(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113368
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】モータ、ファン装置、及び回転バランス調整方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/16 20060101AFI20230808BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
H02K15/16 A
H02K7/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015697
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永元 里司
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 信吾
(72)【発明者】
【氏名】細井 啓一
【テーマコード(参考)】
5H607
5H615
【Fターム(参考)】
5H607AA12
5H607BB01
5H607BB14
5H607BB17
5H607CC05
5H607DD03
5H607FF04
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB14
5H615PP02
5H615SS08
5H615SS54
(57)【要約】
【課題】バランス調整ピンを用いて回転バランスを調整するモータにおいて、低コストで歩留まりを向上させる技術を提供する。
【解決手段】モータ(2)は、ステータ(24)より径方向の外側に配置されて、複数の永久磁石(231)を内周面で支持する円筒形状の外周壁(232A)と、ステータより径方向の内側に配置されて、シャフト(21)に回転自在に支持された円筒形状の内周壁(232B)と、外周壁及び内周壁の軸方向の一端同士を連結する円盤形状の連結壁(232C)とを有するロータヨーク(232)を備え、連結壁には、周方向に間隔を隔てた位置において、各々が厚み方向に貫通する複数の貫通孔(233)が形成され、周方向の一部に軸方向に延びるスリットが形成された円筒形状で、複数の貫通孔の少なくとも1つに圧入されたバランス調整ピン(25)をさらに備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータブラケットと、
前記モータブラケットに固定されたシャフトと、
前記シャフトに回転自在に支持されたロータヨークと、
周方向に間隔を隔てて前記ロータヨークに固定された複数の永久磁石と、
複数の前記永久磁石の内側で前記モータブラケットに固定されて、前記ロータヨークを回転させるための磁界を発生するコイルが巻装されたステータとを備えるモータにおいて、
前記ロータヨークは、
前記ステータより径方向の外側に配置されて、複数の前記永久磁石を内周面で支持する円筒形状の外周壁と、
前記ステータより径方向の内側に配置されて、前記シャフトに回転自在に支持された円筒形状の内周壁と、
前記外周壁及び前記内周壁の軸方向の一端同士を連結する円盤形状の連結壁と、を有し、
前記連結壁には、周方向に間隔を隔てた位置において、各々が厚み方向に貫通する複数の貫通孔が形成され、
周方向の一部に軸方向に延びるスリットが形成された円筒形状で、複数の前記貫通孔の少なくとも1つに圧入されたバランス調整ピンをさらに備えることを特徴とするモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のモータにおいて、
複数の前記貫通孔それぞれは、周方向に延設された円弧形状の長孔であることを特徴とするモータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータにおいて、
複数の前記貫通孔は、前記ロータヨークを軸方向から平面視したときに、少なくとも一部が前記永久磁石に重なる位置に形成されていることを特徴とするモータ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のモータにおいて、
複数の前記永久磁石の数は、奇数及び偶数の一方であり、
複数の前記貫通孔の数は、奇数及び偶数の他方であることを特徴とするモータ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のモータにおいて、
