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特開2023-113347水素発生方法、水素発生促進部材、および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113347
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】水素発生方法、水素発生促進部材、および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/08 20060101AFI20230808BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20230808BHJP
   C25D 3/12 20060101ALI20230808BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20230808BHJP
【FI】
C01B3/08 Z
C25D7/00 Y
C25D3/12 101
H01M8/0606
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015654
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000115072
【氏名又は名称】ユケン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】菊池 義治
(72)【発明者】
【氏名】赤松 慎也
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
5H127
【Fターム(参考)】
4K023AA12
4K023BA08
4K023CB11
4K023CB28
4K023DA02
4K024AA03
4K024AB02
4K024BA02
4K024BB27
4K024CA02
4K024CA03
4K024CA04
4K024CA06
4K024GA16
5H127AC02
5H127AC07
5H127BA02
5H127BA16
(57)【要約】
【課題】高純度、且つローコストな水素の確保を課題とする。
【解決手段】ピリジン系化合物及びニッケルを含有する酸性電気めっき浴を用いて、金属表面を有する被処理物の表面に形成された電気めっき皮膜を備えた水素発生促進部材と、アルカリ溶液中における腐食電位がニッケルより卑な金属とを電気的に接続した状態でアルカリ溶液に浸漬することで、水素を発生させる。水素発生促進部材は水素発生に対して高い応答性を示しているため、反応液中に水素発生促進部材と接触した腐食電位がニッケルよりも卑な金属はすぐに溶解を始め水素を発生する。また、水素発生の駆動力は金属間の電位差によるものなので、水素発生には電力を必要としない。更には、発生した水素の純度を高めるために古典的な水上置換法等を用いることが可能なので、複雑な装置構成を必要としない。これにより、高純度、且つローコストな水素の確保が可能になる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピリジン系化合物及びニッケルを含有する酸性電気めっき浴を用いて、金属表面を有する被処理物の表面に形成された電気めっき皮膜を備えた水素発生促進部材と、アルカリ溶液中における腐食電位がニッケルより卑な金属とを電気的に接続した状態で前記アルカリ溶液に浸漬することで、水素を発生させることを特徴とする水素発生方法。
【請求項2】
前記アルカリ溶液が、水酸化ナトリウムを含有することを特徴とする請求項1に記載の水素発生方法。
【請求項3】
前記アルカリ溶液が、5~400g/Lの水酸化ナトリウムを含有することを特徴とする請求項2に記載の水素発生方法。
【請求項4】
前記アルカリ溶液が、水酸化カリウムを含有することを特徴とする請求項1に記載の水素発生方法。
【請求項5】
前記アルカリ溶液が、7~561g/Lの水酸化カリウムを含有することを特徴とする請求項4に記載の水素発生方法。
【請求項6】
前記ニッケルより卑な金属が、アルミニウムであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の水素発生方法。
【請求項7】
前記ニッケルより卑な金属の表面積に対する前記水素発生促進部材の表面積の比率が、0.1以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の水素発生方法。
【請求項8】
アルカリ溶液中における腐食電位がニッケルより卑な金属と接続された状態で前記アルカリ溶液に浸漬される水素発生促進部材であって、
金属表面を有する被処理物と、
ピリジン系化合物及びニッケルを含有する酸性電気めっき浴により前記金属表面に形成された電気めっき皮膜と
