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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113351
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】電波散乱体
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015664
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 壮広
(72)【発明者】
【氏名】小柳 慎一郎
【テーマコード(参考)】
5J020
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020BA06
5J020DA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電波の不感地帯を削減する電波散乱体を提供する。
【解決手段】電波を散乱する電波散乱体100は、矩形の平板形状である基部1と、基部1の一方の面に相互に隣接して並べられ、電波を散乱する複数の平板部2と、を備える。複数の平板部2の幅は、相互に同じであり、複数の平板部2の厚みは、所定の演算式に基づいて定められている。所定の演算式は、複数の平板部2をアレイアンテナの放射素子とみなしたことに基いて定められる電波散乱体100の散乱パターンと、複数の平板部2で反射された電波が干渉によって強め合う条件とに基づいて定められており、少なくとも、各回折次数における電波散乱体100により散乱される電波の電界値と、複数の平板部2の厚さに対応する位相量と、の関係を示している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を散乱する電波散乱体であって、
相互に隣接して並べられている複数の板状部分であって、電波を散乱する前記複数の板状部分、を備え、
前記複数の板状部分の幅は相互に同じであり
前記複数の板状部分の厚みは、所定の演算式に基づいて定められており、
前記所定の演算式は、前記複数の板状部分をアレイアンテナの放射素子とみなしたことに基いて定められる前記電波散乱体の散乱パターンと、前記複数の板状部分で反射された電波が干渉によって強め合う条件とに基づいて定められており、
前記所定の演算式は、少なくとも、各回折次数における前記電波散乱体により散乱される電波の電界値と、前記複数の板状部分の厚さに対応する位相量と、の関係を示している、
電波散乱体。
【請求項2】
前記複数の板状部分は、金属製である、
請求項1に記載の電波散乱体。
【請求項3】
前記複数の板状部分は、相互に連続して隣接するK(Kは2以上の整数)個の板状部分を1ユニットとして、複数ユニット分設けられており、
前記複数の板状部分は、前記複数ユニット各々において周期的に配置されている、
請求項1又は2に記載の電波散乱体。
【請求項4】
前記所定の演算式は、次の数式であり、
【数1】
上記数式において、
Esum(m)は、各回折次数における前記電波散乱体により散乱される電波の電界値を示し、
mは、回折次数を示し、
Kは、前記1ユニットにおける板状部分の個数を示し、
Nは、前記複数のユニットの個数を示し、
Akは、前記複数の板状部分における散乱振幅値を示し、
δkは、前記複数の板状部分の厚さに対応する位相量を示す、
請求項3に記載の電波散乱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波散乱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屋内の無線通信環境を向上させるために屋内に電波吸収体を配置するような技術が知られていた。(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-261283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、無線通信を行う場合において、比較的高い周波数帯の電波を用いる場合、当該電波の直進性が比較的強く、電波の不感地帯(無線通信可能なレベルの電波が到達しない領域)が発生しやすくなることが想定され、電波の不感地帯を削減する技術が要望されていた。
【0005】
