(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113367
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】油性固形化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20230808BHJP
A61Q 1/04 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015696
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】390041036
【氏名又は名称】株式会社日本色材工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】中森 大貴
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 昌也
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 みどり
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA121
4C083AA122
4C083AB232
4C083AB242
4C083AB432
4C083AC022
4C083AC392
4C083AC422
4C083AC792
4C083AC852
4C083AD492
4C083AD662
4C083BB13
4C083CC13
4C083DD21
4C083DD30
4C083EE01
4C083EE03
4C083EE06
(57)【要約】
【課題】 植物性固形油のみを用いながら安定性と使用性に優れた油性固形化粧料を提供する。
【解決手段】 下記の成分:(A)(a1)ヒマワリ種子ロウおよび(a2)キャンデリラロウを含み、かつ、合成系または鉱物系の固形油を含まない固形油剤、ならびに(B)(b)IOB値が0.1以上の液状油を含む液状油剤を含んでなる油性固形化粧料であって、前記成分(A)における成分(a1)および成分(a2)の合計含有量(((a1)+(a2))/(A))が25質量%以上であり、かつ、成分(a1)に対する成分(a2)の質量比((a1):(a2))が95:5~50:50であり、前記成分(B)における成分(b)の含有量((b)/(B))が30質量%以上であり、前記化粧料における成分(A)の含有量が4~16質量%である、油性固形化粧料。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分:
(A)(a1)ヒマワリ種子ロウおよび(a2)キャンデリラロウを含み、かつ、合成系または鉱物系の固形油を含まない固形油剤、ならびに
(B)(b)IOB値が0.1以上の液状油を含む液状油剤
を含んでなる油性固形化粧料であって、
前記成分(A)における成分(a1)および成分(a2)の合計含有量(((a1)+(a2))/(A))が25質量%以上であり、かつ、成分(a1)に対する成分(a2)の質量比((a1):(a2))が95:5~50:50であり、
前記成分(B)における成分(b)の含有量((b)/(B))が30質量%以上であり、
前記化粧料における成分(A)の含有量が4~16質量%である、油性固形化粧料。
【請求項2】
前記化粧料における成分(A)の含有量が5~14質量%である、請求項1に記載の油性固形化粧料。
【請求項3】
(b)/(B)が35質量%以上である、請求項1または2に記載の油性固形化粧料。
【請求項4】
((a1)+(a2))/(A)が30質量%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の油性固形化粧料。
【請求項5】
(a1):(a2)が90:10~60:40である、請求項1~4のいずれか1項に記載の油性固形化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性固形化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油性固形化粧料では、高い安定性と使用性を両立するために、固形油としてパラフィンやマイクロクリスタリンワックスなどの合成系または鉱物系の固形油が一般的に使用されている。
【0003】
一方、世界的な環境配慮の高まりから、合成系または鉱物系の成分を含まないSDGs対応の化粧品が求められている。しかし、植物性固形油のみを用いた油性固形化粧料では十分な安定性を優れた使用感を得ることが難しく(特許文献1)、植物性固形油に加えて合成系・鉱物系固形油が使用されているのが現状である。例えば、特許文献2に開示される植物性固形油を用いた油性固形化粧料は、その安定性と使用感を改善するための必須成分としてポリエチレンワックスを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-224707号公報