を備えることを特徴とする水素発生促進部材。
【請求項9】
アルカリ溶液中における腐食電位がニッケルより卑な金属に接続した状態で前記アルカリ溶液に浸漬される水素発生促進部材を製造する製造方法であって、
ピリジン系化合物及びニッケルを含有する酸性電気めっき浴を用いて、金属表面を有する被処理物の表面に、電気めっき皮膜を形成することで、水素発生促進部材を製造することを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を発生させる水素発生方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
水素を発生させる方法として、アルミニウムを水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ溶液に浸漬する方法が知られている。下記特許文献には、そのような方法で水素を発生させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-107895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近い将来において水素の需要が高まることが予測されているが、燃料電池に悪影響を与えない高純度な水素供給源が確立されていない。脱硫装置等が必要な液体炭化水素、水蒸気改質ユニットや水の電気分解による水素発生法に代わる高純度、且つローコストな水素の確保や水素の発生方法が求められている。つまり、化石燃料をベースとして水素を製造する化石燃料改質法は、安定的かつ大規模に水素製造が可能であるが、CCS(二酸化炭素回収・貯留技術)等を用いない限り、二酸化炭素が放出されてしまうため、高純度の水素を確保できない。また、水蒸気改質ユニットやCO変成器が必要になるだけではなく、燃料中に存在する硫黄化合物が燃料電池の触媒を汚染して性能低下を招くため脱硫装置が必要になる。そのため、水素製造装置が複雑になることは避けられない。そして、水の電気分解による水素発生法も、安定的かつ大規模に水素製造が可能であるが、発電時にCCS等を用いない限り、二酸化炭素が放出されてしまうため、高純度の水素を確保できない。また、この製造方法は電力を利用するため、電気代が製造コストに直結する。このため、本発明は、高純度、且つローコストな水素の確保を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の水素発生方法は、ピリジン系化合物及びニッケルを含有する酸性電気めっき浴を用いて、金属表面を有する被処理物の表面に形成された電気めっき皮膜を備えた水素発生促進部材と、アルカリ溶液中における腐食電位がニッケルより卑な金属とを電気的に接続した状態で前記アルカリ溶液に浸漬することで、水素を発生させることを特徴とする。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の水素発生促進部材の製造方法は、アルカリ溶液中における腐食電位がニッケルより卑な金属と接続された状態で前記アルカリ溶液に浸漬される水素発生促進部材であって、金属表面を有する被処理物と、ピリジン系化合物及びニッケルを含有する酸性電気めっき浴により前記金属表面に形成された電気めっき皮膜とを備えることを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の製造方法は、アルカリ溶液中における腐食電位がニッケルより卑な金属に接続した状態で前記アルカリ溶液に浸漬される水素発生促進部材を製造する製造方法であって、ピリジン系化合物及びニッケルを含有する酸性電気めっき浴を用いて、金属表面を有する被処理物の表面に、電気めっき皮膜を形成することで、水素発生促進部材を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明において、水素発生促進部材は水素発生に対して高い応答性を示している。このため、反応液中に水素発生促進部材と接触した腐食電位がニッケルよりも卑な金属はすぐに溶解を始め水素を発生する。また、水素発生の駆動力は金属間の電位差によるものなので、水素発生には電力を必要としない。更には、発生した水素の純度を高めるために古典的な水上置換法等を用いることが可能なので、複雑な装置構成を必要としない。従って、本発明を用いることで、高純度、且つローコストな水素の確保が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】水素発生促進皮膜形成時の酸性電気めっき浴の組成,めっき条件,水素発生促進皮膜の膜厚を示す図である。
図2】下地ニッケル皮膜形成時の酸性電気めっき浴の組成を示す図である。
