒駆動装置30と、を含む。原子炉制御系計器ラック10、制御盤20、制御棒駆動装置30は互いに通信可能に接続されている。これらの3つの装置は何れも従来から原子力プラント100に備わる装置である。各装置に新たに機能を追加することによって、本実施形態に係るインターロック機能付きの制御棒3の制御システムを実現している。以下の説明では、本実施形態に関係する機能・構成を説明し、これらの装置が備える他の機能・構成に関する説明は省略する。
【0015】
運転員は、原子炉1に対する操作として、制御棒3の引抜・挿入の手動による操作、一次冷却材の濃縮・希釈の手動による操作を行うことができるほか、制御棒3の自動制御モードの選択、一次冷却材の補給を自動で行う自動補給モードの選択を行うことができる。これらの手動制御、自動制御の何れであっても、運転員による何らかの操作が制御盤20等を通じて入力される為、制御システム40では、制御棒3や一次冷却材に対する制御として、どのような制御モードが選択されているのか、どのような制御が実施されているかを識別することができる。どの制御モードが選択されているか等を示す制御信号は、原子炉制御系計器ラック10へ入力されるように構成されている。
【0016】
(原子炉制御系計器ラック)
原子炉制御系計器ラック10は、計器類が計測した計測値を収集し、収集した計測値に基づいて、原子力プラント100に備わる機器の動作を制御する。原子炉制御系計器ラック10は、信号取得部11と、正常診断部12と、異常検知部13と、を有している。
信号取得部11は、各種の計測値や制御信号を取得する。例えば、信号取得部11は、検出器6にて検出される中性子束CH1~4の4つの出力値、一次冷却材温度の計測値、制御棒3の制御モード等(自動制御又は手動制御、さらに制御棒3の引抜又は挿入を示す制御信号)、一次冷却材の濃縮・希釈の制御モード等(自動制御、手動制御、緊急濃縮操作の実施など)を示す制御信号を取得する。原子炉制御系計器ラック10は、信号取得部11が取得した一次冷却材の温度の計測値に基づいて、制御棒制御用信号を生成する。
【0017】
正常診断部12は、運転員の手動操作に伴う中性子束の出力値(関連パラメータ)の変化に対して、その変化が正常であることを診断する。例えば、運転員が手動にて制御棒3の操作や一次冷却材の濃縮・希釈を行った場合には、中性子束の出力値に変化が生じたとしても、正常診断部12は、その変化は意図した操作の結果生じたものであって、正常であると診断する。運転員の手動操作を示す制御信号が取得されない場合には、正常診断部12は、正常の診断を行わない。正常と診断した場合、正常診断部12は、インターロックブロック信号を制御棒駆動装置30へ出力する。
【0018】
異常検知部13は、制御棒3に対する制御信号(制御棒制御用偏差信号)の状態が、制御棒3の動作に伴う中性子束の出力値(関連パラメータ)の変化に対して矛盾しているかどうかを判定し、矛盾する場合に制御棒3の異常動作を検知する。例えば、制御棒制御用偏差信号が、制御棒3の引抜制御が生じる状態(例えば、現在の一次冷却材の温度が基準温度より所定値以上低い状態)において、中性子束の出力値が制御棒3の引抜動作に応じた変化をしたならば、異常検知部13は、制御棒3の動作は正常であると判定する。反対に、制御棒制御用偏差信号が、制御棒3の引抜制御が生じない状態において、中性子束の出力値が制御棒3の引抜動作に応じた変化をしたならば、異常検知部13は、制御棒3の動作は異常であると判定する。異常を判定した場合、異常検知部13は、制御棒3の停止を要求するインターロック信号を制御棒駆動装置30へ出力する。
【0019】
(制御盤)
制御盤20は、プラントの状態や警報を表示する画面、運転員が操作を行うための操作器などの操作用インタフェースを備えている。制御盤20は、入力部21と、出力部22とを備える。
入力部21は、スイッチ(図2のリセットスイッチ211、制御棒停止スイッチ212等)、ボタン、キーボード、タッチパネルなどの入力装置を含んで構成され、運転員によるこれら入力装置の操作を受け付ける。例えば、入力部21は、運転員による制御棒3の引抜、挿入、停止や一次冷却材の濃縮・希釈の各動作を指示する操作、制御棒3の制御について自動制御モードを設定する操作、一次冷却材について自動補給モードを設定する操作を受け付ける。さらに入力部21は、運転員によるリセットを指示する操作(リセットスイッチ211の押下)を受け付ける。リセット指示によって、異常検知部13から出力されたインターロック信号に対するリセット、運転員によって操作された制御棒3の停止指示(制御棒停止スイッチ212の押下)に対するリセットを行うことができる。例えば、インターロック信号に対するリセットが行われた場合、インターロック信号が無効となり、制御棒3の停止指示に対するリセットが行われた場合、停止指示が無効となる。