【特許文献2】特開2006-248997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の諸問題を解消するためになされたものであり、植物性固形油のみを用いながら安定性と使用性に優れた油性固形化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の植物性固形油に、特定の極性を有する液状油を特定の比率で配合することにより、合成系または鉱物系の固形油を用いずとも高い安定性と使用性を達成できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の成分:(A)(a1)ヒマワリ種子ロウおよび(a2)キャンデリラロウを含み、かつ、合成系または鉱物系の固形油を含まない固形油剤、ならびに(B)(b)IOB値が0.1以上の液状油を含む液状油剤を含んでなる油性固形化粧料であって、前記成分(A)における成分(a1)および成分(a2)の合計含有量(((a1)+(a2))/(A))が25質量%以上であり、かつ、成分(a1)に対する成分(a2)の質量比((a1):(a2))が95:5~50:50であり、前記成分(B)における成分(b)の含有量((b)/(B))が30質量%以上であり、前記化粧料における成分(A)の含有量が4~16質量%である、油性固形化粧料を提供するものである。
【0008】
前記化粧料における成分(A)の含有量は、5~14質量%であることが好ましい。
【0009】
(b)/(B)は、35質量%以上であることが好ましい。
【0010】
((a1)+(a2))/(A)は、30質量%以上であることが好ましい。
【0011】
(a1):(a2)は、90:10~60:40であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い安定性と使用性を備えた環境配慮型の油性固形化粧料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明は、下記の成分:(A)(a1)ヒマワリ種子ロウおよび(a2)キャンデリラロウを含み、かつ、合成系または鉱物系の固形油を含まない固形油剤、ならびに(B)(b)IOB値が0.1以上の液状油を含む液状油剤を含んでなる油性固形化粧料であって、前記成分(A)における成分(a1)および成分(a2)の合計含有量(((a1)+(a2))/(A))が25質量%以上であり、かつ、成分(a1)に対する成分(a2)の質量比((a1):(a2))が95:5~50:50であり、前記成分(B)における成分(b)の含有量((b)/(B))が30質量%以上であり、前記化粧料における成分(A)の含有量が4~16質量%である、油性固形化粧料である。
【0015】
成分(A)は、固形油剤である。ここで、固形油剤とは、室温において固体状またはペースト状である油剤をいう。本発明における固形油剤(A)は、(a1)ヒマワリ種子ロウおよび(a2)キャンデリラロウを含み、一方で、合成系または鉱物系の固形油を含まない。したがって、本発明における固形油剤(A)には、パラフィン、ポリエチレン、ワセリン、セレシン、マイクロクリスタリンワックスなどは含まれない。
【0016】
本発明の油性固形化粧料は、成分(A)の総質量を100%としたとき、成分(a1)ヒマワリ種子ロウおよび成分(a2)キャンデリラロウを、合計で25質量%以上含有することが必要である。成分(a1)および成分(a2)の合計含有量が25質量%未満である場合には、化粧料の保形性や安定性が低下してしまうためである。より確実に化粧料の保形性や安定性を高めるためには、成分(A)における成分(a1)および成分(a2)の合計含有量は30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましい。
【0017】
さらに、成分(A)において、(a1)ヒマワリ種子ロウおよび(a2)キャンデリラロウは、95:5~50:50の質量比で配合されることが必要である。この質量比の範囲であれば、のび・つやがよく、安定性にも優れた油性固形化粧料を得ることができる。一方、(a2)キャンデリラロウの配合比率が上記範囲を超えると固化力が弱くなり、化粧料の安定性が低下してしまう。また、(a1)ヒマワリ種子ロウの配合比率が上記範囲を超えると、のび・つやが低下してしまう。より確実にすべての効果について良好な化粧料を得るためには、(a1)ヒマワリ種子ロウおよび(a2)キャンデリラロウは、90:10~60:40の質量比で配合されることが好ましく、90:10~70:30の質量比で配合されることがより好ましい。
【0018】