本発明は上記事実に鑑みなされたもので、電波の不感地帯を削減することが可能となる電波散乱体を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の電波散乱体は、電波を散乱する電波散乱体であって、相互に隣接して並べられている複数の板状部分であって、電波を散乱する前記複数の板状部分、を備え、前記複数の板状部分の幅は相互に同じであり前記複数の板状部分の厚みは、所定の演算式に基づいて定められており、前記所定の演算式は、前記複数の板状部分をアレイアンテナの放射素子とみなしたことに基いて定められる前記電波散乱体の散乱パターンと、前記複数の板状部分で反射された電波が干渉によって強め合う条件とに基づいて定められており、前記所定の演算式は、少なくとも、各回折次数における前記電波散乱体により散乱される電波の電界値と、前記複数の板状部分の厚さに対応する位相量と、の関係を示している。
【0007】
請求項2に記載の電波散乱体は、請求項1に記載の電波散乱体において、前記複数の板状部分は、金属製である。
【0008】
請求項3に記載の電波散乱体は、請求項1又は2に記載の電波散乱体において、前記複数の板状部分は、相互に連続して隣接するK(Kは2以上の整数)個の板状部分を1ユニットとして、複数ユニット分設けられており、前記複数の板状部分は、前記複数ユニット各々において周期的に配置されている。
【0009】
請求項4に記載の電波散乱体は、請求項3に記載の電波散乱体において、前記所定の演算式は、次の数式であり、
【数1】
上記数式において、Esum(m)は、各回折次数における前記電波散乱体により散乱される電波の電界値を示し、mは、回折次数を示し、Kは、前記1ユニットにおける板状部分の個数を示し、Nは、前記複数のユニットの個数を示し、Akは、前記複数の板状部分における散乱振幅値を示し、δkは、前記複数の板状部分の厚さに対応する位相量を示す。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の電波散乱体によれば、電波を散乱する複数の板状部分を備えることにより、例えば、電波を散乱させることができるので、電波の不感地帯を削減することが可能となる。また、複数の板状部分の厚みが所定の演算式に基づいて定められることにより、例えば、複数の板状部分の厚みを容易に定めることができるので、電波散乱体を容易に設計することが可能となる。
【0011】
請求項2に記載の電波散乱体によれば、複数の板状部分は金属製であることにより、例えば、電波散乱体での電波の減衰を抑えることができるので、電波散乱体に入射した電波のレベルを維持した状態で散乱することが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の電波散乱体によれば、相互に連続して隣接するK(Kは2以上の整数)個の板状部分を1ユニットとして、複数ユニット分設けられており、複数の板状部分は複数ユニット各々において周期的に配置されていることにより、例えば、電波が本電波散乱体に入射することで回折波が発生し、電波を散乱させることができる。
【0013】
請求項4に記載の電波散乱体によれば、所定の演算式は数1の演算式であることにより、例えば、比較的単純な演算式に基づいて板状部分の厚みを容易に定めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態に係る電波散乱体の設置状態を示す図ある。
図2】電波散乱体の斜視図である。
図3】電波散乱体の正面図である。
図4】電波散乱体の正面図である。
図5図4の一部の拡大図である。
図6】平板部の厚みを決定するための演算式を示す図である。
図7】電波散乱体を説明するための文字を例示した図である。
図8】平板部の厚みの決定手法を説明するための図である。
図9】電波散乱体によって散乱される電波に関する図である。
図10】電波散乱体によって散乱される電波に関する図である。
図11】電波散乱体によって散乱される電波に関する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る電波散乱体の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
〔I〕実施の形態の基本的概念
まず、実施の形態の基本的概念について説明する。実施の形態は、電波散乱体に関する。本発明に係る電波散乱体は、電波を散乱する物である。この電波散乱体の設置位置は任意であり、例えば、室内又は室外に設置することができる。