出力部22は、入力部21が受け付けた操作に対応する信号を生成して、その信号を原子炉制御系計器ラック10、制御棒駆動装置30へ出力する。例えば、リセット操作が行われた場合には、出力部22は、リセット信号を生成して出力する。制御棒3の停止を指示する操作が行われた場合、停止信号を生成して出力する。
【0020】
(制御棒駆動装置)
制御棒駆動装置30は、制御棒3の動作を制御する。制御棒駆動装置30は、信号取得部31と、停止部32と、制御部33と、を備える。
信号取得部31は、原子炉制御系計器ラック10と制御盤20から各種の信号を取得する。例えば、信号取得部31は、原子炉制御系計器ラック10から、制御棒3の引抜を指示する制御棒自動引抜信号や制御棒手動引抜信号、制御棒3の挿入を指示する制御棒自動挿入信号や制御棒手動挿入信号を取得する。例えば、信号取得部31は、正常診断部12が出力するインターロックブロック信号と、異常検知部13が出力するインターロック信号を取得する。また、例えば、信号取得部31は、制御棒3の停止を指示する停止信号、リセット信号を取得する。
【0021】
停止部32は、信号取得部31が取得した正常診断部12による診断結果と、異常検知部13による判定結果とに基づいて、制御棒3の動作を停止するか否かを判定する。具体的には、停止部32は、異常検知部13で制御棒3の異常動作と判定されてインターロック信号が出力され、且つ、正常診断部12で正常の診断がなされなかった場合(インターロックブロック信号が出力されなかった場合)に、制御棒3の動作を停止すると判定し、そうでない場合、制御棒3の動作を停止しないと判定する。停止部32は、信号取得部31がインターロック信号とリセット信号を取得した場合には、リセット信号に基づいて、インターロック信号をリセットし、無効化する。これにより、インターロック信号が出力された場合であっても、停止部32は、制御棒3の動作を停止しないと判定する。
【0022】
制御部33は、信号取得部31が取得した制御棒自動引抜信号、制御棒自動挿入信号、制御棒手動引抜信号、制御棒手動挿入信号と、停止部32の判定結果に基づいて、制御棒3の動作を制御する。例えば、停止部32が制御棒3の動作を停止しないと判定した場合には、制御部33は、信号取得部31が取得した自動または手動の制御棒引抜信号に基づいて、制御棒3の引抜動作を行う。例えば、制御部33は、信号取得部31が制御棒自動引抜信号を取得した場合であっても、停止部32が制御棒3の動作を停止すると判定した場合には、制御棒3の引抜動作を行わない。また、制御部33は、信号取得部31が停止信号を取得した場合、制御棒3の動作を停止する。
【0023】
次に図2を参照して、本実施形態に係るインターロック機能を中心として、制御棒3の制御ロジックについて詳しく説明する。制御システム40は、異常診断ロジックと異常緩和ロジックを有し、異常診断ロジックは、さらに異常検知ロジック130と正常動作診断ロジック120に分類できる。異常検知ロジックは、異常検知部13によって実行され、正常動作診断ロジックは、正常診断部12によって実行される。また、異常緩和ロジック320は、主に停止部32によって実行される。各ロジックの機能は次のように記載することができる。
【0024】
(異常検知ロジック)
異常検知ロジックは、制御棒連続誤動作(制御棒引抜・挿入信号が無いにも関わらず制御棒の引抜・挿入動作が発生している事象)、制御棒不整合(制御棒スリップ、制御棒落下)を検知することを目的としている。中性子束の出力値の変化率を不完全微分によって算出し、算出した変化率が閾値を超え、且つ、本来制御棒が動作するほどの制御棒制御用偏差信号が発信されてしていないことを条件とし、インターロック信号を発信する。
【0025】
(正常動作診断ロジック)
制御棒制御用偏差信号によらず、原子炉1の出力変化(中性子束の出力値の変化)が生じる操作として、制御棒手動操作、希釈・濃縮操作、緊急濃縮操作が挙げられ、いずれも運転員が任意で操作するものである。したがって、操作器、スイッチの位置等により正常動作であることを検知することができる。正常動作診断ロジックでは、手動操作の検知後は当該操作による反応度が生じるまで検知信号の発信を継続させて遅れを補償し、フリップフロップ(回路124)を成立させる。これにより、原子炉1の出力変化が正常動作であることを示すインターロックブロック信号を発信し、インターロックの動作を阻止する。出力変化率が設定値を下回ることにより、インターロックブロック信号は停止される。
【0026】
(異常緩和ロジック)
