(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113383
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】鋳造割れ評価用金型、および、金属の割れ感受性評価方法
(51)【国際特許分類】
B22C 9/06 20060101AFI20230808BHJP
B22C 9/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
B22C9/06 Z
B22C9/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015721
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】松下 彬
(72)【発明者】
【氏名】谷口 兼一
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 圭司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠
(72)【発明者】
【氏名】永田 益大
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093NA10
(57)【要約】
【課題】鋳込んだ後の鋳物と凝固時および凝固終了後の収縮を拘束した金型とを比較的容易に分離することができ、鋳物における割れ状況の再現性を向上させ、金属の割れ感受性を精度良く評価することが可能な鋳造割れ評価用金型を提供する。
【解決手段】金属の鋳造時における割れ感受性を評価する際に用いられる鋳造割れ評価用金型10であって、キャビティ20内に溶融金属を注入して鋳物を形成する際に、前記溶融金属の凝固時および凝固完了後に前記鋳物に生じる収縮を拘束する拘束金型12を有しており、拘束金型12は、前記鋳物の拘束方向に直交する面に対して傾斜した分割面13で分割されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の鋳造時における割れ感受性を評価する際に用いられる鋳造割れ評価用金型であって、
キャビティ内に溶融金属を注入して鋳物を形成する際に、前記溶融金属の凝固時および凝固完了後に前記鋳物に生じる収縮を拘束する拘束金型を有しており、
前記拘束金型は、前記鋳物の拘束方向に直交する面に対して傾斜した分割面で分割されていることを特徴とする鋳造割れ評価用金型。
【請求項2】
前記分割面の傾斜角度θが、前記分割面の静止摩擦係数をμとした場合に、
0<θ<μ/(0.2μ+0.9)
の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の鋳造割れ評価用金型。
【請求項3】
前記拘束金型は、3つ以上に分割されており、両端に前記分割面が形成された中間ブロック体を少なくとも1つ以上備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋳造割れ評価用金型。
【請求項4】
少なくとも1つの前記中間ブロック体において、両端の前記分割面の傾斜方向が互いに異なっていることを特徴とする請求項3に記載の鋳造割れ評価用金型。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の鋳造割れ評価用金型の前記キャビティ内に溶融金属を注入し、前記溶融金属の凝固時および凝固完了後に前記鋳物に生じる収縮を拘束することにより、前記鋳物に引張応力を作用させ、金属の鋳造時における割れ感受性を評価することを特徴とする金属の割れ感受性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の鋳造時における割れ感受性を評価する際に用いられる鋳造割れ評価用金型、および、金属の割れ感受性評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種金属を鋳造する際には、凝固収縮や凝固完了後の鋳物の熱収縮により、鋳物に割れ(いわゆる鋳造割れ)が発生することがある。鋳造割れの発生状況は、鋳物を構成する金属種によって大きく異なることから、各種金属において鋳造割れの発生し易さ(割れ感受性)を評価することが求められている。
【0003】
従来、金属の割れ感受性を評価する方法として、例えば非特許文献1-4に記載されているように、様々な金型を用いた簡易評価手法が提案されている。
これら非特許文献1-4に記載された方法においては、凝固収縮および凝固完了後の鋳物の熱収縮を金型によって拘束して鋳造割れを発生させることにより、金属の割れ感受性を評価している。