【0017】
〔II〕実施の形態の具体的内容
次に、実施の形態の具体的内容について説明する。
【0018】
(構成‐電波散乱体)
図1は、電波散乱体の設置状態を示す図であり、図2は、電波散乱体の斜視図であり、図3図4は、電波散乱体の正面図であり、図5は、図4の一部の拡大図である。
【0019】
なお、図1においては、電波散乱体100が設置されている部屋の内部が簡略化して図示されている。図4及び図5においては、電波散乱体に関する説明のための補助線が、説明の便宜上、細線にて図示されている。
【0020】
また、各図のX-Y-Z軸は相互に直交していることとし、Z軸が電波散乱体100の高さ方向(各平板部2の厚み方向)を示しており、また、X軸が複数の平板部2が並べられている方向(各平板部2の幅方向)を示しており、また、Y軸が各平板部2が延在している方向(各平板部2の長さ方向)を示していることして説明する。
【0021】
電波散乱体100は、電波が照射された場合に当該電波を散乱する物であり、例えば、電波の電波散乱体100への入射角度以外の角度にも当該電波を反射して散乱するものである。電波散乱体100は、例えば、表面(+Z方向)に凹凸パターンを有するものであり、図1に示すように例えば、天井に設置されて用いられる。
【0022】
そして、図1では不図示であるが、図1の部屋には、例えば、所定周波数帯(一例としては、5G通信に対応する28GHz帯)の無線通信用の電波を送受信する通信装置が設置されていることとする。そして、この通信装置から送信された電波が、電波散乱体100によって散乱されて、比較的広範囲に到達することになり、電波の不感地帯(無線通信可能なレベルの電波が到達しない領域)を削減することが可能となる。
【0023】
また、電波散乱体100の設置位置は天井に限らず、例えば、壁、床等を含む任意の位置に設置してもよい。
【0024】
電波散乱体100は、図2及び図3に示すように例えば、基部1、及び複数の平板部2を備える。
【0025】
(構成‐電波散乱体‐基部)
基部1は、複数の平板部2が配置される部分であり、例えば、矩形の平板形状である。基部1の一方の面(+Z方向)には複数の平板部2が固定されて配置され、他方の面(-Z方向)は部屋の天井(図1)に取り付けられる。基部1の一方の面は、図3に示すように、凹凸が無く同じ高さの平面となっており、すなわち、XY平面に平行な平面である。基部1の材質は任意であり、例えば、金属製であってもよく、樹脂製であってもよい。
【0026】
(構成‐電波散乱体‐平板部)
平板部2は、電波を散乱する凹凸パターンを形成するものであり、図3に示すように例えば、相互に隣接して並べられている板状の部分(板状部分)であって、電波を散乱する複数の部分である。各平板部2は、所定の厚み(厚さ)及び所定の幅を有し、長さ方向(Y軸方向)において延在する形状である。複数の平板部2の幅は、相互に同じである。各平板部2の厚みは、所定の演算式に基づいて決定されている。なお、各平板部2の厚みの決定については後述する。
【0027】
平板部2の材質は任意であり、例えば、金属製、樹脂製、又は他の材質を用いて形成してもよいが、本実施の形態では、平板部2での電波の減衰を抑える観点から、平板部2が金属にて形成されている金属板である場合を例示して説明する。
【0028】
複数の平板部2は、厚みを基準としたユニット単位で構成されており、1個のユニットのみとして構成してもよいし、複数ユニット(つまり、2個以上のユニット)として構成してもよいが、本実施の形態では、相互に連続して隣接する7個の平板部2を1個のユニットとし、2個のユニットとして構成する場合を例示して説明する。
【0029】
すなわち、複数の平板部2は、当該平板部2が並べられている方向(X軸)において、各ユニットに属する対応する平板部2の厚みが相互に同じになるように構成されている。具体的には、各ユニットにおける相互に対応する位置に設けられている平板部2の厚みが相互に同じになるように構成されている。各ユニットにおける相互に対応する位置に設けられている平板部2とは、各ユニット内において、電波散乱体100の一方側(例えば、図4の-X方向)から数えて同じ順番に該当する平板部2を示す概念である。つまり、各平板部2の厚みに関して、複数の平板部2は、複数ユニット各々において周期的に配置されている。
【0030】