インターロック信号が出力され、且つ、インターロックブロック信号が発信されないことを条件に制御棒自動動作を停止させる。この機能は、制御棒自動引抜・挿入停止リセットスイッチ(リセットスイッチ211)により、任意でリセットすることが可能であり、リセットが優先される。また、異常検知ロジックで検知できないほど小さい出力変化率の事象については、制御棒停止スイッチ212により運転員が任意で制御棒自動及び手動動作を停止させることが可能である。
【0027】
次に図2を参照して、各ロジックの構成や動作について説明する。
<異常検知ロジック>
異常検知部13は、回路131,132,133a,133b,133c,133d,134a,134c,136a,136b,138を有し、これらを用いて異常検知ロジック130を実行する。
【0028】
(処理1A)
異常検知部13の回路131は、中性子束CH1~4の検出値を、信号取得部11を通じて取得し、それぞれについて不完全微分を行って、その変化率を計算する。続いて、異常検知部13の回路132は、中性子束CH1~4の変化率の中から2番目に大きい値を選択する。最も大きい値を選択せずに2番目に大きい値を選択するのは、チャンネルの故障等による異常値の影響を除外するためである。異常検知部13の回路133aは、2番目に大きい変化率の上昇の程度が閾値以上かどうかを判定し、閾値以上であれば、変化率の上昇の程度が閾値以上のとなる状態が所定時間以上継続するかどうかを判定する。これにより、ノイズ等による一時的な変化率の上昇の可能性を排除する。制御棒3の引抜動作が行われると、中性子束の検出値は増加する。中性子束の検出値の上昇の程度が閾値以上であれば、制御棒3の引き抜きが生じていると考えられる。つまり、異常検知部13は、中性子束CH1~4の出力値(関連パラメータ)を用いて、制御棒3の引抜動作が生じていることを検出する。異常検知部13の回路133aは、制御棒3の引抜動作が生じていることを検出した場合、信号135aを発し、制御棒3の引抜動作が生じていることを検出しない場合、信号135aを発しない。
【0029】
(処理1B)
処理1Aと並行して、異常検知部13の回路133bは、信号取得部11を通じて制御棒制御用偏差信号を取得して、取得した制御棒制御用偏差信号が制御棒3の引抜制御が生じる状態かどうかを判定する。制御棒3の挿入・引抜によって原子炉1における反応度や一次冷却材の温度は変化する。制御棒制御用偏差信号は、一次冷却材温度の基準温度と現在の平均温度の偏差に関する信号であって、PWR型原子力プラントにおいて制御棒3を自動制御する場合には、これらの温度の偏差が大きいと制御棒3が動作し、偏差が小さい場合には制御棒3が動作しないように制御される。従って、制御棒制御用偏差信号によって、制御棒3の制御状態を検出することができる。異常検知部13の回路133bは、制御棒制御用偏差信号の状態が制御棒3の引抜制御を生じさせる場合(例えば、現在の一次冷却材温度が基準温度より低く、その偏差が閾値より大きい場合)に信号134を出力し、そうでない場合には、信号134を出力しない。次に、異常検知部13の回路134aは、回路133bの判定に基づく出力信号の有無と反対の動作を行う(134aはNOT回路、以下同様)。つまり、異常検知部13の回路134aは、制御棒制御用偏差信号の状態が制御棒3の引抜制御を生じさせる場合には信号135bを出力せず、引抜制御を生じさせない場合には信号135bを出力する。
【0030】
(処理1C)
次に異常検知部13の回路136aは、処理1Aの結果出力された信号135aと、処理1Bの結果出力された信号135bの両方を受信すると(136aはAND回路、以下同様。)、信号137aを出力する。つまり、処理1Aの結果、制御棒3の引き抜き動作が生じていることを検出した場合であって、且つ、処理1Bの結果、制御棒制御用偏差信号が引抜制御を生じさせる状態ではないと判定された場合に、異常検知部13の回路136aは、信号137aを出力する。
【0031】
(処理1D)
異常検知部13の回路133cは、回路132の処理で選択された変化率が2番目に大きな値の低下度が閾値以上かどうかを判定し、閾値以上であれば、変化率の低下度が閾値以上となる状態が所定時間以上継続するかどうかを判定する。制御棒3の挿入が行われると、中性子束の検出値は低下し、その変化率の低下度が閾値以上であれば、制御棒3の挿入が生じていると考えられる。異常検知部13の回路133cは、中性子束CH1~4の出力値を用いて、制御棒3の挿入動作が生じていることを検出する。異常検知部13の回路133cは、制御棒3の挿入動作が生じていることを検出した場合、信号135cを発し、制御棒3の挿入動作が生じていることを検出しない場合、信号135cを発しない。
【0032】
(処理1E)