図3】水酸化ナトリウム溶液の水酸化ナトリウムの濃度毎の促進部材使用時水素発生量、ブランクテストの水素発生量および、水素発生比率を示す図である。
図4】水酸化ナトリウム溶液の液温毎の促進部材使用時水素発生量、ブランクテストの水素発生量および、水素発生比率を示す図である。
図5】面積比率毎の促進部材使用時水素発生量、ブランクテストの水素発生量および、水素発生比率を示す図である。
図6】水素発生部材と亜鉛板とを接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬した際の促進部材使用時水素発生量、ブランクテストの水素発生量および、水素発生比率を示す図である。
図7】水素発生部材と亜鉛粒とを接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬した際の促進部材使用時水素発生量、ブランクテストの水素発生量および、水素発生比率を示す図である。
図8】水素発生部材とアルミニウム板とを接触させた状態で水酸化カリウム溶液に浸漬した際の促進部材使用時水素発生量、ブランクテストの水素発生量および、水素発生比率を示す図である。
図9】電気的に接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬された水素発生促進部材とアルミニウム板とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に記載の「ピリジン系化合物」は、ピリジン環を有する化合物であり、具体的には、例えば、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2-プロピルピリジン、3-プロピルピリジン、4-プロピルピリジン、2,6-ジメチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、3,4-ジメチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、2,3,5-トリメチルピリジン、2-メチル-5-エチルピリジン、3,5-ジエチルピリジン、2-シアノピリジン、3-シアノピリジン、4-シアノピリジン、2-ピコリンアミド、3-ピコリンアミド、4-ピコリンアミド、ピリジン-2-カルボン酸、ピリジン-3-カルボン酸、ピリジン-4-カルボン酸、1-メチルピリジニウム-2-カルボン酸塩酸塩、1-メチルピリジニウム-3-カルボン酸塩酸塩、1-メチルピリジニウム-4-カルボン酸塩酸塩、2-ピリジンカルボキシアルデヒド、3-ピリジンカルボキシアルデヒド、4-ピリジンカルボキシアルデヒド、2-アミノピリジン、3-アミノピリジン、4-アミノピリジン、1-メチルピリジニウムクロリド、1-エチルピリジニウムクロリド、1-プロピルピリジニウムクロリド、1-ブチルピリジニウムクロリド、1-ペンチルピリジニウムクロリド、1-ヘキシルピリジニウムクロリド、1-ヘプチルピリジニウムクロリド、1-オクチルピリジニウムクロリド、1-ノニルピリジニウムクロリド、1-デシルピリジニウムクロリド、1-ウンデシルピリジニウムクロリド、1-ドデシルピリジニウムクロリド、1-ベンジルピリジニウムクロリド、1-ベンジルピリジニウム-3-カルボキシラート、1-ベンジル-3-カルボキシレートピリジニウム塩化ナトリウム、2-ベンジルピリジン、3-ベンジルピリジン、4-ベンジルピリジン、2-ヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシピリジン、4-ヒドロキシピリジン、2-アセチルピリジン、3-アセチルピリジン、4-アセチルピリジン、2-フェニルピリジン、3-フェニルピリジン、4-フェニルピリジン、5,6,7,8-テトラヒドロキノリン 、2-メチルピラジン、5-メチルピラジンなどが挙げられる。
【0011】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴でのピリジン系化合物の濃度は、0.18~938ミリmol/Lであることが好ましく、特に、0.88~368ミリmol/Lであることが好ましい。
【0012】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴の浴温は、5~90℃であることが好ましく、特に、25~45℃であることが好ましい。
【0013】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴には、導電性および緩衝性を与える化合物として、無機酸、有機酸、それらのアルカリ塩類、有機錯化剤などと、それらのアルカリ塩類、さらに、有機アミン、有機ポリアミンなどが含まれてもよい。