前記ロータヨークは、前記外周壁の軸方向の他端から径方向に突出し且つ周方向に延びるヨークフランジを有し、
前記ヨークフランジの一部は、切り欠かれていることを特徴とするモータ。
【請求項6】
モータブラケットと、
前記モータブラケットに固定されたシャフトと、
前記シャフトに回転自在に支持されたロータヨークと、
周方向に間隔を隔てて前記ロータヨークに固定された複数の永久磁石と、
複数の前記永久磁石の内側で前記モータブラケットに固定されて、前記ロータヨークを回転させるための磁界を発生するコイルが巻装されたステータとを備えるモータにおいて、
前記ロータヨークは、
前記ステータより径方向の外側に配置されて、複数の前記永久磁石を内周面で支持する円筒形状の外周壁と、
前記ステータより径方向の内側に配置されて、前記シャフトに回転自在に支持された円筒形状の内周壁と、
前記外周壁及び前記内周壁の軸方向の一端同士を連結する円盤形状の連結壁と、を有し、
前記連結壁には、周方向に間隔を隔てた位置において、各々が厚み方向に貫通し且つ周方向に延設された複数の貫通孔が形成され、
複数の前記貫通孔の少なくとも1つに圧入されたバランス調整ピンをさらに備えることを特徴とするモータ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のモータと、
前記モータにより回転駆動されて、冷却風を生成するファンとを備えることを特徴とするファン装置。
【請求項8】
円筒形状の外周壁と、
前記外周壁より径方向の内側に配置された円筒形状の内周壁と、
前記外周壁及び前記内周壁の軸方向の一端同士を連結する円盤形状で、周方向に間隔を隔てた位置において各々が厚み方向に貫通する複数の貫通孔が形成された連結壁と、
前記外周壁の軸方向の他端から径方向に突出し且つ周方向に延びるヨークフランジとを有するロータヨークの回転バランス調整方法において、
前記ロータヨークの回転バランスを計測し、
前記ロータヨークの前記連結壁側の回転バランスが予め定められた数値範囲外の場合に、複数の前記貫通孔の少なくとも1つに、円筒形状の周方向の一部に軸方向に延びるスリットが形成されたバランス調整ピンを圧入し、
前記ロータヨークの前記ヨークフランジ側の回転バランスが予め定められた数値範囲外の場合に、前記ヨークフランジの周方向の一部を切り欠くことを特徴とする回転バランス調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ、モータを搭載したファン装置、及びモータの回転バランス調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、持続可能な開発のための2030アジェンダ、平成27(2015)年9月25日国連サミット採択、以下「SDGs」という)の推進に向けた取り組みが行われている。それに伴い、持続可能な生産消費形態の確保などのため、廃棄物や不良品の削減などを目指す技術が知られている。
【0003】
ステータの外側に配置されたロータヨークを回転させるアウターロータ型のブラシレスモータは、例えば、冷却ファンを駆動するモータとして利用される。また、このようなモータには、ロータヨークの回転バランスを調整するために、ロータヨークにパテを取り付けたり(例えば、特許文献1を参照)、ロータヨークに設けられた貫通孔に中実のバランス調整ピンを圧入することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、ロータヨークにパテが強固に取り付けられていないと、ロータヨークの回転中に剥がれてしまう可能性がある。また、ロータヨークの貫通孔に中実のバランス調整ピンを圧入する方法では、圧入代を高い精度で設定しないと、バランス調整ピンの圧入時にロータヨークが変形してしまう可能性がある。