成分(A)には、本発明の効果を損なわない範囲で、(a1)ヒマワリ種子ロウおよび(a2)キャンデリラロウ以外の植物性固形油を適宜配合することができる。そのような植物性固形油は、通常の化粧料に用いられている任意のものであってよく、例えば、キャンデリラロウ炭化水素、カルナウバロウ、ホホバエステル、コメヌカロウ、水添ヒマシ油などが挙げられるが、これらには限定されない。
【0019】
成分(B)は、液状油剤である。ここで、液状油剤とは、常温から化粧料の製造温度までの範囲(25~80℃)において、液状を呈する油剤をいう。本発明における液状油剤(B)は、成分(B)の総質量を100%としたとき、成分(b)IOB値が0.1以上の液状油を30質量%以上含有することが必要である。成分(b)の含有量が30質量%未満であると、成分(A)が固化剤として機能せず、化粧料の安定性が損なわれるためである。より確実に化粧料の安定性を高めるためには、成分(B)における成分(b)の含有量は35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。なお、「IOB値」とは、Inorganic/Organic Balance(無機性/有機性比)値の略語であって、有機概念図(藤田穆、化学の領域、1957年、第11巻、第10号、第719~725頁)に基づいて求められる数値であり、液状油剤として市販品を使用する場合には、製品に表示されたIOB値であってよい。
【0020】
成分(b)には、IOB値が0.1以上のものであれば任意の液状油を用いることができる。具体的には、例えば、(カプリル酸/カプリン酸)ヤシアルキル(IOB=0.14)、テトライソステアリン酸ポリグリセリル-2(IOB=0.17)、トリイソステアリン酸ポリグリセリル-2(IOB=0.26)、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(IOB=0.32)、ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)(IOB=0.30)、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-2(IOB=0.42)などの植物油;パルミチン酸エチルヘキシル(IOB=0.13)、エチルヘキサン酸セチル(IOB=0.13)、イソノナン酸イソトリデシル(IOB=0.15)、テトライソステアリン酸ペンタエリスリチル(IOB=0.16)、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール(IOB=0.25)、イソノナン酸イソノニル(IOB=0.20)、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール(IOB=0.32)、トリエチルヘキサノイン(IOB=0.35)、リンゴ酸ジイソステアリル(IOB=0.33)などの植物由来または半合成エステル油;オクチルドデカノール(IOB=0.26)などの高級アルコールなどが挙げられるが、これらには限定されない。本発明における液状油剤(B)には、上記から任意に選択される単独または2種類以上を組み合わせて用いることができ、2種類以上を組み合わせる場合、その比率は任意であってよい。
【0021】
成分(B)には、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(b)以外の液状油を適宜配合することができる。そのような液状油は、通常の化粧料に用いられている任意のものであってよく、例えば、スクワラン(IOB=0)、(C9-12)アルカン(IOB=0)、(C13-15)アルカン(IOB=0)、(C15-19)アルカン(IOB=0)などが挙げられるが、これらには限定されない。
【0022】
本発明の油性固形化粧料において、油性固形化粧料の総質量を100%としたときに、上記成分(A)の含有量は4~16質量%である。この範囲であれば、のび・つやがよく、安定性にも優れた油性固形化粧料を得ることができる。一方、成分(A)の含有量が4質量%未満であると、成分(A)が固化剤として機能せず、化粧料の安定性が損なわれる。また、成分(A)の含有量が16質量%を超えると、化粧料ののびが重く、つやも低下してしまう。上記質量比の範囲は、より確実にすべての効果について良好な化粧料を得るためには、好ましくは5~14質量%であり、より好ましくは5~12質量%である。
【0023】
本発明の油性固形化粧料には、上記成分の他、通常の化粧料に用いられる成分、例えば、染料、顔料、パール剤、界面活性剤、水溶性ポリマー、油溶性ポリマー、低級アルコール、水、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤、色素、pH調整剤、香料、紫外線吸収剤、保湿剤、血行促進剤、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、皮膚賦活剤などを、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0024】