処理1Dと並行して、異常検知部13の回路133dは、制御棒制御用偏差信号を取得して、取得した制御棒制御用偏差信号が制御棒3の挿入制御を生じさせる状態か(例えば、現在の一次冷却材温度が基準温度より高く、その偏差が閾値より大きい)どうかを判定する。異常検知部13の回路133dは、制御棒制御用偏差信号が制御棒3の挿入制御を生じさせる状態の場合に信号134bを出力し、そうでない場合には、信号134bを出力しない。次に、異常検知部13の回路134cは、回路133dの判定に基づく出力信号の有無と反対の動作を行う。つまり、異常検知部13の回路134cは、制御棒制御用偏差信号の状態が制御棒3の挿入制御を生じさせる場合には信号135dを出力せず、挿入制御を生じさせない場合には信号135dを出力する。
【0033】
(処理1F)
次に異常検知部13の回路136bは、処理1Dの結果出力された信号135cと、処理1Eの結果出力された信号135dの両方を受信すると、信号137bを出力する。つまり、処理1Dによって制御棒3の挿入動作が生じていることを検出した場合であって、且つ、処理1Eによって制御棒制御用偏差信号からは制御棒3の挿入制御が行われていないと判定された場合に、異常検知部13は、信号137bを出力する。
【0034】
(処理1G)
次に異常検知部13の回路138は、処理1Cの結果出力された信号137aと、処理1Fの結果出力された信号137bの何れかを受信すると(回路138はOR回路、以下同様。)、異常検知信号139を出力する。つまり、中性子束CH1~4の出力値の変化からは制御棒3の引抜動作が検知されるにもかかわらず、制御棒制御用偏差信号からは制御棒3の引抜制御が検知されない場合、又は、中性子束CH1~4の出力値の変化からは制御棒3の挿入動作が検知されているにもかかわらず、制御棒制御用偏差信号からは制御棒3の挿入制御が検知されない場合に、異常検知部13は、異常検知信号を出力する(139)。異常検知信号139は、インターロック信号139として、制御棒駆動装置30へ出力される。
【0035】
<正常動作診断ロジック>
正常診断部12は、信号取得部11を通じて取得した制御棒3や一次冷却材に対して行われている操作や制御モードに関する情報に基づいて、以下の処理(正常動作診断ロジック120)を行う。正常診断部12は、回路121,122,123,124を有する。
【0036】
(処理2A)
正常診断部12の回路121は、緊急濃縮ライン流量が閾値以上、上昇したかどうかを判定し、閾値以上であれば、閾値以上となる状態が所定時間以上継続するかどうかを判定する。緊急濃縮ライン流量は高濃度ホウ酸水を炉心に注入する処理が実施された場合に上昇し、この流量の増加は、運転員によって意図的にホウ酸が添加されている状況であることを意味する。つまり、正常診断部12の回路121は、この処理2Aによって、運転員によって意識的に原子炉1の反応度が変化させられている状況であることを検出する。このような状況であれば、制御棒制御用偏差信号が制御棒3の動作が生じる状態でなくても、中性子束の検出値は変化する。正常診断部12は、緊急濃縮ライン流量が閾値以上の状態が所定時間以上継続する場合、信号121aを発し、そうでない場合、信号121aを発しない。
【0037】
(処理2B)
正常診断部12の回路122は、自動補給モードが設定されておらす、且つ、運転員の任意による濃縮又は希釈操作が行われている場合、信号122aを発する。これは、運転員が意識して濃縮又は希釈操作が行っているので、仮に中性子束の出力値変化が生じても異常ではないことを示す信号である。
【0038】
(処理2C)
正常診断部12の回路123は、制御棒手動引抜信号又は制御棒手動挿入信号の何れかを取得していれば、信号123aを発する。これは、制御棒3の動作が自動制御ではなく、運転員によって手動で行われていることを表しており、このような場合には、中性子束の出力値変化が生じても異常ではないことを示す信号である。
【0039】
(処理2D)
正常診断部12の回路124は、処理2Aの結果出力された信号121aと、処理2Bの結果出力された信号122aと、処理2Cの結果出力された信号123aの何れかを受信すると、インターロックブロック信号125を出力する。つまり、回路124は、手動操作(濃縮、希釈、制御棒3の手動操作)が行われている場合にインターロックブロック信号125を出力する。次に回路124は、これらの手動操作が行われて、その結果が中性子束の変化として表れる間、インターロックブロック信号125を継続的に出力する。後述(処理2E)するように、中性子束の変化率が所定の設定値を超えている間は、インターロックブロック信号125が継続的に出力される。
【0040】
(処理2E)