【0014】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴には、さらに、皮膜安定剤、皮膜密着性強化剤として、フェノール水酸基を有する化合物、フェノール酸塩など低分子化合物や、それらを骨格に持つ高分子化合物、タンニン、タンニン酸、カテキンなどポリフェノールといわれる高分子化合物などが含まれてもよい。
【0015】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴では、陰極電解方式を採用することが好ましい。これにより、耐久性の高い皮膜を形成することが可能となる。なお、陰極電解時の電流密度は、0.2~60A/dmであることが好ましく、特に、1~10A/dmであることが好ましい。これにより、比較的低い電流密度で皮膜を形成することが可能となる。
【0016】
なお、上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴では、陰極電解方式ではなく、陽極電解と陰極電解とを交互に繰り返す電解方式、所謂、PR電解方式を採用することも可能である。PR電解方式を採用する際には、陰極電解時の電流密度を0.2~60A/dmとし、陽極電解時の電流密度を0~30A/dmとすることが好ましく、特に、陰極電解時の電流密度を1~10A/dmとし、陽極電解時の電流密度を0~10A/dmとすることが好ましい。また、陰極電解時間を0.1~10秒とし、陽極電解時間を0.1~10秒とすることが好ましく、陰極電解時間と陽極電解時間との比率は、陰極電解時間:陽極電解時間=1:0.1~1:1とすることが好ましい。
【0017】
また、上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴によって皮膜を形成する前に、下地ニッケルめっきを施すことが好ましい。これにより、上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴による皮膜を適切に形成するとともに、密着性を高くすることが可能となる。なお、下地ニッケルめっき処理時の陰極電流密度は、0.5~30A/dmであることが好ましく、特に、1~15A/dmであることが好ましい。また、浴温は、30~60℃であることが好ましい。
【0018】
上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴を用いて形成される皮膜には、少なくともNiが含まれていればよく、添加する金属イオン等を調整することで、Ni以外のCu,Co,Mn,Fe,In,Ir,Pt,Sn,Pd,Ag,Ru,Rhなどの単金属または、Niを含むそれら2元素以上の合金などを含むことが可能である。さらに、皮膜には、Mo,W,Zr,Si,Ce,V,Al,Ni,Cu,Co,Mn,Fe,In,Sn,Pd,Ag,Ru,Rhなどの金属酸化物、硫化物などの微粒子、カーボンナノチューブ,カーボンナノファイバー,カーボンブラックのような炭素体、アルカリ金属化合物,アルカリ土類金属化合物などを含むことが可能である。
【0019】
本発明に記載の「水素発生促進部材」は、上記ピリジン系化合物を含む電気めっき浴を用いて、基材の表面にめっき皮膜が形成されることで製造される。そして、この水素発生促進部材と、アルカリ溶液中における腐食電位がニッケルより卑な金属とを電気的に接触させた状態で、当該アルカリ溶液中に浸漬することで、当該金属を溶解し、その際に高純度の水素を発生させることが可能となる。
【0020】
水素発生促進部材と腐食電位がニッケルより卑な金属との電気的な接触は、水素発生促進部材と当該金属とを直接的に接触させてもよく、水素発生促進部材と当該金属とを、導電線等により接続することで、間接的に接触させてもよい。また、水素発生促進部材と当該金属とを間接的に接触させる場合には、可変抵抗器を介して接触させてもよい。これにより、水素発生促進部材と当該金属との間を流れる電流を調整することが可能となり、水素の発生量を調整することが可能となる。
【0021】
また、アルカリ溶液に浸漬される水素発生促進部材の表面積と腐食電位がニッケルより卑な金属の表面積との比率は、0.1:1~1:0.1であることが好ましく、特に、1:1であることが好ましい。つまり、当該金属の表面積に対する水素発生促進部材の表面積の比率は、0.1~10であることが好ましく、特に、1であることが好ましい。なお、腐食電位がニッケルより卑な金属はアルカリ溶液に浸漬されることで溶解するため、浸漬時間の経過に伴って、当該金属の表面積は小さくなる。このため、当該金属の表面積に対する水素発生促進部材の表面積の比率は、浸漬時間の経過に伴って大きくなることを考慮すると、当該比率の数値(0.1~10)は浸漬当初の数値であり、浸漬中の比率は0.1以上であることが好ましい。
【0022】
また、腐食電位がニッケルより卑な金属としては、Al,Zn,Mg等が挙げられ、特に、Al,Znが好ましい。
【0023】