特に、非特許文献2-4に記載されたIビーム試験金型は、他の評価用金型に比べて、鋳造割れの再現性が良く、アルミニウム合金、銅合金を中心に、多くの企業、公設研究機関、大学等で広く利用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】磯部ら、鋳物Vol.50(1978),P.425-430
【非特許文献2】雄谷ら、軽金属Vol.33(1983),P.705-711
【非特許文献3】大原ら、軽金属Vol.43(1993),P.594-599
【非特許文献4】才川ら、鋳造工学Vol.87(2015),P.39-45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のように金型を用いた簡易評価手法においては、溶融金属が凝固を開始して完了するまでの間に発生する凝固収縮、および、凝固完了から室温に至るまでの熱収縮によって、鋳物には引張応力、収縮を拘束する金型には圧縮応力が発生し、金型と鋳物の間に大きな摩擦力が生ずることになる。このため、鋳物と金型とを分離(以下、離型という)する際には、鋳物および金型に高荷重を負荷する必要があった。
【0006】
油圧や空圧シリンダ等を用いて準静的に離型することは可能であるが、専用のデバイスを作製する必要があることから、一般的には、簡便性の観点からハンマー等を用いて外力を与えて離型していた。このため、離型の際の衝撃力、および、離型に時間がかかることで離型中に温度低下とそれに伴う熱収縮が生じてしまうことにより、鋳造時に発生した鋳物の割れの拡張が発生してしまうおそれがあった。
このような問題を解決するための手法として、拘束を受ける金型の両端に2度前後の抜け勾配を設ける手段がとられることがあるが、この手段を持ってしても、現実には、かなりの摩擦力の発生が避けられず、離型時に割れが拡張することが避けられていない。
【0007】
鋳造割れ感受性は、離型後の鋳物を観察し、割れの有無や発生した割れ長さを測定して定量化する為、離型時の割れの拡張現象が試験の再現性を低下させてしまい、適切な割れ感受性評価を行うのに非常に多くの実験回数を要したり、妥当な評価ができなかったりするなどの支障をきたしていた。
【0008】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、鋳込んだ後の鋳物と凝固時および凝固終了後の収縮を拘束した金型とを比較的容易に分離することができ、鋳物における割れ状況の再現性を向上させ、金属の割れ感受性を精度良く評価することが可能な鋳造割れ評価用金型、および、金属の割れ感受性評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明の鋳造割れ評価用金型は、金属の鋳造時における割れ感受性を評価する際に用いられる鋳造割れ評価用金型であって、キャビティ内に溶融金属を注入して鋳物を形成する際に、前記溶融金属の凝固時および凝固完了後に前記鋳物に生じる収縮を拘束する拘束金型を有しており、前記拘束金型は、前記鋳物の拘束方向に直交する面に対して傾斜した分割面で分割されていることを特徴としている。
【0010】
上述の構成の鋳造割れ評価用金型においては、前記溶融金属の凝固時および凝固完了後に前記鋳物に生じる収縮を拘束する拘束金型が、前記鋳物の拘束方向に直交する面に対して傾斜した分割面で分割されているので、拘束金型に生じる圧縮応力が、傾斜した分割面に沿った方向と分割面に直交する方向に分散することになる。また、分割面は鋳物と接触しておらず、分割面同士の摩擦係数は小さくなる。このため、拘束金型と鋳物とを比較的小さな荷重で分離することができ、離型時の衝撃力を低減させると同時に、素早い離型により離型中の温度低下が防がれることで、離型時における割れの進展を十分に抑制することが可能となる。
よって、鋳物における割れ状況の再現性を向上させ、金属の割れ感受性を精度良く評価することができる。
【0011】
ここで、本発明の鋳造割れ評価用金型においては、前記分割面の傾斜角度θが、前記分割面の静止摩擦係数をμとした場合に、0<θ<μ/(0.2μ+0.9)の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、分割面の傾斜角度θが上述の範囲内とされているので、拘束金型に生じる圧縮応力が傾斜した分割面に沿った方向と分割面に直交する方向に適切に分散され、前記溶融金属の凝固時および凝固完了後に前記鋳物に生じる収縮によって試験中に分割面同士がずれてしまうことを分割面の摩擦力によって防ぎつつ、試験完了後に外力を与えた際には容易に離型することができる。よって、安定して割れ感受性の評価を行うことができる。
【0012】