また、正常診断部12の回路124は、2番目に大きな中性子束の変化率124aを取得し、この変化率124aが変動し始めてから静定するまでの間、インターロックブロック信号125を出力する。より詳細には、前記正常診断部12は、手動操作が行われてから所定時間が経過するまでは、中性子束の出力値の変化率が、手動操作によって生じる変化率の範囲内に収まる場合、インターロックブロック信号125を出力し、変化率が所定の設定値を下回るとインターロックブロック信号125の出力を停止する。インターロックブロック信号125が出力されている期間は、手動制御が中性子束の出力値に影響を及ぼしている期間である。この間、仮に制御棒制御用信号が制御棒3の動作を生じさせる状態でなく、且つ、中性子束の出力値に変化があったとしても、その変化は手動制御によるものである。つまり、運転員による濃縮、希釈、制御棒動作に関する手動操作が行われた場合、その操作が中性子束の出力に影響を与える間は、中性子束の出力変化は手動制御の影響によるものであって、その変化は正常であることを意味する正常診断信号が、インターロックブロック信号125として、制御棒駆動装置30へ出力される。
【0041】
<異常緩和ロジック>
異常緩和ロジック320は、制御盤20のリセットスイッチ211(入力部21)およびその出力回路(出力部22)と制御棒駆動装置30の停止部32および制御部33によって実行される。停止部32は、回路321を有し、制御部33は、回路331,332,333,334,335,336,337を有する。
【0042】
停止部32の回路321は、信号取得部31を通じて、インターロック信号とインターロックブロック信号を取得する。これらの信号は常に送信されるわけではないので、これら2つの信号の取得状況については、(a)インターロック信号とインターロックブロック信号を取得する場合、(b)インターロック信号のみを取得する場合、(c)インターロックブロック信号のみを取得する場合、(d)インターロック信号とインターロックブロック信号の何れも取得しない場合の4つの状態が存在する。回路321は、(b)インターロック信号のみを取得する場合に限り、信号322を出力せず、(a),(c),(d)の場合には、信号322を出力する。つまり、(b)インターロック信号のみが取得された場合には、信号322が後段へ供給されず、(a),(c),(d)の場合には、信号322が後段へ供給される。
【0043】
制御棒停止スイッチ212が押下されると、制御棒停止スイッチ212は、停止信号212aを出力する。停止信号212aは、回路331へ出力される。回路331は、停止信号212aを取得している間は信号331aを出力せず、停止信号212aを取得しない場合には信号331aを出力する。
【0044】
リセットスイッチ211が押下されると、リセット信号211aが出力される。リセット信号211aは、回路321と回路331へ出力される。リセット信号は、インターロック信号139又は停止信号212aのリセットを意味する。例えば、回路321は、リセット信号211aを取得している間は、上記の(b)の場合であっても、信号322を出力する。(上記の(a),(c),(d)の場合、回路321は、リセット信号211aを取得しても信号322を出力する。)また、リセット信号211aを取得している間は、停止信号212aを取得していても、回路331は、信号331aを出力する。
【0045】
(1)制御棒3が自動制御で上記(a)、(c)、(d)の場合(リセット信号および停止信号なし)
リセットスイッチ211が押下されておらず、(b)インターロック信号のみを取得する以外の場合(上記の(a),(c),(d)の場合)であって(信号322が出力される。)、制御棒停止スイッチ212が押下されておらず(信号331aが出力される。)、信号取得部31が、制御棒自動挿入信号331bを取得した場合、AND回路332ではAND条件が成立し、OR回路334により、制御部33は、制御棒挿入指令を制御棒3へ出力する。同様に、同じ条件で、信号取得部31が、制御棒自動引抜信号331dを取得した場合には、AND回路335ではAND条件が成立し、OR回路337により、制御部33は、制御棒引抜指令を制御棒3へ出力する。これらの場合、制御棒挿入指令又は制御棒引抜指令に基づいて制御棒3は動作する。
【0046】
(2)制御棒3が自動制御で上記(b)インターロック信号のみを取得する場合(リセット信号および停止信号なし)