また、アルカリ溶液に浸漬される水素発生促進部材と腐食電位がニッケルより卑な金属との各々の形状は、板形状,塊形状,粒形状,削り粉形状等、種々の形状を採用することが可能である。
【0024】
なお、アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム溶液,水酸化カリウム溶液,水酸化カルシウム溶液,水酸化バリウム溶液等があげられる。また、アルカリ溶液が水酸化ナトリウム溶液であれば、水酸化ナトリウムの濃度は、5~400g/Lであることが好ましく、特に、100g/Lであることが好ましい。また、アルカリ溶液が水酸化カリウム溶液であれば、水酸化カリウムの濃度は、7~561g/Lであることが好ましく、特に、140g/Lであることが好ましい。
【0025】
また、アルカリ溶液の液温は、15~40℃であることが好ましく、特に、20℃であることが好ましい。
【0026】
また、アルカリ溶液に水素発生促進部材と腐食電位がニッケルより卑な金属とを接続した状態で浸漬させる際に、アルカリ溶液を攪拌することで、好適に水素を発生させることが可能である。ただし、攪拌に要する電力の消費を考慮すると、アルカリ溶液を攪拌させずに、アルカリ溶液に水素発生促進部材と当該金属とを接続した状態で浸漬させることが好ましい。
【実施例0027】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0028】
図1に示す配合の各原料から、水素発生促進部材を製造するための酸性電気めっき浴を調整した。なお、各原料の詳細は、下記の通りある。
塩化ニッケル・6水和物:富士フィルム和光純薬株式会社製
35%塩酸:東亜合成株式会社製
ピリジン系化合物:1-ベンジル-3-カルボキシレートピリジニウム塩化ナトリウム
【0029】
また、酸性電気めっき浴による電気めっき皮膜の形成前には、皮膜の密着性を高めるべく、基材に下地ニッケルめっきが行われる。なお、基材として、酸性電気めっき浴では、板形状のSPCC-SD材(株式会社エンジニアリングテストサービス製)と、粒形状のストロングスチールショットNB-280(ニッチュー社製:鋳鋼ショットφ2.8mm球)とが用いられる。
【0030】
下地ニッケル用のめっき浴は、図2に示すめっき浴組成の各原料により調整される。図2での各原料の詳細は、下記の通りある。
塩化ニッケル・6水和物:富士フィルム和光純薬株式会社製
35%塩酸:東亜合成株式会社製
【0031】
また、下地ニッケルのめっき条件は、下記の通りである。
陰極電流密度:1A/dm
浴温:35℃
処理時間:70分
陽極:Ni材
液循環:スターラー撹拌(回転数:500rpm)(撹拌子サイズ:φ8×30mm)
【0032】
上記条件で下地ニッケルめっきが行われると、基材の表面に5μmの膜厚のニッケル皮膜(以下、「下地ニッケル皮膜」と記載する。)が形成される。そして、下地ニッケル皮膜が形成された基材に、図1に示す酸性電気めっき浴を用いて、陰極電解方式の電気めっきが実行される。この際の電気めっきの条件は、以下のとおりである。
液pH:0.1未満
陽極:Ni材または不溶性陽極
液循環:スターラー撹拌(回転数:500rpm)(撹拌子サイズ:φ8×30mm)
なお、陰極電流密度(A/dm)、浴温(℃)、処理時間(min)は、図1のめっき条件に記載されている。
【0033】
上記条件で電気めっきが行われることで、下地ニッケル皮膜が形成された基材に、ニッケル皮膜(以下、「水素発生促進皮膜」と記載する)が形成される。つまり、基材の表面に、下地ニッケル皮膜が形成され、その下地ニッケル皮膜の表面に、水素発生促進皮膜が形成される。このようにして形成された水素発生促進皮膜の膜厚(μm)を測定した。なお、測定された水素発生促進皮膜の膜厚(μm)を図1に示す。
【0034】
また、上述したようにして形成された実施例1の水素発生促進皮膜の組成を、走査電子顕微鏡(JSM-IT300:日本電子株式会社製)及び、エネルギー分散形X線分析装置(EX-37001:日本電子株式会製)によって測定した。以下に、その組成を示す。
水素発生促進皮膜の組成
Ni:93.04wt%
C:3.36wt%
O:3.61wt%
【0035】