また、本発明の鋳造割れ評価用金型においては、前記拘束金型は、3つ以上に分割されており、両端に前記分割面が形成された中間ブロック体を少なくとも1つ以上備えていることが好ましい。
この場合、前記拘束金型が3つ以上に分割され、両端に前記分割面が形成された中間ブロック体を少なくとも1つ以上備えているので、中間ブロック体は鋳物と接していないことから、この中間ブロック体に荷重を掛けて取り外して拘束金型を分割することで、容易に鋳物を離型することが可能となる。
よって、離型時における割れの進展をさらに抑制することができ、金属の割れ感受性をさらに精度良く評価することができる。
【0013】
さらに、本発明の鋳造割れ評価用金型においては、少なくとも1つの前記中間ブロック体において、両端の前記分割面の傾斜方向が互いに異なっていることが好ましい。
この場合、前記中間ブロック体の両端に形成された前記分割面の傾斜方向が互いに異なっているので、この中間ブロック体をさらに容易に取り外すことができ、拘束金型を分割して容易に鋳物を離型することが可能となる。
【0014】
本発明の金属の割れ感受性評価方法は、上述の鋳造割れ評価用金型の前記キャビティ内に溶融金属を注入し、前記溶融金属の凝固時および凝固完了後に前記鋳物に生じる収縮を拘束することにより、前記鋳物に引張応力を作用させ、金属の割れ感受性を評価することを特徴としている。
この構成の金属の割れ感受性評価方法によれば、上述の鋳造割れ評価用金型を用いているので、鋳物を離型する際に、鋳物および金型に高荷重を負荷する必要がなく、離型時に鋳物の割れが進展することを抑制でき、金属の割れ感受性を精度良く評価することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鋳込んだ後の鋳物と凝固時および凝固終了後の収縮を拘束した金型とを比較的容易に分離することができ、鋳物における割れ状況の再現性を向上させ、金属の割れ感受性を精度良く評価することが可能な鋳造割れ評価用金型、および、金属の割れ感受性評価方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態である鋳造割れ評価用金型の概略説明図である。(a)が上面図、(b)が側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態である金属の割れ感受性評価方法のフロー図である。
【
図3】鋳造割れ評価用金型の拘束金型を取り外す際に負荷される荷重の説明図である。
【
図4】本発明の他の実施形態である鋳造割れ評価用金型の概略説明図である。(a)が上面図、(b)が側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態である鋳造割れ評価用金型、および、金属の割れ感受性評価方法について、添付した図を参照して説明する。
【0018】
本実施形態である鋳造割れ評価用金型、および、金属の割れ感受性評価方法は、各種金属の鋳造時に発生する割れの発生状態を確認するために用いられるものである。
【0019】
本実施形態である鋳造割れ評価用金型10は、
図1(a)に示すように、上面視して概略I字型をなすキャビティ20を有するIビーム試験金型とされている。
本実施形態である鋳造割れ評価用金型10は、一対の端部金型11,11と、これら端部金型11の間に配設された拘束金型12と、を備えており、これらの端部金型および拘束金型12,12によって、上述のキャビティ20が形成されている。
【0020】
図1(a)に示すように、キャビティ20の延在方向の両端部(端部金型11によって形成されるキャビティ)の幅W1は、キャビティ20の延在方向の中央部(拘束金型12によって形成されるキャビティ)の幅W2よりも幅広に設定されている。
なお、キャビティ20の幅広部の幅W1は20mm以上80mm以下、長さL1は10mm以上50mm以下、キャビティ20の幅狭部の幅W2は10mm以上40mm以下、長さL2は30mm以上200mm以下、キャビティ20の深さDは10mm以上40mm以下とすることが好ましい。
【0021】
金型の余熱温度や押し湯の状況よって左右はされるが、キャビティ20の幅狭部の幅W2を10mm以上およびキャビティ20の深さDを10mm以上とすることにより、鋳物の断面積が確保され、拘束金型12からの抜熱による鋳物側面部からの凝固が支配的になることを抑制でき、最終凝固部を安定的に鋳物中心部とすることが可能となる。また、外引けや内部欠陥の影響を相対的に小さくすることができる。これらの結果として割れ状況の再現性が向上する。