そのため、モータの製造コストが増加したり、歩留まりが低下するという課題を生じる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、バランス調整ピンを用いて回転バランスを調整するモータにおいて、低コストで歩留まりを向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、モータブラケットと、前記モータブラケットに固定されたシャフトと、前記シャフトに回転自在に支持されたロータヨークと、周方向に間隔を隔てて前記ロータヨークに固定された複数の永久磁石と、複数の前記永久磁石の内側で前記モータブラケットに固定されて、前記ロータヨークを回転させるための磁界を発生するコイルが巻装されたステータとを備えるモータにおいて、前記ロータヨークは、前記ステータより径方向の外側に配置されて、複数の前記永久磁石を内周面で支持する円筒形状の外周壁と、前記ステータより径方向の内側に配置されて、前記シャフトに回転自在に支持された円筒形状の内周壁と、前記外周壁及び前記内周壁の軸方向の一端同士を連結する円盤形状の連結壁と、を有し、前記連結壁には、周方向に間隔を隔てた位置において、各々が厚み方向に貫通する複数の貫通孔が形成され、周方向の一部に軸方向に延びるスリットが形成された円筒形状で、複数の前記貫通孔の少なくとも1つに圧入されたバランス調整ピンをさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バランス調整ピンを用いて回転バランスを調整するモータにおいて、低コストで歩留まりを向上させることができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るファン装置の一構成例を示す外観斜視図である。
【
図2】モータとファンとを分解した場合の分解斜視図である。
【
図4】ロータヨークを除いた状態のモータの構成を示す斜視図である。
【
図7】ロータヨークにバランス調整ピンを取り付けた平面図である。
【
図8】
図7に示すロータヨークを傾けた場合の喫水線の位置を示す要部断面図である。
【
図9】回転バランス調整方法の手順を示すフローチャートである。
【
図10】回転バランスを調整する過程のロータヨークの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るファン装置の一態様として、例えば自動車などの車両に搭載され、ラジエータ内を流れるエンジンの冷却水などを冷却するファン装置について説明する。
【0011】
(ファン装置1の全体構成)
まず、
図1および
図2を参照して、ファン装置1の全体構成を説明する。
図1は、実施形態に係るファン装置1の一構成例を示す外観斜視図である。
図2は、モータ2とファン3とを分解した場合の分解斜視図である。
【0012】
図1及び
図2に示すように、ファン装置1は、駆動源であるモータ2と、モータ2により回転駆動されて冷却風を生成するファン3とを備える。ファン装置1は、例えば、エンジンルーム内において、ラジエータと対向するように配設されている。例えば車体が水平面上に位置しているとき、ファン装置1は、モータ2のシャフト21が水平方向に延設されるように、エンジンルーム内に配置される。但し、車体が傾くと、シャフト21の延設方向も水平方向から傾くことになる。
【0013】
ファン3は、複数のネジ10によってモータ2に締結される。複数のネジ10は、ファン3の表側(モータ2と対向する側とは反対側)から、ファン3の中心部となるボス部31に形成されたネジ孔を通って、モータ2のロータヨーク232に締結される。
【0014】
本実施形態では、ファン3の回転バランスを考慮して、3つのネジ10が、ファン3の回転中心を中心とする円周上において等間隔となるように取り付けられる。なお、ファン3をモータ2に締結する締結部材として必ずしも3つのネジ10を用いる必要はなく、ファン3がモータ2に締結可能であれば、ネジ10の数や締結部材の種類については特に制限はない。
【0015】
ファン3は、シャフト21の軸心上を回転中心としてロータ23と一体に回転するボス部31と、ボス部31の外周から放射状に張り出された複数(本実施形態では7枚)の羽根32と、隣り合う羽根32同士を先端部の側で連結する複数(本実施形態では7つ)の連結部材33と、を有する。
【0016】
ボス部31は、ロータヨーク232の連結壁232Cと対向して配置された円盤形状の円盤部311と、円盤部311の外縁からロータ23の外周壁232Aの外側に延出して複数の羽根32が取り付けられた周壁部312と、を含む。
【0017】
(モータ2の構成)
次に、
図3~
図5を参照して、モータ2の構成を説明する。
図3は、モータ2を表面側から見た外観斜視図である。
図4は、ロータヨーク232を除いた状態のモータ2の構成を示す斜視図である。
図5は、
図3におけるV-V線断面図である。
【0018】