そして、上述した手法により水素発生促進皮膜が形成された部材(以下、「水素発生促進部材」と記載する)と、アルミニウムとを電気的に接触させた状態で、水酸化ナトリウム溶液に浸漬した際の水素発生量を測定した。詳しくは、図9に示すように、板形状(表面積0.75dm)のアルミニウム板10と、板形状(0.75dm)の水素発生促進部材12とを直接的に接触させた状態で、水酸化ナトリウム溶液14に浸漬する。つまり、アルミニウム板の表面積に対する水素発生促進部材の表面積の比率を1とする条件で、板形状のアルミニウム板10と板形状の水素発生促進部材12とを直接的に接触させた状態で、水酸化ナトリウム溶液14に浸漬する。なお、アルミニウム板10と水素発生促進部材12とは、クリップなどの固定部材16により固定される。また、水酸化ナトリウム溶液の液温は20℃であり、水酸化ナトリウム溶液は無攪拌である。そして、水酸化ナトリウムの濃度が5g/L、10g/L、50g/L、100g/L、200g/L、300g/L、400g/Lである7種類の水酸化ナトリウム溶液の各々に、アルミニウム板10と水素発生促進部材12とを接触させた状態で浸漬した際に発生した水素の量を測定した。なお、発生した水素は水上置換法により捕集し、捕集した水素の単位時間当たりの捕集量を水素発生量(ml/min)として測定した。なお、アルミニウム板と水素発生促進部材とを接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬した際に発生した水素発生量(以下、「促進部材使用時水素発生量」と記載する)を図3に示す。
また、ブランクテストとして、それら7種類の水酸化ナトリウム溶液の各々に板形状のアルミニウム板のみを浸漬した際に発生した水素発生量(ml/min)も測定した。なお、ブランクテストの水素発生量も図3に示す。
そして、ブランクテストの水素発生量に対する促進部材使用時水素発生量の比率(以下、「水素発生比率」)を演算し、その水素発生比率も図3に示す。
【0036】
また、液温が15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃である6種類の水酸化ナトリウム溶液の各々に、アルミニウム板と水素発生促進部材とを接触させた状態で浸漬した際の水素発生量も測定した。それら6種類の水酸化ナトリウム溶液の各々において測定された促進部材使用時水素発生量を図4に示す。なお、6種類の水酸化ナトリウム溶液の各々において、水酸化ナトリウムの濃度は100g/Lであり、アルミニウム板の表面積に対する水素発生促進部材の表面積の比率は1である。また、6種類の水酸化ナトリウム溶液の各々は無攪拌である。
また、ブランクテストとして、それら6種類の水酸化ナトリウム溶液の各々に板形状のアルミニウム板のみを浸漬した際に発生した水素発生量(ml/min)も測定した。なお、ブランクテストの水素発生量も図4に示す。
そして、ブランクテストの水素発生量に対する促進部材使用時水素発生量の水素発生比率を演算し、その水素発生比率も図4に示す。
【0037】
また、アルミニウム板の表面積に対する水素発生促進部材の表面積の比率を変更して、アルミニウム板と水素発生促進部材とを接触させた状態で浸漬した際の水素発生量も測定した。詳しくは、板形状(表面積0.075dm)のアルミニウム板と、板形状(0.75dm)の水素発生促進部材とを直接的に接触させた状態で、水酸化ナトリウム溶液に浸漬した際の水素発生量を測定した。つまり、アルミニウム板の表面積に対する水素発生促進部材の表面積の比率を10とする条件で、板形状のアルミニウム板と板形状の水素発生促進部材とを接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬した際の水素発生量を測定した。また、板形状(表面積0.75dm)のアルミニウム板と、板形状(0.075dm)の水素発生促進部材とを直接的に接触させた状態で、水酸化ナトリウム溶液に浸漬した際の水素発生量を測定した。つまり、アルミニウム板の表面積に対する水素発生促進部材の表面積の比率を0.1とする条件で、板形状のアルミニウム板と板形状の水素発生促進部材とを接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬した際の水素発生量を測定した。また、板形状(表面積0.75dm)のアルミニウム板と、板形状(0.75dm)の水素発生促進部材とを直接的に接触させた状態で、水酸化ナトリウム溶液に浸漬した際の水素発生量を測定した。つまり、アルミニウム板の表面積に対する水素発生促進部材の表面積の比率を1とする条件で、板形状のアルミニウム板と板形状の水素発生促進部材とを接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬した際の水素発生量を測定した。なお、水酸化ナトリウム溶液の濃度は100g/Lであり、水酸化ナトリウム溶液の液温は20℃である。また、水酸化ナトリウム溶液は無攪拌である。そして、表面積の比率を10とする条件と、1とする条件と、0.1とする条件との各々において測定された促進部材使用時水素発生量を図5に示す。
また、ブランクテストとして、アルミニウム板の表面積を変化させて水酸化ナトリウム溶液にアルミニウム板のみを浸漬した際に発生した水素発生量(ml/min)も測定した。なお、ブランクテストの水素発生量も図5に示す。
そして、ブランクテストの水素発生量に対する促進部材使用時水素発生量の水素発生比率を演算し、その水素発生比率も図5に示す。
【0038】