一方、キャビティ20の幅狭部の幅W2を40mm以下およびキャビティ20の深さDを40mm以下とすることにより、鋳物寸法および金型の全体寸法の増加を抑制でき、溶湯ロスや試験時間の増加、金型作製時のコスト増加、金型余熱時の設備・時間的なコスト増加、セッティングの簡便性の低下といった問題を解消することができる。
【0022】
キャビティ20の幅広部の幅W1は、鋳物が安定して拘束金型12を凝固収縮によって拘束するために、キャビティ20の幅狭部の幅W2に対して両側5mm以上は長くすることが好ましい。
一方、鋳物寸法および金型の全体寸法の増加を抑えるために、キャビティ20の幅広部の幅W1は80mm以下が好ましい。
【0023】
キャビティ20の幅広部の長さL1は、鋳物の収縮力によって両端のT字部分がY字に変形してしまうことを抑制するために、少なくともキャビティ20の幅狭部の幅W2以上であることが好ましい。
一方、キャビティ20の幅広部の長さL1は、鋳物寸法および金型の全体寸法の増加を抑えるため、および端部の熱容量が大きくなり端部の凝固が遅れることを防ぐため、50mm以下が好ましい。
【0024】
キャビティ20の幅狭部の長さL2は、最終凝固部を安定的に鋳物中心部にするために、キャビティ20の幅広部の幅W1、キャビティ20の幅狭部の幅W2、キャビティ20の深さD、キャビティ20の幅広部の長さL1より少なくとも10mm程度長いことが好ましい。
一方、キャビティ20の幅狭部の長さL2を200mm以下とすることで、拘束金型12からの抜熱による鋳物側面部からの凝固が支配的になることを抑制でき、最終凝固部を安定的に鋳物中心部とすることが可能となる。なお、キャビティ20の幅狭部の長さL2が200mmでも鋳物に割れが生じない場合は、キャビティ20の幅狭部の長さL2をさらに長くするのではなく、その他寸法の調整や金型余熱温度の低下などで割れる条件を見出す方が好ましい。
【0025】
このような形状のキャビティ20に溶融金属を注入して凝固させた際には、凝固時の収縮や凝固後の熱収縮は、主にキャビティ20の延在方向に発生することになるが、拘束金型12によって収縮が拘束されることになり、鋳物には引張応力が作用することになる。これにより、鋳物に割れを発生させ、金属の割れ感受性を評価する。
なお、
図1に示すように、拘束金型12の長さXの長さを変更することで、凝固過程で鋳物に生じる引張応力の大きさを調整することができる。
【0026】
そして、本実施形態である鋳造割れ評価用金型10においては、
図1(b)に示すように、拘束金型12は、鋳物の拘束方向に直交する面に対して傾斜した分割面13で分割された構造とされている。
ここで、分割面13の傾斜角度θは、分割面13の静止摩擦係数をμとした場合に、
0<θ<μ/(0.2μ+0.9)
の範囲内とされていることが好ましい。
【0027】
静止摩擦係数は拘束金型の材質変更、研磨等による表面粗度の変更、離型剤などのコーティング塗布などによって調整することができる。静止摩擦係数の測定方法としては、例えば拘束金型12と同様の材質の金属板と試験片を用意し、前記試験片にばねばかりを取り付けて前記金属板の上で水平に引っ張り、前記試験片が動き出した時の引張力Fを測定して求めることができる。前記試験片の質量をM、重力加速度をgとした場合、静止摩擦係数はF/Mgとなる。
【0028】
また、本実施形態では、拘束金型12は、3つに分割されており、両端に分割面13,13が形成された中間ブロック体15を少なくとも1つ以上備えている。
なお、中間ブロック体15においては、両端の分割面13,13の傾斜方向が互いに異なっていることが好ましい。
【0029】
次に、上述の鋳造割れ評価用金型10を用いた金属の割れ感受性評価方法について、
図2のフロー図を参照して説明する。
【0030】
(金型準備工程S01)
本実施形態である鋳造割れ評価用金型10(端部金型11および拘束金型12)を断熱板30の上に配置する。なお、溶融金属の冷却速度を一定とするために、鋳造割れ評価用金型10(端部金型11および拘束金型12)を事前に予熱して一定の温度としておくことが好ましい。
また、鋳物の凝固最終部(すなわち割れ発生位置)がキャビティ20の延在方向中心部となるように、拘束金型12の長手方向中心部に断熱材を耐熱接着剤で貼ることが好ましい。この場合、断熱材の角が割れの起点となるおそれがあるため、角を丸めたり、断熱材をペーパー状など柔らかいものとしたりすることが望ましい。
【0031】
(鋳込み工程S02)
次に、溶融金属を柄杓等で鋳造割れ評価用金型10のキャビティ20内に鋳込む。注湯温度や注湯位置、注湯速度は一定とすることが望ましい。
注湯口を設けた断熱材などで金型上部を覆うことで、注湯再現性の向上や鋳物の外引けの低減を図ることができるが、その際には注湯部分も含めて鋳物の形状が左右対称となるように注意する必要がある。また離型時に断熱材を取り外しやすいように分割するなどしておくことが望ましい。