本発明の油性固形化粧料の製造方法は、特に限定されず、通常の油性固形化粧料の製造に用いられる混合機を使用して、融点以上の温度で加熱溶解した成分(A)に、成分(B)およびその他の成分を添加し、混合した後、容器に充填し、必要に応じて成型することにより製造することができる。
【0025】
本発明の油性固形化粧料は、口紅、リップクリーム、ファンデーション、チーク、コンシーラー、美容液スティック、外用固形剤などの製品形態とすることができる。
【0026】
本発明の油性固形化粧料は、植物性固形油のみを用いながらも高い安定性と使用性を達成できるものであり、SDGs対応の化粧品を提供するために有用である。
【実施例0027】
以下に実施例を挙げ、本発明についてさらに説明する。なお、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0028】
<実施例1~13および比較例1~15:口紅>
下記表1~3に示す組成および以下に示す製造方法により、口紅を調製し、「保形性」、「塗布時ののび」、「つや」、「経時安定性」の項目について以下に示す評価方法および判定基準により評価し、その結果をあわせて表1~3に示した。表中、各成分の数値は質量%である。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
※1: 精製ヒマワリワックス(横関油脂工業株式会社)
※2: キャンデリラロウ NC-1630(株式会社セラリカNODA)
※3: MIGLYOL Coco 810(IOI Oleo GmbH)
※4: コスモール 43V(日清オイリオグループ株式会社)
※5: エルデュウ PS-203(味の素株式会社)
※6: TCG-M/MB(高級アルコール工業株式会社)
【0033】
[製造方法]
各成分を85℃に加熱して攪拌混合し、脱気した後、容器に充填し、冷却して口紅化粧料を得た。
【0034】
[評価方法および判定基準]
i.保形性
(評価方法)
各試料を目視で観察することにより評価した。
(評価基準)
◎: 優れる(優れた固形状態)
○: やや優れる(やや優れた固形状態)
△: 劣る(ペースト状~やわらかい)
×: 極めて劣る(液状)
【0035】
ii.塗布時ののび
(評価方法)
10名の専門パネリストによる実使用性試験を行った。唇に各試料を塗布し、下記のスコアに基づいて採点し、そのスコア平均値を評価値として下記評価基準により評価した。
(スコア)
5点: 塗布時ののびが軽い
4点: 塗布時ののびがやや軽い
3点: 塗布時ののびが普通
2点: 塗布時ののびがやや重い
1点: 塗布時ののびが重い
(評価基準)
◎: スコア(平均値)4.0以上5.0点以下
○: スコア(平均値)3.0以上4.0点未満
△: スコア(平均値)2.0以上3.0点未満
×: スコア(平均値)1.0以上2.0点未満
【0036】
iii.つや
(評価方法)
10名の専門パネリストによる実使用性試験を行った。唇に各試料を塗布し、下記のスコアに基づいて採点し、そのスコア平均値を評価値として下記評価基準により評価した。
(スコア)
5点: つやがある
4点: つやがややある
3点: つやが普通
2点: つやがややない
1点: つやがない
(評価基準)
◎: スコア(平均値)4.0以上5.0点以下
○: スコア(平均値)3.0以上4.0点未満
△: スコア(平均値)2.0以上3.0点未満
×: スコア(平均値)1.0以上2.0点未満
【0037】
iv.経時安定性
(評価方法)
各試料を室温または40℃で1ヶ月静置保管し、目視で観察することにより発汗等の変化の有無を評価した。
(評価基準)
◎: 室温保管品と40℃保管品との差がなく双方共に変化していない
○: 40℃保管品に僅かに変化が見られるが、使用性に問題ない
△: 40℃保管品に明らかに変化が見られ、使用できない
×: 室温保管品、40℃保管品の双方に変化が見られる
【0038】
[結果]
表1~3の結果から明らかなように、本発明の実施品である実施例1~13は、「保形性」、「塗布時ののび」、「つや」、「経時安定性」のすべての項目に優れた油性固形化粧料であった。一方、化粧料における成分(A)の含有量が5~14質量%の範囲外である比較例3、4、成分(B)における成分(b)の含有量((b)/(B))が30質量%未満である比較例14、15、成分(A)における成分(a1)および成分(a2)の合計含有量(((a1)+(a2))/(A))が少ない比較例1、2、8、9、12、13、成分(a1)に対する成分(a2)の質量比((a1):(a2))が95:5~50:50の範囲外である比較例5~7、10、11では、のび・つやには優れるものの保形性や経時安定性に劣るものが多く、いずれも使用性と保形性・経時安定性とを両立できなかった。