本実施の形態では、例えば、1ユニット目の1番目の平板部201の厚みと、2ユニット目の1番目の平板部208の厚みとが相互に同じになるように構成されており、また、1ユニット目の2番目~7番目の平板部202~207の厚みと、2ユニット目の2番目~7番目の平板部208~214の厚みとが相互に同じになるように構成されている場合について説明する。
【0031】
(平板部の厚みを決定する手法)
次に、電波散乱体100の複数の平板部2の厚みを決定する手法について説明する。すなわち、電波散乱体100の凹凸パターンを決定する手法について説明する。図6は、平板部の厚みを決定するための演算式を示す図である。
【0032】
複数の平板部2の厚みについては、概略的には、図6の演算式(1)及び演算式(2)によって導出される演算式(3)に基づいて、電波散乱体100の特性に応じて決定される。ここでは、例えば、各演算式について説明した後、複数の平板部2の厚みを決定する手法について説明する。
【0033】
===文字===
まず、以下の説明で用いられる文字について説明する。図7は、電波散乱体を説明するための文字を例示した図である。図7の「文字」の欄に示す文字は、「内容」の欄に示す内容を示している。
【0034】
例えば、図4等の「w」は、平板部2の幅を示している。
【0035】
また、「k」は、平板部2を特定する番号を示しており、詳細には、図4に示すように、電波散乱体100の一方側(-X方向)から他方側(+X方向)に向かって数えた順番に対応する番号を示している。図4の例では、「k」が「1」であることを示す「k=1」は、図3の平板部201を示しており、また、「k=2」は、平板部202を示している。
【0036】
「K」は、1ユニット内に含まれる平板部2の個数を示しており、この「K」の値は2以上である。図4の例では、1ユニット内に7個の平板部2が含まれているので、「K」の値は「7」となる。
【0037】
「N」は、電波散乱体100に含まれるユニットの個数を示している。図4の例では、電波散乱体100内に2個のユニットが含まれているので、「N」の値は「2」となる。
【0038】
「θ」は、平板部2側からの平面波が強め合う方向に対応する角度を示しており、具体的には、平板部2で反射して散乱された電波に対応する平面波が強め合う方向に対応する角度を示しており、図4に示すXZ平面における角度を示している。
【0039】
「D」は、厚み方向(図4のZ軸方向)における基準面900と各平板部2の天面との間の距離を示している。なお、「基準面」900とは平板部2の厚みを決定するために基準とする面であり、厚み方向における所定位置に定められる面である。基準面900は、XY平面に平行な面である。基準面900については、任意の位置に設定することができるが、図4では、説明の便宜上、「k=2」及び「k=4」の平板部2の天面に対応する位置に図示されている。また、図4の例では、基準面900と「k=1」の平板部2の天面との間の距離を示す部分に「D」が代表して図示されている。
【0040】
「h」は、各平板部2の厚みを示している。図4の例では、「k=1」の平板部2の厚みを示す部分に「h」が代表して図示されている。
【0041】
図6の演算式(1)等の「λ」は、電波散乱体100に照射される(入射する)電波の波長を示している。
【0042】
図6の演算式(1)等の「Ak」は、各平板部2の散乱振幅値を示している。「散乱振幅値」とは、平板部2によって反射されて散乱される電波の振幅の大きさに対応する概念であり、例えば、平板部2の材質によって定まる固定値である。なお、「Ak」の「k」は、前述の「k」を示しており、すなわち、「k=1」に対応する「A1」は、「k=1」の平板部2の散乱振幅値を示しており、また、「k=2」に対応する「A2」は、「k=2」の平板部2の散乱振幅値を示している。そして、本実施の形態では、複数の平板部2が相互に同じ金属材料にて形成されていることとし、各平板部2の「Ak」が相互に同じである場合について説明する。
【0043】
図6の演算式(1)等の「δk」は、各平板部2の厚さに対応する位相量を示している。「位相量」とは、前述の「D」(基準面900と各平板部2の天面との間の距離)に応じて定まる量であり、例えば、当該「D」に対応する光学的な距離を示す概念である。なお、「δk」の「k」は、前述の「k」を示しており、すなわち、「k=1」に対応する「δ1」は、「k=1」の平板部2の位相量を示しており、また、「k=2」に対応する「δ2」は、「k=2」の平板部2の位相量を示している。
【0044】