上述したように、板形状のアルミニウム板と板形状の水素発生促進部材とを接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬することで、効率的に水素を発生することが可能となる。詳しくは、図3に示すように、水酸化ナトリウム溶液の濃度が5~400g/Lの何れの範囲においても、水素発生比率は1.2以上である。つまり、水酸化ナトリウム溶液の濃度が5~400g/Lの何れの範囲においても、アルミニウム板のみを水酸化ナトリウム溶液に浸漬する場合と比較して、アルミニウム板と水素発生促進部材とを接触させて水酸化ナトリウム溶液に浸漬することで、1.2倍以上も効率的に水素を発生させることができる。特に、水酸化ナトリウム溶液の濃度が50~300g/Lの範囲では、水素発生比率は1.3以上であるため、効率的に水素を発生させることができる。さらに言えば、水素発生比率,単位時間当たりの水素発生量,継続して水素を発生させることが可能な時間等を考慮すると、水酸化ナトリウム溶液の濃度が100~300g/Lであることが好ましく、特に100g/Lであることが好ましい。
【0039】
また、図4に示すように、水酸化ナトリウム溶液の液温が15~40℃の何れの範囲においても、水素発生比率は1.1以上である。つまり、水酸化ナトリウム溶液の液温が15~40g/Lの何れの範囲においても、アルミニウム板のみを水酸化ナトリウム溶液に浸漬する場合と比較して、アルミニウム板と水素発生促進部材とを接触させて水酸化ナトリウム溶液に浸漬することで、1.1倍以上も効率的に水素を発生させることができる。特に、水酸化ナトリウム溶液の液温が20℃である場合には、水素発生比率は1.3であるため、効率的に水素を発生させることができる。
【0040】
また、図5に示すように、アルミニウム板の表面積に対する水素発生促進部材の表面積の比率が0.1~10の何れの範囲においても、水素発生比率は1.1以上である。つまり、アルミニウム板の表面積に対する水素発生促進部材の表面積の比率が0.1~10の何れの範囲においても、アルミニウム板のみを水酸化ナトリウム溶液に浸漬する場合と比較して、アルミニウム板と水素発生促進部材とを接触させて水酸化ナトリウム溶液に浸漬することで、1.1倍以上も効率的に水素を発生させることができる。特に、アルミニウム板の表面積に対する水素発生促進部材の表面積の比率が1である場合には、水素発生比率は1.3であるため、効率的に水素を発生させることができる。
【0041】
また、アルミニウム以外の金属と水素発生促進部材とを直接的に接触させた状態で、水酸化ナトリウム溶液に浸漬することでも、効率的に水素を発生させることができる。詳しくは、板形状(表面積0.75dm)の亜鉛板と、板形状(0.75dm)の水素発生促進部材とを直接的に接触させた状態で、水酸化ナトリウム溶液に浸漬する。つまり、亜鉛板の表面積に対する水素発生促進部材の表面積の比率を1とする条件で、板形状の亜鉛板と板形状の水素発生促進部材とを直接的に接触させた状態で、水酸化ナトリウム溶液に浸漬する。なお、水酸化ナトリウム溶液の濃度は100g/Lであり、水酸化ナトリウム溶液の液温は20℃である。また、水酸化ナトリウム溶液は無攪拌である。そして、亜鉛板と水素発生促進部材とを接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬した際の促進部材使用時水素発生量を測定した。なお、促進部材使用時水素発生量を図6に示す。
また、ブランクテストとして、水酸化ナトリウム溶液に亜鉛板のみを浸漬した際に発生した水素発生量(ml/min)も測定した。この際、水素は殆ど発生しなかったため、水素発生量は測定不能であった。このため、水素発生比率を演算することはできなかった。
【0042】
このように、板形状の亜鉛板と板形状の水素発生促進部材とを接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬することでも、効率的に水素を発生することが可能となる。つまり、亜鉛板のみを水酸化ナトリウム溶液に浸漬しても水素を発生させることはできないが、板形状の亜鉛板と板形状の水素発生促進部材とを接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬した場合には、水素を発生させることできる。このことから、アルミニウムや亜鉛といったアルカリ溶液中における腐食電位がニッケルより卑な金属と水素発生促進部材とを電気的に接続した状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬することで、水素を効率的に発生させることが可能となることが解る。
【0043】