制御棒停止スイッチ212が押下されておらず(信号331aが出力される。)、リセットスイッチ211が押下されておらず、信号取得部31が、制御棒自動挿入信号331bと(b)インターロック信号のみを取得した場合(信号322が出力されない。)には、回路321の後段へ信号322が供給されない為、AND回路332にてAND条件が成立せず、制御棒挿入指令が出力されない為、制御棒3は停止する。また、同じ条件で、信号取得部31が、制御棒自動挿入信号331bではなく制御棒自動引抜信号331dを取得した場合、回路321の後段へ信号322が供給されない為、AND回路335にてAND条件が成立せず、制御棒引抜指令は出力されない。その為、制御棒3は停止する。このとき、リセットスイッチ211が押下された場合、リセット信号211aが回路321にて自己保持され、インターロックを無効化される。つまり、制御棒3の自動制御中に、異常検知によりインターロック信号139が出力されても、運転員が制御棒3の動作に異常の無いことを確認して、リセットスイッチ211を押下すれば、インターロック信号139はリセット(無効化)され、制御棒3は、動作し続ける。このリセットはインターロック信号139の入力が止まった時に解除される。
【0047】
(3)制御棒3が手動制御の場合
なお、信号取得部31が、制御棒手動挿入信号331cを取得した場合には、AND回路333には信号332が入力されない為、制御棒停止スイッチ212が押下されていなければ、インターロック信号やインターロックブロック信号の有無に関わらず(回路321の出力する信号322の有無にかかわらず)、AND回路333ではAND条件が成立し、OR回路334により、制御部33は、制御棒挿入指令を制御棒3へ出力する。同様に信号取得部31が、制御棒手動引抜信号331eを取得した場合には、制御棒停止スイッチ212が押下されていなければ、AND回路336ではAND条件が成立し、OR回路337により、制御部33は、制御棒引抜指令を制御棒3へ出力する。
【0048】
(4)制御棒3が自動制御でリセット信号あり、停止信号なしの場合
リセットスイッチ211が押下され、制御棒停止スイッチ212が押下されていない場合、上記の(a)~(d)の何れの場合であっても、回路321は信号322を出力し、回路331は信号331aを出力する。従って、制御棒自動挿入信号331bを取得すると制御棒挿入指令が出力され、制御棒自動引抜信号331dを取得すると制御棒引抜指令が出力される。
【0049】
(5)制御棒3が自動制御又は手動制御でリセットスイッチ押下なし、制御棒停止スイッチ押下あり
リセットスイッチ211が押下されずに、制御棒停止スイッチ212が押下されると、回路331は、信号331aを出力しない。この場合、制御棒自動挿入信号331bを取得してもAND回路332ではAND条件が成立せず、制御棒手動挿入信号331cを取得してもAND回路333ではAND条件が成立しない。同様に、制御棒自動引抜信号331dを取得してもAND回路335ではAND条件が成立せず、制御棒手動引抜信号331eを取得してもAND回路336ではAND条件が成立しない。このように制御棒停止スイッチ212が押下されると、自動・手動にかかわらず、制御棒引抜指令や制御棒挿入指令が出力されることが無く、制御棒3は停止する。
【0050】
(6)制御棒3が自動制御又は手動制御でリセットスイッチ押下あり、制御棒停止スイッチ押下あり
リセットスイッチ211は、インターロック信号139のリセット、つまり、インターロック信号139を無効化するだけでなく、制御棒停止スイッチ212の押下によって出力される停止信号212aのリセットにも有効である。制御棒停止スイッチ212が押下された場合に、リセットスイッチ211が押下されると、停止信号212aが無効化され、回路331は、信号331aを出力する。すると、AND回路332~336では、上記で説明した他の信号の取得状態により、AND条件が成立するか否かが判定され、判定結果に基づいて、制御棒引抜指令や制御棒挿入指令が出力される。例えば、制御棒自動挿入信号331bが発せられた状態で、運転員が、誤って制御棒停止スイッチ212を押下したとする。すると、回路331の後段へ信号331aが供給されずに制御棒3は停止する。その後、運転員が、誤りに気付いて、リセットスイッチ211を押下すると、押下している間は回路331の後段へ信号331aが供給されることになり、AND回路332ではAND条件が成立し、制御棒3へ制御棒挿入指令が出力され、制御棒3は挿入動作する。
【0051】
<判定フロー>
次に図3を参照して、制御棒3の動作判定処理について説明する。