図6の演算式(2)等の「α」は、平板部2側からの平面波が強め合う方向に対応する角度を示しており、前述の「θ」と同様な概念を示している。
【0045】
図6の演算式(2)等の「m」は、回折次数を示している。
【0046】
===演算式===
次に、各演算式について説明する。なお、ここでは、図4及び図5に示すように例えば、電波散乱体100に対して電波に対応する平面波が+Z方向から-Z方向に向かって垂直入射した場合を例示して説明する。
【0047】
=演算式(1)=
図6の演算式(1)は、複数の平板部2をアレイアンテナの放射素子とみなしたことに基いて定められる電波散乱体100の散乱パターンを示す式である。
【0048】
なお、演算式(1)の「Esum(θ)」は、電波散乱体100で反射されて散乱される電波の散乱パターンを示しており、具体的には、角度θ方向における各平板部2からの相互に重ね合わされた反射波の電界強度を示している。
【0049】
なお、演算式(1)の「g(θ)」は、アレイアンテナ理論における素子1個での放射パターンに対応する概念であり、本実施の形態では、各平板部2における散乱パターンを示す概念であり、各平板部2において相互に同じ値となる。
【0050】
また、演算式(1)の「D(θ)」におけるexp項内は、各平板部2の間の光学的な距離又は光学的な距離の差を示しており、例えば、図5の「k=2」及び「k=3」の平板部において、「(2π/λ)wsinθ」は、図5の符号901で示す部分の光学的な距離を示しており、また、「δk(具体的にはδ3)」は、図6の符号902で示す部分の光学的な距離を示している。
【0051】
電波散乱体100については、電波の平面波が各平板部2に入射されると、各平板部2にて反射波を放射することになる。各平板部2の厚みが相互に異なることから、位相量がδkの放射素子が配列されているアレイアンテナと考えて、当該アレイアンテナによる放射パターンに対応する散乱パターンを、電波散乱体100による散乱パターンと考えることができる。よって、電波散乱体100の散乱パターンを示す演算式として、演算式(1)を用いることができる。
【0052】
=演算式(2)=
図6の演算式(2)は、電波散乱体100で反射されて散乱される電波の干渉によって各電波に対応する平面波が強め合う条件を示す演算式であり、具体的には、ユニット単位での強め合う条件を示す演算式である。この演算式(2)は、例えば、電波散乱体100を格子定数Kwの反射型回折格子とみなして、各要素である平板部2で反射された電波に対応する平面波が干渉によって強め合う条件(つまり、電波散乱体100を格子定数Kwの回折格子とみなして、当該回折格子で回折される電波に対応する波が干渉によって強め合う条件)を示している。
【0053】
=演算式(3)=
図6の演算式(3)は、所定の演算式であって、少なくとも、各回折次数における電波散乱体100により散乱される電波の散乱パターン(つまり、電界強度(電界値))である「Esum(m)」と、複数の平板部2の厚さに対応する位相量である「δk」との関係を示している。
【0054】
この演算式(3)については、強め合い条件を示す演算式(2)において、「α」を演算式(1)に対応する「θ」に変換した上で、当該変換された演算式(2)の「sinθ=mλ/Kw」を演算式(1)に代入して、演算式(1)を「m」を変数とする演算式に変換することにより、演算式(3)が導出される。
【0055】
===決定手法===
次に、演算式(3)を用いて行う平板部2の厚みの決定手法について説明する。図8は、平板部の厚みの決定手法を説明するための図である。ここでは、例えば、図8の「共通条件」に示すように、「28GHz」の周波数の電波が図4に示すように電波散乱体100に垂直入射する場合において、平板部2の幅が「10.71mm」であり、1ユニットの周期が「74.97mm」であり、電波散乱体100の全体の幅が「149.94mm」である場合について説明する。すなわち、1ユニット内に含まれる平板部2が7個(K=7)であり、電波散乱体100内のユニットの個数が2個(N=2)である場合について説明する。また、図8では不図示であるが、各平板部2の散乱振幅値である「Ak」が所定の数値(例えば、「1」)である場合について説明する。なお、この「Ak」については、事前に行われる実験又はシミュレーションを含む任意の手法で定めた値を用いてもよい。
【0056】