また、水素発生促進部材と接触させる金属の形状に関わらず、効率的に水素を発生させることができる。詳しくは、粒形状(表面積2.2dm)の亜鉛粒(東邦亜鉛社製)と、粒形状(表面積2.5dm)の水素発生促進部材とを直接的に接触させた状態で、水酸化ナトリウム溶液に浸漬する。つまり、亜鉛粒の表面積に対する水素発生促進部材の表面積の比率を1.14とする条件で、粒形状の亜鉛と粒形状の水素発生促進部材とを直接的に接触させた状態で、水酸化ナトリウム溶液に浸漬する。なお、水酸化ナトリウム溶液の濃度は100g/Lであり、水酸化ナトリウム溶液の液温は20℃である。また、水酸化ナトリウム溶液は無攪拌である。そして、亜鉛粒と水素発生促進部材とを接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬した際の促進部材使用時水素発生量を測定した。なお、促進部材使用時水素発生量を図7に示す。
また、ブランクテストとして、水酸化ナトリウム溶液に亜鉛粒のみを浸漬した際に発生した水素発生量(ml/min)も測定した。この際、水素は殆ど発生しなかったため、水素発生量は測定不能であった。このため、水素発生比率を演算することはできなかった。
【0044】
このように、粒形状の亜鉛板と水素発生促進部材とを接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬することでも、効率的に水素を発生することが可能となる。つまり、亜鉛粒のみを水酸化ナトリウム溶液に浸漬しても水素を発生させることはできないが、亜鉛粒と水素発生促進部材とを接触させた状態で水酸化ナトリウム溶液に浸漬した場合には、水素を発生させることできる。このことから、水素発生促進部材と接触させる金属の形状に関わらず、効率的に水素を発生させることが可能となることが解る。
【0045】
また、アルミニウムと水素発生促進部材とを接触させた状態で、水酸化ナトリウム溶液以外のアルカリ溶液に浸漬することでも、効率的に水素を発生させることができる。詳しくは、板形状(表面積0.75dm)のアルミニウム板と、板形状(表面積0.75dm)の水素発生促進部材とを直接的に接触させた状態で、水酸化カリウム溶液に浸漬する。なお、水酸化カリウム溶液の濃度は100g/Lであり、水酸化カリウム溶液の液温は20℃である。また、水酸化カリウム溶液は無攪拌である。そして、アルミニウム板と水素発生促進部材とを接触させた状態で水酸化カリウム溶液に浸漬した際の促進部材使用時水素発生量を測定した、なお、促進部材使用時水素発生量を図8に示す。
また、ブランクテストとして、水酸化カリウム溶液にアルミニウム板のみを浸漬した際に発生した水素発生量(ml/min)も測定した。なお、ブランクテストの水素発生量も図8に示す。
そして、ブランクテストの水素発生量に対する促進部材使用時水素発生量の水素発生比率を演算し、その水素発生比率も図8に示す。
【0046】
このように、アルミニウム板と水素発生促進部材とを接触させた状態で水酸化カリウム溶液に浸漬することでも、効率的に水素を発生することが可能となる。つまり、アルミニウム板と水素発生促進部材とを接触させて水酸化カリウム溶液に浸漬することで、水素発生比率は1.3となり、アルミニウム板のみを水酸化カリウム溶液に浸漬する場合と比較して、1.3倍も効率的に水素を発生させることができる。このことから、アルミニウムと水素発生促進部材とを電気的に接続した状態で、水酸化ナトリウム溶液や水酸化カリウム溶液といったアルカリ溶液に浸漬することで、水素を効率的に発生させることが可能となることが解る。
【0047】
このように、水素発生促進部材と、アルカリ溶液中における腐食電位がニッケルより卑な金属とを電気的に接続した状態でアルカリ溶液に浸漬することで、効率的に水素を発生させることができる。この際、図9に示すように、水素発生促進部材と金属とを電気的に接続した状態でアルカリ溶液に浸漬するだけで、水素を発生させることができる。このため、複雑でない簡便な水素製造装置により水素を発生させることができる。また、電力を用いることなく、水素を発生させることができるため、ローコストな水素を確保できる。特に、上述したように、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液は無攪拌であっても、効率的に水素を発生させることができるため、攪拌に要する電力をも要しないことから、ローコストな水素を確保することができる。
【0048】
また、上記手法により発生した水素を水上置換法により捕集し、捕集した水素の純度をガスクロマトグラフ(GC-2014:株式会社島津製作所製)により測定したところ、水素の純度は98.3%であった。このように、水素発生促進部材と、アルカリ溶液中における腐食電位がニッケルより卑な金属とを電気的に接続した状態でアルカリ溶液に浸漬して水素を発生させることで、高純度な水素を確保することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9