異常検知部13が、関連パラメータ(中性子束の出力値)の変化に対し、制御信号(制御棒制御用偏差信号)の状態が矛盾しているかどうかに基づいて、制御棒3の異常検知を行う(ステップS1)。正常診断部12が、関連パラメータの変化に対し、その変化を生じさせるような意図した操作が行われたかどうかに基づいて、関連パラメータの変化に対する正常診断を行う(ステップS2)。ステップS1とステップS2の順序は逆でもよい。次に停止部32が、ステップS1で異常が検知され、ステップS2で正常と診断されたかどうかを判定する(ステップS3)。ステップS1で異常検知され、且つ、ステップS2で正常の診断がなされない場合(ステップS3;Yes)、停止部32は、インターロック信号に対するリセット信号が入力されたかどうかを判定する(ステップS4)。リセット信号が入力されていない場合(ステップS4;No)、停止部32は、制御棒3の動作を停止すると判定する(ステップS5)。リセット信号が入力されている場合(ステップS4;Yes)、停止部32は、制御棒3の動作を停止しないと判定する(ステップS8)。
【0052】
また、ステップS1で異常検知されない、又は、ステップS2で正常と診断された場合にはステップS3の判定はNoとなり、この場合(ステップS3;No)、制御部33は、停止信号が入力されたかどうかを判定する(ステップS6)。停止信号が入力されていない場合(ステップS6;No)、制御部33は、制御棒3の動作を停止しないと判定する(ステップS8)。
【0053】
停止信号が入力されている場合(ステップS6;Yes)、停止部32は、停止信号に対するリセット信号が入力されたかどうかを判定する(ステップS7)。リセット信号が入力されていない場合(ステップS7;No)、停止部32は、制御棒3の動作を停止すると判定する(ステップS5)。リセット信号が入力されている場合(ステップS7;Yes)、停止部32は、制御棒3の動作を停止しないと判定する(ステップS8)。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、中性子束の出力値の変化率と制御棒制御用偏差信号に基づいて、制御棒3の自動制御中における連続誤動作、制御棒スリップ、落下を速やかに検知し、制御棒3の動作を自動的に停止することができる。これにより、運転員の判断に依存せずに制御棒3の異常動作を判断し、速やかに緩和制御を行うことで、原子力プラント100のトリップを未然に防ぐことができる。また、運転員による手動操作があった場合には、インターロック信号をブロックすることにより、誤った制御棒3の動作停止を防ぐことができる。また、中性子束の出力値の変化率が小さく、異常検知ロジックで異常を検出できない場合であっても、制御棒停止スイッチ212を操作することにより、運転員は、制御棒3の動作を停止することができる。また、インターロック信号が出力された場合であっても、運転員が、異常が発生していないことを確認できれば、リセットスイッチ211を操作することにより、制御棒3の動作を継続することができる。
【0055】
図4は、実施形態の制御システム40のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。上述の原子炉制御系計器ラック10、制御盤20、制御棒駆動装置30は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0056】
原子炉制御系計器ラック10、制御盤20、制御棒駆動装置30の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0057】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0058】
<付記>
各実施形態に記載のインターロックシステム、インターロック方法及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0059】
(1)第1の態様に係るインターロックシステム(制御システム40)は、機器(制御棒3)の動作に伴う関連パラメータ(中性子束の出力値)の変化に対して、前記機器を制御する制御信号(制御棒制御用偏差信号)の状態が矛盾している場合に、異常を検知する異常検知部13と、意図した操作(制御棒3や一次冷却材の濃縮・希釈の手動操作)に伴う前記関連パラメータの変化に対して、正常と診断する正常診断部12と、前記異常検知部で異常と検知され、且つ、前記正常診断部で正常の診断がなされない場合に、前記機器の動作を停止する停止部32と、を有する。
これにより、運転員の判断に依存せず、関連パラメータから機器の異常動作を判別し、その異常を緩和することができる。
【0060】
(2)第2の態様に係るインターロックシステムは、(1)のインターロックシステムであって、前記異常検知部は、前記関連パラメータの変化率が閾値の範囲内となるべき前記制御信号に対して、前記変化率が前記閾値の範囲外となったときに、前記機器の異常を検知する。
これにより、機器の動作に伴う関連パラメータの変化に対する制御信号の状態の矛盾を検出し、異常検知することができる。
【0061】