【0032】
(離型工程S03)
次に、鋳物と鋳造割れ評価用金型10とを分離する。離型のタイミングは、固相線以上で生じる割れ(凝固割れなどと呼ばれる)の感受性を評価する場合は固相線直下、固相線以下で生じる割れ(冷間割れなどと呼ばれる)を含めた割れ感受性を評価する場合は所定の温度と、一定の条件にすることが望ましい。温度を測定する場合、非接触温度計もしくは、割れから離れた位置で測定することが望ましい。また事前に最終凝固部の冷却履歴を取得しておき、注湯開始からの時間で管理しても良い。
離型作業は、離型中の温度低下とそれに伴う熱収縮が生じないように迅速に行う必要がある。特に鋳物が完全破断していない場合、拘束金型12と鋳物は強固に組み付いており、できるだけ鋳物に外力を与えずに分離する必要がある。
【0033】
(評価工程S04)
離型後の鋳物を観察し、完全破断、割れ有り、割れ無しに判別でき、この差から割れ感受性を評価する。
なお、拘束金型12の長さXを変量して上記割れ状態との関係を整理することで、より詳細な割れ感受性評価ができる。
また、割れ有りの状態については、鋳物表面の外周割れ長さで評価することもできる。その場合には試験毎の鋳物形状のばらつきを考慮するため、割れ長さを外周長さで除した値とすることが望ましい。
【0034】
さらに、割れ有りの鋳物については、試験後に割れ面を強制破断させた後にSEMなどで破断面の様相を観察することで、凝固割れ面積率を求めることもできる。この手法であれば、凝固割れの感受性について離型時の亀裂進展の影響を大幅に低減して評価できるが、割れ長さ測定に対し利便性の面で大きく劣り、炉前試験としての活用は不可能である。また冷間割れについては、冷間割れ破断面と強制破断面の区別が困難なため、面積率では評価できない。
【0035】
ここで、上述の離型工程S03においては、拘束金型12に対して鋳物の厚さ方向に荷重Gを掛けることにより、鋳物と拘束金型12とを分離する。
このとき、拘束金型12には、拘束方向(キャビティ20の延在方向)に圧縮応力が作用していることから、拘束金型12に対して負荷する荷重Gが大きくなる傾向にある。
【0036】
図3に、拘束金型に作用する圧縮応力と離型する際の荷重との関係を示す。
拘束金型の端面が拘束方向に直交している場合には、
図3に示すように、端面に加わる垂直抗力Nは圧縮荷重Fと等しくなる。鋳物と拘束金型端面の間の静止摩擦係数をμ’とすると、拘束金型を取り外すための荷重Gは、G=μ’Fとなる。
これに対して、拘束金型の端面が拘束方向に対して傾斜している場合には、
図3(b)に示すように、端面に加わる垂直抗力はFcosθとなる。また、拘束金型を取り外すための荷重Gは、G=μ’F(cosθ-sinθ)となる。
【0037】
また、本実施形態では、拘束金型12を分割しているため、離型時に摺動させる箇所が分割面13となる。分割面13における静止摩擦係数μが前記静止摩擦係数μ’よりも小さければ、拘束金型を取り外すための荷重G=μF(cosθ-sinθ)も小さくなる。なお金型間同士の摩擦係数は、金型側の表面性状が鋳物に転写される鋳物-金型間の摩擦係数よりも基本的に小さくなる。
【0038】
以上のような構成とされた本実施形態である鋳造割れ評価用金型10によれば、拘束金型12が、鋳物の拘束方向に直交する面に対して傾斜した分割面13で分割されているので、拘束金型12に生じる圧縮応力が、傾斜した分割面13に沿った方向と分割面13に直交する方向に分散することになる。また、分割面13は鋳物と接触していないため摩擦係数が比較的小さくなる。このため、拘束金型12と鋳物とを比較的小さな荷重Gで分離することができ、離型時の衝撃力を低減させると同時に、素早い離型により離型中の温度低下が防がれることで、離型時における割れの進展を十分に抑制することが可能となる。
よって、鋳物における割れ状況の再現性を向上させ、金属の割れ感受性を精度良く評価することができる。
【0039】
さらに、本実施形態の鋳造割れ評価用金型10においては、拘束金型12はが3つに分割されており、両端に分割面13が形成された中間ブロック体15を備えているので、鋳物と完全に接していない中間ブロック体15を比較的小さな荷重Gで取り外して拘束金型12を分割することで、容易に鋳物を離型することが可能となる。
よって、離型時における割れの進展をさらに抑制することができ、金属の割れ感受性をさらに精度良く評価することができる。
【0040】
さらに、本実施形態の鋳造割れ評価用金型10においては、中間ブロック体15において、両端の分割面13,13の傾斜方向が互いに異なっていることから、この中間ブロック体15をさらに容易に取り外すことができ、拘束金型12を分割して容易に鋳物を離型することが可能となる。