上述の共通条件の下で、各回折次数における電波散乱体100により散乱される電波の散乱パターンが、以下の設計方針1及び設計方針2に対応する散乱パターンになる場合の、平板部2の厚みを決定する場合について説明する。
【0057】
=設計方針1=
設計方針1は、回折次数m=0、m=±1、m=±2、及びm=±3の散乱パターンのピークが相互に等しくなるように平板部2の厚みを決定する方針である。
【0058】
この場合、図6の演算式(3)において、m=0、m=±1、m=±2、及びm=±3を代入して導出されるEsum(0)、Esum(±1)、Esum(±2)、Esum(±3)の7個の演算式が同じ値となるので、例えば、Esum(0)=1、Esum(±1)=1、Esum(±2)=1、Esum(±3)=1の合計7個の方程式が導出される。なお、これらの式の右辺についてはここでは「1」としているが、相互に同じ数値である限りにおいて他の数値を用いてもよい。
【0059】
なお、図6の演算式(3)のD(m)の式の右辺に示されている「δk」の「k」は、「k=1」~「k=14」まで代入されることになるが、電波散乱体100の平板部2の厚みが、ユニット単位で周期的に構成されているので、δ1=δ8、δ2=δ、δ3=δ10、δ4=δ11、δ5=δ12、δ6=δ13、δ7=δ14となる。すなわち、上記の合計7個の方程式においては、δ1~δ7の7個の変数(未知数)が設けられているので、この7個の方程式を解くことにより、δ1~δ7を求めることが可能となる。
【0060】
ここでは、例えば、まず、設計方針1に対応する値を演算式(3)に代入することにより、Esum(0)=1、Esum(±1)=1、Esum(±2)=1、Esum(±3)=1の合計7個の方程式を導出し、この7個の方程式を解くことにより、δ1~δ7を求める。次に、図8の共通条件に定められている「28GHz」に基づいて、電波の波長を演算し、演算した電波の波長を利用して、前述の求めたδ1~δ7に対応する基準面900と各平板部2の天面との間の距離「D」(図4)を求めて、この求めた「D」となるように、平板部2の厚み(図4の「h」)を決定する。
【0061】
なお、δ1~δ7に対応する基準面900と各平板部2の天面との間の距離「D」(図4)を求める具体的な手法は任意であるが、例えば、(2D/λ)×2π=δkを解いた解を「D」の値としてもよい。
【0062】
なお、7個の方程式を解いてδ1~δ7を求める場合において、この方程式において解なしとなることも想定されるが、この場合、最小二乗法等の任意の手法を用いて解に近い値を求めて、この求めた値をδ1~δ7として用いてもよい。
【0063】
=設計方針2=
設計方針2は、回折次数m=0の散乱パターンのピークが「0」となり、m=±1、m=±2、及びm=±3の散乱パターンのピークが相互に等しくなるように平板部2の厚みを決定する方針である。
【0064】
ここでは、例えば、まず、設計方針2に対応する値を演算式(3)に代入することにより、Esum(0)=0、Esum(±1)=1、Esum(±2)=1、Esum(±3)=1の合計7個の方程式を導出し、この7個の方程式を解くことにより、δ1~δ7を求める。この後、設計方針1の場合と同様にして、各平板部2の厚みを決定する。
【0065】
(検証)
次に、前述の「(平板部の厚みを決定する手法)」を適用して決定した厚みを有する平板部2(つまり、凹凸パターン)を備える電波散乱体100の検証結果について説明する。図9図11は、電波散乱体によって散乱される電波に関する図である。各図の(a)は、設計方針1に対応する厚み(つまり、設計方針1において決定された厚み)の平板部2を有する電波散乱体100による電波の散乱特性(つまり、散乱パターン、散乱強度)を示している。また、各図の(b)は、設計方針2に対応する厚み(つまり、設計方針2において決定された厚み)の平板部2を有する電波散乱体100による電波の散乱特性(つまり、散乱パターン、散乱強度)を示している。
【0066】
なお、図9の各散乱特性は、前述の「(平板部の厚みを決定する手法)」を適用して決定した厚みを有する平板部2を備える電波散乱体100に関して、平板部2の各厚みを考慮して演算した電波散乱体100による電波の散乱特性(つまり、散乱強度)を示している。すなわち、図9は、平板部2の各厚みを考慮して求められる理論値に対応する散乱特性を示している。この理論値を求めるための理論式は任意であるが、例えば、図6の演算式(1)に対応する式を用いてもよい。また、図10は、前述の「(平板部の厚みを決定する手法)」を適用して決定した厚みを有する平板部2を備える電波散乱体100に関して、FDTD法(Finite Difference Time Domain Method)による電磁波解析を用いて行った解析結果に対応する散乱特性を示している。また、図11は、前述の「(平板部の厚みを決定する手法)」を適用して決定した厚みを有する平板部2を備える電波散乱体100に関して、実際に測定を行った測定結果(測定値)に対応する散乱特性を示している。