(3)第3の態様に係るインターロックシステムは、(1)~(2)のインターロックシステムであって、前記異常検知部は、前記関連パラメータの変化率を不完全微分によって算出する。
完全微分では信号が消えてしまい関連パラメータの変化率を算出できないが、不完全微分によって信号を残すことで変化率を算出することができる。
【0062】
(4)第4の態様に係るインターロックシステムは、(1)~(3)のインターロックシステムであって、前記正常診断部では、前記意図した操作が行われてから所定時間が経過するまでは、前記関連パラメータの変化率が前記意図した操作によって生じる変化率の範囲内に収まる場合、正常と診断し、前記変化率が予め設定した設定値を下回ることにより、前記正常の診断を停止する。
これにより、手動操作が行われて、その影響が関連パラメータに及ぶ期間については正常と診断し、インターロックを防止することができる。
【0063】
(5)第5の態様に係るインターロックシステムは、(1)~(4)のインターロックシステムであって、前記停止部は、前記異常検知部による異常の検知と前記正常診断部による正常の診断に関わらず、運転員の指示に基づいて、前記機器を停止する信号を出力する。
運転員が、制御棒停止スイッチ212を操作することにより、制御棒3の動作を停止することができる。これにより、例えば、インターロック信号が出力されないほど中性子束出力値の変化が小さい場合でも、運転員は、制御棒3の動作を停止することができる。
【0064】
(6)第6の態様に係るインターロックシステムは、(1)~(5)のインターロックシステムであって、前記停止部は、前記異常検知部で異常と検知され、且つ、前記正常診断部で正常の診断がなされない場合に、運転員の指示に基づいて、前記機器の動作の停止を取りやめる。
運転員が、リセットスイッチ211を操作することにより、インターロック信号をリセットすることができる。これにより、例えば、インターロック信号が出力された場合であっても、正常であることが確認できれば、制御棒3の動作を継続させることができる。
【0065】
(7)第7の態様に係るインターロックシステムは、(1)~(6)のインターロックシステムであって、前記機器は、原子炉の制御棒であり、前記関連パラメータは中性子束出力値の変化率であり、前記制御信号は、制御棒制御用偏差信号である。
これにより、制御棒3の異常動作の検知および緩和制御が可能になる。
【0066】
(8)第8の態様に係るインターロックシステムは、(1)~(7)のインターロックシステムであって、前記異常検知部は異常を検知すると、インターロック信号を出力し、前記正常診断部は、正常と診断するとインターロックブロック信号を出力し、前記停止部は、前記インターロック信号を受信し、前記インターロックブロック信号を受信しないときに前記機器の動作を停止する。
これにより、制御棒3の異常動作の検知および緩和制御が可能になる。
【0067】
(9)第9の態様に係るインターロック方法は、機器の動作に伴う関連パラメータの変化に対して、前記機器を制御する制御信号の状態が矛盾している場合に、異常を検知するステップと、意図した操作に伴う前記関連パラメータの変化に対して、正常と診断するステップと、前記異常を検知するステップで異常と検知され、且つ、前記正常と診断するステップで正常の診断がなされない場合に、前記機器の動作を停止するステップとを有する。
【0068】
(10)第10の態様に係るプログラムは、コンピュータに、機器の動作に伴う関連パラメータの変化に対して、前記機器を制御する制御信号の状態が矛盾している場合に、異常を検知するステップと、意図した操作に伴う前記関連パラメータの変化に対して、正常と診断するステップと、前記異常を検知するステップで異常と検知され、且つ、前記正常と診断するステップで正常の診断がなされない場合に、前記機器の動作を停止するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0069】
1・・・原子炉、2・・・燃料クラスタ、3・・・制御棒、4・・・一次冷却ループ、5・・・原子炉設備、6・・・検出器、10・・・原子炉制御系計器ラック、11・・・信号取得部、12・・・正常診断部、13・・・異常検知部、20・・・制御盤、21・・・入力部、22・・・出力部、30・・・制御棒駆動装置、31・・・信号取得部、32・・・停止部、33・・・制御部、40・・・制御システム、100・・・原子力プラント、900・・・コンピュータ、901・・・CPU、902・・・主記憶装置、903・・・補助記憶装置、904・・・入出力インタフェース、905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4