図3~
図5に示すように、モータ2は、アウターロータ型のブラシレスモータ201と、ブラシレスモータ201(コイル243による磁界の発生)を制御するドライバ回路202とを含む電動モータである。
【0019】
図3に示すように、ブラシレスモータ201は、モータブラケット203に支持されている。ブラシレスモータ201は、モータブラケット203の厚み方向の一方側(表面側)に配置されている。
【0020】
図5に示すように、モータブラケット203の厚み方向の他方側(裏面側)には、複数のネジ205によって、ドライバブラケット204が締結されている。これにより、モータブラケット203及びドライバブラケット204の間には収容空間206が形成される。そして、ドライバ回路202は、この収容空間206に収容される。
【0021】
また、モータブラケット203の端部には、外部ハーネスが接続される2つのコネクタが一体になったコネクタユニット207が取り付けられている。ブラシレスモータ201、ドライバ回路202、及びコネクタユニット207は、モータブラケット203を介して互いに電気的に接続されている。
【0022】
図4及び
図5に示すように、ブラシレスモータ201は、シャフト21と、シャフト21の外周に設けられたベアリング22A、22Bと、シャフト21の軸心周りにベアリング22A、22Bを介して回転自在に支持されたロータ23と、ロータ23を回転させるための磁界を発生するコイル243が巻装された環状のステータ24と、を有する。
【0023】
シャフト21は、モータブラケット203に固定された固定軸である。なお、以下、モータ2の構成要素に関する説明において、シャフト21の軸方向を単に「軸方向」とし、シャフト21の軸心を中心とした径方向を単に「径方向」とし、シャフト21の軸心を中心とした周方向を単に「周方向」とする。
【0024】
ロータ23は、ステータ24の外周を囲むように周方向に等間隔に並んで配置された複数の永久磁石231と、ステータ24及び複数の永久磁石231を覆うロータヨーク232と、を有する。
【0025】
図5に示すように、ロータヨーク232は、シャフト21の軸心と同心になるようにモータブラケット203の表面側に配置されている。また、ロータヨーク232は、ベアリング22A、22Bを介してシャフト21に回転自在に支持されている。ロータヨーク232は、外周壁232Aと、内周壁232Bと、連結壁232Cと、ヨークフランジ232Dとを備える。
【0026】
外周壁232Aは、円筒形状の外形を呈する。また、外周壁232Aは、ステータ24より径方向の外側に配置されている。さらに、外周壁232Aは、複数の永久磁石231を内周面で支持している。換言すれば、複数の永久磁石231は、周方向に所定の間隔を隔てて外周壁232Aの内周面に固定されている。
【0027】
内周壁232Bは、円筒形状の外形を呈する。また、内周壁232Bは、ステータ24より径方向の内側に配置されている。さらに、内周壁232Bは、ベアリング22A、22Bを介してシャフト21に回転自在に支持される。
【0028】
連結壁232Cは、円盤形状の外形を呈する。また、連結壁232Cは、外周壁232A及び内周壁232Bの軸方向の一端同士を接続する。さらに、
図3及び
図5に示されるように、連結壁232Cには、複数の貫通孔233が形成されている。
【0029】
複数の貫通孔233は、シャフト21を中心とする仮想円上において、周方向に所定の間隔を隔てて形成されている。また、複数の貫通孔233は、連結壁232Cを厚み方向に貫通している。さらに、複数の貫通孔233は、周方向に延設された円弧形状の外形を呈する長孔である。そして、複数の貫通孔233の少なくとも1つには、ロータヨーク232の回転バランスを調整するために、バランス調整ピン25が圧入される場合がある。また、複数の貫通孔233は、ロータヨーク232の内部に侵入した水を排水する排水口としても機能する。
【0030】
図5に示すように、複数の貫通孔233は、ロータヨーク232を軸方向から平面視したときに、少なくとも一部が永久磁石231に重なる位置に形成されている。また、本実施形態において、永久磁石231は10個(偶数)で、貫通孔233は9個(奇数)である。但し、永久磁石231は奇数及び偶数の一方であり、貫通孔233は奇数及び偶数の他方であれば、具体的な数は前述の例に限定されない。
【0031】