よって、離型時における割れの進展をさらに抑制することができ、金属の割れ感受性をさらに精度良く評価することができる。
【0041】
また、本実施形態の鋳造割れ評価用金型10において、分割面13の傾斜角度θが、分割面13の静止摩擦係数をμとした場合に、0<θ<μ/(0.2μ+0.9)の範囲内とされている場合には、拘束金型12に生じる圧縮応力が傾斜した分割面13に沿った方向と分割面13に直交する方向に適切に分散され、前記溶融金属の凝固時および凝固完了後に前記鋳物に生じる収縮によって試験中に分割面同士がずれてしまうことを分割面の摩擦力によって防ぎつつ、試験完了後に外力を与えた際には容易に離型することができる。よって、安定して割れ感受性の評価を行うことができる。なお、θが(0.2μ+0.9)よりも大きくなると、離型に必要となる前記荷重Gが著しく小さくなり、試験中に分割面同士がずれてしまうことが懸念される。
【0042】
本実施形態の金属の割れ感受性評価方法によれば、本実施形態である鋳造割れ評価用金型10を用いているので、鋳物を離型する際に、鋳物および拘束金型12に高荷重を負荷する必要がなく、離型時に鋳物の割れが進展することを抑制でき、金属の割れ感受性を精度良く評価することができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態である鋳造割れ評価用金型、および、金属の割れ感受性評価方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、拘束金型を3分割したものとして説明したが、これに限定されることはなく、
図4に示すように拘束金型を2分割したものであってもよい。2分割とした場合には、分割面とは反対側の端面は、鋳物と接触することになるが、片面が傾斜した分割面とされていることから、取り外すときの荷重Gを小さく抑えることができる。
また、拘束金型を4分割以上とし、複数の中間ブロック体を有するものとしてもよい。さらに、拘束鋳型を等間隔で分割する必要はない。
【実施例0044】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
割れ感受性を評価する金属として、Al-4.5mass%Mg合金を準備した。
【0045】
本発明の実施例の鋳造割れ評価用金型として、
図1に示す形状で、キャビティの幅広部の幅W1が30mm、長さL1が20mm、キャビティの幅狭部の幅W2が15mm、長さL2(拘束金型の長さX)が95mm、キャビティの深さDが25mm、分割面の傾斜角度θが3°のものを準備した。なお、拘束金型の鋳物と接する面は傾斜角度を2°とした。また、金型はステンレス製とした。
比較例の鋳造割れ評価用金型として、実施例と同様のサイズで、拘束金型を非分割としたものを準備した。
【0046】
前記Al-4.5mass%Mg合金を720℃まで加熱溶解して、一部条件ではその後に結晶粒微細化剤としてAl-5mass%Ti-1mass%Bを最終的な組成が0.08mass%Ti-0.016mass%Bとなるように添加した後、実施例の鋳造割れ評価用金型および、分割面を有さない比較用の金型(それぞれ本発明型、従来型と呼称)に鋳込み、割れ感受性を評価した。割れ感受性は、割れ長さを周長で割った割れ指数(%)で評価した。
表1に示す通り、実施例1および比較例1は前記微細化剤を添加した条件、実施例2、3および比較例2~7は前記微細化剤を添加しなかった条件である。各事例の試験回数は全て各6回であり、割れ指数の平均値、最大値、最小値、ばらつき(最大値―最小値)を事例毎に求めた。評価結果を表1に示す。また、割れ指数の平均値を
図5に、割れ指数のばらつきを
図6に示す。なお、一つの事例内において合金成分は同一であるが、各事例間では合金成分にばらつきがあるため、実施例2、3および比較例2~7はそれぞれ全て別の事例として結果を整理した。また、実施例1については1回の試験で、比較例1については6回の試験すべてで鋳物が完全破断したため、割れ指数のばらつきに関してのみ、比較例1では評価できず、実施例1は他事例より信頼性に劣る。
【0047】
【0048】
本発明型を用いた実施例1~3は従来型を用いた比較例2~7に比べて、割れ指数のばらつきが小さく抑えられていることが確認される。また、割れ指数自体も本発明型を用いた実施例の方が全体的に小さくなっており、離型時における割れの進展が抑制されたためと推測される。
【0049】
以上、確認実験の結果、本発明により、鋳物における割れ状況の再現性を向上させ、金属の割れ感受性を精度良く評価することが可能な鋳造割れ評価用金型、および、金属の割れ感受性評価方法を提供可能であることが確認された。