【0067】
図9図11の(a)の場合については、回折次数がm=0、m=±1、m=±2、及びm=±3の場合において、ほぼ同じピークを示しているので、前述の手法を用いて決定された平板部2の厚さを適用することにより、設計方針1に対応する電波散乱体100が設計されていることが確認された。また、図9図11の(a)のグラフにおいて、m=0、m=±1、m=±2、及びm=±3に関して、相互に同様な傾向が確認されたので、複数種類の検証手法によって、前述の手法を用いて決定された平板部2の厚みを適用することにより、設計方針1に対応する電波散乱体100が設計されていることが確認された。
【0068】
図9図11の(b)の場合については、回折次数がm=±1、m=±2、及びm=±3の場合において、ほぼ同じピークを示しており、回折次数がm=0の場合において、極めて低いピークを示しており、m=±1、m=±2、及びm=±3の場合において、ほぼ同じピークを示しているので、前述の手法を用いて決定された平板部2の厚さを適用することにより、設計方針2に対応する電波散乱体100が設計されていることが確認された。また、図9図11の(b)のグラフにおいて、m=0、m=±1、m=±2、及びm=±3に関して、相互に同様な傾向が確認されたので、複数種類の検証手法によって、前述の手法を用いて決定された平板部2の厚みを適用することにより、設計方針2に対応する電波散乱体100が設計されていることが確認された。
【0069】
(本実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、電波を散乱する複数の平板部2を備えることにより、例えば、電波を散乱させることができるので、電波の不感地帯を削減することが可能となる。また、複数の平板部2の厚みが所定の演算式に基づいて定められることにより、例えば、複数の平板部2の厚みを容易に定めることができるので、電波散乱体100を容易に設計することが可能となる。
【0070】
〔III〕実施の形態に対する変形例
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。
【0071】
(平板部について)
また、上記実施の形態では、図2及び図3に示すように、基部1に平板部2を配置することにより、電波散乱体100を形成する場合について説明したが、これに限らない。例えば、基部1に対応する部分及び平板部2に対応する部分を一体的に形成してもよい。すなわち、凹凸パターンを有する図2及び図3の電波散乱体100となるように、所定の厚みを有する金属板を削ることにより、電波散乱体100を形成してもよいし、あるいは、所定の金型を用いて電波散乱体100を形成してもよい。
【0072】
(平面波の入射方向について)
また、上記実施の形態では、電波散乱体100に対して電波に対応する平面波が垂直入射する場合について説明したが、これに限らず、斜め方向から平面波が入射することとしてもよい。この場合、図6の演算式(1)における「D(θ)」を示す上辺のexp項内の第1項の式を、斜め方向から平面波が入射する場合に対応する式に変更してもよい。
【0073】
(個数について)
また、上記実施の形態では、1ユニット内に含まれる平板部2の個数が7個であり、電波散乱体100に含まれるユニットの個数が2個である場合を例示して説明しが、これらの個数に限らず、他の個数に変更して電波散乱体100を設計して設けてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 基部
2 平板部
100 電波散乱体
201 平板部
202 平板部
203 平板部
204 平板部
205 平板部
206 平板部
207 平板部
208 平板部
209 平板部
210 平板部
211 平板部
212 平板部
213 平板部
214 平板部
900 基準面
901 符号
902 符号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11