ヨークフランジ232Dは、外周壁232Aの軸方向の他端(すなわち、連結壁232Cと反対側)に設けられている。また、ヨークフランジ232Dは、外周壁232Aから径方向の外側に突出している。さらに、ヨークフランジ232Dは、周方向に延設されている。但し、ヨークフランジ232Dは、外周壁232Aの全周に亘って設けられている必要はなく、ロータヨーク232の回転バランスを調整するために、一部が切り欠かれる場合がある。
【0032】
ステータ24は、外周壁232A、内周壁232B、連結壁232C、及びモータブラケット203で囲まれた空間に収容されている。また、ステータ24は、複数の231より径方向の内側において、モータブラケット203の表面側に固定されている。さらに、ステータ24は、径方向に所定の隙間を隔てて複数の永久磁石231に対面している。
【0033】
図4及び
図5に示すように、ステータ24は、円筒形状のステータコア241と、ステータコア241の径方向の外側に突出された複数のティースに対して軸方向の両側に装着される絶縁性のインシュレータ242と、インシュレータ242上に巻回された導電性のコイル243と、を有する。
【0034】
ステータ24は、コイル243に電流が流れることにより磁界を発生する。そして、コイル243で発生した磁界と、複数の永久磁石231との間に生じる引力及び斥力によって、ロータヨーク232がシャフト21の軸心を中心として回転する。
【0035】
(バランス調整ピン25の構成)
図6は、バランス調整ピン25の構成を示す図である。
図6に示すように、バランス調整ピン25は、概ね円筒形状の外形を呈する。また、バランス調整ピン25は、中空で且つ軸方向の両端面が開放されている。また、バランス調整ピン25は、本体部251と、傾斜部252とで構成されている。さらに、バランス調整ピン25には、スリット253が形成されている。
【0036】
本体部251は、円柱形状の外形を呈する。傾斜部252は、本体部251の両端部に設けられている。また、傾斜部252は、バランス調整ピン25の軸方向の端部に近づくほど、外形寸法を減じるように傾斜している。すなわち、バランス調整ピン25は、先細り形状となっている。そして、傾斜部252は、バランス調整ピン25を貫通孔233に圧入する際の案内面として機能する。
【0037】
スリット253は、バランス調整ピン25の周方向の一部に形成されている。また、スリット253は、バランス調整ピン25の軸方向の全域に形成されている。さらに、スリット253は、バランス調整ピン25の厚み方向に貫通している。すなわち、バランス調整ピン25は、弾性縮径可能に構成されている。
【0038】
すなわち、
図6(B)に示すように、バランス調整ピン25を軸方向から平面視すると、バランス調整ピン25はC字状の外形を呈する。また、スリット253は、バランス調整ピン25の軸方向の両端面の開口に連通している。さらに、バランス調整ピン25の内部空間は、軸方向の両端面と、スリット253とによって外部に開放されている。そして、バランス調整ピン25の先端(傾斜部252)の外形寸法は、貫通孔233の径方向の開口幅より小さく設定されている。一方、バランス調整ピン25の中央(本体部251)の外形寸法は、貫通孔233の径方向の開口幅より僅かに大きく設定されている。
【0039】
そのため、バランス調整ピン25の先端は、貫通孔233に挿入可能である。そして、貫通孔233にバランス調整ピン25の挿入を続けると、貫通孔233を画定する周面にバランス調整ピン25の外面が当接して、バランス調整ピン25が弾性縮径される。そして、
図5に示すように、永久磁石231に接触しない位置までバランス調整ピン25を挿入すると、バランス調整ピン25の弾性拡径しようとする力によって、貫通孔233内でバランス調整ピン25が固定される。
【0040】
(ロータヨーク232の排水性)
次に、
図7及び
図8を参照して、本実施形態に係るロータヨーク232の排水性について説明する。
図7は、ロータヨーク232、232’にバランス調整ピン25、25’を取り付けた平面図である。
図8は、
図7に示すロータヨーク232、232’を傾けた場合の喫水線の位置を示す要部断面図である。
【0041】
まず、
図7(A)に示す本実施形態のように、C字状のバランス調整ピン25が圧入された円弧形状の貫通孔233は、バランス調整ピン25に隣接する位置が開口している。そのため、貫通孔233は、バランス調整ピン25が圧入されても、排水口としての機能を引き続き維持することができる。また、バランス調整ピン25自体も軸方向に貫通しているので、バランス調整ピン25の内部空間を通じた排水も期待できる。
【0042】
これに対して、
図7(B)に示すように、従来のロータヨーク232’の連結壁232C’には、真円形状の貫通孔233’が周方向に所定の間隔を隔てて形成されている。また、複数の貫通孔233’の少なくとも1つには、中実のバランス調整ピン25’が圧入されている。バランス調整ピン25’の外形寸法は、貫通孔233’の直径より僅かに大きく設定されている。そのため、貫通孔233’は、バランス調整ピン25’が挿入されると、排水口としての機能を喪失する。
【0043】
次に、
図8に示すように、
図7に示すロータヨーク232、232’を取り付けたモータ2、2’を、連結壁232C、232C’の側が下を向くように傾けて、バランス調整ピン25、25’が圧入された貫通孔233、233’を最も下方に配置したとする。この場合、本実施形態に係るロータヨーク232では、バランス調整ピン25が圧入された貫通孔233から水が排水される。一方、従来のロータヨーク232’では、バランス調整ピン25’が圧入された貫通孔233’に隣接する他の貫通孔233’から水が排水される。その結果、本実施形態掛かるロータヨーク232は、従来のロータヨーク232’と比較して、喫水線の位置を下げることができる。
【0044】
(回転バランス調整方法)
次に、
図9及び
図10を参照して、本実施形態に係るロータヨーク232の回転バランスを調整する方法を説明する。
図9は、回転バランス調整方法の手順を示すフローチャートである。
図10は、回転バランスを調整する過程のロータヨーク232の斜視図である。
【0045】
まず、ロータヨーク232をバランス計測装置に取り付けて回転させ、回転バランスを計測する(S11)。ここで計測される回転バランスは、静的バランス(スタティックバランス)と、動的バランス(ダイナミックバランス)とを含む。静的バランスとは、シャフト21に直交する径方向(縦方向)のバランスを指す。動的バランスとは、シャフト21の軸方向(横方向)のバランスを指す。
【0046】
回転バランスの計測は、第1修正面側(連結壁232C側)と、第2修正面側(ヨークフランジ232D側)との両方に対して行う。バランス計測装置で計測される回転バランス(例えば、偏芯率)とは、アンバランスの度合いが大きいほど、大きな数値となる物理量である。そして、第1修正面側及び第2修正面側のそれぞれについて、計測した回転バランスが予め設定された数値範囲内か否かを判定する(S12、S13)。
【0047】
第1修正面及び第2修正面の両側の回転バランスが予め設定された数値範囲内の場合(S12:No&S13:No)、バランス調整を終了する。すなわち、1回目のステップS12、S13で回転バランスが予め設定された数値範囲内だと判定された場合、貫通孔233にバランス調整ピン25が圧入されず、且つヨークフランジ232Dが切り欠かれていないロータヨーク232が得られる。
【0048】
また、第1修正面側の回転バランスが予め設定された数値範囲から外れている場合(S12:Yes)、
図10(A)に示すように、複数の貫通孔233の少なくとも1つに1以上のバランス調整ピン25を圧入して(S14)、ステップS11以降の処理を再び実行する。なお、ステップS14において、どの位置に何本のバランス調整ピン25を圧入するかは、従来のバランス調整方法と同一なので、説明を省略する。
【0049】
さらに、第1修正面側の回転バランスが予め設定された数値範囲内で、第2修正面側の回転バランスが予め設定された数値範囲外の場合(S12:No&S13:Yes)、ヨークフランジ232Dの一部を切り欠いて(S15)、ステップS11以降の処理を再び実行する。例えば、
図10(B)に一点鎖線で示すように、直線的な切断線に沿ってヨークフランジ232Dの一部を切断してもよい。但し、ヨークフランジ232Dの切り欠き方は、前述の例に限定されない。なお、ステップS15において、どの位置をどの程度切り欠くかは、外周壁232Aの外面を切削する従来のバランス調整方法と同一なので、説明を省略する。
【0050】
そして、ステップS11~S15の処理を繰り返すことにより、回転バランスが予め設定された数値範囲内に調整されたロータヨーク232を得ることができる。
【0051】
上記の実施形態によれば、例えば以下の作用効果を奏する。
【0052】
上記の実施形態によれば、スリット253が形成されたC字形状のバランス調整ピン25を、ロータヨーク232の貫通孔233に圧入する。このとき、バランス調整ピン25は、貫通孔233の大きさに合わせて弾性縮径するので、圧入代の精度をそれほど高くしなくても、ロータヨーク232の回転バランスを適切に調整できる。その結果、低コストで歩留まりのよいモータ2を得ることができる。バランス調整ピン25の先端に傾斜部252を設けることによって、前述の作用効果がさらに顕著になる。なお、前述の作用効果を得るためには、貫通孔233は、必ずしも周方向に延びる円弧形状である必要はなく、
図7(B)のような真円形状でもよい。
【0053】
また、上記の実施形態によれば、貫通孔233を周方向に延びる円弧形状の長孔にすることによって、バランス調整ピン25を圧入した後も排水口としての機能を維持することができる。これにより、ロータヨーク232内の喫水線を下げることができる。その結果、ロータヨーク232内に水が侵入する可能性のある環境(例えば、屋外)でモータ2が使用される場合に、モータ2内の排水性が向上する。なお、前述の作用効果を得るためには、バランス調整ピン25は、必ずしもスリット253が形成されたものである必要はなく、
図7(B)のように中実であってもよい。
【0054】
また、上記の実施形態によれば、ロータヨーク232を軸方向から平面視したときに、永久磁石231に重なる位置に貫通孔233を形成することによって、軽量のバランス調整ピン25を使用して回転バランスを調整することができる。その結果、モータ2の軽量化に寄与する。また、喫水線をさらに下げることができる。
【0055】
また、上記の実施形態において、バランス調整ピン25と永久磁石231との軸方向の隙間を、連結壁232Cからロータヨーク232の外部(永久磁石231と反対側)に突出するバランス調整ピン25の長さより短くすることによって、ロータヨーク232の内部にバランス調整ピン25が脱落することを防止できる。
【0056】
また、上記の実施形態によれば、貫通孔233に対するバランス調整ピン25の圧入に加えて、ヨークフランジ232Dの一部を切り欠くことによっても回転バランスを調整するので、回転バランスに優れたモータ2を得ることができる。なお、ヨークフランジ232Dを切り欠く方法では磁路が減少しないので、外周壁232Aの外面を削る方法と比較してモータ2の機能低下を防止できる。
【0057】
さらに、上記の実施形態によれば、
図9に示す手順でロータヨーク232の回転バランスを調整するので、少ない作業コストでロータヨーク232の回転バランスを最適化することができる。
【0058】
なお、上記の実施形態では、ファン装置1の用途として、ラジエータに冷却風を供給する例を説明したが、ファン装置1の用途はこれに限定されない。また、上記の実施形態では、モータ2の用途として、ファン3を回転駆動するファンモータの例を説明したが、モータ2の用途はこれに限定されない。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明した。なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、本実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。またさらに、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 :ファン装置
2,2’ :モータ
3 :ファン
10,205 :ネジ
21 :シャフト
22A,22B :ベアリング
23 :ロータ
24 :ステータ
25,25’ :バランス調整ピン
31 :ボス部
32 :羽根
33 :連結部材
201 :ブラシレスモータ
202 :ドライバ回路
203 :モータブラケット
204 :ドライバブラケット
206 :収容空間
207 :コネクタユニット
231 :永久磁石
232,232’ :ロータヨーク
232A,232A’ :外周壁
232B,232B’ :内周壁
232C,232C’ :連結壁
232D,232D’ :ヨークフランジ
233,233’ :貫通孔
241 :ステータコア
242 :インシュレータ
243 :コイル
251 :本体部
252 :傾斜部
253 :スリット
311 :円盤部
312 :周壁部